第11回これからの労働時間制度に関する検討会 議事録・議事概要

労働基準局労働条件政策課

日時

令和4年3月29日(火) 10:00~12:00

場所

厚生労働省省議室

議題

  1. (1) 労働者の健康確保に係るヒアリング(公開)
  2. (2) 企業からのヒアリング(非公開)

議事録・議事概要

議題(1) 労働者の健康確保に係るヒアリング 議事録
○荒木座長 それでは、ほぼ定刻で、皆様おそろいということですので、ただいまから、第11回「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催いたします。
本日の検討会につきましても、新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点から、会場参加とオンライン参加の双方による開催方式としております。
また、本日の検討会は、委員の皆様に加えまして、労働者の健康確保に係るヒアリングと企業からのヒアリングということで、外部の有識者の方と企業の方に御出席をいただいております。
本日の議事の後半の企業からのヒアリングにつきましては、第1回検討会におきまして御了承いただきました「検討会の公開の取扱いについて」の②「特定の個人等にかかわる専門的事項を審議するため、公開すると外部からの圧力や干渉等の影響を受けること等により、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるとともに、委員の適切な選考が困難となるおそれがある」及び④「公開することにより、特定の者に不当な利益を与え又は不利益を及ぼすおそれがある」に該当することから、非公開とさせていただきたいと思います。
企業からのヒアリングの内容は、概要としてまとめ、皆様に御確認いただいた上でホームページに掲載することとしておりますので、御了承をお願いいたします。
傍聴の方々におかれましては、前半の労働者の健康確保に係るヒアリングが終了した後に御退出いただくこととなりますので、御協力のほどよろしくお願いいたします。
それでは、議事に入ります。まず、労働者の健康確保に係るヒアリングを行います。
御出席の方を御紹介させていただきます。
独立行政法人労働者健康安全機構/労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センター上席研究員の久保智英様でございます。本日は御多忙のところ御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
それでは、御説明のほうをよろしくお願いいたします。
○久保参考人 よろしくお願いいたします。労働安全衛生総合研究所の久保です。本日は、お招きいただきまして、ありがとうございます。
本日の発表の内容に関しては、「オフの量と質から考える働く人々の疲労回復」ということで、疲労回復に重要な休み方の量と質という観点から、新しい時代の疲労回復について考えていきたいということでお話しさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
まず初めに、ご存知の方も多いと思いますけれども、Karoshi(過労死)という言葉は国際語になっておりまして、私が出席する国際学会でも、Karoshiという言葉をそのまま用いると、すぐその意味で分かっていただけるという、日本の労働衛生にとっては非常に不名誉な出来事ではございますが、2002年に、オックスフォードの英語の辞典に登録されてしまいました。こういった不名誉な出来事を挽回すべく、これから紹介する勤務間インターバル制度や「つながらない権利」といったところが役立てればいいなということでお話しさせていただきたいと思います。
過労死といえば、その背景要因としてすぐ頭に思い浮かぶものとしては、やはり長時間労働と仕事のストレス、あるいは疲労というところだと思います。これは仕事の量と質というところでとらまえることができるかと思いますが、3ページは、いろいろな研究を取りまとめて、それがどのような傾向があるのかというシステマティックレビューという手法で、それらの関連性を見たものです。
そうしてみますと、脳・心臓疾患と週労働時間の長さを見ておりますが、特にこの中で出てきたのは、労働時間が長くなるにつれて脳卒中のリスクは増加するというようなことや、仕事のストレスに関しては、これは平均で13.9年追跡している調査ですが、調査開始時に心代謝性疾病を持った方で、男性、女性、そして仕事のストレスあり、なしで分けて、14年ほど追っていくと、仕事のストレスを有する男性については死亡率が特に高いということが分かっております。
いずれにしても、こういった過労死の問題を防ぐために、我々のセンターの中で現場調査介入チームというものがあるのですけれども、その中で1つ、そういう過労リスクを定量的に測ろうということで、過労死された方の労災復命書を集めて、その中に記載されていた前駆症状を活用して、4ページにある調査票を作成しております。こういった調査票を用いて、過労死最多職種と言われるトラックドライバーを対象に検討したものが5ページの研究です。
これは弊所の松元俊研究員が中心になって研究を進めたものですが、全国のトラックドライバー約2000人に、この「過労徴候しらべ」を配りました。それとともに、過労に影響しそうな要因である労働時間や残業の長さ、夜勤日数の多さといったものと「過労徴候しらべ」の得点がどのように関連するのかということを見たグラフでございます。
データに関しては細かくて見えづらいので申し訳ないですけれども、絵としてまとめると、様々な要因の影響を考慮して解析したところ、一番、この「過労徴候しらべ」の得点の増加に影響したのは睡眠時間の短さでした。労働時間の長さや残業時間の長さ、夜勤回数の多さや労働スケジュールよりも、過労徴候得点を増加させたのは睡眠時間の短さで、特に睡眠時間が4時間以下になると、この過労リスクが上がるという結果が得られております。
いずれにしても、疲労を考える上で睡眠の確保というものは非常に重要だということがこの結果から推測されるものだと思います。
そこで考えられるのは、こういった睡眠不足状態が慢性的に続くとどうなるかということで、特に我々の身近な作業パフォーマンスというところで見ていきたいと思います。
7ページは、実験や調査でよく用いられている指標で、Psychomotor Vigilance Task(PVT)という疲労度を測るために国際的に使われているものです。言うよりも動画を見ていただいたほうが早いと思うのですが、この黒いディスプレイの部分を御覧いただくと、デジタルカウンターが回り始めます。これをできるだけ早くボタンを押して止めるといった、非常にシンプルなものです。ただ、いつ回り始めるのかということが分からないので、常に注視していなければいけません。つまり、持続的な注意力を要する課題になっています。1回につき10分間行うので、非常に眠くなります。シンプルがゆえに非常に眠気や疲労度に感度が高い指標として国際的に使われているものです。
この指標の結果をまとめたのが8ページです。これは、横軸が経過時間、右に行けば行くほど経過時間が長い。縦軸が、反応時間で、一回一回の反応を青い丸で示してあります。疲労度が低い状態の場合、10分間テストを行っても、大体反応がまとまっています。ただ、疲労が強くなってくると早く反応したり遅く反応したりのこのばらつきが多くなる、これを捉えて疲労と呼んでおります。
この中でも特に500ms以上、つまり0.5秒以上かかってボタンを押したというものを遅延反応、ラプスと呼んで、指標として使っております。これをまとめたのがこちらの有名な睡眠実験なのですけれども、1日4時間、6時間、8時間の睡眠をそれぞれ10名ぐらいの被験者に14日間とってもらいます。9ページの表は横軸が日にちで、それぞれ14日間繰り返していただいたときと、断眠を3日間行ったときのPVTの平均遅延反応の数です。
そうしてみますと、1晩徹夜したとき遅延反応は平均8回ぐらいで、4時間睡眠を7日間繰り返したときが大体同程度、2晩徹夜したときは遅延反応が13回で、4時間睡眠を10日間繰り返したときと同じ程度ということで、1日の睡眠は取っているけれども、それが足りていないと、睡眠負債の状態になり、やがては徹夜した状態と同じ程度の認知機能に陥るということを示した研究でございます。
非常に興味深いのが、次の10ページのスライドです。同じように主観的な眠気を尺度でとりまして、プロットした図がこちらです。見て分かりますように、2晩断眠した状態と同じ程度になるというところはございません。先ほどの客観的な行動指標のPVTの結果では10日間の4時間睡眠などが2晩断眠した状態と同じような水準になっていますが、主観的な眠気に関してはそこまではいっていません。つまり、客観的な眠気と主観的な眠気に乖離が見られるということです。
これを拡大解釈すれば、睡眠負債状態になると、自分ではあまり眠くないと思っていても、作業をしてみると、徹夜した状態と同じぐらいパフォーマンスが悪いということで、特に一つのミスが致命的な事故につながりやすい職業、例えばトラックドライバーや医師、看護師といったような人たちにとっては、やはり睡眠確保は非常に重要であるという示唆をしている知見になろうかと思います。
そこで、こういった疲労回復に重要である、睡眠を確保する上で一つの有力な対策としては、ご存知のとおり、最近、勤務間インターバル制度というものがございます。EUで導入されているものですが、従来の日本の労働時間規制は上限を決めていたのに対して、これは疲労回復に重要なオフの時間をダイレクトに規定しているという点で非常に新しい過重労働対策として注目されております。
そこで、この勤務間インターバル制度については、実は現在のように注目される前から、我々の研究所でそのエビデンスを出そうとしておりました。実はEUにおいても、とくに日勤者を対象とした研究では、我々のように疲労を測定して、どれぐらいのインターバルの長さがいいのかというエビデンスはなかったので、こういったプロジェクトを行いました。
12ページにあるのは2014年から始まった研究で、勤務間インターバルの長さと疲労の回復の関係を、木と森、つまり、一人の人を繰り返し1か月間、毎日集中的に測定して行う調査と、数千名の労働者を3年間追いかけていくという、ミクロとマクロ、木と森という視点でそれらの関連性を検討したものでございます。
その知見をお示ししようと思いますが、13ページは1クール目の32名、2クール目の23名の日々の勤務間インターバルの長さの推移を示したものです。一つ一つの折れ線が、一人一人の勤務間インターバルの推移を示しています。赤い線がEU基準の11時間を示しておりまして、平均値で見ますと大体13.1時間です。ただし、一日一日見ていくと、4時間のインターバルで働いているという方もいらっしゃいました。これはちなみにITワーカーの結果でございます。
この結果と、客観的に測定した睡眠時間、疲労感の関連性を示したのが次の14ページの図になっています。これは横軸がインターバルの長さ、縦軸が腕時計型の睡眠計でとった時間、疲労アプリで測定した主観的な疲労感です。
11時間未満のインターバルを見ますと、1日5時間ぐらい睡眠が取れています。疲労感でいうと、11時間未満を下回ると疲労感も上がるということで、やはり勤務間インターバルというのは、睡眠を確保した上で疲労回復を促すという点では有用なのではないかということを示す知見になっています。
また、森の視点で同じように確認しました。15ページは弊社の池田大樹研究員がまとめた結果でございますが、日勤者3,800名ほどを対象にして、勤務間インターバルの長さと睡眠の時間、そして不眠度を見たところ、やはり11時間未満になると、睡眠時間が、主観的には6時間ですが、恐らく客観的に確かめると5時間ぐらいだと思いますので、私の知見と彼の知見は一致しているということで、やはり11時間のインターバルというのはある程度有用なのではないかというところをお示ししたものです。
次に、これまでインターバル確保の健康という側面をご紹介しましたが、安全という側面も見ていきたいと思います。16ページは看護師さんたちを対象に、仕事中の事故やけがと、過去1年間の勤務間インターバルが11時間未満になった回数、これをクイック・リターンと呼んでいるのですが、その回数と、過去1年間の夜勤の回数を比較したものです。
どちらが関連性が高いかということで示すと、今、赤くお示ししているのは、統計的に有意なところであり、クイック・リターンの回数が増えるほうが関連しているということで、夜勤の回数というよりは、クイック・リターンを抑えるといったほうが安全性を担保できるのではないかということを示したものです。
今まで、勤務間インターバルの良い側面というか、効果というところをご紹介しましたが、やはり何事も両側面、良い面と課題を考えねばいけないと思っています。私の素朴な疑問として、インターバル制度を導入すれば解決なのかという疑問がこの研究を始める前からありました。
そこで1つご紹介したいのは18ページです。生活パターンから勤務間インターバルの長さ、どういった生活になるかということをシミュレートしました。インターバル15時間、12時間、11時間ということで、11時間のインターバルでは、22時に帰って、9時に職場に来るという生活パターンです。これを1日ベースの残業で考えていくと、大体4時間の残業になります。さらに月ベースで考えていくと80時間ということで、これはいわゆる過労死ラインと同程度というところにございます。
言葉こそ、インターバルというのは新しいですけれども、これまで、産業衛生、いろいろな分野で言われてきた過労死ラインを守りましょうというか、最後の砦という意味合いであるということが分かるかと思います。
オフの過ごし方、オフに目を向けたという意味で、非常に勤務間インターバルというのは有用だとは思いますけれども、やはり課題もあるというところです。
次に考えるのが、EUで導入されている制度を働き方が違う日本にそのままそっくり持ってきて、それが実際にうまく運用できるのかという問題です。何でもそうですけれども、その現場の特性に合わせた、日本の特性に合わせた日本型の勤務間インターバル制度をつくり上げる必要があるだろうと私は思っております。その一つのキーワードがメリハリです。
様々な企業に先駆けてインターバル制度を導入したKDDI、現在は数値が違うかとは思いますが、ここでは、月何回以上、勤務間インターバルが11時間未満を下回った場合、健康指導や産業医の面談をしましょうという取組をされていました。一日一日、インターバルが11時間を下回ったら注意するというのではなくて、少し許容量を持たせるというようなことや、これは私や松元研究員が世話人を務めている産業疲労研究会で結構議論したのですけれども、その中では、月の平均値としてインターバルが11時間下回った場合、配慮するというようなやり方もいいのではないという話も出ておりました。
さらに、メリハリという意味では、夜勤とか長時間労働、長距離運転といったような労働負担が高いところにより手厚いインターバルを設けるというような形でメリハリをつけるやり方です。いずれにしもて、一番ポイントとして考えられるのは、やはり個々の職場の実情に合わせて導入しないと、どんなにいい制度でも、絵に描いた餅になるだろうということでございます。
また、インターバル制度はオフの量の側面ですが、もう一つ注目しなくてはいけないのは、コロナの影響で、リモートワーク、在宅勤務が増えたということです。その影響によって、私たちの仕事の時間と場所が多様化しました。良い側面としては、仕事と私生活の融合ということで、ワーケーションといったワードも出てきていますし、一方で、仕事が私生活を浸食していくという、2つの側面が考えられると思います。
そこで、こういったフレキシブルな働き方の功罪を考えるという意味で、良い側面としてご紹介したいのは、Worktime controlという概念です。これは実はコロナよりも前に北欧で盛んに研究されていたもので、労働者自身が自分の勤務時間に対して裁量を持つ、それが健康や安全にいいということで研究が進められていました。
私が思うこのWorktime controlは、疲れたときに休める、休みたいときに休める裁量を労働者に与えてあげる、それがこのエッセンスなのではないかと思っております。
次に23ページでお示ししたいのは、その効果を検証したものです。これは以前私が行ったもので、このWorktime controlが1年後に、増えた、変わらない、低下した、の3群に分けて、先ほどの反応時間検査、腕時計型の睡眠計でパフォーマンスや成績が、1年間かけてどう変化するかというものを検討いたしました。
結果としては、やはりWorktime controlが増えたという方たちは、パフォーマンスが上がって、そして睡眠の質が向上するという結果が得られています。客観的な指標で得られていますので、裁量権を与えてあげるというのは非常に効果があるだろうということが言えるかと思います。
ただし、一方で、裁量があっても、不規則に働いたらあまりよくないのではないかということも思っておりましたので、これはアンケート調査で、裁量が高い、低い、そして不規則、規則的に働いているという4グループに分けて、疲労回復と睡眠の質の関連性を見ました。
注目していただきたいのは24ページの裁量が高くても、不規則に働いているグループです。つまり、今日は17時に終業、明日は23時、明後日は18時といったような形で不規則に働き過ぎると睡眠の質を低下させて、かつ、疲労回復を遅くさせるという結果が出ています。なので、あまりにも不規則に働き過ぎるのはあまりよくないということを示した知見になっております。
次にフレキシブルな働き方の「罪」の部分について考えたいと思います。「罪」については、皆さん御承知のとおり、アイフォンとかそういうスマートフォンが普及してから、働き方は非常に大きく変わったと思います。2008年に初めてアイフォンが発売されたのですけれども、僅かこの十何年ぐらいで非常に働き方が変わったということを実感されると思います。一番の変化としては、いつでもどこでも仕事につながられるという状況だと思います。後ほど御説明します勤務時間外の仕事の連絡の問題、これが現在、EU、ヨーロッパを中心に非常に注目されております。
そこで考えたいのは、これまでの産業疲労研究の中では、疲労回復というのは、病気の疲労は除きますが、休憩、休息、休日といった労働生活サイクルの節目には基本的には回復していく。つまり、活動(仕事)から離れると回復に向かうというふうに考えられてきました。
しかし、先ほど申し上げたように、情報通信機器の発達に伴って、仕事場を離れたとしても、心理的に仕事に拘束され続けるという状況が増えています。具体的にいうならば、仕事帰りの電車の中で、スマホで仕事のメールを見るとか、寝る直前に仕事のメールを見て対応するといったような状況です。そういった状況が世界的に増えていますので、やはり疲労回復には、物理的に仕事から離れるだけでなくて、心理的にも仕事から離れる場が重要だということで、ドイツの心理学者のSabine Sonnentag先生らを中心に、サイコロジカル・ディタッチメント(Psychological detachment)という概念を提唱して、精力的に研究を進められています。
そこで、少し皆さんにお尋ねしたいのはこちら。「眠る直前までスマホをいじっていますか?」ということです。割と私もよくやってしまうのですけれども、そういった状況で疲労回復に重要な睡眠がどういう内容になっているのかということをお示しするために、次の実験研究をご紹介します。
28ページは横軸が、次の日の仕事への不安度。右に行けば行くほど不安が高くなります。縦軸は脳波を測った際の深い睡眠段階、徐波睡眠の出現量です。こちらの方を見ていくと、翌日の仕事への不安度が80ポイントぐらいに対して、徐波睡眠の出現度が20分ぐらい。こちらの方は、次の日への不安度が大体10ポイントぐらいに対して、徐波睡眠度が120分ぐらい。これを、一人一人の結果をこのような点を結んでプロットしたものがこちらです。
次の日への不安度が高い、つまり、ディタッチできていなければいないほど、疲労回復に重要である徐波睡眠量が減っているという関連性が示されています。やはりオフには仕事から離れることで疲労回復に重要な睡眠の質を高めるということが重要だということを示すものです。
さらに、最近出た私の研究なのですけれども、勤務間インターバルとオフでの仕事メールの頻度の関連性を見たものです。ちょっと見にくいですけれども、インターバルが長い日、短い日、そして仕事のメールの頻度が高いとき、低いときということで、仕事の疲れ、サイコロジカル・ディタッチメント、そして唾液によるコルチゾールの関連性を見ました。
注目していただきたいのは、インターバルが長くても、やはり仕事のメールの頻度が高いと、仕事の疲れやディタッチができていないというような結果でした。
ただ、唾液中のコルチゾール、すなわち起床時反応に関しては、仕事のメールに関する影響というのは余り見られなかったのですが、やはりインターバルが長いと、短いときに比べて起床時反応が抑えられるということで、勤務間インターバルの効果を生理的に示した初めての知見なのではないかと思います。
いずれにしても、こういったオフでの仕事のメールというのは非常に疲労度やディタッチメントを阻害するということが分かりました。
海外に目を向けてみますと、2017年にフランスで「つながらない権利」ということで法制化されています。実はドイツのほうが早く動いていたのですけれども、フランスのほうが早く法制化にいきました。最近立て続けに、2021年11月にはポルトガル、そして、2022年2月にはベルギーで法制化されているということで、プライベートを非常に大事にするヨーロッパの人が、こういった法律を、ルールを用いていかないと、やはりこういう情報通信機器によって仕事がプライベートを浸食するという状況から守れないということが類推できるのではないかと思います。
また、裁判事例についても、2018年にはイギリスの会社が「つながらない権利」を尊重しなかったとして負けたということも出てきていますし、やはりこの問題というのは、コロナによってリモートワークが世界的に普及したということを考えると、今後ますますクローズアップされていく問題なのではないかと思います。
しかし、とはいえ、現実の問題として、オフでも仕事したいと思っている層は一定数いるということは恐らく事実だと思います。
心理学の研究の中で、セグメンテイション・プリファレンス(Segmentation preference)というものがあるのですが、これは簡単にいうと、Integrator、すなわちオフでも働きたい派、Segmentator、すなわちオンとオフは分けたい派ということで、オフでの仕事に対してそれがどういう影響を及ぼすのかということを検討した結果が33ページです。
これは、仕事でのメールをスマートフォンで対応した頻度が、少ない日、高い日で、Work-family conflictという指標がどう影響を受けたのかということで言うと、オンとオフを分けたい派に関してはあまり差がないのですが、逆に、オフでも働きたい派に関して、そういったスマホの使用頻度が低いと、逆にWork-family conflictが生じていたということを示しております。なので、「つながらない権利」で規制するということで言うと、ある一定数は逆にストレスを感じるということを示したものだと思います。
ただし、私たちは生身の人間ですので、どういった嗜好性を持っていたとしても、それがその人にとって非常に過重になれば、やはり生産性や健康の面でもよくないということ、これは別に研究で調査をしなくても明らかなことだと思います。なので、やはり最適な仕事、最高なパフォーマンスを発揮できる最適なキャパシティというのがあるので、それをうまくマネジメントするというところが肝要だと思います。
一つのポイントとしては、ウェアラブル端末みたいなもので疲労の見える化をしてあげることがあります。やはりリモートワークが普及したことで、同僚が何をしていて、どれぐらい疲れているのかということは以前にも増して見えにくくなっていると思います。なので、管理職のそういったマネジメント能力というのは非常にこれからもっと求められると思うのですけれども、一つのポイントとしては、航空パイロットに導入されている疲労リスク管理システムというものがございますが、これは、良い示唆を与えてくれているのではないかと思っております。
35ページは何かといいますと、詳しい説明は省きますが、日本では2017年に航空会社に対して導入が義務づけられている制度でございまして、ポイントとしては、仕事で生じる疲労、これを安全リスクと考えて、どういう働き方で、どういう疲労が生じているのかということを定期的に測定して、改善案を考えて、改善を実施して、そしてそれを再評価する、いわゆるPDCAサイクルを回して職場環境改善に結びつけるという考え方です。今までご紹介してきたとおり、疲労というのは、安全だけではなくて、健康面にも非常に影響がある現象ですので、それを拡大して、他業種に水平展開するということもよろしいのではないかと思います。
一つの参考事例として、36ページは私が留学していたフィンランドの労働衛生研究所で進行中のプロジェクトのため、資料は机上配布のみとしますが、概要を説明すると、スマートデバイスやオフィス環境、様々な情報をプラットフォーム、その情報をクラウド上に上げて、デジタル・ストレス・マネジメントをしていこうというような計画が立てられています。フィンランドの労働衛生研究所の同僚が今進めているのですけれども、こういった取組というのはやはり世界的にも目をつけられています。恐らく、同じようなことを考えて研究をしているということは、これからもほかの国でもあるのだと思いますが、やはり私たちの健康に影響を及ぼすであろうデジタルツールを、逆に健康面に活用しようという動きが出ております。
「まとめ」です。今回お話ししたかった、お伝えしたかったポイントとしては4点です。オンラインとオフのメリハリが、情報通信機器の発達やリモートの普及によってますます曖昧になってきた中では、Work time controlといった、疲れたとき、休みたいときに休ませる、休めるといった裁量を与えられるような組織的・個人的な取組というのは重要だと思いますが、しかし、裁量があるからといって、今日は朝早く来て、明日は夕方ぐらいに来るといった余りにも不規則な働き方になると、逆に、睡眠の質を低下させて疲労回復を阻害するということが考えられます。
そして、「勤務間インターバル制度」や「つながらない権利」といった、新しい時代の過重労働対策をご紹介しました。これは非常に効果的なルールだとは思いますが、これまでの歴史を振り返っても、実情を踏まえないルールだけでは、恐らく風化して、絵に描いた餅になってしまうので、やはり現場の特性、組織の特徴を踏まえて、日本型の制度につくり上げていく工夫が必要だろうと思います。
そういった意味でも、自主対応型の、最後に御紹介した「疲労リスク管理システム」というのは非常に有用な考え方で、自分たちの働き方を定期的に測って、その疲労がどういうところに生じて、どういう改善をすればいいのかということを結びつける枠組みというものは、職場環境改善にとって有用だと思います。
現行ございますストレス・チェック制度も、1年に1回ストレスをチェックしているわけで、そういった制度の発展系、あるいは別の制度としてもいいのかもしれませんが、やはり労働時間の長さとともに、それに対する疲労度、ストレス度を抑えるといった何かしらの取組というのは、疲労が目に見えにくくなっている今では非常に重要なことになってくるのではないかと思います。
そして最後に、一番こちらをお伝えしたいのですが、やはりオンとオフが、メリハリが曖昧になってきている。アイフォンが2008年に発売されてから、どんどん曖昧になってきています。この流れというのはさかのぼることは決してないと思います。恐らく、将来、さらに曖昧になっていくと予見されますので、そういった意味では、疲労回復に重要なオフに、物理的に仕事から離れるだけでなくて、心理的にも疲労回復のために離れるといったような組織的な取組、個人的な対応というのが今後重要になってくるかと思います。
以上です。御清聴ありがとうございました。
○荒木座長 大変貴重な御知見をありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明につきまして、委員の皆様より質問がございましたらお願いいたします。
藤村構成員、どうぞ。
○藤村構成員 どうもありがとうございました。法政大学の藤村と申します。
私、人事労務が専門で、労働時間管理とか、あるいは、いわゆる評価制度とか、そういうところからこういった働き方というのを見ております。今日お話をいただいた内容というのは、主観と客観というのが大分違うということで、それをいかにちゃんと雇う側として把握をし、管理をしていくことが大事かという、とても示唆に富んだお話だったと思います。
一般的に、日本の労働者って、上司からいろんな課題、仕事を頼まれたときに、もう無理です、できませんと言わないのです。それは自分自身の評価に関わるので、無理して受けてしまう。その結果として長時間労働になり、その分、心理的な負担も非常に増える。
それを防止する一つの方法として、今日お話の中であったウェアラブル端末、そういうのをつけてもらって、疲労度をはかっていくというのが一つのやり方かなと思うのですが、そういうものをつけて自分自身の状態を把握されることに対する抵抗というのもあると思います。
例えば夏場、屋外で作業する建設労働者は、熱中症の問題があるというので、あまり抵抗なくそういうものをつけてくれる。でも、オフィスで働いている人たちにそういうものをつけてもらって、会社側が健康管理をするということに対しては、なかなか理解が得られにくいのかなあと思います。その辺り、どのようにお考えでしょうか。
○久保参考人 やはり個人情報の保護がこれからますます厳しくなっていく中での対応になるかと思うので、その辺は非常にセンシティブな問題だと思います。自分の個人情報、例えば睡眠の状況を管理監督者、会社の管理側に知られるというのは非常に嫌がる人もいると思います。
一つのポイントとしては、御本人に疲労の見える化、まず自分で、自分の疲労度、あるいは眠り方がどうなっているのかということを知っていく、知って、見える化するだけでも、恐らく改善の効果はあるのではないかと思います。ストレス・チェック制度のように、集団分析ですね。いろいろそれをやるには取り決めが必要だとは思いますが、例えばA事業所、B事業所での全体としての疲労度、睡眠時間、そういったところを押さえると、先ほど御指摘のあった問題というのは少し解決できるのではないかと思います。
○藤村構成員 その場合、恐らく個人の選択ということになると思うのですけれども、本人は、主観的には、自分は強いから大丈夫だと思っている。でも、だんだん疲労が蓄積していって、それこそ病気の状態になってしまうという場合、安全衛生の観点から、雇っている側にある種の責任が発生するという難しさというのが常にあるかなと思うのですが、その辺りをどのようにお考えでしょうか。
○久保参考人 先ほど申し上げたように、A部署の誰々さんのデータを取るということで言うと、多分嫌がる人はいると思うのですが、集団として、A事業所として全体で捉えるということで行えば、集団でデータを取るということには恐らくそれほど難しさはないのではないかと思います。
私の知っている一つの好事例なのですけれども、ある企業で睡眠報酬制度といった形で、自分たちの睡眠がよく取れている、アプリを使ってよく取れていた場合、食堂で100円ポイントをあげますよといったような工夫をしていました。最近、行動経済学とかに出てきているナッジという、その人がそのようにしたがるように環境のデザインを変えてあげる、そのような環境要因を整えると、より自ら進んでやるというような知見も出てきていますので、そういったところも含めて考えていくといいのではないかと思います。
○藤村構成員 どうもありがとうございました。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
川田構成員どうぞ。
○川田構成員 筑波大学の川田と申します。本日は、大変貴重で、興味深いお話をどうもありがとうございました。
私は、専門が労働法で、今のお話も、法的な制度のあり方を考えるときに、参考になる、あるいは興味深いお話というような観点からお聞きしたのですが、そうした観点から2点ほど御質問させていただきたいと思います。
1つは、勤務間インターバルのところの、労働安全衛生総合研究所の研究プロジェクトに関する御紹介をいただいたところで、木と森に分けて観察等を行うという形で研究をされていたという、要するに特定の個人に着目するというのと、もう少し大きな集団に着目するというのは、制度のあり方を考える上でも重要な視点になるのではないかと思いまして、改めて、木と森、それぞれに着目したときに得られる研究上の起点にどういう違いがあるのか、あるいは、同じものを違う切り口で見ていくというような感じになるのかという、その木と森の視点を分ける効果というか、意義について追加的にお話しいただけることがあったら伺いたいです。
○久保参考人 今まで調査研究してきまして、先ほどもご紹介したように、主観的な指標と客観的な指標のずれというのはよくあります。森の視点での調査票を多くの人数に配ってやるということも、その集団として把握するのは非常に有用なのですけれども、具体的に、客観的な指標を用いて、例えば1か月間だけ毎日とったときと、どれぐらい齟齬があるのかということを検証したくて、木と森という2つの視点で検討いたしております。
木の視点としては、こちらにお示しした50人程度を毎日1か月間繰り返したときの結果として、11時間未満のインターバルで5時間未満の睡眠、これは腕時計型の、いわゆる客観的な指標で出た結果です。それを池田大樹研究員のほうで行った約3800人と合わせて、本当に確かなのかというところを検証していきたいというのが我々の趣旨でございます。
検証した結果、大体11時間未満だと、5時間ぐらいの睡眠になるというところが確かめられたというところでございます。
○川田構成員 分かりました。では、2点目をお伺いさせていただきたいと思います。
全体を通じてなのですけれども、特に最後の「まとめ」のところで幾つかの知見をお示ししていただいたところで、法律上の制度としては安全衛生に関する制度と労働時間に関する制度、両方にまたがるような健康の確保に関するお話なのかなと思って伺っておりました。
その中でも特に労働時間との関係では、勤務間インターバルとか「つながらない権利」、あるいは裁量性がある働き方についてどのように見たらいいのかというような点で興味深いお話だと伺ったのですが、制度の基本にある労働時間の長さそのものを規定するとか、あるいは時間外労働の長さを規定する、あるいは休日とか休憩といったような、ある意味、より基本的な労働時間規制の枠組みのあり方に対して、本日のお話から何か示唆されるところがあるのか、あるとしたらどういうことなのだろうかということを伺わせていただきたいと思います。
○久保参考人 これまでの労働時間法制に対してですね。勤務間インターバル制度は、労働時間とは裏返しですけれども、休息の時間に目を向けたというところが非常に重要な、新しいところだと思います。このタイトルにもございますように、インターバル制度の量は、労働時間とは裏返しで、量についての制度ですが、つながらない権利というのは質で、どのようにオフを過ごすことがいいのか、配慮すべきなのかというオフの量と質、これを2つのポイントを捉えて対策を立てるということが、今後の労働衛生、労働時間法制、そういったところにも重要な視点になるのではないかということが今回のメッセージでございます。
○川田構成員 ありがとうございました。
○荒木座長 黒田構成員お願いします。
○黒田構成員 ありがとうございます。久保先生、オンラインで失礼します。
本日は数多くの重要な御示唆を勉強させていただきまして本当にありがとうございました。この検討会でも就業時間や空間の多様化が進む中で、情報技術の積極活用の重要性についてたびたび話題にしてきたところで、そういった内容について科学的エビデンスをお聞きでき非常にありがたく思います。
私から3点質問をさせていただきたいと思います。1つ目は、ご報告の中にあったWorktime controlという言葉についてです。疲れたときに休めるという裁量権を労働者に与えるということの重要性を御指摘されていたと思います。裁量権を与えて、それを実際に労働者が行使できるようにする、そういった枠組みがあれば休息をとることができるわけですが、こういった権利を主張できる社会規範が整っている、例えば欧州のような環境であれば比較的スムーズだと思うのですが、日本のように自由に休める社会規範が確立していない環境においてはどのようにしてそうした規範を根付かせていけばよいかが悩ましいと思っております。何かよい御示唆があればいただければというのが1点目になります。
それから2点目はディタッチメントについてです。1日や1週間のディタッチメントは、1日11時間のインターバルとか、週に1日は休むということがディタッチメントに相当すると思うのですが、年間でまとまった日数をとる場合、どれぐらいディタッチするのがよいかという点について、研究の蓄積があれば教えていただきたいと思います。というのは、有給休暇の取得促進を日本では推進しているわけですけれども、なかなか目標取得率の70%に到達できないというような状況が続いています。例えば2週間ぐらいまとまったディタッチメントがあったほうが心身ともにリフレッシュできるとか、あるいは5日ぐらいでも大丈夫だとか、そういった研究の蓄積があれば教えていただきたいというのが2点目です。
それから3点目は、セグメンテイション・プリファレンスという点も非常に興味深くお聞きしたのですけれども、就業時間や空間の多様化だけでなくて、これからは好みの多様化も進むということで、こうした多様化が進む中で法制度を整備していくことの難しさを改めて感じた次第です。
この点に関連して、オン、オフを分けたくない人がいて、例えばそういうプレファレンスを持つ人には好きなだけ働かせるということをした場合、長期的な帰結に関して何か示唆が得られるような研究の蓄積があるのか、もしあればお聞きできればと思います。
私の専門である経済学では、個人が自分の効用を最大化することを基本とする考えから出発することが多いのですが、こういったオン、オフを分けたくない人が猛烈に働くことによって、オンとオフを分けたい人や休息を求めている人にまでずっと働かざるを得ないような負の影響が及んでしまうという、ピア効果とか同調圧力みたいなものもあると思うのです。こういったオン、オフ分けたくない人もやはりある程度はしっかりと休息をとらなければ、長期的には健康に悪影響があるというような、そういった蓄積の研究があったりすると今後の政策の方向性も見つかってくるのではないかと思いました。以上になります。よろしくお願いいたします。
○久保参考人 黒田先生、ありがとうございます。
Worktime controlとか、いろいろお話を聞いていて、共通する軸としてちょっと思い出したのが、私がフィンランドの労働衛生研究所に留学していたとき、皆さん、4時ぐらいにさっと帰るわけです。上司がいたとしても。それは何かというと、フィンランドの人たちというのは仕事に対してはもちろんのこと、興味・関心はあるけれども、それほど他人に興味ないというか、日本人ほど、他人を気にしてないのかな?ということを肌で感じていました。その背景として、最近言われていますジョブ型みたいな、仕事をきっちりやればいいじゃないかというような意識があると思います。先ほどご指摘あったように、Worktime controlがあったとしても、それを行使できない状況というのは、まさに日本の働き方に関係していて、我々日本人は個人が集まって構成される「社会」ではなくて、横との関係性に重きを置く「世間」で働いているところが根幹にあるのではないかと思っています。
とにかく一生懸命頑張ることが美徳である日本の労働者ですので、そのような労働文化をガラっと変えるというのはなかなか難しく、これまでの労働衛生というか、日本の働き方の変遷を見ても、今はちょっと難しいかもしれないです。しかし、以前を振り返ると、例えば職場の中でたばこを吸っているのが当たり前だったとか、割とセクハラというような状況が当たり前だった20年か30年前ぐらいに比べると、今、非常に変わってきています。これを当てはめると、もしかして、今こういうことを大きな声で言っていくと、今は無理かもしれないですけれども、10年後には結構変わっているのではないかと思います。
なので、やはり今大事なのは、こういうことが健康にとって必要なのだよということを大きく周知していくということがまず1つと、次の労働者世代になる学生さんたちに対してしっかりと教育していくということで、ジェネレーションギャップというのはいつの時代にもあろうかと思いますが、だんだん変わってくると、そういうところに望みを託したいと思います。
ディタッチメントが何日くらいでよいかということの御質問について、私としてはそういった知見はないのですけれども、想像するに、休日があったとしても仕事から離れられない、何日たっても離れられないということについて、客観的な時間で規定できるかどうかというのは、先ほどの最後の質問のセグメンテイション・プリファレンスとの関連でも、オンとオフ分けたい派の人は、例えば2日ぐらいあったらきれいにディタッチして回復できるけれども、オンとオフは分けたくないというような人にとっては、2日というのは余りディタッチできる時間ではない。オンとオフを分けたくないということは、逆に、もしかしたらディタッチしなくてもいいと思っていると思うのです。
なので、その辺の客観的な休日の時間の長さと、その心理状態、疲労回復がどうなるかというのを詳しく見ていく調査研究というのはこれから必要なのではないかと、次の研究のヒントとさせていただきたいと黒田先生のお話を聞いて思いました。
ちょっとお答えになっているかどうか分かりませんが、以上です。
○黒田構成員 ありがとうございます。
○荒木座長 小畑構成員、どうぞ。
○小畑構成員 ありがとうございます。大変興味深い多くの情報をお伝えいただきまして、誠にありがたく存じております。私、労働法を専攻しております京大の小畑と申します。
黒田先生の御指摘と私も重なっているところがあるのですけれども、セグメンテイション・プリファレンスのお話とも特に絡んでくるのですが、よく出てくる言葉で、ここがもう正念場だと、もう社運がかかっているとか、研究が本当に大詰めを迎えていて、根を詰めてやって報われると、元気百倍だと、疲れが吹き飛んだというような言葉があると思うのですけれども、それはデータ的にはおかしいのかというところがお聞きしたいです。裁量労働で働いていらっしゃる方とか、研究をされている方、それから医師の方々などのお話を伺っていますと、今は止めてくれるなというふうなことをおっしゃる方ってやはりいらっしゃるのです。それで、そのおかげで大きな成果を得られたとか、患者さんを救うことができたとか、そういったことを、法的な規制の面からすると、一律に何か規制をかける、例外を設けるべきなのかとか、もしくは、そういったやり方自体を選択せずに、違う方法をとるべきなのかと思っております。そういうところが繰り返し問題となってきているのですけれども、何か御助言など頂戴できませんでしょうか。よろしくお願いいたします。
○久保参考人 ありがとうございます。やはり疲労の研究でも何が疲労なのかという話がありまして、少なくとも心理的な疲労と生理的な疲労、2つに分けられるとは思いますが、何か成果を達成すると、その喜びによって疲労感というのは結構低減するというのは分かっています。
ただ、それというのが長期的な側面でどういう影響を及ぼすのかということで言うと、体は疲れているという状況が長期間繰り返していくと、それはやはり健康影響が出ると思います。冒頭に御紹介した労働時間と脳・心臓疾患のシステマティックレビューの結果なんか見ても、やはり労働時間が長くなるとそういった疾病のリスクは上がるということは分かっています。一時は、こういう自分の仕事で成果を得て頑張ったことで疲労感がマスキングされるということはあるかと思うのですけれども、長期的にそれを繰り返すことが健康にいいのかどうかということはやはり考えないといけないと思います。
一律に制度で規制するということが、そういった状況を捉えられるか、配慮できるかどうかということですけれども、やはり制度というのは基本的にみんな同じルールということになると思うので、ポイントとしては、先ほどご紹介した疲労リスク管理システムみたいな自主対応型の、それぞれの例えば職場、事業所などでどういう対策がいいのかということで、やはりルールで捉えて、かつ、そこで個々の特性を踏まえて二段構えで押さえていくのがいいのかなと私は思います。ありがとうございます。
○小畑構成員 どうもありがとうございました。
○荒木座長 時間が来ておりますけれども、堤構成員から一言お願いします。
○堤構成員 ありがとうございます。久保先生、いつも本当にためになるお話、ありがとうございます。
短めに2つお伺いしたいと思います。1つは、最後に出ました疲労リスク管理システムで一体何を見ているのかというのがすごく興味がありまして、ウェアラブルの端末ということであると、生体反応とか、どちらかというと反応面なのかなと思いますけれども、対策にかけるのであれば、要因面なんかも評価したいところですけれども、網羅的にということではなくて、どういうことが測定されているかということを教えていただければと思います。それが1つです。
もう一つ関連することは、小畑委員、それから川田委員もお話しになったようなことと近いのですけれども、今、健康リスクの評価で、ある程度の規制というか、コントロールしたいと考えているところで、単体のリスクファクターはやはり具合が悪いというのは分かり始めているので、それは止めようということは比較的イージーにできるのですけれども、リスクファクターの組み合わせというものをどのように評価すればいいのかというのが次の課題ではないかなと思っているのですね。
リスクファクターの足し算だったら、それはそれでいいのですけれども、例えば、今おっしゃられたように、とても生き生きと働いているときに、長く働くと、本当に具合が悪いのかとかいうところがまだまだちょっと分かっていないような気がしています。そういうリスクファクターの組み合わせで、将来的に健康リスクの評価ができるようになればというのはすごく興味があるところなのです。
先ほどフィンランドのこのスマートシティを含めたものというのは、もしかしたらそれに近いところを何か考えておられるのかと思いましたので、何か御教示いただけるものがあればと思いまして、御質問します。
○久保参考人 堤先生、ありがとうございます。
疲労リスク管理システムについては、この発表の中でも御紹介したPVTという反応時間検査ですね。それが航空パイロットの疲労ですので、持続的な注意力が仕事に直結するということで使われているのと、あともう一つ、疲労の尺度としてサンピレリー尺度という、主観的な、何段階だったかちょっと忘れてしまいましたけれども、そういったもので測っています。
なので、疲労の尺度というのは、実はその働き方によって大きく変わるので、トラックドライバーとか、そういう運転で働いている人の持続的な集中力で測るは、仕事のパフォーマンスと直結するので意味があるかと思うのですが、例えば研究者とかそういった人たちのパフォーマンス、例えば論文の生産量とPVTの成績が関連するかというとあまりそうではないので、やはり仕事の人の特性を踏まえた疲労尺度、数値尺度を用いるというのが実態を反映する一番の方法だと思います。
堤先生からの2点目の質問、複合的な要因に関しては、申し訳ないですけれども、ちょっと私のほうでは今のところ分からないのですが、先ほどのフィンランドの同僚がやっているのは、やはりいろいろなデータを捉えて、まずはビッグデータを集めて、そこから解析しましょうという発想だと思いますので、そういうことを日本でもできたらいいかと思います。ありがとうございます。
○堤構成員 ありがとうございました。やはり将来的に考えていかなければいけない方向性がここにあるという感じで伺いましたので、大変参考になりました。
○荒木座長 それでは、時間となりましたので、労働者の健康確保に係るヒアリングについてはここまでとさせていただきます。
入れ替え制にて行いますので、久保様にはここで退出をお願いすることになります。久保様、本日は大変貴重なお話をありがとうございました。
また、傍聴の方々におかれましても、ここでの退出をお願いいたします。
(久保参考人・傍聴人 退室)
 
 
議題(2) 企業からのヒアリング 議事概要
 
E社(情報・通信業/従業員数300名以下/裁量労働制適用者の割合:全体の19%(専門型:約6割、企画業務型:約4割))
○もともと専門職が6割程度を占める構成の会社であり、専門業務型裁量労働制での働き方が好まれる傾向があって裁量労働制を導入。2020年から企画業務型裁量労働制も導入。発展途中の会社であり、役割や職能に見合った労働制度を適用できるように社内制度のアップデートも続けて、現状としては、働き方や生産性は徐々に最適化してきている。
○みなし労働時間は1日当たり9時間(前年度の1年間、裁量労働制が適用されている者の実労働時間の平均値)。
○労働時間の把握方法は、ウェブの勤怠管理システムを導入しており、業務開始時と終了時に打刻してもらう。裁量労働制の適用者も非適用者も同じ方法。また、裁量労働制適用対象者でも特に大きく労働時間が増えていることはない。
○専門職とマネジメント職を裁量労働制の適用対象者としている。導入している等級制度によって労働制度の適用が異なり、一定以上の等級の者に裁量労働制を適用。
○裁量労働制適用者は、職能等級が高い者であるため、裁量が大きく、ベースの賃金が高 い者が多い。人事評価に関しては、裁量労働制適用者は、過程や行動よりも、成果のほうが重視される傾向。
○健康・福祉確保措置としては、前月の総労働時間が法定労働時間を60時間以上超過した者については、人事から産業医面談、保健師面談の受診を勧奨し、本人から申出があれば面談を受けさせるようにしている。また、この超過時間につき45時間を超える回数が3回以上になった者については、人事から本人との面談や上長に対する業務調整などの対応、改善指導などをしている。また、必要に応じて年次有給休暇の取得促進、特別休暇の付与、特別健康診断の実施などを行っている。
○健康面での対応を除き、細かな業務量コントロールなどはしていないが、顧客事情や不測事態による稼働については、相談や依頼を主としたコミュニケーションをしており、大きな問題にはなっていない。
○労使委員会は、年に1度の定期開催とし、あとは必要に応じて開催することとしている。
企画業務型裁量労働制に関すること、裁量労働制適用対象者の勤務状況や賃金等の労働条件に関すること、裁量労働制適用対象者の健康・福祉確保措置、苦情受付状況等、その他、その都度必要な内容を議題としている。
○社内で裁量労働制に関する苦情受付の窓口を設置している他、その他上司を通して相談することも可能。苦情を受け付けた場合に労使委員会で内容を共有することも想定しているが苦情が出たことはない。
○裁量労働制適用者については、雇用契約時、また途中で労働条件を変更する際に必ず本人に制度についての説明を実施するようにしており、裁量労働制の適用を望まない場合は適用しない。説明の内容は、勤怠管理の取扱い、有休、賃金面等。
○本人の同意については、企画型も専門型もともに本人の同意が得られなければ適用せず、同意の撤回があれば制度適用を外すという運用にしているが、これまでの実態として適用の拒否をする者や同意を撤回したいという意見が出たことはない。このほか、労働時間が長い者は適用を外す運用も行っている。
○現行の裁量労働制等に対する意見としては以下3点。
・裁量労働制の手続等について、悪用を防ぐためにも必要な工程かとは思うが労使委員会を開いたり、協定届・協定書の提出が必要になったり、定期的な更新も必要になったりする点で、導入すること、継続することに工数がかかる。
・企画業務型裁量労働制の適用可能職種が判断しづらい。例えば適用可能な業務のうち、調査及び分析を行い、企画計画等を策定する業務となっているが、どういう業務に適用していいかというのがぱっと分かりづらい。調査・分析という業務をしている者も、並行して部下のマネジメント業務も行っていたり、運用業務も行っていたりする場合もあるので、そういう者に対しても適用して問題ないのかというところが判断しづらい。
・企画業務型裁量労働制の定期報告書を6か月に1度提出しなければならないのは頻度としては高く、手続としては煩雑。
○コロナ禍でリモートワークが増え、業務をしている時間とプライベートの時間の区別がつけづらいところもあり、個々の自律性も求められる。裁量労働制との相性はよいと感じるが、リモートワークでは、仕事とプライベート、境目のないような働き方をしてしまうことが課題。
○従業員が自律的に成果創出する能力を伸ばすために裁量労働制やフレックスタイム制は有効だが、事業や組織の状況に合った適用をすることが重要で、事業や適用者の職能や経験、勤怠管理制度、管理職の人数やスキルレベルなどに合わせて適用していく必要がある。