ゲノム情報による不当な差別等への対応の確保(労働分野における対応)

令和6年8月20日​


 令和5年の第211回通常国会において成立した「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」において、ゲノム情報による不当な差別等への適切な対応の確保に関する条項が盛り込まれたこと等をふまえ、厚生労働省では、労働分野における不当な差別を防止するための対応として、Q&Aをとりまとめました。
 この Q&A は、労働分野におけるゲノム情報に関する基本的な考え方を示したものです。

参考:
ゲノム医療推進法に基づく基本計画の検討に係るワーキンググループ|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 

問1 採用選考時に応募者の遺伝情報の提出を求めても問題ないのでしょうか。

 求職者等の個人情報の取扱いについては、職業安定法第5条の5及び同法に基づく指針により、業務の目的の達成に必要な範囲内で当該目的を明らかにして収集することとされています。
 特に本籍や出生地など社会的差別の原因となるおそれのある事項については、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除き、収集してはならないこととされており、遺伝情報は、この「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に含まれます。
 また、応募者の遺伝情報を取得・利用することは、本人に責任のない事項をもって採否に影響させることにつながることになり公正な採用選考(参考1及び参考2参照)の観点から問題があることから、そうした必要性のない情報を把握してはならない旨を事業主に対して周知・啓発しており、問題があるような事例については、ハローワークにおいて指導・啓発を実施することとしています。
 違反行為をした場合には、職業安定法に基づく改善命令、改善命令に違反した場合には罰則の対象となる可能性があります(参考3)。
 このように、採用選考の関係では、遺伝情報を収集してはならないという点について、罰則等を含め一連の法的手当や採用選考時に配慮すべき事項の周知・啓発等を実施しています。

(参考1)
人権教育・啓発に関する基本計画(平成14年3月15日閣議決定)(抄)
第4章 人権教育・啓発の推進方策
2 各人権課題に対する取組
(5)同和問題
4 雇用主に対して就職の機会均等を確保するための公正な採用選考システムの確立が図られるよう指導・啓発を行う。(厚生労働省)

(参考2)公正な採用選考とは
 応募者の基本的人権を尊重した上で、応募者に広く門戸を開き、応募者の適性・能力に基づいた採用基準により採用選考を行うこと。
 採用選考時に、「本籍・出生地」、「家族(病歴、学歴等)」、「生活環境・家庭環境」、「宗教、思想」等に関することを面接で尋ねたり、身元調査の実施、本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用等することは、就職差別につながるおそれがある旨の周知・啓発を図っている。

   厚生労働省公正採用特設サイト|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

(参考3)
 職業安定法第65条第8号の規定により、改善命令に違反した場合は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処することとされています。


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問2 採用後、ゲノム情報を取得して提出するよう(又はゲノム情報を取得したと会社で話したところ、ゲノム情報を提出するよう)、会社から求められました。求めに応じる必要はあるのでしょうか。

 個人情報保護法においては、労働者の個人情報について、偽りその他不正の手段により取得することや、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により利用することはできず、また、労働安全衛生法に基づく健康管理のための情報として、労働者のゲノム情報を収集することもできません。
 このため、会社からの求めに応じる必要はなく、ゲノム情報を提出しないことを理由に、人事評価を低評価とするなどの不利益取扱をすることも不適切であると考えられます。

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問3 採用後、会社からゲノム情報の提出を求められ提出したところ、解雇されました。ゲノム情報を基に解雇することは問題ではないのでしょうか。

 労働契約法第16条においては、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効になるとされています。
 問2の回答のとおり、会社からゲノム情報を提出するよう求められた場合、その求めに応じる必要はありません。しかし、ゲノム情報を提出してしまった場合に、会社がゲノム情報のみをもって解雇を行った場合、解雇の合理的な理由になるとは考えられず、一般的には解雇権の濫用に当たるとして無効になるものと考えられます。
 また、ゲノム情報に加え、その他の理由を根拠として解雇した場合であっても、ゲノム情報そのものは解雇の合理的な理由になるとは考えられず、その他の理由によって、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない限りは、解雇権の濫用に当たるとして無効になるものと考えられます。
 なお、問2の回答のとおり、労働安全衛生法に基づく健康管理のための情報として、労働者のゲノム情報を収集することはできません。

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問4 採用後、会社からゲノム情報の提出を求められ提出したところ、異動を命じられました。ゲノム情報を基に配置転換を命じることは問題ではないのでしょうか。

 就業規則に配置転換を命ずることができる旨の定めがある場合でも、配置転換は無制限に認められるわけではなく、不当な動機・目的の有無や、配置転換命令の業務上の必要性とその命令がもたらす労働者の生活上の不利益とを比較衡量した結果により、配置転換命令が権利濫用に当たると判断され無効となる場合もあります。
 問2の回答のとおり、会社からゲノム情報を提出するよう求められた場合、その求めに応じる必要はありません。しかし、ゲノム情報を提出してしまった場合に、会社がゲノム情報のみをもって配置転換を行った場合、配置転換の合理的な理由になるとは考えられず、一般的には権利の濫用に当たるとして無効になるものと考えられます。
 また、ゲノム情報に加え、その他の理由を根拠に配置転換を行った場合であっても、ゲノム情報そのものは配置転換の合理的な理由になるとは考えられず、その他の理由によっても、不当な動機・目的が認められる場合や、業務上の必要性が認められないなどの場合には、配置転換命令が権利濫用に当たると判断され無効になるものと考えられます。
 なお、問2の回答のとおり、労働安全衛生法に基づく健康管理のための情報として、労働者のゲノム情報を収集することはできません。

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問5 採用後、会社からゲノム情報の提出を求められ提出したところ、昇格・昇給が止まりました。ゲノム情報を基に昇格・昇給に関する不利益な取扱いをすることは問題ではないのでしょうか。

 一般論として、企業が労働者の能力や業績などを評価し処遇に反映する人事考課制度において、個々の労働者に対してどのような評価を行うかは、基本的には当該人事考課制度の中での裁量的判断となりますが、裁量権の濫用があってはなりません。
 問2の回答のとおり、会社からゲノム情報を提出するよう求められた場合、その求めに応じる必要はありません。しかし、ゲノム情報を提出してしまった場合に、ゲノム情報のみをもって、人事考課に不利益な取扱いをすることは一般的に裁量権の濫用に当たるとして、無効になるものを考えられます。
 また、ゲノム情報に加え、その他の理由を根拠として不利益な人事考課を行った場合であっても、評価前提事実の誤認がある、不当な動機がある、重要視すべき事項をことさら無視し、重要でない事項を強調するなどの場合には、裁量権の濫用として無効になるものと考えられます。
 なお、問2の回答のとおり、労働安全衛生法に基づく健康管理のための情報として、労働者のゲノム情報を収集することはできません。

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問6 配置転換や解雇などの不利益取扱いを受けた場合には、どこに相談すればいいのでしょうか。

 配置転換や解雇などの不利益取扱いを受けた場合は、都道府県労働局及び労働基準監督署等に設置された総合労働相談コーナーにおいて相談を受け付けています。
 
 総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

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