新型コロナウイルス最前線


第14回
これからの新型コロナウイルス感染症対策
~国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP)の活動とJILPTの調査データから考える~


“まだ終息の見えない”新型コロナウイルス感染症。本連載では、その動向や対策などを紹介しており、今回は、クラスター発生の早期に介入し感染拡大の抑え込みに貢献しているFETPの活動や、労働に関する総合的な調査・研究を実施するJILPTの第4回研究結果について解説します。
 

国立感染症研究所実地疫学研究センター長
砂川富正先生


全国41都道府県、合計210のクラスター事例に対応


——FETPの活動とは?

 国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース(FETP:Field Epidemiology Training Program(以下、FETP))は、昨年2月10日から10月26日にかけて、全国41都道府県からの要請を受け、合計210の新型コロナウイルス感染症のクラスター発生事例に職員や修了生が早期に介入することで、新型コロナウイルス感染症の拡大の抑え込みに貢献してきました。

 もともとは、1996年に大阪府堺市を中心に起こった「腸管出血性大腸菌О157」による食中毒の大規模集団発生事例をきっかけに設立し、1999年9月から活動を開始しました。感染症の危機管理事例が発生したときに、積極的疫学調査を行う自治体を技術的に支援し、感染源推定や全体像を把握すること、原因の究明や感染拡大を抑え込むことに貢献しています。


——主にどのような調査を行っているのですか。

 私たちの仕事は、大規模な感染症が発生したときに自治体の要請を受けて現場に入り、感染症法第15条に基づく積極的疫学調査の支援を行っています。自治体の要望に応じてデータのまとめおよび記述疫学、患者本人、患者と接触のあった人から聞き取り調査をし、クラスターの発生要因や感染ルートの究明、医療機関や福祉施設等における感染管理対策のアドバスを行うことで感染拡大の抑え込みを図っています。また、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策本部クラスター対策班接触者追跡チームとしても活動し現場支援をしています。

 新型コロナウイルス感染症については、これまでに延べ約1,404日、全国210の事例に対応し、FETPの研修生・修了生など、のべ605人が活動にあたりました。210事例のうち医療機関が3分の1強、次いで高齢者施設となり、両者で全体の半数くらいになりました。
 


▲「靴に穴があくまで足を運んで調べよ」を体現するように、新型コロナの調査では本当に靴に穴が開いたスタッフが続出した



ワクチン接種後のブレークスルー感染に注意


——新型コロナの感染の特徴は?

 事業所など密な空間で長時間、近距離で接触する環境が挙げられ、飲食店などで多くの人がマスクを外す場面はその傾向が強まっていました。

 当初、病院や介護施設での主な感染拡大経路は、看護・介護などの業務にともなう飛沫感染、身体接触の多いケアを中心とする接触感染が多く、物品の共有(リネン等)を介した感染も報告があります。職員同士では、換気しにくく狭く密になりやすい環境での飛沫感染が多く見られました。いずれも随分改善してきたと思います。


——ワクチン接種後のブレークスルー感染※について、どのようにお考えですか。

 これまでに10数事例ほど調べました。ワクチン接種者が感染をした場合、軽症のことが多いので、本人は人にうつすリスクを自覚していません。そういう人が医療機関や施設に入ると、知らないうちにほかの人への感染を広げてしまいます。

 第6波に対する備えとして、ブレークスルー感染に注意が必要です。ワクチンの接種率を高めて、接種後も、マスク着用など基本的な感染症対策を続けることが求められます。

※ワクチンを接種した後(免疫の獲得後)に感染した場合をいう
 


長時間の飲酒は感染リスク大 マスク着用や換気が大事


——年末年始、会食が増える時期の注意点は?

 できれば90分以内、長くても2時間くらいの設定で会食や飲み会は行うようにしましょう。

 今年6~7月に実施されたワクチン非接種者を対象とした調査では、昼よりも夜の会食、同席人数5人以上、滞在時間2時間以上、飲食時以外にマスクを着用していない場合において感染のリスクが高まることがわかりました。

 また、去年の第2波のときの調査では、長時間の飲酒と、寮など共同生活にはリスクがあることもわかっています。多数の人と、換気の悪い密閉空間で長く接することで、空気中に漂う微粒子(エアロゾル)を吸い込み、感染してしまうリスクが高まります。

 こうした環境をできるだけ回避し、「人と会話をするときはマスクをする」「寒いけど換気する」ことを心がけてください。
 今は落ち着いていても、海外の状況を見ると、このまま感染が収束するとは考えにくいので、基本的な感染対策に留意しましょう。


——年末年始の百貨店や商業施設での感染対策は?

 たとえば、今年の8月に東京都・大阪府などの百貨店でクラスターが発生しました。調査すると、百貨店でのクラスター発生は「地下食品売り場」に多く、「来店者が多い時間帯」に感染しやすいことがわかりました。

 厚生労働省での議論として「百貨店を閉めるべきか」という話になった際に、調査結果を説明し、人数制限やCO2センサーによる空気のよどみ具合の調査で対応できることを伝えました。

 

早めに対応し感染の芽を摘み取る


——今後は、どのような活動を行っていくのですか。

 専門とする「疫学調査」を深掘りすることで、私たちの存在意義を高めていきたいと思っています。

 これまでは自治体からの支援要請を受けて調査していましたが、要請がなくても、世の中で問題になっている事象について自治体とともに調査して解決策を模索していくことを始めています。

 自治体と一緒に早期に濃厚接触者を特定し拡大を食い止めることができれば、さらに大きな流行を防げたりします。「疫学調査」は地味な仕事ですが、早めに対応して感染の芽を摘み取れる重要な活動だと思っています。


 


<コロナ環境下における企業のデジタル化や労働環境の変化を調査>

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)プロジェクトの第4回企業パネル調査の結果に基づく「テレワークなどデジタル化の取組の実施状況、コロナ前と比較した労働者の増減と1年後の予測」について、同法人の主席統括研究員の中井雅之さんが解説します。

 

 独立行政法人労働政策研究・研修機構(以下、JILPT)は、内外の労働事情、労働政策についての総合的な調査・研究などを行うとともに、労働行政の第一線機関(労働基準監督署・ハローワーク)のみならず、労使関係者、大学教育関係者等から研究成果自体を幅広く活用していただいている法人です。

 新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)は、雇用・就業面にも甚大な影響を及ぼしました。JILPTでは、昨年3月に「新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT」(コロナPT)を立ち上げ、同一の個人、企業を継続的に調査するパネル調査や結果の二次分析、国内外の統計データなどの収集・整理を実施し、雇用・就業へのコロナの影響を明らかにするための研究を行ってきました。

 今回は、今年6月に実施した第4回企業パネル調査の概要を紹介します。
 

業績回復企業において労働者の増加を見込む

 コロナの影響は、当初は日本経済全体に及びましたが、経済の回復が進むなかで飲食・宿泊業、運輸業で厳しい状況が続くなど、業種間格差が目立っています。

 一方、コロナ禍においても企業の人手不足感は根強く、今年5月末の労働者の過不足状況は正社員を中心に不足と考えている企業のほうが14.6ポイント高くなっています。コロナ前の日本は人手不足の状態にあり、経済活動が正常化すると、元の状態に戻ることが意識されていると推測されます。実際に、緊急事態宣言下での事業縮小等で従業員を減らした事業主が、事業再開時に人材確保に苦慮している状況が生じていることからもうかがえます。経営環境が好転する企業もあるなかで、3割弱(28.0%)の企業では1年後の労働者の増加を見込んでおり、情報通信業(48.1%)、飲食・宿泊業(40.2%)で増加の見込みが高くなっています。
 

テレワークなど3分の2の企業がデジタル化を推進

 同調査では、企業のデジタル化への取り組みについては、約3分の2の企業がこれまでにデジタル化に関する何らかの対応を実施したと回答しています。具体的には、「テレワークの実施」(27.8%)の回答割合が最も高く、次いで「ペーパーレス化」(27.5%)、「業務におけるオンラインの活用」(22.0%)、「業務データのクラウド化」(18.6%)などとなっています。

 今後(ポストコロナ)におけるデジタル化に関連する変革についての考えを尋ねると、いずれの項目においても、より推進される見通しを企業が持っていることがわかります(図1)。
 


 なお、今回急速に進んだ企業の在宅勤務(テレワーク)の実施割合の推移をパネルデータでみると、昨年4月の1回目の緊急事態宣言の発出とともに実施割合が大幅に上昇した後、宣言の解除とともに低下しましたが、その後の感染拡大、再度の緊急事態宣言とともに再び上昇しました。

 産業別には、情報通信業で高い一方、小売業、運輸業では低くなっているなど大きな差があり、テレワークのしやすさが産業によって異なることを反映したものと考えられます。

 また、個人パネル・企業パネル調査の二次分析の成果が『コロナ禍における個人と企業の変容 働き方・生活・格差と支援策』のタイトルで書籍化されましたので、ぜひご覧ください。
 

これらの調査・研究の成果については、JILPTのHPに掲載しています。


 

<賛同団体の取り組み>

「#広がれありがとうの輪」プロジェクト


【賛同】公益社団法人 全国老人保健施設協会
 公益社団法人全国老人保健施設協会では、介護施設等に従事する方々にメンタルヘルスの相談支援窓口「コロナ・ココロの相談」を開設し、サポート体制を構築しています。
 介護の現場は密を避けることができず、感染のリスクは非常に高いものとなっています。このような状況のなか、通常の介護サービスを提供しながらコロナの対応も求められています。介護に従事者される方々に感謝とエールを送りし、「#広がれありがとうの輪」プロジェクトに賛同します。



 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年12月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省