第15回これからの労働時間制度に関する検討会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和4年7月1日(金) 17:00~19:00

場所

厚生労働省省議室

議題

労働時間制度について

議事

議事内容
○荒木座長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第15回「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催いたします。
委員の皆様におかれましては、御多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。
本日の議題に入る前に、前回検討会を開催してから事務局に異動がございました。
まず事務局より説明をお願いいたします。
○労働条件政策課課長補佐 事務局です。
事務局の異動につきまして御紹介をさせていただきます。
まず、労働基準局長の鈴木です。
続いて、総務課長の古舘です。
次に、労働条件政策課労働条件確保改善対策室長の田上です。
どうぞよろしくお願いいたします。
○荒木座長 ありがとうございました。
本日の検討会につきましても、新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点から、会場参加とオンライン参加双方による実施とさせていただきます。
なお、本日、堤先生は所用のために御欠席であり、また、小畑先生も所用のため途中から参加されると伺っております。
それでは、カメラ撮りはここまでということでお願いします。
本日の議題に入ります。
初めに、前回検討会で川田構成員より質問がありました件について、事務局より回答をお願いしております。その後、資料1について説明をいただくという形で進めたいと思います。
まず、事務局からお願いします。
○労働条件政策課課長補佐 事務局です。
まず、前回の検討会におきまして、川田構成員よりコアタイムなしのフレックスタイム制においても、一日の最低労働時間が決まっている場合と決まっていない場合があり、特定の日に労働者が働かない日があるということについての現行制度についての御質問をいただきました。
こちらの考え方については、コアタイムのないフレックスタイム制であって、労働契約において所定休日以外の日の各日について必ずしも労働することを求めないとした場合などにおいて、労働者が所定休日以外の日にも休みを取り、例えば選択的週休3日制を導入することは可能です。
続きまして、資料1について御説明させていただきます。
こちらは、これまでの検討会の議論について整理の骨子(案)としてお示しさせていただいているものです。
1ページ目から順に御説明させていただきます。
最初の項目が<労働時間制度に関するこれまでの経緯と経済社会の変化>です。
1つ目として、労働時間制度に関するこれまでの経緯です。
労働時間法制は、これまでも、時間の状況に合わせて累次の改正。
裁量労働制については、平成25年度労働時間等総合実態調査の有意性・信頼性に係る問題が発生。働き方改革関連法の国会審議を踏まえ、実態を再調査した上で検討することとされた。統計調査が改めて実施され、令和3年6月に同調査結果の公表。
同調査結果の労働政策審議会への報告を経て、裁量労働制を含めた労働時間法制の在り方を検討することを目的として、本検討会が開催。
2つ目として、経済社会の変化についてです。
少子高齢化や産業構造の変化が進む中で、近年ではデジタル化の更なる加速や、新型コロナウイルス感染症の影響による生活・行動様式の変容が、労働者の意識や働き方、企業が求める人材像にも影響。
コロナ禍でのテレワークの経験等により、労働者の意識も変化。時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を求めるニーズが強まっていく。
デジタル化の進展に対応できるような、創造的思考等の能力を有する人材が一層求められていく。企業は、企業の求める能力を持った多様な人材が活躍できるような魅力ある人事労務制度を整備していく必要。
本検討会では、労働時間制度に関するこれまでの経緯や経済社会の変化を踏まえ、裁量労働制とともに、労働時間制度の在り方全般について検討。
ここまでが<労働時間制度に関するこれまでの経緯と経済社会の変化>の項目についてです。
続きまして、<これからの労働時間制度に関する基本的な考え方>の項目です。
労働時間法制は、労働者の健康確保のための最長労働時間規制から出発したが、労働から解放された時間の確保のための休憩や休日の規制、そして法定時間外労働や休日労働に経済的負荷を課して抑制するとともに、負担の重い労働に対する金銭的補償を行う割増賃金規制などが一般化した。
労働者の多様化、企業を取り巻く状勢変化に伴って、働き方に対するニーズも多様化し、労働時間規制に対する社会的要請や担うべき政策目的も多様化。現在の労働時間法制が、新たに生じている労使のニーズや社会的要請に適切に対応し得ているのかは、労働者の健康確保という原初的使命を念頭に置きながら、常に検証を行っていく必要があるのではないか。
2ページ目を御覧ください。
労使のニーズに沿った働き方は、これまでに整備されてきた様々な制度の趣旨を正しく理解した上で制度を選択し、運用することで相当程度実現可能なのではないか。まずは各種労働時間制度の趣旨の理解を労使に浸透させる必要があるのではないか。
他方、様々な変化が進む中で、働き方に対する労使のニーズもより一層多様化。労働時間法制がそのような変化に対応できていない場合には、必要な見直しが行われていくべきではないか。
これらを踏まえ、これからの労働時間制度は、次の視点に立って考えることを基本としていくことが求められるのではないか。
第一に、どのような労働時間制度を採用するにしても、労働者の健康確保が確実に行われることを土台としていくことが必要ではないか。
第二に、労使双方の多様なニーズに応じた働き方を実現できるようにすべきではないか。その際、可能な限り分かりやすい制度にしていくことが求められるのではないか。
第三に、どのような労働時間制度を採用するかについては、労使当事者が、現場のニーズを踏まえ十分に協議した上で、その企業や職場、職務内容にふさわしいものを選択、運用できるようにすべきではないか。
ここまでが2つ目の項目、<これからの労働時間制度に関する基本的な考え方>です。
続きまして、<各労働時間制度の現状と課題>の項目です。
働き方改革関連法により設けられた時間外・休日労働の上限規制等については、施行後5年経過時に検討することとされており、施行の状況や労働時間の動向等を十分に把握し、その効果を見極めた上で検討すべきではないか。
フレックスタイム制は、コアタイムのないフレックスタイム制を導入する企業もみられるなど、今後も制度の普及が期待されるのではないか。
事業場外みなし労働時間制を適用してテレワークを行う場合には、一定の要件を満たす必要があり、情報通信技術の進展等も踏まえ、この制度の対象とすべき状況等について改めて検討が必要ではないか。
どのような者が管理監督者に該当するか各企業でより適切に判断できるようにする観点等からの検討が必要ではないか。
働き方改革関連法により、年5日の確実な取得義務(使用者の時季指定義務)が設けられており、更なる取得率向上のため、より一層の取組が求められるのではないか。
時間単位年休の取得については、年5日を超えて時間単位年休を取得したいという労働者のニーズに応えるような各企業独自の取組を促すことが必要ではないか。
勤務間インターバル制度については、時間外・休日労働の上限規制と併せ、その施行の状況等を十分に把握した上で検討を進めていくことが求められ、当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進していくことが必要ではないか。
いわゆる「つながらない権利」を参考にして検討することが考えられるのではないか。
ここまでが<各労働時間制度の現状と課題>の項目についてです。
続きまして、<裁量労働制について>の項目です。
裁量労働制が、制度の趣旨に沿った適正な運用が行われれば、労使双方にとってメリットのある働き方が実現できる一方で、制度の趣旨に沿っていない運用は濫用・悪用といえる不適切なものであり、これを防止する必要があるのではないか。
裁量労働制の見直しに当たっては、以下を軸として検討すべきではないかということで、3点挙げています。
1点目が、労働者が理解・納得した上での制度の適用及び裁量の確保、2点目が、労働者の健康及び処遇の確保、3点目が、労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度運用の確保です。
続きまして、対象業務として、対象業務の範囲については、労働者が自律的・主体的に働けるようにする選択肢を広げる観点からその拡大を求める声や、長時間労働による健康への懸念等から拡大を行わないよう求める声がある。裁量労働制の趣旨に沿った制度の活用が進むようにする観点から、対象業務についても検討すべきではないか。
対象業務の範囲については経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて見直される必要があるのではないか。
続きまして、本人同意・同意の撤回・適用解除です。
裁量労働制の下で労働者が自らの知識・技術を生かし、創造的な能力を発揮するために、労働者が制度等について十分理解し、納得した上で制度が適用されるようにしていく必要があるのではないか。
裁量労働制の下で働くことが適切でないと労働者本人が判断した場合には、制度の適用から外れることができるようにする必要があるのではないか。
裁量労働制の適用を継続することが適当ではないと認められる場合の対応を検討すべきではないか。
続きまして、対象労働者の要件についてです。
企画型での対象労働者を「対象業務を適切に遂行するために必要となる具体的な知識、経験等を有する労働者」とする要件の履行確保をより図るべきではないか。
裁量労働制にふさわしい処遇が確保されるようにする必要があるのではないか。
続きまして、4ページ目です。
業務量のコントロール等を通じた裁量の確保です。
裁量が事実上失われるような働かせ方とならないようにする必要があるのではないか。
始業及び終業の時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねることを徹底すべきではないか。
健康・福祉確保措置についてです。
労働時間の状況の把握について、制度間の整合性をとるべきではないか。
健康・福祉確保措置について、裁量労働制の対象労働者の健康確保を徹底するための対応を検討すべきではないか。
みなし労働時間の設定と処遇の確保についてです。
みなし労働時間は、対象業務の内容と、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を考慮して適切な水準となるよう設定する必要があること等を徹底する必要があるのではないか。
例えば所定労働時間をみなし労働時間とする場合の裁量労働制にふさわしい相応の処遇を確保し、制度濫用を防止するために求められる対応を明確にすべきではないか。
次に、労使委員会の導入促進と労使協議の実効性向上です。
労使協定又は労使委員会決議に際し、賃金・評価制度の運用実態等も参考にしながら、労使が協議を行うことを促進すべきではないか。
みなし労働時間の設定や処遇の確保について制度の趣旨に沿った運用になっていないと考えられる場合の対応を明確にすべきではないか。
専門型の制度運用の適正化を図るため、労使委員会の活用を促すべきではないか。
制度運用上の課題が生じた場合に、適時に労使委員会を通じた解決が図られるようにすることを検討する必要があるのではないか。
続きまして、苦情処理措置についてです。
苦情処理措置の認知度や苦情申出の実績が低調である実態を踏まえて対応する必要があるのではないか。
5ページ目です。
行政の関与・記録の保存等についてです。
定期報告について、企画型が制度として定着してきたことを踏まえるとともに、健康・福祉確保措置の実効性確保の観点から対応する必要があるのではないか。
企画型の労使委員会決議・専門型の労使協定について届出を簡素化する必要があるのではないか。
ここまでが<裁量労働制について>の項目です。
最後に<今後の課題等>です。
働き方改革関連法施行5年後の検討規定に基づく検討や、将来を見据えた検討に当たっての課題を整理する必要があるのではないか。
ここまでが資料1のこれまでの議論の整理の骨子案です。
事務局からの資料の説明は以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
事務局より、これまでの本検討会の議論の整理について説明をしていただきました。
本日はこれに沿って議論していただきたいと考えております。
資料の整理の骨子案は、5つの柱からなっていますので、この5つの項目を1つずつ議論できればと考えております。
まず、最初の<労働時間制度に関するこれまでの経緯と経済社会の変化>という項目です。これについて皆様から自由に御意見を伺えればと考えております。
オンラインの先生方も、適宜手を挙げてお知らせください。
藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 この間の経済社会の変化の中で、やはり新型コロナウイルス感染症への対応として、テレワークを無理矢理始めたというところがとても大きな点だったと思います。
その前からテレワークは必要だと言われていましたが、できない理由があげられて、各企業はそんなに取り組んでいなかったと思います。
しかし、無理矢理やらざるを得ない中で、やってみたらうまくいくという感覚で今ここまで来ていると思います。
そのため、テレワークあるいは在宅勤務といった働き方に対して、どういう制度を当てはめて対応していくのかは、まさに今のいろいろな労働時間制度の枠組みの中で、対応できるもの、あるいは少し形を変えていく必要があるものがあると思います。経済社会の変化の中で述べられているコロナ禍でのテレワークの経験は、労働時間制度のこれからの在り方を考えていく上で非常に大きなきっかけになったと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
小畑先生、お願いします。
○小畑構成員 ありがとうございます。
今、藤村先生がおっしゃったことと重なりますが、テレワークを始めたことによって、通勤時間がなくなるということを歓迎する向きがあると思います。
また、コロナの感染拡大に伴い、同居の家族以外と交流できなくなった子供たちや高齢者に何かあったときに、普段であれば、家まで帰ってきてやっと対応できるところが、労働者が近い距離にいたことによって非常に解決がうまく図れたことから、在宅ワークのありがたみが非常に実感されたという面があるのではないかと思います。
また、学生たちの就活先が、オンラインで労働を提供するのであれば、日本で今までどおり自宅に居住しながら、海外の会社と労働契約を締結して働くということが選択肢に入ってきたと感じております。その点なども今後大きく影響してくる可能性もあるのではないかと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
テレワーク、在宅ワークというのは、予想以上に労働時間の考え方あるいは働き方に大きな変化をもたらしているという御指摘だと思います。
最初の項目はかなりマクロ的な議論をしておりますけれども、ほかに何か御意見等はございますでしょうか。
黒田先生、お願いします。
○黒田構成員 ありがとうございます。
事務局におかれましては、これまでの議論を分かりやすくまとめてくださってありがとうございます。
今、両委員からも御意見が出ましたけれども、今起きている大きな変化を以前の状態に戻してしまうのではなく、コロナ禍で生じた新しい働き方やニーズをできるだけ支援をしていくような法制度の整備が必要というメッセージを反映するように案をまとめてくださったものと理解しております。
今回、2ページ目の上から4つ目以降、第一、第二、第三という○の中に大枠をまとめてくださっています。この中の「第二」の「可能な限り分かりやすい制度に」という文言に関しては、私がこれまでの検討会で何度かシンプルな制度にしていくべきと申し上げてきたことを取り入れていただいたと理解しております。
この点に関連してですが、「分かりやすい制度」というワードは、「第二」に入っていますけれども、「第一」と「第三」にも通じますので、再度言及させていただきたいと思います。
これまで日本の労働市場は他国と比べて相対的に流動性が高くないと言われてきたわけですが、過労を強いるような働かせ方をする企業で我慢しながら働き続けるのではなく、そうした企業からは労働者が退出していくという、労働市場の調整機能メカニズムを活用することを通じて、労働市場全体で労働者の健康確保を行っていくことが今後の日本には求められていくことになると思います。
その調整機能が働くためには、労働者にも企業にもできるだけ分かりやすい制度にしておくこと、つまり誰の目からも法令違反をしているかどうかが明らかであることが重要であり、そうすることが「第一」の健康確保につながっていくと思います。
また、できるだけシンプルな誰でも理解できるルールを整備することで、労使の対話が円滑になるということにもつながります。この意味で、「第三」の論点にも通じるものと整理できると思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
様々な論点につながる重要な御指摘をいただきました。
島貫先生、お願いします。
○島貫構成員 ありがとうございます。
経済社会の変化について、1つだけコメントさせていただきたいと思います。
先ほど事務局の資料のところで、デジタル化やコロナ禍に伴うテレワークの普及と、創造的思考ができるような人材が求められるという話がありました。今後の労働時間制度を考えていくときに、必ずしも正規ではなくて、非正規で働いている有期のフルタイムの方やそれ以外の働き方をしている方もいらっしゃると思いますし、仮に同じ正規の方であったとしても、兼業・副業といった働き方もあるので、多様な人材が自分自身のニーズを満たしていくような働き方を検討していくというのは、より広い意味での労働者の皆さんを対象としているということを補完していただけるとありがたいと思っております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、第1の柱はほかの論点にも関係しますので、またお気づきの点があれば御指摘いただくこととし、第2の柱に移ることにいたします。<これからの労働時間制度に関する基本的な考え方>という部分です。この部分についてもどうぞ御自由に御議論ください。
藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 日本の企業で働いている人たちの一部が長時間労働になっていて、健康を害するような状況になってしまっている。それに対して何らかの規制が必要だということが出発点だと思います。
そもそもなぜ長時間労働になるのかというところなのですけれども、世の中ではメンバーシップ型で職務無限定なので長時間労働になるという整理がされますが、日本の企業において日々の仕事の中で担当業務が決まっていない職場はありません。それだと職場は回りませんから、担当業務は決まっています。でも、それ以外のことも頼まれたらやるという働き方をしているのが日本の職場です。職場の中に十分な人員が配置されていればそんなに長時間労働にはならないはずですが、この間、いろいろな事情で職場の中の人員配置が厳しくなっています。職場で新たな課題が発生したときに、上司から「ちょっとこれやって」と頼まれると、心優しい従業員たちは「はい、分かりました。」と言って、それを受け止めて、本来の自分の仕事以外のこともやっています。
職務無限定であることがよくないという批判をする方々もいますが、私は担当業務以外のこともするのは日本の職場のいいところだと思うのです。ただ、それが行き過ぎてしまって、結果として健康被害が出るような長時間労働になってしまっている。
そのため、そもそもなぜこういう議論をしなければいけなくなったのかというところに言及したほうがいいのかなと思います。
人事の方や労働組合の人たちとお話をするときに、割と厳しめに言うようにしています。特に労働組合の役員たちに対して、「皆さん恥ずかしいと思ってください。皆さんがちゃんと36協定を守らせなかったがゆえにこういう問題が発生しているのですよ。」とお話ししています。労働組合として、組合員を守ることができていないので、政府が労働時間に関する様々な規制を入れてきている。人事もまさに従業員のお世話をしている部署ですから、適正な時間管理ができていないことをまずは恥ずかしいと思ってくれという発言をしています。そのため、基本的な考え方として、そもそもなぜ長時間労働になってしまうのかという認識については、一言書いておいたほうがいいかなと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
小畑先生、お願いします。
○小畑構成員 ありがとうございます。
M字カーブがだんだんフラットになってきていることが指摘されていますが、正社員として採用された学生さんがワークライフバランスをどのように取っていくか、また、育児休業や介護休業、そして、育児休業が終了した後の育児や要介護一歩手前の家族のケアといったことを考えつつ、せっかく就いた職であるからずっと続けたいと思ったときに、看護休暇や年休の時間単位取得をやりくりして、また、フレックスタイム制や裁量労働制などを活用して、難局を切り抜けて正社員として働き続けることができてきたという面があると思います。
そうした意味では、どのような制度があるのかを検討、研究して、そして、自分がワークライフバランスを取りながら働いていくために、制度を組み合わせることも含めて活用して、正社員としての生活を続けてきているという充実感を持たれている方はやはりいらっしゃる。
それにプラスして、例えば年休の時間単位取得をさらに進めるのか、それとも、それでは年休の趣旨とは異なるので、そこまでは必要ないのか。また、何らかの措置を必要とする方がいた場合に、どのような制度で汲み取っていけるかということは課題ではあるという意味で、次の<各労働時間制度の現状と課題>というところで検討するべきことなのかもしれませんが、現在までの労働時間制度の発展が柔軟な働き方を可能にしてきたことにより、恩恵を受けている労働者もいる。さらにここから先どうするかということがその延長線上、もしくは新たな側面から検討されることになると思っております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
川田先生、お願いします。
○川田構成員 これまでの議論を踏まえた形で的確に要点をまとめられているのではないかと思います。労働時間制度に求められる役割として、当初から存在していた健康確保に代表されるような、時代を超えて常に求められるものと、経済社会の変化を踏まえて、新しく求められるようになってきているものがある。特に後者については現行法の枠の中でどこまで対応していけるかということも大事であり、うまく対応できていないところについて制度の見直しを考えるという流れで整理されていると思うのですが、全体的に時代を超えて求められるものと新しい時代の変化の中で求められることがバランスよく、肉づけされていくといいなと思いました。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
労働時間制度に関する基本的な考え方としては、労働者の健康確保から出発しました。これは藤村先生が最初に指摘してくださった原初的な意義でして、働き方改革としても時間外労働の上限規制などが入ったというわけです。
その後のところで書いてあるのは、そういう原初的な労働時間規制の意義のほかに、在宅ワークなどの多様な働き方を可能とすることによって、様々な問題を抱えていても働き続けられるような労働時間制度を用意することも労働時間規制の重要な任務と考えられるようになってきました。そこで、多様で柔軟な働き方を許容するような労働時間制度の必要性も高まってきているということも踏まえて書いてあるように思います。
もう一点、今回、裁量労働制が大きなテーマになっております。裁量労働制がもともと要請された当初の議論は、1日8時間、週40時間を超えると必然的に1.25倍の割増賃金を払う、時間比例で割増賃金が発生するという労働時間規制は、働き方の実態に照らして合理性がない場合があるのではないかという問題も指摘されたところです。労働時間規制の中に割増賃金規制があることによって、企業あるいは労働者の賃金制度の設計に一定の制約が生じている。それが合理的なものになっているかという観点からの議論がもう一つ要請されてきたと思います。
そういったことを踏まえて、新しい働き方に対して合理的な制度というものを考えていこうということではないかと思います。
この点について、先ほど黒田先生からも御指摘があったように、第一、第二、第三というような形で考え方を示してあり、特に黒田先生からはシンプルな分かりやすい制度ということの意義を再度強調していただいたということと承ったところです。
それでは、次の第3の柱に移りたいと思います。<各労働時間制度の現状と課題>についてもどうぞ御自由に御議論ください。
藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 2つ申し上げたいのですけれども、一つは事業場外みなし労働時間制です。情報通信機器の進展で、今どこにいるかについては、GPS機能のついているスマートフォンであれば瞬時に分かるようになっています。そういう機器を使えば、労働時間の管理ができないわけではありません。実態として、ある社労士によると、実は中小企業ではこの事業場外みなし労働時間制が悪用されているようだというのです。
労働時間を把握できないのでこういう制度が入ってきたのですが、情報通信機器の進展によって労働時間の把握が可能になってきているので、やはり実態に合わせて変えていく必要があると思います。
もう一点は、年次有給休暇に関するものです。年5日間の使用者の時季指定義務によって取得率が確実に上がってきており、とてもいいことだと思います。
もう一つの時間単位で年休を取得するというのは、今、5日間が上限ですが、一部でそれをもっと増やしてくれという要望がある。ただ、実際にはそんなに多くの労働者がそれを希望しているわけではないという実態が調査から明らかになっています。
年次有給休暇というのは、やはりまとめて休むというのがヨーロッパの考え方です。ILO第132号条約では、一つの固まりは少なくとも2週間以上でなければならないとされている。まとめて休むということが本来の有給休暇の意義であり、時間単位で取れる部分を大きく増やしていくのは制度の趣旨に反するのではないかと思います。
時間単位年休の取得については、実態から見て、そんなに今は拡大をするような状況ではないのではないと思っております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
小畑先生、お願いします。
○小畑構成員 「つながらない権利」については、業務量が過大で精神疾患を発症する労働者が増加しているということを考えますと、休みを取って完全にオフにするということの意義はあります。そういった意味では「つながらない権利」は検討に値するものだと考えています。兼業・副業が積極的に推奨されるようになっていく中で、兼業先・副業先で働いている間は本業先のことは忘れて働くため、既につながらない状態は起こっていると考えられ、常に我が社の社員であることを忘れるなということはもはや言えない状況が生まれたということを実感している次第です。
労働時間以外の時間についての受け止め方について注視していく必要があるのではないかと考えております。
以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
黒田先生、お願いします。
○黒田構成員
「つながらない権利」や勤務間インターバルという話をこれまでも何度かこの検討会でしてきたと思いますが、その際に休息時間や解放時間という言葉について荒木先生からも御指摘がありました。とても重要な点ですので、私からも少しだけ提案させていただければと存じます。
これまで、一つの企業が何時間働かせたかということを厳格に管理することで健康を確保していくという発想でずっと来ました。それ自体は非常に重要ですが、この検討会では、それに加えて、どれだけ休息を確保できるかという発想を今後普及させていく必要があるということで、コンセンサスが形成されてきたと感じております。
では、どのように休息、解放時間を担保していくかということになるわけですが、法律で働かせない時間を規定するという方向性に加えて、現代の情報通信技術を積極活用していくことも重要だと思います。先ほど小畑委員から、副業・兼業する方にとっては、その副業している時間は本業先の企業からはつながっていない時間になっているという御指摘がありましたが、そうした方が今後増えていく可能性があります。また、先ほど島貫委員からも御発言がありましたけれども、今後は、一つの企業には雇用者として勤めながら、別の場所ではフリーランスとして働くような人も増えてきており、時間帯によっては企業に所属しない働き方をする人々の健康管理も今後の重要な視点です。
勤め先の企業では労働から解放されていても、その解放時間を使って別の場所で労働をする人々も今後増えていくという可能性を踏まえて、そうした人たちの健康も考えていく必要性が出てきているという意味で、一つの企業が従業員の健康管理をしていくことは難しい時代になってきており、今後は情報通信技術などを活用しながら、セルフケアの支援に軸足を移していくことが求められてくると思います。本業先の企業が情報通信技術を活用したログの管理などで労働時間や解放時間をきちんと記録していくということも重要ですが、それと同時に、個々人による情報通信技術活用を通じたトータルの休息時間の確保や健康管理を企業がサポートしていくという視点も必要なのではないかと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
島貫先生、お願いします。
○島貫構成員 ありがとうございます。
各労働時間制度ということで、フレックスタイム制度などを挙げてくださっていますが、高度プロフェッショナル制度についても言及いただくとよろしいかと思っています。高度プロフェッショナル制度の中には、本人同意や対象業務の要件、処遇水準、健康確保措置など、自律的な働き方を考えていくための重要なポイントが入っているかと思いますので、そちらについても触れていただけるといいと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
川田先生、お願いします。
○川田構成員 労働時間制度は全体としては長時間労働に対する歯止めと柔軟化のニーズへの対応とある程度セットで進めてきたようなところがあると言えるところであり、労働時間制度の全体をある程度見渡すようなまとめ方が大事なのではないかと思います。
検討会の中では全ての制度についてじっくりと議論したわけではないところもありますが、一通りは出てきていると思いますし、もし十分に論じ切れないところがあったとしても、課題というような形で意識してまとめていくということが考えられると思います。
また、全体を見渡す議論の中で、個々の制度について見るときに、できるだけ関連する制度との関係なども意識しながら見ていくのがいいと思います。
例えば時間外・休日労働の上限規制は、おそらく議論の方向性としては、制度上既に予定されている見直しを的確に行うことが一番大事だと思いますが、労働時間制度全体の中での上限規制の意義としては、労働時間の柔軟化のニーズに対応するところは対応する中で、ある意味ではそうした対応を進めるための前提として原則的な部分で長時間労働に歯止めをかけて健康確保を図るための制度の柱というような意義が労働時間制度の中ではあると思うので、そうした視点ができるだけ盛り込めればいいかと思います。
また、骨子に上がっていないこととしては、例えば変形労働時間制については、昭和62年に労基法が改正されて労働時間が短縮されたときに、スムーズに時間短縮を進めていく一つのやり方として、メリハリをつけて所定労働時間を設定できるのであればそうするという選択肢として導入あるいは拡充されたという意味合いが大きいかと思います。
今日では週40時間制はかなり定着していると思いますので、その中で、新しくできた上限規制との関係などを踏まえて、制度の意義や課題を改めて検討する必要があると思います。
同じような話で、事業場外労働みなしについてはテレワークとの関係が挙がっています。もともと一番の問題は制度の導入要件のうち、条文上の労働時間を算定し難い場合に当たるかどうかというところであったと考えられ、これまでの議論の中では労働時間を算定し難いことを根拠づける要素として、労働者本人に連絡を取って労働時間の状況を把握することが難しいということが主として念頭に置かれていたといえます。テレワークの場合には、この点について、家庭で労働者が働いているところを使用者が事細かく監視するようなことがいいのかというような、若干別の視点が入り得るかもしれないというところであり、ここもそうした今日的な意義を改めて検討する必要性が大きいところかと思います。
管理監督者についても、もともと一般的な労働時間規制を適用しない仕組みがそれほど多くなかった時代に、法が本来想定していたと考えられる範囲を超えて管理監督者として扱う傾向が生まれて、名ばかり管理職と言われる問題が起きたという背景があったと言えると思うのですが、その後に裁量労働制や高度プロフェッショナル制度などが整備されていく中で、法整備の経緯などを踏まえて今日的な管理監督者という制度が労働時間制度全体の中で果たすべき役割を検討するという課題があるかと思います。
最後に、勤務間インターバルや「つながらない権利」に関わるような柔軟な働き方のニーズが高まっていることや、情報通信技術の発展などを背景としてということになるかと思いますが、労働時間制度の基本的な意義の中では、労働からの解放の保障の在り方については時代の変化に応じて新しく考えていくべき点が多いのではないかと考えており、そのあたりも可能な範囲でこの課題に盛り込んでいけるといいかと思っております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、よろしければ次の4番目の<裁量労働制について>に入りたいと思います。裁量労働制の部分について、何かお気づきの点があればお願いいたします。
小畑先生、お願いします。
○小畑構成員 時間を上手に使って自分を磨き続けたい、副業も含めて多様な人と交流して、自由な発想で新たな価値を創造していきたいという方々が意味のない長時間の拘束をよしとしない、それから、自分の裁量で労働時間を塩梅して働きたいという考え方を持っていた場合に、日本の会社でそれがどの程度できるか。もしくは自ら起業するのか、外国の企業に勤めるのかといったことをいろいろ考えていく際に、最初に藤村先生から、ふさわしくない裁量労働制の一つの例として、自分が仕事を終えても、ほかの仕事があるとそれを上司からやりなさいと言われてしまって全然効率的ではないという例があると御指摘があったと思うのですが、周囲と切り離されて独立して仕事ができる場合でないと、自らの仕事を効率よく終えても、周囲に引っ張られて長時間拘束されてしまうといった、到底裁量を持った働き方とは言えない状態に陥ってしまうというのは一つの悲劇だと思われます。
また、裁量をもって喜んで働いていった場合にも、知らず知らずのうちにどんどんのめり込んでしまって長時間労働に陥ってしまうということもあり得るだろうと思います。
主に前者の場合は、上司以外に相談できる先があることに意味があるのではないかと思います。業務量のコントロールをどうにかしてほしいとは上司に言いにくい。しかし、ほかに言う場所があれば大変好ましいし、また、このままでは打開できないという場合に裁量労働制の適用を外れることができる仕組みもやはり用意すべきです。それから、裁量労働制の適用を外れて通常の労働時間に戻った場合に不利益な取扱いを受ける心配がないようにすることも健やかな制度の持続という意味で重要だと思います。
また、そもそもそうした事態とならないために、最初に適用されるに際して丁寧な説明がなされて、納得して同意するプロセスが大切だということも言えるかと思います。
それから、仕事に没頭するあまり、知らずに長時間労働に陥って自分で止まることができないというケースが続出するようですと、本人以外が適用を解除するという仕組みも設ける必要が出てくると思いますので、裁量労働制をやめる、裁量労働制の適用を外すということについての整理が必要だと考えております。
以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。 藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 裁量労働制という働き方に合った仕事とそうではない仕事というのがやはりあるはずで、変な使われ方をしている裁量労働の現場を見ると、本来これは裁量労働でやるべき仕事ではないものを裁量労働という名の下にやらせている。結果としてどうなっているかというと、長時間労働になっているのに本来支払うべき時間外手当が払われていない。会社側からするとある種の節約になっている。そのあたりをどのように適正に運用していくかについて検討することが必要だと思います。
例えば、新卒で入社していきなり裁量労働制の対象となるのはやはり考えにくい。ある程度業務経験を積み、どういった仕事が求められているのかが分かってから適用されるのが本来のあるべき姿だと思います。例えば未経験で入ってきて、3年以内は対象にはならないという話や、あるいはふさわしい処遇、特に年収で幾らぐらいなど、これはなかなか決めにくいのですけれども、やはり裁量労働制で働いている人たちの相場感、例えば、世の中で裁量労働という制度で働いている人たちは、少なくとも年収で500万円もらっているので、年収300万円の人が裁量労働というのは変だというようなことを、法律で縛るというよりも、実態の情報が共有されることによって変な使われ方がなくなっていくということがおそらく一番いい方向かと思います。
黒田先生が先ほどおっしゃった、変な働かせ方をされているのだったら、そこから退出する、つまり、企業としてはちゃんとした条件あるいは働かせ方をしていないと、労働者がいなくなる。それは非常に大きな歯止めになると思うのです。これは法律ではなくて別の仕組みでということになります。この報告書の中にはなかなか書きにくい点かもしれませんが、裁量労働制が本来の在り方として使われるには、そういう部分も必要かと思っています。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
川田先生、お願いします。
○川田構成員 ありがとうございます。
2点述べさせていただきたいと思います。
一つが、この項目全体の中で「制度の趣旨に沿った適正な運用」というのがいろいろなところで出てくる一つのキーワードかと思います。今後肉づけしていく中で、裁量労働制の制度の趣旨がどういうものかについては少し丁寧に議論を整理していく必要があると思っています。
特に、裁量労働制で働く労働者の処遇が適正であるということも、制度を適切に運用する、濫用的な使い方を排除して労使双方にとってメリットがある働き方になるようにしていくという上では非常に重要な点であるということが言えるわけです。
一方、法律の条文を見る限りは、例えば制度の導入要件の中に処遇の在り方についての要件等がないという特徴が高度プロフェッショナル制度と比べると割とはっきりしてくるのかなと思うのですが、処遇の適切さについて、特にみなし労働時間の設定を実労働時間と切り離して、能力や成果に応じた処遇を徹底していくということがどこまで制度の趣旨として読み込めるのか、あるいは制度の趣旨とは切り離された適切な運用のための留意点として整理していくことになるのかは考える必要があると思います。
裁量労働制は能力や成果に応じた賃金制度とするのに相対的に適した制度であるとは言えると思います。そういうところを制度の趣旨にどこまで読み込んでいくかについては少し丁寧に整理する必要があると思います。
もう一点、個人的には労使委員会の制度をうまく機能させるということが大事なことの一つなのではないかと思っています。恒常的に存在する委員会形式の組織で、制度を導入した後も適切に運用されているかどうか等をチェックするということがとても大事なことだと思いますし、うまく機能させることで制度の適正な運用が期待できます。実際に労使委員会が機能していることでいい影響が出ているというような調査結果も出ているので、このあたりは個人的には重要な点として強調することが望ましいと思っております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。 川田先生から制度の趣旨という話がしばしば出てきており、その意味を確認しておく必要があるというご指摘がありました。今回、3ページの一番下あたりでも、「裁量労働制にふさわしい処遇が確保される必要がある」ということが書いてあるのですが、これは条文にそのようなことが明記してあるわけではありません。
そこで、改めて労働時間制度全体を見て考えますと、労働時間制度には実労働時間を把握して、それによって規制する実労働時間規制、これは普通の8時間、40時間を超えてはいけないという規制です。これを柔軟化させるのが変形労働時間制度やフレックスタイム制ですけれども、これも実労働時間規制です。そして自由度の高い働き方として、フレックスタイム制と裁量労働制の違いがこの検討会でも議論になりました。
フレックスタイム制はもちろん始業終業時刻を労働者本人が選べる自由な働き方ですけれども、働いた時間は実労働時間で把握し、それが平均で週40時間を超えた場合には割増賃金を払わなければいけない。あくまで実労働時間に比例した割増賃金規制がかかる実労働時間規制の中の一つの制度です。こういう形で働く方がふさわしい方も沢山おられるだろうと思います。それに対して、裁量労働制の場合は実労働時間規制ではない新しい制度、私は特別規制と言っていますけれども、実労働時間ではないみなし労働時間制というもので対応する制度です。そのため、みなし時間を所定労働時間とした場合には、割増賃金規制が直接適用されないことになります。
そのように割増賃金規制の適用がない労働時間制度としては、高度プロフェッショナル制度がそうでありますし、伝統的な労基法41条の適用除外の場合は割増賃金規制も適用がない。そして高度プロフェッショナル制度の場合は1075万円という年収要件がありますし、管理監督者の場合は、管理監督者の地位にふさわしい処遇がなされていることが明文規定はありませんが適用除外となるための解釈上の要件となっています。このように、割増賃金規制が適用除外となる場合には、やはり処遇の面できちんと対応がなされているということを前提にしているわけです。そうすると、裁量労働制の場合にあっても、このみなし労働時間制を適用する上では、裁量労働制にふさわしい処遇というものが制度上要求されるという解釈は十分にできると考えられます。
このように、成果主義やいわゆる年俸制による処遇がふさわしい働き方の人たちが増えてきたときの受け皿として、いわば実労働時間規制ではない特別の受け皿として、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度、適用除外が用意されてきて、これが適正に運用されるためにどういう制度でなければいけないのかを今議論しているのだと思います。
それから、今回、裁量労働制の対象業務の範囲について拡大を求める声があったところでありますけれども、これは裁量労働制という現行の制度の下で、その制度の趣旨に沿った受け止めがどこまでできるか。解釈上、現行制度の下でも十分受け止めることができるのであれば、対象業務の明確化を図ることによって対応できるでしょうし、それは困難であるという場合には、新しい働き方が展開していく中で新しい制度を用意するということになっていくと思います。そこで、まずは現行制度の下でどこまでの対応が可能なのかを確認しておくことが必要ではないかと考えています。
裁量労働制について、ほかに何か御発言はございますか。
藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 苦情処理について、実際に裁量労働で働いている人たちが苦情処理機関に申し出た件数は非常に少ないです。
では、不満がないかというとそんなことはなくて、どうやってそれが解消されているかというと、例えば上司と直接話し合って、本来の趣旨とは違う状態になっているのを解決したり、労働組合があれば労働組合に相談をして、そこで解決したりするなど、苦情処理機関には乗らないけれども、その手前でいろいろな問題が解決されているというのが日本の職場の実態だと思います。
苦情処理機関というととてもハードルが高くて、そこに持ち込むというのは意を決して行うことになります。それこそ場合によっては会社側と対決するぞというくらいの感覚を持っているので、その手前のもっとインフォーマルな形で解決していけるような仕組みが現実には動いている。それをもう少し制度的に位置づけることができれば、裁量労働制の本来の趣旨とは外れた働き方になっているときに、それを解決する道がもっと見えやすくなってくるのかなと思っています。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
川田先生、お願いします。
○川田構成員 ありがとうございます。 裁量労働制も含めて、働き方の柔軟化を支えるような制度がうまく機能するというときに、それにふさわしい仕事であることや、働き手がふさわしい能力・経験等を持っているということ、それから、制度を導入する際の労使間でのコミュニケーションなども含めた適切な手続が、事前、それから、制度導入後も行われることといった点がある程度共通に言えるのではないかと考えています。
そういう観点からは、企画業務型裁量労働制は対象業務、それから、対象労働者について制度導入の手続があり、また、労使委員会制度があるということで、事後的なチェックも制度的な基盤としてはあるということになると思いますが、専門業務型裁量労働制のほうは対象業務で絞ってしまうということと思いますが、対象労働者というのは特に要件の中には入っていません。ただ、先ほど述べたようなことからすると、専門業務型裁量労働制についても適切な人に適用するという視点は大事だろうと思いますし、これは、制度を改正しなくても、現行法の中で例えば職場で労使コミュニケーションを取りつつ、この制度を適用するのにふさわしい人はこういう人だという観点から、社内のルールとして対象労働者の要件的なものを設定していくことも考えられ、そういうものは現行法の枠の中でも望ましい扱いとして後押しされるということはあってもよいかと思いますので、そういうことも報告書の中で取りまとめていくときの検討に値すると思っています。
制度を適切に運用していく中で、情報の共有や説明をどこでどういう形で行うのかについては、重要な視点だと思います。先ほど出てきたインフォーマルな枠組みの中で制度を適切に運用するということを考えるときにも、従業員あるいは特にほかの労働者の上司に当たるような方に制度の知識や望ましい運用はこういうことだということが情報や知識として伝わっていることが大事で、使用者からそういう立場にある人に適切な情報提供等が行われ、労使コミュニケーションの中で適切な情報共有がされるというようなことが大事です。制度を適切に動かしていく上で必要な情報をどこでどういう形で流通させるか、あるいは共有するかという視点は全体的に重要だと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。 藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 今日の参考資料にありますけれども、例えば労使委員会の実効性があると、健康状態が悪いと答える確率が低くなったり、メンタルヘルスに与える影響も悪いところが割と軽減されていたりという調査結果もありますので、やはり労使委員会や労使がしっかり話し合って進めていくというところを実効性のあるものにしていくことがとても大事だと思います。そのため、苦情処理委員会の手前で相談できる場所を設定するというのもひとつあるかと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
裁量労働制の場合は、様々な健康確保措置などをどうするかという、制度を設計する段階も重要ですが、それが適切に運用されているかを確認することが非常に重要で、そのためには、導入のときに過半数代表者と協定すればそれで足りるということではなく、その後のフォローアップをする制度や機関がないとやはりうまくいかないという御指摘が多々あったと思います。そういう意味では、労使委員会という常設の機関が対応するということの重要性が指摘されているのだろうと思いました。
最後に<今後の課題等>について何か御意見等があればお願いいたします。
藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 働き方改革関連法の施行が進んでおり、5年後見直しが入っていますから、実際にいろいろな法律を新たにつくり、あるいは一部を変えて、その結果どうだったのかをしっかり検証した上で、次に何をやるかというのが本来あるべき手順だと思います。
そういう観点から言うと、この働き方改革関連法がどういうふうに世の中に受け入れられ、定着しているか否かを踏まえた上で、そのさらに先を検討することが最も現実的かなと思っています。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
島貫先生、お願いします。
○島貫構成員 ありがとうございます。
労使コミュニケーションという観点で情報共有が重要だと思います。そのときに何を情報共有するのかが大事で、例えば、裁量労働制の趣旨や仕組みについてお互い理解するというような情報共有もあると思いますが、運用実態に関わる情報共有も忘れずに行っていくことが大事だと思います。いわゆるエビデンスに基づいて労使が協議できる、コミュニケーションを取れるという環境をつくっていく必要があるだろうということです。また、企業にとっての様々なステークホルダーが、その中には顧客や投資家も入ると思いますが、企業の労働時間制度の活用や運用を評価する、それによって企業がどういう働く場を労働者に提供しているのかが社会的に評価されていくような方向に進んでいければいいのではないかと思っています。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
本日の議論を踏まえて、事務局で改めて議論の整理を行っていただければと思います。
それでは、最後に事務局から次回の日程について説明をお願いします。
○労働条件政策課課長補佐 次回の日程、開催場所につきましては、追って御連絡いたします。
○荒木座長 それでは、本日の検討会は以上といたします。
お忙しい中、御参加いただきましてどうもありがとうございました。