特集

人生と仕事への活かし方
子育ては立派なキャリアです!

「仕事も子育てもしたい!」
「子育て中の社員が働きやすい環境をつくりたい!」――。
そんな人や会社に役立つヒントや、子育ての経験を仕事に
活かしている先輩たちの声を紹介します。


 先日最終回を迎えたドラマ『グッドワイフ』は、16年間専業主婦だった主人公が弁護士資格を活かして仕事に復帰し、奮闘する物語でした。第1話で上司から16年間のブランクを理由に仕事の能力を疑われると、主人公はこんなセリフで言い返します。

 そう、子育ての経験は仕事にも人生にも役立つ、立派な「キャリア」です。そして、企業にとっても子育て中の社員は、子育てという新たな経験を積んだ大事な存在なのです。「産休や育休を取ったら、周りに迷惑をかけてしまうかも……」。そう悩んでいるパパやママたちもいるかもしれませんが、それは違います! 実際、子どもができても働き続けることを肯定する人は増えています。

 次ページからは、そんなパパやママを支える国の制度を紹介します。


Part1
仕事と子育てから手に入れたもの

 「仕事と子育ての両立は大変」と思っている人もいるかもしれませんが、実際に子育てをした人はその経験をうまく仕事や人生に活かしています。働きながら子育てをしているお二人に、話を伺いました。


子育てママにも自分の時間が必要
妻の姿が教えてくれた

藤代  聡さん
株式会社ママスクエア代表取締役社長


「面接にたどり着けない」
主婦の涙が転機に


 就学前の子どもたちが歓声をあげて遊び、すりガラスを隔てた隣の部屋では母親たちが働く──。株式会社ママスクエアは、こうした店舗を埼玉県から佐賀県まで各地で展開。子育て中の人が働ける場をつくり出しています。

 創業した藤代聡さん自身、3人の子どもを持つパパ。24時間休みなく子育てをする妻の姿を目にし、「子どもを見ているから、映画にでも行っておいで」と送り出したことがあります。帰ってきた妻のリフレッシュした表情を見て、「お母さんにも自分の時間が必要」と気づいたそうです。
そこで独立し、キッズスペースとカフェを併設した店舗をオープン。転機が訪れます。

 「スタッフを採用しようと面接したところ、そこで泣き出してしまうお母さんがいて、訳を尋ねると『これまで子どもがいると言うと、面接すらしてもらえなかった』と話すんです」と振り返ります。そんな世の中はおかしいと思い、子育て中の人が働けるよう、株式会社ママスクエアを創業したのです。


選択肢を増やし
働けるようにしたい


 2015年に初となる川口店(埼玉県)をオープンしたところ、300人もの応募があり、働きたいと考えている人の多さに、藤代さんは驚きました。現在は、行政や鉄道会社、ショッピングモールなどとの連絡もあり、全国23カ所に店舗を展開。約800人のパートスタッフを雇用しています。同社の店舗では、専任のスタッフが子どもの面倒を見ている間、親は短時間勤務で、コールセンター業務や入力業務などの仕事をします。食事やおむつ換えは親が行います。

 「子育て中の方が働きたいと思ったら、今は子どもを預かってくれるところとして保育園がありますが、ママスクエアを拡大し、子育てしながら働く際の選択肢をもっと増やしていきたいですね」と、藤代さんは話します。





考え方も働き方も変わった!
私にとってプラスの経験でした

飯田陽狩さん
株式会社シェアダインCEO


少食の我が子がくれた
新ビジネスのヒント


 コンサルティング会社で働いていたときに産休・育休を取った株式会社シェアダインCEOの飯田陽狩さん。「離乳食を開始しても、うちの子は少食で体重が増えず、不安でした」と振り返ります。

 育児を通じて食への関心が高まったそうで、共働き世帯が増えるなか、「豊かな食」を提供するサービスが必要とされていることに気づきました。そこで、プロの管理栄養士や栄養士、調理師と一般家庭をマッチングするビジネスを計画し、東京都のベンチャービジネスを支援する事業に応募。採択されたことからシェアダインを起業し、2017年5月に事業を開始しました。それが、同社の「出張『作り置き』サービス」です。


子どもを育てながら
自分が育てられている


 このサービスは、同社のサイトに登録されている料理家が、利用者の自宅に行き、12品前後のつくり置きの料理をつくってくれるというもの。料理家は「離乳食」「偏食」「行事食」などのカテゴリーをもとに探せます。事前に「子どもの好き嫌いをなくしたい」などの要望を伝えると、それに合った料理をつくってくれます。利用者のうち8割は未就学児がいる家庭で、そのうち3分の1は産前産後に利用しています。

 育児の悩みからニーズを見つけ、新たなビジネスを生み出した飯田さん。「子育ては私にとってプラスの経験です」と力強く話します。「子どもと向き合っていると、コントロールできないものがあると実感し、ありのままを受け入れられるようになりました。子どもを育てながら、自分が育てられています」

 働き方にも変化があり、「出産前は残業することもありましたが、今は残業することがあっても週2日までと決めて、子どもと一緒に夜ご飯を食べるようにしています」とのこと。経営者として、子育て中の社員にはテレワークを利用してもらうなど、働きやすい環境づくりにも力を入れています。





Part2
働き方改革はパパやママの味方

 昨年6月、「働き方改革」を進めるために法律が改正され、今年4月から会社はこの法律に合った対応が求められます。実はこの法律、働く人にとってうれしい内容が盛りだくさん。主な内容を取り上げます。



●フレックスタイム制がより柔軟に

 社員が自由に始業・終業時刻を決められるフレックスタイム制。事前に一定期間(清算期間)の総労働時間を決め、それを踏まえて社員は始業・終業時刻を選びます。

 これまでは、清算期間は1カ月以内とされており、給料の計算がしやすいように1カ月としている会社が大半でした。

 もし社員の労働時間が総労働時間を超えたら、会社は割増賃金を支払い、反対に下回ったら欠勤扱いにします。これでは、時期によって仕事の忙しさが異なる職場では、忙しくない時期も総労働時間分働かなければならないなどの不都合が生じてしまいます。

 今回の法改正により、この清算期間が3カ月以内にまで広がりました。たとえば、6月に多く働き、その分、子どもの夏休みに合わせて8月の労働時間を減らす。そうした柔軟な働き方が可能となりました。



●年休を確実に取れるように変更

 働きながら子育てをしていると、子どもの行事や病気のために休みを取ることもあるでしょう。今年4月1日からは、これまでよりも年次有給休暇(年休)が取りやすくなりました。

 というのも、日本はほかの国に比べて年休を取っている割合が51.1%と低く(2017年)、国も課題だと考えていました。そこで法律を改正し、会社は社員一人につき必ず年休を5日間取らせなければならなくなりました。対象となる社員は、年10日以上の年休が与えられている人。取得にあたっては、社員の希望を聞いて取得する時期を決めることとされています。

 また、会社と社員の代表者が協定を結べば、会社は計画的に年休取得日を決めて社員に取らせることもできます。

 国は、土日や祝日に年休を組み合わせて連休とする「プラスワン休暇」も進めています。この利用も検討してみてください。



●長時間労働に規制がかかる

 労働時間は1日8時間、週40時間と、法律で決められています。しかし、会社と社員が時間外・休日労働に関する協定(36協定)を結べば、月45時間、年360時間まで働けます。特別条項付きの協定を結べば、1年のうち6カ月まではこの上限を超えても構わないとされ、会社はいくらでも残業させることができたのです。

 今回の法改正により、新たに上限ができ、月45時間まで残業ができるのは1年のうち6カ月まで。残りの6カ月については、それ以上の残業ができますが、「時間外労働は年間720時間以内」「休日労働を含む1月の時間外労働は100時間未満」「2カ月間、3カ月間、4カ月間、5カ月間、6カ月間の時間外労働の1月あたりの平均が80時間を超えてはいけない」の範囲内でなければなりません。これはあくまでも上限なので、できるだけ残業を減らすことが大切です。


◎3~5歳児の幼稚園や保育所などの利用料が無償に

 今年10月1日から、子育て世帯の負担を減らすため、「幼児教育・保育の無償化」が始まります。

 利用する施設と年齢によって、利用料が無償になる世帯は異なります。全世帯が無償化の対象となるのは、保育所・認定こども園・幼稚園などを利用する子どもたちのうち、3~5歳児です。地域型保育や会社の保育所も同じように無償となります。

 0~2歳児については、住民税非課税世帯が無償化の対象です。

 共働き世帯やシングル世帯の場合は、認可外保育施設なども月最大3.7万円まで、幼稚園の預かり保育も月最大1.13万円まで無償となります。

 小学校に入学する前の障害児で、障害児通園施設(発達支援)を利用している3~5歳児の利用料も無償化されます。保育所・認定こども園・幼稚園と障害児通園施設の両方に通っている場合は、両方とも無償になります。



<働き方・休み方の見直しに便利なポータルサイト>

 長時間労働を減らしたり、年休取得率を上げたいと思っている会社の皆さん、「働き方・休み方改善ポータルサイト」を知っていますか。このサイトでは、長時間労働を減らした会社の取り組み事例やボランティア休暇といった特別な休暇など、課題別の対策を紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。

働き方改革



 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2019年4月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省