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- 第121回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会議事録
第121回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会議事録
1.日時
令和7年10月9日(木) 12時00分~13時23分
2.場所
TKP新橋カンファレンスホール ホール14D(※一部オンライン)
(東京都千代田区内幸町1-3-1 幸ビルディング14 階)
(東京都千代田区内幸町1-3-1 幸ビルディング14 階)
3.出席委員
- 公益代表委員
-
- 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 小畑 史子
- 明治大学法学部教授 小西 康之
- 慶應義塾大学医学部・大学院健康マネジメント研究科教授 武林 亨
- 名古屋大学大学院法学研究科教授 中野 妙子
- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 水島 郁子
- 労働者代表委員
-
- 日本科学エネルギー産業労働組合連合会副事務局長 金井 一久
- 日本食品関連産業労働組合総連合会副会長 白山 友美子
- 全日本海員組合中央執行委員政策局長 立川 博行
- 日本労働組合総連合会総合政策推進局総合政策推進局長 冨髙 裕子
- 全国建設労働組合総連合書記次長 松尾 慎一郎
- 使用者代表委員
-
- 三菱マテリアル株式会社イノベーションセンター長 足立 美紀
- 一般社団法人日本経済団体連合会労働法制本部統括主幹 笠井 清美
- 東京海上ホールディングス株式会社人事部シニアマイスター 砂原 和仁
- 日本通運株式会社人財戦略部次長 武知 紘子
- 日本製鉄株式会社人事労政部部長 福田 寛
- 西松建設株式会社安全環境本部安全部担当部長 最川 隆由
4.議題
- (1)労災保険制度の在り方について
5.議事
○小畑部会長 ただいまから、「第121回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会」を開催いたします。本日の部会は、会場及びオンラインの両方で実施いたします。
まず、この度、新たに就任された委員を御紹介いたします。平川達斎委員に代わりまして、日本基幹産業労働組合連合会中央執行委員、岩﨑優弥様です。本日、御欠席と伺っております。また、事務局の人事異動がありましたので、御挨拶をお願いいたします。
○審議官(賃金、労災担当) 10月1日付けで着任いたしました審議官の松本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○小畑部会長 ありがとうございます。本日の委員の出欠状況ですが、先ほど申し上げました岩﨑委員、宮智委員が御欠席と伺っております。また、小西委員、武林委員が遅れての御出席、最川委員が遅れての御出席、そして途中での御退席と伺っております。出席者は現在16名ですが、公益代表、労働者代表、使用者代表、それぞれ3分の1以上の出席がありますので、定足数を満たしていることを御報告申し上げます。カメラ撮影等はここまでとさせていただきますので、御協力をお願いいたします。
それでは、議題に入ります。本日の議題は、「労災保険制度の在り方について」です。事務局より資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長 それでは、資料1を御覧ください。「労災保険制度の具体的課題について」、今回は徴収等関係を中心にまとめています。まず、「メリット制」についてです。2ページを御覧ください。現行制度ですが、メリット制とは、事業主の負担の公平を図るとともに、事業主の災害防止努力を促進するため、一定規模以上の事業主については、個別の事業場の災害発生状況に応じて労災保険率又は労災保険料を増減するものです。事業ごとに、その事業主が納めた労災保険料相当額に対する労災保険給付相当額の割合に応じて最大40%の範囲内で労災保険率及び労災保険料を増減させる制度です。
論点としては、①メリット制の意義・効果についてどのように考えるか。②は、前回の遅発性疾病の関係の論点ですが、有害業務に従事した最終の事業場を退職した後、別の事業場で有害業務以外の業務に就業中に発症した場合における給付基礎日額の考え方について、仮に、原則として発症時賃金を用いるとした場合において、疾病の発症原因となった有害業務への従事が行われた最終事業場に対するメリット制の適用をどのように考えるか。この2つを掲載しています。
これらは、研究会中間報告書で、メリット制の効果については、一定の災害防止効果があり、また、事業主の負担の公平性の観点からもメリット制には一定の意義が認められるものと考える。このため、メリット制を存続させ適切に運用することが適当と考える。疾病の発症原因となった有害業務への従事が行われた最終事業場に対するメリット制の適用においては、被災労働者のばく露時賃金を基礎とした給付のみを加味することが適当と考えるとされたことを受けての論点です。
3ページは、メリット制に関して、研究会中間報告書で専門的な見地から議論を行うことが必要とされたものであり、メリット収支率の算定対象は妥当かという論点についての記載です。
4ページは、「メリット制の趣旨・目的」をまとめています。タイトルの下に記載がありますが、メリット制は、個々の事業ごとの収支率をみて、その事業の保険料を調整し、個々の事業主の負担の具体的公平性を図るとともに、その自主的な災害防止の努力を促進しようとするもので、労災保険料の最も労災保険らしいところの一つということができるものです。
5ページは、「メリット制の適用要件」です。継続事業、一括有期事業、単独有期事業の要件は、それぞれ資料に記載のとおりです。資料の下に、それぞれのメリット制の適用例を図示しています。
6ページは、「労災保険料の計算方法」です。基本は1つ目の○のとおり、全労働者の支払われた賃金総額に業種別労災保険率を乗じて算出されますが、メリット制が適用される場合は、2つ目の○のとおり継続事業・一括有期事業の場合には、非業務災害率やメリット増減率を反映した計算方法で算出されます。
7ページは、「メリット収支率の計算方法」です。継続事業・一括有期事業の場合、3保険年度の間に業務災害に関して支払われた保険給付等から年金差額一時金等の額を引いたものを分子として、3保険年度間に収納した業務災害相当分の保険料に第一種調整率を乗じたものを分母とする割り算をすることで算出しています。
8ページは、「特例メリット制」についてです。継続事業のメリット制が適用される中小企業の事業主が、厚生労働省令で定める労働者の安全又は衛生を確保するための措置を講じた場合であって、「労災保険率特例適用申告書」を提出したときは、メリット増減率の幅を±40%から±45%に変える特例を受けることができます。本制度は、中小企業における労働災害防止活動を一層促進して成果を上げることを目的としており、適用対象は、資料に記載の(1)から(4)までの要件を全て満たす事業です。
9ページは、「メリット制の適用状況」です。令和5年度の適用状況ですが、事業場数では約11万事業場で、全体の約4%、労働者数で見ると約3,563万人で、全体の59%です。10ページは、「増減率別メリット制適用事業場数」です。令和5年度にメリット制が適用された継続事業、一括有期事業及び単独有期事業約14万7,000事業場のうち、8割を超す事業場が労災保険率を引き下げて適用され、その半数近くが-40%で適用されている状況です。
11ページは、「メリット制による保険料の増減額」です。令和5年度にメリット制が適用された約14万7,000事業場のうち、保険率等が割引となった事業場は約12万1,700事業場、保険率等が割増しとなった事業場は約2万3,100事業場で、全メリット適用事業場に占める割合は、それぞれ約83%、約16%です。また、メリット制の適用により引下げとなった差額保険料は1,767億円、逆に、メリット制の適用により引上げとなった差額保険料は195億円となっていますが、この差額分を見越して労災保険率を設定しています。
12ページからは、労災保険制度の在り方に関する研究会に提示した「メリット制度の効果に関する検証結果」についてです。12ページは検証方法ですが、メリット制の効果について、メリット増減率がプラスであるメリット適用事業場と、マイナスであるメリット適用事業場に区分して、建設事業等6業種のメリット適用事業場の被災者数増減率を全事業の被災者数増減率と比較しました。
検証結果は、プラスでメリット制が適用された事業場については、全事業場よりも増減率がおおむね低いことから、一定程度はメリット制の効果があったと考えられること、マイナスでメリット制が適用された事業場については、業種全体よりも増減率が低い場合と高い場合が同程度混在しており、これだけをもってメリット制の効果の有無を判断できるものではないが、マイナスでメリット制が適用された事業場は、過去の保険収支が良かったことや、もともと被災者数がゼロである事業場割合が多いため、これ以上被災者数を減らすことができない事業場であることを考慮する必要があるとまとめています。
13ページは、検証方法の詳細です。資料に記載の①から④までをプラスでメリット制が適用された事業場、⑤から⑧までをマイナスでメリット制が適用された事業場としています。14ページがその結果です。平成30年度から令和4年度の6業種における①から⑧までのパターンごとの増減率を、資料の一番右の⑨と比較して、⑨より増減率が小さい場合は赤字で表示しています。赤字が多いほどメリット制による被災者数の増減率が抑制され、メリット制の効果が出ていると考えております。
15ページは、「マイナスでメリット制が適用された事業場の前年度の災害発生状況の特徴について」です。マイナスでメリット制が適用された事業場は、過去の保険収支が良く災害が少なかったことから、マイナスのメリット制が適用された時点で、一定程度はメリット制の効果があったと考えてよいのではないかといったことを特徴としてまとめています。
16ページは、「メリット増減率が高い事業場のメリット増減率の推移」です。メリット増減率は、適用する年度の前々年度までの3年間における保険収支を基礎とするため、例えば、死亡災害を起こして多額の保険給付を行った場合、3年間にわたってメリット増減率に影響を及ぼします。平成29年度のメリット増減率の基礎となった災害が影響を及ぼさなくなる3年後(令和2年度)、またその3年後(令和5年度)のメリット増減率を分析してみると、平成29年度に+40%であった7,178事業場のうち、令和2年度も+40%であった事業場は21.7%、令和5年度も+40%であった事業場は6.9%と減っていくことが分かりました。
17ページは、「労災かくしの動機に係る結果」です。令和5年にいわゆる労災かくしで送検した103事業者に関し、その動機について複数回答により調査した結果です。資料中の赤枠で囲っている「メリット制による労災保険料の増額が生じることを懸念した」という回答はゼロとなっています。
18ページは、2つ目の論点である遅発性疾病に関するものですが、「複数事業労働者に係る保険給付及び保険料負担」を図示したものです。A事業場とB事業場の2つの事業場に使用される労働者が、A事業場における業務災害により傷病等が発生したケースを例示しています。給付基礎日額は、A事業場の5,000円とB事業場の1万円が合算され1万5,000円ですが、メリット収支率への反映は、業務災害が発生したA事業場の賃金額である5,000円を基に算定した保険給付額に相当する額に限り、A事業場のメリット収支率のみに反映されるという取扱いとなっています。
続いて、「労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題」です。20ページです。現行制度ですが、労災保険の支給決定等の処分に当たっては、労災保険給付を請求する際の事業主証明等により、事業主は労災保険給付請求がされることを認識できますが、最終的な決定は、事業主には通知されません。また、メリット制の対象となる事業場において、労災事故が発生し、労災保険給付が支給決定されると、当該事業場における労災保険給付総額に応じて、その翌々年度以降のメリット収支率に反映され、労災保険率が増減され、都道府県労働局長から事業主に労災保険率決定通知書が送付されます。また、事業主が、通知された率と異なる率によって保険料の申告・納付を行った場合、都道府県労働局長が労災保険料を職権で決定する認定処分を行い、認定決定通知書が送付されます。しかし、労災保険率決定の基礎となった労災保険給付に関する情報については、いずれの通知書でも事業主には通知されないという取扱いになっています。
論点としては、①労災保険給付の支給決定(不支給決定)の事実を、事業主に対して情報提供することについてどのように考えるか。また、その際、被災労働者の個人情報の取扱いについてはどのように考えるか。②メリット制の適用を受ける事業主に対して、労災保険率の算定の基礎となった労災保険給付に関する情報を提供することについてどのように考えるか。また、その際、提供する情報の範囲について、保険給付に関する情報には被災労働者に係る機微な情報を含み得ることについてどのように考えるか。この2つを記載しています。
これらは、研究会中間報告書で、労災保険給付の支給決定(不支給決定)の事実については、事業主に対して情報提供されることが適当と考える。その際、被災労働者の個人情報の取扱いに留意しつつ、検討する必要がある。メリット制適用事業場の事業主に対して提供する労災保険率の決定の基礎となった保険給付に関する情報については、事業主に対して提供され、事業主が自ら負担する保険料がなぜ増減したのかが分かる情報を知り得る仕組みが設けられることが適当と考える。その際、提供する情報の範囲については、保険給付に関する情報には被災労働者に係る機微な情報を含み得ることに留意しつつ、検討する必要があるとされたことを受けての論点です。
22ページは、「現行の支給決定(不支給決定)の流れ」です。負傷・疾病が発生した場合、事業主は労災保険給付請求書中の事業主証明欄に署名する必要があります。また、事業場への訪問や事業主への聴取等のほか、事業主の意見申出制度なども設けられていますが、支給・不支給の決定結果について事業主に通知される仕組みはありません。参考として現行規定を記載しています。
23ページは、「メリット制適用の流れ」です。当年度5月に、前々年度までの労災保険給付を反映した「労災保険率決定通知書」によって事業主に通知され、6月1日からの年度更新期間中に、事業主が概算・確定保険料を申告・納付しますが、申告額に誤りがあると判断された場合には、都道府県労働局長が認定決定を行います。
24ページは、「労災保険率決定通知書」により事業主に通知される内容です。メリット料率、メリット収支率、メリット増減率等が通知されます。25ページは、「認定決定通知書」により事業主に通知される内容です。賃金総額、労災保険率決定通知書で通知した労災保険率、保険料額、認定決定の理由等、事業主等が申告した労働保険料に差額が生じた根拠が通知されます。26ページと27ページは再掲の資料ですので、説明は省略します。
28ページは、メリット制適用事業主の手続保障に関する最高裁の言及です。令和6年7月のあんしん財団に関する判決では、メリット制の適用を受ける事業主は、メリット収支率の算出の基礎とされた労災保険給付の支給決定処分について、メリット制が適用されることにより労働保険料が増額されることを理由として、取消訴訟を提起することはできない旨を判示されました。同判決の理由では、メリット制の適用を受ける事業主は、「自己に対する保険料認定処分についての不服申立又はその取消訴訟において、当該保険料認定処分自体の違法事由として、客観的に支給要件を満たさない労災保険給付の額が基礎とされたことにより労働保険料が増額されたことを主張できる」ことから、「事業主の手続保障に欠けるところはない」旨言及されています。
続いて、「暫定任意適用」です。30ページを御覧ください。労災保険は、原則として、労働者を使用する全ての事業に適用されますが、農林水産業のうち、小規模な個人経営の事業については、「暫定任意適用事業」として、強制適用の例外となっています。
論点としては、①現在、暫定任意適用とされている農林水産事業について、労災保険法を強制適用することについてどのように考えるか。②仮に全面的に強制適用する場合、どのような点に留意するべきか。この2つを記載しています。
これらは、研究会中間報告書で、暫定任意適用事業については、農林水産省とも連携の上、順次、強制適用に向けた検討を進めることが適当と考える。その際、農林水産事業者の理解に加え、これまで適用上の課題とされてきた事業者の把握や、保険料の徴収上の課題がどの程度解決されつつあるのかの具体的な検証が必要であり、また、零細な事業主の事務負担の軽減等も十分に配慮する必要がある。この点、その実現可能性や実効性についても農林水産省の協力も得つつ、検討することが必要である。また、林業及び水産業についても農業と同様、課題の解決策を検証した上で検討を進める必要があるとされたことを受けての論点です。
31ページは、「暫定任意適用事業の概要」です。個人経営で常時5人未満の労働者を使用する農業等、資料に記載の林業、水産業が「暫定任意適用事業」となっています。関係する法令の主な条文構造ですが、根拠は法律にありますけれども、具体的な対象事業は政令へ委任され、告示において任意適用事業の例外となる事業を規定しているという構造です。
32ページは、「暫定任意適用事業に係る特例」です。暫定任意適用事業の事業場においては、労災保険に係る保険関係の成立前に発生した業務上の傷病についても、後刻、事業主の申請により、労災保険法の規定による保険給付が行われます。ただし、本特例による保険給付がなされた場合、事業主は所定の期間、労働保険料のほかに特別保険料を納付しなければならないとなっています。当該申請は、事業場で使用する労働者の過半数が希望する場合には、事業主は申請しなければならないと規定されています。33ページと34ページは、「暫定任意適用事業の関係条文」です。
35ページは、「暫定任意適用事業に係る改正経緯等」です。昭和44年に「暫定任意適用事業」が法令上規定され、その後、平成3年に強制適用事業の範囲が拡大され、現在に至っています。
36、37ページは、「暫定任意適用事業が存置されている理由」です。平成3年の通達では、全面適用の困難性についての記述があり、農家では、ゆい・手間替えという労力の相互融通の習慣があり、ゆい・手間替えによって働く者は一般的には労働者とはいえないが、これらの者と労働者とは外見的には区別が困難であること等が挙げられています。
38ページは、「農林水産業における任意加入状況」です。令和7年9月時点で、任意加入事業数及び労働者数は、資料に記載のとおりです。39ページは、今年8月27日に開催された農林水産省の「第6回農業の労働環境改善に向けた政策の在り方に関する検討会」の資料です。暫定任意適用を受けている経営体数は、農林水産省が2020年に実施した農業センサスによると、あらかじめ年間7か月以上の契約で、主に農業経営のために雇った常雇いが1人から4人の経営体が約2万経営体、手間替え・ゆい等を含む農業経営のために一時的に雇った臨時雇いが1人以上の経営体が約12万経営体となっています。このため、最大で合計約14万経営体が加入推進の周知対象になると考えますが、既に労災保険に任意加入している経営体も約2.3万経営体あるという状況です。
40ページは、「暫定任意適用事業のうち、保険関係を成立している事業の被災状況の調査結果」です。令和6年6月19日時点において、任意適用事業場として保険関係を成立している2万5,602事業場のうち、令和3年度から令和5年度までの間に支給決定された重大事故の内容をまとめています。
最後、41ページは「労働保険事務組合」の概要です。本制度は、中小零細事業主が、事務負担を軽減するため、労働保険料の申告・納付や各種届出等の労働保険事務を厚生労働大臣の認可を受けた商工会等の事業主の団体に委託できる制度です。暫定任意適用事業が強制適用になった際には、活用できるものと考えています。
資料2を御覧ください。暫定任意適用事業に関する資料ですが、先ほど御紹介した「第6回農業の労働環境改善に向けた政策の在り方に関する検討会」の議事概要と、委員等一覧です。議題2として労災保険制度が取り上げられましたが、視点1の暫定任意適用事業については、強制適用に向けた検討を進めることについて、賛成であること等が記載されています。また、視点2の農業経営体の把握・制度周知等については、販売農家全般に対しての周知の必要性や、地域のJAや地方行政・労働基準監督署等の公共機関が果たす役割は非常に大きいので、厚生労働省と農林水産省の連携による周知が効果的であること、働く人にも、農業でも労災保険に加入できるということを認識してもらうことで、加入促進につながること等の意見がありました。
視点3の事務負担の軽減については、何らかの公的な支援の必要性、事務負担軽減のための賃金台帳の整備の推進、労務管理ソフトやオンライン申請の活用、社会保険労務士を中心とした地域における支援体制の構築等の意見があったところです。事務局からの説明は以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。それでは、各テーマにつきまして議論を進めたいと思います。多岐にわたるテーマがありますので、メリット制、労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題、暫定任意適用の3つに区切りたいと思います。まずはメリット制について、資料の2ページ目にある論点に沿いまして御意見をお伺いできればと思います。御意見、御質問等ございましたら、会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから御参加の委員におかれましてはチャットのメッセージから「発言希望」と入力いただくか、挙手ボタンで御連絡をお願いいたします。
それでは、御意見、御質問等ありますでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 論点①と②のそれぞれについて発言いたします。まずは論点①です。資料1の12ページから16ページにかけて、研究会の資料を再掲する形で、データに基づくメリット制の検証結果が示されています。これらの結果は、メリット制の目的である、個々の事業主の負担の公平性確保と自主的な災害防止努力の促進について、一定の効果を裏付けるものと受け止めています。
また、17ページの調査結果によれば、労災かくしの動機としてメリット制を挙げた事業者はゼロとなっています。送検に至った事業者を対象とし、また行政当局を通じた調査でもありますので、実態を網羅的に把握したものとは言い切れないかもしれませんが、少なくともメリット制が労災かくしを助長するという仮説を証明するものではないと理解しています。中間報告書の結論に従い、メリット制を存続させ適切に運用すべきと考えます。
次に、論点②について申し上げます。前回の部会でも発言いたしましたとおり、仮に発症時賃金を原則とする見直しを行うのであれば、中間報告書の記載のとおり、最終事業場に対するメリット制の適用に際しては、被災労働者のばく露時賃金を基礎とした給付のみを加味すべきと考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。他にいかがでしょうか。砂原委員、お願いいたします。
○砂原委員 御説明ありがとうございました。メリット制について、私も意見を申し述べたいと思います。今、お話がありましたように、メリット制については今後も必要だと考えております。やはり、これは労災「保険」ですから、事業所ごとに異なるリスクに見合う保険料というのが、原則です。実際、日本においても、民間保険などにおいては、メリット制を導入することで実際の事故の発生を一定程度抑止しているという効果も出ていますし、諸外国にも同様の仕組みがあるというように思います。
逆に言えば、事務局に1つお願いですけれども、諸外国の労災保険において、こういうメリット制の導入有無という辺りも、ちょっと併せて御教示いただけると、議論を深める上ではいいのかなというようにも感じた次第です。
日本においては、一番分かりやすいのは自動車保険などにおいて、事故が起きると翌年保険料が上がるというような等級制度というものが運用されておりますけれども、これによって、やはり、息子が運転する時に「気を付けなさい」と声をかけることで運転者が事故を気にするというようなことも実際あると耳にします。
労災保険が、全く同じとは申しませんけれども、そういう効果があるということは間違いないことだと思いますので、是非メリデメ制度を今後も継続していただきたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。諸外国のことにつきましては、また事務局のほうでお考えいただければと思います。他にいかがでしょうか。冨髙委員、お願いいたします。
○冨髙委員 ありがとうございます。私からは論点1のメリット制の意義・効果をどう考えるかという点も含めて、メリット制について意見を申し上げたいと思います。先ほど事務局から説明がございましたように、メリット制は、事業主間の負担の公平性確保と事業主の災害防止努力を促す目的で設けられたものであると考えております。だからこそ、その目的を踏まえて今日的に役割を果たし得ているのかという点を十分に検証して、その制度としての在り方を検討する必要があると思っております。
この点、研究会においても事業主の災害防止努力促進効果があるのか、労災かくしにつながっていないのかという点について一定程度検証いただいておりますが、検証が十分だったかというと、そうではないのではないかと考えているところです。
例えば資料1の14ページにあるデータは、研究会でも示されているものですが、これを見る限り、プラスのメリット制が適用された事業場の多くは被災者の増減率が抑制されていて一定効果があると考えられます。しかし、マイナスのメリット制が適用された事業場での効果は判然としません。
また、資料16ページの+40%のメリット制が適用された事業場の多くが、6年後には+40%から脱出しているということもお示しいただいておりますが、これが本当にメリット制によって災害防止努力が図られた結果なのかという点は、もう少し深掘りする必要があるのではないかと考えているところです。
さらに17ページでは、送検事例の中で労災かくしの動機にメリット制を挙げたケースはゼロであるとのデータをお示しいただき、この結果をもって研究会では「労災かくしを助長するとの懸念についても、メリット制の意義を損なうほどの影響があるとは確認されなかった」と結論付けられております。
しかし、必ずしも労災かくしの動機としてメリット制を明示的に挙げていなくても、例えば、「監督署による司法処分や行政指導等を受けることを懸念した」という回答の中に含まれている可能性もあるのではないかと考えているところです。
こうした状況を踏まえると、メリット制廃止を求める意見もある中において、研究会のように「メリット制は一定の効果があり、存続させることが適当」という結論を導くことは時期尚早ではないかと考えているところです。改めて災害防止効果や労災かくしの要因についてもう少し含めて詳細な分析を行っていただいた上での専門的な検討、具体的には、現行の増減率の要件が妥当なのかはもとより、制度の是非も含めた在り方も含めて、より根源的に検討していくべきではないかと考えているところです。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。他はいかがでしょうか。福田委員、お願いいたします。
○福田委員 では、私のほうからも、1点目、2点目について、意見を申し上げさせていただきます。まず論点①についてですけれども、私は個人的には企業が安全対策をする理由として、このメリット制があるからとか、そういうことでやっているのではないとは思っております。先ほどの厚生労働省さんの分析で、多少そういったことも見えるのではないかと、こういう分析もしていただいておりますけれども、あくまで、共に働く仲間が仕事をすることによってけがをする、病気になると。こういうことがあってはならないと。こういう気持ちで安全対策をしているのではないかと考えておりますし、考えたいと思うのですけれども、一方で仮にそうだったとしても、現実的に労災給付を多く受けている企業もあれば、そうではない企業もあるということであれば、自動車保険等世間の一般的な保険制度の例を引くまでもなく、やはり受給の多寡、これを保険料率にも反映させるというのは、むしろ当然のことではないかと思います。災害防止効果どうのこうのという以前に、負担に沿った料率は本来あるべきだというように思います。
なお、中間報告書にも言及してあります、労災かくしを助長する懸念ということについてですけれども、これは、これまで弊社の関係先等においてそうした事案が起こるたびに、弊社としても、どうしてそういうことが起こってしまったのかということを、委託先の経営者から現場の一人一人の作業者までインタビューを徹底的に行う中で、その原因を探り対策を検討すると、こういった取組を行っておるわけですけれども、そういった中においても、労災かくしの動機としてこのメリット制への影響を言及した事例は、少なくとも1例もございませんでしたので、この点は今回の厚生労働省さんの調査の結果にも符合することではないかなということで、発言をさせていただきます。
あと、論点②については、こちらは前回の本会であったような被災者保護の観点とは全く別の論点であるかと思いますので、これは中間報告書のほうで記載いただいておりますような結論以外、今はちょっと考え難いかなというように思っている次第でございます。私のほうからは以上でございます。
○小畑部会長 ありがとうございました。他はいかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 ありがとうございます。先ほど、冨髙委員の言及されました資料1の14ページにつきまして、マイナスのメリット制が適用された事業場の効果は判然としないというような御指摘があったかと存じます。そのことにつきましては、次の15ページで、マイナスでメリット制が適用された事業場の前年度の災害発生状況の特徴として、上の青い四角では、「マイナスでメリット制が適用された事業場は、過去の保険収支が良く災害が少なかったことから、マイナスのメリット制が適用された時点で、一定程度はメリット制の効果があったと考えてよいのではないか」ということや、「もともと被災者数がゼロであるため、被災者数を減らすことが一切できない事業場や、減らしても効果は限定的である事業場が、全メリット適用事業場より多く存在することから、災害防止に取り組んだとしても、減る効果が一切出ない・出にくいといったことを考慮する必要がある」ということが記載されています。このことについて改めて留意いただきたいと申し上げます。
メリット制が労災かくしにつながっているのではないかという点に関しましては、まずはそういった御主張の裏付けとなるエビデンスをお示しいただきたいと思うところです。その上で、メリット制が労災かくしの動機付けを与えているという合理的な根拠があると仮定しても、メリット制を廃止すれば、労災かくしの問題が全て解決するとは言い難いと考えます。
17ページの調査によれば、元請事業者との関係性や、司法処分・行政処分への懸念、自社の企業イメージへの低下等が大きな要因となり労災かくしにつながっています。労災かくしは刑事事件として書類送検され、罰則が科されること、また、公共工事の入札における指名停止処分にもつながり得ることもあります。こうしたことを改めて周知徹底することが大切ではないかと思います。企業にとっても、甚大なレピュテーションリスクを生じさせることでもございます。先ほど申し上げたとおり、メリット制には個々の事業主の負担の公平性を確保するとともに、自主的な災害防止努力を促進するという効果がございます。中間報告書でも、その検証を通じて、メリット制の意義を損なうほどの悪影響は確認されなかったと結論付けていますので、制度の意義や、趣旨、効果に照らし、メリット制を存続すべきと考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ここまでのところで、事務局から何かございますでしょうか。
○労災管理課長 特に、こちらからはコメントございません。
○小畑部会長 ありがとうございます。他に御意見、御質問などございますでしょうか。金井委員、お願いいたします。
○金井委員 17ページの労災かくしの動機に係る調査の選択肢について、これは1つしか選べないのか、それとも複数選択できるのかを教えていただきたいと思います。それによって結果は変わってくると思います。例えば、1つしか選べなければ2番目にあった理由は隠れるわけですので、その点も含めてより詳細に分析をした上で、結論を出していくことが適当ではないかと考えるところです。
先ほど笠井委員から、15ページについて補足がありましたが、こちらについても同様に状況を精査した上で結論を出していくことがいいのではないかと思います。今すぐ「これがこうだ」と決め付けるのではなく慎重に議論したほうが良いと思いましたのでコメントさせていただきました。以上です。
○労災管理課長 事務局です。金井委員の今の御指摘ですけれど、この17ページの調査ですけれども、これは複数回答ということですので、回答があるものは幾つでもマルを付けてもいいということでございます。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。特にございませんでしょうか。ありがとうございました。特にないようでしたら、次の論点に移ってまいりたいと思います。
続きまして、労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題につきまして、議論してまいりたいと思います。資料の20ページ目にある論点に沿いまして、御意見をお伺いできればと思います。いかがでしょうか。武知委員、お願いいたします。
○武知委員 私から論点①と②についてお話したいと思います。労災保険給付の支給、不支給の決定処分は、労働災害が発生した事業場の事業主が再発防止に取り組むために必要な情報であり、労災保険の保険料は事業主が全額を負担していることからも全ての事業主に対して支給・不支給の事実、支給の場合には給付の具体的な内容等、請求人に通知される情報と同じ情報を同じタイミングで通知すべきと考えます。
当社もそうなのですが、輸送や作業の現場を持つ場合には、ほかの産業に比べて労働災害の頻度や強度が高い傾向にあると考えておりますので、安全対策への早期の反映や、ほかの労働者への注意喚起の側面で意義や期待される効果が大きいと考えており、情報の必要性を特に感じているところです。
また、論点②として提起されているとおり、メリット制において、労災保険率の算定の基礎となる情報を事業主が把握できていないことは、保険料の負担者としては是認しがたく感じます。認定処分の取消訴訟等における事業主の手続保障の観点からも重要な要素であり、この点からも事業主に対する情報提供は必要と考えます。加えて、メリット収支率の計算式も含めて、どのようにメリット料率が決まったのか、明らかにしていただきたいと考えております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 ただいま武知委員も御発言になりました、論点①と②に関して私からも申し上げます。事業主に対して労災保険給付の支給・不支給の事実や保険給付に関する情報等、請求人に通知されるものと同じ情報を同じタイミングで、それから、メリット制の適用を受ける事業主に対しては収支率の計算式も含めて提供することを要望いたします。併せて、現在は請求人の求めに応じて監督署が処分理由を説明していると聞いております。類似の業務上災害の再発防止や、事後の手続保障の観点から、事業主にも同様の機会を付与していただきたいと思います。
なお、論点①と②には支給・不支給決定の事実や保険給付の内容を指して、個人情報や機微な情報という表現が使われています。確かに、これらの情報は個人情報保護法で定義する個人情報や要配慮個人情報に該当すると思われるところ、取り分け傷病者名等は要配慮個人情報に該当し、行政機関としてその保有する情報の取扱いには一層の配慮が必要という点は理解できます。他方、資料1の20ページの現行制度に記載のとおり、事業主には請求書への署名義務等があるほか、災害発生状況等について監督署から調査を受けるため、労災保険給付請求の事実を把握していることが一般的です。
事業主には、証明や調査協力の役割がありますし、また、メリット制の下で将来の保険料への影響を受けます。加えて、労働災害が発生した場合には、事業場における類似災害の再発防止に早期に取り組むことが期待されます。そのような取組を事業主が行うためにも労災の支給・不支給決定の事実にとどまらず、障害等級や傷病等級など保険給付に関する情報を含めて情報提供されることが適当と考えます。過度に提供範囲を狭めたり、手続を複雑にしたりしないようお願い申し上げます。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。足立委員、お願いいたします。
○足立委員 私からも論点①と②に関連してということでお伝えします。労災保険の支給・不支給の決定前から、事業主として防止や改善のための努力をしていくのは必要だと思っています。保険ありきではないものの、情報が適切なタイミングで事業主に共有されることによって、労災防止対策の観点からも、より事業主が重く受け止めて対策を打つという点では、必要な情報を必要なタイミングで頂くことは大事ではないかと思っています。
特に、メリット制を適用される事業主に対しては、数年後に適用される云々というのが分かるわけで、これはもっと早い段階から適切に情報が開示されることが、防止対策の観点からも必要ではないかと思います。これまでもお話されていますが、とはいえ、個人情報の取扱いというのは一定程度の配慮が必要だとは思いますが、そもそも事業主も様々な情報を提供しているので、そこも配慮した形で、提供いただく情報というのは決めていただきたいと考えております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。金井委員、お願いいたします。
○金井委員 論点①についての意見になります。21ページにもあるとおり、研究会としては、事業主が早期に災害防止に取り組む上で必要な情報である点や手続保障の観点から、事業主への情報提供を行うことが適当と結論付けております。しかし、労働側としては、事業主への労災支給決定事実の情報伝達は慎重であるべきと考えております。
そもそも職場で何らかの業務上の災害が起こった際に、早期に災害防止に取り組むことは使用者にとっての当然の責務であり、それは労災が支給されたか支給されていないかというものに関わるものではないと考えます。また、メリット制の適用によって2年後に保険料が上がることを見据えて、事業主が「将来の保険料が上がるのは労災認定されたせいだ」として、被災労働者や遺族、更には被災労働者に協力する情報提供者や証言者等に不当なプレッシャーを与えることも懸念されます。
手続保障と引換えに、こうしたことが横行しては労災申請の萎縮にもつながりかねないと危惧しております。こうした懸念については、本部会委員にも配布されました各種団体の意見書でも指摘されているところです。したがって、事業主への情報伝達は慎重に考えるべきだと考えております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他にいかがでしょうか。福田委員、お願いいたします。
○福田委員 では、私からは、これまで事業主側の委員の皆さんから出た話と同じような結論ではございますが、意見を申し上げます。まず支給・不支給の決定内容については、やはり、企業側として労災保険料を100%負担していると、このような当事者という立場がある以上、また、先ほどの論点でありましたメリット制、これを通じて直接的に影響も受けると。こういう立場である企業側にも、やはり当然にその情報は提供されるべきものではないかと考えます。
我々企業側としては、その結果を知らされることなく、決定内容も知らされることなく、料率の増減という結論だけを、ある意味通告を受けて、それを受け入れて対応するという形を取らされている。こういった実態にありますので、これはやはり、我々の立場からすれば、納得しがたい状況にも置かれているという認識を持っているところでございます。
また、この際の被災労働者の個人情報への配慮は、当然必要なことだと思います。ただ、既に労災申請をした段階で企業にはそのことが分かっている以上、結果が通知されたことをもって、何か企業側が不公正なことをしようと、このような意思を持つかどうかというと、それは全く違う問題だと思います。やはり、保険料を負担して再発防止を図る責任を企業側としてちゃんと認識しておくべきであり、その通知に関する情報配慮は、従業員管理を行う中で当然に我々が知っている内容、これ以外のところの情報についての配慮を御検討いただくということではないかと思っております。
ちなみに、これを知らされないということでもって何が起こっているか、ということですが、残念ながら、被災者の御家族に対して非常に大きな補償をしなければならないといったような事故・災害、これの撲滅には至ってはおりません。そうした補償について御家族の皆様とお話をする場合には、この労災給付決定の結果がないと合理的な補償内容をご説明することができないという状況にございます。
したがって、ただでさえ被災者の家族ということで非常な心痛を抱えていらっしゃる御家族に対して、会社のほうからの補償を得るために、会社に対してそうした内容を事務的に伝えなければならない、あるいは、会社側の担当者も心を痛めながら被災の御家族に定期的に、この労災受給の決定の状況をお尋ねしなければならないと。こうした心痛を掛けながら今、事務手続を行っていると。このような実態にあるわけです。
このような心痛というのは、本来、全く不必要なことを強いているという実態にあるのではないかと思っているところです。こうした件も含めて、やはり申請者と、また企業側にも同時に同じような情報提供があって然るべきではないかと思うところです。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。他はいかがでしょうか。冨髙委員、お願いいたしまます。
○冨髙委員 まず、論点①の労災支給決定事実の事業主への情報伝達については、先ほど金井委員も発言したとおり慎重であるべきだと考えておりますが、論点②のメリット制適用事業主への算定基礎情報の提供はより問題が大きいと考えており、研究会の「事業主に提供すべき」という結論には賛成できないと考えているところです。
研究会では、28ページにもございますが、あんしん財団事件の最高裁判決を根拠に、手続保障の点で保険料率の算定根拠情報を事業主に伝達すべきとしております。しかし、あんしん財団事件最高裁判決が指摘している手続保障とは、28ページの下線部分にあるとおり、メリット制によって保険料率が上がった事業主が行政不服審査や取消訴訟の際に、「客観的に支給要件を満たさない労災保険給付の額が基礎とされたことにより、労災保険料が増額されたことを主張できる」という機会の保障を言っており、事業主に保険料率の根拠情報を伝えるべきと言っているのではないと考えております。要は、行政不服審査や訴訟手続が始まった後に、国が必要な情報を開示すれば良いのであって、保険料率の決定時に詳細な算定根拠情報を提供する必要はないのではないかと考えております。
そうした状況であるにもかかわらず、手続保障という理由のみで開示することはデメリットが大きいと考えております。そもそも、事業主への情報提供に我々は反対の立場ですので提供すべき情報の範囲については踏み込みませんが、労災の支給決定に関する情報というのは、病歴や障害といった、労働者にとって非常にセンシティブな情報を含むものです。こうした情報を事業主に提供するとなれば、被災労働者が労災申請をためらってしまうことも容易に想像できると思います。また、ハラスメントによる労災申請では、同僚の証言が非常に重要な証拠にもなりますが、そうした内容を含む情報が事業主に提供されれば、「報復されるのではないか」「何か不利益があるのではないか」と恐れて被災労働者や遺族に情報提供の協力する方がいなくなってしまうと考えているところです。
以上のことから、メリット保険料率の算定根拠情報の事業主への提供はすべきではないと考えております。企業の皆様には、労働者が安心して働くことができる職場環境にきちんと注力していただくことを、まずやっていただきたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。立川委員、お願いいたします。
○立川委員 使用者側委員から、個人情報には一定の配慮をしつつも、労災保険給付の情報について過度に制限しない形で事業主へ提供すべきという趣旨のご発言があったわけですが、資料25ページにあるように、労災保険料の決定通知では、メリット料率や収支率等の情報が開示されており、情報提供という意味ではそれで十分であると考えているところです。
保険料率の話ではありませんが、労働者への情報提供ということを考えますと、労災が支給されたか不支給となったかの理由通知については、「業務に起因する疾病とは認められないので不支給決定します」などの数十文字で済まされていて、詳細な理由は開示されていないところです。
それにもかかわらず、料率の問題ではありますが、なぜ、事業者のみについて手続保障ということで情報提供を充実させ、保険給付の根拠に関する情報を通知する必要があるのか。むしろ、労災保険料の算定根拠となる情報を伝達してしまえば、被災労働者の立場からすれば、自分が労災申請したせいで事業主にどの程度の経済的不利益が課されたことが根拠とともに可視化されることとなり、労災申請の萎縮を招くことが必至であることが言えると思います。
そのような意味では問題が大きいと言わざるを得ません。例え限定的な情報であったとしても、今以上の情報開示については反対です。なお、冨髙委員からも発言がありましたが、そもそも労災保険給付の情報があろうがなかろうが、事業主は再発防止を講じることが当然の義務です。そのような観点からも、現行の情報開示で十分であると考えているところです。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 ありがとうございます。中間報告書でも有識者の意見として記載されていますが、事業主は災害防止の努力を求められており、どのような災害防止対策を取るかは、災害の内容を知ることが出発点です。個人情報への配慮から限界はありつつも、災害発生の有無、すなわち支給・不支給決定の事実程度の情報については、メリット制適用の有無にかかわらず全ての事業主に情報提供がなされるべきとの御指摘もあります。
労災の支給決定の事実などを知らせることにより、事業主による不当な圧力が生じ得るというような御指摘もありました。仮にそのような圧力を掛けようとするのであれば、これも繰り返しになりますが、現状においても、労災保険給付請求書への証明や監督署による調査を通じ、事業主が請求手続の存在を把握した段階で同様の事態の発生が想定されるのではないかと思います。支給・不支給決定の事実を事業主に通知することを契機として、初めてそのような圧力が生じるものではないと感じています。むしろ早期の災害発生防止対策を促すという意味で、事業主に対して情報提供を行う意義は非常に大きいと思う次第です。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。冨髙委員、お願いいたします。
○冨髙委員 今の笠井委員の御発言ですが、早期の再発防止は、私どもも大変重要だと思っています。その観点で言えば、むしろ自分たちの事業所の中でどのような災害が起きているのかということが、労災支給決定通知がなければ分からないということ自体が問題だと思っています。事業所で業務上の事故などが起きていることを把握し、早期に再発合資をはかることが先決ではないかと思っています。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他にはいかがでしょうか。松尾委員、お願いいたします。
○松尾委員 やはり支給・不支給決定の関係では、負傷だと物理的な問題、けがの場合は非常に見た目にも分かるのですが、疾病など、そういう病気の類のものについては、そういった問題が事前に分かるということでもないし、実際にどういう労働環境で働いていたのかということも含めて、非常に機微な問題だと思いますから、やはり労働者側としてはきちっとした、そういった意味では影響がないようにする必要もあると思います。この間、労働者側委員がおっしゃったことだと私も思っていますので、よろしくお願いいたします。
○小畑部会長 ありがとうございました。他はよろしいでしょうか。金井委員、お願いいたします。
○金井委員 情報が開示されることによって、具体的にどういった意味で事業主が事故災害防止につなげていけるのかという点を御説明いただければと思います。
○小畑部会長 こちらは笠井委員に御質問ですか、事務局に御質問ですか。
○金井委員 事務局として知見がおありであれば事務局でも結構ですし、使用者側委員でも大丈夫です。
○小畑部会長 事務局として。
○金井委員 では、両方からお願いします。
○笠井委員 まず私からお答えします。ほかの使用者側委員の方で何か補足があればお願いしたいと思います。まず労災かどうかというところ、どのように認定されたのか、労災かどうかについて事業主としては別の見解を持ち得ることもあろうかと思います。労災認定の理由、そしてそのことが保険料にどのように反映されてくるのか、基礎情報としていただきたいということではあります。
それから、私のほうで具体的な事例を把握しているわけではないのですが、事業場の環境に応じて、どのような要因でこのような労災になり、再発防止にいかしていく。一般的に申し上げれば、そのような取組みが求められています。それは支給決定の中身を早期に知ることで、適切な対策が取り得るということではないかと思います。
○小畑部会長 金井委員、いかがでしょうか。武知委員、お願いいたします。
○武知委員 やはり事業主側が支給・不支給の情報が欲しいというのは、それが労働災害として認められたのか、第三者から客観的に、これは業務に起因していると判断されたのかというところが気になるからです。職場で発生した事故でしたら、その方がけがをしたという事実は把握していますが、疾病、特に精神障害系のものですと、その方が発症していることは承知はしていても、それが会社としての責任があるかどうかという点が判定しにくく、けがにしても疾病にしても、労災請求がどのような結果になったのかを把握することが重要だと考えています。
○小畑部会長 どうでしょうか。
○金井委員 労働災害か否か分かりにくい部分について聞きたいのではないかと思っていましたが、認識のとおりではありました。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかは御意見、御質問などはございませんか。よろしいでしょうか。
それでは、特にないようでしたら、最後に暫定任意適用について議論していきたいと思います。資料の30ページ目にある論点に添いまして意見をお伺いできればと思います。御意見いかがでしょうか。白山委員、お願いいたします。
○白山委員 ありがとうございます。まず論点①の部分ですが、労働側としては、今回の見直しを機に暫定任意適用事業は廃止して、強制適用を図っていくべきと考えています。そもそも労災保険制度は、全ての労働者、全ての事業者に等しく適用され、補償を受けられるようにすべきです。また、暫定任意適用事業は文字どおり「暫定」であって、いつまでも続けるものではないと考えます。
暫定任意適用事業が設けられている趣旨を、資料の36ページでお示しいただきました。その中では「労働実態の把握が困難」とありますが、農業について言えば、ゆい・手間替えといった農業特有の慣行も残っていますが、労働実態としては現代的になっていると考えます。また、労働実態の現代化という意味では、林業や水産業についても同様であると捉えています。
そうした中で、災害リスクについて目を向ければ、資料の40ページにあるとおり、任意適用事業場の中でも死亡を含む重大事故が起こっています。こういったことを踏まえると、その保護の必要性はとても高いと考えています。
また、農林水産業を魅力あるものとするためには、若者も含めて安心して働くことができる環境整備がとても重要だと思っています。その手段の1つが労災保険の強制適用であると思います。
次に、論点②の強制適用を進める上での留意点についてです。この点は、研究会の中間報告書で整理していただいているとおり、関係者への周知や保険料の徴収の事務負担の軽減などの方策は検討しなければならないと考えます。ただ、これらの点は強制適用していく前提に立った上で検討をすべきです。例えば、事務負担軽減は資料の41ページにある労働保険事務組合の活用も含めて対応を図っていくといった、前向きな方向で課題をクリアしていくべきと考えています。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。いかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 論点①と論点②のそれぞれについて発言します。まずは論点①です。どのような職場で働く労働者であっても、業務による負傷や疾病に対して適切な補償が受けられるよう、暫定任意適用事業を見直し、労災保険を強制適用するという方向性に賛同します。セーフティネットを確保し、労働者が安全・安心に働ける環境が整えば、地方において特に重要な産業でもある農林水産業の持続可能性を高める効果も期待できるように思います。
なお、論点②に関する意見となりますが、資料1の36と37ページに示された暫定任意適用事業が存置されている理由によれば、①農家特有の習慣のため、労働者とそれ以外の者の区別が困難、②事業の性質上、実態把握が困難。③対象数が膨大であるといった課題が挙げられています。暫定任意適用事業の廃止に当たっては、これらの課題を解決することはもとより、新たに強制適用となる事業場における保険料の申告・納付手続や保険関係の成立手続を円滑に実施できる環境の確保が重要です。任意加入をしている事業の実態も十分に踏まえつつ、労働保険事務組合等の外部組織の活用も視野に入れながら、丁寧に検討していく必要があると考えます。
事務局に1点御質問です。仮に暫定任意事業を廃止した場合、新たに強制適用の対象となる事業や労働者の数について、想定している数値がありましたら教えていただけますか。
○小畑部会長 それでは、事務局からお答えをお願いいたします。
○労災管理課長 今日お示しさせていただいた資料の39ページに農業の労働環境改善に向けた政策の在り方に関する研究会の資料を添付しています。農業における状況で申し上げますと、上の緑色の枠の中にあります常雇いが1から4人の個人経営体、最大で約2万経営体というものと、臨時雇いが1人以上の個人経営体、約12万経営体ということで、重なりがある部分もあるのではないかと思いますが、説明時にも申し上げましたが、合計の14万経営体が対象になるのではないかと思っています。
また、一方で任意で既に加入されている経営体も2.3万ありますので、そこについては引き続き労災保険に加入していただくということになると思っています。
○小畑部会長 ありがとうございます。笠井委員、よろしいですか。
○笠井委員 ありがとうございます。任意加入している2.3万経営体は、強制適用に移行するという理解でよろしいでしょうか。
○労災管理課長 はい、そのような理解で結構です。
○笠井委員 ありがとうございます。
○小畑部会長 ありがとうございます。オンラインから水島委員が御発言を希望されていますので、お願いいたします。
○水島委員 ありがとうございます。ただいま労働者側委員、使用者側委員から御発言がありましたが、論点①については、私も現在の暫定任意適用を見直し、労災保険法を強制適用すべきと考えます。
論点②に関連して、事務局の説明でも言及がありましたが、研究会報告書に記載のように農林水産省と連携して順次強制適用に向けた検討を進めるのが適当と考えます。強制適用に向けた検討に当たっては、農林水産事業者の理解を深めることが必要ですし、また、事業者の把握や保険料徴収上の課題について、現状把握や解決方法の見通しを具体的に立てることが必要と考えます。そのため可能であれば、農林水産業界の団体の方をこの部会にお呼びして、ヒアリングの機会を頂ければと思います。また、今般の見直しで強制適用になるのは小規模事業場ですので、制度をより丁寧に周知する必要があると考えます。また、適用や徴収に係る実務を適切に実施するための準備期間も必要で、それなりの期間が必要と考えます。施行時期に関しては今、申し上げたようなことも踏まえて決めるのが適切と考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ヒアリングに関する御意見がございました。事務局、いかがでしょうか。
○労災管理課長 団体のヒアリングについては、部会委員の皆様、それから業所管省庁ともよく御相談しながら検討していきたいと考えます。
○小畑部会長 水島委員、よろしいでしょうか。
○水島委員 ありがとうございます。是非、実施の方向で御検討いただければと思います。よろしくお願いいたします。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。松尾委員、お願いいたします。
○松尾委員 私も、強制適用をするというのは必要だと思います。建設業では既に強制適用だったのですが、この建設産業の従事者が減少するということで、2012年から2017年にかけて国交省と厚労省で社会保険未加入対策推進ということで、この間、行ってきました。その中では、労働保険も含めて社会保険の適用ということをきちっと進めていこうということで、業界も労働者側も零細事業者も含めて進めてきた経緯があります。ここに記載されていた環境の関係では、やはりきちっと連携しないとうまくいかないということだと思います。
それと質問したいのは、農林水産省は、この農業に従事する方の将来というか、建設業の場合は国交省や厚労省が処遇の改善、未来ある建設産業の従事者をきちっと育成していく、担い手を育成する。こういうことを掲げていますので、当の農林水産省がどのように考えているか、この間の議論で出ているかと思いますが、どのように考えていらっしゃるのかということをお伺いしたいと思います。以上です。
○小畑部会長 御質問ですので、事務局、お願いいたします。
○労災管理課長 何度か御紹介した農水省の検討会ですが、これも立ち上げた趣旨が、できるだけ農業に労働者として就業してほしいという希望を持っているということで、当然のことながら、魅力的な職場や人材確保するためこの検討会を立ち上げているということです。その中で労災保険の適用についても議論していただいていると認識しています。農業については、魅力ある職場、人材確保の観点で、農業で働く人を増やそうという観点で議論されていると思います。
また、漁業、林業についても、当然、農林水産省として同じ第一次産業ということで、農業に遅れないよう同じ考え方で適用していこうとしていると承知しています。
○小畑部会長 松尾委員、よろしいでしょうか。
○松尾委員 承知しました。あとは細かなことですが、ここに農業の関係で、手間の貸し借りの関係も書いてあったのですが、建設業でもいわゆる住宅の建前のときの関係で貸し借りなどというのは以前ありましたが、基本的にこういうものはもうなくしていこうということで、契約を交わし、近代化を進める。現行の制度でも処遇改善をするための方策というのはあるかと思います。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかに御意見、御質問等はありませんか。よろしいでしょうか。
御意見いただきまして、ありがとうございました。本日、議題としました各テーマについて、委員の皆様方から様々な貴重な御意見、御指摘を頂戴しました。事務局におかれましては、本日の議論を踏まえて整理をしていただいて、次回以降の資料に反映していただくようにお願いしたいと思います。
それでは、本日、予定していた議題は以上ということになりますので、部会を終了としますが、事務局から、次回日程についてお知らせをお願いいたします。
○労災管理課長 次回の日程については、事務局より追って連絡させていただきます。
○小畑部会長 本日は以上とします。皆様、お忙しい中、誠にありがとうございました。
まず、この度、新たに就任された委員を御紹介いたします。平川達斎委員に代わりまして、日本基幹産業労働組合連合会中央執行委員、岩﨑優弥様です。本日、御欠席と伺っております。また、事務局の人事異動がありましたので、御挨拶をお願いいたします。
○審議官(賃金、労災担当) 10月1日付けで着任いたしました審議官の松本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○小畑部会長 ありがとうございます。本日の委員の出欠状況ですが、先ほど申し上げました岩﨑委員、宮智委員が御欠席と伺っております。また、小西委員、武林委員が遅れての御出席、最川委員が遅れての御出席、そして途中での御退席と伺っております。出席者は現在16名ですが、公益代表、労働者代表、使用者代表、それぞれ3分の1以上の出席がありますので、定足数を満たしていることを御報告申し上げます。カメラ撮影等はここまでとさせていただきますので、御協力をお願いいたします。
それでは、議題に入ります。本日の議題は、「労災保険制度の在り方について」です。事務局より資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長 それでは、資料1を御覧ください。「労災保険制度の具体的課題について」、今回は徴収等関係を中心にまとめています。まず、「メリット制」についてです。2ページを御覧ください。現行制度ですが、メリット制とは、事業主の負担の公平を図るとともに、事業主の災害防止努力を促進するため、一定規模以上の事業主については、個別の事業場の災害発生状況に応じて労災保険率又は労災保険料を増減するものです。事業ごとに、その事業主が納めた労災保険料相当額に対する労災保険給付相当額の割合に応じて最大40%の範囲内で労災保険率及び労災保険料を増減させる制度です。
論点としては、①メリット制の意義・効果についてどのように考えるか。②は、前回の遅発性疾病の関係の論点ですが、有害業務に従事した最終の事業場を退職した後、別の事業場で有害業務以外の業務に就業中に発症した場合における給付基礎日額の考え方について、仮に、原則として発症時賃金を用いるとした場合において、疾病の発症原因となった有害業務への従事が行われた最終事業場に対するメリット制の適用をどのように考えるか。この2つを掲載しています。
これらは、研究会中間報告書で、メリット制の効果については、一定の災害防止効果があり、また、事業主の負担の公平性の観点からもメリット制には一定の意義が認められるものと考える。このため、メリット制を存続させ適切に運用することが適当と考える。疾病の発症原因となった有害業務への従事が行われた最終事業場に対するメリット制の適用においては、被災労働者のばく露時賃金を基礎とした給付のみを加味することが適当と考えるとされたことを受けての論点です。
3ページは、メリット制に関して、研究会中間報告書で専門的な見地から議論を行うことが必要とされたものであり、メリット収支率の算定対象は妥当かという論点についての記載です。
4ページは、「メリット制の趣旨・目的」をまとめています。タイトルの下に記載がありますが、メリット制は、個々の事業ごとの収支率をみて、その事業の保険料を調整し、個々の事業主の負担の具体的公平性を図るとともに、その自主的な災害防止の努力を促進しようとするもので、労災保険料の最も労災保険らしいところの一つということができるものです。
5ページは、「メリット制の適用要件」です。継続事業、一括有期事業、単独有期事業の要件は、それぞれ資料に記載のとおりです。資料の下に、それぞれのメリット制の適用例を図示しています。
6ページは、「労災保険料の計算方法」です。基本は1つ目の○のとおり、全労働者の支払われた賃金総額に業種別労災保険率を乗じて算出されますが、メリット制が適用される場合は、2つ目の○のとおり継続事業・一括有期事業の場合には、非業務災害率やメリット増減率を反映した計算方法で算出されます。
7ページは、「メリット収支率の計算方法」です。継続事業・一括有期事業の場合、3保険年度の間に業務災害に関して支払われた保険給付等から年金差額一時金等の額を引いたものを分子として、3保険年度間に収納した業務災害相当分の保険料に第一種調整率を乗じたものを分母とする割り算をすることで算出しています。
8ページは、「特例メリット制」についてです。継続事業のメリット制が適用される中小企業の事業主が、厚生労働省令で定める労働者の安全又は衛生を確保するための措置を講じた場合であって、「労災保険率特例適用申告書」を提出したときは、メリット増減率の幅を±40%から±45%に変える特例を受けることができます。本制度は、中小企業における労働災害防止活動を一層促進して成果を上げることを目的としており、適用対象は、資料に記載の(1)から(4)までの要件を全て満たす事業です。
9ページは、「メリット制の適用状況」です。令和5年度の適用状況ですが、事業場数では約11万事業場で、全体の約4%、労働者数で見ると約3,563万人で、全体の59%です。10ページは、「増減率別メリット制適用事業場数」です。令和5年度にメリット制が適用された継続事業、一括有期事業及び単独有期事業約14万7,000事業場のうち、8割を超す事業場が労災保険率を引き下げて適用され、その半数近くが-40%で適用されている状況です。
11ページは、「メリット制による保険料の増減額」です。令和5年度にメリット制が適用された約14万7,000事業場のうち、保険率等が割引となった事業場は約12万1,700事業場、保険率等が割増しとなった事業場は約2万3,100事業場で、全メリット適用事業場に占める割合は、それぞれ約83%、約16%です。また、メリット制の適用により引下げとなった差額保険料は1,767億円、逆に、メリット制の適用により引上げとなった差額保険料は195億円となっていますが、この差額分を見越して労災保険率を設定しています。
12ページからは、労災保険制度の在り方に関する研究会に提示した「メリット制度の効果に関する検証結果」についてです。12ページは検証方法ですが、メリット制の効果について、メリット増減率がプラスであるメリット適用事業場と、マイナスであるメリット適用事業場に区分して、建設事業等6業種のメリット適用事業場の被災者数増減率を全事業の被災者数増減率と比較しました。
検証結果は、プラスでメリット制が適用された事業場については、全事業場よりも増減率がおおむね低いことから、一定程度はメリット制の効果があったと考えられること、マイナスでメリット制が適用された事業場については、業種全体よりも増減率が低い場合と高い場合が同程度混在しており、これだけをもってメリット制の効果の有無を判断できるものではないが、マイナスでメリット制が適用された事業場は、過去の保険収支が良かったことや、もともと被災者数がゼロである事業場割合が多いため、これ以上被災者数を減らすことができない事業場であることを考慮する必要があるとまとめています。
13ページは、検証方法の詳細です。資料に記載の①から④までをプラスでメリット制が適用された事業場、⑤から⑧までをマイナスでメリット制が適用された事業場としています。14ページがその結果です。平成30年度から令和4年度の6業種における①から⑧までのパターンごとの増減率を、資料の一番右の⑨と比較して、⑨より増減率が小さい場合は赤字で表示しています。赤字が多いほどメリット制による被災者数の増減率が抑制され、メリット制の効果が出ていると考えております。
15ページは、「マイナスでメリット制が適用された事業場の前年度の災害発生状況の特徴について」です。マイナスでメリット制が適用された事業場は、過去の保険収支が良く災害が少なかったことから、マイナスのメリット制が適用された時点で、一定程度はメリット制の効果があったと考えてよいのではないかといったことを特徴としてまとめています。
16ページは、「メリット増減率が高い事業場のメリット増減率の推移」です。メリット増減率は、適用する年度の前々年度までの3年間における保険収支を基礎とするため、例えば、死亡災害を起こして多額の保険給付を行った場合、3年間にわたってメリット増減率に影響を及ぼします。平成29年度のメリット増減率の基礎となった災害が影響を及ぼさなくなる3年後(令和2年度)、またその3年後(令和5年度)のメリット増減率を分析してみると、平成29年度に+40%であった7,178事業場のうち、令和2年度も+40%であった事業場は21.7%、令和5年度も+40%であった事業場は6.9%と減っていくことが分かりました。
17ページは、「労災かくしの動機に係る結果」です。令和5年にいわゆる労災かくしで送検した103事業者に関し、その動機について複数回答により調査した結果です。資料中の赤枠で囲っている「メリット制による労災保険料の増額が生じることを懸念した」という回答はゼロとなっています。
18ページは、2つ目の論点である遅発性疾病に関するものですが、「複数事業労働者に係る保険給付及び保険料負担」を図示したものです。A事業場とB事業場の2つの事業場に使用される労働者が、A事業場における業務災害により傷病等が発生したケースを例示しています。給付基礎日額は、A事業場の5,000円とB事業場の1万円が合算され1万5,000円ですが、メリット収支率への反映は、業務災害が発生したA事業場の賃金額である5,000円を基に算定した保険給付額に相当する額に限り、A事業場のメリット収支率のみに反映されるという取扱いとなっています。
続いて、「労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題」です。20ページです。現行制度ですが、労災保険の支給決定等の処分に当たっては、労災保険給付を請求する際の事業主証明等により、事業主は労災保険給付請求がされることを認識できますが、最終的な決定は、事業主には通知されません。また、メリット制の対象となる事業場において、労災事故が発生し、労災保険給付が支給決定されると、当該事業場における労災保険給付総額に応じて、その翌々年度以降のメリット収支率に反映され、労災保険率が増減され、都道府県労働局長から事業主に労災保険率決定通知書が送付されます。また、事業主が、通知された率と異なる率によって保険料の申告・納付を行った場合、都道府県労働局長が労災保険料を職権で決定する認定処分を行い、認定決定通知書が送付されます。しかし、労災保険率決定の基礎となった労災保険給付に関する情報については、いずれの通知書でも事業主には通知されないという取扱いになっています。
論点としては、①労災保険給付の支給決定(不支給決定)の事実を、事業主に対して情報提供することについてどのように考えるか。また、その際、被災労働者の個人情報の取扱いについてはどのように考えるか。②メリット制の適用を受ける事業主に対して、労災保険率の算定の基礎となった労災保険給付に関する情報を提供することについてどのように考えるか。また、その際、提供する情報の範囲について、保険給付に関する情報には被災労働者に係る機微な情報を含み得ることについてどのように考えるか。この2つを記載しています。
これらは、研究会中間報告書で、労災保険給付の支給決定(不支給決定)の事実については、事業主に対して情報提供されることが適当と考える。その際、被災労働者の個人情報の取扱いに留意しつつ、検討する必要がある。メリット制適用事業場の事業主に対して提供する労災保険率の決定の基礎となった保険給付に関する情報については、事業主に対して提供され、事業主が自ら負担する保険料がなぜ増減したのかが分かる情報を知り得る仕組みが設けられることが適当と考える。その際、提供する情報の範囲については、保険給付に関する情報には被災労働者に係る機微な情報を含み得ることに留意しつつ、検討する必要があるとされたことを受けての論点です。
22ページは、「現行の支給決定(不支給決定)の流れ」です。負傷・疾病が発生した場合、事業主は労災保険給付請求書中の事業主証明欄に署名する必要があります。また、事業場への訪問や事業主への聴取等のほか、事業主の意見申出制度なども設けられていますが、支給・不支給の決定結果について事業主に通知される仕組みはありません。参考として現行規定を記載しています。
23ページは、「メリット制適用の流れ」です。当年度5月に、前々年度までの労災保険給付を反映した「労災保険率決定通知書」によって事業主に通知され、6月1日からの年度更新期間中に、事業主が概算・確定保険料を申告・納付しますが、申告額に誤りがあると判断された場合には、都道府県労働局長が認定決定を行います。
24ページは、「労災保険率決定通知書」により事業主に通知される内容です。メリット料率、メリット収支率、メリット増減率等が通知されます。25ページは、「認定決定通知書」により事業主に通知される内容です。賃金総額、労災保険率決定通知書で通知した労災保険率、保険料額、認定決定の理由等、事業主等が申告した労働保険料に差額が生じた根拠が通知されます。26ページと27ページは再掲の資料ですので、説明は省略します。
28ページは、メリット制適用事業主の手続保障に関する最高裁の言及です。令和6年7月のあんしん財団に関する判決では、メリット制の適用を受ける事業主は、メリット収支率の算出の基礎とされた労災保険給付の支給決定処分について、メリット制が適用されることにより労働保険料が増額されることを理由として、取消訴訟を提起することはできない旨を判示されました。同判決の理由では、メリット制の適用を受ける事業主は、「自己に対する保険料認定処分についての不服申立又はその取消訴訟において、当該保険料認定処分自体の違法事由として、客観的に支給要件を満たさない労災保険給付の額が基礎とされたことにより労働保険料が増額されたことを主張できる」ことから、「事業主の手続保障に欠けるところはない」旨言及されています。
続いて、「暫定任意適用」です。30ページを御覧ください。労災保険は、原則として、労働者を使用する全ての事業に適用されますが、農林水産業のうち、小規模な個人経営の事業については、「暫定任意適用事業」として、強制適用の例外となっています。
論点としては、①現在、暫定任意適用とされている農林水産事業について、労災保険法を強制適用することについてどのように考えるか。②仮に全面的に強制適用する場合、どのような点に留意するべきか。この2つを記載しています。
これらは、研究会中間報告書で、暫定任意適用事業については、農林水産省とも連携の上、順次、強制適用に向けた検討を進めることが適当と考える。その際、農林水産事業者の理解に加え、これまで適用上の課題とされてきた事業者の把握や、保険料の徴収上の課題がどの程度解決されつつあるのかの具体的な検証が必要であり、また、零細な事業主の事務負担の軽減等も十分に配慮する必要がある。この点、その実現可能性や実効性についても農林水産省の協力も得つつ、検討することが必要である。また、林業及び水産業についても農業と同様、課題の解決策を検証した上で検討を進める必要があるとされたことを受けての論点です。
31ページは、「暫定任意適用事業の概要」です。個人経営で常時5人未満の労働者を使用する農業等、資料に記載の林業、水産業が「暫定任意適用事業」となっています。関係する法令の主な条文構造ですが、根拠は法律にありますけれども、具体的な対象事業は政令へ委任され、告示において任意適用事業の例外となる事業を規定しているという構造です。
32ページは、「暫定任意適用事業に係る特例」です。暫定任意適用事業の事業場においては、労災保険に係る保険関係の成立前に発生した業務上の傷病についても、後刻、事業主の申請により、労災保険法の規定による保険給付が行われます。ただし、本特例による保険給付がなされた場合、事業主は所定の期間、労働保険料のほかに特別保険料を納付しなければならないとなっています。当該申請は、事業場で使用する労働者の過半数が希望する場合には、事業主は申請しなければならないと規定されています。33ページと34ページは、「暫定任意適用事業の関係条文」です。
35ページは、「暫定任意適用事業に係る改正経緯等」です。昭和44年に「暫定任意適用事業」が法令上規定され、その後、平成3年に強制適用事業の範囲が拡大され、現在に至っています。
36、37ページは、「暫定任意適用事業が存置されている理由」です。平成3年の通達では、全面適用の困難性についての記述があり、農家では、ゆい・手間替えという労力の相互融通の習慣があり、ゆい・手間替えによって働く者は一般的には労働者とはいえないが、これらの者と労働者とは外見的には区別が困難であること等が挙げられています。
38ページは、「農林水産業における任意加入状況」です。令和7年9月時点で、任意加入事業数及び労働者数は、資料に記載のとおりです。39ページは、今年8月27日に開催された農林水産省の「第6回農業の労働環境改善に向けた政策の在り方に関する検討会」の資料です。暫定任意適用を受けている経営体数は、農林水産省が2020年に実施した農業センサスによると、あらかじめ年間7か月以上の契約で、主に農業経営のために雇った常雇いが1人から4人の経営体が約2万経営体、手間替え・ゆい等を含む農業経営のために一時的に雇った臨時雇いが1人以上の経営体が約12万経営体となっています。このため、最大で合計約14万経営体が加入推進の周知対象になると考えますが、既に労災保険に任意加入している経営体も約2.3万経営体あるという状況です。
40ページは、「暫定任意適用事業のうち、保険関係を成立している事業の被災状況の調査結果」です。令和6年6月19日時点において、任意適用事業場として保険関係を成立している2万5,602事業場のうち、令和3年度から令和5年度までの間に支給決定された重大事故の内容をまとめています。
最後、41ページは「労働保険事務組合」の概要です。本制度は、中小零細事業主が、事務負担を軽減するため、労働保険料の申告・納付や各種届出等の労働保険事務を厚生労働大臣の認可を受けた商工会等の事業主の団体に委託できる制度です。暫定任意適用事業が強制適用になった際には、活用できるものと考えています。
資料2を御覧ください。暫定任意適用事業に関する資料ですが、先ほど御紹介した「第6回農業の労働環境改善に向けた政策の在り方に関する検討会」の議事概要と、委員等一覧です。議題2として労災保険制度が取り上げられましたが、視点1の暫定任意適用事業については、強制適用に向けた検討を進めることについて、賛成であること等が記載されています。また、視点2の農業経営体の把握・制度周知等については、販売農家全般に対しての周知の必要性や、地域のJAや地方行政・労働基準監督署等の公共機関が果たす役割は非常に大きいので、厚生労働省と農林水産省の連携による周知が効果的であること、働く人にも、農業でも労災保険に加入できるということを認識してもらうことで、加入促進につながること等の意見がありました。
視点3の事務負担の軽減については、何らかの公的な支援の必要性、事務負担軽減のための賃金台帳の整備の推進、労務管理ソフトやオンライン申請の活用、社会保険労務士を中心とした地域における支援体制の構築等の意見があったところです。事務局からの説明は以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。それでは、各テーマにつきまして議論を進めたいと思います。多岐にわたるテーマがありますので、メリット制、労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題、暫定任意適用の3つに区切りたいと思います。まずはメリット制について、資料の2ページ目にある論点に沿いまして御意見をお伺いできればと思います。御意見、御質問等ございましたら、会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから御参加の委員におかれましてはチャットのメッセージから「発言希望」と入力いただくか、挙手ボタンで御連絡をお願いいたします。
それでは、御意見、御質問等ありますでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 論点①と②のそれぞれについて発言いたします。まずは論点①です。資料1の12ページから16ページにかけて、研究会の資料を再掲する形で、データに基づくメリット制の検証結果が示されています。これらの結果は、メリット制の目的である、個々の事業主の負担の公平性確保と自主的な災害防止努力の促進について、一定の効果を裏付けるものと受け止めています。
また、17ページの調査結果によれば、労災かくしの動機としてメリット制を挙げた事業者はゼロとなっています。送検に至った事業者を対象とし、また行政当局を通じた調査でもありますので、実態を網羅的に把握したものとは言い切れないかもしれませんが、少なくともメリット制が労災かくしを助長するという仮説を証明するものではないと理解しています。中間報告書の結論に従い、メリット制を存続させ適切に運用すべきと考えます。
次に、論点②について申し上げます。前回の部会でも発言いたしましたとおり、仮に発症時賃金を原則とする見直しを行うのであれば、中間報告書の記載のとおり、最終事業場に対するメリット制の適用に際しては、被災労働者のばく露時賃金を基礎とした給付のみを加味すべきと考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。他にいかがでしょうか。砂原委員、お願いいたします。
○砂原委員 御説明ありがとうございました。メリット制について、私も意見を申し述べたいと思います。今、お話がありましたように、メリット制については今後も必要だと考えております。やはり、これは労災「保険」ですから、事業所ごとに異なるリスクに見合う保険料というのが、原則です。実際、日本においても、民間保険などにおいては、メリット制を導入することで実際の事故の発生を一定程度抑止しているという効果も出ていますし、諸外国にも同様の仕組みがあるというように思います。
逆に言えば、事務局に1つお願いですけれども、諸外国の労災保険において、こういうメリット制の導入有無という辺りも、ちょっと併せて御教示いただけると、議論を深める上ではいいのかなというようにも感じた次第です。
日本においては、一番分かりやすいのは自動車保険などにおいて、事故が起きると翌年保険料が上がるというような等級制度というものが運用されておりますけれども、これによって、やはり、息子が運転する時に「気を付けなさい」と声をかけることで運転者が事故を気にするというようなことも実際あると耳にします。
労災保険が、全く同じとは申しませんけれども、そういう効果があるということは間違いないことだと思いますので、是非メリデメ制度を今後も継続していただきたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。諸外国のことにつきましては、また事務局のほうでお考えいただければと思います。他にいかがでしょうか。冨髙委員、お願いいたします。
○冨髙委員 ありがとうございます。私からは論点1のメリット制の意義・効果をどう考えるかという点も含めて、メリット制について意見を申し上げたいと思います。先ほど事務局から説明がございましたように、メリット制は、事業主間の負担の公平性確保と事業主の災害防止努力を促す目的で設けられたものであると考えております。だからこそ、その目的を踏まえて今日的に役割を果たし得ているのかという点を十分に検証して、その制度としての在り方を検討する必要があると思っております。
この点、研究会においても事業主の災害防止努力促進効果があるのか、労災かくしにつながっていないのかという点について一定程度検証いただいておりますが、検証が十分だったかというと、そうではないのではないかと考えているところです。
例えば資料1の14ページにあるデータは、研究会でも示されているものですが、これを見る限り、プラスのメリット制が適用された事業場の多くは被災者の増減率が抑制されていて一定効果があると考えられます。しかし、マイナスのメリット制が適用された事業場での効果は判然としません。
また、資料16ページの+40%のメリット制が適用された事業場の多くが、6年後には+40%から脱出しているということもお示しいただいておりますが、これが本当にメリット制によって災害防止努力が図られた結果なのかという点は、もう少し深掘りする必要があるのではないかと考えているところです。
さらに17ページでは、送検事例の中で労災かくしの動機にメリット制を挙げたケースはゼロであるとのデータをお示しいただき、この結果をもって研究会では「労災かくしを助長するとの懸念についても、メリット制の意義を損なうほどの影響があるとは確認されなかった」と結論付けられております。
しかし、必ずしも労災かくしの動機としてメリット制を明示的に挙げていなくても、例えば、「監督署による司法処分や行政指導等を受けることを懸念した」という回答の中に含まれている可能性もあるのではないかと考えているところです。
こうした状況を踏まえると、メリット制廃止を求める意見もある中において、研究会のように「メリット制は一定の効果があり、存続させることが適当」という結論を導くことは時期尚早ではないかと考えているところです。改めて災害防止効果や労災かくしの要因についてもう少し含めて詳細な分析を行っていただいた上での専門的な検討、具体的には、現行の増減率の要件が妥当なのかはもとより、制度の是非も含めた在り方も含めて、より根源的に検討していくべきではないかと考えているところです。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。他はいかがでしょうか。福田委員、お願いいたします。
○福田委員 では、私のほうからも、1点目、2点目について、意見を申し上げさせていただきます。まず論点①についてですけれども、私は個人的には企業が安全対策をする理由として、このメリット制があるからとか、そういうことでやっているのではないとは思っております。先ほどの厚生労働省さんの分析で、多少そういったことも見えるのではないかと、こういう分析もしていただいておりますけれども、あくまで、共に働く仲間が仕事をすることによってけがをする、病気になると。こういうことがあってはならないと。こういう気持ちで安全対策をしているのではないかと考えておりますし、考えたいと思うのですけれども、一方で仮にそうだったとしても、現実的に労災給付を多く受けている企業もあれば、そうではない企業もあるということであれば、自動車保険等世間の一般的な保険制度の例を引くまでもなく、やはり受給の多寡、これを保険料率にも反映させるというのは、むしろ当然のことではないかと思います。災害防止効果どうのこうのという以前に、負担に沿った料率は本来あるべきだというように思います。
なお、中間報告書にも言及してあります、労災かくしを助長する懸念ということについてですけれども、これは、これまで弊社の関係先等においてそうした事案が起こるたびに、弊社としても、どうしてそういうことが起こってしまったのかということを、委託先の経営者から現場の一人一人の作業者までインタビューを徹底的に行う中で、その原因を探り対策を検討すると、こういった取組を行っておるわけですけれども、そういった中においても、労災かくしの動機としてこのメリット制への影響を言及した事例は、少なくとも1例もございませんでしたので、この点は今回の厚生労働省さんの調査の結果にも符合することではないかなということで、発言をさせていただきます。
あと、論点②については、こちらは前回の本会であったような被災者保護の観点とは全く別の論点であるかと思いますので、これは中間報告書のほうで記載いただいておりますような結論以外、今はちょっと考え難いかなというように思っている次第でございます。私のほうからは以上でございます。
○小畑部会長 ありがとうございました。他はいかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 ありがとうございます。先ほど、冨髙委員の言及されました資料1の14ページにつきまして、マイナスのメリット制が適用された事業場の効果は判然としないというような御指摘があったかと存じます。そのことにつきましては、次の15ページで、マイナスでメリット制が適用された事業場の前年度の災害発生状況の特徴として、上の青い四角では、「マイナスでメリット制が適用された事業場は、過去の保険収支が良く災害が少なかったことから、マイナスのメリット制が適用された時点で、一定程度はメリット制の効果があったと考えてよいのではないか」ということや、「もともと被災者数がゼロであるため、被災者数を減らすことが一切できない事業場や、減らしても効果は限定的である事業場が、全メリット適用事業場より多く存在することから、災害防止に取り組んだとしても、減る効果が一切出ない・出にくいといったことを考慮する必要がある」ということが記載されています。このことについて改めて留意いただきたいと申し上げます。
メリット制が労災かくしにつながっているのではないかという点に関しましては、まずはそういった御主張の裏付けとなるエビデンスをお示しいただきたいと思うところです。その上で、メリット制が労災かくしの動機付けを与えているという合理的な根拠があると仮定しても、メリット制を廃止すれば、労災かくしの問題が全て解決するとは言い難いと考えます。
17ページの調査によれば、元請事業者との関係性や、司法処分・行政処分への懸念、自社の企業イメージへの低下等が大きな要因となり労災かくしにつながっています。労災かくしは刑事事件として書類送検され、罰則が科されること、また、公共工事の入札における指名停止処分にもつながり得ることもあります。こうしたことを改めて周知徹底することが大切ではないかと思います。企業にとっても、甚大なレピュテーションリスクを生じさせることでもございます。先ほど申し上げたとおり、メリット制には個々の事業主の負担の公平性を確保するとともに、自主的な災害防止努力を促進するという効果がございます。中間報告書でも、その検証を通じて、メリット制の意義を損なうほどの悪影響は確認されなかったと結論付けていますので、制度の意義や、趣旨、効果に照らし、メリット制を存続すべきと考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ここまでのところで、事務局から何かございますでしょうか。
○労災管理課長 特に、こちらからはコメントございません。
○小畑部会長 ありがとうございます。他に御意見、御質問などございますでしょうか。金井委員、お願いいたします。
○金井委員 17ページの労災かくしの動機に係る調査の選択肢について、これは1つしか選べないのか、それとも複数選択できるのかを教えていただきたいと思います。それによって結果は変わってくると思います。例えば、1つしか選べなければ2番目にあった理由は隠れるわけですので、その点も含めてより詳細に分析をした上で、結論を出していくことが適当ではないかと考えるところです。
先ほど笠井委員から、15ページについて補足がありましたが、こちらについても同様に状況を精査した上で結論を出していくことがいいのではないかと思います。今すぐ「これがこうだ」と決め付けるのではなく慎重に議論したほうが良いと思いましたのでコメントさせていただきました。以上です。
○労災管理課長 事務局です。金井委員の今の御指摘ですけれど、この17ページの調査ですけれども、これは複数回答ということですので、回答があるものは幾つでもマルを付けてもいいということでございます。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。特にございませんでしょうか。ありがとうございました。特にないようでしたら、次の論点に移ってまいりたいと思います。
続きまして、労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題につきまして、議論してまいりたいと思います。資料の20ページ目にある論点に沿いまして、御意見をお伺いできればと思います。いかがでしょうか。武知委員、お願いいたします。
○武知委員 私から論点①と②についてお話したいと思います。労災保険給付の支給、不支給の決定処分は、労働災害が発生した事業場の事業主が再発防止に取り組むために必要な情報であり、労災保険の保険料は事業主が全額を負担していることからも全ての事業主に対して支給・不支給の事実、支給の場合には給付の具体的な内容等、請求人に通知される情報と同じ情報を同じタイミングで通知すべきと考えます。
当社もそうなのですが、輸送や作業の現場を持つ場合には、ほかの産業に比べて労働災害の頻度や強度が高い傾向にあると考えておりますので、安全対策への早期の反映や、ほかの労働者への注意喚起の側面で意義や期待される効果が大きいと考えており、情報の必要性を特に感じているところです。
また、論点②として提起されているとおり、メリット制において、労災保険率の算定の基礎となる情報を事業主が把握できていないことは、保険料の負担者としては是認しがたく感じます。認定処分の取消訴訟等における事業主の手続保障の観点からも重要な要素であり、この点からも事業主に対する情報提供は必要と考えます。加えて、メリット収支率の計算式も含めて、どのようにメリット料率が決まったのか、明らかにしていただきたいと考えております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 ただいま武知委員も御発言になりました、論点①と②に関して私からも申し上げます。事業主に対して労災保険給付の支給・不支給の事実や保険給付に関する情報等、請求人に通知されるものと同じ情報を同じタイミングで、それから、メリット制の適用を受ける事業主に対しては収支率の計算式も含めて提供することを要望いたします。併せて、現在は請求人の求めに応じて監督署が処分理由を説明していると聞いております。類似の業務上災害の再発防止や、事後の手続保障の観点から、事業主にも同様の機会を付与していただきたいと思います。
なお、論点①と②には支給・不支給決定の事実や保険給付の内容を指して、個人情報や機微な情報という表現が使われています。確かに、これらの情報は個人情報保護法で定義する個人情報や要配慮個人情報に該当すると思われるところ、取り分け傷病者名等は要配慮個人情報に該当し、行政機関としてその保有する情報の取扱いには一層の配慮が必要という点は理解できます。他方、資料1の20ページの現行制度に記載のとおり、事業主には請求書への署名義務等があるほか、災害発生状況等について監督署から調査を受けるため、労災保険給付請求の事実を把握していることが一般的です。
事業主には、証明や調査協力の役割がありますし、また、メリット制の下で将来の保険料への影響を受けます。加えて、労働災害が発生した場合には、事業場における類似災害の再発防止に早期に取り組むことが期待されます。そのような取組を事業主が行うためにも労災の支給・不支給決定の事実にとどまらず、障害等級や傷病等級など保険給付に関する情報を含めて情報提供されることが適当と考えます。過度に提供範囲を狭めたり、手続を複雑にしたりしないようお願い申し上げます。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。足立委員、お願いいたします。
○足立委員 私からも論点①と②に関連してということでお伝えします。労災保険の支給・不支給の決定前から、事業主として防止や改善のための努力をしていくのは必要だと思っています。保険ありきではないものの、情報が適切なタイミングで事業主に共有されることによって、労災防止対策の観点からも、より事業主が重く受け止めて対策を打つという点では、必要な情報を必要なタイミングで頂くことは大事ではないかと思っています。
特に、メリット制を適用される事業主に対しては、数年後に適用される云々というのが分かるわけで、これはもっと早い段階から適切に情報が開示されることが、防止対策の観点からも必要ではないかと思います。これまでもお話されていますが、とはいえ、個人情報の取扱いというのは一定程度の配慮が必要だとは思いますが、そもそも事業主も様々な情報を提供しているので、そこも配慮した形で、提供いただく情報というのは決めていただきたいと考えております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。金井委員、お願いいたします。
○金井委員 論点①についての意見になります。21ページにもあるとおり、研究会としては、事業主が早期に災害防止に取り組む上で必要な情報である点や手続保障の観点から、事業主への情報提供を行うことが適当と結論付けております。しかし、労働側としては、事業主への労災支給決定事実の情報伝達は慎重であるべきと考えております。
そもそも職場で何らかの業務上の災害が起こった際に、早期に災害防止に取り組むことは使用者にとっての当然の責務であり、それは労災が支給されたか支給されていないかというものに関わるものではないと考えます。また、メリット制の適用によって2年後に保険料が上がることを見据えて、事業主が「将来の保険料が上がるのは労災認定されたせいだ」として、被災労働者や遺族、更には被災労働者に協力する情報提供者や証言者等に不当なプレッシャーを与えることも懸念されます。
手続保障と引換えに、こうしたことが横行しては労災申請の萎縮にもつながりかねないと危惧しております。こうした懸念については、本部会委員にも配布されました各種団体の意見書でも指摘されているところです。したがって、事業主への情報伝達は慎重に考えるべきだと考えております。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他にいかがでしょうか。福田委員、お願いいたします。
○福田委員 では、私からは、これまで事業主側の委員の皆さんから出た話と同じような結論ではございますが、意見を申し上げます。まず支給・不支給の決定内容については、やはり、企業側として労災保険料を100%負担していると、このような当事者という立場がある以上、また、先ほどの論点でありましたメリット制、これを通じて直接的に影響も受けると。こういう立場である企業側にも、やはり当然にその情報は提供されるべきものではないかと考えます。
我々企業側としては、その結果を知らされることなく、決定内容も知らされることなく、料率の増減という結論だけを、ある意味通告を受けて、それを受け入れて対応するという形を取らされている。こういった実態にありますので、これはやはり、我々の立場からすれば、納得しがたい状況にも置かれているという認識を持っているところでございます。
また、この際の被災労働者の個人情報への配慮は、当然必要なことだと思います。ただ、既に労災申請をした段階で企業にはそのことが分かっている以上、結果が通知されたことをもって、何か企業側が不公正なことをしようと、このような意思を持つかどうかというと、それは全く違う問題だと思います。やはり、保険料を負担して再発防止を図る責任を企業側としてちゃんと認識しておくべきであり、その通知に関する情報配慮は、従業員管理を行う中で当然に我々が知っている内容、これ以外のところの情報についての配慮を御検討いただくということではないかと思っております。
ちなみに、これを知らされないということでもって何が起こっているか、ということですが、残念ながら、被災者の御家族に対して非常に大きな補償をしなければならないといったような事故・災害、これの撲滅には至ってはおりません。そうした補償について御家族の皆様とお話をする場合には、この労災給付決定の結果がないと合理的な補償内容をご説明することができないという状況にございます。
したがって、ただでさえ被災者の家族ということで非常な心痛を抱えていらっしゃる御家族に対して、会社のほうからの補償を得るために、会社に対してそうした内容を事務的に伝えなければならない、あるいは、会社側の担当者も心を痛めながら被災の御家族に定期的に、この労災受給の決定の状況をお尋ねしなければならないと。こうした心痛を掛けながら今、事務手続を行っていると。このような実態にあるわけです。
このような心痛というのは、本来、全く不必要なことを強いているという実態にあるのではないかと思っているところです。こうした件も含めて、やはり申請者と、また企業側にも同時に同じような情報提供があって然るべきではないかと思うところです。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございました。他はいかがでしょうか。冨髙委員、お願いいたしまます。
○冨髙委員 まず、論点①の労災支給決定事実の事業主への情報伝達については、先ほど金井委員も発言したとおり慎重であるべきだと考えておりますが、論点②のメリット制適用事業主への算定基礎情報の提供はより問題が大きいと考えており、研究会の「事業主に提供すべき」という結論には賛成できないと考えているところです。
研究会では、28ページにもございますが、あんしん財団事件の最高裁判決を根拠に、手続保障の点で保険料率の算定根拠情報を事業主に伝達すべきとしております。しかし、あんしん財団事件最高裁判決が指摘している手続保障とは、28ページの下線部分にあるとおり、メリット制によって保険料率が上がった事業主が行政不服審査や取消訴訟の際に、「客観的に支給要件を満たさない労災保険給付の額が基礎とされたことにより、労災保険料が増額されたことを主張できる」という機会の保障を言っており、事業主に保険料率の根拠情報を伝えるべきと言っているのではないと考えております。要は、行政不服審査や訴訟手続が始まった後に、国が必要な情報を開示すれば良いのであって、保険料率の決定時に詳細な算定根拠情報を提供する必要はないのではないかと考えております。
そうした状況であるにもかかわらず、手続保障という理由のみで開示することはデメリットが大きいと考えております。そもそも、事業主への情報提供に我々は反対の立場ですので提供すべき情報の範囲については踏み込みませんが、労災の支給決定に関する情報というのは、病歴や障害といった、労働者にとって非常にセンシティブな情報を含むものです。こうした情報を事業主に提供するとなれば、被災労働者が労災申請をためらってしまうことも容易に想像できると思います。また、ハラスメントによる労災申請では、同僚の証言が非常に重要な証拠にもなりますが、そうした内容を含む情報が事業主に提供されれば、「報復されるのではないか」「何か不利益があるのではないか」と恐れて被災労働者や遺族に情報提供の協力する方がいなくなってしまうと考えているところです。
以上のことから、メリット保険料率の算定根拠情報の事業主への提供はすべきではないと考えております。企業の皆様には、労働者が安心して働くことができる職場環境にきちんと注力していただくことを、まずやっていただきたいと思います。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。立川委員、お願いいたします。
○立川委員 使用者側委員から、個人情報には一定の配慮をしつつも、労災保険給付の情報について過度に制限しない形で事業主へ提供すべきという趣旨のご発言があったわけですが、資料25ページにあるように、労災保険料の決定通知では、メリット料率や収支率等の情報が開示されており、情報提供という意味ではそれで十分であると考えているところです。
保険料率の話ではありませんが、労働者への情報提供ということを考えますと、労災が支給されたか不支給となったかの理由通知については、「業務に起因する疾病とは認められないので不支給決定します」などの数十文字で済まされていて、詳細な理由は開示されていないところです。
それにもかかわらず、料率の問題ではありますが、なぜ、事業者のみについて手続保障ということで情報提供を充実させ、保険給付の根拠に関する情報を通知する必要があるのか。むしろ、労災保険料の算定根拠となる情報を伝達してしまえば、被災労働者の立場からすれば、自分が労災申請したせいで事業主にどの程度の経済的不利益が課されたことが根拠とともに可視化されることとなり、労災申請の萎縮を招くことが必至であることが言えると思います。
そのような意味では問題が大きいと言わざるを得ません。例え限定的な情報であったとしても、今以上の情報開示については反対です。なお、冨髙委員からも発言がありましたが、そもそも労災保険給付の情報があろうがなかろうが、事業主は再発防止を講じることが当然の義務です。そのような観点からも、現行の情報開示で十分であると考えているところです。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 ありがとうございます。中間報告書でも有識者の意見として記載されていますが、事業主は災害防止の努力を求められており、どのような災害防止対策を取るかは、災害の内容を知ることが出発点です。個人情報への配慮から限界はありつつも、災害発生の有無、すなわち支給・不支給決定の事実程度の情報については、メリット制適用の有無にかかわらず全ての事業主に情報提供がなされるべきとの御指摘もあります。
労災の支給決定の事実などを知らせることにより、事業主による不当な圧力が生じ得るというような御指摘もありました。仮にそのような圧力を掛けようとするのであれば、これも繰り返しになりますが、現状においても、労災保険給付請求書への証明や監督署による調査を通じ、事業主が請求手続の存在を把握した段階で同様の事態の発生が想定されるのではないかと思います。支給・不支給決定の事実を事業主に通知することを契機として、初めてそのような圧力が生じるものではないと感じています。むしろ早期の災害発生防止対策を促すという意味で、事業主に対して情報提供を行う意義は非常に大きいと思う次第です。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他はいかがでしょうか。冨髙委員、お願いいたします。
○冨髙委員 今の笠井委員の御発言ですが、早期の再発防止は、私どもも大変重要だと思っています。その観点で言えば、むしろ自分たちの事業所の中でどのような災害が起きているのかということが、労災支給決定通知がなければ分からないということ自体が問題だと思っています。事業所で業務上の事故などが起きていることを把握し、早期に再発合資をはかることが先決ではないかと思っています。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。他にはいかがでしょうか。松尾委員、お願いいたします。
○松尾委員 やはり支給・不支給決定の関係では、負傷だと物理的な問題、けがの場合は非常に見た目にも分かるのですが、疾病など、そういう病気の類のものについては、そういった問題が事前に分かるということでもないし、実際にどういう労働環境で働いていたのかということも含めて、非常に機微な問題だと思いますから、やはり労働者側としてはきちっとした、そういった意味では影響がないようにする必要もあると思います。この間、労働者側委員がおっしゃったことだと私も思っていますので、よろしくお願いいたします。
○小畑部会長 ありがとうございました。他はよろしいでしょうか。金井委員、お願いいたします。
○金井委員 情報が開示されることによって、具体的にどういった意味で事業主が事故災害防止につなげていけるのかという点を御説明いただければと思います。
○小畑部会長 こちらは笠井委員に御質問ですか、事務局に御質問ですか。
○金井委員 事務局として知見がおありであれば事務局でも結構ですし、使用者側委員でも大丈夫です。
○小畑部会長 事務局として。
○金井委員 では、両方からお願いします。
○笠井委員 まず私からお答えします。ほかの使用者側委員の方で何か補足があればお願いしたいと思います。まず労災かどうかというところ、どのように認定されたのか、労災かどうかについて事業主としては別の見解を持ち得ることもあろうかと思います。労災認定の理由、そしてそのことが保険料にどのように反映されてくるのか、基礎情報としていただきたいということではあります。
それから、私のほうで具体的な事例を把握しているわけではないのですが、事業場の環境に応じて、どのような要因でこのような労災になり、再発防止にいかしていく。一般的に申し上げれば、そのような取組みが求められています。それは支給決定の中身を早期に知ることで、適切な対策が取り得るということではないかと思います。
○小畑部会長 金井委員、いかがでしょうか。武知委員、お願いいたします。
○武知委員 やはり事業主側が支給・不支給の情報が欲しいというのは、それが労働災害として認められたのか、第三者から客観的に、これは業務に起因していると判断されたのかというところが気になるからです。職場で発生した事故でしたら、その方がけがをしたという事実は把握していますが、疾病、特に精神障害系のものですと、その方が発症していることは承知はしていても、それが会社としての責任があるかどうかという点が判定しにくく、けがにしても疾病にしても、労災請求がどのような結果になったのかを把握することが重要だと考えています。
○小畑部会長 どうでしょうか。
○金井委員 労働災害か否か分かりにくい部分について聞きたいのではないかと思っていましたが、認識のとおりではありました。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかは御意見、御質問などはございませんか。よろしいでしょうか。
それでは、特にないようでしたら、最後に暫定任意適用について議論していきたいと思います。資料の30ページ目にある論点に添いまして意見をお伺いできればと思います。御意見いかがでしょうか。白山委員、お願いいたします。
○白山委員 ありがとうございます。まず論点①の部分ですが、労働側としては、今回の見直しを機に暫定任意適用事業は廃止して、強制適用を図っていくべきと考えています。そもそも労災保険制度は、全ての労働者、全ての事業者に等しく適用され、補償を受けられるようにすべきです。また、暫定任意適用事業は文字どおり「暫定」であって、いつまでも続けるものではないと考えます。
暫定任意適用事業が設けられている趣旨を、資料の36ページでお示しいただきました。その中では「労働実態の把握が困難」とありますが、農業について言えば、ゆい・手間替えといった農業特有の慣行も残っていますが、労働実態としては現代的になっていると考えます。また、労働実態の現代化という意味では、林業や水産業についても同様であると捉えています。
そうした中で、災害リスクについて目を向ければ、資料の40ページにあるとおり、任意適用事業場の中でも死亡を含む重大事故が起こっています。こういったことを踏まえると、その保護の必要性はとても高いと考えています。
また、農林水産業を魅力あるものとするためには、若者も含めて安心して働くことができる環境整備がとても重要だと思っています。その手段の1つが労災保険の強制適用であると思います。
次に、論点②の強制適用を進める上での留意点についてです。この点は、研究会の中間報告書で整理していただいているとおり、関係者への周知や保険料の徴収の事務負担の軽減などの方策は検討しなければならないと考えます。ただ、これらの点は強制適用していく前提に立った上で検討をすべきです。例えば、事務負担軽減は資料の41ページにある労働保険事務組合の活用も含めて対応を図っていくといった、前向きな方向で課題をクリアしていくべきと考えています。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。いかがでしょうか。笠井委員、お願いいたします。
○笠井委員 論点①と論点②のそれぞれについて発言します。まずは論点①です。どのような職場で働く労働者であっても、業務による負傷や疾病に対して適切な補償が受けられるよう、暫定任意適用事業を見直し、労災保険を強制適用するという方向性に賛同します。セーフティネットを確保し、労働者が安全・安心に働ける環境が整えば、地方において特に重要な産業でもある農林水産業の持続可能性を高める効果も期待できるように思います。
なお、論点②に関する意見となりますが、資料1の36と37ページに示された暫定任意適用事業が存置されている理由によれば、①農家特有の習慣のため、労働者とそれ以外の者の区別が困難、②事業の性質上、実態把握が困難。③対象数が膨大であるといった課題が挙げられています。暫定任意適用事業の廃止に当たっては、これらの課題を解決することはもとより、新たに強制適用となる事業場における保険料の申告・納付手続や保険関係の成立手続を円滑に実施できる環境の確保が重要です。任意加入をしている事業の実態も十分に踏まえつつ、労働保険事務組合等の外部組織の活用も視野に入れながら、丁寧に検討していく必要があると考えます。
事務局に1点御質問です。仮に暫定任意事業を廃止した場合、新たに強制適用の対象となる事業や労働者の数について、想定している数値がありましたら教えていただけますか。
○小畑部会長 それでは、事務局からお答えをお願いいたします。
○労災管理課長 今日お示しさせていただいた資料の39ページに農業の労働環境改善に向けた政策の在り方に関する研究会の資料を添付しています。農業における状況で申し上げますと、上の緑色の枠の中にあります常雇いが1から4人の個人経営体、最大で約2万経営体というものと、臨時雇いが1人以上の個人経営体、約12万経営体ということで、重なりがある部分もあるのではないかと思いますが、説明時にも申し上げましたが、合計の14万経営体が対象になるのではないかと思っています。
また、一方で任意で既に加入されている経営体も2.3万ありますので、そこについては引き続き労災保険に加入していただくということになると思っています。
○小畑部会長 ありがとうございます。笠井委員、よろしいですか。
○笠井委員 ありがとうございます。任意加入している2.3万経営体は、強制適用に移行するという理解でよろしいでしょうか。
○労災管理課長 はい、そのような理解で結構です。
○笠井委員 ありがとうございます。
○小畑部会長 ありがとうございます。オンラインから水島委員が御発言を希望されていますので、お願いいたします。
○水島委員 ありがとうございます。ただいま労働者側委員、使用者側委員から御発言がありましたが、論点①については、私も現在の暫定任意適用を見直し、労災保険法を強制適用すべきと考えます。
論点②に関連して、事務局の説明でも言及がありましたが、研究会報告書に記載のように農林水産省と連携して順次強制適用に向けた検討を進めるのが適当と考えます。強制適用に向けた検討に当たっては、農林水産事業者の理解を深めることが必要ですし、また、事業者の把握や保険料徴収上の課題について、現状把握や解決方法の見通しを具体的に立てることが必要と考えます。そのため可能であれば、農林水産業界の団体の方をこの部会にお呼びして、ヒアリングの機会を頂ければと思います。また、今般の見直しで強制適用になるのは小規模事業場ですので、制度をより丁寧に周知する必要があると考えます。また、適用や徴収に係る実務を適切に実施するための準備期間も必要で、それなりの期間が必要と考えます。施行時期に関しては今、申し上げたようなことも踏まえて決めるのが適切と考えます。以上です。
○小畑部会長 ありがとうございます。ヒアリングに関する御意見がございました。事務局、いかがでしょうか。
○労災管理課長 団体のヒアリングについては、部会委員の皆様、それから業所管省庁ともよく御相談しながら検討していきたいと考えます。
○小畑部会長 水島委員、よろしいでしょうか。
○水島委員 ありがとうございます。是非、実施の方向で御検討いただければと思います。よろしくお願いいたします。
○小畑部会長 ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。松尾委員、お願いいたします。
○松尾委員 私も、強制適用をするというのは必要だと思います。建設業では既に強制適用だったのですが、この建設産業の従事者が減少するということで、2012年から2017年にかけて国交省と厚労省で社会保険未加入対策推進ということで、この間、行ってきました。その中では、労働保険も含めて社会保険の適用ということをきちっと進めていこうということで、業界も労働者側も零細事業者も含めて進めてきた経緯があります。ここに記載されていた環境の関係では、やはりきちっと連携しないとうまくいかないということだと思います。
それと質問したいのは、農林水産省は、この農業に従事する方の将来というか、建設業の場合は国交省や厚労省が処遇の改善、未来ある建設産業の従事者をきちっと育成していく、担い手を育成する。こういうことを掲げていますので、当の農林水産省がどのように考えているか、この間の議論で出ているかと思いますが、どのように考えていらっしゃるのかということをお伺いしたいと思います。以上です。
○小畑部会長 御質問ですので、事務局、お願いいたします。
○労災管理課長 何度か御紹介した農水省の検討会ですが、これも立ち上げた趣旨が、できるだけ農業に労働者として就業してほしいという希望を持っているということで、当然のことながら、魅力的な職場や人材確保するためこの検討会を立ち上げているということです。その中で労災保険の適用についても議論していただいていると認識しています。農業については、魅力ある職場、人材確保の観点で、農業で働く人を増やそうという観点で議論されていると思います。
また、漁業、林業についても、当然、農林水産省として同じ第一次産業ということで、農業に遅れないよう同じ考え方で適用していこうとしていると承知しています。
○小畑部会長 松尾委員、よろしいでしょうか。
○松尾委員 承知しました。あとは細かなことですが、ここに農業の関係で、手間の貸し借りの関係も書いてあったのですが、建設業でもいわゆる住宅の建前のときの関係で貸し借りなどというのは以前ありましたが、基本的にこういうものはもうなくしていこうということで、契約を交わし、近代化を進める。現行の制度でも処遇改善をするための方策というのはあるかと思います。
○小畑部会長 ありがとうございました。ほかに御意見、御質問等はありませんか。よろしいでしょうか。
御意見いただきまして、ありがとうございました。本日、議題としました各テーマについて、委員の皆様方から様々な貴重な御意見、御指摘を頂戴しました。事務局におかれましては、本日の議論を踏まえて整理をしていただいて、次回以降の資料に反映していただくようにお願いしたいと思います。
それでは、本日、予定していた議題は以上ということになりますので、部会を終了としますが、事務局から、次回日程についてお知らせをお願いいたします。
○労災管理課長 次回の日程については、事務局より追って連絡させていただきます。
○小畑部会長 本日は以上とします。皆様、お忙しい中、誠にありがとうございました。



