第4回これからの労働時間制度に関する検討会 議事概要

労働基準局労働条件政策課

日時

令和3年10月15日(金) 17:00~19:00

場所

AP虎ノ門 Bルーム

出席者(五十音順)

荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授
小畑史子 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
川田琢之 筑波大学ビジネスサイエンス系教授
黒田祥子 早稲田大学教育・総合科学学術院教授
島貫智行 一橋大学大学院経営管理研究科教授
堤明純 北里大学医学部教授
藤村博之 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授

議題

労働組合からのヒアリング

議事概要

1 A組合(製造業等の組合が加盟する産別労働組合/組合員数20万名以上)
○A組合として裁量労働制を推奨する・推奨しないという一定の考え方は特に出していない。加盟組合の企業も、制度の導入の有無は様々。
○裁量労働制の適用業務の内容は、企画職、営業職、SE職、研究職等。適用労働者の要件としては、一定の資格の保有、上長が認めた者であること、長時間労働が常態化している者は認めない、等の例がある。
○適用労働者の労働時間は、非適用労働者に比べて長い傾向。その原因としては、労働者に裁量があるが故につい没頭したり、結果を出すために時間をかけてしまう、プロジェクト等で短期間に負荷がかかるなど、様々ある。他方で、ワークライフバランスがとれていると感じている適用労働者の割合は非適用労働者と同程度。
○適用労働者には一定程度の処遇は必要。加盟組合の企業での特別手当額の決め方としては、例えば、時間外労働20~30時間程度、基準内賃金の2~3割、一定額(例:10万円)など様々。裁量労働制の適用の有無で評価方法を分けているところは無い。
○裁量労働制はほとんどが本人同意を得ることから、当然ながら制度の説明はされている。制度適用時の事前説明は、丁寧に、かつ本人が納得するまで行うことが重要。
○制度導入時の労使委員会の議論内容としては、導入目的、対象業務、対象者、手当、みなし労働時間、労働時間の把握方法、健康・福祉確保措置について検討しているところが多い。そのうち対象者や手当については労使間の隔たりが大きい事項。労使委員会の開催頻度は年に1回又は2回など各企業で様々。労使委員会では制度の運用状況をしっかり確認することが重要と考える。
○制度の本旨に沿った運用のため、労使委員会において、適用労働者の労働時間が適正か(労働時間の実績)を確認しているところが非常に多い。定量的な基準(例:月●時間以上、深夜労働が月●回以上)で自動的に適用から外すところや、労働時間だけでなく体調や業務内容を含めて労使委員会でみて適用の可否を判断するところもある。なお当組合としては、裁量労働制の適用から除外すべき長時間労働の具体的水準としては、時間外月40時間が一つのラインと考えている。
○労働組合においては、日々の組合活動を通じて、個々の適用労働者と業務負荷や時間外労働等についてコミュニケーションをとっている。
○労働時間の状況の把握は、ほとんどの企業がタイムカードやPCログ、自己申告を組み合わせて行っているが、自己申告だけという企業も一部あり、その点は課題と考える。
○健康・福祉確保措置としては、産業医面談・指導、勤務免除や代休付与、定期健康診断とは別の健康診断のほか、勤務間インターバルを実施しているところもある。
○自律的な働き方が健康状態に与える影響については、前述のとおり、ワークライフバランスがとれていると感じている適用労働者は非適用労働者と同程度であり、比較的満足度が高い者が多い。ただ、実態として適用労働者は労働時間が長い者が多く、健康状態に与える影響として、この点は問題と考える。
○適用労働者の中には、特に専門型の適用労働者に関しては、制度の適用はステータスと捉えている者も多く、本人にとって一つのモチベーションの向上になっている。
○裁量労働制に対する意見について、まず、企業への要望としては、導入目的や対象業務、対象者の条件等を労使が納得する形で制度を導入したうえで、導入後も制度趣旨に沿って適切に運用されることが重要だと考える。
制度への要望としては、制度趣旨に沿った運用の徹底のため、監督指導の強化や労使委員会が機能するための措置のほか、勤務間インターバルや深夜労働時間の回数制限等の選択的措置の義務付けが挙げられる。なお、労使委員会に関しては、労働組合が無い場合や、あっても中堅・中小労組など知識や交渉力も無い場合に、本当に労使委員会が機能するかは課題だと考える。
○裁量労働制の課題としては、適用労働者は長時間労働の傾向にあること、長時間労働等の結果として裁量がある働き方が出来ていない場合もあること、この2点をしっかり改善していくことが重要。裁量労働制は否定しないが、これらが改善されない状況では、安易に適用者を拡大すべきではない。
○コロナ禍での働き方の変化・不安、特にテレワークについての問題点としては大きく3点ある。
1点目は、テレワークの性質上、管理者の目が行き届きにくく、オン・オフの区別がつきにくく長時間労働につながりやすいこと。
2点目は、テレワーク時にコミュニケーション不足になること。これに伴うメンタルヘルス疾患の者が増えているという話も聞く。
3点目は、業種柄、テレワークできない職場・職種の労働者も多くおり、他方で、テレワークしている労働者の中にもコミュニケーション不足等の関係で不満を持つ者も一定程度おり、その中で一律にテレワークを推進しても一体感ができにくく、双方の不公平感につながっている。組織で仕事する上で、お互いの働き方の違いを認め合うことが非常に大事であるため、その点に各々が不満を持っているということに、労働組合として課題感を持っている。
2 B組合(情報通信業の労働組合/所属企業の従業員10,000名以上(裁量労働制適用者の割合:全体の約2%(専門業務型:約7割、企画業務型:約3割))
○適用業務としては、専門型の一例では通信インフラに係る開発・設計・分析業務が挙げられ、昨今ではアジャイル開発(計画→設計→実装→テスト)が入ってきている。企画型の一例では通信及び関連事業に対する市場等の調査分析企画業務が挙げられる。
○適用対象者は、管理職一歩手前の者や、新卒入社で4年経過した者など、自律的・主体的に業務を遂行できる労働者に限り対象としている。一部の組合員の中には、働き方改革による時間外労働の削減や育児・介護を理由に裁量労働制を希望する者も出てきているが、会社と労働組合で、制度趣旨等を説明し、適用するべき者を確認している。
○みなし労働時間は7.5時間。関係するメンバーやチーム内の協調の趣旨で、標準労働時間(9時~17時半)を設定しているが、拘束力は設けておらず、実態として10時から始業しているケースもある。
○適用労働者の標準労働時間以降の労働時間(17時半~翌9時)は、通常勤務者(時間管理されている労働者)と比較して月23時間程度長い。深夜勤務や休日労働も一定程度発生しているが、裁量労働制は業務遂行や時間配分を自律的に行えるため、働き方の自由度が高まっていると考える。
○適用労働者の給与体系については、評価と発揮した成果を給与に反映することが望ましいと考えており、制度主旨から時給制の考え方は持っていない。
○適用労働者に対し、月例賃金の中で基本給に加えて裁量労働手当を支給されているほか、賞与の中で個人評価結果に応じた賞与インセンティブを支給。手当は割増賃金相当の補填の趣旨ではなく、自己裁量を発揮して働くことに対する手当と考えている。年収で比較すると、適用労働者と通常勤務者間で大きな差があり、適用労働者のほうが高い。評価方法については、適用労働者と通常勤務者は同一。
○新たに適用部門を増やす場合、2段階にわたり労使協議を行っている。初めに、新規の適用部門・人事部門・労組本部の間で適用可否(法的合致、適用予定者の精査、長時間労働対策)を通常2か月超協議し、場合によっては適用見送りのケースもある。その後、会社側・労組側、双方から適用予定者に制度説明や制度適用に係る意見確認を必ず行った上で、2段階目の労使協議として労使委員会で決議を行うが、最初の協議で確認した点と異なることがあれば、この段階で適用見送りとなるケースもある。その後、最後に本人同意を経た上で、制度の適用開始となる。
○労使委員会の議題についての希望や改善要望としては、まず、新規適用に際しては、みなし労働にせざるを得ない背景・理由を明確に議論することが必要。また、一部の適用労働者からは、業務を効率良く自主的に進めても上長から次々と業務が追加されるとの意見も出ており、本当にこの業務追加は適正か、長時間労働となっていないかについての議論や、勤務間インターバル等の対応など健康面のチェックが必要。
○裁量労働制の本旨に沿った運用のための労働組合と労働者間のコミュニケーションについては、適用前は、組合から適用予定者に対して適用希望の有無や懸念点等を事前確認する。適用後は、労使委員会(半年毎)前に職場での実態調査を実施し、制度の継続可否や業務の進め方の課題、長時間労働の実態等について調査を行っている。
○適用労働者の制度適用に対する反応としては、前述の実態調査によれば、恒常的に、適用労働者の約9割が制度を肯定的に捉えているとの結果(制度継続を希望、裁量をもって主体的に働いていると回答)が出ている。また、働き方改革による長時間労働の改善や、時間をある程度気にせず最後まで業務をやりきれるため、制度への満足度は高い傾向。適用労働者からの苦情は労働組合ではほぼ認識していない。
○労使コミュニケーションに関しては、一部の適用部門の管理職や人事担当における裁量労働制の内容の認識が乏しく、組織改編による業務移管や担務変更等の際に、これに合わせた裁量労働制の適用継続又は除外の対応を適切に出来ていないケースも見られることから、管理職等の制度認識向上を常に図っていくとともに、課題が生じた時にいつでも柔軟に労使協議できる仕組みを整えておく必要がある。
○自己裁量の発揮を可能とする社員育成を行う必要があると考える。
○労働時間の状況の把握方法は、PCのログ管理及び自己申告で行っているが、始業終業間の中抜けや休憩時間も含めてカウントしている労働者もおり、「PCログ=実労働時間」とは言い切れず、完全な形で実労働時間を把握できていないため、適用労働者が長時間労働とは断定できない状況。
○健康・福祉確保措置としては、長時間労働者への産業医の面談のほか、勤務間インターバル(1日の労働時間が13時間半を超えた場合に、翌日勤務まで9時間を確保)を義務付けている。勤務間インターバルは裁量労働制導入時に労働組合から強く求めて長時間労働回避のために入れたもので、毎月、労使間でその確保状況や労働時間をチェックし、会社側も力をいれている点のため、業務量や分担、マネジメントの是正は非常に力を入れて取り組んでいる。そのほか、みなし労働時間を超える労働時間が月間75時間を3か月連続で超過した場合、上長と面談の上でその後の制度適用を判断することとしているが、実態として長時間労働が恒常的に生じている労働者はおらず、制度適用したまま職場内での業務配分等による改善・調整が行われ、課題解決が図られている。
○裁量労働制は、業務の進め方・時間配分を労働者自身で決められて自律的な働き方が実現できるため、心身には良い影響があると考えている。
○裁量労働制に対する意見として、まず、企業に対する要望としては、業務量の適正化、組織改編時に適用業務を適切に見極めるための相応の時間を準備すること、管理職を含め全ての労働者の制度理解等を継続的に行うこと、また、前述のとおり、みなし労働にせざるを得ない背景・理由を明確にすること等である。現在、労使間でコアなしフレックス制度の導入を協議中だが、この制度下で自己裁量を発揮し自律的に働けるようになった際には、みなし労働をやめることも考えられ得る。制度に対する要望としては、曖昧さによる誤認や拡大解釈が生じないよう、対象業務の精査や明確化を図るべきである。
○テレワークについての問題点・改善点としては、特に3点ある。1点目は、自宅勤務を想定した住環境を準備していない労働者がおり、公私の境界が曖昧になっていること。2点目は、自宅ネットワーク環境により、PC上の画面に顔を出さない場合、表情や反応が読み取れない結果、コミュニケーション不足となり、こうした積み重ねが心身の不調にもつながっていること。3点目は、在宅勤務が続いて運動不足などにより生活習慣病への懸念が高まっていること。こうした点に労使間で注力する必要があると考えている。