新型コロナウイルス最前線


第7回
コロナ禍の雇用・女性支援プロジェクト~もっとあなたを支えたい~

世界中で大問題となっている新型コロナウイルス感染症。本連載では、その動向や対策などを紹介しています。第7回に取り上げるのは、今年2月22日から始まった、「コロナ禍の雇用・女性支援~もっとあなたを支えたい~」プロジェクトです。同プロジェクトチーム(PT)の事務局に、これまでの経緯を聞きました。併せて、座談会「ONE TEAMでコロナを乗り越える」の後編(前編は4月号)も掲載します。


始まったきっかけ

 新型コロナウイルス感染症による影響が社会の各層に広がるなかで、雇用者数の減少は男女ともに見られますが、女性の非正規雇用者が多いのが特徴です。また、自殺、失業、DVなどの多くの問題がコロナ禍で女性を中心に顕在化しています。

 こうした状況を踏まえて政府としては、雇用維持のための助成金や緊急小口資金などの生活支援策等を実施していますが、真に支援を必要とする方々にその情報が届いていないという現状があります。制度の情報をよりわかりやすく発信し、必要とする一人でも多くの方に届くよう広報を強化するため、支援のあり方や効果的な広報方法等について、発信力のある有識者の方々も交えて議論し、困難な問題を抱える方々に必要な支援が十分に行き渡るようにすることを目的に同プロジェクトを発足しました。


具体的な取り組み

 リアルとオンラインのハイブリッド型の会議形式にて、有識者の方々を交えて、取り組みの現状と課題点、改善策をディスカッションしています。全五回を予定しており、第一回目は「雇用・人材開発支援」(2月22日開催)、第二回目は「生活支援・自殺防止」(3月18日開催)、第三回目は「職場環境改善・子育て」(4月6日開催)について、当事者を現場で支援している専門家等を交えてディスカッションしました。

 第四回目以降は、これまでご助言いただいた内容と厚生労働省の情報発信の仕組みを踏まえて、具体的な広報活動へとつなげていきます。


プロジェクトチームメンバー

 三原じゅん子厚生労働副大臣をリーダーに、職業安定局を中心とした事務局を設置。発信力のある有識者の方々にご参加いただいています。

 第一回目では小室淑恵委員から「支援が必要な方のところに届けに行くプッシュ型の支援が必要」、第二回目では駒崎弘樹委員より「日本人は、『人に迷惑をかけるな』という社会的な圧があるので、援助希求力(「助けて」という力)がものすごく低い」、第三回目の不妊治療に関する支援については、ハイヒール・リンゴ委員より「私みたいに不妊治療を終えてしまった人間は声をあげることができる。ここで勉強したことをいろんなところに広げていきたい」といった発言もありました。


プロジェクトの最終ゴール

 厚生労働省のさまざまな支援策をより身近なものとして届けに行く広報をめざすことで、支援を必要とする方々の活用につなげていただけるよう、より一層強化して取り組んでいきます。

ディスカッションの様子







<事務局メンバーから>
 PTでは毎回、多彩なメンバーの方々から率直なご意見をいただくことができ、情報発信の重要性について自身の認識を改めるとともに、これまでのような「情報発信の方法」から転換しなければいけないと強く感じています。まずは自身が担当する分野から発信方法を工夫し、一人でも多くの方に施策の情報をお届けすることができるよう取り組んでいきたいと思います。

職業安定局 首席職業指導官室 職業紹介係長 武内俊也


<雇用・生活支援・子育て支援の取り組み>

◎デジタル訓練
ハロートレーニングでは、デジタル等の成長分野を含めた幅広い分野において、求職者や在職者が職業に必要なスキルを習得するための職業訓練を実施しています。デジタル分野のコースでは、WEBデザイン、プログラミング、OA事務等、未経験者や他業種からの転職者が就職に活かせるさまざまなコースがあります。


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◎求職者支援制度
求職者支援制度は、再就職や転職をめざす方が、月10万円の生活支援の給付金を受けながら、無料の職業訓練を受講する制度です。離職して雇用保険を受給できない方、収入が一定額以下の在職者の方等が、給付金を受けながら訓練を受講できます。給付金の支給要件を満たさない場合であっても、無料の職業訓練を受講できます。


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<座談会:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策推進本部 ONE TEAMでコロナを乗り越える(後編)>

新型コロナウイルス感染症対策推進本部の地域支援班、保健班、クラスター班のメンバーに、各班の取り組みを通して見えてきたことや感じたこと、国民や自治体、医療機関に知ってほしいことを語り合ってもらいました。


困ったら早めのSOS発信を

――国内で新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が発生してからこれまでの支援状況を踏まえて、それぞれの立場で思ったこと、考えたことを教えてください。

佐々木●地域支援班は、これまでさまざまな自治体へコロナ対策の支援に入ってきました。そうしたなかで思うのは、自治体はもちろん保健所や病院、施設に「困ったらすぐに白旗を上げて助けを求めてよい」と伝える必要があるということです。

寺谷●大きな自治体ほど「自分たちでなんとかしなければ」と頑張ってしまう傾向があります。支援を受けることは、悪いことではありません。私たちにとっても学びでもあり、積極的に支援(私たち)を使ってほしいです。早い段階での介入はコロナの拡大を防ぎ、収束を早めることができます。

近藤●本当にそうだと思います。できるだけ早い段階、「これから増えてしまうかもしれない」という可能性の段階でも、手を上げてもらって問題ありません。コロナの大きな波を経験していない自治体にこそ、支援を使うことを知っておいてもらいたいですね。

千島●大きな波を経験したり、それぞれの対策が機能せずその波をせき止めることができなかった病院や施設、保健所の人たちは自責の念が強く、元気がなくなっている姿も目にしてきました。対策をしていてもコロナが発生してしまうことはあるので、自分たちが悪いと責める必要はありません。
 近藤さんが「できるだけ早い段階で」と言うように、「手に負えなくなりそうだから一度見に来てほしい」と気軽に声をかけてください。

島田●大きな病院や施設、自治体でコロナが発生した場合、やみくもに対応しても収束しないどころか、さらに増えてしまう可能性もあります。そのため、指示命令系統をはっきりさせて対策を打つ必要がありますが、内部だけで対応すると専門性の高い意思決定が困難なケースもありました。独自にコロナ対策の組織や仕組みを設けているところに支援に入るたびに、第三者の目を入れたほうがよいと思いました。
 

地域間をつなぐことも地域支援班の役割

――地方自治体に向けてメッセージをお願いします。

寺谷●地域支援班の役割は、都道府県との連携がメインになっています。その先の市区町村については、都道府県から要請を受けて支援に入ります。しかし、実際は保健所から直接話があったり、病院関係者から「あそこは支援に入ってあげたほうがよさそう」などという声をもらったりして支援に入ることもあります。
 支援に入りつつ、それぞれの都道府県と市区町村をつなぐのも地域支援班の役割だと思っています。

近藤●地域間の関係性は、コロナ対策の支援に入るうえでも重要な要素になりますね。
 連携がとれているところは、人の補充や周辺の自治体への注意喚起なども、司令塔が明確で円滑に動きます。しかし、連携不足だと情報が入ってこないため、内部はパニックになり、外部からの支援も遅れてしまう、ということにもつながりかねません。保健所の「孤立」を防ぐためにも、自治体間の連携は必要であり、支援での課題にもなっています。

佐々木●各司令塔が結節点となっているのです。各自治体を支援するとともに学びを得て、国の施策を見直して整えながら、今日に至っています。地方と国の連携はますます重要となります。
 困ったことや不安なことがあれば、すぐに手を上げてください。ONE TEAMとなり、この状況を乗り越えていきましょう。



◎自治体の声

<宇都宮市から>

宇都宮市保健所 予防接種課
初貝未来さん

 宇都宮市での新型コロナウイルス感染症は、昨年12月中旬から新規感染者が急増し、年明けの1月上旬にピークとなりました。職員皆が目の前の仕事をこなすことで精一杯だった時に、厚生労働省からの人的支援がありました。疫学調査や健康観察への業務支援のほか、現状の評価や感染者のデータ管理方法等、具体的なご提案をいただき、庁内の応援体制の役割分担など、組織的に対応できる体制となりました。また、心身ともに疲弊していた職員のこころのケアもしてくださいました。業務がひっ迫した際に、多角的な視点から多くのアドバイスをいただき、1月中には収束を迎えました。ご支援に大変感謝しております。
 

<旭川市から>

旭川市保健所 新型コロナウイルス感染症対策担当部長
浅利 豪さん

 旭川市では昨年11月以降、3つの大規模なクラスターが短期間に発生したことにより、疫学調査をはじめとする市保健所の機能がオーバーフロー状態となりました。そのような状況下、厚生労働省には迅速な人的支援により、業務の効率化や保健師の派遣、入院調整に関するスキームづくりなどに尽力いただき、さらには当所職員が過酷な状況に置かれるなか、精神的支柱となっていただきました。その結果、クラスターの収束に至りました。
 

 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年5月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省