特集

コストではなく「投資」!
介護離職防止が企業を成長させる

 家族の介護が理由で離職した人は全国で約9万9,000人に上り、介護と仕事の両立は社会的な課題となっています。介護はいつ発生するかもわからず、介護の内容や期間も多種多様であることから、会社の理解がなければ仕事との両立は困難となりかねません。本特集では介護離職の現状を踏まえ、両立支援に取り組む企業事例や介護事業者の提言などを通して、介護離職防止の重要性とヒントをお伝えします。



<Part2>現状把握と対策を知る

◎介護離職対策が人材流失を防ぐ
 企業にとって「投資」

厚生労働省雇用環境・均等局
職業生活両立課 課長補佐:
加藤明子さん

 今後、高齢化が進み、家族の介護を担わざるを得ない人は増えていくことが予想されます。彼らが介護をしながら仕事を続けられる環境を整えることは、企業にとって急務の課題です。なぜ介護離職が起きるのか、企業はなぜ防止対策に取り組まなければならないのかを、国の支援策とあわせて整理してみます。


●「介護は突然始まる」ことを意識しておこう
 事前準備が大切です

 高齢化の進行により、今後、介護と仕事を両立する人は増えていくことが予想されます。働いている人は皆、「ある日突然介護が始まる」ことを意識しておく必要があります。介護は、妊娠・出産から始まる育児・子育てとは異なり、急に始まることが多いというのが特徴です。介護について知らない、わからないままでは対応ができません。これは、介護者自身だけでなく、介護者を雇用している企業にも言えます。今はまだ介護をしている社員はいないからと何もしないでいると、突然大切な社員を失ってしまうかもしれません。

 国としては、介護をしながら働けるように、企業にも介護者にもさまざまな支援策を講じています。たとえば、介護休業制度はその一つで、介護対象者一人につき通算93日まで、3回まで分割して休業を取得することができます。介護休業の期間は「自分が介護を行う期間」だけではなく、「仕事と介護を両立させる体制を整えるための期間」でもあります。企業は、制度の内容や趣旨を全社員に周知しておいてください。


●介護者に伝えてほしい6つのポイント

 社内制度・体制を整えることだけが企業の役割ではありません。社員が介護をしながら仕事を続けていけるように、具体的な手立てを伝えてあげる必要があります。

 介護者にアドバイスしてほしいポイントは、次の6つ。

①職場に「家族などの介護を行っていること」を伝え、必要に応じて社内の「仕事と介護の両立支援制度」を利用する
②介護保険サービスを利用し、自分で「介護をしすぎない」
③介護保険の申請は早めに行い、要介護認定前から調整を開始する
④ケアマネジャーを信頼し、「何でも相談する」
⑤日頃から「家族や近所の方々と良好な関係」を築く
⑥介護を深刻に捉えすぎずに、「自分の時間を確保する」

 先の見えない、終わりの決まっていない介護をしながらの日々に、介護者は不安を抱えているはずです。管理職や長年働いている社員、事業の中心を担っている社員の離職は大きな損失と考え、今いる社員とこれからの社員に長く活躍してもらうために、対策に力を入れてほしいです。


◇厚生労働省のホームページで「仕事と介護 両立のポイント」と検索していただくと介護をしながら働き続けられるヒントが記載されたパンフレットもご覧いただけます。


育児・介護休業法の詳細パンフレット(育児・介護休業法のあらまし)はこちら




<囲み記事>
国の支援策

●介護離職ゼロに向けて
 国は、「介護離職ゼロ」を実現するために、介護の受け皿整備を38万人分以上から50万人分以上へ拡大すること、介護人材確保・育成のために修学資金貸付制度や再就職準備金貸付制度の充実、高齢人材の活用などにも取り組んでいます。さらに、介護休業制度などの周知、仕事と介護を両立できる職場環境整備の促進も行っています。

両立支援セミナー
人材確保・人材定着のポイントとなる「仕事と介護の両立支援」「仕事と育児の両立支援」について両立支援の専門家が最新事例を交えて説明します。

介護支援プラン導入支援
介護に直面した社員の状況・希望を踏まえて事業主が作成する「介護支援プラン」。両立支援の専門家が介護支援プラン導入を無料でサポートします。

両立支援等助成金(介護離職防止コース)
介護支援プランを作成し、プランに沿って介護休業の円滑な取得、職場復帰に取り組み、実際に介護休業を取得した労働者や介護両立支援制度利用者が生じた中小企業事業主に支給します。
 


広報誌『厚生労働』2020年12月号
発行・発売:(株)日本医療企画

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年12月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省