令和4年度 職場における化学物質規制の理解促進のための意見交換会(東京開催)  議事録

労働基準局 安全衛生部 化学物質対策課

日時

令和5年2月16日(木) 14:00~17:00

場所

TKPガーデンシティPREMIUM神保町 プレミアムガーデン
(東京都千代⽥区神⽥錦町3-22 テラススクエア3階)

出席者(事務局を除き、発言順)

基調講演
 ・厚生労働省化学物質評価室長補佐  吉見 友弘
 ・帝京大学医療技術学部教授  宮川 宗之

パネルディスカッション
 ・東京理科大学薬学部教授  堀口 逸子
 ・三菱ケミカル株式会社
   プロダクトスチュワードシップ・品質保証本部 化学品管理部 マネージャー  高崎 直子
 ・日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社
   オペレーショナルエクセレンス部 マネージャー  林 泰弘
 ・西松建設株式会社 安全環境本部 安全部長  最川 隆由
  (基調講演者2名)

事務局みずほリサーチ&テクノロジーズ(MHRT)

議題

(1)基調講演
「労働安全衛生法の新たな化学物質規制について」
  厚生労働省 労働基準局 安全衛生部 化学物質対策課 化学物質評価室長補佐  吉見 友弘
「化学物質の危険性・有害性の報情伝達とリスクアセスメントの重要性について」
  帝京大学 医療技術学部 スポーツ医療学科 教授  宮川 宗之

(2)意見交換会
【コーディネーター】
  東京理科大学 薬学部 医療薬学教育研究支援センター 社会連携支援部門 教授  堀口 逸子
【パネリスト】
  三菱ケミカル株式会社
   プロダクトスチュワードシップ・品質保証本部 化学品管理部 マネージャー 高崎 直子
  日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社
   オペレーショナルエクセレンス部 セーフティ&サステナビリティ室製品安全グループ
   マネージャー  林 泰弘
  西松建設株式会社 安全環境本部 安全部長  最川 隆由
  帝京大学 医療技術学部 スポーツ医療学科 教授  宮川 宗之
  厚生労働省 労働基準局 安全衛生部 化学物質対策課 化学物質評価室長補佐  吉見 友弘

議事

○事務局  定刻になりましたので、職場における化学物質規制の理解促進のための意見交換会を開会いたします。
 本日はお忙しい中、本意見交換会に御参加いただきまして、ありがとうございます。本意見交換会は、前半に2つの基調講演、後半にパネルディスカッションを行います。基調講演とパネルディスカッションの間には、15分間の休憩を予定しております。
 本意見交換会では、パネルディスカッションに先立ちまして、参加者の皆様からの質問を受け付けております。会場から御参加の皆様は、お手元の質問用紙に御記載ください。2つの基調講演が終了後、回収いたします。ウェブからの参加者の皆様は、Zoom機能におけるQ&Aにて2つの基調講演が終了するまでに送信してくださいますようお願いいたします。
 なお、時間の都合上、全ての御質問に回答できない可能性がありますことを御理解いただけますようにお願いいたします。
 また、本意見交換会終了後、アンケートに御協力いただけますと幸いです。会場からの参加者の皆様は、お手元のアンケート用紙に御記載ください。ウェブからの参加者の皆様は退出後、自動で画面が遷移いたしますので、入力くださいますようにお願いいたします。
 それでは、1つ目の基調講演に移ります。1つ目は、厚生労働省・吉見様より、「労働安全衛生法の新たな化学物質規制について~ラベル・SDS・リスクアセスメントを中心に~」につきまして御講演いただきます。
 それでは、吉見様、どうぞよろしくお願いいたします。
○吉見室長補佐  ただいま御紹介いただきました厚生労働省の吉見と申します。
(スライド1)
 私から、昨年改正されました労働安全衛生法の新たな化学物質規制について、ラベル・SDS・リスクアセスメントを中心に御説明させていただきます。
 事前質問をたくさんいただいておりまして、そのうち一部はこの説明の中で回答させていただきますけれども、時間の関係で全てにはお答えできませんことを御了承ください。
(スライド2)
 初めに、今回の改正の経緯と改正の全体像についてです。
(スライド3)
 この規制見直しの経緯としましては、2019年、令和元年に厚生労働省が設置した検討会で検討を開始したことに始まります。検討開始時点の課題としまして、ここに5つ、○で掲げたような内容がございました。
 こういった状況にありまして、労働災害防止のために化学物質の危険有害性の情報伝達と、リスクアセスメントを定着させていくということが大きな課題となっておりました。
(スライド4)
 そこで、2019年9月から職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会ということで、学識経験者、労使関係者にお集まりいただいて、約2年間検討を重ねてまいりました。その報告書を基に審議会等を経て改正されたというのが今回の改正です。改正の政令、省令は昨年2月、5月に公布されていますけれども、その後も順次関連する告示等を制定しているところです。
(スライド5)
 改正の全体像としましては、これまでは限られた数の特定の化学物質、特化則ですとか有機則といった特別規則で規制された特定の化学物質に対して個別具体的な規制を行う方式としておりましたけれども、今回は特別規則で未規制の物質を主眼としまして、危険性・有害性が確認された全ての物質を対象に、ばく露を最小限とすること、国が濃度基準を定める物質については、ばく露が濃度基準を下回ること、その手段については、リスクアセスメントの結果に基づき事業者が適切に選択することを柱とした改正です。
 なお、今回の改正については、ここで申し上げたとおり特化則等で規制されていなかった物質を主眼としておりますので、特化則、有機則等の対象物質につきましては、今回、一部を除いて変更はありませんので、引き続きそれぞれの規則に基づく適切な管理が必要になります。
(スライド6)
 続いて、こちらは改正の全体像を図で示したものになります。上段が現在の規制の体系になりまして、上に行くほど規制が厳しい物質になっているのですが、8物質が製造禁止、その下の123物質が特化則とか有機則などで個別具体的に規制されているものです。
 そして、2段目と3段目にまたがる674物質が安衛法でラベル表示、SDS交付、リスクアセスメントの実施が義務づけられている物質になります。
 今回は、主にオレンジ色の台形で示した部分の対象物質について下のような体系に見直していくということで、国がGHS分類という、化学物質の危険有害性の国際的な分類方法に従った分類を行って、その結果、危険性・有害性が確認された物質についてラベル表示、SDS交付、リスクアセスメント実施を義務づけるとともに、その結果に基づく、ばく露低減措置を義務づけるというものです。
(スライド7)
 ここで改正の内容の説明の前に、今日のメインテーマとなるラベル・SDSについて少し御説明します。
 ラベル・SDSの制度自体は、今触れたとおり、既に安衛法で規定されておりまして、現在674物質が対象となっておりますけれども、この対象物質を今回順次拡大していくということにしております。そのラベル・SDSの記載内容は法令で規定されておりますけれども、国内ではJIS規格があり、国連のGHSに基づいたJIS規格の中で、こういった16項目のSDSを作っていただくということになっております。
 SDSには、こういった有害性・危険性の情報が記載されておりますので、取り扱う方は、このSDSを見てリスクアセスメントをして取り扱っていただくということです。
(スライド8)
 今申し上げたラベルには、こういった9種類の絵表示、ピクトグラムが載っています。これは国連GHSで決まっております絵表示ですけれども、こういったラベルの絵表示を見て、危険有害性に気づいていただいて、SDSを確認して、リスクアセスメントをした上で取り扱っていただくということが重要になります。
(スライド9)
 ここから今回の規制の見直しの内容を御説明いたします。
(スライド10)
 まず初めに、今回、規制の見直しの内容が多岐にわたっておりますので、こちらが項目と項目ごとの施行日をまとめた表です。基本的には令和5年、今年の4月と来年4月施行に分かれておりまして、特にSDSの記載事項の追加ですとか、化学物質管理者の選任など、準備に時間がかかるような項目については、来年4月ということになっております。
 事前の御質問の中でも、今回改正内容が多くて何がいつ施行されるのか、何をいつまでに準備したらいいのかというような御質問がありましたけれども、こちらの表を目安にしていただいて、細かな内容は、この後の資料を御覧いただければと思います。
(スライド11)
 まず1つ目の改正内容として、ラベル表示、SDS交付の対象物質の追加です。こちらは先ほど申し上げたようにGHS分類で危険有害性が確認された物質を順次ラベル表示、SDSの対象物質に追加し、これらの物質についてはリスクアセスメントも併せて義務づけられるということになっております。
 まず1回目の改正として、令和3年度と書いてありますけれども、昨年、令和4年2月に政令を改正しておりまして、234物質を対象に追加しています。この234物質については令和6年、来年4月からラベル表示、SDS交付、リスクアセスメントが義務づけられるということになっております。
(スライド12)
 今後もGHS分類で危険有害性が確認された物質について順次追加していく予定としていまして、今後、追加の候補となっております物質については、こちらの労働安全衛生総合研究所のホームページにリストを公開しておりますので、参考にしていただければと思います。
 令和4年度以降の分については、まだ実際、改正はされておりませんので、確定ではないのですけれども、候補物質として確認いただいて、準備を始めていただければと思います。
(スライド13)
 続いて、リスクアセスメント対象物に係る事業者の義務ということで、ここが今回の改正で非常に重要なポイントになるところです。リスクアセスメント対象物、ラベル表示、SDS交付が義務づけられていて、リスクアセスメントの実施も義務づけられている物質にばく露される濃度の低減措置を今回義務づけたということですけれども、具体的な方法としては、ここに書いたⅰからⅳのような方法、これは平成27年に出しました化学物質のリスクアセスメント指針がありまして、そこに載っている方法ですが、こういった方法を検討していただいた上で、もちろんこの4つに限るものではなくて、ほかに有効な方法があればそれでもいいのですが、リスクアセスメントを実施して、各事業者でその中からばく露低減に有効な方法を選んで実施していただくということになります。
 マル2は、そのうち厚生労働大臣が濃度基準値を定めた物質については、屋内作業場でのばく露濃度を基準値以下としなければならないということにしております。
 (2)のところは、ばく露の状況については、労働者からの意見聴取の機会を設けるとともに、記録を作成して保存していただく。その保存は基本的に3年間ですけれども、がん原性のある物質として定めたものについては、30年間保存していただくということにしております。
 ここで、リスクアセスメント結果に基づくばく露低減措置について、リスクアセスメント自体は平成28年6月に法で義務づけたのですけれども、それ以降、取扱作業は全く変わっていなくて、リスクアセスメントの実施の機会がなかったといいますか、法に基づく実施義務、実施時期に該当しなかった作業についてはどういう扱いになるのかという御質問も事前にいただいております。
 リスクアセスメントの実施の時期というのは、安衛則で決まっておりまして、具体的には、対象の物質を新たに採用したり変更したりするとき、作業方法や作業手順を新たに採用したり変更するとき、対象物の危険有害性に変化が生じた、あるいは変化が生じるおそれがあるときとなっています。
 平成28年6月以降、これらが全く変わっていない物質というのは、リスクアセスメントの実施そのものは義務ではなくて、指針に基づく努力義務になっているのですけれども、そういった努力義務のものであっても、このばく露低減措置は今回義務づけられることになりますので、努力義務としてリスクアセスメントを実施していればその結果に基づき、リスクアセスメントを実施していなくても持っている有害性情報などに基づいて、このばく露低減措置を取っていただく義務が生じるということになります。
 実際は、リスクアセスメントの義務化から7年近くたっておりますので、努力義務とはいいましても、リスクアセスメントを実施していただくのが一番望ましいかと思います。
 (1)のマル2のところで厚生労働大臣が定める物質については、濃度基準値以下としなければならないと申し上げました。この濃度基準値の設定の状況について御説明します。
(スライド14)
 事前の質問で濃度基準値がいつごろ設定されるのかという情報が欲しいという御質問をいただいておりますけれども、こちらは流れなのですが、厚生労働省に設置した専門家検討会で昨年以降数回にわたって検討しております。
 この検討会でリスクアセスメント対象物の中から濃度基準値の設定対象物質を選びまして、その物質について労働安全衛生総合研究所の専門家会議で文献調査等を行いまして、文献レビューを行って、その結果を報告いただいております。その内容に基づいて厚生労働省の検討会で濃度基準値を検討し、決定をしていくという大きな流れになっております。
 今年度は、1月30日に直近で行っていますけれども、これに基づいて2月10日に報告書を公表しておりまして、現在、その報告書に基づいて濃度基準値の告示案を厚生労働省で作っているところです。
 告示案ができましたら、近々パブリックコメントを実施して、その後、濃度基準値を告示として公布するという予定になっております。具体的には、今月中にはパブリックコメントを始めまして、パブリックコメントが1か月間ございます。その後、告示の公布の手続を経て公布になりますので、4月の前半辺りになるかと思います。パブリックコメントは近々公表いたしますので、そちらを御覧になっていただくと対象物質や濃度の案が分かる形になっております。
 今回、告示で定めた物質については来年4月の施行を予定しておりますが、文献調査は順次やっておりまして、来年度検討して濃度基準値を定めた物質はさらに1年先、令和7年4月施行といったスケジュールで予定しております。
 あとは濃度基準値を定めると同時に、濃度基準値以下であることの確認方法についても技術上の指針を示す予定です。推奨する測定方法などを示す予定です。そういったものに基づいて濃度基準値以下であることの確認をしていただきますけれども、全ての場所を測定していただくということではなくて、クリエイト・シンプルなど、リスクアセスメントのツールの中で数理モデル、濃度が推定できるモデルがありますが、そういった方法でリスクアセスメントを実施して、ばく露濃度が濃度基準値の2分の1以下であるような場合には測定は必要ないというような方向で考えております。
(スライド15)
 続いて、がん原性のある物質として記録を30年間保存いただく物質の範囲ですけれども、こちらは去年12月に告示を出しております。保存義務が今年4月からかかる部分がありますが、リスクアセスメント対象物、現在義務づけられている674物質のうち、約120物質が国のGHS分類で発がん性区分1に該当するものに当たりまして、これらについて今年4月から適用になります。
 そして、先ほど御説明したとおり、リスクアセスメント対象物自体、順次追加している最中ですので、来年4月にはリスクアセスメント対象物に追加される234物質のうちの約80物質ががん原性物質に該当するということで、こちらは来年4月から対象になるということです。
(スライド16)
 続いて、皮膚、眼などへの接触で健康障害を起こすような物質については、健康障害を起こすおそれの程度に応じて保護具の着用を義務づけ、あるいは努力義務ということで今回新たに規定しております。
 このおそれが「あることが明らか」「ないことが明らかでない」などは、具体的にはSDSの有害性の情報により判断いただきますけれども、今日は詳しくは説明を省略いたしますが、昨年5月に省令を改正したときに同時に出した通達に記載しておりますので、また御確認いただければと思います。
(スライド17)
 続いて、衛生委員会の付議事項ですが、リスクアセスメントの結果を踏まえて実施するばく露防止措置などについて、これを衛生委員会の調査審議事項に今回追加いたしまして、調査審議いただき、その内容を労使で共有いただくことにしております。
 衛生委員会自体は毎月開催ということになっておりますけれども、この内容を毎月やってくださいということではなくて、この議題をどういう頻度で取り上げるかは、各事業場の取扱状況等に応じて決めていただければ結構です。
 がん等の遅発性疾病の把握の強化もありますけれども、こちらは今日は説明は省略させていただきます。
(スライド18)
 続いて、リスクアセスメント結果の記録の作成と保存ですけれども、今回の改正でリスクアセスメント結果の記録を作成して保存していただくということを義務づけております。従来はリスクアセスメント結果の労働者への周知だけ義務づけられておりましたけれども、今回の改正で記録を作成して保存していただくというところを新たに義務づけております。
 続いて、労働災害発生事業場への監督署長による指示ですけれども、今日は説明は省略させていただきます。
(スライド19)
 次のスライドがリスクアセスメント対象物に係る健康診断です。こちらはリスクアセスメントの結果、健康影響の確認のために必要があるときには健診を実施してばく露低減のために必要な措置を取っていただくということで、健診の内容については、医師、または歯科医師の判断により、必要な項目の健診を実施していただくということになります。この健診結果は5年間保存ですけれども、先ほど申し上げたがん原性物質については30年間保存です。
 それから、がん原性物質については、作業記録についても30年間保存ということになっております。がん原性物質として指定されたものは、作業記録と健診を実施した場合は健診の結果と、もう一つは、先ほど御説明したばく露の状況の記録を30年間保存いただくということになりまして、がん原性物質の対象物質については厚生労働省のホームページでリストを公表しておりますので、御覧いただければと思います。
(スライド20)
 続いて、ここから内容が変わりまして、事業場の管理体制の内容になります。
 まず初めに、今回、管理体制の中で化学物質管理者と保護具着用管理責任者という2つの管理者の選任を義務化しております。
 まず1つ目の化学物質管理者ですけれども、リスクアセスメント対象物を製造、取扱い、または譲渡提供する事業場に選任を義務づけまして、(3)に書いた職務を実施していただくことになっております。
 このうち、リスクアセスメント対象物の製造事業場については、こちらに書いた12時間の講習を修了した方から選任をしていただく。それ以外の事業場、取扱い、または譲渡提供のみを行う事業場は資格要件はありませんが、通達で6時間の講習の受講を推奨しております。
 この化学物質管理者、一部の講習機関等で既に講習が始まっておりますけれども、来年4月の施行に向けて厚生労働省でもテキストの作成を今やっておりまして、今年度中に講義のテキストを厚労省のホームページに公開する予定で準備しております。現在は一部の項目を除いた暫定版のテキストを公開しているのですが、今年度いっぱいかけまして、テキストを作って公開する予定をしております。
 それから来年度に入りましたら動画の作成等も予定しており、できましたら公開いたしますので、そういった情報も活用して講習を受けていただければと思います。
 この選任についても、事前の質問をいただいておりまして、例えば顧客への販売のみを行う営業所とか店舗などについて選任が必要なのかどうかという御質問をいただいておりますけれども、これは各事業場の実態にもよるので、一概には営業所だから要らないという言い方はできないのですが、いわゆる営業窓口で実態として化学物質管理を全く行っていないような事業場については選任義務はありません。ただ、営業所であっても、そこで例えば営業の過程でそのものを取り扱う場合、例えばサンプルであっても実際そのものを取り扱って営業活動を行う場合なども含むのですが、そういった場合は取扱いに当たりますので、選任をいただくことになります。
 あとは、元請、下請とか発注者と業務委託先、そういった関係でどっちが選任する必要があるかという質問もいただいておりますけれども、これは実際、そのものを取り扱う事業場で選任いただく必要があります。例えば元請は取り扱わずに実際取り扱うのは下請の事業場であれば下請で選任いただく必要があるということになります。そのときに当然、元請ですとか発注者は下請、実際取り扱う事業場に必要な情報の提供をお願いしたいと思います。
(スライド21)
 続いて、保護具着用管理責任者ですが、こちらはリスクアセスメントに基づく措置として保護具を使用させる場合は、保護具着用管理責任者を選任していただくことになります。
 選任要件ですが、保護具について一定の経験及び知識を有する者とありますけれども、具体的には通達で示しておりまして、第一種衛生管理者ですとか、労働衛生コンサルタント、衛生工学衛生管理者、化学物質関係の作業主任者、特化や有機の作業主任者などが含まれます。
 職務としては、有効な保護具の選択、使用状況の管理等をしていただくことになります。
 先ほどの化学物質管理者と保護具着用管理責任者の選任についても幾つか御質問をいただいておりまして、事業場において、どういった立場の方を選任したらよいかという質問もありました。法令では、課長クラスとか部長クラスとか、そのような規定はないのですけれども、当然それぞれの職務を遂行し得る権限を有する方を選任していただく必要があります。ですので、一般的には化学物質管理者であれば、職務内容からいって、管理職クラスが望ましいかと思います。
 保護具着用管理責任者のほうが化学物質管理者よりも現場に近いかもしれませんけれども、保護具の選択管理等といった職務をなし得る方を選任していただくということになります。
 適切に職務を行えるということであれば、化学物質管理者と保護具着用管理責任者を兼ねたり、あるいはほかの作業主任者等と兼ねたり、そういったこと自体は可能です。
 続いて、雇入れ時教育と職長教育は、今日は説明は省略させていただきます。
(スライド22)
 続いて、危険有害性の情報の伝達ということでSDSの内容になります。
 1点目は、通知方法の柔軟化ということで、従来はSDS通知の手段は主に紙の交付を想定していたのですけれども、デジタル化の状況もございますので、紙でももちろんいいのですが、例えば電子メールによる送信ですとかホームページのアドレスの伝達、あるいは製品に二次元コードをつけて、そこからアクセスしてもらう、そういった方法によるSDSの交付を採用することができるようにしたところです。
 次が人体に及ぼす作用の定期確認及び更新ですけれども、SDSの通知事項の1つである人体に及ぼす作用、これはJISの項目の中では有害性情報に該当しますが、こちらはリスクアセスメントに当たって非常に重要な情報になりますので、SDS作成事業者において5年以内ごとに1回、変更の必要の有無を確認していただき、変更があるときはその後1年以内に更新をしていただくことにしております。
 今年4月施行なのですけれども、今年4月以降、5年以内に1回ということになりますので、初回の確認は遅くとも令和10年3月までにしていただくことになります。
 続いて、通知事項の追加と含有量表示の見直しです。今回、SDSの通知事項として、想定される用途及び当該用途における使用上の注意というものを追加しております。これはJISでは推奨用途と使用上の制限ということで従来、記載が推奨されていた事項になります。これを今回、安衛則では義務化したということになります。
 こちらは、保護具の情報との関連がございまして、ユーザーが取り扱うときにどういった保護具を使ったらいいかという情報が十分にないということもありましたので、メーカー側で推奨用途での使用を想定した場合に必要となる保護具の種類を必ず記載してくださいということにしております。
 あとは、通知事項の1つである成分及びその含有量について従来は10%刻みの記載方法としていたのですけれども、重量パーセントの記載ということで見直しております。
 こちらについても事前の質問をいただいておりまして、従来の10%の幅表記から重量パーセントにした背景を知りたいという御質問がありました。こちらは、例えば10%刻みの含有量のものを何種類か混ぜて次のものを作ったりするのを繰り返した場合に、その成分の含有量の取り得る値が広くなって、どれぐらい入っているか分からなくなり、リスクアセスメントに支障が生じるような場合も出てくるということで、原則は重量パーセントとしたところです。
 ただし、製品によって含有量に幅があるものは濃度範囲の表記も可能ですということにしております。こちらも事前に御質問をいただいておりますが、例えばロットによってぶれがあるとか、天然物を原料にしていて、正確な値の把握が困難でもともと幅があるとか、そういったものについては濃度範囲の表記が可能です。また、重量パーセントへの換算方法を明記していれば、その他の方法も可能ということで、容量パーセントとかモルパーセントとか、そういった形でも重量パーセントへの換算方法を明記していれば可能ということになっております。
 それから営業秘密に当たるような場合については、広く公開するようなSDSには記載せずにSDSとは別途、秘密保持契約など事業者間で合意した方法で通知していただくということも可能としております。
 ただし、特化則とか有機則の対象物質については、含有量を明記しませんと法令の適用関係が分かりませんので、そういった特化則、有機則等の特別則の対象物質については省略は不可ということにしております。
(スライド23)
 続いて、事業場内で別容器で保管する際の措置ということで、こちらは対象物質を事業場内で小分けして保管するような場合に、内容が分からなくなってしまって事故が起こるということを防ぐために、小分けした容器への名称と人体に及ぼす作用の2つの明示を義務づけました。
 絵では表示と書いてあって、ラベルを貼るような形になっているのですけれども、ラベル表示に限らずSDSや、使用場所への掲示、一覧表の備付けなどによる伝達でも結構です。例えば容器にはサンプル番号を付して、その番号と物質名が対応する形で一覧表を備え付けておくといった形も考えられます。
 こちらは保管を行う人と保管されたものを取り扱う労働者が異なる場合に情報伝達を行うというのが主な目的になりますので、本人が取り扱っている最中に一時的に小分けして保存はしないものについては、こういった必要はございません。
 それから、明示のときにGHSのラベルにある絵表示、ピクトグラムの表示でいいかという御質問もいただいておりますけれども、ピクトグラム、GHSの標章の表示だけですと必ずしも有害性情報が特定できませんので、それだけでは不足ということになりまして、有害性情報に該当する情報の明示が必要になります。
(スライド24)
 続いて、SDS対象物質を取り扱う設備の改造、修理、製造等を外注する場合は、有害性情報、作業上の注意などの情報伝達を文書の交付により義務づけたということです。
(スライド25)
 こちらの3点は、今回の改正に伴って特化則等の規定についても一部見直しておりますけれども、今日は説明を省略させていただきます。
(スライド26)
 こちらは化学物質管理者や保護具着用管理責任者などの役割をまとめたものですので、参考にしていただければと思います。
(スライド27)
 最後に、関連情報の御紹介になります。
(スライド28)
 厚生労働省では、化学物質管理に関する相談窓口を設けておりまして、電話相談など対応しております。それから事業場へのリスクアセスメントの訪問支援を行っておりますけれども、来年度の委託先はまだ決定しておりませんので、決まりましたら、またこちらのホームページでお知らせさせていただきます。
(スライド29)
 一番上は今回の改正内容についての通達や対象物質のリストなどを載せております。その他、ラベル・SDSの制度のパンフレットですとか、GHS分類の検索サイトなどを載せておりますので、必要に応じて御覧いただければと思います。
(スライド30)
 職場のあんぜんサイトにリスクアセスメントの支援ツールを載せておりますので、こちらも活用いただければと思います。
 最後になりますけれども、今申し上げたとおり、今回の見直しは、危険有害性が確認された物質についてリスクアセスメントの結果に基づいて、ばく露を最小限にするということが基本になりますので、そのためにラベル・SDSによる危険有害性情報の伝達が非常に重要になります。
 したがって、化学物質の譲渡提供者側の皆様については、ラベル・SDSに必要な情報をしっかり書いていただいて、情報伝達をしっかり行っていただく。取り扱う側の方々は、そのラベル・SDSを見てリスクアセスメントをして対策をしっかり取って取り扱っていただくということをお願いしたいと思います。
 各事業場におきまして、労使協力して化学物質による労働災害防止に向けて御対応をお願いいたします。
 以上で私からの説明は終わります。ありがとうございました。
○事務局  吉見様、ありがとうございました。
 それでは、2つ目の基調講演にまいります。2つ目は、帝京大学医療技術学部教授・宮川様より「化学物質の危険性・有害性の情報伝達とリスクアセスメントの重要性について;健康リスクアセスメントでSDS情報をどう利用するか」につきまして御講演いただきます。
 それでは、宮川様、よろしくお願いいたします。
○宮川氏  御紹介にあずかりました宮川でございます。
(スライド1)
 今日はスライドをたくさん用意し過ぎましたので、幾つか飛ばして話をしたいと思いますが、よろしくお願いします。
(スライド2)
 初めに申し上げておきますけれども、今日の私の講演の内容は、全て私の私見でございまして、厚労省の見解というわけではございません。その点、御承知おきください
(スライド3)
 まず最初に申し上げたいのは、今日の講演では、いらっしゃった方々、安衛則が改正になって何をやらなければいけないのか、義務になったところを確認したいということで、細かいところをいろいろ疑問に思って来られた方が多いと思いますが、最初に申し上げたいのは法令で規定されたことだけをやっていれば十分かというと、それでは困りますという話をいたします。私が一番重要だと考えておりますのは安全配慮義務をきちんと果たすということだと思います。労働者の健康安全の確保は事業者の責務とされていて、安衛法の3条とか判例による法理とか労働契約法第5条というところに書いてあります。
 この義務を果たすために重要なのが危害発生を予見すること。予見して、もし危害が発生しそうだ、発生の確率が結構高い、受容限度を超えているという場合には、それを回避する義務。この予見義務と回避義務を果たすということが重要で、この予見に当たるのが狭い意味でのリスクアセスメント、回避のほうはリスクマネジメントになるものと私は考えております。
(スライド4)
 少し具体的に見ていきますと、労働安全衛生法の第3条には、この法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなくということで、職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければいけない。「ように」が入るので、努力義務という書きぶりかもしれませんけれども、はっきりと書いてあります。
 さらに、労働契約法第5条に、使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとすると明確に義務として書いてあります。こちらのほうは民事上の損害賠償請求などの根拠になるのではないかと思いますけれども、とにかく安全配慮義務がこの労働契約法では明示されております。
(スライド5・6)
 判例については、スライドに示しましたように最高裁の判例が有名でございますけれども、今回の化学物質の関連では、その次にあります東京地裁の判決、クロム労災事件というのがあります。これを見ると民法709条なので、不法行為などによる損害賠償請求の話なのですけれども、危害発生という結果の発生の予見可能性を検討し、これが肯定されれば予見義務違反を介して結果回避義務違反として過失が認められる。損害賠償請求されますよとなります。
 下のほうを見ていただきますと、クロムで健康障害になった人の損害賠償請求ですけれども、当該化学物質の人体への影響等その有害性について、内外の文献等によって、調査・研究を行い、その毒性に対応して職場環境の整備改善等、労働者の生命・健康の保持に努めるべき義務を負うことは言うまでもない。予見すべき毒性の内容は、肺がん等の発生という重篤な健康被害の発生が指摘されている事実で十分と言われているわけです。
 つまり、これをちゃんと読むと、文献等を調べて、こういう健康障害が起きるということが予見できるのだったら、法令の定めがなくてもきちんと回避義務をしておかないと損害賠償請求に当たりますよということになります。非常に重要な判決かと思います。
 では、実際に個々の論文まで調べるのは難しいですよね。それに代わるものとして、SDSでこういうことが言われていますという情報をきちんと提供するということが非常に重要になると思います。
(スライド7・8)
 では、有害性が分かっているものを使う場合については回避義務があるわけですけれども、回避のための措置義務についても、きちんと法令に書かれています。リスクアセスメントというと安衛法の57条の3というのが頭に浮かぶと思うのですけれども、22条のほうには健康障害を防止するために必要な措置を講じなければならないということが書いてありますし、安衛法の条例に対応して、安衛則のほうでは措置義務として結構細かいことが以前から書いてあるのです。今回、この中で新しく濃度基準値のようなばく露を防ぐ基準となる数字が設定されたということだと思います。当然、有害性が分かっているものについては、健康障害で重要なのは、どのぐらいのレベルのばく露が起きると健康障害が生じるのかということです。そこを超えないように措置ができているかどうかをきちんと見るということが、法令の対象のみならず、全ての物質について私は非常に重要かと思っております。
(スライド9)
 危険有害性情報の提供の重要性というところにつながるということで、ここからSDSがなぜ重要かというポイントになると思いますけれども、事業者は、製造または使用する化学物質の危険有害性情報を知る必要があります。なぜかというと、先ほどから言っておりますように危害発生を予測するための、それが予測された場合には回避するための情報が重要ということになります。
 安全データシートですが、安全データシートという名前はSDSを直訳すればそうなるのですけれども、安全性を宣伝するためのものではなく、危険有害性をきちっと書く、危険有害性情報シートというものだということをきちんと認識し、それがリスク回避で役に立つのだということを御認識いただければと思います。
 また、事業者がそれを知るだけではなくて、実際の労働者、作業者、あるいは産業保健スタッフにも、こういう情報はきちんと提供される必要があると考えております。
(スライド10)
 ところで、リスクアセスメントによって危害発生を予見する、危害発生を回避するためにリスクマネジメントをきちんとするというのが基本になると思いますけれども、この点、一応確認しておきたいと思います。
 リスクアセスメントというのは、リスクの評価、危害発生の予見に該当します。危険有害性による危害、これは施設等の物の被害もありますし、けがもあります。それから健康障害、さらに環境へ悪影響を与えることもあります。このような危害の発生の可能性と発生した場合の重大性、重篤度を調べるということがリスクアセスメントです。可能性だけではなくて、どれほど被害が大きいのかをチェックする必要があります。
 安衛法の記載では、リスクアセスメントのことを危険性または有害性等を調査することという記載になっています。危険性または有害性等を調査すること、これだけだと分かりません。実際はどの程度の危害の可能性があるのか、発生したときにはどの程度の被害になるのか、両方組み合わせると、どの程度の数学的な意味では期待値ですけれども予想される被害があるのか、これを予見するのがリスクアセスメントだと思います。
 リスクマネジメントは予見されるリスクが受容の限度を超えている場合にはそれをなるべく下げる、回避する義務というのがありますので、それを考えるのがリスクマネジメントということになると思います。
(スライド11)
 ところで、今までさんざんリスクという言葉を使って話をしてきてしまいましたけれども、実はリスクの定義について産業医の先生方にリスクアセスメントは重要ですよね、ところでリスクって何でしょうと聞くと分からない人が結構いらっしゃいます。実際、文章に定義として書いてあるものがあります。
 まず、JIS Z7253、これはGHSに基づく表示とSDSの作り方を定めたJISでございますけれども、そこを見ると、リスクの定義として「危害発生の確率(または可能性)とその危害の度合いとの組合せ」というようなことが書いてあります。重要なのはやはり可能性、確率と重大性、重篤度の組合せです。
 一方、健康に関してですけれども、食品安全委員会の用語集には、食品中にハザード、これは有害性のあるもののことですが、これが存在する結果として生じる人の健康への悪影響が起きる可能性と影響の程度とあり、確率とまでは言っていません。可能性があるかどうか、それで程度はどのぐらいなのということです。でも場合によっては確率も考えてくださいということになると思います。
 そもそも安全のほうではゼロリスクはあり得ないですよね。安全のほうは事故が発生するもとにヒューマンエラーというものがあって、これをゼロにするのは無理です。それが生じた場合でも大きな事故につながらない、あるいはなるべく事故につながらないようにという方法をいろいろ考えるのが基本ですけれども、衛生のほうは通常の化学物質ですと、言い方によりますが、全ての化学物質は量によって毒かどうか決まるわけです。そうすると、少ない量であれば毒性影響が出ない。そこを基準にすると、リスク、つまり発生の可能性をかなり抑えることができるということになります。
 ここから少し安全と健康ではリスクに対する考え方、リスクのアセスメントの考え方が基本的に違いますというところをちょっとお話ししたいと思います。
(スライド13)
 このスライドで説明します。事故の確率とリスクです。先ほど組合せと言いましたけれども、実は期待値が計算できる場合には期待値を計算します。安全のほうでは実際に計算されていると思いますし、そのときに労働関係だと、労働損失日数を使うというようなことも一部で行われていると思います。
 例として挙げましたのが、大事故、中事故、小事故が実際に起きたときの労働損失日数で4,000日、100日、3日というようなものが起きる。こういう作業をしていると、大体どのぐらい起きているのか。作業する1万日に1回起きると50年に1回、1万日に10回では5年に1回ぐらいですか。100回になると、これは相当増えますが、100日に1回ぐらいです。このぐらいの労働損失が起きるとすると、掛け算をすると、これはまさに組合せです。確率と重大性の組合せです。これを掛け算して期待値を求めるとこのようになっていて、合計すると、1操業日当たり、平均して0.53日労働損失の事故が起きる。これは架空の例です。こうやって組合せという言い方では普通は何だか分からないわけですけれども、なるほど確率と起きた場合の被害を掛け算すると計算できる。物損の場合は同じように計算できますし、それからけがの場合でも労働損失日数で計算することは一応できる。
 さっきも言いましたけれども、事故につながるヒューマンエラーはゼロにならない。ただ、いろいろ対策をすることによって、発生確率を減らすことで、損害をどのぐらい減らすかを考える。こういうものが安全側の基礎にあると思います。
 ところが、衛生関係で有害物質の管理をしてきた者にとっては、こういう考え方をすることはほとんどありません。
(スライド14)
 次の話をします。健康リスクアセスメントの基本について、ここから述べたいと思います。
 まず、言葉の整理ですけれども、リスクとともにハザードという言葉がありますが、ハザードは、化学物質管理の世界では、その物質に固有の危険性、あるいは有害性のことです。爆発しやすい、燃えやすい、飲むと病気になる。手にかけると手が薬傷で障害を受ける。そういう性質がハザードです。
 リスクというのは、ハザードとばく露の両方に依存します。これが基本的な健康分野での考え方です。リスクは確かに定義としては健康分野でも、健康障害発生の可能性と重篤度の組合せという言い方、これが定義なのですが、しかし、実際よく使われているのはこの式です。リスク=ハザード×ばく露です。これはリスクの定義というよりは、リスクの評価の考え方を示したもので、実際の計算に使うものではありません。これはハザードが低ければ、有害性が低ければリスクは低い。有害性がある程度あってもばく露が低ければリスクは低い。したがって、ハザードの程度、毒性の程度に応じてばく露のレベルをコントロールするとリスクがコントロールできます。リスクの評価の考え方となります。
 ここがやはりポイントで、結果としてばく露が毒性発現の閾値を超えると健康障害が発生します。逆に言えば、閾値以下に抑えることで、危害の発生、健康障害の発生を抑制することができます。
 では、どこが閾値なのかというところをチェックし、それ以下にばく露をコントロールするというのが、健康面に関するリスクのアセスメントであり、リスクのマネジメントということになります。
 先ほどの期待値で計算した安全とは考え方が相当異なります。こちらを基本にぜひやっていただきたい。これから国のほうとしても濃度基準値のようなものを設定するということですから、やはり定量的な基準、ばく露をどこまで抑えるかが重要になると思います。
 実際に、リスクを評価するときには、国が今度新しく数字をつくるわけですけれども、これまでも日本産業衛生学会の許容濃度とかアメリカのACGIHのTLVとかドイツのDFGのMAKとか、ここまでなら大丈夫ですよというばく露限界値、OELというものがあります。これが実はリスクアセスメントの基本となるということだと思います。ばく露がこの基準値を超えるかどうかがポイントです。
(スライド15)
 さらに、もう少し元に戻りますと、健康リスクアセスメントの基本プロセスと言われているのがこの4段階です。最初にどういう毒性があるのか、その種類をチェックしてください。次は、量―反応関係、どのぐらいで有害性は起きるのですか、ばく露のレベル・閾値はどうでしょう、ここをチェックする。これは専門家でないとなかなか難しいかもしれません。でも、SDSを見ると許容濃度等が書いてありますから、許容濃度はこれを基につくられているものです。次はばく露の評価です。実際の労働者がどのぐらいばく露しているかをチェックし、最後にばく露のレベルと閾値、あるいは閾値から設定されたばく露限界値、許容濃度のようなものを比較することでリスクの判断ができます。
(スライド16)
 模式的に書くと、ばく露のレベルが高くなるに従って、ここに示すような健康障害が次々出てきます。縦軸はそういう障害を示した、実験の場合には、動物の割合になります。実際、チェックをすると、この辺のばく露レベルだと気道刺激が見られますね、ここまで低いとちょっと症状を示している動物はいますけれども、統計学的に有意にならなければ、これは毒性はなかったことになりますから、この辺りがNOAEL、最大無毒性量になります。これが動物実験のデータだとすると、人間に応用するには少し安全域を確保するために不確実係数というもので割り算して、この辺を基準値にする。これがリスク評価の基準値で、厚労省はリスク評価事業をやっていたときにもこういう値を使っていましたし、許容濃度なども全く同じような方法で設定される。つまり許容濃度というのは、リスクがあるかどうか判断するときの基準になる。定量的な評価というのが重要ということになります。
(スライド17)
 ただ、少し困るのは、ここに示しましたけれども、閾値がない物質があります。遺伝毒性発がん物質は閾値がないと考えられています。これが今後も少し難しい問題になるとは思うのですけれども、遺伝毒性があると少量でも遺伝子に作用して、それががんのもとになる。これは確率的な影響なので、ここまでなら影響はないから大丈夫ですという線が非常に引きにくいのです。では実際どうされているか。厚労省のリスク評価事業でもこういう方法を取っていました。この図ですけれども、動物実験でこういう量-反応関係があるとする。がんを示した動物の割合が縦軸になります。
 統計学的にばらつきを考慮すると、こういう量-反応曲線が推定できる。10%とか5%とか一定の割合でがんが生じるようなところを起点に、あとは低いほうは直線で近似をする。そうすると、濃度が低ければ低いほどがんが生じる確率は下がってくる。リスク評価事業では、10のマイナス4乗、この辺りを基準に一次評価値としてリスクをしていた場合もあります。
 では、許容濃度にするときにはどうするか。難しいのです。1万人に1人がんになってもいいことにしますか。非常に難しい問題があります。そこで、遺伝毒性発がん物質については、許容濃度は提案しないようにしましょう、ばく露限界値は提案しないようにしましょう、こういう考え方もありますし、あるいはこのぐらいのばく露量だとこのぐらいの率でがんになりますというリスクレベルだけ公表する場合もあります。日本産業衛生学会もそのようにしている物質があります。
 そうはいっても、このぐらいなら大丈夫なのではないのということで、諸般のデータを総合して、許容濃度のようなものを提案する場合もあるかもしれません。なかなか難しいところがあります。国のほうでは遺伝毒性発がん物質については、濃度基準値はつくらない方向で議論が進んでいるようではございます。
(スライド18)
 これが基本です。基本に沿って、各事業者の方にもリスクアセスメントを実施していただきたいのが私の今日言いたい2番目のところです。
 実は産業医の先生に質問すると、リスクアセスメントですか、こんな方法でやるのですという答えが返ってきます。一番よく出てくるのがマトリックス法、それからコントロール・バンディング法です。ばく露レベルを許容濃度と比較するのが基本ですという方が少ないのです。少なくとも化学物質を使う事業場で産業医をされる先生にはこの辺りをよく理解していただきたいと思います。
 ところで、皆さん、トリクロロエチレンを使っている作業場ではどのような方法でリスクアセスメントをするのがよいと思いますか。法令遵守をしている事業場です。ちょっと頭に留め置いてください。
(スライド19・20)
 労働安全衛生法の規定をちょっと見てみたいと思うのですけれども、リスクアセスメントは57条の3。現在674物質がリスクアセスメントの義務がかかっています。では、実際どうしましょうかということですけれども、安衛則の34条の2の7にリスクの見積方法が書いてあるのです。大きく分けて1、2、3があります。これは安衛則なので、安全と衛生、両方対象にしています。はっきり書いてあるのは、安全のほうでは1か3でやってください。衛生は特に書いていないのです。
 これを見ると、1は、危険を及ぼしあるいは健康障害を生じるおそれの程度、これは確率可能性、これと危険または健康障害の程度、重大性、重篤度を両方考慮してくださいとあります。先ほどの期待値の理論になります。
 一方、2番目です。さらされる、ばく露される程度と有害性の程度を考えてください。健康リスクの評価の基本です。健康についてはこれが一番重要なので、私としては、もし好きに法律をつくっていいと言われたら健康障害に関しては2でやってくださいとします。
 3が「準ずる方法」です。これはまたちょっと後で説明いたします。
(スライド21)
 厚労省はリスクアセスメント指針というのを出しています。どう書いてあるか。一番重要なリスクの見積方法については、ア、イ、ウと3つの方法が書いてあります。一番上のところ、アの(ア)にマトリックス法が書いてあるのです。可能性の程度と重大性、重篤度を表にして考える。産業医の先生がこのリスクアセスメント指針を勉強すると、これが一番上にあるので、これが頭に入ってしまいます。
 ただ、コントロール・バンディングだけちょっと特別ですけれども、基本的にアは安全流の方法と思っています。
 では、イは何が書いてあるか。ばく露の程度と有害性の程度を考慮する方法。まさに基本中の基本が書いてあります。さらに、その中では実測が望ましいとあり、その次が数理モデルでの推定です。
 3番目に書いてあるのが、実はイの(ウ)はコントロール・バンディングのことです。ということは、健康リスクに関しては、こちらのイでやってください。なるべく測定が望ましいということです。ただ、このときは個人ばく露の評価というのがまだ強く推奨されていなかった。少なくとも法令上推奨されていなかった時代ですので、こうなっていますけれども、作業場の気中濃度という言い方です。実際は個人のばく露濃度ですね。それをばく露限界値と比較するのが本来望ましい。この辺は法令のほうでも大分改善されていると思います。
 問題は産業医の先生がほとんど頭に浮かべないウです。アとイに準ずる方法。これは、今すぐ分かる方はいらっしゃいますでしょうか。実はこうなっています。
(スライド22)
 安全用のものが下です。衛生のほうだけ見てみます。具体的な措置が特別規則で書いてある場合ということなのです。つまり有機則だとか鉛則だとか特化則の対象の物質の場合には、そこで規定されていることをちゃんとやっているかどうか。局所排気装置の性能も問題になるかもしれませんし、特殊健康診断も問題になるかもしれませんが、作業環境測定の義務がかかっています。管理濃度があって、それで管理区分を判断しているはずです。こんなことをやっているかどうかを確認すること、ちゃんとやっていればリスクは低いと判断していいですよ、第一管理区分だったらリスクが低いと判断していいですよ、第三管理区分だったらまずいかな。こういうことがここに書いてあるのです。
 したがって、きちんとやっている事業場の方が、リスクアセスメントについて、「今までこれをちゃんとやっていたけれども、今度はコントロール・バンディングでチェックしようか」ということはやらなくても、今まで規則どおりやっていれば、既にリスクアセスメントも終わっていることになります。あるいはリスクマネジメントも含めて規則がつくられているということになります。
(スライド23)
 安全分野の例はちょっと飛ばさせていただきます。
(スライド26)
 これは安全分野の数値化法の例が厚労省のサイトに載っていたので、ちょっと持ってきました。大分違うのです。こういうものを私は衛生のほうで見たことはありません。
(スライド27)
 衛生のほうで、いわゆるマトリックス法に入ると思うのですけれども、コントロール・バンディングがあります。使う量はグラム単位ですか、キログラム単位ですか、トン単位ですか、年間どのくらい使いますかということで、ばく露レベルを大ざっぱに評価して、最後、この表で有害性レベルと突合するわけです。有害性レベルがいろいろなものがあるのですけれども、厚労省の古いパンフレットにこういうものがありました。それを例としてお見せします。
 上のほうのものが有害性レベルが高い。これは一体何の根拠によってつくられているか。この辺りもあまり宣伝されていません。コントロール・バンディングという言い方は、ILOが発展途上国のために推奨した簡便法ですとなっていますが、もっと前はイギリスでCOSHH Essentialsでこれがつくられたときには、特定の有害性があるということでラベル表示をしなければいけないものについては、その有害性ラベルのものの許容濃度がどのくらいになっているのかをチェックして、大体その順番に並べたのが基のようです。
 ということで、有害性のレベルを全く反映していないということではないわけですけれども、非常に大ざっぱなものだと私は思いますし、さらに当時のラベルでの表示が義務だったリスクフレーズの内容が、GHSが導入されたことによって、このパンフレットではGHSの区分になって書かれています。それが同じかどうかというところも私としては疑問に思っています。でも参考にはなると思いますし、ただ、これを使うとリスクが高く出てしまうということが多いというのも事実のようではあります。
 ただ、実際に、ばく露限界値、許容濃度とか濃度基準値がないものについて考えるときには、やはり何かこういうことを考えなければいけないということで、御参考までに御説明いたしました。
(スライド28)
 まとめに入りたいと思います。JIS・GHSですが、SDSは現在JIS化されたGHSに基づいて作ることになっていて、それによって10種類の健康有害性がクラス分けして書いてあるわけです。この10種類はGHSで規定された健康有害性のクラスです。「健康リスクの評価はこうしてください、基準値と比べるのです」とさんざん申し上げてきましたけれども、まず一番上の3つです。急性毒性、これは致死作用です。それから皮膚に対する腐食性、刺激性、眼に対する重篤な損傷性、刺激性、これは安全流のリスクアセスメントをするべき有害性だと思っています。
 つまり、うっかりして手にかけてしまうと手が薬傷になりますよ、眼に入ると角膜損傷がありますよ、飲み物と間違えて飲むと死ぬかもしれません。こういうのはヒューマンエラーを防ぐというのが基本になりますので、安全流の評価が重要になります。あるいはそこでは保護具の使用、先ほども話が出ましたけれども、適切な保護手袋をする、ゴーグルをするということになります。
 一方、真ん中の3つは長期反復ばく露を受けているうちに、がんになる、生殖毒性がある、こういうものについては、やはりどこまでなら大丈夫なのか、ばく露限界値をきちんとチェックをし、個々の労働者がそれを超えないように管理をする。これまでは場の管理ということで作業環境測定というのが中心でしたけれども、一歩進めて考えれば、個々の労働者がここまでなら大丈夫というばく露限界値、OELを超えたばく露を受けないようにするということがやはり重要になると思います。
 少し難しいのがこれです。8番は麻酔作用があるようなものが入っていますし、事故的なばく露に気をつけなければいけないというところもあります。
 9番は基本的には5、6、7と同じかなということになっています。
(スライド29・30)
 では、実際にSDS情報はどういうところを見たらいいでしょうと。ちょっとまとめて書いておきましたけれども、私が重要だと思うのは一番上です。特別規則の適用の物質であれば、特化則の対象、有機則の対象、いろいろ難しいことを考えずに現段階ではまず法令を遵守しましょう、ちゃんとした局排が使われているとか作業環境測定の結果が、第一管理区分だということでリスクは十分許容できる範囲かなと考える、これが重要だと思います。適用法令のチェックです。
 2番目、有害性の内容を確認して、安全流の事故を防ぐような対策が必要なものなのか、ここにあるようなものです。それから、そうではなくて基準値以下に抑えるのが必要かどうか、そういうところを考えてくださいということになります。
 慢性のものに関しては基準値との比較が重要ですということになります。
 ただ、生殖毒性に関しては、妊娠中には感受性が高くなるようなものもあるので、気をつけてください。こういうところをチェックするということになります。
(スライド31~34)
 具体的にSDSで見ていくと、重要なのは、ばく露防止及び保護措置です。ここに許容濃度などが書いてあります。
それから有害性情報は、ぜひ産業医の先生などにはチェックしていただくべきところです。事業者の方には、やはり重要なのは適用法令です。これの確認が非常に重要になると思います。
(スライド35~37)
 ということで、トリクロロエチレン、さっき言いましたけれども、もう答えは出てしまいました。トリクロロエチレンのSDSを見ます。
 いろいろ書いてありますけれども、私だったら最後のところをまず見ます。
 作業環境評価基準がある特化物だということで、では、「規定どおりやっているか、うちはちゃんと作業環境測定をして、第一管理区分だった、リスクは十分コントロールできているか」といえるかが基本になるという気がいたします。
(スライド39)
 ということで、時間が来ましたので、最後まとめます。リスクアセスメントでは、どこまでが義務なのということが気になって今日来られた方が多いと思いますが、安全配慮義務は法令遵守だけでは駄目です。予見できる危害の発生を防げないと民事上では責任が問われます。
 したがって、予見可能な健康障害はまずチェックする必要がある。そのツールがSDSです。SDSを作る方はぜひここを考えて、なるべくたくさん気をつけるべきことを書いていただきたいと思います。不十分なSDSでは予見、回避が困難になります。
 あと、ばく露防止、保護措置、適用法令に注目しましょう。保護具の選定も重要になります。
 急性の影響に関しては、安全流のリスクアセスメントもやはり重要です。しつこいですけれども、特別規則の対象では、規定遵守でリスクは評価できる。作業環境測定も終わっているのにコントロール・バンディングをする、こういうことはあまり意味がないのかなと思います。逆に言うと、こういう規制がない、あるいはばく露限界値も決まっていないものについてはなかなか難しい。こういうところはコントロール・バンディングなどで非常に大ざっぱでありますけれども、チェックすることが重要ということになると思います。
 以上でございます。お疲れさまでした。
○事務局  宮川先生、ありがとうございました。
 それでは、ここで約15分の休憩に入ります。休憩中に会場参加者のお手元の質問用紙を回収いたします。スタッフが回りますので、手渡していただけたらと思います。ウェブでの御参加の皆様は、Zoom機能におけるQ&Aにて質問を送信くださいますようにお願いいたします。
 それでは、15時半から再開させていただきますので、それまでしばらくお待ちくださいませ。
 
     (暫時休憩)
 
○事務局  それでは、お時間になりましたので、ただいまよりパネルディスカッションを開催いたします。
 本日、6名の皆様に御登壇いただいておりますので、お座りいただいている順番に御紹介させていただきます。まず、本日コーディネーターをしてくださいます東京理科大学薬学部教授・堀口様です。以降、パネリストを御紹介いたします。厚生労働省・吉見様、帝京大学医療技術学部教授・宮川様、三菱ケミカル株式会社・高崎様、日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社・林様、西松建設株式会社・最川様、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、以降の進行を堀口先生、お願いいたします。
○堀口氏  たくさんの質問ありがとうございました。事前質問もいただいております。少しずつ読み上げてパネリストの方々に回答などしていただこうと思いますが、最初に各パネリストの方から5分程度プレゼンテーションしていただこうと思います。
 まず、三菱ケミカル株式会社の高崎様、お願いいたします。
○高崎氏  よろしくお願いいたします。三菱ケミカル株式会社のラベル・SDS制度への対応状況と課題等につきまして、紹介させていただきます。
 まず、弊社ですが、三菱ケミカルグループ傘下の総合化学メーカーになりまして、基礎化学品、いわゆるケミカルズと機能商品などを製造、販売しております。基礎化学品といたしましては、工業用の化学品、石化原料、溶媒、モノマー、汎用樹脂などがありまして、一部の製品では日本産業規格、JISの化学の部門に製品自体の規格が公に定められているものもございます。
 機能商品といたしましては、機能性高分子、機能化学品、添加物や部材等、多種多様な製品がございます。製品によって求められる機能というのは様々なのですが、その機能の発現のために原料化合物の選定や添加量、配合などが非常に重要であるというところが共通しております。これらの製品の組成につきましては、弊社にとっても貴重な財産であるという一面もございます。
 商流の中での立ち位置といたしましては、弊社は川上であって川中でもあるというところになります。製品の提供先ですが、同業の化学業界のほか、食品や医療などの他業種、最近は電気電子の業界や自動車業界向けも多くなっております。
 弊社のラベル・SDS制度に関わる業務内容と関係部署というのは大きく2つに分かれます。1つ目は、商流を通じて化学品の危険有害性を伝達する業務、具体的にはSDSの作成、提供、製品へのGHSラベルの表示などになりますけれども、こちらは主として事業部門が担当しております。試作品につきましては、研究開発部門が担当する場合もございます。
 2つ目は、サプライヤーから提供いただいたSDSや購入製品のラベルをリスクアセスメントや使用現場での労働者保護に活用する業務です。こちらは、実際にその化学品を使用する事業所、製造場所で担当しております。
 弊社では、自社製品のSDSの作成・発行と購入・使用するSDSの活用については担当部署が分かれておりますけれども、社内関係部署で協力して対応に当たっております。
 自社製品のSDSの作成の業務につきましては、プロダクトスチュワードシップ・品質保証部、私の所属する部署が所管しておりまして、会社として社内のガイドライン、SDSの作成システムと教育という3つを提供することで、SDSの作成部署をサポートしております。
 まず1つ目の社内のガイドラインですが、こちらではSDSの発行の方針や情報収集からSDS・ラベルの作成の具体的な対応手順、関係部署の責任分担等を定めています。このガイドラインでは、一部法律の規制よりも厳しいことを定めているのですけれども、弊社では全ての化学品製品についてSDSを発行することというのを社内ルールにしております。
 次に、2つ目のSDS作成システムです。こちらはSDSの作成もできる化学品管理システムということですが、従来は自社で作成したシステムを利用していたのですけれども、一昨年から汎用の化学品管理システムに切替えをしております。
 こちらのシステムを使うことによって、製品の成分情報をシステムに入れることによりまして、混合物の有害性の分類や物質にひもづいた有害性の更新、それから法規等の更新への対応漏れを防止するために役立てております。
 ただし、システムでは、物理化学的危険性の自動判定はできませんので、物理化学的危険性につきましては、確認すべき危険性を絞り込んだ上で、必要な危険性評価等を実施するということで対応しております。
 3つ目の社内教育ですが、SDS作成者向けの教育としては、実際にSDSを作るための全般的なセミナーを開催しているほか、個別の製品やシステムの利用に係る個別の対応という形でも教育を実施しております。
 また、受領したSDSを活用する側の事業所の教育活動としては、SDSの読み方と使い方といったSDSの利用に特化したセミナー等を開催しております。
 弊社の自社製品の提供方法としましては、SDSだけを渡す場合もございますけれども、納入仕様書の附属文書として提供させていただくという形がかなり多くございます。また、先方のお客様の事業部門の技術の御担当者様と直接コミュニケーションをするときの資料としてもSDSを活用させていただいています。
 最後、今般の化学物質の自律管理に向けた安衛法の政省令改正の対応につきましてですけれども、今回の改正では、毎年多数の通知対象物質が追加されるほか、がん原性のものなど、新たな物質群も規定されておりまして、漏れなく対応していくということが非常に重要です。私どもは川上企業でございますが、川上企業のSDSで情報提供に漏れが出てしまいますと、直接のお客さんももちろんですが、川中様、川下様にも大きな影響を与えてしまうという状況にございまして、非常に大きな責任を感じております。
 また、今回の改正では、SDSの記載方法につきましても推奨用途と使用上の制限、保護具の種類、成分の含有量のほかSDSの記載の方法等も変更されております。こちらの対応もかなり数が多くなるのですけれども、具体的な記載方法につきましては、日本化学工業協会さんが昨年7月に公開していますSDSの記載例という資料がございますので、そちらを参考にさせていただきまして、改正後のSDSのシステム的な対応を準備しているところでございます。
 以上でございます。
○堀口氏  ありがとうございました。
 それでは、引き続き、川中に相当するのだと思いますけれども、林様からお願いいたします。
○林氏  日本ペイントグループのラベル・SDS制度への対応に関する現状と課題についてお伝えいたします。
 まずSDS制度の対応に関する現状ということで、塗料業界の特徴をまずお伝えいたします。
 今、お話しいただいたのですが、私たちは川中に当たるというのが大きな特徴になっています。川上である原料メーカー、三菱ケミカル様のようなところから原料の情報と国内外の規制対応情報を入手し、それらを組み合わせて、自社製品、塗料などの危険有害性を混合物として判定してSDS・ラベルなどを作成して川下企業へ伝達している。これが特徴となります。
 もう一つ大きな特徴としましては、用いる原料の数、幅が非常に多い、広いということになります。大きな分類だけでいいましても、膜の中心となります樹脂、高分子ポリマーや色や強度のもととなる顔料、これは無機や有機などいろいろあります。それと塗りやすくするため、流動性を持たせるためのシンナー、溶剤、それとそのほかには様々な機能を付与するための添加材、成分といったような幅広いものが、かつそれぞれの分類の中でも複数使われるということで設計されております。つまり、物質として有機、無機、低分子、高分子のあらゆる種類のものが含まれていることが特徴となっております。
 出口としては被塗物、塗る対象もかなり幅広い、すなわち顧客である川下企業さんも幅広いのですが、大きく塗料という配合の枠組みとしては変わりませんので、これらは一緒の枠組みとして捉えてSDSなどを作成して提供しております。
 まず、SDS・ラベルの作成部分についてなのですが、川上と違って自社で新たな化学物質を作るケースはほぼありません。一部樹脂、高分子などを作ることはあるのですが、基本的には混合物として川上からいただいた原料情報を組み合わせて判定し、混合物のSDS・ラベルを作っております。
 先ほど述べましたとおり、非常に多くの種類の物質を含む混合物であるということに対応するために業界傘下の各企業からの要望に応える形で日本塗料工業会からGHS、JISを踏まえたGHS対応のSDS・ラベル作成ガイドブックが発行されておりまして、我々もこれの情報に応じてSDS・ラベルを作っております。
 当社の対応、具体的なところなのですが、入り口である原材料、出口である製品を合わせると10万以上のものを扱う必要があります。ですので、手作業でSDS・ラベルを作成するというのは絶対不可能であるというところで三菱ケミカル様と同様なのですが、システムを導入して管理しております。
 このシステムの中には、今お見せしました日本塗料工業会のガイドブック記載のルールを組み込んでおります。SDSの第1項から第16項の文言はそれぞれこのガイドブック記載の文言を活用して作成しております。
 さらに、具体的にはこれからなのですが、今御紹介いただいた、まさに同じ日本化学工業協会により発行されました労働安全衛生法政省令改正に対応したSDSの記載例を参考にしまして、これからさらに文言を追加修正する予定にしております。
 我々は自社製品のSDSの精度を高めるために原料情報がすごく重要なのですが、その情報についてSDSを川上から入手するだけではなくて組成情報のかなり細かい部分まで開示いただいて、システムに組み込むことで混合物の判定を行って精度を高めております。
 そして、次の課題にはなるのですけれども、この川上情報の入手の難しさに課題を感じているところであります。
 さらに、当社の特徴としましては、自社製品のSDS・ラベルを年に1回一括で全て更新をしているということを特徴としています。即時対応が必要な場合を除きまして、原料情報の更新や法規制情報の更新に対応するために全製品のSDS・ラベルを一括更新して最新性を担保するということを対象としております。
 今は作る側のお話だったのですが、もう一つ、自社の対応としてリスクアセスメント等でのSDSなどの活用についてもお伝えいたします。
 我々は川上から数多くの原料を入手しておりますが、そのSDSはデータベースにて一括管理されております。社内、これは技術開発部門だけでなく工場部門もそうなのですが、それらで容易に内容確認可能となる形を取っております。これらは数年に一度サプライヤーへの更新依頼を行いまして、情報更新をして最新性を保っているという形になっております。
 そして使用現場において、これらSDSを用いてリスクアセスメントが実施されている状況です。極端な例では、採用段階でもこれを検討して使用回避することも行っております。
 次に、SDS制度、今回いろいろ改正が行われましたが、対応に関する課題ということを述べたいと思います。
 まず、SDS・ラベルの作成の部分についてです。これは先ほど述べましたが、我々は川上の原料メーカー、サプライヤー様からの情報の入手がキーになりますが、そこに困難さがある、情報入手に困難さがあるというところに課題を感じております。
 今回の通知対象物質の追加などだけでなく、先日ありました化管法の改正であったり、毎年あります毒劇法の物質追加などの法改正が発生するたびに、今まで非開示であった物質に対象が含まれていないかというような確認を行っております。過半数のサプライヤー様は素早く対応していただいて、当社のシステムにおける情報の更新も進むのですが、一部は返答すらすぐに来ないような川上メーカー様、サプライヤー様があるのは事実です。
 既に述べましたとおり、川上からの情報の組合せにて自社製品である混合物のSDS・ラベルを作成して伝達しているということですので、この情報入手が鍵となっております。既にパブリックコメント等でも、この部分は言及されておりますが、この情報入手の課題は常に持っております。ここが使用原料数が非常に多いということもありまして、この影響範囲が非常に広くなってしまっているということがあります。
 もう一つ課題の部分でいいますと、リスクアセスメントなどというところにつきまして、今回、がん原性物質の作業記録の30年保管というところがあります。特化則などについてはエクセルベースでも管理していたのですが、今回のがん原性物質というのが非常に多く、さらに個人に紐づけて管理しなければいけないということですので、システムでの対応が必要と考えて準備しているところではありますが、先ほどから述べておりますとおり幅広い物質を使っている業界であるがゆえに、がん原性物質対象でも多くの管理が課題になると感じております。
 もう一つは、化学物質管理者の選任というところで、グループ会社全体を考えると、対象者がかなり多くいるというところで、受講が間に合うのか少し不安に感じております。さらには、少しずつ増えてはきておりますが、講習がまだ少ないという感じがありまして、かつ値段を考えますと、総額が上がってくるということは懸念しております。これはもう意見は出されておりますが、有機則、特化則が残ったままの並列運用となるというところで重複した対応が必要となっているというあたりに煩雑さが増加する点は現場として課題を持っております。
 というところで当社グループのSDS制度への対応に対する現状と課題でした。ありがとうございます。
○堀口氏  どうもありがとうございました。それでは、川下に当たります西松建設の最川さん、よろしくお願いします。
○最川氏  それでは、私から建設業界の化学物質の対応について御説明いたします。
 まず、私は建築屋で施工のほうを、30年ぐらい現場をやっていまして、現在は本社安全部にいます。
 例えば建設業で仕事を請け負って、このホールを造りますといったときに設計図があって、特記仕様書もあって、この部屋の天井の仕上げでいけば軽量の鉄骨下地の上にプラスターボードプラス岩綿吸音板、そういうものが設計図と特記仕様書に書かれています。扉でいけばスチールのドアにSOP塗りとか、ほぼ材料が決まっていて、工事を受注する見積段階では、製品がある程度想定できる中で何社かに見積りを取って、その中から1社に決定し工事契約を結びます。受注した元請業者は、その中から例えば塗装工事でいけば何社か見積りを取って、その中の日本ペイントさんとかそういうところの材料を使うようなことを決めていくのですけれども、設計段階でほぼ仕様が決められているというのが現状です。その設計仕様の中から製品を選んで承認をとり決定して行く、ほぼ同じ成分のようなものを使うというのが現状になっています。
 では実際、今の674物質に対するリスクアセスメントをどのようにやっているかというと、大体建設業界にある化学物質というのは、労働安全衛生法に書かれているのは、元素及び化合物、実は全てなのです。化学物質などというと分かりづらくなってしまうのですけれども、全てのものは実は安衛法の化学物質に当たって、その中で危険性があると言われている粉体、気体、液体、一斗缶に入っている物とか、そういうものはほぼ化学物質の危険有害性があるものでマークがついている。ラベルがあるものについては必ずSDSシートを取って、そのSDSシートに書かれている危険性とか有害性を確認して、どういう換気をしなければいけないとか、保護具をどのように使えばいいかということで、リスクアセスメントをやっているのです。
 課題的な話をいうと、実はそのSDSシート、私たち使う側からすると、結構アバウトなのです。適切な保護具を使う、適切なマスクを使いましょう、適切な保護衣を使いましょう、適切な長靴を使いましょう、適切なと表現されていることが多い。そこが知りたいところなのに、なかなか答えが出なかったりする場合が多くて、日本ペイントさんみたいに防毒マスクの有毒ガス用とか、そういう種類まで書かれているところはまだいいのですけれども、極端なことを言うと適切な保護具を使って作業をしてくださいみたいなことしかかかれていなくてどうやって対策の結論を出せば良いのかわからない。リスクアセスメントのシートを作る。現場で書かれているシートを見ると、結局、保護具を使いましょうみたいになってしまうのです。では、これは何を使うと決めたのというのはなかなか答えが出ないというのが現状で、その辺をちゃんと理解している建設業の業者さんというのは結構少ないのかなと思います。
 今、建設業界を分かりやすくするということで、一応ガイドラインづくりというのをお願いしていまして、建設業労働災害防止協会というところとガイドラインづくりを一緒にやらせていただいているのですけれども、そこはもっとかみ砕いて、例えば今回ガイドラインづくりで個人ばく露測定を実は何現場かやったのです。例えばセメントの混練作業、塗装の外部の吹きつけ、バルコニーのウレタン防水、タイルカーペットの接着剤がどのぐらい空気中に舞っているのかを測定しました。
 それらを基に、こういう部屋の作業で、例えばタイルカーペットの接着剤を使う作業はどのぐらいの濃度がばく露する可能性があるので、ではどういうマスクを使えばいいかというのをつくって、それを知らせていくというのが現実的なのかなと考えています。
 私は今の化学物質の法改正の在り方には、昔からちょっと不満があって、どんどん分かりづらくなっているのです。現在世の中に化学物質が何万物質、世の中にはもっとあるのですけれども、例えば国内に出回っている商品とか、そういう中では、化学物質は何万物質とあるわけです。その中の石綿とか8物質が使用禁止、その下に123物質が有機則とか、そういう法律をつくってきました。
 今まで厚生労働省がどうやってきたかというと、年間2つとか3つとか法律改正をやっていただいて、この場合にはどういう測定をするとか、保護具はどういうものを使いなさいと決めていただいていたのですけれども、それでは対策が追いつかなくなってしまって、有害性が確認されている2,930物質ぐらいある化学物質についてリスクアセスメントして、皆さんSDSシートを基にちゃんと理解して、自分たちで保護具を考えて使って測定して、濃度基準値以下であることを確認しなさいみたいになってしまったので、建設業界としては、とてもそれでは追いつかないというか、より分かりづらくなってしまったので、分かりやすい形で示していかなければと考えています。こういう作業だったらどの程度の対策をすれば良いかというのを示していこうと動いているところです。
 私のほうは以上です。
○堀口氏  どうもありがとうございました。
 いただいている御質問と今日お三方から発表された内容と、いずれも皆さんお困りの様子は非常に明らかかと思います。それで、大阪のほうでも同じような質問が出ておりましたが、今日、壇上に上がってくださっているお三方のところは割と大きいメーカーさんで、実は小さいところはどうするのというお話を事前質問にもいただいておりましたので、読み上げさせていただきます。
 大学や企業の研究所のように多種少量の有害化学物質を使用する事業所に関して、今回の法改正の対応方法のひな形になるようなものはないでしょうか。また、上記のようなものが大学や企業などで業界マニュアルのようなものが作成されるなどの情報はないでしょうかという御質問と、中小企業かつ少量多品種の化学物質を扱う研究所における化学物質の管理の方法について、ほかの参加者から意見を伺いたい。MPが少ないことや対象化学物質の数が多く、全ての薬品について求められている管理を実施するのは難しいと感じておりますという御質問、御意見があるのですが、まずは厚生労働省からいかがですか。小さいところ、大学も入っていますので。
○吉見室長補佐  大学ですとか研究所など、非常に少量で取扱物質が多いというところはいろいろあるかと思います。そういった場合にリスクアセスメント対象物については、全部リスクアセスメントの義務があるのですが、全ての物質について一個一個リスクアセスメントを同じようにやるのは非常に労力がかかるということになりますので、1つのやり方としては、有害性が高い物質ですとか揮発性が高かったり含有率が高い、こういったものはばく露の程度が大きいことが想定されるわけです。そういったものを優先してリスクアセスメントを実施していただく、まずそこから始めていただくというのが1つあろうかと思います。
 あとはマニュアルのようなものの情報があるかという御質問もありましたけれども、私が聞いている範囲では、国立大学協会で化学物質の取扱いに関する安衛法に対応したマニュアルを検討しているという情報を聞いております。まだできていないそうですので、公開はされていないのですけれども、国立大学協会そのものは国立大学向けにつくっているものではありますが、それ以外の大学ですとか研究所でも部分的に参考にできるような内容もあろうかと思いますので、そういったものができて公開されましたら参考にしていただくというようなことも可能かと思います。
○堀口氏  パネリストから何か中小メーカーさんと対応されたりすることもあろうかと思うのですが、いかがでしょうか。では、高崎さんから順番にお願いできますか。
○高崎氏  私からはリスクアセスメントはあまりコメントできないのですけれども、SDSの作成であれば、NITEさんが公開しているNITEのGmiccsを使うですとか、リスクアセスメントではクリエイト・シンプルが利用できます。いずれも無料で比較的簡単に使えるツールで、国の事業で準備して公開していただけているもので、説明書やマニュアルも整備されていますので、そういうものを使っていくことで少し定型化した対応につなげることができるのではないかと思います。
 以上です。
○堀口氏  ありがとうございました。林さん、いかがですか。
○林氏  弊社でもかなり数多くのものを扱っていると言っておりましたが、ラボなどにおいては、初めての物質であったりということ、少量で数多く使っているケースもあります。そういう場合、先ほど吉見様もおっしゃっていましたが、まずどれが有害性が高いかを知るというところ、それがまずは自分の体を守るため、扱うときには何が危ないのかをまず知るということから第一歩だと思いますので、それからスタートしているという形になります。その上で危ないものはしっかりとリスクアセスメントをして対応するという形で進めている感じです。
○堀口氏  ありがとうございます。西松建設・最川さんから何か一言ありますか。
○最川氏  建設業は使うほうなので、リスクアセスメント、今言ったように建設業界で使う資材はほぼ全部になってしまう。それを一つ一つやっているのではなくて、こういう作業はこのぐらいというのを、昨年は5現場ぐらいしかできなかったですけれども、来年度もいろいろ測定させていただいて、個人ばく露測定はどのぐらいかというのを基に少し追加していくといような取組を今やろうとしています。
 建設業界は、とにかく化学の工場と違うので、一品受注なので、全部違うのです。場所も違うし、大きさも違うし、それぞれ測るというよりも、やはりちゃんとした保護具を使うというのが大事なので、少なくとも防毒マスクと防じんマスクの違いぐらい、そういうものを分かっていない人も結構多いのです。そういうところをしっかりSDSに書いていただいて、ちゃんと適切な防毒マスクを使う、ちゃんとした不浸透性の手袋を使う、そのようなところを実際やっていくのが現実、けがとか有害性の疾病を起こさないのは、そこが一番なのかなと思っています。
 以上です。
○堀口氏  ありがとうございます。宮川先生、大学におられますし、先生が御相談されたらどのようにアドバイスされますでしょうか。
○宮川氏  まず、大学については、大学の教員で化学物質を使う人は皆さん化学物質のことをかなり分かっている方なので、リスクアセスメントについても分かっているといえるぐらいに勉強していただきたいというのが本心です。そうしないと、大学では学生が教員の管理下で化学物質を扱うことになっていて、これは安衛法の対象ではないと思うのですけれども、やはり責任があるので、これは非常に重要なのかなという気がしております。
○堀口氏  ありがとうございます。それからたくさんの方から化学物質管理者についての質問をたくさんいただいております。なので、順番に行きたいと思います。化学物質管理者の選任義務が令和6年4月からとなっていますが、講習参加が集中し、受講が期日内に間に合わなかった場合は罰則などありますでしょうか。
○吉見室長補佐  罰則という前に、まずは厚労省でも、先ほども御紹介しましたけれども、テキストの作成や動画の作成を行い、講習機関や、あるいは将来的には自社で講習をやる場合にも使っていただけるように、そういった支援はしていきます。
 それから、講習機関も既に講習が始まっているところが一部ありますけれども、ほかにも準備して今後始めるところもあるということだと思いますので、厚労省としてもそういった講習機関、化学物質管理者の講習を受講できる機会の拡大にまずは取り組んでいきたいと考えております。
○堀口氏  それで、先ほどの講演の内容のところで、化学物質管理者の選任のところで、実際に使用する下請は化学物質管理者の選任が必要で、元請は必要ないとのことでしたが、元請の作業所で下請に使用させる場合は、元請は化学物質を購入して下請に渡したり、作業場で扱わせるわけだから、化学物質のリスクアセスメントも行うことが必要と考えられます。元請にも化学物質管理者の選任が必要、義務となるのではないでしょうか。
○吉見室長補佐  資料20ページ、(1)のところに選任が必要な事業場ということでリスクアセスメントを製造、取扱い、または譲渡提供をする事業場とあります。元請、下請といった場合に、元請と下請、両方取り扱うケースもあると思いますし、下請だけが取り扱う、それぞれケースによると思います。両方取扱いすれば当然両方選任が必要になります。元請が全く取扱いはせずに下請だけが取り扱うという場合は、法令上は化学物質管理者の選任義務は実際取扱いを行う下請だけということになりますけれども、元請として下請に対して必要な情報提供ですとか支援といいますか、そういったことはしていただきたいと思います。
○堀口氏  ありがとうございます。従業員が数名しかいない事業所か事業所が複数ある場合、化学物質管理者の事業所間の兼務は可能でしょうか。事業所がたくさんあるけれども、一つ一つの事業所には従業員が数名しかいなくて、化学物質管理者はその事業所の間を兼任できますか。
○吉見室長補佐  事業場単位で選任ですので、まず1つは、規模が著しく小さく独立性がないような場合で事業場に当たらないケースで、直近上位の組織と一括して1つの事業場に当たる場合はもちろんそこで1人でいいのですけれども、事業場が別という扱いであれば、基本は1人ずつ。ただ、いろいろなケースがあると思いますし、その辺は各社の状況によって、一律にこうという答えが出せない場合もございますが、今、化学物質管理者の選任については、いろいろ質問をいただいているところを整理している部分もございまして、今後整理してまたお示ししたいと思います。
○堀口氏  ありがとうございます。どこに相談に行けばいいかとか、そういうものもおいおい、多分事業所それぞれ皆さん形態が違うと思いますので、相談先などどこかに発表されるときに記載していただけると皆さん助かるのではないかと思います。
 それで化学物質管理者や保護具着用管理責任者を選任した後、労基署に届け出る必要があるのでしょうかという御質問がありました。
○吉見室長補佐  こちらは化学物質管理者も保護具着用管理責任者も労基署への届出の必要はございません。ただ、事業場内で労働者の方々に周知していただくという必要がございます。
○堀口氏  それからSDSに関してなのですけれども、小分けの容器の話がスライドにもあったかと思うのですが、小分けの容器についての御質問が幾つか来ておりまして、別容器で化学物質を保管するとき、その容器に記載するのは、危険性・有害性情報、人体に及ぼす作用、文言とイラスト、注釈とで相反しているような内容なので質問しますという方がおられます。何を書くのかというところが皆さん結構混乱しています。
 小分けの容器の数が多い場合、全てに表示しなければなりませんかとか、GHSラベルの件では注意喚起不十分とのことですが、容器が小さく、伝達が難しい場合はどうしたらいいですかとか、あと、小分けした容器に表示する危険性・有害性情報はGHS分類の区分情報でよいか、危害有害性情報を書いたほうがいいのか、あと、小分けした容器に名称、人体に及ぼす作用を記載しますが、ピクトグラムだけでは不十分と言われました。具体的に何を記載したらよろしいのでしょうか。あまり細かく記載しても意味がないかと思います。なので、ちょっと整理して回答していただければと思うのですが。
○吉見室長補佐  まず、小分けした容器に明示が必要なのは、資料の23ページに書いてありますけれども、右側の吹き出しのところです。名称と人体に及ぼす作用の2つということです。人体に及ぼす作用というのは、ラベルやSDSの有害性情報ということになります。
 この方法ですが、ラベル表示をしてくださいということではなくて、ラベル表示でもいいのですけれども、ここに書いたようにSDS交付ですとか、使用場所への掲示、これはその作業場所に名称と有害性情報の内容を掲示することですとか、一覧表の備付け等でもよいということですので、ラベルを一個一個全部貼らなければいけないということではなくて、この2つの情報を明示していただくということです。
 ピクトグラムだけだと不十分と申し上げたのは、例えば私の資料の8ページに戻っていただけますか。ピクトグラム、絵表示となると、この9種類あるわけですが、例えば健康有害性の絵表示があった場合、健康有害性ということで、具体的にどういう有害性があるかがこの絵表示だけでは分からないということで、例えばですけれども、SDSで危険有害性情報のところでは、例えば発がんのおそれとか、反復ばく露による臓器障害とか、こういったことが書いてありますので、この情報を伝えてくださいということ、そういう趣旨になります。
○堀口氏  何かたくさんあるのですよね。小分けする容器の大きさに下限はあるかとか、容器のサイズとか、何か決める予定とかはありますか。
○吉見室長補佐  サイズの決まりはありません。ですから、小さいものは容器そのものに貼るということはできないと思いますので、先ほど申し上げたように、その作業場所における一覧表の掲示ですとか備付け、そういった形で対応いただければと思います。
 あとは、実験などでよくあると思うのですけれども、小さい容器には、例えば番号とか記号とかでしるしをつけて、1番はこの物質でこの有害性とか、そういった一覧表のような形でも結構です。
○堀口氏  そういった具体例は、また何かで例を示したりしてくださるのでしょうか。何かリーフレットとかQ&Aとかができたときに。これだけ質問が来ているのですけれども、だからみんなが困っていると。
○吉見室長補佐  ありがとうございます。Q&Aを今作っているのですけれども、事業場によってどういったやり方が最適かというのは違いますので、全てのケースはもちろん書けませんが、例示を分かりやすくしたいと思います。
○堀口氏  林さん、実際、研究所もあると思うのですけれども、小分けした容器をどのようにされていく予定ですか。
○林氏  我々は先ほど少し述べたのですけれども、購入したものとかSDSを全てデータベース化しているというところもありまして、小分けしたものには、少し予定の部分はあるのですが、コードと名前を記載するというところで、いつでも見に行ける形を取ろうと考えております。
○堀口氏  ありがとうございます。例など研究所とか大学とかそういうところは多分必要になってくるのかなと思うので、Q&Aに期待しています。
 SDSによる成分の含有量の記載についての御質問も実はたくさんいただいております。その前に、SDSの信頼性の担保はどうするのですかという質問があったのですけれども、信じるしかないという性善説でしょうか。皆さん、どのようにお考えですか。信頼性の担保をどうしていますか。どう考えておられますか。
○高崎氏  やはり物質にひもづいた有害性の情報というのはちゃんと調べ尽くす。分類は、それをGHSのルールに従って、落とし込んだものということになっています。実際のところ有害性の情報がないものについては分類できないとなってしまうことも多いのですけれども、知られている情報は調べたというところが信頼性の担保になるかと思います。
○堀口氏  ありがとうございます。林さん、いかがですか。
○林氏  我々は混合物ですので、そのもので有害性を調べるということはなかなか難しいところがありますので、川上企業さんからの情報でルールに基づいて、混合物の判定のルールは決まっていますので、それに基づいてやるというところですので、いかに川上の情報を正確にいただくかというところにかかっております。
○堀口氏  ありがとうございます。成分の含有量の記載について質問がたくさんあるので読み上げます。重量パーセントの記載が必要とのことで、CBIの場合、2社間の契約に基づいて通知も可能とのことであるが、当社のような川中企業がCBIで得た情報をどのようにして川下企業に伝えるのかを考えるととても複雑になり、従来の10%刻みで化学物質名称を開示してくれれば、最大値の含有量でリスク評価を行えればいいのではないでしょうか。海外では、危険有害性のある物質は開示されることが当たり前になっているのですがと。10%刻みに対する御意見であったり、リスクアセスメント対象物質の濃度をSDSへ記載することになりましたが、表記する有効数字はありますでしょうか。化管法だと有効数字がありますという御質問。SDSにおける記載において、20から30%のような10刻みの記載は避けるとなっていますが、現実的に原材料購入の際のSDSの記載は、重量パーセント記述ではなく、最大○%や範囲の記載や不明が多くあり、記載は難しいのですが、どのような記載が許されますか。重量パーセントの記載となるが、化管法のような有効数字を明示しなかったのはなぜですかという話。成分の含有量は濃度範囲の表記を製品の都合上する場合、どの程度の幅が許容されますか。
 そんな感じですかね。お願いします。もう一回そこを丁寧に御説明していただけますでしょうか。
○吉見室長補佐  まず、資料22ページの一番下の濃度範囲の表記も可能というところ、どの程度の幅というのは、実際、その製品によって、その製品の幅の範囲になるのですけれども、従来10%刻みにしていました。想定しているのは、最大10%ぐらいの幅を想定しています。ただ、実際、その製品によってどれぐらいの幅が生じるかというのは違うと思いますので、ロットによる幅ですとか、もともとの原料の性質による幅ですとか、その製品に応じた幅ということで、何%までと厳密に法律でありませんけれども、最大10%程度範囲を想定して考えていただければと思います。
 それから、有効数字については、安衛法は従来から定めておりません。製品によって有効数字を何桁まで示せるかは違ってくると思いますので、一律に何桁と決めると対応ができないようなケースもあろうかと思いますので、決めてはおりません。化管法は2桁というのは承知しております。通常2桁ぐらいが多いと思いますし、ただ、例えば0.何%、0.5%というものを0.5では駄目で0.53まで書かなければいけないかとか、そういうケースも出てきますので、安衛法は、法令上は有効数字は定めておりません。あくまでその製品に応じた有効数字で書いていただければと思います。
 もう一つ、CBI、営業秘密の話です。こちらはいろいろと御意見をいただいております。今回、今まで10%幅であったところを重量パーセントにしたがために、重量パーセントそのものを通知することによって、CBI、営業上の秘密が守れないというようなケースが出てきますので、今回、通達では、例えば秘密保持契約等の事業者間が合意した方法で別途通知する、公の情報にしないで譲渡提供する特定の相手先のみに開示するという方法も通達で明示したところです。
 ただ、その後もいろいろ御意見、御要望いただいておりまして、BtoBで例えば川上企業が川中のある程度特定の相手先と取引する場合というのは、そういう対応ができたとしても、川中企業が数多くのユーザーに販売する場合に必ずしもそういった方法が難しいという御意見もいただいております。ここについては、ではどういった対応が可能かというのは厚労省でも検討しておりまして、この点はまたもし見直し等をする際にはお知らせさせていただきます。
○堀口氏  ありがとうございます。高崎様、今のことでどのようにお考えでしょうか。
○高崎氏  私たちは組成というのは非常に重要な情報だと申し上げましたけれども、やはり安全な情報を伝えるために必要な範囲ではもちろん伝えないといけないと考えていますので、適正なところで決めていただければと思います。
○堀口氏  林さん、いかがですか。
○林氏  CBIのところは、一部別の形で伝達するということもしているのですが、今は少し見直して少なくしている方向にあるという形ですかね。
○堀口氏  ありがとうございます。10%刻みだったものを、ちょっとCBIは別として、記載については何か問題が生じているとか、こういうところがやりづらいとか何かありますか。
○高崎氏  研究開発では、多くのサンプルを成分の濃度を振って提供するような場合があるのですけれども、試験研究の段階だと、組成自体が伝えられない、秘密情報である場合もありまして、そういう場合にも通常のSDSと同じように全て一つ一つ濃度を書かないといけないということになってしまうと、試験研究の範囲で問題が生じる場合があると思います。
 また、製品の組成を決めるとき、危険有害性の範囲はここまででというように、有害性の設定に合わせて組成を調整するような製品もあります。そういうものでは、その有害性の濃度範囲でリスクアセスメントもできる場合もあります。実際の使用者の方がリスクアセスメントに使えて、製造者は必要以上の情報は出さなくて良いというような、ちょっと難しいですけれども、そのような情報提供ができれは理想的と思っております。
○堀口氏  ありがとうございます。林さん、いかがですか。
○林氏  弊社は、先ほど最初の説明のときにも少し言ったのですけれども、川上企業さんからSDSだけではなくて、さらに踏み込んだ、極端に言うと100%組成みたいな形でいただくということを求めていまして、それによって何%未満みたいな書き方をされる、組成については、その数字を点で管理して弊社の混合物のSDSを作っているという形を取っています。ですので、結局SDSで幅表示されていても、基本は点管理をしているという形になります。
○堀口氏  ありがとうございます。それから、SDSに関して、社名変更とか移転時にSDS発行者はSDS・ラベル表記も変更することになりますが、経過措置や既に現存する製品への取扱い、いつまでにSDS・ラベルの変更をしなければならないのかといったガイドラインとか法令というものはありますでしょうか。
○吉見室長補佐  法令上のSDSの更新につきましては、今日御説明した人体に及ぼす作用のところは、今回、義務になって5年に1回は確認してくださいということになっているのですけれども、それ以外の項目については、変更が生じたときには見直しをしていただくというのが法令上は努力義務になっております。
 なので、例えば社名が変更したときに何か月以内にやらなければいけないという一律に法律で決まったものはございませんけれども、SDSに書かれた事項に変更が生じたときは、各社のSDS更新スケジュールにもよるかと思いますが、可能な範囲でなるべく早く更新をいただければと思います。
 すぐにラベルを書き換えたり、SDSを書き換えたりすることができない場合もあると思います。その場合は、例えばSDSと一緒に社名が変わりましたというお知らせも伝えていただくとか、ホームページで伝達していただくとか、そういうのも1つの方法だと思います。
○堀口氏  ありがとうございます。それから、海外とのやり取りの部分で2つほど御質問があります。海外からの輸入品に対する調査の難しさがありますという御指摘があった上で、あと、改正省令で情報伝達の強化の人体に及ぼす作用の定期確認及び更新で、変更があるときは、確認後1年以内に更新してSDS通知先に変更内容を通知とありますが、これは海外の通知先、海外のお客さんのほうにも法律として適用されるのでしょうかという御質問です。
○吉見室長補佐  海外に販売する場合、それは販売先の国の法令に基づいて対応していただくということになりますので、国によると思いますけれども、安衛法令上の義務は、国内における譲渡提供の際にかかります。
○堀口氏  ありがとうございます。それからがん原性物質の記録についての御質問も幾つかいただいております。まずは、作業記録でフォーマットのようなものはありますかということ、それから30年の間で企業が廃業などした場合にどうするのですかという話、がん原性物質を臨時に使う場合でも作業記録の30年保管というのが必要ですか。回答していただいてよろしいですか。
○吉見室長補佐  まず、フォーマットについては、法令で決まった様式はございません。1つ参考になるのが、特化則の特別管理物質については、ほぼ同様の項目を既に30年保存を義務づけておりまして、そういったもので対応しているものがあれば、その様式が参考になろうかと思います。
 ただ、特化則の場合は月に1回は記録ということになっていますが、今回のものは年に1回は記録ということなので、特化則よりは頻度は緩いということになります。
 廃業した場合が非常に難しいところなのですけれども、化学物質に限らず、安衛法のいろいろな保存義務の中で廃業した場合にそれを引き継ぐ機関というのは法令上は決まったものは一部を除いてございません。例えば、今回の記録ですとか健診結果で30年保存とか石綿などは40年保存とか、そういったものについて、保存期間が長いですので、その間に事業者が廃業した場合に、その結果の記録を引き継ぐ機関が必要なのではないかという意見はいただいておりまして、そこは今すぐここで答えはないのですけれども、そういう課題があることは厚労省としても認識しておりますので、今後の検討課題と考えております。
○堀口氏  臨時に使った場合にその記録を残しておかなければいけないのですか。
○吉見室長補佐  資料の15ページで臨時に取り扱う場合は除くと書いておりまして、通常の業務として行わないようなものを臨時に行った場合については義務はかかりません。
○堀口氏  臨時はどれぐらいなのですか。すごく定義が曖昧なので、皆さん、困られるのではないかと思うのですが、いかがですか。うんうんとうなずいている人がいらっしゃるのですけれども、どういうイメージを臨時と検討会の先生方とか厚労省は思っていらっしゃるのかというところが分かるとまた皆さん、ちょっと考えやすくなるのかなと思うのです。
○吉見室長補佐  臨時に取り扱う場合は、言葉では概念的になってしまうところがあるのですけれども、通常、その事業場で行われている作業工程以外の業務で一時的に取り扱う、例えば化学工場の労働者の方、普段はその化学物質の製造とか取扱いをやっている方が、例えば工場の改修のときに臨時的に普段やっている業務と違う、例えばがん原性物質を含む塗料を使って塗装作業を臨時に行う。こういった通常の業務ではやらないようなことをやるようなケースを臨時ということで想定しております。
 ですから、頻度が低くても通常業務として行っているような業務であれば、それは臨時には当たらないということで、記録の対象となります。
○堀口氏  最川さん、臨時で扱う、現場は作業員の方がお休みしたりとか、いろいろあるとは思うのですけれども、臨時はどんな感じですか。
○最川氏  アーク溶接か何かで1回聞いたことがあって、毎週同じような作業を、例えば月曜日にやるとか、そういうものは通常作業で、ふだんはそういうものをやられていないのだけれども、特別ここは溶接しなければいけないとか、そういう作業は臨時ですよというのは回答いただいたことはあります。定期的に繰り返しやるような作業は臨時ではない。回数が少なくてもそのような考え方をしているというのは回答をいただいたことはあります。
○堀口氏  では、月に1回やっていたら、それは定期的だから臨時ではない。
○最川氏  臨時ではないというように回答を昔いただいたことがあります。
○堀口氏  そういう考え方で。
○吉見室長補佐  それは臨時ではないという解釈です。
○会場発言者  相談窓口をやっているので、そういう質問が来るのですけれども、臨時作業ということに関しては、臨時という形ではなくて、非定常作業ということで、何年も前に各業界で非定常作業というのは非常に危険性が伴うということで、化学業界でも非定常作業に関しては、こういうことに気をつけなさいということを決めているわけです。ばく露に関してもないように、保護具とかをきっちりと準備してやりましょうということですので、基本的にはそういう対応をしないといけないのです。
 というのは、非定常作業というのは基本的に慣れていない作業なわけです。臨時作業もそうです。本来やるべき人ではない人がやるわけです。そうしたら一層気をつけないといけないわけです。
 ですので、十分に準備した上で、基本的には保護具が中心になると思いますけれども、やるということが基本ですので、これは何年も前も既に幾つかの業界から臨時作業はこうやりましょう、機械とか鉄鋼も出ています。それを参考にして考えて、その判断に基づいて、やはり不慣れな作業でいろいろな問題が起きそうであれば、基本的には私は保護具だと思います。それをきちんとやる。関係部署にもきちんと連絡しないと駄目なのです。何か起きたら緊急で対応できる体制もつくらないといけません。
 そういったものは、化学業界で大手の三菱化学さんもそうですけれども、いろいろな方から協力を得てつくったものがありますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
 中災防のところに非定常作業の○○報告書と検索すれば、PDFで今でも見られます。印刷物はないらしいのですけれども、PDFでダウンロードできます。鉄鋼業界と自動車もやったと思うのです。あと化学と幾つかの製造業に関して、そういった非定常作業という形での指針みたいなものがあります。法律はありませんけれども、このようにやりましょうということを決めているわけです。基本は要するに災害を起こさないためにどうすべきかということなのです。だから、法律ではないのです。けがをしたら法律だろうが何だろうが安全配慮義務を問われますから。ですので、やはりやるべきことをきちんとやるというのが基本だということなのです。
○堀口氏  ありがとうございます。中災防のホームページからPDFでダウンロードできるということで、付け加えはありますか。
○吉見室長補佐  ありがとうございます。法令上保存が必要かどうかというのは、臨時は除くということなのですけれども、御意見いただいたとおり、臨時だから危険性がないということではありませんので、臨時作業、非定常作業においても、業界等でつくっていただいているものもありますが、そういったものも参考にきっちり安全対策は取って取り扱っていただければと思います。
○堀口氏  あと、30年間保存のばく露の状況とはどのような記録を残せばよいのでしょうか。フォーマットがないという話がさっき出たのですけれども、どのような記録を残せばいいのでしょうか。
○吉見室長補佐  こちらについては、同じような御意見をいろいろいただいております。フォーマットは、1つは特別管理物質の保存の様式、これは過去にパンフレット等を作ったことがあるのですけれども、今回、それがそのまま使えるかどうかというのもありますので、ホームページになるのか、パンフレットになるのか分かりませんけれども、何らかの形で例示はしたいと考えております。
 当然、フォーマットを作ったとしても、それは1つの例でして、実際、各社取り扱うもの、取り扱う作業等によって、使いやすい様式は違うと思いますし、既に社内で作業記録等取っている様式があって、それが法令の内容を満たしていれば、もちろんそれでいいということになりますので、例示にはなりますが、何らかの形を示したいと考えております。
○堀口氏  ありがとうございます。それから濃度基準値超え、健康障害が生じるおそれとは、具体的にどのようなケースが想定されますか。発がん性の場合は遅発性であり、症状が現れないことが想定されますけれども、その場合の判断基準はどうすべきなのでしょうか。どなたかお答えできますか。お願いできますか。
○吉見室長補佐  濃度基準値自体は先ほど説明で申し上げたとおり、今策定をしている最中でございますけれども、発がん性は今あったとおり遅発性のものですので、濃度基準値は基本的に発がん性の確からしさをもって決めるものではなくて、主にほかの有害性の情報、例えば急性毒性ですとか、特定臓器の毒性ですとか、そういったものを対象に決めるということになります。
 濃度基準値の検討に当たってはいろいろな文献情報を調査した上で検討しておりまして、定めた値を超えるとリスクが高い、これはACGIHのTLVとか産衛の許容濃度等も似たような考え方になるかと思いますけれども、そういうものですので、少なくともその濃度以下にしていただく。もし濃度を超えた場合は健診ですとかばく露低減の必要な対応を取っていただくということで、対応をお願いいたします。
○堀口氏  ありがとうございます。それから事前にいただいた質問にもあったのですけれども、会場からもありまして、高齢者が増えていまして、改正内容の周知をする上で、もう少し分かりやすいリーフレットなどを配信する予定はありますかという御質問であったり、管理体制整備が難航していて、現場作業者まで化学物質の危険性・有害性を周知させるのに効果的な方法があれば御教授くださいということでしたので、今日、事業者の方がお三方参加しておりますので、どのようにされているのかと思って、お聞きしたいと思います。
 それでは、川下のほうから行ったほうがいいですか。そうしたら、最川さん、よろしくお願いします。
○最川氏  先ほどの話にちょっと戻ってしまうのですが、いいですか。
○堀口氏  どうぞ。
○最川氏  発がん性の話、私も検討会に参加させていただいているので、今年度67物質ぐらい決めたのですが、その中で、検討会の中でもお願いしているのですけれども、発がん性物質というのは、1Aという人体に有害性が分かっているものに関しては、今回決めていないというか、決めない方針になってしまったのです。発がん性が1Aで、それ以外のものが例えばもっと危険だったりしても、その数値を決めていないのです。そこをまず決めるべきではないですかと言ったのですけれども、要は発がん性は数値を決められないのですよね。決めてもそれ以下で発がんしてしまうかもしれないので、決められないという言い分なのです。
 そこが一番危険ではないかと私は言っているのですけれども、そういう状況なので、とにかく発がん性1Aというのは、濃度基準値を決めていなくても危ないので、なるべくリスクアセスメントでばく露を最小値にしてくださいということなのですが、そこをちゃんと皆さん知らないと、これは濃度基準値が決められていないからというのは、その勘違いが起きるのではないかという話があったので、そこは皆さん、そういうことなのだという理解は今日参加している人だけでもちゃんと理解していただきたいのと、周知をちゃんとお願いしたいというのはあります。
 先ほどから出ていますように、分かりやすくというのは、私たちが今建設業でやっているガイドラインではないですけれども、分かりづらくなってしまったのです。今までは法令でも分かりづらかったですけれども、それのほうがまだ分かりやすかったので、やられている作業ごとに示してあげるというのがやはり必要だと思うのです。業界団体などがあるところは協力してガイドラインをつくっていただきたいというお願いです。建設業も引き続きお願いします。
○堀口氏  何か付け加えありますか。
○吉見室長補佐  発がん性の補足ありがとうございます。おっしゃっていただいたとおりで、検討会でもその点は議論がありまして、ただ、宮川先生の講演にもありましたけれども、この濃度以下であれば発がんしないという値が決められないということで、そういった物質については、濃度基準値は決めないという方向になったのですが、そういった物質については、発がん性があって、だからこういう理由で濃度基準値が決められなかったので、それは安全なのではなくて、ちゃんと有害性を考慮してリスクアセスメントをして、ばく露を可能な限り下げていただく必要があるということを今後示す技術上の指針などでも明記したいと考えておりますし、今後いろいろな場で周知をしていくに当たってもその点はしっかり注意をしていきたいと考えております。
○堀口氏  宮川先生、追加でお願いします。
○宮川氏  基準に関しては、学会の基準などでは、通常の健康な労働者が例えば1日8時間生涯働いても基本的には病気にならないでしょうというような意味で許容濃度などを公表しているわけです。
 結果として、今回のものについては、少し違うかもしれませんが、私が自分として望ましいと思っているのは、「少なくともこれを超えたら危ないかもしれないから気をつけましょう。ここまで大丈夫ですと言っていません、これを超えたら危ないかもしれません」という意味でもし基準値ができるのだとすると、遺伝毒性による発がん性があって、絶対大丈夫な閾値がないというようなものについても、ある程度の目安になったのかなと。そういう考えもあるかもしれませんけれども、これはなかなか難しいところかと思っています。
 いずれにせよ、がんに限らず、ほかの物質でも、例えば感作性物質だったら、既に感作されてアレルギーを持っている人にとっては通常の基準値では駄目かもしれないし、そういうところまで考えて基準はつくっていない可能性もあります。それから妊娠中の方などは胎児に対する影響がありますから、気をつけなければいけないところもあるいうことなので、誰でも大丈夫ですよというように濃度基準値なり、許容濃度なりを理解しないというところが重要で、個別の配慮が必要という気がいたします。
○堀口氏  なので、そこのところは、考え方をしっかりと伝えていかないと混乱するということですよね。
○最川氏  宮川先生と私も全く同じなのですけれども、発がん性に関しては閾値が決められないというのは理解しているのですが、それ以外の部分でもやはり決めなければいけない濃度はやはりあると思うのです。そこも示していないので、示した上で、発がん性は保証されていないということを周知したほうが。発がん性があるからといって全部決めないというのは、ちょっと私も違うと思っているので、ぜひそういう方向性で示していただきたいと思います。
○宮川氏  できればそういうものが出てくるといいのかなという気もしますけれども、探していただくと、世の中でACGIHのTLVだとかDFGのMAKだとか産業衛生学会のほうで、発がん性が知られているものについても許容濃度等として提案されている値があるものもあって、そういうものがあるときにはとにかくそういうものを参考にする。SDSを作るときには幅広く探していただいて、記載していただくのがよろしいかと思います。
○堀口氏  先ほどSDSの信頼性はいろいろなものを探してきちんと検討したということが大事というお話もありましたので、ぜひそのようにしていただければと思います。
 それで分かりやすいリーフレットとか現場の人たちへの教育というところで、何かいい方法はというお尋ねがありましたので、実際、最川さんのところとかはどうされていますか。
○最川氏  ないので、今年度は来週また建災防の検討会があるのですけれども、そこである程度、今年度のどういう作業のときにはというのは示せる形にはなるのかなと。今年度の実績としては多少分かりやすいものを出せるのかなと思っています。
○堀口氏  何かリーフレットとかそういうものを作ったりされる。
○最川氏  リーフレットはまだ、それを基に今後なので、来年度中かけて一応検討はしています。
○堀口氏  林さんのところはどうですか。社員教育用という。
○林氏  一部説明の資料であったりとかはしているのですけれども、今回、厚生労働省の資料にありましたようなあらゆる項目、いろいろな項目があるのですが、それぞれを分割して、これは人事部で対応すべきとか、これは工場現場にきちんと説明しないといけない、理解しないといけないというところを分けて、それぞれに対して教育であったり、説明であったりをする形を取っております。
○堀口氏  ありがとうございます。厚労省の場合は、時々リーフレットとかが後々出てきたりしますよね。現場で使えるものが。今回そういうものを次年度以降に出していく予定とかはないのですか。
○吉見室長補佐  厚労省のホームページには、今日の私の資料のさらに概要の8ページのリーフレットを載せているのですけれども、現時点でこのほかに具体的にいつどういうものができるという予定は決まったものはありませんが、今後、例えば記録のフォーマットとか、リーフレットかホームページ等でのPDFでの公開になるのか分かりませんが、分かりやすい情報はなるべく提供していきたいと思います。
○堀口氏  皆さん、現場でお困りのようなので、もしそういうものがあると助かるのではないかと個人的には思います。
 時間も大分迫ってきたのですけれども、リスクアセスメントについての質問も少しありまして、クリエイト・シンプルは改正安衛法に対応済みになっていますかという御質問があるのです。
○吉見室長補佐  クリエイト・シンプル自体は毎年順次改修をしておりまして、対象物質の追加や法令に対応した見直しを行っております。今回、濃度基準値を今後定めますので、濃度基準値への対応ですとか、評価ですとか、そういった改修等も来年度やりたいと考えています。濃度基準値等の施行は来年の4月ですので、それまでの間に対応していきたいと考えております。
 あと、いろいろ改修の御意見もいただいているものも多くありまして、内容によって順次になるのですけれども、毎年アップデートはしていきたいと考えております。
○堀口氏  そのリスクアセスメントの結果の保存期間は次のリスクアセスメントを行うまでの期間、ただし最低3年間の保存とありますけれども、同じ物質を再びリスクアセスメントを実施するまでの間なのか、別の物質で次のリスクアセスメントを行うまでの期間のことなのか、いま一つ不明瞭なので教えてくださいと書いてありました。
○吉見室長補佐  私の資料の18ページです。次のリスクアセスメントを行うまでの期間というのは、考え方としては同じ物質のリスクアセスメントを次に行うまでの期間ということになります。リスクアセスメントをどういった頻度でやるか、頻度は法令では決めておりません。先ほど私の説明の中で申し上げましたけれども、対象物質を新たに採用したときですとか、その有害性に変化が生じたときですとか、作業方法を変えたときがリスクアセスメントを実施しなければならないタイミングになっています。
 ですので、次のリスクアセスメントまでの期間というのが半年だったり、5年だったりします。例えば半年後、1年後に次のリスクアセスメントをやった場合は、次のリスクアセスメントをやったら新しい結果の記録を保存してくださいということだと、半年、1年ですぐ捨てるということになってしまうので、最低3年間は保存して、その上で、次のリスクアセスメントが例えば5年後だったら、5年後、次のリスクアセスメントを行うまでの期間は保存してください、そういう趣旨です。
○堀口氏  よろしかったでしょうか。皆さんから多くの御質問をいただきました。全て厚生労働省にお目通しをしていただくことにしておりますので、これから発表される予定になっておりますQ&Aなどで対応、配慮していただければと個人的には思います。
 お時間になりまして、全ての御質問に回答できませんでしたけれども、御協力どうもありがとうございました。それでは、司会を返させていただきますので、よろしくお願いいたします。
○事務局  堀口先生、パネリストの皆様、どうもありがとうございました。以上をもちまして本検討会は閉会となります。
 最後に改めてのお願いとなりますけれども、アンケートに御協力いただけますと幸いです。会場の皆様はお手元のアンケート用紙に御記載いただき、記入が終わりましたら、席に置いていただくか、出口にて御提出いただけますと幸いです。ウェブ参加者の皆様は退出後、自動でアンケート画面に遷移しますので、入力をお願いできればと思います。今後の会合運営の参考にさせていただきますので、ぜひ御協力いただけますようお願いいたします。
 それでは、職場における化学物質規制の理解促進のための意見交換会を閉会とさせていただきます。本日は皆様、どうもありがとうございました。