令和4年度第1回雇用政策研究会 議事録

日時

令和4年4月6日(水)14:00~16:00

場所

オンライン会議会場
厚生労働省 職業安定局第1会議室
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館12階公園側)

傍聴会場
厚生労働省 職業安定局第2会議室
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館12階公園側)

議事

議事内容
2022-4-6 雇用政策研究会(令和4年度第1回)
 
○雇用政策課長補佐 それでは、定刻になりましたので、始めさせていただきます。
ただいまより、令和4年度第1回「雇用政策研究会」を開催いたします。
委員の皆様におかれましては、御多忙の中、お集まりいただきありがとうございます。
研究会の委員につきましては、資料1の名簿のとおり、14名の先生方にお願いをしております。研究会の座長は、樋口委員にお願いをしております。
本日は、玄田委員、荒木委員、黒澤委員が御欠席されています。
それでは、雇用政策研究会の開催に当たって、まずは田中職業安定局長から挨拶を申し上げます。よろしくお願いいたします。
○職業安定局長 職業安定局長の田中でございます。
委員の先生方におかれましては、大変御多忙のところ、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。
また、樋口先生におかれましては、引き続き、当研究会の座長をお引き受けいただきたいと考えております。よろしくお願いいたします。
雇用政策研究会では、前回、コロナ禍の雇用への影響について御議論をいただきまして、令和2年12月に、「コロナ禍における労働市場のセーフティーネット機能の強化とデジタル技術を活用した雇用政策・働き方の推進」と題した報告書を取りまとめていただきました。
その際、引き続き、コロナ禍が続いていることから、その後の状況を踏まえて、時期を見て再度議論していただこうと考えておりました。現時点で前回の報告書から1年半弱が経過しましたが、コロナ禍はいまだ続いております。一方で、徐々に社会経済活動の回復に伴って人手不足感が高まるなど、雇用情勢の局面変化の兆しも見られております。
こういった状況を踏まえまして、前回取りまとめていただきました報告書を基に、その後の雇用情勢等の変化を踏まえ、取組を加速させるべき点や、取組を推進するに当たってより一層注意を要する点などを御議論いただくとともに、その議論を踏まえつつ、コロナ禍の後に予想される人手不足を念頭に置いた労働力供給の確保等の観点、円滑な労働移動の観点から、アフターコロナを見据えた雇用政策の方向性についても御議論をいただきたいと考えております。
スケジュールとしましては、今後の政策に向けた検討のため、本年6月頃に一度御議論を整理させていただきたいと考えております。本研究会では、労働力需給推計の改訂をいただいておりますが、次期改訂は2024年の実施を予定しており、今般の御議論も次期改訂の際の研究会の検討に向けた課題の整理という面でも御議論をお願いしたいと思っております。ぜひとも活発な御議論をお願いできればと存じております。何とぞよろしくお願いいたします。
○雇用政策課長補佐 田中局長は公務の都合により、この後、途中退席させていただきます。
続きまして、樋口座長から御挨拶をいただければと存じます。
○樋口座長 皆様、こんにちは。樋口です。よろしくお願いいたします。
今、田中局長からお話がございましたように、前回の雇用政策研究会では、コロナ禍によりその課題に変化が起こっているのか、あるいは新たな課題が生じているのかなどを議論いただいたところでございます。また、足元においてはコロナ禍が続いておりますが、そういった状況の中でも、雇用情勢や働き方に与える影響について、引き続き可能な範囲で検証していくことが重要であると考えております。
前回の雇用政策研究会のまとめのところで、日本の労働市場は一体どういうことを目指していくのかということを皆様に御議論いただきました。その結果としまして、一つはやはり生産性の向上というもの、これは個別企業における生産性の向上だけではなく、日本経済全体における産業構造の転換の中における生産性の向上ということがあったかと思います。
もう一つは、働き手のウェルビーイングをいかにして高めていくのかということで、このウェルビーイングについてもそれぞれ要因が幾つかあるかと思います。働き方の柔軟性であるとか多様化ということもあるでしょうし、さらには、今度は賃金の問題という雇用条件の問題もあるかと思います。政府におきましては、成長と分配の好循環をコンセプトに、様々な雇用政策の検討が活発に行われているところでありますが、我々の研究会において、こういった生産性の向上とウェルビーイングの向上、これは言うならば成長と分配の話でありまして、こういうところについて、いち早く御議論をいただければと思っております。
ただ、雇用政策研究会でございますので、雇用政策の範囲というものをどう捉えたらいいのかということについては、いろいろな議論があるのではないかと私も思っております。
30年前に元労働省の次官の方が書かれた書物において、雇用政策、労働政策とは何か、どういうふうに定義しているのかということを見ましたら、旧労働省の行っている政策が労働政策なのだと書いてありましたが、今、その守備範囲の雇用に関する政策というのは非常に広がりを見せているのではないかと思います。必ずしも厚労省の守備範囲にとどまることなく、前回もそれ以前もそうでしたが、例えば、社会保障の問題、税制の問題についても取り上げていただいたと思います。今回も、幅広の御議論をしていただければと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
同時に、抽象的な構造的な課題についても御意見をいただければということで、実はこの部屋にはマスコミの方、あるいはそれ以外の関係者の方はいませんが、別のところで聞いていらっしゃいますので、私も発言には気をつけようと思いますが、公開で行われていることも御了解いただいた上で発言をいただければと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
○雇用政策課長補佐 ありがとうございました。
それでは、報道関係者の方は、ここで御退室をお願いいたします。
議事に入る前に、本日はZoomによるオンライン会議ということで、改めて簡単に操作方法について御説明をさせていただきます。
現在、皆様の画面には、我々事務局の映像及び各委員の皆様が映っているかと思いますが、まずは、画面左下のマイクのアイコンがオフになっていることを御確認ください。
本日、研究会の進行中は、事務局のほうで委員の皆様のマイクをオフとさせていただきますが、御発言をされる際には、画面下の「参加者」のボタンをクリックしていただき、その後に表示されるポップアップ画面の右下に表示されます「手を挙げる」のボタンをクリックしていただければと思います。その後、樋口座長の許可があった後に、御自身でマイクをオンにしていただいてから御発言をいただきますよう、よろしくお願いいたします。
なお、会議の進行中、通信トラブルで接続が途切れてしまった場合や音声が聞こえなくなった場合など、何かトラブルがございましたら、事前にメールでお送りしております電話番号かチャット機能で御連絡いただきますようお願いいたします。
オンライン会議に係る説明については以上となります。
続きまして、議事に入らせていただきます。
今後の議事進行については、樋口座長にお願いいたします。
○樋口座長 それでは、事務局のほうから資料2の開催要領及び資料3の議事の公開について説明をお願いいたします。
○雇用政策課長補佐 ありがとうございます。
私のほうから簡単に御説明をさせていただきます。
まず、資料2につきまして御説明をさせていただきます。資料2は雇用政策研究会開催要領でございます。
「1.目的」でございます。効果的な雇用政策の実施に資するよう、現状の分析を行うとともに、雇用政策の在り方を検討することとしております。
「3.構成」でございます。厚生労働省職業安定局長が学識経験者の参集を求めて開催するものになっておりまして、今回は14名の方に御参集いただいております。
「5.その他」でございます。研究会の庶務は、厚生労働省職業安定局雇用政策課が行います。
続きまして、資料3に移らせていただきます。
議事の公開についてでございます。研究会は原則公開とする。ただし、記載がございます①~④に該当する場合には、座長が非公開が妥当であると判断した場合に非公開とすることができます。
私からの説明は以上でございます。
○樋口座長 ただいまの説明につきまして、御質問、御意見がございましたら、「手を挙げる」ボタンをクリックしていただきまして、指名した後、お名前を名乗ってから御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。よろしいですか。
ないようでしたら、資料のとおりの取扱いとしたいと思います。
続きまして、今回の研究会で議論を行う論点や今後の進め方について、資料に基づきまして、事務局から説明をお願いしたいと思います。
○雇用政策課長 雇用政策課長でございます。
資料4について私から御説明いたしました後に、資料5について課長補佐から御説明いたします。
まず、資料4でございますけれども、「今般の雇用政策研究会における議論等について」ということで、上段に開催趣旨を記載しております。先ほどお話しいただきましたとおり、2020年12月に報告書を取りまとめておりますけれども、その後、コロナ禍が続いておりまして、今般の本研究会では、前回の報告書で取りまとめたコロナにより顕在化した課題について、引き続きどのような影響が見られたのかについて御議論いただくとともに、アフターコロナに向けた政策対応を見据えた構造的な課題について御議論いただければということでございます。
なお、本研究会で労働力需給推計の改訂を行っておりますが、次期改訂については2024年を予定しておりますので、次期改訂に向けた研究会での検討につなげる議論と位置づけております。
下の議論すべき課題でございますけれども、左側が研究会のほうで従来、御議論いただいておりました、コロナ前からの構造的な課題を整理しております。その右側にコロナにより顕在化した課題ということで、前回の報告書で整理いただいた課題を並べております。この課題について、どのような変化が見られたかということでございます。足元の雇用・失業情勢の分析を踏まえて、コロナがこれらの課題にどのような影響を与えたのか、アフターコロナを見据えた労働移動や労働市場の基盤整備などに関して、具体的な方向性について検討する必要があるということでございます。
2ページ目でございますけれども、まずはコロナ前からの構造的課題とコロナ禍での構造的課題ということで、左側がコロナ前からの構造的課題でございます。これは従来の研究会で整理していただいたもので、右側がコロナにより加速・顕在化した構造的課題ということで、上のほうに書きましたのは、コロナ禍で顕在化した課題ということで、前回の報告書で記載いただいたものでございます。
その下に、足元での状況でございます。①が雇用の回復の遅れということで、対人サービス業などでコロナの影響の長期化がありますけれども、失業期間の長期化も見られている。非正規雇用労働者では回復が遅れております。感染症への懸念から、女性や高齢者の非労働力化が継続する可能性がある。若年労働者も影響が出ておりますけれども、学生アルバイトに影響があったということでございます。
また、一部産業を除きまして、人手不足感が再び向上しております。一方で、人手不足産業への労働移動は進んでおりませんので、ミスマッチのさらなる拡大が見られる。また、正規雇用労働者につきましては、今回のコロナ禍では影響はそれほど大きくなく、雇用維持が続いている状況にあるということでございます。
右側の②デジタル化の影響でございまして、テレワークの実施率については、一時期より低下いたしましたけれども、コロナ前に比較すると継続している企業が増えているという状況でございます。また、デジタル技術を利用して業務を実施する働き方が一般化した企業もある。デジタル技術と親和性の高い若者などで、デジタル技術を利用した働き方を志向する動きがあるということでございます。
③地域の移動の動きということで、従来、東京への人口集中移動があったわけですけれども、それに変化が見られていることを記載しております。
3ページ目でございますけれども、そういった変化の中でということで、それを踏まえて今回は足元から少し先までを見て2つの論点を整理しております。
1点目が、ポストコロナに向けた労働力供給の確保とウェルビーイングの実現ということでございます。コロナ前は女性の非正規雇用労働者や高齢者の正規雇用労働者の増加が見られておりましたし、学生は飲食業を中心にアルバイトで増加が見られておりました。コロナ禍でこれらの労働者に影響が見られるということでございます。
2つ目のポツですけれども、コロナ禍では休業やシフト減など通じて、労働時間の縮減や賃金の低下などの動きがある。一方で、デジタル化も進展しておりますので、そういった意味では働く時間や場所の限定性が弱まる働き方が広がる兆しもあります。また、簡単なタスクは資本に代替される、職務内容が変化するといったものも見られるということでございます。そういったいろいろな変化がある中で、ポストコロナでは人手不足が懸念されるという中で、働き方の変化への対応や賃金等の処遇改善を進めることが重要と整理しております。
今後、人口減少が進む中で、多様な就労ニーズを有する労働者が増加することが想定されますが、ポストコロナに向けて、女性や高齢者が一層活躍するために何が課題であるのか、どういった方向性が考えられるのか。また、労働力供給の確保とともに、ウェルビーイングを実現していくために人材育成や処遇にどのような課題があり、どのような方向性が考えられるのかということでございます。
2点目が、多様な人材が活躍する機会を得るための円滑な労働移動の実現の論点でございます。1つ目のポツですけれども、前回の報告書で示されておりますとおり、変化・危機への対応力の向上というのが求められている中で、2つ目のポツですけれども、正規雇用労働者については長期雇用を前提に企業主導による人材育成が図られてきたわけですが、その人材育成にも変化が生じつつあり、労働者にも自ら付加価値をつけて自律的なキャリア形成を進めていく方向だということでございます。
3点目で、近年では多様な就労ニーズを有する労働者が増加も見られるということで、労働者の希望する労働時間、賃金やその動向なども踏まえつつ、企業内や外部労働市場でのマッチングを通じて、個々の労働者が能力を発揮できる機会を確保することが重要だということでございます。
下のポツですけれども、マッチング機能の強化のためにはどのような労働市場の基盤整備とか、職業安定機関や民間人材ビジネスの取組が求められるのか、また、こうした取組をサポートするために、どのような基礎的な情報が重要なのか、どのような政策的なエビデンスが求められるのかと論点を整理させていただいております。
続きまして、資料5について課長補佐から御説明いたします。
○雇用政策課長補佐 ありがとうございます。
続きまして、資料5の参考資料集につきまして、私のほうから御説明をさせていただきたいと思います。
2ページ目を御覧ください。
今回の参考資料集につきましては、5つのパートに分けさせていただいております。
まず、1つ目のパートでございますが、「コロナ禍での雇用情勢」というところで、有効求人倍率や完全失業率といった基本的な雇用に関わる指標についてお示しをさせていただいております。
2つ目でございますが、「コロナ禍での働き方や処遇の変化について」というところで、テレワークや副業・兼業、賃金も含めた処遇の変化についてデータをまとめさせていただいております。
3つ目でございますが、「近年の労働移動の動向」についてというところで、こちらはアジェンダの2つ目に関係するものでございますが、労働移動に関するデータを整理させていただいております。
4つ目と5つ目につきましては、政策に関する資料になってございます。
なお、データにつきましては、基本的には2022年1月までのデータをまとめさせていただいております。
また、資料につきましては、大変数が多くなっておりますので、説明の際には抜粋したスライドを画面に投影させていただきますので、御説明をさせていただく際には画面を御覧いただければと思います。
それでは、説明に移らせていただきます。
3ページの1つ目のパートのところでございますが、コロナ禍での雇用情勢について説明をさせていただきます。
4ページ目には、有効求人倍率と完全失業率について、その推移を表しております。赤い線は有効求人倍率でございますが、コロナ禍におきまして低下しております。その後は改善傾向にありまして、2022年1月現在におきまして、有効求人倍率は1.20倍となっております。
完全失業率でございます。緑色の線を御覧ください。コロナ禍におきまして、完全失業率が上昇し、その後、改善傾向となってございます。2022年1月におきまして、2.8%まで改善をしているという状況でございます。
5ページは、有効求人数、有効求職者数の動向についてお示しをしております。赤色の線を御覧ください。有効求人数につきまして、コロナ禍で落ち込んだ後、その後、改善していることが分かるかと思います。一方の青色の有効求職者数のところでございますけれども、高止まりが見えるというところで、ここが懸念点となってございます。
9ページは、雇用形態別・性別で見た雇用者数の動向をお示ししております。左側のグラフは、男性の雇用者数の動向をお示ししております。ここで注目するポイントといたしましては、赤色の線でございますけれども、男性の非正規雇用がコロナ禍に入り、一定の減少が見られるというところが一つ特徴でございます。
右側のグラフは女性の雇用者数の動向をお示ししたものでございます。赤い線が非正規雇用労働者を表してございますが、コロナ禍になりまして、大きく非正規雇用労働者が減少しているというところと、足元でもまだ改善が見られていないという特徴がございます。緑色の線は女性の正規雇用労働者をお示ししておりますけれども、コロナ禍であっても正規雇用労働者は伸びているという現状になってございます。
11ページでは、女性の雇用労働者に注目をしてデータをまとめさせていただきました。左側のグラフでは、女性の正規雇用労働者の前々年同月比の推移をお示しさせていただいております。少し細かくなりますけれども、コロナ禍であっても、正規雇用労働者の前々年同月比は増加になっていることが分かります。注目するべきポイントとしましては、赤いドットのところが医療,福祉を示しておりますけれども、医療,福祉を中心に増加が見られているところでございます。
右側のグラフは、女性の非正規雇用労働者の前々年同月比の推移を示しております。また少し細かくて恐縮ですけれども、薄ピンクのドットのところが宿泊業,飲食サービス業を示しております。これを見てみますと、やはりこうした産業において減少が見られているというところで、足元においてもまだまだ回復が見られていないというところがここから分かるかと思います。
15ページを御覧ください。今回のデータ集の中では、若年労働者にも注目をさせていただきました。右側のグラフは、若年労働者の前々年同月比の推移をお示ししたものでございますけれども、コロナ禍において若年労働者が減少していることがこのグラフから分かります。そして、注目すべきポイントとしましては、赤く塗り潰したところでございますが、進学のかたわらに仕事をしているといった層で減少が見られているところでございます。すなわち、学生にも大きな影響があったのではないかということがこのグラフから分かります。
17ページを御覧ください。学生に影響があったということを前のスライドで確認させていただきましたが、具体的に大学生のアルバイトについてデータとしてまとめさせていただいております。左側のグラフは、アルバイトの従事者・非従事者の動向をお示ししたものです。これを見てみますと、令和2年度、赤い点線で囲ませていただいたところでございますけれども、コロナ禍にあってアルバイトの非従事者の割合が高まっているところが分かります。
一方で、右側のグラフを御覧ください。こちらは、家庭からの給付程度別のアルバイト従事者の動向を示させていただいたものございますが、赤い点線で枠囲いをさせていただいておりますけれども、これを見てみますと、足元では約30%を超える学生が、家庭からの給付のみでは修学に不自由、もしくは修学継続困難と感じながらアルバイトに従事しているというところでございますので、こういった層に、特にコロナ禍では大きな影響があったのではないのかと想定されます。
28ページでございます。これまで雇用者の動向について御説明をさせていただきましたけれども、完全失業者、非労働力人口についても、データをまとめさせていただいております。
こちらのスライドは、失業期間別の完全失業者の動向をお示しさせていただいたものです。右側のグラフを御覧ください。完全失業者の前々年同期比の推移を表したものでございます。こちらを見てみますと、青もしくは赤で塗り潰したところが男女の6か月以上の完全失業者でございますので、コロナ禍にあって長期間の完全失業者が伸びていることがこのグラフから分かります。なので、コロナ禍において、失業期間の長期化が懸念されるというところでございます。
31ページは、非労働力人口の動向につきまして、お示しさせていただいているものでございます。こちらは、非労働力人口の前々年同月比の推移をお示しさせていただいているものでございます。左側の青のところが男性、右側の赤のところが女性でございます。また、これを見ていただきますと、青もしくは赤で塗り潰したところが65歳以上を示したものでございますけれども、このグラフを見てみますと、コロナ禍、とりわけ2021年の男性のほうは65歳以上の非労働力人口が増えているというところで、このグラフから、男女ともに高齢者の非労働力化が懸念されるところでございます。
37ページでございます。これから資料集の2つ目のパートに移らせていただきます。コロナ禍での働き方や処遇面での変化について、データをまとめさせていただいたところでございます。
39ページは働き方の変化というところで、テレワークにつきましてデータをまとめさせていただいております。こちらのデータにつきましては、パーソル総合研究所様の調査を活用させていただいております。
一番左側のグラフは、2020年3月のテレワーク実施者の割合を示したものでございます。こちらを見ていただくと13.2%の実施となってございます。その後、1つ右にずれていただいて、2020年4月には、緊急事態宣言を受けてテレワークの実施者が27.9%まで上がっているところでございます。
その後の調査では、若干の実施割合の低下はございますけれども、右端のグラフでございますが、最も新しい数字でございます2021年7月の調査を見てみますと、テレワークの実施者は27.5%になってございまして、これを見てみますと、2020年4月と同水準の実施割合が続いていることが分かるかと思います。
続きまして、41ページでございます。そうしたテレワークの実施状況になってございますけれども、やはり違いが見えるところがございます。左側のグラフを御覧ください。正規と非正規の実施割合を見てみますと、正規が27.5%、非正規が17.6%となってございます。こちらのデータは、2021年7月時のデータでございますが、こうした中でもやはり正規と非正規で働き方の違いというものがあるのかなというところが見て分かります。
右側のグラフは、企業規模別のテレワークの実施状況についてお示しさせていただいたものになります。2021年7月のデータを見ていただきますと、従業員が1万人以上のところでございますと、実施の状況が大体45.5%となってございます。一方で、従業員が10人~100人未満といったところで見てみますと、15.2%の実施状況になってございまして、やはり企業規模によってテレワークの実施状況についても差が見られているところでございます。
50ページに移らせていただきます。これまで働き方の変化について見てきましたけれども、次に処遇の変化に注目をしていきます。
まずは、非正規雇用から正規雇用への移行に注目していきたいと考えております。左側のグラフは、非正規雇用から正規雇用への移行についてお示しをさせていただいたものでございます。コロナ前の2018年や2019年で見ますと、大体80万人を超える人数がいたところでございますが、コロナ禍に入り、2020年、2021年でございますけれども、その水準に低下が見られるというところでございます。
右側のグラフは、前々年同期比の推移を表したものでございますが、これを見ましても、コロナ禍に入り、男性、女性ともに非正規雇用から正規雇用への移行は減少していることが分かります。
52ページを御覧ください。これまで、雇用形態に関する処遇の変化について御説明をさせていただきましたが、次に賃金という点から見ていきたいと考えてございます。
まず、左側のグラフは現金給与総額の前年比の推移を示させていただいているものでございます。少し長期のものになります。これを見てみますと、2020年に入り、大きく減少していることが分かります。そして、2021年には若干でありますが、改善が見えているというところでございます。
右側のグラフを御覧ください。そうした中で、やはり一般・パートにおいて違いが見られているというところでございます。こちらは、実質賃金指数の推移をお示ししたものでございますが、こちらを見てみますと、2020年に入り、一般・パートともに賃金が減少しているところでございます。そして、2021年につきましては、一般のところは改善が見られている一方で、パートのところは引き続き減少が続いているところでございます。こうした中で、一般とパートでまだ違いが見えているところでございます。
56ページは、企業規模別に賃金の推移を見たものでございます。こちらのグラフは、2019年からどれだけ変化したのかというところをお示ししております。
左上の「全産業」というところを御覧いただければと思います。こちらを見てみますと、一番左側でございますが、500人以上という大きな規模のところでは、2020年に落ち込みはあったものの、2021年に改善が見られているところでございます。一方で、それよりも小さい規模のところでございますが、2021年での改善というものは大きな企業と比べて小さくなっているという状況がこのグラフから分かります。
続きまして、60ページでございますが、近年の労働移動の動向という3つ目のテーマになってございます。ここでは、労働移動に関するデータをお示しさせていただいております。
61ページに移らせていただきます。左上のところで「労働移動が求められる労働市場」というタイトルにさせていただきましたが、右側のグラフを御覧いただきますと、人手不足の状況をお示ししているところでございます。こうして見ますと、製造業はコロナ禍におきまして過剰感が出ていることが分かりますけれども、製造業・非製造業ともに、足元では人手不足が深刻になっているところでございます。また、注目すべき点としましては、製造業・非製造業でございますが、産業によって人手不足感に差が見られているところでございますので、必要に応じて円滑な労働移動が求められるのではないのかなと考えてございます。
68ページに移らせていただきます。労働移動のデータの確認という点におきまして、転職者数のデータについて御説明をさせていただきたいと考えております。左側のグラフを見てみますと、2016年以降、転職者数は300万人を超える水準で推移しておりましたけれども、コロナ禍の2020年、2021年で転職者数の減少があるというところでございます。そのため、コロナ禍では労働移動の動きが弱まっているのではないのかなというところでございます。
71ページに移らせていただきます。労働移動の産業別の動きを見たいというところで、産業別の入職者数、離職者数の動きにつきましてお示しをさせていただきます。こちらを見ていただきますと、情報通信、医療,福祉といったところでは、離職者よりも上回って入職者が多いという状況でございますけれども、一方で製造業や卸売業,小売業、サービス業といったところで、入職者を上回って離職者が多いという状況になってございます。コロナ禍では産業別の違いが出ているというところでございます。
74ページは、2021年のデータでございますが、産業間の労働移動をお示しさせていただいております。こちらを見ていただきますと、黄色で塗り潰したところが多い、つまり同一産業間での労働移動が多いということが分かります。
一方で、コロナで影響が大きかったと考えられる宿泊業,飲食サービス業について見ていただきますと、もちろん同一産業での労働移動は大きいのですが、卸売業,小売業であったり、また、医療,福祉といった産業への労働移動も一部見られているという状況でございます。
77ページは、職業間の労働移動についてお示しをさせていただいたものです。産業間の労働移動と同様な結果となっておりますが、基本的には同一職業間での移動が大きくなってございます。また、サービス職業従事者のところに注目して見てみますと、同一職業間での労働移動に加えて、専門的・技術的職業従事者への労働移動や、事務従事者や販売従事者といったところへの労働移動も一部見られているという状況でございます。
80ページでは、転職者の属性につきまして、お示しをさせていただいているところでございます。真ん中のグラフを御覧ください。赤くお示しさせていただいたところが25~34歳といった層でございますが、やはりこうした層において労働移動が多いというところでございますけれども、コロナ禍の2020年、2021年におきましては、そうした層での減少が見られるということ。
また、右のグラフでございますが、転職理由別で見てみますと、一番大きい層は、より良い条件の仕事を探すために転職をしているという層でございますが、コロナ禍の2020年、2021年では、そうした層が減少しているというところでございます。
続きまして、88ページを御覧ください。入職者の雇用形態の変化というところでございますが、産業ごとに違いは見られますものの、青や赤、つまり前職は一般労働者から現職が一般労働者、もしくは、前職がパートタイム労働者から現職がパートタイム労働者といった同一の雇用形態での労働移動が多いというところが現状でございます。一方で、一部では、パートタイム労働者から一般労働者への移動というものも見られます。
89ページは、転職に伴い、賃金の変化があったかどうかというグラフでございますが、左上の「全産業」のグラフを見ていただきますと、青いところが増加を示しておりますけれども、大体32~37%で「増加」という割合が推移しているというところでございます。一方で、一番右上のグラフでございますけれども、情報通信は2019年、2020年を見てみますと、増加をしたところは45%以上となっているという特徴がございます。
95ページでございます。こうした労働移動の状況があります中で、やはりミスマッチが気になるところでございます。こうして見ますと、例えば「専門的・技術的職業」で見ますと、有効求人が有効求職を上回っている。一方で「事務的職業」で見ますと、有効求職が有効求人を上回っているという職業間のミスマッチが存在してございます。
96ページでは、左側のグラフでミスマッチ指標についてお示しをさせていただいております。これを見てみますと、2000年代前半と比べますと、やはりミスマッチの指標の高まりが見られるところでございます。
右側のグラフでございますけれども、転職者を採用する際の課題といたしましては、黄色のところでございますが、必要な職種に応募してくる人が少ないというところが一つ課題となってございますので、やはりハローワーク等を通じた積極的な就職支援を行っていく必要があるというところでございます。
後の資料は、割愛をさせていただきます。
私からの説明は以上でございます。
○樋口座長 どうもありがとうございました。
ただいま資料4、5について説明をいただきましたが、これからは自由討議に入りたいと思います。
事前に皆様のところに事務局が伺いまして、御意見をいただいておりますが、なるべく多くの先生方が御指摘いただいたものを問題提起という形で取り上げ、それについての事実関係ということで統計資料を用意してもらいました。ただ、全部入っているわけではございませんので、問題意識も含めまして御意見をいただければと思います。どなたからでも結構ですので「手を挙げる」というボタンがございますので、それをクリックしていただいてお名前を名乗った後、発言をお願いできればと思っております。どなたでも結構です。
佐藤先生。
○佐藤委員 中央大学の佐藤です。ありがとうございます。
どなたもいないので最初ということで、人事管理が専門なので、これからの雇用政策を考えるときに、一つは、企業の雇用管理と報酬管理がどう変わっていくかということを押さえたほうがいいかなと思っています。
これまでも、企業が直面する市場関係もそうですけれども、不確実性がすごく高まってきたわけですが、これからもますます企業環境の不確実性が高まる状況だろうと思います。最近でも、コロナやウクライナの問題があります。
そうすると、企業からすると長期の雇用契約を結ぶ、いわゆる無期の社員は雇いにくくなるわけですよね。5年後、10年後は我が社がどうなるのか分からないということですので、例えば、最近、日産はもうガソリンエンジンの開発をしませんと決めていますから、大学院の修士卒の内燃機関のエンジニアを採らなくなるかと思いますけれども、例えば、トヨタはどうなるのということも、将来の見通しに関わるわけですよね。
そうしたときに、これまで見ると、企業は長期の雇用関係を結ぶような、いわゆる正社員を雇用しにくいので、その比率を減らして、その都度必要な、あるいは需要がある限りは契約更新をするのだけれども、需要がなくなったら契約更新をしないという有期契約の更新型を増やしてきましたよね。あるいは、派遣の貸しを増やしてきたりとかしてきたわけです。
もう一つ、正社員については、常に正社員は不足状態ですから、現場からすると、必要なだけ正社員を企業は雇用してくれないので、有期とか派遣が多いので、正社員の残業時間が増えるというのがこれまでの傾向だったわけですけれども、正社員を減らして有期を増やすとか派遣を増やすとか、正社員に残業してもらうという対応ができないような法的な枠組みが出てきているわけですよね。残業については上限規制が入ったわけですし、有期契約については5年までですよとなったわけです。派遣についても受入先でいうと3年となってきたので、そうすると、従来のやり方で企業環境の不確実性に雇用管理面での柔軟性を確保することはできなくなってきているのです。この中で企業はどうするかということだと思うのです。
一つは、有期契約については活用を増やすのだけれども、5年より短い2年とか3年で回していくとか、派遣についていうと派遣元が無期であれば派遣先である受入れ期間は制限がなくなるので、最近は事務系でも派遣元に無期にしてねということを言っている企業も多くなってきて、つまり、企業が市場環境の不確実性に対応するために、今後どういう雇用管理の戦略を立てていくのかということを見るのはすごく大事かなと思っています。
そういう意味では、例えば、有期の方の雇用が将来どうなっていくかということは、企業の行動がどうなるのかということを少し踏まえたほうがいいかなと思います。ですから、過去、企業がやられてきたことが、ここ5年ぐらい前からやりにくくなってきたわけです。一つは、有期契約を5年より短く使う、もう一つは、いわゆる多様な正社員という形で、勤務地限定とか職種限定みたいに増やす手はあると思いますけれども、現状でいうと、多様な正社員制度についても、この雇用保障については、厚労省でも従来の無限定型の正社員と同じような雇用保障みたいな議論もあるので、そうすると、多様な正社員制度に当てはまるような社員をたくさん活用するほうにいけなくなるかも分からないので、それを議論する必要があるかなと思います。
もう一つ、賃金のほうもそうですよね。もう少し仕事にリンクするような報酬制度に変えてきていますけれども、これがどう動いていくのかなというものを見ることも必要かなと思います。
以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
全般的に、今のお話は、私がまとめるのはちょっと難しいと思いますが、例えば、雇用形態につきましても、どうも二極化といいますか、契約期間無限定の方と、一方において有期。ただ、有期でもいろいろな方がいらっしゃって、割と高度人材でも有期というような方もいらっしゃるというようなこと。
一方、賃金のところは、事務局も示した中において、コロナ禍において、どうも転職者を見ても雇用条件を改善した、よりよい条件を求めてという人は減少していますが、中長期的に考えたときに、人手不足という状況の中でこういった点が改善していくのかどうか。要は、よりよい条件を求めて転職するという人が増える一方において、転職せざるを得ない人たちも出てくるというところで、これをどうするかという話かと思います。
大竹さん、手を挙げていらっしゃいますでしょうか。
○大竹委員 大阪大学の大竹です。どうぞよろしくお願いします。
説明ありがとうございました。私もいくつかコメントしたいと思います。
1つ目は、全体に確かにコロナの影響はあったけれども、何とか持ちこたえているというか、人手不足の方向になってきているという話だったと思うのですが、コロナ禍で、莫大な金額のコロナ対策費、雇用対策費が使われているわけですよね。雇用調整助成金にしてもそうですし、様々な企業への貸付金もあって、倒産件数は実はそれまでと比べると減っているところまで行っているわけなのですけれども、その評価をしなくてはいけないだろうなというのは一つ思います。
もう一つは、倒産件数が減るほどまでいろいろな手当をしてきたことが、貸付金の返済期限だとか、あるいは雇用調整助成金はこれからどうするか分かりませんけれども、そういうのが終わってきた段階で、今出ている雇用状況が変わっていく可能性があるのではないかというのが一つのコメントです。ですから、コロナ禍での雇用対策に使われたお金の効果がよかったのかどうか、あるいは、それが終わったときに、雇用情勢にどんな影響があるのかということが、ポストコロナでは大事な論点になるのではないかというのが1つ目です。
2つ目は、ちょっと細かい話になるのですけれども、31ページに高齢者の非労働力化が進んだままだというのがあるのですが、これはコロナの感染が続いている中で働きに行きたくないという供給側の要因なのか、高齢者に対する需要が減ったということなのか。これもポストコロナで、どちらかが分かってくるかなとは思いました。
3つ目が、少なくとも一時的には新卒の内定状況とかが悪くなっていたので、それが長期の影響をもたらすかどうかということが検討課題だろうと思います。
最後の点ですけれども、焦点がポストコロナとなっているのですけれども、もっと直近の足元でいうと、原材料価格の上昇とか、あるいは円安が進んでいる、国際経済情勢が急激に変わってきているということは、今後、影響が大きく出てくるだろうと思います。すごく短期的に変化したので、コロナの次の問題が大きく起こってきているということをどう考えていくかというのも論点になるかなと思います。
以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
1点は、財政問題に関わってくる話ですが、雇調金、あるいはほかに安定資金もありますが、失業者は抑制された、あるいは倒産件数は抑制された。ただ、それによって逆に失ったものはないのかということ、あるいは終わった後の労働市場がどうなるかということについて、目配りしておくべきだろうというお話だったと思います。
それと関連すると、足元のインフレ問題をどう考えていったらいいか。特に今、賃金の引上げがいろいろなところで議論されている中における問題ということもあるかと思います。
あと、高齢者の話が出ました。特に、65歳以上の非労働力化がどうも進んだということで、まだ人手不足と言いながらも、そこのところについてはなかなか労働力化していないということで、あえて付け加えれば、その非労働力化というところにおいては、若者、特に学生アルバイトが今回仕事を失ったという面があるわけですが、これもまた今のところはまだ元へ戻っていないということで、この問題をどう考えるのか。一方、就職というところで考えると、中長期的な課題というのに取り上げるべきことかどうかということだったと思います。
続きまして、清家先生、いかがでしょうか。
○清家委員 ありがとうございます。
樋口座長が冒頭の御挨拶の中で、雇用政策というのは昔の労働省の範囲だけの政策ではなく、他の分野の政策とも関連するようになったと仰いましたけれども、その点は本当に大切だと私も思っておりまして、特に雇用政策と社会保障政策では、私も年金と高齢者の労働供給の分析をやってきたのですが、さらに大切になってきていると思います。
その点で1つコメントをさせていただくと、今、御承知のとおり、政府は勤労者皆保険ということを大きな政策課題に掲げていまして、これはとても大切なことだと思います。実際御承知のとおり、医療保険、年金保険なども少しずつ適用範囲を拡大しているのですが、非正規雇用者については、例えば、週20時間の労働時間だとか、たしか月8万8000円の月収とかいった要件は変わらないままで、これから段階的にだと思いますけれども、一つ変えるのは雇用期間ですね。就業期間が今まで1年以上とされていたのを、2か月を超えるといったふうに短くしたというのはありますが、まだそのぐらいです。
それから、企業規模については、非正規の場合、社会保険への加入要件として、これまではたしか501人以上という要件だったのを、段階的に100人を超える、50人を超えると拡大しているのですけれども、それでもまだ規模要件は残るわけです。
これは、今まで研究のほうからも明らかなように、要するに、労働時間だとか賃金の要件を課していること自体が、雇い主に対して短い労働時間とか安い賃金で雇うと社会保険料の負担をしなくて済むのでお得ですよと、社会保障制度がそういった労働時間が短い、あるいは賃金が安い雇用形態をお勧めしているところがあるわけで、それは、今の政府全体として非正規と正規の格差をなくすと言っていることと矛盾するわけですよね。
それから、規模要件というのも、労働者はどんな企業規模で働いていても同じような保障を受けられるべきであるのに、たまたま規模の小さい企業で働いている人は社会保険の適用を受けられないというのは、労働者にとってはとても不合理なわけですし、恐らく中長期的には、そういう制度になっていると、中小企業で働くと保障が弱いからやめたほうがいいですよということをわざわざ求職者に勧めることになって、結局、中小企業の人手不足もそれで助長される。
つまり、社会保障制度と雇用制度の間の整合性のなさというか、企業に対して中立的ではない非正規の雇い方を勧めるような形をしているであるとか、あるいは潜在的な求職者に対して、中小企業で働くと社会保険の適用が弱いのでやめたほうがいいですよということを暗に勧めるような形になっているというのは、やはりよろしくないわけで、そういう面でいうと、今、せっかく国全体として社会保障制度改革として勤労者皆保険というのを進めているわけですから、ぜひ雇用政策の側からもそうした皆保険的なものを進めることは雇用政策の面でも正しい方向なのだと示していく。つまり、社会保障制度改革をサポートするような雇用政策研究会からの提言というか、そういうのもあっていいのではないかなと今のお話を伺っていて思いました。
以上でございます。
○樋口座長 ありがとうございました。
これは私の理解ですが、従来、社会保険と雇用保険といいますか、労働保険といいますか、そこは何か敷居があったような感じがしていました。書いたものを見ても「社会保険・雇用保険」とかという形で、雇用保険だけ取り出して、他の社会保障とは目的が違うところがあるとして、別途議論してきたところであったわけですが、その点についてどう考えていくかということもあるかと思います。
特に、加入要件が、企業規模であるとか労働時間であるとか期間であるとかによって違っている。違っているだけではなく、それがあった場合には、そういったものに加入しない企業を促進するような効果、役割を果たしている。
ただ、その一方において、フリーランスの問題で、勤労というところで考えていくと、雇用保険とか社会保険が充実し、保険料が高くなれば高くなるほど、これに入らない自営業といいますか、委託労働といいますか、そういうフリーランスが増えていく可能性があるのかないのかということについても御議論いただければと思います。よろしいでしょうか。
続きまして、阿部先生。
○阿部委員 ありがとうございます。
私は3点、コメントしたいと思っています。
1つ目は、大竹さんがおっしゃったことと関連するのですが、今回のコロナで雇用維持のために相当な金額を雇用保険財政から使ったと思うのです。厚労省のホームページですと、今回の雇調金で5兆円程度、緊急雇用安定助成金が4000億ぐらい、ざっくり5.5兆円ぐらい使ったわけです。
雇用保険財政を見ますと、もうすっからかんになっていて、この後、雇用政策をいろいろ実施するための財源の問題というのは、当然考えていく必要があるのではないかと思います。ですので、雇用保険財政がどうなっていくのかということと同時に、これから実際に雇用政策を打っていくときに、どういう順位づけで、どれを政策としてたくさん打っていくかといった順位づけみたいなものをして、限られた財源の中で有効な雇用政策を打っていくことを考えないといけないのかなと思っています。
7年ぐらい前までですと、雇用保険部会の資料を見ますと、6.4兆円ぐらいが残高としてあったので、潤沢な財源の中で雇用政策ができていた。今はもうマイナスですから、それを今後どのようにしていくかということは、具体的な政策をどうするかという議論とは別に論点としてあるのではないかと思いました。
もう一点目は、清家先生がおっしゃったことと同じなのですけれども、コロナ禍で新しい働き方が一定程度のセーフティーネットの役割も果たしたのではないかと思っています。例えば、ギグワークですとか、あるいは副業といったところで、フリーランス的な働き方で収入の落ち込みを補った人たちも相当いたと思うのです。そういった人たちが一定程度いた一方で、やはり問題になるのはセーフティーネットの問題をどうしていくかということかなと思います。
それから、65歳以上の高齢者の非労働力化が進んでいるというお話がありましたけれども、高年齢者雇用安定法では65歳以上でもこうした新しい働き方を認めていますので、そういった方々のセーフティーネットの問題というのも、一定程度の労災とかは手当されていますけれども、ほかの問題も考えていく必要があるだろうと思います。
3点目は、資料にはあったと思うのですが、都市部と地方部の差をどのように考えていくかというのも、引き続き、コロナ禍後も大事な論点ではないかと思います。テレワークの実施にしても、都市部では多いですが地方部ではあまりやられていないとか、あるいは都市部の働き方と地方部の働き方が大きく異なっている面があるとか、あるいは都市部ではコロナの中でもかなり労働需要はあったみたいですけれども、地方部では需要がなくなったとか、いろいろな話を聞いております。こういった都市部と地方部の政策というのをどのようにしていくかというのが、一つあるのではないかと思うのです。
今、ここで議論するのは国の雇用政策ですけれども、地方部に行くと、国が管轄する政策と地方自治体が行っている政策があると思うのです。そういったところをどう整理して、地方において雇用政策を一体として実施していくのかというのも、今後は大きな課題になるのではないかと思います。
以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
一つは財政問題をどう考えていくか、あるいは財政規律の下における雇用政策の話。それと、阿部さんが一番おっしゃりたいと事務局から聞いていますのは、都市部と地方の話ということで、一国二制度ではないですが、同じ雇用政策、あるいは同じ労働法等といったときに、どうもそれの対象となる労働市場の姿が大きく違っているではないかということについても議論していくべきではないかということだったと思います。宮本先生お願いします。
○宮本委員 専門的には周辺部分からしゃべることになってしまって申し訳ないです。
事務局におかれては、本当によく整理されたまとまった資料で、大変な御努力だったのではないかと思いますけれども、誠にありがとうございました。勉強になりました。
2点ほどあったのですけれども、1点目は阿部先生が既におっしゃったことと関わるのですが、いわゆるフリーランスの扱いで、これは冒頭に樋口座長が、雇用政策はもはや旧労働省の政策ではない、幅広に議論をというお話と重なるとは思うのですけれども、資料のほうでそこがかなり見えないところは若干不安になるところがあります。
民間のネットのアンケートなどをベースにした、資料といっていいのか、統計といっていいのか分からないのですが、これだと、2021年にいわゆるフリーランスが激増したみたいなデータもあるのですが、個人事業主というかフリーランスというかで所管のイメージが随分変わってくるかなと思うのです。
少なくともフリーランスについては労働者化が言われますし、明治学院大学の仲修平さんという方の研究などを拝読すると、雇い人なしの自営業で見ていくと、コロナ禍の影響で困窮の度合いが増したのは非正規以上であるというような結果も出ていて、特に女性のネイリストとかピアノ講師とかいったところが、既存の制度の支援対象にならないまま落ち込んでいっているという現実があって、これは、経産省の所管というよりはこちらの所管なのではないかなと思うのですけれども、デリケートなところがあって、なかなか対応しにくいというところがあるのですが、やはり統計的にそこが見えてくる必要があるのかなと思って、何かお考えがあればお伺いしたいと思ってございます。
2点目は、質問というよりもつぶやきに近いところがあって、これもデリケートなところがあるのかもしれませんけれども、前回の雇用政策研究会以後の動きとして、新しい内閣が立ち上がって、新しい資本主義ということを言われて、総理の2月の文春への寄稿などを拝見しても、新しい資本主義の軸は人への投資なのだということが書かれているわけなのです。
新しい資本主義については検討会があるわけで、そちらを必ずしもちゃんとフォローしているわけではないのですけれども、人への投資といったときに、あの論文には人本主義という懐かしい言葉が出てくるし、日本型の雇用の形をバージョンアップしながら労働移動とウェルビーイングという、まさに今日の資料にあったテーマにつなげていくのだというお話だったと思うのです。
これを忖度するというのではないのですけれども、恐らく多くの委員が違和感を持たないこうしたビジョンがきちんと進捗するためにも、私ではなくて皆さん方、エキスパートのアドバイスが要るのかなと思っております。
特に人への投資といったときに、正規へのOff-JT、各企業の支出がどんどん減っているという指摘は論文の中にもあって、つまり、いわゆるメンバーシップ型雇用というのは、クビになることを恐れないでいろいろ活躍できるところが強みだったはずなのですけれども、その条件がどうやら狭まっているらしい。かといって、非正規のジョブ型雇用に、そのジョブさえ身につければどんどん前に進めるという発展性があるのかというと、それもなくて、メンバーシップ型とジョブ型が能力開発だとか生産性の向上というところに行かないような形でつながってしまっているところもあるのではないか。
そうした中で、これから新しい資本主義とか人への投資を形式的に受け止めると、そこへの支出を増やしてくことになるのですけれども、それが空回りしてはいけないと思うのです。それがきちんと機能するような形でビジョンにつながっていくためには、どういうお金の使い方なり訓練の在り方が正しいのかということを何らかの形で発信していくことが大事ではないかなと思ったりもします。
以上、2点です。
○樋口座長 ありがとうございました。
確かに、一つはフリーランスの統計上の整理というのが、一部ありますけれども、まだ十分ではないというところで、これは宿題としてよろしいですかね。
○雇用政策課長 はい。
○樋口座長 では、事務局への宿題という形でやらせていただきたいと思います。
もう一つ、新しい資本主義、あるいは人への投資ということで、実際によい効果を生み出すためには、よい循環にするのにはどうしたらいいかというところで、言葉あるいは制度だけの問題ではなく、時にはその運用のところまで含めることが非常に政策的にも重要になってくるのではないかということで、これも雇用政策研究会は従来、制度の議論をメインにやってきたのですが、今回、その制度の運用のところでどういうふうにやっていくのかというところについても、ミスマッチの解消も含めて前回から御議論いただいておりますので、そういう形で議論させていただければと思います。
人への投資というと、まず個人、企業、公的な役割、支援というところの役割分担もあれば、うまく機能させるのにはどうしたらいいかというところも必要になってくるかと思います。
それでは、山本先生。
○山本委員 慶應大学の山本です。
事務局には本当に貴重な資料をまとめていただきまして、ありがとうございます。勉強になりました。
私から2点ありまして、1点目は、今回ウェルビーイングに議論の焦点を当てるということで、その中でウェルビーイングの定義がいろいろあるとは思うのですけれども、やはり賃金というのは当然注目すべきところで、資料の中でもいろいろ出していただいていましたが、大竹先生も言われましたけれども、足元の局面でインフレ傾向になってきているということで、そこで賃金がどうなるかというのはすごく大事なテーマになるのかなと思っています。
特に、賃金が何で上がらないのかということがずっと注目されてきたのですけれども、インフレもなかなか起きていなくて物価も上がっていないという状況だったので、購買力という面では、もちろん上がるにこしたことはないのですけれども、購買力は少なくとも大きくは下がってはいなかったと思うのですが、今回、インフレが進んだときに、それでも名目賃金が変わらないとすると、実質賃金が低下していってしまいますので、そこはどうなるかというのは、焦点を当てていくべきなのではないかなと思います。これはマクロ経済の動向を見る上でもそうですし、個々の労働者の購買力、処遇を評価するという観点でも大事になるのかなと思っています。
もう一方で、ウェルビーイングといったときに、コロナを経て注目するべきところ、あるいは人々の関心が変わってきているところがあるとすると、賃金以外の主観的な項目、メンタルヘルスとかエンゲージメントで、見方として賃金が上がっていかなくても、いい働き方ができるようなってメンタルヘルスがよくなるとか、働きがいがよくなってエンゲージメントが高まるといった状況であれば、成熟した労働市場だとある程度評価できると思うのですけれども、この点について少し資料が見えてくると、さらにウェルビーイングに焦点を当てるという意味ではよりいいのかなと思います。
その際に、資料の中でも対応力という言葉があったと思いますけれども、働き方が多様化していったり、コロナで働き方が変わっていく、あるいは変わらなかったということによって、最終的にメンタルヘルスとかエンゲージメントといった意味でのウェルビーイングに差が生じる可能性があって、そこをきちんとウオッチしていくことも雇用政策としては大事になるのかなと思いました。
2点目が、もう一つの焦点である労働移動なのですけれども、これも大竹先生や阿部先生が既に述べられていますけれども、雇調金をはじめとする様々な支援は、失業を出さないという意味では短期的には効果があったと思うのですが、労働移動にどういう影響を与えてくるのかという中長期的な問題になると思うのですけれども、失業を出さずに休業者を大量に出してしのいだことが、労働移動を阻害して、本来あるべき労働移動が少なくなってしまってはいないのかというところが、焦点としてはあるのかと思います。
そういう意味では、例えば、休業者と失業者の比較、その後の労働移動で、休業していたほうが労働移動をしないままで低い生産性のセクターにとどまったままなのか、失業で一旦は痛みを伴っても生産性の高いセクターに移動できているのかみたいなところをフォローしてデータで見たり、休業した人と一旦失業した人で賃金がどうなっていったのか。あるいは、スキルの取得、リスキリングに関してもどうなっていくのかといったところを見ていくことで、今後の中長期的な雇用政策が労働移動との関係でどうあるべきかというヒントが得られるのではないかなと思いました。
以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
一つは、ウェルビーイングの話で、賃金というのを一体どういう尺度で捉えたらいいのかということで、山本さんからは、名目、実質という賃金の捉え方の尺度をどう見たらいいかというのはあったと思います。
同時に、時短が進んでいる中における賃金の捉え方、時短と所定内給与の引上げのどちらがウェルビーイングを高めるのかということもあるかと思いますが、同時に、例えば、所定内給与で見たときに、それは上がっていないのだけれども、所定内の労働時間が短縮されることによって時間当たりの賃金は上がっている。ただ、生活に関連するのは、時間当たりの賃金ではなくて賃金総額そのものになっていくでしょうから、賃金率といいますかアワリーウエッジレートで考えたらいいのか、それともトータルウエッジで考えたらいいのかというところも論点になってくのではないかということだったと思います。
あとは、まさに転職をどう考えたらいいのかということで、転職といっても単に賃金が上がるだけではなくて、中には逆に下がっている人だって多くいることもあるし、失業というのは求職をしているという条件なのですが、その間に能力開発をしているとか、適職を探していることによって、条件が改善しているかもしれない。失業(求職)投資といいますか、そういったところをどう考えたらいいのかというところを御指摘いただいたかと思います。
それでは、鶴先生、お待たせいたしました。
○鶴委員 どうも。慶應の鶴でございます。
事務局から大変詳細な資料、また的確にまとめられて、私自身はもちろん見させていただいていますけれども、事前に特にこの部分がとかいうことはございませんで、こういう形で議論していくことで結構ではないのかなと思っています。
3点ばかりあるのですが、最初に、資料4の3ページの下のほうにあるのですけれども、労働者にも自ら付加価値をつけて自律的なキャリア形成を進めていく方向にある、人材育成にも変化が生じてきているということをここでお話しいただいて、私は自律的なキャリア形成は、もちろん前からこういう話はされているのですけれども、コロナを経て、私はこれはますます重要になっているなという感じはしています。
なぜかというと、在宅勤務というのが非常に普及して、そこで「自律」と「自立」の両面があるのだと思うのですけれども、そういう働き方ということで実際にそういう色彩が強くなり、そういうことを意識する従業員、また企業のほうも人材育成等々、非常に一生懸命取り組んでいる企業の方からいろいろお話を聞くときに、この自律という言葉を強調される企業の方が非常に多いのです。なので、私は非常に重要なキーワードだなと思っています。
ただ、先ほど佐藤先生や宮本先生が正規社員の限定性とか、ジョブ型、メンバーシップ型というお話もありましたけれども、メンバーシップ型の世界の中で自律的なキャリア形成を進めていくのは非常に難しいというのは、ここにいらっしゃる皆さんの共通認識だと思うのです。ジョブ型、特にどう異動をしていくとか採用していくのか、まさにその部分です。欧米の場合だと、社外公募的な形になっているわけですので、それを日本の中で本当に取り入れていくことができるのかというところが、ジョブ型、メンバーシップ型の業務の中でも私は非常に重要だと思うのですけれども、自律的なキャリア形成を考えた場合に、ある程度そういう部分が出てこないといけない。
難しいのですけれども、今、一つヒントになっているのは、副業の関係で社内副業を促進しているところは結構出てきているのです。副業という形で手を挙げて、例えば、自分はこういうことに関与してみたいとか、ある意味、そこを両方やるわけですけれども、そういう中で少しずつこういう部分が変わってきている部分もあるのではないのかなと。人材育成においても大事なポイントかなと思います。
2番目は、新しい資本主義の話がちょっと出ていましたけれども、これはしっかり考えるべきだなと私は思っています。最初、分配ということを政権も強調されたと思うのですけれども、成長も大事ではないかと。成長も分配も大事だよねと。あまりこれまでやってきていることと新しくないのです。先ほどおっしゃった、新しい資本主義は人本主義だよねとか、ステークホルダー資本主義だよねという話も出てきたのですけれども、これも旧来の日本の伝統的な経済システムというのが、まさにそれで株主だけではなくて、ステークホルダーにきちんと分配される。もちろんそこへ労働者も入っているわけです。これは全然新しくないと私は思っています。
長期的視野が短期的視野というところで説明できるよねということで言っているのですけれども、日本はかつて長期的な視野を持っていたというところだと思うのです。私は、今は何がその新しいのかというと、先ほど山本先生も強調された、結局、従業員のウェルビーイングを非常に高めると、企業への好影響とかパフォーマンスに非常に大きく影響していく可能性がある。まだまだ経済学的な実証分析というのも、健康経営などはいろいろ結果が出ていると思うのですけれども、そこが大きく変わってきている。資本主義は資本家と労働者の対立みたいなところではなくて、もう先進的な企業はそこが分かって、どんどん従業員のウェルビーイングを高めるということで、イノベーションを起こしたり、企業のパフォーマンスを高めようという動きが出てきている。この辺が一つ新しい資本主義ということではないのかなと思います。
最後3点、短く。フリーランスのお話が出ていて、私のグループも最近、ウェッブ調査を行い、まだ結果をまとめているとこなのですけれども、JILPTさんも独立自営業者のいろいろ統計を取られていますが、フリーランスとか独立自営業者はすごく多様ですよね。いろいろな方がそこの中にいらっしゃって、全部非常に大変な状況で、いろいろ政策的にやらなくてはいけないということではないのだと思います。
ただし、今のその調査の中で若干感じたのは、労働者性というのが結構大事で、独立自営業者は雇われていないのに、あたかも労働者のように、ある種の拘束性というか、それはどういう人と商売しているかというところによるわけですけれども、その労働者性が非常に高い場合にいろいろな面で問題が出てきているところがあるのではないかというところが少し見えてきて、十把一からげでこの問題をやってもしようがないなという感じがしていて、そのヒントも少し出てきたのかなということを思っているところです。
以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
新しい資本主義というのが決して新しくないというところを強調されましたが、その中で人への投資も考えていくと、単に人への投資をすればいいのではなくて、やはりそれを受ける側の意識というのが、その能力を高めるとかいったときには非常に重要だというようなこととしてまとめてよろしいですかね。
もう一つは、まさに生産と分配といったときに、マクロの議論では好循環云々という話が出てきていますが、個別企業における生産性とウェルビーイングの関係においてもそういうことが言えるのではないか、それが新しいというところではないかという御指摘と受け止めましたけれども、また議論ありましたら後でお願いします。
続きまして、神林さん。
○神林委員 ありがとうございます。
一橋大学の神林です。よろしくお願いいたします。
3点ばかり、コメントをしたいと思います。1点目、最近とみに自分自身で考えていることなのですけれども、よく分からない現象というのがかなり起こっていて、今日もいろいろな資料を出してくださいまして、皆さんからいろいろコメントが出ているわけなのですけれども、例えば、佐藤さんがおっしゃったように、不確実性が増えているので正社員は要らなくなっています、リストラしていますみたいなのがある一方で、人手不足感に関しては、正社員については非正社員よりもレベルで強い。しかも、今かなり人手不足感が強くなってきている。タイムシリーズで見ても増加してきている。これをどうやって理解するのですか。
日本の労働市場全体を眺めたときに、一つのストーリーでどういうふうに理解できるのか。一見すると理解できないことが結構いっぱい起こっていると思うのです。それをきちんとまとめていくというのが一つしなければいけない作業なのかなと思います。
この雇用政策研究会自体は、別に経済学のディシプリンでコミットしているわけではないですけれども、自分自身としては、やはり経済学の研究者ですので、経済学のメカニズムにコミットをして、こういうことがコンシステントに理解できることを一つ一つ丁寧に解き明かしていくということが必要なのかなと思っています。
大ざっぱに言うと、労働市場のマーケットの調整能力は落っこちていると思うので、なぜ、その労働市場の調整能力、もうちょっと抽象的に言うと、価格調整と数量調整ですけれども、価格の調整能力と数量の調整能力というのが相対的に落ちてきているのかということをもっと抽象的に考える必要があるのではないかと思います。それが1つ目のコメントです。
2つ目のコメントは、データの話なのですけれども、そろそろいいかげん、もっと正確なデータをつくることを考えませんかと。データのクオリティーそのものはこの20年間ほとんど上がっていません。確かに研究者がデータを使えるようになったのですけれども、その使えるようになったデータそのものは昔からあったデータです。賃金センサスもつい最近変わったばかりですよね。そのほかの統計類に関しても、その変化は非常に遅いです。
その結果として、例えば、フリーランサーの話もデータがないわけですよね。ある一つの民間企業で、フリーランスを使って商売をしているところのデータがあたかも真実であるかのように喧伝される状況が起こっているわけで、そういうところでは、やはり政府自身はきちんと中立なデータセットをつくるべきだろうと思います。統計委員会のほうでフリーランサーを基幹統計の中に組み入れていくのかというのは、そろそろ話が始まると思うのですけれども、それに対して厚生労働省としてきちんと意見を言っていくことは考えないといけないのかなと思います。
あとは、税金です。アメリカの場合は納税スリップを使ってフリーランサーの数を数えるという研究が、もうパブリッシュされたのかな、数年前から進んでいて、結果として出てきたことは、フリーランサーと呼ばれている人の大部分は、例えば、月100ドルとか、月200ドルとかそのぐらいしか稼いでないという結果が出てきています。こういうのは税金のデータを使わせろと厚生労働省からちゃんとプレッシャーをかけることも必要なのではないかと思います。とにかくもっとデータの精度を上げることが必要だろうと思います。これが2点目です。
3点目はちょっと新しいお話なのですけれども、先ほど阿部さんが雇調金の雇用保険の財政の話をしたのですが、労働市場におけるISバランスをちゃんと考えてみるのがいいのかなと思っています。非常に古典的なマクロ経済学、ケインジアンみたいなことを言いますけれども、マクロ全体でのISバランスというのがマクロ経済学でずっと古典的に議論されていました。通常はそれが家計部門と企業部門に分かれてISバランスを調整するわけなのですけれども、そこで労働市場という部門を1個つくったときに、労働市場の中でのセービングスとインベストメントのバランスというのはちゃんと取れているのか、それがどういうメカニズムで制御されているのかという面で見ると、労働市場におけるセービングスというのが急速になくなってきているのと思うのです。そうしたら、インベストメントなんてできないですよね。それが人的資本投資を制御しているかどうかというのはまだ分からないですけれども、50年前に戻るわけではないですけれども、何か難しい話を持ってくるまでもなく、もっとシンプルな経済学のエコノミクス101で、理解できる範囲で理解していこうということが必要なのかなと考えています。これが3つ目のコメントです。
以上です。ありがとうございました。
○樋口座長 ありがとうございました。
1つ目の部分均衡といいますか、労働市場といっても、一つのストーリーで、あるいは一つの仮説で全部説明できるわけではなくて、それぞれの部分によって説明する仮説というのは違っているかもしれない。したがって仮説が違えば、もしそれが受け入れられたとすれば、それに伴う政策も変わってくる。労働市場によって一つの政策ではなくて、この点についてはこの政策、こちらについてはこの政策という形で、ただし、どう政策間のバランスを取っていくかという問題が残ってくるかなと思いました。
佐藤さんに神林さんから御質問があったように思うのですが、いかがですか。
○佐藤委員 僕は矛盾しないと思っていて、基本的に企業はやはりもうちょっと正社員を増やしたいと思っているのですよね。でも、先を見ると絞り込まれる。絞り込むときにどうなるかというと、必要な人材ですよね。それで中途採用する人もそういう人たちなので、マーケットにいないということなのですよ。採りたい人がなかなかいないということで、ですからミスマッチが、先ほど採りたい人が採れないというのはすごくニーズが高まっていると思いますよ。絞り込んだ結果、採りたい人のレベルが高くなっているということで、僕は企業レベルで見るとそんなに矛盾しないという気はします。
○樋口座長 神林さん、いいでしょうか。
○神林委員 いろいろ議論があると思いますけれども、どうぞ先に進めてください。
○樋口座長 2つ目はデータの問題で、精度の高いデータは政策を議論する上で必要になって、EBPMとの関係もあると思いますが、それをどうつくっていくかと。そのつくり方についても、今までのような公的統計ということで捉えていくのがよろしいのか、あるいは新しい、例えば行政記録であるとか税制も含めて、そういったものを使いながらデータをつくっていくことが必要かと。これは確かに議論になってくるし、実は今、JILPTでも議論しているところで、ぜひ御支援いただきたいと思いますが、すぐに解は出てこないかなと。局長から先ほど7月までという話ありましたので、もう少し時間をかけてしっかりと議論していくべきことかなと思いました。
労働市場におけるISバランスの話も、これも皆さんが十分に理解できているかどうかということで、一度神林先生から御講義を受けるとよろしいかなと思いますが、そういった受け止め方をしました。
堀さん、どうでしょうか。
○堀委員 ありがとうございます。
JILPTの堀です。私からは感想を交えて3点申し上げたいと思います。
まず、1点目なのですけれども、今回の事務局におかれましては、詳細な資料を御用意いただきましてありがとうございました。
私から若者の研究者として見た場合に、80ページの転職の資料、年齢別の資料を大変面白く拝聴したのですけれども、これですと、ふだん25歳~34歳層が動くところ、転職がコロナ禍で抑えられているという御指摘がありまして、コロナ禍なので現状維持という形で、実際に転職はあまり生じていないということなのだと思いますが、他方で、私がこれまでやってきた調査もそうですし、多くのところで指摘されていると思うのですけれども、今、若年正社員定着者のやりがいがかなり下がっていて、全体としてウェルビーイングがかなり低い状態にあると認識をしているところでございます。
先ほど大竹先生、阿部先生、山本先生から、ポストコロナの労働移動について考えたほうがいいのではないかという御指摘がありましたが、私も大変賛成でありまして、恐らく落ち着いたことが分かれば、この世代は一斉に動き出すのではないかと推測しており、その際に、労働政策の重要性がかなり高くなってくるのではないかと予想をしているところであります。
そして第2点目、18ページ辺りに学生バイトを取り上げてくださっていて、これも大変興味深いところなのですけれども、学生にとってアルバイトというのは重要な社会経験であり、成長の糧になっていくものだと思うのですが、他方で、特にコロナ前におきましては、バイトによって学生生活が阻害されるような現象も見られていたこともあったかと思います。それは特に、飲食などの業界でブラックバイトと言われるような現象もあったかと記憶しているのですけれども、これを機会に、例えば、大学で学ぶ内容を意識したようなバイトの選び方など、少し学生バイトにおいても働く場を変えてくというか、産業構造の転換なども図るような試みを行ってもいいのではないかというのが単純な感想としてございます。これは労働政策で行うことかどうか分からないのですけれども、そのまま戻すというよりは、これを機会に少し在り方を変えていくということもう一つの考え方ではないかと感じているところであります。
3点目は、先日、佐藤博樹先生の内閣府の少子化対策の検討会に参加させていただいたのですけれども、その際に、若者の雇用についての御説明を私は差し上げたわけなのですが、そのときの質問としまして、テレワークについての質問だったのですが、少子化対策ですので不妊治療なども取り上げていたのですけれども、テレワークというのは不妊治療に役に立つのですかという御質問をいただきました。正直なところ、あまり考えたことがなかったので、大変反省したところではあったのですけれども、労働政策においても、ダイレクトに少子化対策とつながるところだと思うのですが、そこまでウイングを広げて考えていくことが、特にポストコロナを考える上で大変重要ではないかと感じました。
以上です。
○樋口座長 どうもありがとうございました。
1つは、労働移動のときにウェルビーイングいう概念で、確かにウェルビーイングがそれによって向上しているのかということもあるかという御指摘があったかと思います。あるいは、これは私の解釈ですが、人への投資がどれだけ労働市場の転職に役立つのかということを、これも実証分析といいますか、概念として捉えるのではなくて、もう少し人への投資というのを具体的に、実証的にその効果を考えていくべきではないかと。概念としては何となく分かったようなことですが、ファジーなことであって、雇用政策を考える上では、もう少し具体化してかみ砕いて能力開発についても考えていくことが必要ではないかというような御指摘だったかと思います。
もう一つは、学生バイトについて、産業構造の転換といった視点に立った場合、学生アルバイトというのがどの程度役立っているのか役立っていないのかよく分かりませんけれども、議論をすべきではないか。学生の場合、職を失っても、もともと雇用保険には入っていないということで、結局、その人たちの所得が下がって学業にも影響するというときに、文科省のほうからの奨学金制度とか助成金制度といったもので補っているわけですが、学生アルバイトというのはどう考えたらいいのか。そこで、実は非労働力化が増えているというのも相当に影響しているのではないかと、JILPTのほうで分析した結果ではそういったことも出ているということで、それについては考えていく必要があるのか、ないのかという問題提起だったと思います。
あとは、雇用対策と言いながら、少子化対策とも関連しているわけであって、そういった関連性について考える必要があるのではないかという御指摘だったと思います。
神吉先生、最後になって恐縮ですが、お願いします。
○神吉委員 ありがとうございます。
労働法を専門にしております神吉です。
参加のキャリアもそんなに長くなくて、研究会の自分の位置づけというのがまだ気づいていないところもあるのですけれども、本研究会がせっかく定期的な政策の研究会という位置づけからしますと、これまで打ってきた雇用政策の有効性や影響の判定というか、そういった要素があってもいいのではないかなと思っております。これは従前、指摘されておりますけれども、その最たるものが雇調金で、それだけ大きな政策を打った結果はどうだったのか。あるいはその副作用はないかということは非常に重要だと思います。
もう一つは、働き方改革関連法がちょうどこのコロナの時期に重なってしまったのですけれども、施行されているわけです。これは本研究会の今回の資料にもありますように、コロナ前からの構造的課題への対策として位置づけられると思います。特に、②の雇用形態の格差と③の働き方の課題、特に長時間労働に対する施策として実現したものだったので、これがコロナ禍に重なってしまったのだけれども、どういうふうに寄与しているのか、現状との因果関係は多様な要素があるので言えないとは思うのですが、何らか寄与している部分があると思っているから打っている政策なわけで、現状を整理する際に、労働市場に影響を与え得る前提条件の変化として明示的に研究されてもいいのではないかなと考えたのが1点です。
それから、いただいた資料の本体のほうで2点あるのですけれども、まず32ページのところで、特に女性に関して、就業非希望者がプラス寄与となっていて、女性では就業意欲を喪失していることが懸念されるという記述がやや気になりました。ほかの部分は割と傾向や変化を叙述的に書かれているのですけれども、ここはむしろ懸念になっているというところもあるのですが、ここで問題にされているのは就業非希望者なのですよね。
ただ、34ページ辺りからは、就業希望者の非求職者の理由は聞いていて、今の景気や季節では仕事がありそうにないということを聞いているのですけれども、懸念されている就業非希望者の就業を希望しない理由が聞けているのかなと。もし、分かっていれば、そちらを知りたいなと思ったのが1点です。
就業非希望者というのは、これまでの議題に上がっていた女性の不本意な非正規労働力人口化と同じなのかどうなのか。不本意なという点の理由が分からないと言い切れないのかなと思ったのです。就業希望非求職者のことなのか。これまでの整理との関係がやや気になりました。就業非希望者は割とその高齢者が多いように見えるので、特に高齢者で働く必要がないと考えている場合に、それが政策的に問題視すべきことなのかという点もちょっと気になったところではあります。
もう一点、最後ですけれども、38ページのところで、テレワークの研究をされているところなのですけれども、私が以前、テレワークの研究会に関わったときに、アンケートでテレワークを実施しているという意味が、企業によってかなり大きく違っている、ばらつきがあったというのが気になっております。中には、外回り営業みたいなことをテレワークに含めて、実施していると言っているようなところも以前ありました。この調査でどう定義されているか分からないのですけれども、テレワークの形態であるとか、その頻度であるとか、どういったものをテレワークとして定義しているのかということが分かるといいなと思ったのが最後の点です。
最後は細かいですけれども、私からは以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。
順番が逆になるかもしれませんが、テレワークについての調査は、今出ているこの調査結果とは別に、JILPTでも時間別、週当たりの実施時間とか出ていますので、次回、資料が用意できたら提示したいと思います。
あと、御指摘の1番目のところはEBPMの話だろうと思います。雇用政策研究会で提言し、実施されている政策、そういったものも含めて、政策全般についてその効果分析を行う必要があるのではないか。
これは、私も雇用政策研究会の内容をどうしていくかというところで、EBPMは必要になってきているのではないかということで、言っているだけではなくて、検証をというところも考えておりまして、すぐにそれが実現できるかどうかというのはあるかと思いますが、また誰がやるのかというところもあるかと思いますが、その点については御意見として伺っておきたいと思います。
もう一つは、人口減少の中で、少なくとも今までのところ、コロナ前までは労働力人口は増加してきたわけです。増加してきたのが、どこで増加してきたのかということを見ると、一つは有配偶女性における労働力人口の増加で、もう一つは若年、学生アルバイトも含めた人たちが、学校に行くこととアルバイトをすることを兼ねている人たちが増加したというところも労働力人口の増加につながった。あるいは、高齢者の労働力率の上昇といったのもあって、そういう形で、日本全体で人口減少であるにもかかわらず、実際に就業している人たちの数を増やしてきた。外国人労働者をそれほど多く迎えなくても今まではやってこられたというところを今後どうするかというところで、懸念というのは実は私が使った言葉で、事務局の責任ではなくて、私が懸念されているのではないのということで、実はアメリカを見たときに、リーマンショック以降、女性の非労働力化が進んだまま、数年それが元へ戻らないという形で進展してきたところがあって、それが日本でどうなるのだろうかというところでちょっと使ったもので、懸念という言葉が適切だったかどうかというのは私の責任です。
以上で、一通り皆さんから御意見をいただきましたが、改めて追加的に言っておきたいことがございましたらお願いします。よろしいでしょうか。
ありがとうございました。
それでは、議論はまだあるかと思いますが、次回の日程等について、事務局から連絡をお願いしたいと思います。
○雇用政策課長補佐 ありがとうございます。
次回、第2回の雇用政策研究会につきましては、5月20日金曜日の16時からの開催を予定しております。内容につきましても、また後日、改めて御案内をさせていただこうと考えてございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○樋口座長 ありがとうございました。
今日、皆さんからいただいた御意見も含めて、次回どういう形で進めたらよろしいかということで、時には外部の先生に来てもらって話を伺うこともあるかと思っております。その点については、また事務局と相談させていただいて、改めて連絡をしたいと思います。
どうも、本日は長時間にわたり、ありがとうございました。これで失礼いたします。