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第30回労働政策審議会労働政策基本部会 議事録
政策統括官付政策統括室
日時
令和6年4月5日(金)16:00~18:00
場所
厚生労働省専用第21会議室(17階)
出席者
- (委員)(五十音順)
- 石﨑委員、石原委員、入山委員、逢見委員、大橋委員、岡本委員、川崎委員、佐々木かをり委員、佐々木勝委員、冨山委員、春川委員、守島部会長、山川委員、山田委員
- (事務局)
- 田中厚生労働審議官、鹿沼政策統括官(総合政策担当)、青山政策立案総括審議官、中井賃金政策推進室長、平嶋政策統括官付参事官、古屋政策統括官付労働経済調査官、牛島雇用環境・均等局総務課長、吉田職業安定局雇用政策課長、松瀬人材開発統括官付参事官、黒澤労働基準局総務課長
議題
(1)委員ヒアリング
(2)その他
(2)その他
議事
- 議事内容
- 〇守島部会長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第30回「労働政策審議会労働政策基本部会」を開催いたしたいと思います。
皆様方におかれましては、大変お忙しい中、御出席いただき、誠にありがとうございます。
本日は、所用により武田委員が御欠席と伺っております。また、所用のため、入山委員は途中での御退席と伺っております。
議事に入ります前に、オンラインの開催に関しまして事務局から説明があります。
〇古屋政策統括官付労働経済調査官 事務局の労働経済調査官の古屋と申します。よろしくお願いいたします。
オンラインの開催に関しまして、留意事項を申し上げます。
まず、原則としてカメラはオン、マイクはミュートとしていただくようお願いいたします。委員の皆様は、御発言の際には、「参加者パネル」の御自身のお名前の横にあります「挙手ボタン」を押しまして、部会長から御指名があるまでお待ちいただければと存じます。部会長から御指名がありました後、マイクのミュートを解除して御発言いただくようお願いいたします。発言終了後はマイクをミュートに戻していただき、再度「挙手ボタン」を押して挙手の状態を解除していただくようお願いいたします。
通信の状態などにより音声での発言が難しい場合につきましては、チャットで発言内容をお送りいただきますようお願いいたします。また、会の最中に音声等のトラブルがございましたら、チャット機能でお知らせいただくか、事前に事務局からお送りしている電話番号まで御連絡いただくようお願いいたします。
以上でございます。
〇守島部会長 ありがとうございます。
それでは、議事に入りたいと思います。
本日の進め方について、まず御説明いたします。初めに事務局から第4回「労働政策審議会労働政策基本部会」のテーマについて御説明いただきます。続いて、「今後の労働政策の重点テーマについて」というテーマで石原委員、及び「労働供給制約時代の労働(市場)政策について」というテーマで冨山委員からお話をいただくことになっております。
プレゼンに関する質疑応答と自由討議につきましては、お二人のプレゼンテーションが終了した後にまとめて行います。
それでは、まず事務局からよろしくお願いいたします。
○平嶋政策統括官付参事官 それでは、テーマ案について、前回1回目の会議で御意見をいただいたところを幾つか修正しておりますので、御説明いたします。まず、テーマ案そのものについて、サブタイトル「中小企業・地域の生活を支える産業での」ということで、「雇用を支える産業で」と書いておりましたけれども、石原委員から、人口減少社会の中では、「雇用を支える」ではなくて「生活を支える」ということだろうという御意見をいただいておりましたので、「生活」にしております。
最初の2つです。部会長のほうから、我が国が直面している課題とかそのタイムフレームのようなものが少しにじみ出るようにということで、2030年代から若年人口が急速に減少して、地域社会に深刻な影響を与えるというようなことを記載しております。
下のほうは、地域密着型産業の個々の産業面を入れております。
2枚目のほうへ行きまして、労働政策の課題ということで、②のミスマッチのところが少し分かりにくいという御意見を佐々木委員、石原委員からいただきました。そういうことで、「求められる技能・情報のミスマッチによる人手不足」ということで整理させていただいております。
(2)の③のところです。「生産性の向上、付加価値の増大に向けてのAI・DXの活用について」ということで、武田委員の御指摘を踏まえて追加しております。
その下の「多様な就業形態とセーフティネットについて」ということで、岡本委員からセーフティネットを加えるべきだという御意見をいただいておりますので、「セーフティネット」を加えております。
以上、主な変更点を御説明させていただきました。
〇守島部会長 ありがとうございます。
それでは、続きまして、最初の石原委員のプレゼンテーションに移っていきたいと思います。
では、石原委員、よろしくお願いいたします。
○石原委員 今日はこのような場をいただきましてありがとうございます。石原でございます。
私、リクルートワークス研究所で今、客員研究員をしておりますが、そちらに20年ほど。今もエクサウィザーズ。こちらはAIで社会をよくしていこうというテック系のベンチャーですけれども、こちらでも変わらず雇用と労働に関わる研究所を立ち上げておりまして、そちらの所長を務めておりますという形ですので、ここ25年ほど雇用と企業と個人の関係というところについて考えてまいりました。この基本部会には前回の1月会合のときに初めて参加させていただきまして、これから皆様と議論ができることを大変ありがたく、楽しみにしております。どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、今後の労働政策は変わっていきますよねという話を考えたときに、今年何を重点的に考えたらいいのだろうかというお話で私見を述べさせていただきたいと思っております。よろしくお願いします。
プレゼンテーション資料の2枚目です。「使用者と労働者の関係性が、変わった」と書いておりますが、労働力人口は非常に減ってきておりますので、これのことを「労働供給制約社会」と言えるのだろうということで、プレゼン資料の右下『未来予測2040』というのは、リクルートワークス研究所が出した本で、今日こちらにも持ってきておるのですけれども、ここでは労働需要はそこまで増えないのだけれども、やはり緩やかに右肩上がりであると。それに対して労働力人口の減少が非常に大きくなるので、ワニの口のようにどんどん労働力の供給が足りなくなって、労働力が供給できないことによって様々な社会システムが機能不全になる、非常に危うい状況になるということをテーマにしたところから出発した予測の本ではあったのですが、労働力の需給に関しては様々にシミュレーションがしてありますので、QRコードが貼ってありますけれども、御興味のある方は読んでいただければなと思っております。
労働供給制約の社会がやってくるわけなので、労働市場は今後恒常的に売り手市場になっていくと考えていいのだと思っております。なので、労働者の立場が非常に強くなってくる時代なのだと言えると思います。加えて、下記のように、この10年、20年ぐらいのトレンドが、働く人にかつてなく自由を提供していますよと。1つは、ダイバーシティ、インクルージョン、あるいはエクイティという概念が多くの企業に浸透して、働き方改革のようなことも進行してきました。それから、コロナのときに、コロナまで待つ必要はあったわけですが、コロナを経たことによって働き方の自由度が一段。手前で言っていました働き方改革の進行とか長時間労働の縮減ということを越えて、場所とか時間の制約を越えた働き方ができるようになってきている、あるいは副業のようなことも解禁になってきているということがあるわけです。
ここに加えて、2022年の後半に生成AIが登場したことによって、去年1年間でも大幅に進歩がありましたが、テクノロジーが進化して、これを活用すれば企業ができること、あるいは人ができること、1人でできることの量・質がすごく変わってくるということがあって、様々に働き方に自由というものが生まれているという状況かと思っております。
次のページです。
ですので、労働政策にもパラダイム転換が必要ですねというのがここでの主張でございます。これまでの労働政策の主題は、ざっくりと言わせていただいてしまうのですが、上質な職をあまねく広く行き渡らせるということが非常に大きな課題であったかなと思っております。当然構造的失業をどうやってなくしていくのか、あるいは安定的な雇用をどう実現していくのか。そして、安定的な雇用というだけではなくて、雇用の中味、「ディーセントワーク」という言葉が生まれたわけですが、いかに働き手にとって搾取されるのではないような、あるいはやりがいを感じられるような仕事をどうやって実現していくのですかということが主題で来たわけですが、これらは引き続き大切な事項ではありますが、先ほど申し上げたような恒常的な売り手市場においては。
〇守島部会長 ちょっと映像がおかしいみたいなので。今、お話しされている部分、資料が映っていないので。すみません。止めてしまっていいのかどうか分かりませんけれども。
○石原委員 気づかずに大変失礼いたしました。
先ほど言ったように、上質な職をあまねく広く行き渡らせるということは今後も引き続き大切な事項ではありますが、恒常的な売り手市場においては主要テーマとはもう言えないだろうと思っております。これは言ってみれば労働市場全体での安定雇用が実現できるという状況が来るからなのであります。劣悪な条件の会社からは退出して、新しい職を見つけることが容易になってきているということですので、そこが主題なのではないのだと。当然セーフティネットは様々な意味で必要なわけですけれども、よい条件で仕事を提供するということができない会社は人手不足により操業不能になっていくということで、企業のほうも退出を迫られていくということになっていくと。それが嫌であればディーセントワークというものを実現していくというふうに、それはマーケット原理から圧力がかかってくるだろうというふうに言えるのだろうと思っております。
そこで考えるべきは、人手が足りていないわけですから、働く人1人当たりの価値創造力をいかに高めるかということと、流動を前提にした労働市場の中で、今、様々にある流動すると損になる仕組み、流動しないほうが得になる仕組みをどうやって修正していくのかというところではないかと思っております。
次のページでございます。
企業の面から言うと、では、企業はどのように変わらなければならないのかというところですが、「企業における人材獲得上のテーマ」と書きましたが、1つは、いかに少ない人数で価値創造する会社になれるか。言ってみれば、いかに人を雇わなくて済む会社になれるかということが大きなテーマになってくると思います。今は中小企業ももちろんですけれども、大企業でも人が足りていません、人手が足りていませんということを私も様々な会社の人事の方、経営者の方から伺っておりますが、人手が本当に足りないのか、足りない人数でやることしかできないのだったら、どうやって人手が要らない会社になっていくのかという形で自分たちのサービスとか材の製造・生産ということを考えていく必要があるだろうと思っております。
これは前から言われていることですけれども、徹底的な機械化ということとムダの削除ということをやる必要があります。機械にできることは機械にということを本気でやっていく必要がある。もう一つは、少ない人数になりました。そこで成果創出ができるのであれば、賃金上昇もおのずと実現できるようになるでしょうという話かと思っております。
3つあるのですけれども、そのうちの2つ目は、いかに1人当たりの価値創出量を上げるかということで、これは前年の労働政策基本部会のテーマの中にもありましたが、労働開発・スキル開発に関しては引き続きの投資。これは企業の中でも当然投資する必要があります。というのは、先ほど言ったように機械化、あるいはムダを削除していくということが進んでいくわけですから、昨年まであった仕事は今年もあるとは限りません。あるいは昨年まではこのやり方でやっていたのだけれども、今年からは違うやり方でやりますということが起きてくるわけです。そのときに新しいやり方で仕事を進めることができないという人ばかりでは価値創造はままなりませんねという話です。
リスキリングは、私も2020年ぐらいから2年ほどリスキリングのテーマで研究をして、2022年の労政審の基本政策部会では、リクルートワークス研究所の大島研究員が伺ってリスキリングについて発表させてもらったと思うのですが、大島さんと一緒にプロジェクトをやっていたこともありまして、私も2020年ぐらいからリスキリングにずっと着目しておるのですが、2024年現在の今どうなっているかというと、何となく企業の多くの人から聞くのは、リスキリングと言っていたけど結構難しいよねと。ハイプ・サイクルで言うところの幻滅期に入っている感じがしておるのですが、リスキリングというのは片仮名ワードで、一過性のものだったねというふうに片づけてはならないと思っております。仕事の進め方は明らかにテクノロジーの力を借りて変化しているという中で、では、人間がやるべきことを新しいやり方でやるということについて、多くの人がその能力を身につける必要があるという意味では能力開発、大事ですねと思っております。
もう一つは、自社の従業員、自分のところで人を雇って、その人たちに仕事をしてもらうということが思ったようにはできないという中では、雇わない関係の人たちとの価値創出ということを企業がこれからもう少し模索していく必要があるのだろうなと思っております。
もう一つのテーマは、いかに価値創出量の高い人間に選ばれる会社になるかという側面がありまして、これは先ほどもちょっと申し上げたように、諸条件の改善というのが当然必要になってきますし、この会社で働くと得られるものが大きいと感じてもらう必要があります。それは金銭的な報酬だけではなく、例えば経験値やスキルが得られる、あるいはこのチーム、この会社の皆さんと働くのが楽しいということであったり、やっていることに有意味感を感じられる、やりがいがあるということで、そのような意味で、この会社で働くときに得られるものが大きいというふうに判断された会社に人々は自由に移動ができるようになっていくわけですから、いかにそのような会社になっていくのかというのが企業の側のテーマかなと思います。
次のページに参考ということで、企業におけるムダと機械化について2つほど物を書いておるのですが、1つは、「企業のムダ調査」ということで、先ほど申し上げたワークス研究所の『未来予測2040』の中にも一部取り上げられておるのですが、企業の中にまだムダがありそうですよねという仮説の下に調査をしていまして、ここは客員研究員として割と関わらせてもらったところですけれども、経営者クラスと組織長とそれ以外の就業者と分けた状態で、あなたの仕事、あるいはあなたの組織の仕事、あるいはあなたの会社の仕事に対して、ムダはありますかというふうにお伺いしておるわけです。それに対して、何らかのムダがあると思う人がどの階層でも過半数を占めていて、組織長に至っては72%の人がムダがあると認識しております。どれぐらいムダがあるのですかと言ったときに、30%以上ムダだなと思っている人が、ムダを認識している人の中で27%、37%、23%というふうに書いてありますが、3分の1はムダだなと思っているというふうに言っている人が存在するということです。
さらに言いますと、そのムダはあなたにはどうしようもできないのですか、あなたの手で削減できるのですかと言ったら、「できると思う」が各階層に20%前後おるということで、企業の中にはまだまだムダだな、やらなくてもいいのになと思うことを人の手でやっているということがありそうですという話ですので、この辺り、まだまだ改善の余地があるだろうなということを感じております。
それから、機械化ということで、昨今で言えばAIなわけですし、私が今、働いておる会社もAIを中心にサービス提供しておる会社ですが、下の段はホワイトカラーの仕事モデルというのを10の矢羽根で説明しておるわけですけれども、これまでホワイトカラーの仕事というのは、調査をして、分析をする。分析した幾つかの結果を組み合わせて企画をつくり、どれがいいのかを検討して、これにしましょうと選択をして、それをやり切りますと。最後結果に責任を持ちますということだったわけですが、色を変えておりますとおり、調査して分析する、組み合わせて企画にして検討する、この辺りのことは実は全部AIが得意です。もちろん、最後どれにするか意思決定をするところは、今のところ人がやったほうがいいというふうに言われておって、人の仕事として残りそうなわけですが、その後、それぞれのことを実行する部分は、今は多くは人がやっているところがあるのですけれども、今年から生成AIも新たなフェーズに入ると言われていまして、ロボットとかマルチモーダルというふうに、ちゃんと動く、働くということができそうになってくるという時代に入ってきますので、実行するところも実は人工知能のほうが得意な可能性があります。
そうなると、出てきた結果の責任を持つところだけは当然人間が責任を持つ必要があって、AIがやったのでAIが謝りますと言っても誰もうれしくないわけですから、そこには人間の力が必要なわけですが、今までホワイトカラーの仕事モデルはこのように進んでおったわけですけれども、言ってみればAIにやってもったら随分減るのではないですかというふうに言えるのだと。
手前に「観察する」と「仮説を立てる」と書いてあるのですが、本来私がこの話をじっくりするときは、3回ぐらい矢羽根を更新しながらお話しするのですけれども、AIというのは今のところデジタルなものからしか情報を収集できない状態ですから、アナログな世界を見ながら今、何が起こっているのかを察知するというところはAIにはできないわけです。
例えば今、この会議室の空気は何か嫌な空気だなとか、あるいはそこに座っている老人は何もしていないけれども楽しそうにしているなとか、そういうことは今のところAIには察知できないということでありますから、アナログな世界を観察して仮説を立てる部分は人の仕事として残りそうですねという話ですので、一番最初のところは人の仕事だというふうに残るのですが、これを見ても分かるとおり、結構多くの部分がAIに任せてもいけそうな時代がもうすぐ来るでしょうという話かと思いますので、機械化の余地というのはまだまだあるのだろうなという前提で企業運営をしていく必要があるだろうと感じております。
次のページです。
では、労働政策に関してはどんなことを考えなければいけないのですかというお話ですが、働く人の標準モデルを更新する必要があるだろうと思っていて、もちろん様々な仕事があると言いながら、何となく今は事務系ホワイトカラー職というのが標準の大卒者の仕事みたいになっていると思うのですが、1つの会社でデスクワークを主体とするホワイトカラーの仕事というものは、本当にそんなものが多数というふうになるのか、あるいはそれが労働者の成功モデルになるのかというと、そうではないだろうなと思いますので、これからの働く人の標準モデルはきっと変わるのだろうなと。これは私もまだ解は見えていないのですけれども、そこを我々がちゃんと認識していく必要があるのではないかと思っております。
それから、今、どの会社も人手が足りませんとおっしゃるわけですが、人手は本当に足りていないのか、その真偽を確認していく必要があると思っていて、もっと人を使わない会社になれるのではないのかというディスカッションを企業と繰り返していく必要があると思っております。先ほど言った機械化とかムダ取りというのをもっと積極的にできないのですかという話です。特に大企業では人材のムダ遣いという意味での雇用保蔵、労働保蔵が起きていると思っております。ですので、雇用している人一人一人が十全に活用されているという状態を実現することによって、意外に人手はこれ以上要らないねとなれる会社が多いのではないかと思っておりまして、人手不足なのです、人手が足りないのですという会社側の主張は、ちょっと見方を変えたら、いや、そんなことはないのではないかという話をしなくてはならないと思っておるわけです。
先ほどワニの口のように労働供給と労働需要の折れ線グラフがこの先も動いていくのですよというふうにワークスのほうでも試算しましたとあるのですが、労働需要、労働ニーズのほうは少なからず右肩上がりで増えていくとあるのですが、労働ニーズそのものが減っていくという状況を、経済を犠牲にしなくてもできるのではないか、そこまで仮説した上で物を考えていく必要があるだろうなと思っております。
次は人が余っている。先ほど言ったとおり人手が足りないという企業の主張は本当なのかどうかを確認した上で、人が余っている、あるいは余っているはずの企業から、本当に人が足りない領域へ人が円滑に移動しやすくなるための政策というのがあると思います。これは都心から地方であり、大企業から中小企業であり、ホワイトカラー職種から生活密着型のサービス職種、エッセンシャルワークなどへ人が移動しやすくなるための政策が必要だろうなと思っております。
逆に中小企業、サービス業の付加価値創出力の向上は急務ですねという話ですので、こちらをどのように支援していくのかという話が1つあると思っております。
労働者の付加価値創出力の向上に対する支援ということで、先ほどAIの話をちょっとしておりますが、デジタルに関わるスキルは本当に必要になってくると思いますので、そこに関してはどのように支援をしていくのかという話は、今後も重要なテーマかなと思っております。これは個々の会社も自分の会社の従業員に対して支援をすべきですけれども、社会全体としての付加価値創出力の向上に関して、どのような打ち手でそれを上げていけるのかというのは、労働政策的な課題としては大きいのかなと思っております。
もう一つは、ずっと前から改善が始まっておると思いますけれども、労働移動すると損をする制度というのは徹底的に見直していくというのと、もう一つは働いていない人が働いてくれるのもすごく大事で、働くと得になる制度を整備していくというところも大事かなと思っております。
今、損をする制度の中の一つに退職金とか年金の話もあると思いますし、これ以上働かないほうがいいかなと人々に思わせる制度として、103万円、106万円、130万円の壁と言われている壁問題がありますが、働かないでいるほうが得に見えているというふうに人々を動かしているものをどのように段階的に廃止していったり、見直したりするのですかという話があると思います。
もう一つ、最近すごく大きく課題になってくると思っていて、これは労働政策上のテーマなのか、私もちょっと自信がないまま言っておるのですが、育児をしながら働くと様々に損をするのだよねとか、あるいは管理職になると損をするのだよねというふうに、企業の中で働いている人たちの中に、言ってみればより価値創造の中心になることをネガティブに感じるとか、そこを目指さないということが起きているような形で、企業のマネジメント上の課題というのはまだまだあると思うのですが、この辺りの解消の話もできるといいなと思っております。
もう一つは、労働移動をしやすくする中で、どの方がどのようなスキルを持っているのかとか、どんな価値創出力があるのかという共通の物差しがない状態の中で人々が今、移動するという話になっておりますので、評価物差しというものが開発できるといいかなと思っております。ただし、これらの政策の全てが厚生労働省のマターとならないと思っておりますので、全省庁で横断的に来る労働供給制約社会に対する備えというのをしていかなくてはならないなと感じておるところです。
次のページが参考程度ではあるのですけれども、中小企業とサービス産業の低賃金問題をどうにかしなければ、先ほど言った円滑な労働移動も起きづらいという話があるわけですが、中小企業ももちろん徹底的なムダ取りと機械化を進めなくてはいけなくて、実感値ではありますけれども、今のところ中小企業になればなるほどデジタルというものを取り入れるということに関して、経営者の方々の姿勢は非常に消極的です。一方で人手は足りないという問題意識を持っていらっしゃるという中で、人を使わなくてもいい会社になれるのではないかということのサポートはあってもいいのかなと思っております。
それから、高付加価値企業。高賃金を払えている企業というのは大企業だけでなくて、中小企業の中にもあるわけですが、そういうのは何が一体高付加価値の源泉なのかということに関して、これはべたな話しかできていませんけれども、そういう高付加価値企業になるための施策、なるための企業マネジメントとは一体どういうものかということに関して、もっと世の中に素材を提供できるといいかなと思っております。これが事例の収集と周知、顕彰みたいなことだけでできるとは思っていないのですが、高付加価値モデルの横展開、あるいはM&Aの促進ということも含めて、低生産性の会社がいつまでもそのままでいていいわけではないというふうに、何らかの形で変化を促すということをやれるといいのではないかと思っております。
それに関わるところですけれども、低付加価値あるいは低賃金の中小企業の延命をしないと。これは廃業しやすくするというのが大事なのだと思っていて、今は人を雇用しているし、代表取締役は自分の個人資産も銀行に担保に差し出しているという中で、廃業したくてもできない。廃業というのを最後の最後まで考えられないと思っておるわけですが、そこはもっと簡単に廃業してもいいのではないかというふうに言えるといいと思っております。なので、例えば代表取締役個人の連帯保証については廃止しましょうとか、あるいは積極的な廃業を選んだ会社で発生する失業に関しては、一層の手厚い保護とか転職支援をするということもあってもいいのかなと思っております。
参考につけたのは「高付加価値化によるサステイナブルな経営を実現している中小企業の例」ということで、1つは京都のラーメン店、猪一という会社の事例ですけれども、つけてあるQRコードは、猪一に行ったあるSNSブロガーさん、ライターさんの投稿した記事ですが、まずは価格を上げました、すみませんということを店の前に貼ってあるのだけれども、それはなぜなのかというと、従業員がなかなか集まらないので賃上げをしたいのだと。なので、申し訳ありませんが、価格を上げますと書いてあって、実際店内に入ってみると、非常にすばらしいサービスが行われていて、それはなぜかというと、従業員がちょっと前とは違う。例えば難関大学に通っている大学生であるとか、非常にやる気のある留学生が来ていて、高付加価値サービスを提供しているという話で、これは物すごく面白いお話ですので、お時間のあるときに読んでいただければなと思うのですけれども、そういうことができていると。
例えば、最近も1つ行ったところですが、神楽坂にある日本茶とデザートだけを出すという店です。1万5000円のコースしかなくて、カウンター6席しかなくて、これはすみません、1日2回転18人でなくて12人ですけれども、デザートのフルコースのみのレストランで、1日2回転12人で、20日しか営業していませんとおっしゃるわけですが、それで十分利益が出るのだと。こういう形の高付加価値でやっていて、サステイナブルであるという企業をどのようにつくるのかという話は、もっと様々な会社がトライしてみる必要があるのではないかなと思いながら、これは飲食店のケースでしかないのですけれども、御紹介をさせていただきました。
最後、散漫になりましたが、私からはこのようなことを今期の基本部会でお話しできるといいなと思いながらお話をさせていただきました。ありがとうございました。
〇守島部会長 石原さん、どうもありがとうございました。
それでは、続いて、冨山委員の御報告に移りたいと思います。よろしくお願いいたします。
○冨山委員 どうもありがとうございます。
お題としては、今の話とかなりかぶってしまうのですけれども、労働供給制約の時代に入りますと。これは我々の潜在意識を含めてコペルニクス的な大転換なのです。というのは、30年間デフレだったのです。この国はデフレで、何と30年間労働供給過剰だったのです。正確には20年だけど。何せ物すごく長い間、人手は余っている、賃金は下がる、デフレということになってしまうと、会社のビヘービア、大中小問わず、とにかく値段を下げて安売りをして、何とかシェアを守って、会社を守って、それに対応して人件費を削ってと。その循環だったのです。今、この状況は一気にすごい勢いで変わっていまして、これは企業の大中小問わずです。
いわゆる中小企業の価格転嫁の問題はあるにはあるのですけれども、本当に力のある中小企業はちゃんと価格転嫁を始めています。今、力のある中小企業は大企業に対して、嫌だったら売りませんというのが通ってしまうのです。ほかに幾らでも引き合いがあるので。ですから、実はすごく状況が変わっています。
それを踏まえて、そのときに何が労働市場政策に重要かということを話したいと思っています。この辺が構造的に人手が足りなくなっている地域性があったので、これがまさにリクルートワークスさんの資料ですけれども、こういうふうになってしまっている。これは実はすごいことで、今、既に運転手が足りないとか、建物を建てられないとかという状況になっていて、みんなコロナ明けの一過性だと思っている人が結構多いのです。これは全然違います。今はまだまだ序の口です。日本の労働市場というのはこれからすごいことになるのです。皆さん、そう思っていてください。これも長期的に、不可逆的にそうなります。
東大の星先生が最近、こういう論文を書いているのですけれども、デフレは本当に終わってきています。デフレと生産性の議論、マクロ的な話というのは星先生の専門領域なので、ひょっとしたらこの部会に来て説明してもらってもいいかなと思うのですが、いろんな数字がとにかく構造的に転換してしまっているのです。
正規雇用労働者の過剰感も実は10年ぐらい前からトータルでは大分解消しています。ただ、内部的にも先ほどの話であったように、足りているところ、足りないところが会社の中にもあって、私は企業再生が専門なのでストレートに言ってしまうと、販売管理部門の人たちを半分にしている会社もあります。これは大企業共通して。残念ながら。要するに、50歳以上かな。そういうところは大体おじさんが多いのですけれども、この辺の世代を半分にしている会社もあるのです。ということは、ここで人が余ってしまっているのです。なのだけれども、生産現場は人が全く足りないです。それが今、会社の中でも起きているというのが先ほど御説明があったとおりです。ただ、トータルでは余剰感は大分解消しているということです。
一方で、いわゆるパートタイム・非正規の増加もその裏返しで止まっていて、まだまだ比率が高いところは問題なのですが、上昇はさすがに止まってきたところです。
ただ、問題がありまして、これも先ほど説明があったように、実は2012年ぐらいからこの国は実質完全雇用になっています。これは少子高齢化が原因です。完全雇用になるというのを10年前に『なぜローカル経済から日本は甦るのか』というので予言していて、これは簡単な予言で、人口動態で予想できてしまうのですが、案の定なってしまったのです。
そのおかげでそれぞれに賃金が上がってきているのですが、問題は全体が下がっていく非常に大きな要因は、何せ正規と非正規が生産性では説明できないぐらいこの国は差があって、これも労働市場にある種の欠陥があるからだと思ったのですけれども、そのせいで正規から非正規にシフトすると、それで加重平均が上がらないということが起きているのです。だから、この問題は今後も重要な問題で、要は、なんちゃって同一賃金同一労働というのはどうなのだろうということですが、この問題は残っています。
大転換の時期になっているのですが、これも不可逆的なのです。客観情勢的にシーソーは倒れかかっているのですが、ここからが問題で、ポストコロナ期において、先進国でも突出的に日本の賃金上昇が遅いのです。これは労働市場政策に関わる我々はすごく責任を感じなければいけないところがあって、これは変なのです。というのは、新自由主義の国ということになっている、要は、容赦のない資本主義の国ということになっている米国のほうがめちゃめちゃ賃金が上がっているのです。今、人件費上昇とインフレが止まらないのです。だから、日米金利差は埋まらないのです。向こうは人件費から上がっているのです。日本の場合はコストプッシュ型になってしまったのだけれども、これはどういうことだろう。日本のほうが構造的には完全に人手不足です。先ほど言った少子高齢化がすごいので。要するに、何やねんということなのです。
これは新資本主義会議でも、ずっとこの議論はされていて、どうして実質賃金はプラスにならないのだろうか。市場が失敗しているのか、政策が失敗しているのか、あるいはいろんな経路依存性があるのか、この辺が全部重畳的に利いてきているのだけれども、とにかくいろんなものがかなりコペルニクス的に転換していかないとまずいのではないかというのが私の根本的な問題意識であります。
今後も破壊的イノベーションによるゲームは続きます。これはいいか悪いかはともかくとして続きます。ですので、産業、企業、ジョブの新陳代謝を積極的に捉えないと経済も賃金も絶対に停滞します。だって、付加価値が取れないのです。
もう一つは、古い日本的経営モデルにしがみついている限り賃金も生産性も上がらないです。だから、こうやってずっとFortune 500などで日本の企業は消えてきたのですけれども、この流れは止まらないです。古いモデルが機能しなくなったことが、1つには古いモデルの衰退のバッファになった非正規雇用増加の背景でもあるのです。ここはさすがにもう諦めないとまずいのではないかということです。
これも今ありましたように、AIの話。AIは革命性があります。先ほどこれもありましたけれども。産業革命の歴史というのは人間の機能の置き換えなのです。最初は動力革命です。これは筋肉の代替です。次の情報革命は知覚の代替です。今度のAI革命は脳の代替なのです。これはやはり革命性があるのです。ジョブ構造で言ってしまうと、現状はホワイトカラー職種と非ホワイトカラー職種となって、英語ではデスクワーカーとノンデスクワーカーと言うのですけれども、今、日本で言うと、ホワイトカラー4割、ノンデスクワーカー6割。こうなっているのです。実はホワイトカラーは相対的に減ってきているのだけれども、今、非ホワイトカラーが人手不足で、物すごく賃金上昇圧力がかかっているのですが、ホワイトカラー職種は完全に両極化です。今、ローホワイトカラーはすごい勢いでAIによって職場を破壊されています。今後ますます間違いなくそうなります。
一方で、アッパーホワイトカラー、要するに、本当に難しい意思決定をするとか、あるいは本当のクリエーティビティ、一番チーフのところ。実はクリエーティブもかなりの部分をAIがやってしまうのです。皆さん、映像生成AIとか、私は音楽をやるので、作詞作曲AIを使ったらいいです。あれは本当にすごいですよ。マジですごいです。ああいうものをつくる人とか、ああいうものを使って最終的に作曲する人の仕事は残るのだけれども、今までアシスタントがいっぱいいたのが要らなくなってしまうのです。確実にジョブはノンデスクワーカーのほうに移動していきます。
実は医者というのはノンデスクワーカーなのです。みんな分かっていないけれども、ノンデスクワーカーなのです。だから、ノンデスクワーカーをばかにしてはいけなくて、今、日本で若者・学生に一番人気のある職種はノンデスクワーカーなのです。今、医学部はめっちゃ人気ですから。だから、漫然とホワイトカラーを大量生産している大学におられる入山先生にはちょっと申し訳なくないかな。要するに、大学の文系はどうなるということがあるのですけれども、そういう状況になっているわけであります。だから、これも構造が変わってしまうのです。
もう一点、同じことなのですが、これはいつも使っている話で、いわゆるG型産業、典型的なホワイトカラー産業です。L型産業はローカルな地域密着のエッセンシャルワーカー産業。もともと既にGDPは3割対7割になっていて、産業構造は、高度成長期は左に近かったのだけれども、着々と右の世界に移ってきていて、ですから、今の話とほぼ重なるのです。なので、ホワイトカラー中間層の夢をもう一度、ホワイトカラーの分厚い中間層をもう一度と言う人がいまだに多いのだけれども、あれははっきり言って青い鳥探しなので、やめたほうがいいと思っています。
というわけで、いろんな常識が通用しなくなります。企業倒産、企業再編は長期失業、非正規増加と賃金低下をもたらすということになっていました。かつてデフレの時代、人手余りの時代。確かにそうだったのです。私も関わっていたのでよく分かります。だけど、今は完全に違っています。低労働生産性企業を守って、それはけしからぬ、企業再編は駄目なのだ、倒産は駄目なのだと言って、今、退出するのは全部労働生産性が低い会社なのです。要するに、人手が足りないから。この既存雇用を守るほど賃金は上がらず、非正規雇用も増えるのです。逆なのです。ちょっと組合の方には申し訳ないのだけれども、この古い常識の資料を時々官邸の会議とかでお出しになっているので、ひょっとすると今どきの再生の現場を知らないのではないかなと思います。というのは、この20年ぐらいそんなにたくさん再生案件、労働組合は関わっていないので、もし分からないことがあったら私のところに聞きに来てください。私は今でも現役ですから、聞きに来てください。情勢は本当に変わりました。だから、働く者にとっては人手不足倒産、人件費倒産は歓迎すべきことなのです。人手が余っているときは、低生産性企業というのは雇用の受け皿が大事だったのです。でも、今は全く大事ではありません。
中小企業の事業承継に失敗すると雇用が減ると言う人がまだいるのです。あと、最低賃金を上げると中小企業がもたず雇用が減ると。これもまだいるのです。これは全然関係ありません。これも先ほどあったとおりに、雇用量は労働市場全体の需給で決まってしまうので、企業数ではありません。これも関係ないです。
企業統治改革、規制改革による生産性向上は人減らし、賃金低下、雇用不安につながる。これも逆です。これはむしろやっていかないと賃金が上がらない。今、労働供給制約、かつ資本は供給余剰なので、現状、労働分配率には上昇圧力が働いています。だから、今、変な話で、機関投資家が人的資本投資を増やせと言っているのです。何でこの会社は賃金が安いのだと機関投資家に言われてしまっている。これは変で、今回の春闘がどうかなと思うのは、組合の要求よりも高い回答が結構あったのです。あれは諸外国の人から見たら摩訶不思議ですよ。どうなっているのだと思いますよ。なので、実はもうこの状況ではないということであります。
転職増加、雇用の流動化は賃金低下と非正規増加をもたらす。かつてはそうでした。でも、今は全く違います。
分厚いホワイトカラーの中間層の復活こそが日本の政労使が目指すべき道。これも間違っています。これはやっても答えは出ません。むしろこのジョブシフトから逃げずにEssential JobをAdvancedにする。それによって新しい分厚い中間層へ押し上げることが現実的な解だと思っている。特にAIの時代はそう思っています。
要は、付加価値労働生産。これは先ほどあったので詳しく述べません。これは、政労使共にこれが共通のゴールです。とにかくここに向かってひた走るというのが労働市場政策の最大の眼目だし、これによって日本国の未来は、特に働く人にとって開いていくと私は確信しております。
ただ、くどいようですが、経路依存性のわなは結構きついのです。結構重くて、なかなかこれが切り替わらないところがあって、企業の改革もそうですが、意識改革というのが一番難しいのです。特に潜在意識まですり込まれているものを変えることは極めて難しいです。というのは、人間は習慣の生き物で、思考も習慣の産物なので、大変です。
ただ、最近ちょっと嫌な感じがしているのは、この転換を急がないと、スタグフレーションのわなが日本にはあるのです。というのは、今、輸入物価が上がっているので、コストプッシュのインフレになります。そうすると、今、ここは賃金上昇と成長(生産性向上)の黄金の、要するに、人が足りないということをてこにして黄金の好循環に入れるか、逆にスタグフレーション。スタグフレーションはデフレ均衡よりもっとつらいです。特に弱い人にとって。私はこれは結構分かれ目に来ていると思っているので、労働諸政策の大転換というのは本当に急ぐべきだと思っております。
ということで、この大転換なのですが、何点か重要なことを言わせてください。コンセプチュアルに言ってしまうと、守りの労働政策から攻めに転じようと思っています。
あと、静態化・固定化からむしろ動態化・流動化を前提とした労働市場政策に移行。ですから、同じ会社でずっと働き続けるのか、労働者の意思で転職するか、あるいは兼業するか、そういう話というのはもう中立化しましょうということです。
それから、社内共助偏重でやっていれば、どうしても社会というのは淘汰ができなくなるので、社内共助と社会共助や公助とのセーフティネットのリバランスが必要です。
それから、なんちゃってではなくて、本当の同一ジョブ同一賃金の実現をしましょうということであります。
幾つかの重要な論点について私の意見を申し上げます。解雇規制。何たって冨山さんは解雇規制緩和論者だと思われがちなのですが、私は違います。実は解雇規制を緩和する必要はないと思います。これは幾つか理由があるのだけれども、当事者だったので申し上げると、国際比較において、リアルとしてこの国は雇用調整が難しい国では決してないのです。
労働供給制約時代において、企業側にも解雇規制緩和の切実なニーズはないです。むしろ逆です。どうリテンションするかになっています。
今は、解雇規制に縛られたほうが低労働生産性企業の新陳代謝はむしろ進むのです。なので、私はどちらかという
と今、企業をいじめ倒したほうがいいと思っているので、緩和の必要はないと思っています。
ただ、現行の不当解雇裁判救済が解雇無効と職場復帰へと明らかにバイアスがかかっているのは問題です。ここを中立化すべきです。この状況においてはそのほうが労働者は救われるのです。ですので、労働者による選択的金銭救済制度を可及的早期に導入すべきだと割と明確に思っています。これによって企業はきつくなるのだけれども、それでいいのです。それで企業は新陳代謝をしていけば、必ず間違いなく労働生産は高いほうに行く。
あと、いろんな議論の論点は飛ばしますけれども、ここに書いているのを後で読んでおいてください。
もう一点、最低賃金。これも幾ら何でも安過ぎると思うのです。何でこんなに安いのだろうと思います。これもデフレのトラップがあって、日本の最低賃金は支払能力にすごく配慮しているのです。これは労働供給余剰とデフレの時代、すなわち、中小企業雇用や非正規雇用が雇用の受け皿、セーフティネットの時代においては大事だったのです。かつ、地域別のきめ細かな最低賃金設定も地域の雇用を守るためには極めて重要だったのですが、今、全国平均の求人倍率は1.22ぐらいかな。ところが、一番人口が減っている鳥取県などは求人倍率がもっと高いのです。1.33なのです。では、何で地方から人がいなくなるかといったら、雇用がないのではなくて、いい仕事がないから東京、大阪へ行ってしまうのです。ということは、地方こそ賃金を上げなければまずいのです。そう考えてしまうと、いわゆる地域別、それから企業の支払能力への配慮というのは違うような気がしてきているので、これはすごく難しい問題で、簡単に答えが出ないことはよく承知しているのですが、最低賃金の根本は、健康で文化的な生活をする権利をどう労働市場の中で担保していくかという話なので、ここはいろんな意味で進化、あるいは効果もあるのですか、腹を据えてこういった議論を始めたほうがいいと思っております。
それから、日本型メンバーシップ雇用は明らかに黄昏であります。もちろん、これを否定はしません。こういう働き方もあっていいのです。なのだけれども、先ほどあったように、いろんな働き方があるので、これへのバイアスはやめましょうよ。働き方に関して中立的であるべきですよ。
ただ、このシフトはちょっと大事な問題で、労使間の任意に任せておけという議論をみんなすぐしたがるのだけれども、実はここにも経路依存性のわながあって、労使間に任せておいたら経路依存性の中で脱却できないです。それを放置するにはこの問題は重要過ぎるのです。例えばリスキリングとか資格制度とか高等職能教育。だから、入山先生のところもいろんな仕事をしなければいけない。だから、これはやはり政策マターなのです。労使で勝手にやってください、テーマと言うのは軽過ぎます。重いテーマなので、これは明確に政策マターだと思っております。
あと、外国人労働力とほかのいろんな問題があります。今日細かくは説明しませんけれども、外国人労働力の導入は、これだけひどい人手不足、ある種の社会インフラ機能を維持するために必須なのですが、だけれども、これで根本解決はしないということだけ明確に申し上げておきます。これはもう既に諸外国の先行例で明らかになっていて、これは根本的解決ではなくて、付加価値労働生産性の上昇が根本的解決。これははっきり申し上げておきます。
もう一つ懸念があるのは公定価格市場。要するに、医療介護セクター、保育セクター、地方のインフラ維持(道路、上下水道、公共交通、消防団など)。ここはこれから大変です。というのは、労働市場の機能が働くところは確実に賃金が上がっていくのですが、このセクターは財政によって頭を抑えられるのです。こういったところが一番ベーシックな社会インフラ機能を果たしているので、これが崩壊してしまうと危うい国になってしまって、経済成長もへったくれもなくなってしまうのです。なので、これをどうしていくかというのはこの部会の範囲を超えてしまうのだけれども、実はすごく問題であります。
この部会のマターで言ってしまうと、現行の働き方改革、高プロ制度に関しては逆の問題があって、高度な知識集約セクター、グローバル競争に挑む人材に関しては存分に戦えない問題も一方で出てきています。Lの世界は今まで申し上げたとおりなのですが、Gの世界に関しては逆にやばいです。実際起きていることは、グローバルなコンサルティング業務とか投資銀行とかだと、日本人でも優秀な学生は海外拠点の移籍を願い出てしまうのです。これは研究の世界でも起きていると思います。この人たちはエリートなので、エリートの人たちがどういうふうに世界と戦えるか。要するに、大谷翔平に「おまえ、練習時間を削れ」とは言えないので、そういうところをどうしていくかというのは、ここもある種高プロ制度をどうするかということに関わるのだけれども、これもぜひともこの部会で議論していっていただければうれしいなと思っております。
ということで、今日言いたかったことはほとんどこれに尽きるのですが、攻めの労働政策転換というのをとにかく急ぎましょうということであります。
どうも御清聴ありがとうございました。
〇守島部会長 ありがとうございました。
それでは、議論に入りたいと思います。まず、途中退席されると伺っている入山先生、いかがでしょうか。
○入山委員 今、札幌の新千歳空港におります。石原さん、冨山さん、ありがとうございました。お二方の御意見に100%同意でして、私立の文系が早く潰れたほうがいいというのも大賛成でございます。本当にそうですよね。
どこもお二人、そのとおりだと思って、1点だけ。最後、冨山さんが触れてくださったのですが、外国人労働人材のところについてもう少し冨山さんのお考えをお伺いしたいのと、それから石原さんのエクサウィザーズ、僕、実は顧問をやっているのですけれども、エクサウィザーズというのは、かなり優秀なほうの外国人人材をうまく取り入れている実績のある会社だと理解しているので、その辺の政策とかをちょっと披露していただけるとありがたいかなと思っています。
皆様御存じかと思うのですけれども、最近、僕の周りでもスタートアップで移民を受け入れたり、連れてくるようなスタートアップ企業が出てきていまして、今、1年の3分の1はマニラに住んでいるのですが、マニラでたまたま同じポイントタッチにレアジョブというスタートアップを創業した加藤君が移り住んでいまして、フィリピンの人材を研修で鍛え上げて日本に送り込むという事業を彼が今度始めようとしていて、日本がこう減っていく一方できれいにもうけているので、スタートはいいのではないかみたいな。だから、結構そういう動きが出てきている中で、この辺で冨山さんと石原さんはどう考えているかというのをぜひ教えていただければありがたいです。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、冨山さんからお願いできますでしょうか。
○冨山委員 実はうちの会社もそういう人材、訓練、受入れはしています。ベンチャーに投資しております。そういう都市です。
まず、外国人労働者の問題に関しては、いわゆるノンスキルドワーカーを定住型・家族同伴型でチープレーバーとして入れるということは絶対やらないほうがいいです。これは2つの問題があって、これを入れてしまうと、どうしても中小企業に多いのだけれども、チープレーバー依存という経営の選択肢が生まれてしまうのです。これをやってしまうと付加価値を追求しない経営モデルになってしまって、デフレ型の経営モデルを生き残らせることになるのです。これはとにかく徹底駆逐してしまったほうがいいので、要するに、この選択肢を奪うべきです。
もう一つ、アンスキルド、アンエデュケーテッドな定住・家族同伴型の人を入れてしまうと、欧州で難民とかの多くがそうなってしまったのだけれども、生産労働者1人に対して非生産労働者が3~4人一緒に来てしまうのです。しかも言葉ができない。もともと少子高齢化に対する対応というのは、そのバランスが崩れているから人に入ってきてもらっているわけなので、要するに、バランスが修正されないのです。むしろ世代的なある種の貧困の再生産になってしまって、社会的にいろいろな問題を起こして、むしろ社会トータルのコストも増えてしまう。これが今、欧州のやや結論に近いところで、ですから、来てもらうのであれば、ちゃんとした訓練・教育をして、かつそういった家族の皆さんも日本社会の中でちゃんとフェアに教育を受けられる、あるいは労働者としても当然日本人と同じような権利・義務がある。そういう前提でやらないとうまくいかないと思っています。となると、そんなに大量に入ってくることは考えにくいので、そこで解決すると考えている人は一部いるのだけれども、これはほとんどがチープレーバー大量輸入論になってしまうのです。それは避けたほうがいいという意味で、これだけで問題は解決しませんよということを申し上げておきます。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、続けて。
○石原委員 石原でございます。
私が今、働いておりますエクサウィザーズは、エンジニアがたくさんおる会社なのですが、エンジニアの中には中国、インド、フランス、ベルギー、アメリカ、様々な国の方が結構入ってきてくれています。では、実際にどうやって彼らを雇用しているのかというと、先に日本に興味があって日本に来ていますという人が圧倒的に多いです。日本が今、まさに円安でもあり、物すごく暮らしやすい国であるわけです。生活水準を高位に維持できる国として。なので、高学歴、高スキルの方からすると、日本の様々なコンテンツが好きだったりすると、日本に来るというのは非常に大きな選択肢になっているようで、その方々の中でスキルがある方が来てくださるとすごいハッピーということが、今、私どもの会社では起きています。
でも、実際入ってみて、その後どんなふうになっているかといったときに、これは最近解消してきているのですけれども、そうは言っても私どもの会社もほとんどの人は日本語しかしゃべりませんという中で、様々な場所で疎外感を感じるとは言わないけれども、みんなが楽しんでいることが何だか分からないということがあるからつまらないし、会社に対するコミットメントも限定的になりますということは起きていますと言われたことがあります。ということで、我が社ではいかに英語のコミュニケーション量を増やすかというのが今、テーマになっているのですが、そういうことが起きています。
もう一つは、入ってきたエンジニアの方を高位の、いわゆる昇進・昇格が実現できているかというのも大きなテーマで、彼らは彼らでキャリア展望が欲しいといったときに、好きなエンジニアの仕事で何年でも何十年でもいいよとは言っていないわけで、彼らにとってもキャリアステップというのはすごく大事だということがあって、弊社も様々に。これまで例えば外国人の役員とかいなかったのですが、技術役員、専門役員という呼称の役員級の方が少しずつ増えつつあるということで、そういう意味では、高度外国人材に関して言うと、日本人の従業員に対して提供するのと同じようなトータルの報酬、トータルリワードが必要だなと思っているところです。
以上です。
〇守島部会長 ありがとうございます。
それでは、ほかの方から御意見・御質問を伺いたいと思います。どなたからでもどうぞ。では、山田委員、お願いいたします。
○山田委員 石原委員、冨山委員、ありがとうございました。
お二人のお話はシンクロしているというか、共通していて、私もすっと頭の中に入り、10年か20年か分かりませんが、その先はこういう形に行くのだろうなと。ただ、あえてちょっと言いますと、冨山委員の話で言うと、経路依存性の問題とか、要は、現実問題として移行期はどうやっていくのか。それがまさに政策の役割なのではないかなと思うのです。
労働需給が、そのバランスから見ると、確かに全ての人に仕事があるという状態なのだけれども、実際にはその過程でミスマッチが非常に大きくなってくるということですから、このミスマッチをどういうふうにアジャストしていくのかというのがこれからの大きなテーマになっていくのだろうなと。それがリスキリングとかということになっているのですが、ただ、その議論というのはこれまでもされているし、前回もやっていたと。
今回新しく出てきているのは、これはお二人の議論の中にもあったし、私自身もそういうことを最近考えているのですけれども、ホワイトが大きな受け皿ではなくなって、それが二極化していくと。一方で、現場の労働が非常に不足してくるので、どうそこに移動してもらうか。非常に模式的に言うと、ホワイトのところで減っていく仕事を現場で受けていくのかという話になっていくと。これはスキルだけの問題ではなくて、大きいのは一種の職業観で、大学を出た人はホワイトに就きたい。現場労働に就くというのは非常に抵抗があるというのは現実的なところだと思うのです。ここをどう変えていくのかというのが一つ大きなテーマになってくるのだと思うのです。
そこに何かアイデアがないかということで、石原委員の資料の6ページのところにシフトの政策というのがあるのですが、資格の話みたいなところがあったと思うのですけれども、そこのアイデアとか、あるいは具体的な事例があれば教えていただきたいなというところです。
冨山委員にお聞きしたいのは、労働政策の外と言いながら、実はこういうエッセンシャルな部分、現場労働のところというのは公共セクターというところなので、価格がフレックスに動いてこなかった。ただ、ここは完全に自由にさせていれば実現するという話ではなくて、何かアイデアが要るのではないかなと思うのです。例えばみちのりホールディングスさんに関しその関係の話をちらっとどこかで読んだことがあるのですが、要は、地域のバス事業を成り立たせるためには、現実にはそれなりの公的な資金が入らざるを得ないと。ただ単なる補助金ということでなくて、そこに事業者のいろんな工夫が入ったり、あるいは事業者のニーズを生かすような設計ということがあるのだと思うのですけれども、その辺のアイデアがあれば教えていただきたい。
もう一点、冨山委員がまさに最低賃金の話をされたので、これについてもちょっと申し上げておきたいのです。日本の最低賃金というのは、今は地域の法定最低賃金が中心になっていますけれども、歴史的に見たら、労働協約方式、いわゆる産別最賃というものもかなり重要な問題であって、むしろ地域の差とかを主体的に変えていくという意味では、地域最賃みたいなものにもう一回スポットライトを当てていくのが重要ではないか。というのは、従来使用者側というのは地域最賃にずっと反対してきた。ただ、労働力不足になってくると、ある地域のある産業の最賃を上げるということ自体が企業にとってもプラスになってくるわけです。そういう意味では、全体を地域最賃でやってしまうといろいろハレーションが起こるので、特定最賃という今の仕組み、要は、産業別最賃を新しい形で見直していくことによって、特定最賃をもっと活用するという視点が重要ではないかということで、これはコメントということです。少し長くなりましたけれども、よろしくお願いします。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、石原さんからお願いいたします。
○石原委員 ありがとうございました。
まさにニーズと供給の量だけ見れば足りているのだけれども、実際にはその産業で働きたくないという人がいるのだけれどもどうするかということが大きな問題であるのは確かなのですが、1つは、例えば介護には行きたくないとか、ローカルにある何とかの産業には行きたくないというときに、その産業の賃金がどれぐらい高いかというのは1つ解消の要素になると思っていて、今は圧倒的に介護職で働くよりも大企業のホワイトカラーになるほうが賃金が高いから、大企業のホワイトカラーで働くわけですが、介護の現場に行っても同じぐらい給料がもらえる、あるいは同じように生活水準が保てるということが実現できるのはすごく大事なのではないかと思っていて、すみません。これは言うは易しで、では、具体的に何があればいいのですかという話であるのですけれども。
先ほど冨山委員がおっしゃった公定価格の問題はあるのですが、本当は介護の現場とか生産の現場ももっと機械化ができると思っていて、そこからスタートして、生産性が高い会社にまだまだなれるよなという思いはあるのです。ただ、それをしてもなお感情面でのミスマッチは起こるだろうなということで、私もどうすれば完全に解消できるのかについては具体的に答えがないところではあるのですが。
私からは以上です。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、冨山委員、お願いいたします。
○冨山委員 ありがとうございます。
実際のビジネスの空間でこういう公定価格に近いところの人に関わっているので、2つポイントがあると思っていまして、1つは、公定価格的な世界とか規制が多い世界のほうが実は経営格差がすごいのです。なぜそうなってしまうかというと、多くの経営者が、規制が多いとか公定価格ということで思考停止をするのです。苦しくなると、ある意味では赤字を補助金で埋められる的な仕組みもあるものですから、本当にちゃんとやっている生産性の高い事業者と低い事業者は、普通自由競争が広がるのだけれども、自由競争だと淘汰されていってしまうので、実はこういったセクターのほうが格差があります。ですから、我々がやっているバスも同じです。
今、石原委員が言われたように、インセンティブデザインの問題で、これは先ほど山田さんが言われたことと重なるのだけれども、どうしてインセンティブが生まれにくいかというと、すごい頑張っても頑張らなくても結果に差がないような仕組みになっているわけです。というのは、供給機能を維持するために、ある意味ではあまりうまくデザインされていないインセンティブシステムになっているのです。補助金の仕組みとか。
そうすると、ナショナルミニマムをちゃんと担保しながら、一方で生産性を上げるインセンティブをどう与えるかというのは、ああいった領域におけるレギュレーションデザインのポイントで、現状一番うまくいっているのは空港などがやっているコンセッションみたいな仕組みで、結局、ナショナルミニマムは必ず担保しなさい。その分に関してはむしろ公共がコストを出しますと。その代わりそれ以上のことをちゃんとやったら、皆さん、利益として取ってください、あるいは従業員のボーナスにしてくださいということをやる、そういう仕組みであれば、公共政策上絶対やらなければいけないという国民のミニマムな生活上、社会保障という部分と、それから民間企業のいいところである頑張って利潤追求するためにいろんな創意工夫とか自動化を取り入れるという部分、うまいこと両方とも取れる仕組みがあったので、こういった公定価格ゾーンについて、そういったものをどう導入していくかというのは今後課題で、少なくとも現状の公共事業の入札方式にしても、あるいは先ほど言った補助金の仕組みにしても、そういうインセンティブバイアスになっていないのです。むしろ逆になってしまっているので、これは厚生労働省だから旧厚生省の話になるかもしれませんけれども、そこはいろんな意味でインセンティブのリデザインというテーマがあるような気がしています。
ちなみに、私は今、規制改革会議の議長代理もやっていますけれども、規制改革のテーマもこういった話が今後増えてまいります。というのは、今までは何か緩和して、ニュービジネスで金もうけしてちょうだいという話が多かったのだけれども、今はそういうのはあまりテーマではなくて、社会インフラ機能を維持するためにどうするか。実は外部需要の問題もそちらなのです。問題の本質は。そういった意味で、結局、すごくスマートなレギュレーションデザインをしていかないと、先ほど言ったナショナルミニマムが担保できなくなるので、その点はまだまだいろいろ工夫の余地があると思っております。こんなところです。
〇守島部会長 ありがとうございます。
ほかにどなたか。では、山川委員、お願いいたします。
○山川委員 2点全然関係ない話で、まず解雇規制のところについてですが、これは私の意見ですけれども、現場でやっている立場からの意見です。現場でやっているというのは、今、私は主に外資系の企業の会社側の弁護士をやっていますので、非常に多くの解雇事件を裁判所でやっています。実感としてこの解雇規制はあり得ないというぐらいひどいです。本当にひどくて、例えば非違行為だったらさすがにいけるかなと思っても、例えばセクハラなどだと、私のお客さんは女性がより活躍している国の企業が多いですから。アメリカとか。私から見ると結構ひどいセクハラがあると。その会社さんは当然こんな人は会社には置いておけない。解雇します。労働審判に行きます。そうすると、年配の男性3人が出てきて、「いや、さすがにこれで首は。降格でいいんじゃない」とか言ってきます。
能力不足でも、こんな人がうちの事務所にいたら絶対困るよね、周りに迷惑をかけてしまって、こんな人、ちょっと難しいよね、注意しても全然直らないしという人でも、裁判所に行って一生懸命立証して、証人尋問もして、裁判官から「いや、でも、配転とか降格でいいんじゃないですか」とか言われて、うそでしょと思うと。
整理解雇に関して言えば、恐らく積極的な整理解雇は裁判所では勝てない。例えばある部門があります。そこは今は赤字ではないけれども、長期的に見たら絶対赤字になるから、今、再編したいと。会社全体は黒字ですと。この段階で社員を解雇しても、裁判所では絶対勝てないです。そういう形でやっていて、ただ、裁判になると、基本的には99%どこかで金銭和解するのですけれども、それまで2年、3年かかってしまう。しかも和解するときの金額の見通しも全然立たない。そういうことがうわさとして広まるから、日本は非常に解雇がしにくいといううわさになって、では、日本には重要な人は置いておけませんねと。重要な人を解雇できなくなっても困ってしまうから、シンガポールとか香港に行きましょうということが実際問題として起こっています。
そうなると、裁判官をすげ替えるわけにもいきませんから。裁判官の方々は御承知のとおり日本で一番身分保証がありますから。弾劾裁判をしないと首になりませんから、そういう人をどうかと言っていてもしようがないので。やはり金銭解決で多くの部分は解消できるのかなと思いますし、事後的な金銭解決もそうだし、ここはいろいろと議論があると思うのだけれども、解雇のときにお金を払ったときにそれはある程度考えてもらう。特に整理解雇などはそういうこともあると思うので。
要は、透明性の確保と本当の紛争解決という意味では、解雇の金銭解決はすぐに入れてほしいと思います。はっきり言って会社も労働者もお互い弁護士費用を払っているよりも労働者に払ったほうがいいのです。だから、弁護士の仕事はなくなりますけれども、それはいいことなので、とにかくそこは本当によく考えたほうがいい。
ちなみに、労働審判は非常にいい制度だと思っています。みんなで話せるし、3時間ぐらい話すから。割と現実的な話ができるので、すごくいいのだけれども、ただ、そこでも金銭の解決、和解にしても全然基準がないから非常にばらつきがあります。今回うまくいったとか、今回は随分取られてしまったねとか、労働者の性格によっても全然違ってしまったりするので、解雇の金銭解決というのはぜひやるべきだし、そのうちとかいう話ではないので、いろいろと議論されていると思うのですけれども、それはぜひやっていただきたいと思います。
2点目は全然関係なくて、質問です。リスキリングは非常に重要だなともちろん思っているのですが、私自身が弁護士なので、実際問題としてあまりぴんときていないところもあって、ですので、冨山さんと石原さんにお聞きしたいのが、リスキリングというところで今、一番大きい課題はどういうところなのかを教えていただければと思います。
○冨山委員 これはむしろ山田さんに答えてもらったらいいかもしれないですけれども、今、一緒にリスキリングの会議を一緒にやっているので。いろんなところでいろんなプログラムを入れているのだけれども、実はあまり使われていなかったり、機能していないです。会社の場合、やっていても。これは幾つか理由があって、1つはっきりしていることは、会社の中での内部労働移動です。内部でリスキリングするということを想定したときに、会社自身が何をどうトランスフォーメーションしたいのかという議論が明確でない場合があります。かつそれを明確に言うことを恐れる。いろんなリパーカッションを恐れて。だから、ちょっと英語を覚えましょうとか、ちょっとPythonをやりましょうとかという話にどうしてもなってしまうのです。
結論から言ってしまうと、なぜそうなるかというと、これも理由がはっきりしていて、メンバーシップ型雇用においては、それを明確に言わないシステムなのです。漫然と部長、執行役、社長がなるというモデルです。したがって、あなたはこれからこの会社においてちゃんと価値ある仕事をしていくとすれば、こういうビジネスモデルになっていってしまうから、この仕事はなくなっていくので、したがって、こういう方向を目指してくださいよということを明確に言うことを多くの会社はビビります。あと、自分たち自身もメンバーシップ型雇用でやってきてしまっているので、それをクリアに示せないという問題が明らかになって、だから、どうしてもカフェテリア方式でいろんなものを並べて、みんな連携、漫然と勉強しておいてねというふうになって、誰も使わないということになるのです。
これはジョブ型の問題とセットになる、あるいはスキルベースドワークと言ってもいいのですけれども、そういうスキルベースドワークの問題とすごくセットになっている問題で、ここは会社の在り方を変える上では結構ヘビーで難しい問題です。というのは、真逆のことをずっとやってきているので。なので、ここはそう簡単に答えはないと思いますけれども、それが1つです。
もう一点は先ほど申し上げたことで、どうしてもホワイトカラー・ツー・ホワイトカラーを考えるのです。あと、国も一時期ずっとみんなでPythonをやりましょう的に、IT人材だ、プログラミングだ、それをリスキリングするということをやったでしょ。これが1つの敗因だと思う。例えば普通の大手製造業とか通信会社から観光業に行っていいのです。そういうことは考えない。先ほど介護の話がありましたので、介護職、これから一番狙われるのは観光業です。要するに、対人の一番難しいサービスというのは介護なので、いわゆるノンデスクワーカーの世界にどうリスキリングするかということに関して、国も企業もほとんど準備していなくて、官邸でこういう議論しても絶対にIT人材のほうへ行ってしまうのです。高度ホワイトカラーになりましょうみたいな議論で、これははっきり言ってナンセンスなのです。この2つの問題があると思っているので、これは現実を踏まえて。これは大学教育も全部つながっているのですけれども。
ちなみに、先ほど申し上げたホワイトカラー至上主義も日本の大学の在り方が絶対間違っている。要するに、頑張っていい中学、いい高校、いい大学に入るというのは、全部ホワイトカラーを目指しているモデルなので、あれは根本的に間違っていると思っていて、例えばヨーロッパはマイスターの考え方なので、ホワイトカラーとノンホワイトカラーで社会的な上下はないです。その上下は絶対廃止すべき。これは明治以降の絶対というか、普遍なので、私はそれはずっと思っています。それで昔、大学改革をして、要は、ホワイトカラーをつくるというモデルはもうやめようぜと言ったら、「全大学人の敵」というレッテルを貼られてしまったのですけれども、日本に帰ったら僕は変えられるよと思う。
以上です。
〇守島部会長 どうぞ。
○石原委員 ありがとうございます。
リスキリングに関しては、これは冨山さんのおっしゃるとおりで、様々な企業が何をするために、あるいはこんな仕事が増えるのだからこのスキルを身につけてほしいというニーズをベースしたリスキリング養成をしていないというのが圧倒的に悪くて、多くの会社がカフェテリア的に様々なプログラムをどーんと準備して、好きなことを学んでくださいと言うのですけれども、そんなわけがないというのが私の言い分でして、会社側はこれからどうなろうとしていて、この仕事はなくなります、この部門はなくなります、こういうことが増えますという計画を見せてから、あなたたち、そこにいたら仕事がなくなるのだからこのスキルを身につけてよという話を本当にしないのです。これは完全な敗因だと思っています。目標もなく学び続けられるほど多くの人は真面目ではないわけで、自分でやってください、しかもそれは全部eラーニングですというのが続くわけがないわけです。夢を見ているとしか思えないというのが私の言い分です。
もう一つあるのが、これは守島先生も御一緒の別の研究会でのお話だったのですけれども、「『リスキリング』という言葉を使うと、自分が今持っているスキルが何にも役に立たないという気がして、多くの人が気を悪くするから、うちの会社では『リスキリング』という言葉を使わずに、『マルチスキリング』と言っています」と言われたときに、私は本当にがっかりしていて、欧州で「リスキリング」という言葉が先行して使われるようになっているわけですが、そのときにある危機感というのは、このままだと様々なテクノロジカル・アンエンプロイメントが発生する、技術的失業が起きると。そんなことになったら大変なことになると言って、なくなる仕事の人たちは違うスキルを身につけて、違う仕事に移ってくださいという切迫感の中で、「リスキリング」という話が2016年、2017年ぐらいから立ち上がっているわけですが、それを、あなたの今持っているスキルも大事だよ、もう一つスキルをつけようよというような、「マルチスキリング」という言葉でお茶を濁すということをやるからうまくいかないというのが私が思っているところです。
冨山先生がおっしゃったとおりに、ホワイトカラー・ツー・ホワイトカラーで、私がリスキリングの話をしたときは、デジタルが全然進んでいませんという中で、デジタルはどうやって身につけるのですかという話をメインでしてきたのですけれども、一方で、先ほどホワイトカラーの仕事モデルのところでも言いましたが、世界を観察したところから仮説を立てるようなところは実はデジタルは関係なくて、五感をもっとちゃんと使うと。今、目の前にいる人は機嫌がいいのか悪いのか察知できると。先ほどの観光業、介護業でも必要な能力が足りていない人もめちゃめちゃ多いという中で言うと、これは若者はできないという論になりやすいのですけれども、年寄りもできていないわけです。自分の目の前にいる人の感情がどうかを察するということが。その意味で言うと、もっと五感を使って世の中を観察して、それをちゃんと虚心坦懐に受け止めるということも含めたリスキリングが実は必要だと思うのです。
なので、このスキルを身につけて、この仕事ができるというセット。だから、あなたはこの仕事に移るんですよねというところまでをセットでデザインしていないという案件が多過ぎるように思っております。
〇守島部会長 ありがとうございます。
何人かの方が手を挙げていらっしゃるので、まず佐々木委員、お願いいたします。
○佐々木(勝)委員 ありがとうございます。大阪大学の佐々木でございます。
まず、石原委員のお話でありまして、先ほど最初のほうでリスキリングの実装は大変難しいと人事の方が言っていると仰っており、その理由を聞こうと思ったところですが、既にお話がありました。結局、必要なスキルをはっきり言わないということと、あとはお茶を濁すように、この仕事でこのスキルが失われていくから、このようになってくださいと言わない。それゆえにリスキリングを実装することは難しいと解釈しました。本来ならばせっぱ詰まっていて、どんどんリスキリングを通して生産性を上げなければいけないのに、まだまだ人事部の方には余裕があるのかなという気がしました。先ほど言ったとおり、今のリスキリングの課題ということに関しては理解しました。
冨山委員のお話しに関して、先ほど山田委員の話にも出た最賃のことにも関係すると思いますが、本来ならば今、人手不足であるならば、実際のところは・・・・・
〇守島部会長 こちらが混線しているようなので、どうぞ続けてください。
○佐々木(勝)委員 分かりました。
人手不足になると、労働需要が労働供給を上回っていて、その賃金が結局、均衡の賃金よりも低いということを意味するので、本来、市場メカニズムが機能していたら、そのまま均衡の賃金に上がっていき、人手不足は解消していくはずです。そうなっていないということは、労働市場が十分に競争的ではないということだと思います。先ほどおっしゃったように、何らかの規制が労働市場にあるということが大きな要因かなとは思いますが、今後、特に地方で具体的にどういう形で労働規制を緩和していって、より競争的な市場にしていけばいいのか。何かコメントがあったらちょっと教えてください。
○冨山委員 まず、日本の従来の仕組みというのは、内部労働市場圧倒的優勢の仕組みになっているのです。ですから、現状、内部労働市場と外部労働市場はまだかなり切れています。いわゆるメンバーシップ型雇用というのは、内部労働市場で物事を解決するということを前提にしていますし、もろもろの社会、ポータビリティの問題を含めて、とにかく企業間移動というのは、極端なことを言うと悪であるという前提の設計になってしまう。どうしても。ですから、そういった意味で、従来は会社側がそれをスイッチしやすくしないという脈絡で解雇規制の議論がされていたのですが、今の問題は、むしろ働く側が強くなっているので、働く側にとってのスイッチングコストをどう下げるかという議論が多分中心です。
その脈絡で例の雇用保険の会社都合か、個人都合かの問題の議論について私は問題提起をしたのだけれども、やはり潜在意識バイアスがすごいのです。なので、働く側の自己都合退職に関してさっさと雇用保険を払ってしまうと、いろんな悪いことをするというのが相反してすぐ出てくるのです。これはあるかもしれません。でも、それははっきり言って詐欺なのだから、この問題と先ほど言った中立性の問題は全然次元が違うのです。何せこの議論、やはりバイアスがあるのです。基本的にはバイアスがあって、そういう意味で言ってしまうと、内部労働市場と外部労働市場が切れてしまっているという問題、それから外部労働市場機能が極めて脆弱だという問題があります。
現状、先ほど佐々木先生がおっしゃった問題は、外部労働市場の市場機能で解決されるはずだった問題ですね。賃金が上がった部分。なのだけれども、内部労働市場というのはそういうメカニズムで賃金が上がっていかないので、したがって、内部労働市場がちゃんともっと機能しないとこの国の今の賃金問題というのはなかなか解決しないというのが1つ。
もう一点、そのせいで市場の構造を正規市場構造。これも幾つかブロックがあって、内部労働と外部労働のブロック、それから正規と非正規のブロックがあるのです。正規と非正規のブロックで非常に大きいのは社会保険の問題だと思っていて、あれは下限があるでしょ。例の、先ほど言った何とかのために下限の問題なのですよ。私は前々から「1円から社会保険を払わせろ」なのです。要するに、会社負担を考えてしまうと、非正規のほうが安いのです。ここに壁があるのです。
従来の議論は、これをとにかく正規のほうに押し戻すという議論をずっとやってきているのだけれども、これは壁を前提とした議論は無意味だと思う。特に労働、人が足りない分野においては全く意味がない議論で、結局のところ、今起きている非正規の問題は、かつては正規にならなくて非正規なのだけれども、今は圧倒的に自発的非正規が増えているのです。そう考えてしまうと、この問題については本気で同一ジョブ同一賃金を目指すべきです。同じことをやっているのに賃金が違うことがおかしいのです。会社に対して1円から社会保険負担をさせるべきなのです。それができたらあの壁の問題はないのだから。そういった問題を含めて、とにかく労働市場の中にいろんなところに壁があるという問題が1つ。
最低賃金に関しては、はっきり言ってシグナル効果が結構あって、要は、募集する側は、スポット雇用について最低賃金プラス幾らという設定をしてしまうのです。タイミーなどを見るとすぐ分かります。なので、あれが低いというのは、何だかんだ言って非正規の賃金上昇の足を引っ張るのです。
現状、スポットの賃金はすごい勢いで上がっています。なぜ上がるかというと、今、人手不足がしているので、市場がダイナミックに動いているので上がっているのだけれども、それにしても安いです。残念ながらスポットで働いている人は気の毒ですよ。最低賃金に足を引っ張られている実態があるから。現実問題スポットを使う人たち、仕事を出す側も最低賃金を一つの目安にしてしまっているのです。なので、それはどうかなと思いますよ。結局、最低賃金が何を守っているのかとなってしまうのです。働く人の本当の意味での健康で文化的な生活を守らない。ポイントは、いろんな仕組みが実は労働市場をゆがめているということを言いたいわけです。
ちなみに、ここですごく賃金を上げようとしても、日本の場合の労働供給制約というのは、どちらかというと供給曲線が途中で切れてしまっている。人がいないので切れてしまっているので、結果的にこのメカニズムで何が働くかというと、労働者が増えるというよりは、今、それで付加価値労働生産性をめちゃめちゃやらなければいけないという圧力は企業側に働いているのです。労働需要圧力は。それはエンカレッジしたほうがよくて、それによって企業が淘汰されるという現象が起きていくので、それはむしろ結構なことだと思って、私はそういった会社にどんどん退出してもらえと言っている。そんな考えです。〇守島部会長 ありがとうございます。
では、続きまして、春川委員、お願いいたします。
○春川委員 石原委員、冨山委員、御説明ありがとうございました。
先ほど来、労働移動のお話等がありましたので、私も労働組合の立場で3点ほど御質問をさせていただきたいと思います。
1点目は、労働移動そのものに対して全面否定ということではないのですが、労働移動は、あくまでも労働者の意思、思いが尊重されるべきだと捉えておりまして、移動先企業は、労働者にとって魅力的な処遇や労働条件を整備することが重要であると思うわけです。この点、中小企業や地域を支える企業が処遇等を魅力的なものにするためには適切な価格転嫁が必要であり、そのためには商慣行の見直しが必要です。適切な価格転嫁に向けて商慣行を見直すことは、個別企業、政府それぞれについて取組がより必要だと思っておりまして、そういった観点でコメントがありましたらいただきたいと思います。
2点目は、労働移動が常態化すると企業が責任を持って社員の能力開発、人材開発に取り組まなくなるのではないかということも危惧しております。仮に企業が人材育成に取り組まないということになってしまえば、専門性を持ち合わせている労働者とそうでない労働者の間で格差が出てしまうということもありますので、そういった場合にどう考えていくのか。これが2点目です。
3点目としましては、究極的にはスキルの標準化とそれを評価していく仕組みを構築していくことが必要であると思いますが、この部分に関して、より具体的なイメージがありましたらお聞かせ願いたいというところです。 労働組合の立場としても、リスキリング、言い換えれば労働者自身が自分たちをどう磨き上げていく必要があるのかということが、労使の中で非常に大きなテーマになっていると捉えております。労使で本当にそこを考えて、労働組合側も一社員も自分をどう磨き上げていくかということを労働者の側からも見つめていくということが今、重要だと捉えており、そこに労働組合の役割・機能というものもあると考えています。
3点ほど質問を申し上げました。
〇守島部会長 冨山委員、お願いいたします。
○冨山委員 まず、1点目の問題ですけれども、価格転嫁の問題に関しては、政策的にできる、できないことがあって、最終的には売り手・買い手の力関係で決まるのです。今の流れで言うと、1つ留意点としてあるのは、いわゆる元請・下請構造の中でやっている中小企業は、恐らく中小企業全体の2~3割です。中小零細300万社のうちの200万社以上は、実はBtoCのそういう連鎖構造の中に入りません。
あと、建築業で今、如実に起きていることは、今、建築業で一番強いのは誰かというと、ゼネコンではなくて大工さんです。職人さんはめちゃめちゃ強気です。だから、職人が集まらない工事は、ゼネコンが断っているはずです。何が言いたいかというと、今、現実に起きていることは、働き手がどんどん強くなっていって力関係が逆転しているのです。力関係が逆転している中で一番ついていっていないのは、典型的に言ってしまうと、中小企業で営業をやっている社長さんと大企業の購買です。この世界ははっきり言ってまだ昭和のデフレモデルで交渉してしまうのです。
私どもは中小企業の仕事もしているので、極論してしまうと、本当にちゃんとしたスキルがなくて、交渉力がなくて、大企業と対等の商売ができないところはむしろ退出したほうがいいと思っています。逆にそういった力のある中小企業は今、めちゃめちゃ仕事があって、めちゃめちゃ人が足りません。だから、多くの問題は労働市場における云々というよりは、広い意味での企業の競争市場の中で企業の淘汰・再編が進むことによって解決する問題が多いのです。必ず。この後、先ほどおっしゃっていたようなどんなに制度が支援しても価格転嫁できない会社は潰れていきます。極端なことを言ってしまうとそれでいいのです。というのは、その一方で、絶対的に人が足りないいい会社はいっぱいあるので、そういった会社に働き手が移っていったほうが、働き手はみんな幸せです。
2つ目の問いも同じでありまして、今、春川さんが懸念されているようなちゃんとした人的資本投資ができない会社は大中小問わずこれから消えていきます。理由は簡単です。人的競争力がない。それから当然のことながら人が集まらない。人件費倒産、人手不足倒産に追い込まれていくのです。それは余計なことをしないほうがいいと思っています。
同じバス業界の中堅・中小絡みですけれども、うちはめちゃめちゃ投資しています。組合の皆さんは、うちは私鉄総連だから分かると思いますが、うちが一番投資している、運転手も集まってきます。我々はそういったしんどいバス会社をどんどん買収・吸収して、そこに移った人は必ず賃金が上がっているはずで、実はこの組合の皆さんから結構うちは営業、売り込んでいただいているので感謝しなければいけないのですけれども、そういう力が働くので、むしろ組合としてはそれを応援してもらったほうがいいかなという感じが正直しています。要は、労働生産性が低い会社、それができないような企業はできる会社に買収されてくださいというのをむしろ組合のほうから圧力をかけていただけるとうれしいなと思っています。
これが最後の点に重なるのですが、ドイツなどで行うリスキリングというのは圧倒的に組合主導であります。組合自身が真剣に。この問題に一番真剣に対応しているのは、経営よりも組合なのです。というのは、組合員の皆さんの生活というものをどう考えるかということと直結する話なので、むしろ組合のほうから企業に対して、これからどういう人材が必要なのか、どういう人材を持っていくべきなのかということを本当に真剣に働きかけてもらったらいいし、そういったリスキリングを。カフェテリアでごまかさないで、ちゃんとそれを定義して、先ほどおっしゃったスキルセット何なりということを定義してやっていくということをぜひとも組合のほうでも頑張っていただくことを心から期待しています。
もう一点、ノンデスクワーカーの世界は既に多くの仕事がジョブ型になっています。運転手さんはずっと運転手なのです。問題は、大工さんでも運転手さんでも、あるいは介護職でもツアーガイドなどでも、実際にはすごく個人的能力差があります。スキル差があります。そういったスキル差がフェアに客観的に言語化されていないのです。資格制度化されていないのです。従来、そういう制度とか資格制度とかグレーディングみたいな仕組みというのは参入規制になるとかと言って、規制改革会議などだと不要だったのだけれども、私はむしろそういったものはちゃんと国家的に定めたほうがいいと思っているほうです。
例えば山岳ガイドなどは、ヨーロッパでは物すごく厳格な国家資格制度があるのです。上のほうの売上げの人はすごく高い年収です。そういったものをちゃんとやることによって、対人サービス産業というのは、要するに、情報の非対称があるのです。タクシーなどでもそうなのだけれども、情報の非対称があって、物に物を言わせられないので、そうすると、その人のスキルなり能力というものが高くて、ちゃんと値段に値する。この世界は商品は俺なので。そういったものが認められるように。だから、医者とか弁護士は資格制度で守っていますね。それと同じような仕事になってくるので、そういった仕組み、割と企業横断的に通用するようなものをつくっていくということもぜひとも組合のほうからいろんな形で企業に働きかけていただければうれしいなと思っています。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、続きまして、岡本委員、お願いいたします。
○岡本委員 石原委員と冨山委員から個人的には結構刺激的なお話を聞くことができたと思いました。ありがとうございます。
セーフティネットについてお伺いしたいのですけれども、経済社会の変化によって労働者は様々な影響を受けます。それは避けられないとしても、労働者が安心して就労できるように、雇用保険や雇用調整助成金などにより一定の雇用を保障したうえで、雇用創出効果が高い分野に施策を集中するなど、雇用政策と産業政策を一体的に推進していくことが重要なのではないかと思っています。
それと同時に、先ほど自発的に非正規雇用で働く方が増えているというお話がありましたけれども、やはり非正規雇用から正規雇用の転換促進や、就労支援策の拡充、最低賃金の引上げ、社会保険の適用拡大など、社会的セーフティネットの整備に一層取り組むことが求められているのではないかと思います。
雇用政策の実施に当たっては、時々の情勢を踏まえながら、全体的なバランスを考慮しつつ総合的に実施していくことが必要だと思うのですが、その中で社会的セーフティネットの今後の在り方についてどのように考えるか伺いたいと思います。冨山委員のレポートでは、セーフティネット・リバランスというお話がありましたが、具体的に伺えればと思います。
もう一つは、震災をはじめとした非常時における雇用維持の観点からは、、機動的かつ柔軟に対応できるような雇用のセーフティネットを整備、強化していくべきではないかと思います。能登半島地震でも雇用保険や雇用調整助成金などの特例措置が設けられましたけれども、非常時におけるセーフティネットの在り方をどのように考えるかということをお伺いしたいと思います。この2点、お願いいたします。〇守島部会長 ありがとうございます。
冨山委員、お願いいたします。
○冨山委員 非常に重要なポイント、ありがとうございます。そこをちゃんと説明できなかったので、これを機会に説明したいと思っています。
私は、平時モデルと戦時モデルをあえて分けてお話をすると、平時の状況において現状産業政策を機能させるのはすごく難しいのです。というのは、分からないのです。かつては欧米という先進国モデルがあったので、そこに向かって進んでいくというモデルだから、産業政策というのは機能したのです。次は電機、次は自動車というのが機能したのですけれども、今ははっきり言って分からないのです。だから、恐らくこの20年間、日本の産業政策は当たった試しがないのではないかな。なので、それが難しいところで、僕らはビジネスを自分でやっているので分かるのですが、それが分かったら経営者は苦労しなくて、実はすごく難しいです。今、何でも半導体と言っているのだけれども、10年後どうなっていることやらです。
あと、グリーンイノベーションと言うけれども、グリーンイノベーション、グリーン産業というのはないので、要するに、大きな意味でこういう方向がいいということはみんな分かるのです。デジタルがいいというのは分かるのだけれども、それでどういうビジネスモデルになるかということは予測がつかないので、それを連動することはすごく難しくなっていると思っています。
そういう脈絡で申し上げると、企業を守ってしまうと、市場からの圧力で新陳代謝することを止めてしまうので、それによってかえって低賃金労働がたくさん残るという現象が起きる。私は、むしろ会社の新陳代謝というのはとにかく受け入れると。なので、平時については雇用調整助成金的なものは出すべきではないと思っています。あれは会社共助を前提としているので、会社共助というのを前提にすると、会社の新陳代謝に対してどうしてもネガティブになるのです。ですので、会社の外側、要するに、会社に依存しないいろんな意味でのリスキリングの仕組み、あるいは学び直しの仕組み、職業訓練の仕組み、そういったものを重視すべきで、そういった意味で言ってしまうと、何で私が大学の悪口を言っているかというと、大学の高等教育機能、これから持つべき機能というのは生涯教育なのです。大学、学校という場所がある意味で一番いいのです。そこにいっぱい教員がいて、これから若い子供が減っていってしまうのだからキャパシティーが余るのです。だから、大学がヨーロッパのマイスター型の教育機関に変わっていって、そこでちゃんとした高等教育をやるということをもっとやっていったほうがいいと思っていて、そこにむしろ公的資金を入れたほうが機能すると思っているものですから、そういった意味で企業外の社会共助です。会社共助一辺倒から社会共助へとリバランスをしたほうがいいという立場です。
もう一点、有事の問題。有事の状況ははっきりしていて、有事の状況においては、今、申し上げたような働き手を世の中におっぽり出してしまうと悲劇が起きるので、そういった状況においては機動的に。この国は会社が迅速に行うことが大事なのです。雇調金もそうですが、ほとんどの仕組みは会社経由でお金を出す仕組みになってしまっているので、現状であったら雇調金型にならざるを得ないと思っています。
ただ、もう一つの問題として、あの仕組みの欠点は一連のコロナで露呈していて、正規の人にはあの仕組みは向いているのです。なのだけれども、非正規の人は救われないのです。今回、非正規とかシングルマザーの人というのは持続化給付金を直接もらう方向に依存したのだけれども、この問題、日本の最大の欠点はデジタル化の遅れです。持続化給付金が実際手に届いたスピード感というのは、日本の十何倍も人口のあるインドのほうが速かったです。これははっきりしていて、インドにはインディア・スタックという、日本のマイナンバーカードのもっと進化した仕組みがあって、立ちどころにお金を配ったのです。
だから、この問題は2つあって、ああいった状況においては企業という仕組みを使って会社共助を介してそこにいる人たちにお金を渡す、生活を守るということと同時に、日本はそこから外れている人が相当な割合いるので、そういう人たちに対して迅速にお金を配れるようなデジタル化、デジタルツールを充実する、そこからお金を渡す仕組みを充実するというのが答えだったと思っています。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、続きまして、石﨑委員、お願いいたします。
○石﨑委員 ありがとうございます。横浜国立大学で労働法を担当しております石﨑と申します。前回研究会を欠席しまして失礼いたしました。
本日、冨山委員と石原委員の御報告を伺いまして、まさに刺激をいただくとともに、その問題意識については多く共感するところもあったのですけれども、特に労働力人口が減少していく中で、いかにこの労働市場の中で働き続けていただくか。それは必ずしも労働者という形ではない場合も含まれるかと思うのですが、そういった中で、場合によっては労働政策と産業政策の連携、そこをうまく両方回していくことが必要だという点など、非常に共感を持って聞かせていただいたところでございます。
既に出ていたお話ではあるのですが、私もホワイトカラーからエッセンシャルワークなどへの転換をいかに促していくのかというお話について関心を持ったところですが、その際、エッセンシャルワークというときに、先ほどから介護の話とかも出ていると思うのですけれども、特にケアワークというものについて、ほかのエッセンシャルワークと違った特質もあるのではないかという気もしているところです。というのは、ケアをメインとするという話になってきたときに、単純に生産性という観念とある種両立しないような部分も含む部分なのかなというところがあって、この辺り、エッセンシャルワークの中での業種の違い。ケアワークを前に出させていただいたのですが、そういったところについて何かお考えがあれば、石原委員、冨山委員のほうから話していただきたいというのが1点御質問でございます。
もう一点としましては、リクルートワークスさんのされているムダ調査、大変興味深く読ませていただいたのですが、あのデータの中で、実はムダと感じていて、自分でも減らせると思っているという方が結構いらっしゃるというデータだったのですが、もしそのデータでより詳細なところが分かれば教えていただきたいというお話です。自分で減らせるけれども、減らせていないという話もそこについてくるのか。仮に減らせていないとすると、どういったところに構造的な要因があるのかというところについて、もし調査結果でお分かりのところがあれば教えていただきたいというところでございます。
以上2点、よろしくお願いいたします。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、石原委員からお願いします。
○石原委員 石原でございます。ありがとうございました。
最初にあったケアワークに関しては、生産性だけで語れないというのは、まさにおっしゃるとおりだなと思っておるところですが、だからこそ公定価格みたいなものがあって、規制産業になっている部分もあるとは思うのですが、一方で、生産性を本当に1ミリも気にしなくていいわけではないということがあると思っていて、介護の現場あるいは病院のような現場で生産性を全く考えないでいいと思ってしまうと進化がなくなるのだろうなと思っていて、そこは生産性を考えなくていい職種と考えないほうがいいのかなと思っています。
でも、人にやってもらいたい部分とか、まさに人との関わりの部分で生産性とは別の価値提供があるわけであって、その価値提供に関して幾ら払うのかに関して言うと、公定価格のもの以外のサービスのようなものを提供できる会社は、それで利益を上げていくということを考えていくのだろうなというのはずっと思っているところであります。とはいえ、介護の世界、非常に難しい様々なかじ取りの中で正解が分かっているわけではないのですけれども、そのように感じておりますというのが1点。
それから、先ほどのムダ調査のところです。残念ながら本当ならできるのにやれていない。自分でも解消できるムダは20~30%あると皆さん答えている割に今、放置なのだなということに関して言うと、やれていないことに関しての深掘りができておりませんで、その意味ではデータはないわけですけれども、何でこんな状況になっているのかというと、結局、誰からもムダをなくしたらいいじゃないという圧力がかかっていないというのが大きいのだと思っていて、あるいはムダをなくすときに起こるハレーションのようなものを皆様が気にしていらっしゃるということなのかなと思っております。
私からは以上です。
〇守島部会長 ありがとうございます。
冨山委員、お願いいたします。
○冨山委員 今の議論は、公定価格なので分子が一定という前提で生産性を上げようと思うと、分母をもっと減らす方向に行ってしまうのです。そうやって単純に生産性をかけてしまうと、あるいは手を抜いたほうがもうかると。そういう話ですよね。
○石﨑委員 はい。
○冨山委員 実はそういうメカニズムが働くのですよ。
逆に公定価格でない世界というのは何が起きるかというと、そこで不当に手を抜くとお客さんがいなくなってしまうので、要は、分子がどんどん小さくなっていってしまうので、分母を減らすと分子も減るので、そういうことが一定レベルで回避されるのです。こういうサービス産業というのは。多分そのメカニズムが働くのだけれども、公定価格の世界では働きませんと。そういう問題があるのだと思います。
では、どうするかというのは、先ほどのことと通底していて、要は、経営する側からすると、そうやって安易にもうける道をどう与えないかというのがインセンティブデザインの問題になってしまうので、結局、そのデザイニングなのです。石﨑さんがおっしゃったのは付加価値生産性の議論ですよね。
○石﨑委員 はい。
○冨山委員 物的生産性よりも、付加価値生産性の問題なので、付加価値生産性の観点で言ってしまうと、現状の仕組みというのは必ずしもそういうインセンティブが働かないので、ただ、一応規制があるからぎりぎり、大体最低年次でやれという方向に走るので、ですから、私もここはきれいな答えは持っていなくて、むしろこれは厚生労働省というか、厚生省のほうのテーマなのですけれども、これは介護だけではないです。実は交通機関は皆、同じ問題を抱えています。できるだけ手を抜いたほうがもうかってしまう。分子が一定の場合、それが起きるので、それをどうしていくかというのは非常に。だから、公定価格市場は非常に難しい。
あと、建設で言ってしまうと、手を抜くリスクがある。そうなってしまうのです。だって、入札価格は公定で上を抑えられてしまっているから、それを何とかしようと思ったら手を抜くしかないので。ということで、同じ問題が起きるので、石﨑さんがおっしゃった問題は公定価格全体に共通する問題なので、私は今、答えを持っていないのですけれども、これは本当にみんなで真面目に考えたほうがいいです。
今までは労働供給制約ではなくて、労働過剰だったので、それで何とかごまかしてきたのですよ。人手が余っていたので、そういった人たちをこういった産業で吸収していくことによって、何だかんだ言って人が来るというので何とかしていたのだけれども、御案内のように、例えば人の頭数を減らして、収入が必要であれば、ブラックになります。介護業で働く人は。ブラックになると、これからは人が辞めていってしまうのです。確実に辞めていきます。あるいはそこで耐えられる人を観光業が狙います。これを何倍かの給料で引き抜いてしまうのです。それが起きてしまうと、いよいよ公共サービスが成り立たなくなるのです。そういう圧力が働いてくれば、多分みんなこの問題を真面目に考えるようになるような気がしているので、そういった意味でも人手不足はいいことだと思うのです。我々にどうしても真剣に考える機会を与えるので。なので、私としては、どちらかというとオール厚労省の議論ではないですけれども、そういった議論を始めてもらったらうれしいなと思っています。
○石﨑委員 ありがとうございました。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、続きまして、佐々木かをり委員、お願いいたします。
○佐々木(か)委員 石原さん、冨山さん、どうもありがとうございます。
時間もないと思うので少し短くですけれども、ちょっと違う角度からコメントというか、意見ですけれども、固定概念を変えるとか潜在意識を変えるというのがとにかく一番重要だ。しかし、物すごい大問題で、すぐには変わらないと。この4月1日にニュースで入社式の報道を見るにつれ、また一括採用、年功序列のすり込みが始まったと思って見ていて、日本特有の儀式だと思うのですけれども、これをやっていると変わらないので、一番重要なのは人事部の改革なのではないかなとちょっと思っていて、固定概念を変えるといったときに、労働者の固定概念を変えなければならないのは絶対なのですが、魔法のように今の状況で人事部の評価も変わらない中で、幾ら経営者がマインドが高くても、ああいうのを見せられてやっている限り、なかなか変わらないだろうなと思ったのです。
リスキリングの話も、英語だ、Pythonだ、ITを含めていろんなスキルが必要なのですけれども、一番重要なのは固定概念、今まで信じていたことが違うのだ、世の中は変わっているのだということをリスキルすることによって目覚める人が増えるのではないかなと思っています。
私自身はダイバーシティインデックスの中のナレッジというテストを使って、固定概念やバイアスをなくすための管理職教育のツールに使ってほしいなどと思っているわけです。そして、この労政審もいろんな制度を変えていくところがあって、人事部の改革は別に法律でも制度でもないとはいえ、今後まとめていくときに、1章というか、新しい人事部の在り方というようなセクションをつくって、いろんな儀式を見直すではないですけれども、人事部の人のマインドセットを変えていくということに私たちこのチームで貢献できたらいいなと思いました。コメントと質問なのですが、いかがでしょうか。
〇守島部会長 ありがとうございます。
質問はどちらにされているのでしょうか。
○佐々木(か)委員 石原さんとはしょっちゅうお話をするので、冨山さんにお聞きしたいかなと思います。
〇守島部会長 では、冨山さん、お願いします。
○冨山委員 要するに、人事部のリスキリングから始めろということですね。
○佐々木(か)委員 そう。人事部のマインドセットを変えない限り、つまり、人事部にリスキリングとかいろいろ言うと、いや、そのテストの検査が難しいですとか、講座を3つやっているからとか、ITをやっているからとか、育成もやらなければいけないし、評価も昔ながらの評価をやらなければいけないし、女性に関して言うと、パイプラインと言いますが、海外で言っているパイプラインはキャリアアップでいいのだけれども、日本のパイプラインというのは年功序列なので、あと6年待たなければいけませんということになってしまっていて、やはりマインドセットをどう変えていくかという課題があるだろうと。
○冨山委員 だから、これはその人のライフイベントも全部かぶっている問題なのです。そこは私も共有しています。
変な話、みんなTBSのドラマ「不適切にもほどがある」をちゃんと見たほうがいいですね。何が言いたいかというと、経路依存に一番はまらざるを得ないところが人事労務担当部署なのです。これが一番経路依存的な仕事をしてきているので。また、今、皮肉なのは、先ほど申し上げたように、その仕組みを変えて、若いやつでもいいやつはどんどん昇格させて、たくさん給料を払えと言っているのは機関投資家のほうなのです。誠に日本においては奇異なことが起きていて、先ほど春闘の話もしましたけれども、要は、機関投資家に何で若いやつの給料を上げろとか言われなければいけないのかということなわけで、そういった意味で言うと、全く状況は変わっているのだけれども、佐々木さんが言われるように潜在意識にも経路依存性の呪縛でなかなか変われないのです。
彼らは彼らなりに過去のいろんな経緯とかいろんな貸し借り、しがらみの中で頭の中ががんじがらめになってしまって、頭が切り替わらないということなのだと思いますが、少なくとも最近ちょっとあるとすれば、1つのマーケットプレッシャーとしては、若い優秀なやつがどんどん会社を辞めることです。男女問わず。これが今、確実に始まっているので。最近私が関わっている某企業で希望退職を募りました。絵に描いたように優秀なやつが辞めました。絵に描いたように。なので、冨山さん、希望退職は駄目なんですよと言うのです。ちょっと待て。よく考えろ。何で辞めたのかと聞いたら、要は、処遇がよくないからなのです。それで、彼は次の次の本部長候補だと思うと言っているわけです。だったら今から本部長にすればいいじゃんと。だけど、今、彼はまだ30代なのです。ふざけんじゃねえなのですよ。
僕から見ると、50歳ぐらいの本部長よりその30代のやつは絶対有能なはずなのです。絶対に。これは100%言い切ってしまいます。だとすると、30代のやつをいきなり本部長にできないか。いや、30代の人がいきなり本部長になってしまうと、今までずっとパシリにしていた課長みたいな人が急に上司になって、会社の中がもちませんとか言っているけれども、何でもたないのか全然分からないです。
何でもたないと考えるかというと、不適切にもほどがある的な序列がまだ残っているからなのです。だから、この人は不適切なことを言っているのですよ。これは年齢による差別でしょ。この議論はおかしいです。
それに関してはおっしゃるとおりで、僕は全く年功を忘れたほうがいいと思います。年功がいいのは30歳までだな。自分の経験上、30を過ぎたら、ほとんど年功というのは意味がないです。関係ないです。特にマネジメントに関しては年功は全然関係ないです。なので、そういう脈絡で言ってしまうと、この先一番大事なのは、若くて優秀なやつは頭にきたら会社をばんばん辞めることです。幾らでも転職先はあります。これは保証します。それがあって初めてやつらは目が覚めるのです。要するに、リテンションのためにこれは変えざるを得ないと思う。実はその会社もそのおかげで最近30代部長オーケーになったのです。私が関わっている会社なので、どこか分かってしまいますけどね。でも、ああいうことがないと変わらないです。これは人手不足、万々歳ですよ。どんどん人が足りなくなったらいいと思っています。ちょっと乱暴なのですけれども。
〇守島部会長 ありがとうございます。
どうぞ。
○石原委員 石原です。
付け加えて言わせていただきたいのですけれども、それで言うと、人事部でなくて経営者だと思っていて、人事部にはそんな力がなくて、人事部は経営者が思っていることをやっているわけですから、経営者のマインドセットが変わっていなければ、人事部はそのとおりに動くということなのではないかなと思っていて、人事部が変わればいいという話よりもっと根本的なことがあるのかなという気がいたしております。それが1つ。
もう一つ、先ほど言ったように、30で部長になればいいのに、本部長にすればいいのに、しないという理論が出てくるのは、いわゆる終身雇用といいますか、雇用をし続けなければならないというプレッシャーがあるから、順番を守っていきたいとなるわけですねと思っていて、雇用をし続けるというプレッシャーの中で、30で本部長を生んだら、その後、60の人はどうすればいいのだとか、50の人はどうすればいいのだという話が出てくるわけであって、私は、雇用保障の圧力が強い中では年功序列が妥当な解になってくるのも物すごい分かるので、ここの感覚はどう変えていくのですかというのが大きな問題なのではないかなと思っています。
冨山さんがおっしゃったとおりで、嫌だったら辞めるということで今後圧力になっていくのだと思います。嫌だな、つまらないなと思う人はみんな辞めればいいというのは、私もそのとおりだと思っていて、そのことが会社を変える圧力になっていくだろうなというのは非常に強く思います。
以上です。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、お待たせしました。川﨑委員、お願いいたします。
○川﨑委員 すみません。もう時間があれなので、コメントと1つだけ質問です。
石原さん、冨山さん、御説明どうもありがとうございました。非常に興味深いお話を聞かせていただいて、頭の整理もできたかなと思っています。
特に人口減少、労働力不足をてこにして、いかに生産性の高い仕事、個人の人たちを高めていけるようなやりがいのある仕事にどうシフトしていくのかというところが大きいテーマになっていくということで理解をしました。ありがとうございます。
1つだけ気になったのが、内部の労働市場と外部の労働市場が切れていますねと。外部の労働市場は何らか工夫して強化をしていく必要があるということは理解したのですけれども、内部の労働市場から外部の労働市場につなげていくやり方、どういう形のものが効果的なのか。今はハローワークがあったり、幾つかジョブマッチングの仕組みがあると認識していますが、今後こういう流動性が高くなっていくにつれて、外部労働市場と内部労働市場をつないでいくような仕組みはどういうものがあったらいいのか、ふさわしいのかということについて、もし何かお考えがあれば御紹介いただければと思います。
〇守島部会長 ありがとうございます。
冨山委員、どうされますか。
○冨山委員 ここはちょっと鶏と卵的なところがありまして、例えばどんどん人が取られてしまうということが起きてくると、当然会社の中では市場価格を意識し始めます。冨山何がしというのは可能性としてこういう会社から幾らで引っ張られそうだということを考えるようになります。そうすると、冨山何がしがなぜこの値段で引っ張られるのかということを考えると、彼の能力・スキルというのを真面目に定義せざるを得なくなって、では、何でこの会社ではその給料になっていないのだということを真面目に考えるようになりますから、結果的に壁がだんだん。要するに、アービトラージになってきて、平準化するというのが市場経済の理屈なのです。
ですから、結果的に転職・流動化は進むと、それを合わせないと企業は有能な人材をどんどん失うことになるので、多分そういう努力をするようになってきます。個人の側でも同じくで、大体今、若い子、20代はかなりの確率でビズリーチに登録しているので、経営者とか人事部が思っているよりもはるかに自分の市場価格というものを彼らは知っています。リクルートさんのビジネスもそういうビジネスモデル、Indeedもそうなのだけれども、Indeedであれビズリーチであれ、ああいったものが発達することによって、特にデジタルツールによって物すごくフラット化が今、進んでいるので、実は静かに今、川﨑さんがおっしゃったような壁は埋まってきているのです。
当然自分はビズリーチに登録していますよなどということを人事部に言うばかはいないわけで、上司に言うつもりもないので、これは静かに進んでいるのですけれども、私の見ている景色においては、もともと非正規の世界は、タイミーさんとかでもそういう世界があるので、非正規・正規共に物すごい勢いでインターナルマーケットとエクスターナルマーケットの中のつなぎは静かにある意味での革命というか、ディスラプションが起きています。
ここから先の問題は、経営としてそれが起きているということをどこまで真剣に意識するかです。というのは、それをやらないと、突然優秀な人から辞めていってしまうのです。次は経営側の問いがあって。ということは、結局、ある種のスキル型というか、自分の会社で働く人たちのそれぞれのジョブあるいはスキルというものをどう評価して、それが外部労働市場との関係でフェアかどうかということを常にモニタリングしていかないと、これから労務管理ができなくなってしまうのです。
従来は社内的な調和、マインド同士の調和。年次であるとか周りとのバランスであるとか、そういったことを考えながら、ある種の調和点、内部労働市場的に調和点を探すというのが恐らく人事部の仕事だったし、経営者もそういうやり方がいいなと思っていたのだけれども、それをやっているとぽこんと人を抜かれますから。特に企業間競争はこれから人的資本バトルになってきます。これは設備の競争ではないですから。今、ナレッジないし労働力の質の勝負になってきているので、それをやってしまうと競争力に根幹的な穴が空くので、そういった意味では必死にやらざるを得ないのですが、そこで経営は目覚めなければいけないと思っています。
逆に目覚めない会社は、多分淘汰されていきます。このことの意味が分かっていないから、人的資本開示というのを国から言われたとき、みんな慌てふためくのです。僕に言わせれば、人的資本経営していないから開示できないので、していれば、当然そういったことは検証しなければいけないのです。
ですので、答えになっていないかもしれませんけれども、今起きていることというのは、これもある意味では人手不足になってきたことによって、それをつながざるを得ないようなプレッシャーがかかっているし、政策的にそこにどう介入するかというのはあるのだけれども、つまるところ、その中で企業の優劣がついて、残念な会社は退出を迫られる、どこかに買収されてしまうというのが最終的に経営者にとって最大の圧力になるので、それをけしからぬと言わないようにしたほうがいいかなと思っております。
中小企業も同じくで、中小企業はもっと深刻です。本当に潰れてしまうから。そのときに、よくありがちなのだけれども、中小企業が人手不足何たら補助金とかを欲しいと言い出すのです。人件費を上げるから金をくれとかいうのがあるでしょ。あれは違うのではないかと思います。
というのは、結局、ちゃんとマネージして、そこにちゃんと人的資本投資をする会社こそが生き残るべきであって、それができない会社が国からお金をもらって延命するというのは、長期的には働いている人を不幸にすると思っています。あるいは先ほど言ったエクスターナル、外部労働市場との結節がなくなってしまうと思っているので、私は今、とにかくあちこちで、テレビなどでも言って、今のところ誰からも非難。人権闘争を止めるなというのが私の今のメッセージでございます。
○川﨑委員 ありがとうございます。
〇守島部会長 ありがとうございます。
では、逢見さん、お願いします。
○逢見委員 冨山委員から人件費倒産は歓迎すべきというご説明がありましたが、倒産をどう考えるかということです。経営破綻してばらばらになってしまうというよりは、再生の道を探りながら、再生可能な部分は再生して、整理すべき部分は整理していくという方向が必然だと思うのです。倒産寸前の企業を補助金によって延命させるというのはよくないというのはそのとおりなのですが、倒産という手段ではなくて、うまく再生させて全体として高生産性のほうに誘導していく方向のほうが従業員にとってもいいわけで、そういうふうに考えるべきではないかと思うのですが、どのようにお考えになりますか。
○冨山委員 それは全く同感で、退出のモデルは幾つかあるのですが、廃業というモデルと再編というモデルがあって、倒産と言っても再生型破綻というのがいっぱいあって、要は、債務調整をして、ほかの会社に買収してもらうというモデルがあります。
その脈絡で言ってしまうと、今、推し進めるべきは再編型の退出で、再編ということは会社の数が減るわけですから。結局、今問われているのは、中堅・中小企業のトップに再編を思い切り進めたほうがいいです。その過程で債務超過の会社というのは極めて再編が難しいので、債務調整が必要になるのです。それを一般的には倒産手続前。英語で言うと、バンクラプシーとかそちらなので、整理手続、債務調整ということをやらなければいけないので、それをスムーズにやるということが大事なのと、どなたかおっしゃっていましたけれども、要は、経営者保証の問題というのは、そこですごく妨げになります。
我々自身は基本的には企業再生で飯を食っている人間なので、考え方は全く同じで、再編というのは集団転職なのです。集団で有機的な、要するに、結合を維持したままほかの事業体に移るということなので、問題は債務超過になっている会社というのは、それがすごくやりにくいのです。だから、そこをどうスムーズに進めるかというのがもう一つの課題で、人手不足退出をどうスムーズに進めるかということですけれども、その脈絡で言うと、日本には今、2つ問題があって、1つはいわゆる経営者保証の問題。資産超過であれば、人手が足りなくて苦しくなったら、普通にM&Aが起きます。要するに、人手を雇える会社がどんどん買収します。だから、今、事業承継を含めて物すごく中小企業のM&Aが増えています。それでオーケーです。
ところが、債務超過になってしまうと債務調整をしなければいけないのです。要するに、個人の債務保証はフィットするのです。そうすると、もともとのオーナー経営者が破産しなければいけなくなります。これが昔のモデルであれば、それがある種のモラルハザードを防止していて、安易な倒産をしないとか、夜逃げ倒産を防ぐことによっていろんな人を守れていたのだけれども、今は百害あって一利なしだと思っています。あれがあるせいで金融機関も真面目な事業成長をしなくなるのです。要するに、個人の資産を当てにして金を出してしまうから。あれは全く意味がないです。なので、私は昔から債務保証はかなり過激な廃止論です。禁止論です。要するに、個人保証を取らなければいけないのだったら金を貸すなと言っているのです。
もう一点が私的整理の難しさです。この国はもともと法的整理至上主義みたいなところがあって、債務超過になったら法的整理を使えばいいじゃんということを言うのです。組合なども法的整理のほうが透明だとかと言うのだけれども、あれは全然理解できなくて、私的整理は、金融機関の全員同意です。全員同意だから、説得するための開示情報は場合によっては法的整理より多くなるのです。少なくとも事業再生ADRのような制度化された事業再生においては、法的整理よりもはるかに難しいです。
そういう意味でいくと、すごく透明だし、当然のことながら私的整理に向いた労働債権はカット対象になりません。ですから、私的整理をもっとやりやすくして、それを介してほかの会社、スポンサーに事業譲渡するという仕組みをもっと進めればいいと思っていて、こういった事情があるから、諸外国、ほとんどの先進国で今、私的整理は多数決できるようになっているのです。日本はできません。これはやはりまずいですよ。
だから、いかに少ない社会的コストで、あるいはそこで人生の悲劇を起こさないように、今おっしゃったような破綻型再生で事業再編を進めるかということはこの国のすごく大きな課題で、今、私はその議論を。この場所の議論の範囲を超えてしまうのだけれども、これは本気で進めていくべきだと思うし、それがあれば、廃業してばらばらになるというような人件費倒産というのはすごく少なくなると思います。
〇逢見委員 ありがとうございます。
ただ、私的整理の場合に従業員意思を反映する仕組みが担保されていないという問題意識があります。そこを担保することが、重要ではないかと思います。
○冨山委員 そうなのですけれども、最近の傾向はちょっと状況が変わってきていて、買収する側は、ほとんどの場合には従業員のリテンションを条件にします。要するに、買収する動機がアクハイアリングなので。昔のような人手が余っていて、人手を減らすことを目的にした買収というのはほとんど。逆に言うとそれだったら買収しないので、そういう状況は今、本当に変わってきているので、御懸念の点はよく分かります。よく分かるのだけれども、恐らく事業再生ADRなどだと、ほぼ法的整理と同じぐらいちゃんと組合側と協議をしなければいけないので。というのは、、私的整理では労働債権はカット対象にならない当然優先債権ですから、それを守らなければいけないし、スポンサー側からすると、特に労働関係をスムーズに移してもらうということが絶対条件なので。ただ、当然組合と普通協議。私は少なくとも全部、同じ企業にしているので。
問題は、そういった制度化されていない仕組みの中でもやもやになってやってしまう私的整理なのです。要は、事業再生ADRとかああいうものを介さないような私的整理の問題なのだけれども、今、とにかく国で考えている多数決型でやるものというのは、基本的に出てくる弁護士は、プロのちゃんとした再生の弁護士しか出てきませんし、事業再生協議会のようなちゃんとしたところの、ある意味では裁判官よりもはるかに専門的な人たちがやっているし、加えて、多分今、考えている制度だったら、何らか関与することになっているので、そういう御心配はなくて、その問題よりは、むしろ静かにスムーズに、いわゆる倒産だというレッテルを貼られずに進む制度化された私的整理のほうが、結局、労働者の雇用も給料も守られると確信しているので、御懸念の点はもっともだと思いますけれども、どんどんその御懸念はなくなっていると理解しています。
〇守島部会長 ありがとうございます。
それでは、時間が過ぎてしまいましたので、これで今回の議論は終わりにさせていただきたいと思います。
今回、冨山・石原ゼミナールの中でいろいろ学びが非常に多かったように思いますけれども、今年度をかけてこの問題について議論していきたいと思います。
最後に事務局から次回日程についてお願いいたします。
○平嶋政策統括官付参事官 次回の日程については、調整の上、追って御連絡を差し上げたいと思います。よろしくお願いします。
〇守島部会長 ありがとうございます。
それでは、以上をもちまして本日の労働政策基本部会は終了といたします。御多忙の中、御出席いただき、どうもありがとうございました。