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2017年4月26日 第17回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会

労働基準局

○日時

平成29年4月26日(水)10:00~12:00


○場所

中央合同庁舎第5号館厚生労働省議室(9階)


○出席者

荒木 尚志(座長) 石井 妙子 垣内 秀介 小林 信 高村 豊
土田 道夫 鶴 光太郎 徳住 堅治 中村 圭介 中山 慈夫
長谷川 裕子 水口 洋介 村上 陽子 輪島 忍

○議題

・解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について
・その他

○議事

○荒木座長 それでは、若干定刻前ですが、定刻にお集まりいただけるという委員の皆様はおそろいですので、ただいまから第17回「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催いたします。

 委員の皆様には、お忙しい中、御参集いただき、ありがとうございます。

 本日御欠席の連絡をいただいていますのが、大竹文雄委員、岡野貞彦委員、鹿野菜穗子委員、小林治彦委員、斗内利夫委員、水島郁子委員、八代尚宏委員です。

 本日の議題は、「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」「その他」となっています。

 では、お配りしております資料の確認を事務局からお願いします。

○大塚調査官 資料は、今回の新しい資料としては2点ございまして、資料No.1が「検討事項の補足資料ver.4」ということで、前回のver.3を前回の議論を踏まえてアップデートしたものであります。

 資料No.2は、「検討事項(全体版)」ということで、これまで資料として毎回お出ししておりました検討事項を張り合わせて全体をつなげたものでございます。

 以上でございます。

 もし落丁なり不足がありましたら、事務局のほうまでお知らせください。

○荒木座長 よろしいでしょうか。

 それでは、本日も前回に引き続いて「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」を御議論いただき、これまでの御議論を踏まえて、全体を通した意見交換を行いたいと考えております。

 本日の進め方ですけれども、前回の議論を踏まえまして、さらに議論を深めるための資料として、制度の基本的な枠組みについての論点等を追記した資料No.1「検討事項の補足資料ver.4」を準備いただいています。

 まず、資料No.1について事務局より説明をいただき、「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」を議論していただきたいと思います。

 その上で、最後に検討事項全体を通して御意見があれば承るということにしたいと思います。

 それでは、事務局より資料No.1について説明をお願いします。

○大塚調査官 資料No.1は、先ほど申し上げましたように、前回の議論を踏まえて、前回資料のver.3をアップデートしたものでございます。

 最初の1ページから4ページあたりまでは変更ございませんが、そこでは例1方式、すなわち解雇無効の確認判決を得ることを前提とし、裁判上の請求に限って行うような方式ですとか、あるいは損害賠償請求と労働契約の終了を結びつける仕組みの例2といったものがございました。この辺は記載に変更ございません。

 5ページの例3の全体図でございますけれども、一番上の他の訴訟とのかかわりのところで論点8を追記しておりまして、後ほど御説明いたしますが、労働審判制度など既存の紛争解決システムへの影響について御議論いただくのが論点8でございます。

 6ページは、新しい制度をつくるとしたならば、対象となる解雇がどういうものなのかを御議論いただくところでございますが、これまでの議論の中で土田委員のほうから労働基準法上禁止されている解雇、これはいろいろありまして、例えば産前産後休業やその前後の期間の解雇の禁止とか、あるいは労災で休んでいる期間の解雇の禁止なども含めて労基法上にも規定がございますし、均等法に基づく、性差別による解雇や、育児介護休業法に基づく育児休業等を取得したことを理由とする解雇なども法律上制限されているわけでございまして、これを含めるのかどうかという議論でございます。

 追記しておりますのは、論点1の最後の行でございまして、諸外国におきましては、労働者申立の場合には、そういった禁止解雇などについても特段排除していないのではないかということを追記いたしました。具体的な諸外国の例につきましては17ページに記載がございますので、御参照いただければと思います。

 7ページの論点2は、「労働者が金銭の支払を請求する権利」として、要件ですとか、あるいは一方的な取り下げができるのかどうかといったような御議論を今までしていただいたところでございます。その際、一番下の注として記載した部分でございますけれども、前回、村上委員のほうから新しく論点の提起がなされましたので、書いてございます。これは、労働者が解消金制度に基づく請求をした後に、使用者側が金銭を支払わない。かわりに、自分の行った解雇の意思表示がその権利濫用に該当して、本来無効であると自認して、労働者に対して労務の提供を求めた場合にどうなるのかという論点でございます。

 1つ目は、労働者は、引き続き使用者に対して金銭請求を求めることができるのかどうかということでございます。これは、基本的に権利を行使した場合に、労働者側が一方的な取り下げなどができるのかどうかという論点にもかかわりますが、請求した権利は引き続き生きているのではないかとも考えられます。

 2つ目は、使用者が労務提供を命じて、労働者側が金銭請求をしているのだということで断った場合ですけれども、それに対して使用者側がそれは債務不履行だとして、次に解雇できるのかどうかということでございます。これは後ろのほうで出てきます論点の労働契約の終了の時期をいつと設定するのか、あるいは就労の意思の解釈をどうするのかということにもかかわってくると思われまして、それによりまして答えが違ってくるのかなとも思われますが、皆様方で御議論いただければ幸いにございます。

 8ページの論点3は、特に記述の変更はございませんけれども、解消金として何を含めるべきなのかということや、あるいはバックペイの請求の範囲がどの範囲になるのかということが、労働契約の終了の時期あるいは労働者の就労の意思の終わりの時期との兼ね合いでいろんなパターンが考えられるところですが、御議論いただければと思っております。

 9ページの論点4は、労働契約の終了についてでございまして、先ほど申し上げましたように、村上委員から追加で論点提起がございましたが、ここでもそこで述べられた御意見、論点提起を追記しております。具体的には論点4の部分の下3行でございます。使用者側が、労働者が行いました金銭請求に対して金銭の支払いを拒否した場合に、労働契約は終了せず、労働者は使用者に対して、労働契約上の労働者としての地位の確認などを求めることができるのかどうかということで、これも労働契約の終了の時期をいつに設定するのかによって変わってくるかと思いますけれども、仮に労働契約の終了の時期が請求時点でないとしたならば、まだ労働契約は続いているということになるでしょうから、その場合には地位確認などができるのではないかと考えられます。

 2つ目に書いてありますのは、地位確認や賃金の支払い請求を労働者が行っていた場合に、使用者側が金銭をその後、当初の請求に基づいて支払った場合どうなるのかということでございますが、これも労働契約の終了の時期などにも絡むのかなと思いますが、請求時点で終了しているとしていない限りは労働契約は続いている状態になりますので、金銭が支払われた場合にそれが終了するということになるのであれば、この場合も、金銭を支払った場合に契約は終了するということが考えられるのではないかと記載しておりますけれども、委員の皆様方でも御議論いただければと考えております。

 あと、この論点に関しまして、前回高村委員のほうから、控訴された場合はどうなるのかという問いかけもあったかと思います。控訴した場合にどうなるのかについては、現在でも地位確認訴訟や賃金請求訴訟が行われたときに控訴されるということがありますので、それとパラレルで考えるのかなとも思われますが、契約の終了の時点とも絡む話かと思いますので、それとの絡みで御議論いただければと思います。仮に契約の終了時点を金銭の支払い時点とするのであれば、控訴した場合に、まだ使用者側が何も払っていないということであれば、お金は支払われていませんし、客観的な金銭の額というのも裁判所で判断されていない状態でしょうから、仮に一部支払ったとしても、それは充足していないとも考えられるわけでございますけれども、その辺も含めて御議論いただければなと思っております。

10ページの論点6は、「金銭的に予見可能性を高めるための方策」といたしまして、1つ目の○の※印を追記しております。これまで上限、下限の御議論をしていただきまして、それが解消金のどの部分にかかってくるのかということで、A案とB案の2つの案をお示ししていたところでございますが、そもそも上限だけを設定する、あるいは下限だけを設定する、上下限両方設定する、いろいろ考え方があろうかと思いますけれども、そのあたりにつきましても御議論いただくという趣旨で記載しております。

 また、このページの下の表の上2行も追加しておりまして、ここで掲げております指標は、労働審判ですとか和解などで行われています金額の平均等、あるいは早期退職優遇制度。これは前回土田委員から、まさに解消対応部分というのはこれ見合いなのではないかという趣旨の御発言があったかと思いますが、こういったことも御参照いただきながら、具体的な上限あるいは下限の金額水準についても御議論いただければと思いまして、この2行を追記しております。

 前回、八代委員のほうからパワハラと解雇が両方行われているような場合にはどうなるのかという問いかけもありましたけれども、これも結局は、ここのところに書いてございますように、解消金の性質をどう捉えるか、具体的には考慮要素に何を入れるかにかかわってくるのかなと思います。仮に考慮要素に慰謝料見合いのようなものが入るとするならば、八代委員が問いかけたようなパワハラとの複合事案は、解雇とどれだけ直接的な関連があるのかどうかということとの兼ね合いかと思いますので、考慮要素も含めて御議論いただければなと思っております。

11ページは今の論点の続きですが、上の3行目に※印を新たに追記いたしまして、別段の労使合意等があったときに、上限、下限との関係がどうなるのかという御議論が前回も多少ございまして、ここの図では土田委員が述べられたものをイメージとして記載しております。どういうことかといいますと、土田委員は前回、労働協約で上限、下限を設定したならば、法定の上限、下限との関係をこのように整理すべきだとおっしゃいまして、具体的には法定の上限を労働協約で定める上限が上回るのは可であると。ただ、一方で、法定の下限を下回るような労働協約下限というのは設定不可であろうという趣旨の御発言があったかと思いますので、ここに記載してございます。

 別段の労使合意等の範囲についても御議論いただければなと思っておりまして、労働協約がこれまで例示を出されておりましたけれども、ほかに取捨選択を検討するものとしては、例えば労働契約等の個別の労使合意で解雇の場合の金銭水準を定めた場合にどうするのかという話がまず1点あろうかと思います。

 あとは、本来の法的効果はちょっと違うのですけれども、労働基準法などでは免罰効として労使協定というものがございます。過半数組合があるときには過半数組合と事業主が、過半数組合がない場合には過半数代表者を選出して、それと事業主が協定を結ぶという労使協定がありますが、それをどうするのか。あるいは労使委員会で合意された場合にどう扱うのか。あるいは本来合意ではないのですけれども、就業規則で解雇の手続などと並んで解雇した場合の金額の水準を定めた場合に、それがどうなるのかといったようなことが、選択肢として考えられますので、御議論いただければなと思っております。

 そのページの下の7番「時間的予見可能性を高めるための方策」として、これは新しく設ける解消金請求に係る消滅時効をどうするのかということを御議論していただければと思っておりますが、前回村上委員のほうから御発言がありましたことを下の※印に書いてございます。現在、国会で民法の改正法案が議論されているところでございまして、そこでは消滅時効についても一定の措置を講ずることとしております。債権につきましては、その債権を行使することできることを知ったときから5年、債権を行使することができるときから10年という主観的あるいは客観的な起算点を明記した上で、5年、10年の定めを置いておるところでございまして、一方で、短期の消滅時効、月払いの賃金については、現行の民法上1年となったわけですけれども、そういったものについてはなくすというような改正法案が国会で議論されております。これとの兼ね合いがあるのではないかというような趣旨の御発言が村上委員からあったかと思いますけれども、その旨記載しているところでございます。

12ページは、論点8を新規に追記しております。こちらは既存の労働紛争解決システムへの影響として考えられるかどうかということでございまして、具体的な意見を※印の下に4つ記載しております。これは今までの検討会で出された意見を事務局の責任でまとめたものでございます。

 1点目は、金銭救済制度が創設された金銭の水準が定められた場合に、都道府県労働局で現在行っておりますあっせんなどにも金額の上ぶれ効果というか、事実上の効果が出てくるのではないかという御指摘。これは土田委員からあったかと思います。

 2点目、3点目は、たしか八代委員からの御指摘だったかと思いますけれども、まず2点目は裁判における金銭補償の水準が明確になることによって、行政のあっせんあるいは労働審判でもうまく機能するようになるのではないのかという御指摘。

 3点目が、仮に新しく設ける金銭救済制度が労働審判よりも著しく有利なものとして設計されているような場合には、これまで労働審判で解決されていたような事案まで裁判に流れてしまうということも考えられるのかどうかという意見。

 4点目は、たしか水口委員からの御指摘だったかと思いますけれども、バックペイは使用者が和解を決断するインセンティブになっているのだということで、バックペイに上限を入れるとなると、現状の調停や和解についても影響が出てくるのではないかという御意見があったかと思いますので、それらの意見を記述しておりますが、ほかにも他のシステムへの影響などにつきまして何か御意見がございましたら、おっしゃっていただければと思っております。

 その後ろの資料につきましては、前回御提示したものからの変更は特段ございません。

 説明は以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、ただいま説明いただきました資料No.1について、御質問、御意見等がありましたらお願いいたします。鶴委員。

○鶴委員 どうもありがとうございます。

 本日の検討会での議論ですごく重要になってくるところは、11ページと12ページ、解消金の水準をどう考えるのかということと、他の労働紛争解決システムへの影響をどう考えるか、この2点は非常に大きいかと思います。

 最初の点は、11ページの右側に土田委員からの御提案というのが書いてあります。基本的にこのような提案というのは賛成でございます。いずれにしても、法定という形になるのか、こういうきちっとした形で上限、下限を設定する。なおかつ、それだとフレキシビリティーが足りないので、労使が合意できれば、上限、下限ということをそこから少し動かすという余地を考える。その際にどういう労使の合意の仕方がいいのかということで、先ほど事務局が御説明されて、いろんなパターンがあると。これまでの議論でも、私が申し上げました労使協定ということになると、例えば組合がある場合はいいのですけれども、組合のない過半数代表ということになると、代表制がどうなのかという御議論もあったかと思います。

 労働協約ということになりますと、労働組合がある場合に限るという理解だと思いますので、最初制度を導入するときにそういうところから始めたらどうかというのは一理あるかと思います。労働協約ということでここを少し動かせるようにする。

 ただ、下限については、ここにありますような、実際オーバーオールに定められた法定の下限というところを下回るような下限の設定の仕方はやはり問題だろうということで、それはそのような形で考慮したほうがいいのではないのかなと思います。

 このような制度をさらに考えていくということになっていくと、下限の問題というのは、では、どれぐらいの水準がいいのかという話になってくると思うのです。この検討会の中で、私も前回少し幅みたいな話も申し上げたのですが、非常にピンポイントで上限、下限、どれぐらいのレベルがいいのかということを指し示すことは非常に難しいなという感じがあるのですが、そうは言いつつも、上限、下限を考えるときに例えばどういうものを考慮していくべきなのか、そういった幾つかのもの。例えば前回も土田委員のほうから早期退職優遇制度などのお話もありました。

10ページを見ていただくと、労働審判とか和解で第1四分位数は少し低い側のほうです。私も大竹先生といろいろ分析を御紹介させていただいて、解雇無効の確度が低い、解雇有効の可能性が非常に高いというような金額が低いところを見ていくと、1~3カ月。また、難波先生がここで御説明されたときも、解雇有効の可能性が高いような場合でも1カ月から3カ月ぐらい出しているというお話があったと思います。そのような場合でもこれぐらいの金額が出ているということは、今後考えていく際、ある程度の数字の目安になるのではないのかなと思っております。

 2番目の点は、12ページ「他の労働紛争解決システムへの影響」ということで、最初、実体法に権利を創設する仕組みということで、その制度自体でセルフコンシステントに制度をつくるということをこれまで議論していたと思うのですけれども、最後、ほかのシステムとどういう連関があるのか、影響を与えるのかということはしっかり議論する必要があると思うのです。

 この検討会の中で、これまで労働審判の制度、システムというのは非常にうまく機能してきた。新たな制度をつくることで逆に労働審判が非常に機能しなくなる。これまでやれていたことができなくなるとか、そういうことがあるということになれば、やはり問題も出てくるだろうなということなのです。

 事務局のほうにお伺いしたいのですが、3番目、金銭救済制度が労働審判より著しく有利なものとして設計された場合、これは問題を与えるということですが、新たな制度を裁判に限る場合、また限らない場合にかかわらず、新たな制度をつくったら、労働審判が非常に機能しにくくなるような可能性があるのかどうかということについて、事務局から教えていただきたいと思います。

 私の理解は、制度的にそういうことは多分ないだろうと。もし影響を与えるとすれば、まさに有利か不利かということなので、解消金の水準というところがどういう形で決まってくるのか。ほとんどそこのみが影響を与えてくるという理解で考えていいのかどうかということについて、事務局のほうから御説明をお願いできればと思います。

 以上です。

○荒木座長 それでは、まず事務局からお答えをお願いします。

○大塚調査官 裁判上の仕組みに限った場合と限らない場合を含めて制度的な影響はどうあるのかという御指摘だったのですけれども、まず労働審判は、皆様方共通の認識ができていらっしゃると思いますけれども、当事者間の権利関係を踏まえて、審判官、審判員で心証を形成し、審判を出すことを念頭に調停を進めていくものであります。

 申し立ての際に当然請求事項と請求の原因を書かなければいけないということになっておりまして、請求の原因に裁判上の仕組みに限った場合に書けるのかどうかという問題は出てくるかと思います。

 実際労働審判に申し立てるときに、現行では地位確認あるいはバックペイ分の請求といったことをそれぞれの現行の根拠規定に基づいて書くのだろうと思いますが、申し立てられた後、調停をする段階では両者歩み寄りをしていくわけでございまして、その歩み寄りの過程で新しく制度ができて、そこで金銭の水準が示されば、もしかしたら歩み寄りの過程に何らかの影響を与えていくのかもしれないということは言えるのではないのかなと思いますが、ここら辺は実務家あるいは法務省の方からも補足的な意見がいただければ幸いでございます。

 制度的に影響があるのかということで言いますと、申し立ての理由についてはどこまで厳密に扱うのかということと、全体的な仕組み、新しくできた仕組みが実際の調停に事実上の影響を与えるのかどうかということは、ちょっとレベルが違ってくるのかなと思います。今、申し上げたようなことかなと思いますけれども、補足的に御意見を賜れればと思います。

 以上です。

○荒木座長 それでは、労働審判への影響について、審判もよく扱っていらっしゃる実務家の先生方から何か補足的な説明をいただければと思いますが、いかがでしょうか。

 鶴委員の質問の趣旨は、金銭救済制度というものができて、それに上限、下限等が設定されて、それが労働者に非常に有利な制度とされた場合には、今、活用されている労働審判がむしろ使われなくなる、そういう影響が本当に生ずるのか、という点についての御質問ですね。

○鶴委員 はい。ポイントは、水準をどういうふうにするのかというのは当然影響を与えるだろうということは予測できるのですが、それ以外に、これまで労働審判でやってこられたことが制度的にできなくなるということが出てくるのか。そういう支障みたいなもの、これまで普通に労働審判でできたことができなくなるということが何かあり得るのか。これまで労働審判でこういうことができていたのに、新しい制度ができると、その関係でできなくなるということになれば、労働審判が活用できなくなるということにつながりかねないので、どういうものに連関してそういうことが起こり得るかというのは、私も素人でございますので、なかなか予測しがたいところがございますので、思わぬところで問題が出てくる可能性があるのかということをこの時点で少し確認をしたい。

 水準の議論は、当然それは影響を与える、それから労働審判で最終的にどういうふうにするのかという過程の中で、当然そういうものが影響していくというのは理解するし、だからこそそこをどう決定するかというのは重要な問題になると思っています。それ以外のところで何か影響を与える可能性があるのかということを確認したいという趣旨でございます。

○荒木座長 という趣旨ですが、いかがでしょうか。水口委員。

○水口委員 これは何度か発言していることですが、解決金の基準が労働審判等に影響を与えるというのはそのとおりです。訴訟の行動パターンとして想定できるのは、解雇された労働者は人生がありますから、労働審判で早期解決したいと思い、解雇事件を解決して、再就職をしていくとか、あるいは復職を目指します。労働審判の場合には転職を考えているわけですが、転職して復職をしないとなったら、もうバックペイは請求できないことにう形になります。

 ただ、再就職は、3カ月で可能なのか、6カ月で可能なのか、年齢や職種によっても随分違ってくるということになると、制度的なものによる直接の影響というより、その制度を前提にした当事者の行動パターンが変わってくるだろうと思います。以前に申し上げたのは、お金をたくさん取るということを目的にするのであれば、本訴を提起して、本案訴訟で解雇無効という心証をとり、さらに解雇無効時までのバックペイをとって、解消金請求訴訟を提起し、解決金を請求するとしたほうがお金はたくさん取れるわけです。時間はかかりますけれども、解消金請求訴訟は、再就職しようと何しようと、何らかの決まった基準で出るわけですので、ある意味では労働者のほうは早く解決しなくても、本訴で1年から1年半ぐらい争って、途中で再就職しても、再就職するまでのバックペイを払わせて、プラス金銭請求をできるということになります。こういう行動パターンになってくると、労働審判に行って解決をするということは余りメリットがなくなってしまいます。この制度を利用して、本訴に長期をかけてもお金を取りに行くという行動パターンがふえてくるだろうなと思っているところです。就職しても、中間収入が副業的なものでない限り償還の対象となるが、最低生活保障という労基法26条の趣旨からすると、平均賃金の6割までの部分からは控除できないという最高裁判決の基準からいっても、金銭面だけを考えればそのような行動パターンがふえてくる可能性は結構あるだろうと見ているところです。

○荒木座長 事務局、お願いします。

○大塚調査官 先ほど鶴委員の御指摘を多少取り違えて答えてしまったのかもしれません。新しい仕組みとして活用できるのかどうかという観点で申し上げれば、裁判上の請求に限るのか、それとも広く使うのかで多少変わってくるかもしれませんけれども、事実上の影響を与えるというのは先ほど述べたとおりなのですが、鶴委員のほうから御指摘のあった、既存の、今できている労働審判ができなくなるのかという観点についてお答え申し上げますと、今は恐らく地位確認なり賃金請求ということで労働審判を起こされているのだと思います。これは新しい制度ができた後も引き続きできるのだろうと考えます。そういう意味で、今回新しい制度をつくる意味としては、新しい選択として追加されるかどうか、それがどういう影響を与えるかどうかという議論はあろうかと思いますけれども、既存の今できていることが制度上できなくなるかという観点で申し上げますと、それは今後新制度が仮にできたにしても引き続きできるのだろうと思いますので、補足して申し上げました。

 失礼します。

○荒木座長 ありがとうございました。

 村上委員。

○村上委員 先ほど鶴委員が御指摘された12ページの8の論点について、私もマル3のところで十分なのかどうかという御意見を申し上げようと思っておりました。私が申し上げたいのは、新たな制度が労働審判より著しく有利なものと設計されるか否かにかかわらず労働審判制度への影響があるのではないかということです。

 私どもは、任意の団体として労働審判員の協議会を設立してまいりまして、先週の土曜日にさまざまな関係者が参加したシンポジウムを行ったところです。そこでも、制度創設から10年が経過した労働審判について、関係者間では、課題はあるけれども大変柔軟に解決できるよい制度だという評価で一致したところでございました。

 その中で、なぜ労働審判制度がよい制度となったのかというと、簡易迅速な仕組みとして設計しているということと、労働審判員として労使の関与があるということは大変重要だという指摘がございました。権利義務関係の判断を踏まえつつ、早期に柔軟で適切な解決を図っているという評価がある中で、新しい制度をつくっていくと、先ほど水口委員が御指摘されたような行動パターンの変化というものがあって、労働審判から新しい制度に流れるということは十分考えられるのではではないかと思われます。そのときに、新制度は訴訟における枠組みということですので、労使の審判員は関与できないということがございますし、解決までに時間もかかっていくということがございます。

 また、訴訟において解雇の合理性や相当性も判断し、さらに金銭の額も決定しなければならないということになれば、相当な時間もかかりますし、こうしたことが本当に労使双方にとって望ましい解決なのかといったこともございます。

 以上のことを踏まえますと、マル3は先日八代委員が御指摘されたようなことを基に記載されていると思いますが、それだけではなくて、そもそもこういった制度をつくるということは今の労働審判制度への影響があるのではないかということで、そういった論点もぜひ追加いただきたいと思っております。

 以上です。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。中山委員。

○中山委員 ありがとうございます。

 私は、使用者側で労働審判とかかわっていることが多いので、この点を申し上げたいと思います。

 今、実体法に権利を創設する仕組みとして議論されている。それ自体反対ですが、議論として、こういう仕組みの中で裁判上の請求に限るのかどうかというので、これを裁判上の請求に限るとした場合は、労働審判には影響がないとは言えませんが、新たな制度によって労働審判が大いに阻害、毀損されるというほどの影響はないのではないかと思います。つまり、すみ分けが可能ではないか。

 言うまでもありませんけれども、現在労働審判はうまく運用されて、評価が高いのですが、これは簡易迅速ということで、簡易というのは、要するに、証人尋問とか事実調べが極めて簡易です。迅速というのは、審判も含めて3回で結論が出るということです。したがって、解雇の無効が争われる訴訟のように証人尋問もしない。それから、私が実際にやっている場合には、労働審判員の委員会の心証というのは、金額を決めるための割合的心証です。つまり、このケースは白か黒か、そこまでの厳密な認定あるいは立証も要しないで、割合的認定で、これは相当黒だ、あるいは灰色だ、白だ、それによって双方にいろいろな説明をして調停に導くということですね。

 一方、議論されている解雇の金銭解決制度は、裁判制度に限るとすれば、まず証人尋問なり厳格な立証を要する。裁判所も金銭解決の必須要件として解雇は無効であるという認定をしなくてはいけないのです。したがって、割合的認定ではなくて、厳格な証拠に基づいて、いわば民事訴訟手続のフルコースで事実認定と法律判断をして、解雇無効の場合に限り金銭解決として金銭が幾らかを決める。バックペイの問題もあろうかと思いますけれども。

 したがって、そういう制度であれば、労働審判に比べると当然時間もかかる、コスト、手間もかかるということですが、それでも解雇無効の判断を前提とした紛争解決を求めるというニーズに適する。労働審判とはこの違いによりすみ分けできる。したがって、労働審判のメリットが、裁判上の請求に限った場合であれば、新たな制度ができたことによって、労働審判でなく訴訟に行こうという傾向にはならないのではなかろうかと思います。

 使用者側でも感じるのですが、紛争についてのスピード解決が以前にも増して労使の大きなニーズになっていて、労働審判というのは、それに対応した制度として、活用されている。一方、解雇の金銭解決制度がなくても、解雇無効を求める訴訟はあるわけで、そこでは金銭で解決する和解もあるわけですし、判決もある、控訴することもあるということです。解雇の金銭解決制度という新たな制度と言っても、今までのこうした解雇無効の本訴訟、徹底的にやるぞという本訴訟の手続の延長線上にあると思いますから、そういったところで見ますと、解雇の金銭解決制度を裁判上の請求に限るというのであれば、労働審判との関係で心配する大きな障害はないのではないかと思います。

 一方、裁判上の請求に限らないとなると、これは事実認定も割と緩和して、例えばADRのような制度の中でやった場合に、上限、下限ということがそのままストレートに出てくるとすれば、それは労働審判とのかかわりで、一体どこが違うのだ、水準だけが違いますねということになるとすれば、それは労働審判に対して大いに影響して、新たな制度としては問題が多いのではないかと思います。

 以上です。

○長谷川委員 中山先生にお聞きしたいのですが、例えば今、先生がおっしゃったように、通常訴訟と審判ではそれぞれ役割が違うのだからという点は、そのとおりだと思います。そうすると、通常訴訟の中に新たな制度を創設する際に、手続法を改正するのか、それとも新しい実定法をつくるのかという議論は一旦置いておいたとしても、現在、労働事件を含め、通常訴訟の解決期間は約13月と言われています。もう少し長くなっているとも聞きますが、今回この制度を入れたときに、時間的に、解決までの期間は早くなるのか、それとも遅くなるのでしょうか。私は少し遅くなるのではないかと思っているのですけれども、その辺はどうなのでしょうか。

○中山委員 いいですか。

 考えているイメージとしては、今の通常労働訴訟と同じような、平均的にみると、今は大体14カ月ぐらいですから、おおむね一審ではその見当で進むような運用が裁判所においてされるのではないかと思っています。裁判迅速化の法律もありますし、裁判所自体は全般に、労働事件に限りませんが、基本的に一審をなるべく短かくするように対応していると思いますから、今回の新しい制度の当初はいざ知らず、制度として定着したとすれば、通常の解雇訴訟と同様のスピードということはないのではなかろうかと思っております。

 あるいはそうでないというのであれば、この点については教えていただきたいと思います。

○石井委員 私も金銭解決制度を、訴訟手続に限るとすれば、すみ分けができて、弊害も少ないと思います。そうでないとしても、制度的に労働審判でできなくなることというのはないとは思うのですが、やはり影響が大きいのではないかと思います。

 労働審判について、解決金が何カ月分という数字は表になって出ていますけれども、御報告いただいたときにはばらつきがすごくたくさんあって、考慮要素もさまざまだというお話だったと思うのです。そこが労働審判のよさで、さまざまな要素を総合的に勘案して、相互納得できる金額を決められるというところがあるのですが、ただ、労働審判の中の調停成立ということだと双方納得しないと成立しないというのは、紛争解決としてもう一つ別の制度が欲しいということになると思うのです。

 金銭解決制度で、裁判所が金額の水準や上限、下限をどうするかというのはこれからのテーマですが、こういうもろもろの要素、双方の意向を酌み取ってということはできないけれども、一定の枠の中でもう決めてしまいますという制度があれば、それは制度趣旨も違うし、紛争の落ちつくところも違うということで、当事者はどちらがいいか、本人のさまざまなニーズに照らして選ぶということができるのだろうと思います。なので、訴訟手続で行くようにすべきです。

 これが訴訟手続外でもできるということになると混乱を生じるのだろうなと思います。当事者の折り合うところでもろもろの要素を考慮してというのが、結局、二方向できてしまうようになるのではないかと思いますので、裁判上の手続に限るというところで考えてほしいと思います。

 以上です。

○垣内委員 今、議論になっている労働審判の手続の運営への影響、あるいは訴訟事件に係る、要する期間への影響等に関してですけれども、私自身は実務についてよくわからないところがありますので、あるいは的外れなのかもしれませんけれども、まず制度として形成訴訟的な考え方で、訴訟手続でなければできないという考え方を仮にとったといたしましても、合意によってその内容がどうなるかということを勘案しつつ、一定の金額の支払い等を合意で取り決めるということは全く排除されないわけです。それは訴訟に行ったときに認められるかどうか、これは労働審判であれば、審判官等の心証がどういうものであるかというところに大きくかかわりますが、それがかなり認められそうだということなのであれば、それを前提とした合意をするということは当然考えられるところではないかと思われますので、そういう意味では、訴訟限りという制度をとった場合でも、当然事実上の影響はあり得るし、そのことは訴訟限りの制度とするか、それとも訴訟外での意思表示も可能とするかということによって、本質的には変わらないのではないかという感じがしております。

 もちろん、訴訟外でできるという場合には、当然よりストレートに問題になり得るということではありますが、しかし、合意で解決金額を定めるというときには、仮に実体法上の権利がどうだということを考えるとすれば、それはこうであるということを前提に合意をする、調整をするということでありますので、合意の内容がそれに事実上の影響を受けるという点では同じことであって、その点に関して訴訟に限るかどうかということが本質的な意味を持つかというと、そこは若干疑問があるように感じているところです。

 また、実際に審判の進め方あるいは訴訟の進め方にどの程度影響を及ぼすかというのは、仮にこの制度を導入したときの算定基準がどの程度、これは予見可能性という論点も連動して問題になるところですけれども、どの程度のものになるのか。それがかなりさまざまな要素、きちんとした証拠調べをやって勘案しないと出てこないということであれば、これは訴訟に関しては長期化要因になるでしょうし、労働審判でそのことも勘案して進めるとなれば、それも長期化要因にはなるのかもしれないという感じがいたしますが、しかし、そこで考慮する要因というのが、従来解雇の無効が争われるような事案において、解決金等の金額を考える際に問題とされてきた事情とそれほど大きく異ならないものだということであるとすれば、そこは本質的に長くなるということでもないかもしれないと考えておりまして、ここは考慮要素をどうするか、あるいはその基準、上限、下限も含めて、そのあたりをどう仕組むかということに密接に関連しているのかなと考えているところです。

 以上です。

○土田委員 今の議論を含めて、きょうは各論的な議論のまとめだと思いますので、少し総括的なことを言っていいでしょうか。

○荒木座長 はい。

○土田委員 少し時間を頂戴して全部で6点申し上げたいと思います。

 解雇の金銭解決制度を設けるとした場合、まず第一に基本的な視点というか、考え方をどこに求めるかということについては、以前から申し上げているとおり、不当な解雇あるいは無効な解雇に遭遇した労働者に対する救済の選択肢を多様化する。その点を求めるべきであろうと思います。

 この点は、前回同友会からも御指摘がありましたとおり、今の労働審判の迅速な解決はもちろん尊重した上で、しかし、個別事案によるところも大きいし、機関によっても異なるので、客観的で公正な基準によって金銭の救済を行える仕組みを設けることが重要ではないかと考えられるのではないかと思います。ただし、解雇権濫用法理の基本は解雇無効と地位確認ということですから、それが基本であるということは大前提として押さえる必要があるし、今後書面にされる場合にはその点はぜひ書き込んでいただきたいと思います。

 基本的な視点のもう一つとして、制度設計のポイントをどこに置くかということですが、特に重要なポイントは、一つは迅速な解決ということだと思います。今、お話があったように、本訴、裁判上の請求ということになれば、労働審判に比べて長期化することは当然ですけれども、しかしながら、その前提でできるだけ迅速な解決をポイントとするということが一つだろうと思います。

 もう一点は、国民にわかりやすい制度にする。労働者が利用しやすい制度にするということでして、いたずらに複雑な制度設計をすべきではないと考えます。今、裁判上の請求に限るのかどうかという点についても議論がありましたが、垣内委員御指摘のとおり、本質的な違いは出てこない可能性があると思いますが、ここをどうするか。裁判外の請求については、事実上どこまで可能なのかという疑問を持っていますが、国民に開かれた制度という観点からすれば、裁判外の請求も認めるという選択肢もあり得ましょうし、そこは一つ論点としてあるのだろうなと思います。

 第2は、要件をどうするのかということです。これはきょうの資料1の7ページ、一番上のところにマル1、マル2、マル3とあります。その下に「仮に要件を更に加えるとすると、例えば、復職する意思がないというような要件が考えられる」ということですが、これについても議論がありましたし、私も復職意思の喪失要件は考えられないわけではないと言いましたが、現時点ではマル1からマル3で必要十分だろうと考えます。

 先ほどの労働者が利用しやすい、わかりやすい制度ということからしますと、復職意思の喪失要件というのは、非常に制度を利用しづらくする可能性があると思いますので、マル1からマル3で必要十分かと思います。

 この中で最も重要な要件はマル2でして、「合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」。これが大前提です。ですから、解雇無効を前提にして救済の選択肢を広げる。そうすると、さらに金銭の相場的なものへも影響してくると思いますが、ここをまずは基本として押さえるべきだと思います。

 第3に、対象となる解雇についてですが、6ページになります。これについても意見を述べてきて、基本的には労契法16条の解雇に限り、かつ雇止めに準用するということは考えられると言ってきましたが、仮に最後の諸外国のケースを考えて広げるとした場合に、どこまで広げるのか。これはほかの委員の方々の意見も聞きたいのですが、例えば労働基準法上の手続違反、労働基準法19条とか20条、こういった規定、法令違反の解雇は含み得る、あるいは労契法17条の期間途中の解雇は含むべきではないと以前言いましたが、含む余地はあるのだろうなと思います。

 ただし、ここは議論をしていただければと思うのですが、少なくとも差別的な解雇というものは対象外にすべきではないかと思うのですが、いかがでしょうか。どういうものかというと、労働基準法3条、4条、雇用機会均等法の解雇、育児・介護休業法の10条といった差別的な解雇は、以前も少し言いましたが、雇用だけではなくて、例えば思想・信条を理由とする解雇、国籍を理由とする解雇は、思想・信条や国籍という別の価値を保護しているわけですから、それを労働者個人の意思によって放棄させていいのかという疑問が残ります。ですから、6ページの最後の括弧内について言えば、禁止解雇についても差別的解雇とそうでないものがあるわけで、そこをどう考えるかという問題があるかと思います。

 第4に、制度設計について4点ほど申し上げます。8ページのマル5、実体法に権利を創設する仕組みのA案とB案ですが、これはいろいろ御意見があろうかと思いますが、B案の左側、10ページで言うとBのマル1が最もよいのではないかと考えます。

 A案、Bのマル2の場合ですが、A案の場合にはバックペイを別途請求ということになりますから、訴訟の蒸し返しの問題が残り、迅速性の要請と矛盾する可能性があります。

 Bのマル2は、8ページのほうがわかりやすいですが、バックペイ分の相当額を解消金の中に含めるということになりますと、これも別途請求ということがあり得まして、迅速性の点から問題があります。

 考えられる制度設計としてはBのマル1がベストではないか。したがって、バックペイについては上限を設けないという制度設計になるかと思います。

 制度設計の2番目として考慮要素ですが、これは前回も言いましたけれども、将来働けた分の補償に慰謝料的なものを含む。さらに使用者に対するサンクション的な意味合いを含めて、その際に解雇の不当性の程度を考慮すべきであろうと思います。考慮要素の中に解雇の不当性の程度が入ってくると、常に非常に高額だということにはならなくなるわけで、労使間の利益調整も可能となろうかと思います。具体的には年齢と勤続年数、経済的な損失、解雇不当性の程度というものが入ってくるかと思います。

 先ほど事務局からもお話がありましたし、前回徳住委員からもお話があった解雇と関連する問題、例えば解雇に至るハラスメントが行われた場合。それから解雇に付随して行われた行為、例えば解雇した労働者の氏名を取引先に通告するとか、つい最近のIBM事件でありましたロックアウト解雇とか、こういったものをどこまで考慮するのかというのは一つの論点かと思いますが、やはり迅速な解決ということになりますと、今の点を含めた慰謝料的な内容も入れるほうが妥当ではないかと考えます。

 ちょっと長くなって恐縮ですが、全部言ってしまいますと、制度設計の3点目、10ページの上限と下限の問題です。下限については当然設けるべきである。上限については、10ページの※印、上限、下限双方を設けるかについては検討課題だけれども、予見可能性の観点から上限を設けるということは考えられる。

 その際の参考指標は、これも前回申し上げましたが、状況としては、労働者に帰責性がない状況で労働契約を解消するということの代償ですので、最も参考になるのは10ページ一番下の早期退職優遇制度の額になろうかと思います。平均値が15.7カ月分ですから、例えば下限を6カ月とし、上限を24カ月とするというような数字は考えられるかと思います。なお、バックペイ分については上限を設けるべきではないと考えております。

 制度設計の4点目は、先ほど鶴委員からも御指摘のあった11ページの労使合意による解決ということです。前回も御指摘があったように、企業ごとあるいは労使関係ごとに個別の事情があるので、一律で公正な基準を設けつつ、それとは別の、デフォルト的なものとして労使合意によってルールを設けるということは可能だし、必要だと思います。

 労働協約における定めですが、先ほど事務局から御紹介があったとおり、解消金の基準は強行法規ですから、下限を下回ることは不可能ですし、前回言わなかったと思いますが、協約によって法定の上限を下回ることも不可だと思います。ただし、法定上限を上回ることは可能でありまして、その意味で解消金の基準は片面的強行法規と考えるべきだと思います。

 それ以外の合意についてはどう考えるかということですが、事務局から4点ありましたが、まず就業規則はもちろん除外する。労使協定は免罰効であるということと、労働者代表、過半数代表の選出手続が不十分な点がありますから、除外すべきである。個別合意も原則として除外すべきでありますが、一つ考えられるのは、解雇時、労働契約終了時における合意は考える余地があろうかと思います。

 類似の立法例としては、民事訴訟法の第3条の7の第6項というものがありまして、これは国際的労働契約紛争において裁判管轄を特定の国の裁判所に限定する。いわゆる専属的管轄合意というものですが、これの根拠として労働契約終了時の合意に限定するという規定がございます。そういった状況であれば個別合意を認める余地がないわけではないと思います。ただし、個別合意につきましては労働協約に反することができないのでありまして、個別合意は労働協約の上限を下回ることはできない、かつ下限を下回ることはできない、そのような位置づけにすべきであろうと思います。

 労使委員会の合意、決議ですが、これについては労使協定と違って、選出手続がより厳格であるということと、決議が5分の4という厳しい要件を満たしていますので、これも検討する余地はあろうかと思います。

 5番目に効果についてです。今、要件と制度設計について述べましたが、効果については、資料の9ページになります。制度の効果としましては、金銭の請求はもちろんですが、労働契約の終了という効果が考えられます。これは9ページの叙述どおりだと基本的には考えております。

 新たに加えられた※印の「また」以降ですが、これについては、少なくとも労働契約終了時を8ページにあります金銭支払時ということにすれば、労働者は、使用者が金銭支払を拒否した場合には地位確認及び賃金支払の請求を行うことはもちろん可能だということ。他方で、地位確認、賃金支払請求訴訟の提起後に使用者が金銭を支払った場合に、労働契約は終了することになるのだろうなと思います。

 最後に、11ページの一番下にあります消滅時効の件ですが、これは迅速性という観点からは、例えば2年という期間も考えられますが、ここで御指摘のとおり、国会において民法の改正が議論されていますから、これは軽々に結論を出すべきではないだろうと考えております。

 極めて長くなって恐縮ですが、以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 幾つか委員の意見を聞きたいという点がございました。特に金銭解決の対象とする解雇について、差別的解雇については除くべきではないかという点について、ほかの委員の意見を聞きたいという点がございましたので、この点について、ほかの委員の意見を伺えれば幸いです。鶴委員。

○鶴委員 差別的解雇とそれ以外のものを分けるというのは、考え方としては私も理解できるのですね。ただ、今回労働者側の申し立てというところに限るということになっているので、そこに限るということを前提にしてしまうと、そこを区別する意味というのはもしかしたらないのかなと。申し立てができない場合だと大きな問題だと思うのですけれども、労働者側が申し立てをできるという場合、特に差別的な解雇ということになると、人間的に相手を許せないと。そうすると、解雇無効で、戻るということになっても、それは絶対戻りたくないと。そういうことを含めて損害賠償的な視点からちゃんと金銭で解決をしたいと思われる方も多いのではないかと思いますと、労働者側からの申し立てということに限るということを前提にすると、あとは、どんな解雇であってもそれを選びたい人がそこに行けばいいということになるので、通常はそこをきっちり分けるべきだと思っておるのですが、今回の場合はそこまで考えなくてもいいのではないのかなと思っております。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。徳住委員。

○徳住委員 今の点は鶴委員の意見に賛成です。実務上、マタハラといった育児・介護休業法等による解雇など、そういう事例は大変深刻な場合があって、本人は感情的に絶対復職して社長に一矢報いてやるという意見を一時は持つことがありますけれども、一旦落ち着いて冷静に自分の人生を考えると、新しい職場で新しい人生を築いたほうがいいという考えに至る場合が結構多いのです。そうすると、金銭的に労働契約を解消して、新しい生活に向けリセットするということも重要なので、そういう人の場合に制度が使えなくなる、または、除外されるというのはおかしいのではないでしょうか。差別的解雇については除くべきではないかという点については鶴先生の意見に賛成です。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。水口委員。

○水口委員 保護価値の問題で土田先生の意見は非常に共感する部分があるのですが、実務的に考えると、使用者が「この解雇は差別的解雇だ」ということはあり得ないわけです。普通解雇と言ってきます。「これは差別的解雇、法律上禁止された解雇なのだ」と主張するのは労働者側なのです。

 ですから、訴訟の場面を想定すると、普通解雇と主張する使用者に対し、労働者側が「これは差別的解雇で、かつ解雇権濫用法理違反だ」という主張をするということになってくるので、仮に土田先生の言うように対象となる解雇を限定したとしても、使用者が解雇が普通解雇だと主張している限りは、この金銭請求権を封じるというのはできないということになります。土田先生の意見には非常に共感するのですけれども、実務的に考えると、制度設計としてはどうなのかなという感じがするところがあります。

○荒木座長 土田委員。

○土田委員 今、3人の先生方が言われた点は私も理解できるところがありまして、実務的な観点、実際の訴訟になった場合の観点、それはそれで理解できます。

 私が言っておきたいのは、解雇の法規範をどうするのか、基本的なルールをどうするかということが問われるわけですから、解雇の中に差別的な解雇があるとすると、そういったものを金銭によって解決することを規範的にどう正当化するかということは物すごく重要な問題だと思うのです。使いやすい、実務的にこうだというのはわかりますけれども、差別に当たる解雇は、先ほどの条文以外にも例えば不当労働行為解雇も入ると思いますが、そういったものを金銭で、労働者の意思で解決することを正当化するということは、理論的には非常に重要な論点なので、結論についてはともかく、少なくともそこのところを押さえていただきたいという気がします。

○荒木座長 1点、技術的な点について私から質問ですが、法定基準と異なる基準を定めうるのは協約に限定すべきだとの指摘がありました。若干労使委員会の場合はあり得るかという話もありましたが、労働協約に限った場合、それは非組合員にも及ぶという前提で提案されているということでしょうか。

○土田委員 協約の基準は規範的部分に属することになるでしょうから、それは非組合員に及ぶとすれば、一般的拘束力を経由するということになるのではないでしょうか。

 ついでに言ってしますと、協約で定めるという場合に、上限と下限とは別に、個々の解雇についてどのように労使で解決するかということは、団体交渉事項になるのではないかと思っています。

○荒木座長 わかりました。

 それでは、ほかの点についてはいかがでしょうか。輪島委員、どうぞ。

○輪島委員 事務局に御質問ですが、11ページの論点の一番上のところで労使合意等と。今、土田先生からさまざまな御解説があったところですけれども、前回、私としては、労使合意等という意味で、紛争が起こる前に労使合意等ということが結べるというイメージが湧かないと申し上げたのですが、その点が資料の中には抜けているような気がするのですが、それがなぜ入っていないのかというのを確認したいと思います。

 今の点、労働協約というお話ですが、現実的に使用者側のほうは組合に事前の協議として、例えば11ページの右側「労働協約における定め」で、協約における上限を決めたいというふうにもしかしたら思うかもしれないのですが、労働組合のほうでそういう実態にあるとは思えないのですけれども、なので、別途というところで書かれている、または考えがあるということで今、整理していただいたのはよくわかるのですが、そういう労働協約が結べることについて、現実的には難しいのではないかと考えています。

 もう一点、10ページの下の限度額のところでいろいろ数字が出ているのですが、すごく違和感を覚えるのは、金額の水準については結局ばらつきがあるということと、それからさまざまな考慮要素がいろいろあるねということがコンセンサスではなかったかと思うのですが、それであるのに10ページの下に何となくもっともらしい一覧表がついているというところに違和感を覚えるというところです。

 以上です。

○荒木座長 先ほど中村委員から手が挙がっていましたが。

○中村委員 済みません。ずっと欠席していたので。

 僕自身は、裁判に訴えるというのは、労働者のことを考えると、解雇というのは不当だということを言いたい。それが認められた後に選択肢が与えられるとすると、これは退職を希望するかどうかということになると思うのです。したがって、これが始まってから、もしお金で解決するとどうなのかなと思ったら、希望退職で払う、会社都合プラスアルファというのが妥当だろうなと考えていて、それに上限、下限をつけるというのは少しおかしい。つまり、会社都合プラスアルファだと、プラスアルファの部分はいろいろですけれども、基本的には勤続年数も年齢も基本賃金に入っているので、長期勤続の人は高い希望退職金で、短期勤続の人は低いというのがそこに出てくるので、基準だけが希望退職制度と類似のものを設ければ、それで選べるのではないかなと思っていたので、上限、下限と出てきて、何でそんなのをつけるのだろうと。

 労働審判の場合はいろいろ考慮すべき問題があるので、それこそフレキシブルにやればいいと思うのですけれども、裁判で解雇が無効と出たときには、別に上限、下限もなくて、希望退職を選ぶかどうかということで解決したらいいのではないかなと思っていたので、上下、下限というのはおかしいと思っております。

○荒木座長 ありがとうございます。

 高村委員。

○高村委員 先ほど輪島委員から御発言がありました点にかかわって、発言させていただきたいと思います。私も輪島委員と同様で、労働協約によって解雇の解消金の水準を決めるというイメージが持てませんでした。もちろん労働組合は、早期退職優遇とか希望退職募集を募るときに、労使で協議をして、通常の退職金にどれだけの退職金を加算するかということは決めます。しかし、これまでも解雇の金銭解決制度の導入は反対だと労働組合は申し上げているわけですから、その労働組合がこういう協約を使用者側に求めること自体あり得ないと思っております。

○長谷川委員 前回も労働協約で不当解雇されたときの金額とか水準を規定するという発言があったことを踏まえ、その場合にどのような団体交渉をするのかとイメージしてみたのですけれども、15年ぐらい交渉担当をした経験を顧みても、このような交渉はしないですし、そういう協約は結ばないだろうと思いました。

 ある労働組合が、「集団的労使紛争が起きたときには労働委員会で解決する」という協約を持っていたのですけれども、それが唯一であり、それ以外の協約というのは見たことがありません。会社がそういうのを迅速に解決したいので、こういう協約をつくりたいと言ったら、不当解雇があるということを組合が認めるのかということで、組合の当事者だとすると、そういうのは乗れるはずがないと議論の入り口のところでけってしまうのではないかとずっと思っています。これは非常に難しいのではないでしょうか。解雇に当たって「不当解雇」と書かなければいけないですからね。そうでない解雇もあるわけですから、大変難しい問題だと思います。

 それと、労使委員会につき、土田先生がおっしゃった点は理解したのですが、労使委員会というのは非常に危ない。労使委員会の決議について、5分の4の話が出ましたけれども、労使委員会は一見民主的なようで全然民主的でないのです。これは現場に行けばよくわかるわけで、裁量労働制の労使委員会とか安全衛生委員会の労使委員会というのがあり、安全衛生委員会は、委員長は会社側の責任者が務めるほかは、労使同数でやるのですけれども、この労使同数でというのは非常に問題があると思うのです。

 労使同数ということは、使用者側が5人いて、労働者側が5人。使用者側が10人の場合には、労働者側が10人です。労働者側が労働組合だとそれなりに交渉の仕方なども訓練されてきますけれども、全然経験のない従業員代表と会社の人たちが労使同数となったときに、本当に交渉等ができるのかという点でも疑問があり、労使委員会は非常に難しいと思います。

 仮に従業員代表制ができて、お互いに民主的に選ばれてくるような制度があれば、もっと違う方法もあると思うのですけれども、現時点でまだドイツのような制度も入っておりません。労使委員会決議の5分の4というのは非常に民主的なように見えるのですが、実際は運営上、非常に難しいのではないかなと思います。

○村上委員 私からも、資料11ページ、先ほど土田委員が指摘された労働協約に限定するか、ほかの合意も認められることとするかという点についての意見です。土田委員がおっしゃったように、労使協定では問題があるということについては同じ考えです。この点に関し、土田委員は、過半数代表者については、選出手続ついてにきちんとされていないところがあるということで問題だとおっしゃっていましたが、それに加えて、過半数代表者については、意思決定のあり方についても何ら制約がないということも重ねて問題だと考えております。

 2つ目に、事前に個別の労使合意をしておけば、そこは認められ得ると考えられるのではないかという御指摘だったと思うのですが、この点については、労働契約を締結する際に、事前に不当な解雇をした場合に解決金を幾らと決めておくことは大変現実的ではないと思います。そもそも労使の力関係の非対称性を考えれば、問題ではないかと考えております。

 立法例として、民訴法の規定で管轄合意の規定を出されましたけれども、管轄合意の議論をする際にはかなり議論になりました。労働契約については事前の管轄合意ではなく、日本で起きた労働事件については日本の裁判所が管轄するということも定められておりますので、その点も留意しなければならないのではないかと考えます。

 また、別の点ですが、先ほど解決金の水準議論がありまして、私どもとしてはこういった制度は要らないという前提でありますが、鶴委員が先ほど10ページの表を参照されながら、下限を考える場合に、解雇有効と思われる場合でも3カ月という点を配慮すべきだという御指摘をされたかと思うのですが、これは当然であって、今回の検討は、解雇有効ではなくて、解雇無効の場合のことを考えているのですから、解雇有効と思われる場合での3カ月ということをはるかに超える話ではないかということを感想として持ちました。

 以上です。

○荒木座長 11ページの論点7、時間的予見可能性について、先ほど土田委員からは御意見を伺いましたが、ほかの委員の御意見も伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。水口委員。

○水口委員 債権法改正のときに、民法の消滅時効をどうするかということが大議論となり、労働問題にも影響を及ぼすということになりました。実体法上の金銭解決制度の導入には反対ですけれども、仮に入れるとしたら、今後成立をするであろう民法改正法案にある「知ってから5年」よりも短い期間になるということはあり得ないだろうと思います。労基法も退職手当の請求権の消滅時効は5年間となっていますので、時間的予見可能性についてはそのように考えます。

 忘れないうちにほかの点も発言してもよろしいでしょうか。

○荒木座長 どうぞ。

○水口委員 先ほど土田委員が、解雇権濫用法理の原則的な規範を考えた場合ということを強調されましたが、私もその点は共感すると先ほど申し上げました。では、それを反映させる制度としては就労請求権があり、私が検討会の最初のほうに申し上げて、土田先生からは極論だといったことを言われたと記憶しております。今回の議論を機会に就労請求権を入れるべきなのではないかと思います。差別的解雇の場合とか、あるいは少なくとも解雇が確定したような場合について、就労請求権が必要だと考えます。ドイツは判例法上入れているということのようですが、やはり雇用継続をするということを原則とすべきです。使用者が解雇無効の場合に就労を拒んだとしても、労働者が望んでいる場合には、就労を実現できるという制度をつくっておかないと、要は、解雇も結局は金銭問題だという規範に流れていってしまうのではないかと思います。先ほどの土田委員の規範的な価値ということを考えると、就労請求権を認めるか否かは重要なメルクマールだろうと。利用する人が仮に少ないとしても、規範としてそれを確立しておくということは、法律としては非常に重要だと思います。

 別の論点ですけれども、本日の資料No.1には入っているのかもしれませんが、裁判外の金銭請求権の権利行使を認める場合、混乱を招くということで反対だということは繰り返し申し上げてきたところです。裁判外の行使を認めるとした場合、一定の基準、解決金の基準が決まるとして、裁判外において、当事者同士が交渉して決めるわけですね。その場合には、解雇が有効か無効かは当事者の主張が対立しているという中で、実務で通常行っているように双方譲歩して一定のところで解決金を決めて合意解約するということは、新たな制度ができたとしても続いていくと思われるのです。これはこれで契約自由の原則がありますので、それが許されないということにはならないと思います。

 ただし、そうなると脱法のおそれがあるわけです。裁判外で権利行使をして、解雇有効か無効かわからないということで、下限とか基準以下のもので合意をしてしまったと。それは当事者、すなわち労働者と使用者の契約自由の原則の範囲内だということになりますけれども、労働者のほうが基本的に知識も力も弱いということになると、明白に解雇は無効であるにもかかわらず、下限より非常に低い解決をしてしまったということはあり得る話ですね。

 フランスでは法定合意という制度があるというのを、以前のヒアリングで聞いたことがあるように思うのですが、もし裁判外の行使をするということになれば、そういう脱法行為をどう考えるのか、どう規制していくのかというのは非常に重要な論点になると思います。資料の中に関連したものがあるのかもしれませんが、もしあるのであれば、その論点を事務局から教えていただきたいし、ないのであれば、その問題については論点として挙げていただきたいと思います。

 以上です。

○荒木座長 今の問題について、事務局から補足はよろしいですか。

○大塚調査官 今の水口委員の御指摘ですけれども、論点にはっきりとは書いていないという認識であります。

 仮に裁判外の請求を認める仕組みとした場合に、自主的に合意する場合あるいは行政ADR等を通じて合意に至る場合があろうかと思いますが、そこでの合意と新制度との関係や、水口委員御指摘のような点についてもあわせて御検討いただければと思います。

 さかのぼって恐縮ですけれども、先ほど輪島委員から御指摘があった11ページの労働協約に関する点でございますが、その後、各委員のほうから御主張がありまして、不当解雇を前提に労働協約であらかじめ定めるということは考えられないのではないかといったような御指摘もございました。

11ページの論点で掲げました労使合意については、最初のほうに鶴委員が御指摘になりましたように、法定の上限、下限に対して、柔軟に当事者間の合意で決める余地があるのかどうか、制度設計する場合の必要性について御議論いただくために書いたものでございまして、現状では不当解雇を前提にというのは、今、制度がありませんから、ないのかもしれませんけれども、ただ、一方で、対象となる解雇の部分に労働協約違反の解雇はどうなるのかというのは、たしか村上委員の御発言を受けて記載したかと思うのですけれども、労働契約で解雇に係るルールを定めることというのは今でも行われているのではないのかなと思いますので、新制度ができた場合に、労使合意でフレキシビリティーを確保するような仕組みをオプションとして設ける必要があるのかどうかについて、御議論を深めていただければなと思っております。

 以上です。

○鶴委員 今の点ですが、労使の合意を入れるというオプションに対して、両方の立場の方からなかなかそういうことを現実的に考えることはできないと。

 ここでの議論は、上限と下限をある程度一律に定めた場合に、最後までどれぐらい合意ができるのかというところがなかなか難しいだろうなと。そうしたときに、個別にそこを労使の合意で若干動かせる、そういう制度を入れておけば、まず一律的な上限、下限を決めるときの議論もやりやすくなるし、それなりの柔軟性を担保しておいたほうがいいのではないのかという趣旨だと思うのです。

 先ほどお話を聞いていると、そんなものはなかなか考えることができない。私は、上限、下限以外の議論でこれぐらいの水準というのをどんぴしゃやるというのは、もちろん個別のケースで変わってくるので無理だと思うのですけれども、上限、下限ぐらいのところはもう少し幅を持ったほうがいいとか、それぞれのところで考え方の違いは当然出てくると思うので、ただ、今のお話を聞いていると、そういうものは考えられないということであれば、別にそういう制度はなくてもいいと。だから、もし上限、下限を入れるのであれば、一律に決めればいいというお考えなのかなということはもう一度確認させていただきたいということ。

 先ほど中村委員がおっしゃった上限、下限は要らないと。それも一つの考え方なのですけれども、お話を聞いていて、早期退職金制度とかそういうところを念頭に置かれている。そこは当然勤続年数掛ける何カ月分という考え方にある程度近くなるわけですね。だから、上限、下限がない場合でも何らかの目安があると。目安がなければ、ここでずっと議論してきた予測可能性ということが高まることはないということなので、何にもなくなるということは、議論としてはもうないのだと思うのです。何らかの目安が必要であると。そうした中で、これまで上限、下限というのは一番フレキシブルに制度設計をやることができるのではないのかなという議論の中で、ここまで進んできた流れの労使の合意の役割というところだと思うので、もし上限、下限を入れるということであれば、一律に決めるというほうが逆にすっきりしているというお考えなのかどうなのか、ちょっと教えていただければと思います。

○荒木座長 あと30分程度になっておりますが、この後、金銭救済制度の必要性、それから資料2にあります検討の全体版の、2つの大きな柱、すなわち、紛争解決システム全体の改善と解雇の金銭解決、この全体についても御意見を伺いたいと思っております。

 その前に、きょう議論してきました金銭救済制度について、今の2つの論点の前に御発言したいという点があれば。小林委員。

○小林(信)委員 ありがとうございます。

 以前からこの検討会でも申し上げておりましたけれども、中小企業は、個別労働関係紛争が発生して裁判に提起されるというのが最も困ると。裁判になるとかなりの期間争うことになるので、そういうのが一番困るということでございます。

 制度設計を検討する際に、裁判で用いられるための要件とか効果を検討するのは理解しますが、制度設計をするのであれば、次の3点をお考えいただきたい。

 1点目は、先ほど土田委員が発言されていましたが、国民にわかりやすい仕組みにしてほしい。これは、裁判実務に詳しくない中小企業の事業主やその従業員、労働者にもわかりやすい仕組みにしていただきたいというお願いでございます。いたずらに複雑な仕組みにしないようにしていただきたいということです。

 2つ目は、紛争の蒸し返しなどができる限り起きないような仕組み。長期化しないような仕組みを考えていただきたい。

 3つ目は、金銭の水準については、これまでは余り具体的な議論がなされていないところですけれども、勤続年数とか年齢という話に加え、企業の支払い能力というものについても十分御配慮いただきたい。できれば中小企業の実情にも留意いただきたいというのがお願いでございます。

 金銭救済制度が既存の紛争解決システムに与える影響についてですが、何でもかんでも裁判に事案が持ち込まれることのないように、地域の関係機関、関係団体とも連携しながら、これまで以上に労働局のあっせんとか、労働審判等の認知度を高めるような施策をとっていただきたいと思います。

 それから、解雇の金銭救済制度を設けるのであれば、労働局においても迅速かつ的確に事案が処理できるような所要の改善措置というのも同様にとっていただければというお願いです。

 労働審判制度、10ページのところに平均で6.5カ月という数字が出ているわけですが、以前お伺いしたところによると、労働審判制度の和解の解決金等は公表されない形になっています。金銭の救済制度を検討するのであれば、労働審判の制度においても、解決金が幾らであるかということを公表するような仕組みづくりをぜひとも考えていただければというお願いでございます。

 以上です。

○徳住委員 最後の意見に入る前に、議論を聞いていて、解決しなければいけないのは、新しい制度を裁判外でも行使することができる制度として認めるのか、裁判上の制度に限るかという論点にあると思いました。ここの論点が整理されていないので、この間の議論が錯綜しているのではないでしょうか。

 実体法上の請求権として裁判外行使を認めると、法的に困難な点が生じます。撤回や裁判外行使後に裁判上の請求への乗りかえの可否、どの時点で労働契約が終了するのかなど、法技術上の問題点があるということを指摘しましたが、中山委員がおっしゃるように、裁判上の請求に限るという点については反対です。先ほど水口委員からもありましたように、仮に新たな制度導入するのであれば、実体法上の権利との整合性などとの調整を図るべきです。その場合に、実体法上の請求権とする場合は、書面などの要式行為をどうするかという工夫を含めて制度設計することができるのではないでしょうか。もし新たな制度を導入して、裁判上の行使だけに限るということになると、迅速性を極めて欠くことになります。裁判を提起し、約14カ月かけてお金だけ請求するという労働者がいるかという問題がありますので、魂が入らない制度になる可能性は十分あるのではないでしょうか。

 そういう点では、裁判外の制度になるとすれば別ですけれども、裁判上の制度に限るとした場合、労働審判でも準用できる制度設計が可能かどうかという問題も含めて、もう少し綿密な議論をしないと、大変時間がかかってしまう制度となり、魂が入らない制度になりかねません。

 労働審判には、セクハラの事件といったものを持ち込むな、そんな難解な事件は持ち込むなと当初裁判所が言っていたのですね。使用者側もそういうことを言っていたのですが、実際制度が始まってみて、セクハラの事件を持ち込みますと、ラフジャッジなのですが、結構正確な判断ができているのです。完全に正確かどうかまではわかりませんが、そのような判断枠組みの中で労働審判委員会が一定の金銭額を出すと、労働側も使用者側もそれを受け入れるという慣行ができ上がっているのです。そういう実態から申しますと、ある程度のことは労働審判手続においても解決することが可能ですので、迅速性を保つ意味では労働審判でもこの制度も利用するようにしないと魂が入らないのではないかというのが私の意見です。

○中山委員 時間がないところ、済みません。

 解消金の上限、下限については、鶴委員と同意見です。

 それから、先ほどちょっと触れて別の議題になってしまったのですが、11ページの消滅時効のかかわりで、今、民法改正で5年というのが出ておりますが、使用者の立場からいくと、5年というのは、人的、物的な立証上、そんなに長い期間で考えられない。これはどういうことかというと、裁判では解雇は有効か無効かの合理性なり相当性の立証は実質上使用者が負うことになりますから、そういう点で3年も4年もたって、当時の資料といっても、関係者もいないし、場合によったら資料もない。その関係で労働基準法の109条で記録の保存規定があって、使用者は解雇等に関する重要な書類を3年間保存しなければならぬとなっているのですよ。これを前提にすると、廃棄すること自体も労基法上許容されるわけで、したがって、4年とか5年というのは、実務的にもとても考えられない。

 最後に、議論が全然出ていないのですが、13ページの使用者からの申立については、もう既に申し上げているので重ねて申し上げませんが、これも重要な論点だと思いますので、お忘れなくということです。

○土田委員 もう時間がないので。

 裁判外の請求についてはどうかということですが、何度も言っているとおり、事実上どこまで可能なのかということはありますけれども、基本的に裁判外の請求、門戸を閉ざすことが妥当かというと、そこは徳住委員と同じで、それはあけておくべきだろうと思います。

 労働協約の11ページの件ですが、私が考えているイメージと皆さんが考えているイメージはちょっと違うのかもしれません。そもそも合理的理由がない解雇を前提にして労使で協約を結ぶか。不当解雇が前提なのだから、そんなことはあり得ないというのはよくわかるのですが、私が考えているイメージは、ここは裁判上の請求があって、その際に上限、下限が法定されたとき、それを上回る上限は可能だと。企業で団体交渉をして労働契約を結ぶのですね。そういう上限の設定について可能ではないかということです。そういう意味で、鶴委員と同じかもしれませんけれども、そういうフレキシビリティーは持たせてもいいのではないかという趣旨で言いました。

○荒木座長 それでは、制度の設計としてどういうものがあり得るかということを議論してきましたが、次に、金銭救済制度の必要性について少し御議論いただきたいと思います。そして、もう一つの柱である労働紛争解決システム全体についての御意見もいただければと思いますが、いかがでしょうか。輪島委員。

○輪島委員 ありがとうございます。

 今まで解雇の終了に関する設定について議論をしてきたということでございまして、労働者個々人の職業生活に非常に大きな影響を与えるという非常に重要な課題だと思っておりますが、これまでも何度も申し上げてきたとおり、慎重な議論が必要なのではないかと考えているところでございます。

 こうした観点から、例3、今、ずっと議論しているわけですけれども、先ほど中山先生からもあったように、私どもとしても裁判外の請求という点で非常に課題があるのではないかと思っているところであります。実定法上の新たな権利ということを認めるというところでありますが、金銭解決制度を導入するということをイメージして、そういうところまで踏み込んでやるというところについて、今まで議論していたとおり、まだ課題が非常にたくさんあるのではないかなと思っているところであります。

12ページのところにも関係しますが、制度を新しくつくるということになりますので、労働者の訴えが裁判に流れていくのではないかということ。それから金銭の相場として、新しい制度の相場と労働審判の相場と行政ADR、3つ相場みたいなものができる、制度として3つ流れるということになる。それは新たな選択肢を設けるということなのかもしれませんけれども、結果として、労働審判制度がうまく機能しているという現状からすると、既存の紛争解決システムについての影響というのは大きいのではないかなと考えているところでございます。

 先ほど申しました金銭の相場でございますが、解消金とかバックペイのあり方、そしてその水準、上限、下限を入れるのかどうかというところも、この検討会の中でもコンセンサスまたはイメージの共有ができていないのではないかなと考えているところであります。ですから、金銭解決の仕組みということをさらに検討するということも考えられるのではありますけれども、私どもとしては最後に結局幾らなのというのがわからない状況でなかなか判断できないなというのも正直なところでございます。

 これまで事務局の御苦労があって、使用者申し立ても含めて、論点、資料を整理していただいたということで、法技術的な課題が非常に浮き彫りになってきたということは評価すべきと考えておりますが、現時点で一つの方向性が形成されたということではないのではないかというのが私どもの考え方でございます。

 以上でございます。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。村上委員。

○村上委員 ありがとうございます。

 私どもとしては、この議論のスタート時点から、解雇無効時の金銭解決制度というのは特段設ける必要はないのではないかということを申し上げてきました。その理由は、現行うまく機能している制度もありますので、それで十分ではないかということや、先ほど輪島委員がおっしゃったように、既存のシステムへの影響というものも考えなければならないのではないかということがございます。私どもも全て現在のまま、1ミリたりとも動かしてはならないというスタンスでこの議論に臨んでいるわけではございませんけれども、無理に必要性のないところに改めて制度をつくる必要はないのではないかというスタンスでございます。

 この検討会を1年半やってまいりまして、多様な関係者の皆さんが参加していることでいろいろな角度から検討ができてきたと思っております。そうしたことからは、過去2回の解雇の金銭解決制度の導入の議論よりも踏み込んで、どんな点に問題があるのか、どこに課題があるのかということについても、かなり踏み込んだ議論ができてきたと思っておりまして、そのこと自体はよいことだったと思っております。しかし、現段階で改めて金銭解決制度が要るかというと、やはり要らないのではないかということです。

 それよりも、現在あるあっせんや労働審判をより利用しやすいようにしていくためにはどうあるべきかということや、前回検討会の最後に申し上げましたが、そもそも紛争が生じないようにしていくためにどうしていくのかということを議論するほうが建設的ではないかと考えております。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 ほかにはいかがでしょうか。土田委員。

○土田委員 論点提起の意味で。今、輪島委員と村上委員から言われたこと、特に村上委員が最後にまとめられたのは、労働審判制度を初めとして、制度がうまくいっている、そこに無理に入れる必要はないのではないかという点と、それから労働審判への一種の影響があるのではないかという点についてコメントします。

 1点目については、先ほど私が長々としゃべった最初のところですが、労働審判はある。それはそれで機能している。しかしながら、それとは別に、本訴を中心に、前回同友会の方も言われたように、裁判上の制度としては、現在無効と地位確認しかないところにもう一つ選択肢をふやすことに意味があるのではないかという考え方もできると思います。無理に入れるとおっしゃいますが、無理に入れるというよりは、そういったニーズもあるだろうということを前提に、そういう制度設計も考えられるのではないかという議論をしてきたと思っています。

 労働審判への影響については、もちろんあると思いますが、先ほど水口委員が言われた、仮にお金のことを考えたら、こちらの制度のほうに行くかもしれない。そうすると、長期化するかもしれない。しかしながら、お金そのものはより高額に取れるということをどう評価するのか。それをマイナス評価するのか。プラス評価する余地もあるのではないかというコメントをしておきたいと思います。

 仮に金銭の相場だけを考えたら、この制度ができた場合には、逆に労働審判への相場の影響もあり得るだろうということも言っておきたいと思います。

 以上です。

○水口委員 私の名前が出たのでコメントさせていただくと、労働事件で解雇された労働者からセカンドオピニオンとして相談を受けることがあるのですね。最近、弁護士に頼んだけれどもなかなか動かないので、大丈夫だろうかという相談が複数ありました。普通、私どものように労働弁護士の看板を出している弁護士のところに、解雇された労働者が駆け込んできたら、解雇について不満だと、解雇理由を明らかにしなさいという解雇理由証明書を請求するように話します。その証明書が出てきたら、解雇が有効か無効かを本人とよく打ち合わせをして、労働審判を申し立てて早期に紛争解決するというのが、大体私や私の仲間の弁護士たちがやっている行動です。

 ところが、セカンドオピニオンを受けた弁護士の中には、「いやいや、余り早く出すとバックペイがたまらないから、半年かそのぐらい放っておきましょう。その上で本訴を出していけば、1年とかそのぐらいのバックペイはとれますよ」というふうに話していると聞きました。相談者が、「いや、私、再就職したいのですけれども」と言うと、「いや、大丈夫だ。再就職しても復職の意思はあるのだと言っておけば、中間利息をとっても6割は最高裁判決で大丈夫だよ」ということを説明している弁護士がいるのです。しかも1人でなくて複数だったものですから、私はそのことが非常に頭にきました。

 これは弁護士業界の問題なのかもしれませんけれども、新たなルールができれば、人間は経済的合理性を考えます。この点をプラスと見ていいのか、マイナスと見ていいのかと考えると、私のような古い労働弁護士は、ややモラル的に問題があるのではないかと考えてしまうほうなのです。以上の点をエクスキューズ、弁解として申し上げておきます。

○荒木座長 ほかにはいかがですか。中山委員。

○中山委員 ありがとうございます。

 全体として各論で随分議論しましたが、こういう論点があったのかとか、民事訴訟法の手続的なものも含めて、非常に気がつかないご指摘も多く、勉強させていただきました。

 ただ、各論的な問題もそれぞれいろんな考え方がありますので、結論的には現段階では解雇の金銭解決の必要性は認められますけれども、現行の日本の、特に労働契約法16条を維持したままにたてつけるという大前提からすると、金銭解決制度はやはり相当無理があって、慎重にならざるを得ないというのが私の結論です。金銭解決の実体上の権利の問題ということで、今回新たに実体上の金銭請求権というのを考えて、新たな議論が出て、これも大変参考になり、勉強になりましたし、考え方の多様性として大いに啓発されたのですが、実務的な観点からすると、裁判所以外でそういう制度を認めることに極めて疑問がありますし、裁判上の制度に限定したとしても、今までの議論で解決金の考慮要素、考え方、水準、特にバックペイの取り扱いについては、労契法16条と判例理論の危険負担によって当然契約解消時まで未払い賃金債権が発生する、こういうたてつけを新たな制度によってどのくらい修正できるかという大きな問題もある。私としては、必要性は大いにあるので、その点は賛成論者なのですが、労働契約法16条を前提にしたたてつけでいくと、日本の場合、非常に無理があるかなと思います。

 ですから、今後労働契約法16条も含めて、全体的に金銭解決制度をさらに考えるということであれば大いに前進するとは思うのですが、現行法を前提にすると難しいのかなというのが、これまでの議論を踏まえた私の率直な印象です。

○荒木座長 鶴委員。

○鶴委員 どうもありがとうございます。

 皆様の意見をお伺いしてきて、これまで厚労省のさまざまな検討会でも議論できなかったことについて、非常に細かいところまで率直にこの場でかなりできてきたのではないのかなと思っていまして、ここまでいろいろな細かい制度をつくる、最後それを導入するのかしないのかというのは、先ほどおっしゃったように、皆さん、御意見があるのだと思うのですけれども、こういう制度を導入するということを前提としたら、どういう問題点があるのか、どういうことを考えなければいけないのかということについては、かなり議論ができてきた。もちろん、まだいろいろ足りない点とか、どんなものでも新しい制度をつくるというときはそうだと思うのですが、さまざまな意見が出て、問題点等が本当に浮き彫りになったというのは、正直実感として思っています。

 制度設計として、裁判に限るという新しい制度をつくる、そちらのほうが望ましいのではないのかなと私自身は考えているのですが、その場合に、いろんな事情を持った方々がそれぞれ行くべきところにより行くことができるようになる。労働審判でも、金銭で解決したいのだけれども、白黒はっきりつけたいと。もうちょっと長くやってもいいから白黒はっきりつけたいという方はいらっしゃるのだと思うのです。そういう方は新しい制度が利用できるし、これまで地位確認ということで非常に長い期間かけてやるという方が、新しい制度で裁判のほうに行くとしても、もう少し短い期間でそれなりに決着をつけて、金銭で解決して、予測可能性も高まると。

 両方の側から来るということで、大幅なうまい制度設計をしたら、労働審判のほうからごっそり人が流れるとか、そういうことは当然ないのだろうなと。制度設計の仕方として、これまでの制度等をうまく両立してやっていけることは、ここまでの議論をお伺いする限り、可能ではないのかなという印象を受けましたし、いろんな意見も聞かせていただいて非常に有意義というこれまでの印象を持っております。

○徳住委員 私は、論理立ては違いますけれども、中山委員と同意見で、今の時点で解雇の金銭解決制度、実体法上の権利を新たに創設する案は必要ない、どちらかというと時期尚早だと思っています。

 確かに実体法上の権利創設というのは新しい提案でありましたが、法技術上の問題点が余りにも多過ぎます。それはなぜかというと、新たな制度は、使用者が解雇して、解雇権濫用法理で無効だったものを、金を払って有効にして労働契約を終了するという性質を持っていて、それを法技術的に解決できるかという問題が本質的に解決していないのではないかと思うのです。

 権利の法的性質を、裁判上の形成権で構成するのか、請求権で構成するのか。裁判上の請求に限るのか、裁判外の行使を認めるのか。解消金の法的性格をどう見るのか。バックペイを含めるか、含めないのか。使用者側の申し立てを認めるのか。これはいずれも大きなテーマを含んでいて、それが解決していません。

 では、このような複雑な議論をしながら新しい金銭解決制度を導入しなければいけないかというと、労働者側からそのような要求は余りないのですね。なぜかというと先ほどから話がありますように、現在のたてつけは、労働審判をするにしても、裁判に申し立てをするにしても、労契法の16条で解雇権濫用法理を前提に、解雇無効の地位確認請求、バックペイ請求の訴訟を提起しながら、ファジーでありますけれども、いつの間にか労働者と使用者側の間で問題点を認識して、労働審判委員会や裁判所が解雇の有効、無効を、心証を開示する中でお互い譲歩しながら解決していく中で、ある程度予定調和的に相当な事件が解決してきているからです。

 このような実態がある中で、例えば裁判上の請求に限定した実体法上の請求権を新たに創設するといっても、このような制度の枠組みで、約1年4カ月かけて解雇が無効だから、上限の範囲で幾ら払えという裁判を労働者が求めているかというと、そういう要求は全くなくて、いろんな考慮要素を入れながら、ファジーだけれども解決していくという現在の機能が、現実的には一番機能しているのです。先ほど申したように、法技術上の問題点が組み合わせによっては結論が変わってくる可能性はあると思うのですけれども、その組み合わせがはっきりしない段階で新たな制度を強引に入れるというのは反対だし、必要ではないというのが私の立場です。

○石井委員 使用者側からの立場ということで、確かに慎重な検討を要するとは思うのですが、新しい解決制度を入れること自体は前向きに考えていっていいのではないかと思います。労働審判でも訴訟でも判決が出ても解決できない事案、戻れない、戻せないという事案はありますので、そこのところの紛争解決制度が必要だろうと思います。

 不当な解雇をしておきながら、なぜお金を払えばいいのかというところが再三指摘されるところではあるのですけれども、解雇無効なものを復活というか、有効にしようというのではなくて、全く新しい雇用の終了事由だということで、無効な解雇を生き返らせるのではなくて、それとは別の雇用終了方法ということで制度設計していけるのではないかと考えます。

 実体法上の権利というお話が出たときには、今までとはまた違う発想で組み立てられるのかなと思っておりました。ただ、論点がすごく出てきて大変だなということはわかりましたが、慎重に進めていけるのではないかと。

 権利行使の方法としては、確かにどういうハレーション、どういう影響があるのか見えないところですので、やはり訴訟手続による権利行使をするということで制度設計をして、慎重に始めてはどうか。最初は件数が少ないかもしれないですけれども、始めることの意味がないわけではないのではと思っております。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 ほかにはよろしゅうございますか。

 もう一つの柱であります労働紛争解決システム全体についても何か御意見があれば伺いたいのですが。特にこの時点ではよろしいでしょうか。

 それでは、きょうは解雇無効時における金銭救済制度について中心的に議論し、その後、金銭救済制度の導入の必要性等についても御発言をいただきました。

 本検討会では約1年半にわたって2つの柱、すなわち既に制度化されている多様な個別労働紛争の解決手段がより有効に活用されるための方策について、そして、もう一つの柱である解雇無効時における金銭救済制度のあり方とその必要性について議論して参りました。委員の皆様には大変有益な議論をいただきまして、大変ありがたく思っております。

 次回以降ですが、これまでの議論を踏まえて報告書の取りまとめに向けた作業に入りたいと思います。次回の検討会では事務局から報告書の取りまとめに向けた資料を提出するようにお願いします。

 それでは、次回の日程について、事務局からお願いします。

○大塚調査官 次回第18回の日程は現在調整中でございますので、決まり次第、場所とともに委員の皆様方にお知らせしたいと思います。

 以上です。

○荒木座長 それでは、本日の検討会は以上ということにいたします。

 どうもありがとうございました。


(了)

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