第14回これからの労働時間制度に関する検討会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和4年5月31日(火) 10:00~12:00

場所

厚生労働省省議室

議題

労働時間制度について

議事

議事内容
○荒木座長 それでは、ほぼ定刻で、皆様おそろいですので、ただいまより、第14回「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催いたします。
委員の皆様におかれましては、御多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。
本日の検討会につきましても、新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点から、会場参加とオンライン参加双方による実施とさせていただきます。
なお、本日、小畑先生は、所用のため、欠席されると伺っております。
それでは、カメラ撮りはここまでとさせていただきます。
はじめに、ヒアリング議事概要について、事務局で資料を用意していただいておりますので、説明をお願いいたします。
○労働条件政策課課長補佐 事務局です。資料3を御覧ください。
こちらは、第11回の本検討会において非公開で行った企業へのヒアリングの概要です。
専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制の双方の適用者がいる、従業員数300名以下の情報通信業の企業でした。
このヒアリングの概要につきましては、厚生労働省のホームページにも掲載することを予定しておりますので、御紹介させていただきます。
資料3の御説明は、以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
続きまして、事務局で資料を用意していただいておりますので、説明をお願いいたします。
○労働条件政策課課長補佐 事務局です。
今回は、労働時間制度全般について、第9回に引き続き御議論いただきたいと思っております。
資料1-1は、第9回検討会でもお示しした経済社会の変化等に関する資料です。
資料1-2は、第9回検討会や、その他これまでの議論を踏まえまして、これからの労働時間制度を考えるに当たっての視点として、大きく3点に整理できるのではないかと考え、事務局において先生方からの御意見を整理したものです。
その3点は、1点目は、労働者の健康管理は確実に行われることを土台とすること、2点目は、労使双方の多様なニーズに応じた働き方を実現できるようにすることが求められること、3点目は、労使当事者が十分に協議した上で選択・決定し、適正な制度運用を確保すること、です。
こういった形で、資料1-2については整理させていただいておりますので、順次、御説明させていただきます。
まず、資料1-1です。
こちらは、第9回で御紹介した資料について、一部時点修正しておりますけれども、ほぼ同じものですので、簡単に御説明させていただきます。
まず、おめくりいただきまして経済社会の変化です。
2ページ目ですけれども、日本の人口の推移を見ますと、既に減少局面を迎えておりまして、今後は15から64歳の現役世代の減少がさらに進む見込みとなっています。
3ページ目です。
この人口構造の変化を見てみますと、2000年から2025年にかけて急増しておりました65歳以上人口は、2025年から2040年にかけては、増加が緩やかになる見込みです。他方で15から64歳人口が2025年から2040年にかけて減少がさらに進むという見込みになっています。
4ページ目です。
就業者数の推移を見てみますと、労働力人口の中でも就業者の大層が雇用者であるという状況が続いておりまして、2020年において雇用者が就業者に占める割合は約9割となっています。
5ページ目です。
産業構造についても変化していまして、製造業で働く労働者が減って、代わって第三次産業での就業者が増えています。
6ページ目です。
こちらは、企業が考える人生100年時代に求められる能力についての調査ですけれども、自ら考え、行動することのできる能力などの割合が高くなっているものです。
7ページ目です。
こちらは、人手の過不足状況に関する調査ですけれども、現場の技能労働者に次いで、研究開発等を支える高度人材、あるいはシステム・アプリケーション等を開発する高度人材などが大いに不足または不足していると感じられているというものです。
8ページ目です。
今後の見通しを踏まえた企業の将来の人材戦略に関する調査ですけれども、「人材活用の方向性」については、「雇用や人材の育成を重視する」が、「人件費の配分」については「年齢に関わりなく能力・成果に応じた登用を進め、正社員の年功賃金割合を小さくする」がそれぞれ高くなっています。
「人材マネジメントの方向性」については、「中途採用を強化する」が最も高く、次いで教育訓練・能力開発を進める、が高くなっています。
9ページ目です。
賃金制度につきましては、管理職層、非管理職層ともに役割・職務給の導入率が増加しています。また、非管理職層においては、年齢・勤続給の導入率が減少しているということが見られます。
10ページ目です。
ここからは、デジタル化による働き方の変化についての資料です。
11ページ目です。
AI等による従業員の担当業務の代替に関しましては、部門によって状況は異なっておりまして、総務、人事、生産、調達・仕入で強い影響を受けることが予想されているというものです。
12ページ目です。
デジタル化関連の項目に対する変革についての企業の考えですけれども、「デジタル活用の視点からの業務プロセスの見直し」が、推進されるとする企業が53.3%、「デジタルトランスフォーメーション」が推進されるとする企業が47.0%となっています。
13ページ目です。
AI等の進展・普及が雇用・労働に与える影響についてです。こちらは、「経理、給与管理等の人事部門、データ入力係等のバックオフィスのホワイトカラーの仕事が減少する」ことについて、自社に当てはまると考えている企業が55.2%。「人が直接対応することが質・価値の向上につながるサービスに係る仕事が増加する」と考えている企業が45.0%などとなっています。
14ページ目です。
AI等が普及する中での今後の人事労務施策の変化についてですけれども、「必要な人材について、現在より、直接雇用ではなく社外に業務委託する傾向が強まる」「必要な人材について、現在より、内部規制ではなく即戦力を企業外から採用する傾向が強まる」については、当てはまるとする割合が高くなっています。
「将来の幹部候補を、新卒一括採用・内部育成で確保する度合いが今よりも弱くなる」「新卒採用について長期雇用を意識しないで採用する度合いが強まる」については、「当てはまらない」とする割合が高くなっています。
15ページ目です。
こちらは、第8回の本検討会で、野村総合研究所の光谷様から御説明いただいた資料ですけれども、AIが普及する中では、AIが人を単純に代替するのではなく、人がAIを使いこなし、ヒトならではの業務にシフトして、AIと共存していくことになることが考えられると御説明いただいたものです。
16ページ目です。
これも光谷様から御説明いただいた資料ですけれども、そのようにAIと共存をしていくためには、データサイエンティスト等の「AI活用のエキスパート」に加えまして、「創造的思考」、「ソーシャルインテリジェンス」、「非定型対応」といった、AIが担えないことを得意とするエキスパートも必要となると御説明いただきました。
17ページ目です。
こちらは、同じく第8回の本検討会で、日本総合研究所の山田様から御説明いただいたものですけれども、今後求められる人材ポートフォリオの在り方としては、いわゆる日本型の正社員のみならず、プロ型の正社員や限定正社員、トップマネジメント層などが併存する形が考えられると御説明いただきました。
18ページ目です。
ここから、コロナ禍等による労働者の意識変化等についてです。
まず、19ページ目です。
テレワークの実施率の推移を見てみますと、2020年2月から5月にかけて急激に上昇した後、最初の緊急事態宣言の解除とともに低下傾向でしたけれども、2度目の緊急事態宣言が発出された2021年1月には再び上昇しています。その後、3度目の緊急事態宣言が発出されましたけれども、その後、40%台で推移しています。
20ページ目です。
テレワークの実施状況を職種別に見てみますと、職種によってテレワークの実施状況の増加幅は大きく異なっておりまして、「生産現場職」「運輸・保安職」の増加幅は限定的となっています。
21ページ目です。
コロナ禍収束後の働き方等の変化の可能性について、労働者に尋ねた調査ですけれども、変化が「起こり得る」「どちらかと言えば起こり得る」とした回答の合計は、「時間管理の柔軟化」については約5割となっていまして、「テレワークの普及」については約4割となっています。
22ページ目です。
テレワークを行うことによる仕事の生産性・効率性等の変化について、労働者に尋ねた調査ですけれども、「仕事の生産性・効率性」と「仕事を通じた充実感・満足感」については、いずれも「低下する」の割合が「上昇する」の割合を大きく上回っています。
他方で、「ワークライフバランスの実現度」については、「上昇する」の割合が「低下する」の割合を上回っています。
23ページ目です。
こちらは、テレワーク実施者の今後の継続意向及び非実施者の実施意向についての調査です。
テレワークを実施した方の大半が継続してテレワークを実施することを希望しています。また、テレワークを実施していない方の中にも、テレワークをしてみたいと思っている方が存在しているということが分かるデータとなっています。
24ページ目です。
こちら副業・兼業に関してですけれども、副業を希望する雇用者も実際に副業をしている雇用者もともに増加傾向にあるというデータになっています。
資料1-1は、以上です。
続きまして、資料1-2です。
こちらは、冒頭申し上げましたとおり、第9回で、今ご説明した資料1-1の資料を用いて議論していただいたときにいただいた御意見を、3つの視点に分けて整理したものです。
1つ目が、労働者の健康確保についてです。
簡単に御意見を御紹介させていただきますと、一番上ですけれども、安衛法の労働時間の状況の把握、医師の面接指導等を土台として、健康確保措置を考えていく必要があり、労基法・安衛法で考え方を統一していくべきではないか。
次のポツですけれども、しっかりとした労働時間の状況の把握をしていると、適切に健康管理ができる一方で、厳密な労働時間の管理が制度の趣旨に合わない場合もあって、規制が創造的な働き方を阻害してはいけないのではないか。
その下です。現状は、個々の要因で健康管理のリスク評価がなされているが、将来的には総合的なリスク管理と、その評価を目指していくことが考えられるのではないか。
その下です。働き過ぎに対する歯止めをかける仕組みとして、時間の長さに着目した規制をかけるケースが増えており、使い方次第では柔軟な働き方の足かせになってしまう。予防的な色彩が強い場合は、いろいろな手段が考えられるのではないか。
その下です。どういう働き方であっても健康を害することがあってはいけないというのが大前提。絶対的に睡眠時間が取れないという状況は許容できないが、様々な健康リスクのコントロール要因を考慮して対応していくべきではないか。
一番下です。いわゆるつながらない権利について、生活の充実とあわせて考えてよいのではないか。
このような意見をいただいています。
2ページ目です。
2つ目として、多様なニーズへの対応について整理しています。
同様に一番上から御紹介させていただきます。今の労働時間制度の仕組みは分かりにくく、様々な制度を整理すべきではないか。それぞれの制度の趣旨・目的が明示されていく必要があり、創造性の発揮であれば、労働時間だけではなく、業務遂行の裁量も必要といった目的による違いが明確になるとよいのではないか。
2番目です。労働法規は公法上の刑罰を念頭に置いていたが、労働市場のチェック機能を活用したほうが、コストが少なく、目的を達成できることがある。労働市場への情報公開を義務付けるようなルールも検討することが考えられるのではないか。
その下です。コロナ禍を受けてますます時間的・場所的拘束を受けない働き方を望んでいる方もいる。また、副業・兼業の労働時間管理をどうしていくかということも課題ではないか。
その下ですけれども、労働者がこれ以上働けないと言えないのであれば、制度として縛っておくべきではないか。
次に、働き方の多様化に伴い、労働時間制度も多様化してきた。労働時間規制の原初的な意義は健康確保、公正競争であったが、労働時間制度への期待が多様化してきているのではないか。
その下です。時間・場所を自ら決定したい労働者のニーズに応えることも期待されているのではないか。
次に、労働者が自分の望む働き方の実現を可能にするための労働時間制度を考える際には、企業のマネジメントも重要なのではないか。
このような意見をいただいています。
最後に3ページ目です。
こちらは、労使当事者による選択・決定と適正な制度運用の確保について整理させていただいた意見です。
賃金支払の基準としての労働時間と、健康管理の基準としての労働時間が混同されているようであって、賃金支払の基準をどう設定するかは労使自治が基本である一方で、健康を害するような働き方の歯止めをかける指標として、労働時間が議論されてきているのではないか。
その次のポツです。どの労働時間制度を選ぶか、適用された後に外れることができるかという観点で、本人の同意を尊重していくべき。一方で、本人の意思のみに依存し過ぎることなく、重要な健康管理のための指標を適切なレベルで考えていくべきではないか。
その次です。労働時間制度全体の在り方を見たときのポイントは3点あるのではないかということで、1点目として、制度をうまく機能させるためのサポートが必要ではないか。
2点目として、制度の運用実態をチェックしていくことも重要ではないか。
3点目として、報酬の支払い方が労働時間の長さではないというのであれば、そこをどう公正に評価するのか、使用者は制度の趣旨を踏まえたマネジメントの在り方に十分留意する必要があるのではないか。
最後ですけれども、考え方としては、労働時間制度は労使が決める形と、反対に、制度を細かく決めて適切に使っていかなければ国が介入していく形が考えられる。この両極端の中間で動いていくのではないか。
このような意見をいただいていますので、それをまとめたものが資料1-2です。
資料の説明は、以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
事務局より資料1-1は、経済社会構造の変化、働き方の変化、意識の変化というマクロの問題についてまとめていただき、資料1-2は、第9回の検討会における皆様の御意見を、3点に整理して御説明いただいたところです。
それでは、いずれも相互に関連していると考えますので、今、御説明いただいた資料1-1、1-2について、皆様から自由に御意見をいただければと思います。
川田先生、お願いします。
○川田構成員 この検討会の中でも議論が重ねられてきた中で、労働時間制度の全体を見るようなお話にも関わる議題なのかなと思います。そういう観点から、まず、資料1-1に関してですが、これは本当にマクロ的な社会の動きに関連づけた話ですので、私がお話ししたいことも俯瞰的な話になりますが、私なりに印象深かった点として、マクロの日本社会を取り巻くいろいろな状況が変わっていく中でも、比較的長期にわたる雇用であるとか、あるいは、いわゆる正社員の雇用については、それなりに重きを置こうと、これからも重きを置いていこうとする動きがあるのかなということが、データから感じられたという点が1つあります。
そういうことを前提といたしますと、労働時間制度、これは個別にというよりは、全体として見ていく中での視点ということになると思いますが、1人の労働者が1つの企業の中で、ある程度長い期間、働き続けるような状況も、今後ともそれなりにあるのだということを踏まえた上での、その中での人の成長であるとか、あるいはその人のライフステージが変わっていく中での、その時々の生活との調和といったようなことは、労働時間制度を考える上でも視点として考えていく必要性が強いということになるのではないかなということを感じたというのが、1つです。
それから、資料1-1に関しては、もう一点述べたいことがあるのですが、これは、そういう論点整理がされているということもあると思いますが、例えば、デジタル化によって働き方が、将来に向けて大きく変わっていくのではないかというようなデジタル化の影響が同時に確認できたのではないかと思います。
この検討会では、専門性の高い働き方をする労働者、ホワイトカラー的な働き方をする労働者などについての柔軟な働き方に焦点を当ててきているようなところがあると思います。
そういうところでは、デジタル化の影響というのが強く出るのかなと思いますが、同時に、そういうデジタル化が進んでいく中でも、生身の人間としての労働者が自分の体を動かして働く必要がある等の理由で、デジタル化への対応という点では、あまり影響を受けにくい、あるいはデジタル化が進んでいく中でも、体を動かして労務を提供するということの意義が大きい働き方というのもあり、労働法全体に関わることなのかもしれませんが、そういう働き方に着目するということも、将来に向けて重要なのではないかと思います。
労働時間制度に関しても労働法全体に関しても、いわゆる工場で働くような働き方を念頭に置いた形で、近代的な労働法が生まれてきたといえますが、この点についていわゆるホワイトカラー化とか第三次産業の重みが増していく中で、労働法の在り方が変わっていくというような形で論じられたりすることがあります。ある意味、何か一回りするようなイメージで、自分の体を動かして働く働き方にも目配りする必要性というのが、改めて労働時間制度についても大きくなっているというところもあるのかなと考えたということです。
それから、資料1-2についても簡潔に述べさせていただきたいと思います。
この検討会の中で、かなり幅広いことについて述べてきた中で、それを3つの柱にまとめている資料だと思います。
この3つの柱自体は、議論をまとめる上で重要な点であり、その際の柱としては、この3つはとても的確なまとめ方であると思いますが、同時に、その3つに整理してしまうと捉え切れないような部分などもあるのかなと思っています。
例えば、資料1-2の1ページ目、(1)の健康確保の項目の最後に、つながらない権利というのが出てきますが、これは必ずしも健康確保のための概念にとどまるものではなく、より幅広い意味を持つのではないかと思います。
そういう観点からすると、3つの柱というのは重要なポイントだと思いますが、具体的な中身を盛り込んでいく際に、直接そのものに深く関わるような内容と、関連性がある内容に分けて整理して、その柱そのものよりは広がりのあるような事柄も中にはあるのだということも示せるまとめ方などを、今後、議論をまとめるときには考えるといいのかなと思っております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 私が申し上げたいことが2点ありまして、そもそもなぜ労働時間の規制をしなければいけないのかという、そこに立ち返ると、多くの企業での働き方にあると思うのです。
例えば、本来やっている業務があるにもかかわらず上司から新しい仕事が依頼されたときに、それは私の仕事ではありませんと言えないというのが日本の職場ですね。これは、メンバーシップ型だからということで、ジョブ型に変えるべきだというような議論もあるのですが、私は、そんなに短絡的ではないのではないかと思っています。
日本の職場の良さというのもあるのです。お互いに助け合うとか、あるいはお客様が困っていらっしゃったら、少しぐらい時間を度外視してでも、それに対応するとか、そういう日本のよさというのは、やはり守っていかなければいけない。
だから画一的に仕事ごとに人を置いて、それでやっていけば、労働時間は、ある一定の範囲内で収まるから長時間労働の問題はなくなるのだという、そういう話ではないと思います。
各企業それぞれに事情があって、労働時間の柔軟化というのが進んできて、ただ、一部の企業において、働かせ過ぎてしまうという実態があり、健康被害につながる。
そのため、国の制度として、最終的に守らなければいけない最後のラインというのは、健康被害を起こさせない、つまり、労働時間管理というのは、実は健康被害を起こさせないためにあるのだと、そこを最後の譲れないところとしておいて、あとは、それぞれの企業の中で、労使が話し合ってやってくださいという、こういう立てつけが最も受け入れやすいのかなと思います。
もちろん、この裁量労働制の議論の中で、例えば、年収要件を決めるべきだとか、そういう議論はもちろんあると思いますが、それはちょっと置いておいて、最後の一線というので、まず申し上げたいと思います。
それから、もう一つ申し上げたいのは、ちょっと歴史的な話になってくるのですが、やはり振り返ってみると、1990年前後のバブルというのは、その後の私たちの働き方に非常に大きな影響を与えたと思います。
バブルが崩壊し、不況になる。しかもその不況は長くて、深い不況でした。各企業は、それに対応するために、できるだけコストを下げる。人件費もコストの一部ですから、人を絞って、何とか対応しようとして、その結果として正社員を減らし、変動に対しては、非正規で対応するという、こういうやり方を取ってきた。
それで2000年を過ぎて、そういう緊急避難的なやり方がもう必要なくなったような経済状況の中でも、それを維持してきた。そこから20年経つわけですけれども、労働時間の問題というのを引き起こしているように思います。
そのため、本来は、バブル崩壊後の不況の中での緊急避難的な部分は、もうやめて、元へ戻せば、時間管理はそこまで大きな問題にならなかったのではないかと思うのですが、そこを維持してきた。それは企業経営者としては、また、不況が来るのではないかというところで、正社員の削減をしたくないので正社員の数をできるだけ絞って、変動には非正規で対応しようということでずっとやってきた。その結果として、正社員の長時間労働が引き起こされてきたと思うのです。
労働組合の対応については、私も組合の皆さんに常々申し上げているのですけれども、本来そこは、労働組合がしっかり会社側と話し合うべきであったと思います。
例えば、不況になって人を減らさなければいけない状況になったときに、そういうことを避けるために正社員を増やさないのだという経営側の考え方に対して、労働組合は、「そういう場合になれば、正社員といえども雇用を減らすという協議に応じるから、経済状況がよくなってきたのだから正社員を増やしてくれ」という対応をしてもよかったはずです。しかし、そうしなかったのですね。そんなところも、今の問題の根底にあると思っています。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
堤先生、お願いします。
○堤構成員 ありがとうございます。
本日の、まず資料1-1の背景、それから、デジタルに関連する働き方の変化を拝見して、資料1-2にありました、2の多様なニーズへの対応について、こういう視点があればいいのではないかという意見を述べたいと思います。
これまでの議論の中でも出てきましたけれども、治療と仕事の両立であるとか、それから介護、子育てと仕事の両立というようなことが話題になっているかと思います。
全て働く方々に、その責任を負わせるという意味ではなくて、この労働時間制度の中でも、何か議論ができればいいのかなと思うのですが、そういう方々の仕事のしやすさを助けるのには、デジタルとか、テレワークというのは、やはり非常に有効な働き方になるだろうと思いますので、働く人の営んでいる生活を中心とした労働時間の議論というような視点が、必要なのではないかなと考えます。
恐らくフリーランスやギグワークといった、こちらは、働く方々の価値観に関連することかもしれませんけれども、労働から生活を見るというよりは、生活から労働を見るというような、そういうような視点があるといいのではないかと考え、意見を述べさせていただきました。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
島貫先生、お願いします。
○島貫構成員 ありがとうございます。
事務局の皆様から御説明いただいた、今後の考え方の大きな3つの柱について、私も賛同しています。
先ほど藤村先生からも話がありましたけれども、これまでの労働に関わる法的なルールというのは、基本的には健康確保を第一に、予防的な考え方が基本になっていると理解しております。
これからの企業の人材マネジメント、特に労働時間に係るマネジメントも、事後対応ということではなくて、なるべく予防的な観点からマネジメントを見直していくほうに動いていってほしいと思っています。
これからの人事管理や雇用管理は、労働者それぞれの個別化がより進んでいくだろうと思っていますが、労働者それぞれの異なるニーズを、どういう形で企業が実現するかというのは、いろいろなやり方があると思います。
これには、様々な雇用形態のうちどれを労働者と雇用契約で結ぶのかという部分と、その後の雇用した人をどのように活用するのかという部分があって、その後者にあたるものが今回の労働時間管理や健康確保措置のところだと思っております。
先ほどのお話ですと、これからも正社員を中心とした長期雇用の人材が中心になっていくということですから、そうすると正規雇用で働いている人たちに、どうやって労働時間や勤務地などの柔軟性を提供していくのかというときに、労働時間管理の方法としてバラエティをきちんと用意しておく必要があると思います。
それとあわせて、先ほどの調査結果においては、今後、直接雇用ではなくて、業務委託などのいわゆる雇用類似の働き方に移っていきたいと思っている企業も一定数ありました。そうした働き方や人材活用が、働く人にも企業にとっても望ましい形での選択であればいいのですけれども、企業側が労働時間管理の負担や手間があることによって、直接雇用よりも業務委託のほうに移っていくというのは避けなければいけないと思っていまして、そういう意味で、直接雇用の人たちに労働時間の柔軟性をきちんと用意してあげることが大事だと思っております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
黒田先生、お願いします。
○黒田構成員 ありがとうございます。
事務局におかれましては、3点、適切にこれまでの議論を整理していただいて、非常にありがたく思っております。
私からは、2点です。まず、(1)と(2)の労働者の健康管理と多様なニーズへの対応についてというところです。
ほかの委員とも重複しますけれども、先ほど藤村委員がおっしゃったように、健康被害を起こさせないための労働時間管理というのは、本当に重要だと思います。
一方で、今、島貫委員からも御発言がありましたけれども、自由な働き方に関するニーズもかなり増えてきているところです。自由な働き方と厳重な時間管理は、どうしても健康を取るか、自由を取るかというようなトレードオフの関係で整理されてきたわけですけれども、この両方を両立させるような労働時間管理あるいは健康管理というものを、今後考えていく必要性を感じております。
多様な働き方が進む中で、先ほど雇用類似という言葉も出てきたところですけれども、本業を持ちつつ、ギグワークもするといった働き方も普及していく可能性があり、1つの会社の労働時間管理だけで健康を管理することは、難しい時代になってきていると思います。
もちろん、これまでと同様、ある程度の労働時間管理は重要だと思うのですけれども、一歩進んで企業の健康管理の今後の在り方あるいは企業に所属していない方々の健康管理の在り方ということも含めて考えていく必要があると思います。今後は、労働時間を厳格に管理すれば労働者の健康は管理できるとするのではなくて、企業は労働者のセルフケアのサポートに回ることも重要となってくるのではないかと思っております。それが1点目になります。
2点目は(3)の労使当事者による選択決定と適正な制度運用の確保についてというところの、1つ目のポツですけれども、賃金支払いの労働時間と健康管理の労働時間が混同されているという議論は、これまでもされてきたところかと思います。
ヒアリングでも、そういった受け止め方をされている労使がいらっしゃるというニュアンスで私も受け止めました。
一方で、実際に働く方々の感じ方としては、完全に賃金支払いの労働時間と健康管理の時間は別々なのかというと、そうでもないのではないかということも、ヒアリングなどで感じたところです。
この点については、ご専門の堤先生のほうがお詳しいと思うのですが、結構古い議論ですけれども、シーグリストの努力-報酬不均衡モデルというものがあります。モデルの概要は、頑張って努力して、会社にも貢献しているにもかかわらず、それに見合った賃金をもらえていないと労働者が感じる場合、非常に心身にストレスがかかり、健康にもよくないと、端的に整理するとそんな状況を描写したモデルだと理解しています。
つまり、賃金と健康は密接に関連していて、労働時間とそれに見合った賃金はセットとして捉え、労使の話し合いでその関係が十分に満たされているかどうかをチェックし、もし、満たされていないのであれば、基準をはっきりとさせていくことも必要ではないか、その観点から年収要件も将来的には考えていく必要があるのではないかと感じております。
以上になります。
○荒木座長 ありがとうございました。
私も一言述べさせていただきますと、労働時間規制は、最長労働時間規制、割増賃金規制、そして労働解放時間の規制と3つの柱があると思いますけれども、原初的には健康確保のために長時間労働を防止するというものでした。
労働時間規制に公正競争のためということがありますけれども、これは、もちろん長時間労働と、それから、労働者を安く使うことによるソーシャルダンピング、これは割増賃金にも関係してくるかもしれません。
今後、重要となってくるのは、労働解放時間の規制、これは人生の中の働く時間というのをどう位置づけるかということでありまして、労働解放時間には、休憩時間、休日のほかに、年次有給休暇、そして勤務間インターバルなども入ると思います。
労働から解放されている時間をどうコントロールするか、それは、労働以外の人生をどう過ごすかということに関係してくるわけで、これは、単に健康確保とか公正競争以外の豊かな人生を送るための労働時間規制についての新しい目的や役割がクローズアップされてきていると、そういう時代になってきているのではないかと考えています。
そういう中で、労働時間をどう捉えるかということになりますと、法的には、労働時間は、厳密には実際に働かせている実労働時間というものと、その時間には賃金を払うという賃金時間が区別されます。実労働時間と賃金時間は、多くの場合一致しますけれども、必ず一致するとは限らない。働いていなくても賃金を払う時間があるわけですね。
それから、労働契約上、義務を負う時間というものもあります。例えば、競業避止義務を負っていたり、それから、自宅で待機するような呼び出し待機時間、これは労働していないのですけれども、しかし、何かあったら出ていかなければいけないという意味では、契約上の一定の義務を負っている。これは全部実労働時間なのか、賃金の対象となる時間なのか、それとも一定の義務を負っていて、その義務違反に対しては、一定の制裁があり得るという時間なのか。このように、ある時間をどう評価するかというと、今のように3つの観点から法的には整理をする必要があります。
このように、いろんな観点から、その時間の評価があり得るところ、今日議論になっておりましたのは、賃金支払いの対象となる賃金時間と実労働時間は、ほぼ一致するという前提だと思いますけれども、そこも実は、分かれてきている。
それから、健康確保のための時間という観点では、過労死認定基準における労働時間と労基法上の実労働時間は、必ずしも一致はしないということです。
このことを前提に、どこまでを符合させる必要があって、どこからは趣旨が違うので区別して議論すべきか、という点も考えていく必要があると思います。
そして、今後は、やはり健康を害することを防止するということ、これは、労働時間規制の原初的な意味に関わることですから、これは絶対的に必要でありますけれども、健康確保は、労働時間を規制すれば確保できるものではなくて、8時間しか働いていなくても、異常なパワハラを受けたり、メンタルで被害を受ければ、健康を害することはあり得る。多様な観点からの健康確保手段があり得る中で、1つの方策として、労働時間規制もあり得るというような多角的な視点から考えていく必要があると思います。
私からは、以上ですが、先生方から、何か補足的にありますでしょうか。
もし、よろしければ、資料1-1と1-2については、以上といたしまして、次は資料2-1、2-2について進んでいきたいと思います。
では、事務局から説明をお願いいたします。
○労働条件政策課長補佐 事務局です。
まず、資料2-1を御覧ください。
資料2-1は、労働時間制度間の比較等ということで、特に労働安全衛生法の長時間労働者の健康管理に関する規定や、テレワーク、副業・兼業の場合の労働時間管理などについて、現行の整理をまとめたものとなっていますので、御紹介させていただきます。
おめくりいただきまして、まず、労働時間の状況の把握と医師による面接指導について、労働安全衛生法の内容に関する資料です。
2ページ目です。
こちらは、労働時間関係規定等につきまして、各制度の適用対象者ごとに整理した表です。
今回は、特に黄色で塗り潰されている労働安全衛生法の医師による面接指導と労働時間の状況の把握について御説明させていただきます。
上に対象者が並んでいますけれども、一般労働者、裁量労働制適用者、労働基準法の時間外・休日労働時間の上限規制の適用を受けない研究開発業務従事者、高度プロフェッショナル制度の適用労働者、管理監督者のいずれも労働安全衛生法に基づきまして、医師の面接指導を受けなければならないとなっています。
ただし、後ほど詳しく御説明しますように、それぞれの義務の内容は少し異なっています。
また、その下ですけれども、高度プロフェッショナル制度の適用労働者以外の労働者に関しましては、事業者は労働時間の状況を把握する義務を負っています。
なお、高度プロフェッショナル制度の適用労働者についても、労働基準法上、事業主は、いわゆる健康管理時間の把握義務が設けられているということになっています。
3ページ目です。
こちらが、労働安全衛生法に基づく医師による面接指導について、より詳細に整理したものです。
まず、一番左の高度プロフェッショナル制度適用者以外の方についてです。休憩時間を除いて、1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が1か月当たり80時間を超えた労働者について、本人からの申出があった場合に、事業主は、医師による面接指導を行わなければならないこととなっています。この義務に違反しても罰則はありません。
労働基準法の時間外・休日労働時間の上限規制の適用を受けない研究開発業務従事者には別途の義務も設けられています。
この労働者につきましては、休憩時間を除いて、1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が、1月当たり100時間を超えた場合に、本人からの申出の有無にかかわらず、医師による面接指導を行わなければならないということとなっています。この義務に違反した場合には、罰則が科されることになっています。
さらに、その右の高度プロフェッショナル制度適用労働者についてですけれども、こちらは1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えて労働させた時間が、1か月当たり100時間を超えた場合に、本人からの申出の有無にかかわらず、事業主は、医師による面接指導を行わなければならないということとなっています。この義務に違反した場合の罰則も設けられています。
4ページ目です。
こちらは労働安全衛生法に基づく労働時間の状況の把握の義務についてです。
事業者は、医師による面接指導を実施するため、タイムカードによる記録等の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないとされており、また、労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならないとされています。
その下の具体的内容とある枠ですけれども、この労働時間の状況の把握とは、労働者がいかなる時間帯に、どの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものとされています。
その把握の具体的な方法といたしましては、原則として、タイムカード、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録、事業者の現認等の客観的な記録により、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければならないこととされています。
他方で、管理監督者などを除きますけれども、賃金台帳に記入した労働時間数をもって、労働時間の状況の把握に代えることができることも示されています。
5ページ目からは、テレワークの場合の労働時間管理について、現行のガイドラインの御紹介をさせていただくものです。
6ページ目です。
このガイドラインにおきましては、労働基準法上の全ての労働時間制度でテレワークが実施可能であるということが明示されています。
また、その次のポツですけれども、フレックスタイム制はテレワークになじみやすいということが書いています。
その下です。事業場外みなし労働時間制は、情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことの2点を満たす場合に適用できることとされています。
その下ですけれども、裁量労働制及び高度プロフェッショナル制度の対象労働者について、テレワークの実施を認めていくことにより、労働する場所についても、労働者の自由な選択に委ねていくことが考えられるとされています。
7ページ目です。
労働時間の把握についてです。労働者がテレワークに使用する情報通信機器の使用時間の記録等により労働時間を把握することなどが考えられると記載されています。
また、労働者の自己申告により労働時間を把握する場合には、パソコンの使用状況など客観的な事実と、自己申告された始業・終業時刻との間に著しい乖離があることを把握した場合には、所要の労働時間の補正をすることなどの措置を講ずる必要があるとされています。
8ページ目です。
こちらは、テレワークに特有の事象の取扱いについてです。
1つ目のポツですけれども、一定程度労働者が業務から離れる時間、いわゆる中抜け時間につきましては、労働基準法上、使用者は把握することとしても、把握せずに始業及び終業の時刻のみを把握することとしてもよいとしています。
また、その下の点ですけれども、留意する点として、業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、労働者の生活時間帯の確保に支障が生ずることなどが指摘されています。
ここまでがテレワークに関する労働時間管理です。
9ページ目を御覧ください。
次に、副業・兼業の場合の労働時間管理について現行のガイドラインを御説明するものです。
10ページ目です。
副業・兼業の労働時間管理についてです。3の企業の対応とあるところの(2)①を御覧いただければと思いますけれども、労働者が事業主を異にする複数の事業場について、労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者に該当する場合に、法定労働時間、時間外・休日労働時間の上限規制について、労働時間を通算して適用されるということが示されています。
11ページ目です。
その確認の方法ですけれども、使用者は労働者からの申告などにより、副業・兼業の有無・内容を確認することとされています。
また、労働時間の通算の方法として、③ですけれども、自社の労働時間と労働者からの申告等により把握した他社の労働時間を通算することによって行うこととなっています。
具体的には、副業・兼業の開始前に、自社の所定労働時間と他社の所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える場合がある場合には、その部分は後から契約した会社の時間外労働となること、副業・兼業の開始後に、所定労働時間の通算に加えて、自社の所定外労働時間と、他社の所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分が時間外労働となることが示されています。
また、こうした通算によって時間外労働となる部分のうち、自社で労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要があるとされています。
次に⑤とあるところですけれども、このガイドラインにおきましては、労働時間の申告等や、通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、労働基準法が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法を管理モデルとして示しています。
この方法では、先に契約を結んだ企業での法定外労働時間と、後に契約を結んだ企業での労働時間について、上限規制の範囲内で、それぞれ上限を設定し、それぞれについて割増賃金を支払うこととするものです。
こうすることで、副業・兼業の開始後は、他社の実労働時間を把握しなくても、労働基準法を遵守することが可能となると示されています。
続きまして12ページ目です。
健康管理についても示していまして、使用者の指示により副業・兼業を開始した場合は、原則として他社との情報交換により、自社の労働時間と通算した労働時間に基づいて、健康確保措置を実施することが適当であること、使用者が労働者の副業・兼業を認めている場合には、健康保持のため、自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝えることなど、労使の話し合いなどを通じ、副業・兼業を行う方の健康確保に資する措置を実施することが適当であることとされています。
また、4の労働者の対応とあるところですけれども、労働者は副業・兼業による過労によって健康を害したり、業務に支障を来したりすることがないよう、自ら業務量や進捗状況、時間や健康状態を管理する必要があることなどが示されています。
13ページ目です。
こちらは、これまでも、この検討会で何度か御指摘いただいております、つながらない権利についてです。
14ページ目を御覧ください。
いわゆるつながらない権利について、フランスでの内容をまとめたものです。
概要の欄ですけれども、いわゆるつながらない権利とは、勤務時間外や休日に仕事上のメールなどへの対応を拒否できる権利のことで、アクセス遮断権とも言われるものです。
フランスにおきましては、2016年に成立した労働法改革の中で、この※①②とあるところですけれども、従来から企業と労働組合との年次交渉義務事項とされていた、男女の職業的平等及び労働生活の質という交渉題目について、労働者が休息時間及び休暇、個人的生活及び家庭生活の尊重を確保するために、労働者がつながらない権利を完全に行使する方法及びデジタルツールの使用規制を企業が実施する方法を交渉テーマに追加することとし、また、つながらない権利についての企業レベルの協定を欠く場合には、使用者は、従業員代表と使用者との協議機関等の意見聴取をした上で、つながらない権利の行使の方法を定め、労働者及び管理職及び幹部職員に対し、デジタルツールの合理的な使用について教育し、関心を喚起する行動の実施を規定する憲章を作成しなければならないとしたものです。
なお、集団協定または憲章に基づいてテレワークを実施する場合には、集団協定または憲章に、使用者が労働者に通常接触できる時間帯を記載しなければならないこととされています。
この背景が次の枠ですけれども、ICTが急速に発展し、どこにいても携帯端末によって業務に接続することが可能になったこと、使用者に対する労働者の安全及び健康の保護義務、特にメンタルヘルス及びハラスメントに関する使用者の責任の問題が顕在化したこと、業務時間外や休暇中も業務にアクセスされてしまう、あるいはできてしまうといった私生活への業務の浸食が生じたことが考えられるものです。
なお、フランスでは、夜の時間に全社的につながらない状態を作ることが難しい場合もあること、労働者が自ら率先してつながっている場合もあること、実現のためにはそれをルール化するだけで足りるわけではなく、教育研修やフォローアップも必要とされること等が課題として指摘されています。
15ページ目です。
先ほど御説明したテレワークガイドラインにおきましても、長時間労働等を防ぐ手法として、ここに下線部がありますけれども、時間外等における業務の指示や報告の在り方について、業務上の必要性、指示や報告が行われた場合の労働者の対応の要否等について、各事業場の実情に応じ、使用者がルールを設けることも考えられるとされています。
16ページ目以降は、これまでの検討会でも御説明してまいりました、基本的な各制度の概要等をまとめたものですので、適宜御参照いただければと思います。
資料2-1は、以上でして、続けて資料2-2も御説明させていただきます。
資料2-2は、これまでの検討会での各構成員の先生方からの御指摘を踏まえまして、特に企業による労働条件等の情報提供、過半数代表、管理監督者についてまとめた資料となっています。
まず、おめくりいただきまして、企業による労働条件等の情報提供についてです。
2ページ目を御覧ください。
こちらが、企業による労働条件等の情報提供に関する主な労働関係法令についてまとめた資料です。
一番上が、いわゆる女性活躍推進法ですけれども、こちらは、常用労働者301人以上の一般事業主等につきましては、一番右の内容とある欄の中にあります、この①、②の区分から、それぞれ1項目以上の計2項目以上、101人以上の一般事業主は、①、②の全ての項目から1項目以上を定期的に公表することが義務づけられています。
その下の、いわゆる労働施策総合推進法ですけれども、こちらでは常用労働者301人以上の事業主について、正規雇用労働者の採用者数に占める正規雇用労働者の中途採用者数の割合を定期的に公表することが義務づけられています。
その下が、いわゆる青少年雇用促進法ですけれども、こちらにつきましては、青少年の募集及び採用の状況などの青少年の適職の選択に資する事項を、学校卒業見込者等に提供することが、労働者の募集を行う者等の努力義務、あるいは学校卒業見込者等から求めがあった場合には義務となっています。
一番下の職業安定法です。
こちらでは、求職者等に対し、従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示することが、職業紹介事業者等の義務となっています。
続きまして、3ページ目です。
こちらは、今、御説明差し上げました女性活躍推進法あるいは青少年雇用促進法における公表等の項目の詳細ですので、御参考です。
これ以降、少し参照条文が続きますので飛ばしていただきまして、11ページ目です。
ここから過半数代表についてです。
まず、12ページ目が、労働時間制度に関連しまして過半数代表及び労使を構成員とする委員会に関係する規定をまとめたものです。
過半数代表の関係が上ですけれども、変形労働時間制やフレックスタイム制、専門業務型裁量労働制などの導入の際等の労使協定の締結に関して、過半数代表が規定されているほか、企画業務型裁量労働制などの導入に際して、労使委員会を設置する際に、労働者側委員を指名する関係で規定されています。
その下の労使を構成員とする委員会についてですけれども、こちらは企画業務型裁量労働制などに係る労使委員会のほかに、労働時間等の設定の改善に関する事項を調査審議し、事業主に対して意見する委員会である労働時間等設定改善委員会に関する規定が、労働時間等設定改善法の中に設けられています。
13ページ目です。
こちらは、過半数代表者の選出についての労働基準法施行規則の規定です。
過半数代表者は、管理監督者でないことや、法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出されたものであって、使用者の意向に基づき選出されたものでないことが必要です。
また、使用者は労働者が過半数代表者であることなどを理由として、不利益な取扱いをしないようにしなければならないこととされています。
さらに、使用者は、過半数代表者が事務を円滑に遂行できるよう、必要な配慮を行わなければならないとされています。
これらの規定のうち、特に下線部が付されている箇所につきましては、働き方改革関連法の施行に伴って行いました、平成30年の省令改正時に追加したものとなっています。
14ページ目です。
こちらが平成27年及び29年の労働条件分科会での建議の過半数代表者に関する記載の抜粋です。
今し方御紹介いたしました省令改正に係る内容のほか、下の枠の、平成29年の建議の中では、協定の締結当事者である過半数代表者は、法令等に基づき、適正に選出される必要があること等について、一層の周知徹底に取り組むことが適当であるなどとされています。
15ページ目です。
こちらが、過半数代表者の適正な選出に係るチェックボックスの各様式への導入についての資料です。
上の概要とある部分ですけれども、令和2年の労働基準法施行規則等の改正により、押印を求めていた労働基準法関連の法令様式等について、使用者及び労働者の押印欄を削除して、法令上、押印または署名を求めないこととされました。
その際に、過半数代表者の適正な選出の徹底の必要性等の意見が出されたことを踏まえまして、法令様式に協定当事者が的確であることについてのチェックボックスを設け、これに使用者のチェックがない場合には、形式上の要件を備えていないものとするということとされました。
具体的な内容は、その下のチェックボックスの記載とあるところです。
具体的には、協定の当事者である労働組合が事業場の全ての労働者の過半数で組織する労働組合である、または協定の当事者である労働者の過半数を代表する者が、事業場の全ての労働者の過半数を代表する者であること、また、労働者の過半数を代表する者が、管理監督者でなく、かつ、労働基準法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないことについてのチェックボックスが設けられたものです。
16ページ目です。
こちらが、実際のチェックボックスの例ですので、御参照いただければと思います。
17ページ目を御覧ください。
こちらが、労働組合基礎調査のデータですけれども、これによりますと、令和3年の雇用者数に占める労働組合員数の割合は16.9%となっています。
18ページ目です。最後に管理監督者についてです。
まず、19ページ目が管理監督者の概要ですけれども、管理監督者は労働条件の決定、その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間等の規制の適用除外の対象となっています。
この管理監督者に当てはまるかどうかは、その労働者の勤務態様、職務内容・責任・権限、待遇を踏まえて実態により判断されることとなっています。
20ページ目を御覧ください。
こちらが労働基準法の規定ですけれども、この労働基準法の規定におきましては、事業の種類にかかわらず、監督若しくは管理の地位にある者とされています。
21ページ目です。
この「監督若しくは管理の地位にある者」に関する解釈です。
一般的には、部長、工場長等の労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意味であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものであるとされています。
また(2)ですけれども、適用除外の趣旨として、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って、管理監督者として労働時間等の規制の適用除外が認められる趣旨であるとしています。
(3)におきましては、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があるとされています。
22ページ目が続きですけれども、(4)待遇に対する留意です。
管理監督者であるかの判定に当たっては、基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても、役付者以外の一般労働者に比し、優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があることが示されております。
最後(5)についてですけれども、スタッフ職の取扱いとして、スタッフの企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取り扱っても、特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ、かつ、監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲の者については、労働基準法第41条第2号該当者に含めて取り扱うことが妥当であると考えられるとしています。
23ページ目です。
最後に2つ、管理監督者に関する判例について紹介させていただきます。
まず、1つ目が争いになった労働者について管理監督者であることを肯定した例です。
こちらは、美容サロンの経営等を業とする企業において、管理職あるいは取締役として業務に従事していた労働者が、割増賃金等を請求した事案です。
判決におきましては、管理監督者に該当するか否かは、①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められているか否か、②自己の出退勤をはじめとする労働時間について、裁量権を有しているといえるか否か、③一般の従業員に比し、その地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられているか否かを実態に即して判断することになるとした上で、この問題なった労働者については、管理監督者に該当すると判断したものです。
最後に24ページ目です。
こちらは争いになった労働者について、管理監督者であることを否定した例です。
これは、企業内でマネージャーあるいはマーケティングマネージャーを務めた労働者の管理監督者性が争われた事案です。
この判決におきましても、①当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあると言えるだけの重要な職務と責任権限を付与されているか、②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか、③給与等に照らし、管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという判断枠組みを示した上で、当該労働者が重要な会議には参画していたものの、経営意思の形成に対する影響力は間接的なものにとどまっていたことなどから、実質的に経営者と一体的な立場にあると言えるだけの重要な職責及び権限を付与されていたとは認められないとして、管理監督者に該当するとは言えないと判断されたものです。
資料2-2の御説明は、以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
事務局より労働時間制度の比較やテレワーク、副業・兼業等の新たな働き方、そして、労働法制を取り巻く情報公開制度や過半数代表者の状況等について説明いただいたところです。
非常に多岐にわたりますが、3つぐらいの柱に整理できるかもしれません。1つは、いろいろな制度の紹介がありましたけれども、時間外・休日労働の上限規制、フレックスタイム制の見直し、高度プロフェッショナル制度の創設といった平成30年改正の内容や、その他の個々の労働時間制度について、どう評価できるのか。また、今後の見直しに向けてどういう点に考慮することが適当かという、様々な労働時間制度の評価を踏まえた今後の在り方についての検討が1つ。
2つ目として、今後、労働力人口の減少に伴い、人材獲得競争の激化が見込まれる中で、労働時間制度がどのようなものであることが要請されるのか。特に紹介がありましたとおり、企業による情報提供を通じた労働環境の整備についてどう考えるのかというのが2つ目。
そして、3つ目として、労使自治に基づいて、企業が労働時間制度を適切に選択し、運用するためにはどういう対応が必要かといった論点が提示されたと思います。
このような点につきまして、先生方から御自由に御議論いただければと思います。どの点でも結構ですが、いかがでしょうか。
藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 今日の整理で、いろいろな労働時間制度があって、それがいつごろ、どういう経緯でできてきたかが分かりました。資料2-1の17ページ、18ページ辺りですね。実は先日、ある勉強会で、労働組合の調査をやっている会社がありまして、そこの人とお話をしていたら、今、大手の電機メーカーが裁量労働制をやめて、コアタイムなしのフレックスにどんどん移行しているということをおっしゃっていました。
実はその場に、大手電機メーカーの元人事の方がいらっしゃって、実は裁量労働制というのができたときに、その会社が先頭を切ってこれを入れたのだとおっしゃっていました。新しい働き方ということで、特に情報処理システムの設計というのが、専門業務型裁量労働制の1つとして挙げられていたので、これだということで、もうどんどん入れたと。
エンジニアとして裁量労働制で働かない人は、ちょっと一段低く見られるような雰囲気が社内の中にあったそうです。その会社では、多くの社員が裁量労働制で働くようになったのですが、労働時間という点からいうと、やはりいろいろな問題があったようです。
その後、いろいろな電機メーカーが裁量労働制を入れてきたのですけれども、ここに来て裁量労働制ではなくて、コアタイムなしのフレックスに動いてきています。
なぜかというのは、そこまでは議論にならなかったのですけれども、やはり制度の使い勝手のよさというのが、どうも人事の担当者からすると、やや問題だと思っているようです。つまり、いろいろな届出をしなければいけないなどといったところです。
それで、コアタイムなしのフレックスタイム制というのは、時間管理をするという方向に行くわけですから、働いた時間に連動して払いますという方が、納得性があるということのようです。
そういう話を聞くと、よかれと思って作った制度が、悪用されることによって規制が付け加えられ、その結果として使いにくくなって、本来、率先して使っていた人たちが、そこから逃げていっているという、これは、やはり制度設計をする上で考えていかなければいけない点だと思います。
それから、もう一点、社会保険労務士の方にお聞きしたのですが、事業場外みなし制度というのが、中小企業できちんと使われていないところがあるそうです。
どういうことかというと、本来時間管理ができるにもかかわらず、できないということで事業場外みなしとして、本来払うべき残業時間を払っていないというのです。この事業場外みなしというのができたそもそもの経緯というのを伺うと、ポケベルの時代をイメージすればよいようなのですが、今はGPS付きのスマートフォンを持って、みんな営業の人は外へ出ていますから、何時何分どこにいたかというのは管理しようと思えば分かる状態なのです。
そうであるにもかかわらず、あえてできないということで、事業場外みなし制度の適用になり、本来払われるべき労働時間分の賃金が払われていないという実態もあるのかなと思います。
そのため、制度というのは、やはりその時代の流れに合わせて、条件をいろいろ変えていかないと、やはり悪用されてしまうのかなと思いました。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
川田先生、お願いします。
○川田構成員 全体は、本当に多岐にわたることなので、その中から、1つは、資料2-1の最初のほうに出てくる労働時間の状況の把握と、医師による面接指導を中心に述べたいと思います。
既に、この検討会の中で議論されてきたこととも重なり合うのかなと思いますが、ここで挙がっている労働時間の状況というときの時間は、基本的には健康確保のための時間であって、労基法上の実労働時間と必ずしも同じである必要はなく、既に健康を害するような過重な業務の負荷が労働者にかかっている状況にあるのか、あるいはその程度がどのくらいなのかが確認できればよいということであって、必ずしも、例えば、時間外労働に対する割増賃金が幾らとか、あるいは上限規制を超えたので、使用者に刑罰が科されるべきなのかというような観点からの規制のかけ方とは分けて考えることもできるのだろうと思います。先ほどご発言があった、裁量労働制からフレックスタイム制に移行する、つまり、労基法上の労働時間制度で言えば、みなし労働時間制から実労働時間規制に移るというような動きがあることなども含めると、ここの辺りが企業にとって見ると、使い勝手がよくない、あるいは複数の制度が乱立して、非常に使いにくいというような状況が生じているのかもしれません。
例えば、資料2-1の2ページと3ページを見ただけでも時間数が違っていたり、時間の概念が、高度プロフェッショナル制については健康管理時間というような概念が出てきたりということがあるわけですが、健康管理時間に関して言えば、これは高プロの考え方としては、労働時間規制は適用除外になるので、労働時間そのものを基準として持ち出すわけにはいかない中で、それに代わるものと考えて、こういう時間概念があるのだと思います。この高度プロフェッショナル制度については、外見上は、労働時間規制の適用除外という形をとっているものの、むしろ実質特別規制なのだというような捉え方もあり、そういうものとして考えた場合には、例えば、同じような専門性の高い働き方に対する特別規制の場合の健康確保のための時間管理の仕組みと、ある程度合わせて制度を設定していくことなども考えられます。
そしで、各制度の趣旨を踏まえた扱いをしつつも全体としてできるだけ当事者にとって分かりやすい仕組みを作っていくという視点は重要なのだろうなと考えています。
そういう観点からすると、先ほどのお話の中に出てきた事業場外みなしなどについても、そもそも実労働時間と切り離したような労働時間の扱いを許容する裁量労働制とは、これも外形的には同じみなし労働時間制なのだけれども、制度の趣旨は大分違うと考えるべきものだと思います。
先ほどご発言があった、通達にポケベルが出てくるという点は、ポケベルが広く使われていた時代に通達が定められたという事情かと思いますが、現代の通信状況に合わせた適用ということと並んで、その制度の本来の趣旨がどういうものであったのかということを明確にしていく必要があるのだろうと思います。この検討会の議論をまとめていく中でも、例えば、こうした趣旨の違いや、逆に外形上は違う制度に見えるものでも共通に考えることができるのではないかといった辺りを、できるだけ整理していくということは考えられるのかなと思いました。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
堤先生、お願いします。
○堤構成員 まず、健康・福祉確保措置の観点からですけれども、時間外・休日労働の上限規制というのは、その観点からいくと、やはり評価していいのではないかなと考えます。
一方で、各種労働時間制度の適用や運用を伺っていますと、誤って運用実施されているような事例も出てきています。原因はいろいろあるかもしれませんが、1つは制度的に複雑な点もあるかもしれません。
今日、資料2-2であります過半数代表及び労使を構成員とする委員会というものが、個々の労働者の適用の見直しであるとか、それから、そういうことを含めた運用を修正するということは、とても大切なことだろうと思いますし、また、そういう運用がオープンになっていくというのは、企業にとっても人材確保の点で有利に働くといいますか、そういうようなインセンティブになるような形で取られていくといいかなという感じで考えております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
島貫先生、お願いします。
○島貫構成員 先ほど3つぐらいの論点があるということだったのですけれども、主に1つ目の労働時間制度の評価について、今、企業が柔軟な労働時間制度を活用しようと思ったときに悩むところは、フレックスタイム制と裁量労働制の2つをどのように使い分けていけばいいのかということだと思います。
1つは、労使がきちんと議論をして、何のためにそれぞれの制度を使うのかという考え方を共有することが大前提だと思うのですけれども、もう一つは、この2つの制度の導入や運用に当たっての手続の違いが大きいことがネックになっているのかなと思います。その辺りはきちんと運用がなされていくことをある程度見た上で、徐々に手続きをそろえていくことなども考えられると思っています。
それと、裁量労働制とフレックスタイム制という2つを対比してお話ししましたけれども、この2つが単純に、こういう仕事だから、どちらの制度を使いましょうということではなくて、正規雇用の方々を対象とした時に、その人たちの長期的な活用とか、そのキャリアの中で徐々に使い方を変えていくというのも、これまでの企業ヒアリングの中でうまくいっている例としてお伺いできたと思っております。
例えば、フレックスタイム制で最初の数年間を働いてみて、そこから、労働時間だけではなくて仕事も含めてセルフマネジメントができるようになっていく。その中で裁量労働制を使っていって、そして、ゆくゆくは管理職になっていくとか、そういった時間軸を考えた活用の仕方もあるのかなと思っていまして、そういった一定のセルフマネジメントができる人たちを対象にしたときに、どういう制度設計がいいのかを、裁量労働制を中心に考えていったほうがいいと思いました。
一般社員を想定すると、初期キャリアを積んで、管理職になる前の人たちに対して使えるような制度ということも考えていったらいいのではないかなと思っています。
あとは、少し長期的な話として、テレワークの浸透ですとか、先ほどありました副業・兼業に関しては、企業からすると、これまで管理職の目の前で働いていた人たちが見えていないところで働いていく、そういった人たちの労働時間管理を考えていくという、大きなテーマを扱っているように思っています。
そういうことを考えると、裁量労働制をうまく運用していけるのであれば、柔軟な労働時間管理制度の1つとして、積極的に位置づけていくことも大事だと思っています。
その意味でいいますと、先ほども議論がありましたように、どういう企業が裁量労働制をうまく使っているのかの情報公開や情報共有はきちんとなされるべきだろうと思っています。
もちろん、今、投資家に向けての人事に関わる情報公開の流れが1つあると思うのですけれども、労働時間管理に関しても情報公開していくことが必要であろうと思います。
特に、制度が企業に浸透していく、普及していく初期の段階では、先ほど藤村先生からも御指摘がありましたけれども、うまく使っていない企業が多いと、ほかの企業は自分たちも使っていこうとは考えないので、制度の普及にブレーキがかかると思います。特に、普及の初期は、きちんと活用できるようなルールづくりとか、ガイドラインが必要だと思っています。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
黒田先生、お願いします。
○黒田構成員 黒田です。
私からは、3点です。
1つ目は、複数の制度が乱立しているということと、実際にこれらの制度を使おうと思ったときに、導入の手続が煩雑なものがあるので、できるだけ制度の枠組みや手続きを整理していく必要があると思います。
複数の制度が存在する点については、高度プロフェッショナル制度は、導入されたばかりなので、その状況の把握もこれからしていく必要があり、数年後には導入5年後の運用の確認があります。5年経ってから状況の把握をスタートするのではなくて、この段階で少しずつ情報を集め始め、その時期になったら、すぐにほかの制度との異同を踏まえて議論を開始できるように準備しておくことで、将来的にシンプルな制度の整備につながっていくのではないかというのが1つ目の意見です。
それから、2つ目の意見になりますけれども、これまで必ずしも焦点が当たってこなかった制度についても、今回、事務局が資料を作ってくださいました。
焦点が当たってこなかった制度の1つ目が、事業場外みなしだと思うのですけれども、就業条件総合調査の直近のデータですと、事業場外みなし労働時間制度が適用されている労働者は7%弱ぐらいいます。
一方で、裁量労働制の専門型は1.2%で、企画型においては0.3%ぐらいということで、この検討会は、裁量労働制という極めて小さいパイのところに焦点を当てて議論をしてきたわけですけれども、実は、同じみなしという扱いで7%近い労働者が別枠で存在していて、その人たちをどうするのかということも非常に重要な課題だと思っています。
先ほどもご発言にありましたとおり、ポケベルの時代にできたアウトオブデートな制度が、今、残っているわけですけれども、では、これを完全に廃止にしたほうがいいのかどうかは議論が必要と思っており、実は、この制度はテレワークとかなり親和性があるのではないかと感じているところです。
そういう意味では、情報通信機器が常時置けないことを想定して作られた、当時の立てつけを一回修正したうえで、新事業場外みなし制度のようなものを検討していく必要があるかと思います。
これに関連して、焦点が当たってこなかった2つの制度のもう一つは、管理監督者です。この枠組みで働いている方の状況を厳密に把握できる統計が、私自身が把握する限りは、あまりないのではないかと感じております。
ちなみに、就労条件総合調査においては、直近で、管理監督者の数字として3.7%という数字が公表されているわけですけれども、果たして、これが本当に名ばかりの人たちも含めた実態を示しているのかどうか、実態把握をしていく必要があると思います。
管理監督者だから残業代の支払いはないと言われ、あまり疑問に感じずにそういうものかと思っている方々に、かなりの頻度でお会いすることがいまだにあります。このようなことが生じてしまう背景には、やはり労働時間制度が複雑で、労働者が制度をきちんと把握したり、勉強したりするようなコストが高過ぎるので、受け入れてしまうことが起こっているのではないかと思います。つまり、複雑な制度が、合理的無知のような状態に陥りやすいような状況を作り出しているといえます。
労基署が入ればいいのではないかという議論もあるわけですけれども、企業によっては、万が一労基署に入られたら、そのときにバックペイを払えばいいと考えるところもあるはずで、特にその確率が非常に低ければ、法を守るインセンティブが低くなることにもなりうるわけです。
つまり、労基署に頑張ってもらうだけでは難しいので、できるだけ労働者が理解できるようなシンプルな制度に整備し直していって、労働市場全体でチェック機能が働くような整備をしていく必要があると思います。
3点目は、つながらない権利についても事務局にまとめていただきました。
このつながらない権利については、インターバル規制と非常に親和性があるものと私自身は整理していまして、これまでも何度か提案をさせていただいてきました。
もちろん、テレワークのガイドラインには、一部記載が入っているのですけれども、テレワークをしたり、しなかったり、あるいはテレワークをしていない人がテレワークをしている人に、夜中にメールをするとか、そういった多様な働き方の間でのやりとりということもありますので、テレワークをしている人か否かにかかわらず、つながらない権利というものを広く普及させていくような仕掛けが今後は重要になってくると思っております。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、私からも少し述べさせていただきますけれども、先ほど労働時間規制には、実労働の最長労働時間規制、2つ目として割増賃金規制、すなわち法定労働時間を超えた場合には強行的に割増賃金を払えという賃金規制があり、3つ目として労働からの解放時間の規制という3つの規制があるという話をしました。2番目の割増賃金規制について、少しコメントいたします。今日の資料の説明でもありましたけれども、管理監督者については、労基法41条2号の管理監督者として労働時間規制を適用除外するための要件として、その管理監督者にふさわしい処遇がなされていることというのが出てきたところです。
つまり、割増賃金規制を除外するのであれば、その管理監督者の地位にふさわしい処遇をしなさいという形で、賃金面での対応を要求をしていることになります。
同様に、高度プロフェッショナル制度も、割増賃金規制が外れますので、それによって保護が失われることがないように、年収1075万以上の者に限るという形で、いわば割増賃金規制の代替的な規制を導入していることになります。
そこで、今回議論している裁量労働制はどうなのかというと、実は、その裁量労働で働く場合に、2つのアプローチがあることがこの検討会でも確認されました。
すなわち、実労働時間に見合ったみなし労働時間でなければいけないかというと、そういうみなしをすることもちろん可能です。ですが、制度上は、実労働時間と見合ったみなしをしなければ違法かというと、そうではなくて、むしろ、裁量的に働くという方について十分な処遇を確保するということで、時間の縛りなく働いてもらうということも、当然、制度として予定していたところです。
ただ、高プロとか管理監督者のように割増賃金規制が外れた場合の、いわば処遇の確保についての明示的な規制がない結果、それだったら実労働時間に見合ったみなしでないとおかしいではないかという議論も出てきたところかと思います。
そういう意味では、実労働時間と直接対応しないみなしも適法ですが、その場合には、やはり割増賃金規制が適用されないことを何らかの形で、労働者保護のために確保する、あるいは、これは公正競争のためと言ってもいいかもしれませんけれども、そのような裁量労働制で働くことにふさわしい処遇がされているという観点も重要ではないかと考えています。
藤村先生のお話、大変示唆的だったのは、そういう制度的担保がない中で運用しておりますと、これでよいのだろうかという問題が生じる。そうであれば、スーパーフレックス、コアなしフレックスであれば、これは実労働時間管理になりますので、時間外労働について割増賃金を払うと、そのほうが働き方の自由度は認めつつ、処遇においても公正さが確保され、問題が少ないということで、そちらに移る企業が出てきているということも理解できます。
しかし、裁量労働というのは、その時間比例で処遇を決定するのが必ずしも合理的ではない働き方も時間との連結を切って受け止める制度ですので、きちんと処遇を確保しつつ認めるという必要性もあることも踏まえて考えるべきではないかというのが1点目です。
2点目として情報公開の話がありました。
今、盛んにESGやSDGsということが言われまして、コーポレートガバナンス、企業の統治に関して、株主市場との関係で情報公開することによってチェックをするということがあります。株主市場以外にも、ファミリーフレンドリーな経営をやっているということであれば、認証マークを付与したりして消費者市場に訴えることも可能です。そういう市場機能を活用することによって、労働時間規制の目的を達成することも有効だと思います。
そういう企業外の市場の仕組みを活用することも重要ですけれども、その前に、労使関係においては、企業内で労使交渉する相手方に対して情報公開するということが、まずは必要となってくると思います。労使協定の締結あるいは労使委員会の決議をするときに十分企業から情報を提供されているかという点が重要だと思います。十分な情報を提供し、その上で、どういう制度を設計することが、企業現場においては妥当なのかをよく労使で話し合って決めていく、その後押しをすることも重要ではないかと考えます。
その意味で、今日労使協議の機関についてのお話もありました。
これは、過半数組合があれば過半数組合と協議をすることになりますが、過半数組合がない場合には、従業員の過半数を代表する者との協定で、法定基準と異なる特別の規制を導入することを許容しているわけです。
これが、実は乱用されているのではないかという問題が、しばしば指摘されているところでありまして、制度がきちんと導入され、かつ、それを導入時点だけではなくて、運用が適正に行われているかをチェックするためにも、この労働者代表が、きちんと機能するための制度的な対処についても考えていくべきという点が提起されているのではないかと感じたところです。
私からは、以上です。
藤村先生、お願いします。
○藤村構成員 2点ほど追加で意見を申し上げたいと思います。
まず1点目は、荒木先生が最後におっしゃった、労使自治というところで、労働側の力をどうやって確保するかということです。労使の協定ということは、そこには交渉があるはずで、労働側の意見と経営側の意見についてどこかで折り合いをつけて、では、こういうふうにしましょうとなると思います。
そのときに、労働側が実態として、労働組合があったとしても、労働組合の力が必ずしも強くない。ましてや労働組合がないような会社だと、過半数代表ということで選ばれた人が、会社が提案してきたことに対して、それは受け入れられません、ここはこうしてくださいというようなことが言えるかという、そこが難しいところだと思うのです。
本来は、労働側の交渉力というのがあれば、この枠組みというのはある程度機能するように思うのですが、そこをどうやって確保していくかという、非常に悩ましい、しかし、大事な点と思います。
それから、もう一点は管理監督者についてです。名ばかり管理職などで訴訟が起こり、実際に判決が出たりしておりますけれども、労働基準法ができた頃の状況というのを勉強しますと、当時の管理監督者、例えば課長というのは、実はとても給料が高く、新入社員の10倍ぐらいの給料をもらっていたのです。だから、新入社員の10倍の給料をもらっている人は、時間管理の対象から外していいねという感覚だったようなのです。
これは、現在に当てはめると、年収2000万から2500万円ぐらいになり、年収2000万超えている人は、時間管理の対象から外していいだろうという感覚だと思うのです。
しかし、1950年代から、ずっと課長という職位の価値がどんどん落ちてきまして、今や、企業によってもちろん違いますが、課長の年収というのは、新入社員のせいぜい4倍ぐらいでしょうか。4倍から5倍で、そういう人たちは、管理監督者だから、時間管理の対象から外すとなっているのだけれども、本当にこれでいいのだろうかと、そういうことも思います。
そのため、管理監督者は、一体どういう人なのかというのを、もう一度きちんと整理した上で、時間管理の対象から外すというのは、非常に大きなことですから、それをするにふさわしい人たちであるべきだといったことも、議論の必要があるかなと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
川田先生、お願いします。
○川田構成員 ありがとうございます。
2点あるのですが、1つは藤村先生のおっしゃった1点目、労使間のコミュニケーションの枠組みについては、制度というよりは制度を作ったときに何かうまく機能するためにどういうことが必要かという点は、私としても重要なことと思っています。
特に事業場の労働者の方が自分たちに関わることを、そういう集団的な枠組みを通じて、話し合っていくことで、よりよい状況を作っていけることが大切です。そういう枠組みの中で、意見を述べたり、参加したりしていくということですが、これは何か制度を作れば参加してくれるという性質のものではない難しさがあると思います。
また、労働組合であれば、労働組合自体の課題もあるということで、それは、そのとおりだと思いますが、基本的には、労働者が自主的に組織した団体ということで、ある程度、参加のメカニズムも機能しやすいところがあると思いますが、今議論している労働時間制度の場合には、労働組合がないような場面とか、あるいは労働組合がある場合にも、その労働組合に加入していない労働者の意見をどう反映させていくのかということも考えていかなければいけない課題だと思います。ここまでの議論を踏まえて、あえて考えると、いろいろな企業内での情報提供、情報共有を徹底して、議論に参加することで、自分たちが置かれている状況をよりよくできる。そのように考える方が増えていくようにすることなどが考えられるのかなと思います。
それから、フレックスタイム制について、少し補足的に述べておきたいと思います。
要点としては、現状、実労働時間規制ということで、必ずしも、柔軟な働き方に対応した制度設計ができていない部分もあるのかなと思います。例えば労使協定の協定事項の中で、裁量労働制であれば、健康・福祉確保措置のような柔軟な働き方をする中での健康確保の措置というのが入ってきています。こういう柔軟な働き方の制度を、労働時間規制の特別規制というような視点で捉えていくとすると、フレックスタイム制についてもこのように柔軟な働き方を前提とした仕組みという観点から見ていくべき点というのもあるのかもしれません。
それについては制度設計のレベルで対応すべきものと、やはり適切な運用のための情報提供というようなレベルで対応していくべきものもあるのかなと思います。
最後に一点、事務局に質問というか、この検討会の中でできたら確認をしておいたほうがよいのかなと思った点です。フレックスタイム制の下で柔軟な働き方を可能にする制度として、スーパーフレックス、コアなしのフレックスを導入する企業が増えてきているということでしたが、そういうコアタイムなしのフレックスにおいても、一日の労働時間の最小限が決まっている場合と、決まっていない場合があり、そのうち一日の労働時間の下限が決まっていない場合には、ある特定の日に労働者が全く働かないということが、どうも実際上あり得るような制度であるようなのです。そのような制度のあり方は、考え方によっては、所定労働日数などにも関わってくることになるのかなと思っていまして、そういうものがあり得るとすると、働き方の柔軟度に関しては、かなり大きく影響するのかなと思っています。ただ、私自身も、これはいろんな考え方があり得るのではないかと思っているところでありまして、何か現行の制度や実態に関して、基本的にはこのように見ているという考え方があるようでしたら、検討会の中で、何らかの形で参照しておく必要があるのかなと思いまして、御質問させていただきました。
○荒木座長 事務局から、いかがですか。
○労働条件政策課長 ありがとうございます。
フレックス、特にスーパーフレックスの実態等ですけれども、少し調べさせていただきまして、御報告できればと思っております。
以上です。
○荒木座長 フレックスタイムの場合は、総労働時間の清算機関が1か月単位だったのが、今は最長3か月で、それを満たせばよいという形になっておりますけれども、その範囲であれば、例えば、週休3日制とか、週休4日制というようなことになってもよいのかと、そういうことに関する御質問でしたね。実態が分かれば、また、後ほど御報告いただきたいと思います。
ほかに何かありますでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは、本日は、かなり大きな話をさせていただきましたけれども、ほぼ時間になりましたので、今日は、ここまでにさせていただきたいと思います。
最後に、事務局から次回の日程について説明をお願いします。
○労働条件政策課長補佐 次回の日程、開催場所については、追って御連絡いたします。
○荒木座長 それでは、第14回の検討会は以上といたします。
本日は、お忙しい中御参加いただきまして、どうもありがとうございました。