第41回ILO懇談会議事概要

大臣官房国際課

日時 令和6年8月26日(月)10:00~12:00

場所 ビジョンセンター有楽町

議題

1.第112回ILO総会の報告
2.2024年年次報告等について
  第19号条約(労働者災害補償についての内外人労働者の均等待遇に関する条約)
  第81号条約(工業及び商業における労働監督に関する条約)
  第87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)
   ※ILO総会基準適用委員会を踏まえた対応を含む
  第98号条約(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)
  第102号条約(社会保障の最低基準に関する条約)
  第105号条約(強制労働の廃止に関する条約)
  第115号条約(電離放射線からの労働者の保護に関する条約)
  第119号条約(機械の防護に関する条約)
  第120号条約(商業及び事務所における衛生に関する条約)
  第121号条約(業務災害の場合における給付に関する条約)
  第131号条約(開発途上にある国を特に考慮した最低賃金の決定に関する条約)
  第139号条約(がん原性物質及びがん原性因子による職業性障害の防止及び管理に関する条約)
  第144号条約(国際労働基準の実施を促進するための三者の間の協議に関する条約)
  第162号条約(石綿の使用における安全に関する条約)
  第187号条約(職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約)

議事

1.第112回ILO総会の報告

 政府側から資料に基づき説明を行い、その後意見交換が行われた。

(使用者側)
 第112回ILO総会で使用者側理事に再任された。地政学的な情勢も厳しく、政策の転換も激しいが、企業は、サステナブルな社会の実現に向けて努力しているところである。
 これらの取組を進めていく上で、企業にとって大きな課題になるのが、各国における法の実効性である。企業がサステナブルな取組を進めようとすればするほど、法の実効性にぶち当たるところがある。今回、私自身はILO総会において周期的な討議に参加した。討議では、実効的な国際労働基準の制定と策定、それをどう実行していただくかということが大きな課題と認識されていた。
 また、中小企業を含めて、持続可能な企業のための環境整備をどう進めていくかというところが非常に大きな課題になっているかと思う。
 来年のILO総会における基準設定討議では、プラットフォームエコノミーについても議論される。これは新しい課題であり、どのような形で基準を設定していくことが望ましいのかという点についても、知恵を絞っていかなければいけない。
 政労使の社会対話によって対処していくことができるのがILOの強みだと考えており、引き続き日本国内の政労使でも対話を進めていきたい。
2.2024年年次報告について

 政府側から資料に基づき説明を行い、その後意見交換が行われた。
 
(労働者側)
 第87号条約と第98号条約について、意見を述べる。
 今年のILO総会では、日本の第87号条約の適用状況が個別審査され、議長集約では、日本政府に対して、消防職員の地位と労働条件の改善、刑事施設職員の団結権の在り方、自律的労使関係制度などについて、労使団体と協議の上、検討することを求めている。
 この議長集約は、公務員の労働基本権を制約し続ける日本の特異性に対する国際社会の強い懸念を示したものとも言える。
 実際、ILOだけではなく、G7やG20に合わせて開催される労働組合の会合であるL20やL7サミットの場などにおいても、日本の状況を憂慮する声が多く上がっている。
日本政府には、議長集約を真摯に受け止めるとともに、速やかに実効ある取組に着手することを改めて連合として求めたい。
 また、日本政府の年次報告にある「公務員制度に関する諸課題について、国内の使用者団体及び労働者団体と新たに意見交換を実施すること」については、実効ある取組に向けた第一歩であると、連合としても受け止める。
 この機会を単なる意見交換に終わらせず、問題の解決につなげていくためには、行動計画の策定における最低2年程度の期限の設定、協議する日本政府の府省等担当者の特定、「関係する社会的パートナー」とは、連合に加盟する公務員関係組合で構成する「公務公共サービス労働組合協議会」が労働側の当事者であることの明確化が不可欠であることを強調したい。
 
(労働者側)
 先ほどのコメントに補足のコメントと意見を申し上げる。第一に、第87号条約の消防職員の団結権に関しては、今年のILO総会の基準適用委員会や先ほどの政府の説明では、「日本は災害大国であるから、迅速で効果的な対応をするために、消防組織における統一的な指揮命令系統、関係機関との一体行動が必要であり、そのために、消防団員の団結権を制限する必要がある」という文脈で政府から回答があった。同じ委員会の中でニュージーランドの消防職員労組の組合の書記長は、「ニュージーランドは日本と同じように、地震、サイクロン、自然災害が多いため、組合員が訓練及び質格プログラムの作成に関わることによって、指揮命令系統を円滑にすることができる」と述べた。つまり、組合の存在が活動の円滑化に貢献すると主張しており、この点に関する日本政府の考えを教えていただきたい。
 第二に、公務員の自律的労使関係制度については、政府は、2018年の基準適用委員会から今回までずっと同じように、「国民の理解を得られておらず、引き続き検討する必要がある」と述べている。何年もずっと同じ回答しているが、どうやれば国民の理解を得たと言うことができるのか、政府が2018年からずっとこのように言い続けている根拠をお示しいただきたい。
 加えて、2018年の基準適用委員会において、北欧の政府グループが、「公務員組織の権利は、完全なストライキ権の行使には制限はあるかもしれないけれども、全ての公務員には団結権はある」という意見を述べていることも申し上げる。
 
(使用者側)
 この件に関しては、まずは政府の答弁をお聞きした上で発言したい。
 
(政府側)
 政府としては、自律的労使関係制度に係る職員団体等との意見交換は、これまでも様々な機会を捉えて行っていると認識している。引き続き、政府と職員団体等が、本件を含めて、様々なテーマの話合いをすることで良好な関係を維持し、意思疎通ができるよう、努めてまいりたい。
 また、今回の政府報告に記載があるように、新たに開催する意見交換会は、今回の議長集約をきっかけとするものであり、進め方や議題等については、皆様のご意見を伺いながら丁寧に進めていきたいと考えている。意見交換会で建設的な議論が行えるように努めていきたい。
 さらに、労働側からお尋ねいただいた「国民の理解が得られていない状況が変わっていないとする根拠」については、当時から今まで特段の状況の変化が無いと承知しているためである。
 
(政府側)
 日本は災害大国であり、災害対応に当たっては、指揮命令系統を確保しなければならないという点について、補足で説明する。
 世界で発生するマグニチュード6.0以上の地震の約2割が我が国周辺で発生しており、今年の1月も能登半島地震が発生した。最近も、南海トラフ地震臨時情報が発生されるなど、日本は、世界でも有数の地震を中心とした災害大国である。
 また、明治以降、昭和23年の消防組織法の施行により分離されるまで、警察と消防は同じ組織であって、日本においては、大規模災害時に消防は警察、自衛隊と極めて密接に連携して、人命救助活動を行ってきた。
 こうした歴史的経緯、自然社会環境、業務内容等を踏まえ、消防は警察と同様の役割を果たしているものと認識している。
 これまでもこの問題について、総務省は定期的に全日本自治団体労働組合と協議を行ってきており、今年の基準適用委員会後の7月には、12回目の協議を行った。
 その際、総務省と労働側との間で引き続き協議を継続していくことを確認しており、議題の決定については労働側の意見も踏まえ、引き続き対話をしていきたい。
 
(使用者側)
 この問題について、私どもは、基本的には日本政府の見解を支持する。本件の難しいところは、第87号条約の第9条、「警察の場合は、この条約の対象の適用を外すことができる」となっている解釈をめぐる問題である。第112回ILO総会のCASで本件が取り上げられ、議長集約がまとめられた。こうした動きを踏まえ、公務員制度改革に関する諸課題について、国内の使用者団体と労働団体が参画する新しい意見交換の場が設けられることを評価している。議長集約では、消防職員に関しては労働条件の改善状況、刑事施設職員に関しては対象となる範囲、地方公務員法並びにその他の関連法のレビューを行うことが求められている。新たな意見交換の場も活用しながら、引き続き議論していくことが重要である。最後に、この問題は国際機関の場ではなく、国内で議論をしっかりと重ねていくことが重要であると認識している。新たに設けられる意見交換の場では、これまで提供されてきた資料に加えて、新たな進展に関連するものがあればそれも提出いただきながら、労働側の理解が得られるような議論をしていくことが重要と考えている。
 
(労働者側)
 第187号条約については、第14次労働災害防止計画が策定され、各種取り組みが進められているが、進捗管理も含め、適切に実施していただきたい。また、本条約に関連し、現在、労働政策審議会の安全衛生分科会において、個人事業者等に対する新たな規制の適用などが検討されている。これには、第155号条約の批准に必要な改正事項も含まれており、早期批准の観点からも法改正に向けた取組を着実に進めていただきたい。
 次に、第81号条約も含めて、労使双方から、適切な労働基準監督官の確保について意見が出ている。
 昨今、労働基準法制等の改正・見直しが非常に多いこともあり、前回の報告時から今回にかけて、労働基準監督官1人当たりの労働者数は大幅に増加しているのではないか。労働監督行政の後退につながらないように、労働基準監督官をILO基準まで早急に増員するとともに、適切な監督・指導の実施による監督行政の充実を図っていただきたい。
 
(使用者側)
 ただいま労働側からご発言のあった監督官の人数について申し上げる。
 賃金不払いをはじめとした、以前からあるテーマもさることながら、例えばフリーランスの労働者性の判断、同一労働・同一賃金の徹底、さらには、今年4月からスタートした化学物質の自律的な管理の徹底といった新たなテーマが増えていることから、監督行政にはこうした新たなテーマについてもしっかりと対応していくことが求められている。労働者の人数当たりの監督官の数のアプローチ・視点も重要だが、監督すべきテーマが多様化・複雑化している点にも十分に留意が必要である。
 もちろん、財政規律の要請もある中で監督官の増員は決して容易ではないと推察しているが、労働関係法制の違反を放置すると、労働者の権利が損なわれるだけでなく、社会不安の遠因にもつながりかねない。その意味で、増員に向けて取組を強化していただきたい。
 加えて、監督行政の実質性・実効性を高めるという観点からは、例えばDXを活用し監督行政の業務効率化を進めることで、真に必要な監督・指導の業務に注力することに寄与する面もある。そういった面の対応も加速していただきたい。
 また、今般、法令が複雑化し、多岐にわたっている。もちろん、事業主の責任として、しっかりと法令を遵守していくことが第一に必要であるが、中小企業を含めると、かならずしもノウハウや人員が充実している人事部門ばかりではない。したがって、政府から丁寧な説明・周知、各種の丁寧な支援をお願いしたい。その際、当然のことながら、適切かつ統一的な監督・指導をお願いしたい。
 また、先ほどフリーランスの労働者性の議論についても申し上げたところだが、フリーランスの方々への周知は、新たな課題になってくると考えられる。例えば、フリーランスの方が発注者と契約を結ぶ際の契約書のひな形に、相談先の行政機関や、フリーランス新法の内容を掲載しているウェブサイトの案内を記載するなど、新しい形での周知方法についてもぜひご検討いただきたい。
 
(政府側)
 労働側からいただいた前段部分の安全衛生の関係について、第14次労働災害防止計画を令和5年度からスタートし、本年2年目を迎えている。その進捗状況の評価や分科会の報告も含めて、検討を進めていきたい。
 また、分科会で現在、個人事業者等の方の安全衛生の対策の在り方についてもご議論いただいているところ。
 ご意見いただいた点も含め、こちらも引き続き検討を進めていきたい。
 
(政府側)
 まず、労働基準監督官の人員の確保という点について、労使双方からご意見をいただいたところ、労働基準監督官については、厳しい定員事情の中においても、これまでも一定の人員の確保に努めており、効果的かつ効率的な監督指導に努めてきた。
 今後とも、厚生労働省としては、引き続き、必要となる労働基準監督官の人員も含めて、体制の確保に努めていきたい。
 
(政府側)
 監督・指導の観点でお答えする。
 ご意見いただいたフリーランスの労働者性や同一労働・同一賃金の遵守徹底について、いただいたご意見も踏まえ、引き続き丁寧に対応していきたい。
 また、ご意見いただいたDXの関係について、こちらは昨年10月に取りまとめられた「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書において、AIやデジタル技術の活用を図ること、とされたことなども踏まえ、ICTの活用なども図ってまいりたい。