第96回労働政策審議会障害者雇用分科会

第96回労働政策審議会障害者雇用分科会
 
審議開始日
令和2年3月26日
議決日
令和2年3月30日
(持ち回り審議による)
 
○委員
阿部 正浩(中央大学経済学部教授)
倉知 延章(九州産業大学人間科学部教授)
小原 美紀(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)
武石 惠美子(法政大学キャリアデザイン学部教授)
中川 正俊(田園調布学園大学人間福祉学部教授)
長谷川 珠子(福島大学行政政策学類准教授)
内田 文子(全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会中央執行委員)
岡本 賢治(サービス・ツーリズム産業労働組合連合会会長代理)
仁平 章(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)
森口 勲(全日本自動車産業労働組合総連合会副事務局長)
門﨑 正樹(全日本自治団体労働組合社会福祉局長)
佐渡 康弘(愛媛県ビル管理協同組合理事)
塩野 典子(富士通ハーモニー(株)取締役)
高橋 陽子(ダンウェイ(株)代表取締役社長)
正木 義久((一社)日本経済団体連合会労働政策本部長)
松永 恭興((株)日立製作所人財統括本部人事勤労本部トータルリワード部長)
阿部 一彦((社福)日本身体障害者団体連合会会長)
小出 隆司(全国手をつなぐ育成会連合会副会長)
竹下 義樹((社福)日本視覚障害者団体連合会長)
眞壁 博美((公社)全国精神保健福祉会連合会理事)
 
○議事概要
持ち回り審議により第96回労働政策審議会障害者雇用分科会が開催されました。
 
 
【議題1・2について】
全委員から厚生労働省案は妥当と認められた。その上で、竹下委員から以下の意見があった。
○ 同行援護を通勤に使えるようにして欲しいという要望をかねてより行っていたことから、基本的に賛成する。
この新しい制度は、障害者雇用納付金制度に基づく助成金と地域生活支援事業との合わせ技であるため、複雑な仕組みとなっており、実効性が懸念される。
 福祉制度の地域生活支援事業は、同行援護制度とは違ってメニュー事業なため、自治体格差が生じることは必至である。通勤という基本的なことに、自治体による地域格差が生じたり、障害者本人負担が生じないよう特段の配慮をお願いする。併せて、将来的には一般財源を導入して、必要な障害者がいつでもどこでも安心して利用できるような制度にすべきである。
以上のことを踏まえて、厚生労働省案は妥当とする。
 
【議題3について】
全委員から厚生労働省案について了承された。その上で、竹下委員から以下の意見があった。
○ 厚生労働省案については、基本的に了承するが、以下のように意見を述べておきたい。
目標項目案に「ハローワークのマッチング機能の評価」があるが、ハローワークでの目標設定は、失業率と新規求職者の動向を分析し、その新規求職と有効求職者(保留、就職を外した求職者=ハローワークの紹介に応じられる、働く意思と能力のある求職者)にどれだけの職業紹介を行い、その結果どれだけの就職数が出てくるかである。新規求職者数と就職者数からだけでは、ハローワークの努力、真のマッチング機能の評価はできない。
 したがって、ハローワークでの新規求職者数、有効求職者数、紹介件数、就職数を公表した上で目標設定をすべきである。そのことにより、紹介率、新規就職率、有効求職者就職率が正確に把握できる。
難病、高次脳機能障害は、障害者手帳の対象とならなくても「障害者」として職業リハビリテーションの対象として支援される。2018年度は、年間でその他5,152人のうち発達障害が1,956人となっている。発達障害者の確認方法は、都道府県によって異なるが、精神保健福祉手帳、療育手帳の対象である。なぜその他の障害カテゴリーのままなのか疑問である。
 
【議題4について】
<公益代表>
○ 阿部分科会長
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 政令で既に決定されている事項であり、令和3年1月1日に実施することが望ましい。現下の新型コロナウイルス感染症による労働市場の混乱はあるものの、政府も適切に対応を行い、関係者一丸となって障害者雇用の着実な進展が見られるよう努力すべきであると思量する。
○ 倉知委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 各企業においてはこれまで、来年度中の法定雇用率引上げを見据えて、採用活動等を計画的に進められてきたと考えるのが基本であり、令和3年1月1日の引上げは引き続き妥当と考える。
○ 小原委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 法定雇用率の引上げの時期については、来年度中に行われるものとして従前から予定されており、各企業で準備が進められてきたことと思うが、新型コロナウイルスの影響を注視しながら判断することが必要であろう。
・ ただし、新型コロナウイルスの影響により障害者の雇用が困難になっていると安易に考えるようであってはならない。例えば、健常者だけでなく、障害者についても、テレワークを促進し、障害者も柔軟に働きやすい環境を整備する契機とすることが重要。
・ 障害者雇用の促進に当たっては、労働者個人の比較優位・得意分野に着目して労働生産性を向上する考え方が有効である。テレワークに向いており、又はテレワークが可能な障害者も多いため、テレワークの促進により、不況時にも企業活動に資する形で、障害者の活躍の場の拡大に繋げられる可能性は高いと思う。
○ 武石委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 新型コロナウイルスの状況も考慮する必要があるが、政府において、各種の経済対策により精力的に取り組まれているところ。その中で、本来の障害者雇用率の水準に、従前の予定通り移行させない場合には、障害者雇用に対する負のメッセージとなる恐れがあることに留意が必要。
○ 中川委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 新型コロナウイルスの影響が拡大していく中で、法定雇用率の引上げ時期の判断が難しくなっているが、延期すべきと判断することも難しい。今後とも新型コロナウイルスの影響を注視しながら、検討することが重要ではないか。
○ 長谷川委員
・ 厚生労働省案について、了承する。
 
<労働者代表>
○ 内田委員、岡本委員、仁平委員、森口委員、門﨑委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 障害者雇用率の0.1%引き上げ時期について、2021 年1 月1 日とすることに異論はない。現下の情勢を踏まえつつ現場の混乱を最小限に留めるよう、丁寧な対応と周知に努めてもらいたい。今後も障がい者の雇用の促進にむけ、障害者雇用率は引き上げられていくこととなる。一方で、現場での合理的配慮や受け入れ体制も勘案しつつ、働く障がい者の側に立った施策が必要である。
・ 併せて、例えば障害者手帳を所持していない難病の方など、働きづらさを抱える方も障害者雇用率のカウントに含めるなど、障がい者の定義などについても議論が必要である。
・ また、将来的に全ての企業で雇用率が達成されれば、納付金制度は成り立たなくなる。障害者雇用を進めていくため、雇用率制度や納付金制度の在り方についても議論が必要である。
 
<使用者代表>
○ 佐渡委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 多くの企業が、コロナの影響を受けており、終息まで、今後も経営上様々な影響が考えられる。経過措置を1年延長する選択肢もあるのではないか。
○ 塩野委員
・ 弊社は特例子会社であり、主な業務は、親会社の事業所内で行っているオフィスサポート業務やヘルスキーパー業務(マッサージ)である。
・ 日々新型コロナウイルス感染症が拡大していく中、親会社はテレワークを推奨しており、事業所在籍者が減少している。
・ これに伴い、現在お弁当販売やヘルスキーピング等、一部の業務では業務量が減少しており、今後も様々な影響の拡大が想定される。
・ 新型コロナウイルス感染症の今後の影響が不透明な中での、障がい者雇用率引き上げの時期の判断は難しく、判断の先延ばしをお願いする。
○ 高橋委員
・ 日本商工会議所の3月の景気早期観測調査(調査期間:3月13日~19日)では、9割超の事業者において、「製品・サービスの受注・売上減少、客数減少」など、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経営への影響(懸念を含む)が生じている。企業の業況感を示す全産業合計の業況DIは▲49.0ポイントと、東日本大震災発生後の2011年6月以来の水準に落ち込み、2月からの悪化幅▲16.4ポイントは、過去最大を記録した。
・ 国内の感染防止拡大に向けた政府の自粛要請を機に、地域の経済社会活動は一段と制約され、自粛の連鎖により、幅広い業種の中小・小規模事業者において、その経営は危機的状況に陥っている。
・ この未曾有の困難に直面し、雇用維持といった観点からは、雇用調整助成金の要件緩和、助成率の引き上げ等2度にわたる政府の緊急対策が実行されたところであるが、刻一刻と経営が悪化する事業者に対し、倒産や廃業を防止するためには、支援体制の強化と施策の更なる拡充が求められている。
・ こうした有事の状況下において、政府、事業者とも、新型コロナウイルス感染症に対応しつつ、企業の存続、雇用の維持のために、総力を挙げて取り組んでいる所である。もとより、障害者雇用の取組み・理解促進については、何ら異論をもつものではないが、障害者雇用率引上げ時期の判断については、新型コロナウイルス感染症が、企業経営や雇用に与える影響をしっかりと見極め、十分な把握・分析できるまで見送る必要があると考える。
○ 正木委員
・ 障害者団体、企業、政府の取組みにより、障害者雇用は着実に進展しており、関係者各位のご尽力に敬意を表する。これまでの成果を踏まえ、今後、本分科会において、障害者雇用率2.3%への引上げの時期について真摯に検討することが重要である。
・ しかし、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界各国は未曾有の危機に見舞われ、経済社会に大きな混乱が生じている。 わが国においても、経営に深刻な影響が及んでいる企業は少なくない。
・ こうした企業では、雇用調整助成金の活用を含め様々な経営努力を行い、社員の雇用維持と感染防止に懸命に取り組んでいる。企業の現状をみると、事業運営の面では、人やモノの流れが停滞することで国内外のサプライチェーンが十分に機能せず、通常の生産活動が行えないケースが生じ始めている。また、勤務体制の面では、多くの企業において、社員の感染防止のために時差出勤や在宅勤務、自宅待機などを実施している。
・ こうした事業運営や勤務体制の変更は、障害を持つ社員の働き方や業務にも大きな影響を及ぼしている。具体的には、職場や工場等の補助業務、厚生業務(弁当販売やマッサージ等)を担う社員については、在宅勤務に切り替えることは難しく、勤務時間の短縮や休暇・休業扱いとするなどの対応を余儀なくされているケースがある。出社できる場合には、障害特性を考慮しながら、感染リスクから社員を守ることに尽力している。また、事業の停滞によって業務量が減少し、新たな業務の開拓が必要なケースも見られ、今後の見通しの不透明感は一層高まっている。さらに新規採用については、障害特性によっては、web面接等の代替手段が取りにくいケースもあり、感染リスクを考慮すれば、通常の採用活動を実施することは困難な状況となっている。
・ かつてなく厳しい現状を鑑みて、雇用率引上げの時期の判断については、新型コロナウイルス感染症の拡大が企業経営や労働市場に及ぼす影響をしっかりと把握・分析できるまで見送る必要があると考える。
・ 政府には、障害を持つ労働者の雇用維持を図るため、新型コロナウイルス感染症の拡大が障害者雇用に及ぼしている影響を把握するとともに、必要に応じて、休暇・休業中の障害を持つ社員に対する福祉的な支援など、機動的かつ柔軟な支援を求めたい。
・ 企業として、今後も障害者雇用のさらなる進展に積極的に取り組む姿勢は不変である。しかし、当面は、職場で働くすべての社員の雇用維持を最優先に取り組むことが極めて重要である。
○ 松永委員
・ 新型コロナウイルス感染拡大の影響については、当社においても、すでに特例子会社が受託している業務への影響が出ており、年次有給休暇等で対応を図っている所である。
・ 昨今の世界的な状況を踏まえると、短期的な事業活動への影響は勿論の事、サプライチェーンの混乱等から、長期的な影響が想定される。
・ 従って、障害者雇用率の引き上げについては、現時点で時期を決定するのではなく、影響を明確に把握し、その対応を具体的に検討できるまで、見送るべきであると考える。
 
<障害者代表>
○ 阿部委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 引上げ時期について、令和3年1月1日とする案に賛成する。
・ 確かに、新型コロナウイルスの社会・経済に与える影響は大きいが、今後のことも考えると、法定雇用率の引上げ時期は延期すべきでないと考える。そもそも法定雇用率は、民間企業について既に2.3%と設定されており、企業の状況に配慮して経過措置として2.2%としてきたもの。
・ 新型コロナウイルスについては、いつ終息するか分からない面もあるが、東京オリンピック・パラリンピック競技大会について来年の実施が打ち出され、見通しが立てられたところ。
・ 障害者についても、テレワークを含め、働き方・雇用管理を工夫する余地もあり、予定されてきた法定雇用率引上げが不可能になるほど、障害者の雇用が困難になっているとは言えないと考えている。
○ 小出委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 2020年度いっぱいで雇用率が2.2%から2.3%に引き上げられる予定もあり、雇用数は着実に増えていると認識。
・ 一方で企業側が雇用を急ぐことにより、本来であれば企業就労の準備が整っていない訓練が必要なレベルの障害者まで、雇用率達成のために雇い入れが進められており、送り出す側としては不安があるところ。
・ こうした現状を踏まえると、コロナの影響にかかわらず2.3%とする際に準備が整っている状況であるか不安視している。不安解消の具体的な改善策を求めたい。
○ 竹下委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 民間企業の場合、現在は2.2%であるが、当初2.4%の数字を2.3%とした上でさらに猶予期間を置いたのであるから、予定通り、2.3%に引き上げることが当然と考える。よって、厚生労働省案には賛成する。
・ 経済界からは「景気動向やコロナ問題で大変だから雇用率の引き上げは困難」との意見もあるが、景気の良い時代に雇用率を達成していたかと言えばそうではない。コロナ騒動の影響で障害者が真っ先に解雇されないためにも、雇用率は規定通り上げるべきである。
・ 資料4によると、「各指標について、過去最高を更新中」とあり、また、民間企業の雇用状況を見ても、実雇用率が2%を超えたとある。このことは、法定雇用率制度ができた当初から考えると、隔世の感がある。
・ しかし、視覚障害者の実感としては、いわゆる「61調査」における身体障害者の部位別の状況が公表されていない中、むしろ厳しさを増している。視覚障害者の場合、制度はあっても、社会資源が少なく、必要な訓練やジョブコーチ支援などが受けられない。これは、いくら雇用率を引き上げたからといって解決できる問題ではない。
・ そこで、「61調査」で部位別の実態を明らかにするとともに、実雇用率が2%を超えた今だからこそ、雇用率にとらわれずに雇用の質について考え、障害の種別に応じた働き方、よりきめ細やかな支援の在り方(例えば、視覚障害の場合、中途視覚障害者の継続雇用支援など)について、具体的な対策を議論すべきである。
○ 眞壁委員
・ 厚生労働省案について、了承する。その上で意見は以下のとおり。
・ 障害者雇用率の0.1%引き上げの時期を、令和3年1月1日よりに賛成です。
・ 新型コロナウイルス感染拡大で、景気悪化が心配ですが、これは全国民的課題としての対策が求められるところです。仮にこの経済状況によって、雇用率を据え置いたりするならば、一番弱い立場にある障害者の雇用は、一般の雇用の補完的位置づけに留まります。これまで障害者の雇用が本質的な位置となるように、経営、労働、障害等の各分野から一丸となってとりまとめてきた雇用率を定める意味がなくなってしまいます。景気状況とは区別しての対応がなされることを強く求めてます。
・ 新型コロナウイルスへの対策で、各企業では職員のテレワーク等をすすめることが加速しています。そのような経験から障害者雇用に適した新たな仕事を見いだすチャンスではないかと考えます。障害者にとっては、慣れない所に行くより自宅で仕事ができれば、就労へのハードルが下がると思います。
 
【その他について】
○ 中川委員
・ 今後とも、精神障害者の雇用を促進する上で、身体障害者の部位別の分析だけでなく、精神障害者についても、等級別・疾患別(統合失調症、そううつ病、てんかん等)等で可能な限り詳細な分析を行うこと。精神障害者の雇用者数・就職件数が増加傾向にあると言っても、等級別・疾患別に偏りがあるかもしれず、詳細な分析を行うことにより、重要な課題を見出すことができる可能性がある。
○ 竹下委員
・ 障害者雇用納付金制度に基づく助成金は、法定雇用率が達成した暁には、納付金財源が枯渇するという制度的矛盾を内包している。本連合は、公務員などが障害者雇用納付金制度に基づく助成金や雇用保険財源の助成金を使えない問題を指摘し、公務員も民間企業と同様に使えるよう、一般財源の導入を要望している。
・ そのために、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構法の改正が必要ならば、その改正も含めて検討すべきである。