第3回これからの労働時間制度に関する検討会 議事概要

労働基準局労働条件政策課

日時

令和3年9月7日(火) 10:00~12:00

場所

厚生労働省省議室

出席者(五十音順)

荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授
小畑史子 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
川田琢之 筑波大学ビジネスサイエンス系教授
島貫智行 一橋大学大学院経営管理研究科教授
堤明純 北里大学医学部教授
藤村博之 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授()()()()

議題

企業からのヒアリング

議事概要

1 A社(電気機械器具製造業/従業員数 10,000名以上/裁量労働制適用者の割合:全体の約30%強(専門業務型:約9割、企画業務型:約1割))
○従業員が自らの知識・技術や創造的な能力を活かせるよう、仕事の進め方や時間配分に関する主体性を尊重し、対象者の働き方に対する意思をより重視することで、多様な人財が多様な働き方を実現し、生産性の向上・イノベーション創出につなげていくことを目的として裁量労働制を導入。
○裁量労働制適用の対象層となる職能等級は、従来の価値観や手法にとらわれることなく自主的に業務を遂行する者と定義づけており、対象労働者の意思を踏まえた上で、裁量労働制を適用することにより従来以上に業務効率の向上が期待できる者と会社が認定した者を適用者としている。
○原則として、裁量労働制の適用は半年に1度本人に確認を行い、適用除外は月単位で可能。適用除外の基準については、①本人から適用除外の申出があった場合、②業務の遂行手段及び時間配分の決定に関して具体的な指示を受けることが見込まれる場合、のほか、③所定労働時間を超えた時間が月80時間を超えた場合は自動的に翌月から適用除外にしている。
○みなし労働時間は、1日当たり7時間45分(所定労働時間)(法定休日を除く)。裁量労働手当を毎月支給。
○始業・終業時刻は、パソコンの起動終了時刻を元に客観的に把握しており、法定休日と深夜労働については、実働時間の管理を実施。
○健康管理措置が一番重要と考えており、所定労働時間を超えた時間が月80時間以上又は3か月連続で月60時間以上となった場合等に、健康管理措置として産業医等による健康診断や面接指導を実施。また、この水準に達した場合又はその水準に達する前に一定時間に達した場合に、勤怠管理システムを通じて、本人または上長に対して、長時間労働の可能性があるとアラートを発信するという機械的な運用も並行して実施。
○本人の基本給の3割程度を毎月の裁量労働勤務手当として支給。この水準は、制度導入に当たり、フレックスタイム制の適用者の平均的な残業時間も参考にして労働組合と議論し、合意に至った内容。
○日々の労働状況の見える化ツールを利用し、上長は部下の労務状況を確認して業務配分の見直し等を行っている。
○労使委員会は半年に一度実施し、各事業場単位で、適用状況、苦情の有無とその対応内容、所定労働時間を超えた時間の平均の推移、健康管理措置の実施状況、業務内容を踏まえた適用の妥当性を労使で議論している。
○労使委員会において、全体・個別の議論(個別の対象者の現状の業務における裁量性の有無)に加えて、労働組合による調査結果を踏まえた議論(裁量労働制によって成果が出ているのか、制度の目的に沿った働き方ができているのか)も行っている。
○専門業務型も含めて労使委員会で議論を行っているが、現状、企画業務型と専門業務型で労基署への報告など手続面で少し違いがある中で、例えば制度の運営は労使での真摯な議論に委ね、手続面はできる限り専門業務型と合わせることも検討の一つではないかと考える。
○裁量労働制の目的や、適用できる場合、適用除外すべき場合、Q&A(裁量労働制とフレックスの違い等)について、ハンドブックを作成して従業員に周知をしている。
○企業としては、裁量労働制は本人が生産性を高めるための仕組みとしてより柔軟で使いやすいものとなれば更なる活用に繋がると考えるが、反対に、対象者が制度をよく理解していない状況がある場合、もしくは制度としては理解されているものの、対象部署の人たちの業務が忙し過ぎて結果として裁量労働制にそぐわない状況となることが見込まれているのであれば、無理強いはしないことが必要と認識。
○裁量労働制の課題としては3点認識。
1点目は、企画業務型の対象業務の範囲について、いわゆる課題解決型の提案営業は、業務遂行の手段や時間配分等の裁量を委ねることで、さらなる生産性の向上や多様な働き方の実現につなげることができるのではないか。
2点目は、現行法では企画業務型と専門業務型に少し手続面で差があり、運用の煩雑さがある。
3点目は、一般的に、在宅勤務・テレワーク環境下においては出社時と比べて厳密な労働時間管理が難しく、それが長時間労働を招くことも懸念されているため、その中で、労働状況の把握や健康管理措置等について、労使でしっかりと議論し、適確・厳格に運用することが重要と考えている。

2 B社(その他金融業/従業員数 約3000名/裁量労働制適用者の割合:全体の約1%(専門業務型:2割、企画業務型:8割))
○企画業務型裁量労働制を導入した目的としては、成果主義の徹底促進を図るため。報酬自体を時間の長い・少ないではなくて、成果に応じて支払うというコンセプトを明確にするための制度として導入した。
○勤務管理については、本人の時間配分に任せるが、健康管理の必要性から、勤怠管理システムへの入力を求めている。
○労使委員会を年1回開催し、翌年の運営事項について議論・決議をしている。
○対象部署は、基本的に業務部門全体もしくは会社全体に影響を与えるような業務を所管             している部署で、対象者は、当該対象部署に所属する、職能資格でいうと総合職、いわゆる全国転勤型の者を対象に適用。ただし、管理監督者や新規学卒から7年目までなどの階層や事務作業が中心の職種は対象外。
○みなし労働時間は、1日あたり9時間。所定時間外労働の45時間相当を裁量労働手当として設定。
○健康福祉確保措置では、まず、人事部から疲労蓄積度自己診断チェックシートをメールで送付して、産業医が健康診断結果や人間ドックの結果と照らし合わせて、健康指導や面談が必要だと判断した場合には、面談等を勧奨している。チェックをする基準値は、労働安全衛生法に基づく長時間労働者の面談基準と合わせ、法定時間外労働が単月で80時間超えの者または3か月平均で70時間を超える者を対象にしている。また、こうした状態が続き、産業医と話をした結果、当該者に裁量労働制を適用し続けるのは健康上問題ありとの指摘や懸念がある場合には、適用解除することにしている。
○苦情処理は、人事部と労働組合側の労使委員をそれぞれ窓口としているが、今のところ、苦情が寄せられたことはない。
○不同意者については、通常の時間外勤務対象者として取り扱う。
○労働時間管理については、働く時間配分は適用者の裁量に任せるが、実際の始業終業時刻や中抜け時間を適用者自身が勤務表に入力することとしている。
○労使委員会は1年に1回、年度末付近に開催し、来年度の適用部署、適用業務、健康確保措置の見直しや、当該年度の4月から2月までの適用者と非適用者の部署ごとの労働時間について議論している。労使委員会としては年1回だが、別途、労働組合と定期的に情報交換会をしており、組合で独自に毎年実施する働き方に関するアンケートについての報告と会社への意見書を組合から出していただき議論している。兼務で非専従の労働組合のため、組合の負担も考慮し、無理のない範囲で、かつ漏れがなくということを目指して行っている。
○適切に本人の裁量の有無を確認する観点から、制度適用の入口は厳しく運用している。まず、人事部から対象部署の部長に適用候補者リストを送り、適用候補者本人と部長で話をした上で、本人が裁量労働制の適用を希望する場合は、本人の業務内容や上司の指示の有無・程度について、本人と上司の認識が合っていれば、部長から人事部に適用の申請をする。人事部でも問題無しとの確認ができれば、適用を承認し、適用者を確定するというステップにしている。また、適用開始以降も、問題があれば適用を解除する可能性があることを明らかにしている。
○本人が同意を撤回しても、評価上の不利益な取り扱いなどはない。
○対象部署であっても、本人の意思により適用しないことも、適用後に解除することも可能。解除したい場合、同意撤回書を提出すると、翌月から解除される。
○裁量労働制の適用者の上司に対しては、上司として認識・配慮すべき点を周知。
○裁量労働制の在り方としては、固定的なルールで縛るよりは、基本的な考え方を示した上で、各現場で判断できる仕組みにしていただけるとありがたい。国から、制度の運営に対する基本的な考え方(導入企業が基本的に守るべき方針・ポリシー)のほか、実際の労災事案や、企業活動・働き方の変化を踏まえた留意点について、定期的に情報発信をしていただけると、労使お互いに業務状況や環境の変化にマッチした働き方を追求できるのではないかと考える。