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2018年6月29日 第3回雇用政策研究会(議事録)

職業安定局雇用政策課

○日時

平成30年6月29日(金)15:00 ~17:00

 

○場所

厚生労働省職業安定局第1・2会議室

○出席者

委員

樋口座長、阿部委員、大竹委員、神吉委員、黒澤委員、黒田委員、玄田委員、鶴委員、堀委員、宮本委員、山本委員
 
小川職業安定局長、小林大臣官房審議官(職業安定担当)、田中職業安定局総務課長、田中職業安定局雇用開発部雇用政策企画課長、松下労働基準局総務課政策企画官、岸本雇用環境・均等局総務課長、志村人材開発統括官参事官(人材開発総務担当参事官室長併任)、大竹政策統括官付労働政策担当参事官室企画官、弓職業安定局雇用政策課長、西川職業安定局雇用政策課長補佐

○議題

(1)我が国の構造問題・雇用慣行等について(賃金、生産性、過剰サービス、労働分配率、終身雇用、年功賃金等)
(2)その他

○議事

                                
 
○雇用政策課長補佐 ただいまより、「平成30年度雇用政策研究会第3回」を開催いたします。委員の皆様におかれましては、御多忙の中お集まりいただきまして、ありがとうございます。
本日は荒木委員、神林委員、佐藤委員、清家委員が御欠席です。黒澤委員は遅れての御参加と伺っております。また、鶴先生は途中退席と伺っております。それから、局長の小川は遅れて参加の予定でございます。
本日の資料ですが、資料1として、委員名簿、資料2として、研究会のスケジュール、資料3として、我が国の構造問題・雇用慣行等についてとなっています。御確認いただければと思います。
カメラ撮影の報道関係者の方は、ここで御退席をお願いします。
それでは、議事に入ります。今後の議事進行は座長にお願いいたします。
○樋口座長 それでは、議事を進めてまいります。資料3として、我が国の構造問題・雇用慣行等についてというような資料が配布されておりますが、本日はこれについて主に議論していただこうということで、まず事務局から説明をお願いします。
○雇用政策課長補佐 御説明いたします。右肩に資料3とある横置きの資料を御覧ください。今回、第3回のテーマである我が国の構造問題・雇用慣行について資料を整理しています。本資料は、大きく分けて3つのセクションに分かれており、賃金の状況、賃金が低迷している背景、そして最後に日本的雇用の特徴の変化となっています。
早速2ページ目を御覧ください。賃金の状況について、産業別比較や、各国比較を行っております。
3ページです。左図は、名目賃金の動きを1人当たりGDPと対照させて描いております。2012年を100と指数化いたしまして、95年から2017年までの約20年間を見ております。賃金は「毎月勤労統計調査」における現金給与総額を取っています。これを確認いたしますと、97年からほぼ一貫して、低下のトレンドにあり、2012年以降、反転しておりますが、GDPの伸びと比較すると、その上昇は鈍いものとなっております。
右図に移ります。左図と同様に、2012年を基準としています。賃金の動きを産業別に分解しています。右側、中央に青い破線が飛び抜けていると思いますが、この建設業を除きまして、総じて上昇のピッチが鈍いという状況になっていることが分かります。
4ページです。次に、労働者の賃金の分布について、先ほど見ました95年、2012年、2016年の3か年を比較しています。ここでの労働者とは、フルタイムのみならず、パートタイムの労働者の方を含んだものです。95年と2010年代を比較しますと、全体的にボリュームゾーンが左方向にシフトしていることが分かります。一方で、直近5年間、2012年から2016年に絞って見ますと、400万円未満の層が減少し、変わって400万円以上の層の厚みが増しているということになっています。
5ページを御覧ください。4ページで見た賃金分布について、5つの産業をピックアップする形で分解しております。2012年を黒い線、2016年を赤い線で示しております。左軸に、当該産業で雇用されている方を100%とした場合に、その年収に属する層が占める割合を表しております。一方、右軸は、下から伸びた棒グラフで示す雇用者数を表しております。単位は万人です。御覧いただいているグラフのとおり、産業別の賃金分布は様々ですが、特に建設業では全体的に右方向へシフトしているという様子が顕著に表れています。
6ページです。こちらは、4ページで御紹介した賃金分布を、フルタイムの方に限って表したものになっております。パートタイムを含めた4ページのグラフほどではないのですが、95年と比較して、2012年以降は400万円未満の層が膨らんでいるということが分かります。ただし、直近5年間では400万円以上の層が厚みを増しているということになっています。
7ページにまいります。1人当たり生産額、すなわち生産性と賃金の動きについて国際比較を行っています。ここでは主要国の賃金上昇について、購買力を加味してグラフ化しました。左図では、日本の状況を黒の実線で示しております。95年には、一部のOECD諸国を上回る水準であったものが、最近ではイギリスと最下位で争っているという状況です。右図のほうは、生産性と対比するために、各国の1人当たりの賃金を並べたものです。こちらでは、生産性で見た場合にはほぼ同じレベルだったイギリスに追い抜かれて、最低の水準になっております。
8ページです。生産性と賃金の推移について、見方を変えまして、絶対額ではなくて、その伸び具合を20年間追い掛けました。左図が生産性、右図が賃金ですが、いずれも95年を100として、その伸びを各国比較しています。諸外国では生産性の成長ラインを追い掛けるように賃金も伸びていますが、日本では生産性の伸びに比して、賃金のほうはかなり伸び悩んでいる状況です。
続きまして9ページの折れ線グラフです。こちらは生産性の伸びを産業別に分解しております。7ページと同様に、黒の実線が日本の様子を示しているものですが、「製造業」や「情報通信業」は、先ほどの先進国と遜色ない伸びを見せております。しかしながら、「建設業」、「医療・福祉」については最低の水準にとどまっています。
10ページです。生産性の次に、賃金について、国際比較を行っています。御覧のとおり、傾きあるいは伸び、水準というのは産業によってまちまちという状況ですが、日本はいずれにせよ、おおよそ最低水準で推移しているということになっています。
次に11ページになります。この次の2番目の大きなセクションで、賃金が低迷している背景について御説明したいと考えておりますが、それに関連する調査として、2009年に生産性本部が実施したアンケート結果を簡単に御紹介したいと思います。
これは日米のサービス水準に対する受止めと、サービス品質が価格に対して割安か割高か見た調査になります。果たして日本は、過剰なサービスを提供しているのかということです。本研究会の第1回でも御紹介した資料ですが、今一度御覧いただきたいと思います。左図では、日本人とアメリカ人共に、日本では必要水準以上のサービスが提供されていると考えているということが分かります。一方、米国では日本ほどではないという状況です。
右図に移りまして、サービスの品質が、価格との比較において、どのようなものかという、言わば相対価格を回答いただきました結果です。日本人と米国人でその評価はまちまちですけれども、概してコンビニエンスストア、タクシー、宅急便で、日本のほうが品質に対して価格は安いと考えられるという結果になっています。
続きまして12ページ、2番目の大きなセクションにまいります。賃金が低迷している背景について探ってまいりたいと思います。
13ページでは、賃金の低迷の背景の1つ目として、労働分配率について見ていただきたいと思います。90年から約20年にわたって、日本を含む先進諸国で、どのように労働分配率が推移してきたかについて、グラフ化したものです。前のセクションの8ページにおいて、我が国の生産性の伸びに比して賃金の伸びが小さいということを御説明しましたが、これは労働分配率が低迷していることの表れではないかと考えられます。実際に労働分配率の推移を確認したものがこのページです。最近では日本は低下傾向ということで、諸外国との比較においても、最低水準ということです。
14ページです。今、御覧いただきました労働分配率について、産業別に整理しております。黒い実線が日本ですが、製造業などでは低い一方で、建設業ではかなり高い水準ということになっております。
15ページです。労働分配率が低迷している背景の1つとして、労使交渉に変化が生じていることも考えられます。そこで労働組合の組織率と労働争議の件数について、戦後間もなくから最近までの歴史的な推移をまとめております。左図が組織率、右図がストライキの件数ですが、いずれも戦後最低の水準を記録しているという状況にあります。
16ページです。我が国で労働分配率が低迷している要因として、企業の将来見通しが不透明ということも考えられます。16ページに関連する参考指標として、内閣府による「企業行動に関するアンケート調査」を御紹介しています。このアンケート調査によりますと、2005年以降、企業が予測する経済成長率の見通しは、低下トレンドにあって、また90年代と比較して、3年後、5年後の見通しと、次年度の見通しのギャップが非常に縮小しております。企業にとって、中長期的に見通しが明るくなっていくということはなく、また、予想される成長率も1%程度と、低い数字にとどまるとされています。
続きまして17ページです。ここからは数ページにわたり、賃金が低迷している背景の2つ目として、労働者の年齢や働く産業、また雇用形態など、労働市場の構造が大きく変化しつつあることについて、見てまいりたいと思います。
まず17ページでは、「賃金構造基本統計調査」を利用して、年齢構成、産業構成、雇用形態、就業形態、勤続年数という5つの観点で、雇用労働者の在り様を分析しまして、20年間における賃金変化を、大きく2つの要因に整理し分解しております。1つは、区分内の構成比率を一定とした場合における区分内の賃金額のみ変化した場合の効果、これを賃金変化要因とここでは称しております。もう1つが、区分内の賃金を一定のものとして、区分内の構成比率のみ変化した場合の影響、これを構成変化要因と呼びます。これら2つの要因に分解しております。
左図を飛ばしていただきまして、先に右の青と赤のグラフを御覧ください。2005年から2016年までの賃金の変化について、先ほど御紹介しました、賃金変化要因と構成変化要因、この2つに分解した図になっております。これを見ていただきますと、賃金変化要因はプラス、構成変化要因はマイナスということになっております。
左図に戻っていただきまして、実線が実際の賃金の変化、95年から2016年までの変化になりますけれども、2005年を出発点としたときに、2005年は402万円ですけれども、2016年には387万円に落ち込んでおります。一方、仮に構成変化要因がなかったとする場合に、賃金を試算しますと、破線で伸ばした先、418万円になっております。
18ページと19ページ、産業、年齢、雇用形態別に、先ほど御説明した2つの変化要因を更に細かく分解しています。最初に18ページ、賃金変化要因についてですが、まず大きく、正規・フルタイムと正規・フルタイム以外に分けています、この表の下を見ていただきますと、そのように大きく分かれていることが分かると思います。次に、それぞれの雇用形態の中で、2つの年齢層に分けてまた表示をしておりまして、これは15-59歳という区分と、60歳以上という2つの区分です。そして、正規・フルタイム、かつ15-59歳までの層に限りまして、9つの産業に分割して、純粋に賃金のみの影響を抽出した絵にしております。棒グラフのうち、太い実線で囲ったものが特徴的になっております。
具体的には、正規・フルタイムの15-59歳までのうち、建設業、製造業など多くの産業では、勤続1年~9年、10年以上において、賃金が大きく上昇して、平均賃金を押し上げていることが分かります。また、正規・フルタイム以外、すなわち非正規労働者の方の15-59歳までの層についても、全体として平均賃金を押し上げていると。これは棒グラフが上に伸びているということで確認できます。
続きまして、19ページです。こちらは構成変化要因についてです。やはり太枠で囲った所が特徴的でございまして、先ほどの賃金変化要因とは逆に、下向きに棒グラフが多く伸びていると思います。例えば、正規・フルタイムで勤続10年以上の「製造業」の方の所ですが、ここに属する労働者の割合が低下していることが、マイナスに大きく寄与しています。一方、正規・フルタイム以外の方の占める割合の上昇は、年齢を問わず大きくマイナスに寄与していることが分かります。これはグラフの一番右の2つになります。特に60歳以上の方の増加が大きくマイナスに働いていることが分かります。
20ページですが、先ほど18、19ページで御覧いただきましたグラフの見方について若干の補足です。勤続10年以上の製造業については、この雇用者の全雇用者に占める割合が低下したことが、賃金にマイナスと申し上げました。一方で、非正規雇用については、雇用に占める割合が上昇したことが賃金にマイナスと御説明しました。全雇用者に占める割合の低下と上昇という、見掛け上は相反する状況が、なぜ平均賃金にマイナスという同じ効果を発揮するのかということで、そのからくりの回答を20ページの文章、2つのポツで解説しております。基準年である2005年において、製造業の平均賃金は、全産業の平均を上回っております。今御覧いただいている20ページの下のグレーの棒グラフを見ていただくと、勤続10年以上の製造業の方の平均年収が、402万円のラインを超えていると思いますが、この産業平均よりも高い位置にある製造業において働く労働者の全雇用者に占める割合、すなわち構成比が低下したということは、それは平均賃金を引き下げるという方向に働くということです。
一方で、一番右側の正規・フルタイム以外の労働者の賃金は、全産業平均を大きく下回っていることは、この図で明らかだと思いますが、この比較的賃金の低い方の層の全労働者に占める割合が高まるということは、それはすなわち平均賃金を引き下げると、こういうことになっております。以上が、少し見慣れないグラフの説明になります。
変わりまして21ページです。賃金が低迷している背景の3つ目として、日本的雇用慣行に変質が生じていることが挙げられるのではないかということで、いわゆる「生え抜き社員」の占める割合が減少しているかどうかを確認しております。ここでの生え抜きの方というのは、若年期に入職して、そのまま同一企業で勤務を続けている方を指しておりまして、具体的には大卒では22歳から24歳まで、高卒では18歳から20歳までに入職し、当該企業で働き続けている方を指しております。左図が生え抜き社員の割合について、その推移を見たものです。直近の2016年では、大卒正社員で5割程度、高卒正社員で3割程度となっておりますが、中長期的にその割合は低下傾向にあります。
また、右図ですが、産業と学歴別では、大きくその水準が異なっております。上のグラフが大卒の方になりますが、金融業、保険業で割合が高く、下のグラフは高卒の方ですけれども、黒いラインの製造業で一貫して高くなっています。他方、緑のライン、医療・福祉では、大卒、高卒を問わず、低い水準ということになっています。
22ページでは、いわゆる年功賃金について確認したいと思います。左の図ですが、最も太い2本の実線が生え抜き正社員を指しておりまして、赤が大卒の方、青が高卒の方でございますが、破線は生え抜き正社員以外の方を指すと整理しております。同じ大卒間、高卒間で賃金カーブを比較すると、生え抜き正社員の方が勤続年数の上昇に伴う上昇が力強く見られております。
また、右の図ですが、生え抜き正社員の賃金カープにこの10年でどのような変化があったのかというものを確認しております。これによりますと、最近では大卒、高卒とも勤続10年以上の方の賃金上昇が抑制されているということが分かります。
ここまで、3つの観点から、我が国の賃金が低迷している背景について御説明まいりましたが、関連する文献として、23ページを御覧ください。2017年、昨年に玄田先生がまとめられた書籍「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」の概要を簡単に御紹介したいと思います。本書によれば、賃金の上がらない理由として、4つのポイントが挙げられています。具体的には第1に労働者の構成変化、第2に賃金の上方硬直性、第3に社会保険料等の企業負担の増大、最後に第4として、医療・福祉系産業における雇用の増加が挙げられるとされています。
24ページです。ここからは賃金の低迷からは少し離れまして、日本的雇用の特徴の変化について、様々な切り口から、国際比較をしつつ、その特徴をあぶり出していきたいと考えております。
25ページになります。25ページは勤続年数別の賃金について、時給換算で見た場合の伸びをEU諸国と比較しております。勤続年数1年未満を100として見た場合に、勤続年数14年以下までは日本とEU諸国ではほとんど違いはありませんが、その後15年目以降辺りから、日本は大きく他国を引き離して上昇するという傾向になっております。
26ページです。次は労働時間です。フルタイム労働者に占める週48時間以上働いている方の割合を確認しますと、日本は低下傾向にはあります。しかしながら、依然として20%を超える水準ということで、他国と比較して高くなっているという状況です。
それから、27ページでは、失業率について、年齢層別で国際比較を行っています。若年層ほど失業率が高いという傾向は、万国共通ですが、その中にあって、日本は34歳以下の失業率が相当低い水準となっております。ただし、右側の図ですが、長期の失業率の割合を見ますと、日本はこのミドルの層において、ドイツ、フランス並みに高い状況となっています。この部分について、図表にはありませんが、90年代と比べてどうだということですと、日本は、この長期失業者の割合が高まっているという状況にございます。
続きまして、28ページです。15歳-24歳までの若年者の失業率について、こちらは経年で20年間を見たものです。これを見ますと、我が国はOECD諸国の中で常にかなり低い水準となっておりまして、先ほど御説明した27ページの左図と併せて見ますと、若年者の失業率は平均で見ると改善しているということになっております。
29ページです。日本では専門職比率が低いというようなことが言われていますが、実際、入手可能なデータを基に、国際比較を行っております。日本は一番上の欄になりますが、専門職等の割合は、16.8%となっておりまして、4割から5割というEU諸国と比較して、見劣りがするという状況です。
30ページです。年齢別のパート比率について、男女別でグラフ化したものです。日本の特徴としては、女性のほうを見ていただきたいのですが、25~54歳、55歳~64歳という2つの年齢層において、イギリス、ドイツと並んで同様に高い水準となっております。
続きまして、31ページは、今御覧いただきました30ページのグラフを補足する参考資料ですが、直近5年間において、年齢別パート比率がどう変化しているのかを確認しております。日本は黒枠で囲ったグレーの棒グラフで表記しておりますが、右側の女性の状況を御覧いただきますと、全て上方に棒グラフが伸びているということで、全ての年齢層でパート比率が上昇しているということになっております。
32ページですが、こちらは我が国の日本的雇用の特徴の一面を表す指標と、参考情報として、我が国の新規学卒者の取り巻く状況を改めて確認させていただきたいと思います。左図が大卒・高卒の方の就職率ですけれども、2016年は98%超ということで、高水準となっております。それから、右図のほうですが、上段のグラフは、民間調査における新規大卒者の方の有効求人倍率というものを、企業規模別に見たものになっております。上のグラフのほうが、1,000人未満・以上で区切った場合のものですが、1,000人未満規模の企業では、有効求人倍率は高くなっております。一方、1,000人以上の規模では緩やかに高まっているということで、依然として低い水準となっております。
一方、下段のグラフですけれども、この上段のグラフをより詳細に見たもので、300人未満の企業では、有効求人倍率は急激に高まっています。一方で、5,000人以上の大企業では、むしろ低下傾向ということで、更に狭き門となりつつあるようでございます。
最後に、今御覧いただきましたけれども、大学を卒業された方たちが、一体どの分野に就職しておられるのか、そして、その産業に近年変化はないのかということを見たものが、33ページの2つの円グラフです。12時の方向から時計回りに、建設業、製造業、情報通信業などと並んでいます。同じ産業別で比較可能な最も古い時点が2003年でございましたが、これと2017年、直近を比較しますと、2番目にある製造業の占める割合が低下していることが分かります。その一方で、医療・福祉、黄色い部分の割合が、大きく膨らんでいることが分かります。
以上、本日も駆け足となりましたけれども、資料の説明を終わらせていただきます。
○樋口座長 今後の労働市場の動向、あるいは雇用慣行とか構造的な変化といったものが起こり得るのかどうか。そういったものを見る上で、これまで何が変化してきたのかということについて、少しデータを集めていただいて整理していただきました。
1つは、賃金のところの変化といったものが起こっているのか起こっていないのか、あるいは今後どうなっていくのかというようなところがポイントであるかと思います。賃金の伸びといったものが、生産性に比べても遅いのではないかというような指摘がありますが、果たしてそれがどういう要因によるのかということで、1つは産業であるとかいろいろな構造の変化によって起こっているのかどうか、あるいはそれぞれの産業の中においても、その賃金の伸びといったものに変化があるのかどうかというようなことを整理してもらいました。
あと、賃金カーブといったところの変化が、果たして見られるのかどうか、あるいはどこで変化してきているのかということについて。さらには長期雇用と言われている、終身雇用というか、そこのところに、生え抜きという形で見た場合に、変化が起こってきているように見えると。要は中途採用がその分だけ増えてきているのではないかというようなことではないかと思います。さらには労働時間、あるいはパート比率の変化、失業問題についての変化ということについて御議論いただきました。多岐にわたるので議論といったものが集約できないのかもしれませんが、今の順番で少しお話を頂ければと思っています。
まず最初に、賃金のところということで、特に賃金の上方硬直性というか、賃金がなかなか伸びないというようなところについて、幾つか検討してもらいましたが、玄田さんからまず、引用されているので。どちらでも結構ですが。こう見たときに、事務局が言いたかったのは、マクロの賃金における伸びが小さく見えるのは、1つは産業とか年齢構成といった、属性の構成比の変化が強く影響しているのではないかということ、そういった問題提起なのでしょうか。まずそこを確認してから。
○雇用政策課長 先生がおっしゃるように、属性の変化、産業構造等の変化もありますし、まず実態として生産性自体が余り伸びていないという問題意識もあります。その中で、生産性の伸びに比べても賃金自体が伸びていない。樋口先生がおっしゃったように、そこには属性や構成の変化、また見通しの変化などが様々に影響しているかと思われるというところまでは、資料としては提示させていただいたのですが、そういったところをもう少し深掘りできればと思っております。またこういった状況の中で、いかに賃金の上昇、労働条件の改善等につなげていくのか、そういったことについても検討できればと考えています。
○樋口座長 という問題意識なのだそうですが、どうでしょうか。
○山本委員 おまとめいただきましてありがとうございます。玄田先生がまとめられた本などでも、研究の観点からいろいろな論考あるいは分析がされていると思うのですが、是非こうした研究会でまた別の視点が見られたら有り難いと思っています。
構造問題と賃金を考える上で、これは賃金に限らず今日のお話で全般的に感じていることですが、もう少し企業規模別の視点というものが入ってくると、構造問題をより理解しやすくなるのかなと思うのが1つあります。例えば賃金が上がらないということも、もしかしたら中小企業とか零細企業の辺りの競争があまりにも激しくて、いわゆる過当競争が起きてしまっていて賃金が上昇しないというようなことも、これまではあまり言われていないのかもしれませんが、実態としてどうなっているのかといったところから、まず見ていくことができるといいのかなと思っていまして、それが1つです。
もう1つ構造問題という点では、これは私は前回も言ったのですが、職種に注目したほうがいいと思っています。マクロの経済学でも労働経済学でも、タスクに注目するべきだというような流れがある中、もちろん産業に注目するのも大事だとは思うのですが、産業と言うと、括りがかなり曖昧になってきていますので、そこだけではなくて、また、労働者という点に着目するのであれば、どのような業務をしているのかと、それが分かる分かりやすい切り口としては職種というものがあると思うので。どのような職種の賃金が伸びて、あるいはどういう職種で伸びていないのか、数がどう変わってきているのかといったようなところというのは、やはり構造問題を見るときには大事になってくるので、今後ますます技術革新の影響なども考えると重要性は増してくると思いますので、そこが見られるとよりいいのかなと思いました。内容というよりは、こういう切り口で見たらいいのではないかというような意見を先に述べさせていただきました。
○樋口座長 今後への要望ということですね。ほかにどうでしょうか。
○大竹委員 23ページに玄田さんたちの本の要点がまとめられていて、今回の雇用政策研究会という観点からいくと、人手不足解消というのが大きな目的で、もしマーケットがきちんと機能していたら賃金が調整するので、人手不足というのは起こらないだろうという話で、では何で起こるのかということで、この本のことをまとめていただいています。
その観点からいうこの4つのポイントのうち①と③は、マーケットでうまくいっていて、賃金が上がっていないように見えるだけだという話ですよね。ですから、結局マーケットがうまく機能しないというのは、②と④の話で、実際に賃金が動かないというのは、下がらないという背景があるから上がらないのだというのが②で、④は社会保障制度というか、規制があるから上がらないということで、実質マーケットが機能しないというところがポイントだということだと思うのです。
だから、結局このようにマーケットがうまく機能していないところはどこにあるのかという視点が大事かなと思います。1つは規制産業がサービス関係で多く、医療・介護関係で増えているということだと思います。もう1つは、先ほど山本さんが、過当競争で中小企業のところで賃金が上がらないのではないかということをおっしゃったのですが、私は逆だと思っていて、もしそうだったら利潤も減るのです。だから、分配率は上がっていくか変わらないはずなのですが、労働分配率が下がっているということは、むしろ逆でサービス業とかローカルマーケットに直面していて、買手独占になりやすいようなところが賃金を上げないという可能性があります。
だから、やはり基本的にはマーケットがうまく機能していないからこそ上がらない分野があるのではないかという気がします。そのときに、どうやって補完するかということで、1つはここでデータを出していらっしゃって、労働組合の組織率が低下してきたからという議論をされているのですが、ではそういうところで、中小企業で、サービス業で、労働者がばらばらにいるような所で、組合を組織するのが対策になるのかというと、なかなか難しいような気もします。そこで、最低賃金がそれを代替するのかというような議論になっていくかなという気はしますが。
ポイントは、要因のうち大事なのは、マーケットが機能しないような仕組みのところに焦点を当てたらどうかということです。以上です。
○樋口座長 ここはいろいろと分解して見ていくと、1つは業種によってもかなり賃金の変化というのは違っているという形が出てきているわけです。特に建設は、他の産業と比べて、直近で考えると賃金の伸びもすごく大きくなっていっています。あるいは医療・福祉というほうは、逆にその伸びが非常に小さいです。あるいはここでは出てきていないのですが、例えばパート労働者の賃金というのは、少なくとも派遣も含めて、ここのところ上がってきているということで、ある意味ではそういったところは労働需給、これを反映しやすいというか、そういった動きがある。
ところが、割と中核的な労働者のところ、内部化していると言うか、そういう労働市場のところについては、賃金の変化といったものが非常に遅いのではないかというような見方もここではできて、正に大竹さんが言っている市場メカニズムと賃金の変化です。ここについて、いろいろなところで違いがありそうだというような御指摘だと思いますが。
ここで1つ議論になっていなかったのが、企業のガバナンスが大きく変わってきていることによって、労働者への配分といったものが変わってきているのではないかと。大竹さんが少しおっしゃったことで言うと、利潤率はかなり取っている産業が多いにもかかわらず、それがときには株主への配当であるとか企業の内部留保という形にとどまっているのに対して、労働分配というところにそれが回っていかないというような変化があるのかないのか、そこのところについては余り検討がなされていないですよね。労働組合との議論というのは、要は組織率が下がったことが労働分配を弱めているのではないかという問題提起だと思うのですが。
○雇用政策課長 今回お示しした資料の中にあるのは、組織率の話と見通しの関係を示させていただいたといった程度です。
○鶴委員 今の話とはまた違うのですが、よろしいですか。
○樋口座長 どうぞ。
○鶴委員 今いろいろ議論に出ている賃金、生産性、労働分配率、そこは全部つながっていますよね。つまり、生産性と賃金の伸びの違いというのは、当然労働分配率に出てきます。今回かなり幅広い問題を議論しようとしているのですが、少しフォーカスしたほうがいいなと思っています。
私が気になっているのは、今回の雇用政策研究会というのはかなり回数が少ないという印象があって、かつて割と回数を多くやるときは、かなりいろいろな分野を一つ一つ議論して報告書を作ると。回数が少ない場合は、例えば今回はこの2つぐらいのテーマです、それについてしっかりと議論してくださいと。大体そのようなパターンが多かったと思います。
今回だと、次回はAI、自動化の話、5回目で働き方、要は雇用の質の話です。これは当初からいろいろと議論になっています。ただ、中身は労働時間、評価、働き方ということで、結構これまでもいろいろと議論されているところだと思います。そうなると、今日のテーマの部分をどのように議論するのかというところが、どういう報告書になるのかとか、そういうところをかなり決めていくような感じがするのです。
そうした場合に、今私が申し上げたように、前回、人手不足という話をして、正に人手不足と賃金の話というのは関係するわけです。賃金と生産性というのは、賃金が生産性と一緒に動いているのかどうなのか、そして、もしそこに乖離があれば当然、労働分配率に影響を与えると。労働分配率が変わってくれば、当然企業への影響もあるし、もちろん樋口先生がおっしゃったように、他のガバナンスとか、そういう要因から労働分配率が変わってきて、他のものが影響を与えるということも、当然ルートはあって、同時決定だと思うのです。
そうすると、その辺のところの連関というのが正にどのようになって、それぞれがどのようなメカニズムで影響をし合っているのか。業種ごととか、国際比較というものも今日お示しいただいたのですが、そういうところを明確にするということで、少し議論を絞ってしまったほうがいいのではないかという感じがしました。これは大きな話としてです。
細かい話としては、先ほど山本先生がおっしゃった件は正に私も同感なのですが、第1回の研究会で、資料の中で職種別有効求人倍率ということで、かなり細かい職種で有効求人倍率はどうなっているのかの御説明があったと思います。今は、かなり似た感じの職種でも、非常に技術革新に影響を受けているところとそうでないところというのは、有効求人倍率が違った動きをするということが出てきているようです。細かい職種の有効求人倍率は、ではそこで賃金が細かいところで本当にどうなっているのかと、細かく見ていくと、同じだと思われているところも中を見ていくと、案外違った動きをしているとか、そういうやや人手不足との連関で賃金等を見る。生産性までを見るのは大変だと思うのですが、もし統計があれば、アベイラブルであれば、少しそういうところを見たほうがいいのではないかと思います。以上です。
○樋口座長 どうぞ。
○大竹委員 理由を調べていくのは大事だと思うのですが、政策手段として何があるかというところから見ると、例えば賃金が規制されている産業が大事だというと、そこは規制を変えたら人手不足は解消しますとなると思うのです。それ以外のものというのは、何らかのマーケットが何らかの理由でうまく機能していないということが分かれば、例えばハローワークに介入したらいいのか、あるいは賃金情報をもっと提示するようにすればマーケットは機能するのか、というような方法になってくるかなという気はするのです。だから、何で機能しないのかというところと、政策手段がはっきりしないと、ここでの研究会が人手不足解消のために何ができるかというところにつながらないかなという気もしました。
○樋口座長 賃金というのは、いろいろな指標として見ることができるわけです。正に労働サービスの価格として賃金、時間当たり賃金がよく取られると思いますが、そういった意味での変化です。
もう1つは、消費の源泉である賃金というものです。これが停滞するということは、逆を言えば消費の抑制になってきて、内需の抑制というような形で起こってくる可能性がある。ここでの議論で、例えば高齢化、人口減少というようなことを扱っていくときに、高齢化あるいは人口減少が、即労働不足を生み出すのかどうかというようなことを考えると、労働供給のほうもどうなってくるのかというのは分かりませんが、特に労働需要です。消費が低迷するということになれば、生産人口が減少するのと同時に、また労働需要のほうが減退して、結果的に縮小均衡というようなことというのも起こってくる可能性があるのではないかということで、いろいろな視点からこの賃金問題というのは考えていったほうがいいのかなと思っています。
もう1つは、やはり従来の労使自治に基づいて雇用条件を決めてくるというような考え方が、日本の場合は非常に強くて、そこに政府といったものは余り口出しをしない、介入をしないというようなことであったわけですが、それはそのままでいいのかどうかという問題も生まれてきているのかなというところがあります。ここのところ、いろいろと賃上げについても政府の希望というのが示されたり、具体的に例えば法人税のところで賃金を上げている企業に対する支援をしていくというようなことをやったりということが議論になってきているわけです。それについて、果たしてそういったものを今後もどう考えていくのかというようなことを考える上で、現行の賃金というのがどうなってきているのかということは、すごく重要なポイントになってくるのかなと個人的には思っていて、少し議論したいなということで事務局が用意してくれたのだろうと思います。その点はどうでしょうか。鶴さん、どうですか。
○鶴委員 企業に対してという。
○樋口座長 市場メカニズムが、例えば政府は何もやらなくても十分に機能して、需給調整というものが働いていくのだとか、あるいは人手不足になってくれば賃金が上がって、そしてそれがまた消費を刺激してというような循環になっていくのだという、市場のそういった力というのは、今も健全に働いているという見方をするのか。
○鶴委員 そこは非常に悩ましいところだと思うのです。結局、この20年、30年の大きな流れの中で、やはり企業の中で労使ともに賃金を上げていくというところよりも、雇用を安定化させたい、雇用を重視したいというところが非常に大きく力としては働いて、その中で、今日も出てきていますが、年功賃金的な賃金カーブというかは、かつてよりも緩やかになりながら、成長が非常に鈍化している、そうした中で、相当維持が大変な状況になっているわけです。そういう中で、ますます、どうしても労使双方で賃金はなかなか上げにくい、かえって上げることによって雇用が不安定になる、将来的に経済が悪くなったときに雇用が不安定になるということを避けたい状況という部分が、どうしてもかなり影響しているのではないのかと。
そのようになってくると、労働市場の移動とか流動性とか、そういうことと賃金の話というのは、市場がうまくいかないという中の話になってくると、当然関係してきているのではないかという感じも持っているのです。そうなると、今日、日本的な雇用システムのお話も少し御説明いただいたのですが、そういうところとの連関ということも考えていかないと、なぜ通常の市場のメカニズムがなかなか機能していないように見えるのか、それとこれまでのそういう雇用システムの連関というものも考える必要があるのではないかと。お答えになっていなかったかもしれませんが。
○樋口座長 ということは、今のお話を少し伸ばして考えると、労働側は将来のいろいろなショックに対して、解雇というものを最も恐れる、そのためにその危険を回避したいという気持ちが非常に強くなって、賃金要求といったところも割と薄くなってきていたと。一方、使用者のほうも、やはりリーマンショックのようなことが起こったときには、一挙に内部留保がなくなってしまうというような、それを恐れて内部留保を持っているという。お互いにいろいろな危険回避の行動を取るがゆえに、こういった問題が起こってくるということだけれども、現状において危険回避というのは、それほど恐れるような状況では、少なくとも足下ではないにもかかわらず、リーマンショックのようなものを恐れていくと。そうすると、逆に足下では賃金が市場メカニズムとして必ずしも十分に機能していかないというような問題が起こっているということなのですかね。
○鶴委員 これはもう解雇しやすくするとか、そういうような議論ではないということでお断りしたいのですが、ある程度労働移動ということがよりできるような環境とそうでない環境ということであれば、少し企業側にとっても賃金を上げるという行動において、そこは影響を与え得ると。もちろん、過去のような厳しいことがこれから起こる可能性というのは少ないかもしれないと、それはそれでそういう行動を弱める方向にはいくかもしれませんが、仕組みとしてやはりそういうような仕組みであれば、なかなか上げにくい状況というのは残らざるを得ないのかなと。
そういう中で、なかなか強制的に、政策的にどうしても上げてくださいというようなやり方というところが、なかなかうまくかみ合っていないのかなという印象があるわけです。
○樋口座長 阿部さんはどうですか。
○阿部委員 すごく複雑な話なので、どう考えればいいのかなと思ってはいます。鶴さんが言ったことは私もそうかなと思っていて、やはり労働分配率が下がって内部留保は上がっているのです。配当性向も若干上がっているのですが、そんなに配当性向は大きいわけではありません。その中で内部留保が上がっている理由は、山本さんなどがおっしゃるような上方硬直性という問題もあるとは思うのですが、もしかしたら、解雇しづらいので雇用調整が将来必要となったときに、今は景気が良いので雇用調整など必要ないですが、その原資をどうするかと考えると、予備的貯蓄を内部留保として行っている可能性はあるかなとは思っているのです。
特に、コーポレートガバナンスが変わってきて、資金調達、特に大企業は直接金融市場から取ってくるということ。それから、貸出しも結構厳しくはなっていますので、赤字企業に貸し出すかというと、1970年代、1980年代当時とは、金融機関の行動も変わると思うので、なおさら賃金を上げてとは。雇用調整のことを考えなければ賃金を上げられるけれども、雇用調整のことまでを考えると上げづらいかなというのも、もしかしたら考えられるかもしれません。
ただ、そうとは言え、そんなにすごく理路整然と考えている経営者がいるかと言ったら、いないと思うのです。大体見ていると、賃金を上げるのは嫌だというのが経営者の本音ではないかというのがあって、前にも別なときに御紹介したのですが、昔の若年労働者何とか室が委託事業でやっていて、人手不足を解消するための事業をやっていたのですが、それで調査していると、大体経営者というのは賃金を上げないのです。コンサルの人たちが経営者に対して言うことは、人手不足ですよね、人を集めるにはどうしたらいいですかと聞かれると、「賃金を上げたらいいのではないですか。お宅は地場の賃金より低いのではないですか」と。しかし、そう言っても、経営者の人は「上げたくない」と答えるのが、大体で、コンサルの人は困ったと言うのです。そこのところがよく分からないのですが、経営者の人たちがすごくいろいろなことを知って経営しているわけではないので、そういう問題もあるのかなと。
そういうことを言えば、そうすると地場の賃金などの情報をどうやって皆さんに伝えていくかとか、需給ギャップがどうあるのかというのを、もっときめ細かく伝えていくことが、今の賃金が上がらない、そして人手不足という問題を解消する1つの手段としてはあり得るのではないかと思うのです。とにかく、労働市場の状況を知らないというのが、結構大きな要因かもしれないなと思っています。お答えになったかどうか分かりませんが。
○樋口座長 玄田さん、どうぞ。
○玄田委員 全然ないけど、いろいろ資料を拝見していると、医療、介護、福祉のところをどうするかということは、しっかり議論するのだろうなというふうに思っています。別に今回、指摘されなくてもなかなか大変だというのは思いますけれども、意外と資料を見ていると面白いなとちょっとだけ思って、例えば前向きなほうがいいのではないか。5ページの医療・福祉を見ると200万円台がちょっと減っている。その代わり100万円未満が増えている。あと、14ページの労働分配率が、僅かながら医療・福祉では比較的他国に比べて日本は上がる傾向が見られる。19ページを見ると、勤続年数が10年以上だと医療・福祉の構成効果が、他に比べて数値は非常に小さいけど、プラスになっていて、多分、10年以上になると長期勤続化が進んでいるのかもしれない。
あと、一番面白いというか大きいのは、11ページの割安感の話で、これは病院しか分からないけど、病院は日本人もアメリカの人も品質に対して割安だなと。割安をどう捉えるかというのは、品質が下がってもいいと捉えることも1つですが、この品質を維持するためには少しぐらい上がっても致し方ないのかなと考えると、通常、医療や福祉の部分は後で宮本さんにいろいろ教えていただければいいと思うし、規制を緩和しろという話になりますが、もうちょっと他にも方法が本当はあるような気もする。昔、書いたことがあるけど、もしかしたら日本を終の住処にして、しっかりと最後までケアを受けたいという中東の大金持ちの人に対して、日本人とは違う規制のあり方で介護をするなんていうことは、今の段階ではまだ荒唐無稽かもしれませんが、本当に良いサービスで良い質だったら、そういうことも本当は考えないといけないのではないか。何となく規制緩和しかないのかなとも思わない。今、起こりつつある少しの兆しですが、今日、作っていただいた資料の中から少し前向きな変化を見出して、それをどう伸ばしていくかという議論が、今日に限りませんけど、展開されればいいかなと思って宮本さんに代わります。
○宮本委員 お答えできるかどうか分からないですが、玄田先生がおっしゃるように福祉・医療の分野で大分、処遇を改善されている事業者も現れていると思います。ただ、全体としては底が抜けている状況があって、それは規制そのものの問題もあるのですが、規制のあり方というか、規制と競争が変な形でくっついてしまっている状況に起因しているのかなと思います。と申しますのも、2000年くらいから参入を促すために、ある程度利益を出させようという意図もあって、委託費の中で人件費と管理費と事業費の弾力的な運用を自由に進めるという形が広がっていったのです。処遇改善加算は積み重ねられてきて、2013年くらいから大分その努力はなされているのですが、しかし、大きく見た場合、人件費が全体の30%くらいにとどまる事業者もいっぱいあって、処遇改善加算があるんだけれども、例えば賞与をその分減らしてしまうとか、従業員を減らしてしまうというような形で不十分な形で反映させるか、そもそも加算を取らないような形になってしまっている。それはなぜかというと、事業費や管理費のようにシフトしてしまう。そこで一定の収益を出していくというスタイルが、社会福祉法人を含めて事業者のかなりの部分に見られる。
これは厚生労働省としては非常に微妙な話で、確かに現実に社会福祉法人がそんな儲けていいのかという話になったときに、建前どおり規制していくと撤退が増えてしまって、えらいことになるのかなという気もするのですが、現実の期待値、つまり収益として残る期待値を確保しつつ、もうちょっとちゃんと人件費に回させるためには、ある意味、もっと規制を強めなければいけないという部分もあるのかもしれないと思います。
だから、ちょっとそれは事業者を相手に厚生労働省全体として、どういうふうに対応していくのか微妙なところなのですが、もし雇用政策研究会で少しソリッドな議論をしていく場合、補助金の中身、規制の中身について、なぜこれだけ処遇改善加算が重なっているのに、それが反映しないのかという点について、ちょっと踏み込んだ議論も必要なのかなと思います。
○阿部委員 今の話に似たようなことは、今日、ここで紹介がないので私から売り込みますけど、バスの事例というのが結構似ているのです。路線バスを維持するのに赤字の会社は今まで観光バスとか高速バスでやっていたのですが、規制緩和で、そこにどっと新規参入組が入ってきたから、サービス市場ではかなり価格メカニズムが効き、供給が増えているのでどんどん価格は下がっていくのです。ところが、労働市場のほうでいくとそれがどうなったかとなると、需要が増えていて企業は比較的黒字が出ている分、新規参入組は多いのですが、賃金に反映されない。コストを見ると車両代とかは伸びているのですが、賃金はむしろずっと下がっていくのです。財・サービス市場での競争が激しくなって価格は下がっているけれども、過当競争だから自分たちの企業の生き残りのためにはそんなにコストを上げられない。だけど、サービスは上げていかなければいけないから車両代や燃料代は上がる。その分、人件費を下げる。
この前、両備バスがストライキをやったのはどういう話かというと、従来の路線には赤字路線と黒字路線があり、新規参入組が黒字路線の所だけに参入してきた、そうすると赤字、黒字で何とかトントンだったのが、そこの黒字の部分で儲けられなくなると全部赤になってしまって、企業の存続が危ぶまれると言って両備バスはストライキをやりました。市長は、市民の足に非常に影響していて、これは困ったというコメントをしていますが、そうではなくて、そこら辺をどういうふうにうまく市場調整してやるかというのを、昔だったらバスのところではやっていたのですが、今は完全に自由に参入できるようになっているので、そこができなくなっています。それをどうやって解きほぐしていくかというのを考えないといけないと思います。
一方、ヤマト運輸とかは料金をずっと上げられなかったのが、もう駄目だとなって声を上げて宅急便の料金を上げたり、安い事業者にはサービスを提供しないとかやって何とかしているわけです。そういう何かよく分からないですけど、それを市場メカニズムと言うのか言わないのかよく分かりませんが、何かそういう規制だけでうまくいくわけではないような気もするのです。
○大竹委員 それは結局、労働市場がちゃんと機能していない。競争的でないからそういうことが起こるわけです。競争的でないのを補完するために労働組合に力を付けさせていたわけですが、それがうまく機能していないからこういう問題が起こっているので、そこは先ほど樋口先生がおっしゃった税制で介入するというのもあれば、宮本先生がおっしゃったように、直接的にこれだけは配分しないといけないという規制でいくのか、そういうところに介入しないと、人手不足解消のため、生産性を高めるためにより多くの人に働いてもらうというところが、うまくいかないということだと思います。結局、買い手独占になっているから少ない人で買い叩き、そんなに働いてもらわなくてもいいから低い賃金でという話になっているので、そこについてはどういう介入のあり方が有効なのか。雇用政策研究会だけど賃金規制のあり方、賃金介入のあり方みたいな議論になるのかなという気がします。最低賃金は一番下の所に介入できますけど、それより上の所にどういう介入が果たして可能なのかということだと思います。
○樋口座長 実はこの問題は日本国内だけの問題でなく、国際的に問題になっているのです。各国で似たような議論が起こってきて賃金のところは上がらないと。先ほど他の国は上がっているような図があったのですが、それにしても、その上がり方が非常に遅いというところで、それを考える上では個別の業種ないし職種で見ていかないと、なかなか一概に全て同じ理由ではなさそうだなというところが、あるのではないかという気がします。
それと、宮本先生、玄田先生が言ったので言うと、特に介護とか医療、また最近だと保育のところに、人手不足の議論から賃金アップを支援していく施策がいろいろ取られる中で、果たしてその効果というのが本当に上がってきているのかどうか。厚労省の中でも局は分かれているかもしれませんが、議論はなさっているのでしょうね。これだけ引き上げてきているし、実際に財政支出は拡大しているということだろうから、その効果分析というのをやらないと、それが有効な手段として機能しているのかどうかというところです。1つは、それぞれの分野における賃金の状況、それの引上げにどれだけつながっているのかということもあるだろうし、それが逆に今度は、その分野への労働供給をどれだけ促進してきているのかというところが、このテーマについては重要だという御指摘だと思いましたが、どうですか。宮本先生、このようなことはやっているのですか。
○宮本委員 例えば東京都がキャリアアップ補助金というのを出していて、これは人件費に何割運用しなければいけないというのを枠付けているので、ある研究は、その情報公開を求めて、いかにそこに回っていないかを明らかにしているというのはあります。ただ、社会学や政治学で、労働経済学は皆さんの分野ですけれども、余りそういうアカデミーでやられている事例はないのではないかと思います。
○樋口座長 玄田さん、山本さん、いかがですか。
○山本委員 少し戻るのですが、阿部先生のバスの事例と大竹先生のまとめていただいたことを考えると、財市場では過当競争が起きていて、労働市場で買い手独占が起きているという不思議な状況が起きている。それが結局、賃金が上がっていかないことの1つの要因になっているとすると、買い手独占力がどういうところでできてくるか。もちろん市場の構造とかあるのですが、日本では内部労働市場が非常に発達していて、なかなか転職ができないところからも買い手独占力というのは生じると思います。ですから、規制がどうこうというところをいじるのも、もちろん大事なのかもしれないですが、流動性をどう高めていくか。そこが、アウトサイドオプションが出てくれば、当然、買い手独占力というのは下がってくるわけですから、そこもセットで考えるといいのかなと思います。今日の資料の後半部分の辺りで、企業の中でどうなっているかというところに加え、確認としては、流動性の高い業種とか地域で、それほど下方圧力がなく、実は賃金がむしろ上がりやすくなっている可能性もあると思います。そこは流動性と合わせた議論というのも必要なのかなと思いました。
○黒田委員 今のお話に関係するところですが、私も賃金の動向を考察する際には、産業別に価格の動向も併せて見たほうがいいのではないかと思います。例えば賃金が上がりつつある建設業なんかは価格が上がるような傾向にあるのかどうか。最近、黒田日銀総裁が、「デフレマインドがずっと残っているのは賃金が原因ではないか」という記者会見をされていましたけれども、労働市場を考えていく上では、それが財・サービス市場などの他のマーケットにどのような影響を及ぼしているのかというところも、併せて考えていく必要があるのではないかと思います。雇用政策研究会ですから労働市場に限定すべきなのかもしれないですが、労働分配率などを考える際には価格の動向に注視していくことは重要ではないかと思います。
それから、議論の内容が少し前に戻ってしまいますが、多様な角度から賃金の図表を作っていただきましたが、既に他の先生がご指摘なさったとおり規模別やタスク別という切り口で見るべきとの点は、私も同感です。それに追加してお願いしたい点として、今、用意していただいている資料は平均を見ているわけですが、できれば格差も見たほうがいいのではないかと思います。2000年代の大卒男性の賃金プロファイルの動きを見ていますと、この15年間で第1十分位が趨勢的に下がっている動きが見えています。もし今回の資料で示されているように平均的にはそんなに下がっていないのだとすると、上のほうが上がってきている可能性もあります。そうであれば平均だけ見ることはやや危険で、もう少し差の部分を見ていく必要があるのではないかと思います。
○樋口座長 ありがとうございます。実は次回以降で、AI、技術革新の話を、労働市場へのインパクトみたいな話をしていただこうと思っています。そこで重要になってくるのが労働の流動性というか、例えばある分野、あるタスクに対する需要がAIによって大きく低下する、一方において伸びるようなところもあって、全体の伸び縮みがどうなるかという議論はなかなか難しいのですが、少なくともそれが起こることによって労働移動というか、技術の変化に適応していかなければいけないということが起こる。そういったときに、果たしてそれを個々人では全然しないで、一方において不足があり、一方において労働についての過剰が発生する。その状況が今のままだと解消できない可能性があるわけです。その議論をする上でも、今、出てきているような議論というのは、やっておく必要があるのではないかと思います。
病院の質という話で、価格が質に比べて非常に割安感が強いというのは、医療費本人負担が3割しかないというのが基本的な話なのですか。医療保険との関係というのを。ほかにどうですか。神吉さん、どうですか。全般的で結構です。
○神吉委員 人手不足の解消のために何ができるかという観点はもちろんあるとは思いますけれども、前回、玄田先生が適度な人手不足感をキープすることがむしろ大事とおっしゃって、私も全く同感です。人手不足の解消だけだったら、今回、「骨太の方針」で出されたように外から外国人人材を連れて来ればいい。そうやって数量調整すればいいのか、そうでないのかが問題になってくると思います。
単なる人手不足の解消ではなく、持続可能な生産性を維持できる労働市場のあり方を考えていくことが重要なのではないか。単なるマーケット、労働市場内部で完結する話ではなく、労働市場外との相互関係が重要で、そうなってくると労働市場の中でも質的な転換、特に長時間労働と低賃金の問題を、どう解消していくのかが課題だと考えています。
今回、30ページ等で、女性に関してはどの年代でもパート比率が上がっていることが指摘されていて、よくフルとパートを比較しますけど、諸外国と日本のフルとパートの意味は違います。日本の場合は、フルタイムであることは、実はフルを超えて無制限で時間外労働をできることが含意されている。つまり、無制限型の仕事と限定的な仕事という対立であって、単に時間の長短の話で終わらないところが日本の労働市場の特徴です。単に労働時間が長いだけではなく、無制限であることが予測可能性の低さとも結び付いて、それが生活時間を圧迫することで、労働市場外から労働市場への参入の障壁となっている。限定的な働き方、つまり生活時間を確保するための予測可能な働き方というニーズから、主に女性がパートしか選択できないのが現状だと思います。
そうすると、今、適度な人手不足感がやっと生活時間に配慮できる働き方への質的転換が促される要因になっている。玄田先生の本で挙げられているように、人手不足だけでは上がらないかもしれませんけれども、人手不足感が一定の質的変化を促すドライブになること自体は、恐らく前提のはずです。そこに単に外国人人材を入れてしまうと、質的転換を抑制しないか。今のデフォルトルールのまま数量調整をすると、それは逆にブレーキとして働く可能性があるのではないかと懸念しています。
○樋口座長 ありがとうございます。堀さん、何かございますか。
○堀委員 本日の議論、大変勉強になりました。ありがとうございます。ちょっとずれてしまうのですが、今回、医療・福祉が話題になっていたかと思います。33ページに新規大卒就職者の産業別割合というのがあって、この14年間の変化を示していただいています。この14年間、新しくできた大学とか学部、学科の大半は看護とか保育なのです。それが多分、この大卒就職者の産業別割合に反映されたのだと推測しますが、これは労働市場の需要を反映したというよりは、大学の言わば生き残りとしてなされてきたところが非常に多くて、資格学部は学生にとても人気があるので作ってきたところがあるのではないかと推測します。
そうだとすると、これらの産業に対して高学歴の人たちが入って行っている。今後、高学歴の供給が増えた場合に多少なりとも医療・福祉産業の状況に影響があるのか。それとも、このまま規制の中では高い学歴があっても、高いスキルがあっても、余り反映されないということなのか。今後、見ていく必要があるのかなと感じました。
○樋口座長 お2人から出された問題ですが、今日、賃金というところに焦点を当てて見ているわけですが、賃金も雇用条件の1つになっているわけです。人手不足の下において、賃金は上がっていなくても別の雇用条件のファクター、例えば労働時間であるとか福利厚生であるとか、そういったところが果たしてどうなっているのか。今、働き方改革の議論が出てきているわけですが、そこについても実は労働需給といったものが、かなり労働時間とかに影響を及ぼすし、例えばパートから正規への移行という形での雇用条件の改善につながっていっているのかどうか。これは前に出していただいたデータで、近年、どれだけ人手不足の下において非自発的、不本意非正規が減っているか、あるいは非正規から正規への移動が進んでいるかといったことが出てきたわけですが、労働時間等々についても、そういったものは雇用条件の改善という意味で見られるのですか。賃金のほうは高くて十分だから、労働時間のほうを短縮してくれといった人々のニーズの変化は、どういう形で雇用条件に影響しているのかというのも、ちょっと検討していただくと。
○雇用政策課長 26ページの所で、各国で48時間以上労働者割合自体は、先生がおっしゃったような、どういった労働条件を施行されるのかというのはないのですが、取りあえず、今日お示ししている中で言いますと労働時間ということ、これは週30時間以上働く方々のうち、48時間以上働いている労働者の割合を各国で比較したものです。そういった意味で長期的に見ますと、日本は一番上の線になりますけれども、30%台前半であったものが足下で言いますと26.4%ということです。48時間というところで区切ったものですが、これはもともと30時間以上ですから、パート比率の増大は影響しない取り方になっているかと思いますので、そういった中で労働時間の短縮というのは若干見られる状況になっています。
○樋口座長 確か週60時間以上の労働者割合というのも、まだ数値目標の7.7までには到達していないけれど、かなりそれに近づいてきている。これは少なくとも現行法は変わっていないけれど、何らかの市場の力が働くようになってきているのかなと。普通、人手不足というのは労働時間を伸ばすと思うのですが、それがちょっと、ここのところは少なくとも伸びていないという変化はあるのではないかと思いますが、どうですか。
○玄田委員 問題は、不況のときに労働時間が伸びたというのが、前、黒田さんたちとやったものなので、景気と労働時間との負の相関というのは以前ほど見られなくなるというのが、どこかであるのではないか。全然関係ないことですけれども、今日、一番面白かったのは29ページで、確かに専門職とか技術職の割合が低いかどうか、これはよく検証してみる必要があると思う。もしこれが本当に国際的に見て少なければ、昔から言うプロフェッショナル人材の育成というのはいいですが、これが本当に面白かったのは、管理職というのは本当にこんなに日本は少ないのという、こういう問題提起は余り聞いたことがなくて、日本は管理職が足りないかどうか。そういう研究はありますか。余り知らない。何となく管理職とプレイングマネージャーみたいなのが日本は多いのではないか。でも、それを足して専門職と管理職の境界が、今、専門職が少ないから。もしかしたらこれはすごく大事なところかもしれない。今日は佐藤博樹さんがいないけど、佐藤さんなんかの働き方改革の評価は、ちゃんと管理職をケアしないと大変なことになるぞということでしょう。長時間労働を削減すると言って、結局、その皺寄せが全部管理職にいったりするとろくなことにならないし、労働時間に対してケアするためには管理職がかなりきめ細かく見ていかなければいけない。それをちゃんと会社がサポートしないと、管理職が疲弊したら大失敗するというのが佐藤さんの説で、あり得ますよね。
もっと心配なのは、ずっと正社員を絞ってきたから、若いうちに管理職になるためのトレーニングを受けていない人たちが、30代、40代で管理職になろうとして、そうすると、ちゃんと管理職いるのみたいなことになる。だから日本は大変だ大変だと言っているうちに、将来、ちゃんと管理して人を見るという、そこの投資を削減してきたとしたら、大変なことが待っているかもしれない。
さっきの医療、介護、福祉でも、前からずっと労政審の安定分科会などで介護の話で出てくるのですが、介護事業で雇用管理責任者がいる事業所割合は半分ぐらいしかなくて、評価ができていない仕組みになっているのではないかと。では人事は人事でその代わりに補っているかというと、それこそ今は人事の生え抜きというのは本当に減ってしまったから、人事のプロも大分減っていてちゃんと評価できない。管理職も人事も評価できない国に日本はどんどんなっていて、しかも管理職になったら大変だから誰も管理職になりたくない。
○樋口座長 どうするの、管理職が目の前にいる。
○玄田委員 それは管理職が応えるのだろうけど、これが本当に事実だったら由々しき事態だということで、山本さんでしたか、ちゃんと職業構成を見るというのだったら、本当に職業構成が大変なことになっているかどうかは、こういう国際比較をやるというとまたJILに負担が掛かって申し訳ないのですが、ちゃんと見ていったほうがいいのではないか。
○樋口座長 なかなか管理職の人は喋りにくいので、確か神林さんが管理職についてのいろいろな調査をやっていますね。私も一緒に名前は載っているのですが、彼がやっているので、一度、その問題で話してもらうといいのではないか。管理職とは何かという定義が統計によって違っていて、これは多分、労協で取っているけれど、それと他の統計では違うのではないかとか、それを国際共通にしたときに、こんな数字が出ていますという話をなさっていたのです。あと、御指摘のように管理職の技能形成というか能力開発というか、教育訓練というのは日本はできていないのです。堀さん、どうですか。
○堀委員 そうだと思います。
○樋口座長 少なくとも公的な所では聞いたことがないし、では企業の中でやっているかというと、管理職研修というものはやりますが、あれは就任して、せいぜい1週間で評価とか何とかぐらいだし、ビジネススクールとかを通常は使ってやっているけど、日本では余りそこもないでしょう。みんなオン・ザ・ジョブ・トレーニングという。
○玄田委員 それもなくなっている。
○樋口座長 なくなってきているというところの問題で。
○職業安定局長 会社によっては、ちゃんと管理職向けのコースというのは選抜して、そういう所に入れる所もあるという話は聞いたことがあります。例えば大塚ホールディングスなどでしたら、そういう人を集めて、特別のコースを作ってガンとやってもらうという話は聞いたことがあります。
○樋口座長 雑談になって恐縮ですが、イギリスのNVQ(National Vocational Qualification)の中に管理職が入っているのです。それぞれの分野別の販売何とか課長は何ができなければいけないという試験があって、それを今度教育で補っていく。それに合格した者しかNVQですから該当しない。だから、候補として挙がってくる部長候補リストという形で、そこから部長を採用するようなことが行われている。それは私も、管理職がNVQ、National Vocationalでやるのかと思って驚いたのです。そういった流れというのがあるようですけれども、日本ではそれは出てこないですね。
○玄田委員 日本では、そういう話は全然ないですね。そういうのが大事ですね。
○樋口座長 何かありますか。
○阿部委員 いきなり管理職の話ですか。今日、労働分配率が出ましたが、労働分配率って難しいですよね。何パーセントがいいのかとか、高ければ良いのか、低いのは悪いのかというのは、ちょっとよく分からないということがあるので。例えば、労働集約的な産業と、そうではない産業では分配率は多分違ってもいいかと思うので、それは、議論するときには注意したほうがいいのではないですか。生産性が上がれば分配率は下がっていきます。
○樋口座長 ポルタグラシー以降ずっと分配率は変動すると。景気との相関が非常に強くて、景気が悪くなると分配率が上がってくるし、景気が良くなれば、企業の取り分が増えてくる。ただ、これは循環で議論されてきただけであって、分配率自身がトレンドとして下がりっぱなしとかというのは、余りこれまで経済学の中でも、経済現象としてもなかった。それが今、起こってきているのかどうかというのは、OECDのレポートの中で、各国の分配率がトレンド的に下がってきているってどういうことなのという、日本も分析の対象になっていますが。このレポートを読むと、たくさん要因が書いてあるので、どれだか分からないのですが、オプティマムな労働分配率ではなかなか議論ができなくて、その変化について議論しているのかなということですよね。これはレポートをまとめる上で、事務局で、この点何か御指摘を頂いたほうがいいのではないかということがあったら、御質問なりしていただくと。
○雇用政策課長 今回、賃金と失業率の数値について出させていただいて、結局日本は非常に失業率が低い状況を保ってきた中で、一方ではなかなか好景気になっても賃金が上がらない。賃金調整であったり、先ほど御指摘がありましたように、危機に備えて賃金が上がらないように留保していたりという御議論もあります。そうした中で、また、それは日本的雇用慣行の強みであるということもありましたが、一方では、数値はともかくとして、専門的な人材も少なくて、生産性も低くて、今後の新たな産業の育成ですとか、新たな時代の構造変化に十分対応していけないのではないかといった御議論もあります。今後、日本的な雇用慣行を踏まえながらも、どういった方向を目指していくといいますか、もし何かボトルネックになっている部分があるのであれば、そこで雇用政策的に何かできることはないのかということは考えさせていただいています。
また、もう1つ付け加えるならば、新卒一括採用で、非常に若い方々の失業率が低く抑えられている中で、いかに多様な方々、流動性を高めるといったときに、そこの失業率が上がってしまうのではないかという御議論もある。その中で、果たしてどういった施策を取り得るのかということを考えながら、資料は作らせていただいたところです。
○樋口座長 という趣旨説明ですが、何かありますか。失業率も幾つかの見方があって、1つは正に需要不足で、逆に言えば、需要があればその分だけは就業者に回るという、労働余力の指標という形で見ることはありますよね。あとはミスマッチということだけど、いずれにしても、失業率はある意味では、需要が拡大すれば供給はこれだけは可能であるというふうに見ていたのに対して、最近の未活用労働指数ですか、労働力調査が始まるようになった、あれを見ても日本は非常に低い。失業率が低いだけではなくて、求職活動をしていないけれど就業希望を持っているとかいう人も含めても、全部で5%ぐらいにしかならない。国際的に見ても、かなり思ったよりも、皆さんはどう思っているか分からないけれど、低いのですよね。逆を言えば労働余力は、これしかない。だから、女性と高齢者がもっと活躍するようになれば、労働力不足についても明るい兆しがあるとよく言っていますが、実は就業率も相当に高い水準にまでなってきている。高齢者のほうはまだ60代以降をどうするかというような話で、余力はあるのかもしれないですが、全般的にそこについての議論もしていかないと、先ほどの外国人うんぬんという話につながっていってしまっているところがあるので。大竹さん何かありますか。
○大竹委員 先ほどのまだ例えば賃金がちゃんと調整していないから、そういうことになっている可能性はありますよね。だから、本来、高齢者や女性の賃金がもっと上がれば、働きたいという人が増えてきて、労働力参加するけれども、すぐに職は見付からないという意味で、失業率は上がるかもしれない。しかし、樋口先生がおっしゃったとおり、それは生産性の余力がアップするということですよね。だから、そこが今日の最初の議論に戻って、賃金が上がっていないことが労働力を引き出せないことにつながっているのではないかという気がするのですね。だから、まずはそういう環境を整備して、それで労働力を確保することが先のような気もするのですね。そこに1歩ずつでも近づいているという玄田さんの今日のお話で、労働時間も短くなっているし、介護、福祉関係も労働条件が良くなっていますと。だから、人手不足だから大変で、すぐに労働供給を増やさなければいけない、外から持ってこなければいけないというほうにもっていくよりは、もうちょっとマーケットをうまく整備していって、働く人を増やしていくことができるのではないかという視点を、全体に持つことは大事かなと思いますが。
○玄田委員 前回あったかもしれませんが、今の大竹さんの話で、労働力調査で非正規の割合がこの3年ぐらいで37%で止まったでしょう。もうほぼ踊り場に来ている感じがするから、多分オリンピック景気とかいうのを考えて、2019年に上がらなければ上がらないだろうなと。そこで、いわゆる労働供給曲線がリンク(屈折)していると、ポンと上がる可能性がある。そこはやっぱり見守っていかなければいけない。
それから、神林君の本によれば、先ほどの日本的雇用システムがどうなるかは、多分二極化の傾向だろうと。賃金センサスの最初の解説だと年功賃金はフラットになっていると必ず書いてありますが、実際には2004年以降ずっと長期雇用だとかを守り続けている所と、やめた所に分かれていて、そのことが平均すると、先ほどのことになる、見えている。そうすると、もしかしたら、研究会で必要な情報提供というのは、日本的な雇用システムを維持するほうが得策な企業はどういう状況にある企業で、逆にそういうことに余りこだわらずに、新しい仕組みを考えたほうがいいのは、どういう環境にある企業であったり、個人かということ。その企業特殊熟練の人はどうかとかという、何か答えになっているような、なっていないようなことではなくて、もう少し明確な情報提供していくことが、もし研究会でできればいいかなと思いますが、私にはアイディアはありません。
○樋口座長 そう言わずに、アイディアを出してもらいたいということだと思いますが、事務局から何かありますか。
○雇用政策課長補佐 次回ですけれども、第4回は7月20日の金曜日10時からでございます。前回は御案内を間違えまして、失礼いたしました。場所は省議室になります。後日、改めて御案内いたしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○樋口座長 それでは、今日幾つか宿題を頂いていますので、それも併せてまた次回にお話いただければと思います。どうもありがとうございました。
 

 

 

 

 

(了)

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