第16回これからの労働時間制度に関する検討会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和4年7月15日(金) 15:00~17:00

場所

AP虎ノ門 Aルーム

議題

労働時間制度について

議事

議事内容
○荒木座長 それでは、定刻より少し前でありますけれども皆様おそろいということですので、ただいまから第16回「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催いたします。
委員の皆様におかれましては、御多忙のところお集まりいただきまして、どうもありがとうございます。
なお、本日は黒田先生については所用のために欠席されると伺っております。
それでは、議題に入りますのでカメラ撮りはこの辺までということでお願いします。
(カメラ退室)
○荒木座長 それでは、事務局で資料を用意していただいておりますので、説明をお願いします。
○労働条件政策課課長補佐 事務局です。
まず、議事次第を御覧ください。配付資料として、資料1、資料2-1、資料2-2を御用意しています。資料1がこれまでの御議論を整理いたしました本検討会における報告書(案)です。資料2-1がデータをまとめた参考資料①です。資料2-2が本検討会で行いましたヒアリングの概要について、既に各先生方にも御覧いただいているものですが、それを1つのファイルにまとめて参考資料②としているものです。
本日は資料1の「これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(案)」について御説明させていただきます。
1ページ目は、目次です。第1、第2、第3、第4、第5という構成になっており、第1で労働時間制度に関するこれまでの経緯と経済社会の変化、第2でこれからの労働時間制度に関する基本的な考え方、第3で各労働時間制度の現状と課題、第4で裁量労働制について、第5で今後の課題等についてそれぞれ記載しています。
それでは早速、中身について御説明させていただきます。
まず、「第1 労働時間制度に関するこれまでの経緯と経済社会の変化」です。
「1 労働時間制度に関するこれまでの経緯」のです。労働時間は、最も代表的な労働条件であり、労働保護立法の歴史のうえでも最も古い沿革をもっている。
平成30年には、働き方改革関連法により、労働者がその健康を確保しつつ、ワーク・ライフ・バランスを図り、能力を有効に発揮することができる労働環境の整備が進められている。
仕事の進め方や時間配分を労働者の裁量に委ね、自律的で創造的に働くことを可能とする制度である裁量労働制については、制度の趣旨に沿った対象業務の範囲や、労働者の裁量と健康を確保する方策等についての課題が以前より指摘され、働き方改革関連法の検討に併せ、見直しに向けた検討が進められていた。
そうした中で、平成25年度労働時間等総合実態調査の公的統計としての有意性・信頼性に係る問題が発生し、働き方改革関連法の国会審議を踏まえ、裁量労働制については、現行の専門型及び企画型それぞれの適用・運用実態を再調査した上で、制度の適正化を図るための制度改革案について検討することとされた。
このため、統計学、経済学の学識者や労使関係者からなる検討会における検討を経て、総務大臣承認の下、統計調査が改めて実施され、令和3年6月25日に同調査結果の取りまとめ・公表がなされた。
同調査結果の労働政策審議会への報告を経て、裁量労働制を含めた労働時間法制の在り方を検討することを目的として、本検討会が開催されるに至った。
ここまでが第1の1です。
続きまして、「2 経済社会の変化」についてです。
少子高齢化や産業構造の変化が進む中で、近年ではデジタル化の更なる加速や、新型コロナウイルス感染症の影響による生活・行動様式の変容が、労働者の意識や働き方、企業が求める人材像にも影響を及ぼしている。
労働時間法制を、経済社会の変化に対応して見直すに当たっては、次のような変化やその影響を考慮する必要がある。
1つ目として「少子高齢化・生産年齢人口の減少」です。
我が国においては急速な少子高齢化が進んでおり、既に人口減少局面にある。
これから更に現役世代の減少が進む中で、産業や就業形態を問わず人材が必要とされると考えられることを踏まえれば、企業間の人材の獲得競争が激化することが予想される。
次に「多様な人材の労働参加」です。
個々の労働者は、ライフステージに応じて様々な事情を抱えている場合があり、それぞれの事情に応じて多様な働き方を志向する。このような様々な事情を抱えている労働者が労働市場に参加し、働き続けられるよう、多様なニーズに対応できる環境を整備することが求められる。
また、このような環境の整備は、少子高齢化が進む中でも我が国の活力を維持・向上させていくことにも資するものと考えられる。多様な労働者の労働市場への参入が進むことにより、伝統的な長期雇用システムにおける正社員とは異なる雇用形態を選択する労働者が増加する可能性も高く、労働者像の多様化をさらに促進することが見込まれる。引き続き、多様な働き方を求める、多様な人材の労働市場への参画を可能とすることが要請されることとなると考えられる。
次に「デジタル化、コロナ禍の影響等による労働者の意識や企業が求める人材像等の変化」です。
多様な働き方を求める、多様な人材の労働市場への参画が進むことに加え、こうした労働者の意識や働き方は、デジタル化やコロナ禍の影響等により、今後更に多様化していくことと考えられる。
今後、テレワークと職場に出勤しての就労の双方を組み合わせた、ハイブリッド型の働き方が進行していくと見込まれる。このことを含め、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を求める労働者側のニーズが強まっていくと考えられる。
自律的・主体的に働き、キャリア形成を図ることを希望する労働者が自らの望む働き方ができるような企業の選択が進むものと考えられる。
企業を取り巻く環境の変化についてみると、今後の経済を維持・向上させていくためには、人材がその意欲を向上させ、能力を発揮することで、イノベーションを後押しするような労働環境整備が求められている。
こうした中、企業が求める人材像等についても変化が見込まれる。
企業には、企業の求める能力を持った多様な人材が活躍できるような魅力ある人事労務制度を整備していくことが求められる。
本検討会では、以上のような経緯や経済社会の変化を踏まえ、裁量労働制については裁量労働制実態調査の結果等を踏まえ、可能なものは速やかに対応していく観点から、その方向性について検討を加えるとともに、今後の労働時間制度の在り方全般について検討を加えた。
次に、「第2 これからの労働時間制度に関する基本的な考え方」です。
まず、「労働時間法制の意義と課題」です。
労働時間法制は、労働者の健康確保のための最長労働時間規制から出発したが、労働から解放された時間の確保のための休憩や休日の規制、そして法定時間外労働や休日労働に経済的負荷を課して抑制するとともに、負担の重い労働に対する金銭的補償を行う割増賃金規制などが一般化した。これらは、使用者が、劣悪な労働条件を利用して市場での競争で優位な立場に立つことを防ぐ、公正競争を保つためのルールともなっている。
労働者の多様化、企業を取り巻く情勢変化に伴って、働き方に対するニーズも多様化し、労働時間規制に対する社会的要請や担うべき政策目的も多様化してきた。現在の労働時間法制が、新たに生じている労使のニーズや社会的要請に適切に対応し得ているのかは、労働者の健康確保という原初的使命を念頭に置きながら、常に検証を行っていく必要がある。
次に、「経済社会の変化に応じた労働時間制度の検討の必要性」です。
労働時間法制は、こうした労使の多様なニーズに対応すべく、法改正を重ねてきた。したがって、労使のニーズに沿った働き方は、これまでに整備されてきた様々な制度の趣旨を正しく理解した上で制度を選択し、運用することで相当程度実現可能になると考えられ、まずは各種労働時間制度の趣旨の理解を労使に浸透させる必要がある。
他方、働き方に対する労使のニーズもより一層多様化し、新たな働き方に対するニーズが生まれてきていると考えられる。労働時間法制が、そのような変化に対応できていない場合には、必要な検討が行われていくべきである。
これらを踏まえると、これからの労働時間制度は、次の視点に立って考えることを基本としていくことが求められる。
第一に、どのような労働時間制度を採用するにしても、労働者の健康確保が確実に行われることを土台としていく必要がある。労働者が健康で充実して働き続けることは、労働者本人の意欲の向上と能力の発揮につながるのみならず、企業の活力や競争力を高めることにも有効である。
第二に、労使双方の多様なニーズに応じた働き方を実現できるようにすることが求められる。特に、時代の変化の中で、自律的・主体的に働く労働者や、創造性を発揮して働く労働者の存在が今後より一層重要になると見込まれることから、そのような労働者が望む働き方を実現することや、そのことを通じて労働者が自らのキャリアを形成していくことを、労働時間制度の面からも支えていく必要がある。
7ページを御覧ください。その際、労働時間法制がこれまで以上に多様化・複雑化し、分かりにくいものとなってしまっては、その履行確保が期待できなくなるおそれがある。このため、労働時間法制は、多様化する労使のニーズに応えられるようにしつつ、可能な限りシンプルで分かりやすいものにしていくことが求められる。
第三に、どのような労働時間制度を採用するかについては、労使当事者が、現場のニーズを踏まえ十分に協議した上で、その企業や職場、職務内容にふさわしいものを選択、運用できるようにする必要がある。労働時間制度の在り方としては、法定労働時間を原則とした上で、企業に対して交渉力の弱い労働者の立場や意見が損なわれることのないよう、法が枠組みを設定し、その枠内では、どのような労働時間制度を採用し、その場合の処遇をどのようにするかについては、労使自治に委ねられていくべきものである。こうした労使による履行確保に加えて、労働時間制度等に関し、企業による情報の発信を促進することにより、労働者による選択や顧客等による評価など、市場の調整機能を通じた労働環境の整備を図っていくことも重要になっていくと考えられる。
ここまでが第2です。
続きまして、「第3 各労働時間制度の現状と課題」です。
まず、「1 法定労働時間、時間外・休日労働等」です。
労働基準法においては、1日8時間・1週40時間を超えて労働させてはならないことを原則とする法定労働時間と、毎週少なくとも1回与えることを原則とする法定休日が定められている。法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合や、法定休日に労働させる場合には、使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合等との間で協定(36(サブロク)協定)を締結し、行政官庁に届け出る必要がある。
働き方改革関連法により、36協定で定める時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間、臨時的な特別の事情があり労使が合意する場合(特別条項)でも時間外労働は年720時間以内、また、36協定の範囲内であっても個々の労働者の時間外・休日労働は月100時間未満・複数月平均80時間以内とする上限規制が設けられ、一部の適用猶予事業・業務を除き、平成31年4月(中小企業については令和2年4月)から施行されている。
働き方改革関連法において、政府は、上限規制の施行後5年を経過した際に検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとされていることから、施行の状況や労働時間の動向等を十分に把握し、上限規制の効果を見極めた上で検討を進めていくとともに、適用猶予事業・業務については着実な施行を図っていくことが求められる。
次に「2 変形労働時間制」です。
変形労働時間制は、季節等により業務に繁閑がある場合に、一定の期間を平均して法定労働時間を超えない範囲で、特定の日又は週で法定労働時間を超えて労働させることができる制度である。
後述するフレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制の今後の実態把握に併せて、変形労働時間制についても実態把握を行い、必要に応じ検討を進めていくことが求められる。
次に「3 フレックスタイム制」です。
フレックスタイム制は、労働者が始業・終業時刻を自ら決めることによって、生活と業務の調和を図りながら効率的に働くことができる制度である。
働き方改革関連法により、清算期間の上限を1か月から3か月とする改正が行われ、平成31年4月から施行されている。
働き方改革関連法において、政府は、改正の施行後5年を目途として検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとされていることから、施行の状況を十分に把握した上で検討を進めていくことが求められる。
次に「4 事業場外みなし労働時間制」です。
事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業場外で業務に従事した場合で、労働時間を算定し難いときに、原則として所定労働時間労働したものとみなし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす制度である。
労使双方の多様なニーズに応じた働き方の実現や情報通信技術の進展、コロナ禍によるテレワークの普及といった状況変化等も踏まえ、この制度の対象とすべき状況等について改めて検討が求められる。
次に「5 裁量労働制」です。
裁量労働制については、第4のとおりとしています。
次に「6 高度プロフェッショナル制度」です。
高度プロフェッショナル制度は、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者が高度の専門的知識等を必要とする業務に従事する場合に、労使委員会決議や本人同意、休日の確保、健康・福祉確保措置等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外にできる制度である。
フレックスタイム制と同様、働き方改革関連法において、施行後5年を目途とした検討が求められていることから、施行の状況等を十分に把握した上で検討を進めていくことが求められる。
次に「7 適用除外(管理監督者等)」です。
労働基準法第41条は、農業、畜産・水産業従事者、管理監督者又は機密の事務を取り扱う者、監視又は断続的労働に従事する者で使用者が行政官庁の許可を受けたものについては、労働時間、休憩、休日の規定を適用除外としている。
管理監督者については、各企業においてどのような者がこれに該当するか、適切な判断が難しいのではないかといった指摘がある。
こうした判断を行うために参考となる裁判例が集積していることや、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度といった各種法規制が整備されてきたこと、産業実態の変化等を踏まえ、適用除外の在り方については改めて検討が求められる。
次に「8 年次有給休暇」です。
年次有給休暇制度は、労働者が心身の疲労を回復させ、健康で充実した生活を送ることができるよう、法定休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与える制度である。
働き方改革関連法により、年5日の確実な取得義務(使用者の時季指定義務)が設けられ、平成31年4月から施行された。政府は、令和7年までに「年次有給休暇の取得率を70%以上とする」ことを目標として掲げていることから、更なる取得率向上のため、より一層の取得率向上の取組が求められる。
年次有給休暇の時間単位取得については、現行制度の下では年5日を限度としている。この限度を拡大・撤廃することは、まとまった休暇を取得するという本来の制度趣旨に沿うものではないとの指摘や、育児・介護をしながら働いている労働者がいるなどの各事業場の様々な事情に応じて限度日数を労使協議に委ねることも考えられるとの指摘があった。年5日を超えて時間単位年休を取得したいという労働者のニーズについては、まずはこうしたニーズに応えるような各企業独自の取組を促すことが必要である。
同制度についても、働き方改革関連法において、改正の施行後5年を目途とした検討が求められていることから、使用者の時季指定義務の施行の状況等を十分に把握した上で、本検討会で指摘があった点を含め、検討を進めていくことが求められる。
次に「9 その他」です。
勤務間インターバル制度は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、健康確保と仕事と生活の調和を図るため、終業時刻から始業時刻までの間に一定時間の休息を確保するものであり、働き方改革関連法により、その導入が努力義務とされ、平成31年4月から施行されている。十分なインターバルの確保は労働者の健康確保等に資すると考えられ、時間外・休日労働の上限規制と併せ、その施行の状況等を十分に把握した上で検討を進めていくことが求められる。当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進していくことが必要である。
テレワークが普及し場所にとらわれない働き方が実現しつつあり、またICTの発達に伴い働き方が変化してきている中で、心身の休息の確保の観点、また、業務時間外や休暇中でも仕事と離れられず、仕事と私生活の区分があいまいになることを防ぐ観点から、海外で導入されているいわゆる「つながらない権利」を参考にして検討を深めていくことが考えられる。
ここまでが第3です。
続きまして、「第4 裁量労働制について」です。
まず、「1 現状認識」についてです。
裁量労働制の趣旨は、業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、労働時間の状況の把握に基づく労働者の健康確保と、法定時間を超える労働について、実労働時間数に比例した割増賃金による処遇以外の能力や成果に応じた処遇を可能としながら、実労働時間規制とは別の規制の下、使用者による実労働時間管理から離れて、業務の遂行手段や時間配分等を労働者の裁量に委ねて労働者が自律的・主体的に働くことができるようにすることにより、労働者自らの知識・技術を活かし、創造的な能力を発揮することを実現することにある。この趣旨については、専門型と企画型とで違いはない。
裁量労働制の運用状況と、それを踏まえた現状と課題については、裁量労働制実態調査の結果から、次のとおり総括できると考えられる。
裁量労働制適用労働者は概ね、業務の遂行方法、時間配分等について裁量をもって働いており、専門型・企画型ともに約8割が制度の適用に満足している又はやや満足していると回答するなど、裁量労働制が適用されていることにも不満は少ない。「仕事の裁量が与えられることで、メリハリのある仕事ができる」と回答する割合も、裁量労働制適用労働者の方が、同様の業務に従事する非適用労働者と比べて多くなっている。
労働者調査による1日の平均実労働時間数は適用労働者が9時間00分、非適用労働者が8時間39分と適用労働者の方が若干長い。
回帰分析によると、労働者の個人属性等を制御した場合には、裁量労働制の適用によって、労働時間が著しく長くなる、睡眠時間が短くなる、処遇が低くなる、健康状態が悪化するといった影響があるとはいえないという結果となった。
専門型では、本人同意は必須ではないが、5割弱の事業場で本人同意が制度の適用要件となっている。回帰分析の結果によると、本人同意のある専門型適用労働者の方が、実労働時間が週60時間以上となる確率が低く、健康状態がよくない・あまりよくないと答える確率も低くなっている。
企画型で設置が義務付けられている労使委員会では対象業務や対象労働者の範囲、使用者が講ずる健康・福祉確保措置等に関する決議を行うこととなっている。回帰分析の結果によると、労使委員会の実効性があると労働者が回答した場合、長時間労働となる確率や健康状態がよくない・あまりよくないと答える確率が低くなっている。
回帰分析の結果によると、専門型・企画型双方について業務の遂行方法、時間配分等や出退勤時間の裁量の程度が小さい場合には、長時間労働となる確率や健康状態が悪くなる確率が高くなっており、また、業務量が過大である等の場合には、裁量労働制が適用されていることの満足度も低くなっている。
他の制度と同様、年収が低くなるに従って裁量労働制が適用されていることの満足度が低くなっており、所定労働時間をみなし労働時間に設定している事業場において、特別手当制度を設けていないようなケースもみられる。
裁量労働制が、裁量をもって自律的・主体的に働くにふさわしい業務に従事する労働者に適切に適用され、制度の趣旨に沿った適正な運用が行われれば、労使双方にとってメリットのある働き方が実現できるものと考えられる。こうした労使双方にとってメリットのある働き方が、より多くの企業・労働者で実現できるようにしていくことが求められる。
一方で、前述のような制度の趣旨に沿ったものとは必ずしもいえない制度の運用実態がみられた。また、労働者側との十分な協議がないまま使用者によって残業代を削減する目的で制度が導入され、裁量がない状態で長時間労働を強いられ、かつ低処遇といった運用がなされれば、労働者の健康確保や処遇確保の観点からも問題がある。そのような裁量労働制の趣旨に沿っていない運用は、制度の濫用・悪用といえる不適切なものであり、これを防止する必要がある。
以上を踏まえ、次の3点を軸に裁量労働制の検討を行うことが適当である。
第一に、裁量労働制の趣旨に沿った運用とするためには、まず、労働者が自らの意思で自律的・主体的に働くことを選択すること、及び業務の遂行手段や時間配分等についての裁量が労働者に委ねられることが当然の前提であり、これらを制度的に担保する必要がある。
第二に、裁量労働制の下で働く労働者の健康と、処遇の確保を徹底することが必要である。健康確保については、働き方改革関連法により労働時間の状況の把握義務が設けられたことを土台とした上で、必要な措置を検討することが必要である。また、処遇の確保については、みなし労働時間の設定の考え方とも関連があることから、こうした点を含めて、労働者の相応の処遇を確保し、制度の趣旨に沿った運用とするための方策について整理が必要である。
第三に、使用者による制度の濫用を防止する観点からは、労使双方が十分に協議しながら、適正な制度運用の確保を継続的に図っていくことが必要である。このため、労使コミュニケーションを通じた制度の運用状況の把握・改善を強化する等、適切な措置を講じていく必要がある。
ここまでが「1 現状認識」です。
続きまして、「2 具体的な対応の方向性」の「(1)対象業務」です。
裁量労働制の趣旨に沿った運用とするためには、労使が制度の趣旨を正しく理解し、職場のどの業務に制度を適用するか、労使で十分協議した上でその範囲を定めることが必要である。
対象業務の範囲については、労働者が自律的・主体的に働けるようにする選択肢を広げる観点からその拡大を求める声や、長時間労働による健康への懸念等から拡大を行わないよう求める声がある。事業活動の中枢で働いているホワイトカラー労働者の業務の複合化等に対応するとともに、対象労働者の健康と能力や成果に応じた処遇の確保を図り、業務の遂行手段や時間配分等を労働者の裁量に委ねて労働者が自律的・主体的に働くことができるようにするという裁量労働制の趣旨に沿った制度の活用が進むようにすべきであり、こうした観点から、対象業務についても検討することが求められる。
その際、まずは現行制度の下で制度の趣旨に沿った対応が可能か否かを検証の上、可能であれば、企画型や専門型の現行の対象業務の明確化等による対応を検討し、対象業務の範囲については、前述したような経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて、その必要に応じて検討することが適当である。
次に「(2)労働者が理解・納得した上での制度の適用と裁量の確保」です。
まず「ア 本人同意・同意の撤回・適用解除」です。
裁量労働制の下で労働者が自らの知識・技術を活かし、創造的な能力を発揮するためには、労働者が制度等について十分理解し、納得した上で制度が適用されるようにしていくことが重要である。このため、専門型・企画型いずれについても、使用者は、労働者に対し、制度概要等について確実に説明した上で、制度適用に当たっての本人同意を得るようにしていくことが適当である。
また、裁量労働制の下で働くことが適切でないと労働者本人が判断した場合には、制度の適用から外れることができるようにすることが重要である。このため、本人同意が撤回されれば制度の適用から外れることを明確化することが適当である。
その際、同意をしなかった場合に加え、同意の撤回を理由とする不利益取扱いの禁止や、同意撤回後の処遇等について、労使で取り決めをしておくことが求められる。
また、業務量が過大である等により労働者の裁量が事実上失われるような蓋然性が高い場合には、裁量労働制の適用を継続することは適当ではない。さらに、労働者に裁量は委ねられているものの、業務に没頭して働き過ぎとなり健康影響が懸念されるような場合も同様である。このため、労働者の申出による同意の撤回とは別に、一定の基準に該当した場合には裁量労働制の適用を解除する措置等を講ずるような制度設計を求めていくことが適当である。
次に「イ 対象労働者の要件」です。
企画型では、対象労働者を「対象業務を適切に遂行するために必要となる具体的な知識、経験等を有する労働者」とする要件が設けられ、その範囲を労使委員会決議で定めることが制度の導入要件とされている。
企画型の対象労働者となり得る者の範囲については、対象業務ごとに異なり得るものであり、その範囲を特定するために必要な職務経験年数、職能資格等の具体的な基準を明らかにすることが必要であるとされ、現行の企画型に係る指針では、「少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経た上で、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であるかどうかの判断の対象となり得るものであることに留意することが必要」とされている。
こうした企画型の対象労働者の要件の着実な履行確保を図るため、職務経験等の具体的な要件をより明確に定めることが考えられる。
専門型では、対象労働者の範囲を労使協定で定めることが制度の導入要件とはされていないが、裁量労働制の下で働くにふさわしい労働者に制度が適用されるようにする観点から、そのような労働者の属性について、必要に応じ、労使で十分協議・決定することが求められる。
なお、裁量労働制を適用するに当たっては、裁量労働によるみなし労働時間制を適用するにふさわしい処遇の確保が要請されると考えられるが、その方策の一つとして、専門型を含め、対象労働者について年収要件を設けることも考えられる。しかしながら、裁量労働制が企業規模を問わず広く適用され、また、その年収水準も企業間で異なっている現状を踏まえると、まずは裁量労働制にふさわしい処遇が確保されるよう労使協議を促していくことが必要である。その際、みなし労働時間制の適用により、時間外労働の時間数に比例した割増賃金による処遇以外の能力や成果に応じた処遇が可能になることも念頭に、賃金・評価制度の運用実態等を労使協議の当事者に提示することを使用者に求める等、対象労働者を定めるに当たっての適切な協議を促すことが適当である。
次に「ウ 業務量のコントロール等を通じた裁量の確保」です。
裁量労働制の下で業務の遂行手段や時間配分等の決定に関する裁量が労働者に委ねられているとしても、業務量が過大である場合や期限の設定が不適切な場合には、当該裁量が事実上失われることがある。このため、裁量が事実上失われたと判断される場合には、裁量労働制を適用することはできないことを明確化するとともに、そのような働かせ方とならないよう、労使が裁量労働制の導入時点のみならず、制度の導入後もその運用実態を適切にチェックしていくことを求めていくことが適当である。
併せて、実態調査結果等を踏まえると、労働者において始業・終業時刻の決定に係る裁量がないことが疑われるケースがみられることから、裁量労働制は、始業・終業時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを改めて明確化することが適当である。
続きまして、「(3)労働者の健康と処遇の確保」です。
最初に「ア 健康・福祉確保措置」です。
裁量労働制では、対象労働者の労働時間の状況を把握するとともに、その状況に応じ、労使協定又は労使委員会決議で定めた健康・福祉確保措置を講ずることとされている。企画型については、その措置として考えられる内容が、指針で例示されており、専門型は、企画型と同等のものとすることが望ましいことが通達で示されている。
まず、労働時間の状況の把握については、現行の指針で定めている内容や、労働安全衛生法に基づく義務の内容を踏まえ、これらの取扱いを明らかにすることが適当である。
次に、健康・福祉確保措置については、一般労働者には時間外・休日労働の上限規制が設けられ、また、当該規制が適用されない高度プロフェッショナル制度適用労働者には複数の措置の実施が制度の要件とされていることと比較すると、裁量労働制の対象労働者の健康確保を徹底するためには、措置の内容を充実させ、より強力にその履行確保を図っていく必要がある。このため、他制度との整合性を考慮してメニューを追加することや、複数の措置の適用を求めていくことが適当である。
なお、専門型の健康・福祉確保措置については、企画型とで差異を設ける理由はないと考えられることから、できる限り同様のものとすることが適当である。
次に「イ みなし労働時間の設定と処遇の確保」です。
現状においては、みなし労働時間は、専門型では「当該業務の遂行に必要とされる時間を定めること」と通達で示され、企画型では「対象業務の内容を十分検討するとともに、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度(略)の内容を十分理解した上で、適切な水準のものとなるよう決議することが必要」と指針で示されている。
前述した裁量労働制の趣旨を踏まえると、みなし労働時間は、制度上は実労働時間と必ずしも一致しなければならないものではない。例えば、所定労働時間をみなし労働時間と定め、実労働時間が所定労働時間を上回る状況にある場合に、その所定労働時間を上回る時間に見合った手当を裁量労働手当として支給することも可能であり、このことは、専門型と企画型とで違いはない。
また、業務の遂行に必要とされる時間を踏まえてみなし労働時間を設定し、通常の労働時間規制・割増賃金規制の水準を考慮した処遇を確保する等した上で、裁量労働制を活用している企業もあり、こうした活用は、裁量労働にふさわしい処遇を確保する一つの手法として、肯定されるべきものである。
これに対して、実際の労働時間と異なるみなし労働時間を設定する一方、相応の処遇を確保せずに、残業代の支払いを逃れる目的で裁量労働制を利用することは制度の趣旨に合致しない濫用的な利用と評価されると考えられる。
以上を踏まえて、裁量労働制におけるみなし労働時間の設定については、次の見直しを行うことが適当である。
まず、みなし労働時間は、対象業務の内容と、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を考慮して適切な水準となるよう設定する必要があること等を明確にすることが適当である。
その際、業務の遂行に必要とされる時間を踏まえ、法定労働時間を超えるみなし労働時間を設定した場合は、当該超える時間に対する割増賃金の支払が求められることになり、そのような方法で相応の処遇を確保することも可能である。一方で、制度上はみなし労働時間と実労働時間を一致させることは求められておらず、実労働時間とは切り離したみなし労働時間の設定も可能である。その際、例えば所定労働時間をみなし労働時間とする場合には、制度濫用を防止し、裁量労働制にふさわしい処遇を確保するため、対象労働者に特別の手当を設けたり、対象労働者の基本給を引き上げたりするなどの対応が必要となるものであり、これらについて明確にすることが適当である。
最後に「(4)労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度運用の確保」です。
まず「ア 労使委員会の導入促進と労使協議の実効性向上」です。
裁量労働制は、労使協定の締結又は労使委員会の決議を制度の導入要件としているが、導入時に設定された諸条件が想定されたとおりに運用されて初めて当該裁量労働制は適切な制度として受容され定着することになる。このことを踏まえると、裁量労働制の導入時のみならず導入後においても、当該制度が労使で合意した形で運用されているかどうかを労使で確認・検証し、必要に応じて制度の見直しをすることを通じて、適正な制度運用の確保を継続的に図ることが期待される。
このため、使用者は労使協議の当事者に対し、裁量労働制の実施状況や賃金・評価制度の運用実態等を明らかにすることや、労使協議の当事者は当該実態等を参考にしながら協議し、みなし労働時間の設定や処遇の確保について制度の趣旨に沿った運用になっていないと考えられる等の場合には、これらの事項や対象労働者の範囲、業務量等を見直す必要があること等を明確にすることが適当である。
企画型について、労使委員会委員に対し、決議の内容を指針に適合したものにするよう促すとともに、指針の趣旨の正しい理解を促す観点から、行政官庁が委員に対し適切に働きかけを行うことも考えられる。
専門型では、労使委員会決議ではなく労使協定の締結が制度の導入要件とされている。専門型では、企画型に比べて深夜・休日労働が多くみられるなど、制度運用の適正化を図る必要がある。裁量労働制では、労使当事者が合意によって導入した制度が、合意した形で適切に運用されていることの検証が重要であることを考慮すると、労使による協議を行う常設の機関である労使委員会を積極的に活用していくことが、当該制度の適正化に資するものと考えられる。このため、専門型においても、労使委員会の活用を促していくことが適当である。
さらに、制度運用上の課題が生じた場合に、適時に労使委員会を通じた解決が図られるようにすることや、労使協議の実効性確保の観点から、過半数代表者や労使委員会の労働者側委員の選出手続の適正化、過半数代表者等に関する好事例の収集・普及を行うことが適当である。併せて、労使委員会の実効性向上のための留意点を示すことが適当である。
次に「イ 苦情処理措置」です。
苦情処理措置については、認知度や苦情申出の実績が低調である実態を踏まえ、本人同意を取る際の事前説明時等に苦情申出の方法等を積極的に対象労働者に伝えることが望ましいことを示すことが適当である。併せて、例えば労使委員会に苦情処理窓口としての役割を担わせるなど、労使委員会を通じた解決が図られるようにすることや、苦情に至らないような内容についても幅広く相談できるような体制を整備することを企業に求めることが適当である。
次に「ウ 行政の関与・記録の保存等」です。
企画型が制度として定着してきたことを踏まえ、現行では6か月以内ごとに1回行わなければならないこととされている定期報告について、その負担を減らすことが適当である。その際、行政による監督指導に支障が生じないよう、健康・福祉確保措置の実施状況に関する書類の保存を義務付けることが適当である。
併せて、手続の簡素化の観点から、企画型の労使委員会決議・専門型の労使協定の本社一括届出を認めることが適当である。
ここまでが第4です。
最後に「第5 今後の課題等」です。
働き方改革関連法は、長時間労働の是正や過労死等の防止を図りつつ、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できるようにするため、柔軟な働き方がしやすい環境整備等を行ったものであり、平成31年4月から順次施行されている。働き方改革の流れを止めるようなことがあってはならず、本検討会で検討を加えた事項についても、裁量労働制に関する事項を中心に、可能なものは速やかに実施に移していくべきである。
また、働き方改革関連法においては、施行5年後に、施行状況等を踏まえた制度の検討を行うこととされているが、これに加えて、労働時間法制について、前述したような経済社会の大きな変化を十分に認識し、将来を見据えた検討を行っていくことが求められる。
その検討に当たっては、本報告書の基本的な考え方を踏まえるとともに、特に次の課題や視点について議論を深めていくことが必要である。
まず、「労働時間法制についての基本認識」です。
まず、労働時間法制の実効性を確保するためには、その必要性が労使をはじめ社会に十分に理解され、広く受け入れられるものとすることが必要である。働き方そのものの変化等を受け止める制度として労働時間法制を考えていく際、各制度の対象となると考えられる労働者像を明確にすることが、労働者保護の観点からも、企業の適切なマネジメントの実現の観点からも必要である。
次に「シンプルで分かりやすい制度」です。
働き方に対する労使のニーズの多様化が今後も見込まれる中で、こうしたニーズに応えられるようにしつつ、労働時間法制が多様化・複雑化し、分かりにくいものとならないよう、現行制度を横断的な視点で見直し、労使双方にとってシンプルで分かりやすいものにしていくことが求められる。そのためには、当事者の合意によっては変更できない枠組みとして法が設定すべき事項と、当該制度枠組みの中で、具体的な制度設計を労使の協議に委ねてよい事項との整理が課題となる。
次に「IT技術を活用した健康確保の在り方等」です。
テレワーク、副業・兼業、フリーランスなど、働き方の多様化が今後も見込まれる中で、働く者の健康確保の重要性が一層増していくものと考えられる。個人情報の保護に配慮しつつ、IT技術の活用などによる健康確保の在り方、多様な働き方に対応した労働時間の状況の把握の在り方、労働者自身が行う健康管理を支援する方策等について、検討を行っていくことが求められる。
次に「労働時間制度等に関する企業による情報発信」です。
現役世代の減少が進み、人材獲得競争の激化が見込まれる中で、企業が、自らに適した働き方を選択したいという労働者のニーズに応え、優れた人材を確保していくためには、企業が労働時間制度やその運用状況等に関する情報を積極的に発信し、その情報を基に、労働者が企業を選択できるようにすることが重要である。このことは、自分の働き方や労働環境が不適切なものとなっていないかを、労働者自身が確認できるようにする観点からも有効である。また、労働時間制度やその運用状況等に関する情報を労使で共有し、協議することで、採用した制度の適正な運用の確保も期待できる。こうした観点から、労働時間制度等に関する企業による情報発信を更に進めていくことが求められる。
最後に「労使コミュニケーションの在り方等」です。
職場の労働者の過半数を代表する労働組合等各企業の実情に応じて労働者の意見が適切に反映される形でのコミュニケーションを図っていくことが重要である。そのため過半数代表制や労使委員会の在り方についても中期的な課題である。
また、今後の労働時間制度について、適切な労使協議の場の制度的担保を前提として、対象範囲や要件等を法令で詳細に規定するといった手法から、制度が濫用されないよう法令で一定の枠組みと手続を定めた上で、その枠内で労使の適切な労使協議により制度の具体的内容の決定を認める手法に比重を移していくという考え方もある。
経済社会の変化や働き方の多様化への対応を行いつつ、労働条件の確保を的確に行うためには、このような方向での見直しも、検討課題の一つになり得ると考えられる。
報告書はここまでが本文でして、後ろに開催要綱とこれまでの開催経緯をつけています。
事務局からの資料の説明は以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、ただいま説明いただきました報告書の内容について御議論いただきたいと思います。
藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 報告書の内容自体はこれで十分だと思っております。
その上で補足的に申し上げておきたいと思います。裁量労働制について検討してきたわけですが、私の認識では、この制度自体はとても良い制度であると思います。ただ、この良い制度を生かすためには、やはり労使あるいはその当事者がしっかりその趣旨を分かった上で利用していくことが必要だと思います。
制度というのはしばしば本来の趣旨とは違った形で利用されることによって、不適切な状態になることがあります。例えば、本来支払うべき残業代を支払いたくないから裁量労働制を使うことは、本来の趣旨からは外れたことになります。あるいは健康被害を発生させるような長時間労働を強いることも避けなければいけません。
制度の趣旨を生かすためにどうすればいいかについて、3点申し上げておきたいと思います。
第1点目が、ある種の標準型を共有するような仕組みがあればいいと思います。例えば、裁量労働制の働き方の標準、労働時間、報酬の相場感について、裁量労働制の対象になろうとしている人あるいは既になっている人たちが情報を共有できるような仕組みです。
では、誰が情報提供するかについては、政府が様々な調査を行って、裁量労働制で働いている人たちの実態を知らせるという手法もあると思いますが、同時に、労働組合の役割でもあると思います。産業別組織あるいはナショナルセンターが裁量労働制という働き方の標準型について世の中に対して発信することです。それを見ながら自分自身の働き方が適切なものかどうかを、裁量労働制が適用されている労働者本人が判断できるように運用していくと良いのではないかと思います。
2点目に、制度を活かすためには、相談できる体制が必要だと報告書に記載されていました。これは企業の中での相談できる機能のことですが、企業の枠を超えて相談できる体制もあっていいのではないかと思います。例えば、労働基準監督署や政府の相談機関、都道府県設置機関などにおいて、自分は裁量労働制の下で働いているが、何か少し変だと思うのだがどうだろうかといった相談ができる場があると良いのではないかと思います。
例えば、採用されていきなり裁量労働制を適用され、年収もそんなに高くなく、やたら労働時間が長いという状況が適切な状態なのか等を相談できる場所が必要だと思います。
3点目に、裁量労働制は、仕事の納期までの取り組み方については御本人に任せる働き方ですが、現場では、裁量労働制適用労働者に別の業務を依頼することがしばしば起こっています。これが長時間労働になる原因の一つだと思います。裁量労働制の下で働くということがどういう働き方なのか、それを第一線の管理職がしっかり理解し、裁量労働制適用労働者には基本的に追加で業務を依頼してはいけないという現場レベルでの運用の仕方について、管理職の教育がさらに必要だと思います。
いい制度をどう活かすかという点で、もう少し工夫するとより良くなる余地がいろいろな面であるなと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
川田先生、お願いします。
○川田構成員 ありがとうございます。
私も、報告書(案)の中身に関しては、この検討会の議論がうまくまとめられているため、特に意見等はありません。
その上で、感想を述べたいと思います。
1つは、この検討会の中で最も重点を置いて検討してきた裁量労働制に関しては、この報告書の中に盛り込まれているような色々な論点があるわけですが、雇用の現場や、労働者、個々の企業の人事担当者、使用者等に、裁量労働制の趣旨と本来あるべき姿がどういうもので、それに沿った使い方をしたときに労使双方にどのようなメリットがあるのか、逆にどういう使われ方をしたときに問題があるのかといったような点を、例えば、労働者側が知ることができる、少なくとも知りたいと思ったときに信頼できる情報をどういうところから得ることができるかが分かる、あるいは企業の人事担当等の方が先ほど挙げたような点についてしっかり説明できるといったようなことが可能な状況が広がるように推し進め、裁量労働制を本来の趣旨に沿った形で社会に定着させていくということが一番の課題だと思います。
私の勤務先が社会人大学院であり、院生の方と話をしたりしていると、まさにその辺が各職場の労使の間で十分な理解があるとはいえないのではないかと思われるようなケースもあるように思われ、制度としてしっかりとしたものをつくるということと並んでそれが雇用の現場でうまく使われるようにするために、職場における理解を促すことがとても重要だと思いました。
また、個人的にはこの検討会の議論に参加してきて、実態調査に基づく綿密なデータや分析結果を踏まえた議論ができたというところが印象深く、また有意義であったかと思います。法律学においては、データに基づく検討の重要性も認識される一方で、伝統的には国内外の司法判断や学説における議論等の文献を検討する点に重きが置かれるため、今回検討会に参加して、データを見て考え、議論に反映させることが一定程度はできて、有意義だと改めて思いました。
政策的には予算の制約等もあるかと思いますが、今後もこのような実態調査を適宜行って、その結果を踏まえた検討をしていくことが大事であり、可能な限り実施されるべきなのではないかと思います。
最後に、この検討会は1年という、扱うテーマの大きさにしてはタイトな期間の中ではありましたが、その中で、裁量労働制などに重点を置きながらも、労働時間制度の全体を見た議論や制度間の関係性、その時々の状況に応じた法改正について、今日の視点で見たらどうなのかということも、私なりに一定程度この検討会の中で考えて、発言等に反映させることができたと思っています。その時々の課題に応じた法改正を全体を通じて見直してみることも重要だと思いました。
この検討会の中で議論された中で、労使委員会制度等の枠組みの中での労働者側の代表も関与した形で個々の企業における労働時間制度の設計や運用を考える仕組みや、時代の状況にあった労働からの解放を図る仕組みなどについては、将来に向けて、労働時間法制全体の在り方に大きな影響を与えるような、引き続き検討するに値する重要な点だと思っております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
堤先生、お願いします。
○堤構成員 ありがとうございます。
裁量労働制の適用労働者に対する健康確保に関連して、今回の報告書では、労働安全衛生法の義務内容を踏まえることや、対象者の健康確保の徹底のための措置を充実させるといったこと、それから働き方改革関連法に関連する労働時間状況の把握の仕方を土台とするといったことが盛り込まれたことは大変好ましく、評価をさせていただいています。
一方、裁量労働制の適用労働者は非適用労働者に比べて平均的には労働時間は長くはないという結果ではありますが、長時間労働の割合は若干多いという点や、個々の労働者に関しては長時間労働になりやすい、それから専門型では深夜・休日労働も多いといったような事実もありますので、課題にも書かれているようなITを活用した健康確保の在り方や、働き方に対する労働時間の状況の把握、それから労働者自身が健康管理を行っていけるような支援については、できるだけ早く機能するようになることを期待しています。
また、リスクが発生する場合には、制度的に労働者の不利にならないような形で裁量労働制の適用を一時停止できることにすることについて、うまく機能することを期待したいと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
小畑先生、お願いします。
○小畑構成員 ありがとうございます。
検討会でいろいろ発言させていただいた内容を踏まえて、報告書(案)を作成していただき、大変ありがたく存じております。
これからの労働時間制度を考える上で、従来の労働者像にプラスしていく労働者像はどのようなものかについて一言申し上げたいと思います。
仕事柄、同窓生を引き合わせるということが多いのですが、以前は、お互いに自分の名刺を1枚出して交換していました。しかし、数年前から、それぞれ3種類ぐらいの名刺を出して交換しているということが増えております。20代、30代で主たる勤務先を持ちつつ、CEOでもある。例えば、主たる勤務先に勤めつつ、医学とビジネスの両方の知識を持つ人を集めて、育児しつつ仕事でも活躍したい女性に、母体と赤ちゃんの健康についてのアドバイスと同時に、職場やキャリアでの問題についてのアドバイスもする会社を起業して、各種会社と契約して、会社という顧客を持ちつつ、CEOでもあるというような方も出てきました。
また、御自身が留学先でとてもよくしてもらったことの恩返しに、本業のほかに留学生からの相談に乗るボランティアをして、母国の貧しい子供たちに教育の機会を与えたいという留学生のためにスポンサーを探して、プロジェクトに必要なノウハウを教えて、軌道に乗せるという事業を行っている方もいます。
それから、少し前のことになりますが、地元の商店街の店主が皆さん御高齢なもので、観光客がPayPayは使えるのかということになって、そのお手伝いをして全ての店に導入し、商店街を元気にしたという事例もあります。
本業もしっかりと成果を出して、やりがいも感じているが、本業以外でも社会や世界や地域に貢献したいと願い、実際にそういう活動をしている。さらに、要介護一歩手前の親や、思春期の子供などの家族との時間も大切にしているような人たちにとって、主たる勤務先での労働ももちろん大切ですが、それ以外の時間もとても貴重で、大切なものとなっています。
今後のことを考えていきますと、デジタル化はもちろんのこと、副業・兼業が増えたり、高齢の親を抱える労働者が増える。それから、環境配慮、SDGs、災害ボランティアを子供の頃から教えられてきた社会貢献に積極的な世代が労働市場に入ってくるといったような変化があると考えられます。そうした中で、いろいろな局面で自分を磨きたい、いろいろな経験をしていきたいと考える労働者が増えていくということも、プラスして考えていくことが、これから重要になっていくのではないかと考えています。
○荒木座長 ありがとうございました。
島貫先生、お願いします。
○島貫構成員 ありがとうございます。
まずは、このような形で報告書(案)を取りまとめていただいてどうもありがとうございます。
今回の報告書の中には、今後の労働時間制度や企業による労働時間管理に関して非常に重要な点が含まれていると個人的には思っています。
人事管理の立場から考えますと、労働時間制度の適用と運用を区別して、何をすべきなのかを考えてきたということが一つ大事かなと思っています。重要なところはたくさんありますが、まず、適用のところに関しては、これから労働者の皆さんが主体的・自律的な働き方をしていく中で、納得して本人が働くことが非常に大事だと思っていまして、この報告書の中でいうと、本人同意、同意の撤回、適用解除というところに当たると思います。
労働者の方が、自分の働き方を理解して、納得して、それを選ぶということと、もしそれが不適切だと判断した場合には、その働き方から変わるということ、それに加えて、本人の意思だけに依存しない、より客観的な指標で制度的に管理していくことを併せて考えていくことが大事だと思っています。
運用に関しては、労使協議や労使コミュニケーションの在り方と、情報公開や情報共有の在り方が重要であり、労働時間制度の趣旨を労使がきちんと共有し、かつ、制度の内容を正しく理解をして、そして、その運用について相互にモニターをしながら、適切に管理していくことがまず求められていると思っています。
そのときの情報共有の在り方については、労使の間で労働時間や評価、処遇などの制度の実態を情報共有し、その中で真摯に議論していくことが大事です。そのときに、どういう情報を共有するのかについては、エビデンスに基づいて議論をしていくということと、必ずしもデータに表れてこない個別の事案についても、労使の議論の中にきちんと取り上げ、改善をしていくことが大事だと考えます。
もう一つは、労使の中での議論が中心になるとしても、労使当事者の間だけで議論を閉じるのではなく、自社の労働時間管理や健康管理の在り方が労働市場全体や社会通念的に見て適切な水準にあるのかを労使が分かった上で議論することも同時に大事だと思います。企業の優れた事例の共有に加えて、不適切な事例の情報共有も必要だと思いますし、労働市場全体として適切に労働時間管理制度が運用されているのかについての情報が共有されていると、労働者が自らの働き方を見直すこともできると思いますし、取引先や顧客からの評価や社会的な評価にもつながってくると思っています。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
先生方からそれぞれコメントをいただきましたけれども、報告書(案)の内容については御異論はないと受け取りました。本日御確認いただきました報告書(案)につきましては、これを本検討会の報告書としてまとめることにさせていただきたいと思いますが、御異存はないでしょうか。
(「異議なし」と声あり)
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、これで報告書をまとめるということにさせていただきます。
なお、報告書の公表に当たっては、事務局には、必要な字句の修正等があれば、その点については対応をお願いしたいと考えております。
それでは、今回で最後ということになりますので、一言私からお礼を申し上げたいと思います。
昨年7月から1年間にわたって、今回で第16回目ということで、大変密に検討を行っていただきました。毎回貴重な御意見をいただいたところです。
この報告書では、裁量労働制のみならず、労働時間制度全般を俯瞰しながら検討を行っていただきました。とりわけ労働者が非常に多様化してくる、働き方が多様化する、そして先ほど小畑先生から御発言がありましたが、働き方のみならず、生き方や生活の仕方が多様化している、そういう中で様々な個人のニーズに対応できるような労働時間制度も考えなければいけないということは、何度もこの検討会でも話題になったところです。そうしたことも踏まえて、労働時間制度全般にわたって、制度のあるべき方向についても御議論いただきました。
そして、メインで検討いたしました裁量労働につきましては、大変貴重な実態調査があり、これをさらに精密に回帰分析等も行っていただいて、議論を積み重ねていただきました。そして、労働時間制度全体の中における裁量労働制はどういう趣旨と意義を持った制度なのかについて掘り下げた検討も行っていただき、報告書として、明確な立場を取りまとめることができたのではないかと考えております。
参加いただいた先生方には、1年間にわたり大変真摯な御議論をいただきましたことに改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。
また、最後に事務局の皆さまには、私どもの議論を支えるために準備をいただきまして、大変献身的に御尽力をいただきました。皆様のおかげでこの報告書がまとまりましたので、その点についてもお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。
それでは、ここで検討会の最後に当たって、青山審議官から一言お願いできればと思います。
○審議官(労働条件政策・賃金担当) 労働基準局担当審議官の青山です。
本来であれば労働基準局長の鈴木が参るところですが、急な別の公務が生じまして、こちらに参加できず大変恐縮ですが、私のほうから一言御挨拶を申し上げたいと思います。
委員の皆様には、昨年7月から1年間にわたりまして、大変お忙しい中、毎回熱心な御議論を賜りまして、誠にありがとうございました。
労働時間制度につきましては、働き方改革関連法が施行されて、働く方が健康を確保しつつ、ワーク・ライフ・バランスを図り、能力を有効に発揮することができる労働環境整備を進めておりますが、そうした中で、この検討会では裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って、労使双方にとって有益な制度となるよう御議論いただいたと思います。
委員の皆様からは、今日の皆様の御発言にもありましたとおり、社会経済の変化から現場のニーズの分析等に至るまで、幅広い視点で専門的な御知見を踏まえた貴重な御意見をいただきました。このような濃い御議論をいただきました委員の皆様には、本当に心から感謝を申し上げたいと思います。
今後は、本日取りまとめをいただきましたこの報告書の内容を労働政策審議会に報告いたしまして、検討を進めていきたいと思っております。
委員の皆様、これまで誠にありがとうございました。心から感謝いたします。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、これで「これからの労働時間制度に関する検討会」は終了とさせていただきます。1年にわたり御協力いただきまして、どうもありがとうございました。