第22回労働政策審議会労働政策基本部会 議事録

政策統括官付政策統括室

日時

令和4年5月24日(火)10:00~12:00

場所

厚生労働省議室(9階)

出席者

(委員)(五十音順)
岡本委員、川﨑委員、古賀委員、佐々木委員、武田委員、春川委員、守島部会長、山川委員、山田委員
(ヒアリング対象者)
鶴 光太郎氏(慶應義塾大学教授)
大嶋 寧子氏(リクルートワークス研究所)
(事務局)
村山総括審議官、大島政策統括官(総合政策担当)、田中政策立案総括審議官、松本政策統括官付参事官、古屋政策統括官付政策統括室労働経済調査官、宇野人材開発統括官付人材開発政策担当参事官、源河雇用環境・均等局総務課長、溝口職業安定局雇用政策課長、石垣労働基準局総務課長

議題

  1. (1)外部有識者ヒアリング
  2. (2)その他

議事

議事内容
○守島部会長 おはようございます。定刻になりましたので、ただいまから、第22回「労働政策審議会労働政策基本部会」を開催いたしたいと思います。
皆様方におかれましては、お忙しい中、御出席をいただき、どうもありがとうございます。
それでは、カメラの頭撮りはこの辺で終わらせていただきます。
本日は、所用により、石山委員、入山委員、大橋委員、冨山委員、中野委員は御欠席でございます。
また、所用のため、武田委員は途中で退席されると伺っております。
議事に入ります前に、オンラインでの開催に関しまして、事務局から説明があります。
○古屋政策統括官付政策統括室労働経済調査官 事務局でございます。
オンラインの開催に関しまして留意事項を御説明いたします。まず、原則として、カメラはオン、マイクはミュートとしていただくようお願いします。
委員の皆様は、御発言の際は、「参加者パネル」の御自身のお名前の横にあります「挙手ボタン」を押して、部会長から御指名があるまでお待ちいただくようお願いいたします。
部会長から御指名がありました後、マイクのミュートを解除して御発言いただきますようお願いします。発言終了後はマイクをミュートに戻して、再度「挙手ボタン」を押して、挙手の状態を解除してください。
通信の状態などにより音声での発言が難しい場合には、チャットで発言内容をお送りいただくようお願いいたします。
また、会の最中に音声等のトラブルがございましたら、チャット機能でお知らせいただくか、事前に事務局からお送りしている電話番号まで御連絡いただくようお願いいたします。
以上でございます。
○佐々木委員 佐々木ですが、すみません、ちょっと音声が途切れ途切れで、皆さんに届いていないみたいな表情なので、私だけでないかと思って発言しましたが、今ほとんど聞こえなかったのですけれども。
○守島部会長 佐々木委員、今、私しゃべっている声、聞こえますでしょうか。
○佐々木委員 はい。よく聞こえるようになりました。ありがとうございます。
○守島部会長 分かりました。マイクの調子が悪かったみたいなので別のマイクにしましたので、これで進めたいと思います。
それでは、議事に入りたいと思います。本日の進め方について、御説明を差し上げます。
最初に、「中長期的な社会環境と働き方の変化」について、慶應義塾大学大学院商学研究科、鶴様にお話をいただきます。その後、「国内外におけるリスキリング状況と課題」について、リクルートワークス研究所の大嶋様にお話をいただきます。お二人のプレゼンが終了した後に、まとめて質疑応答と自由討議を行いたいと思いますので、よろしくお願いいたしたいと思います。
それでは、ヒアリングに移りたいと思います。最初に、鶴様、よろしくお願いいたします。
○鶴氏 コンテンツのほうは共有されていますでしょうか。
○守島部会長 はい、大丈夫です。
○鶴氏 ありがとうございます。ただいま御紹介いただきました慶應の鶴でございます。
そうそうたるメンバーの皆様に私がどういう御参考になる話ができるかなあと思いまして、これぞ本当に釈迦に説法ということで大変恐縮ですけれども、皆様の議論のきっかけになるようなことを少しでもお話ができればと思って、今日参加させていただいています。
それで、細かい話よりも、この基本政策部会、大きなことを議論する場と承知しておりますので、ビックピクチャーの話をできればさせていただきたいなあというのが今日の趣旨でございます。
この資料は、私、3月頃、『Wedge』という雑誌に少し寄稿しまして、そこでの話を中心に、今ちょっと私が考えていることをまとめたような内容になっております。それで、どういう雇用システム、人事システムかとか、そういうものが必要だろうか、どういう雇用改革が必要だろうかということを考える場合に、やはり大きな、今、環境変化、どういうものが起こっているのかと、それに対してどういう方向を目指すべきなのかという話が非常に必要だろうなと思っています。
それで、ここからは本当に釈迦に説法なのですけれども、過去30年ぐらい、90年代以降、どのようなマクロ環境変化があったのか、そこから何を求められるようになっているのかということを少しおさらいしたいと思うのですけれども、1980年代までのマクロ環境というのは、御承知のように、非常に経済成長が安定して、かつ高成長ということですよね。産業レベル、企業レベルで見ても、市場がどんどん拡大していくというのが当然の時代だったわけです。それから、欧米のキャッチアップ目標とあって、要は、企業とか産業って何をすればいいのかというのは非常に明らかだったし、資金を供給する銀行、メンバーシステムということを日本は言われますけれども、非常にそれが明確だったということですよね。それから、潤沢に供給される若い労働力、このような環境にあったわけです。
企業戦略ということを考えてみると、市場のパイが非常に大きくなっていくので、安定的にそれを分け合うというのが結構可能であった。1つ違うことをやることよりも、安定的にみんな同じようなことをやって分け合う。どうせ市場が大きくなるのだということは分かっていたわけですからね。そういう時代だったということですね。
特に高度成長時代というのは、同質的な商品を漸進的・継続的な品質向上・低価格化・大量生産で市場を拡大していく、こういう戦略というのが非常に重視されたということですよね。
そうすると、日本の雇用システム・人事システムって、このような環境と非常に補完的であった。いわゆるメンバーシップ型雇用ということが言われますけれども、正社員、基本的に新卒一括採用のもとで、職務・勤務地・労働時間が限定されず、これがメンバーシップの一つの定義なのですけれども、企業の様々な部門で経験を積んでいく、帰属意識が高い、チームワークに優れた同質的な人材。要は、従業員の思考というか、あうんの呼吸とか暗黙知ということで「ベクトル」をそろえることが非常に可能になる。これは同じ釜の飯を長く食う、同じ場所、同じ時間をどれだけ共有するかということでこういうものが生まれていたということなのですね。
そうすると、企業の中の各部門、これはいろいろな異動ということも非常に頻繁に行われますので、各部門の綿密かつ円滑な連携、調整、いわゆるものづくりとすり合わせ型とか、日本は自動車とか電機は非常に国際競争力高かったよねということを言われますけれども、そういうものの非常に背景になっていた。当然のことながら、こういうメンバーシップ型というのは、長期雇用とか、いわゆる年功賃金、後払い型賃金という性格というのがもちろん補完的な関係にあったということなのですね。
では90年代以降、どうなったのか。これももう改めて言うまでもなく、潜在成長率が低下しました。非常に安定的な高成長とかが崩れてしまって不確実性が増大した。VUCAということを今言われますけれども、この10年を見ても、想定外のことが毎年のように起こっているわけですね。だから、想定外が普通に起こる時代になっているのかなあということを感じます。
それから、労働力人口低下、サービス化、消費者の嗜好の多様化、ICT活用・デジタル化の大潮流ということなのですね。こういう中で日本が強みを持っていたようなものというのが、なかなかこれではうまくいかないよねという話になっていたわけで、同質的な商品の品質向上・低価格化・大量生産、どんどん嗜好が多様化していますし、サービス化という方にも向かっています。安定的な高成長というのが期待できないという中で起こっているわけです。なるべくベクトルをそろえてチームワークでやっていくために、要は、日本の大企業は、自分と似た人を採るのですね、とにかく。自分と似た人を採る。だから、みんな同じような人になる。同じような発想をする。組織としてはやりやすいのですけれども、必ずしもこうした状況の変化に対応ができない。それから、日本の企業の情報システムは、もう人力でこなすとにかく大変効率的なシステムです。これは欧米なんかの企業と比べて全然、効率的なシステムです。だから、デジタル化とかICT活用、別にそんなことやらなくていいではないか、人力でできるではないかという話なのですね。
むしろは欧米の企業は元々いろんなコミュニケーションの問題を抱えていたので、ICTとかデジタル化って非常にうまく活用していったなというのを、僕はOECDに90年代後半にいましたけれども、彼らがそういうものを使い出して、情報の共有とか伝達に非常に役立てているというのは実際に目で見ましたので、やはりこの辺が大きな違いなのかなあと思います。
新たな環境で求められるシステムということなのですけれども、常識を打ち破るような抜本的なイノベーション、人と違うことを考える人材、同質的でない、多種多様で成長できる人材、こういうのが必要だよねと。このように書くと、ちょっとプロボカティブに言っているわけで、企業の中に、こういう人たち、みんなディストラクション目指すばかりで、それ、どうするのですかと、そんな人たちばかりで企業なんてやっていけませんよという、すぐ突っ込みが入る。私はもちろんそのとおりだと思います。みんながみんなというわけではないのだけれども、余りにも丸まって、同質的な人たちで構成されていたというところから、少し変わらなければいけないよということは確かだろうなと思うのですね。
それで、こういうことに対応するためにどうしたらいいのですかという話になると、ジョブ型雇用ということにもなってくるわけですね。今日は、佐々木さん、久しぶりにお目にかかります。規制改革会議の当時から、御一緒に、ジョブ型雇用どうするかということで長年一緒にやらせていただいて、そういう政策的な契機をつくらせていただいたということだと思うのですけれども、メンバーシップ型雇用の限界とか、これにずっとこだわっているのではなかなかうまくいかないよねということですね。
それで、確かにチームワークを促進するとか組織を一体化させるというのに非常にいい仕組みなのですけれども、組織への忠誠心というのが評価の上で非常に重要なウエートを占めていたのだろうなあと思うのですね。それが、要は、長時間労働とか転勤とか、あなたは企業のためにどれぐらい自分を犠牲にできますかということですごく忠誠心をはかられていたような感じで、そういう我慢強い人が出世したということで、僕はよく「我慢大会」と言うのだけれども、我慢大会を勝ち抜いただけの、ある意味では、我慢強い。それで従順である、チームのために頑張る、こういう人材ですよね。こういう人たちが偉くなっていったわけですけれども、僕の目から見て、抜本的なイノベーションを起こすというのはやはりこういう人材から生まれるのかなあということを考えると、ちょっとどうも違うのではないのかなあということなのですね。
では求められる人材ってどういうイメージなのでしょうかというと、抜本的なイノベーションを生み出し、どこまでも成長。僕は成長というのがすごく大事なキーワードだと思いますし、従順なという意味での逆の意味で、「尖った」人材ということが大事だなと。これも、さっき申し上げた、そんな尖った人たちばかり企業にいたら、もうチクチクして大変だよねということで、そういう人材ばかりで固めろということを僕は言うつもりないのですが、そういう人材というのが企業にとってより必要になっているのだけれども、必ずしもそういう人材というのは企業の中にいないよねということを申し上げているのですね。
で、イノベーションなんて言って、そんな簡単なことでないよねと。イノベーションを起こすためには、本当に試行錯誤というのを繰り返すし、過去や前例にとらわれずに新たな価値を生み出そうと、そういう人たちでないと無理なわけですけれども、日本って、高成長で安定的な環境にあったので、特に大企業とか人事システムってどういうシステムだったかというと、ほとんど減点主義なのですね。将来のリーダーと目されて採用されている人たちも、何か失敗したら、はい、だめよと。失敗した人がまた再起をかけるとか、また復活するというのが非常に難しい。これはアメリカの、ローゼンバームの1984年の本なんかで、もともとあの当時から、アメリカというのはむしろ、もちろんファストトラックでかーっと上がっていく人もいるのだけれども、後から敗者復活戦みたいなことで上がってくる。日本も、80年代くらいから実はベンチャー企業ではそのような傾向があったことを花田先生なんかも、もちろん当時からも明らかにしているのですけれども、非常に減点主義みたいなものがイノベーションを阻害していたなあと、私はそのように思っています。
最近よく言うのは、2つの「ジリツ」という、自分で立って自分を律する、こういうことがそのメンバーシップ雇用の中ではそのようにはならなかったなあということで、企業とよい意味での緊張関係を持ちながらこういうことを目指していくことが重要です。特にキャリア形成の話が、結局自分がどこに配属されるのか、常に分からずに、自分の運命を企業に任せるということが、さっきのこういう成長とかイノベーションを起こす人材と結びつけることがどうしても難しいと感じます。ある程度自分のキャリアとかそういうものをジリツ的に設定していけるというところがどうしても必要ということになります。そうすると、やはり職務限定型、ジョブ型とかいうものを考えていかなければいけないと思っています。
それで、ジョブ型の話とかって、やり出すとそれだけで物すごくお時間取ってしまうので簡単にやりたいと思うのですけれども、昨今、コロナになってから非常にジョブ型ブームというのが起こって、えせジョブ型というのが非常に蔓延してしまって、もともと昔からジョブ型の話をしていた人間、JILPTの濱口さんや私もそうですけれどもひいきの引き倒しみたいになってしまっているなというのを非常に感じます。ちょっと気をつけなければいけないのは、ジョブ型の定義についてです。厚労省も、「多様な正社員」と言って、規制改革会議もジョブ型と言っているときは、職務限定とか勤務地限定とか労働時間限定という、いずれかを限定している正社員、ここで言うとorというところですよね。つまり、広義のジョブ型というべき定義で、要はメンバーシップ雇用だけではだめだから、そこを、一角をどこかで突き崩してやっていかなければいけないよという感じの意味でのジョブ型雇用を定義しているのですね。
中には、職務限定だけがジョブ型だとか、職務も勤務地も労働時間も全部限定されているという狭義のジョブ型ということをジョブ型だと、ちゃんとまともに理解している人も、そのように思っている人ももちろんいます。そうなると、まさに欧米の普通の正社員は非常に狭い意味でのジョブ型なので、今の欧米の雇用システムとなればいいのかというと、いや、必ずしもそうでないよねという話になるわけです。ジョブ型については、日本を変えていかなきゃいけないよという話においては、必ずしも生産的な議論ができていないなあという感じは私も持っています。
ジョブ型はその職務が限定されているかどうかという話は実はそれほど本質的でなくて、採用とか異動というところが日本と欧米の本質的差です。要は、いずれのポストも何が要求されているのかというのは非常にはっきりして、だからこそジョブ・ディスクリプションがあるわけですね。基本的に社内でも社外でも公募制で、手を挙げないと、もちろん移っていくということはないし、まさにその資格があるか、職務を果たすことができるかというのが判断されて異動していくということがすごく大事な点です。
あと、ジョブ型というのを企業に売りつけたいということでちょっと格好いいものとして、コンサルタントとか人事採用の人たちはジョブ型を宣伝したのだけれども、欧米のジョブ型ということを見ると、いやいや、それはもともと古くさいし、キラキラしていないよねと申し上げています。
要は、アダム・スミスのピン職人の例というのがあるのだけれども、産業革命以降、徹底して分業をやることによって非常に生産性を高めていくというところが原点なわけですね。工場の生産労働者の。職務範囲って、だから物すごく狭いのですよ。狭くて、結局誰でもできるような形にするというのが非常にポイントで、賃金、非常に狭い職務なので、完全な職務給。査定なんか、もちろんないです。訓練もする必要はない。それぐらい、誰にでもできるような仕事になっており、テーラーリズム(科学的労務管理法)、フォーディズムと呼ばれる働き方です。まさにそこがジョブ型の典型ですし、チャップリンの『モダン・タイムス』という映画を見られた方は、まさにあれがジョブ型の原型と思ってください。だから、余りにも人間的じゃないよねと言われて、そこからのいろいろな発展というのがあるわけですよね。だから、もともとのジョブ型を生みだした状況って何だったのかということを考えるというのが大事だと思いますね。
で、「ジョブ型雇用の誤解」に移りますが、ジョブ型は解雇自由という話もありました。アメリカだけ見てしまう人がすごく多いですが、アメリカとヨーロッパって全然違いますよね。欧米はみんなジョブ型だけれども、もちろん、アメリカを除いて解雇自由というわけでない。ジョブ型というところにもともと成果主義という要素が入っていたとも言われますがこれも誤解で、古典的ジョブ型は純粋に職務給でそうではないことはすぐ分かることです。アメリカでは、だからこそ、どうやってインセンティブを高めていったらいいのかという流れの中で、むしろ成果主義みたいな議論が出てきたといえます。
ただ、成果主義、ペイ・フォー・パフォーマンスってなかなかうまくいかない部分もいっぱいあるよねというのが経済学と経営学の一つの到達地点だと思うのですね。テレワークをやらなくてはいけなくなってジョブ型ということを言われ出したのですけれども、テレワークはジョブ型でなければだめだという話もあるわけですね。でも、確かに昔のICT革命以前の世界だったら、決められた仕事、成果がはかりやすい仕事、インタラクションのない仕事、そういうものでしかテレワークってなかなかできなかったと思うのですけれども、今、こういうビデオ会議とか、それからデスクトップ上で職場を再現することも5年も6年も前からできるようになっていますし。私は、今の技術を駆使すれば、職場はデスクトップ上に再現できるので、テレワークだからジョブ型でないとだめだよという議論はちょっとおかしいなと思います。
それから、最初に濱口さんが、日本の特色として、雇用契約に職務が書いていないよねと指摘されました。雇用契約において、職務、つまり、何やるのかは一番重要なはずなのに、肝腎要のものが書いていない日本って一体どうなっているのですかということになります。普通で考えれば、物すごくアクロバット的だし、全く教科書的でない世界なわけですよね。でも、それを明示的にやるというか、通常の意味での職務限定型の雇用契約にちゃんと書き込んでやるということがやはりなかなかやりたくない、やれない企業が多いので、では職務記述書だけつくりましょうかと言って、それをジョブ型と言いましょうなんていうことを平気で言う人がいるわけです。一体何を言っているのかなと思うわけですが、雇用契約というところで明示されているから職務記述書って意味があるし、さっき言った公募というのが中心だから、職務記述書に意味があるわけですよね。そういう背景がない中で、職務記述書だけつくってもどうなのか。ないよりはあったほうがいいよねと思うのだけれども、そういう話でないということです。
ジョブ型雇用の更なる普及・推進には何が必要なのか。規制改革会議なんかでやらせていただいた後、働き方改革ですね。労働時間の上限規制なんかも導入されてきたし、それから、今、転勤も、おまえ、あそこへ行け、ここへ行けということで勝手に転勤ということは、なかなか難しくなってきていると思います。意向を事前に聞いておくとか、家族の状況への配慮ですね。だから、ある程度エリアを決めて転勤をやらせている人、全国転勤やらせる人、そういうところを少し分けていくとかの動きがあります。その辺、正社員の限定性というのは大分変わってきたなあと思うのですね。
そうしたときに、これは前から申し上げているのですけれども、やはり教育というところが全然変わっていないので、大卒文系におけるジョブ型採用なんていうのはまだまだ難しいです。ただ、同じ企業で65歳まで継続雇用したとしても、60歳の時点で定年を迎えれば、その時点で同じ企業にいるにもかかわらず、メンバーシップ型からジョブ型に転換するということなのです。ここも絶対忘れてはならない。つまり、シニアの雇用って、ジョブ型。もちろん、定年が65や70まで延長されれば別ですけれども、そうでなければ、そこから外れれば必ずジョブ型なのです。だから、その前からジョブ型という形にやっていかないと、シニアの雇用とはなかなか両立しないということなのですね。
お話も大分してきましたのでちょっとまとめたいと思いますけれども、さっき、いろいろ尖った人材だとか多様な人材、どこを切っても金太郎アメじゃだめだよねという話を申し上げたのですけれども、でも、それって大変なのですよ。企業はばらばらになる。ではどうやってその企業に結びつけるか。これまでは、同じ釜の飯、同じ時間、同じ場所で、みんな一心同体になりましょうという話だったのだけれども、それはもう無理になるわけですよね。
そうしたときに、このパーパス経営というのはすごく大事で、経営者が示すビジョンとパーパス、社会的にどういう貢献をするのか。結局、企業が利潤を最大化やらなきゃいけないですし、従業員もちゃんと給料もらわなきゃいけない。でも、誰かに必要とされるとか社会的に評価されるというその喜びというのは、実は多分、ワーカーエンゲージメントみたいなものを考えると物すごく大事だと思うのですね。その重要性がより増している。多様性のある組織を束ねたり、これからもっと優秀でイノベイティブな人材を企業に引きつけるためには、ここがしっかりしていないと、もう全く話にならないと思うのですね。なので、そういう意味でも、パーパス経営は非常に着目されていると思います。要は、あうんの呼吸とか以心伝心という形でなくて、経営者の言葉の力、ビジョン、パーパス、社会的に何をやるのか、社会的課題ということをしっかり考えた上で、それは企業価値最大化と十分両立すると思いますし、そうした方向というのは非常に重要でないのかなと思っています。
すみません。若干長くなりましたけれども、私のほうからは以上でございます。どうも御清聴ありがとうございました。
○守島部会長 鶴先生、どうもありがとうございました。御質問とか御意見は、次の大嶋さんが終わってからお受けしたいと思います。
では、大嶋さん、続けてよろしくお願いいたします。
○大嶋氏 よろしくお願いいたします。
改めまして、リクルートワークス研究所の大嶋と申します。
私のほうからは、リスキリングをめぐる内外の状況について、御説明を申し上げます。先ほど大きな絵を鶴先生のほうから御説明いただいたと思いますが、私のほうからは少し、リスキリング、新しい概念ですので、細かな事実の積み上げといった形で御説明します。また、資料、大変大部になっておりますので、ポイントをかいつまんでお話をさせていただきたいと思っております。
まず、私が所属しているリクルートワークス研究所では、2020年4月からリスキリングに関する研究を行っておりまして、これまで4つの報告書を出してきております。本日はそこからのお話になります。
まず、リスキリングとは何か、なぜ今重要なのかということを改めて考えたいと思います。リスキリングに関しましては、主に英語圏で様々な形で議論されてきていますが、そういった内容を集合して、リクルートワークス研究所で、「新しい職業につくために、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応し続けるために必要なスキルを獲得する/させること」と定義しております。近年は、自動化ですとかグリーン対応で生じる仕事の転換に適応するためのスキル習得を指すことが一般的です。後ほど御説明しますように、全ての従業員を対象とするものであって、いわゆる高度デジタル人材を育成するということとは分けて考える必要があると見ております。
次に、少しだけリスキリングに関して補足をします。まず、リスキリングのゴールは何かということですけれども、単にスキルを習得することではなくて、新しい仕事のやり方や新しい職務に移行するための、という冠がつきます。つまり、移行を前提としたスキル習得ということですので、何か新しいスキルを習得することがそのままリスキリングというものではないと言えます。また、リスキリングを行うのは誰かということですけれども、リスキリングは、企業が戦略的な必要に応じて従業員に新たなスキルを習得させる、あるいは、技術的失業への対応として官民連携で行うスキル習得という意味合いで使われることが多い。つまり、他動詞で使われているということですね。
次に、スキルアップ、リカレント教育との違いですけれども、日本でスキルアップと言われている言葉は海外ではアップスキルと表現されることが多いのですが、アップスキルは、今の役割内で既存のスキルに何かを追加することであって、これはやはり英語圏でリスキリングとは違うということが様々に議論されています。また、リカレント教育は、社会人になって以降、仕事と教育を繰り返すありようを主に個人側から指している言葉ですので、これもまたリスキリングとは意味が異なります。
さらに、なぜ全ての従業員が対象なのかということについては、企業が本格的なDXを実現しようとしたときは、ものづくりの現場もそうですし、顧客接点の方々、企画を立てる方々、バックオフィスの方々など、ビジネスプロセスのあらゆる場面で仕事が変わってしまう、あるいは仕事自体がなくなって新しい仕事が生まれるということが起きます。そのときに、それを担うのは誰かというと、全ての従業員である。その人たちが新たな職務の遂行に必要なスキルを獲得できなければ、企業のDXも実現できないからということに尽きると考えています。
海外におけるリスキリングの動向ですが、リスキリングという言葉を英語で検索しますと、検索回数が増えるのは主に2018年以降となっています。ですが、もちろん、それ以前にもリスキリングの取組は行われていまして、米国の大企業において最も先駆的で、かつ野心的なリスキリングとされているのがAT&T社の取組です。AT&T社は通信産業の構造転換に対応するために、ハードウェア事業からソフトウェア事業にビジネスモデルの転換を図っているのですけれども、2008年の時点で、社内調査によって、25万人の従業員のうち10万人はもう10年後に必要なくなるスキルしか持っていないということを把握しています。
それを踏まえて、2013年にリスキリングの取組を開始しておりまして、同社のホームページによれば2021年の時点で、リスキリングを21万人に行ったとして説明されています。リルキリングの具体的な内容は、非常に複雑多岐にわたるジョブタイトルを整理・統合して、スキルと紐づけて、従業員の方がその整理されたものを目当てに異動できるような環境を整えていたり、あるいは、学習管理ツールを提供したり、社外の教育プラットフォーマーや大学と連携してコンテンツを開発したりしています。それ以外にも、社内の就業機会としてどのようなポストがあって、そのポストがどのように増減していて、賃金範囲はどれぐらいで、かつ、そのポストにつくためにどのようなスキルが必要かということを社員の方が見ながらキャリア開発できるツールも提供しています。
その後、2018年以降は世界経済フォーラムが自動化による技術的失業のリスクが現実化してきたということを踏まえて、官民連携でリスキリングを行う必要性があるということについて警鐘を鳴らしてきています。
リスキリングに関しては、企業、国、様々なステークホルダーがおりますが、特に存在感を増しているのがリスキリングのプラットフォーマーです。海外では、国や企業が自前で完全にリスキリングのコンテンツや仕組みを開発することは少なく、リスキリングをサポートするプラットフォームを活用して行うことが一般的です。
このプラットフォームは、企業に対して、企業が必要とするスキルと従業員が保有しているスキルのギャップを可視化して提供したり、それを埋めるプロセスを明示したり、従業員側に対して、従業員がスキルを把握したり、学習コンテンツを推奨して、学習に伴走していくといったサービスを提供しております。
それ以外に、リスキリングのキーワードとしては、「連携」ということが1つあると思っています。特にコロナ後、大手企業、学習プラットフォーマー、政府、非営利団体等が連携して、社会的要請に応じたリスキリング機会の提供に取り組む例が増えています。
例えば労働政策との関係では、フランスの職業安定所が、フランスのプラットフォーマーであるOpenClasrooms社と連携して、求職者にデジタル専門職につくためのコースや、メンタリング、職業資格の認証などを提供している動きが注目されます。
翻って、日本におけるリスキリングの動向ですけれども、近年、大企業を中心に、広く従業員を対象にリスキリングに取り組む企業が増加しているということは様々なメディア等でも皆様御覧いただいているところかと思います。ただ、日本全体で見ると、リスキリングの機会が不足していることは明らかです。
例えば左側の図表で示しているのは、リスキリングをしている個人の割合になりますけれども、日本でこれに取り組む割合が非常に低いということもございますし、また、右側でお示ししているのは、企業にDXに取り組む上での課題を聞いた結果ですけれども、DXに対応できる人材がいないこと、スキル、ノウハウが不足していることが一番の課題であると企業は言っています。つまり、個人側は学んでいないと言っているし、企業側は、人材がいない、スキルがないからDXができないのだというところを言っていて、結果として、リスキリングが不足していることによる膠着状態になっているのが現状であると考えます。
このような状況を受けて日本で多くの働く人がテクノロジーの変化に対応したスキルを習得していくために何が必要なのかということを考えたときに、まずは、企業によるリスキリングを後押しすることが重要であろうと考えております。
それはなぜかというと、こちらのページでお示ししているのは、リクルートワークス研究所が全国5万人を対象に追跡調査を行っているパネル調査に基づく分析から抜き出してきているものですが、日本の雇用者のうち仕事に関わる自己学習をしている人は非常に少ない、それは新型コロナウイルス感染症の流行拡大後も変わっていないということが分かっています。一方で、企業が学びの機会を提供したり、何を学ぶべきか、学んだことをどこで役に立てるかということを示したりしている場合等には、雇用者の自己学習が促されるといったことも分かってきています。
ではどの企業によるリスキリングを後押ししていくべきなのかということを考えたときに、やはり就業者の約7割に雇用の場を提供している中小企業のリスキリングを推進することが急務であろうと考えております。
では中小企業のリスキリングを後押ししようというときに、中小企業のリスキリングの実態はどうなのかを知る必要があるということで、今、DXへの取組で先行されていると考えられる従業員500名以下の企業の経営者の方々に聞き取り調査を行っております。
ここでは幾つかその特徴を挙げていますけれども、1つ目は、中小企業がDXに取り組む上では、大企業以上にリスキリングが必要である、重要であるということが言えると思います。なぜなら中小企業でよりデジタル化が遅れてきたこともあり、デジタル技術の導入・活用時に、従業員の方の抵抗や不安が大きくなりやすいということもありますし、そもそも社外から必要な人材を柔軟に採れないであるとか、現場の方がデジタルのことを分かっていなくてその声が反映されない場合、使い勝手の悪いものができ上がってしまっても、その修正コストをなかなか負担できないといった様々な理由がございます。
2つ目として、仕事でどう活用するかということに直接紐づかない訓練や、「いつかのため」の座学での研修、あるいは、従業員の方のスキルやリテラシーの差を考慮しない一斉研修の活用には非常に慎重であるということが言えます。その結果として、必要が生じたタイミングで育成する、実践の場を極力使って育成するといったことが標準的に行われています。
3つ目として、中小企業のリスキリングでは中小企業ならではの強みが活用されている。例えば中小企業においては、経営者の方の影響力が非常に大きいということもございますので、経営者自身が学んで社内に範を示すであったり、経営者自身がスキル習得の必要性を繰り返し発信するということも行われていますし、また、社内にどのような人材がいるかということを見通しやすいという状況もあり、個々の従業員の不安や希望に即した機会の提供といったことを工夫されているという傾向も見られました。
次に中小企業のリスキリングはで具体的に何を行っているのかを見ていきますと、経営者のリスキリングと従業員のリスキリングがあり、後者は主に3種類あるということが分かってまいりました。
まず、経営者のリスキリングですけれども、先ほど申し上げましたように、中小企業において経営者の影響力は非常に大きいという点がございます。そのような中で、経営者自身がデジタルで今何ができるようになっているのかとか、あるいは自社の経営課題解決にデジタルをどう活用するのかの認識を明確に持てていないと、社内の不安や抵抗を排しながらリスキリングやDXを進めていくことはなかなか難しいという状況にございます。そのために実際にDXで先行される企業さんでは、経営者自身が積極的に学ばれるケースが目立ちます。
とはいえ、日本全体で見ると、中小企業の経営者・経営層のうちDXを理解し必要とする割合が低いということは、右側の図表のデータでも示されていますし、また自治体等にヒアリングをしても同じようなことが繰り返し指摘されます。したがいまして、中小企業で働く人のリスキリングを進めるという点では、まず経営者のリスキリングを促す取組の充実が急務であろうと考えております。
次に、従業員のリスキリングに3種類あると申し上げましたが、その1つ目が、私たちが「使いこなしのリスキリング」と呼んでいるものです。これは何かというと、従業員の方がデジタルの活用で全く新しくなる仕事のやり方やデジタルツールの使用に習熟して、これまでどおり価値を出せるようにしていくためのリスキリングです。
リスキリングというときに、この取り組みは非常にプリミティブに聞こえるかもしれませんが、多くの経営者の方がこのリスキリングが非常に重要であるということを指摘されていて、デジタル化に取り組む以前からの準備も含めて数年単位の時間をかけているケースもあります。それはなぜかというと、この時点でうまく従業員のリスキリングができないと、今々デジタルで実現したい改革を実現できないことはもちろん、その後に、デジタルで様々にできるはずの変革もできなくなってしまうから、ということがあるのだと考えられます。
使いこなしのリスキリングに取り組まれた企業の事例として、ここでは、神奈川県で旅館業を営まれる株式会社陣屋さんの事例を紹介させていただいておりますが、この企業さんはホテル・旅館情報管理システムを開発され、外販もされているのですが、同時に全従業員がデジタルツールを使いこなすために、開発の時点で現場目線を徹底するであるとか、従業員の不安や抵抗感に経営者自身が丁寧に向き合ったり、経営情報を開示して、デジタル化の必要性を理解してもらうところから取り組まれています。
従業員のリスキリングの2つ目ですけれども、これは私たちが「変化創出のリスキリング」と呼んでいるものです。これは何かというと、現場の課題であるとか顧客の潜在ニーズを一番知っているのは現場に近い従業員の方々であり、その人たちがデジタルで自分の仕事の課題を解決する方法を提案したり、場合によっては推進できるようにするためのリスキリングになります。そのために、非デジタル部門の従業員の方をデジタル化のプロジェクトに参画させて実践的に学ばせたり、従業員からの提案を実現に結びつけやすくするための取組が行われております。
そのような企業の事例として、ここでは愛知県の久野金属工業株式会社さんの事例を取り上げさせていただいております。この会社は、2010年代に基幹システムを開発されているほか、2018年にクラウド上のサービスを開発し、外販をされています。久野金属工業さんでは、社外ベンダーや専門部署任せではなく、従業員主導のデジタル化を徹底するために、例えば基幹システムを開発する際には、金型設計の担当者複数名に仕様設計を、研修も行った上で実践で担わせたり、日常的に従業員の方が自動化に関わる提案をしたときに、どういう条件だったらゴーサインを出すのかとか、どこの場で議論するのかということを明確にした上で、従業員の方に実装までを担ってもらうということをされており、実際に技術系・事務系社員の方の多くが自動化の提案や推進実績を持っていると聞いております。
従業員のリスキリングの3つ目は、「仕事転換のリスキリング」と私たちが呼んでいるもので、こちらはデジタルを活用した全く新しい仕事に従業員の方が移行できるようにするためのリスキリングとなります。この実現には、従業員の方に、これまでの知識や経験、慣れ親しんだ仕事を捨てて新しい仕事に移ってもらわなければいけないので、そのための動機づけも必要ですし、実際に誰から異動させるのか、何を学ばせるのか、学んだことを実践のレベルにするためにどういう機会を提供するのかといったところを設計することも必要になります。
そのような取組をされている企業の事例として、ここでは愛知県の西川コミュニケーションズ株式会社さんの事例を紹介させていただいております。この西川コミュニケーションズさんは電話帳などの印刷業からデジタル領域にビジネスモデルの転換を図られていますが、そのための社員のスキル転換にも組織的に取り組まれています。中小企業において経営者の影響力が非常に大きいという話をさせていただきましたが、経営者や幹部の方々が率先してG検定を取得したり、スキル習得の必要性を繰り返し発信することで、組織の上の方から新たな学びの必要性についての意識を組織に浸透させていますし、また、中核に据えたい事業の旗印となるような部署を先に立ち上げて、希望者から異動の機会や学びの機会を提供することで円滑な異動を促しているという話も伺っています。そのほかに、育成会議を開催して、個人に適した学習機会を提供する等々の包括的な取組を行っていることが特徴です。
最後に、中小企業のリスキリングの加速に向けて何が必要かということを考えたいと思います。中小企業のリスキリング支援につきましては、資金面、あるいは時間面のリソースが限られる中小企業のリスキリングを政策的に後押ししていく必要性が世界的に議論されています。その中でも、個別の国の事例として、今日はドイツとイギリスの例を少しだけ御紹介したいと思いますが、ドイツでは、2010年代後半から、中小企業にデジタルに関する知識や情報を移転することをミッションとする拠点を全国に設置しております。この拠点で、経営者や様々な階層の従業員の方に教育プログラムを提供しているという仕組みになります。
ここで強調させていただきたいのは、ドイツの仕組みにおいて各拠点が裁量を与えられてリスキリングの最新のプログラムを開発できること、そのプログラムの中で効果が高いものについて拠点間で情報共有する仕組みが存在していることです。よりよいプログラムは、オンライン上で共有可能であれば共有しますし、オンサイトでやるようなものであれば横展開できるといった形で、拠点の壁を超えたシナジーが実現しています。
もう一つ、イギリスの例を御紹介させていただきます。こちらは、2018年に開始された地域産業振興組織が手を挙げた場合に、国と地方が連携して地域のリスキリングに取り組むことができるというイニシアティブです。それぞれの地域が求職者と地元企業向けのプログラムを展開するのですが、ここでの鍵も、やはり地域を超えた連携ということになります。
このイニシアティブの成功の鍵とされているのが、各パートナーシップに政府の予算で配属されるコーディネーターの存在でして、コーディネーターは地域の組織の一員として様々な地域のステークホルダーと連携して、重複を避けながらリスキリングのプログラムを展開しますし、国が月に1回、1日のコーディネーター連絡会議を開催して、情報共有や連携を促す仕組みが埋め込まれています。
次に、最後に日本の状況ですけれども、2020年以降、都道府県や経済団体等が地元企業のDX支援の一環として、リスキリングに関わる支援を導入する動きが高まっています。ですが、今の時点では、DXに対する経営者の問題意識の喚起やリスキリング支援の充実は大きな課題として残されているというのが現状です。
加えて、自治体による支援を俯瞰的に見ますと、地域を超えた支援課題や有効なプログラムに関する情報共有が少ない。担当者間の非公式での情報共有が立ち上がっているという話は伺っていますが、情報共有を公式に行って、高質なプログラムが横展開され、全国的に支援内容が底上げされていく動きには至っていない状況だと考えています。
以上を踏まえて、中小企業のリスキリングの加速に向けた課題を考えますと、中小企業には中小企業ならではのリスキリングの特性があるといったことや、地域におけるリスキリング支援情報の共有が行われていない、少ないといったことを踏まえて、幾つか取り組み課題があると考えています。例えば中小企業ならではのリスキリングの事例や取組かたに関する情報収集と提供は必要ですし、経営者の方がデジタルの可能性をもっと知る、学べるような機会も充実する必要がある。企業ニーズに柔軟に対応できる生産性向上支援訓練のようなスキームをさらに充実していくこと、自治体の情報共有によって地域の地元企業に対するリスキリング支援の内容を底上げ・進化させていくことも必要かと考えております。
長くなってしまいましたが、私のほうからの報告は以上になります。どうもありがとうございました。
○守島部会長 大嶋さん、どうもありがとうございました。
それでは、皆さん方の御質問、御意見等を受けていきたいと思います。どちらのスピーカーに対してでもいいので、御発言いただければと思います。
では古賀委員、まずお願いいたします。
○古賀委員 ありがとうございます。古賀でございます。
鶴先生、大嶋さん、貴重な提案を本当にありがとうございました。特に鶴先生に幾つかお考えをお聞きしたいと思います。時代の大きな流れ、ジョブ型の捉え方等々について御説明をいただき、最後には、日本型ジョブ型の提起をしていただきました。質問の第1点目ですが、いわゆる無限定正社員の働き方について、労働時間の短縮や転勤などがかなり変化しているのではないかという鶴先生の御指摘はそのとおりだと思いますが、無限定正社員の働き方を見直す必要性については、どのようにお考えでしょうか。
2つ目が、今回のご報告の肝である、日本型ジョブ型の定義についてです。日本では、例えば産業横断的な仕事基準やそれに基づく賃金が整備されていない中では、「社内ジョブ型」にとどまらざるを得ないのではないかと私は思っていますが、鶴先生のお考えを伺いたいと思います。途中からジョブ型にすることによってシニア雇用が拡大していくというようなご説明もございました。これは、社内のいろんな意味での雇用枠が拡大されるのか、あるいは、他にも、他社も含めた雇用の拡大というイメージを持っておられるのかお聞かせいただきたいと思います。
3点目は、これは大嶋さんのリスキリングとも関係するのですが、OECDの統計を見てみても、日本は、国も企業も人的資本への投資が非常に少ないと考えます。リスキリング、あるいは能力開発やキャリアの形成に対して、国や行政、個人の役割について、鶴先生のお考えをお伺いしたいと思います。
大きくこの3点、お伺いできればと思います。以上でございます。
○鶴氏 どうも貴重な御質問ありがとうございました。いずれも非常に本質的な問題に関わる部分の御質問だと思いました。
まず第1点は、無限定正社員。確かに、私が最初規制改革会議でいろいろやり出した頃に比べて、そこは限定性というところにもう少し進んでいこうよというところは若干の進展、やはり見られたなと。ただ、なかなか変わっていない部分もあることも事実です。もちろん、長時間労働の問題だってまだ解決したわけではない、問題があるよということもそうですし、転勤なんかの問題もそうですよね。ワーク・ライフ・バランスの問題、もちろんそれは女性の問題、重要な働き方の問題にも関わってくる。男性と女性という区別なしに働けるというところはそういうところの一番大きなポイントだと私も思って考えてきているのですけれども、そこはやはりまだまだだよと。なかなか根強いなと。無限定正社員というシステムというのが非常に便利だし、企業にとっては使い勝手がいいし、年功賃金とも非常に絡まっているところもございますので、岩盤というのは非常に大きいなというのはもうずっと感じています。
だから、そこがシステムとして全くだめなシステムかというと、いろんないい点というのはもちろんこれまでもあって、だからこそ日本のかつての仕組みの中で定着してきたということなわけです。ただ、日本の今の抱えている雇用問題とか労働問題のほとんどが、このメンバーシップ型という、無限定正社員システムに結びついている部分もあると思うので、やはりそこはそのままではなかなか前にいかない。そこをちょっと切り崩していくという発想が必要で、ただ、それは、先ほどおっしゃられたように、まだまだなかなか難しいなあということなのですね。
2番目の点なのですけれども、確かに欧米を見ると、ジョブ型化って、先ほどおっしゃられたように、産業間で、例えば職務、こういうあれでは賃金はこうだということで、まさに横断的になっているし、そういう意味では非常に外部労働市場も整備されている、そういう中でのジョブ型。日本がすぐそこにいくのは当然難しいよね。本当におっしゃるとおりなのですね。
ただし、ではメンバーシップのままでいいのかということを考えると、今の企業の中で、余りにもキャリアというのは単線的だった。メンバーシップ型の無限定正社員のキャリアについては、人事が人をどんどんぐるぐる回して、自分の行き先はどうなるか分からない、その中で組織内をぐるぐる回って上にいくという仕組みですよね。
そうでなくて、どこか途中から、自分はプロとしてやっていくのだということで、企業の中でやはり、面倒くさいのですけれども、複線型の人事というものを整えていかないと、シニアの雇用というのがどうしても見えてこないのですね。ずっとメンバーシップでやってきて、そこからほうり出されて、では今日からジョブ型で生きていけよと定年になって言われても、それは無理なのです。その前に、ジョブ型にこう変わっていく、だから、本当に一部のトップの経営のところにいく人たち以外は、やはりジョブ型にならないとシニアの雇用って全然見えてこないこともあって、複線型が必要となります。
私は、その複線型の中で、社内の中で社内公募とかそういうものという仕組みはやはり入れていかざるを得ないのだと思うのですよ。ジョブ型をやるのであれば、社内公募、社外公募ということで、ほかの企業は、先ほどおっしゃられた、そこの異動というのも出てくる。転職しようが、もっと今よりも活性化するというのは当然生まれてくるのだろうなと。だから、そういうものが全体として同時進行的にいかなければなかなか難しいということはあると思います。
いや、それでもハードル高いのですよ。社内公募とか言ったって、複線的とか言ったって、大変ですよね。人事の人、そんな面倒くさいこと、やりたくないのですよ。私が今、ここから始めたらどうですかと申し上げているのは、社内副業なのですよ。副業の話っていろいろ言われているのだけれども、なかなか難しいという話はいろいろある。でも、社内で、例えばここの部門、自分はメインの仕事があるのだけれども、ここでちょっと自分もやってみたい、興味のあることをやってみたい。では社内副業ということで、手挙げてやれる、何かそのようにやっていくと、ジョブ型的な公募に応募して、自分はやりたいところをやるという、そういうものが企業の中にできてくるわけですよね。そんなところからちょっと始めたらどうなのでしょうか、いいのではないかという話も最近しているのですね。
3番目の話は、これは本当におっしゃるとおりで、日本の場合って、新卒一括採用ということなので、理系と文系ってかなり違いますし、理系なんか、大学院に入ってくるような人だとまた全然違うのだけれども、何かスキルがあるということを前提として、新卒一括採用で採っているのではないわけですね。その人の非常に潜在的能力、それは学歴を見たりとか、それまでやってきていることを見たりとかいうことで、あとは、企業に入ってから、まさに必要なものはそこで身につけていってもらいましょうと。
だから、ジェネラルな、スペシフィックなという、経済学で議論あるのだけれども、僕は余りそこをあれするのはどうなのかと思って、ただ、企業が主体的にやるしかないというか、それが日本の場合は主体であることは明らかだったわけですよね。つまり、だってスキルを持っている人を採っているわけではないから、その企業がやらなければいけない。それが、先ほど古賀会長おっしゃられたように、日本って、国際比較しても、産業ごとに見ても、人的投資のレベルというのがこの20~30年どんどん低下しているわけですね。本来は、日本というのはそういうことを企業がちゃんとやることが前提の仕組みだったにもかかわらず、全然企業がやれていない。僕は、そこはなかなか日本の企業は長期的な視点を持てなくなっているからかなということも関係していると思っているのですけれども、それは非常にゆゆしき問題だと思うのですよ。今の仕組み、全然整合的でないではないですかと。
これは厚労省の政策ということにもなってしまうかもしれないけれども、90年代から、教育訓練は、企業主体からもうちょっと個人の主体に考え方を変えていかなければいけないよという、明らかにそういう流れが出てきたのですよ。メンバーシップ型でなくてジョブ型に転換しているのであればいいのですが、そうはなっていない。そうはなっていないのだけれども、何かそういう方向に来てしまっている。で、雇用システムとそういう制度のというか、政策のところにそごが出ている。
今日のリスキリングという話も、欧米でジョブ型だからこそそれが問題になる。なぜかというと、職務が非常に決まって狭い。技術革新で、もうそれは要らないよとはっきりしてしまうのですよ。ではその人どうしたらいいのだ。日本の場合は、メンバーシップ型の中で生き延びることができます。なぜなら、「だから、あなた、解雇ですよ」と言えないからです。雇ったからには、企業の中で、どこかで使えるはずでしょって。その人をすぐ、これが技術革新で要らなくなったからって、その人を首にするのはだめですよ。裁判所はそのように言っているわけです。どこかで使えませんかと、ちゃんとそのための努力しましたかと、こういうことなのですね。
なので、欧米のほうは、ジョブ型を前提とすると、リスキリングって今最もそれは大事になってくるよね。では日本がリスキリングという話をするときに、それはどういう枠組みで考えたらいいのか。これまでメンバーシップ型の中でどんどん減ってきている。そういう話の中で、やはりもう少しジョブ型というものを入れて、それとリスキリングみたいなのをセットにするのか、それとも、どのようにしていくのか。何か根本的な雇用とか人事システムのあり方というところと結びついて議論しないと、とにかくやらなければいけないよねという議論は、僕はそのとおりだと思うのですよ。政府とか、もちろん、公共団体、企業ももうちょっとしっかりやらないと、そもそもそういう状況、やらなければいけないはずなのにやれていないというところがある。ただ、雇用システム、人事システムとの連関とか整合性って考えていかないと、それは何か意味のある議論ができないのではないのかなというのは個人的に思います。
すみません、余りお答えになっていないかもしれませんけれども、以上でございます。
○古賀委員 ありがとうございました。
○守島部会長 ありがとうございました。
では続いて、川﨑委員、お願いいたします。
○川﨑委員 ありがとうございます。
鶴先生、それから大嶋さん、とても参考になるお話、どうもありがとうございました。お二人に1つずつ質問させていただければと思います。
まずは鶴先生のほうですけれども、ジョブ型の人事制度、今、企業、大分導入というものが進んできていると認識しております。併せて、新卒一括ではなくて、中途社員の採用も大分増やしてきているのかなあと。私たちのグループでも、採用する人間の3割は中途にしようという目標数値をつくっての採用活動も進めてきましたと。併せて、このジョブ型の人事制度を入れて、ジョブグレードを決めて、ジョブ・ディスクリプションもつくりましたと。社内公募もやっています、社内副業もやっていますというところで、外形的な形は整えたというところまでは来ておりますと。
ただ、一方、このそもそもの目的がキャリアの自立、その社員の自立、自立的、あるいは自立したキャリア形成をイノベーションにつなげていきたいといったところから、こういうお話が始まっていると認識しているのですけれども、運用の実態を見ていくと、なかなかジョブ型というよりは、従来型のメンバーシップ型の人事の運用が見え隠れしているというのが現状ですと。そういう企業、結構多いのだと思っています。
こういう企業がどこの閾値を超えると、いわゆるキャリアの自立というところに本当の意味での転換ができるのか。実際、やっている企業さんの中でうまく転換したときのその転換点にどういうことが起きて、どこが経営の判断として必要なものになるのかというところの何かお考えとか事例があれば御紹介いただけるとありがたいかなあと思っていますので、お願いいたします。
それから、2点目は大嶋さんに質問です。よろしくお願いします。リスキリングの必要性、特にDXに関しては、リスキリングの必要性、そのとおりだと思います。日本を見たときにも、やはりDXを進めることによって1つ産業をつくっていくということと、個別個別の産業も強くしていくということが求められていくというのはそのとおりだと思うのですけれども、このリスキリングの主体となるのは、海外は自治体に加えて、ベライゾンさんであったりマイクロソフトさんであったりとか、いわゆる大手のITベンダーさんに近いようなところが参画していると見受けました。日本は、自治体以外にこういうリスキリングのことに関して取り組もうとしている業種がどこかにあるのであれば、あるいはそういったところに参入しようとしているような動きがあるのであれば、御紹介いただければと思います。
私からは2つの質問になります。よろしくお願いいたします。
○守島部会長 では、鶴先生、まずお願いします。
○鶴氏 どうも御質問ありがとうございました。これも物すごく大事なお話だと思っているのですね。それで、ジョブ型というのは、先ほどもお話し申し上げたように、社内で途中からジョブ型とか、複線的なものをつくるにしても、やはり外との行き来というところがちゃんと確保されないとジョブ型という形にはならないのですね。だから、中途採用というのが非常に活発化してきているということは、やはりジョブ型の話とそこはちゃんと並行的に進めるべきだし、進めていかなければいけないと思っているのですね。今、採用なんかも、本当にICTとかデジタル化とか、いろんなそういうものの活用で、特にエンジニアとか理系の人材について、企業がこういう人欲しいというのを結構ピンポイントでそういう人たちを探して採用するというのが非常にできるようになっている。だから、どんどんジョブ型というか、そのような世界に、そういう部分ってよりテクノロジーの利用ということも含めてつながってきているのですね。
そうすると、こういう人材欲しいからと、来て、社内に入る。だから、そこの最初の時点ではまさにジョブ型になっている。ただ、先ほどおっしゃったように、企業の中に入ったら、ちゃんと複線的な仕組みとか、そういう中がちゃんと整備されていないから、今度、メンバーシップ型みたいな世界にどーんとはまってしまって、最初はそうやってこういうものができるとやったのだけれども、だんだんいろんなことをやってもらうとかなんとかと言って、その人を幹部にしたいとなれば、何かそのような人事運用になっちゃうよねという、それがやはり僕は大きな問題だなあと思って、もっとそういうところをしっかり、もちろんメンバーシップ型というか、ずっと幹部に残る人は、ある一部そういうところにずっといる人がいてもいいのですけれども、そこはもうちょっと分けて、ジョブ型になって入ってきたのに、何となくそこからメンバーシップ型に使ってしまうような仕組みでは困ると。
僕は、ジョブ型の利点って、企業と従業員の中のある種の緊張感というのがすごく大事だなあと思っているのですよ。ちゃんと自分がこれだけ成果を出していて、成果主義ということを言うつもりないのだけれども、自分はこうやって貢献している。ちゃんと相手がそれに対して見合った評価とかそういうのをしてくれなければ、自分はいつでも外に飛び出ていいんだよと思うし、逆に企業も、彼は、彼女はすごく優秀だと。でも、本当にちゃんと頑張っている者に対して示していかなければ、すぐ飛び出していっちゃうよねと。それで企業にとって損失だと。で、どんどん飛び出してしまう人が出てしまうというのが僕は困ると思っているのだけれども、長くいながらも、そういう緊張関係が従業員と企業の中にあるというのが、これまでの、ちょっとぬるま湯だったり、また我慢大会であったり、忠誠心であったり、何かそういうものが従業員を結びつけている世界から、もっといい意味での緊張関係というものがある。それがやはり中途採用とかそこにもちろん入ってくるし、またそこに出ていくよという風通しがいいようなところが企業の中にしっかり構築されているということが非常に大きなポイントで、そういう感覚にならないとだめですよね。入ってしまったらどっぷり浸かるのだという、お互いにそういうことを思っているのであれば、結局何もならないと思います。
以上です。
○川﨑委員 よく分かりました。ありがとうございます。
○守島部会長 ありがとうございました。では、大嶋さん、お願いします。
○大嶋氏 御質問ありがとうございました。いただいた質問は、欧米で、大手企業が主体となるリスキリングと、それから社会課題に対応して、大手企業と様々な支援主体、あるいは国とプラットフォームが連携したリスキリングの枠組みがあるという状況に対して、日本でどのようなリスキリングの主体があり、どう連携のマップが形成されているのかということを聞いていただいたと理解しております。
それに関して申し上げますと、例えば国が新たにリスキリングの枠組みを開設されたり、例えば先ほど申し上げた中小企業向けの在職者訓練の枠組みの中で中小企業経営者向けの窓口をつくって相談などの対応を拡充しているということもございます。また自治体はこれまでDX支援を中心に行ってきたのですけれども、別途リスキリング、人材面にフォーカスした支援を新たに立ち上げる動きが広まっていると認識しています。
それ以外の実施主体として、欧米のようなリスキリングのプラットフォーマーとは異なりますが、学習プラットフォームを提供したりデジタルスキルの習得に特化したサービスを提供する事業者さんが複数立ち上がってきていらっしゃいますし、また、人材サービスの中で未経験の方を雇い入れて、その方にリスキルをした上で派遣をして、場合によってはその仕事の中でスキルアップさせていく枠組みを提供されている事業者さんも複数見られます。
また、スキルの可視化に取り組まれている事業者さんも出てきていまして、そこもリスキリングにつながる動きであろうと見ています。ですので、欧米のような大手企業とプラットフォーマーが連携して数千万人にリスキリングを行うマイクロソフトのGlobal Skills Initiativeと同様の動きは、外資系企業の日本法人での取り組みを除けば、日本の企業ではあまり見られず、それよりも様々なステークホルダーが個別にリスキリングに取り組んでいるという状況ではないかと考えています。
○川﨑委員 分かりました。どうもありがとうございます。特に海外ベンダーなんかはリスキリングすること自体が営業につながっていく。結局、リスキリングした人材がジョブ型で転職したときに同じシステムがちゃんと使えるようになってというところで結構積極的にやっているという受け止めをしていたので、よく分かりました。ありがとうございます。
○守島部会長 ありがとうございました。では続いて、春川委員、お願いいたします。
○春川委員 ありがとうございます。
今日は、鶴先生、大嶋さん、御講義ありがとうございました。労働組合、職場・現場の立場から発言させていただきます。自社では、2020年8月から、自社版ジョブ型人事制度と称した制度が導入されているのですが、現場における実態を含めて、御発言させていただきます。
あくまでも労使自治によって、これまでの人事制度を大きく自社版のジョブ型に移行した経緯があるのですが、制度を切り替えた大きな要因としては2つあります。1つは社員の年齢構成で、45歳以上、50歳代のエルダー層と呼ばれる社員層が全体の中でも4割近くいるような社員構成になっていたということです。また、会社側、また労働組合としても、社員、組合員の考え方等々を聞いていく中で、挑戦意欲が非常に低いことが見えてきたこと等もありまして、いわゆる専門領域を決めて、その中で自己啓発、能力開発をしながら、キャリア形成を図り、成果を発揮していくという仕組みが必要ではないかということもあり、制度導入に至りました。現時点で感じている課題が3点ほどございます。
1つは、先ほど先生からありました、「ジリツ」的に働く、これは社員、組合員からすれば自己挑戦をしていくということにもなってくるかと思います。そのような中で緊張感も生まれてきており、マネジメント層、マネージャーの緊張感も、非常に強まっているのではないかと思うのですが、因果関係は見えておりませんが、マネジメント層のメンタル疾患のようなものが増えてきているのではないかということを感じています。
もう一つは、社員の中でも、意識が変わらないというか、変え切れていないという部分で社員間の分断が起きてきてしまっているような側面です。そして最後は自社内の制度の仕組みなのですが、もともと総合職と呼ばれる職制と、職務や働く場所を限定していた正社員が存在していましたが、制度変更に伴い、職務限定に関しては、専門領域を束ねるということで移行できるのですが、勤務地を限定していた職群をどう整理していくかが課題になりました。そこで、職務限定という職制を社内でなくし、あくまでも自分が専門領域を選択できるようにし、そこで地域も選択できるような社内制度にしていこうと、労使自治の中で議論がありました。事例としてのお伝えになるのですが、このような取り組みを今進めておりまして、あくまでも労使自治の中で職場現場を踏まえながらいろいろなことを試行錯誤していくということが、我々としてはできているのではないかと思っています。しかし、しっかりとした労使関係がない企業では、職場現場の内部分断のようなものも出てくるのではなかろうかと危惧しています。
私からは、労働組合の立場から、感想も含め、発言させていただきました。以上です。
○守島部会長 ありがとうございます。鶴先生、何かありますか。
○鶴氏 ありがとうございます。実際に制度というものをいろんなことで変えていくときの非常に典型的な問題というのを、今、御指摘いただいたと思うのですね。だから、ジョブ型ということに限らず、今、テレワークの問題についても全く同じ問題が出ているのですよ。それで、新しい制度を導入していくとか、これまでの大きな環境というのが変わる、それに対してなかなかついていけない不安感が非常に、それはメンタルヘルスというところがやはりどうしても影響してしまう。
それから、やはり意識というところを変えるということはすごく難しい。先ほどの大嶋さんのお話でも、リスキリングにおいてもその辺が非常に大事だというお話もされていたのですけれども、ここがやはり変わっていかないと新たなものに対応できていけないよねというのは本当にそのとおりだと思うのですね。
それから、一番最後のお話も、個々の企業、特に労働組合のお立場ということから考えてすごく大事で、正社員の中にもいろんな階層がより多く出てきてしまうと、そこが何か非常に難しくなってしまう。だからこそ、ジョブ型というところが、正社員の中に一段低い正社員をつくるのかみたいな、実はジョブ型の初期ってそのような誤解があったと思うのですけれども、でも、実際にいろいろやっていくと、何かそういう階層が新たに企業の中に出てしまう、それが分断のほうに結びついてしまうということは当然あると思うのですね。
なので、やはりそこはそういう分断にいかないとか、一段低いものをつくるとかそういうことではないのだと。あくまでも従業員の人たちのより生き生きと働ける能力を発揮するための、で、最終的にはそれで企業がメリットを受ける、そういう中でのいろんな仕組みということなんだよということを説得的に示していくことがやはり重要だと思うし、そういう制度設計をしっかりやっていかなければいけないということに尽きると思うのですね。なので、今のお話は、今大きくいろんなものを変えていこうかというときに、全ての企業で起きている問題だと私は思いましたので、非常に重要な御指摘だと思いました。ありがとうございます。
○守島部会長 ありがとうございます。次が山川委員なのですけれども、武田委員、まだ時間的に大丈夫ですかね。
○武田委員 ありがとうございます。実はもうそろそろなので、もしよろしければ。
○守島部会長 では、山川委員、岡本委員、山田委員、先に武田委員に御発言をいただいてよろしいですかね。
(首肯する委員あり)
○守島部会長 では、武田委員、お願いいたします。
○武田委員 御配慮いただきまして、皆様、申し訳ございません。
本日は、鶴先生、それから大嶋様に大変すばらしい御発表をいただいて、ありがとうございます。いずれも大変重要な御指摘だったと思って伺っておりました。
まず、お二人に共通してお聞きしたいことは、いわゆるジョブ型の制度や、リカレントの重要性は、従業員のみならず、経営という視点でも重要なのではないかと考えています。メンバーシップ型での働き方が限界に来ているということはそのとおりなのですけれども、先ほど鶴先生が途中で回答の中でおっしゃられたように、ジョブ型という形で中途で職務を明確にして入社されたとしても、どこかでメンバーシップ型が求められるようになってくる。メンバーシップで上がってきた幹部、経営陣が会社の経営の中枢を担っている限りは、やはりジョブ型的、あるいは中途で職務を与えられて入ってきた方が、経営に携われるかというと、なかなかそういう状況になっていかないということがありますと、今、鶴先生がおっしゃったように、限定社員がいつまでも一段下、ジョブ型の社員だと一段下という慣習により2階層になってしまう部分があると思います。すると、真の意味で多様な人材の力が発揮されず、それは会社の競争力にも関係してくるのではないかと思います。
次に、もう一つの問題として、そもそも多様な専門知見が経営に反映されていないこと自体が日本の企業の地盤沈下になっているのではないかと思っています。例えばエンジニアの地位が低いことが、DXの遅れであったり、研究開発、財務、人事もそうですけれども、それぞれの分野で専門知見を持った方々、多様な専門知見を持った方々が経営に参加しない、いわゆるメンバーシップ型だけの経営になってしまっていることが結果的に競争力低下につながっている可能性はないのかどうかという点です。
つまり、従業員の多様な知見を取り入れ、それをイノベーションにつなげていくには、経営自体が変わっていかなければならないのではないかという点、どのようにお考えでしょうか。取組事例がもしあるのであれば、そうした事例も御紹介いただけるとありがたいと思います。先ほど大嶋様からは、中小企業の例を提示いただいたと思いますが、大企業なども含めて、取組事例、取組がないとするならばどこが変わっていかなければいけないのかという点、教えていただきたいと思います。ありがとうございます。
○守島部会長 ありがとうございました。では、鶴先生からお願いできますか。
○鶴氏 武田さん、どうもありがとうございます。すごく難しい問題ですよね。1つは、リスキリングということを考えるときにも、今、若い人たちって、やはり企業に入って、自分たちは成長できる場にあるのかということをすごく考えるのですね。自分はそこで成長できるのかと。そうしたときに、成長できる環境とかそういうものを与えられるということが彼らにとってウェルビーイングを非常に高めることにつながるわけです。
そうすると、リスキリングみたいな話も、企業がまさにそれぞれの人たちが成長する機会をいろいろ豊富に与えているということを考えると、彼らはそれを自分で自主的にやりたい、まさに企業は、自分たちがそういうことを選択するいろんなものに、例えばスキル向上で自分を伸ばしていく、そういう場を企業の中で与えている。だから、自分たちはそこの中で成長できるのだと。そういう枠組みの中で、これまでの教育訓練とか、古いそういう考え方でこういうものをやるというのではなくて、そういう機会があるとか、そういうことを選択できること自体が彼らのウェルビーイングを高めるのだよという話をしていかなきゃいけないのではないのかなと思っているのですね。
人への投資という、投資という考え方自体が、僕は何かちょっと一方的な言葉に感じてしまって、それではなかなか、旧来型の発想ではうまくいかないなというのが1点と、それと、武田さんおっしゃるように、ジョブ型の人で、なかなかトップまでいかないよという話をされたのですけれども、これは本当にちょっと私事で恐縮なのですけれども、三菱UFJのトップは大学の数学科の同級生なのですね。時代の要求で、従来型の文系発想では、銀行の経営は難しくなっている表れかと思います。それはテクノロジーの問題もありますし、金融自体が非常に高度化しているということもあると思います。東京海上火災のトップも理系です。ド文系の象徴のような企業のトップが例えばそのようになってきたということです。
例えば日立とかそのような、もともとエンジニアの方がトップになられるような企業でないところにそういう方々が出てきたというのは、僕は大きな変化だと思うし、やはり時代が本当に変わってきている。だから、それに応じて生き延びていくということは、トップの選抜といっても、やはりそのようになってくるのだろうなと思います。だから、逆にそれに対応できないとその企業ももちろん生き延びていくことはできないでしょうという話だろうと思うのですね。だから、徐々にそれは既に出てきているのだろうなあと思います。
○守島部会長 ありがとうございます。大嶋さん、いかがですか。
○大嶋氏 ありがとうございます。鶴先生に大分私も考えていたことを言っていただいてしまって、少し補足的に申し上げさせていただくと、今、若い人たちの中で、学び続けて自分の仕事を変えていかなければいけないということは常識になりつつありますし、また、経営の観点から、従業員に関して、上から何をさせるかということではなくて、従業員の知見や価値観をどのように経営に生かしていくのかという線で経営していかなければいけないという流れになってきていると思います。それに整合的な人事制度やリスキリングの機会が提供されているのかということを働く人は見ていると思いますし、それを果たしていくことが経営の責任であろうと考えています。
ただ、メンバーシップ型、ジョブ型との関わりで考えたときに、ジョブ型の社会では企業に「従業員の能力開発」という概念が基本的にはない中で、リスキリングという新たな手段を発明しているわけです。リスキリングをしないと時代と企業戦略の変化に応じた人材を獲得できないということを受けて、新たな方法としてのリスキリングを発明していくという流れです。一方、日本企業の場合はもともとはOJTとジョブローテーションで人材を育成していく仕組みがあったものの、それではデジタル化の流れに追いつけないためにリスキリングをやりましょうという流れになっている。ではその時に、わざわざ日本企業がジョブ型に移行する必要があるのだろうかというのが私の疑問で、厳密なジョブ型というよりは、役割を明確化し、そこに必要なスキルを可視化した上で、従業員の希望や価値観と役割をすり合わせられる仕組みをつくるということが重要なのではないかと考えています。
企業の事例として、日本の企業の事例は私のほうで今具体的に存じ上げないのですけれども、例えば外資系の企業さんの中で、経営者自身が学んで、学ばれたことを社内に広報されているといった事例があるという話は伺っております。
○武田委員 どうもありがとうございます。
○守島部会長 ありがとうございました。
では続いて、お待たせしました。山川委員、お願いいたします。
○山川委員 ありがとうございます。鶴さん、大嶋さん、今日はありがとうございます。
私のほうから鶴さんのほうに、ちょっとざくっとした質問なのですけれども、メンバーシップ型からジョブ型への移行をより促進というか、スムーズにするために、例えば現行の法律とか制度、規制で変えたほうがいいと思っている点があるかどうかお聞きしたくて、私は弁護士なので、基本的にジョブ型にするには、使用者、会社と社員が合意すればそれはできるというのは当然だと思うのですよ。そうすると、多分、世間的に変えなければいけないのが、もうちょっと雇用契約をちゃんとジョブ型にしてくださいねと。あと大きいのが就業規則ですよね。
その点ではモデル就業規則をちょっと変えたほうがいいのではないかと個人的には思っているのですけれども、今、モデル就業規則って配転の条項が、違っていたら申し訳ないけれども、多分、使用者のほうが勤務地も職務も変えられますよと。で、正当な事由がなければ断れませんよみたいな、もろメンバーシップ型のモデル就業規則になっているから、そういうところも例えばジョブ型のモデル就業規則をつくるとか、そういうのもあると思います。ただ、それって法律でなくて、つくろうと思えばつくれるのと、あとは、個人的には、今日は長くはしゃべらないですけれども、解雇規制は何とか変えたほうがいいかなとは思っているのですけれども、鶴さんのほうから、現行の法律、規制で、ここは変えたほうがいいとか、ここがちょっとネックになっているとお考えの点がもしあれば教えていただきたいと思って、お願いします。
○鶴氏 ありがとうございます。規制改革会議の当時から、結構その話ってさんざんやったのですよね。それで、そのときのポイントって、そういう雇用契約とか、もちろん就業規則というのはまた次の段階なのかもしれませんけれども、とにかく文面できちっと明示化しなければいけない。何となくそういうことがない中でやられているケースという、中途半端なケースって非常に多いので、明示化ということが結構、政府として何をやるべきかというところはポイントになったのですけれども、やはりそこは議論をやっていく中で、企業側のほうがそこまでぎちぎちにやってしまうといろいろやりにくいという、とにかくアバウトでやりたいのですよ、企業のほうは。それを自分たちの人事の裁量権とか自由にやれるというところをなるべく残してやりたいというのはずっと企業側の要望で、だからメンバーシップって、やりたい放題だから、それはもう人事にとってこんなにいい仕組みはないわけですよ。だから、明示化とか何とかとやっていったらどんどん自分たちは自分で首締めるというか、そういうところにあるわけだから、やりたくないわけですよね。
多分、厚労省も、すみません、別途研究会でそういう御議論もされて、少しまたまとめられたりということで、もうちょっと先に進むようなところ、御議論されているとは聞いているのですけれども、最初から、それこそ10年ぐらい前からそういう議論ってずっとやっているのだけれども、なかなか、やるべきだよねという中で、僕の目から見ても抵抗がやはり強かったなあという、それは企業側なのです。
だから、ジョブ型って面倒くさいということを言うわけですよ。人事にとってこれほど面倒くさい仕組みはないのです。だから、それを入れるというのは、いろんなところでもちろんいろんな形で入れられているのだけれども、非常に厳密な形でそれをやっていくというところはなかなか大変だよねと。なので、非常に中途半端な導入になったりとかいうところは実際あるわけですね。
それで、僕は余り法律がどうだとか何とかいう話よりも、やはりジョブ型ということをやることによって、例えば従業員がそれをやることに非常にメリットがある、メリットがあれば企業にとってもメリットがある。とにかくどういう形をやるにしても、自分たちがこれをやることによってより企業パフォーマンスを高める。でも、それは従業員の、先ほど申し上げたウェルビーイングが高まるとか、それから、いろんな環境変化に適応していくためにこういうのは必要だとか、やはり企業がこういうことが何で必要なのかというところを明確に理解した上で導入が進んでいくということが大事だと思うのですね。だから、無理やり、さっきのような話って、僕は重要なポイントだと思うのだけれども、まさに企業自身がそういうことをよりよく理解してということがやはり本源的に大事だなという感じで今は思っています。
以上です。
○守島部会長 ありがとうございました。では続きまして、岡本委員、お願いいたします。
○岡本委員 お二方の貴重なお話、どうもありがとうございました。大変参考になりました。また、委員の方たちとのやり取りを伺って、ジョブ型やリスキリングについて、理解が深まったように思います。
私から大嶋様に1点質問をさせていただきます。DXやリスキリングを推進するためには、企業単体の取組にとどまらずに、ドイツやイギリスのような地域内や拠点間の連携や、地域やテーマ別のリスキリングが必要だという指摘は大変重要だと思いました。
一方、日本はDXやリスキリングの推進に向けて、公的な職業訓練などをはじめ、デジタル人材の育成プログラムや助成金などが整備され始めているのかと思うのですが、個々の企業や労働者の支援にとどまっていて、地域や産業をターゲットとした支援や枠組みの構築というのは諸外国に比べて少ないのではないかと感じています。
今後、諸外国のような取組や支援を行うとすれば、国や都道府県だけにとどまらずに、市町村単位の自治体、あと地域内企業の連携ということも重要と考えますが、先ほどお話の中でも少し触れられていましたが、今後、国や地方公共団体、企業などが横断的に連携していく中で求められていくものは何かということを、もしお考えがあれば、伺いたいと思います。
以上です。
○大嶋氏 ありがとうございました。いただいた中で、地域レベルの取組を推進していくような枠組みというのが少し必要ではないかというような問題意識で御質問いただきました。現在は地域の中で様々な支援主体が立ち上がっており、自治体のほかに経済団体だったり、市町村が立ち上がっているというような状況であり、支援の重複も起きていると言われています。そうした中で、愛知県さんは産業界、自治体、教育、IT企業等々と連携したDX推進のコンソーシアムを立ち上げて、人材育成も含めて支援の重複をどう防ぐかとか、これから必要な支援は何かということを議論されております。
本日の報告には盛り込めませんでしたが、私自身は地域レベルでそうしたコンソーシアムをつくって、地域で何をやるべきなのかを整理・議論した上で国と連携したり、さまざまな地域の課題や取り組みが地域の壁を超えて情報共有される仕組みが必要だと考えています。まさにそういった仕組みの萌芽が愛知県では起きていると考えており、同様の取組が全国に広がっていくことが重要であろうと考えております。
○岡本委員 どうもありがとうございました。
○大嶋氏 とんでもありません。ありがとうございました。
○守島部会長 ありがとうございました。では続いて山田委員、お願いいたします。
○山田委員 ありがとうございます。鶴先生、大嶋さん、大変ありがとうございました。
お二人に質問とコメントと両方入るのですけれども、鶴先生に最初にお願いしたいのですが、最初、コメントに近いのですけれども、全体としてメンバーシップは限界が来ているので、ジョブ型的なものというのがやはり入らざるを得ないと。現実には、この議論の中にもあったように、若い人が流動化しているとか、事実上、シニアの場合はジョブに近い形になっているということで変わり始めていると思うのですけれども、結構ネックになってくるのは人材育成のところだと思うのですね。先ほど来議論があったように、ジョブ型というのは、これは大嶋さんも指摘されていましたけれども、基本的には企業内部で育成していくというインセンティブが余り働かない。というか、選別的にはやるのでしょうけれども、結局、欧米を見ていると、教育機関との連携みたいなところでそれを補完しているのだと思うのですね。インターンシップとか、実際に企業に入って実習するとか、あるいは賃金インセンティブをつけて企業の中で働くとか。これは事実上そこで職業体験を積ませているということだと思うのですけれども、そういう企業と教育機関との連携みたいなところを、そこを結構これから進めていかないとだめなのではないかなあというところをすごく思っています。
それともう一つ、鶴先生のおっしゃった、まさに個人がなかなかキャリア自律できないという背景には、アイデンティティの源泉が会社にしかないという問題だと思うのですね。欧米を見ていると、例えばアメリカなんかはアソシエーションがあって、ある特定の職業で、やはり一つのコミュニティがあって、アイデンティティがそっちにあると。そうすると、一つの職種でもってキャリアをつくっていこうという感覚が出てくるというところだと思うのですね。ただ、これをどうやって日本でつくるかというのはなかなか難しいと思うのですけれども、何かその辺りを意識的に考えていかないとだめではないかなというのは、聞かせていただいていて思ったことです。
1点質問は、メンバーシップは、現実は今も残っているし、残っていかざるを得ないという面もある。一方でジョブ的なものが入っていく。併存というのが可能なのかということなのですね。先生はまさに比較制度分析の造詣が深い御方ですので、その辺り、どのようにお考えになっているのか、やはりどこかでがらっと変わっていくものなのか、結局、変わらずにだめになっていくのかという、その併存をどのように考えたらいいのかというのを教えていただきたいということです。
それから、大嶋さんには本当にいろいろな実情を教えていただいてありがとうございました。1点だけ、中小企業でうまくされている事例を3つパターンされてお話しされていたと思うのですけれども、でも、御指摘されたように、日本はもともとOJTでやっていた。ただ、まさに欧米はジョブでもってそういう伝統がなかったから、今、技術の変革の中で必要だから、あえてリスキリングという話が出ているということだ。そうすると、リスキリングというのは、一種のジョブ的なものというのが前提になるみたいな面があると思うのですけれども。逆にここでうまくやっているところというのは、日本は社会システムとして完全なジョブがないので、ジョブ的なもの、要は職務を明確にするとか、そういうことをまずされてこういうことをされているという理解でいいのか、あるいは、それは日本的なまた違うパターンがあるのか。中小企業のうまくいっている事例を見て。そこをちょっと教えていただきたい。
以上です。よろしくお願いします。
○守島部会長 ありがとうございました。では、鶴先生、お願いします。
○鶴氏 どうも御質問ありがとうございます。山田さんのおっしゃられたことというのはすごく難しいというか、大事なことなのですね。安易に2つのものが併存するよとか両立するよというハイブリッド型ということを、比較制度分析の枠組みなんか考えると、安易にそういうことを言うべきではないというのは本当におっしゃるとおりだと思うのですね。
一方、具体的な仕組み、いろんな仕組みを国際比較すると、例えばある特色、例えば金融だと、アメリカはすごく市場型、日本は銀行型だとか言われるわけですけれども、アメリカなんかも、実はずっと前から、中小企業なんていうのは割と、銀行は一つの銀行で取引をするというのが非常に明確に行われていたということなので、実はそういう金融でも雇用でも、そのシステムを見ていっても、その中である一面だけのシステムになっているのではなくて、細かく見てみるといろんなものが組み合わさっているわけですよね。日本も、正社員は無限定というメンバーシップなのだけれども、非正規というのは全くジョブ型という形なわけですよね。もう明らかにそこは違う。でも、そこをうまく両立できているかというのはまた問題なのですけれども、細かく見ていくと、やはりそこは違ったものが併存しているということなのですね。
私は、すごく大事なのは、世界、いろんなシステムがあって、コンバージェンスが起こるとか、ある一定のものに全部収れんしていくとか、日本はアメリカのほうにいくんだよとか、いろんな議論があったのですけれども、多分そういうことって起こらないと思うのですよ。それぞれのシステム、変化していくし、近いようなところを目指していても、実は全然違う形でいく。アメリカも、極端なジョブ型というところのいろんな弊害があって、日本からすごく学んだというところはたくさんあるのですね。
ではアメリカは日本のようなメンバーシップがちがちになるかというと絶対ならないわけです。自分たちが取り入れられるところは取り入れて、やはりシステムとして進化しているのですね。ただ、日本も、アメリカみたいになればいいのかとか、ヨーロッパみたいになればいいのか、そんな話では絶対なくて、やはりベースのところがありながら、でも、そこはいろんなものが変わっていきながらシステムというのは変化していくということが、この30年とか見ていても実際に起こっているということだと思うのですね。
だから、みんな、それぞれの変化というところをどのようにしていくのかというのは、いろんなメカニズムがどのように働いているのかとか、推進力がどうなっているのかということを見ながら、決して決まったところに行こうとしているというわけでなくて、それは我々もよく分かりません。どこに行くのか。ただ、どういう方向に変化していくとか、どういうところを取り入れて進化していこうとしているのかというところをしっかり見極めていくということが大事ではないかなあと思っています。
○山田委員 ありがとうございます。
○守島部会長 ありがとうございました。では、大嶋さん、お願いします。
○大嶋氏 ありがとうございます。中小企業の事例の中でジョブ的なものを明確にした上でのリスキリングが行われているのかという御質問だと思っております。基本的には、中小企業においてジョブを明確にした上でリスキリングを行うという方向とは言えないと考えています。というのも、中小企業では、人材が不足するなかで、例えばどこかの部署が逼迫したときに応援に行くといったことは日常的に行われており、ジョブの範囲を明確にするということが実際には難しいといった状況もございます。
一方で、高度なデジタルスキルを保有する人材を集中的に育成しなければいけない場合に、業務に集中できる環境を作ることは行われているのですが、その場合に、人事制度で何かしているというよりは、経営者の方の声がけで、つまり、運用で担保しているといった状況だと考えております。
以上です。
○山田委員 よく分かりました。ありがとうございました。
○守島部会長 ありがとうございました。ほかに御質問とか御意見とかございますでしょうか。
ちょっと時間がありますので、私、鶴先生と大嶋さんに1つずつちょっとお伺いしたい点がございます。
私、鶴先生のおっしゃっていること、100%以上アグリーなのですけれども、それで、やはりジョブ型というラベルを使わないといけないのですかね。先生もおっしゃっているように、ジョブ型という言葉を使った途端に、いわゆるJD(Job Description)の問題、JDをつくるということを思い出したり、それから、それに基づいて賃金を決めるということを、いわゆる職務型の人事をやっていくということを思い出す人たちが結構おられて、それをやればジョブ型になったのだという感覚の方々が結構多いように私はお見受けするのですけれども、ただ、鶴先生の言われていることというのはもっと根本的な日本の人事システムの改革のように思うのですけれども、それでもやはりジョブ型という言葉で呼ばないといけないのでしょうかというのが、余りいい質問でないかもしれませんが、それが1つです。
それから大嶋さんのほうも、ちょっと根本的なお話になってしまうかもしれないですけれども、リスキルというのは方法論ですよね、あくまでも。要するに、従業員のスキルセットを変えていって、新しい時代のジョブに転換していってほしいという、それがやはりポイントだと思うのですけれども、その転換をしていくというところに関して、リスキルのために何をやるかというのが先ほどの議論で大分出ていましたけれども、特に経営者の頭の中を変えていって、それで生産性をもうちょっと新しい時代の、ITであるとか仕事に合わせていこうという、そこの部分に関して何か、国であるとか、できることがあるのか、そこのところをちょっとだけ教えていただけますでしょうか。
○鶴氏 では、私のほうからよろしいでしょうか。守島先生、ありがとうございます。
本当に核心に迫る質問だなあと思うのですね。そこでいろんな誤解が生じているということがあって、これはやはり研究者の責任でもあるのかなあということなのですね。それで、実は私も、規制改革会議でやり出したときに、「限定正社員」という言葉を最初使っていたと思うのですね。つまり、無限定正社員というのがあって、それをどこかで限定していかなければいけないよねという話で、限定正社員というのを使ったと思います。
それで、会の中でいろいろ議論していくときに、まさにここにいらっしゃる佐々木さんなんかも一緒にワーキンググループでやっているときに、でも、限定正社員って、何かちょっと限定するというネーミング、余りよくないよねと。確かにそういう議論って当時もあって、限定するって、前のお話に戻るのですけれども、一段低いみたいな話とか、何か余りいい響きではないのですよ、限定という言葉は。いずれにしても。
なので、やはりそこ、定義はちょっと明確に、職務や勤務地または労働時間が限定されていない正社員、その反対語としては無限定社員ってあるのですけれども、濱口さんが使っていたジョブ型という言葉で、定義を明確化してジョブ型にしようということなのですね。実はそれから、准正社員、制約社員、ワークライフ社員とか、それこそ先生方によってみんな使い方が違うような名称って結構出てきたのですね。
研究者って自分の概念をアピールしたいから自分の言葉を使って話をしようとするのだけれども、それって世の中に浸透するには逆効果と考えたのですよ。なので、やはり割と世の中に受け入れやすい言葉で、とにかくいろんな言葉を使うと混乱してしまうから、なるべく浸透させたいよねということで、ジョブ型というのをずっと使ってきたと。そのかわり定義はこうだよとはっきり言っている。ただ、守島先生おっしゃったように、そもそもジョブ型という言葉はそういう意味だし、メンバーシップ型も必ずしもいい言葉ではないですね。片仮名にすると、やはり必ず誤解があることも感じています。
ただ、厚労省の「多様な正社員」というのも、言っていることは同じなのだけれども、多様な正社員って一体何言っているのかずっと分からないですね。いい言葉がないままずうっと来てしまっていて、それはやはり政府も研究者の責任でもあります。変な混乱も生んでしまっているし、みんながジョブ型に勝手な定義をつけてしまう混乱の要因にもなっています。ただ、どこまでいってもいい言葉がなかなかないなあということなのですね。そこは問題です。一番ポイントのところからもしれません。
私からは以上です。
○守島部会長 私も多分その責任の一部を担っているところがあると思います。ありがとうございました。大嶋さん、いかがでしょうか。
○大嶋氏 経営者の方のデジタルに関する認識等々変えていくために何が必要かということを御質問いただいかと思いますが、デジタルに取り組まれていない、あるいは二の足を踏まれている経営者の方々には、阻害要因といいますか、デジタルに取り組めない理由が様々にあります。例えば、長年の取引関係があるのであえてデジタル化を行う必要がない、変わる必要性が感じられない、デジタルは難しい、あるいは、従業員がついてこれないといった、阻害要因が頭の中にあると思うのです。
それぞれに対応策や説得材料はあるのですけれども、自治体の方ともお話しさせていただくなかで、地域における身近な事例、あそこがやっているのだったらうちもできるはずと思える事例があることが、今申し上げたような様々やらない理由をクリアーしていく上で一番有効であるとは聞いております。
したがいまして、遠くのすばらしい企業の事例ではなくて、身近な企業の本当にリアリティのある事例を地域で、それもDXの事例だけではなくて、リスキリングを通じて従業員の方がきちんとついてこられることを示した事例を提供していくことが重要であろうと考えております。
○守島部会長 ありがとうございます。
それでは、そろそろ時間となりましたので、この辺りで今回の議論は終了させていただければと思います。鶴先生、大嶋さん、どうもありがとうございました。非常に詳しいお話をいただけて、私どもも勉強になりました。
では最後に、事務局から、次回の日程についてお話をいただきたいと思います。
○松本政策統括官付参事官 事務局でございます。
次回の日程につきましては、調整の上、また追って御連絡申し上げます。
以上でございます。
○守島部会長 それでは、以上で本日の「労働政策基本部会」は終了といたしたいと思います。御多忙の中、御出席いただき、どうもありがとうございました。