令和7年度年金制度改正法が6月20日に公布されました。


「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が6月20日に公布されました。
 
そこで、今回はこの年金制度改正法について紹介します。
 
この法律は、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図る観点から、働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成の多様化を踏まえた年金制度を構築することに加え、所得再配分の強化や私的年金制度の拡充等により、高齢期における生活の安定を図ることを目的としています。
 

年金制度改正の全体像

令和7年度年金制度改正法の全体像は以下のとおりです。

 

主な改正事項

(1)被用者保険の加入対象の拡大など

①短時間労働者の加入要件の見直し(企業規模要件・賃金要件の撤廃)
従来、健康保険や厚生年金といった被用者保険に加入するのは、フルタイムに近い働き方をする方に限られていましたが、短時間労働者の場合は、
(A)従業員51人以上の企業において(企業規模要件)
(B)週の所定労働時間20時間以上(労働時間要件)
(C)月収8.8万円(年収106万円)以上(賃金要件)
などの要件を満たす場合に被用者保険に加入することとなります。
 
今回の改正により、(A)の企業規模の要件が10年をかけて段階的に縮小・撤廃され、(C)賃金要件が法律の公布から3年以内に撤廃されることで、(B)の労働時間だけが短時間労働者の被用者保険の加入要件になります。



また、見直しの対象となる中小企業の人材確保の取り組みを支援し、短時間労働者が被用者保険に加入することを避けるために就業調整を行うことがないようにする観点から、事業主が通常よりも多く保険料を負担することで、短時間労働者本人の保険料負担を軽減できる仕組みを新たに設け、事業主が追加で負担した保険料については、その全額を3年間限定で支援します。


 
②被用者保険の適用対象となる個人事業所の拡大
被用者保険において、法定17業種に該当する常時5人以上の従業員を使用する事業所に限り強制適用していますが、農林水産業や宿泊業、飲食サービス業等の法定17業種に該当しない業種の個人事業所は被用者保険の適用対象とされていませんでした。
 
今回の改正により、労働者の勤め先等に中立的な制度を構築する観点等から、令和11年10月以降は、原則として全ての業種の事業所が被用者保険の適用対象となりました
(※)令和11年10月時点で既に開業している、従来非適用であった業種の常時5人以上の従業員を使用する個人事業所については、経営への影響に配慮し、当分の間、適用対象としません。


 

(2)在職老齢年金制度の見直し

年金を受給しながら働く高齢者の賃金と老齢厚生年金の合計が月額50万円(令和6年度価格)を超えると年金額が減額される在職老齢年金制度について、年金を受給しながら働く高齢者の方々が、年金が減額されにくくなることで、より働きやすくすることを目的とし、令和8年4月から、この金額を62万円(令和6年度価格)に引き上げます。


 

(3)遺族厚生年金の見直し

遺族年金は、家計の担い手と死別した遺族の所得保障を目的とする給付ですが、このうち遺族厚生年金については、男性が主たる家計の担い手であり、夫と死別した妻が就労して生計を立てることが困難であった頃の社会状況を前提に、その支給要件に男女差が存在していました。
 
近年、男女間の就業率や賃金の格差が縮小しつつあることなどを踏まえ、令和7年年金制度改正により、段階的に制度上の男女差が解消されます(男性は令和10年4月から、女性は令和10年4月から20年かけて段階的に実施します)。


 

(4)厚生年金の標準報酬月額の上限の段階的引上げ

保険料や年金額の計算に用いる標準報酬月額の上限を、月額65万円から75万円に段階的に引き上げ、一定以上の月収のある方に、賃金に応じた保険料を負担いただくことで、現役時代の賃金に見合った年金を受け取りやすくします。


 

(5)私的年金の見直し

現行の制度では、iDeCoに加入できる方は、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していない国民年金の被保険者の方に限られており、働き方などにより何歳まで加入できるかの上限の年齢に差が生じています。
 
このため、働き方に関係なく、誰もが長期的に老後資産を形成でき、かつ加入者にとってシンプルで分かりやすい制度となるよう、法律の公布から3年以内に、iDeCoを活用した老後の資産形成を継続しようとする方の加入可能年齢の上限を70歳未満に引き上げます。


 

(6)将来の基礎年金の給付水準の底上げ

衆議院での審議の結果、自由民主党・公明党・立憲民主党の三党合意(令和7年5月27日)に基づき、今後の社会経済情勢を見極めた上で、仮に経済が好調に推移せず、将来の基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合には、基礎年金と報酬比例部分の給付調整を同時に終了させる措置を講じる旨の規定が追加されました。



 

最後に

今回の年金制度改正法をはじめとして、年金局では年金制度の周知・広報に力を入れて取り組んでおり、年金制度に関するわかりやすい資料やYouTubeのショート動画も作成しています。
 
ぜひこうした年金制度の広報資料についてもご覧ください。
 
【参考】
(令和7年年金制度改正法について)年金制度改正法が成立しました|厚生労働省
 
(YouTubeショート動画)
社会保険の適用拡大(支援策) #shorts
社会保険の適用拡大(令和7年年金制度改正法) #shorts
標準報酬月額の上限の段階的引上げ #shorts
在職老齢年金制度の見直し #shorts