第106回ILO総会の開催

今般、国際労働機関(ILO)の第106回総会が、スイス国ジュネーブで開催されました。
ILO総会は、毎年1回(通常6月)行われ、ILO全加盟国の政府、労働者、使用者よりなる代表団が一堂に会する最高意思決定機関です。
本総会では、橋本厚生労働副大臣が出席し、我が国において、気候変動に対する対応として環境・エネルギー分野での技術開発や国民全体での取り組みを進めていることや、生産年齢人口の減少に伴う課題の克服や持続可能な社会の実現のため「働き方改革」を進めていることを紹介するとともに、持続可能な経済とディーセント・ワークが両立する社会を目指し、世界と共に立ち向かっていくことを呼び掛ける演説を行いました。また、財政(2018-19年計画予算案)、労働力移動(移民)、第71号勧告の改正、労働における基本的原理と権利に係る周期的議論と、これらの課題に関する各国の取組状況を踏まえ、今後の対応策について議論が行われました。

1 会期

平成29年6月5日(月)~6月16日(金)

2 主な議題

(1) 財政問題
(2) 条約及び勧告の適用状況
(3) 労働力移動(移民)に関する議論
(4) 平和・安全及び災害からの回復のためのディーセント・ワーク:第71号勧告の改正に関する議論
(5) 労働における基本的原則と権利に係る周期的議論
(6) 条約の廃止

第106回ILO総会結果(概要)

日時:
 2017年6月5日~6月16日

場所:
 スイス(ジュネーブ)

出席者等:
 政府側:橋本厚生労働副大臣、勝田厚生労働省大臣官房総括審議官(国際労働担当)(ILO理事) 他
 労働者側:逢見日本労働組合総連合会事務局長、郷野日本労働組合総連合会参与(ILO理事) 他
 使用者側:得丸日本経済団体連合会雇用政策委員会国際労働部会長、松井日本経済団体連合会労働法制本部参事(ILO理事) 他

本会議:
ILO事務局長より、ILO創設100周年に向けた7つのイニシアティブの1つである「気候変動下での労働:グリーン・イニシアチブ」をテーマに、気候変動下におけるディーセント・ワークの機会の提供や適切な労働力の移行のために、[1]労使の全面的な関与、[2]社会的に受け入れ可能かつ有益な技能開発と社会的保護のための政策の実施が必要との提案がなされた。これを受け、各国政労使代表による演説が行われた。
日本政府からは、橋本厚生労働副大臣が出席し、我が国において、気候変動に対する対応として環境・エネルギー分野での技術開発や国民全体での取組を進めていることや、生産年齢人口の減少に伴う課題の克服や持続可能な社会の実現のため「働き方改革」を進めていることを紹介するとともに、持続可能な経済とディーセント・ワークが両立する社会を目指し、世界と共に立ち向かっていくことを呼び掛ける演説を行った。

主要議題と結果:
  • 財政委員会では、2018-19年計画予算案について議論が行われた。2016-17年予算と比較して、全体では約7.8億USドル、約1.7%の減少となる計画予算案が提案され、本会議での投票の結果、賛成多数により採択された。
  • 基準適用委員会では、各国における条約の適用状況について個別審査等が行われ、24件すべてについて、政労使コンセンサスによる結論が採択された(日本案件はなし)。
  • 労働力移動(移民)に関する委員会では、労働力移動の動向とガバナンスに関する課題を検証し、移民労働者のディーセント・ワークを実現するために、労使対話の制度化、公正な採用の確保、ILOの条約やガイドラインなど既存の枠組みの見直しの是非、体系的データの整備等について、議論が行われた。審議の結果、移民労働者の保護と労働市場統合、技能認証と能力開発、公正な採用、社会的保護、信頼できるデータ収集、一時的や不法な労働力移動への対応、二国間協定や地域的政策枠組みの促進等に重点的に取り組むこと等が取りまとめられ、結論文書として採択された。
  • 第71号勧告の改正に関する委員会(基準設定)では、第二次世界大戦後の速やかな平時への移行を目指し、復員軍人等を労働市場に円滑に復帰させるための方法等を記載した第71号勧告について、紛争及び災害に起因する危機的状況に対する予防、回復等のための措置に関する勧告に改正するための議論が行われた(2回討議の第2回目)。第1回目(2016年)の議論において合意が得られず持ち越しとなっていた「難民」と、今回新たにアフリカ政府グループから提案がなされた「移民」の記載については、危機的状況下に限定する形で盛り込まれた。委員会で取りまとめられた勧告案は、本会議での投票の結果、賛成多数により採択された。
  • 労働における基本的原則と権利に係る周期的議論に関する委員会では、[1]雇用、[2]社会的保護、[3]社会対話、[4]労働における基本的原則及び権利の4つの戦略目標のうち、[4]に関するILOや加盟国の取組について議論が行われ、審議の結果、政労使三者の対話、基本8条約の批准の推進、開発協力及びキャパシティ・ビルディングの促進等に重点的に取り組むこと等が取りまとめられ、結論文書として採択された。
  • 条約の廃止に関しては、第4号(夜業(婦人)、1919年)、第15号(最低年齢(石炭夫及火夫)、1921年)、第28号(災害保護(仲仕)、1929年)、第41号(夜業(婦人)(改正)、1934年)、第60号(最低年齢(非工業的労務)(改正)、1937年)、第67号(労働時間及び休息期間(路面運送)、1939年)の6条約について議論が行われ、本会議での投票の結果、賛成多数により全て廃止・撤回(※)することが決定された。 (※)「廃止」は現在法的効力を有している条約、「撤回」は現在法的効力を有していない条約を対象とするもの。
  • また、ILO総会中の6月12日に行われた理事選挙では、労働者側理事に郷野晶子氏(日本労働組合総連合会参与)、使用者側理事に松井博志氏(日本経済団体連合会労働法制本部参事)が、それぞれ再任された。再任の任期は3年間となっている。

政府代表演説(日本語)

第106回ILO総会(2017年6月13日)橋本厚生労働副大臣 日本政府代表演説


議長、ありがとうございます。私は、日本政府を代表して発言いたします。

まずは、事務局長報告で取り上げた「気候変動下での労働:グリーン・イニシアチブ」に関する課題と取組について紹介します。

温暖化については、世界が協調して現状を上回る対策を採らなかった場合には、今世紀末には、2000年頃と比較して、2.6℃~4.8℃高くなることが予測されています。

こうした急激な気候変動は、人々の暮らしや働き方に大きく影響を与えます。

このため、より環境に優しい持続可能な生産・消費形態への移行が求められますが、その際には、労働者がこうした移行に円滑に適応できるように配慮することも必要であり、事務局長が提唱するグリーン・イニシアチブは、今日(こんにち)において大変意義ある取組と考えます。

我が国は、世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前よりも2.0℃を十分下回るように抑えること等を目的とした、パリ協定を受諾したところであり、今後も堅持してまいります。

また、我が国は、環境・エネルギー分野での技術開発や国民全体での取組を進めることにより、温室効果ガスを計画的に削減していくこととしています。さらに、我が国の優れた環境技術や経験を活かし、温室効果ガスの排出を削減しながら、この地球上の人々の暮らしを豊かにするために、2020年には約1.3兆円の気候変動対策事業を途上国において着実に実施できるよう取り組んでまいります。

気候変動の対応に加え、ディーセント・ワークの実現が重要な課題です。

日本では、少子化の進展に伴い、15歳から64歳までの生産年齢人口が1995年以降、20年以上にわたり減少を続けています。労働の現場における人手不足や労働者一人あたりの社会保障負担の増大など、経済・社会への悪影響が懸念されます。

このような、生産年齢人口の減少に伴う課題を克服し、社会の活力を高め、経済成長を達成し、より良い社会的保護を実現するため、日本は、政労使が一体となって「働き方改革」に取り組んでいます。

人手不足に対して、労働時間の増加によって対応するのではありません。働くことを希望する女性や高齢者に一層の労働参加を促し、彼らが長く働き続けられる環境を整備することで、労働力人口の減少を最小限にとどめます。

同時に、技術革新の活用や、賃上げや同一労働同一賃金の実現により、働く者のやりがいや士気を高めること、そして我が国の製造業が誇る「カイゼン」の文化をサービス業などに横展開することを通じ、労働生産性の向上に努めます。

我が国では、今年3月に「働き方改革実行計画」をとりまとめました。同一労働同一賃金や時間外労働の上限規制など、実行計画の内容にしたがって、関係審議会の審議を終え、早期に法案を国会に提出したいと考えています。

このように我が国では、ディーセント・ワークの実現に向けて、「働き方改革」を進め、社会の持続可能性を高めてまいります。

日本は他国に先駆けて少子化や長寿化が進む課題先進国です。日本の経験や制度、また失敗を世界の皆さんの課題解決に役立てていただきたいと願っています。

情報交換や意見交換を通じ、持続可能な経済とディーセント・ワークが両立する社会の実現という、困難な課題に対して果敢に立ち向かって行きましょう。

ご静聴ありがとうございました。