2023年度第3回雇用政策研究会 議事録

日時

令和5年7月26日(水)10:00~12:15

場所

本会議会場
厚生労働省 職業安定局第1会議室
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館12階公園側)

傍聴会場
厚生労働省 職業安定局第2会議室
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館12階公園側)

議事

議事内容
2023-7-26 2023年度第3回雇用政策研究会
○雇用政策課長補佐 それでは、定刻になりましたので、ただいまより、2023年度第3回「雇用政策研究会」を開催いたします。
 本日は、清家委員が御欠席となっており、齋藤委員と高澤臨時委員が対面での御参加、その他の委員はオンラインでの御参加となります。また、今回は外部有識者として、東京大学大学院工学系研究科の松尾教授、慶應義塾大学環境情報学部の安宅教授、東京大学大学院経済学研究科の川口教授、日本マイクロソフト株式会社の高澤様を臨時委員としてお招きしております。松尾委員は10時半をめどに御退出、安宅委員は10時半をめどにオンラインで御参加され、10時55分をめどに途中で退出される予定となっております。
 それでは、議事に入らせていただきます。今後の議事進行につきましては、樋口座長にお願いいたします。
○樋口座長 皆様、おはようございます。お忙しいところを御参加いただきまして、ありがとうございます。
 初めに、山田職業安定局長から御挨拶をお願いいたします。
○職業安定局長 7月4日付けで職業安定局長を拝命いたしました山田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 委員の皆様におかれましては本日も大変御多忙のところ、お集まりいただきましてありがとうございます。日頃より雇用政策研究会において精力的に御議論いただいておりますことに重ねて感謝を申し上げます。
 今回の雇用政策研究会のシリーズは例年以上に注目されている内容かと思います。活発な御議論をお願いできればと存じます。本日もよろしくお願いいたします。
 以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
 それでは、早速議事に入りたいと思います。
 これまで人口減少の話、言うならば、労働供給に対してはマイナスの抑制的な影響を及ぼすだろうことについてお話をしてきました。
 本日は、AIの関係について、どちらかというと労働需要を抑制するほう、あるいは労働の質を変えていくようなところについて、お話をいただければと思っております。
 最初に、資料1に基づきまして、松尾委員から御説明をお願いいたします。
○松尾委員 東京大学の松尾と申します。人工知能の研究をしております。
 「生成AIの技術動向と影響」ということで、15分ぐらいでお話をさせていただきます。
 まず、生成AIの現状ですけれども、非常に注目を集めておりまして、今年に入って動きも世界中で非常に急ということです。海外のビッグテックが相次いで新しいサービスや技術をかなり頻繁に発表しておりますし、国内の動きも非常に早くて、AI戦略会議が5月に立ち上がりましたけれども、それを含めて相当早いペースで国内でも動きが進んでいると思っております。
 技術的には、もともとは2017年に書かれた論文、Attention is All You Needというところでトランスフォーマーという技術が提案されまして、これが基本的には今の生成AI、特に大規模言語モデルでは中心的な技術になっています。
 もう一つ、重要なのが自己教師あり学習といいますけれども、Next word prediction、次の単語を予測するということをずっとやることによって、その背後にあるいろいろな知識や構造を学習していくというスキームで、これ自体は知能においては本質的な仕組みだと思っています。重要なのがスケール則(scaling law)ということで、パラメーターの数を大きくすればするほど単調に精度が上がっていくということが知られておりますので、それがゆえに、より大きなモデルをつくるという競争が起こって、全世界でそういった戦いになってきているということです。
 そういった中で、昨年11月30日にChatGPTが公開されましたけれども、全世界で急速に広がっており、いろいろな国の政治も巻き込んで急速に展開しているという状況だと思います。
 活用事例もたくさんありまして、とにかくいろいろな用途に用いることができる。特にプログラミングを書いたりデバックしたりということは非常に得意なものの一つです。それから、大規模なモデルの中にいろいろな知識が埋め込まれて覚えているので、本の感想文を書いたりといったこともできます。やり方によってはAIにディベートさせるとか、家庭教師の代わりをするとか、いろいろな使い方が、プロンプトエンジニアリングといいますけれども、ChatGPTに入れるプロンプトを工夫することでいろいろなことをやらせることができます。非常に多岐にわたっておりまして、文章の添削や校正、アイデアの提案、コードの生成に至るまで、相当広い範囲で仕事の効率化・自動化ができていくという状況です。
 期待される用途のマッピングですが、これはMicrosoftのAzureに関しての内容ですけれども、このような創造的な仕事、厳密な仕事、生活に関連したもの、仕事に関連したもの、相当幅広い範囲で用途があり得るということです。
 ということで、ChatGPTは非常に社会を巻き込んだ動きになってきていて、この技術の内容については研究者も十分に分かっていないことがたくさんあって、なぜこのような大規模なモデルをつくると、こういうところまでできてしまうのかとか、中で一体どういうことが起こっているのかとか、そういった現象の解明も今後やっていかないといけないという中で、どんどん進んでいるということです。
 非常に大きな範囲で影響があると考えていまして、私はホワイトカラーの仕事のほぼ全てに影響がある可能性が高いと2月に書いたのですけれども、そういう予想がいろいろなところから出されています。分かりやすいところで言うと、検索がなくなるとか、オフィスの製品が全部変わって、ワードとかエクセルとかパワーポイントを一言一句人間が書くような時代ではなくなって、このように書いてというとドラフトができるとか、こう直してというと直してくれるといった形の資料の作成の方法に変わっていくと思います。
 それから、目的に特化した学習をやらせる、データをつくるところ、ファインチューニングとか、プロンプトエンジニアリングを組み合わせることで、目的に特化させた学習をさせることができて、そうしますと、法律とか会計とか医学的な見地から正しいことを言うような大規模言語モデル、ChatGPTのようなものをつくれますので、そういうこともできますし、相手の感情に働きかけたり、相手の要望を聞き出したり、あるいは妥協点を調整したり、こういった業務もできるということで、将来的には相当幅広いところまで効率化・自動化されていくのではないかと思います。
 技術の展開ですけれども、今の大規模言語モデル、生成AIの技術でできることも非常に幅広いと思いますし、この先まだまだ進んでくるはずで、例えばブラウザの操作とかソフトウェアの操作自体を大規模言語モデルがやるようになるとか、より長期的なタスクとか大きなタスク、人間でいうと数時間とか数日、数週間かかるようなタスクもできるようになってくると、また、幅広い範囲で効率化・自動化ができてくる。技術的にはそんなにすんなりいくとは思えませんけれども、数年ぐらいでこういった辺りまで進んでくるのではないかと思われます。
 一方で、技術がどこかで止まるのではないか、例えばデータセットが限界に達するので、ある一定以上いかないのではないか。今、GPT4も2兆パラメーターぐらいなのですけれども、一部では2兆パラメーター以上大きくはならないのではないかと、大きくしても食わせるデータがないということになってしまって、そこら辺が最大なのではないかという見方もあります。
 一方で、医療とか金融とか法律とか、専門のデータをどんどん学習させると、そこに関しては非常に精度が高くなるということも起きるはずで、そういったものがどこまで成立するのか、これがまた国単位になるのか、それともグローバルに一個一個のものになるのか、こういった辺りも競争上はすごく重要なところなのですけれども、まだまだ専門家の間でも意見が分かれている状況だと思います。
 そういう中で、雇用や人材への影響ということをお話ししますと、幾つか調査が出ておりまして、今年の3月にOpenAIとペンシルバニア大の調査で、生成AIが米国の80%の労働者に影響を与えると、中でも19%の労働者は半分以上のタスクで影響を受けるとされていて、特に高賃金の職業、参入障壁の高い業界ほど、この影響が大きいと予測されています。例えば証券、金融、保険、IT、出版業界などということです。
 それから、ゴールドマンサックスによる職業への影響ということに関しては、世界のGDPを7%引き上げる一方で、主要な経済圏の3億人規模の労働者の仕事が影響を受ける、特に仕事を奪われるリスクが高い職種は事務系のタスク、弁護士、金融、マネジメントなどとされています。先ほどのペンシルバニア大も一部同じようなところかと思います。
 スタンフォード大による生産性向上に関する研究ですけれども、エリック・ブリニョルフソン教授らの論文で新規採用者とかスキルの低い労働者の生産性が向上しているということなので、むしろ能力の低い労働者に利益をもたらして労働者間の不平等が減少することがあるのではないかということが発表されています。
 あと一つ、MicrosoftのAIの利用に関する意識調査、31か国3万1000人の自営業者、会社従業員に対して、仕事への利用に関する意識調査をしたところ、49%の人が自分の仕事が取って代わられるのではないかと心配している一方で、70%の人が仕事量を減らすために、できる限り多くの仕事をAIに任せたいと思っているということで、心配している一方で、生成AIを導入していきたいとも思っているということです。それらに対するスキル向上が必要と考えている人もかなり多いというようなことだと思います。
 ということで、雇用とかホワイトカラーの仕事にどのように影響を与えるかということなのですけれども、全体としては雇用そのものが失われる可能性というのは限定的なのではないかと考えるのが妥当ではないかと、ゴールドマンサックスの試算では7%ということですけれども思います。プラスサイドはいろいろ大きくて、経済成長とか生産性向上にプラスのインパクトがあり得るということ、あと、仕事の内容自体は結構変わっていくのでしょうということです。生産性向上とともにリスキリングで新規に創出される職種や業務に移行することも必要になると考えられます。
 これも先ほどの馬渕さんの本からですけれども、一般的には多分こういった辺りが重要になるのではないかと言われることが多いと思います。生成AIなどを活用する能力、対人能力、コミュニケーション能力、課題発見能力、判断力、経験を語り活用する能力、ニッチな専門性、倫理等々、ただ、AIの進展の速度を考えると、これがどこまで長期にわたって、こういった能力が人間に必要だとされるのかというのはちょっと分からない面もありまして、今今で言うと、こういうことが重要だと考えられるということだと思います。
 あと、新たにつくられる仕事もあるはずで、歴史的にもどんどん新しい仕事ができているので、できるはずだと思います。今のところ見えていることで言うと、プロンプトエンジニアリングとか、プロンプターと呼ばれるような仕事があるとされていますけれども、若干誇張気味に言われているところもあって、どのぐらい本当なのか、要するにプロンプトを書くというのも重要なのですけれども、エンジニアリングの知識も相当必要なので、プロンプトだけで整理するということが本当にあるのかというのもあります。
 それから、非開発系のクリエーターとか、AI利用クリエーターが増えるというのは多分あって、分かりやすいところで言うと、医療の漫画とか政治家の漫画を描くときに、大体今まで漫画家の方が取材して描いていたわけですけれども、むしろお医者さんとか政治家の方そのものがコンテンツをつくったほうが面白いのかもしれない。今までは描く技術が必要でしたから、そういう人がクリエーションに参加できなかったわけですけれども、今後、そういうことが自動化できるので、むしろ描く技術よりもそういう世界観を持っている人のほうが活躍するようになるのではないかという意見もあります。障害者とか高齢者などが生成AIによって労働参加の機会が拡大していくといういい面もあると思います。
 最後に、生成AIの時代の人材育成についてですけれども、私の率直な実感としては、人材育成とか、そういった雇用の話は数年単位とか、10年とか、そういう中で考えていかないといけないことだと思うのですけれども、一方で、今の技術は、もう1週間単位で状況が目まぐるしく変化するということなのでスピード感が全く合っていない。なので、長期の予測をすることが非常に難しい状況にあるというのが率直なところです。ですので、今回の話もどこまでお役に立てるかというのはあります。
 一方で、今、世界で起こっていることを俯瞰してみますと、いろいろな試行錯誤をして、それでよければ踏み込む、悪ければ止めるということを非常に高速回転させるハイサイクルと呼んでいるのですけれども、そういうことをやると成長しやすい。スタートアップにしても、デジタル系の企業にしても、今、成長している企業とか組織とか個人は、ほぼそういうことをやっていると、俯瞰して捉えると思っていまして、そういう試行錯誤を繰り返して、よいものをどんどん選択して組み込んでいくことを高速回転させるような能力ということ自体は、多分、今後もすごく重要になってくるのだろうと思われます。
 それがまた、この生成AIの技術の進展とともに、より顕著になっていくのだろう、つまり世の中がさらに高速化していくということでもありますけれども、そういう中で活躍できるような個人の能力をしっかりつけていくということが、未来が読めない中においても比較的言えることなのかなとは思っています。
 ということで、生成AIの話と雇用の話、人材の話などをざっとお話しさせていただきました。私からは以上になります。
○樋口座長 ありがとうございました。
 それでは、質疑に移りたいと思います。御意見・御質問がございましたら手を挙げるボタンを押していただきまして、お名前を名乗ってから御発言をお願いしたいと思います。予定している時間、この後も安宅委員をはじめ、川口委員、さらには高澤委員にお話しいただきますので、できれば10分か15分ぐらいで終わりたいと思っておりますが、皆さんのほうから御質問をお願いいたします。いかがでしょうか。
 齋藤さん、どうぞ。
○齋藤委員 明治学院大学の齋藤と申します。松尾先生、御発表ありがとうございました。
 最後のほうに出てきました人材育成のところで、これまでとはスピード感が全く違うというお話をいただきました。日本の企業は長期的にその企業で使える能力を育ててくるというような投資を行ってきたわけなのですが、1か月単位で状況が変わるということは、もうこういった投資を行うことが難しくなっていくということでしょうか。
○松尾委員 難しくなっていると思います。実際、企業の研究所などでも同じことを研究していても、例えばカーボンニュートラルとか、そういった議論が出てきたときに、これは相当いろいろな分野の複合技術なのです。だから、一つだけやっていても難しいというのがありますし、こういったデジタルとの組み合わせも重要になってきますので、出口から考えるということが、特に人材育成においても重要になってきていると思っています。今この瞬間、何が必要なのかということをベースに置いて、そこから必要に応じて深掘りしていくような学習の仕方というのが、恐らくこれから重要になってくるのではないかと思っていまして、そういった人材を育成するのが多分重要なのではないかと思います。
○樋口座長 今のお話で、出口から考えるということですが、個々人がそれは判断できるものなのでしょうか。それとも何かグループとか、あるいは企業で、どういうような出口になると、したがって、どういうような議論が必要なのだというのは、個々人の判断に任されるべきものなのか、それとも集合体で考えていくべきものなのでしょうか。
○松尾委員 ありがとうございます。
 もちろん、個々人が判断して、こういうことを学びたいとか、こういうキャリアを選びたいとかということだとは思うのですけれども、ただ、全体として、そこのマップのようなもの、こういうことを学ぶといいとか、そういったことは大分足りていないように思っていまして、本当は組織とか国とかがしっかりとそこを指し示していく。特にこういう生成AIの技術とか新しい技術、武器になる技術になればなるほど、何をどのように学んだらいいのかというのがどこにも示されてなくて、本屋に行くと本が乱立していてよく分からないということになりがちなので、そこをしっかり整えていく。組織の中でも、こういう能力をつけてくださいということをきちんとリコメンドしていくということは、重要なのではないかなと感じます。
○樋口座長 ありがとうございました。
 山本先生、いかがでしょうか。
○山本委員 慶應大学の山本です。松尾先生、貴重なお話をありがとうございました。
 お話の中にもありましたけれども、生成AIの影響というのがオフィスワーカーのタスクに大きく出るだろうというのは肌感覚でもあるのです。資料の13ページに少し触れられていると思うのですが、ロボットとか、あるいは製造業での活用、その辺りの可能性というのは技術的にどうなっているのかというところを教えていただければと思います。
○松尾委員 ありがとうございます。
 ロボットの活用というのも、いずれできるようになると思います。ただ、技術的には、今のままの技術の延長だと多分できないので、時間は少しかかると思います。
 それから、ロボットの技術というのはハードウェアなので、広がるのに時差があるというか時間がかかりますので、そういうのを考えると、5年とか10年のうちにそんなに急に変わるとは思えないけれども、10年、20年の中で大分変わってくのでしょう。そう考えると、一旦は多分ホワイトカラーからブルーカラーといいますか、実世界の作業への労働移動みたいなものは多分一瞬起こるはずだと思っています。
 例えば介護の現場でも、介護する人の仕事は変わらないのだけれども、ケアプランをつくるとか、そういった事務のほうが相当効率化されてくるというように多分変わってくるのだろう、その後、5年、10年の時差の後に、そういったブルーカラーというか、現場の作業系も自動化が進んでくるという波がやってくるようなイメージで私は思っています。
○山本委員 ありがとうございました。大変理解できました。
○樋口座長 神吉さん、どうぞ。
○神吉委員 本当に興味深い御報告をありがとうございました。
 私から1点伺いたいのはAIへのアクセスです。現在、無料版と有料版があって、無料版のほうでもかなり多数の人が使っているということが、今、社会的に大きなインパクトを及ぼしていると思うのですけれども、これは今後も続くものなのか、質のよいAIへのアクセスというのは現在広く開かれたものと考えてよいのか、つまり、AIが社会全体の生産力を向上させるとして、そこからの分配みたいなものが自然に達成できるものなのかという見込みについて教えていただければと思います。
○松尾委員 競争上の話と、そういったアクセシビリティみたいな話と少し別かもしれないのですけれども、多くの人が使いやすいものになっていくと思います。今のオフィスとかと似ている感じかもしれませんけれども、ワードとか、そういうのをいろいろ使える。ただ、結局それがサブスクで海外のビッグテックにお金が入る、あるいは日本のサービスのように見えても裏でAPIを叩いていて海外のビッグテックにお金が入るという構造にはなってしまうので、競争上は結構問題だとは思います。ただ、個々の労働者の視点で見ると、何はともあれ使える状態にはなっているので、その点ではそんなに問題はないということかもしれないです。
 あと、今でもそうなのですけども、ChatGPTでGPT4の有料版のほうが早いとか、そういうのがあって、推論にコストがかかりますので、それも安くなってくるとは思いますけれども、そういったところで、そういう金銭的なものによって生産性が変わるということが、これまでよりも起こりやすくなるとは思います。確かにそう考えると、今後、その辺は少し問題点になってくるかもしれないです。私もあまりそこまで考えたことがなかったですけれども、非常に重要な点かと思いました。ありがとうございます。
○神吉委員 ありがとうございます。
○樋口座長 ほかにいかがでしょうか。
 そうしましたら、松尾先生に私のほうから一つ御質問したいのですが、今、巷でもいろいろ議論されているAIの規制の問題です。例えばそれこそ著作権であるとか、そういったものがはっきりしない、このまま進めていいものであるのかどうかということについて、いろいろ意見があるかと思いますが、先生はどのようにお考えでしょうか。
○松尾委員 ありがとうございます。
 その点、まさに今、国際的にも議論が進んでいるところで、広島AIプロセスで、日本がそういった議論を取りまとめていかないといけないわけですけれども、恐らくグローバルなルールは決まってくると思います。今、ヨーロッパが非常に厳しい規制案を出していて、先週はバイデン大統領が主要なAI開発企業を呼んで、幾つか自主的な取組に関して伝えておりましたけれども、そういった辺りで全体の相場感が形づくられていくのかなと思っています。
 そういう意味では、ルールはクリアになってくると思うのですけれども、ちょっと懸念しているのが、日本の場合、そういったリスクを過度に恐れて結局やらないということが増えるので、米国とかの場合は訴訟リスク込みでやってしまって、別に訴えられてもいいと、そこでまた判決が出て、判例が出て決まっていくということなので、日本だけがリスクを恐れるがあまり、生成AIがあまり使われないということにならないかなという危惧は抱いていますが、一定のルールはこれから先、つくられていくことになると思っています。
 以上です。
○樋口座長 どうもありがとうございました。
 先生には大変お忙しいところ、御参加いただきましてありがとうございました。
 以前もこの研究会に先生に登場していただいてお話を伺ったことがありました。たしか1年か2年前だったと思うのですが、また話が大分進展してきているということで、新しい情報を常に得ていかないとと思いました。どうもありがとうございました。
○松尾委員 ありがとうございました。
○樋口座長 続きまして、安宅委員より説明をお願いいたします。
○安宅委員 こんにちは、安宅です。
 非常に問題が多岐にわたっており、どこからどう話したらいいか整理しきれていない部分があるのですけれども、幾つかお話ししたいと思います。
 ChatGPTがどうこうという話ではない気がしているのですけれども、今、まずお話ししたいこととしては3つ、時代的に重大な話があると、変化している話があると思っています。
 一つは、時代感的なことです。今、人類の脅威はテロというよりも、地球との共存みたいな話になっていて、Covidのようなパンデミックは明らかに人間世界と自然界との対立から来ていることはほとんど明らかだと思いますし、温暖化に伴って、もっと発生頻度が上がることもほぼ確実です。温暖化の結果、このままいけば甚大なる災害が来る。私は内閣府のデジタル防災検討未来構想チームの座長もやっていたので、相当これは深刻だと思っています。ひとまとめで言えば「地球と人間との共存」問題であり、これが非常に重大な問題であることは間違いない。これは単なるデジタル化で実は解決しません。
 デジタルというのは、僕は東大松尾豊先生らと一緒に旗振りをしてきた側の人間ですけれども、これは手段であってサステナブルなことを使うという視点でやらないとなかなか大きな価値が生み出せない。そういう線でやっているので、テスラがこうやって成功しているのだと思うのです。なので、テクノロジーの前に本来はこっち側であって、「地球との共存」という視点でちゃんと建設的にものを考えながら、しっかりと世の中を考えられる人を育てられないと話にならないというのが大変に大きい話だと思います。
 温暖化の問題もかしかましくいわれていますけれども、真鍋先生の真鍋モデルに基づき、構造的に考えてみると、我々の消費しているエネルギー量そのものではなく、単なるCO2の地下からの吐き出しだけの問題でもなく、地球に降り注ぐ電磁波の反射率(アルベド)も含めて全体論として考えることができます。同様に、様々な不連続的な事象に対して腱反射的に反応するわけではなく、落ち着いて構造的に考えられる人を育てるというのは極めて重大だと思います。構造的、システム的な思考力をある程度持つことは高等教育を受ける人達にとって基礎教養になりつつあると思います。
 2つ目の話、AIの話は松尾先生からいっぱいあったのですけれども、人類が人口調整局面にあることは事実であって、少子化検討も行われていますけれども、基本的に豊かになれば子供が減るということは事実であり、インドもこの数十年ぐらいで6ぐらいの出生数が2まで落ちてしまい、人口維持可能な数を割ってしまったということです。女子も高等教育を普通に受けるようになると、結婚年齢が上がり、生物学的限界に到達する人が多く現れます。キャリア化は更に少子化を加速しますので、これらは全てロジカルなことの掛け算的な事象です。ここから、我々の社会が急激に立ち向かわなくてはならないのは、この長く続く人口調整局面で社会を回し続けることを考える必要があるということだということがわかります。これこそが本当は雇用・労働の要(かなめ)の問題の一つなのです。
 50年後も100年後も人口が徐々に減り続けるという前提で社会を回すように人をつくらなければいかず、この話を考えないAI×データなど技術的なスキルだけの議論はほとんど荒唐無稽と考えますので、この話が物すごく重大な問題だと思うのです。この2つが根幹の問題の中で、こういうAIの話が来ているので、新しいツールが現れて、これを使いながらどのように考えるかという話だと思います。明らかに我々のサバイバル問題とか、社会を維持し続ける問題のほうが根幹であって、技術をどのように使うかという話とまぜこぜにしないほうがいいという見解です。
 過去の知的生産の現場を考えてみると、この40年ぐらいで、紙から黒画面、黒画面かGUIになって、これがいわゆるインターネットエコノミーを生み出して、数百兆の富を生み出したわけですが、それで15年前のスマートフォン、つまりマルチタッチスクリーンの登場により、ここはまた何百兆もの富を生み出しました。これの元の技術、スマートスキン、は、東大の教授もされているソニーCSLの暦本先生が発明されたものです。今、自然言語で直接AIと対話できるときに来ており、もう1回大きな変化と大きな富を様々に生み出すと思うのです。が、先ほどの2つの問題を念頭に置いて考えなければ、ほとんど意味がない話だと思います。
 機械を使い倒してコンテンツが無限に生み出されるようになりますし、これは落合陽一さんが言っていた話ですが、本当にAIは誰でも直接触れ、様々なアプリケーションを生み出す時代に突入しています。仕事の現場は価値創造を生み出す、つまりサービスやモノをつくるバックエンドと市場のフロントエンドを考えると、かなりの人員がミドルというか、つなぎの部分なのですが、そこは今のAI的な技術革新を考えれば、急激にリーン(筋肉質)になると思います。それは今後、社会をこれまでより少しの人で回さなくてはならないことを考えると、当然そうであるべきであって、ラッキーとしか言いようがないということだと思うのです。多分、というように考えたほうがいいと思います。
 これらの使いこなしに関しては教養がなければ使いこなせないですし、先ほど少し松尾先生からもあったのですけれども、プロンプトエンジニアリング、要はエンジニアリングについてのある程度の基礎訓練を受けていないと、この類いのコマンドを打てないので、これはまた私の友人の落合陽一さんのツイートですけれども、こういうことができると使いこなしやすくなるという話です。
 あと、今のAIに代表される、実は検索もAIの化け物ですが、今までとは考えられないほどの教養が求められるというか、それがないと言っていることが正しいか、正しくないかすら分からない、実は結構ヘビーな教養の時代に突入している可能性が高い。コードを書いてもらっても、直せないということになります。文科省の教育h指導要領見直しに向けた議論などでもお話していますが、キカイは指示をしないと動かないので、空気を読んでくれませんから、言語化能力というのは当然これまで以上に大事になります。ダメ出しもできたほうがいい。というように、ただ決められた答えを出すことの価値が急激に落ちているわけです。だとしたら、一体何が今、我々がやるに値する課題なのかを考える、そして、言語化できるということが圧倒的に重要な時代に突入していることは多分否定しがたい。
 そのことを考えると、その人は一体何を欲し、こういうものがいい悪いというジャッジできる力がすごく重要です。AI×データ的なスキルは大切ですが、基本的に技術というのは人間が使える形でしか入ってこないので、これらばかりに気をとらわれすぎないほうが多分よく、普通に賢い、少なくとも理工系の教育を受けた人間は使えるようになると思うのです。だから、人口の何割かの人間は結構使えるようになると思ったほうがいいと思いますし、今の若い理系の院生は普通にやれます。そういう人たちが中核になってやっていくのですけれども、その中で、一体何をやりたいとかという気持ちがない人ですと、非常にハイIQ型の使われるだけ、使役されるだけの人材を生み出すことになりかねない。これは非常に危なっかしいと思っています。
 また、先ほど申し上げたような我々の地球との共存問題に伴うサバイバル局面が1世紀か、場合によってはもっと長い間続くので、これについて正しく理解をして、どう使うというタイプの思考ができるような人が本当に必要だと思います。文理分断的な議論とかとはもはや意味がない。普通の社会の人文科学的な議論というか、課題をまさに技術によって解いているわけですから。
 人の育成として、これは小中高大学みたいクラスルームだけではなくて、当然リスキル、アップスキルの時代なわけですから、人生100年とか、本当に続くわけです。今の瞬間でも日本は女性が92歳、男性は88歳が一番死亡される年齢です。なので、今でも90歳を前提として社会が動いており、あと、20~30年したら100になるだろうという推定の下で社会を動かさなくてはいけないことを考えると、様々な人の解き放ちができるような人材というのか、一人一人がハッピーで生きられるサポートです。人材という言い方自体が何となく失礼というか、工場経営者的な発想なので何か違う、みんながハッピーに生きられるようにするというアシストをどうやるかというのは、非常に重大なのではないかと思うところです。
 あと1点、僕がこの国の人づくりに関して非常に気になっていることをお話しします。2020年年始以来、Covidが到来し大変でしたが、日本はいまだにマスクも外せない人だらけの状態です。実際には相変わらずコロナはいますけれど、とはいえ2021年までの数十分の1の重症化率になった、集団免疫があると言ってもよい、昨年の夏以降の状況でも基本的には外せない。だけれども、ワクチンを大半の人が打っていない2021年の夏は、特に渋谷とかの若者とかはマスクをしていない人だらけでした。抵抗がない時にマスクをせず、マスクをするのが当たり前になると必要がなくとも外せない。意味不明なのです。なので、こういう「ファクトや論理に基づかない空気」で動く社会、人、を変えないと、これからも色々生まれるであろう様々な不連続的な変化に対応できないということです。
 全く同じ話はHPV、パピローマウイルスのワクチンでも相変わらず起きています。HPV予防にはものすごくワクチンが効く、そして、これは別に子宮頚部だけの問題ではなく、様々な粘膜系のがんに直接的に影響するにもかかわらず打たない、その結果感染や細胞異常発生率が急に元に戻っています。このようにファクトや論理に基づかない空気で判断するような人たちをなるべくつくらないようにするというのは、物すごくここから先の我々の社会にとって重要なのですけれども、これができていない。ちゃんと数字に基づいて判断できないのであれば、データサイエンスなどほとんど教える意味がない。データサイエンス協会を有志で立ち上げてこの10年ずっとやってきた人間の側ですけれども、非常にその辺は気にかかっています。
 なので、あらゆることに対して健全な懐疑心を持って、自分自身を持ってやっていく人、ちゃんと言語化できる人を育てたほうがいいのではないかなと思っています。
 あと、産業的な話にも触れると、日本ではこういう旧来型の大企業が人気ですけれども、海外、特にアメリカを見ると、本当にリアルをサイバーでてこ入れするスペースXやテスラみたいなところがエンジニアリングスクール(工学系大学院)における人気企業のトップにいて、その後、宇宙防衛系、そして、GAFAMが来るというのが実態です。ここで求められている人材が、実はしばらく後、10年後、20年後の求人の中心になると思うのです。そういう意味で、彼らのポスティングを僕は趣味のようによく見ていますけれども、何百何千とポスティングされているので、皆さんも御覧いただくと面白いです。
 基本は、リアルの例えば流通について詳しいデータサイエンスの分かる人とか、例えば製造が分かるデータやAIを使えるみたいな人です。つまり、しっかりとした何らかの領域のドメイン知識や経験を持って、データやAIを使える人が求められる時代に突入しています。学生たちはサバイバルの視点で勝手にやっていますけれども、大人も同じくサバイバルマインドを持って本当はやりたい、でも、どうやって学んだらいいのか分からない、どこからやったらいいのかみたいな感じなのです。そのために、大学なり高専なりがサポートして、高校でもいいのですけれども、リスキルやアップスキルができるようにしてあげるというのは、めちゃくちゃ重大ではないかなと思っています。
 先ほど、その人なりの気持ちなのかマインドを持つという話で考えると、その人がその人なりに感じ、それに基づいて判断するということがすごく重要だと思います。例えば大きなスーパーマーケット、GMS、を見て、普通の人は、ただ大きいぐらいしか思わないわけですけれども、大野耐一さんはこれを見てトヨタ生産方式を思いついたと言われています。このように普通では感じられない深い知覚を持った人が未来をつくってきたわけです。
 我々が価値を感じられるものしか感じることができないという当たり前のことを考えると、その人なりの深い知覚を持った人を育てるというのは恐ろしく重大であり、これは知的な経験もあり、人的な経験もあるのですけれども、計算ドリルみたいなやつは真逆に、生体験を大量に繰り返し、その人なりの生体験を持った、その人なりの知覚を育てるというのが本当に重大になってくるのではないかなと思います。
 最後に、羽生善治先生が永世七冠の祝賀的な講演をされたときに、僕はたまたま一番目の前に座っていまして、そのときにおっしゃった話をして終わりたいです。どういう局面でも80通りぐらいの手があるけれども、二、三の手が浮かぶそうです。カメラで自然にこれを撮ろうという行為に近いという、何か驚くべき発言があったのです。これは結局、どこまで深くものが見えているかということが、結局知性そのものだということです。
 これが実際に何をやりたいとかということを決めていくということで、その人なりの知覚を育てるということを中核にやっておかないと、目先のデータやAIに過剰に引っ張られると、本当に魂のない人をいっぱい育てて、あまり楽しくもない、雇用する価値もない人になっていくのではないかと思っており、そのスキルは重要ですけれども、あくまで何のためだということを考え、その人が幸せに生きるというようなところをちゃんと育てていけることが重要なのではないかなと思うところです。
 私からは以上です。
○樋口座長 どうもありがとうございました。非常に奥深いお話をいただいたかと思います。
 それでは、安宅先生からの説明を踏まえまして御質問をお願いしたいと思います。どなたからでも結構です。手を挙げるボタンを押していただければと思いますので、よろしくお願いします。
 そうしましたら、まず、私から口火を切らせていただきたいと思いますが、先ほど教養の重要性ということをおっしゃいました。大学でも教養課程があり、形式的かもしれませんが一応重視はしているのですが、先生のおっしゃっている教養というのは、どのようにすれば身につけることができるものなのか、それとも、もう潜在的に個々人が持っているものに任せるべきものなのかということです。いかがでしょうか。
○安宅委員 ありがとうございます。
 基本的には個人に任せるべきだとは思いますけれども、これこそが知覚の話そのものでもあり、先ほどの話です。何でもかんでも分かる人間は実際に全くいないです。今の段階でLLMを超える幅広い分野と数十もの言語知識を持っている人は、多分この世には存在しないと思います。
 問題は、自分が使っていることについての判断もできない、正しい問いもできないというところに問題があり、自分が関心を持って、ある程度以上に深くジャッジできる領域を1つでも2つでも深めることが、結局、教養育成の根源であると考えます。
 もちろん大学の基礎教養ぐらいまでに学ぶべきものの広がりというのは非常に広く、特に人類の社会をつくっている仕組みであるとか、科学の基本というべきものというのはめちゃくちゃ広いわけですが、大体高校・大学の基礎教育内部で相当のところまでカバーできるように本来つくられています。とはいえ、今の日本の教育のシステムは、大学進学を目指す学生の場合、理系・文系の分離を高校の前半ぐらいに行ってしまい、文系の学生については、例えばなぜガラスが割れ、なぜ金属は割れにくいのか、なぜガラスは透明で、金属は光っているのか、ということすら分からないまま高校も大学も出てしまうみたいな危険な状態にあります。
 一方、社会的な構造として、お金とは一体何かについて一つも考えることがないとか、代議制と民主主義の関係について考えるとか、リパブリックシステムというか、民主制と君主制というのは一体何でこんなものがあるのかとか、何でこうなっていて、我々はなぜこれを選んでいるのかということについて、何ら考察もないまま世の中に出てしまうようなことは非常に危険だと思います。
 なので、この社会を動かしている基本的なもの、人間がどのような試行錯誤でここを得たのかみたいなことについては、ある程度分かっておいたほうがいい。そこから先の本当に専門レベルのことが分かるというのは、自分で物すごくいっぱいいろいろ勉強していくしか多分ないと思いますけれども、そこの足がかりまでは、少なくとも高校を卒業するまでは、社会の本当に基本的なことについてある程度分かったほうがいいと思いますし、大学に行く半分の人については、より一層、少なくとも自分の専門分野については相当構造的に自分なりの見立てができる人に育てていく必要があるのではないかと思います。
 可能であれば、2つ以上の専門を持ったほうがいいと思います。そうしないと、点の情報になってしまう。点と点があれば線になるのですけれども、相対化できないので判断が非常にしづらくなるということで、そこまでが大学を卒業する人にとってのサバイバルレベルの教養になるのではないかなと思いますが、本当に可能なのかとか、それをどうやってやるのだとか言われると、私も正直難しいところはありますけれども、理想としてはそう思っています。
○樋口座長 ありがとうございます。
 今、リスキリングというようなスキリングの話が大分世の中に出回っているのですが、その前に、我々にとってやるべきことがあるのではないかという御指摘だと受け止めてよろしいでしょうか。
○安宅委員 リスキルやアップスキルは、人間は自分が滅びると思ったら勝手にやると思うのです。首になると思ったらやります。ですけれども、そこの木がどこまで大きく育つかというのは、その人なりの根の深さが効いてくるのではないかという感じでございます。だから、リスキル、アップスキルを否定しているわけではないのですけれども、なるべく深めの根を掘っておいたほうがいいのではないかという感じです。
○樋口座長 ありがとうございました。
 阿部さん、どうぞ。
○阿部委員 安宅先生、ありがとうございました。中央大学の阿部と申します。
 ちゃんとついていけていないところがあるかもしれないのですけれども、最後のほうだったと思いますが、ドメイン知識を持つデータプロフェッショナルの重要性ということでお話しされたのですが、今働いている人たちは、それなりにドメイン知識を持って働いているのではないかと思うのです。それが例えばAIが登場してくると、ドメイン知識をどんどん侵食されてくる懸念というのはあると思うのです。そのときに、どこまで侵食されていくのかとか、どれだけドメイン知識を持てばいいのかとかという議論が多分雇用政策の上で大事なような気がするのですけれども、ドメイン知識の概念というのは、今後どうなっていくのだろうという、例えばAIにどんどん侵食されていったときに、その後、どのようにドメイン知識は変わっていくのか、漠とした質問ですが何かお考えはありますか。
○安宅委員 すごく本質的な御質問をいただいたと思います。
 私が思うドメイン知識は、その分野において起こる事象についてどこまで生々しく分かるかだと思います。教科書に書いてあるようなものを知っているというのはドメイン知識ではないと思います。何かトラブルが起こったときに、それが生々しく想像できるレベルで分かっているのは本物のドメイン知識だと思います。
 そういう意味では、これも知覚の話と直結していて、そこの分野において生体験がどこまで構造的かつ体系的に分かっているかというのが本当の意味でのドメイン知識で、ペーパーテストで95点だという知識は、LLMのほうが得意だからという、あれは検索がもっと正確ですから、そこではない。だから、そこで起こっている事象を生々しく分かり、それをさらに構造的に、これとこれは異質だとか分かるのが多分本当のドメイン知識だと思います。そんな感じのイメージです。
○阿部委員 ありがとうございました。
○樋口座長 安宅先生、10時55分までということで、予定の時間になりましたので、どうもありがとうございました。
 続きまして、川口先生にお話をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○川口委員 東京大学の川口と申します。「先進技術が雇用・賃金に与える影響」ということでお話をさせていただきたいと思います。
 今日のテーマは、特に自動化に代表される技術進歩が雇用に対してどういう影響を与えるかということだと思うのですけれども、理論的に少し整理すると、自動化技術が雇用に与える影響というのは、主に2つの経路を通じて雇用に影響を与えると、ミクロ経済学の教科書などには書いてあります。一つは労働が機械に代替される代替効果と呼ばれるものです。もう一つは製品サービスに対する需要量が増加する、派生的に雇用が増えるということ、例えば自動車産業でロボットが入って自動車の生産コストが下がって、自動車の価格が下がり、それが需要を喚起して生産規模を拡大して、結果として従業員が増えるといったような規模効果があります。既存の製品に関してそれが起こることもありますし、新しいサービスとか製品が新技術によって生み出されて、それで新しい雇用が生まれてくるといったこともあります。これも規模効果だと考えることができると思います。
 雇用そのものに対してどういう影響があるかという論点がある一方で、格差に対してどういう影響を与えるかという論点もあります。これを考えるに当たって重要なのは、自動化されるタスクを行っていた労働者が低技能労働者か高技能労働者かということがあります。これは歴史的に変遷してきていると考えられていると思います。
 まず、産業革命の初期ですけれども、蒸気機関等の動力が入ることによって工場制の製造業というものが成立するようになるわけですけれども、これによって代替された労働者は誰かというと高技能労働者だったと考えられています。高機能の家内制手工業の職人が工場労働者になったというような形でデスキリングが起こったと考えられていて、これは格差縮小的な技術進歩だということがいえるかと思います。
 その一方で、格差縮小的なデスキリングの技術進歩が産業革命の初期において起こっていたことを前提とすると、最近の情報通信技術の進歩などは格差拡大的だと、もともと技能が高い人の生産性をより上げるのだけれども、技能が低い人のルーティーンの仕事を代替していったのではないかと、ここ30年ぐらいは考えられてきていると思うのです。
 そうすると、格差拡大的な技術進歩が起こってきたということが考えられるのですけれども、産業革命の初期には格差縮小的で、ここ30年ぐらいの技術進歩を見ると格差拡大的だということは、どこかでターニングポイントがあったことになるわけですけれども、それは工場の電化ではないかというようなことが言われています。
 工場の中で非常に単純に動力を提供するような、電化によって動力が自動的に提供できるような範囲が大幅に拡大したということがあったがゆえに、単純に蒸気機関が入った後でも、まだ工場の各所には動力を提供するような人間の労働があったのだけれども、それがモーターによって代替されたのだというような議論がありまして、結果として、すごく単純な労働をやっていた児童労働などが工場から消えたのではないかというようなことが言われていると思います。ですので、この100年ぐらいに関しては、基本的には技術進歩というものは格差拡大的な技術進歩だといって間違いないと思います。
 その一方で、労働者のスキルも高学歴化によって増えてきたので、その2つのバランスで格差の動向というのが決まってきたというのが、需要と供給のフレームワークで考えた成果と思います。
 ここに来て、人工知能なのですけれども、人工知能とは一体何をやっているのだということで、タスクの観点からすると、予測をするタスクの機械なのだという整理の仕方がされていて、それをやっていた労働者というのは、もともと高技能の労働者が多かったのではないかということも指摘されています。そうすると、人工知能の技術進歩というのは、今までの歴史の流れを変えるようなタイプの技術進歩である可能性もあるということだと思います。
 先ほども、AIの技術進歩について規制をするというような話が出てきたと思うのですけれども、なぜ規制をしなければいけないのかというところで、それはAIが労働市場に与える影響について悲観論があるからだと思います。代表例はMITのAcemogluでHerms of AIという論文を書いているのですけれども、これは幾つか論点からAIが社会にもたらす危機を指摘していますけれども、主要な議論のうちの一つが雇用の創出とか、経済格差の拡大が起こるということを懸念するものになっています。ゆえに、技術進歩の方向を労働を代替しないような方向に持っていく必要があるだろうというような議論が展開されています。
 その一方、Agarwal, Gans, Goldfarb、彼らは先ほどのAIはプレディクションマシーンだということを指摘したのですけれども、彼らは比較的楽観的な立場を取っていて、Do we want less automationということで、どういう論拠でオートメーションを抑制するような規制というのをすべきではないということを議論しているのです。AIというのは低スキル労働者のできる仕事の範囲を広げて経済格差を縮小している可能性があるのだということであります。
 このように、AcemogluとAgarwalたちの論調というのは非常に分かれているのですけれども、なぜここまで意見が分かれるのかということを考えてみると、労働者の技能ごとのAI導入の生産性向上に対する実証分析がまだあまりないということがあるかと思います。
 あとは、先ほど指摘した技術進歩が起こって代替効果と規模効果があると申し上げましたけれども、一体どちらが大きいのかということについての見通しがかなり人によって異なるのかなと思っています。
 AI導入の生産性向上効果については幾つかの研究がありまして、私も含めた東京大学のチームでやったタクシーの実証研究というのがあります。これは横浜のタクシー会社のドライバー520人のデータを用いまして、彼らが持っているタブレットに、空車のときにどの方向に車を流せば客を拾いやすいかというような案内をするようなナビを入れた、そのときに一体どのようになったのかということを実証研究したのですけれども、平均的に空車時間が5%程度削減されるというような結果が得られました。
 2番目の論文は、先ほど松尾先生のほうから御指摘があった部分ですけれども、ブリニョルフソン、リー、レイモンドは5,200人程度のカスタマーサポート要員にランダムにChatGPTのアクセスを与えたところ、平均14%の時間が削減された。初心者ほどAI利用の利益が大きいということで、タクシー論文と同様にスキルが低い人の仕事の仕方を補完するようなタイプの技術だったのだというようなことが分かっています。
 Noy and Zhangですけれども、これは453人のライターにChatGPTをランダムに割り振ると、書くのにかかる時間というのが約40%削減されて、人間が書いたものの質を評価するということも同時にやっているのですけれども、質は18%向上した。これは実験をやる前のベースラインのデータも取っている形になっていて、もともとのスキルが分かるようになっているのです。もともとのスキルが低い人のほうがAIを使ったときの生産性向上の効果が大きいということで、この3つの研究はともに、スキルが低い人のほうがAI導入による利益は大きいというような結果が得られています。
 タクシードライバーへのAI導入についてもう少しだけ説明させていただくと、タクシーの運転手さんにとってタスクは大きく分けて2つあります。一つは車を運転するというタスクですけれども、もう一つのタスクは、どこに行ったらお客さんを拾えるかということを予測して、なるべく空車の時間を少なくするというタスクであります。このAIは、配車ナビにAIを導入して空車時間をなるべく少なくするような道案内をするというAIになっています。ドライバーはこのオンオフを自由にできるようになっているのですけれども、これをオンにしたときに、空車の時間がどれぐらい減るのかということを実証分析しました。
 データとしては空車が何時何分に始まって何時何分に終わったかというようなデータがあるのですけれども、実際に空車時間というのは勤務時間の約5割になっていて、ここをいかに減らすかというのが生産性向上には欠かせないということになっています。
 結果を見てみると、低スキルのドライバーのほうがAIナビを使う可能性が高いですとか、客が拾えないときにAIナビを使う可能性が高いといったような内生性があるので、それを取る必要がありますけれども、それを取った後の効果を見てみますと、空車時間が5.1%短縮されるというようなことが分かりました。
 これはAIナビを実際に入れる前のデータを使って推定した上で、サンプルを分割するわけではないですけれども、もともと測定されているスキルに応じてAI効果が異なるような特定化をして効果の違いを調べてみると、スキルが下半分のドライバーに対しての効果というのは7.2%の短縮で、上半分の人に対しては2.5%の短縮で統計的な有意性がないというような形で、スキルが低い、もともと空車時間が長かったタイプのドライバーのほうがAIナビからの裨益の量が大きいというようなことが分かりました。
 これをどのように考えるかという話なのですけれども、ドライバーの運転するタスクと客のいる場所を予測するというタスクがあるときに、客を予測するところのスキルが低い人というのはそれが生産に当たって制約条件になっていた可能性があるわけですけれども、そこの制約の部分が緩和されることによって、客を探すスキルが低かった人の生産性が向上したのだろうということで、車を運転するほうのタスクに関しては、あまりスキルの差がないとするならば、客を予測するところの生産性の個人間の差が縮まることによって、結果としては格差が縮小したと考えられると思います。
 ですので、AIが何かのタスクの生産性を労働者間で均一化するような動きがあるとしても、それと補完的なタスクのところの個人間の差異が大きいようなタイプのことが起これば、この結果というのは一般化できないのかもしれないとも思っています。
 第2の論点なのですけれども、オートメーションが起こったときに規模効果がどれぐらい出るのかということについて、あまりよく分かっていないということだと思います。AIに関して言うと、今申し上げたようなケーススタディー的にAIを入れると、どのように生産性が変化したかという研究はあるし、あとはO-NETのような職業コードとタスクをマッピングしたものを使って、誰がAI技術に対してエクスポーズされているのかといったような研究というのは多数あるのですけれども、実際に影響を受けた仕事がなくなって、ほかの仕事がどのように増えたのかといったようなところまで研究が進んでいるかというと、そういうことはないと認識しています。
 そのため、昔の経験を振り返ってみたいのですけれども、ロボットがこれに対してどういう影響を与えたのかということを、オーフス大学の足立さんと早稲田大学の齋藤さんと研究をしたことがあるので、そのお話を少しさせていただきたいと思います。
 これは山本先生のJSTのプロジェクトに参加させていただいて、その中で行った研究です。我々がここで関心を持っていたのは、産業用ロボットが雇用に与えた影響の因果関係の推計なのですけれども、難しいのは、産業用ロボットを入れているところというのは産業が伸びているがゆえに雇用も伸びるというような相関関係が出てきてしまうことが多くて、産業への需要の条件が一定の下で、一方的に技術進歩が起こって産業用ロボットが安くなって、産業用ロボットが入ったことによってほかの条件、特に需要条件を一定にしておいたときに、これにどういうインパクトがあるのかということを知ることはなかなか難しいわけです。
 それを知るために、我々は日本のデータを使いました。日本のデータは何がほかの国と違うのかというと、数量と売上高の両方が分かるのです。ロボットはいろいろな用途に使われるのですけれども、用途ごとの出荷台数と出荷額が分かって、そうすると、出荷額を台数で割ると価格が分かるわけです。価格が分かるというのは経済学の研究をやる上では極めて重要だということです。
 産業用ロボットが行う作業の例です。幾つもありますけれども、2つ代表的な例を挙げると、溶接ロボットと組み立てロボットというのがあります。溶接ロボットというのは自動車産業で使われる技術で溶接です。これと並んで塗装というのもよく使われるのです。その一方で、組み立てに関しては機械産業で使われる技術で、集積回路の上に部品を置いてハンダづけしていくようなロボットになります。
 全く違うタイプの技術を使ったロボットが違う産業では使われています。電気機械産業においては組み立てロボットの利用割合が高く、輸送機関に関して言うと、溶接ロボットの利用割合が高いということが統計から分かります。
 溶接ロボットの規格の動きを見てみると、何が分かるかというと、真ん中の黄土色の線がそうなのですけれども、溶接用のロボットというのは垂直多関節ロボットと呼ばれる技術が使われていて、これについては大きな技術進歩がありました。ゆえに、単価が下がるということが起こりました。一方で、組み立てのロボットに関して言うと、一番上の緑色の点線なのですけれども、あまり価格が下がっていないのです。ということは、電気機械産業が使っているロボットに関しては単価は下がっていないのだけれども、自動車産業に関して言うと、使うロボットの価格が下がるということが分かります。
 今、2つの産業を極端な例として出しましたけれども、ほかにもいろいろな産業があるデータをつくって、それぞれの産業がどういうロボット革命に直面したのかという価格系列をつくり出して、その価格が下がったことが、ロボットの導入と雇用に対してどのようなインパクトを与えたのかという実証研究をしました。
 結果なのですけれども、ロボット価格指数が1%低下すると、ロボット台数が1.54%増加する。同様に、雇用も0.44%増加するということで、ロボットの価格が下がるとロボットの台数も増えるし雇用も増えるということで、2つの間には補完的な関係があるのだということが分かりました。
 これをアメリカのAcemoglu ,Restrepoの2020年の研究と比較可能にするために、通勤圏というのを日本でつくって、全く同じような方法で分析をしたのですけれども、労働者1,000人当たりにロボットが1台増えると、雇用が2.2%増加するという結果が出てきたのです。Acemoglu,Restrepoの論文を見てみると、1.6%減少するということになっています。Acemoglu,Restrepoは非常に悲観的な論文で、ロボットが入ると雇用が失われるし、賃金も下がるし、学歴を問わずそういう効果が見られるのだというような結果になっています。恐らくこういう実証分析の結果を得たことが、Acemogluの悲観論につながっているのかなと思います。
 日本のデータを見てみると、全ての学歴の労働者の賃金が上昇しますし、労働時間は減少していて、労働者にとっては悪い話ではなかったということだと思います。同一のオートメーション技術であっても雇用への影響は規模効果の有無によって大きく異なります。代替効果のほうは生産規模を一定にするので、ロボットが入ったら基本的には生産要素が2個しかなければ代替効果で必ず労働投入は減るのですけれども。規模効果のほうに関して言うと、ロボットを入れたことによってどれだけコストダウンができて、それで、需要量をどれだけ拡大させることができるかというところに依存するわけですけれども、ここの部分が日本ではうまくいったのだろうと思います。
 では、どのようにロボットを受容するのかというところですけれども、労働者の技能とか雇用慣行の違いによって、新しい技術が入ってきたときにそれを受け入れるかどうか、アメリカの労働者と日本の労働者は非常に違う態度を取ったことが分かるのです。
 何でそういう態度の違いにつながったかというと、日本ではロボットを入れるのは、特にこれは80年代の半ばから起こる現象なのです。大規模の製造業なので、いわゆる日本型の雇用慣行というのが根強いセクターがゆえに、ロボットが入っても、必ずしも雇用の喪失にはつながらないことが約束されていて、その状況では労働組合は新しい技術の導入に対して積極的な姿勢を取っているということがありましたけれども、アメリカの場合は、職種の転換というのがそれほど容易ではないという現実があって、ゆえに新技術の需要を拒否するのだということで、結果としては生産性の向上が見込めなかった。
 ロボットが入った後で、労働者が一体どのようになったのかというところについては、小池、中馬、太田さんの自動車生産の調査本がございますけれども、そこに結構詳しく書いてあって、溶接とか塗装に関してのドメイン知識というのは、ロボットが入った後でもすごく重要で、ロボットをメンテナンスするに当たって、そういったドメイン知識を持っている労働者が保全工になって、ロボットを上手にメンテインしたというようなことが例としては書かれています。
 そういった職種の転換ができるかどうかということが技術の受容には大きな影響を与えている可能性があったがゆえに、それとともに、生産性向上効果にも大きな影響を与えている可能性があることが分かるかと思います。ですので、技術が一体どのように雇用に影響を与えるのかというのは、かなりコンテクストとして決まってくるところがあろうかと思います。
 以上です。ありがとうございました。
○樋口座長 続けて、高澤委員から説明をお願いいたします。
○高澤委員 日本Microsoftの高澤でございます。今日はよろしくお願いいたします。
 今日、私からはMicrosoft社として進めている生成AIを実際にどのように活用していけるのか、そういう事例を簡単に幾つか御紹介させていただくとともに、スキリングの観点から弊社が行っている取組も簡単に御紹介できればと考えております。
 1つ目は教育での導入例で、これは台湾の事例です。写真を見ていただくと分かるとおり、学生さんが画面を見ながら話している様子が分かると思います。これは英会話の支援ツールでございます。
 台湾教育省は国民のバイリンガル化という政策を進めておりまして、その観点から教育省が国立台湾師範大学と協調して英会話支援ツール、C00lE Botというものを開発したしました。これは現在約3万人の生徒が台湾で使用中ということです。具体的には、生徒一人一人がいろいろなシナリオがアプリの中で提供されるので、それに沿って英会話をAI chat botの間で訓練する。生成AIですので、会話の流れに応じて適切な質問ですとかを先方から繰り出してくれるので、その流れの中で自然に英会話の練習ができるという形になっております。発音や文法も修正してくれますし、授業の中で本人が納得いくまで、いいスコアに達するまで何度でも練習できるところも非常に重要な利点となっています。
 この鍵括弧のところは、実際にこれを活用している先生の言葉なのですけれども、生徒は先生の前で英語を話してごらんと言われてもなかなか恥ずかしくてできないのだけれども、それをAIとの間だったら克服することができる、授業の間でどんどん自分から積極的に英会話能力を高めていくことができるという利点があると考えられています。
 同時に、だからといって、教師は要らなくなるのかということになりますと、そうではなくて、教師の本質的な役割というのは変わらない。教師は例えばツールの正しい使い方を教える必要があるし、最終的には教師という人間の存在、励ましてくれるような存在が必要だというのが先生の感想でございます。なので、教育のやり方は変わるかもしれませんけれども、教師というものが例えば不在になるとか、そういうことではないのだろうと考えております。
 次に、こちらはインドなのですが、行政サービスでの導入例となっております。御存じのとおり、インドの場合は多言語国家かつ識字率にも非常にばらつきがあるという中で、中央政府・地方政府が提供する様々な行政サービスをどうやって国民全体に届けるのかというのがインド政府にとっての大きな課題、そういう中での取組となっております。
 先ほど写真で携帯をいじっていたのは地方の農家の男性だったのですけれども、彼が使っていたのは政府の各種公的支援策の検索支援ツール、Jugalbandiという名前ですけれども、それを使っております。これは先ほど申し上げたインド政府が言語ですとか識字率の壁を乗り越えるために、Bashiniイニシアチブといって、全てのインド人が政府のインターネット、デジタルサービスにアクセスすることを可能にしようという取組を進めておりまして、その一環で政府からの支援を受けて開発されたAI chat botになっております。
 現在のところ、インドの公用言語22のうち10言語をカバーしていまして、今後、さらにカバー範囲を広げていく予定となっております。これは識字率の問題もありますので、携帯の画面に自分で文字を入力することもできるし、音声、言葉でコミュニケーションすることも可能になっている。
 具体的には例えば大学の奨学金、家が貧乏で親にお金を払ってもらえない人ですとか、あとは農家がどんな支援策を地方政府からもらえるのかというのを調べる際に、今まではそもそも文盲だったりしてそういうことができなかったものを、AI chat botに聞くだけで、膨大な各種公的支援プログラムのデータベースの中から、あなたはこんなプログラムに応募できます、このプログラムに応募したかったら、こういう書類を用意して、この役所に行ってこういう手続が必要ですというようなことを具体的に抽出・提案してくれる。これも生成AIの膨大なデータの中から、プロンプトに応じて適切な情報をはじき出して、それを簡潔にサマライズしてくれるという能力を活用したサービスとなっております。
 最後が日本企業での導入例となっております。Panasonic Connectという会社です。ConnectGTPという画面が見えていると思いますが、これがPanasonic Connect社が社内の業務支援、社内の業務でどうやって進めていいのか分からないといった場合に、AIのチャットを利用して、AIアシスタントみたいなサービスを社内で展開した例となっております。
 Microsoft社とOpenAIが大規模な生成AIの様々な製品への組み込みを発表したのが今年の初めですけれども、Panasonic Connect社は2月に社内業務向けAIアシスタント、ConnectGTPの運用を開始していただいております。
 当初は、このAI chat botへの問い合わせ件数は1日当たり2,000件だったということですが、数か月の間に5,000件にまで増加していると承知しております。始めた当初は会社の方々自身も、これを使うのは多分IT部門の方が中心になるのかなと思っていたそうなのですが、ふたを開けてみたら、それ以外にも、例えば法務、会計部門のようなところでも、かなり活用が進んでいるということでございます。
 この鍵括弧もPanasonic Connect社の樋口社長さんのお言葉ですけれども、生成系AIは必ず我々の労働に影響を与えると、そうであれば、やるかやらないかではなく、いつやるかの問題だったと、そうであれば、早く始めようということで、早期に導入を決められたということでございます。
 今後、生成AIによって様々な単純作業がどんどんAIに任せられるようになってくる。したがって、人間はより創造的、より高度な業務、人間でしかできない業務に集中していく必要があるのではないか。さらに実際にこのツールを使ってみた方々の言葉ですけれども、生成AIの特徴が自然言語を媒体としてAIとコミュニケーションできるというところがありますので、実はエンジニアリングみたいな非常に高度な知識は実はそんなに必要ない。この生成AIの登場によって、AIとのコミュニケーションの参入障壁が非常に下がった部分があると考えております。
 以上が具体的な導入例、このようなインパクトを与えておりますという御紹介でしたが、次に弊社として行っているスキリングの取組について御紹介させていただければと考えております。ここにありますWorld Economic Forumの研究によれば、現在から2027年までに最も必要となるスキルの中で、分析的思考、クリエイティブ思考について、第3位にAIとビッグデータというものが入っている。この研究結果にも表れているとおり、私どもとしても、今後、生成AIによって労働者の幅広い層においてインパクトが生じるのではないかと考えております。
 そういう考え方の下、幅広い労働者の層の方々にAIの基本的なスキルといいますか、生成AIの基本的な使い方みたいなものを学んでいただく機会を提供することも非常に重要だと考えております。
 その観点から、弊社としてMicrosoft Skills for Jobs programという、もともとは別にAIに限ったものではないのですが、このプログラムを通じて様々なAIのスキリングの素材、機会を提供するという取組を続けております。
 最近ですと、LinkedInでございますが、LinkedInは有料ではないと見られないものも多いのですが、これは今現在、完全無償で提供しておりますので、どなたでもお使いいただけるものです。生成AIの導入という形でのランニングコースを新しく提供し始めまして、つい数週間前にこれは発表されたのですけれども、冬頃には日本語版も提供が開始される予定でございます。ちなみに今は英語版だけなのですが、既に字幕が出てきますので、一定数の日本人の方にもお使いいただけるかなと考えております。
 次のページは今後発表予定のものでして、現時点ではまだ存在していないのですが、これは今後、AIのスキリングというものを進めていく際に、日本津々浦々でそれを実際に教える方々、学校の先生かもしれませんし、いろいろな研修プログラムの講師の方かもしれませんけれども、そういう方が使えるようなツールの作成を行っているところです。こちらは秋から冬頃にかけて、日本語も含めて提供する予定でございます。
 簡単ではございましたが、発表は以上とさせていただきます。ありがとうございます。
○樋口座長 どうもありがとうございました。
 それでは、事務局から資料について説明をお願いします。その上で、御議論しようと思いますので、よろしくお願いします。
○雇用政策課長補佐 事務局でございます。資料3から御説明させていただきます。
 資料3の2ページ目を御覧いただければと思いますけれども、この後の討議のたたき台としていただければと存じますが、新たなテクノロジーの活用に向けた考え方をたたき台としてお示しさせていただいております。
 方向性のところでございますが、まず、日本は今後人手不足が深刻化する中で、新たなテクノロジーを適切に活用し、労働生産性の向上と省力化を実現していく必要があると考えております。一方で、その導入に当たっては、企業と労働者との十分なコミュニケーションが重要であるといった話でございます。
 ただ一方、考慮すべき事項もあるのではないかといったところでございますが、青色のところでございますけれども、IT技術やAI等の新たなテクノロジーは労働生産性を高めることが期待される一方、新たなテクノロジーの活用が進むことによって格差が生じることがないよう、適切に対応していく必要があるのではないか。また、生成AIのような新たなテクノロジーの普及により、今後求められるタスク・スキルが変化していくことが想定されますので、その変化に合わせて対応、特に人的資本投資を行っていく必要があるのではないかと考えてございます。
 そして、想定される対応ということでございますけれども、求められるタスク・スキルが日々刻々と変化することを踏まえて、それをしっかりとモニタリングして、企業・労働者に対して必要な情報提供を行う必要があるのではないかといったところを考えてございます。
 あとは様々な変化が起こる中で、キャリアコンサルティング機能などを活用しながら、労働者の方が適切な職場・職業選択ができるような支援が必要なのではないかと考えてございます。こちらはたたき台になってございます。
 資料2のほうは御説明を割愛させていただきますけれども、事務局のほうでも一部データ等をお示しさせていただいております。
 資料6でございますが、こちらはアナウンスになりますけれども、雇用政策研究会の開催スケジュールをお示しさせてございまして、今回は第3回でございますが、この後、多様なキャリア形成・働き方であったり、人的資本投資、労働市場の基盤整備というところを御議論いただきまして、年度中に取りまとめを考えてございます。
 事務局からは以上でございます。
○樋口座長 ありがとうございました。
 それでは、川口先生、高澤先生の説明を踏まえながら御議論をお願いしたいと思います。これもまた、手を挙げるボタンを押していただいて御発言をお願いします。
 そうしましたら、大竹さんからお願いします。
○大竹委員 川口さんに質問なのですけれども、すばらしい御報告をありがとうございました。私の疑問は、ロボットの分析では規模効果が結構あったのだろうと、もう一つは、労働者が補完的な仕事に移った部分もあったのではないかということです。では、タクシーの場合は規模効果があるのか、代替効果というのは多分タクシー業界の中ではないと思うのですけれども、それはどのようにお考えなのでしょうか。
○樋口座長 川口先生、お願いします。
○川口委員 どうもありがとうございます。
 これは恐らく規制によると思いますけれども、タクシーの空車が減ると、コストが基本的に下がるわけなので、それが運賃低下につながるようであれば、利用客が増えるという形で規模効果が期待できると思います。
 その一方で、実際には規制産業ですので、ここのところの価格が下がらないとなると、需要増加によって規模効果が出てくる部分が働かないということになってしまうと思うので、やはり技術の進歩と規制の関係というのがここでは出てくるかなと思っています。
 もう一つは、技術進歩がもっと進んでいったときに、自動運転みたいなところまでいってしまうと、本当に雇用の喪失というのが起こるのだろうと、ただ、そこまで行くには相当時間がかかるのだろうと思います。
○大竹委員 ありがとうございます。
 1点だけ、仮に規制で価格がそんなに下がらなくても、待ち時間が減るので、質の向上という意味で需要が増えるかもしれないなと思いました。
 以上です。
○川口委員 おっしゃるとおりだと思います。
○樋口座長 宮本先生、いかがでしょう。
○宮本委員 ありがとうございます。特にお二人の御報告は大変勉強になりました。
 川口先生にお伺いしたいのですけれども、低スキル労働者の生産性を上げて格差縮小に結びつける、これは物すごく大事な視点だと受け止めました。ドライバーの事例については非常に分かりやすかったのですけれども、同じことを介護、医療、保育などの領域に当てはめようとしたときに、いろいろ違いもあるのかなと思ってございまして、先ほど松尾先生の御議論にもありましたけれども、ケアマネジャー、介護士支援専門員の仕事をAIに置き換えることは可能であるのだけれども、介護職そのものにはなかなか及ばない。
 ただ、見方を変えると、介護職が介護支援専門員の仕事を吸収していく、低スキルドライバーが仕事の範囲を非常に広げたように、介護職がより生産性が高く魅力のある仕事になっていくきっかけにはなるのかな。あるいは看護士さんがAIを活用して、コメディカルとして医療的な判断をするようになっていくきっかけもあるのかな。
 ただ、その場合、2つ大きな壁があって、一つは資格制度の壁があるだろうと、もう一つは、タクシードライバーの場合、利用者は乗ればいい、目的地まで行けばいいわけですけれども、ある種の利用者のセキュリティーという問題もあったりして、これ本当にないものねだりで申し訳ないのですけれども、この辺り、今日の先生の非常に貴重な御示唆を雇用政策に反映させていく一つのきっかけとして、その辺りを広げていく上で、何かお考えの点があれば教えていただきたいというところです。
 以上です。
○川口委員 どうもありがとうございます。
 まさにコメディカルが医療の診断の部分もできるようになってくる可能性があるというのは、全くおっしゃるとおりだと思うのです。介護の現場においても、介護の現場の労働者がより高度な仕事をするようになっていく、ケアマネジャーがやっているような仕事を端末を使いながらやっていくことができるという可能性も十分にあると思うのです。医者の場合は資格でそこのところが分断されているので、結局、そこのところでコメディカルの人ができる範囲が拡大していけば、格差縮小的に働く可能性があると思うのですけれども、一部の職域が資格制度によってがっちり守られているとすると、やはり医者が足りないという話になって、そこの部分で、より医者の所得が上がっていくというようなことも起こり得るのかなと思います。
 ですので、技術が格差にどういう影響を与えるのかというのは、資格制度も含めて社会制度というものが非常に重要な役割を果たすというのは、御指摘のとおりかなと思います。資格制度そのものについても技術進歩を踏まえて、どこまで業務の範囲を拡大するのかということも同時に考えていかないといけないのかなと思います。
 安全性に関して言うと、技術的なことがよく分からないのですけれども、むしろ安全性が向上するというようなことも考えられると思うので、最終的には機械がやったことに対して責任をどのように取らせるのかということが、やはり人間がやらなくてはいけないという議論が根っこの部分にはあると思うので、その意味でも、機械が起こした事故に対して責任をどうやって取らせるのかというのも、既に議論をさんざんされていると思うのですけれども、技術普及の上では重要な論点だと思います。
○宮本委員 ありがとうございました。
○樋口座長 鶴さん、お願いします。
○鶴委員 川口先生、貴重な御説明をありがとうございました。
 今、御説明いただいた2つの論文というのは、ロボット・AIの最先端の分野における、世界的に非常に重要なご貢献だなと思って、私自身も日本の研究者がそういうところで活躍されていると非常に誇らしく思っております。特にAcemogluたちの研究は非常に影響力があったのですけれども、同じようなやり方をして違う結果を示しています。僕はもっとプラスの効果と評価されるべきだということで、その後の研究もそういうものが多いのですけれども、非常に重要なご貢献と思っております。
 それで、私の質問は、要望の話でもあるのですけれども、ロボット自動化というのとAI、私は、AgarwalたちのプレディクションというのはAIの本質だと思っていて、自動化とプレディクションというのは少し分けて考えたほうがよくて、ロボットによる代替はAIよりもむしろ大きいのではと思われるのですが、そういうプラスの効果がいろいろあるということですので、AIのそこの分析は、まだまだなかなか蓄積は少ないということだと思うのですけれども、そこは分けて考えたほうがいいなということを思っています。
 それで、これは今日のほかのプレゼンの方々にもお伺いしたかった点でもあるのですけれども、これまでの我々の非常に身近にあるAIのいろいろな使われ方と、今回非常に議論になっている生成AIというものは、本質的に違うものかどうなのかというところを、どう判断すべきかということなのです。両方ともプレディクションであることは、私は変わらないと思うのですけれども、例えばこれまでのAIで私は革新的な部分というのは、特に画像の部分です。画像の判断というところで、実はこれまで労働者、例えば非常に経験がある人の暗黙知を画像処理でそこをなぞるみたいなことが非常にできるようなところ、つまり人間の暗黙知に入ってきたというところが、私は物すごく大きい部分だと思うのです。
 例えばChatGPTというのは暗黙知というよりも、むしろ、それを使って我々が創造的だと考えているような、例えば絵画とか音楽とか、もちろんいろいろなアイデア出しとか、そういうところも含めて、そういうことができるというところが、かなり本質的な部分として違うのではないか、雇用や労働に与える影響が違うのではないかというところを皆が感じている背景だと思うのです。
 川口さん御自身が、これまでのAIと生成AIというところが違うとしたら、そこまで本質的な違いがあるのかどうなのか、そこが判断の分かれ目みたいにもなってくるような、その辺はどのように具体的にお考えになられているか、もし、何かお考えがあったら教えてください。
○樋口座長 川口さん、お願いします。
○川口委員 どうもありがとうございます。
 私は比較的似ているのではないかと思っていて、今までのAIと生成AI、人間がつくり出した過去の知識をうまくまとめて、人間がやる以上に上手に予測をするというか、今の生成AIに関しても、この単語が来たら次にこういう単語が来るみたいな技術の積み重ねだというお話があったと思うのです。なので、過去のパターンから学んで一般化する部分、まとめるという部分に関しては、すごく似ている技術なのかなと思っていまして、それは今まで労働者が経験を積みながら習得していったものが機械によって置き換わるということだと思うので、その意味では2つの技術というのは、経験を代替するという意味では似たような役割を果たすのかなとは思っています。ただ、率直にいうとよく分からないです。
○鶴委員 ありがとうございます。
○樋口座長 ありがとうございました。
 そうしたら、私のほうから2人の先生に聞きしたいのですが、今日、松尾先生、安宅先生、そして、川口先生、高澤先生のお話を伺って、技術革新の延長線上として、こういった生成AIというようなものを考えていったときに、明らかに仕事、あるいはタスクによってその影響というのは違うのではないか。タスクを削減するようなところもあれば、逆にタスクを増やすものもあるのではないか。そうなってきますと、どうもその変化といったものにどう追いついていけるかというようなことが、非常に重要だろうと思ったのです。
 川口先生のロボットの話、1980年代から日本がある意味では先行して行ってきた。それに対する抵抗といいますか、反対が少なかった理由というのが、ある意味で変化があっても雇用は保障されているということで、必ずしも新技術の導入に反対しない、あるいはそれを促進するというようなことがあったのではないかと言われているかと思うのです。
 今の議論としてジョブ型雇用を進めるべきではないかと、ジョブをどのように定義するのかによって大分違ってくるかと思いますが、狭い意味でジョブを定義していくと、そういった移動の壁が非常に厚くなってしまう、移動を難しくしてしまうというようなことがあるのではないかと思うのですが、雇用の面においてどのようにお考えでしょうか。
 まず、川口先生からお願いします。
○川口委員 どうもありがとうございます。
 ジョブ型雇用が入って、特定のジョブがなくなったら仕事がなくなるというのは、80年代のヨーロッパとかアメリカの状況と極めて似ているとは思うのです。今、大規模なかつての製造業といわれた富士通とか日立とかでも、ジョブ型の雇用が導入されてきていると思うのですけれども、彼らが結局処遇保障をどこまでやるつもりなのかということによっても話が変わってくるのかなと思いまして、ジョブ型であったとしても、ジョブを転換しながらほかのところで仕事をやってもらうというようなことは、今までと結局変わらないということなのかもしれないですけれども、そういう形の雇用慣行を続けるのか、それともう一旦解雇して、労働市場に出てもらって、その後でほかの仕事に移ってもらうのかという2つのタイプがあり得ると思うのです。
 仮に後者だとすると、相当摩擦が大きくて、実際にアメリカの労働市場というのは、そんなにうまく機能していないのだと思うのです。国際化によって中国から輸入が増えたことによって中西部の雇用が悪くなって、それがずっと続いているというようなこともあり、ロボットの例もそうです。ですので、1回労働市場に出てもらって、また、ほかの会社で働いてもらうというタイプの労働市場が望ましいのか、それとも、今までジョブ型という形でジョブを規定した形で雇用関係をつくるのだけれども、雇用保障は続けるという形で雇用慣行を形成していくのか、どちらが望ましいのかというところについては、より慎重に考えていく必要があるかなと思います。
 長々と話して申し訳ないのですけれども、最近、向山さんと田中さん、あともう一人のマクロ経済学者がアメリカとドイツのショックに対しての反応の仕方の違いの論文というのを書いていて、RIETIからディスカッションペーパーが出ているのです。ドイツでは仕事が変わるのですけれども、会社はあまり変わらないという形になっていて、アメリカでは職が変わるときに会社も変わるような形になっていて、こういった研究というのを例えば社会保険のデータを使って、労働者が移動した先がトラックできるようなデータを使ってやっていく。そうすると、アメリカで起こっていることと日本で起こっていること、あるいはドイツで起こっていることは違うということが分かってくると思うので、日本に対して望ましい労働政策というのはどういうものかということについて、像が見えてくるのかなと思います。どうもありがとうございました。
○樋口座長 ありがとうございました。
 高澤さん、いかがですか。
○高澤委員 ありがとうございます。
 ジョブ型雇用と言われたときに、川口先生がおっしゃったとおり、ジョブ型をどう定義するのかは難しい問題だなと思いながら伺っていたのです。
 例えば生成AIの導入といった場合に、恐らく産業ごとによって導入の仕方はいろいろ変わってくると思っております。金融だったり、製造業だったり、それぞれ全然違うインパクトが出てくると思いますので、そうした場合、例えばですけれども、産業ごと、もしくは企業ごとのような形で、具体的にどういうところで生成AIが活用できて、効率化できるのだろうかみたいなことを、例えばプロジェクトチームのようなものを立ち上げて、例えば弊社の中でも実際に法務部門がそういうプロジェクトチームを立ち上げているという例があるのですけれども、それぞれみんなジョブレスポンシビリティーを持っているのですが、それを保ちつつ、生成AIを導入することによって、さらに自分の生産性を上げる、そして、会社全体の業績向上につなげる、そういうような考え方で、生成AIを産業ごと、ジョブごとに導入していくような取り組みを進めていく。
 松尾先生もおっしゃっていましたが、技術の進歩自体が非常に早くて、弊社の人間自身も半年前にはこんなことになると、あまり想像していなかったような部分がありますので、実際に導入をどんどん進めていって、その中でどうやって効率的に使えるのか、仕事が奪われるというのではなくて、今の自分の仕事をどのように向上させていけるのだろうかという観点から、どんどん使っていくことが重要なのかなと思いました。
○樋口座長 ありがとうございました。
 安宅先生、残っていただいたのでしょうか。お願いします。
○安宅委員 必ずしも全てキャッチできていないのですけれども、先ほどAIで今起こっていることと、過去はどうなのだという話が少しあったと思うのです。ディープラーニングが登場したぐらいまでで起こっていることと今起きていることは、僕はかなり異質だという認識です。7~8年前にDiamondハーバードビジネスレビューがAIを特集したときに整理させていただいた情報の識別、予測、実行系の自動化はこれまでも激しく起きてきました。
 このようなこれまでの話と、知的生産現場でいきなりコンピューターが半ば「思考」し、人がコンピューターと話ができるというのは全然違う話であるという認識です。実際に私が委員長をやっているデータサイエンス協会のスキル定義委員会で現在整理しているところですが、統計数理だとか古典的機械学習、ディープラーニングが出てきたぐらいまでは、いわゆる従来型のデータサイエンティストのスキルだったのですけれども、画像や音楽を生成する拡散モデルやLLMなどの生成系AIを使い倒すというのは、かなり異質なAIを使い倒す系のスキルが必要になってきているという見解です。これはいわゆる従来型のデータサイエンティストスキルとは異なる部分が多いのです。だけれども、既存のスキルが要らなくなっているわけではなく、布団2枚みたいな構造に今なりつつあります。プロの現場でもちょっとした混乱がありつつ、別スキルが要るということで、結構な変容が求められています。
 この話を考えると、多くの雇用現場でも同様な影響を受けるのではないかと思います。それはプロの現場だけだろうと言われたら、そうかもしれないですけれども、これまでのAI×データ対応力とは少々異質だと思うのです。何か個別のものの自動化のレベルの話を超えてしまっている。我々の知的生産そのもの、あるいは普通の情報処理そのものの結構ディープなところを機械がアシストできるようになってきているので、これは本当にどのように変容しているか正直分からないですし、1年前に不可能だと思われることがどんどん可能になっており、つい半年前の言語処理学会でも今までの言語処理はオワコンになったという結論になったと聞いていますし、結構すごい瞬間を見ているかもしれないと思います。
 一旦以上です。
○樋口座長 ありがとうございます。
 技術変化というのは、我々は今まで連続的な変化で求められる能力とか、そういったものも連続的に蓄積されていってというような感じだったと思うのですが、安宅先生の今の御指摘というのは、非連続的に最近はなっているのではないかと、生成AIのときにはという御指摘でしょうか。
○安宅委員 はい。生成AI、特にLLMです。LLMの登場によって、今まで自動化不可能だと思われていたことがかなり可能になったということと、思考のバディとして機械が使えるようなったというのは根本的に異質だと思います。これはこれまでのAIによる自動化とは異質な何かであって、壁打ちの相手でもありますし、思考整理の相手でもありますし、今、多分ここで流れているZOOMの文字起こしをして要約しろといったら、実際には一瞬でできてしまうのです。私の会議とかそれを普通にやらせていますし、全然違う何かが起きているとは思います。通常の連続性の範囲を超えているという認識です。
○樋口座長 ありがとうございました。
 川口さん、今の御意見に何かございますか。
○川口委員 技術的なことを前提にしたときに、労働に対してのインパクトとしてどのように考えたらいいのかというのを考える必要があるなと思いました。ちゃんとした答えになっていないのですけれども、確かに今まで人々が経験を通じて学んできたスキルみたいなものが置き換わるのがオートメーションだとすると、今の安宅先生の御指摘というのは、もう少し新しいことを考え出すというか、本当に思考の本質的なところに、自動化するというのとは違う、今まで人間がやったことを置き換えることは違うタイプの形で起こっているという話だと思うので、経済モデルの中で考える考え方が根本的に変わっていく可能性があるのだなと思いました。勉強なりました。ありがとうございます。
○樋口座長 ありがとうございました。
 鶴さん、いらっしゃいますか。先ほどの御質問だったのですが、今の御議論を聞いていかがでしょうか。
○鶴委員 私は、もちろんChatGPT、先ほどLLMの話もありましたけれども、非常に人間にかなり近づいているなというところが、かつてAIの恐怖に対する話が再来してきているような感じがするのです。
 これは人間に例えると、どんなやつかというと、すごく知ったかぶりの小賢しいやつ、自分は世界中の知識を知っているということで、物すごく小賢しいのだけれども、議論していくと、お前は本当に世の中の道理というか、そういうのを分かっているのということになると、そこを突いていくとめちゃめちゃ怪しい。思わぬところでこけたりとか、そういうやつはよくいますよね。皆さんの部下にもいるかもしれません。
 そういう人たちをどう指導するかというと、知識だけではないと、物事の道理とか、枠組みとか、そういうものがちゃんと分かっていないと、幾ら知識ばかりあって小賢しくやったってしようがないということを言うわけです。あと、無知の知とか、まさに大海の前の砂浜で遊んでいる子供みたいな存在だという、そこが人間の僕は一番本質だと思います。そういうのは今のChatGPTとか、そういうものには一切ない。非常に知ったかぶり、小賢しい、でも、知ったかぶりでも小賢しいやつでも使えるのです。そこをどううまく使うのかというのが我々の役目ということだと思うのです。私はそのように考えています。
○樋口座長 今の御意見について、皆さんいかがでしょうか。
○安宅委員 AIはキカイですので人格もないですし、人格があるかのように見えたとしたら単純に学習したデータに人格的な反応したものを抽出しただけです。当たり前ですが意思も何もなく、埋め込むことは不可能ではないですけれども、埋め込むことの価値がほとんどないというか、自己意思で勝手に何かやり出されると迷惑なので、こういうときにこのようにやるということに対する自動化がただ行われているだけであります。単なる非常に賢い思考するタイプの道具だと思います。
 そこを使い倒そうとすると、まさに鶴先生がおっしゃるとおり、非常に変な言い方ですけれども、アホですから、非常に深くそれについて思考している必要があり、それが私の先ほど申し上げた聞く力のところに落ち込むのではないかと思っています。
 僕は2013年にデジタル人材が足りないという問題意識で何人かの仲間とともにデータサイエンティスト協会を立ち上げた人間の一人ですけれども、その立場から見ても、今のところ、あくまで道具です。しばらくずっと道具だと思います。なので、使えたほうがいいに決まっているという類いだと思います。
 人不足は急激に深刻化しますし、今も深刻化していますし、ほとんど人手でしかできないことがあまりにも多くて、我々は水道管の整備すらちゃんとできないわけですから、林もちゃんとメンテできず、いろいろめちゃくちゃなりつつあるわけで、これらをどこまでロボティクス&AIでサポートできるかが今真剣に問われているときに、それを徹底的にやり倒すのが、もともと自動化王国日本としての生きる道だと思いますし、いいものができれば世界中に輸出できて万々歳、本当はそういう流れかなと個人的には思うところです。
○樋口座長 ありがとうございました。
 いかにうまく正しく使っていくことができるか、その制度、雇用政策を考えろというのが、我々に今度課された宿題かもしれません。
 玄田さん、何かございますか。
○玄田委員 特にございません。大変勉強になりました。ありがとうございます。
○樋口座長 荒木先生、どうですか。
○荒木委員 ありがとうございます。大変勉強になりました。
 AIにしても技術革新にしても変化のスピードが非常に早過ぎて、どうなるか分からないけれども、人間は対応しなくてはいけないということですので、私は法律が専門なのですが、ハードローみたいなガチガチなものに対応しようとしてもうまくいかない。そうすると、ソフトロー的なもので、さらにソフトローといっても現場、なるべく中央集権的なところではなくて、現場において迅速に対応することが求められるというのが、今日のお話から示唆されたと思います。
 ソフトローですので、法律が要求していることではないことに対して現場で対応することになりますが、これを使用者の一存でということではうまくいきませんから、現場レベルで労使が交渉しつつどう対応するかが重要だと思います。ロボティクスのときにうまくいったのは、労使が協力して配置転換について話し合い、どうリスキリングをやろうかという計画を立てた上でやったということがあります。AIのときも省力化された労働力をどうするかというのは、やはり労使で話し合う必要がある。
 このときに、今後考えなくてはいけない2つ問題があると思っています。ある部署がもう要らなくなったといって全員配置転換をする。これも労使交渉が必要なのですけれども、その場合には、同時に新しい仕事の技術を覚えろというのは、これまでは会社が決めてきた、労使で話し合って会社が決めてきたのですけれども、そんな仕事を自分はしたくないという個人の選好が非常に多様化した中で、これにどう対応するか。
 ですから、集団的なアダプテーションと個人の選好とのすり合わせ、この2つの問題を今後考えていかないと、こういう新技術への対応というのはうまくいかないと思います。そこで現場レベルのそういった集団レベルの交渉と個人の選択の尊重、これをどう受け止めていくかというのは、雇用政策としては新しい課題かなと思って聞いていたところです。
 以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
 JILの調査でAIの導入に対して組合がどういう関わりを持ってきたかというようなことをつい最近やりました。その中で、AIとかというのは経営の問題であるということから、組合にいろいろ相談して、経営側がその導入であるとか、変更であるとかをやっているかというと、ほとんど日本ではやっていないという、逆に海外のほうは割とやっているというようなところが出てきておりまして、そこのところが果たしてそれで今後もいいのかどうかというようなところも御議論になるかと思います。
 佐藤先生、いかがでしょうか。
○佐藤委員 生成AIについて、僕は鶴さんと同じような考え方で、安宅先生が言われたどう使いこなすかというのがすごく大事かなと、ただ、そのときに、松尾先生が言われたように、どういう人材をこれから育てるか、松尾先生の説明に僕も同感なのですけれども、先が読めないことを前提に学ぶ、かつ何を学ぶか分からないですよね。
 大事なのは学び続ける人材育成が必要だと、今、リスキリングと言っているのは、何か学ぶことがあるということを言っているのだけれども、何を学ぶか、社員一人一人が、自分が関心あること、興味のあること、そういうことをやる人材をどう育てるかだと思うのだけれども、どうもそれと今言っていることがつながるのかどうか、その辺を皆さんと一緒に考えていければいいかなと思いました。どうもありがとうございました。
○樋口座長 ありがとうございました。
 堀さん、どうでしょう。
○堀委員 どうもありがとうございます。本日の先生方のお話、大変勉強になりました。
 なかなか難しい議論で、連続的に考えていかなくてはいけない部分と、それから、本当に大きなギャップを超えて考えなくてはいけない部分と、労働政策を2段構えで考えていくしかないのかなと思い、この研究会でも難しい課題をいただいたなと思っております。
○樋口座長 それでは、最後に黒田さん、いかがですか。
○黒田委員 早稲田大学の黒田です。本日はありがとうございました。私も大変勉強になりました。
 川口先生が最後におっしゃっていた日米の違いで結果が違ってくるという箇所ですが、この研究会で考えていかなければいけない重要な視点と感じました。これまで30年ぐらい日本が停滞している中、負のショックが起こるたびに、多くの論者が主張してきたこととして、アメリカのように労働移動を円滑にし、斜陽産業から成長産業へと労働移動を個人ベースで促進してくべきといった意見や、そうしなければ構造転換は難しいというような主張がなされてきました。
 しかし、今回のご報告は、できる限り雇用を守るといった、いわゆる従来の日本的雇用慣行を大切にしていくことも重要という見方もあるのか、とお聞きしていて非常に勉強になったところです。とはいえ、荒木先生がおっしゃっていたように、多様性が重要な時代になってきて、一つの会社にこだわらず、個人が自由に好きな仕事や会社に移っていけるよう労働移動を円滑にしていくべきという考えもあると思います。一方で、労働移動がスムーズにできる人ばかりではないので、企業が新しい雇用を創出し、企業内で雇用を移動させていくといった従来の労働市場のスタイルを維持しながら、現代社会に合うかたちに修正していくというような方向に進むべきなのか、考えていた次第です。
 川口先生、もし追加で御意見があれば、お伺いできればと思うのですが、いかがでしょうか。
○樋口座長 川口先生、いかがでしょうか。
○川口委員 本当にありがとうございます。
 アメリカの労働市場の調整があまりうまくいかない一方で、ドイツが結構フレキシブルという話が出てきていると思うのです。出てきている理由が、社会保険のデータを使って労働者がある会社を辞めたときに、次にどこに行っているか分かるデータが整備されて、そういうデータがあると、実際に労働者の移動というのを見てみると、ドイツはいろいろな意味でリジットだって言われていたのだけれども、意外とフレキシブルに対応しているのが分かってきて、それを見て、ドイツの研究者がドイツのよいところを見るようになった側面があると思うのです。
 ですので、日本でもデータがない中で、日本型の雇用慣行がいいのだと考えてしまうと、すごく保守的になって、本当はそうではない可能性もあると思うのです。変えていかなければいけないところが変わらないということが起こってしまうと思って、データをしっかりと整備して、研究者や行政官の方が使えるような環境を整備していただいて、事実に基づいて議論していくことが必要なのかなと思います。
○黒田委員 ありがとうございます。
○樋口座長 ありがとうございました。
 データのお話で、外部労働市場といいますか、企業を移った場合の移動先であるとか、職種であるとかというのは、割とデータとして雇用保険のデータもありますし、いろいろなデータがあると思うのですが。企業の中における異動のデータ、配置転換の問題というのが、なかなかそれを押さえているデータというのが逆になくて、今、まさにそこを何とかしようと、JILがやろうとしているところでもあるのです。
 そういうデータがあると、本当に効率性であるとか、あるいは摩擦の問題であるとかというようなことも議論できるのかと思いますが、今後といっても、いつまでもというわけにもいかないから、議論していこうと思います。
 そろそろ時間も来ているのですが、先生方から何かございますでしょうか。よろしいですか。
 よろしければ、次回以降の研究会の開催スケジュールについて、事務局から説明をお願いいたします。
○雇用政策課長補佐 事務局でございます。
 第4回以降の開催日時につきましては現在調整中でございますので、確定次第、改めて御連絡をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
○樋口座長 安宅先生、どうぞ。
○安宅委員 最後に一つだけいいですか。貴重な機会にお声掛けいただきありがとうございます。
 雇用政策というお話なので、産業のタイプの視点が重要だと思うのです。この類いの議論は、経産省のいろいろなところで議論しますけれども、いわゆるハード系のオールドエコノミーと、私がいるみたいなニューエコノミーと、ウーバーやテスラみたいなリアルをサイバーでよくする系の第三勢力は大分異質な立ち位置にあります。Old economyが第三勢力側に来ることがいわゆるDXですけれども、日本の産業のほとんどがold-sideだから、多くの場合、old-sideの議論をしているのですけれども、new-economyと第三勢力をつくれるような人が本当は必要です。Old側の人をサイバー側にするというのと、第三勢力をどうつくるかというのは全然違う話で、この議論で右側の話が基本的にはすごく抜け落ちやすいのです。ここの視点がないと、結局雇用を支える産業が生み出せないみたいな話なって、ここをぜひ先生方の頭の中に置いていただけるとうれしいですというのが私の最後の話です。
○樋口座長 どうもありがとうございました。
 可能であれば、今御提示いただいたパワーポイントを事務局のほうで少し共有させていただければ。
○安宅委員 全部送ります。
○樋口座長 では、よろしくお願いいたします。
 それでは、以上で本日の研究会を終了したいと思います。どうもありがとうございました。