第123回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会議事録

1.日時

令和7年11月12日(水) 10時00分~11時36分

2.場所

厚生労働省専用第22~24会議室(※一部オンライン)
(東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館 18階)

3.出席委員

公益代表委員
  • 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 小畑 史子
  • 明治大学法学部教授 小西 康之
  • 慶應義塾大学医学部・大学院健康マネジメント研究科教授 武林 亨
  • 名古屋大学大学院法学研究科教授 中野 妙子
  • 大阪大学大学院高等司法研究科教授 水島 郁子
労働者代表委員
  • 日本基幹産業労働組合連合会中央執行委員 岩﨑 優弥
  • 日本食品関連産業労働組合総連合会副会長 白山 友美子
  • 日本化学エネルギー産業労働組合連合会副事務局長 金井 一久
  • 日本労働組合総連合会副事務局長 冨髙 裕子
  • 全国建設労働組合総連合書記次長 松尾 慎一郎
使用者代表委員
  • 三菱マテリアル(株)イノベーションセンター長 足立 美紀
  • 一般社団法人日本経済団体連合会労働法制本部統括主幹 笠井 清美
  • 東京海上ホールディングス株式会社人事部シニアマイスター 砂原 和仁
  • 日本製鉄株式会社人事労政部部長 福田 寛
  • 西松建設株式会社安全環境本部安全部担当部長 最川 隆由

4.議題

  • (1)労災保険制度の在り方について

5.議事

○小畑部会長 定刻となりましたので、ただいまから「第123回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会」を開催いたします。本日の部会は、会場及びオンラインの両方で実施いたします。本日の委員の出欠状況ですが、宮智委員、立川委員、武知委員が御欠席と伺っております。また、小西委員が途中での御退席と聞いております。出席者は現在15名ですが、公益代表、労働者代表、使用者代表、それぞれ3分の1以上の御出席がありますので定足数を満たしていることを御報告いたします。カメラ撮影等はここまでとしますので、御協力をお願いいたします。
それでは議題に入ります。本日の議題は「労災保険制度の在り方について」です。まずは、事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長 それでは、資料を御覧ください。労災保険制度の具体的課題について、これまでの部会における議論を踏まえ、引き続き議論が必要な事項をまとめています。
1ページを御覧ください。遺族(補償)等年金についてです。論点として、①遺族(補償)等年金における夫と妻の支給要件の差を解消する方法として、夫に課せられた支給要件を撤廃することについてどのように考えるか。②給付期間について、現行の長期給付を維持することについてどのように考えるか。③妻のみに認められている特別加算を廃止することについてどのように考えるか。また、その場合、遺族1人の場合の給付水準はどのようにすべきか。④石綿健康被害救済法における特別遺族年金について、夫と妻の支給要件の差を解消することについてどのように考えるか。また、その方法として、夫に課せられた支給要件を撤廃することについてどのように考えるかの4つを記載しております。
緑の枠で囲っていますが、1ページの下半分から5ページの上半分までは、これまでの部会における各委員の御意見をまとめています。また、青の枠で囲っている5ページの下半分から6ページまでは、研究会中間報告書における該当部分を記載しております。
7ページは新規の資料です。遺族(補償)等年金の支給状況についてです。上の表は、受給権者の属性別、受給資格者数別の受給権者数です。遺族(補償)等年金の受給権者数10万5,933人のうち、受給資格者が1人の場合は、9万3,583人ですが、そのうち妻の場合が8万4,996人と約9割を占めています。また、下の表は、受給権者の属性別、受給資格者数別の平均年金額です。受給資格者が1人の場合の遺族(補償)等年金の平均年金額は188万円ですが、妻の平均年額は190万円で、最も高くなっています。
続いて、8ページを御覧ください。遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額についてです。論点として、①有害業務に従事した最終の事業場を退職した後、別の事業場で有害業務以外の業務に就業中に発症した場合における給付基礎日額の算定に当たって、疾病の発症時の賃金を原則として用いる場合、発症時賃金が疾病発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場を離職した日以前3か月間の賃金より低くなる場合には、ばく露時賃金を用いることについてどのように考えるか。②有害業務に従事した最終の事業場を退職した後、就業していない期間に発症した場合における給付基礎日額の算定に当たっては、現行の取扱いを維持しつつ、引き続き専門的な見地から検討を行うことについてどのように考えるのかの2つを記載しております。
8ページの下半分から9ページの上半分までは、これまでの部会における各委員の御意見を、9ページの下半分は、研究会中間報告書における該当部分を記載しております。
今回提示している論点2については、9ページにある労働者代表委員の意見として、退職後の発症の取扱いについて、詳細な検討が必要という意見があった点、それから研究会中間報告書において、本ケース(論点②の場合)については、労災保険法が想定していないケースとも考えられるという少数意見もあったが、当面は現状を維持することが適当と考える。一方、今後、各種給付の制度趣旨を検討することと併せ、本ケースにおける給付の在り方について再度検証することが望ましいといった結論も踏まえた上での論点としております。
10ページも新規の資料ですが、労働基準法における平均賃金の推算についてです。平均賃金の計算方法は、労働基準法第12条第1項から第6項に規定されているところ、この計算方法によって算定し得ない場合は、同条第8項により、厚生労働大臣の定めるところにより算定されます。本項に該当するものとしては、同法施行規則第3条により、試用期間中の平均賃金に関する算定方法が示されているほか、同第4条及び昭和24年労働省告示第5号により、都道府県労働局長又は厚生労働省労働基準局長にその決定が委任されております。
この規定に基づいて厚生労働省労働基準局長の通達が複数発出されていますが、賃金の総額が不明な場合における推算方法を定めた通達(昭和29年1月15日付け)では、賃金額について明確な定がなされていないか、又はなされていても雇入れ後の期間が短いために、実際に受けるべき賃金額が明らかでない場合の平均賃金の計算方法として、平均賃金を算定すべき事由の発生した日又はその日の属する賃金算定期間若しくは、なるべく賃金算定期間において当該事業所で同一業務に従事した労働者の1人平均の賃金額により推算するということが示されております。
続いて、11ページを御覧ください。メリット制についてです。論点として、①メリット制には一定の災害防止効果があり、また、事業主の負担の公平性の観点からも一定の意義が認められることから、メリット制を存続させ適切に運用することについてどのように考えるか。また、継続的にその効果等の検証を行うことについてどのように考えるか。②メリット制が、労災かくし及び労災保険給付を受給した労働者等に対する事業主による報復行為や不利益取扱いにつながるといった懸念についてどのように対応すべきかの2つを記載しております。11ページの下半分から12ページまでは、これまでの部会における各委員の御意見を、13ページは研究会中間報告書における該当部分を記載しております。
14~16ページは新規の資料ですが、諸外国の労災保険制度についてまとめています。出典は注に記載していますが、2020年の独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査研究結果となります。14ページでは、保険運営主体、財源、強制的保険対象者、保険料負担者について、それぞれまとめています。
15ページでは、保険料算定式をまとめています。ドイツでは、保険対象者の労働賃金に、保険リスクが高い業種ほど高い危険等級となる危険等級と賦課率を乗じて算定されます。フランスでも、保険対象者の賃金総額に保険料率を乗じることで算定されます。保険料率は、基本的な保険料率である粗率等が使われます。この粗率は、常時使用する労働者が150名以上の企業の場合、事業所ごとに決定する個別方式が採られており、過去3年以内に当該事業所で発生した労働災害に対する保険給付額に基づいて算定されます。アメリカでは、多くの民間保険会社は賃金総額に保険料率を乗じるという算定方式を採用しています。
16ページに、メリット制についてまとめていますが、ドイツ、フランス、アメリカではメリット制が採用されています。具体的に、ドイツは、運営主体は保険事故の数、重大性、生じた支出に応じて割増金を課し、あるいは保険料の減額を行わなければならないこととされています。フランスでも、個別方式や混合方式が適用される企業の保険料率は、過去3年間における事業所での災害の発生状況により増減します。アメリカでも、一定規模以上の使用者の保険料率については、過去3年間の保険事故の数、支払われた保険給付額などが採用されることが多くなっております。
続いて、17ページを御覧ください。労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題です。論点として、①事業主に早期の災害防止努力を促す等の観点から、労災保険給付の支給決定(不支給決定)の事実を、同一事故に対する給付種別ごとの初回の支給決定(不支給決定)に限り、事業主に対して情報提供できるようにすることについてどのように考えるか。
②その際、提供される情報は、現行において被災労働者等に対して通知されている項目のうち、支給決定金額、算定基礎、減額理由等を除いた項目、すなわち支給(不支給)決定の有無、処分決定年月日、処分者名、給付種別の処分名及び被災労働者名とすることについてどのように考えるか。また、これらの情報は、原則として、当該事故に係る災害防止措置を講ずべきと考えられる事業主に対してのみ提供されることについてどのように考えるか。
③労災保険率決定に係る事業主の納得度を高める観点から、メリット制の適用を受ける事業主に対して、労災保険率の算定の基礎となった労災保険給付に関する情報を提供することについてどのように考えるか。
④その際、提供される情報は、当該事業場のメリット制に反映された保険給付に係る当該メリット算入期間における保険給付、特別支給金及び特別遺族給付金の合計金額とすることについてどのように考えるかという、4つを記載しています。
17ページの下半分から21ページの上半分までは、これまでの部会における各委員の御意見を、21ページの下半分には、研究会中間報告書における該当部分を記載しております。
22~24ページは新規の資料ですが、請求人に通知される内容です。22ページは、休業(補償)等給付の支給決定通知書です。処分年月日や処分者名など資料記載の①~⑦の情報が通知されます。23ページは、年金に関する支給決定通知書です。こちらも、資料記載の①~⑦の情報が通知されます。24ページは不支給決定通知書です。支給決定通知では記載されていた事項のうち、給付額に係る項目を除いた資料記載の①~⑤の情報が通知される取扱いとなっております。事務局からの説明は以上です。
○小畑部会長 どうもありがとうございました。それでは、各テーマについて議論を進めたいと思います。多岐にわたるテーマがあるため、遺族(補償)等年金、遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額、メリット制、労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題の4つに区切りたいと思います。まずは、遺族(補償)等年金につきまして、資料1ページにある論点に沿いまして御意見をお伺いできればと思います。
御意見、御質問等がございましたら、会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから御参加の委員におかれましてはチャットのメッセージから「発言希望」と入力いただくか、挙手ボタンで御連絡をお願いいたします。それでは、御質問、御意見などをよろしくお願いいたします。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 私からは、論点①~③について発言いたします。まずは、論点①と②です。これまでも申し上げましたように、今回、遺族(補償)等年金制度の趣旨・目的に関する議論を経ないまま夫に課せられた支給要件を撤廃する、あるいは現行の長期給付を維持するという結論を導くことには違和感があります。公益代表委員である水島先生のご意見が3ページにございますように、制度創設時と比べて男女の働き方や家族の在り方の変化が生じていますから、こうした変化を踏まえて、改めて遺族(補償)等年金制度の役割や適切な給付を議論する必要があります。その議論を経た上で、これらの論点に対する結論を出すべきではないかと考えます。
次に、論点③です。特別加算制度については、制度創設時である1970年(昭和45年)当時の考え方が、現代では妥当しないというのが研究会の一致した結論です。合理性の失われた制度ですから、廃止が妥当であると改めて申し上げます。その上で、論点の後半部分である遺族一人の場合の給付水準については、特別加算の廃止の議論とどのように関係するのか、十分に理解しがたいところです。女性の就労機会の増加に加え、高齢者や障害者の雇用も進む中で、高齢や障害の状態にある寡婦は、就労の機会の確保が困難の度合いを高めるという状況が妥当しないため制度を廃止するという話と、受給資格者が1人の場合の年金額の評価の話とは別の議論ではないでしょうか。仮に議論するにしても、7ページにお示しいただいた受給資格者が1人の場合の平均年金額が188万円という給付水準について、高いのか、低いのかを判断する趣旨や根拠が乏しいのではないかと考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかはいかがですか。白山委員、お願いいたします。
○白山委員 私からは主に論点①について意見を述べさせていただきたいと思います。この論点につきましては、これまでの部会も含めて繰り返し発言させていただいておりますが、労働側としては、夫に設けられている要件を撤廃すべきと考えております。今も御発言がありましたように、使用者側委員からは、夫の要件に寄せることも排除すべきではないという意見もありますが、この点には遺族(補償)等年金をどう捉えるかということにも直結いたしますし、仮に夫の要件に寄せるとなると影響はとても大きいと考えています。共働き世帯の増加など、家族形態や就業形態の多様化も踏まえて、制度自体を考えることの必要性自体は否定しませんが、現行の遺族(補償)等年金の運用で言えば、生計維持要件は緩やかに認定されて支給が行われております。要は、家族としてお金を出し合って生活していたにもかかわらず、労災事故によってその利益が失われた損失、これを遺族(補償)等年金として補填しているものと理解しています。そういったことからすれば、支給要件を年齢で区切ること自体がなじまず、それは家族形態や就労形態が変化しようが、変わらないというようにも考えられます。したがって、夫婦の支給要件の差の解消というのは、やはり夫婦ともに年齢要件を設けない形で統一すべきと考えております。
加えまして、論点④として挙げられております石綿健康被害救済法における特別遺族年金も含めて、夫に課せられた支給要件を撤廃する形で夫婦間格差を解消していくことが適当と考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかにいかがですか。福田委員、お願いいたします。
○福田委員 私からは論点①と④、妻の支給要件の差の解消をするということ、あるいは、その方法として、夫に課せられた支給要件を撤廃することに関してです。前段の支給要件の差を解消するということにつきましては、今の社会状況を踏まえますと、男女間に理由のない差を設けるということについて廃することは当然のことと考えるところであります。
それはそうなのですけれども、一方で、その方法として、夫に課せられた支給要件を撤廃することについてどう考えるかという点につきましては、正にその考え方をしっかり整理していくことが大事なのだろうと考えるところであります。これまでも申し上げておりましたけれども、単に夫の要件を外すほうが支給額が増えるので、納得感も、理解も得やすいのではないかというようなことだけで決めるということではないと思いますし、仮にもこれまで国の制度として運用してきた考え方を、そもそも違っていたというかのような形で転換していくのかどうか。そういうことも含めて整理していくことが重要ではないかと思います。特に、これまで自活能力があるとされてきた夫について、それを自活能力がないとされてきた妻側に合わせるということについては、そういう転換をなぜ行うのかということについて、しっかり議論し整理していくことが必要なのではないかと考えます。
併せて、論点③につきましては、先ほど笠井委員からの意見にもありましたとおり、ここにきて、急に給付水準の話というのが論点に挙がってくることについては唐突感というか、違和感を禁じ得ないところであります。事前の研究会での議論内容も含めてどのようなことで、どのような観点からこの論点を論じるべきなのかといったことも含めてしっかりお示しいただいた上で議論するべきではないかと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 私も論点①について発言します。現行の受給権者は、妻が約9割ということですが、これは現行法上、ある意味、妻が優遇され、相対的に夫が不利な立場に置かれていることを意味すると考えます。夫が、妻と同一順位の扱いになるのは、60歳以上又は一定障害の場合に限られ、55歳以上60歳未満の場合は、父母や孫、祖父母より後の順位となり得ることは是正すべきと考えます。私も妻と夫の受給要件を合わせるべきと考えますが、現行規定で妻が優遇された事情、つまり、当時、大半の女性が結婚、出産により労働市場から退出し、再び働くとしても、パートタイムなどの低賃金労働の職に就くしかなかったという状況を認識すべきと考えます。
妻が、いわば、優遇されている理由を考慮することなく、単に現行規定の妻の受給要件に夫の受給要件を合わせるというのであれば、私は賛同しかねます。ただ、労働者側委員からも御指摘がありましたが、私も単に夫に合わせればよいとは考えておりません。論点②で示された長期給付の維持の見直しも1つの考え方ですが、生計維持要件の見直しの可能性もあると考えております。未成年の子がいる世帯のように、ニーズの高い者に確実に、優先的に適切に給付されるという制度設計が必要と考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。金井委員、お願いいたします。
○金井委員 論点②と③について発言させていただきます。まず、論点②については、前回の部会で公益委員の中野先生からもお尋ねがあったと聞いておりますが、労働側としましては、現行の長期給付を維持すべきと考えております。仮に、有休給付化を考えるとなると、それは遺族(補償)等年金そのものをどう捉えるかということに直結し、短期間に結論が出るものではありません。また、研究会でも指摘されているように、夫婦間で考えれば、被災労働者が亡くなったことによって、夫婦の共同生活で得られていたはずの利益が失われたという損害は、何年経過したから無くなるとか、損害が回復するというものではなく、損害が生じている間は長期に給付を行うことは自然であると考えられます。さらに、単純な有期給付化は、遺族の補償水準の低下にもつながります。こうしたことからすれば、少なくとも、現時点において短期給付の方向性を議論したり、打ち出したりすることは適切ではなく、長期給付の維持が適当であると考えております。
次に、論点③の特別加算についてです。この点については高齢の妻という身分に着目した特別加算を見直して、妻以外も含めて給付日数を広く拡充する方向で検討すべきであると考えます。そもそも遺族の生活の安定という加算の目的を踏まえれば、55歳以上や、一定の障害状態にある妻にのみ日数を増やすという合理性は乏しく、遺族が夫や子供の場合も含めて遺族一人の場合の給付日数の「153日」自体を等しく底上げしていくべきで、現在の特別加算後の日数である「175日」を、妻以外の遺族についても補償することが適当であると考えております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかはいかがですか。冨髙委員、お願いいたします。
○冨髙委員 資料3ページの使用者側の意見で、遺族(補償)等年金を考える上では財源の考慮もしていく必要があるのではないかという意見が記載されておりますので、その点について意見を申し上げたいと思います。労災保険制度の安定的な財政運営は当然必要であると考えているところですが、だからといって、支給要件の夫婦間格差をそのまま残すことや、短期給付化も含めた給付水準の切り下げを行うとなると、遺族(補償)等年金の「被扶養利益の損失の填補」という目的だけではなく、被災労働者や遺族の迅速かつ公平な保護という労災保険制度そのものの目的も果たし得なくなることも懸念され、それは本末転倒ではないかと思っております。本日も含めて以前から、遺族(補償)等年金の考え方は変えるべきではないという意見が使用者側委員から何回かありましたけれども、むしろ遺族(補償)等年金の持つ目的は変わっていないということを考えれば、まずは目的をしっかり押えた上で、その目的を実現するための財政はどうあるべきかという視点での検討が必要だと思っております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかはいかがですか。小西委員、お願いいたします。
○小西委員 私からは論点③について若干、考えを述べさせていただきます。遺族一人の場合、配偶者や子供といった遺族の属性だけではなくて、就労の可否や賃金水準とか、財産などによって様々な状況があり得るところかと思います。その上で、女性の就業率が上昇していることとか、あとは男女間の賃金格差が縮小していることなど、社会経済状況の変化ということも踏まえていきますと、高齢であるとか、障害の妻といった特定の属性を取り出して特別に給付水準に差を付けるという理由は見当たらないのではないかと考えているところです。
給付水準については、遺族の数に応じてバランスの取れた給付水準にするという考え方もあるのかなと思っております。遺族一人、二人、三人、そして四人以上のそれぞれの給付水準というのが同程度の差になるような形で遺族一人については、175日分とすることが適当ではないかと考えているところです。
併せて、支給内容等については、前回も少しお話しましたけれども、遺族(補償)等年金については、その制度趣旨に従って不断の検討ということが引き続き必要になってくるのではないかと思っております。私からは以上でございます。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかはいかがですか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 冨髙委員から保険財政について御指摘がございました。制度の目的に沿って財源・財政の在り方を検討していくことの必要性については理解できるところです。正に、遺族(補償)等年金の目的がどのようなものかについて、きちんとした議論が必要ですし、その目的に沿って給付していくことが財政の健全性にどの程度影響するのかについても議論が必要ではないかと思います。制度の目的については、専門的見地から議論を行うべきという研究会の結論がございますので、改めて申し上げます。
金井委員から長期給付の維持について御指摘がございました。以前も発言しましたとおり、労災保険制度を取り巻く環境は変化しております。労災保険と同じく、社会保障制度を構成する遺族厚生年金においては、御案内のとおり60歳未満の死別に際して、原則5年間の有期給付とする制度の大幅な見直しが行われております。こうした動きも参考にして、遺族(補償)等年金における長期給付の妥当性を検討すべき時期にきていることを改めて申し上げます。この点、水島委員から長期給付の在り方について検討の余地があるという趣旨の御発言があったことに賛同いたします。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。特にないようでしたら、続きまして、遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額について議論してまいりたいと思います。資料の8ページ目にある論点に沿いまして御意見をお伺いできればと思います。いかがでしょうか。冨髙委員、お願いいたします。
○冨髙委員 ありがとうございます。論点①と②、それぞれについて意見を申し上げたいと思います。
まず、論点①ですが、事務局提案にございますように、発症時賃金を原則として、例外的に発症時賃金がばく露時賃金よりも低くなる場合には、ばく露時賃金を用いることが適切だと考えています。この点につきまして、使用者側から、発症時の生活保障という趣旨を踏まえると、発症時賃金がばく露時賃金より低い場合に、遡ってばく露時賃金を用いることは疑問であり、考え方を整理すべきという意見があります。しかし、考え方の一貫性という意味で言えば、原則は発症時賃金、例外としてばく露時賃金より発症時賃金が低い場合のみばく露時賃金を用いるという形で明確に整理するのであれば、考え方としては一定の整理ができるのではないかと考えています。
その上で論点②です。発症時無職であったときの給付基礎日額の考え方については、「現行の取扱いを維持しつつ、引き続き、専門的見地から検討」とされています。つまり、ばく露時賃金を用いるという結論だと思いますが、この提案には賛同できません。今までも指摘させていただいたところですが、発症時に何らかの理由でたまたま失業している場合であっても、発症した瞬間が無職だからというだけの理由で何十年も前の賃金で労災保険給付を算出することが、不幸にして労災に遭った労働者の生活保障の観点で本当に十分なのかというと、それは違うのではないかと思っています。
今回、10ページの所に平均賃金の推認についても資料をお示しいただきましたが、こういった計算例も参考に、発症時無職の場合であっても発症時の賃金額を何らかの形で推認することも考えられるのではないかと考えています。その方法として、例えば発症時に最終ばく露事業場で働いていたとみなして、その賃金を各種統計で推認をしていく方法もあるかと思いますし、無職になる直前に働いていた事業場の賃金を用いて計算する方法も考え得るのではないかと思います。いずれにしましても、現行の取扱いの維持という結論を安易に出すということではなく、ほかの方法も含めて、より詳細に検討していただきたいと考えますので、意見として申し上げておきます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。松尾委員、お願いいたします。
○松尾委員 今、冨髙委員から発言があったとおり、我々、遅発性の関係で建設業のアスベストの関係というのは、ばく露してから発症までの期間は、人それぞれだと認識していますし、前回の部会でも、通常は30~40年と言われていますけれども、10年ぐらいでばく露するケースもありますし様々です。しかも、このアスベストの疾患というのは今後も発症するおそれがある建材がまだ使われています。建材というか、既にないんだけれども既存の住宅等にあるわけで、それを解体したときにアスベストの被害が起こることになります。そういった意味で、国も防止策を展開していますが、そうは言っても疾患する可能性もあることは間違いないと思っています。
そういう中で、そういう疾病に遭った方を保障する際の関係で言いますと、発症するまでに期間があるということは、どうしても賃金の算定ができないときがあります。そういう方の救済という意味では。先ほど冨髙委員がおっしゃったようなことは必要だと思っていますし、実際にアスベストで亡くなられた方も含めて、本当に安全対策も含めて当時は使ってもいい建材だったものが、本来、使ってはいけないものの中で従事していた方をきちんと救済するためにも必要だと感じていますので、是非、よろしくお願いいたします。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。福田委員、お願いいたします。
○福田委員 私のほうから、論点①についてです。先ほど申し上げた意見と同じような趣旨ではあるのですけれども、給付基礎日額の算定に当たって発症時賃金を原則として用いる場合、発症時賃金がばく露時賃金より低くなる場合には、ばく露時賃金を用いることに関して、先ほど冨髙委員からの指摘もありましたけれども、どういうように、この労災給付の役割を位置付けて、その下で、どういう考え方で、こういう用い方をしていくのかということをしっかり整理することが大事だと考えていることを重ねて申し上げたいと思います。この方向性に反対だということでなく、きちんと整理をしていくことが必要だというところです。
ただ、本件につきましては、事前の御説明の際に背景等々を御教示いただきまして、私の認識不足による誤解もあったところだと思っていますので、事務局のほうには、私のような者が見ても誤解を招かないようにと言いますか、可能であれば記載の仕方も含めて工夫、御配慮いただけたらと、これは要望として申し上げたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。松尾委員、お願いいたします。
○松尾委員 論点に対する意見ではないのですが、アスベスト疾患で亡くなった方、いわゆる被災された方の実情について、是非、委員の方には御理解を頂きたいと思っています。私の仲間も何人も亡くなりました。元気だったころから何十年も経って亡くなった方がいました。当時知らされない中で従事していいました。そういう方が、実際に発症があって肺機能が低下して年々悪くなるわけです。家族の介護も含めて、非常にストレスが溜まる。家族の支えなくして生きていけない状態です。そういう方々の補償を十分にするというのは国の責任ではないかと思っています。是非、皆さんの御理解を頂きたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかに御意見、特にないようでしたら、続きましてメリット制について議論してまいりたいと思います。資料の11ページ目にある論点に沿いまして御意見をお伺いできればと思います。御意見、いかがでしょうか。岩﨑委員、お願いいたします。
○岩﨑委員 ありがとうございます。私からは、論点①②を合わせて意見を述べさせていただきます。まずメリット制につきましては、前回部会も含めて労働側から繰り返し発言をしているところですが、少なくとも現時点で、「メリット制は効果があるので未来永劫存続」との結論を導くことは、時期尚早であると考えています。また、これも何回も指摘しているところですが、研究会ではメリット制に関して一定の検証が行われており、それ自体につきましては一歩前進していると考えますが、決して十分とは言えません。
また、研究会で検証が行われたのは、災害防止効果があるかないかということと、労災かくしにつながっていないかというものでもあって、論点②の後半に記載されているメリット制によって保険料が上がった事業主が、被災労働者に対して報復行為や不利益取扱いを行うことの懸念についての検証はなされていません。私たち労働側が現場から聞く中では、労災申請をした労働者を不当に配転したりするだけでなく、申請協力者に対しても労使の力関係の差を利用して会社の意に沿う陳述をさせることもあると聞いています。こうした点も含めて実態把握をした上で適切に検証し、制度のあり方を検討していく必要があると考えるところです。
その上で、1点、質問をさせていただきます。スライドの14ページ目以降で諸外国でもメリット制が採用されていることをお示しいただいていますが、この内容を見たところ、制度はあるものの、その効果や課題については特に言及されていないところです。この点、諸外国でメリット制の災害防止効果や労災かくしにつながっていないか。それも含めた制度上の課題について検証されているのかということについて、お聞かせいただきたいと考えています。以上です。
○小畑部会長 それでは、御質問ですので事務局から御回答をお願いいたします。
○労災管理課長 質問、ありがとうございます。御質問いただいた件ですが、先ほど説明の際にも申し上げましたとおり、今回の資料の出典は独立行政法人がまとめました研究結果です。同研究結果におきましては各国の労災保険制度についての記載はあるところですが、災害防止に対する効果についての記載はないところです。
○小畑部会長 岩﨑委員、いかがでしょうか。
○岩﨑委員 ありがとうございます。メリット制を検討する素材とするためにも、諸外国における制度の有無だけではなく、その効果や課題、もし課題があるとすれば、どのようにクリアしているのかも含めて可能な限り、調査・分析もしていただきたいと考えるところです。ありがとうございます。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。福田委員、お願いいたします。
○福田委員 ありがとうございます。私から論点①②についてそれぞれ発言させていただきます。まず論点①についてですが、企業として、メリット制があるので、それによって保険料負担を減らすために災害防止対策を行っているのかどうかと。こういうことに関しましては事業主によっていろいろな考え方があろうかと思いますけれども、仮にも保険という形をとっている制度である以上、給付の原因を引き起こした企業とそうではない企業との間に何らかの料率の負担差を設けるのは、むしろ当然の話ではないかと思います。したがって、欧米の諸外国においても、このような形が取られているのではないかと思うところです。
次に、論点②についてですが、今、申し上げましたように、そもそも保険である以上、料率に差があってしかるべきという理を超えてまで、企業が労災かくしを行うのではないかというリスクを排除すべきなのかどうかにつきましては、そういうリスクが存在するという明確な理由なり、データなり、それが存在しない限りは安易に入れるべきでないと考えるところです。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。砂原委員、お願いいたします。
○砂原委員 ありがとうございます。メリット制の所の①の論点についてですが、メリット制は、私も残すべきだと思っています。単純に事故を起こすと保険料も上がってしまうという心理的抑止効力もあるはずですし、現実に、諸外国でも、メリット制が導入されているという事実は、そういう効果を少なくとも類推できることも含めて考えてのものだと認識しますので、メリット制というのは、より安全な労働環境を作っていくためにも必要なものではないかと考える次第です。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。最川委員、お願いいいたします。
○最川委員 今、砂原委員がおっしゃったとおりだと思います。民間保険の自動車保険なども事故を起こさなければ料率が安くなるのは当たり前のことだと思いますし、論点②のメリット制の有無が原因で労災かくしをすることは、研究会の報告でも認められないと出ています。私の経験でも、メリット制のある、なしで労災かくしをする、しないというのはないと思っていますので、これについてはメリット制は存続すべきと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 ただいま使用者側の福田委員、砂原委員、最川委員から御指摘いただいたとおりですが、私からも論点①②につきまして総合的に申し上げます。まず論点①ですが、これまでも申し上げたとおり、研究会で示された検証結果は、事業主の負担の公平性を図るとともに、事業主の自主的な災害防止努力を促進するというメリット制の役割、目的について、一定程度効果を裏付けるものと認識しています。効果検証を継続することに反対はいたしませんが、研究会の一致した結論に伴い、制度を存続させて適切に運用すべきであると考えます。メリット制自体の根源的な検討が必要な段階にはないと考えます。
次に、論点②です。メリット制の存在により、労災かくしや被災労働者等に対する事業主からの報復行為や不利益取扱いにつながるという懸念があるとのことで、先ほど労働者側委員から御紹介がございましたが、そのような懸念が果たして妥当なものなのかをデータで示していただく必要があると考えます。少なくとも労災かくしを助長するという懸念を裏付ける調査結果は見当たりません。被災労働者等に対する報復行為や不利益取扱いにつながるという懸念について対応策を議論するのであれば、被災労働者等に対して具体的にどのような行為があるのか。その原因は何かをまず把握する必要があると考えます。研究会としても、示された懸念についてメリット制の意義を損なうほどの影響を確認できていないと結論付けており、それ以上の対応に関する言及はございません。仮に、労働者に対して不利益取扱いがあったとしても、その行為とメリット制との因果関係が把握されていない以上、現時点においてメリット制の部分で対応について論点として扱うこと自体に違和感があり、今回、何らかの結論を導くことは時期尚早であると考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。冨髙委員、お願いいたします。
○冨髙委員 先ほど、岩﨑委員が発言されたとおりですが、実際にメリット制によって保険料が上がった事業主が、被災労働者に対して報復行為とか不利益取扱いを行うということについては、確かに明示的なデータ等はありませんが、我々が現場から聞く中では、労使の力関係の差を利用した対応があることは聞いているところです。是非、そうしたことの調査や、先ほど岩﨑委員からお願いさせていただいた諸外国の状況、課題をどのように解決しているのかといったことは、国としても把握をしていくべきだということを申し上げておきたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかはありますか。よろしいでしょうか。特にないようでしたら、続いて、労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題について議論してまいります。資料の17ページにある論点に沿って、御意見をお伺いできればと思います。いかがでしょうか。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 論点①と③について質問があります。まず、論点①については、3点の確認的な質問があります。第1点は、初回の支給決定(不支給決定)に限るということについて、研究会では特にこの点を議論していなかったと思いますので、なぜ初回に限るのかを御説明いただけると有り難く存じます。
2点目は、労働者が当初、療養(補償)等給付を受け、少し期間がたってから症状が悪化して休業補償給付を受け、更に相当の期間が経過して障害補償給付や遺族補償給付を支給する状況に至るというケースが考えられます。このようなケースでは、各給付について、その都度、支給決定の情報が提供されるという理解でよろしいでしょうか。
3点目は、現在、労働者には療養(補償)等給付の支給決定通知はなされていないと理解しておりますが、事業主には療養(補償)等給付についても、支給決定の情報提供はなされるという理解でよろしいでしょうか。
続いて、論点③についてです。「事業主の納得度を高める観点から」とありますが、私の理解では、ここに相当する研究会報告書の抜粋は資料の21ページで、そこには「手続保障の観点から」とあります。公益委員の立場からしますと、手続保障の観点のほうが理解しやすいのですが、事業主の納得度とされたことについて、お聞きしたいと思います。これは事務局にお聞きするのか、あるいは使用者委員に伺ったほうがよいのかもしれませんが。よろしくお願いいたします。
○小畑部会長 ありがとうございます。御質問ですので、事務局からお答えをお願いいたします。
○労災管理課長 質問ありがとうございます。まず論点①のほうですが、初回だけに限る理由ということですが、今回、情報提供をさせていただくのは災害防止のためということがメインですので、初回だけで災害防止に取り組むということであれば、その初回のみの情報で足りると考えていることから、初回のみとさせていただいております。
それから、2つ目の療養、休業、障害と移行していった際の情報提供の頻度、回数についての御質問でしたが、これは療養の初回で1回、休業に移行すると休業で1回、障害に移行したら障害で1回ということで、その都度、情報提供させていただきたいと考えております。
療養通知については、現在指定労災病院等で療養給付、現物給付をした場合については、支給決定の通知はなされていません。一方で、不支給の場合は、労働者に通知はされているところです。今回の事業主への情報提供について、本人には通知されていない通知について、事業主には情報提供をさせていただくということを考えております。
続いて、論点③についてです。納得度を高める観点に関する質問がありました。手続保障という観点で申し上げれば、1番目の論点で通知させていただく情報で、手続保障に関する情報は一定程度提供させていただいているのかと認識をしております。また一方で、保険料を納付いただくということで、メリット制の反映をした保険給付額がどれぐらいになるのかという情報については、保険料負担としていただいている観点から納得度を高めていただくという観点で、今回示している情報提供項目について提供させていただければと考えています。御質問に対する回答は以上です。
○小畑部会長 水島委員、いかがでしょうか。
○水島委員 ありがとうございました。御回答いただき、よく理解できました。論点①の3点目について、今の回答の中でも被災労働者本人に通知されていない内容を事業主に通知するという趣旨の御発言がありましたが、そのことについて、私もすぐには判断し兼ねますが、少し慎重になったほうがよいと思いました。事業主に療養(補償)等給付について通知しないほうがいいという趣旨ではなく、むしろ被災労働者本人にも、事業主への通知と同じタイミングで通知すべきではないかという趣旨の意見です。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。続いて中野委員、お願いいたします。
○中野委員 私は、論点③と④について発言したく思います。御承知のように、この問題をめぐるこれまでの経緯としては、まず、事業主に保険給付支給決定に対する取消訴訟の原告適格を認める下級審判決が出されるようになったことを受けて、労災保険給付を受ける労働者や遺族の法的地位の安定性の確保と、メリット制による労災保険料の増額に不服を持つ事業主に対する手続的保障の両立を図り、ひいてはメリット制を含めた労災保険制度の運営の安定を確保する必要が生じたことがあります。
令和4年12月の労働保険徴収法第12条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会報告書を踏まえて、令和5年1月の通知により、メリット制の適用を受ける事業主が保険料認定処分の不服を争う訴訟等において、もととなった労災支給処分の支給要件非該当性を主張することが認められるように、行政実務が変更されました。令和6年7月のあんしん財団事件の最高裁判決は、このような実務の対応も踏まえた上で、事業主に保険給付支給決定に対する取消訴訟の原告適格を認めなくても、保険料認定処分に対する訴訟等の中で、客観的に支給要件を満たさない労災保険給付の額が基礎とされたことにより、労働保険料が増額されたことを主張することができるから、事業主に対する手続的保障に欠けることはないということも理由の1つとして、保険給付支給決定についての事業主の原告適格を認めないという結論を導きました。
私見としては、最高裁判決の趣旨に即して事業主に対する手続的保障が図られていると言えるためには、メリット制を適用される流れの中で、事業主に対し、保険料認定処分の基礎となった労災保険給付を特定できる程度の情報が提供されることが必要だと考えます。この点、労災保険制度の在り方に関する研究会においても、労働者や遺族に与える心理的負担や病歴などの機微な情報の取扱いについて慎重論がありつつも、事業主に対する手続的保障の観点から情報提供が必要であるという意見が大勢を占めたのは、資料にも報告書の抜粋が掲載されているとおりです。
今回の資料で示された論点では、まず論点③の文言上、事業主の手続的保障という観点が抜け落ち、保険料負担者である事業主の納得度に趣旨が置き換えられています。これは、情報提供の趣旨・目的を完全に変更するものでありますし、事業主の納得度という理由付けでは情報提供を正当化するには、むしろ不十分であると考えます。
また、論点④の情報提供の内容についても、労働者個人が特定されないようにという配慮なのだと推察いたしますが、メリット算入期間の保険給付等の合計金額とされており、このような情報から、事業主が保険料認定処分の基礎となった労災保険給付を特定することができるのか、疑問に思われます。
事務局においては、今の水島委員とのやり取りの中にも出てまいりましたが、論点①②で提案されている保険給付の支給決定に係る情報提供と併せて考えれば、例えば3年前に情報提供を受けた保険給付支給決定が今年の保険料増額の根拠になっているということが事業主にも分かるから、保険料認定処分に対する取消訴訟等で処分の違法の主張をするのに足りるというお考えなのかもしれませんが、全ての事業主が①②で得た情報と、③④で得た情報等を結び付けられるほどメリット制に対して十分な知識や理解を有しているとは限らないと思われますし、事業主の知識や理解の程度に依拠することが適切であるのか、疑問に思います。
もちろん、研究会報告書が部会の議論を拘束するものではありませんし、労働者代表の委員の方たちが示されている懸念についても十分に理解できるところではありますが、今回提案された情報提供の内容で最高裁判決の趣旨に即した手続的保障が図れるのかは、疑問に思うところです。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。事務局から、お答えをお願いいたします。
○労災管理課長 委員から御指摘いただいたように、研究会の報告書の記載については21ページにあるとおりです。支給決定(不支給決定)の事実を事業主に伝えることについては、早期に災害防止に取り組む上で必要な情報であるということから、やるべきだということですが、その際、被災労働者の個人情報の取扱いに留意しつつ検討する必要があるとされていると承知しています。また、メリット制の適用を受ける事業主に対する労災保険率の算定の基礎となった労災保険給付に関する情報についても、取消訴訟等において労災保険率の決定の基礎とされた労災保険給付の支給要件非該当性を主張するといった手続保障の観点から事業主に対して提供されると。事業主が自ら負担する保険料がなぜ増減したのかが分かる情報を知り得る仕組みを設けられることが適当とされましたが、その際、提供する情報の範囲については、保険給付に関する情報には被災労働者に係る機微な情報を含み得ることに留意しつつあるとしつつ検討する必要があることとされたと承知しています。
このような在り方研究会の結論を踏まえ、これまで労使各委員の皆様方の御意見を踏まえ、今回の論点とさせていただいているということです。先ほど、手続保障の観点で足りないのではないかということでしたが、先ほどお答えしたように、支給(不支給の決定)の所で通知することにより、一定の支給要件非該当性を主張するに当たって参考としていただける情報は提供させていただいていると考えております。
○小畑部会長 中野委員、いかがでしょうか。
○中野委員 結構です。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 ただいまの水島委員、中野委員、それから事務局のお答えに関連する点も含めて、私から論点①~④についてまとめて発言いたします。基本的な考え方として、労働災害の防止に向けては、事業場の労使が一体となって取り組むことが不可欠です。労働災害が発生した場合には、事業主は労災保険の給付請求手続に協力しますし、再発防止対策にも取り組みます。保険給付で賄えない部分を補償する責任も負います。そもそも労働基準法の災害補償責任を基礎として、労災保険の保険料を全額負担してもいます。事業主の果たすこのような役割を踏まえると、請求人と同じ情報を得られないという議論の方向性になること自体、違和感を覚えるところです。
基本的な考え方として、労災保険の支給決定に関する全ての情報を事業主に提供することを出発点として、どうしても不都合がある項目について例外的に提供しないとすることが適切であると思います。その際、どのような理由で提供すべきでないのか、現行の個人情報保護法制の扱いを所与のものとはせず、労災保険給付の特性に照らした検討が必要ではないでしょうか。例えば、労働安全衛生法に基づき、労働者の受診した健康診断の結果は要配慮個人情報に該当しますが、法令に基づく場合として、事業主は労働者の同意なく当該結果を収集して就業上の措置を決定・実施します。労災保険の給付に関する情報についても、個人情報保護法上に例外規定を設けることで、事業主がその情報を活用して災害防止対策に役立てたり、手続保障の確保を図ることが可能ではないかと考えます。
さらに、先ほどもやり取りがありましたが、論点の立て方に問題があると考えます。労災保険部会にも参加されている有識者の先生を含め、おおむねではなく、完全に一致して出された研究会中間報告書の結論に沿っていないと考えるためです。
まず論点①では、情報提供の機会について、支給(不支給決定)の事実の提供について、同一事故に対する給付種別ごとの初回の決定に限るとしています。中間報告書の結論では、支給(不支給決定)の事実について情報提供することが適当と明記しており、先ほども御指摘がありましたように、限定を設けておりません。それ以上に問題であるのは、論点の中に使用者代表委員が重視する手続保障の観点という表現が全く登場しないことです。先ほど中野委員から詳細な御説明を頂きましたとおり、あんしん財団事件の最高裁判決において、労災保険給付の支給決定処分の原告適格を否定したとしても、労働保険料の認定処分の違法事由として客観的に支給要件を満たさない労災保険給付の額が基礎とされたことにより保険料が増額されたことを事業主が主張できるため手続保障に欠けないとされ、中間報告書でも事業主への情報提供に関する研究会の一致した結論を導く理由として、手続保障の観点に言及されています。
それにもかかわらず、各論点で一言も触れられず、論点③では、研究会の結論にはない労災保険率決定に係る事業主の納得度を高める観点という表現が登場いたします。水島委員から御質問もありましたが、使用者側委員として論点の立て方に違和感があることに加え、この後申し上げる理由から事業主の納得度は高まるというより、感じられないことを申し上げておきます。その上で、提供する情報の範囲について、改めて私どもの意見を申し述べます。
研究会の結論として、情報提供の理由に上げられるのは、第1に早期の災害防止に取り組む必要があること。第2に労基法の災害補償責任を基礎としていること。第3に保険料の認定決定処分の取消訴訟等における手続保障を担保することです。これらの観点を総合し、請求人と同じ情報を同じタイミングで事業主にも提供すべきと考えます。とり分け、手続保障に関しては、使用者側の弁護士団体である経営法曹会議に所属する複数の弁護士から、対象者ごと、項目ごとの支給金額や支給決定の理由が開示されなければ、実質的な手続保障にならないとの指摘がなされています。個々の保険給付額が保険料の増額にどの程度寄与しているのか、参考にはなるとの事務局の御回答もありましたが、これらが具体的に把握できずに労災保険率の決定の基礎に含めるべきでない保険給付があるかどうかを判断、立証することは困難です。
また、保険率の認定の基礎となった情報として、業務起因性を判断した理由が分からなければ、認定決定処分の不服申立てや取消訴証において、事業主として請求理由を具体的に主張することができません。労働保険料に関する訴訟に際して、労災支給処分の支給決定非該当性を特定事業主が主張できることを明確化した厚労省の通知について、中野委員から御紹介がありました。この通知では、特定事業主の主張や提出する証拠に基づくことが前提としているようですが、裁判所は認定決定処分をどのような根拠に基づいて取り消すことが想定されるのでしょうか。
さらに、疑わしい場合には全て不服審査や訴訟を提起するとなれば、事業主のみならず、行政、裁判所にとっても極めて非効率です。個々の事案の支給金額を含めて、請求人と同じ情報を事業主に通知するとともに、事業主が監督署に照会した場合には、労災の認定理由を可能な範囲で開示するよう、改めて要望いたします。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。福田委員、お願いいたします。
○福田委員 今、笠井委員から包括的に御意見があったところですが、私からも補足的に申し上げます。まず、先の部会において私のほうから、被災された労働者の御家族などに対して社として補償をさせていただくために、支給決定の事実、あるいはその支給額について質問しなければならないという実態があるということを申し上げさせていただきました。今回御提示いただきました論点では、情報提供いただける内容について極めて限定的な範囲にとどまるということです。事業者として、安全対策の実施はもちろんのことではありますが、被災者やその御家族らに対する災害補償責任を負っているということからすれば、これを適切に行うに当たって、個人の支給額等の情報がない状態では、適切に行うことができないと考えております。
事業主が請求の際に証明する平均賃金から算定可能ではないかという話もあるかもしれませんが、企業が提供した情報がどのように採用されたのかということを確認しないまま、これが採用されたはずであるという状態で補償額の算定を行うということは、通常の事務の適正な執行の手順の観点から言っても、常識的には考えられない状態に今は置かれているのではないかと思うところです。
正確な情報が提供されるということは、事業主はもちろん、被災者にとっても不可欠なものであって、そもそも事業者が算定可能であるということからも、特に支給額については、事業主に提供をすることの不都合が、これを提供しないことの不利益を超えるということにはならないのではないかと考える次第です。いずれにせよ、繰り返しとなりますが、我々事業主のほうから被災者に対して、その給付額を問わなければならないような現実は、是非とも改めたいと考えるところです。
また、今申しました補償の問題もさることながら、そもそも労災の防止というのは、事業主、そして労使が共になって取り組むべき重要な課題と考えております。そのような中で特に、けがというのは業務上かどうかが比較的分かりやすいというような話も、この部会の中でもありましたが、けがの中でも、支給決定の事実だけでは明確にその原因が分かるとは限りません。実際に過去にあった事例においても、腰痛など私生活上の負荷が原因であったとかいうのがあります。そういった視点も含めて、いろいろな論点が出る場合もあります。特に疾病の場合においては、メンタル系疾患、あるいは喫煙が原因になり得るような疾患の場合には、これが事業主にとってどのような問題があったから生じたと認定されたのか、これを明らかにしていただくということが再発防止に当たって不可欠な情報ではないかと考えるところです。
労働者側が事業主に知られたくないと考える情報を含むこともあるかもしれませんが、我々のどのような点が不十分であったので認定を受けたのか。こうした認定に至った理由などが明確に頂けない場合には、的外れな認識で、十分な対策が取られないままに、ほかの労働者等に引き続きそのような危険が潜在するような作業を継続させることにもなりかねないと考えるところです。これを避けるために、1つ1つ司法の場に提供の可否等について求めなければいけないということについては、その煩雑な手続を考えますと、それが本当にとるべき姿なのかと考えます。また、これは被災者側にも今は提供されていないということではありますが、それは先ほど公益委員のお話にもありましたが、そもそも被災者側にも伝えられていないということ自体を問題にすべきであって、それをもって事業者側にも情報が提供されないということではないのかと思います。
こうした詳細な情報について、提供される情報が限定されてしまいますと、結局のところ被災された労働者の皆さんに更に御負担をかけて、いろいろなことを聞かなければいけないといった事態が継続することにもなります。やはり、どうしても支障がある場合を除いて、原則として情報提供を頂いて、それを基に我々としてしっかりとした対応をとっていくことが、あるべき姿ではないかと考える次第です。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。松尾委員、お願いいたします。
○松尾委員 全体に関わっていることで、ちょっと質問したいのですけれど。事業主が証明をしない労災の労働者側が、いわゆる現任者も含めて協力を得て申請する場合も、これは通知をするということなのでしょうか、不支給も。それをお聞きしたいと思います。
○小畑部会長 御質問ですので、事務局のほうから御回答をお願いいたします。
○労災管理課長 御質問ありがとうございます。今回の事業主への支給(不支給)の通知については、災害防止登録を促進するという観点から通知をさせていただきますので、災害防止のために、そのような事業主にも情報提供を行うということを、現時点では考えております。
○松尾委員 使用者側委員からは、労使一体でという話がありましたが、そもそも労使一体が前提から崩れているケースに対して通知をするというのは、通知するか、しないか、支給(不支給)を通知するというのはいかがなものかということもありますし、今でも我々が把握しているところでは、事業主の協力は得られないというケースはあります。こういう点は、通知に値しないのではないかと思っていますし、協力のない所で幾らやったとしても、それは何の効果もないと思いますので、この辺は考えていただきたいと思っています。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかに御意見、いかがでしょうか。足立委員、お願いいたします。
○足立委員 私も、今まで使用者側の委員の皆様がおっしゃっていたことと基本的には同じ考えです。今、松尾委員から、ちょっと例外的なお話もございましたが、そこを原則として議論するというのは、ちょっと違うと思っています。もちろん考慮する必要はあるかと思いますけれども、大原則を議論するのが、まず先ではないかと考えています。
その点からしても、先ほど使用者側委員の方々からお話があったとおり、やはり基本的には、しかるべき時期に同じ情報を使用者側にも頂きたいと考えておりますし、その際に本当に不要な情報というものがあるのであれば、それは排除した形というのをきちんと検討して、内容を検討した上で通知していただきたいと考えております。
また、事業者側のほうのコメントとしては、やはり精神障害等々、メンタルのところというのは、なかなか難しいところがあるというのは先ほどもお話があったとおりです。ですので、そこの点でも、事業者側での対応という点でも、しかるべきときに、きちんと通知を頂きたいと考えております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。松尾委員、お願いいたします。
○松尾委員 協力を得られないケースというのは本当に大変で、環境も含めて調べないといけないのですよね。その大変さというのはあるわけです。その中で検討していただきたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。砂原委員、お願いいたします。
○砂原委員 私も、使用者側委員のほかの方々からのお話をされたのと同意見でございます。やはり使用者の災害補償責任というものを基礎とした労災保険制度ですので、やはり実際に請求されたいものの内容という点についても、そこは開示されるべきというか、やはり共有して次の新しい労働災害を防ぐというところに資する、そのようにしていくべきものではないかなと考えております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 ありがとうございます。やや総論的になりますが、意見を申し上げます。労災補償に関する使用者の責任は労働基準法第8章にあり、使用者は労災保険法に基づき補償がなされる場合は、補償の責を免れます。また、使用者は労働者が業務災害により休業している場合、その期間及びその後30日間について解雇が制限されます。労働者の疾病等が業務災害であるか否かは、使用者が労働基準法上の義務を果たすために必要な情報です。
これまで事業主に支給決定処分について情報提供が一切されなかった、できなかったことは、私には大きな疑問です。今後、事業主に対して情報提供できるようになれば、それは大きな前進ですが、本日、提起いただいた論点は、事務局の御発言にもありましたように、災害防止や災害防止努力の観点から提示されたもの、いわば労災保険法の観点のみから出されたものです。
労災保険法の基礎にある労働基準法上の使用者の責任や、保険料負担者としての事業主という観点から考えた場合、事業主に情報提供することは、むしろ当然と思います。
労災保険法の観点のみから考えますと、事務局にお示しいただいた論点②の情報提供の範囲は理解できますが、私が申し上げた観点からは、情報提供の範囲が限定されていると考えます。以上でございます。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかはございますでしょうか。最川委員、お願いいたします。
○最川委員 松尾委員から、労災委員と非協力的だという話があったのですけれど、それをなくすためにも、その業務起因性があったのかどうかというのを、お互いに認識するにも必要な情報だと思いますので、これがどちらか分からないまま、事業者に伝えられないというほうが災害防止につながらないのではないかと思いますので、それを潰していく、やはり目指していくところは同じだと思いますので、いかにその業務起因性をなくしていくかというのは、やはりお互いにやっていかないと、隠れた所で出されるとか、そういうことではないと思いますので、目指す所は同じというのは、ちょっと認識していただきたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかはよろしいでしょうか。冨髙委員、お願いいたします。
○冨髙委員 ありがとうございます。前回部会でも申し上げておりますけれども、改めて基本的な考え方を申し上げたいと思います。労働者側としては、論点①②の事業主への労災支給決定情報も、論点③④のメリット制適用事業主への労災保険料の算定情報も、被災労働者が被るデメリットを踏まえれば、事業主へ提供すべきではないと考えております。
そもそも労災に関する情報の有無にかかわらず、事業場で何らかの事故が起こった際に、事業主として原因を分析して、再発防止を講じることは当然の責務であるということを考えれば、提供の必要性もないですし、労災の情報がなければできないということであれば、それこそ問題なのではないかと思います。
今回の論点立てについては、皆さんもいろいろ意見を言われておりますが、その中では研究会報告を非常に重視して考えられている方たちもいらっしゃいました。ただ、研究会報告は、あくまで研究会報告であって、それ以上でもそれ以下でもなく、もちろん参考にする内容ではあると思いますけれども、本審議会の議論を縛るものではないと考えています。今回の論点建ては、研究会報告をもとに提供することを前提としたような書きぶりとされており問題であると思っております。我々としては、たとえ限定的な情報であっても提供する必要はないと考えているところです。
その前提に立った上で論点を見ましても、①②の労災決定事実の情報に関して言えば、事業主に知らせる必要は全くないと思いますし、特に論点②で「除く」としている支給決定の金額や算定基礎減額理由などを提供することは論外だと考えております。
この点、使用者側委員からは、労災支給決定の情報は事業主の再発防止に役立つという意見がございましたが、繰り返し申し上げますけれども、労災支給の情報の有無にかかわらず、事業主の責務として再発防止に努めるべきであると考えているところですし、特に「除く」としている情報というのは、労災保険の給付の金額的なもので、そうした情報は事業主が再発防止策を講じる上で何ら関係ないと思います。したがって、こうした情報を事業主に提供する合理性は全くないと考えるところです。
また、論点③④のメリット制の事業主への保険料の算定情報の提供も行うべきではないと考えております。論点④にあるメリット算入期間における保険給付の合計額でさえ提供不要ではないかと考えております。特に、以前の部会で使用者側委員から提供すべきという意見のあった被災労働者個人別の給付額、障害等級などの情報を提供することは、論外と考えているところです。
こういった被災労働者の個人の特定につながるような情報が事業主に提供されるとするならば、自身の労災請求によって、事業主に経済的な不利益を与えたことが可視化されることになり、そうなれば被災労働者への不利益取扱いや労災請求や請求に係る証言協力の委縮を招くということは想像に難くありません。今まで申し上げてきましたけれども、労働側としては、この①から④の情報は、基本的に全て提供不要だと考えているところでございます。
その上でとなりますけれども、現在の論点立てですと、情報提供を受けた事業主が、被災労働者又は労災申請の協力を行った方たちへの報復行為や不利益取扱いを行うことの懸念が全く拭えていません。そういった事業主の行為を防止するための措置や、実際に問題が生じたときのサンクションが全く見えない現状では、検討を行う前提にすら立っていないと感じていることは申し上げておきたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 ただいま、冨髙委員から御発言がございました事項について、前回申し上げた内容と重なるところもございますが、労災保険の支給決定、不支給決定にかかわらず再発防止対策を取るべきであるという点について、使用者側の意見を申し上げます。
使用者側といたしましては、前回も申し上げたとおり、事業者には労働者死傷病報告の提出義務がありますし、この報告事項には災害の発生状況や発生原因も含まれますので、これらの情報から再発防止対策に取り組める場合もあろうかと存じますが、「労働災害等」として就業中の事業場内や付属建物内における休業・死亡を対象としているように、論告事項は業務上の災害に限りません。会社としては業務起因性がないと考えるケースもございます。再発防止に向けて、事業主が適切かつ有効な対策を取ることが現実的に可能なのは、業務上の災害ですので、業務起因性の有無、それから理由を確認することは、他の類似の災害の防止を効果的に行うために非常に重要であると考えます。
それから、労災の支給(不支給)決定の事実にかかわらず、事業主が災害防止対策を構築すべきかどうかという点については、それができないのは問題というような御発言もございました。福田委員からも御指摘がありましたとおり、災害防止は事業場の労使がともに取り組むべき課題ではないかと考えております。労働安全衛生法上、事業者が労働者の安全と健康を確保する義務を負うとともに、労働者も必要事項の遵守など、事業者等の措置への協力義務を負います。私生活の問題や予見可能でない身体の脆弱性が一因となる災害の場合、実効性のある対策を講じることは事業主には難しい状況がございます。適切な安全対策が講じられていない場合には、作業等の過程で他の労働者に予期せぬ危険が及ぶ可能性は否定できないと考えられます。
支給決定情報にセンシティブ情報が入ったり、労災請求をためらう、それから報復を恐れるといった御指摘が労働者側委員からございました。まず、労働基準監督官の調査には、事業主、労働者ともに真摯に協力する必要があるということを申し上げたいと思います。労働基準監督官には、使用者、労働者に尋問を行う権利があり、それに対して虚偽陳述や拒否をした場合には罰則が掛かると認識しております。労災であれば請求をためらわずに行い、適正な補償を受けられるような事業環境を構築することが重要であるということであれば賛同いたします。
心理的な負担があるとの点につきましては、労災給付の請求手続に事業主の証明責任があり、証明がなされていない場合には監督署の調査が行われます。労災保険の給付請求手続の過程で、災害に伴って労働者の心身に障害を生じたことについて、事業主が知ることが前提の制度となっています。
国の制度の下で給付を受けるためには、支給要件を満たしていることを、労働者だけの主張に基づくのではなく、監督署が判断する必要があり、そのために事業主による証明や調査への協力を必要とする制度であると理解しております。仮に、事業主に情報を知られることに心理的な負担があるとしても、その負担に対応することと、事業主に提供する情報を制限することは区別して考えるべきではないかと思います。
研究会におきましても、委員の笠木先生から、被災労働者や遺族、同僚等に生じ得る事実上の負担は事業主への「手続保障」の水準を引き下げるべき根拠とはならないと思われる旨の書面の御意見があったと認識しています。
また、研究会では、中野先生からも、心理的負担への懸念について、事業主の証明手続等があることに触れられた上で、支給(不支給)決定の情報提供は、そうした心理的負担の懸念を超えて再発予防の観点から意義があるとの御意見があったと承知しております。
また、水島先生からは、事業主が情報を得ることによる懸念の声について、弊害が生じるのであれば、事業主に情報を提供する原則を踏まえた上で、弊害を生じない方法を考えるべきとの御発言があったと承知しております。こうした御指摘に賛同いたします。情報提供を制限して、事業主の手続保障の範囲や、労災防止への効果的な対策の余地を狭めるのではなく、労災保険の適正な請求・給付を促進するためにどうしたらよいか検討することが、より本質論ではないかと思います。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。本日、各テーマにつきまして、いろいろな御意見を頂戴いたしました。委員の皆様から様々な御意見や御指摘がございました。事務局におかれましては、本日の議論を踏まえて整理をしていただいて、次回以降の資料に反映していただきますようにお願いしたいと思います。
それでは、本日予定した議題は以上ということになりますので、部会は終了といたします。事務局より次回日程などにつきまして、お知らせをお願いいたします。
○労災管理課長 次回の日程につきましては、事務局より追って連絡させていただきます。
○小畑部会長 本日は以上といたします。皆様、お忙しい中、誠にありがとうございました。