第1回ゲノムデータの個人識別性に関する検討会 議事録

日時

令和7年6月9日(月)13:00~15:00

場所

オンライン会議場
厚生労働省 専用第22会議室
東京都千代田区霞ヶ関1-2-2

出席者

出席構成員

議題

  • ゲノムデータの個人識別性に関する検討会」の趣旨等について

議事

○事務局 定刻になりましたので、第1回「ゲノムデータの個人識別性に関する検討会」を開催いたします。
 委員の皆様におかれましては、御多用の折、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
 本日の検討会は、ウェブ形式と併用して実施してございまして、会場にお越しいただいている構成員の先生と厚生労働省外からウェブにて御参加いただいている構成員がおります。
 会議を開始するに当たりまして、注意事項を御説明いたします。オンラインで御参加いただいている場合には、発言の場合は挙手ボタンを押していただき、座長に指名された後にミュートを解除して発言いただければと思います。また、御発言いただかないときには、マイクをミュートにしておいていただければと思います。また、傍聴に関しては、YouTubeでライブ配信を行っておりますので、事務局や担当部局からの説明等、回答はできるだけゆっくりはっきり御発言いただくようお願いできればと思います。
 なお、資料は随時投影させていただきますけれども、通信環境が悪くなった場合は、通信負荷低減の観点から資料の投影を中断し、音声配信を優先するなどの対応を取ることがございますので、御了承願います。
 開会に当たり、佐々木大臣官房危機管理・医務技術総括審議官から一言御挨拶いただければと思います。
○佐々木審議官 改めまして、厚生労働省危機管理・医務技術総括審議官の佐々木でございます。厚生労働省を代表して、一言御挨拶を申し上げます。
 委員の先生方、皆様におかれましては、本検討会に御参画いただくことを御了承くださり、また、本日、御出席くださりましたことを心からお礼申し上げます。
 近年、ゲノム解析技術は飛躍的に進歩し、保健・医療、さらには創薬への期待がますます高まっております。その一方で、ゲノムデータの適切な取扱いが難しくなりつつあるのも事実でございます。このため、利活用の制約が新薬開発や難病性疾患等の治療法探索を阻むおそれも、また指摘されております。本検討会では、こうした課題を総合的に捉え、科学的観点からゲノムデータの個人識別性を検討し、プライバシーと社会的信頼を確保しつつ、イノベーションを推進する方策につなげられればと考えております。委員の先生方、皆様の専門的知見と建設的な御意見を賜りますよう、改めてお願い申し上げます。
 本検討会の成果が我が国の医療・創薬力のさらなる発展、ひいては国民、またその先には人類かもしれません。こうした方々への健康増進と生活の質の向上に大きく寄与することを期待しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○事務局 ありがとうございます。
 なお、危機管理・医務技術総括審議官におきましては、途中で退席等させていただく形となります。また、併せて眞鍋大臣官房厚生科学課長につきましても、別用務のため14時頃に中座させていただく予定としてございます。
 次に、構成員の先生方を御紹介いたしますので、ゲノムデータの個別識別性に関しての問題意識など、本検討会の参画に当たりまして、2~3分程度までの範囲で御挨拶をいただければと思います。
 まず、本検討会の座長につきましては、国立健康危機管理研究機構・国立国際医療研究所・ゲノム医科学プロジェクト長、ナショナルセンターバイオバンクネットワーク・中央バイオバンク長の徳永勝士構成員にお引き受けいただくよう、あらかじめお願いしておりますので、よろしくお願いいたします。徳永先生、よろしくお願いいたします。
○徳永座長 徳永でございます。
 前に勤めていた東京大学の頃から、ゲノム情報の個人識別性あるいは個人到達性あるいは研究倫理指針との関係で非常に関心を持ってまいりました。このたび、この個人識別性を検討するという、非常に重要な会議で座長を務めさせていただくということに当たりまして、しっかり任務を果たしてまいりたいというふうに考えております。
 本来ならば、座長でありますと、当然厚生労働省の会議の場にいるべきでありますけれども、たまたま今、国際シンポジウムでタイのバンコクにおりまして、ちょうど発表日に重なっているということもありまして、バンコクからウェブ参加させていただくということで御了承いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○事務局 徳永先生、ありがとうございました。
 次に、構成員の皆様方につきまして、構成員名簿の順番に五十音順に御紹介させていただきます。
 中央大学国際情報学部教授の石井夏生利構成員です。お願いします。
○石井構成員 中央大学国際情報学部の石井です。このたびは、ゲノムデータの個人識別性に関する検討会へ参加させていただく機会をいただきまして、ありがとうございます。
 私の専門分野は個人情報保護法のプライバシーや個人情報保護法の国際的な動向との比較を含めて、様々な論点を検討するという分野で研究してまいりました。冒頭の御挨拶を伺っておりまして、ゲノムデータの利活用の必要性というのは十分理解できるところではありますが、他方で、プライバシーと社会的信頼を確保すると、このバランスを図っていくことが重要かと思っておりますので、後に具体的にコメントさせていただこうと思っておりますが、そういう観点から、特に法的な関係から議論に参加させていただければと思っております。よろしくお願いいたします。
○事務局 ありがとうございます。
 続けて、東京大学大学院医学研究科衛生学分野教授の石川俊平構成員です。お願いします。
○石川構成員 東京大学の石川です。今日はよろしくお願いします。
 私は、厚生労働科研費のほうで、令和5年度、今日の資料にありますけれども、「ゲノムデータの持つ個人識別性に関する研究」ということで、ここにおられる荻島構成員、あと東大の新領域の鎌谷先生と一緒に報告書を作成させていただきました。過去、非常によく似た報告書というのは平成28年にあるのですけれども、そのときに比べて様々なゲノムの技術とか科学的な知見とか、そのようなものが変わってきましたので、今日の状況に照らして、ゲノムデータの個人識別性とはどうなのかというところを科学的な知見でまとめさせていただきましたので、今日はそういうところも御紹介できればと思っております。どうぞよろしくお願いします。
○事務局 ありがとうございます。
 続けて、慶應義塾大学大学院法務研究科教授の磯部哲構成員です。お願いします。
○磯部構成員 慶應義塾大学の法科大学院で行政法という講座を担当しております磯部と申します。
 非常に重要な検討会に参加することができて光栄に存じますが、個人情報保護法も行政法の中の一つとして、普段授業などをするものですけれども、ゲノム情報、ゲノムデータの取扱いについて、個人情報保護法的な本人の同意をもって、その利活用を正当化するという枠組みのいろいろな部分で限界などを感じるところです。ぜひ、今回の検討を通じて、ゲノムデータの利活用が海外に比べて遜色ないように使いやすくなるということで、もちろんプライバシーとの関係といったことも重要ですが、合理的な範囲で、しかし十分に使えるようになるためにはどうしたらいいのかといったことを検討していきたいと考えております。
 そういえば、この会の名前は個人識別性に関する検討会ということでありましたけれども、ゲノム情報は親・兄弟など近親者と共通する人たちとのことをどう保護していくのか、あるいは人類共通の財産として、将来世代も含む中でどういうふうに利益を考慮して考えていくかということをセットで考えていきたいなというふうに感じた次第です。
 すみません、長くなりましたが、どうぞよろしくお願いいたします。
○事務局 ありがとうございます。
 続けて、東北大学大学院医学系研究科医科学専攻ゲノム医療情報学分野教授の荻島創一構成員です。お願いします。
○荻島構成員 東北大学の荻島でございます。
 今回、こういう非常に重要な検討会が立ち上がったということで、厚生労働省の皆様、関係者の皆様に本当に深くお礼申し上げたいと思います。
 私のほうの専門は、ゲノム医科学あるいは医療情報学で、データベース、データサイエンスを専門としておりまして、現在、東北メディカル・メガバンク計画の15万人の前向きゲノムコホートのデータベース構築あるいは利活用に取り組んでおります。
 平成28年の報告書から情勢も変わってきている部分もありますので、ゲノム情報に関して、どういうふうに取り扱っていくかということについて、不断に見直していく時期に来ていると思っております。ぜひ責任ある形でゲノム情報をきちんと利活用していく、特に、技術的にも、いろいろな安全管理措置が今、取れるようになってきておりますので、そういった技術的な背景も踏まえながら検討していくことが非常に重要と思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
○事務局 ありがとうございます。
 続けて、国立大学法人東京大学大学院統合ゲノム学教授の織田克利構成員です。お願いします。
○織田構成員 東京大学大学院統合ゲノム学の織田克利と申します。よろしくお願いします。今回は、このようなゲノムデータの個人識別性という非常に重要なテーマの検討会に加えていただきまして、ありがとうございます。
 私は、病院のゲノム診療部として、がんゲノム医療中核拠点病院として、実際にゲノム医療を運用する立場でもあります。そういう意味では、国民・社会のゲノムデータをより適切な形で医療・科学の進歩に役立ててほしいという患者さんの思いも日々感じているところです。どのような形で適切にこの利活用を進めていけるのかというところ、この検討会でぜひ学ばせていただき、また検討の機会をいただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
○事務局 よろしくお願いします。
 続けて、慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センターの小崎健次郎構成員です。よろしくお願いします。
○小崎構成員 よろしくお願いいたします。慶應大学の小崎と申します。
 今、織田先生からお話がありましたが、私は、がんではなくて、いわゆる難病の患者さん、診断不明の患者さんのゲノム解析をして、それを患者さんに届けるという仕事をしております。その判定の際には、どういう遺伝子の変化、バリアントがあれば病的なのかということ。世界各地から集積されてデータシェアリングが行われている病的バリアントのデータベースというものを活用しております。日本人も国際コミュニティの一員として、こういったことに貢献すべきであろうと日々考えておりまして、今回の議論の中でそういった面も明らかになることを期待するところでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○事務局 ありがとうございます。
 続けて、東京女子医科大学名誉教授の齋藤加代子構成員です。なお、齋藤構成員には、本検討会の副座長をお引受けいただくよう、あらかじめお願いしております。齋藤先生、よろしくお願いします。
○齋藤副座長 東京女子医大の齋藤でございます。3月まで東京女子医大のゲノム診療科の特任教授をしておりましたが、リタイアいたしました。
 平成28年のゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォースのメンバーとして関わらせていただいたのですが、その後、遺伝子治療、核酸医薬品、低分子医薬などの神経系難病の子供の治験責任医師として携わりました。その3つの非常に優れた薬、全て外資系ということで、日本におけるイノベーション不足というのを残念に思いながら、その有効性のすばらしさを実感して、難病の子供たちが助かっていく様子を体験いたしました。日本における医学・医療の発展というところを、先進的なメンバーがきちんと考えて、日本の技術として、それから日本の医療的な成果として伸ばしていかなければいけないという責務があるのではないかと思います。
 そういった意味で、今回のゲノムデータの取り扱いは非常に重要なことと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
○事務局 ありがとうございます。
 続けて、早稲田大学社会科学部准教授の横野恵構成員です。よろしくお願いします。
○横野構成員 こんにちは。早稲田大学の横野と申します。
 私は、専門は医事法学と生命倫理で、これまでゲノム研究に関わる法的・倫理的問題に関する検討に様々な形で関わってきました。先ほど齋藤先生からもお話がありました、平成28年のタスクフォースにも参加させていただき、そのときから、このゲノムデータの取扱いについては、いろいろと課題があるというふうな議論があったところではあります。その後の研究分野の倫理指針の改定ですとか、先般はゲノム医療推進法に基づく基本計画の策定等にも関わっており、その中で現場での課題ですとか、あるいはそういった規制環境が変わってくる中で、当初とは違った課題も出てきているというふうに感じています。
 また、厚生労働省の全ゲノム解析等実行計画にも参画しておりまして、そこでも、今、ゲノムデータを使った研究の実態というものが、かつて最初に議論された頃とはかなり変わってきているというふうな感触も得ております。そうした中で、今回のこの検討会においては、個人識別性ということが第一義的な検討課題になるということは承知しておりますが、これまでの先生方からもお話がありましたように、医学、そして医療において、ゲノムデータを適切に利用するための環境として何が望ましいかという観点から検討していくということが大事だと思っております。
 その中で、もちろん法的なルールによって、影響を受けている部分はありますけれども、これまで、ゲノムデータが個人識別符号とされてきたことによって、必ずしも法律はそうではないけれども、多くの人が抱いているイメージとか、印象による影響もあると思いますので、そういったところも含めて検討できればと思っております。よろしくお願いいたします。
○事務局 ありがとうございます。以上の構成員の皆様方に御参画いただきまして、本検討会を進めさせていただければと思います。
 資料につきましては、事前に送付ないしは厚生労働省のホームページにおいて公表のとおりでございまして、資料1と参考資料1から6となってございます。よろしくお願いいたします。
 また、オブザーバーとして、参考資料1の3ページに示す関係府省の皆様にも御参加いただいておりますので、申し添えさせていただきます。
 それでは、以降の進行は徳永座長にお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。
○徳永座長 ありがとうございました。
 それでは、議事に入りたいと思います。まずは、本検討会設置の趣旨等について、事務局より説明をお願いいたします。
○事務局 ありがとうございます。
 それでは、画面を共有させていただきながら御説明させていただければと思います。今、資料1を投影させていただいております。それでは、「ゲノムデータの個人識別性に関する検討会の趣旨等について」、御説明させていただきます。
 2ページを御覧ください。現状のゲノムデータの利活用に係る規制に至る経緯になります。
 平成27年、個人情報保護法が改正されまして、個人識別符号が次の各号のいずれかに該当する文字、番号、記号その他の符号のうち、政令で定めるものをいうというふうにされまして、その1号として、特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、特定個人の識別をすることができるものとして定義がなされました。
 その後、同年11月に「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」が設置されまして、今から申し上げる3点のような考え方が整理されたところでございます。
 1つ目としましては、「ゲノムデータ」は、社会通念上、「個人識別符号」に位置づけられるというもの。
 2点目としては、ゲノムデータの個人識別性は、多様であり、科学技術の進展等により変化しうるということ。
 3点目といたしましては、具体的範囲については、個人情報保護委員会が、海外の動向や科学的観点から、解釈を示していくことが求められるというところでございます。
 その後、平成29年5月に個人情報保護法の施行令が施行されまして、個人識別符号の一つとして、「「細胞から採取されたデオキシリボ核酸(別名DNA)を構成する塩基の配列」
を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、特定の個人を識別するに足りるものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に適合するもの」が定義されました。
 また、個人情報保護法ガイドライン(通則編)におきましては、上記の具体的な定義として「ゲノムデータ(細胞から採取されたデオキシリボ核酸を構成する塩基の配列を文字列で表記したもの)のうち、全核ゲノムシークエンスデータ、全エクソームシークエンスデータ、全ゲノム一塩基多型データ、互いに独立な40か所以上のSNPから構成されるシークエンスデータ、9座位以上の4塩基単位の繰り返し配列等の遺伝型情報により本人を認証することができるようにしたもの」とされてございます。
 続いて、3ページにお移りいただければと思います。直近のゲノムデータに関する動向になります。
 令和4年の医療情報の利活用及びゲノム医療の推進に向けた提言において、現行の個人情報保護法の運用では、到底、特定の個人の識別には結び付かない範囲のゲノム情報までを個人識別符号に含めているとか、令和6年の医療情報の利活用及びゲノム医療の推進に向けた提言においては、現行のガイドライン(通則編)における個人識別符号に該当するゲノムデータの範囲は、科学的合理性を逸脱して広範であり、仮名加工情報としての利活用を阻害している。まず、本人到達性の乏しい体細胞変異及びホットスポット型の生殖細胞系列変異は個人識別符号から除外すべきである。 また、ゲノムデータは、一意性は認められるとしても、住所・氏名、個人番号や旅券番号等とは異なり、少なくとも、一般人及び一般的な事業者の能力、手法等によっては、本人到達性は全く認められない。個人識別を目的とするか否かによっても本人到達性の程度は変わり得ると考えられ、ゲノムデータの個人識別符号への該当性及び仮名加工情報としての利活用の方法を再検討すべきというふうにされてございます。
 また、一番下、令和6年の経済財政運営と改革の基本方針2024においては、個人識別性のないゲノムデータに関する個人情報保護法上の解釈の明確化等を図る旨が記載されるなど、ゲノムデータの利活用のための環境整備に係る関心が高まっているという状況にございます。
 続いて、4ページにお移りいただければと思います。今、申し上げたような背景も踏まえまして、本検討会においては、ゲノムデータの個人識別性について検討を行うこととさせていただきますが、ここでゲノムデータの個人識別性に関するこれまでの検討について、少し御説明させていただければと思います。
 まず、個人識別性についてでございます。上に記載のとおりでございますけれども、個人識別符号につきましては、特定の個人を識別することができると認められる情報を政令で定めるものであって、これによって個人情報の該当性判断の客観化・容易化を図っているというものでございまして、「特定の個人を識別することができるもの」であるかの判断要素としまして、国会審議においては、個人と情報との結び付きの程度、いわゆる一意性等、可変性の程度(情報が存在する期間や変更の容易さ等)、本人到達性といったようなところが示されまして、これらを総合判断して個人識別符号を政令で定めることというふうに、出展の第1回ゲノム医療等実用化推進タスクフォースの資料のほうで記載がなされているところでございます。
 その上で、現行の規制の基となってございます、平成28年度の厚生労働科学特別研究事業「ゲノムデータの持つ個別識別性に関する研究」においては、一意性の範囲設定の可能性、及び一意性範囲設定に必要な条件を中心に検討がなされてございます。一塩基多型を基に議論を行ってございまして、以下のような3つの分類を得ているところでございまして、1つ目といたしましては、マル1に記載のとおり、「個人識別性がほぼ確かと判断できる」レベルというところで、全核ゲノムシークエンスデータ、全エクソームシークエンスデータ、全ゲノムSNPデータ、互いに独立な40以上のSNPから構成されるシークエンスデータ、STR9~10座位以上のもの。
 3つ目、一番下にございますとおり、「個人識別性はほぼ無いと判断できる」レベルとしましては、互いに独立な30未満のSNPから構成されるシークエンスデータとか、がん細胞等の体細胞変異、単一遺伝子疾患の原因遺伝子の(生殖細胞系列の)ホットスポット変異というところ。
 最後、真ん中にございますグレーゾーンとして、いずれにも該当せず、個別に専門家の判断を要するものというところでございます。
 続いて、5ページにお移りいただければと思います。今、御説明さしあげました平成28年の報告書においては、あるゲノム情報を用いて不特定の個人の中から特定の個人を識別するためには、仮に全塩基配列情報があったとしても、データベースが存在し、突合できる状態になければ個人を識別することは困難である。一方、近年では第三者が特定の個人のプロファイリングを行うことが可能となっており、ある特定の個人に関する複数の情報をプロファイリングする事で、ゲノムデータを用いて個人を識別し得るといったような記載がなされているところでございます。
 また、下のほう、令和5年度の「ゲノムデータの持つ個人識別性に関する研究」、こちらは冒頭の御挨拶のほうでも先生方から少し御紹介いただきましたけれども、本検討会にも構成員として御参加いただいている石川先生、荻島先生に研究代表者・分担者のお立場でおまとめいただいているものになりますけれども、我が国では、現行の個人情報保護法の下でゲノムデータの利活用を十分に推進することが困難な状況がある。一方、欧州の一般データ保護規則(GDPR)に基づく英国とかEU各国では、活発なゲノムデータ利活用が実現している。実際に英国のUK BiobankやGenomics Englandといったところでは、十分な被験者保護措置を講じることで、世界中の研究者または企業に対して、visiting環境でゲノムデータ提供をしてございまして、参加者から個別の提供先への明確な同意を得ることなく包括同意の下に実施しているという状況でございます。
 また、GDPRでは、genetic dataを、健康に関するデータと同様に、personal dataのspecial categoryとして定義しているという状況でございまして、個人識別符号とは定義しておらず。こちらは注釈の1にございますが、GDPRにおいては、個人情報保護法上の個人識別符号に該当する制度は定められていないところでございますが、生殖細胞系列バリアントと体細胞変異は区別していないといったような状況になります。
 また、続いてのポツになりますが、がん等における後天的に発生する体細胞変異に関する情報は、現在の生物学的もしくは技術的な観点から、特定の個人の一部の特徴を示す情報としては可変性の程度が大きく、個人識別符号には該当しないと考えられること、および、単一遺伝子疾患等における生殖細胞系列の遺伝的バリアントにおける配列情報は、個人識別符号の定義に当てはまらない場合には、個人識別符号には含まれないと明示する必要があることを確認し、これらをガイドラインやQ&Aといった形で明記することで利活用を促進することが期待されると考えられるというふうにされています。
 また、最後の○でございますけれども、中期的には、公衆衛生目的の例外規定の運用に係る整備とかゲノムデータの利活用を推進するための新たな法整備が考えられたというふうにされているところでございます。
 なお、本検討会の用語の定義につきましては、参考資料3のほうに紹介しておりまして、こちらで挙げられている用語のとおりといたしますので、適宜御参照いただければと思います。
 続いて、資料1にお戻りいただきまして、6ページになります。本検討会の目的についてというところでございます。
 科学技術の進歩により、大規模人口集団におけるゲノム解析が拡大し、ゲノムデータの蓄積が進みつつあるといったところでございます。また、シングルセル解析技術等の進歩により、従来は分からなかったような微細なゲノムの変化の情報のようなものも得られるようになったところでございます。さらに、ゲノムデータを利用した研究が盛んになり、今、御説明さしあげましたとおり、課題が生じているといったところでございますので、中ほどのポツにございますとおり、本検討会においては、最新の解析精度等を含む科学的知見を基に、「一意性」「不変性」「本人到達性」といったところに焦点を当て、科学的な観点からゲノムデータの個人識別性について検討いただくというものになります。
 なお、最後のポツのとおりでございますが、ゲノムデータの個人識別性の検討そのものは、冒頭の先生方からの御挨拶でも少しいただいていたところではございますが、科学的観点からのみならず、倫理的・法的な観点も重要となりますけれども、本検討会のスコープとしては、科学的な観点というふうに考えているところでございます。
 事務局からは以上となります。
○徳永座長 ありがとうございました。
 ただいまの説明について、まず、経緯や動向の部分で御質問、御意見がある方がいらっしゃったらお願いいたします。
 まず、石川先生、荻島先生に、研究代表者・分担者の観点から補足があればお願いしく思いますが、いかがでしょう。
○石川構成員 石川です。では、まず私のほうから。
 私は、今日の資料にあります「令和5年度のゲノムデータの持つ個人識別性に関する研究」ということで担当させていただきました。私と荻島構成員と新領域の鎌谷先生で対応したのですけれども、報告書は別途資料に目を通していただければいいと思います。これは、厚労省の皆様とか個情法の先生方にも、一応、目を通して確認いただいたものになります。
 質問として幾つかあるのですけれども、整理して分かりやすいところで言うと、体細胞変異と1遺伝子の遺伝病の変異というのがありまして、過去、平成28年のほうの報告書にもかなり似たようなことが書いてあるのですけれども、体細胞変異というのは、基本的にはがんのような、子供に遺伝しないようなものを想定しているのですが、最近、いろいろな科学的な知見が増えてきて、例えば1人の個体の中でも加齢によって増えてくるとか、そういういろいろな意味の体細胞変異というのがキャラクタライズされつつあります。
 これについては、過去の報告書にもありますように、いろいろな面で検討されて、特に可変性というか、いろいろな疾患とか加齢とか生理的な状態によって変わり得るだろうというところが1つポイントになって、これが通常のヒトゲノムの情報とは違うのではないか、違う扱いができるのではないかというところで一応結論を得ております。
 今まで、こういうサイエンスのコミュニティにおいて、例えばがんの体細胞変異のようなものは、通常ですと全ゲノム変異というのは、何らかの規制、例えば審査を経て、研究者といえども入手できる、解析できるということがあるのですけれども、体細胞変異については、特に例えばインターネットや雑誌のような媒体で、アクセス制限なく、慣習的にそれが行われていて、サイエンスの観点からは違うという扱いがこれまでにもされていたようなものかなというふうに考えております。
 今回のこういう報告書をつくるに当たって、改めていろいろな規制に関する文書なんかに目を通したのですけれども、あまりここがきちんと書かれていなくて、ユーザー、利用者にとっては、この辺を本当に区別していいのかどうかというところが、恐らく利活用の一つの阻害要因になっているのではないかということが考えられましたので、そこをより明確にしてはどうかというところが1つであります。
 もう一つの単一遺伝子疾患等の遺伝的バリアントについてというのも、これは単純に何かの遺伝子の変異、こういう変異がありますという情報というのは、例えば教科書などですと、こういう遺伝子疾患はこれまでの研究でこういう変異がありましたみたいなことが普通に載っているわけですけれども、これをいわゆる全ゲノムのような個人識別符号相当なのかどうかというところが、これまであまりきちんと議論されていなかったところであります。これについて、個人識別性という意味で、今までの報告書の定義というのはあるのですけれども、その定義に当てはまらない場合は、こういう単一遺伝子疾患の遺伝的バリアントも該当しないのを一応再確認するということで、改めてこれを明記したり、周知したりすることで利活用が進むのではないかと思っています。
 本日、構成員に小崎先生もいらっしゃっていますけれども、こういう単一遺伝子疾患のバリアントについては、特にセンシティブな内容がバリアント自体に含まれているわけではありませんので、それを共有することによって非常に大きな公衆衛生上のメリットがあるというところも併せて強調したいと思います。これは後で小崎先生から何かコメントいただけるかもしれません。以上ですけれども、簡単に言うと、体細胞変異と単一遺伝子疾患バリアントの個人識別性については、全ゲノムのシークエンスとはちょっと別の扱いができるのではないかということが科学的に考えられたということです。
 そのほか、報告書の内容は、全ゲノムの個人識別性を考慮した上での様々な利活用の提案などもしてありますけれども、これは後の議論にしていただいて、まずはその2つのポイントについて簡単にお話しさせていただきました。
 以上になります。もし荻島先生のほうで補足があればお願いします。
○徳永座長 補足をお願いしたいと思います。
○荻島構成員 東北大学の荻島でございます。
 今、石川先生から御説明のとおりです。それで、この報告書をつくるに当たっては、個人情報保護の法律の専門家や倫理の専門家、あるいは日本人類遺伝学会の先生方等の方々の御意見を伺いながら、この報告書を取りまとめてきているという背景を共有させていただければと思います。
 また、先ほどの資料にもありましたけれども、UK BiobankやGenomics England等、国外でのゲノムデータの利活用というものが大分進展してきているという状況や、GDPRやEHDS(European Health Data Space)でのゲノムデータの利活用といった状況についても調べて、そういったところについても御意見を伺って、何とか利活用するようにしたほうがいいのではないかという御意見も、いろいろ御意見伺った先生方から多数いただいているという状況については、共有させてください。
 また、今、単一遺伝性疾患等のバリアントの情報の共有の重要さについて、石川先生からもありましたけれども、ゲノムデータ、ゲノム医療を行う上で、ゲノム情報を解釈する上で、どういう病的なバリアントがどういう疾患に関わるのかというナレッジ、そういったバリアントに関する知識というものはどういうふうに共有していくのかが重要となっています。まさに、今日、座長をされている徳永先生がMGeNDというデータベースを構築されていますけれども、そういったところでゲノム情報を診断の知識として共有していくというところも、今、なかなか難しい状況になっているのかなと思っておりまして、そういった話とも関わって、こういった報告書が出されているというところでございます。
 以上になります。
○徳永座長 ありがとうございます。
 それでは、御質問あるいは御意見をどうぞ。
○磯部構成員 磯部です。
 今、御説明いただいた資料の5ページの「ゲノムデータの持つ個人識別性に関する研究」の報告書で、2つ目の令和5年のやつは、3つ目の○で、個人識別符号の定義に当てはまらない場合には、個人識別符号には含まれないと明示する必要があることを確認し、ガイドラインやQ&Aへ明記することで利活用を促進することが期待されると、ここまで御指摘になっているのですが、実際、これをガイドラインやQ&Aへ明記するという対応はされたのでしょうか。それとも、そういうことをするためにこの検討会があるということなのか、伺わせていただければと思います。
○石川構成員 石川ですけれども、よろしいでしょうか。
 これはこちらのガイドラインにもQ&Aを幾つか想定したディスカッションはしたのですが、まだこれを公開するという段階にはなっていません。これはおそらく厚労省や個人情報保護法委員会事務局の方々とのディスカッション、今日の話によっても変わり得るかなと思います。もし、厚労省のほうから補足があればお願いします。
○徳永座長 厚労省はいかがでしょうか。
○江田推進官 厚生労働省でございます。
 5ページに記載しましたガイドラインやQ&Aへ明記することでというところの対応は、まだされていません。今回、この検討会の議論を踏まえて、個人情報保護委員会事務局とも相談の上、これらの対応をしていくかということを決めていくことになります。
 以上です。
○徳永座長 よろしいでしょうか。
○磯部構成員 承知しました。
○徳永座長 他にいかがでしょうか。もしよろしければ、石川先生からお話ありましたが、小崎先生、難病あるいは単一遺伝性疾患のゲノム医療、御専門の立場から何か御発言ございますでしょうか。
○小崎構成員 ありがとうございます。
 先ほど来申し上げましたが、世界的にはClinVarというデータベースが使われております。こちらに収載されたものかどうかによって、患者で認められたバリアントに病的意味があるかどうかを判断するということが国際的な規約の中にも含まれておりまして、当然、日本人のデータを解析するには日本人でどうかということが問題になることでございます。問題になるというか、すべきであるということでございまして、実情と乖離が認められているということであると思っております。Q&Aのような形で発出されると、患者さんへの説明や学術コミュニティの中での認識がより深まるものと考えます。
 以上です。
○徳永座長 ありがとうございました。
 私の立場から、先ほど御紹介いただきましたMGeNDという、日本人で特定された病的バリアントを登録して一般公開する、公開データベースにしているという活動の中で、小崎先生には非常に大きな貢献をしていただいているのですが、実は登録されたバリアントを集計すると、先ほど小崎先生がおっしゃった米国のClinVarという世界最大規模の病的バリアントのデータベースに比べると、はるかにその登録されたバリアントの数は少ないのですけれども、それでも半数以上はClinVarには登録されていないものでした。
 つまり、集団による違いがあるということを示しておりまして、日本人のゲノム医療に役立てるためには、ClinVarだけ見れば済むということではないと。日本で特定された病的バリアントを登録して、その情報を皆が利用できるというデータベースが必要であろうというふうに考えております。
 それから、主にがんゲノム医療の立場で、織田先生、何かございますでしょうか。
○織田構成員 ありがとうございます。
 非常に重要な点かと思います。がんゲノム医療の立場で、体細胞変異に関して少し分けて考えていただいている点、とても重要かと思います。
 一方で、今、行われているがんゲノム医療では、腫瘍組織のみを用いた検査、あるいはリキッドバイオプシーとして血液のみを用いた検査も広く行われています。これらに関しては、がんで何が起こっているかを見に行くものになるわけですけれども、Germline Conversion Rateという、要するに生殖細胞系列の病的バリアントの情報も、がんを調べれば一緒に上がってくるというところがあるかと思います。こうした情報が幅広くC-CATという形で国のほうでも集められているという状況かと思います。
 体細胞の変異を調べるのを主たる目的としつつも、Germlineの情報が含まれるデータも非常に多く蓄積されているということから、体細胞とGermlineと完全に二分するという概念に当てはまらないものも、うまくこういった制度の中で御検討いただければと思いました。
 私からは以上です。
○徳永座長 ありがとうございます。
 遺伝病が主な御専門の齋藤先生からはいかがでしょうか。
○齋藤構成員 先ほどの日本人のデータの登録がまだ非常に少ないというところは大変痛感しておりまして、変異のバリアントにおける特殊性などは、日本人にあるのかというふうに日常の診療の中でも感じています。治療ができるような疾患が今、出てきている場合に、そういったバリアントが同定されるか同定されないかによって、治療の適応になるかならないか、要するに診断の確定がされるかされないか、そういう分かれ目になっていくというところがあります。研究がどんどん進み、そして登録も進んでいくということが非常に重要であるということを考えています。
 一方で、公衆衛生疫学調査などの場合に、どうしても制限があると感じます。疫学調査自体の内容に患者さんのゲノムデータが入ってくると、ドクターたちが萎縮して疫学調査に協力しなくなってくるという傾向が現在あります。今、単一遺伝子病が治療できるようになって、私の専門の脊髄性筋萎縮症という疾患で新生児スクリーニングをやって、その後の動向を調べたいと計画しても、ドクターたちが、ゲノム情報なので、患者さんに同意を取って、全部きちんと手続していくということが非常に困難だという理由で、そういったデータを吸い上げられないという現状があります。ですから、医学・医療の発展を妨げるような、あまり縛り過ぎるために、医療全体が萎縮しているという印象を受けていますので、この点の改善というところは何とかならないかと考えています。
○徳永座長 ありがとうございました。
 これまでは、ゲノム医学の御専門の先生方の御意見を伺ったのですけれども、もちろん、この個人識別性という課題は法的に極めて重要な概念だと思いますので、個人情報保護法の御専門の石井先生の御意見、御見解も伺いたいと思います。
○石井構成員 ありがとうございます。
 私からは、法的な観点からの意見になりますが、まず、議論の方法についてのコメントを1点目、させていただければと思います。それから、2点目は国際動向との関係。それから、3点目は国内法に与える影響です。この3点から意見を申し上げようと思っております。
 まず、「ゲノムデータの個人識別性に関する検討会」というタイトルになっておりますが、法的観点からすると、識別性に関する検討会という名称はあまり賛成できないという面があります。それが1点目の議論の仕方に関わってくるわけですが、個人情報の利活用に向けた議論を日本で行うときには、個人情報からいかに外すかという観点での議論がなされがちだと思っています。この議論をすると、義務が丸ごとかかるかかからないかのどちらかの流れになってしまって、適切なガバナンスの在り方とか利活用の正当な目的を議論する余地がなくなってしまうということがありまして、個人識別符号から外すか否かという議論は、法的な観点から見るとあまり筋がよくないと考えているところです。
 国際動向の関係に入りますが、GDPRやUK GDPRを含めて、ゲノムデータ全般について個人識別性があるとされています。さらには、特別な種類の個人データに含まれるということで、原則取扱い禁止としながらも、使うことができる条件を定めて利活用しているという状況があると認識しております。例えば、御紹介のありましたGenomics Englandは法的機関が関わる形でやっているものだと思いますが、UK GDPRに基づくと、これは個人データに含まれることとなる。そして、特別な種類の個人データに含まれることを前提に、GDPR上の利活用の根拠、適法な取扱いの根拠として6条1項f号、また、特別な種類の個人データの利活用の根拠として第9条2項g号に基づくという形で、個人データに含めた上で利活用のための条件を定めた法令の根拠に基づいてやっている。ここをきちんと共通認識として持つ必要があるのではないかと思います。利活用のために個人データに含めないようにしているからではないということです。
 3点目が国内法の影響です。スライドの5ページ目をお示しいただければと思いますが、個人識別符号はGDPRやUK GDPRには存在する制度ではないということで、EUでも英国でも生殖細胞系列バリアントも体細胞変異も個人データに含まれるということです。がん等における後天的に発生する体細胞変異と、単一遺伝子疾患における生殖細胞系列の遺伝的バリアントにおける配列情報を個人識別符号から外すという議論をしたときに、現在定められているほかの識別符号も外すべきではないかという議論が生じかねず、その波及効果が大きいのではないか。そうすると、個人識別符号という制度自体の法的安定性を損なうおそれがあるということが懸念されます。
 また、個人情報保護法の3年ごと見直しが現在行われているところでして、例えば利活用の方法として、統計作成等、特定の個人との対応関係が排斥された用途で、一般的・汎用的な分析結果の獲得のみを目的とした取扱いや、生命等の保護、公衆衛生向上のための個人情報の取扱い、病院等による学術研究目的での個人情報の取扱いの在り方といった辺りで記述の見直しの検討が進んでおります。この3年ごと見直しの方向性が実現したときに、遺伝データの取扱いについてどこまでカバーし得るのか。あるいは、更に懸念がある場合には、どういう制度的な措置があり得るかというのを検討すべきだと思っています。
 そのやり方としては、個人識別符号から外すということではなくて、利活用の正当な目的があるかどうか、そして、適切なガバナンス体制が講じられているかどうか。こうした観点に基づき、利活用の方向性を議論すべきではないかと考えています。ガイドラインやQ&Aで特定の情報についての個人識別符号から外すということを明記するというのは、方向性としてはあまり賛成できないという立場です。
 令和5年の厚労科研の報告書を拝見しても、個人情報の定義の中で、個人識別符号から外すことだけを議論されているわけではなくて、個人識別符号を付したまま利活用を促進するための方策についても議論されていますので、そうした観点からの整理というのが十分あり得るのではないかと考えております。
 さらに、例えば日本医学会長、日本医師会長の共同声明が出ていると認識していますが、不当な差別や社会的な不利益の防止という観点も、ゲノムのデータを使うときには非常に重要な観点になってきますので、こうした点を含めて、プライバシーと社会的信頼を確保するための措置を検討していくべき、というのが法的観点からの私の意見になります。
 私から以上です。
○徳永座長 ありがとうございました。
 また、法の専門であります磯部先生の御意見もお伺いしたいと思います。
○磯部構成員 磯部です。こういう順番で当たっていく感じなのですね。
 すみません、そんなにまとまっているわけでもなく、かつ石井先生、個人情報保護法の専門家の後にあまり思いつかないのですけれども、今、個人識別符号から外すというのはどういう意味かなのですね。特定個人が識別できるから個人識別符号になるのであって、特定個人を識別できるわけではないものはこれであると分かりやすく示すことは、個人識別符号の範囲を画するということにとどまるのであって、何かを外しているわけではないのではないかというふうな気がしまして、その方向は、したがって、この令和5年の報告書の2つの情報について当てはまらないことを明記するということは、別に許容されるのではないかというふうに感じていたところです。
 ただ、いずれにしましても、きちんと適切なガバナンスを利かせながら、どう利活用を図ることが適切かということを正面から論じるべきであり、その際、本人の同意さえあればいいというようなものでは到底足らず、より具体的なガバナンスというのですか、在り方をこういう報告書などで勉強しながら、さらに検討していきたいと考えておりますということで、すみません、あまり中身がありませんが、最小限、コメントです。
○徳永座長 ありがとうございます。個人識別性ということの意味だと思うのですけれども、ありがとうございました。
 法と倫理社会面、両方の御専門であります横野先生の御意見を伺わせてください。
○横野構成員 ありがとうございます。
 先ほど磯部先生から御指摘ありました、外すというのか、むしろ解釈の明確化ということかと思うのですけれども、今のゲノムデータの範囲に関しては、例えばデータの量で40SNPとかが決まっていて。ただ、実際の対応としては、そこを厳密に問うというより、例えば倫理審査とか研究計画の立案段階では、どれくらい実際に量を扱うことになるのかということが確定しているわけではないので、全ゲノム解析をする場合のようにはっきりしているときは別として、多少なりともゲノム解析をするというのであれば、これはゲノムデータを含むものとして扱いましょうと広めに扱うということが一般的かと思います。
 ですので、例えばその中で、先ほどありました単一遺伝子疾患等における生殖細胞系列の遺伝的バリアントにおける配列情報というものに関しては、これは含める必要はないですよということを明確化していただくということは、現場での運用上は非常に参考になる部分かなと思っております。
 あと、法律上、ゲノムデータが個人識別符号に位置づけられていることによって、ほかの情報と取扱いを大きく変えざるを得ない部分というのは、意外と少なくて、おもに次世代医療基盤法に基づいて仮名加工や匿名加工をするときに、その情報から個人識別符号の全部を取り除かないといけないというところで取扱いを変えざるを得ない。その加工のところになると思うのです。
 ただ、法律はそうなのですけれども、現場の運用としては、先ほど齋藤先生からあったのですけれども、この10年くらい、一つは個人識別符号というのが導入されたということと、もう一つ、そのときに要配慮個人情報というのも個人情報保護法上の制度として導入されたので、そういうデータを扱う際に現場が非常に萎縮しているということは、実態としてあるというふうに思います。ですので、法律上、その取扱いを変えることによって解決される問題と、あるいは法律の原則は変えないのですけれども、より具体的な解釈・運用の在り方を示すことによって解決する問題と、そこを変えたとしても解決しない問題も恐らくあるというふうに思います。
 例えば、データベースでの配列情報の公開が進まないという件ですが、公開は、御本人の同意があれば基本的には可能な話だというふうに思っています。諸外国でも、基本的には同意を得て、包括的な同意かもしれませんけれども、公開するということが一般的なのではないかなと思います。その辺り、詳しい先生がいらっしゃいましたら、実際の運用について補足していただければ大変ありがたいと思いますが、一方で現場での受け止めというものを無視して議論を進めるということも、また適切ではないと思いますので、現場での混乱や萎縮というところが、何がその背景や要因としてあるのかということをもう少し詳細に見極めた上で、ここでの議論の方向性というものを考えていくことが重要かなと思います。
 例えば、2015年の個情法改正の後、ゲノムデータの取扱いが確定され、その後、倫理指針の改定が行われましたが、そのときの倫理指針というのは今のものとは全く異なっていまして、連結不可能匿名化することによって、個人情報でないものとして扱うことができるというのが、そのときの改定以前の倫理指針で、そして、個人識別符号が導入されたことが1つの理由となって、その考え方が指針の中から取り除かれたというところもあって、そのときの印象が今も尾を引いているような感じもいたしております。その辺りを少し切り分けていくことが重要かなと思っております。
 以上です。
○徳永座長 石井先生、御意見、お願いします。
○石井構成員 すみません。先ほどのコメントで発言し忘れたことを少し明確化しておく必要がある点があるかと思いましたので、改めて発言させていただきます。
 まず、私は「外す」という表現を使ってしまったのですけれども、資料には、個人識別符号には含まれないと明示する必要があることを確認となっています。体細胞変異、単一遺伝子疾患等における配列情報が個人識別符号に含まれないと明示する必要があることを確認すると、ほかの情報も同じように明示する必要があることを確認すべきではないかという話が出てきかねないので、そういう意味で法的安定性を損なうおそれがあると考えています。
 それから、国際動向との関係で、日本はEUから十分性認定を受けているという立場にありまして、越境データ移転についての信頼性がお互いに担保されている状況です。そういう中で、特に機微な情報として扱われているものがQ&Aやガイドラインで一部外されていますとなると、EUから見て、重要な情報が保護の対象外になっているのではないかというように見られてしまう可能性もある。そういう意味で、越境データ移転にも大きな影響を与えかねないという点も懸念として申し上げておきたいと思います。
 遺伝データの利活用について、私は反対の立場でも何でもなく、議論の仕方として、個人識別符号に含まれないことを明示するという方向性について懸念を表明しているという立場です。正当な目的があるということと、ガバナンス体制がきちんと講じられることが重要です。そして、3年ごと見直しの議論を踏まえて利活用の在り方を検討することができるわけですから、そういう用途の観点で利活用の妥当性を模索していくという方向性が望ましいのではないかという意見になります。
 個人情報保護委員会の皆様、参加されているようですので、もしよろしければ私の認識、もしかしたら違う点があるかもしれないのですけれども、御発言いただくといいのかなとも思いますので、あわせて意見として申し上げておきたいと思います。
 以上です。
○徳永座長 ありがとうございます。
 オブザーバーでもあります個人情報保護委員会事務局の方からのコメントは、この会議の最後に伺わせていただきたいとも思っていましたけれども、石井先生からの御発言がありましたので、もし今の時点でもよろしければ個人情報保護委員会事務局からの見解をいただければと思います。いかがでしょうか。
○個人情報保護委員会事務局 個人情報保護委員会事務局の吉屋と言います。
 最後にと思っていましたけれども、幾つか気になることがあるのでお伝えしたいなと思います。基本的に一番のポイントは、石井先生から今お話があったことそのものなのですけれども、この会議で一体何をしようとしているのかというところが、私たちとしてはいまいちよく分からなくて。そして、そこに私たちがどのように関わったらよいのか非常に困っています。そのため、「この会議で一体何を最後実現しようとしているのか」、「その実現のために一体どのような検討をするのか」、そして、「そのスケジュール感はどのような感じで考えておられるのか」という部分を、この場でなくても結構なのですけれども、事務局の方によく整理いただきたいと思っているのです。
 なぜかというと、最初の資料1の2ページ目には、平成27年改正の個人情報保護法のことが書いてありまして、個人識別符号の概念のことだけが書いてあります。ただ、個人識別符号は飽くまで識別符号なので、個人が識別できるものが個人情報で、そのうちで文字、番号、記号で示されたものが識別符号となっています。ですので、識別符号からゲノム情報を外すということだとすると、これはそもそも個人情報ではありませんということを皆さんの名前で決定しますということになりますので、そういうことは皆さん、本当にそう思っていらっしゃるのですかと。
 この文字だけ見ると、文字列、番号に拘泥した議論に吸い込まれている感じがしますけれども、そもそも個人情報じゃないということなのですよということを皆さんが議論しようとしているという感じがしていて。ですから、先ほど石井先生がおっしゃったように、識別符号の議論から、識別性があるかどうかの議論から入るのは、私たちとしても違和感があります。
 さらに申し上げると、個人識別符号という言葉はGDPR上にはないのですけれども、ゲノム情報というのは個人の識別性がありますと、名前などの識別子を外した上でも個人識別性がありますと。だから、個人データであり、またスペシャルカテゴリーのものとして扱っていますということが、GDPR上明記されていますので、その上で個人識別性がないということだとすると、GDPRとの同一性認定、先ほど石井先生がおっしゃっていましたけれども、この部分に対して、日本としてはチャレンジをすると。EU側の規律に対し、日本側としては「それはおかしい」と思っているという議論になりますので。そういう議論をするなと言うつもりはあまりありませんけれども、そういう議論になっているというところを念頭にこの議論をしていただきたい。
 ですから、そういうことを目的にしておられるのか。今日の話をこれまで聞いていると、最初に佐々木技総審からも話がありましたが、保健とか医療とか創薬の関係でゲノムが使えないかという議論だったと思いますので、もしそうだとすると、今の識別符号の議論よりは、保健であり、医療であり、創薬であり、これらがとても公益上大切なので、そのために使えるような議論をしましょうということとは、議論が全然違う。個人情報でない形にしますという議論ではなくて、必要なことに利用しますという議論だとすると話が違うので、そこの部分をよく整理いただいて。事務局としてどっちの方に議論したいのかということをよく整理いただかないと、私たちもどのように関わったらいいかが分からないのでと思っています。それが一番のポイントです。
 その上で、今の議論をする上で、3点、申し上げたいと思っています。3点、よく議論していただきたいポイントがあって。1つが、横野先生からもありましたけれども、または、磯部先生からもありましたけれども、海外では利用できるのに、日本ではできないというお話がありましたが、一体海外ではどのような利用がなされているのか。日本では本当にできないとおっしゃっていますけれども、一体どのような利用ができないのか、どのような利用をしたいと思っているのか、海外では一体どのような法律に基づいて利用されているのか。
 これはなぜかと申し上げると、個人情報保護法上の解釈を、運用を変えるべきだ、また法律を変えるべきだという議論になっていますけれども、本当に個人情報保護法として議論しなければいけない内容なのかどうかが私たちには分かりませんので、どのような利用がされていて、それはどのような法的根拠に基づいているのか。日本で利用ができないのは、個人情報保護法の規定に問題があるのか。この部分をよく整理いただいたほうがいいかなというふうに思います。
 それから、2つ目の論点としては、医療分野であるとか保健分野ということが想定されるのであれば、私たちはその点、もう申し上げませんけれども、個人情報保護法は一般法ですので、個人識別符号ではないということだとすれば、これは医療分野だけではなくて、安全保障であるとか警察の分野にも波及することになります。警察の方々がDNA鑑定を使って捜索をしているということは警察白書にも載っていますけれども、個人情報ではないという位置付けで本当にそれらをするのかという議論もあり、世の中的な関心や不安がかなり高まってくるという懸念がありますので、そういうこともあり得るということを念頭に置いた上で議論いただきたいなというふうに思います。
 もう一つ、3点目、こちらが先ほどの石井先生の話とかなり近いと思いますけれども、政府の中では医療データの利活用というのは非常に重要で、私たちも実はそう思っていますけれども、そのためには、利活用するために自由に使ってくださいということではなくて、関係者の信頼を得て安全な形で使いますという枠組みをしっかり作るというのが非常に重要だというふうに考えています。石井先生からもありましたけれども、私たちも個人情報保護法改正の議論を今させていただいていますけれども、その中でも、ゲノムデータに限りませんが、個人情報の扱いに関しては、公衆衛生例外の扱い方を含めまして、様々な利活用が進むような、その一方で、ガバナンスであるとか、法令違反の場合の対応等を併せたバランスの取れた形で議論を進めているところでございます。
 もう一つ、こちらはむしろ厚生労働省さんが中心で、この検討会の中心になっている厚生科学課が主体ではないと思いますので、厚労省さんの中でよく議論した上で、よく整理いただきたいと思っていますけれども、今年の規制改革の答申、5月28日に出ています。これが6月に入るとどこかのタイミングで閣議決定され、政府の方針として実施計画に変わっていくものというふうに考えていますけれども、この中には、政府として医療データの利活用が非常に重要ですと。ですので、本人が同意をしないでも使えるような枠組みをこれから検討して、令和8年夏を目途に方向性を確認し、場合によっては、令和9年から法改正も含めて検討するということが明確に書いてあるというふうに認識していまして、その中にはゲノムデータというものは入っていません。
 これはなぜかというと、ここで正に議論されているとおり、ゲノムデータというものをあえてその中に入れていないという趣旨は、私たちはよく分かりませんけれども、様々な議論がある上で乗っていないということだと思います。そのぐらい、ゲノムのデータというものの本人の同意がない形での利用ということに関しては、慎重な考え方があるというふうに考えていますので、そういう議論があるということを頭に置きながら、さっき申し上げた、この検討の目的であるとか進め方であるとかスケジュールであるとかをよく整理いただいた方が、今日、いただいた方々のコメントもかなりばらけている感じがするので、そこの整理をいただいたほうがいいと思います。
 個人情報保護委員会としては、医療分野のための枠組みを作ります、そのために工夫してくださいというであれば、私たちは助言を行いますし、個人情報保護法の立て付けを変えてくださいというのだとすると、その立て付けを、私たちとして、対EUに対してもそうですし、日本に対してもそうですし、世界に対してもそうですけれども、説明できるような理屈で用意いただかないと、私たちも今日、お話いただいたような二つについてもなかなかさらっと受け入れられないものですから、その部分をよく整理いただきたい。
 最後に一言申し上げると、先ほど磯部先生から、令和5年の検討の結果が、個人情報保護法のQ&Aやガイドラインに記載されているのですかという御指摘をいただきましたが、私たち、レポートを議論している最中にいろいろな形で関わっているので、議論していたことは知っていましたが、公表されたのは今日初めて知りました。そういうような状況ですので、私たちとしてもこの議論にどのような形で関わったらよいのか。関わったがゆえに、個人情報保護委員会はその話を知っているではないかと後から言われるということに非常に懸念を持っていますので、今、申し上げたようなことをよく整理いただいて、次回の会合までに私たちがどのような形で関わるかということも含めて議論させていただけると有り難いなと思います。
 以上です。
○徳永座長 ありがとうございます。個人情報保護委員会事務局からの御見解がありました。いろいろな内容を含んでおりましたけれども、ここで厚労省の事務局のほうから何か今の時点で御発言いただけることがありますでしょうか。特に、この会議の進め方についての御質問があったと思います。
○江田推進官 厚生労働省でございます。
 いろいろな御指摘ありがとうございました。何人かの先生からおっしゃっていただきましたが、医療現場でなかなか利活用が進まない、現場が萎縮してしまっているというお話をいただいています。そちらについては、我々、非常に問題だと思っていまして、そこを何とかしたいという思いがあります。その解決方法としては、個人情報保護法のQ&Aを出していただくといったものも1つ手としてはあると思いますし、それ以外のこともいろいろあると思います。そういったところをいろいろ御意見いただきながら、丁寧に進めていければと思っております。
 個人情報保護委員会の事務局の方からも、医療分野での利活用は大事とおっしゃっていただきましたので、日本の医療がよくなるように、個人情報保護委員会事務局の方とも協力しながら進めていきたいと思っております。
 事務局からは以上です。
○徳永座長 ありがとうございます。
 石川先生、お願いします。
○石川構成員 石川です。ありがとうございます。
 何人かの先生方に貴重な御意見いただきましたので、その辺りの視点も含めて、この報告書の趣旨、先ほど私が申し上げたこと以外にもいろいろ含まれておりますので、先ほどいただいた趣旨に照らして、もう一度御説明させていただきます。
 今回、特にハイライトしたのが体細胞変異と単一遺伝子疾患等の遺伝的バリアントということです。当初、ゲノムデータそのものが、いわゆる全ゲノムシークエンスみたいなことを念頭に置いて、個人識別性があるのかないのかというところを、いろいろな到達性とか、そういうことで今まで議論があったので、そこ自体もこの報告書に含めるということは話としてはなかったわけではないのですが、いろいろな判断が必要ですので、この報告書にまとめるにはちょっと難しい課題で、実際、先延ばしにした感じになっています。
 そういう議論というのは、もし必要であれば、今回こういう場でも改めて議論いただければいいのかなと思いますけれども、今回、体細胞変異と単一遺伝子疾患等の遺伝的バリアントを、例えばQ&Aにしたらいいのではないかという趣旨は、先ほどのお話にありましたけれども、いろいろなインタビューをする中で、現場の混乱と萎縮が見られた。これは事実かなと思いますけれども、その中で、個情法の条文とかガイドラインとか、それを書き換えるというのは、手続としていろいろな難しいところ、混乱も出てくるというところで、法的観点から検討いただく。
 殿村先生も御意見いただいて、このQ&Aという形で、いわゆる解釈を明確化する。先ほど横野先生から、おっしゃっていただきましたけれども、解釈を明確化するというところであれば、この混乱をなくするという趣旨に沿って可能ではないかというところも、今回、Q&Aという言葉が出てきた経緯になります。
 ただ、到達性云々という議論はありますけれども、個人識別性ということに関して、これまで一定程度あるという議論はありましたから、そこを個人識別性があるという議論のまま、いろいろな利活用ができるのではないかというところも、同じ構成員の荻島先生、鎌谷先生から出てきて、それも報告書に記載してございます。その一つの理由というのが、普通の医療データみたいに仮名加工みたいなことが技術的に非常に難しそうだったということが、今回、いろいろ調べて分かったところで、簡単に申し上げますと、例えば全身の写真ですと顔をマスクするとか、一部をマスクすることによって個人識別性をかなりなくすことができると思うのですけれども、ゲノムの場合というのは、どこが重要か分からないという事実がありまして、基本的に全部をマスクせずに扱う必要がある。 今、重要でないということが分かっていても、将来的にそれが分かる必要がありますので、ここが重要だということが後から分かるということがしばしばありますので、全ゲノムも何らかの形で、皆さんが納得する形で非常にクラシックな意味で仮名加工するということは恐らく難しいのではないかという結論になりました。それも報告書のほうに書いてございます。
 その上で、先ほど石井先生もおっしゃったように思いますけれども、何か規制、何らかのレギュレーションをGDPRなんかを参考にしてかけるとか。あと、磯部先生も少しおっしゃいましたけれども、UNESCOの文言から出してきたような、公共財であり、非常に利活用のために共有する必要があるという趣旨も、今回、報告書に多少書いてありますけれども、その趣旨に沿って、個人識別するということはある程度あるというふうにした上で利活用するというところの可能性も報告書の中に書いてあります。もしよろしければ、荻島先生、この辺り、少しフォローいただけますでしょうか。
○徳永座長 荻島先生、どうぞ。
○荻島構成員 ありがとうございます。
 今、石川先生から説明があったとおりでございます。我々、この報告書をつくるに当たって、個人識別符号にあたるようなゲノム情報について個人情報ではないという認識で報告書をつくっているわけではないというところは最初に申し上げたほうがよいと思っておりまして、個人情報であると認識しています。しかしながら、繰り返しになるのですけれども、仮名加工して利活用することがなかなか難しい。そうすると、ほかの医療情報等と同じように研究開発に利用するということが非常に難しい状況になっているというのが、我々にとっての大きな課題です。
 先ほど御質問があった国外ではという話に関して言えば、EHDSではこれから動くところですけれども、ゲノムデータが活用される。当然のことながら、それには適切なガバナンスがあって、研究目的が審査され、あるいはvisiting環境でのみゲノムデータが使われ、使った後はそのデータは削除されるというようなコントロールの下での利活用がいろいろ考えられているわけですけれども、我々も同様に、ゲノム情報は個人情報であるのだけれども、きちんと責任ある利活用ができるスキームをつくれないかというのが、我々にとっての大きな課題であるというふうに理解しています。
 その中で、報告書の中では、個人識別符号ないしは個人情報をどのようにしたら責任ある利活用ができるのかということを幾つか書いたのですけれども、そこで記載されていること等も踏まえながら活用していくという立場に立っております。石川先生がおっしゃったことの繰り返しのようになりますけれども、私のほうから以上でございます。
○徳永座長 ありがとうございました。
 石井先生、御意見お願いします。
○石井構成員 何度もすみません。
 先ほどの厚生労働省の事務局の方からの反応が少し気になりましたので、意見申し上げたいと思います。厚労省の事務局の方からあった反応としては、ゲノムデータの利活用において現場が萎縮している、個人情報保護委員会事務局も、利活用に関して否定するものではないので、Q&Aやガイドラインの整理を含めて可能性があるのではないか、ということをおっしゃっていたという認識です。個人情報保護委員会事務局は検討会への関わり方が分からないということをおっしゃっていて、ほかの様々な懸念を御指摘されていたと思うのですね。
 私も、このQ&Aやガイドラインに個人識別符号に含まれないと認識することについては慎重な意見だということを、いろいろな国際的な観点ですとか国内法的な観点、それから議論の仕方も含めて申し上げているわけですので、それはちゃんと受け止めてほしいということを強調しておきたいと思います。
 資料の中でも、5ページ目の体細胞変異や配列情報が個人識別符号には含まれないと明示する必要性があるということをガイドラインやQ&Aへ明記することで利活用を促進することが期待される、というように書いてあって、これはまさに法的な解釈に関わって来ます。ですが、6ページ目を拝見すると、科学的な観点から個人識別性について検討する、なお書きで法的観点も重要というような本検討会の目的が書いてあります。やろうとしていることは、結局、法的な解釈の定義をしたいということだと思いますが、科学的な観点がメインだと。この点においても若干矛盾があるように思われますので、検討会の目的について厚労省の中で御検討いただくことが重要かと思います。
 私から以上です。
○徳永座長 ありがとうございます。
 いろいろな立場から様々な意見が出てまいりまして、どういうふうに今後進めていくか、そのこと自体も十分に検討する必要があるということも見えてまいりましたけれども、私の理解しているところでは、まず個人識別性について科学的に検討して確認したいというのが第1だと思っているのです。石川先生の研究班から、がんに限りませんが、体細胞系列のバリアント、それから遺伝病の原因となるバリアントも含めて個々の生殖細胞系列バリアントについては、個人識別性はないという御検討の結果が出ているわけですから、それをこの検討会でも確認できるかどうかというのが、まず第1だと思います。
 一般的に申しまして、ゲノムの情報に個人識別性があるというのは、私もそのとおりだと思っていまして、ただ、どのくらいの量、どういう質のゲノムデータであれば個人識別性があるのかというのは、科学的に検討できることであると思います。ですので、石川班から出されている見解について、この検討会でも確認できるかどうかが最初の一歩。
 それから、私個人としては、到達性という問題を、法律の先生方から、どのように考えればいいのか教えていただきたいというのがあります。今日はその時間はないと思うのですが、そういうことを期待しております。
 そして、最後になるかどうか分かりませんが、その上で、ゲノムのデータを欧米に見られるようにより活発に利活用していくためには、個人識別性があるという前提の上でも、どういう方策があるだろうかといったことを検討できればいいかなと、少なくとも私個人としてはそのように考えておりました。
 今日の1回での会議で構成員の先生方の見解がまとまるということはもちろんないと思いますので、いかがでしょうか。科学的な見地から石川先生の研究班で1つの結論として、最初に石川先生から御紹介いただいた体細胞系列のバリアント、あるいは生殖細胞系列のバリアントの個人識別性についての結論について特に異論がないか議論すべき点はないか、今日の会議の中で一定の結論が得られるといいのではないかと思いますが。
 補足ですけれども、平成28年の報告の中に、参考資料の中に一番最初に出ているのは、いわゆるタスクフォースではなくて、それとは別に吉倉先生が代表で、私も入って、そこのメンバーだったことと、あと鎌谷洋一郎先生もメンバーだったのです。そこで検討したのは、まさに個人識別性でありまして、互いに独立なSNPが40種類、マイクロサテライトですと9種類というので、もう個人識別性は出てくるなという結論を得た班会議です。その際に、主に鎌谷先生が一種のモデル計算をしたわけですけれども、個人識別性の基準として1×10のマイナス10乗という基準を設けておられます。
 そこに到達するために、一般的なSNPで言うと、互いに独立なというのは私が考えた言葉ですが、専門的に言うと連鎖不平衡という現象がないSNPの40種類以上の情報が得られると、10のマイナス10乗以下というふうに予想されるということで40という数字が出たわけです。10のマイナス10乗というのは、日本人の人口をゆうに超える数字ですね。
 ただ、これが一般的によく考えられる数字だということで取り上げたわけですけれども、そういうふうに考えますと、体細胞系列のバリアント、あるいは生殖細胞系列のバリアントというものが、個人識別性があるのかないのかという科学的な検討というのは可能になるのではないかと思っていますが、いかがでしょうか。この点について何か御意見ございますでしょうか。
 どうぞ。
○小崎構成員 小崎です。
 日本語の欠点だと思いますが、単数と複数が明確に区別できない点がありまして、法律でもそういう問題が起きていると思います。ゲノムの情報と言う場合には、多数あるバリアントの組合せ、この数が莫大なので個人が識別できるという意味でゲノムの情報と呼んでいるのであって、徳永先生が定義されたような、ごく限られた数のバリアントの情報では個人のゲノムに達しない。いずれのものもDNAから得られた情報ということでゲノム情報と呼んでいるわけですが、そこには明確な質の違いがあるということを徳永先生はおっしゃりたいのだと思っています。
 あと、徳永先生は遺伝病のバリアントという話をされましたが、これは単数・複数のゲノムで言いますと、ただ1つの部位でありまして、これを全てのバリアントを併せたゲノム情報とは、科学的に明確に違いがあるというのが報告書の本質ではなかったかと感じております。
 以上です。
○徳永座長 定義をはっきりさせていただいて、ありがとうございます。
 今、個情委の事務局の方から手を挙げられました。どうぞよろしく。
○個人情報保護委員会事務局 個人情報保護委員会の吉屋です。
 今のお話を聞いて、科学の話について、私たちは、コメントする立場にないので、議論いただければいいと思いますけれども、結果、それが法的にどうするかということに跳ね返ることを想定していると思うので、そこに関しては、先ほど申し上げたとおり、私たちとしてどう関わるか、よく分からないので、どういうふうに整理されたとしても、私たちはどうするかというのをこの場で決められません。
 一応、申し上げておくと、個人識別性という議論は、多分、今、
科学的な議論とおっしゃっていただいているところと法的な議論に若干ずれがあるような気がするので、皆さんの議論は皆さんの議論としますけれども、私たちがどう受けるかというのはまた別の話というふうに御理解いただければと思います。
○徳永座長 ありがとうございます。その立場を明らかにしていただいて、ある意味非常に助かります。こういった議論は、以前からあったと思うのですね。それが私どもの専門性の中で科学的に検討することが、そのまますぐに法に反映されるというようなことは、そんな簡単なことではないというのは、私自身の経験でもよく理解しておりますが、何度か言及がありましたヨーロッパで言われているゲノムデータが、個人情報の一つ、特殊な個人情報だという考えにつきましては、別にそれに反対するというのは全くないのですけれども、より詳細に検討すれば、今、申し上げたような識別性が生じる質・量というのがありまして、全てのゲノム情報が全て識別性があるというと、それは間違いなので、それをより精密に今、議論しているのかなというふうに私自身は考えております。
 ほかに何か御意見ございますでしょうか。
 横野先生。
○横野構成員 今、御議論あったところで、私も十分理解できていないように思うのですが、以前の平成28年度の議論の際には、当時、タスクフォースが始まった段階では個人情報保護委員会が、まだ発足していなかったと思うのですね。そのタスクフォースで議論して、その後、平成28年の厚労科研の特研が行われて、これも参考にしつつ、今の個人情報保護法に関する解釈、施行令等が導入されたというふうに理解しているのですけれども、それはそのような理解でよろしいのでしょうかということと。
 仮に、今回の令和5年度の石川先生のグループでの研究というものが、今後、個人情報保護法の施行令等に反映されることがあるとすれば、それはここでの議論を通じてということでは必ずしもない。また別のルートがある。そういう場合に、どういうふうなルートで実際に法解釈に反映されるものなのかというところについては、通常、どういう形になるのでしょうか。
○徳永座長 先生、質問の先は。
○横野構成員 個人情報保護委員会事務局に。
○徳永座長 いかがでしょうか。
○個人情報保護委員会事務局 すみません、お答えできかねる。この会議が何のために開かれているかというところを厚生労働省さんによく整理いただき、その上で、皆さんのコメントにどのように答えるか。先ほど申し上げたように、私たち、どのような形でこの会議に参加したらいいかが分からないので。このレポートについても、私たちは、今日知りましたので、それで何でガイドラインに入っていないのですかとか、これを入れるためにどうすればいいのですかとか、今、問われても私たち、非常に困りますので、こういう会議の運営は本当にやめてほしい。やめてほしいので。こういう会議を運営している厚生労働省さんに、何のために私たちをオブザーバーとして呼んでいて、何で横野先生からこういう発言がしたくなるような会議運営をしているのか、その点を整理いただければなと思います。
○徳永座長 どうぞ、お願いします。
○佐々木審議官 危機管理・医務技術総括審議官の佐々木です。
 まず、この会議の運営自体は、私が有識者の先生方、皆様にお願いして、今日、御議論いただいています。そして、政府の会議では、例えば一緒に共同的に最終的にまとめとする場合は共同開催の形ですが、先ほど来、個人情報保護委員会事務局からの指摘にあるとおり、これはオブザーバーとして、あくまでもこの検討会は私ども厚生労働省、そして事務的には大臣官房厚生科学課がその所掌の範囲の中で整理を行う。ただ、その議論の中で、どうしても関連する内容については、オブザーバーの各府省部局にも及ぶことがあるので、文字どおりオブザーブの形で出席をお願いしているものです。その上で、この検討会の守備範囲はどうかというと、先ほど来、例えば資料1にもありますし、また参考資料1、私の冒頭の挨拶で申し上げたとおりでございます。
 その議論の中において、繰り返しになりますけれども、どうしても関連する法律等に及ぶので、個人情報保護委員会事務局にお願いしていますし、事前にいろいろと御相談をしてきたところです。結果的に、今日初めて知ったこともあろうかと思いますけれども、少なくとも政府内調整は、今、申し上げた手続、プロセスを経た上で、そして先生方にお願いしています。
 ここから先が、この後御議論いただく上で非常に重要ですけれども、平成28年から数えても、この10年足らずの間に様々な技術革新がありました。今日御議論いただいている、御指摘いただいているとおり、恐らく同じ物事、事象、技術を見ても様々な解釈が成り立ち得ます。そうした中で、最終的には患者さんが裨益することが多いでしょう。その手前にそれぞれの開発・研究の段階で迷いがあってはいけない。ここで言う迷いがあってはいけないというのは、間違った方向に進むのをやめてもらわなければいけないですし、進んでいただきたい方向で、そこに行くのに躊躇するのはよくないだろう。
 そのために、令和7年、2025年6月の段階で整理し得るものは整理しておこう。その議論の中で、オブザーブの立場で、それはちょっと違いますよというのがあれば助言をいただこうということで、この会議の目的、なぜ立ち上げたのか、オブザーバー参加をお願いしているのかということを説明いたしたところでございます。
 ただ、今回はもうあと10分ぐらいしかないので、今日、本当に実に様々な意見をいただきました。この段階で整理しなければいけないことがこれほどあるのかということも、事務局の大臣官房厚生科学課も認識したと思います。ですので、今日いただいたことをリストアップし、それに対して、今、確認できるバックデータは何なのか、議論の経緯はどうなのか、これを整理した上で、繰り返しになりますが、少なくともこの時点でのまとめをしないと、意見が多いから何もまとめませんというのは、あまりにも今の時点では無責任なことになるので、そこまでは到達した上で次回の会議のお願いをしたいと思います。
 座長の徳永先生、座長代理の齋藤先生には、非常に困難な中での取りまとめをお願いすることになりますが、困難であるからこそ、今の段階での整理をきっちりしたいと思います。
 以上です。
○徳永座長 ありがとうございました。
 本日、先生方のお時間を確保していただいた時間もあと残り少なくなっていますので、特段の何か御意見がございませんでしたら、今回の検討会はこれでおしまいにして、そしてまた事務局の方々と私、齋藤先生、それから、もしかしたら先生方にも御意見を伺いながら、今後の進め方を検討させていただきたいと思います。
 何かございますでしょうか。
 どうぞ。
○佐々木審議官 個人情報保護委員会事務局に伺いますけれども、先ほど私が申し上げたような、ある意味デマケーションというか、仕切りでよろしいですか。まず、技術的な点を我々は整理するのだ。結果的に個人情報保護委員会事務局で整理しなければならないようなことが起きた場合には、個人情報保護委員会事務局さんが当然受け持つし、その際に我々が共同参画、またはオブザーバーする場合は喜んで協力する。当然ながら、いろいろな情報は事前にできるだけ共有するという進め方でよろしいですか。
○個人情報保護委員会事務局 基本的には結構なのですけれども、お伝えしているとおり、本当に何を目的にしているのか分からないので。医療分野の研究開発を進めるために行っている検討会だとすると、その医療分野の中では皆さんは詳しいので、そうですねということだとしても、そうでないところへの波及効果があるということも含めて議論いただけるのであれば、そういう形で私たち、受け止めますし、そういうことまでは考えていませんというのであれば、そういうものとして受け止めるという位置付けで私たちは関わっていくことになると思います。
 ただ、いずれにせよ、この検討会は、先ほどお話がありましたとおり、厚生労働省の厚生科学課が所掌の範囲で行っていて、私たちは十分ではないと思っていますけれども、その範囲で情報提供いただいているので、私たちが理解できる範囲で対応させていただくということだと思います。
 以上です。
○徳永座長 はい。
○佐々木審議官 今おっしゃっていただいたことは、当然ながら、政府の物事はそれぞれの所掌するところで整理し、当然ながら、得手、不得手のところで役割分担、共同作業しながらということだと思っております。一方で、厚生労働省での会議が社会的に与える影響、国際的に与える影響を十分に考慮すべきと、この点については、当然ながら承知しておりますし、それに十分配慮した上で、まずは我々でできる整理をしたいと思います。その上で、結果的に個人情報保護法に何らかの作用・反作用が及ぶような際には、ぜひ個人情報保護委員会事務局での検討をお願いしたいと思います。
 以上です。
○徳永座長 それでは、横野先生、御意見、どうぞ。
○横野構成員 すみません、先ほどはちょっと不用意な質問をしてしまい、申し訳ありませんでした。今、お話あったように、ゲノムデータの医療分野での取扱いに関する課題について整理するということは、これまで様々な課題が、今回の資料1の3ページにもあるように指摘されてきましたけれども、より具体的に整理するということは重要なことだと思っておりますので、今回の科学的な観点から識別性を検討するということにとどまらず、そういった課題について整理する機会にこの検討会がなればというふうに私としては考えております。
 以上です。
○徳永座長 ありがとうございました。
 ほかに御意見ございませんでしょうか。なければ、今回の検討会はこれで終わりにさせていただきたいと思います。よろしいですか。
 それでは、本日の検討会を終了します。どうもありがとうございました。

照会先

厚生労働省

大臣官房厚生科学課
03-5253-1111(内線3820)