2023年度第5回雇用政策研究会 議事録

日時

令和5年11月30日(木)9:00~11:00

場所

本会議会場
厚生労働省 職業安定局第1会議室
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館12階公園側)

 

議事

議事内容
2023-11-30 2023年度第5回雇用政策研究会

○雇用政策課長補佐 それでは、定刻になりましたので、ただいまより、2023年度第5回「雇用政策研究会」を開催いたします。
 本日は、大竹委員、佐藤委員、清家委員、堀委員が御欠席となっており、株式会社Warisの藤見様が対面での御参加、その他の委員はオンラインでの御参加となります。また、今回は、外部有識者として株式会社Warisの藤見様、アジア経済研究所開発研究センターの牧野先生を臨時委員としてお招きしております。
 なお、鶴委員は9時40分をめどに御参加、宮本委員と山本委員は10時をめどに御退室を予定しております。
 それでは、議事に入らせていただきます。今後の議事進行につきましては、樋口座長にお願いいたします。
○樋口座長 皆様、おはようございます。朝早くから御苦労さまです。
 それでは、早速、まず、事務局から説明をお願いしたいと思います。
○雇用政策課長補佐 ありがとうございます。
 そうしましたら、資料1を画面に投映させていただきます。
 資料1は、アジェンダをお示しさせていただいております。前回、第4回でお示ししたものと同じになってございます。
 前回、第4回では「多様なキャリア形成・働き方」の中で、女性の活躍等につきましても議論をする予定でございましたが、お時間の関係もあり、そこのところが十分できなかったと考えてございまして、今回、そこの部分の議論をしていただきたいと考えてございます。
 下のほうにございますけれども、第2回の雇用政策研究会におきまして女性活躍・両立支援について議論がなされ、そこから方向性をお示しいただいたと考えてございます。そちらが一番下の緑色の四角でございますけれども、ウェルビーイングの向上に向けた多様なキャリア形成・働き方の実現に当たっては、制度面の改善に加えて、柔軟な働き方を阻害している日本的雇用慣行を修正していくことが重要なのではないか。また、働き方の改善については、女性・子育て世代に限定せず、労働者全員の働き方を変えていく必要があるのではないかという方向性をいただきました。
 2ページ目でございます。
 そうした方向性を受けまして、個別のところでございますが、赤囲いのところでございますが、2つの論点をお示しさせていただいておりまして、長時間労働を前提とした働き方が見られる中、柔軟な働き方や女性のキャリア形成を阻害する日本的雇用慣行にはどのようなものがあるか。また、そうした雇用慣行を変えていくためには、どのような取組が求められるか。
 2つ目でございますけれども、コロナ禍では家事・子育て・介護といった生活時間と仕事の両立の難しさも浮き彫りとなるとともに、家庭内での男女間の差についても認識された。男性も含め、働き方を縛る雇用慣行はどのようなものがあるか。また、このような慣行を改善していくためにはどのような取組が求められるかといったことを議論したいと考えてございます。
 今回、2名のプレゼンターに来ていただいておりますので、プレゼンターの先生方の御説明を受けて、御議論を深めていきたいと考えております。
 以上でございます。
○樋口座長 ありがとうございます。
 それでは、続きまして、資料2について、藤見臨時委員から説明をお願いいたします。
○藤見臨時委員 ありがとうございます。では、資料を共有させていただきます。
 改めまして、株式会社Warisの藤見と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
 10分ということなので、ちょっと早口になってしまうかもしれないのですが、お聞き苦しいところがございましたら、後ほど御質問いただければと思います。
 私のほうからは、女性の多様なキャリア形成と働き方において、非正規雇用女性のキャリア形成の難しさみたいなところからリスキリングに取り組んでいるということもありまして、その辺りを中心に御説明させていただければと思っております。
 まず、私たち株式会社Warisの御紹介となりますけれども、ちょうど10年前の2013年に女性3名で創業した人材紹介会社となります。「Live Your Life すべての人に、自分らしい人生を。」をビジョンに、ライフイベントによって左右されやすい女性のキャリア支援ということで、新しい働き方などを提案してきた会社でございます。
 2016年には家庭の事情などでキャリアブランクができた女性のための再就職支援サービス「Warisワークアゲイン」を立ち上げまして、2021年には女性役員の人材紹介サービス「Warisエグゼクティブ」を、そして、2022年にはリスキリングから就労支援まで一気通貫で伴走支援を行う「Warisリスキリング」というものを事業部化しております。
 登録者層は8割以上が女性の方になりまして、大きく分けるとこのような3層になってくるかなと思っております。
 私自身は人材業界に10年以上従事いたしまして、非正規の方とか、フリーランスの方とか、30代、40代を中心とした女性のキャリア支援というところに長く従事しております。
 私のほうで統括しておりますリスキリング事業部では、リスキリング、学びのコンテンツだけを提供するのではなくて、それをきちんと仕事に、社会に生かしていっていただくように、就業までを支援する一気通貫型のプログラムを行っております。
 具体的なプログラムなのですけれども、こちらのスライドのように、DX人材育成プログラムとか、スタートアップのマルチバックオフィスを学ぶキャリアスクールとか、そのほかウェブマーケティング、カスタマーサクセスといった市場ニーズの高いもの、一定の報酬を得られるもの、そして、女性を中心ということになりますので、リモートワークとか、週2日、3日からスタートして、行く行くはフルタイムにシフトしていくことができるといった職種、業界を選択して、リスキリングプログラムを設計しているというところが特徴としてあるかなと思っています。
 ちょうど厚生労働省様からも委託事業を採択いただきまして、就職氷河期世代の方に向けたセールスサポート人材育成プログラムというのを、ちょうど来週、12月からスタートする予定になっております。
 私たちリスキリング事業部で目指すところとしては、大きくは男女間の賃金格差解消のためにプログラムを行っております。この問題はいろいろな問題が構造的に絡み合って起きていると思っていますけれども、日本女性の就業者のうち半数以上が非正規女性ということで、この方々をリスキリングによって成長分野の正規雇用へ引き上げ、そして、その方々の賃金アップをまず第一歩として取り組みたい。その先に女性管理職比率向上とかにつながってくると思っております。
 マクロの視点でいきますと、そういった女性たちを取り巻く雇用環境、課題みたいなところで申し上げますと、こちらは御承知のとおりという感じだと思うのですけれども、L字カーブの問題がございます。30代より女性の正規雇用率は低下していきます。要因として考えられるのは、やはりライフイベントによってフレキシブルな労働環境を求めたときに、非正規雇用を選択せざるを得ない状況であるということ。そして、女性の就業者としては増えているという状況ですけれども、半数以上が非正規雇用ということで、女性の賃金が上がらずにいる。
 最後のこちらが一番問題かなと思っているのですけれども、そういった方々が一度非正規を選択する。キャリアブランクが長くなったときに、ライフイベントが落ち着いてフルタイムでもう一度正規雇用として働きたいと思ったときに、日本企業の書類選考の高い壁に直面して、なかなか正規雇用につながりづらいという課題がございます。そこに私たちがリスキリングというものを1枚挟みまして、引き上げていこうと今行っております。
 ミクロの視点で申しますと、非正規とか、キャリアブランクの女性が抱える課題感みたいなところから正規雇用につながらないという問題もあるかなと思っています。
 非正規雇用女性の半数を占める34歳から54歳の女性は、まさに就職氷河期世代の方々になります。社会情勢の影響を受けて、大学卒業後に一度も正規雇用になることなく非正規としてキャリアを積んでいる方も一定数いらっしゃいます。そうすると、会社からの研修機会とか、上司とか先輩からのフィードバック機会が著しく少ないので、自分にどんなスキル・強みがあるのか理解できていない。自己認知力が低い傾向にあるかなと思っています。
 そして、非正規雇用では裁量を持って仕事をするということがないため、ストレッチな仕事への挑戦機会とか、そこを乗り越えた成功体験というものがありませんので、自己肯定感・自己効力感が本当に著しく低い傾向にあるかなと思っています。
 そして、雇用の不安定さとかから将来への不安を抱えていますけれども、誰にも打ち明けることができずに孤独を感じていらっしゃる。また、非正規は仕事が決まりやすいので、シングル女性、シングルマザーといった方も多いのですけれども、非正規は年収も上がっていきませんし、先ほどのとおり正規につながらない、つながりにくいというところがありますので、収入の低さというところから抜け出せずにいる状態です。
 こういったマクロの視点、ミクロの視点から出てきた課題感から、私たちのほうでは、リスキリングプログラムを提供するだけでは就職にはつながらないというところが分かりまして、スライド下の3つの重要な3要素というものを意識してプログラムを設定しています。
 まず、1つ目に「コミュニティ」ですけれども、非正規雇用の方、キャリアブランクのある方、同じ境遇とか悩みを持つ仲間同士でコミュニティーをつくりながら講座をやり切っていただくということ。
 2つ目に、ここが一番大切だと思っていますけれども「伴走者」であるキャリアカウンセラーの存在です。一人一人に必ず専任のカウンセラーをアサインしまして、家庭環境とか、多様な悩みにも寄り添いながらアドバイスを行ってまいります。そして、スキル・強みの言語化を行って、その方が正規雇用における面接において、自信を持って自分の口で自分のスキル、強みを語れるように仕立てていただくということをお願いしています。
 最後に「活躍の場」ですけれども、非正規とかキャリアブランクが長くなっても、こういったリスキリングプログラムに参加して学ぶこと、働くことに前向きな方であれば、採用についても前向きに検討しますという企業を私たちのほうで一定集めまして、この会社に就職するのだという就職というところに向けたモチベーションも高めながらリスキリングを行っていただくようにしております。
 具体的な施策につきましては、御説明を割愛させていただいて、後ほど目を通していただければと思います。
 そして、こういったプログラムを経て活躍されている女性たちがたくさん生まれてきています。IT業界未経験で非正規として10数年働いた方が、プログラムを経て大手のIT企業へ正社員として決まった方もいらっしゃいますし、13年のブランクから正社員として働き始めて、わずか3年半で管理職になった方もいらっしゃいます。このように支援とかチャンスがあれば、必ず女性たちは輝けると思っております。そういったことを考えると、日本はとても機会損失しているなと感じております。
 こういった方々を広めていきたいと考えたときに、私たち民間事業者が実施する上での課題はやはりコストの部分になってきます。今、コストに見合う形で実施させていただいているので、本来であれば、リスキリングプログラムの後の就職活動の伴走支援というものも、3か月から6か月設定できればベストかなと思っていますけれども、今は1か月程度しか設定できないというところです。
 あとは、こういった方々に伴走できるキャリアカウンセラーは、本当にエグゼクティブコーチングぐらいの高い報酬を得てもよい方と個人的には思っているのですけれども、今は低水準に抑えざるを得ない状況です。
 そして、今、私たちは私たちの登録者さんに向けてプログラムを展開しているので、広告宣伝費をほぼかけずに行っていますけれども、拡大するためには一定の広告コストが必須になってくるかなと思っています。
 ただ、この問題、今こそ官民連携で非正規の方を正規へ引き上げていくという取組は、スピーディーに進めていければなと思っております。本人の報酬アップももちろんなのですけれども、それによって税収も上がってきますし、社会保障の問題とか、そういったことで、社会全体で見れば、短期的なコストを超える長期的なメリットもあると思っています。
 そして、国のほうからもぜひアプローチいただきたいなというところは企業側の意識改革になってきます。非正規雇用の方の正規雇用への受入れというところで、やはり企業側のアンコンシャス・バイアスとか、旧態依然の人事制度、終身雇用前提の人事制度がネックとなって、ここがなかなか広がっていかないというところが私たちの日々の苦しみでもありますので、人的資本の情報開示義務化みたいなところもありますけれども、一歩踏み込んで、非正規の方を正規で何人採用されたのかとか、そんなことも求めていっていただけると広がりが出てくるのかなと思っております。
 すみません。ちょっと駆け足になってしまいましたけれども、お時間を過ぎてしまったら申し訳ございません。ありがとうございました。
 以上で終了となります。
○樋口座長 どうもありがとうございました。
 質問もあるかと思いますが、後でまとめてお願いしたいと思います。
 それでは、続きまして、牧野さんから説明をお願いしたいと思います。牧野さん、いらっしゃいますでしょうか。
○牧野臨時委員 おはようございます。
○樋口座長 よろしくお願いします。
○牧野臨時委員 よろしくお願いします。では、資料を共有させていただきます。
 おはようございます。アジア経済研究所の牧野百恵です。
 本日は時間の都合もありますので、ジェンダーにまつわる社会規範がもたらす影響の大きさを実証した研究に重きを置いてお話ししたいと思います。
 まず、こちらの図を御覧ください。こちらは複数国間で見たときの国の豊かさと女性の労働参加率の関係を示した図です。豊かな国と貧しい国で女性の労働参加率は高く、真ん中ぐらいの国で落ち込むような現象がよく知られています。南アジアや中東諸国の国々がU字の底に集中しています。
 とりわけ南アジア、中東諸国はイスラム圏が多いのですが、世界最大の人口を抱えるインドは、イスラム圏ではないのですけれども、U字の底の国の1つで、女性の労働参加率はとても低く20%を切っています。1991年の経済改革以降、インドの経済成長はずっと右肩上がりでしたが、それと時を同じくして女性の労働参加率は落ち込んでおり、これは多くの、特にILOのエコノミストたちが謎であるとずっと言ってきた現象です。
 南アジアや中東北アフリカ諸国で女性の労働参加率が低い理由はいろいろ言われていますが、最近、特に実証経済学で注目を浴びているのは社会規範です。女性は外で働くべきではないという社会規範の影響がとても大きいのではないかと最近言われています。
 女性が外で働くべきではないというものに限らず、いろいろな社会規範、社会が従うべきルールがもたらす影響力の大きさは、最近の実証経済学ではとても注目を浴びています。
 こちらは、今、インドで示したとおり、女性の労働参加率が低いままの理由は、社会規範が大きいということを実証した最近の研究です。
 先進国では、女性は外で働くべきではないという規範が弱い国々、おもに北欧諸国ですけれども、そういった国では実は大卒女性ほど結婚して子供を産んでいます。逆にこういった社会規範が強い東アジアや南欧諸国では大卒女性ほど結婚しないし、子供も産んでいません。日本もそれに含まれます。
 先進国に限って見ますと、こういった社会規範が弱い国々では女性も社会進出していますし、少子化問題も比較的抱えていません。女性が社会進出しておらず、少子化問題を抱えている国には、ことごとく女性が外で働くべきではないという社会規範が強くあります。
 日本は先進国の中では労働参加率は決して低いほうではないのですが、結婚した女性のうちアルバイト・パートタイム従業者、フルタイム就業者、専業主婦の割合が大体3対2対2なので、フルタイム就業者だけに限れば、日本はイタリアよりもさらに低くなると思います。こういった国々は女性の社会進出も遅れているし、少子化問題も抱えている。
 社会規範と1つ非常に強い関係がある、思い込みがもたらす影響の大きさも最近はよく実証研究のトピックになっています。思い込みが社会のルールになったものが社会規範ですが、男性は家族を養うべきであるとか、男性は育児休業をとるべきではないといった思い込みが挙げられます。
 毎年行われている内閣府の調査ですと、これは20代から60代の男女がそれぞれ大体5,000人ずつ回答者ですが、例えば、「男性は出産休暇・育児休業を取るべきではない」と思っている人たちが、男性でも15%強、女性でも10%弱ぐらいいまだにいるのです。こういった思い込みが強いということが毎年の調査で分かっていますが、その思い込みのもたらす影響力の大きさも最近の実証研究で分かってきています。
 ミクロ経済学の実証研究、特に労働経済学と私が専門としていますミクロ開発経済学は、エビデンスが非常に厳格に要求される分野だと理解しています。経済学でエビデンスというときには、統計学を使って因果関係を厳密に示した研究結果のことを言います。相関関係との違い、また、逆の因果関係や、一見したところ因果関係の背景にある第3の要因が原因に見えるものにも、結果に見えるものにも影響している可能性にも注意する必要があります。
 このエビデンスを示すために因果推論がなされるのですが、2019年には、因果推論、医療などで使われてきたRCT(ランダム化比較試験)の手法を社会科学、とりわけ開発経済学の実証研究に応用した功績が認められた、BanerjeeとDufloというMITの教授がノーベル経済学賞を受賞しています。
 RCTの考え方は、新薬を開発したときの試験を応用したもので、簡単に説明しますと、被験者をランダムに全く同じように2つのグループ、処置群と対照群に分けます。医薬品の新薬の開発ですと、こちらの処置群のほうにだけ新しい薬、例えば、新しいワクチンなどを投与して、こちらには偽薬、ビタミン剤でも何でもいいのですけれども、本当の薬は投与しません。しばらくたってから結果を見たときに、平均すれば最初はもともと同じようなグループだったにもかかわらず、両グループに何らかの違いが出ていた場合には、この介入の結果だろうと推論するのがRCTの基本的な考え方です。
 ただ、新薬の開発と違いまして、社会科学ですと何でも処置できるわけではないですよね。例えば、こちらのグループにだけ子供を産んでもらおうとか、そんなことはできるわけがないので、社会科学、特に実証経済学では、自然実験、実験者が意図した実験ではないのだけれども、自然に降って湧いたような、誰も意図しなかったような事象をあたかも自然が実験したようにみなして、そういった事象を探してきて因果推論を行っています。
 特にミクロ開発経済学や、労働経済学では因果関係が厳密に要求されていますが、それが分かると何がいいのかといいますと、こういった原因があって結果があるということが厳密に分かることで、政策のターゲットを原因のところにあてれば、意図した効果が得られるような政策立案ができるのではないかと考えられます。
 ちょっと時間の関係ではしょりまして、先ほどの女性は外で働くべきではないという社会規範に戻ります。これは南アジアや中東諸国では非常に強い社会規範なので、文化的・地域特有だと思う方が多いと思うのですが、実は地域特有でもない。アメリカでも1920年代頃までは女性は外で働くべきではないという考え方が通説で、日本人の私たちからしてもあまりびっくりするような考えでもないかと思います。
 最近では、このような社会規範に直接働きかけようとする実証研究が出てきています。
 1つ例を御紹介します。サウジアラビアを舞台にした研究です。サウジアラビアの女性の労働参加率は15%程度ととても低いです。妻が外に働くことの決定権は夫が持っている。ただ、その夫たちに女性が外で働くことに賛成ですかと聞くと、8割から9割とほとんどの男性が賛成している。賛成している彼らが決定権を持っているのに妻たちは全然働いていない。これはなぜなのだという謎に迫った研究です。
 彼らの仮説は、多くの男性は、一人一人の個々人に賛成ですかと聞いていくと、女性が外で働くのはいいと、妻が働くことに賛成ですと言っているのだけれども、周りの男性がどう思うかということを一人一人に聞くと、周りの男性はきっと反対しているだろうなとそれぞれが思っている。個々人に聞けば8割、9割が賛成しているので、間違った認識をしているわけです。この実験ですと87%が賛成しているにもかかわらず、多くの男性がそれを過小評価しているということが理由なのではないか。結局、それで誰も妻を外で働かせないという結論になっているのではないかという仮説を確かめた研究です。
 こういった間違った認識は多元的無知と社会心理学の用語では言われているそうで、日本の場合、恐らく育児休業で同じような多元的無知が言えるのではないかと思っています。個々人の男性は休んでもいいし、休むべきだとまで思っているかもしれませんが、周りの男性はきっと反対しているだろうなとそれぞれがみな思っているので、結局、誰も育児休業を取らない。そういったことがあり得るのではないかと思います。
 このサウジアラビアでの実験は何をやったかというと、ランダムに選んだグループにのみ正しい数値を教えて、対照群には何もしませんでした。結果、認識の誤りを正すチャンスを与えられた男性は妻が外で働くことに積極的になりました。結論として、本当にちょっとした正しい情報を与えるだけで、状況が変わり得るという知見が得られたかと思います。
 次に紹介する研究も社会規範が理由として関わってくる研究です。背景としてアメリカの大学のテニュア制度、若い研究者が終身雇用の権利を得るためには、例えば、5年以内に有名なジャーナルに論文を3本出すという条件がどこの大学にもあります。この研究では自然実験を利用しています。
 ここでの自然実験は、個々の大学で、子供が生まれた場合に、5年のテニュア取得期間を6年に自動的に延びるように変更した制度を利用しました。自然実験として利用できたのは、大学によってどのタイミングで猶予制度を導入したかが異なっていたので、たまたまA大学に勤めていた男性は利用できたかもしれないけれども、B大学に勤めていた男性は利用できなかったということで、そのずれを利用して因果推論を行いました。猶予は1年間何もしなくてもペナルティーにならないわけなので、実質的な育児休業制度導入と考えられます。
 この結果、制度を利用した男性研究者は、女性研究者やたまたま制度を利用できなかった男性研究者と比べてもキャリアに有利になりました。理由はなぜかというと、育児休暇をとった女性研究者は本当に育児に1年間専念しましたが、男性研究者は単に猶予を得ただけで、子育てはせず自分の研究をしていたというのが現実だったようで、結局、それでキャリアの格差につながってしまったという結果でした。
 なので、これで得られるインプリケーションは、制度自体はもちろんとても重要ですが、制度を整えただけでは駄目で、結局、性別役割分担のような社会規範が変わらない限り、制度導入がかえって格差につながり得るという知見です。
 最後に紹介する実証研究はイタリアの中学校を舞台にしたものです。時間の都合ではしょりますと、ここでの自然実験は担任がランダムに決まることを利用しています。女性は数学が得意でないという思い込みは多くの方が抱えていると思うのですが、たとえ能力が同じ生徒だったとしても、数学の担任教師が女性は数学が苦手という思い込みが強いと、結果として、担任された女の子たちの数学の成績が本当に落ち、さらに、将来にキャリアを積むような選択をしなくなってしまったという結果です。ここで得られるインプリケーションは、社会や文化によって形づくられた思い込みが世代を超えて格差の再生産になり得るということです。
 以上が実証研究の紹介です。最後に、今年のノーベル経済学賞の受賞が決定したハーバード大学のゴールディン教授の研究で、日本の労働市場で参考になるかなと思う例を1つ紹介したいと思います。
 ゴールディンの受賞理由の1つは、男女の賃金格差の要因に迫ったということです。受賞直後の新聞報道では「チャイルドペナルティー」が目立ったと思いますが、ゴールディンの研究では、チャイルドペナルティーは、トップクラスの上澄み、MBAホルダーのうちでも本当にトップの人たち、弁護士の中でもトップの人たち、そういった24時間働いていますみたいな人たちに関しては、子供ができると確かに男女の賃金格差は開くのだけれども、それ以外はペナルティーがみられないことを示しています。例えば、アメリカでは薬剤師は高給だそうなのですが、このような柔軟な働き方ができる職種では、子供が生まれたからといって、男女賃金格差の要因にならなかったということを示しました。
 アメリカの場合には、本当にトップのエリート層にのみチャイルドペナルティーがあるということなのですが、それはそういった仕事は柔軟な働き方ができないからです。日本の労働市場にしてみると、トップのところだけではなくて、多くの職種で柔軟な働き方ができていないと思います。柔軟な働き方ができない日本においては、チャイルドペナルティー、子供ができることによって男女賃金格差につながり得ることを示しています。
 コロナ禍でできないと思われていたテレワークができるようになったように、柔軟な働き方ができないと思われていても、実際はできる職種が意外とあるかもしれないと個人的には思っています。男女賃金格差の解消にとって柔軟な働き方はとても重要なインプリケーションだと思います。
 本当に駆け足になってしまいましたが、最後のスライドは今お話ししたことのまとめです。
 以上です。
○樋口座長 どうもありがとうございました。
 それでは、自由討議に移りたいと思います。お二人の御報告について、御質問、御意見いただけますでしょうか。どなたからでも結構です。
 神吉さん、どうぞ。
○神吉委員 神吉です。本日、大変貴重な御報告を頂きまして、誠にありがとうございました。いずれも大変参考になりました。
 お二人に関係する質問かもしれないのですが、直接的にはWarisの藤見さんにお伺いしたいのですけれども、非常に有効な取組をなさっていると思いました。11ページのところで分析されている、女性がそもそも非正規を選んでしまうのは、フレキシブルな労働環境に対するニーズがあって、それが正規だとかなえられないので非正規になってしまうということだったのですが、もしそうであるとすれば、御社における支援がマッチするのは、もはやそうしたフレキシブルな働き方のニーズがなくなって、男性と同じように働く意欲とか、能力がある人ということになるのかなと思いました。
 今、30代、40代の女性ということだと、今はかなり晩婚化、晩産化していて、30代、40代というのはまだまだ子育て世代だったりすると思うのです。フレキシブルな働き方へのニーズを抱えている人たちだとすると、正規雇用がそうしたニーズに応えられないということが問題にあるとすると、リスタートがかなり遅くなってしまうのかなという感じも受けました。
 成功例として、50代目前で正社員になられたりとか、管理職になられたりというのは非常にすばらしいことではあるのですが、会社にとってみると、それはちょっと遅いというか、本人にとっても50代目前で、ずっと非正規をやるよりはもちろんずっといいとは思うのですけれども、正社員としてやっていくにしても、企業であと何年かという先が短いのかなと思いました。そうだとすると、非正規であったとしても、それなりの待遇が得られるとか。
(接続不良)
○樋口座長 ごめんなさい。神吉さん、今のところがちょっと聞こえなかったので、もう一度お願いします。
○神吉委員 今のどの辺でしょう。
○雇用政策課長補佐 4秒ぐらい止まっていました。
○神吉委員 申し訳ありませんでした。
 非正規であってもそれなりの待遇が受けられるようにするとか、正規にとどまって働き続けられるということも重要な選択肢なのかなと思いました。
 それで、牧野先生がおっしゃったことにつながるのですけれども、最後に御紹介されたゴールディンの研究などで、柔軟な働き方に対応できるかどうかということが賃金格差、雇用の継続に重要だということだとすると、現在の日本の正規の働き方が柔軟な働き方を妨げているということが構造的に非常に大きな問題なのではないかなと思いました。その辺についての御感触みたいなものをいただければ幸いです。
○樋口座長 ありがとうございます。
 では、まず、藤見さんからお願いします。
○藤見臨時委員 ありがとうございます。
 おっしゃるとおりのところはあるかなと思うのですが、私たちが展開しているリスキリングプログラムは、正規雇用に引き上げていくということを目的としているのですけれども、そこにおいては、やはり柔軟な働き方が得られる職種・業界を選択しているかなと思っています。IT業界はコロナ以降、より一層リモートワークとか、フレキシブルな働き方を取り入れる企業が多くなっていますので、ほかの業界より柔軟な働き方ができる状況にあるかなと思っています。
 あと、圧倒的な人手不足というか、人材不足という課題に本当に今まさに直面している業界でありますので、やはり企業側の意識も少しずつ変わってきて、優秀な人材を獲得するのであれば、働き方の柔軟性がセットであると認識して、いろいろ改革をしているところもありますので、そういったところから、女性が正規雇用になったとしても子育てとの両立、介護との両立が可能になるのかなと思っています。
 あと、スタートアップとかベンチャーですと、その辺がまたさらに柔軟になりまして、本当に週2日からスタートしていただいて、会社の成長とともに少しずつ稼働を増やしていっていただければいいですよということをおっしゃっていただけると、お子さんの成長とともに稼働を増やしていくということができますので、そういったところも非常にフィット感としては高いかなと思っております。
 なので、正規雇用はやはり圧倒的にまだ長時間労働とか、転勤も含むような働き方になっている業界が多いかなとは思いつつ、変わってきている業界もありますので、そういったところを中心に女性をアサインしていくということを意識しているところです。
○樋口座長 ありがとうございます。
 僕も今の関連で1つ。例えば、非正規、パート・短時間労働者の中に正規の今の働き方に変えたいと思っている人がどれぐらいいらっしゃるのか。
○藤見臨時委員 一応、データでは、正規雇用につながらないからという理由で非正規を選択している方が、全国の女性で57万人いると言われているので、そこでチャンスに恵まれずにそういった働き方を選択しているという方は一定いらっしゃるのかなと思っています。
○樋口座長 ありがとうございます。
 それでは、今、牧野さんにも御質問がありましたが、いかがでしょう。
○牧野臨時委員 今、藤見さんからは、今すぐにできることは何か、とりわけ労働の供給側からの話があったと思うので、私は需要側のことと、あと、もう少し社会規範、社会全体で考えていることをお話ししたいと思います。
 実際、アメリカの例では薬剤師がとても柔軟な働き方ができるということですが、最初からできたわけではないです。パートタイムでもフルタイムでも時給が変わらないようにできるようになったのはなぜかというと、1人の人が6時間続けて働いても、2人の人が3時間ずつ働いても、例えば、技術の発展とともに処方箋を全てデータベース化するなどして、労働生産性が変わらないようにシステム化できたというところが大きかったようです。
 そうすると、仕事が俗人的でなくなってくるわけです。この薬剤師でなければいけないということがなくなって、どの薬剤師でもいいということになれば、例えば、1日とか、育児休業などでもう少し長期的な中断であっても、それがペナルティーになりません。システムや技術の進化で労働需要側からもいろいろ工夫できることがたくさんあるのではないかなと思っています。
 もう一つ、今の時点では、女性がフレキシブルな働き方を求めているというのは、その通りだと思いますが、その背景には、社会規範というか、思い込みがあります。例えば、性別役割分担みたいなものが仮になかったとすれば、子供がいた場合、誰かがフレキシブルな働き方をしなくてはいけないとは思いますが、別に女性だけがフレキシブルな働き方をする必要は全然ないわけですよね。
 では、なぜそこで女性がフレキシブルな働き方を望むのかということを考えたときに、その背景には、女性が家事をすべき、育児をすべきのような思い込みというか、その影響力というのはとても大きいと思います。女性だけがフレキシブルな働き方を望む理由は何なのかということにもっと社会が気づくというか、考え方が広まっていけばいいなと思っています。
 以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
 それでは、山本委員、お願いします。
○山本委員 ありがとうございます。
 貴重なお話をありがとうございました。私からはWarisの藤見様に幾つかお尋ねできればと思います。非常に重要なビジネスをされているなと感心いたしました。
 先ほどの神吉委員からのお話とも関係するのですが、正規を望んでいる人が57万人と、数でいくとかなりいるということですけれども、統計上で見ると、そもそも非正規を希望しているのは、非正規の中で見ると、男女問わず9割以上が希望している。その理由は、まさにおっしゃられたように、硬直的な雇用慣行で柔軟でない。だから、選ばないということだと思うのですけれども、そうやって希望していない正規雇用を探している人の中には、実は柔軟な働き方が最近できるようになってきている。例えば、IT企業などではそれが大分進んできているということを、労働市場からしばらく離れていると、知らないという方も多いと思うのです。
 そういう意味では、そこにどれだけ働きかけられるかということで、正規を希望してもらえるかということがとても大事になると思うのですが、おっしゃるとおり、一企業でそれを行うのはなかなか難しいと思います。
 スライドの中でもハローワークとの連携ということが書いてありましたけれども、そこをどのようにされているのか。とても大事なことで、非正規を希望している人がハローワークに来たときに、実はフレキシブルな仕事であれば正規でもやれそうだと。ちょっとスキルを身につければ十分いけそうだという人を見つけたら、Warisさんに紹介するとか、そういう連携ができるととてもいいと思います。それはハローワークだけではなくて、人材派遣企業に大手の企業が幾つかあると思いますけれども、そうした企業との連携も進めていけるといいのかなと思いました。
 それから、もう一つは非常にシンプルな質問なのですが、DX人材のリスキリングというのはとても大事だと思うのですが、どのようなスキルを身につけているのか。認定資格とありましたけれども、そうすると、アプリケーションの使い方とか、そういうところに特化するのか、あるいはもう少し一般的なものなのか、その辺りを少し教えていただければと思います。
○樋口座長 では、お願いします。
○藤見臨時委員 貴重な御意見をありがとうございます。
 やはり今の労働市場を認識されていない方も多数いらっしゃるなと思っているので、私たちもこれが届いていない層にいかにアプローチしていくかというところは、本当に広告を含め、いろいろ考えていかなくてはいけないなと思っております。
 案として、そちらのスライドにもハローワークと連携させていただければというところを書かせていただいたのですが、まさに先生がおっしゃっていただいたことが望ましいなと思っているのですけれども、1社と連携するというのは難しいと思いますし、様々な事情があると思いますので、難しいかなと考えたときに、今は民間とハローワークではあまりうまく連携ができないかなと。
 ただ、社会全体で見たときには、ここが連携して情報が行き届くようにして、本当に広げていくことが大切になっていくと思いますので、ハローワークのカウンセラーの方と連携させていただいて、そういった希望がある方に対しては、その方にマッチするような人材紹介会社とか、リスキリングプログラムとか、いろいろ紹介できるような体制を整えていくというところが大事なのではないかなと思っていて、私たちもそちらを希望しているという状況でございます。
 あと、2点目のDX人材のリスキリングというところでは、こちらは連携先企業とCRM、SFAツールの知識を一定身につけていただいて、まずは基礎知識習得と認定される資格取得を目指し頑張っていただいております。その知識を身につけていただいた上でIT企業のほうに御紹介していくのですけれども、人材ニーズというのが非常に高いのです。
 なので、そういったところから、カスタマーサクセスなのか、法人営業なのか、コンサルタントなのか、職種はいろいろなのですけれども、御活躍いただけるように、今は行っているところです。
○樋口座長 ありがとうございます。
 それでは、宮本委員。
○宮本委員 ありがとうございました。私もWarisの藤見さんにお伺いすることになってしまうのですけれども、ビジネスモデルとしても大変興味深く伺いました。私自身、リスキリングを社会全体にというか、困難を抱えている層にまで広げていくのかというのがとても大事だと思っております。
 Warisの主要なビジネスのフィールドではないということは承知の上で、本筋ではないと思うのですけれども、できればお伺いしたいということで、他方で「しんぐるまざあずふぉーらむ」とか、独り親世帯の中でDX関係のプログラムは増えていて、これは非常に合理的で、在宅で子供といる時間を長く取って、しかも生活を向上させる上で非常に大事な手段になり得ると思うのです。
 そうした中で、Warisは、現在のところ、例えば、プロフェッショナル、エグゼクティブ、ワークアゲインと相対的に豊かなキャリアを持った方々が主な対象になっていると思いつつ、他方では、伴走者とか、活躍の場づくりとか、費用補助を求めるとか、何か対象を広げていかれようとしている気配も感じていて、例えば、独り親世帯などに対象を広げていく見通し、あるいはそうしたときにお感じになる困難のようなもの、この辺りをお伺いできればなと思っております。
 今、ハローワークとの協働も難しいというお話がありましたけれども、こども家庭庁とか、厚労省の社会・援護局とかが就労支援のいろいろなプログラムをやっていて、ここにWarisのような企業が入ってきてくれると大分変わるなと思っていて、ただ、なかなか文化の違いもお感じになるところが多いのではないかなと思って、この辺りのお考えを何か伺えればと思います。ありがとうございます。
○樋口座長 お願いします。
○藤見臨時委員 ありがとうございます。
 まさに、いろいろな困難を抱えている層に広げていきたいと本当に思っております。シングルマザーの方とか、シングルの方にリスキリングを通して一定の報酬を得ていただく。御家庭も大切にしていけるという状況をつくっていくことを私たちも目的としておりますので、そこに広げられたらよりいいなと思っています。
 私たちのプログラムの中でも、あえてシングルマザーの方としてはお声がけはしないのですけれども、プログラムを受けていただく中にはそういった方も含まれています。あとは、今、他社企業と連携しているプログラムの中には、「しんぐるまざあずふぉーらむ」さんとも少し連携を深めながら、そういった方に向けても展開していこうとちょうど広げていくところでありますので、私たちもそういう方々に知っていただくためにはまずどうしたらいいかを模索しているところであります。
○樋口座長 ありがとうございます。
 それでは、阿部委員、お願いします。
○阿部委員 おはようございます。藤見さんに質問したいと思っていますが、お答えが難しければ、無理をしなくても結構です。
 質問は、18ページでこんなにすごい数字を出してしまっていいのかなと思うぐらい数字を出していただいているのですが、受講者当たりコストと就業者当たりコストと2つあると思うのですが、就業者当たりコストというのは、就職につながった人の人数でトータルコストを割ったという理解でよろしいですか。
○藤見臨時委員 そうですね。おっしゃるとおりです。
○阿部委員 そうしますと、例えば、プログラムAとBというのは大体同じか、2人に1人が就職できていて、C、D、Eのデジタルのプログラムですと、5人に1人ぐらいしか就職できていないということでいいのですか。
○藤見臨時委員 そうです。
○樋口座長 阿部委員、どうぞ続けてください。
○阿部委員 まず、原因が知りたいというのが第1点目です。
 それから、第2点目なのですが、これは費用構造に関わるのでお答えしにくいかもしれないのですが、AとBのプログラムでは採用企業費用負担がないというのは、下のほうを見ますと「人材紹介手数料等になります」と書いてあるので、A、Bは人材紹介手数料をもらわないでやるということでいいのかということです。
 それから、A、Bもそうですけれども、C、D、Eになりますと受講者費用負担がありますが、受講者費用負担を求めていながら就職につながらなかった場合には、どのように対処するのか。それとも、そうではなくて、受講者が費用負担したままで終わってしまうのか。その辺り、お聞かせいただける範囲でお願いできればと思うのですが。
○藤見臨時委員 ありがとうございます。
 プログラムA、BとC、D、Eの内容が少し異なってくるところから、コストの部分もちょっと異なってきているところがあるのですけれども、サポート体制を手厚くしたりとか、一人一人にちゃんと私たちのカウンセラーをつけて伴走していくとか、私たちWaris側スタッフともちゃんとコミュニケーションをとってキャリア伴走していく体制がついているプログラムですと、やはり就職率というのは高くなっていきます。
 あとは、企業側の柔軟性というところも大切で、A、Bというのはスタートアップ向けのプログラムになっているのですけれども、スタートアップさんですとそういったバイアスみたいなものもありませんし、求める人材というところでも、学び続けられる方かどうかとか、働くことに対してモチベーションが高いかどうかとか、事業に共感していただけるかどうかみたいなところがポイントになってくるので、こういった層との相性が非常によくて、決まりやすいというか、就職率が高くなるという傾向にあります。
 あと、デジタル分野とかで私たちの介在が少ないところになってくると、就職率が少し下がってくるかなと。あとは、企業の採用のタイミングであるとか、働き方みたいなところがマッチしていくかどうかというところになってくるかなと思っております。
 費用のところなのですが、私たちのプログラムのマネタイズは結構様々なのですけれども、A、Bに関しては企業さんから人材手数料は頂かずに、ベンチャーキャピタルさんと連携しているので、そちらのベンチャーキャピタルさんのほうで御負担いただいている状況になっております。
 あと、C、D、Eで受講者負担を求めながら就職につながらない場合はどうするかというところですけれども、一定の就職活動が終わった段階で引き続きお仕事紹介を希望される方に対しては、私たちも継続的にお仕事を御紹介させていただいていて、このプログラムに参加した企業さんの中では就職されなくても、また別の私たちのお客様の中で就職されているという方もいらっしゃいます。なので、個人から御要望がありましたら、基本的には仕事が決まるまで伴走させていただいております。
○阿部委員 ありがとうございます。
○樋口座長 それでは、黒田委員。
○黒田委員 ありがとうございます。早稲田大学の黒田と申します。本日は、牧野先生、藤見様、本当にありがとうございました。牧野先生は御本も以前拝見させていただいていまして、大変勉強させていただきました。
 お二方にお聞きしたいことがあったのですが、お時間も限られているので、本日は藤見様に現場のお話をお聞きできればと思います。
 今回のご報告を私なりに整理しますと、大きく分けて、労働市場から一旦退室されてブランクができた方と、入り口の部分で労働市場に入るときに非正規になられ、その後ずっと非正規の状況が続いている方という2つのタイプの方々についてのお話だったと思います。
 その2タイプのそれぞれについてお聞きしたいのですが、1つ目のキャリアブランクの方々は、何年ぐらいブランクがあると、リスキリングが大変になるのかというところを教えていただきたいです。先ほどの阿部先生の御質問にも関係するかと思うのですが、就職が難しいケースとして、バックオフィスよりもデジタル系の例がご紹介にあったかと思います。昔は1、2年のブランクがあっても、比較的すぐにキャッチアップできるような時代だったのが、最近は情報技術革新が加速化する中、例えば、ブランクの期間が比較的長く例えば5年ほど空いてしまうと、キャッチアップするのがとても大変な時代になってきているのか。現場の感触をお聞かせいただければ、ありがたいと思います。
 それから、2点目は、労働市場の入り口のところで非正規からスタートした方々についてなのですけれども、「伴走者」としての役割が重要であるとおっしゃっていたのがとても印象的でした。この点に関連してお聞きしたいのは、非正規で雇われても、その職場で実務を積み、OJTでスキルは蓄積されているのだけれども、御本人の自己肯定感が低くてスキルの蓄積を認識していないところに気づきを促すことが重要なのか、それとも、非正規の場合はOJTの機会も与えてもらえず、リスキリングではなく、まずはスキルを積むところからスタートする必要があるのか、そのどちらのほうがより問題なのかということをぜひ教えていただければと思います。
 それから、これはまた別のタイミングのほうがいいのかもしれませんけれども、報告書の中で、女性の働き方について入れていただきたいと思っていることがありまして、これは事務局の方に後ほどお伝えしたほうがいいのか、それとも別の研究会で機会があるのか分からないですけれども、それを事務局のほうにお伺いできればと思います。
 以上です。
○樋口座長 では、2点、お願いします。
○藤見臨時委員 ありがとうございます。
 キャリアブランクの方々のほうは、5年ぐらい空いてしまうと物すごく大変なのではというところを頂いたのですけれども、私たちのプログラムに御参加いただく方の平均のキャリアブランク期間は5年から10年ぐらいになります。海外赴任帯同などで海外に行かれてしまうと、5~6年を海外で過ごしてしまうということは結構普通なので、それぐらい空いてしまうところがあるのです。
 そこで、キャッチアップのスピード感というところを考えると、そんなにブランク期間は関係ないかなと個人的に現場を見ていて思います。これだけいろいろなツールも出てきますし、新しいものというのは、働き続けている私たちであっても、日々新しいものが出てきて、覚えて使いこなしたと思ったらまた新しいものが出てきて、学び続けていると思うのですけれども、そういったところでいくと、正直、どんどん使い勝手のいいものが出てきているというところはありますので、意欲があれば、キャリアブランクがあってもキャッチいただける方がほとんどかなと思っています。なので、これは女性側にも伝えていることなのですけれども、ブランクを大きなハンデとして捉えなくてもいいのかなと思っております。
 入り口が非正規だった方に対してなのですけれども、この方たちは、頑張ろうと思っても、派遣なのだから別に何もあなたには求めていないよとか、ここからは正社員の仕事なのだから別に踏み込んでこなくていいよということを言われながら来てしまったところがあるので、自分には何もスキルがない、自分には価値がないと思われている方が結構多いという印象です。でも、やられてきたことは必ずあるので、そこで生かせるスキルというのが絶対に皆さん一人一人にあるので、そこをキャリアカウンセラーが見つけて言語化して、御本人に伝えて認識していただいて、自信を持ってもらうという作業を行っています。どちらかというと、皆さん、ちゃんとしたスキルがあるのですけれども、それをなかなか言語化できないでいるので、そこを私たちがお手伝いするということを行っているという状況です。
 以上です。
○樋口座長 ありがとうございます。
 ついでにリスキリングに必要とする期間というのは個人で様々だと思いますけれども、どれぐらいですか。
○藤見臨時委員 私たちのプログラムはいろいろあるのですけれども、1か月のものあれば、半年かけて行うものもあります。大体3か月ぐらいがベストかなと思っています。
○樋口座長 ありがとうございます。
 それでは、齋藤委員、お願いします。
○齋藤委員 両先生、大変貴重な御講演をありがとうございました。
 私からは牧野先生に御質問があります。
 2点ありまして、1点は、社会規範とか思い込みというのは非常に重要で、これを解消すると人の行動はかなりがらっと変わるということがよく分かりました。ただ、社会全体についてこれを解消していくというのは非常に時間のかかるプロセスで、必要なのでやらなければいけないし、実際、思い込みを解消しようということでいろいろ動いていると思うのですが、なかなか成果が本当に少しずつしか出ていないということで、例えば、北欧など、現在のように既にジェンダー格差がかなり小さくなった国も、以前はやはり格差があったと思うのですよね。そこで、そのプロセスをどうやって日本に生かしていくのかなというのが1つ疑問としてあります。
 もう一点は、ゴールディン先生の貪欲な働き方です。柔軟な働き方の逆で、長時間労働などをなくすとか、大幅に減らすということが求められるのだと思うのですが、社会にはどうしても必要な仕事がある。現場のお仕事、例えば、消防士とか緊急医療とか、そういったものに対して、女性がそういう仕事をできるようにサポートしていくべきだと思うのですが、こういうことに対するジェンダー格差が小さい国において行われている具体的なサポートなどがあれば、教えていただければと思います。
 あと、そういった特殊な職業だけではなくて、日本だと多くの企業において、いわばトップ層ではない人までそういった貪欲な仕事をさせられているという面があると思うのですが、それは逆に言うと、欧米のように最初からエリートを絞ってしまって、この人たちだけは物すごく一生懸命働くのだけれども、そうではない人は男女ともワークライフバランスをある程度実現できている。
 ところが、日本の場合ですと、総合職になる人というのは割合としては結構多いのだけれども、そういう人たちは出世を目指して頑張るということ、幅広い層がいわばエリート候補になっている、幹部候補になっているという面があって、これがいいのか悪いのかということだと思うのですよね。ここを変えていくことがいいのか、それとも何かいい方法があるのかということで、教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。
○樋口座長 お願いします。
○牧野臨時委員 ありがとうございます。
私自身も、社会規範が一朝一夕には変わらない、皆さんもそう思っていることだと思っています。実際、今御指摘がありましたとおり、北欧でも一晩でがらっと男性が育児休業をとるようになったわけではなくて、例えば、ノルウェーだったかと思いますが、数年前は日本の今の状況と同じような感じで、20%未満しか休業をとれていない。
 ただ、そういった中でも最初にトップランナーとしてとり出した人たちがいて、ある閾値を超えると一気に取り出すという、社会規範というのはそういうものだと思うのです。例えば、みんなが左側通行を守っていると誰も右に行かないのだけれども、あるとき半分以上が右に突然移ってしまうと、そちらは危険だということでみんなが移ってしまうというような、いずれはそのように一気にいくのかもしれないですが、そのスピードを速めるためには一気に行く何らかの仕掛けみたいなものが必要だと思っています。とりあえず思い込みや社会規範がもたらす影響力の大きさにみんなが気づくということがまず第一歩だと思っていて、さらにそれに加えて、一気に動くためにはやはりトップダウンだと思うのです。
 最近、特に官公庁、地方自治体などで導入していると報道などで見ましたが、男性が育児休業をとることを当たり前にしてしまう。今だと、子供が生まれたときに一々申請してとることになっていると思いますが、とるのを当たり前にしてしまう。とらない場合に申請してくださいねみたいな感じにすると、とるほうが当たり前になるので、ではとろうかなという人たちが一気に増える。
 そういうトップダウンからの仕掛けというのは、特に官公庁だと導入しやすく、北欧諸国はパブリックセクターがすごく大きな国々で、やはり官公庁からということでしょう。できる官公庁などから、とるのが当たり前であるという姿勢を実際に見せることで、そういうことを周りの人たちが観察するとそちらの方に社会規範も動くというのは、南アジアの女性の労働参加でも観察されていることです。
 社会規範を変えようと思っても、なかなかそんなに簡単に変わるものではないですが、実際に参加している女性たちを見て、そんなに悪いことではないなと思うと一気にみんなが働き始める。
 例えば、バングラデシュの縫製工なども今は300万人の女性がミシン工として働いていますが、1980年代では今のインドやパキスタンと同じような状況で、女性が外で働くなんてとんでもないみたいな規範があったそうです。ただ、働くことはそんなに悪いことではないなということをみんなが観察し出すと、一気にそちらに動くということがあります。やはりそういった姿勢を見せるということは必要で、トップダウンでできるところで見せることは重要だろうなと思っています。
 次に、貪欲な仕事が存在するということはそのとおりだと思います。またエッセンシャルワーカーは、そんなにフレキシブルに働ける仕事だとは思っていません。ただ、日本だと、実際にフレキシブルな働き方ができるのに、いかにもできないと思い込んでいることがとてもたくさんあると思うのです。
 アメリカの場合は、トップクラスのMBAホルダー、インベストメントバンカーとか、本当に24時間働いているような人たちとか、弁護士の中でもトップクラスの働き方をしているような人たちは、確かにフレキシブルな働き方ができるわけがないという仕事らしいです。しかし同じMBAホルダーでも、それ以外の人たちではチャイルドペナルティーはないそうで、あと、平均的な弁護士は、アメリカでは薬剤師とそれほど所得が変わらないそうで、そこでもチャイルドペナルティーがないそうです。なので、同じ職種でも、フレキシブルな働き方ができないわけではない。
 あと、医師でも、外科医などいつでもオンコールで行きますみたいな人もいれば、例えば、眼科医、獣医、小児科医といった職種だと、アメリカでもチャイルドペナルティーがないそうです。
 日本の場合は、もちろん同様の貪欲な仕事は実際に存在しますが、フレキシブルにやろうと思えばできるのに、できないと思い込んでいるものが多過ぎるのではないかなということに気づくことが重要だと思っています。
 幅広い層が幹部候補になるという話が最後にありましたが、アメリカの場合も、確かに幹部になっていくとフレキシブルな働き方は難しいのかもしれませんが、育児・家事、特に育児が一段落する前の段階ですと、本当に上澄みのほう以外は、子供が生まれたことでのチャイルドペナルティーはないそうなのです。
 幹部に間口を広くというのは、もちろん、それはそれでよいことだと思いますが、幹部になるために、24時間というか、朝も夜も働きます、残業もしますみたいなことをしなくてもいい。実際、日本の労働生産性は高くないですよね。時間だけ拘束されていて、実際は仕事をしていないということがたくさんあると思うので、フレキシブルな働き方が可能であるということがもっと世の中に広まることが重要なのかなと思っています。
 お答えになったかどうか分からないのですけれども、以上です。
○齋藤委員 ありがとうございました。
○樋口座長 ありがとうございます。
 牧野さんに1つ御意見を聞きたいのですが、社会規範が重要だというのはまさにそうだろうと思うのです。その変更に対して、あるいは人々の考え方の変更に対して政府がどこまで介入するべきか。あるいはそれはむしろ民間というか、個々人の問題であって、政府が考え方に介入するといろいろな問題が起こってくるということで、介入すべきではないという意見もあるかと思いますが、いかがでしょうか。
○牧野臨時委員 直接介入すべきものではないと思います。規範というのは、信じていること、人々の信念、そうすべきだというものがルールになっているわけなので、例えば、こうすべきとみんなが思っていることを、法律で今日から変更しますみたいにするのはやはりちょっと無理があるかなと思いますが、姿勢として示せることはたくさんある。例えば、政府機関で男性が育児休業をとるほうをデフォルトにする。とらない場合は申請してくださいということを政府系の機関の職員のほうから進めていくということは可能だと思います。
 あと、1つ、これは働き方ではないですが、政府というか、政治家になってしまいますけれども、姿勢として示すという意味でいうと、ロールモデルの存在を姿勢として示すことがとても重要だと思っています。
 民間の場合はプレッシャーがいろいろあるわけなので、例えば、クオーター制を導入すべきとまで私自身は個人的には思っていません。ただ、政治家については、逆にクオーター制を導入している国のほうが多いですし、政府としてこうしますという姿勢を示すためにクオーター制の導入には賛成です。自分たちはこうしますという姿勢を示して、それを皆が観察すればそうなのだと思うようになると思っています。女性の社会進出というか、活躍という方針があるとしたら、それを姿勢として政府及び政治家が示していくということはとても重要だと思っています。個々人に考え方の押しつけということはすべきではないと思っています。
 以上です。
○樋口座長 ありがとうございます。
 黒田先生、いらっしゃいますか。
○黒田委員 おります。
○樋口座長 最後の3番目として御意見があるかと思いますので、どういう話か教えていただけますか。
○黒田委員 すみません。お時間もないので、手短に申し上げます。
 今回の女性の働き方に共通しているのは、キーワードにもなっていますが、「柔軟な働き方の促進」という点だと理解しています。柔軟な働き方の整備が重要であることの背景として、出産、子育て、介護など、これまでは家庭責任に関する要素が挙げられてきたところですが、それらに追加して、男女間の生物学的な性差に注目した働き方の柔軟化の必要性も論点の中に入れていただきたいと思います。
 日本ではなぜ硬直的な働き方しか選択肢がなかったのかというところにつながるのですが、現在の硬直的な働き方はそれでも特に問題を感じないと考える男性が働き手の中心だった時代に確立してきたと思っています。
 男性の場合、ホルモンバランスの変動が、女性に比べて相対的に小さい、つまり男女間には生物学的な性差が存在します。女性の場合は、出産という大きなライフイベントだけではなく、月内で大きなホルモンバランスの変動があります。例えば、現在、ある企業の健康関連のデータを分析しているのですが、20代、30代というこれからキャリアを積んでいく年齢層の男女を比較すると、一月の間に頭痛や腹痛といった体の不調を感じることがあったと回答した割合に男女間で大きな差があることが見えてきました。
 多くの家庭責任が女性に集中している社会規範があるうえに、ホルモンバランスによる体調不良もあるという状況では、フレキシブルな働き方が許容されない限り、働くことは難しい方も多いと思います。
 また、より高い職位に昇進していく40代以降になりますと、更年期の世代になってきます。ようやく子育てがひと段落しても、自分の体調もあまり良くなく、さらに親の介護も始まったりする歳です。柔軟な働き方が正社員では難しいのなら、非正規を選択するしかない、という方もいらっしゃるのではないかと思います。
 男女間格差の議論では「チャイルドペナルティー」という言葉に注目が集まっているところですが、もちろんそれもとても重要なのですけれども、女性にはホルモンペナルティーみたいなものもあるのではないかと思っています。これまで、労働市場の在り方を議論する際にはこうした生物学的な性差は注目されてきませんでしたが、これからは、男女は体のつくりが違うということを認めた上で、各々が望ましいと思う働き方を柔軟に選択できるような社会を目指して労働市場を整備していくという視点を取り入れていくべきではないかと思っています。
 最近、厚労省が働く女性の健康問題を5,000人規模で調査するという報道がなされていましたが、厚生側ではそういった視点で検討されている一方、労働政策側で生物学的な性差に注目した議論は、私の知る限りあまりなされてこなかったと思っていまして、今後はそういった視点もとり入れていくということが重要ではないかと思っております。
 以上です。
○樋口座長 貴重な御意見をありがとうございました。検討していきたいと思います。
 お二人の先生、藤見先生、牧野先生、貴重な御説明をありがとうございました。
 それでは、次に移りたいと思います。資料4、5、6について、事務局から説明をお願いいたします。
○雇用政策課長補佐 ありがとうございます。事務局でございます。資料4、5、6について御説明させていただきたいと思います。
 資料4、5、6、全て「新たなテクノロジーが雇用に与える影響について」に関する資料となってございます。
 第3回に、新たなテクノロジーが雇用に与える影響につきましては、ゲストスピーカーの先生方に来ていただきまして、議論していただいたところでございます。この分野は動きが速い分野でございますので、そういった意味で、一度中間整理をさせていただきたいと考えておりまして、資料を作成させていただきました。
 資料5が中間整理の本体でございますけれども、御説明は資料4のほうでさせていただきたいと思います。
 中間整理ですが、構成として2部構成になってございまして、第1部はこれまで分かっている、言われていることの現状の整理をさせていただいております。第2部でございますけれども、政策の方向性をお示しさせていただいているところでございます。
 資料4の1枚目でございます。現状の認識につきまして、こちらも2つに分けてございますが、まず、左側の「生成AIの活用への期待」でございます。
 今、いろいろ報道も多々ございますけれども、生成AIの開発はかなりのスピードで進んでいるといったところでございまして、今後も日々の生活や業務について影響を与えていくことが想定されます。
 先行研究ですと、例えば、10年間で米国の年間労働生産性を1.5%ポイント弱上昇させる可能性であったり、あとは、カスタマーサポートセンターで労働生産性の向上が見られるとか、文書作成における作業時間の短縮や質の向上が見られるといったことも言われてございます。
 一方で、生成AIでございますけれども、示される回答が必ずしも正しいものとは限らないといった現状もございますので、生成AIの技術を理解し、業務の中で生かしていくスキルであったり、生成AIによって示された結果を経験やその他の情報からしっかりと評価するようなスキルが必要なのではないかと考えてございます。あくまでツールであるといった認識の下、最終的な意思決定や評価は人間が行うということを意識した対応が重要になってくるのではないかと考えてございます。
 右側の緑色のところでございますが、生成AI以外のテクノロジーについて言及しているところでございます。
 まず、1つ目の「新たなテクノロジーが仕事に与える影響」でございますが、研究ですと、米国でございますけれども、大規模言語モデル(LLM)の導入によって、約80%の労働者は仕事内容・タスクの少なくとも10%が変わるという研究もございます。そのような内容が変わるということをしっかり認識することが重要になってございます。一方で、雇用の大きな喪失につながるのではないかということにつきましては、まだ明確な結論が出ていないと認識してございます。
 2つ目の「労働生産性/ウェルビーイングの向上」でございます。先行研究では、タクシードライバーの需要予測AIツールの活用におきまして生産性向上が見られたとか、AIの新技術の導入によりましてメンタルヘルスやワークエンゲイジメントが改善したという研究結果も得られているところでございます。
 3点目の「新たな労働需要の可能性」でございますが、AIの普及によって、例えば、AIシステムの使い方を教える仕事とか、AIのアウトプットの内容を説明する仕事というのが今後生まれてくる可能性がございます。
 最後でございます。「新たなテクノロジーと雇用の共存に向けて」でございます。こちらは重要なポイントかと思いますが、本文で記載がございますが、日本ですと、例えば、ロボットの導入に際してかなりスムーズにいったところがございます。そういったことはしっかりと労使でコミュニケーションをしていくということが重要なのではないかと考えてございます。
 2枚目でございます。2枚目は第2部の政策の方向性について、まとめさせていただいたところでございます。こちらでは5つの政策の方向性をお示ししております。
 1つ目は「労使コミュニケーションの深化」でございます。労使コミュニケーションを活性化させ、労使双方の納得感を高めながら、新たな技術の導入をしっかりとやっていくところが重要かと思います。社内のコミュニケーションを図っていくというところ、また、企業内で難しい場合は、地域単位とか産業単位でしっかりと情報共有していくことが重要だと考えてございます。
 2つ目は「モニタリング及び情報提供/マッチング機能の向上」でございます。先ほども申し上げましたけれども、仕事内容が変わっていく可能性が高いので、今、政府ではjob tag等で職業情報の提供を行っておりますけれども、そういったことを引き続きやっていきたいと考えてございます。
 3番目は「キャリア形成支援・職業訓練の充実」でございます。技術の変化が速くなってございますので、まず、企業内での人材育成をしっかりとやっていくといった話と、あと、労働者による自律的なキャリア形成を支援していくことが重要と考えてございます。それを支えるために職業訓練を充実させていくことが必要であろうと考えてございます。
 4つ目は「ウェルビーイングの実現に向けたAIの活用促進」でございます。生成AIとAI等の効果的な活用が社会全体で進むように、様々な好事例を収集し横展開していくことが必要なのではないかと考えてございます。
 5番目は「テクノロジーに代替されないスキルの深化」でございます。テクノロジーの進化がかなり速くなってございます。そう考えたときに、どのようなタスクを人間が担い、付加価値を高めていけばいいのかといったところを、しっかりと労使でコミュニケーションをとって、議論していくことが重要になってくると考えてございます。
 以上でございます。
 資料5につきましては、本文でございますので、割愛させていただきます。
 資料6でございます。こちらも簡単に御説明をさせていただきたいと思います。
 私どものほうでいろいろとヒアリングを行いまして、事例を少し示してございます。
 まず、次のページでございますけれども、ソフトウエア関連会社でございます。こちらは生成AIを社内の業務に活用した例でございますが、例えば、右上のところでございますが、生成AIソフトを活用したAIアシスタントサービスを全社員向けに導入してございまして、日々の業務、例えば、文書作成とか、そういったところで活用しているということでございます。
 重要なポイントとしましては、ヒアリングした企業様の中では、使用方法はあくまで社員に委ねる形で使い方を模索して、それをさらに共有していくという取組をしているといったところがございました。
 次のページでございます。介護・福祉関連のところでございます。こちらはAIというよりはアプリの導入といった形になりますけれども、介護サービスのところでは外国人材の活用が多いといったところでございます。その中で、紙でのケア記録の作成はかなりコストがかかっていた、時間がかかっていたということでございます。そういったところでアプリを導入することによりまして、効率化したという事例もございます。
 次のページでございます。生命保険関連会社のところでございます。こちらは人材育成にAIを活用したという例でございますが、いろいろと生命保険の商品を営業する際のスキルの向上というのは、今までは対面で上司がマンツーマンで教えていたところがございますが、AIを活用してシミュレーションを行って人材育成に生かしているということでございます。
 お示ししましたのは3社のみでございますけれども、これだけ見ても様々な活用方法が分かりますので、今後、こういった好事例が広く展開していけば非常によいのではないのかなと考えてございます。
 私からの説明は以上でございます。
○樋口座長 ありがとうございました。
 報告書にこれをどのように取り入れていくか、また、皆さんと議論していく必要があるかと思いますが、先生方から何かございますでしょうか。自由討議で進めたいと思います。
 玄田先生がアップで映りましたが、いかがでしょうか。
○玄田委員 アップで映っているのですか。きれいでしょう。しゃべっていいですか。
○樋口座長 どうぞ。
○玄田委員 ありがとうございました。
 内容的には特段大きな不安もなく、特に政策の5つの方向性というのは、非常にバランスよくまとめられていると思ったので、それ以上は特にないのですが、強いてもし6つ目の方向性を入れるとするならばということで、そんなに強い主張ではないのだけれども、雇用政策の基礎資料というか、基礎データの効率化・適正化・改善化みたいなことはこの技術革新で期待できるのではないかなと。
 これはもう座長のほうが詳しいですが、雇用政策を考えるときのデータ作成という面ではすごく改善されてきたのだけれども、まだ課題は幾つか残っているような気がして、例えば、毎年の最低賃金とかを考えるときに、地域の労働需給データをできるだけ効果的に集めるとなったときに、今でもすごく人手をかけて、時間をかけてやっているし、今まで雇用政策で弱かったところは特に人の移動に関するデータです。
 雇用保険に入っているとハローワークデータと組合せができるのですが、先ほどからずっと出てきている雇用保険の非加入者とか、非正規の移動というのは、ちゃんととるのが難しかったり、コロナみたいに緊急事態があったときには、多分、厚生労働省とかは物すごく徹夜して一生懸命資料を作成していっている感じが如実に現れてくるので、非常にいろいろなデータが使えるようになって、政策を決定する上での背景は整理されてきたのだけれども、AIとかをもっと上手に使うと、もう少し効率的にできるような気がする。
 特に大きいのは、雇用政策に限らないけれども、今、悉皆調査も含めて、調査の困難度がどんどん上がってきているので、その現実を目の当たりにしたときには、どうやってデータを適正に補正するかみたいなことはAIの力を借りないと絶対に無理なので、雇用政策の基礎となるデータの作成について効果的に活用するというのは、省全体で考えるための一つの提案として入れてもいいのではないかなという気がします。
 そのマッチングなんていうのは安定局マターだけれども、どちらかというと、政策の基礎資料の充実となると、恐らく政策統括官室が大きく変わっていかないと、AI対応で体制づくりをしないと間に合わなくなって、また厚生労働省は遅いと言われてしまうので、足下のデータ作成に活用すると。
 今までは雇用政策は職人芸的に資料を作成してやってきて、それはそれでなかなか見事だと思うけれども、もう少し足下の問題として、EBPMという言葉を別に使わなくても、そこのところでより改善の余地があるよということは入れてもいいのではないかなと思うのです。その辺は座長の御判断にお任せしたいと思いますけれども、もし入れるのなら、そこだけはあってもいいかなと思いました。
○樋口座長 阿部先生。
○阿部委員 ありがとうございました。
 報告書も読ませていただきましたが、非常にまとまっていてすばらしい報告書ではないかと思うのですが、1点だけ、政策の方向性と言っていいのかどうか分からないですけれども、何となく新たなテクノロジーというのが自然体で徐々に企業に取り入れられていく。それに対して労働政策がどういう対応をしていくかというのが多分書かれていると思うのですが、雇用政策として1つ考えておくべきだと思ったのは、もう少し押し出してもいいかなと思っているのは、今後ずっと続いていくであろう人手不足に対応してどのような政策が必要なのか。
 これが雇用政策・労働政策なのか、それとも産業政策なのかというのは、その辺りはなかなか難しいところかもしれないですが、やはり今でも人手不足が大変で、その対応をどうしていくかというのは非常に大きな課題だと思うのですけれども、もっとこういう新しいテクノロジーを使うことによって、人手不足をうまく解消しながら人々のウェルビーイングにつなげられていくような視点というのももう少し書いてもいいのではないかなと思いました。
 関連すると、資料4の2枚目の4の「ウェルビーイングの実現に向けたAIの活用促進」というところがあると思うのですが、どちらかというと、AIがユーザーフレンドリーなインターフェースを持つべきだみたいな書き方になっていると思うのですが、例えば、企業がAIを導入するのに政策としてどのように関わっていくかみたいなものももう少しあってもいいのではないかなと思いました。
 特に企業の大部分を占めている中小企業が、これからどんどんそういった対応をしていかないと、人手不足でいろいろな問題が起こっていくと思うので、今日、先ほど幾つかの会社の例が出ていましたけれども、多分、大部分が大企業だと思うのですよね。むしろ大事なのは、中小企業の生産性をどうやって上げていくかということだろうと思うので、産業政策だと言われると、そうなのかもしれないのですけれども、ただ、キャリア形成だとかというのは中小企業で大事になっていくと思うので、その辺りの書きぶりも少し検討いただけるといいのではないかなと個人的には思いました。ありがとうございます。
○樋口座長 ありがとうございます。
 しゃべり過ぎと怒られるけれども、従来のような助成金を出すことによって中小企業がAIを進めるというよりも、むしろ、例えば、グループをつくってやっていかないと、固定費が相当大きくなってくるし、また、そういったものを進めることもできない可能性があるので、そこら辺に対する目配りをしたらどうかということかなと思いました。
 荒木先生、いかがでしょうか。
○荒木委員 ありがとうございます。
 今の阿部先生の方向性と同じ方向かと思うのですが、今回の5つの政策の方向性は大変重要で、よくまとまっていると思うのですが、いずれもトーンとしては、新たなテクノロジーが雇用に与える悪影響にどう対応するかという、ちょっとディフェンシブな対応ということになっていると思いました。
 他方で、新しいテクノロジーが今日の前半で議論となったような柔軟な働き方を可能にしていくというプラスの面が大いにあると思います。これは5つの項目でいくと、4番目のウェルビーイングの実現に向けたということかと思いますけれども、リモートワークがこれからどんどん増えていく場合に、集団で働く状況から孤立した働き方になった問題について、AIなどの活用がプラス方向で使えるということかもしれません。これから個人が選択する働き方を可能としていく上で、新しいテクノロジーが大いに力になる方面はあると思いますので、そういったプラス方向での活用が進むような対応も、今回の中間報告で入れるかどうかは別にして、考えておく価値があるかなと思いました。
 以上です。
○樋口座長 ありがとうございます。
 神吉先生、いかがでしょうか。
○神吉委員 ありがとうございます。
 私自身は荒木先生と逆に印象を持ちまして、ディフェンシブというよりはちょっと端的なところもあるのかなと感じました。今、若い世代を見ていると、本当にリサーチもですし、レポートをつくるにも当たり前のようにChatGPTを使ったり、生成AIを使ったりしているのを見ていると、今回の新しいテクノロジーというのは、特定の技術が何かを置き換える、仕事を置き換えるというよりは、全ての仕事に対して影響が広がっていって、仕事の質に影響が出てくるのではないかなと思っています。もう2年、3年もすれば当たり前のように使う時代になってくるのではという感じを受けています。
 だとすると、AIを使ってやればできることが非常に飛躍的に増えているということで、これまでの歴史を振り返ると、やったらできることというのは、あっという間にそれはやるべきことなのだという義務に転化される、内部化されていくということが起きてきました。ですので、テクノロジーを使うということが、当然に果たすべき義務の水準を設定してしまって、むしろ使わないことが義務違反になる。人間だけが判断するということは駄目なのだということにすらなっていくのではないかと思っています。
 そうだとすると、AI・生成AIなどが導入されていくということが、人手不足も相まって、生身の人間の労働強化とか、労働の密度も量も非常に増やしていくという可能性が高いのかなと思いました。
 この5つの柱のうち特に4番との関係で「ウェルビーイングの実現に向けたAIの活用促進」というのは、AIを活用させることで労働者の負担が量的にも質的にも増えないようにする。本当のウェルビーイングが実現できるようにする。活用できるようにするとあるのですけれども、活用しなければいけないということが、逆に労働者のウェルビーイングを下げないようにするという視点もあってもいいのかなと考えた次第です。
 私からは以上です。
○樋口座長 ありがとうございます。
 鶴先生、いかがでしょうか。
○鶴委員 鶴です。どうもありがとうございます。
 今回のレポートは、私も事前に少しコメントを申し上げて、基本的に今のレポート自体に修正とか、そういうものはないのですけれども、先ほどいろいろほかの委員の方々からの御意見も聞いていて、2枚目の政策のところは、今話題になっているChatGPTなどの生成AIのところが非常に中心となっているという感じがするのです。
 それで、先ほどコメントもあったのですけれども、生成AIというところに行く前のAIの使い方として、産業界で一番使われているのは画像処理ですよね。私は、そこのところが一番大きな飛躍があったと思うのですけれども、要は、労働時間の上限規制の適用除外になっている、建設業とか、医師・医療というところは、実は画像処理のAIの活用ということで、やはり相当効率的にいろいろなものを運用されてきています。
 あと、自動車のトラックのところなどが問題になるわけですけれども、これもほかの2つの業種に比べればいろいろな活用の仕方があるのだろうなと私は思っていて、要は、何が言いたいかというと、人手不足とか長時間労働が非常に深刻なところが、AIを活用することによって働き方改革をさらに推進することが可能な状況はあるわけですよね。
 なので、従来型AIということを考えてみても、実は人手不足とか、長時間労働とか、そういうところに対してAIを活用することによって、それが非常に助っ人になる、働き方改革につながるのだということは、活用、政策的な意味からも入れておいてもいいのかなと先ほどのお三方のコメントを聞きながら、私もそういうことを感じました。
 以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 齋藤先生。
○齋藤委員 ありがとうございます。
 私の観点としては、労使コミュニケーションが重要と入れていただいたのは非常にいいなと思っております。AIに限らず、新しい技術を導入したときに、どうしても労働者側としては、先ほど神吉先生のお話にもありましたけれども、労働強化につながるとか、あるいは仕事がそもそも取られてしまうとか、あるいは機械などの仕事に対する貢献が増えることで分配率が下がるとか、そういったことが心配になるとは思うのです。そこに対してきちんと労使コミュニケーションが誤解を解いていくとか、仕事の負担を減らすのだとか、人手不足の解消のために使うのだとか、こういうものが大事だと思います。
 ただ、やはり組織率が下がっていますし、ノンユニオンにおいて労使協議などの枠組みをつくって、労使コミュニケーションをする企業があると思うのですけれども、労使コミュニケーション調査などを見ても、新しい技術を導入した企業の中で、ちゃんとその前に労使協議をやっていたところが半分とか、そういう話だったと思うのです。そうすると、そこに対してどのように働きかけていくのかというところが心配ではある。
 あと、労使協議の枠組みがないような企業に対してノウハウをきちんと提供してあげないと、やれといってもなかなかできないと思うのです。その辺りに対して、例えば、業界の中で何か勉強会をするとか、いろいろあるとは思うのですけれども、そういったことに対する具体的な施策が何なのかというのが大事かなと思います。
 生成AIに関しては、かなり低スキルの方、あるいは同じスキルの仕事をしているのだけれども、熟練者と初心者の間の差を縮めるという方向に働くという研究が幾つも出ております。そのことがしっかりとこの報告書には書かれていて、これもやはり労使コミュニケーションの中でそういった話をしていくことで、例えば、OJTをやるときに生成AIの助けを借りれば、先輩が後輩にOJTで仕事を教える負担が軽くなるとか、そういうこともできるかもしれませんし、いろいろと前向きな方向に世の中が変わっていくのではないかという期待を持っております。
 どうもありがとうございました。
○樋口座長 ありがとうございました。
資料5について、各委員からあった御意見を整理していきたいと思いますが、まず、私のほうで事務局と相談してまとめさせていただいてよろしいでしょうか。これは賛成とかはどのように見ればいいのですかね。賛成の人は手を振ってもらうとか。
(賛成の意思表示あり)
○樋口座長 どうもありがとうございました。大多数の先生に御賛同いただいたと思います。
 それでは、少し時間よりも早いのでございますが、今日の研究会はここまでにしたいと思っています。
 事務局から何かありますか。
○雇用政策課長補佐 今後の研究会の開催日時につきまして、委員の先生方には先日御案内させていただきましたとおり、12月21日木曜日の15時から17時に第6回の開催を予定しております。第7回以降の開催日時につきましては、現在調整中でございますので、確定次第、御案内をさせていただきます。
○樋口座長 それでは、本日の研究会は以上としたいと思います。どうもありがとうございました。
 お二人の先生、どうもありがとうございました。