第21回労働政策審議会労働政策基本部会 議事録

政策統括官付政策統括室

日時

令和4年4月22日(金)14:00~16:00

場所

厚生労働省 政策統括室大会議室(11階)

出席者

(委員)(五十音順)
古賀委員、武田委員、冨山委員、中野委員、春川委員、守島部会長、山川委員、山田委員

(ヒアリング対象者)
酒井 才介氏(みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)

(事務局)
坂口厚生労働審議官、村山総括審議官、大島政策統括官(総合政策担当)、田中政策立案総括審議官、松本政策統括官付参事官、古屋政策統括官付政策統括室労働経済調査官、宇野人材開発統括官付人材開発政策担当参事官、源河雇用環境・均等局総務課長、溝口職業安定局雇用政策課長、石垣労働基準局総務課長

議題

  1. (1)ヒアリング
  2. (2)その他

議事

議事内容
○守島部会長 皆さん方、こんにちは。定刻になりましたので、ただいまから第21回「労働政策審議会労働政策基本部会」を開催いたしたいと思います。
 皆様方におかれましては、年度始めのお忙しい中、御出席をいただき、誠にありがとうございます。
 本日は、所用により石山委員、入山委員、大橋委員、岡本委員、川﨑委員、佐々木委員が御欠席でございます。
 また、所用のため、武田委員は1時間ほど遅れて参加されると伺っております。
 まず、議事に入ります前に、オンラインでの開催に関して事務局から説明があります。
○古屋労働経済調査官 事務局の古屋でございます。よろしくお願いいたします。
 オンラインでの開催に関しまして留意事項を説明いたします。まず、原則としてカメラはオン、マイクはミュートとしていただくようお願いいたします。
 委員の皆様は、御発言の際は「参加パネル」の御自身のお名前の横にあります挙手ボタンを押して、部会長から御指名があるまでお待ちいただければと存じます。部会長から指名があった後、マイクのミュートを解除して御発言いただくようお願いいたします。発言終了後はマイクをミュートに戻しまして、再度挙手ボタンを押して挙手の状態を解除していただくようお願いいたします。
 通信の状態などにより、音声での御発言が難しい場合につきましては、チャットで発言内容をお送りいただくようお願いいたします。また、会の最中に音声等のトラブルがございましたら、チャット機能でお知らせいただくか、事前に事務局からお送りしている電話番号まで御連絡いただくようお願いいたします。
 以上でございます。
○守島部会長 ありがとうございます。
 それでは、議事に入りたいと思います。
 まず、本日の進め方について御説明いたします。本日は2人ゲストスピーカーをお招きしておりまして、「社会・経済の変化、働き方の変化・多様化の見通し」について、まずみずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社の酒井様からお話をいただきます。続けまして、この審議会のメンバーである冨山委員から同じテーマについてお話をいただきたいと思います。お二人のプレゼンが終了した後にまとめて質疑応答、自由討議を行いますので、皆さん方、よろしくお願いいたします。
 それでは、ヒアリングに移りたいと思います。最初に酒井様、よろしくお願いいたします。
○酒井氏 みずほリサーチ&テクノロジーズで主に日本経済の見通しを担当しております酒井と申します。本日は貴重な発表の機会をいただきましてありがとうございます。
 私の方から「社会・経済構造の変化に対応するための『人への投資』」という題目で、「人への投資」という新しい労働政策、あるいはその結果としての労働力の質の向上等の重要性について、内外の先進的な事例と絡めてお話しできればと思っております。よろしくお願いいたします。
 それでは、1ページおめくりいただきまして、私なりの世界観ということを簡単に御紹介させていただきます。コロナ禍において人々の行動も変化してきている、企業の在り方も変化してきているということで、大きな転換点があったと認識しております。具体的には、コロナウイルス感染の影響が長期化し、人々の消費行動の在り方は、これまでは外に出かけて、遠出をして旅行して、そこに楽しみ・価値を覚えるという人が多かったわけですけれども、徐々に家の中での「プチぜいたく」、例えばデジタルコンテンツを消費しながら、家の中でも楽しめる消費といったものに価値を見出すという人も増えてきているということですし、働き方をとっても、リモートワークが普及してきたということで、よくも悪くもコロナ禍が発生したことでそういった消費行動あるいは働き方の変化というものが起こってきているということであります。
 キーワードとして右側のほうに「デジタル」「グリーン」と書かせていただいていますが、今、申し上げたデジタルというところをとっても、こうした潮流というのは、コロナ禍が収束したとしても、トレンドとしてのデジタル化の進展というのは変わらないだろうと思っておりまして、我々消費者あるいは企業もこうした変化というものを前提にして考えていかなければいけないということかと思っております。
 次のページでございます。コロナ禍において人々の行動が変化してきているということをアンケート調査等で確認しているわけですが、左側はインターネットを使った消費支出について、電子書籍、あるいは映画・アプリ・音楽といったところで、在宅で楽しめる消費が増えてきているということであります。コロナ禍が収束してきてもこうした傾向はおおむね大きな変化がないだろうと考えられます。
 右側の図表は、今後も続けていきたい行動ということで、2021年11月頃、去年の秋頃に感染が一旦収束してきて、人々が外に出るようになったタイミングでのアンケートということですけれども、その時点においてもまだ感染の懸念があると考えておられる方がいらっしゃったのだと思いますが、「今後続けていきたい行動」として、自宅にいながら楽しめる趣味の充実であるとか、そういった意向を示す声が多いということであります。
 企業の側からすれば、こうした消費者の意識の変化、自宅でも楽しめるところに一定程度価値を見出す人が増えてきた、あるいはそうした潮流が今後も続いていくということを踏まえますと、今後感染が仮に収束してきたとしても、これまでの我慢の反動で旅行に出かける、外食に出かけるといった人が増えるかもしれませんけれども、コロナが収束したからといって一気にコロナの前の水準を超えるほどのリベンジ消費は期待できないのではないかと思われます。
 足元の動向、例えば今年のゴールデンウイークに関しても、家にいようと考えている人は一定数いらっしゃるようですし、今後リベンジ消費だけに期待するのではなくて、消費のデジタルシフトに対応するための新しいサービス・商品の提供が企業サイドとしても求められるということなのではないかと考えています。
 おめくりいただきまして、3ページです。仮に感染が収束したとしても、先ほど申し上げましたようにリベンジ消費に大きな期待ができない、あるいはインバウンド需要についても、新興国を中心に経口治療薬・ワクチンが十分に普及するまで、恐らく2023年の後半ぐらいにならないと本格的な回復には至らないのではないのかと考えますけれども、インバウンドの低迷が続くことを考えますと、例えばサービス業を中心に今までのビジネスモデルをそのまま延長するのではなくて、業態を転換していく、事業のビジネスモデルを変化させていくといったことも考えていかなければならないのではないかと考えられます。
 現状は、アンケートを見ていくと、サービス業を中心に過剰債務がコロナ禍で積み増されていて、それが足かせとなってなかなか動けないという点もありますし、右側の「過剰債務がある企業の今後の対応」というところでも、事業再構築を検討していると答える企業も2割ぐらいにとどまっているということでありまして、過剰債務の存在、資金面の制約ということもあるのですけれども、それ以外に人手不足、新しい業態に転換しようとしても対応できる人材がいないということもあって、資金面・人材面での不足から業態転換がなかなか進まないジレンマに陥っているという状況があるのかなと認識しております。
 おめくりいただきまして、4ページです。そうした状況の中で、経済というものが大きく言うと無形化シフト、要するに、デジタル化というものに代表されると思うのですが、新しい社会に向かってきている。急速にデジタルとリアルが融合する社会に変わりつつあり、Society5.0という言葉もありますが、デジタルにリアルが乗っかかっている、そういう新しい社会になってきているということかと認識しています。消費の在り方も単純にモノを消費するということではなくて、サービスを消費する形態が主流になってきています。例えばスマホを買っても、スマホそのものを買って電話するだけではなくて、そこからアプリなどを使ってサービス、デジタルコンテンツを消費するといったように、消費行動の在り方も変化してきているということかと思います。
 こうした新しい社会構造に日本は十分に対応し切れていないのではないかという問題意識がございまして、日本の場合ですと、ものづくり、製造業が産業の中心というところだったのですけれども、そうしたところで十分にデジタル化に対応できていないのではないかと思われます。
 そうすると、例えば左側のように有形資産の効率性が相対的に低下している、それがひいては中長期的に企業の期待成長率を低下させていくということにもつながっていきますし、右側、経済が全般に伸びていかなければ消費も伸びていかないということで、経済の無形化に十分にシフトしていないことで経済全体としての生産性も上がらず、その中で消費や設備投資が十分に伸びないというところで、全体として低迷しているという状況になってしまっているのではないかというのが私の基本的な認識ということになります。
 おめくりいただきまして、5ページです。世界的にこうした無形化、デジタル化といった潮流を捉まえた経済構造の転換が進みつつあるわけですが、日本は残念ながら相対的に遅れているということであります。
 例えばアメリカは進んでいると言われるデジタルへの対応という文脈で、DXという言葉がよく出てきていると思います。つまり、デジタルを活用して、単に企業のプロセスを改革してコストカットするだけでなくて、ビジネスモデルの転換といった幅広い概念ということですが、日本でもそれをやらなければいけないという声が昨今強まってきているということは、御案内のとおりかと思います。
 一方で、アメリカに関して言うと、アメリカでは「DX、DX」と日本ほど言われていないというのが私の率直な感想でして、アメリカでは既にそういったことが起こっているからではないか、既にDXが実現されているということも背景にあるのかなと考えています。
 アメリカが相対的にこういったものが進んでいて、日本が遅れているということが色々なアンケート調査等から出てきますけれども、日本はものづくり信仰が強かった、製造業中心の産業構造だったという中で、生産者あるいは供給者の視点で産業をつくっていくという発想が強くて、供給側での強みは十分にあるのですが、一方で、需要者サイドの視点、消費者目線での視点がやや弱いというところも、このデジタル化への対応シフトあるいはDXというところが遅れている背景なのではないかなと考えています。
 日本は、需要者サイドのデータを取って、そこに合わせて最適化を図っていくという発想が不足していたということです。生産者目線でのデータはきっちりしているのですけれども、需要者サイド、消費者サイドのお客さんのデータや、あるいは社員のデータの蓄積が十分に進んでいなくて、それを活用するところができていない。言わば経営者の勘でやっているとまでは言いませんけれども、科学に基づいた経営あるいは労務管理といったところが十分にできていなかったというところがあるのではないかと考えています。アメリカはその点、常に消費者目線でビジネスモデルが構築されてきたという違いがあるのではないかと考えています。
 6ページです。この辺りから基礎的なデータの確認というところなので、ざっと流したいと思います。2000年代以降生産性が低迷して、潜在成長率などを図表でお示ししていますけれども、御案内のとおり、日本の潜在成長率は低迷が続いているという中で、実際のGDP成長率も十分に高まっていなかった。アベノミクス期において戦後最長にあと一歩と迫った景気回復局面においても、人々が十分に成長したと実感できるような状況ではなかった。その背景には、労働生産性が低かったということの裏返しのところでもありますけれども、賃金が伸びていなかったということがあるのだと思います。「新しい資本主義」を岸田政権は掲げていますが、こうした経済の低迷というところも問題意識としてあるのだと思います。
 7ページのスライドに関しても、例えば生産性が低い、潜在成長率が低いといったこともあって、企業の期待成長率が低く、企業の設備投資も維持補修・更新投資といったものがメインで、能力増強投資が十分行われていないということがあります。
 次のスライドですが、投資だけでなくて消費が十分に伸びていない。賃金が伸びていなくて消費も伸びないということなので、日本経済ではGDPの5~6割が消費ということを考えると、消費が伸びなければGDPも伸びないということで、マクロの生産性という観点でも、結局、経済学のY/Lでいうところの分子のY、つまりGDPが伸びなければ、マクロ全体でも生産性が上がっていかないということかと思います。賃金が伸びなくて、消費が伸びなくて、経済、GDPが伸びなくて、潜在成長率も伸びない状況がずっと続いてきているということなのかと考えています。その中で注目されてきているのがデジタルへの転換ということで、新しい付加価値をそこで生み出していくということかと思います。
 9ページを御紹介させていただきますと、無形資産、例えばデジタルへの対応のための投資、あるいは人的投資を含めて整理しているのですけれども、無形資産への投資が行われているほど生産性が高いという関係が示されております。因果関係を示した図表ではないのですが、相関関係としてそうした傾向が見られるということであります。
 無形資産の中の一つとして人的資本・組織改革に関する投資と労働生産性の関係を業種別にプロットした図でございますが、それを見ると正の相関が見られる。有形資産と生産性の右側の関係よりも強い相関関係が見られるということで、無形資産が経済にとって重要だという指摘は以前からあったわけですが、特にここでは人的投資の重要性が示されているということでございます。
 おめくりいただきまして、10ページでございます。左側のほうに「無形資産投資の定義と分類」ということで、御紹介させていただいています。右側の図表のほうは、アメリカは無形資産への投資が日本と比べると強いのではないかということを示しています。日本はものづくり信仰が根強かったというところもあって、ソフトウエア投資はそれなりに行われているわけですが、省力化投資といったものも多くて、ビジネスモデルの転換にまで至っているものは少ないと言えます。つまり、IT投資はやっていて、紙を電子に置き換えるということまではやっているのだけれども、それを使ってビジネスモデルの転換というところまで進んでいるかというと、そこまではいっていない。そうれが現状だと思います。無形資産の日本全体としての増え方というものを確認しますと、ほぼ頭打ちになっているという状況です。
 次の11ページです。無形資産の内訳として人的資本ということに着目していきたいわけですが、左側のほうで日本のGDP対比で見た無形資産の内訳をお示ししています。時系列で見ても製造業中心の産業構造ということで、R&Dとかそういったところはやられているのかなと思うのですけれども、人的資本は残念ながらあまり増えていないということかと思います。
 右側のほうではそれを国際比較しています。日、米、欧等の無形資産の内訳別のシェアを確認しています。例えば日本と同じように製造業が強いドイツにおいても、人的資本はシェアとしてはそれなりに割かれているということであります。さらには、アメリカの人的資本への投資は、こうして見ると結構多いという印象です。直感的には労働市場の流動性が高ければ、企業が人的投資をやっても転職されるリスクが高いということだと思うので、労働市場の流動性が高ければ高いほど教育投資が過小に供給されるということにつながりかねないようにも思われるわけですが、こうして見ると、アメリカでも人的資本が強いということなので、むしろ流動性が高い社会だからこそ、労働者に選ばれるために、こうした教育に対する投資といったところもやっているということかもしれないと見ています。
 おめくりいただきまして、12ページも国際比較で、日本の人的投資、よく見る図表だと思いますけれども、官、民いずれで見ても日本は少ないということであります。民間部門では、日本は雇用の流動性というところはアメリカほどではないですが、非正規雇用の方も多く、放っておくと、民間企業で非正規雇用の方に教育投資、人的資本投資をやっていくインセンティブが小さいという面もあり、日本はもう少し公的な支出を人的資本投資という分野で拡充する余地があるのではないかというふうにも見えるわけです。
 おめくりいただきまして、13ページでございます。アンケートなどでDXの取組が進んでいるのか、進んでいないのかというところを国際比較で見ているわけですが、先ほども言及しましたように、アメリカと比べると日本はDXの取組が遅れているといったことがDXの白書等でも示されています。
 一方で、企業としてもIT投資を重視する意向は徐々に増えてきていますので、企業がIT投資あるいはDXと言っていたとしても、実態はコストカット、あるいは紙をITで電子に換える類いのようなものが多いのかもしれませんけれども、それでもかつてと比べると企業の経営者の方々もデジタルを活用していかなければいけないという意識は高まってきているということなのだと思います。
 おめくりいただいて、14ページです。DXを行うに当たっての課題ということで、アンケート調査でそういったものを見ていきますと、日本企業がDXを進めていくに当たっての課題というのは人材不足です。左側の図表ですが、DXを進める際に人材が不足していて進まないと考える企業が多いということであります。右側のほうは従業員のITリテラシーについて、そもそも全体像を把握できていないし、それに対する手だても十分に実施されているとは言いがたい状況がうかがえます。
 ITリテラシーということですが、いわゆるDXというものを進めていく中においては、高度なプログラミング技術を有する専門人材のようなイメージが強い部分もあるのですけれども、必ずしもそういう高度人材がいればよいということではなくて、デジタルを用いてビジネスモデルを転換していくことがDXということだとすると、ビジネスの根本、顧客との接点を持つ営業担当の従業員の方、あるいはものづくりの現場の最前線にいらっしゃる従業員の方のITリテラシーを高める、リスキリングを支援するということが必要になってくると認識しています。
 次の15ページです。DXを進めるためには、IT部門とかデジタル推進部門のようなDX部門をつくって、そこに高度人材を配置したり、ベンダーに投げればいいということではなくて、やはり全社一丸となってやらなければいけないということなのだと思います。その考え方を整理しています。クレイトン・クリステンセン(ハーバード大学ビジネススクール元教授)はイノベーションには「3P」、PhilosophyとPeopleとProcessが必要と言われていますが、フィロソフィーつまりビジョンと、人と、プロセス(制度)といったものを変えていかなければいけない。DXにはその3つが必要だと言われていますけれども、それを人材面、組織面、戦略面という形でここでは整理しています。
 ベンダーに勧められて汎用ツールを入れたのだけれども、結局、お金ばかりがかかって、現場部門でそれを十分に活用できなかったということを失敗例としてよく聞きます。ですから、DXを成功させるためには、IT担当者に任せっ放しでなくて、現場部門、普通の営業員、あるいはものをつくっている現場の方とか、そういう全社的、社員全体を巻き込んだ形での取組が必要になってくるということなのだと思います。
 16ページは御参考ですけれども、先行研究で人的投資をやっていくと、それが生産性にプラスに効くということが示されています。
 17ページです。人的投資については、技術進歩のスピードが速い中で、労働市場でそれに追いつけるスキル、求められているスキルを持っていない方が失業してしまうということが技術進歩の過程としてどうしても発生してしまうということですけれども、そこに対して、どうしたらスキルが高められるのか、稼得能力を高められるのか、という点を考察しています。労働市場であぶれてしまった人でもスキルを身につけるための機会を得て、また労働市場に参入していただいてスキルを高めるということは、労働市場での質を高め、つまり、賃金を高めるということになると思うので、そういう取組が必要だということだと思うのです。
 プログラム別にみると何が効果があるのかということで、メタアナリシスの先行研究を御紹介させていただいています。左側の下から2つ目、民間雇用創出ですけれども、民間企業で一時的に雇い入れてもらうというところを助成するということですが、そこで一時的に職場体験のようなことをしてスキルを身につける。働いていただく機会をまずつくって、そこでスキルを身につけていただくことをした方が、公的部門で人を雇うとかジョブサーチ支援、こういった政策も早く労働市場で職を見つけていただくという点では短期的に効果があるわけですが、そういった施策よりも、長期的な雇用確率を引き上げる効果が高いという結果が示されています。民間雇用創出、民間企業での職場体験によってヒューマンキャピタルを高めるようなプログラムをやったほうが、長期的に雇用に対してもポジティブな大きい効果が得られるといったことが示されていますので、ここで御紹介させていただきました。
 18ページと19ページのスライドは、DXが進んでいる中小企業の事例、海外でのリスキリングに関する公的支援の事例をまとめさせていただいています。ここではリクルートワークス研究所様の調査研究をご紹介させて頂きます。
 残念ながら個々の事例を紹介する時間はないのですけれども、ポイントとしては、中小企業でDXを進めていくには社員のリスキリングが大事だということです。企業でDXを成功させるために、従業員の能力・スキル、ケーパビリティーを高めるという面からリスキリングが重要になってきて、個々のいろんな企業の事例を取り上げさせていただいていますが、共通点としては、顧客の接点、ものづくりの現場、そこに携わる従業員の方が、そういったデジタル技術を利用して価値を生み出すための仕掛けを経営者が率先してつくっているということが挙げられます。経営者自らがデジタルの研修を受けたり、あるいはそのスキルを身につけるということもしていますし、及び腰になっている現場の人たちに対して、成功体験をスモールプロセスで少しずつ体験してもらって、実際に役に立つということを体験してもらう、あるいは企業が必要とするスキルを示した上で、実践的に学ぶ機会を作るといった取組みがなされています。データを実際に従業員の方に使っていただいて、従業員の方が自律的にそれを使って判断、行動できるようになるというプロセスです。
 そういう循環が生まれてくると、お客さんの志向とか「お言葉」といったものをデータでどんどん蓄積していって、それがすぐに共有されやすいということにもなるでしょうし、その次にお客さんが来ていただいたときに、よりいいサービスを提供できるようになって、結果としてお客様からお褒めの言葉として返ってくるということになるわけです。そういった学びの機会あるいは成功体験を積ませることがDXの成功へのポイントなのだということが個々の企業の事例からうかがえます。
 最後のスライドでは海外の公的支援の事例を取り上げさせていただきました。特にドイツとイギリスの事例を載せています。ドイツでは連邦経済エネルギー省が所管しているコンピテンスセンター、中小企業のDXとリスキリングを支援するための教育研究拠点のようなものを各地域につくって、その地域のニーズに応じた形で、それぞれのコンピテンスセンターが独自に裁量を持って独自にプログラムを開発しているということです。その内容がほかのコンピテンスセンターでも共有されていて、ドイツでは個々の労働者が自分が欲しいプログラムを見つけることができるようになっています。経営者の方に対応するためのプログラム、従業員の方に対応するプログラム、個々の段階に応じてそのプログラムが提供されているということです。しかも、ある地域でのプログラムがほかの地域でも利用できるということで、中小企業が自社のニーズに即した教育・情報にアクセスできるようになっている。これがポイントだと思っています。
 イギリスに関しては、デジタルスキルパートナーシップという仕組みがございまして、これは国が資金を拠出して、地方政府が民間企業と連携して地域のリスキリングを支援していくという取組ですが、これも国が専任のコーディネーターを設置して、その人たちのネットワーク形成を国が支援する。そのコーディネーターが例えばIT企業とか自治体とかほかの省庁と連携して、中小企業に対してプログラムを提供していくということをやっていまして、日本と同じように高齢化が進んで生産性も低いと言われているランカシャー地域でもデジタルスキルパートナーシップが進められておりまして、コーディネーター同士が連携する場を国がセットしており、ある地域でのプログラム、リスキリングの成功事例、ベストプラクティスが共有されるような仕組みになっているということであります。
 こういう取組は日本にとっても参考になるのではないかと考えられます。日本のDXもいろんな制度が現行でも既にあって、使おうと思えば使える状況になっているのですけれども、そういった各省庁の施策を一元的な情報として提供されるようになるとベターだと思います。また、日本の場合ですと、都道府県など自治体が主体となって民間企業のDX支援を行っています。地方によって産業構造とか違いますので、自治体が主体になること自体は合理的だと思うのですが、そういった支援者間の情報共有の場を国がセットする。イギリスのようにコーディネーターをつくるというのは一案かもしれませんけれども、そういった成功体験を共有するための場を提供したりすることを国としてできる余地もあるのではないかと考えています。
 時間を超過して、ちょっと駆け足で恐縮でございましたが、中小企業のリスキリングが日本のこれからにとって重要な課題になるのではないかという問題意識で御説明をさせていただきました。御清聴どうもありがとうございました。
○守島部会長 ありがとうございました。
 それでは、質疑応答は次の冨山委員が終わってからになりますので、続いて、冨山委員に御発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○冨山委員 冨山です。
 今の話と基本は同じで、今、お話しいただいた部分の根本論みたいなことからお話ししたいのですが、産業社会を成り立たせている根本的な部分がこの20年、30年、かなり大きく変わり始めていて、多分コロナの後、またさらに変わるでしょうという話なのです。ちょっと極端なことを言ってしまうと、19世紀、20世紀を経て出来上がってきた労働という概念、あるいは労働三法を含めた基本的な人材市場、あるいは働くこと、さらには教育訓練、学校も含めて、いろんな意味でかなりコペルニクス的、革命的な変化が世界的に起きているということなのです。
 現状、今の働き方改革もややそうなのだけれども、はっきり言って日本のこの20年ぐらい、パッチワークを繰り返しているだけで、工業化社会においてうまく機能していたモデルを部分的に一生懸命直そうとしているのだけれども、結局、根本は工業化社会というのはまさに有形資産で、設備集約で、集団的オペレーションで、1つのところにみんなが集まって価値をつくるというモデルなのです。そんなことをやっていたら、今どきどうですか。そういうモデルでちょうどいい賃金水準というのは大体1万ドルなので、日本でそれを本気でもう一回やろうとすると、このモデルでどう頑張っても行き着くところは年収1万ドルのほうに下がっていってしまうのです。今、日本が5,000ドルぐらいの国だったら、それでも倍増でハッピーなのですけれども、20年前に4万ドルに達している国なので、かつ今の財政状況を考えると、これが1万ドルになってしまったら、日本国は完全に崩壊するのです。
 実際に価値を生んでいるのは完全に無形価値。無形価値の根源というのは、突き詰めて言えば人間の頭脳の活動です。知的な活動ということになるので、それを価値の源泉とするときにどうするのだということです。ですから、このパッチワークをやっている限り賃金は下がり続ける、非正規は増え続ける。日本の場合には勝ち組がいないから、全体が貧困化していくという流れは絶対に止まらないです。だから、いいかげんみんな腹をくくってこの根治治療を始めようというのが今日言いたいことで、これでほとんど全て語ってしまったのですけれども、ちょっとブレークダウンして話をします。
 今、言ったことはこういうことです。結局、古い昭和の資本主義はすごくうまくいったということなのだけれども、もうその時代は終わったということです。残念ながらそれで豊かになれる時代は終わりました。中国などは古い日本の資本主義をもう一回やって全体の底上げしようという雰囲気に今なっていますが、あれは恐らくすごく苦労しますね。あのモデルで行ってしまうと、1万ドルの壁を破れないのではないかな。苦労すると思います。だから、日本はすごくついていたのです。社会主義圏、中国が入ってくる前にこのモデルでやっていたものだから4万ドルまで行けたのですけれども、これからはきついです。ましてや日本みたいな国でこんなのはもう成り立たないに決まっているわけです。
 一方で、米国の資本主義というのは高成長だったのですが、彼らは完全に情報化モデル、知識集約、無形資産にシフトしたのだけれども、問題は、このモデルは高成長だったのだけれども、格差が拡大してしまったわけです。ウィナー・テイクス・オール型の産業がほとんどなので。それがあまりにもひどいから、新自由主義で行き過ぎではないかと言っている人がいるのだけれども、僕はあれは、関係あると思っていて、要は、今、産業モデル、事業モデルというのがああいうふうになってしまうような事業モデルの時期なのです。
 とりわけ過去の産業革命の時代もそうだったのだけれども、2つの理由でこういう産業モデルの転換期は富の集中が起きます。1つは、今、言ったビジネスモデル自体がそういう性格を持つ。ある意味では産業革命も工業という規模型工業が生まれた時期だったので、当然ある種の富の集中が起きました。加えて、そういった転換についていける人、ついていけない人が当然。だから、ラダイトに走ってしまう人とついていく人に分かれますから、それで格差が起きてしまうわけで、19世紀の後半ぐらいについに社会主義というのが生まれたわけです。それと同じようなことが形を変えて今、起きているというのが僕の認識です。
 令和の今、真の新しさを求めるのは何なのですかということです。世界の潮流は、このままだとやばい。これは環境的な問題もやばいし、社会的な分断もやばいので、ESGとかサステーナビリティーということを言い出しているわけです。ただし、100メートル走を繰り返して走っていたら環境も企業も疲弊してしまうから、マラソンにしましょうということなのだけれども、別にマラソンだからゆっくり走れということは言っていなくて、やはり2時間で美しく走れと言っているのです。要するに、2時間、オリンピックペースで、温暖化ガスも出さずに、かつダイバーシティであるとか人権というものにちゃんと配慮して、美しいフォームで走りなさいと言っているのです。
 はっきり言って今、2周遅れになりかかっていて、工業化モデルで知識集約モデルについていけなかったところに、今、日本の会社が2時間で走るのはもうきついですね。みんな3時間、4時間かかってしまっているのです。そこに何とかしろと言うのだから、きついわけで、今、すごく厳しいことを世界で言うところの新しい資本主義が日本に問うております。
 なので、前半のプレゼンテーションそのものを食ってしまっているような話なのですけれども、2周遅れの日本がどうやっていくかといったら、これは中堅・中小企業的空間で、かつてフォードがフォード・モデルTでやったように、要は、フォードというのは、生産技術のイノベーションの果実、生産性の上がった部分をかなり労働者に返したのです。返すことによってフォードの働き手がモデルTを買えるようにする。そのおかげで市場がでかくなる。それでまたフォードが成長する。まさに成長と分配の循環というモデルを彼らは工業化の段階でやったわけです。アメリカの多くの企業はこれをまねたのです。GMにしてもGEにしても。だから、アメリカが世界最大の大工業国に発展するし、当時のアメリカは中産階級が多くなっています。それを今のデジタルの時代にどうやってできるかという話で、どうやるかという話は既に十分していただいたので、私はあまり細かく付け加えませんけれども、そういうことです。
 この辺は、駄目だったねという話とか賃金が上がらないねということで、先ほどの話とかぶるのでやりませんけれども、人材に投資していないということです。
 人材投資をしなかった理由は幾つかあるのだけれども、もともとのモデルが駄目になってしまってもうからなくなったから、そういう金が回らなくなったという問題と、こういう破壊的イノベーションでテクノロジーとかビジネスモデルがすごく流動化、転換するときというのは、企業内でOJTで生産性を上げるのは限界があるのです。むしろ企業横断的なスキル、新しいスキル、テクノロジーのほうが意味を持つのだけれども、日本企業のモデルというのはクローズなモデルで、典型的にはMBA留学なのだけれども、MBAなどに留学したら結局辞めてしまうではないかと。辞めてしまうのに何でそんな金を使うのだということで、みんなMBA留学をやめたのです。ばかみたいに。結論から言うと、ケツの穴の小さいことを言っていたわけです。ケツの穴の小さいことを言っていたら、いつまでたっても改良、改善、大量生産。結局、改良、改善、大量生産で唯一もったのが自動車産業だけなのです。それは産業特性がそういう産業だったからもったのだけれども、はっきり言ってここに来て自動車産業もやばくなってきているので、自動車がこけてしまったら、日本の産業は全滅です。
 なので、いいかげんそういうケツの穴の小さいことを言っているのをやめようぜということなのです。ただ、この議論というのはかなり深いジレンマがあって、今の産業のビジネスモデルを前提とすると、やはりこうなるのです。基本的には新卒で入った人はより長く働いてもらったほうがいい。20年、30年、40年。メンバーシップ型というのは、ある意味では生涯保障をする代わりに会社にコミットメントしてくださいというモデルなのです。その目標を前提にしたら、絶対こうなるのです。だって、釣った魚に餌をやらないということになってしまうのだから。わざわざ辞めないようにすることのインセンティブはないので。
 だけど、欧米企業というのは割り切って人材投資をやっているのです。大体10年で社員はみんないなくなってしまうのだから。特にアメリカなんて、下手すると10年もしないうちに全員辞めてしまうので、割り切ってこれをやっているのです。変な話、人材は天下の回り物で、お互いにやっていれば、お互いに優秀な人材や労働者が採れると割り切りをしているわけです。これは本当に割り切らないと駄目です。
 もう一点申し上げておくと、日本はメンバーシップ型雇用などと言っているとんちんかんな人がいっぱいいるけれども、あれはうそですから。というのは、今、本当の意味で終身年功制で働いているいわゆる正社員というのは、全労働者の20%しかいません。大企業の正社員だけなのです。中堅・中小企業というのは、正社員に関してももともと流動性が高いのです。中堅・中小企業の人たちは労働組合に守られていないので、はっきり言ってかなり解雇天国です。労組がないと、例の解雇権濫用の法理というのは実質的には労働者を守れないので、そういうのがない世界においては民法の原則に戻ってしまうのです。訴訟なんかできないから。だから、いいところ労働審判に駆け込んで30万か40万、ちょろちょろっともらって、おしまいというのが関の山で、日本は人員削減が物すごく簡単な国です。日本は欧米に比べて一番簡単で、アメリカよりも簡単です。アメリカだと下手な解雇をやるとクラスアクションになってしまうので。そういう意味では簡単です。
 そういうふうになってしまっていて、実は弱い立場の8割の人たち、非正規はもちろん、中堅・中小企業の人たちもそういう状況にあるということは現実として事実なので、これは認めなければ駄目です。それこそ経団連さんも連合さんも。
 こちらは評論家で言っているわけでなくて、現場で人に辞めてもらったりしているので、事実として申し上げますけれども、そうなっています。その2割の比率は今後もっと下がります。下がっていってどういうふうに二極分化していくかということですが、こういうふうになってしまっていて、グローバル企業の勤労者、今、2割ぐらいなのだけれども、こういった産業群は知識集約型にもっとシフトしていきますから、ますますここのセクターはメンバーシップ型雇用では戦えないタイプの産業になっていきます。否応なしに。
 こちらはどうなるかというと、この中小企業群の多くは大企業の下請ではありません。これも勘違いがあって、サプライチェーンの中に中小企業がいるなんて思っていません。あんなものは中小企業のほんの一部です。ほとんどの中小企業はサービス産業か、そういうサプライチェーンとは関係ないです。なので、そういった産業群というのはもともとジョブ型的なのです。要は、バス会社において運転手のローテーションなんかしません。運転手はずっと運転手です。介護施設、介護士はずっと介護士です。病院へ行ったら、医者はずっと医者です。弁護士事務所、弁護士はずっと弁護士です。ホテル産業も基本的には職能型の職場です。だから、既に日本の労働者の多くは、働き方の実態としては職能型になっているのです。この議論を丸の内、大手町でやると、新卒で入って、あるときは営業をやって、あるときは開発をやって、あるいは事業部を回っていくみたいなイメージを持っていますけれども、そんな働き方をしている人は日本で2割ぐらいしかいないということなのです。実態のほうがもう先行してしまっているのです。
 だから、今の働き方改革もこの三角形をイメージしてやっているので、正直世の中に響かないです。結局、生産性が上がらないのです。あれは生産性を上げると言っていたのだけれども、全然上がってこない。効果がないのは当たり前で、ここのゾーンはもう工業化モデルではなくなっているので、あの改革はフィットしないです。いいかげん根本的にコペルニクス的転換をしましょうということです。
 ちらっと申し上げましたけれども、我が国の労働慣行、労働規制に関する伝説がいっぱいあって、これを現場でやっていますからはっきり言ってしまいますけれども、「日本の解雇規制は厳しく、世界一リストラは難しい!?」。これはうそです。やったことがない人がこういうことを言うのです。今、世界で最も雇用数調整が簡単な国は日本です。やっている私が言うのだから間違いないです。
 「日本の雇用の流動性は低い!?」。これもうそです。低いのは先ほど言った大企業の空間だけです。
 「日本の正社員はメンバーシップ雇用が名実ともに主流!?」。これもうそです。名目上は労働契約というのはメンバーシップ的な仕組みになっているのですが、実態は違います。
 「日本の賃金低下傾向は規制緩和、行き過ぎた新自由主義が生み出した!?」。これもうそです。労働生産性が上がらないから給料が減ったのです。それから、そこにしかるべき投資をしなかったので人的生産性が上がらず、その中で、設備産業としては効率が悪いと苦しくなっていくから、結果的に労働分配率を減らしてきているのです。相変わらず日本の大企業は設備産業モデルにしがみついているので、設備投資の金を苦しい中からひねり出すのです。しようがないから。日本の大企業は工場をつくるのが大好きなのです。三度の飯より工場をつくるのが好きです。銀行は三度の飯よりもシステムをつくるのが好きなので、その投資原資を出すために給料を減らさざるを得なかったということです。
 「日本の労働生産性の低さは長時間労働が原因!?」。これは半分正しいのだけれども、半分うそです。むしろここから問題なのは分子のほうです。なので、こういった伝説からはいいかげん脱却したほうがいいということです。
 ここは先ほども言ってくれた、むしろ私の言葉で言うローカル経済圏、中堅・中小企業経済圏のDXCXによる生産性向上の伸び代は、この国はすごくあります。ここで7~8割の人が働いている。ここは現状、大体年収200万から300万。実質的な雇用保障はなし。めちゃめちゃ流動性が高い人です。とにかくここに労働者が現実に8割いるのです。だから、この人たちをどうするかということを真面目に考えないと。この前、NHKのテレビでもはっきり言ってしまいましたけれども、春闘なんて茶番です。だって、2割の人しか関係ないのです。だから、世の中は春闘で全然盛り上がらないでしょう。最近は記事にもならないです。当たり前なのです。8割の人は関係ないのだから。いいかげん労働政策の中心、あるいは労働市場の政策の中心は残りの8割に行かなければ駄目です。これは間違いなくそうです。
 ここでローカルデジタルフォーディズムをやろうではないかと。要するに、エッセンシャルワーカーの人たち、今、年収200万から300万の人たちをどうしたら400、500、600にできるのか。あるいはもっと安定した、本当にホワイトの職場にできるのかというのが鍵で、どちらかというと中堅・中小企業のゾーンというのは労働集約産業で、オペレーショナルな産業が多いので、労働時間はむしろ減らしたほうがいいです。時間と生産量が比例するので。なので、今の働き方改革の議論、今のフレームはこちらのほうがフィットがいいです。
 うちの会社はこういうところでいろいろやっていますということを書いています。うちの会社は、賃金レベルにおいても待遇においても地方の公共機関の中では断トツにいいはずです。うちは私鉄総連に入っていますから、連合さんはデータをお持ちでしょうけれども、そういうことです。何でできるか。結論から言ってしまうと、それはいい経営をしているからです。DXもやり、コーポレートトランスフォーメーション、会社の経営改革もやって、いろんなことをやっているから、先ほど指摘があったようにちゃんと生産性が上がるのです。今、バス会社というのは人手不足なので、ここでうかつに僕らが収奪してしまったら、運転手を採れなくなってしまって成長できなくなるので、当然フェアな労働分配をするのです。だから、労働者が足りないということはすばらしくいいことです。日本はこれから少子高齢化がもっと進みますから、生産労働人口が常に少ないのです。常に人手不足なわけですから、人を採れるかどうかというのは、まさに労働生産性が高くて賃金水準が高いかどうかが勝負になるのです。
 逆に人が余ってしまうと、労働生産性をこういう産業で上げてしまうと失業問題に直結するのです。一番雇用吸収力があるところ。今、この問題はないので、どんどこどんどこ生産性を上げればいいのです。逆に言って生産性の低い会社はどんどん潰れてもらったらいいです。バス会社も賃金の安い会社はどんどん潰れればいいのです。要するに、うちとかがどんどん吸収しますから。必ず賃金が上がるので、それが大事だろうなということであります。
 ということで、先ほど申し上げたように、小手先の弥縫策の時代ではないです。工業化社会は明確に終わったのです。これはコロナで完全に終わります。その先に従来の延長線上はなくて、かつ工業化社会にしがみつくと、この国はこれから必ずスタグフレーションに入ります。だって、海外から原材料を輸入して加工するというモデルでやっている限り、エネルギーは上がるは、材料は上がるので、円が弱くなるわけです。スタグフレーションになってしまうので、産業モデルを変えないとこの国は食っていけないです。
 我が国でも不可逆的に流れが変わっている。2割春闘化の流れはどう頑張ったって戻らないです。
 Gの世界において問われるのは、知識集約産業モデルの創造にフレンドリーな人材市場の在り方。労働規制です。今、例えばグローバルな投資銀行とかグローバルなコンサルティングファーム、要は、上昇志向の子は自分をシンガポールとか海外オフィスに移してくれと言うのです。なぜか。日本だと働けないから。5時か6時にかっきり帰って、家で仕事をしてはいけなくなってしまっているのです。こういう子たちというのは、プロフェッショナルな世界で将来オリンピックに出ようと思ってやっているのです。この子たちを鍛えるのはどこまで行ったって仕事なのです。これは絶対に試合に出なければ駄目なのです。だから、オリンピックやゴルフとかテニスのプロと一緒です。
 今の状況というのは、若い子たちは海外にいれば年間100試合出られるのだけれども、日本にいたら50試合しか出ては駄目になってしまった。知識集約産業モデルにおいては、今、日本は自殺を進めています。もう死んでいきますね。AIなどをガチで開発している連中は、日本にいるとやばいです。労基に踏み込まれてしまうから。本当にやばいです。今、スタートアップをやろうなどと言っているときに、スタートアップだって労働基準規制の対象ですから。スタートアップなんて、世界中どこへ行ったってブラックに決まっているじゃないですか。今やっている改革は、Gモードに関しては自殺行為です。
 Lモードは今のモデルでいいと思います。だけど、こういった産業も結局、新陳代謝をしなければいけない。中小企業は400万社もある。400万人の優秀な経営者がいるわけがないので、新陳代謝はマストです。新陳代謝を進めるとすれば、今の1つの会社が社内共助でその人の人生を保障するというモデルは絶対駄目。この国は、今回のコロナショックでも金を配る方法がないし、助ける方法がないから、しようがないから会社を使うわけです。しようがないから雇用調整助成金を配って、時々不正が起きるのだけれども、経営者だっていい人ばかりではないから、自分のポケットに入れてしまうやつがいますが、この国はそういうやり方しかないのです。社内共助というものを社会的にも道義的にも制度的にもいいものということにしてしまっているから。これをやっている限り産業の新陳代謝、企業の新陳代謝はできないです。
 むしろ会社は廃業する、潰れることもある、どこかに買収されることもある。そこで当然労働移動が起きる。ちゃんと弱い立場の労働者を包摂するような社会的安全網モデルをつくっていかないと、相変わらず20世紀型のビジネスモデル、産業モデルにしがみついていると、4万ドルが今度は3万ドル、2万ドルと下がっていきますよ。
 貨幣価値は、ある種、ちょっと有利、見かけは4万ドルかもしれないけれども、どんどん抜かれていきますね。韓国にも抜かれたか、抜かれないとかと訳の分からない論争をやっていますが、振り返れば次にはASEAN諸国がどんどん来てしまうのではないですか。そうなってしまうと、ASEANから日本に出稼ぎに来なくなりますよ。今のところ何人とかで来てくれますけれども、来てくれなくなってしまいます。そういう時代になってしまうので、ここは本気で方向転換しないと、私たちの子供の世代はぎりだな。孫の世代は、この国は発展途上国ですね。そこは相当腹をくくって、せっかくこの基本問題研究会をやっているわけだから、抜本的な人材市場のデザインに乗り出さないと、私はこの国の未来は確実にないと思っております。
 以上、話を終わります。どうも御清聴ありがとうございました。
○守島部会長 ありがとうございました。
 それでは、質疑応答、自由討議に入りたいと思います。ただいまの酒井さん、冨山委員の御説明について、御意見、御質問のある方は挙手の上、御発言いただきたいと思います。古賀さん、どうぞ。
○古賀委員 古賀でございます。ありがとうございます。
 酒井さんと冨山さん、貴重なお話を大変ありがとうございました。酒井さんに1点と冨山さんに2点御見解をお伺いしたいと思います。
 モノからコトへ、デジタル化やDXなどは、これまでも変化への対応の必要性が指摘されてきたところです。酒井さんからは、なぜ日本の経済が無形化シフトできなかったのかについて、ものづくり信仰のようなものがあることと、需要サイド、消費者サイドの意向を十分に活用できていなかったというお話をいただきました。経済の無形化シフトが遅れた日本の課題について、そのほかに酒井さんの個人的見解があれば、教えていただきたいと思います。
 冨山さんからお話いただいた内容は、基本部会にとどまらず、一定程度の大きな方向性に関する議論が必要なものも多く含まれていたと認識しています。
 冨山さんに考えをお聞かせ願いたいのは、経済成長というのは極めて重要ですが、成熟社会に入った中では、経済成長のみならず、最近よく言われているウェルビーイングも含めた社会の在り方を志向していくべきではないかという点です。健康や環境や貧困、格差、あるいは地域コミュニティーの強さ・弱さということも含めた、それらとの関係の中での社会の在り方を考えていくべきではないかという議論があります。この点についてどういう考えをお持ちなのかお聞かせ願いたいと思います。
 それから、連合の組合員は700万のうち中小企業も相当程度を占めています。また、2割の組織労働者のためだけに春闘を行っているわけではなく、働く者全体の底上げにも取り組んでいることについては私からお伝えさせていただきます。
 次に企業の人材育成と雇用の流動化の関係です。雇用の流動化が進むのであれば、企業による人材育成は不要ではないかという経営者もいます。OECDの統計でみると、日本は企業のみならず、公的能力開発や職能訓練も他の国に比べたら非常に低い状況にある中で、企業の人材育成と雇用の流動性の関係についてどのように考えるべきでしょうか。企業の人材育成と公的能力開発をどのように組み合わせたらいいのかを含めて、お聞かせ願いたいと思います。
 以上でございます。
○守島部会長 ありがとうございます。
 では、まず酒井さん、お願いできますでしょうか。
○酒井氏 御質問ありがとうございます。
 先ほど私が申し上げたのはまさにアメリカとの違いでというところで、日本はDXがなぜ遅れているのかという点について、私の認識としては、日本に関しては、先ほど申し上げましたように、ものづくり信仰、これまでの成功体験というものがあって、基本的には「いいものを安くつくる」という発想で、供給者目線で一生懸命やってきたということなのです。それに対して、そもそもお客さんのデータや、あるいは自分たちの会社の中にいる社員の見える化、データの活用といった発想がなかった。言わば科学ではないというか、ある種勘でやっている世界。そういうところでこれまでやってきた。
 逆に中国は、もともとスタートが遅れていたので、逆にアメリカを徹底的に模倣することによってDXの分野で進んだ面もあるのではないかと思っていて、突き詰めると、日本の経営者は過去の成功体験にとらわれて、日本人の場合リスク回避的なことも多いので、そもそも新しいことをできない、踏み出せないということがネックになっている可能性があると思います。その意味では経営者のリスキリングも必要だと思うのです。
 それから、今の経営者の方がそういうことだとしても、これからを担う社員の方においても、突き詰めていくと日本の教育というところが重要になってくると思います。データを活用して問題を解決していく、新しいものを見出す、付加価値をつくっていくということが求められる中で、それに結局、適応できる人材が社会全体で足りないのではないかと思われます。ITベンダーに丸投げして、取りあえずやったことにしているというところで、データを使って科学的なアプローチに基づいて戦略をつくっていくという発想が、残念ながら日本全体を通じてできてこなかった。その背景にはそういったITリテラシーに関する教育の不足といったところもあるのかなと思っています。
 ですから、ものづくりの中でこれまでの成功体験に固執する、既存のシステムに固執するところがなかなか抜け切れていなかったというところと、残念ながらそこを変えていくだけの教育、そういった人材を輩出するための教育、リカレントだけではなくてその前段階からの教育というところが、今の時点ではまだ十分ではなかったということなのかなと思っています。
○古賀委員 どうもありがとうございました。
○冨山委員 私はUAゼンセンとJAMの仕事が多かったので、中小企業のことを一部分かっており、ちょっと変化球を投げておりますけれども、そこはお許しください。
 まず、ウェルビーイングの点ですが、ここは私も全く同じ考えを持っていまして、特に物質消費的な世界というのは、ほぼ生産量とGDPと比例して、なおかつそれが消費者余剰とも比例したので、豊かさの指標としてかなり当てになったのですけれども、ここに来てコト消費になる、あるいは無形資産型になってしまうと、豊かさの指標としてあまり当てにならないです。そこでいろんな代替手法をみんな探しているところではありますが、まさに先ほど言われた何点かのポイントを国としては見ていくべきだし、恐らくそれが民主主義国家においては現実の満足度とリンクするのだと思います。日本がこれだけ調子が悪いのだけれどもずっと自民党政権で来たというのは、格差が広がらずに、多くの人があしたの御飯に不安を感じるという感覚をあまり持たないでこられたことが大きくて、その点で言ってしまうと、物すごく歯を食いしばって社内共助型で会社も組合も頑張ってきたというのは、今では功を奏していると思っています。先ほどのことと矛盾しますけれども、過去においてはそうだったと思います。
 ただ、その代償として全体がかなり貧しくなってきてしまって、そうすると、相対的貧困層の問題が深刻になってくるのです。独り親世帯であるとか。そろそろそれは限界になってきているので、イノベーションを今以上に促進することはマストだと思うのですが、では、そのイノベーションの果実が分かりやすくGDPになるかというと、恐らくそうでないと思っています。ああいうグローバル企業でGDPをがんがん追っかけるということで日本国民が幸せになるとはそんなに思っていない。日本にGAFAが登場したからといって、日本国民の大半の人はあまり。実はアメリカも大半の人は関係ないから、トランプが大統領になってしまうわけです。ですので、人々の生活の豊かさというのを実感することが大事だし、人生の豊かさ、愉快さを実感するという意味で、むしろローカル経済圏の人たちがその地域に根差して豊かな人生を送れる。
 今、デジタル化ですから、仮にそういう立場でやっていても別に情報の格差はないですし、いろんなものにいつでもアクセスできるし、移動手段がすごくよくなっていますから、どこかへ行きたかったら行けばいいわけです。むしろそのほうが豊かな人生になる可能性があると思っているので、そういったことで今、一生懸命ローカルな仕事をやっている次第です。
 自分としては実践しているつもりなので、うちのバスの従業員などもそうですけれども、社会におけるああいう立場の人たちが愉快で豊かな人生を送れる国というのが、私の21世紀の日本のイメージです。がんがんGAFAが登場するという感じは、あまり日本人が幸せになると思っていないところがあります。ですから、観光業などもそういう産業になっていくとすばらしいなと思っています。
 人材育成の問題ですけれども、その手の議論というのは、流動化、すなわち自分の会社が人をどこかに取られるという感覚で言えばそうなのです。私が90年代からアメリカの会社を見てきて感じるのは、結局、何で彼らがあそこまで人的投資をするようになったかというと、人的投資をちゃんとやって、自分の市場価値が上がる会社でないと人が採れないのです。辞めてしまうのです。その会社固有のスキルでがちがちにはめ込んでやるというのは、内部労働市場の価値しか生まれないやり方で、そういうやり方をしている会社には優秀な学生が行かないのです。あと、途中で辞めてしまいます。例えばコンサルティングファームだってそういうものにめちゃめちゃ投資をするし、IT産業だってめちゃめちゃするし、メーカーだってめちゃめちゃやるので、そういった会社で自分の同世代がどんどん市場価値を上げていくのを横で見ると、優秀な人はそちらへ移っていってしまうのです。今、過渡期的に日本の大企業が取られる側、要するに、一人負けしている状態なので、そういう感覚を持たれる経営者はいると思いますけれども、逆にその感覚でいる限りにおいてはその会社は衰退が止まらないと思っています。
 今、パナなどでもそういう議論を中でしているのですが、とにかくこちらが取りに行こうぜと。昔のパナソニックというのは人づくりで有名な会社だったわけです。20世紀的な意味合いにおいて。21世紀の意味合いにおいてパナソニックという会社は、中で5年、10年やった人が物すごく力をつけて、市場価値もつけるという会社になっていかないと、結局、パナソニックにベスト・アンド・ブライテストがいてくれないのです。ですから、そういう会社に転じようということで、パナも今、大分そういうプラクティスに変わってきています。そういう人材をグローバルに採れるようにもなってきています。
 流動性というものありきであるという前提で考えると、むしろ人材投資を一生懸命やるのが合理的な経営行動だと思っているので、それを一般の意識として共有化できるとうれしいなと思っていますので、古賀委員からもよろしくお願いします。
○古賀委員 ありがとうございました。
○守島部会長 ありがとうございました。
 続いて、山田委員が手を挙げていらっしゃいます。
○山田委員 ありがとうございます。酒井様にはデータのふんだんな、本当に勉強になるお話をしていただきまして、ありがとうございました。冨山さんには本当に鋭いご指摘いただきまして、ありがとうございました。お二人に1つか2つずつ御質問をさせていただきます。
 酒井様にですけれども、11ページに無形資産の話が出ていて、これは非常に興味深いなと思ったのですが、11ページの右側に国際比較をしているものがあって、これは非常に面白いと思いながら若干違和感がある。例えばアメリカがソフトウエアのシェアが非常に小さいとか、あるいはフランスはブランドのイメージが強いのですけれども、あまりブランドがないとかということで、もちろんこれはデータの制約ということがあり、もともとのベースに当たれば詳しく書いているのかなと思うのですけれども、ブランドとかそれはいいとして、人材の資本というところはどんな概念でデータを取っているのか。
 これは2つ目とちょっと絡むのですが、人材育成のときに、大きく分けるとOJTとOFF-JTに分かれます。冨山委員がおっしゃったように、徐々にOFF-JTのほうにシフトというか、OJTだけではもうやっていけない時代というのはほぼ間違いないのですが、その一方で、必ずしも言い切れないなというのがある。というのは、Cardのメタアナリシスで、これは非常に面白いなと。私もこれを知らなかったので後でじっくり読みたいと思うのですけれども、これを見ていると、「民間雇用創出」と書かれていますが、これはいわゆる雇用インセンティブだと思うのです。賃金助成とかをやっているやつで。これは現場で働く経験をさせているということなのだと思います。ある意味OJTが入っているのではないかなと思うのです。要は、そこのOJTとOFF-JTに対する考え方をどういうふうに整理したらいいのかというお考えを可能な範囲で教えていただきたいということです。
 それから、冨山委員、本当にご教示いただきましてありがとうございました。2つ教えていただきたいのですが、1つは、今、みちのりホールディングスで実践でされていて、賃金も上がるし、生産性も上がるということで、新しいパラダイムでどんどん変わっていく、スキルをどんどん変えていくときに、最終的に現場の人たちが変わっていくと。お話に少しあったと思うのですが、アメリカで格差が開いたというのは、結局、その変化に対して背を向ける人が多くて、自主的に変わっていくほうはすごくの伸びるのだけれども、背を向ける人と完全に分かれてしまう。それが二極化を生んでいる。
 北欧とかを見ていると、比較的格差が小さいのは、現場の人たちに自己改革の意識が広くあって、いろんなものを学んでいっているということだと思うのですけれども、そういうところで現場の人たちの意識改革、変化に対して、ついていくというか、まさに実践の中でどういうことをすればそういうことがうまくいくのか。経営者の力量なのか、あるいは現場のマネジメントなのか、あるいはもしかしたら組合というか、そういう現場の状況はどうなのか。北欧などを見ていると、組合がむしろ現場の意識改革などを引っ張っているようなところもあるのですけれども、実践からその辺りのお考えのところを教えていただきたいというのが1点です。
 もう一つは、7ページのGとL。確かにどんどんGが小さくなって、Lが大きくなっている。目からうろこという気がしたのですが、でも、Gを何とかするというのもあると思うのですが、完全に世界がパラダイム変化している中で従来のやり方をやっていたら、とても対応できない。と言いながらも、例えばアメリカと対抗しようと思うと、彼らは世界中から人材を集めてこられるわけです。英語が公用語というメリットもある。もともとそういう魅力がある。それを考えると、日本は今、全然駄目で、もっと変えていけると思うのですが、そうは言うものの、完全にアメリカとその分野で戦うと、Gのところはむしろ強みもなくなってしまうのではないかという感じもするのです。
 日本企業のものづくりは強いとよくいわれる。だが、そのものづくりにこだわり過ぎているのが問題なのは確かです。でも、そこの強みを生かしながら新しいものを融合するみたいな話を製造業ではよく言われるわけですが、それに対して、冨山委員はどうお考えをお持ちか。いや、それは中途半端なので、徹底的に改革をやるか、あるいはそういう分野がうまくポジショニングをすれば、日本の強みをうまくアドバンスに上げていけるようなやり方があるのか。その辺のGの具体的な戦い方みたいなところでお考えを教えていただきたいということです。
 以上です。
○守島部会長 ありがとうございました。
 では、まず酒井さんからお願いできますか。
○酒井氏 御質問ありがとうございます。
 国際比較のこのデータですけれども、これは基本的にはOFF-JTだと思います。OJTのところが含まれておらず、OFF-JTのところが国際比較の人的資本の教育のデータには入るのだと理解しています。
 日本の場合は、悩ましいのはOJTの扱いです。日本はどちらかというとOJTが盛んに行われていると考えられる面があります。あるアンケート調査では、就業時間の1割ぐらいがOJTに充てられているという調査もあり、OJTをそもそもデータ化しづらいところもあるのですが、これがデータに含まれていないとすると、日本はそれが多いということだとすると、過小に評価されている可能性はあるかもしれないという点は留意する必要があるのだろうと思います。
 ただ一方で、DXのような文脈で議論するときに、OJTとOFF-JTの効果ということを考えますと、既存の技術のキャッチアップという点では、OJTというのは力を発揮すると思うのです。一方で、中小企業を念頭に、これからDXを行っていくというところで、OJTが十分に機能するのかというと、やや懐疑的に思っています。そこは外部の進んだ先行事例の紹介や、そのためにベストプラクティスを共有する仕組みを、海外、イギリスなどだと先ほどご紹介したパートナーシップでやっているわけですけれども、OJTだけでは、日本のこれまでのものづくり、既存の技術をキャッチアップするという過程では機能したかもしれませんが、それだけではなくて、OFF-JTといったところも強化していかないと、先ほどの冨山委員の話にもありましたように、日本は沈没していってしまうのではないかと考えております。
 Cardは、メタアナリシスで色々な先行研究を引用していて、個々の民間雇用創出の定義をCard自身は詳しく語っておらず、元の個々の研究を見ていかないといけないというところで、これがOJTかと言われると、不確かなところがありますので確認したいと思います。ありがとうございます。
○山田委員 どうもありがとうございます。
○守島部会長 ありがとうございました。
○冨山委員 今のOJT、OFF-JTに思うことを付け加えさせていただくと、OJT、OFF-JTという定義よりも、企業内固有スキルか、企業横断的スキルかで分けたほうがいいような気がしていて、例えば日本の大手メーカーの生産技術者はめちゃめちゃサムソンとかに引き抜かれているのです。最近はアイリスオーヤマとかに引き抜かれているのですけれども、ああいう製造現場のスキルというのは実はすごく企業横断的な価値を持っていて、それがあったから例えばサムソンもTSMCもああいう会社になってしまったのです。大事なことは、どちらにしても企業横断的なスキルをちゃんとみんなでそこに投資をするということが今、問われているような気がします。
 OFF-JTは当たり前なのだけれども、インネイチャー、企業横断的な内容になってしまうからそうなのでしょうけれども、OFF-JTの世界でもいっぱいそういうものがあって、もともと日本は現場にいっぱいそういうものがあるし、それをある意味整理したものがトヨタ生産システムです。だから、ああいったものとは当然通有性があるので、そこに日本の現場の本当の価値があるのだけれども、そういうものは会社の中に閉じ込めるのでなくて、そういったものが国内でもっと流動化するほうがよい。ありていに言ってしまうと、パナの現場の人がサムスンへ行っても日本のGDPにはならないのですが、アイリスオーヤマに行ってくれれば日本のGDPになるので、そういう流動性を高めていくという意味でも、OFF-JT投資に関してもそういう投資はちゃんとやっていくことをいろんな政策も応援したほうがいいのではないか思っております。
 次に、現場の人たちの問題ですが、一応テーマはつながるのですが、全くそのとおりで、バスというのは完全に現場オペレーション型の事業なのです。ですので、現場のオペレーションを担う人たちが新しいテクノロジーなり新しいバスの運行の仕方、今、ダイナミックルーティングなども入れていますから、そういうものに対応することを運転手がやってくれなければ駄目で、そこまで来ると、運転手のそういう技能習得なり、その結果にフェアに報いるということを細かくちゃんとやっているかどうかです。
 地方のバス会社というのはすごい丼人事・労務管理をやっていて、個人別評価とかを全然やっていないケースが多いのです。ボーナスも全然業績と関係なしに一定額みたいな経営をしていて、うちのバス会社はほとんど私鉄総連に入っていますけれども、多分私鉄総連の中でも評判がいいはずです。ちゃんと丁寧にやっているので。一人一人の運転手のパフォーマンスなりやる気なりをちゃんと個別に評価して、割と早くから給料が上がる人は上がるし、ボーナスを払うようにしているのです。
 そこにちゃんと動機づけるような経営をやるかどうかなのですが、そこはネットの世界と違って、ぽんと言ってぱっと変わる世界ではない。ソフトウエアを上書きしたからといって、ばっと変わるわけではない。5,000人の運転手一人一人の問題ですから、その一人一人に対して、そういったマネジメントが粘り強くアクセスを続けるかということです。働く人別、路線別、いろんなレベルでちゃんと分ける化、見える化して、ファインな経営をするかどうかなのですが、ここでも結構DXは大事で、例えば人事管理の中にできるだけデジタル技術を入れないと、そういうきめ細かい人事管理ができない。次は、そういったことができる人材が地方の中堅・中小企業にいないので、そういったことができる人間がもっともっと行かなければ駄目で、ここはどちらかというとコンサルティングとあまり相性がよくないのです。企業規模が小さいのでコンサルティング料をちゃんと取れないので、こういう会社にはコンサルタントが来ないです。ですので、経営人材としてそういった人がもっともっとそういった企業に行く。だから、経営者の新陳代謝を進められるといいのかなと思っております。経営のポイントはそういうことです。
 最後にG型モデルの空間ですが、私のイメージで言ってしまうと、おっしゃるようにGAFAの、例えばWeb2.0のプラットフォーマー空間で今さらGAFAとかNetflixとけんかしている場合ではない。要は、あれはバスケットボールで金メダルを取るぐらい難しい話になってしまうので、私もそういう愚かなことはやらないほうがいいと考えるわけです。
 一方で、先ほどの融合モデルで何とか先行して形が見えてきている会社も幾つかあって、1つはソニーと日立です。黒物家電がめためたにやられたせいで、かなり会社の形を変えてきています。コマツもそれにかなり近いです。コマツもそういうことができているので、日本の企業が持っているマザー工場的な機能というのは大事なので、それは国内に残ります。生産ラインの量産立ち上げというのは蓄積、経験技術の塊なので。逆にアメリカは残らない社会ですから、そこはいまだに強いし、素材が強いのもそれが原因なのです。素材というのは完全に蓄積技術だから、財務指標を見ると、断トツにいいのは実はファインケミカルなのです。信越化学とか日東電工とか、ああいう領域というのはまさに日本の強みが生きるので、私はそれが同じく基本だと思っています。
 問題は、それだけでやっていると付加価値がどんどん削られていってしまうので、そこでどうやってデジタル対応していくかということになるので、どちらかというとその企業自身がどこまで自分自身を両利きの経営的に変容できるかどうかという問いで、ただ、ああいった先行成功例が出てきていますから。リクルートなどもそうです。リクルートというのはもともと情報雑誌の会社ですから。ああいうふうに変容できたということは、別に日本ベースの。インディードという向こうの会社を買収して、めちゃめちゃ成長させていますから、だから、決してできないことはない。
 そうすると、最後は結局、経営者の問題ということになる。また戻ってしまうのですけれども、コーポレートガバナンスをちゃんとしないと、そういうことができる経営者が選ばれないということになってしまう。ソニーも何だかんだ言って出井さんの時代から苦労して苦労して、今の平井さん、吉田さんの時代にトランスフォーメーションがかなりできたし、日立はあの厳しい状況で川村さん、中西さんという傑出した人が2人出たし、コマツは坂根さん、野路さんという傑出した経営者が2人出てきたことがポイントなので、そういう傑出した経営者、ちゃんとしたコーポレートトランスフォーメーションができるような経営者を選ぶのがまさにコーポレートガバナンスの仕組みだと思うので、ガバナンス改革というのが結局、大事ではないかなと思っている次第です。
 以上です。
○山田委員 どうもありがとうございました。
○守島部会長 ありがとうございました。
 続いて、武田委員、お願いいたします。
○武田委員 本日は遅れての参加となりまして申し訳ございませんでした。本当にすばらしい資料で、ぜひお話をお伺いしたかったのですが、残念ながら前半1時間別件が入っており、お話を伺えなかったので、もしプレゼンの中で言及されておりましたならば申し訳ございません。
 1点目、まずお伺いしたいことは、今のお話とも絡むのですけれども、先ほど酒井さんからございました経営者のリスキリングの必要性についてです。私もそれは重要と思う一方で、リスキリングしている時間もないという気もします。そもそも経営陣や、経営トップを選抜する段階で多様性の観点があまりにも不足しているのではないかと思います。また、社内から選抜する際、基本的に自分が担っていた事業を否定しない方を次の後継者に選ぶ会社ですと、事業構造の変革は難しいはずです。冨山さんからは何社か取り組んでいる会社があるというご紹介がありましたが、事業構造をがらっと変えるには、自分が従来事業のもとで上下の関係にあった中で選ばれたりすると、なかなか変えられないという問題もあるのではないかと思います。
 そうすると、企業固有のスキルにたけている人を選ぶところから変えないとなりません。つまり、冨山さんがおっしゃったとおり、企業横断スキルを持っていて、かつ事業構造改革をしがらみなくできる方をどうやって選ぶのかというところ。コーポレートガバナンス改革では、スキルマップの公表がございましたけれども、公表されている文面を拝見すると「経営経験」と書かれており、今、申し上げているような横断スキルの見える化にはなっていない。その辺をどうお考えか酒井さん、冨山さんそれぞれからご意見を伺いたいというのが1つ目です。
 2点目に、こちらは冨山さんへの御質問ですが、確かにローカルな部分では流動性がもともと高いという状況です。一方、日本の大企業、Gの部分でなかなか雇用慣行が変わってこなかったのは事実と思います。足元で見れば、さすがに人手不足で、あるいは良い人材の奪い合いで、Gだとしても流動性はかなり高まってきています。それは良い傾向だと思いますが、一方で、取り残されているのは制度で、実態が先に変わっているのに、配偶者控除や大企業の様々な手当が結びつき、それがゆえにまだ動けない、ちゅうちょする仕組みになっています。中所得で暮らしていけるようになるには、そういう制度の心理的な歯止めから解放されて働く方を増やしていかなければならないと考えます。実態が変わり、共働きも過半になる中で、古い慣習、制度はぜひ新しい資本主義会議で廃止してほしいと思います。その点についてのお考えをお聞かせいただければと思います。
 以上、2点です。
○守島部会長 ありがとうございます。
 では、酒井さんからお願いいたします。
○酒井氏 御質問ありがとうございます。
 まさにおっしゃるとおりのことを私も考えておりまして、先ほど文脈の中で経営者のリスキリングと申し上げましたのは、その前段としてそもそもDXがなぜ日本企業で進んでこなかったのかということであります。おっしゃるように、これまでの前例踏襲。ものづくり信仰の中で自分たちの成功体験にしがみつき、そしてリスク回避で新しいことをやらないような人が次の後継者を選ぶということが脈々と行われてきて、変わらない日本の産業構造というものがあって、それが日本の生産性低迷につながっていたのではないかというのが私の問題意識です。
 その点では、そこをまず脱却しなければいけないのですが、もし日本企業でそういう今までの古いビジネスモデルに固執して、DXが必要と言われている中でもやらないという企業はどうなるのかということであります。今回、私が中小企業のDXということを申し上げたのは、中小企業は資金面の制約等の弱点がある一方で、経営者がその気になればビジネスを変えやすいという強みもあると思うのです。そういう意味で言うと、経営者の意識改革がまず必要だと思っています。
 逆にそれができない企業というのは淘汰されていくということだと思います。それができる企業が高い賃金を支払うということであります。ビジネスモデルを転換できて、消費者を取り込むことができて、賃金を支払うことができて、労働者からも選ばれるということです。逆にそれができなくて、経営者が古いビジネスモデルに固執する企業は淘汰されていくということで、時間をかけていけば、そこは自然と是正されていくということもあるのかなと思います。ただ、それだけを言ってしまうのも問題があるので、私が申し上げたいのは、国として、あるいは政策当局としてできることは何かというと、経営者がDXの必要性を薄々感じているのだけれども、何から手をつけていいか分からず、コストも高そうだし、できなさそうという思い込みがあって一歩踏み出せないというのが中小企業の場合多いわけです。私がいろいろ聞いている話だと、何となくDXが大事という話は聞くけれども、金がかかりそうだし、何をしたらいいのか分からない。そもそも論みたいなところで止まっているというのが現状だと思うのです。
 そうすると、個々の中小企業のレベル、経営者の知識レベルに応じた学習機会、あるいは経営者同士の学び合いの機会をつくることも大事かなと思っています。同じような地域で同じような規模のほかの企業が、デジタルを活用してこういうことをやっているという成功体験を共有することによって、そこができるのだったら我々もできるのではないかとか、逆に我々もやらなければいけないという気づきの場のようなものを国あるいは自治体が用意していくということが必要になってくるのではないかと考えております。
○冨山委員 地方創生でよそ者、馬鹿者、若者を使いなさいと言うのですが、既存の大企業でも同じことで、もちろん有能でなければ駄目なので、有能であるという前提で、よそ者、若者、馬鹿者を活用するということが大事だと思っています。経営者になってからリスキリングできるかというと、年齢的にはきつい、時間がないのですけれども、ローカルな場合はオーナー経営が多く、経営者の時間が長いので、その中で経営者自身がどういうふうに学び直すかということは結構大事なのですが、割と新しい世代のオーナー経営者の人たちは結構勉強熱心です。さすがに自分の代はやばいと思っているのです。だから、ああいう人たちをエンカレッジする。ちょうど青年会議所ぐらいの世代です。そこはすごく大事だなと思って、実は僕は青年会議所のいろんなやつには絶対協力するようにしているのですが、そういう思いがあってやっています。
 大企業の場合はサラリーマンで、なるときにはもう60歳ぐらいになってしまっているので、それを今さらというのはあるのですが、どうやってプールをつくるかという問題と、そこからいい人を選び出すかという2つの課題があります。亡くなった中西さんともよくこういう話をしたのだけれども、これからの経営者というのは、オペレーショナルな世界を上手にやってきた延長線上ではないのです。例えば日立はものをつくっています。ものづくりに強いということはマスト、必要条件なのです。だけど、それは全く十分条件を保障しないので、したがって、自分の会社のオペレーショナルな業務を分かっているということだけではなくて、それはそれとして一旦脇へ置いた上で、経営者として人づくりをするということを真面目に考えなければ駄目で、そうすると、いわゆるタフアサインメントの問題になるのです。
 だから、かなり若い段階から目星をつけておかないと、そうタフアサインメントの機会はない。あと、若いうちのほうがタフアサインメントに失敗しても復活できる。そんな巨大なタフアサインメントではないので。そういった意味合いで言ってしまうと、若い段階から将来リーダー向きの人に関してはタフアサインメントをさせるということ、経営者候補人材プールのマネジメントを10年、20年とやっていくということはマストだと思っています。
 本当は指名委員会などがそういうところにコミットすべきなのです。そのときに従来の人たち、従来とは違うタイプの鍛え方をしていくわけだから、そこに社外取などを図ることはすごく意味があると思っているのです。例えば今、パナソニックはデジタル化を一生懸命やっているところなのだけれども、コマツの野路さんとかに入ってもらうと、やった人の経験談というのは迫力があるのです。ああいう人に入ってもらって、パナが持っていない視点も入れてもらう。そういうふうに考えたら、中途半端なコンサルティング会社を雇うより社外取のほうがはるかに安いです。そんな気はしています。
 となると、先ほど言ったように指名委員会であれ何であれ、選ぶ側の人たちの質ということが問われるわけです。そういった意味合いで言うと、この議論はスキルマトリックスよりもうちょっと深い議論で、なかなかこれは開示には書けないので、あれが限界だなと思っていて、最後は会社の側がどこまで真剣にそういうことを担うようなガバナンスのメンバーを口説くか。そういう人は今の日本では限られますから、声をかけてから、なってもらうまで普通2~3年待ちです。捕まえたら10年ぐらいは離さないことです。そんな気がします。経営者育成というのはすごい長丁場なので。
 私は、ぽんといきなり社長で他から連れてくるのはあまり賛成しません。これはなかなか機能しないのです。歴史のある組織で社内掌握するのは時間がかかるのです。掌握して求心力を得るのに3年、4年かかるのです。その時間が物すごくもったいないし、その間に変に改革を急ぐと、逆に人心掌握に失敗して失脚するケースがすごく多いので、できれば社内昇格。社内から社内的宇宙人、社内のことをよく知っているちょっと変わった人。川村さんなどもそうだし、坂根さんなども相当変な人ですから。ああいう人をちゃんとプールしておいて選ぶことを考えたほうが、うまくいく確率が高いと思っています。
 再生局面は外部の人が結構機能するのです。会社が死んでいるので。再生局面だから、ゴーンも一時期機能したし、稲盛さんなども機能するのだけれども、自分でやっていて分かるのだけれども、再生局面でないときにぽーんと外から行って機能する蓋然性は極めて低いです。僕が見ている範囲ではアメリカも多分同じです。そんな気がしています。
 制度の問題は頑張ります。グローバルな世界は、多分三菱総研もそうだし、うちもそうなのだけれども、今、若い人の流動性がすごいですね。
○武田委員 すごいです。
○冨山委員 すごい高いし、どんどんみんな辞めてしまう。辞めたり、戻ってきたりするのだけれども、優秀な人の流動性がすごいし、ほとんど共働きです。女の人も当然働いているし、お子さんもチャンスがあればお産みになられる。今、それが原則です。多くの制度がまだ専業主婦モデルで、自民党の頭の古い人たちがまだそれにこだわるものですから。でも、今の政権はそういう人たちがちょっと脇へ寄っているので、今がチャンスかと思うので、私も頑張ります。
 以上です。
○武田委員 どうもありがとうございました。
○守島部会長 ありがとうございます。
 続いて、春川委員、お願いいたします。
○春川委員 ありがとうございます。
 本日は、酒井さん、冨山さん、いろいろ御説明ありがとうございました。また、皆さんの問答もお聞きし、改めて勉強させていただいております。
 酒井さんが御説明いただいた最後のスライド、海外のリスキリングに関する公的支援の事例について、労働現場あるいは従業員の立場でお考えをお聞かせ願いたいと思います。リスキリングに関しては、経営者層の部分が重要だというお話がありましたが、当然それは従業員にとって同じだと捉えております。DXを進めていく中で一番の課題は人材が不足しているということだと言われていて、それはスキルを持った人が足りないということではなかろうとは思うのですが、そもそも今、現場に少数精鋭の労働者がいるとすれば、その現職の従業員、労働者のリスキリングをしていく必然性も当然あろうと思っております。
 今回は海外の公的支援の部分の御紹介がありましたが、現職の従業員に対する支援に関して、海外の事例を含めて御紹介いただけませんでしょうか。
○酒井氏 ありがとうございます。
 最後のスライドは海外の事例ということで、国、支援者側の情報提供というところに重きを置いた内容になっていますが、中小企業の従業員のリスキリングが重要であるということは御指摘のとおりであります。経営者だけやっていても当然駄目で、社内の従業員にIT人材が足りないということももちろんあります。日本全体として見ればITベンダー側にはいるのだけれども、ユーザー側のほうにいない。だから、ITベンダーと会話ができない。あるいは丸投げにしていて、自分たちの現場部門に活用できるかという観点で調整できる橋渡し人材がいないというところです。
 それから、それ以外の現場部門、販売、営業担当の方であるとか、ものを実際つくっておられる方々も含めて、全体を巻き込んでITリテラシーを引き上げていかないといけないというのが、DXの、特に中小企業の課題だと認識しています。
 その上で、従業員の方のリスキリングを支援していくということで、これは会社として当然やっていかなければいけないので、個々の人がまさに自分でやるということももちろん大事ですけれども、それだけだと限界があるので、企業としてそういった従業員の学びというものを支援していかなければいけないということです。
 これに関しては、その前のスライドで中小企業の先行事例を紹介させていただいていますが、ここからもヒントが得られるのではないかと思うのです。個々の企業の事例の説明は時間の関係で割愛させていただきましたが、DXを推進する人材を企業として経営者が守って支援していくということも、先ほどのDXの先行事例の中に成功した企業の実例として挙げられています。あるいは個々の企業の従業者の方のレベルに応じたリスキリングのプログラムの提供ということで、段階がいろいろあると思います。ある程度学んだ方から、あるいは全く分からない方まで、それぞれのレベルに応じて、初級編としてはまずセミナーから入って、それから個々のプロジェクトの参加型、ワークショップ、訓練プログラム、あるいは共同プロジェクトといった形で、個々の企業の従業者の方々のレベルに応じてそのプログラムを提供していくといったことも海外では行われており、先ほど紹介したドイツのコンピテンスセンターは、地域ごとに企業のレベルに合わせてプログラムを提供していくということでご紹介しました。
 そこでターゲットとしているのは経営者だけではなくて、従業員の方も含めたリスキリングということでありまして、個々のレベルに応じたプログラムを提供するといったことが、例えばドイツのコンピテンスセンターでは行われているということであります。具体的な中小企業の事例、どうやって経営者目線、企業として従業者のリスキリングを支援していくかということに関しましては、先ほど御紹介した16ページのスライドの事例。これはもともとリクルートワークス研究所様の調査からご紹介させて頂いているのですけれども、ストーリー形式で、様々な業種の企業の経営者の方が語った成功体験が紹介されていますので、これもぜひ御覧いただければいいのではないかと思っております。
 ポイントは、経営者の方が企業の従業員の方に、まずはデジタルを使いこなすところを学んでもらい、それから企画推進、その後に仕事転換といった形で、段階に応じて成功体験を少しずつ積ませていく。それを経営者が受忍する、失敗を許容する。人事制度というところも、先ほどクリステンセン元教授の3P、PhilosophyとProcessとPeople、全社的なDXの成功のポイントということで御紹介させていただきましたが、やはりプロセスの制度のところも大事になってくる。例えば人事制度については、失敗を許容する仕組みにするということです。イノベーションは失敗して何ぼの世界だと言われています。ですので、失敗を許容するという人事評価の仕組みがないと、そもそも従業員の方がDXをやろうと思わないでしょうし、そうした制度面の整備も重要になってくということです。
 話が長くなって恐縮ですが、そういった成功体験の共有というところからやっていただくといいのではないかと思います。
○冨山委員 ちょっと補足していいですか。
○守島部会長 どうぞ。
○冨山委員 実際中小企業でやっている立場なので補足すると、DXというのかなり曖昧な概念、変化していってしまう概念なので、そこはかなり個別に丁寧にアプローチしないとまずいところがある。ただ、状況で言ってしまうと、実は今、すごくいい方向に世の中が動いていて、我々がいろんなややこしいことをやっていますけれども、これはほとんどノンプログラミングです。クラウドベースのありもののサービスを使うというやり方になっていて、例えばAIを使うにしても、我々はPythonでプログラミングなんて1行もやっていません。基本的にクラウドベースの、かなりUXが発達したノンプログラミングな仕組みを、皆さんがアプリを使うように使っているという方向にどんどんシフトしていっています。
 考えなければいけないのは、DXそれ自体が商品として付加価値を生むという世界になってしまうと急にハードルが上がってしまうのですが、多くはそれを経営の手段として使うという場合が多いのと、この後UXというのはどんどん進化していきますから、特にデジタルネイティブの世代にとってみれば、それを使いこなすこと自体は大したことではないのです。そういった意味で言えば、若い人をどんどん上手に使いながら。多分ここにいる人たちの多くは、デジタル商品を買うと、まだ取扱説明書を読む世代だと思うのです。僕なんか読んでしまうのですけれども、若い子は読まないです。彼らからすると、本当に使いこなすハードルが下がるので、その辺も頭に入れながらやっていくということが成功確率を上げることになるし、無駄なお金を使わずに済むと思うので、そこはとにかく固定的に今さらPythonの勉強だと思わないほうがいいように思います。すみません。余計なことを申し上げました。
○春川委員 ありがとうございました。
○守島部会長 ありがとうございました。
 続いて、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 お二人とも興味深いお話をくださり、どうもありがとうございました。大変勉強させていただきました。
 私からは酒井様に1点だけお伺いさせていただきたいと思います。本日の資料の5ページはアメリカの例ですけれども、介護従事者は労働スキルが低く、相対的に賃金も低い職業として分類されています。しかし、介護のようなケアに関わる仕事というのは、我が国の今後の少子高齢化を考えれば、医療職と併せて需要が高く、社会経済を維持するために人材の確保が求められている仕事だと思います。
 一方で、資料の18ページでは介護事業のDX化を進める企業の事例も挙げられていますが、そういったケア労働というのはIT化にも限度があるように思います。例えば介護記録のデータの管理の仕方など、一部の業務はICTを活用することができても、ケア自体は人の手でやらざるを得ないということで、労働の本質がなじみにくい。そういう限界があるのではないかなと思います。
 こういった職業に就く人々が相対的に低賃金化、低所得化していくというのを放置してよいわけではないのだろうと私個人としては思うのです。貧困化を防ぐ取組というのも重要になるのではないかと思うのですが、何かお考えがあるでしょうか。結局、教育訓練の充実であるとか専門性を高めるなど、やはり人的な投資が必要になっていくのかなということがお伺いしたいです。本日の議論のメインストリームから外れる質問となりましたら申し訳ないのですが、御教示いただければ幸いです。
○酒井氏 ありがとうございます。アメリカに限らず、日本においても同様に介護はエッセンシャルワーカーとも呼ばれる重要な産業であり、しかもこれから需要が間違いなく伸びるというところだと思っています。そこの部分の人手が足りないので、賃金の引き上げ等の十分な処遇の確保が必要だということです。恐らく岸田政権においてもそういった問題意識でエッセンシャルワーカーの賃金、処遇引上げということを行う方針だと理解しております。
 一方で、介護とか医療というのは、公的価格制度、診療報酬あるいは介護報酬といった制度的な部分もあって、柔軟に賃金が変わらない面が強いのかなと理解していまして、そうすると、介護の方に関しても、エッセンシャルワーカーで重要だ、十分に人手を確保しなければいけないという問題意識は全くそのとおりだと思うのですが、ただ、今の岸田政権の処遇の引上げ幅というところを見ても、結局、介護とか保育士さんというところは賃金の絶対水準が低いので、少なくとも業種平均並みぐらいにはしないと、これからやりがいだけで人手が確保できるのかというと、そこは難しいのではないかと思っています。デジタル化云々の話とはちょっと違うのかもしれませんけれども、十分な処遇の引上げ、もっと踏み込んだ賃金の引上げをしていかないと立ち行かないのではないかと思っています。
○冨山委員 一言言っていいですか。実はバスも運賃は公定賃金なので、よく似た産業なのです。我々が実際経験した事実で言ってしまうと、介護産業もすごい経営力格差があります。1つは今、指摘があった制度的な問題があって、官製市場というのは、生産性を上げるインセンティブがないのです。なので、生産性を下げてしまったほうが収入が増えてしまうようなところがある。ですから、生産性を上げるインセンティブづけという、ある種の官製市場のデザインの問題で、まだまだ変える余地があって、アメリカはああいう国なので、どうせ幾らでも働き手がいると思っていて放置しています。
 今、話があったように、これから人手不足になってしまうので、ああやって放置していると、やる人がいなくなってしまって崩壊すると思います。ですから、国として制度的な意味、インセンティブづけという意味で言うと、報酬体系を見直していくということが必要だし、それが労働者の賃金にちゃんと跳ねるような形にしなければいけないというのがあります。それで追い込んでいって、介護事業者がとにかく真剣に経営改革、DX、CXをちゃんとやるように追い込むことが大事で、その結果、当然淘汰・再編が起きるので、その淘汰・再編の背中を押していくというのが大事だと思っています。とにかく現場に行くと、びっくりするぐらい経営者の能力格差があります。
 もう一点。さはさりながら、今、年収200万~300万が1,000万にはならないです。恐らく400万、500万に行ったら御の字です。そのときに、今、日本で起きている貧困化のもう一つの問題は、人口があまりにも首都圏に集中し過ぎているために、日本の中でも圧倒的に住居費が高いところで彼らが年収200万~300万で生きていかなければいけないということです。かつ職場が遠い。これが盛岡であれば、うちのバスの運転手は大体年収400万です。ほぼ夫婦共働きです。夫婦で800万です。通勤時間15~20分です。待機児童はほぼゼロです。家はみんな持家です。そうすると、これはいきなり中産階級です。
 なので、東京一極集中という状況を多極集住型にして、こういった産業群が日本中に分散的に存在していて、働き手と高齢者の方が近くに住んでいるという状況をつくらないと、実は全体の生産性が上がらないという問題があります。これは国土計画ともリンクするのです。首都圏は過剰集積なので、首都圏でこういった産業で頑張ると、どうしたって相対的貧困家庭になってしまうのです。だから、これはトータルな問題だと思っております。
○守島部会長 ありがとうございました。
 最後に山川委員、お願いいたします。
○山川委員 私からは質問というよりも所感になってしまうのですが、私はふだんは外資系の会社の使用者側の労働事件を専門としている弁護士です。かなり特殊な立場なのです。外資系ばかり見ているし、使用者側しか見ていない。ただ、私の立場から見ても、今日、酒井さんと冨山さんのお話を聞いて全く違和感がないというか、ふだんもやもやっと思っていることをきれいに言語化していただいて、大変気持ちよく聞いていました。
 2点ほど私の経験から申し上げたいなと思ったのですが、1つは冨山さんがおっしゃっていたことで、この間も言ったのですけれども、日本の解雇規制は実際は緩いというのは、本当にそのとおりだと思うのですが、でも、実際弊害は起きていて、私が見ている外資系の会社で言うと、日本の解雇規制が厳しいから、例えばアジアのヘッドみたいな人は危険だから日本に置かないと。シンガポールで採ろうと。そうすると、それは日本の若い人にとってはすごくディスアドバンテージです。
 逆に言うと、中小企業の方々は保護からこぼれ落ちてしまっていて全然保護がないから、そこは変える必要がある。私たちはそういうことを20年ぐらい裁判所で主張しているのだけれども、全く通らない。裁判官は超終身雇用なので。それは期待できないから、ここは法律を変えてもらうしかないと意を強くしました。
 古賀さんのほうから御質問があった雇用の流動性とウェルビーイングの点ですが、私が見ている雇用の流動性が高い、いわゆるカット・スロートと言われているような外資系の金融機関は、ウェルビーイングみたいなことに対する取組がすごいちゃんとしているのです。なぜかというと、それは人材の奪い合いだから。例えば有給休暇一つとっても、みんな取っているのはもちろんですが、ここ数年のトレンドはアンリミテッド有給なのです。有給の上限をつけない。いろんな趣味とかリスキリング、仕事を両立させます。だから、有給には上限を設けませんとか、アル中になってしまったらここに相談してくださいという制度が会社にある。
 あと、コンプライアンスに非常に厳しい。コンプライアンスに厳しいというのはどういうことかというと、例えばセクハラ一つとっても、セクハラに対する処罰がすごく厳しいということは、結局、セクハラのない、ダイバースな人材が気持ちよく過ごせる職場をつくりましょうということなので、必ずしも雇用の流動化をしたからといって人材の切り捨てになってしまったり、ウェルビーイングが重視されないということではなくて、逆に釣った魚に餌を上げないということにはならないところもあって、私も別に何でも欧米礼賛ではないのだけれども、事雇用の分野、今後の社会のことを考えると、ああいう外資系の雇用の流動性の高い会社から学ぶ、もしくは少なくとも参考にすべき点はたくさんあるなと思いました。
 以上、感想になります。
○冨山委員 一言よろしいでしょうか。解雇規制に関して私が思うのは、今の日本の解雇規制は結局、誰も守っていないような感じがしていて、流動性があるのだという前提で働く人たちを守りたいのであれば、今の民法上の建前は解雇自由になっていて、解雇権濫用の法理でそれを制約するという法体系なのです。したがって、あの法体系を取っている限りは、法的救済というのは結局、復職だけなのです。という体系になっています。
 それは結局、流動性を悪としている考え方で、流動性がある前提で、どうすれば働いている人たちが充実して愉快な人生を送れるかということを考えるべきで、なので、私は前々から選択的金銭救済制度をつくれとずっと言っているのです。これについては随分反対が多いのです。あと、法務省があまり必要性を感じてくれないのです。
 何でこんなことを言っているかといったら、結局、今の仕組みだと、不当解雇された場合に、本当に頭にきた人が闘おうと思ったら、アルバイトをしながら正社員復帰で闘うしかないわけです。それは極めて不幸です。だって、不当解雇で紛争になるような会社にずっといる必然性もなければ、お互い不幸せですから。であれば、しっかりとお金をもらって次の選択をしていくほうが、本当の意味で働く人の人生が救われる。ヨーロッパなどは救済金というのは厳しいです。ああいう厳しいペナルティーがあれば、会社だって不当な解雇をしないし、そういう規制が中小企業にも働くわけです。
 濫用という概念は、法的には物すごく構成要件が難しい概念なので、ああいう不透明な仕組みからもっとクリアカットに、どういう場合だったら働く人が勝てないのか、あるいは勝つときに、私が選択的と言っているのは、戻りたい人は戻ればいいし、お金をもらいたい人はお金をもらえればいいわけで、そういった訴訟形態に変えろと10年前から言っているのですが、この問題はいまだに議論しています。
 もろもろ言いますけれども、とにかく今、すごい勢いで世の中が変化しているので、この国は制度一つ変えるのも時間がかかり過ぎです。規制改革もいいのだけれども、時間がかかり過ぎてしまうと、変わった頃には意味がなくなってしまうのです。もうゲームが終わってしまっているので。
 今、人材市場のもろもろの規制というのは、過去のことは取りあえず一旦リセットして、未来に向けてどういう人たちのどういう人生をより豊かにしていこうかと。先ほど古賀さんが言ったウェルビーイングを最大化するためにどういう制度がいいかというのを、ある意味でゼロベースで考える時期に来ているような気がしているのです。
 ありがとうございました。
○古賀委員 古賀でございます。
 非常に具体的な論議をしていますので、時間が過ぎていますが、私も一言よろしゅうございますか。
○守島部会長 どうぞ。
○古賀委員 今の議論はたくさんの要素がない混ぜになっていると思っていまして、冨山さんは、解雇された人が不幸になるから、そこを何とか救済しなければいけないという話を一方でされているのですけれども、労働契約法16条の社会通念上相当として是認し得ない解雇は無効ということを変える必要があるかどうかということです。
○冨山委員 それは変えなくていいと思います。
○古賀委員 そうでしょう。
○冨山委員 ええ。そこはその解釈です。
○古賀委員 整理解雇法理でも「4要件」と言っていたものが、2000年代に入ってからは「4要素」に変化をしてきているわけです。さらに解雇規制は、弱い立場の人をどのように保護するかを一番の基本に置かなければならないことであって、解雇規制と高いスキルを持つ人が労働移動することとは本来無関係です。
 むしろ私は、魅力ある、競争力のある産業やビジネスモデルを創出して、流動化が起きるような状況をつくるのがまず先決ではないかと考えています。一方では、急激な人口減少で生産年齢人口は大きく減っているわけです。そのようなことも含めて外部労働市場の整備、横断的な能力評価の基盤や社会保障、あるいは社会的セーフティーネット、能力開発システムなどが整備された上で流動化の議論があるべきだと思います。
 以上です。
○守島部会長 ありがとうございました。
 すばらしい議論が続いたと思いますけれども、これをやっていると、結局、全てを変えなければいけないみたいな話になるので、本当にどこからやっていくのかというのは、この後でまた事務局に考えていただきたいと思います。
 今日は時間も過ぎておりますので、これで議論を終わらせていただきたいと思います。
 最後に、事務局から次回の日程についてお話をお願いいたします。
○松本政策統括官付参事官 事務局でございます。
 次回の日程は、また調整の上、追って御連絡申し上げたいと存じます。ありがとうございました。
○守島部会長 それでは、以上で本日の「労働政策基本部会」は終了といたしたいと思います。皆さん方、非常に活発な御議論をありがとうございました。酒井さん、今日はお忙しい中、ありがとうございました。