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2018年11月30日 第78回社会保障審議会年金数理部会 議事録

年金局

○日時

平成30年11月30日 14時00分~17時00分

 

○場所

全国都市会館 第1会議室



 

○出席者

 

 
菊池部会長、浅野委員、翁委員、小野委員、駒村委員、関委員、永瀬委員、野呂委員、枇杷委員、
坂本氏

○議題

(1)財政検証とピアレビューについて
(2)その他

○議事

 

○山本首席年金数理官 定刻より少し早いですけれども、皆様おそろいですので、ただいまから第78回「社会保障審議会年金数理部会」を開催させていただきます。
厚生労働省におきましては、審議会等のペーパーレス化を推進しておりまして、この部会も本日からペーパーレスで開催させていただきます。
タブレットの左上にマイプライベートフォルダという青い文字がございますので、そちらをタップしていただきますと、資料の一覧が出てまいります。
本日の資料といたしましては、議事次第、委員名簿、座席図、
それから資料1「社会保障アクチュアリーの実務に関する国際動向」、
資料2「事務局資料」、
以上を準備してございます。
使い方ですけれども、ファイルをタップしていただけばそれが開けますので、御参照になりたいものをタップしていただければと思います。
次に、年金数理部会の委員の異動について御報告いたします。本年3月に部会長代理であった佐々木委員と、田中委員、野上委員が退任し、また4月に猪熊委員が退任しております。
新たに4名の方々が委員に就任しておりますので、委員名簿の記載順に御紹介いたします。
まず、みずほ信託銀行年金研究所主席研究員の小野正昭委員でございます。
お茶の水女子大学基幹研究院教授、永瀬伸子委員でございます。
ニッセイ基礎研究所代表取締役会長の野呂順一委員でございます。
公益社団法人日本年金数理人会副理事長の枇杷高志委員でございます。
次に、本日の委員の出欠状況について御報告いたします。本日は全員御出席でございます。会議は成立しておりますことを御報告申し上げます。
また、前回の部会開催以降に事務局の異動がございましたので、御紹介いたします。
大臣官房審議官の度山でございます。
年金局総務課長の大西でございます。
資金運用課長の石川でございます。
年金数理官の西岡でございます。
最後に私、山本が首席年金数理官に着任してございます。
よろしくお願いいたします。
それでは、以後の進行につきましては菊池部会長にお願いいたします。
○菊池部会長 本日は月末の金曜日という大変御多忙の折、お集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
まず、議事に入ります前に、私から部会長代理の指名をさせていただきたいと存じます。社会保障審議会令の規定により、「部会長に事故があるときは、当該部会に属する委員又は臨時委員のうちから部会長があらかじめ指名する者が、その職務を代理する」とされております。私といたしましては、浅野委員にお願いしたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
○浅野部会長代理 浅野でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○菊池部会長 よろしくお願いいたします。
それでは早速、議事に入らせていただきます。
本日の議題は「財政検証とピアレビューについて」であります。
公的年金におきましては、御案内のとおり5年に1度、財政検証を行うこととされております。来年がその実施の年に当たるということであります。そして財政検証が実施された後、年金数理部会ではその検証、すなわちピアレビューを行っていくことになります。
ちょうどそのタイミングで、3年ぶりにセミナー形式で年金数理部会を開催する運びとなりました。本日は平成31年財政検証のピアレビューでどのような点に着目して確認をしていくべきなのか、議論を深めていければと考えております。公的年金財政をめぐって、数理的な視点を中核としながら、幅広く正確な情報を発信することにより、多くの方々に理解を深めていただければと思っております。
そこで本日は、外部講師としてJSアクチュアリー事務所代表の坂本純一様をお招きし、お話をお伺いすることといたしました。まず、そのお話を承った後、事務局から本日の議題に関連する事項について報告をいただきます。そして、休憩を挟みまして、後半は坂本様を交えて委員間での意見交換を行うこととしたいと存じます。
それでは早速でございますが、坂本先生、御登壇のほどお願い申し上げます。
初めに、事務局から講師の紹介をお願いいたします。その間、我々委員もスクリーンを見る都合から席を移動させていただきます。
○山本首席年金数理官 坂本純一様のプロフィールを御紹介申し上げます。
スクリーンにございますように、昭和50年に厚生省に入省し、平成11年には年金局数理課長に就任されています。その後、野村総合研究所勤務を経て、現在はJSアクチュアリー事務所の代表、公益財団法人日本アクチュアリー会の参与、財務省財政制度審議会国家公務員共済組合分科会専門委員などをお務めでございます。また、本日の講演との関係では、国際アクチュアリー会社会保障委員会の前委員長でもございます。
以上でございます。
○菊池部会長 それでは坂本先生より、社会保障アクチュアリーの実務に関する国際動向についてお話をお願い申し上げます。
○坂本氏 皆さん、こんにちは。ただいま御紹介にあずかりました、坂本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
年金数理部会のきょうのテーマであるピアレビューということに関して、その国際動向について、主に話をせよとの御下命でしたので、「社会保障アクチュアリーの実務に関する国際動向」というタイトルで、主に国際アクチュアリー会のこと、それからG7諸国の状況についてお話しさせていただきたいと思います。
(資料1  2ページ)
内容としましては、序論でまず、年金数理の目的は何かということをまとめます。第1部では、国際アクチュアリー会の実務基準2というものがありまして、これが社会保障アクチュアリーの実務基準として位置づけられています。それから、第2部で、G7諸国の事例について。一番詳しいのはカナダですが、カナダでちょっとした事件があったりして、これに関連するテーマかなということで、少し大きく取り上げさせていただきました。それから第3部では、我が国の数理レポートをめぐる課題について、第1部、第2部を踏まえてまとめてみたいと思います。このような順番でお話しさせていただきたいと思います。
(4ページ)
まず、序論として、年金数理の目的とは何かということを考えてみたいと思います。
これはまず、年金制度の財政構造を明らかにするということが一つの目的になるのではないかと。それから、年金制度の収支見通しを作成することが、同じ意味での目的になるということです。この年金制度の収支見通しを作成するためには、初期値、これは数理レポートでは基礎数と呼ばれていますが、現在の統計から出発して、将来の被保険者、待機者、受給者の状態をシミュレーションするということを行っていく。
そして、このシミュレーションのために1年ごとの遷移確率(基礎率)を定めて、こういうシミュレーションを行うということになるわけですが、この点が経済モデルとはちょっと違うところで、数理モデルというのはあくまでこういうシミュレーションで、つまり数学的に申しますならば漸化式で成り立っている。経済モデルは方程式を解くというような言い方で、方程式を立てて、それを解いて、経済変数の状況がこうだというような言い方をしますけれども、そうではなくて、これは1年ごとにシミュレートしていく、なぞらえるというような形で、状況の変化を見ていくという形で行うということにおいて、計量経済学とは大分違う手法をとっているということが言えるかと思います。昔、ある国会議員の先生のところへ説明に行ったときに、この将来見通しをつくるのに方程式を何本ぐらいつくったのかというような質問を受けたことがあるのですが、それは、そうではないという説明に、大分時間がかかったのを覚えています。
それから、経済前提も用いて将来の収支のシミュレーションということをやります。物価上昇率、賃金上昇率、積立金の運用利回りがどうなるかという前提を置いて、将来の収支をシミュレーションする。こういう形で年金制度の収支見通しを作成するというのが、年金数理の一つの目的になろうかと思います。
そして、これらは、政策決定の基礎になるということが言えるかと思います。年金財政の現状を把握するということが一つの重要な出発点になるわけですが、年金制度は常に社会経済情勢の影響を受けていますので、財政状況も常に社会経済現象の変化の影響を受ける。少子高齢化は一つの大きな要因ですけれども、そのほかに経済構造の変化といったものも影響を及ぼすわけです。
そういう意味では、これは余りいい例ではないかもしれませんが、100年安心の年金制度というのはあり得ないわけで、常に環境の変化があるので、常にそれをチェックしていないといけないということが言えるのではないかと思います。
それから、改正項目の財政影響がどの程度あるのかということも、この手法によって見通しをつくることができる。こういうことがありますので、こういったことをベースにして政策決定が行われるということが言えるかと思います。
これはカナダの事例ですけれども、時には保険料率の決定に使われるということもございます。日本ではもう、保険料率は固定されていますので、その点は当てはまらないのですが、カナダでは財政再計算の結果がそのまま保険料率の決定に使われるということがあります。そういう意味では、国民一人一人により身近に感じられる政策決定のもとになっているということも言えるかと思います。
そういう政策決定の基礎になるということが、この年金数理の特色であろうと考えられるわけです。
(5ページ)
そうしますと、年金数理分析に求められるのは何かということになりますが、これは保険料率の決定を含む政策決定の大もとになるわけですので、客観性、不偏性というものが求められるということで、それはなぜかというと、国民の制度への信頼にかかわっている、直接その信頼にかかわっているということが言えるかと思いますので、この年金数理分析というものが客観的、不偏的につくられているということが、衆目の一致するところとなって初めて制度への信頼性が確立されるということが言えるのではないかと思います。
そういう意味で国際アクチュアリー会というものがありまして、その国際アクチュアリー会は社会保障分野においても社会保障アクチュアリーの実務基準を作成しているということがあります。それをこれから御紹介させていただきたいと思います。
(6ページ)
第1部として、国際アクチュアリー会の実務基準2というものがあるのですが、International Standard of Actuarial Practiceの頭文字をとってISAPと呼んでいまして、それの2番目が、この社会保障アクチュアリーの実務基準です。
(7ページ)
まず、国際アクチュアリー会とは何か。International Actuarial Association(IAA)と呼んでいますが、これは各国にあるアクチュアリー会の連合体です。
具体的には、我が国では公益社団法人日本アクチュアリー会と、公益社団法人日本年金数理人会が、この国際アクチュアリー会に加盟しています。全体としては、74団体が正会員で、25団体が準会員となっています。国数として挙げられないのが残念なのですが、例えばアメリカでは5つのアクチュアリー会が全部、これに入っていますし、イギリスは今は1つになっていますが、例えばカリブ海の諸国が1つのアクチュアリー会をつくっていて、それがこの会員になっているということで、何カ国が入っているかという形では表現できないため、ここでは国数は書いていませんが、OECD諸国のアクチュアリー会はほぼ全部入っているということが言えるかと思います。本部はカナダのオタワにありまして、ここにお示しするホームページのURLをクリックしていただくと、その概要がわかるかと思います。
IAAは幾つかの国際機関と業務連携を行っており、一つは国際社会保障連合(ISSA)という団体です。これは社会保障制度の保険者の団体ということが言えるかと思いますが、これが最も厚生労働省に近いところのものかと思います。また、ILOとも業務連携の協議をずっとやっているのですが、人がかわったりして、なかなかまとまらなくて、まだ今のところそれが継続されています。そのほか、経済開発協力機構(OECD)の私的年金作業部会で企業年金分野について連携を行っています。公的年金のほうも関係するのですが、そちらとはまだ業務連携を行っていないのが現状です。そのほか、生命保険も深くかかわっていますので、国際保険監督者機構(IAIS)ともIAAは緊密に連絡を持っているということが言えるかと思います。ちなみに、OECDの私的年金作業部会が来週開かれるのですが、これにはIAAからもオブザーバーとして出ています。
(8ページ)
国際アクチュアリー会の活動の中身は何かということですが、これはアクチュアリーの専門家としての行動規範の徹底ということを目指しています。したがって、こういう実務基準をつくるということをやっているわけです。
それから同時に、アクチュアリー教育の推進と継続教育の徹底ということもやろうとしています。国際アクチュアリー会の正会員になるためには、このアクチュアリー教育のシラバスを報告することになっているのですが、それが一定の基準を通らないと正会員になれないという、一定の要件を課しているということもあります。
それから、研究活動の奨励ということで、コロキウムの開催等。例えば社会保障と企業年金を一つで考えると、それらは大体1年に1回ぐらいはコロキウムを開いて、こういう研究活動を展開しているということがあります。
また、先ほど申し上げた国際機関との協働ということをやっています。
(9ページ)
国際アクチュアリー会が制定している実務基準は何かということですが、広義の実務ガイドラインとして受け取っていただいていいのではないかと思います。人によっては、これはもうちょっときついのだというようなことを言う人もいるかと思いますが、非常にいいガイドラインがつくられているということが言えるのではないかと思います。アクチュアリーが活動するさまざまな分野における実務基準、これをInternational Standard of Actuarial Practice(ISAP)と呼んでいますけれども、これを作成しています。
ISAP1が通則であり、どのような分野のアクチュアリーにも適用されるという内容のものです。生命保険の人も損害保険の人も企業年金の人も社会保障の人も、全部この通則が適用されます。
それから、ISAP1Aというものがありまして、これは数理モデル、アクチュアリアルなモデルをつくるときに関する通則をここで書いています。データのつくり方のような話です。
そしてISAP2では、先ほどから申し上げているように、社会保障に関する実務基準をつくっています。これに対してはISSAも、それからILOもこれを支持するということを表明しています。
そしてISAP3以降は企業年金や保険、ERM(Enterprise Risk Management)といったところで実務基準をつくっています。ERMというのは新しいリスク管理に関するアクチュアリアルな分野ですけれども、そういうものに対して実務基準をつくっていて、未完成というか現在進行形でつくっているものもあります。
ISAPに対して言えるのは、あくまで内国法優先の原則があります。subsidiarityと呼んでいますけれども、ISAPで書かれている基準と内国法とが違う場合、内国法を優先してくださいという原則があります。
(10ページ)
これから、社会保障アクチュアリーに対する実務基準としてつくられているISAP2を見ていきたいと思います。その構成はここに書いているように、第1節が総則。そして第2節が適切な実務。これには、まず、社会保障アクチュアリーとしての活動を行うときに考慮すべき事項。それからデータ、基礎率、財政方式との整合性、そして独立した専門家のレビュー。これがきょうの年金数理部会の一つのテーマかと思います。それから第3節の、情報の伝達。これは数理レポートをどのようにつくるかということです。それから、アクチュアリーの所見もそこに書いてくださいというのが、このISAP2の実務基準になっています。そして付録で、第3節で言及された数理レポートにどのような項目を盛り込むべきかということを述べています。結論から言うと、厚生労働省は財政検証のたびに数理レポートを出していますが、その内容はISAP2の付録で書かれている数理レポートに盛り込むべき項目を全て網羅しているということは言えるかと思います。
(11ページ)
まず第1節の総則です。ここで言っているのは、ISAP2の目的です。それは社会保障制度の財政分析を行っているアクチュアリーに対して指針を与え、その分析結果を待っている人々が、まず1番目として分析が十分な注意を持って専門的に行われていること。それから2は、結果が明晰かつ理解できるように提示されていること。3は、制度や手法が適切に開示されていること。このような基準に沿って、社会保障アクチュアリーが活動を行っているということを、その結果を見る人が確信できるようにすることを目的とするということが、この総則です。そのほか、ハウスキーピング的な雑則もあるのですが、これが第1節で述べられています。
(12ページ)
第2節は適切な実務ということで、これがいよいよ中身になるわけです。適切な実務ということで述べられている項目は、考慮すべき事項、必要なデータ、設定する前提について、財政方式、外部専門家によるレビューです。このような事柄について、配慮すべき事項が述べられています。
(13ページ)
適切な実務のうちの考慮すべき事項ということについては、まず、アクチュアリーがその実務を行うに当たって、それは最終的には数理レポートをつくるということになると思うのですが、そのときに考慮すべき事項は、制度の背景にある政策、あるいは制度運営者の意図、法律、慣行といったものを全て考慮すべきだということです。最初の3つは割と明らかだと思うのですが、慣行というのは何かというと、例えば法的な規定はないけれども、慣例的に行われているもの。例えば我が国を振り返ってみると、基礎年金の水準は今はもう法定されていますけれども、平成16年改正以前は賃金上昇を勘案して慣行的に行われていたということが言えるのではないかと思います。そのほかの事項ももちろんあって、単身高齢者の基礎的消費支出など、そういったものもいろいろ勘案しながら、いろいろな議論で決められてきていた面がありますけれども、そういったものを、どのような慣行になっているかということを考慮した上で将来見通しをつくることが必要だということを言っています。
(14ページ)
それから必要なデータということについては、これは数理レポートでも多くのページを割いて網羅されている基礎率や人口に関するデータ、そして経済前提に関するデータといったものが、ここで出てくるわけです。出生率、死亡率、障害発生率、国際人口移動に関する国または地域の人口統計といったものを、ここで挙げているわけですが、そのようなデータが存在しない場合には、より広い地域に関するデータや、国際機関の信頼度の高い統計を用いるというようなこともサジェストされています。
それから、制度の人員構成に関する実績ということで、これは被保険者統計や受給者統計ということになるわけです。
それから、経済環境、労働市場の状況、物価上昇率ということで、これは経済前提に結びつく、もろもろの経済統計です。
それから、制度の保険料率、保険料納付率、積立金の運用利回り実績、積立金の現金化の容易さといったものに関しても、データとして集める必要があるということを言っています。
そのほか、給付に関するデータ、新規裁定に関するデータ、被保険者に関するデータ、報酬に関するデータ、保険料免除で給付がなされる場合のデータ、あるいは家族統計といったものが必要であろうということを述べており、我が国の数理レポートの中にある項目は大体挙げられているということが言えるかと思います。
(15ページ)
それから設定する前提については、かなり注意深く書かれています。まず、設定する前提は中立的に設定されなければならないということが言われています。その中立的な設定とは何かというと、結果が過大推計にも過小推計にもならないことを意味すると定義されています。過去のデータをよく分析してから前提を設定するということになります。
それから、将来見通しの推計期間ですけれども、我が国の場合は95~96年になるわけですが、アメリカやカナダは75年となっています。推計期間は75年以上になる場合があるけれども、その長さを考慮して前提を設定することということで、足元の値に余り左右されてはならないということを言っています。その対策として、足元の前提と長期の前提に分ける手法を用いてもよいということで、これはまさに我が国も、足元が10年、それ以降は長期的な前提という構成になっていますので、これは我が国の形であるということも言えるかと思います。
それから、財政の自動均衡措置が導入されている場合には、我が国の場合はマクロ経済スライドですけれども、前提の設定にもこの均衡措置を考慮しなければならないということで、我が国の場合は被保険者の減少率を推計できますので、それによってマクロ経済スライドも推計しているということになって、これを満たしているということになるわけです。
それから、制度導入時や新しい給付を導入する場合には、信頼できるデータが存在しないということがあります。これは時々ぶつかるテーマですけれども、そのような場合には、まず、調査を行う。サンプリング調査をやって、その率を計算するというようなこともできるでしょうし、他の制度や外国の経験を調べるということでもやられる場合もあるかもしれません。あるいは代用データを探すなど、こういったことで代替するということが一つあるわけですが、どうしても適切なデータが得られない場合には、数理レポートに、これは不完全なデータに基づいて財政分析を行っているということを開示して、次回財政検証以降で新しく得られる経験値をもとに、この前提を設定し直すことを進めるということを言っています。そのことをきちんと開示して、不完全な前提で計算していますよということを言いなさいということです。
それから、時々、統計的にはこの値なのだけれども、今後これが悪い方向にぶれる場合があるので、それを見込んで基礎率を設定しますというような場合があります。いわゆる安全率を含んだ前提を用いるという場合には、その旨と、その理由を数理レポートに開示すること。また、その場合、中立的な前提とどのように異なる結果となっているかを説明すること。こういうことが述べられていますが、これも、我が国としてもこのような場面では必ず実行することです。それは数理レポートにも書かれているということになるわけです。
財政見通しには、それが人々の理解に役立つものになるのであれば、楽観的な前提や悲観的な前提を設定して示すべきであるということで、一つのケースだけでなく、楽観ケースと悲観ケースの両方を示して、そのぶれる範囲をつかんでもらうということも必要だということを言っているわけです。
以上が設定する前提です。
(16ページ)
もう一つ、数理レポートで重要なことは財政方式です。財政方式というのは結局、保険料財源をどのように時系列的に集めてくるかという概念ですが、当該社会保障制度が採用している財政方式と整合性のある財政分析を実施すべきということで、財政方式が賦課方式または部分積立方式である場合、厚生年金は部分積立方式になると思いますが、将来加入者を含めて検討すべきである。将来の加入者を含めて検討するのが原則であろうということです。
また、財政方式が企業年金のように事前積立方式である場合。このような社会保障制度があるのだろうかと思ったら、一部の国ではあるようです。事前積立で運営しようとしているケースでは、将来加入者を考慮せず、現在加入者のみで検討すべきということを、ここでは言っています。
すなわち、財政の見通しとの整合性のある文脈の中で、財政分析をすべきであるということを言っているわけです。
(17ページ)
最後に外部専門家によるレビューということを言っています。財政分析は外部専門家によるレビューを受ける場合があるということで、必ずしも受けろとは言っていません。ただ、受ける場合には、そのレビューの内容としては、設定された前提が個別にも全体としても合理的な範囲におさまっているか否か、また、財政分析の結果が合理的な範囲におさまっているか否かというようなことを、外部専門家によってレビューしてもらうということを挙げています。また、必要ならば、そのほかのレビューもやるということです。
外部専門家の要件としては、財政分析にかかわらなかったこと。この数理レポートをつくるに当たって、それに関与しなかったということが重要です。それからまた、当該社会保険制度の保険者ないし運営者に雇われていないことが要件になっています。同時に、この外部専門家がいきなりレビューをやるのは非常に難しい場合がありますので、その財政分析を行った、レビューされるほうのアクチュアリーは、外部専門家へのデータの提供や説明に協力すること。聞かれたら、いつでも質問に答えてくださいという要請をしています。
(18ページ)
第3節では情報の伝達ということで、数理レポートは次のようなものでなければならないということです。まず、健全な意思決定ができる十分な情報が記載されていること。財政分析の依頼者、目的、アクチュアリーへの指示事項が開示されていること。それから、将来のキャッシュフローの性格が説明されていること。そして、当該制度が直面している重大なリスクについて、その性質と意味を述べること。それから、記載事項の不確実性の度合いについて述べること。また、中心的な前提や手法について、感応度分析を記載すること。このようなことが要件として書かれています。
結果の提示方法としては、こういった項目について挙げてくださいということになっていて、これは我が国の数理レポートの中に全部盛り込まれている事項だということが言えるかと思います。
最後に、依拠した実務基準を示すことということで、ISAP2には先ほどのsubsidiarityのルールがありますので、ローカルルールでつくったものか、またそのほかに、現在の情勢がこういう理由なので、独自にこういう形でつくったというような場合は、それを全部書いておくべきということを言っています。
(19ページ)
同時に、数理レポートではアクチュアリーの所見を述べなければならないということも言っています。データが十分であったか。あるいは、その信頼性はどうだったか。そして、設定された前提、基礎率を含む前提ですけれども、その合理性、適切さがどうだったか。ここでいう適切さとは、個別の前提としての適切さと、前提の全体として整合性があるかどうかということの両方を記述しなければなりません。また、採用した手法の適切さそのもの、あるいは認められている実務基準との整合性といったことについて、アクチュアリーは意見を述べなくてはいけません。
さらに、制度の財政的な持続可能性についても所見を述べること。このようなことが要請されていますが、この部分は日本にはないところです。ただし、年金数理部会が開かれて、年金数理部会に年金局が報告をする場合に、こういったことが求められていますので、そこでアクチュアリーの所見が述べられていることが重要かと思います。
(20ページ)
ISAP2の付録には、数理レポートに盛り込むべき内容が列挙されています。非常に細かく書かれていますけれども、それをまとめるとこんな形になると思います。これは数理レポートに書かれている項目と整合性のあるものです。
以上がISAP2の内容です。
(21ページ)
最後に参考として、ISAP2とは関係ないのですけれども、確率分布を用いた推計ということが、以前から数理部会で触れられていましたので、それについてのIAAの社会保障委員会での議論を御紹介したいと思います。
今申し上げたように、ISAP2の事項ではないのですが、社会保障委員会の中で行われていた議論としては、試みる価値はあるけれども中心的な存在ではなく、理論的議論にとどまっている。まだ理論的な議論をしている段階で、現実に適用するには、まだまだ未熟であるということが言われていました。
確率分布を用いた推計は仮定が多過ぎるということも言われています。どんな分布でも正規分布を仮定して議論する。例えば上のほうにぶれるのは少なくて、下のほうにぶれるのが多いというような、そういう偏りがあっても正規分布を仮定したり、非常に粗っぽいことをやります。そうでないと計算ができないからという、そういう制限があるからそうなってしまうのだろうと思いますが、まだまだ理論的な議論にとどまっています。
それから、マルコフ性と呼んでいますが、確率事象が起こるときに、前に起こった事象が次の事象に影響することがなく、独立に起こるという前提も暗黙のうちに置いています。このように、現実から乖離している面もあるということで、中心的な議論にはなり得ないというような結論でした。研究の価値はあるけれども、実践にはまだほど遠い。アメリカの社会保障庁の報告には、それが載っているのですが、それもあくまで参考データとして出ているということです。カナダも最近やり始めましたが、それはあくまで参考データであるという位置づけです。
また、分布をもって推計するというのは、結果も理解しにくいです。シナリオ分析のほうが理解しやすいということで、楽観的なシナリオ、悲観的なシナリオでやると、こんな結果が出ますよと。そうすると、現実はその中間ぐらいかなと。あるいは、標準的な場合と悲観的な場合の中間ぐらいかなとか、そんな議論はできるわけです。そういう意味で、確率分布を用いた推計は、まだまだ未熟であるというのがIAAの中での議論でした。
(23ページ)
次にG7諸国の事例を御紹介していきたいと思います。
まず、このピアレビューというものはカナダで大々的に実践されているということを御紹介したいと思います。まず、カナダは基礎年金があって、その上に報酬比例年金としてCanada Pension Plan(CPP)あるいはQuebec Pension Planというものがあるわけですが、このCanada Pension Planの財政再計算について、ピアレビューがあるということの御紹介をさせていただきたいと思います。
CPPの財政再計算は3年に1度行われることになっています。この財政再計算は、OSFI(Office of Superintendent of Financial Institutions)という、いわば金融監督庁とでも言ったらいいのでしょうか、そこに属するChief Actuaryがこの財政再計算を行うということで、その財政再計算を行った結果は数理レポートとして公表されています。
それからもう一方で、CPPにはInsufficient rate provisionsというものがあります。これは日本語にならないので、このまま書いたのですが、要は、アクチュアリーが計算した、必要な保険料率に満たない保険料率しか法定できない場合、つまり保険料の引き上げが必要であるにもかかわらず、その引き上げが政治的にできないというときには、次のようなことを自動的にしなさいということになっています。それは、財政再計算の結果、Canada Pension Planの保険料率の引き上げが必要になった場合には、カナダは連邦制ですので、ここが日本とは違うところですが、連邦議会と州議会が、それぞれ合意しないといけないということになっています。もしも合意が得られなければ、次の措置を行うことが法定されています。一つは引き上げ幅の半分の料率だけ、保険料率を自動的に引き上げる。2%の引き上げが必要だというときには1%自動的に引き上げる。もう一つは、次の財政再計算まではスライドを行わない。ここでいうスライドは、プラスしかないという暗黙の前提があるのだろうと思いますが、スライドを行わないという規定になっています。これによって、保険料率の引き上げがちゃんとできない場合には、できるだけそれに近くなるように、財政均衡が失われる度合いが少なくなるように、こういうことを自動的にやりなさいということが決まっています。これをInsufficient rate provisionsと呼んでいます。そうなると、Chief Actuaryが出してくる計算結果が非常に重要になるということがわかるかと思いますが、要は、数理レポートの重要性がわかるということになるわけです。この数理レポートの信頼度を高めるという意味で、ピアレビューが導入されているというのがカナダの実態です。この措置は、1998年の改正のときに導入されました。
(24ページ)
1998年の改正の背景ですけれども、それまでのCanada Pension Planの保険料率は3.6%という低い料率に抑えられていましたので、1990年代に積立金の取り崩しが必要になったということで、これでは制度がもたないのではないかという危機感が関係者の間に出てきて、それで非常に大きな改正が1998年に行われたということです。
1998年の改正で、まず、5.85%まで引き上げて、将来の保険料率を6年間で9.9%まで引き上げるというように、非常に急激に引き上げることが法定されたわけです。このおかげで、Canada Pension Planは非常に大きな積立金を持つことになって、今は世界的にも有名なCPPIBというものがありますが、それが運用を工夫していくもとになったということが言えるかと思います。
(25ページ)
連邦政府の財務省がエネルギッシュに動き、こうした合意を取りつけていったということがあったわけですが、そのときに、ちょっとした事件が起こります。1998年の改正のときに、金融監督庁に所属しているBernard Dussaultというフランス系カナダ人のChief Actuaryが、最終保険料率10%という計算結果を出していて、財務省の9.9%という率とは違うと。しかし、9.9では足りないということで譲らなかったわけです。0.1%だけの差ですが、やはりここはシビアです。1桁か2桁かということで、9.9と10とでは大分見ばえが違います。そういうこともあったのかもしれませんが、これが原因かどうかは不明ですけれども、1998年の法施行の直前に、Bernard DussaultはChief Actuaryの任を、金融監督庁長官に解任されるという事件が起こりました。この後、いろいろな議論があったわけですが、このような政府部内のもめごとは、結局、Canada Pension Planに対する信認を弱める結果にもなるという反省から、次のような措置がとられました。
それは、連邦政府の財務大臣と関係する州政府の財務大臣との間で、Chief Actuaryの数理レポートをピアレビューにかけることで合意したということです。ピアレビューをしてもらって、それが正当であるということになれば、その結果を尊重しましょうということです。
そしてさらに、今度はイギリスが出てくるのですが、イギリスの政府アクチュアリー院(Government Actuary's Department;GAD)というものがありまして、そこにピアレビューの報告書のレビューをしてもらうということも、連邦政府の財務大臣と州政府の財務大臣の間で取り決められました。
この2つをあわせてカナダはピアレビューをやっているということで、非常に、念には念を入れたピアレビューになっていて、これにより、Chief Actuaryの数理レポートが正当であることを示そうとしているということがあります。毎回、財政再計算のたびにこれをやりますので、それをもって正当であると。逆に言うと、Chief Actuaryはそういうことをしっかり意識して、適切にやりなさいということを言っているわけです。
それと同時に、金融監督庁長官は、重大な法律違反を犯さない限り、Chief Actuaryを解任できないということが法律で法定されました。ピアレビューのほうは、そういう意味では財務大臣間の合意事項ということであり、それに基づいてやっている。今、ある意味で数理部会は閣議決定に基づいて行われていますが、それに近いのかもしれません。
(26ページ)
CPPのピアレビューの内容です。peer reviewersとしては、毎回、3人のアクチュアリーを募集しているということですが、Chief Actuaryとそのスタッフの専門家としての経験は、数理レポートを作成するのに十分かということを、このpeer reviewersが評価する。それからChief Actuaryは関係する実務基準と法令を遵守して数理レポートを作成しているかということも評価する。それから、Chief Actuaryはデータその他必要な情報にしっかりとアクセスできていたかということもチェックします。それから、財政分析の手法と用いた前提が合理的なものであったか。あるいは数理レポートはChief Actuaryとそのスタッフが得た結果をわかりやすく表現しているか。これら諸点について、peer reviewersは評価をするわけです。直近のpeer reviewersの報告書を見ると、合格点を与えているということが言えるかと思います。
同時に、幾つかの勧告も行っています。直近のピアレビューでは、11個のリコメンデーションを書いていて、そのうち1つを挙げますと、3人のカナダ人アクチュアリーがピアレビューを行ったけれども、次回からは3人のうちの1人はカナダのアクチュアリー会に所属しない、しかしIAAの正会員のアクチュアリー会から選ぶようにしてはどうかと。例えばイギリス人やアメリカ人のアクチュアリーをこのpeer reviewersにしてはどうかというようなことを言っています。
(27ページ)
カナダの最後ですけれども、先ほど申し上げたように、イギリスのGADがこのpeer reviewersによる報告書に対してレビューをするということになっています。全体としては、そのピアレビューでいいとしているのですが、peer reviewersの勧告の一部の意味が不明であるということや、それから、peer reviewersの勧告の一部について、Chief Actuaryはpeer reviewersとよく議論をすべきだというようなことを、イギリスのGADのレビューでは言っています。そのような形で、数理レポートを改善していくための積み重ねをやっているということが言えるかと思います。
以上がカナダです。
(28ページ)
次に、アメリカです。アメリカは社会保障庁のChief Actuaryが毎年度、数理レポートの原案を作成し、OASI、DIの理事者たち、ボードメンバーがこれを公表するという形になっています。そのボードメンバーには財務省長官や労働省長官、SSA長官といったところが入っているのですが、彼らがこの数理レポートを公表するという形になっています。
一方で、Technical Panelが設置されていて、数理レポートの検証を行います。数理レポートの改善点を指摘して、次の数理レポートの作成に役立てるというようなことをやろうとしています。このTechnical Panelは外部の有識者で構成されていて、大学の先生が多いと思いますが、必ずしもアクチュアリーではありません。
同時に、カナダの事件をきっかけに、アメリカでもSSA長官、社会保障庁長官は、重大な法律違反行為でない限りChief Actuaryを解任できないということが法定されています。生々しい話としては、子供のほうのブッシュ大統領の時代に任命された社会保障庁長官とChief Actuaryの意見が合わなくて、かなりもめたようですが、その際、社会保障庁長官がChief Actuaryを解任できなかったということがあるようです。そういうことも起こり得るようです。
アメリカの場合には徹底した情報開示が行われていて、非常に詳しいデータまで含むのですが、これをエクセルファイルでダウンロードして自分の計算に使うということができるようになっています。大学の先生がよく、こういうものにアクセスして、いろいろな計算を行っているということがあるようです。我が国も情報開示が行われていますが、それよりもさらに細かいデータまで出しているということは言えるようです。
(29ページ)
イギリス以下のG7諸国は、カナダ、アメリカ、日本といったところほどではありません。イギリスは5年1度、財政再計算が行われて、先ほど出てきた政府アクチュアリー院、GADが数理レポートを作成することになっています。特にピアレビューの規定はありません。
カナダはやはりイギリスのコモンウェルスのメンバーということで、やや地位が低いのかもしれません。
(30ページ)
フランスは年金審議会(Conseille d' orientation des retraites;COR)の事務局が約3年に1度、財政検証を行うことになっていますが、ピアレビューの規定はありません。
(31ページ)
それからドイツ、イタリアは、財政再計算規定もないということで、アドホックに数理レポートが作成されるということがあるようです。その作成には大学の先生がかかわることが多いようです。
(32ページ)
日本は御案内のようなことになっていて、5年に1度、財政検証を行うことになっています。数理課が数理レポートを作成し、この数理レポートはアクチュアリーの意見を除いてISAP2が求めている内容は全て入っているということが言えるかと思います。
データの開示も進んでおり、主なものはエクセルファイルでダウンロードできることになっています。アメリカはさらにこれより細かいデータもダウンロードできるということになっていますが、アメリカのOffice of Chief Actuaryのスタッフの数は日本とは比べものにならないといいますか、5倍ぐらいの人数がいますので、そういうことが可能なのだろうということは言えるかと思います。
そういう意味で、年金数理部会が財政検証のピアレビューを行ってきたということが言えるかと思います。先ほど述べたように、数理レポートを年金局が提出する際には、アクチュアリーの意見を付すことになっているので、ISAP2の全ての項目を一応満たしているということは言えるのではないかと思います。同時に、我が国のこの体制はアメリカに一番近いと言えるかもしれません。
(34ページ)
以上、見てきたことから、我が国における数理レポートをめぐる課題を考えてみたいと思います。
一つは、これまで数理部会が果たしてきた被用者年金の一元化のプロセスの中での制度間の整合性のようなものについて、今度は実施機関と厚生年金勘定の関係ということになるわけですが、データの整合性ということについて、数理部会が機能を果たしているということが言えるかと思います。
また、キャッシュフローの円滑性というものが求められていくわけですが、実施機関、各共済組合と厚生年金勘定との間のキャッシュフローの円滑性というものが、これからも求められていくわけですけれども、こういったものの点検も、数理部会が果たし得る役割になるのではないかと思います。
あるいはまた、運用の結果が他に比べて悪いところが存在しないかということで、それをどのように配分していくかということについても、数理部会の分析が重要になってくるのではないかと思います。
(35ページ)
もう一つはオプション試算です。平成26年の財政検証のときからオプション試算が行われていて、これは社会保障制度改革国民会議の報告書の中で書かれた要請に基づくオプション試算ですが、平成31年の財政検証でも、年金部会から要請が出ているように聞いています。オプション試算をやることによって制度改正が方向づけられる面があるという意味で、制度改正の基礎にもなり得るということが言えるかと思いますが、そのためにはやはり国民の信認を得る必要があるということで、このオプション試算についても何らかの検証が必要であり、ピアレビューが必要ということになりますので、年金数理部会はオプション試算を含む数理レポートについて、次の役割を担うものではないかということになろうかと思います。
一つは、財政検証における財政分析がおおむね合理的なものになっているかどうかの検証をする。それから、不明確な点を明らかにしていく。また、掘り下げの足りない点を指摘する。そして、誤りを指摘する。あるいは開示の足りない点を指摘するといったようなことで、そういう不明確な部分をどんどん消していって、それで全体として制度に対する信認が高められることが求められる、そういう縁の下の力持ち的な役割が年金数理部会には求められているのではないかという感じがします。
諸外国の事例やISAPを見て、そのようなことを感じました。
(36ページ)
どうも御清聴ありがとうございました。以上でございます。
○菊池部会長 ありがとうございました。
JSアクチュアリー事務所の坂本純一様より、国際アクチュアリー会が作成したISAP2という社会保障に関する実務基準と、G7諸国における財政検証の実務の現状を御説明いただきました。
貴重な御報告をどうもありがとうございました。
続きまして、事務局より本日の意見交換に関連する事項についての御説明をお願いいたします。
○山本首席年金数理官 事務局から、資料2について御説明をいたします。
事務局より、本日の議題に関連する事項を御説明させていただきます。
(資料2 1ページ)
スライドの右下のページ番号で1ページをごらんいただきたいと思います。年金数理部会の位置づけについてでございます。公的年金の財政運営においては5年に1度、財政検証を行っているわけです。また、毎年度、決算を実施して、収支や積立金額の整理を行っていますが、それに対して年金数理部会は別の立場から財政検証を実施し、また、毎年度の決算について報告を受けて分析、評価を行っているということです。
右下の四角囲みで閣議決定のことを書いてございますけれども、平成13年の閣議決定で社会保障制度審議会に年金数理に関する専門的な知識、経験を有する者等から構成される部会を設け、当該部会において被用者年金制度の安定性、公平性の確保に関し、財政再計算時における検証のほか、毎年度の報告を求めることを要請するとされたことを受けて、数理部会が設置されてございます。
部会を含めて政府の審議会に関する一般論ではございますけれども、中央省庁等の改革の際に策定された審議会の整理、合理化に関する基本的計画では、審議会等は有識者の高度かつ専門的な意見を聞くために設置するものであり、行政府としての最終的な政策決定は内閣または国務大臣の責任で行うとされておりますけれども、こうした前提のもとで年金数理部会は被用者年金制度の安定性や公平性に関して専門的見地から検討をいただき、結果を取りまとめる役割を担っているということです。
(2ページ)
2ページは、公的年金の体系図ですので、詳細には説明しませんが、厚生年金に関して一点申し上げますと、平成27年10月に被用者年金が一元化された後に、民間被用者だけでなく公務員も厚生年金被保険者となっております。ごらんのとおり、民間被用者は第1号厚生年金被保険者、公務員は第2号厚生年金被保険者などと呼ばれておりますけれども、以下、この呼称を説明の中で使ってまいります。
(3ページ)
3ページは、公的年金の財政の基本的な仕組みでございます。ごらんのとおり、今、被保険者の属性ごとに勘定などの区分がなされているということでございます。保険料について国民年金の1号被保険者の保険料は国民年金勘定へ、また、第1号厚生年金被保険者の保険料は厚生年金勘定、また第2~4号厚生年金被保険者の保険料は、それぞれ加入する共済組合の厚生年金保険経理に拠出されております。
また給付のうち、基礎年金給付についてはまとめて基礎年金勘定から支払われるのですが、その財源は国民年金勘定、厚生年金勘定、共済組合等から基礎年金拠出金として拠出されます。基礎年金以外の給付については国民年金勘定、厚生年金勘定、共済組合等からそれぞれ拠出されるということでございます。
(4ページ)
4ページでは、年金の財政の均衡をはかる単位をお示ししてございます。
青い太線が、国民年金の財政均衡ですけれども、国民年金勘定を中心として、そこに入ってくる収入、そこから出ていく支出、あるいはそもそも中にある積立金が財政均衡の対象になっているということでございます。
一方で、赤い太線で示しているのが厚生年金の財政均衡でございます。こちらは厚生年金勘定及び共済組合等の厚生年金保険経理が対象となっており、そこに入ってくる収入、そこから出ていく支出、あるいはその中にある積立金が対象になって財政の均衡が図られるということでございます。
(5ページ)
5ページは財政の均衡をはかる期間です。これは御存じのとおり、単年度ではなくて長期の制度でございますので、おおむね100年間で財政の均衡を考えるとされております。例えば平成16年の財政再計算ですと2005年から2100年まででございました。その後の財政検証では、財政検証の実施時を起点として、そこからおおむね100年間という期間が財政均衡の期間となっているということでございます。
(6ページ)
6ページ以降、財政検証について御説明を申し上げます。
財政検証では、将来のシミュレーションが行われるわけですが、このスライドでは、インプットとアウトプットを大まかに整理してございます。左側がインプットに当たりますけれども、これをもう少しブレークダウンすると2種類ございまして、一つは将来についての前提で、人口や経済に関する前提などがこれに該当いたします。もう一つは初期データですが、被保険者、受給者、あるいは積立金の実績がこれに該当いたします。これらのインプットをもとに推計を行って、右側にあるような結果が得られるということでございます。
この推計というところについて若干補足しますと、平成26年の財政検証では、この推計に使用されたコンピューターが公開されています。先ほどの坂本先生の話でも漸化式のようなものだというお話もございましたが、これは一種、数理モデルを構築しているということでございます。
(7ページ)
7ページは、今ごらんいただいた将来の前提について、改めて列挙しております。例えば人口に関する前提には、国立社会保障・人口問題研究所による将来推計人口が使われております。また、経済に関する前提は、マクロ経済の分析などを踏まえて設定されていますけれども、最終的には物価、賃金、運用利回りの3つが設定されてございます。
平成26年の財政検証では、ケースAからケースHまでの8通りが置かれていたということでございます。そのほか、ごらんのとおりの前提が置かれているということでございます。
(8ページ)
8ページは財政検証の結果として示されている事項を改めて列挙している資料です。具体的には後ほど例を挙げて紹介いたします。
(9ページ)
9ページでは、合計特殊出生率について、黒の実線で実績を表示しております。また、国立社会保障・人口問題研究所が作成した推計の、将来の数値をカラーの線と面で表示してございます。最新の平成29年の推計は、まだ財政検証では使用されておりませんけれども、平成24年の推計は、このグラフでオレンジ色の線と面で示しているもので、これは平成26年の財政検証の前提となったものでございます。
(10ページ)
10ページは死亡に関する前提を、同じようなグラフに書いております。これは65歳の平均余命で表示しております。直近3回分を表示しておりますけれども、ほぼ重なっているということで、長寿化が進展するという仮定が置かれているということでございます。
(11ページ)
11ページは物価についての実績と、それから過去の財政再計算あるいは財政検証で使われたものをグラフとして表示していただきました。ごらんのとおりでございます。
(12ページ)
12ページは実質賃金上昇率でございます。実質賃金上昇率とは物価上昇率を上回る賃金上昇率のことでございます。その設定値については、このグラフに表示されているとおりでございます。
(13ページ)
13ページは実質的な運用利回りということです。これは賃金上昇率を上回る運用利回りのことですが、これもごらんのとおりでございます。
以上、駆け足ですが人口と経済の前提についてごらんいただきました。
(14ページ)
14ページ以降は財政検証の結果について、当時の年金部会の資料を引用して表示させていただきました。ここでは、当時、年金部会で事務局から説明された内容を要約する形で紹介しております。
14ページは所得代替率の将来見通しですが、人口の前提、死亡の前提、ともに中位とした場合、経済前提A~Hの8通りの結果を整理したものでございます。ケースA~Eについては、労働市場への参加が進み、足元の経済も再生するケースということですが、ケースA~Cはほとんど差がなく51%程度であったということが言われていました。それから給付水準の調整終了年度は報酬比例部分よりも基礎年金のほうが遅いということが言われていました。具体的にはここにあるように、報酬比例年金は2017~2020年度でしたが基礎年金は2043~2040年になっていたということでございます。他方で、下にありますケースF~Hですけれども、これは経済成長が振るわないようなケースということで、マクロ経済スライドで所得代替率50%まで給付水準を調整しても年金財政の均衡を保つことができないということでございました。機械的にマクロ経済スライドを続けていくとしたら、この※印にあるようなところまで調整をしていく必要があるということでございました。このような点が、年金部会で紹介されてございました。
(15ページ)
15ページは人口の前提が変化した場合の所得代替率の見通しでございます。
この表の中ほどの欄は出生の前提が変化した場合でございますけれども、簡潔に申しますと、中位の場合と比べると、出生が高位になると所得代替率は3~5ポイント程度上がり、逆に出生が低位になると所得代替率は4~7ポイント下がるというようなことが説明され、賦課方式を基本とする年金制度では出生率による影響は非常に大きいという説明がなされていたということでございます。
右側は死亡の前提が変化した場合ですが、死亡高位というのは寿命が長くないほうです。年金の受給期間がそれほど長くならないということで、所得代替率は2~3ポイント上がることになります。逆に死亡低位のほうは所得代替率が2~3ポイント下がるということでございます。
(16ページ)
16~18ページは、人口の前提が中位のときに、将来の幾つかの時点における年金額の水準を手取り賃金との対比で表示しているものでございます。経済前提のそれぞれごとに1枚のスライドがあって、当時、年金部会では8通りあったのですが、ここではC、E、Gの3枚だけ引用させていただいております。マクロ経済スライドによる調整が進むにつれて、所得代替率は低下していくわけですが、年金額の水準は所得代替率だけではなく、手取り賃金の水準にも依存するということで、当時、年金部会では、経済の成長が高いケースほど年金額の実質が高くなるといったことが説明されていたということでございます。
(19ページ)
19ページ以降では、年金数理部会の活動について、概略を御説明したいと思います。年金数理部会の活動は先ほども申しましたとおり、大きく2つあります。一つは財政検証の検証、ピアレビューというものがございます。それからもう一つは財政状況報告ということでまとめているのですが、毎年度の決算を踏まえて、このような報告をまとめているということでございます。詳細は後ほどまた御紹介いたします。
(20ページ)
20ページでは、年金数理部会による情報発信をまとめております。ピアレビューや財政状況報告についてはウェブサイトで全文が見られるようにしております。そのほか、長期ケースの統計表を電子的に加工できる形で、エクセル形式で提供するということもしているということでございます。
(21ページ)
21ページ以降はしばらく、ピアレビューの結果について要約させていただいております。
(22ページ)
22ページは平成16年の財政再計算時のピアレビューです。まず、ここに総合的な評価とありますけれどもマル1のとおり、このときには制度改正でマクロ経済スライドが導入されたということですので、年金財政の安定化が図られたという評価になっております。他方でこの当時、まだ被用者年金は一元化されておらず、保険料率は各制度それぞれでございましたので、マル2のように、制度間の公平性といった点も指摘をされていたいうことでございます。
(23ページ)
23ページは当時の、今後の要留意、要検討事項ということで提言されていた事項でございます。当時はマル1のように、試算の充実といったことが指摘されていました。それから、マル4にあるように、その後のピアレビューでも繰り返し取り上げられるのですが、確率的将来見通しの必要性について述べられているということでございます。
(24ページ)
24ページは平成21年のピアレビューのポイントですが、このときの総合的な評価としては、財政の安定性は一定程度評価できる。それから、制度間の公平性に関して、保険料率の差は残る見込みであり、被用者年金を一元化しない限り完全になくすことはできないといったことが言われています。マル1に関しては、ごらんのとおり、経済的な面から懸念も表明されているところでございます。
(25ページ)
25ページは、このときに今後の要留意、要検討事項ということでまとめられていたものですけれども、マル1にありますように、国民年金について納付率の前提が、実績と見込みの間に乖離があるので、詳細な分析が必要であるといったことが言われています。またマル3にあるように、景気変動によりマクロ経済スライドが働かない時期の存在も考慮した財政検証を行うことが必要ということも言われておりました。
(26ページ)
26ページが平成26年の財政検証のピアレビューのポイントでございます。評価としては、被用者年金一元化の成立を受けて実施されたということですので、マル1にございますように、財政の安定性は向上し、制度間の公平性も図られたというように評価されております。また、マル7にありますように、オプション試算が示されたということも高く評価されています。他方で、マル5にありますように、基礎年金の給付水準を調整していることへの対応が望まれるといったことが言われていたり、マル6にあるように有限均衡方式の特性を周知するということにも言及されているということでございます。
(27ページ)
27ページは前回のピアレビューということで、平成21年のピアレビューで指摘した事項をフォローアップしているということでございます。マル1からマル3は前回の指摘への対応がなされたという評価がされていますが、マル4については検討が望まれるといったことが引き続き言われているところでございます。
(28ページ)
28ページは今後の提言でございます。マル1は、先ほど説明した評価を踏まえて財政検証を実施するということが言われているわけです。マル2は、年金財政の変動要因の分析ということで、例えば所得代替率や給付調整期間が変化したときに、その要因をできる限り詳細に分析するということを言っています。それからマル3については、確率的将来見通しの検討の必要性についての提言でございます。マル4は、年金額の分布に関することでございますけれども、年金額の分布の推計についても一考を要するといったことがここで言われています。
(29ページ)
29ページ以降は毎年度やっている財政状況報告の、平成28年度分の一部を図解した資料でございます。
(30ページ)
ここは適宜御参照いただくということで、詳細な説明は割愛させていただきますが、この報告の中で、財政検証の見通しと実績の比較ということを行っている点につきまして、そこだけは簡単に申し上げておきたいと思います。
(43ページ)
一例を申しますと、ちょっと飛びますが、43ページをごらんください。積立金について、財政検証の見通しと実績を比較したグラフがございます。例えば26年の財政検証の結果を比べると、実績のほうが上回っているということがわかるかと思います。その要因について、この財政状況報告の中で分析しています。
(45ページ)
1ページ飛んで45ページのあたりに詳細な分析があるのですが、このような形で分析を行って、年度別にどのような要因で乖離したのかということを分析しています。この表ではわかりにくいので、少しまとめたのが次の46ページにございます。
(46ページ)
厚生年金においては平成28年度中に新たに6.6兆円から8兆円近い乖離が生じているのですが、その乖離の要因を発生要因ごとに分解しています。これをごらんいただくとわかるように、名目の運用利回りが乖離したことで5兆円台の影響があったことがわかります。それから、大きいところでは、被保険者数が乖離していることによっても2兆円前後の影響があったということがわかると思います。
このような見通しと実績の乖離の分析は、財政検証のシミュレーションに問題がないかどうかといったことや、あるいは財政検証で作成されている将来見通しが今の有効なもののなのかどうかといったあたりを検討する際の参考になるものですけれども、ただ、数理部会の報告の中では、この分析を受けて、特段、今のところ指摘はしていないということでございます。
(47ページ)
最終的な評価としては、最後のページにありますけれども、厚生年金の財政状況の評価ということで、今のところは財政検証の見通しはよい状態にはあるのですが、長期的な観点から動向を注視すべきという結論になっているということがここでは述べられております。
駆け足になりましたけれども、事務局からの説明は以上でございます。
○菊池部会長 どうもありがとうございました。
この後、財政検証とピアレビューについての意見交換を行いますが、長時間にわたりますので、ここで一旦、休憩としたいと思います。
○山本首席年金数理官 これより15分の休憩といたします。再開は会場の前方左側にあります時計で3時45分を予定しております。皆様におかれましては、再開予定時刻までに席にお戻りいただきますようお願いいたします。
 
(休 憩)
 
○菊池部会長 時間が参りましたので、部会を再開いたします。本日はセミナー形式で開催しておりますので、ここで改めて、委員の紹介をいたしたいと存じます。
事務局からお願いいたします。
○山本首席年金数理官 新任の委員の方は先ほど御紹介いたしましたので、それ以外の方を、席の順番に御紹介いたします。
早稲田大学法学学術院教授の菊池馨実部会長でございます。
公益社団法人日本アクチュアリー会前理事長の浅野紀久男部会長代理でございます。
慶應義塾大学経済学部教授の駒村康平委員でございます。
横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授の関ふ佐子委員でございます。
なお、株式会社日本総合研究所理事長の翁百合委員におかれましては、本日、御都合により退席をされておりますけれども、コメントを預かっておりますので、後ほど御紹介いたします。
○菊池部会長 それでは、前半に基調講演をしていただきました坂本先生にも加わっていただきまして、これより意見交換に移りたいと思います。
財政検証とピアレビューということで、幅広いテーマではありますが、坂本先生のお話では、第1部では国際アクチュアリー会の実務基準を題材として、財政検証の実務のあり方について御説明をいただきました。
そこでは、一つは将来シミュレーションの作成そのもののあり方、すなわちデータのとり方や数理的前提条件の設定の仕方、あるいは推計手法についての適切な実務についてのお話がございました。
もう一つは、数理レポートの記載事項のような財政検証における情報提供のあり方についてのお話もいただきました。
続く第2部と第3部では、G7諸国の事例を御紹介いただきながら、ピアレビューの意義と役割についてお話をいただいたところであります。
ここからの意見交換では、時間も限られていますが、おおむねこの3つのテーマについて議論できればと考えております。改めて申し上げますと、1つ目に将来シミュレーションのあり方について、2つ目に財政検証における情報提供のあり方について、3つ目にピアレビューの意義と役割についてということで、3つの柱で議論を進めてまいりたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
まず、1つ目の、将来シミュレーションのあり方についてです。先ほど事務局から御説明いただきましたように、資料の6ページにありましたが、公的年金の将来シミュレーションでは、将来についての前提と、初期データという2種類のインプットがあり、それらに基づいて推計を行うと将来見通しの結果が得られるということでした。
坂本先生の御説明によりますと、例えば将来についての前提条件に関して、ISAP2で中立に設定されなければならないということ、それから分析対象期間の長さを考慮して設定すること、さらに理解に役立つならば楽観的な前提や悲観的な前提をも設定すべきといったことの御紹介がございました。
また、推計手法に関しては、これは先ほど事務局からもありましたが、年金数理部会のピアレビューでも繰り返し取り上げられてきた確率論的シミュレーションに関して、国際アクチュアリー会での議論では中心的存在ではない、仮定が多過ぎるといった御指摘もいただいているところです。
財政検証は日本の場合、法律上はマクロ経済スライドの発動の要否を判断するために実施されるという側面があります。厚年法、国年法にもその旨の規定がございます。年金の給付という国民の権利に影響を及ぼす非常に重要な意味を持つものです。
その一方で、このシミュレーションの作成は、年金数理の技術的な側面が強く、一般の方にはなじみの薄い面があると言えるかと思います。しかし、先ほどお話を伺っておりますと、前提条件一つをとってもISAP2そのものには法的拘束力がないとはいっても、ここでいう中立とはどういうことなのか、そういった面で改めて考える必要がありそうかなと思ったところでございます。
また、法的拘束力がないとはいえ、内国法優先原則というお話もありました。私は法律学の専門でありますけれども、一般に法律というのはハードローと言われます。そういったハードローとは異なりますけれども、このISAP2自体、最近言われる、いわゆるソフトローの一種として、実務上やはり相応の尊重がなされるべき規範であると思われるわけです。
そこで、将来シミュレーションのあり方について、坂本先生の御講演も踏まえて皆様から御意見、その他をいただければと存じます。
どうぞ、御発言のある方からよろしくお願い申し上げます。いかがでしょうか。
それでは小野委員、お願いいたします。
○小野委員 どなたからも手が挙がらなかったので、とりあえず口火を切らせていただきます。
リサーチャーは基本的に声をかけられるうちが華だということで、依頼を受けたらお断りするという選択肢はないというポリシーを実践しましたら、このような場所に座ることになってしまいました。
御承知のとおり、駒村先生と私は、年金部会はおろか人口推計や経済前提にもかかわっているわけです。その意味では、特にピアレビューに関しては、ピアレビューを受ける側の、ある種の説明責任というものがあるのではないかと思いますし、それ以外のお仕事もあるようですので、お引き受けした次第でございます。
経済前提に関して、専門委員会の立場から申し上げますと、基本的に未来は予測不可能だという立場が重要だと考えています。したがって、将来人口推計も経済前提も、両方とも予測や予想ではなく、投影、プロジェクションであるということは、再三、説明しているところです。予測が不可能であるというのは、そもそもエコノミストの皆さんは身にしみてわかっていらっしゃるのではないかと思います。したがって、平成26年度の財政検証は、人口推計との組み合わせで約80通りの推計をしているわけですけれども、世間でいう8通りというのはその一部にすぎないということです。制度運営に関する国側の裁量を疑われないよう、複数のシナリオに濃淡をつけずに並列的に示されていますし、そのことが重要だと考えています。
もう一つは、約100年のシミュレーションを行うということで、この意味を考えることが重要だと思います。先ほどの坂本さんの説明の中にも、ISAP2の中で、推計期間を考慮して前提を設定することというのがあったと思います。経済前提に対する世の中の批判は、とかく足元の状況との比較で行われやすいということがあると思います。例えば賃金上昇率ですけれども、近年、賃金上昇が鈍いということの背景には、例えば労働分配率の低下や非正規雇用の増加、労働時間の短縮、事業主の社会負担の増加等々、いろいろな影響があるということですけれども、この影響がこの方向で100年間継続し得るというような設定は、私は妥当ではないと考えております。一定の水準に収れんするのだろうと考えることがむしろ合理的だと思っております。その意味で、足元の水準との比較は当を得ていないと考えておりまして、このような考え方の中で中立的ということを議論すべきだと思っています。
確率論的シミュレーションについて深くは申し上げませんが、私はもう少し検討の余地があるのではないかと。検討の余地があるというのは、実施するにはまだまだ課題が多いのではないかという意味です。例えば将来推計人口などを見てみると、確かに死亡中位とか死亡高位、出生中位、出生高位というものがありますけれども、これは確率論的に求めたということにはなっていないわけです。確率過程を想定すれば、年度を追うごとに、だんだんその結果が広がっていくことがおわかりになるかと思いますけれども、例えばきょうの事務局側の資料の、たしか9ページとか10ページの、余命や出生率を見ていただくと、例えば放物線を横に倒したような形で年度を追うごとに広がっていくというような結果になっていないわけです。ですから、そのあたりからそもそも考えていかないと、なかなか実現するといっても、かえっていろいろな意味で問題があるような点があるのではないかと思っています。
私からは以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
最初にありました、年金部会あるいは経済前提の会議との関係性は、私も人ごとではないのですけれども、ピアレビューの第三者性をどう考えるか、それは一つの論点ではありますけれども、そこは受けとめておきたいと思います。
幾つか重要な論点を御指摘いただきましたが、ひとまず、ほかの委員の皆様にも御意見をいただきたいと思います。いかがでしょうか。
それでは枇杷委員、お願いいたします。
○枇杷委員 2点ほどコメントをさせていただきたいと思います。まず、シミュレーションのところですけれども、これを意思決定のためのツールと考えたときに、例えば企業が意思決定をするときには、いわゆる業績予測や、ここにお店を出したらどのような売上が出るのかという予測を、いろいろなシナリオでやって意思決定をするということかと思いますので、そういう意味では、シナリオが複数通りないと、なかなかそのリスクがわからないということだと思います。
特に経営者の方が、そのビジネスというか新規のものに対して何か非常に強気でやりたいというときに、ブレーキをかけたようなシナリオを会社としては検討しないと、ブレーキがかけられないということで、判断を間違ってしまうということもあるかと思いますので、中立というのはそういう観点といいますか、年金制度で言えば国として年金制度をしっかり運営していきたい、こういう給付を適用していきたいという強い思いがあるということではあるのですけれども、一方で、経済の前提の中、あるいは人口の前提の中で、できることとできないことがあるということは、やはり客観的に見ないといけないということかと思うので、そういう視点を入れていくことは大事だろうと思いました。
あとは確率論的シミュレーションのところですけれども、確率論的シミュレーションのよいところは複数の変数が、いわゆる相関を持って動くということを割と表現しやすいという点ではすぐれているかなと思うところがあります。例えば物価上昇率と賃金上昇率と、それから運用利回り、この辺は割と相関があると言われているわけですが、その辺を整合的に取り扱えるという意味では、すぐれた部分はあると思うのですけれども、では、そのモデリングがちゃんとできるかどうかは先ほど小野さんが言われたとおりで、なかなか課題がいっぱいあるということ。
それから、坂本さんの報告の中にもありましたが、なかなか確率論的なものの見方に一般の方がなれていないというところがあって、その辺が一つ課題であるとは思います。民間の、例えば企業年金などでも、いわゆる年金ALMのシミュレーションをやって、これは確率論的な手法を使っているわけですけれども、経営者の方がなかなかそれを理解できなかったりということも、少なくはないのかなという印象を持っています。
そういう意味では、いろいろな課題があるということは御指摘を申し上げたいということです。以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
野呂委員、お願いします。
○野呂委員 坂本先生や、今、2人の委員の方が確率論的手法に、ネガティブな御意見だったので、あえて違う立場で申し上げたいのですけれども、確率論的手法には、非常に仮定が多くて、その結果をもっていろいろな政策判断をするのは難しいというのは全くおっしゃるとおりかと思います。
今、8通りの決定論的シナリオのもとでやっていますが、ただ、前回のピアレビューでもありましたとおり、並列的に並べることによって、例えば給付水準調整の終了年度の決定が見えにくくなるとか、そういう問題もで出てきているので、それぞれ8つの、A~Hのシナリオについての意味づけのようなものをするときに、どうすればいいのか。なかなか日本語で意味づけをするのは難しいのですけれども、そのときに補助的に1,000通りか1万通りかのランダム発生した確率論的シナリオの中で、それぞれA~Hがどれぐらいのところに入っているかということを目安として、参考として出すというようなことで使うのであれば、これは結構使えるのではないかと思います。情報として、確率論的手法を工夫してやっていくことによって、むしろメーンのやり方である決定論的シナリオについての意味や位置づけをビジュアルにしていくというような機能が期待できるのではないかと私は思います。
○菊池部会長 ありがとうございました。
少し今のところで確率論的シミュレーションの捉え方という議論がありましたが、坂本先生、何かコメントをいただいてもよろしいでしょうか。両論というか、いろいろ御議論が出ましたけれども。
○坂本氏 確率論的な取り扱いというのは、今出た意見でほとんど出尽くしているようにも思いますけれども、野呂委員が指摘されたようなメリットもあるかと思います。ただ、それが確信を持って言えるかどうかは、やはり問題が残るのではないか。分布そのものがわからないのに、それを議論すること、そして大胆な前提をそこに置いてしまっているということなどを考えると、やはり、なかなか踏み切れない部分が残るのではないかと思います。しかしながら、こういうアプローチがどのような意味を持っているのかということを、より深めていくというプロセスは、これからも必要であって、それが深まった段階で、ある程度、現実にも応用できるだろうということになってくると、そこでもう一回、議論をし直す。そういうプロセスを踏むのがいいのかなという感じがします。余り答えにはなっていないと思いますけれども。
○菊池部会長 どうもありがとうございます。
この点につきまして、何かほかに御意見はございますか。
では、浅野部会長代理、お願いします。
○浅野部会長代理 今の、stochasticなモデルも含めて将来シミュレーションについてお話をさせていただきたいと思います。
stochasticモデルについては今、坂本先生、それから3委員から出たような、メリット、デメリットがあるわけですが、一方で、生命保険会社ですと、こういうstochasticモデルを使って既に負債の評価も行っているということもありますので、一概にこれが否定されるというものでもないと思います。しかし、モデルという点では万能ではなく、限界もあるというのも事実ですので、その限界を十分に理解した上で、出てきた数値には何らかの意味が当然ありますので、その数値は我々や、より専門家に近い方には多くの示唆を与えてくれるのではないかと思います。今すぐではないにせよ、今後の課題としてはずっと認識をしておくことが重要ではないかと思います。
それから、シミュレーションのあり方について、先ほど御意見が出たので、私のほうでも少しコメントをさせていただきます。前提条件等ということですが、将来シミュレーションにおいて大切なことは大きく2つありまして、一つは基礎となるデータの正確性、それと前提の置き方がどうかということかと思います。データについては、現在、各制度によって管理の方法が相違しているということがあるようなので、何らかの形でデータの正確性を確認する。ないしは、その実施主体がそれを保証するといったようなことがあってもよいのではないか、と感じています。
それから、前提については、将来シミュレーションの目的によって、設定の仕方が変わってくるのではないかと思います。前提は、原則としては過去の実績に基づいて将来の変化を予測して、フォワードルッキングに設定していくのが基本だと思うのですが、例えばシミュレーションの目的が、先ほど枇杷委員からありましたように、経営計画や政策目標に関する将来の状況を把握するということであれば、前提はその計画や目標と整合的である必要があると思います。
一方で、財政検証のように、検証というところに主眼が置かれる場合には、前提はフォワードルッキングではあるものの、計画や目標と整合的というよりは、より現実的実現性が高いと考えられるものを設定すべきではないかと考えます。もちろん検証だからといって、過度に保守的な設定ということは適切ではないということです。
やはり経済前提ということが大きく議論になるのだろうと思うのですが、先ほど事務局からの資料の御説明にもありましたように、経済前提というものはボラティリティーが大きくて、改めて設定の難しさを感じるわけですが、その点では前回の財政検証のような複数のシナリオを用いるというのが現実的な対応であり、検証という目的からすると、前述のような、足元についてもより実現性の高い複数のシナリオを設定するということが考えられるのではないかと思います。
そして、前提条件全体として留意しなくてはいけない点としては、超長期のシミュレーションですので、リスクと不確実性をどのように織り込むかが重要ではないかと思います。現実的にはベストエスティメートとリスクの不確実性というものを区分けすることは難しいのですが、前提条件全体のセットとして一定程度のリスクと不確実性が織り込まれていることが必要ではないかと考えています。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
翁委員からコメントをいただいていると思いますので、ここで御紹介いただけますか。
○山本首席年金数理官 翁委員から預かっているコメントのうち、将来シミュレーションのあり方に関するものを一点、御紹介申し上げます。そのまま読み上げさせていただきます。
財政検証の前提条件について、国際アクチュアリー会の実務基準では中立的な前提条件を置くべきとしている。一方、日本では政府の経済見通しは成長戦略の中で議論される。成長を規定する労働人口は見通せる部分がかなり大きいが、全要素生産性の向上、また、その前提に基づく成長率など、どうしても目標としての色彩が濃く、楽観的なバイアスがかかりがちとなる。年金財政は過度に楽観的でもなく悲観的でもない、現実的なものとすべきではないか。
以上でございます。
○菊池部会長 ありがとうございます。
ほかに、いかがでしょうか。
駒村委員、どうぞ。
○駒村委員 先ほど小野委員からもお話があったように、私も人口推計や経済前提、年金部会等に所属しておりますので、この数理部会にかかわるかかわり方は、非常にいろいろ考えなければいけないことがあると思います。
きょうの坂本先生からのお話も、Chief Actuaryとpeer reviewersの関係、つまりカナダにおける、独立性と中立性と、それからチェックアンドバランスの構造が大変よくわかりました。ありがとうございます。
それから、もう一つ、チェック項目として、わかりやすく表現しているかということも重要であるということがわかりました。それから、レコメンデーションができるという話も大変重要な御示唆だと思います。
経済前提について、あるいは年金財政検証におけるさまざまな年金財政上の前提についてですけれども、やはり年金数理部会としては、大事な変化や、あるいは過度に楽観的な数字が使われていないだろうか、見落としている部分はないだろうかということを慎重にチェックするという役割が大事だろうと思います。
先日も、これは先ほどの小野先生の話を受けて、難しい立場であるわけですけれども、経済前提の席上でも、過度に心配事かもしれませんけれども、男性の壮年期の労働力率が30年にわたって連続的に全ての世代で下がっている。確かに95%を切っているところはごく一部だけれども、それでも30年間の動きを見ると3%近く下がっている。1学年当たり70~100万人の男性がいて、それが30学年ということになれば、3,000万人近い人がいるわけですけれども、その3%が働かなくなっている、落ちてきているということになれば100万人ということになるわけです。
一方、さまざまなデータを見ると、いわゆるニートという方が男女合わせておよそ150万人ぐらいいるということ。それから、こういう壮年期の男性の労働力率の低下は、日本だけでなく多くの先進国で長期的に起きていることで、アメリカは1990年に93%だったものが、最近では88%まで落ちてしまっているということを考えると、壮年期の正社員の恐らく中核になるだろう部分の労働力率が落ちて、しかも年金納付者でなくなってくる、厚生年金の納付者ではなくなってくる危険性があるということも、軽視しないで考えておく必要があるのではないかというようなことも申し上げましたけれども、まずそうな問題もきちんと受けとめておかないと、100年ということですから、その影響は直ちには軽微かもしれませんが、しっかり見落とさないように、細かい話も見ておかなければいけないというのが数理部会の役割だろうと思います。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
ほかに、よろしいでしょうか。
多くの御意見をいただきましたが、中立性が求められるという、最初の坂本先生のお話の中で、特に経済前提については目標という色彩が強いということや、今、駒村委員からもお話がありました、その中で、中立性という点で我々に課された任務の中で、前提条件の設定のあり方について、どのように考えていくのかということが一つの課題であるということが浮き彫りになったかと思います。
また、100年の推計の中で、足元に引きずられることの問題という御指摘もあったかと思います。そういう中で、足元についても複数のシナリオをという、浅野代理のお話もありました。そのあたりもどう考えていくかが今後の課題かと思いました。
それから最初のほうでの確率論的シミュレーションということで、さまざまな御意見がありました。ただ、皆様、基本的には共通した御認識のもとに、さまざまな角度から御意見をいただけたのかなと思っております。これも引き続き、どう考えていくかということは、この部会の課題であるという認識を持った次第です。
それ以外に、年金数理の専門的なお話でもありますので、浅野代理から、何かお気づきの点などがありましたらお願いいたします。
○浅野部会長代理 今、部会長がまとめられたことで、基本的にはそのとおりではないかと思いますが、キーワードとしては、前提条件についてはやはり複数シナリオということが多数出てきたということと、あとは皆さん共通の認識として、将来を予測することはなかなか難しいのではないかという前提で考えていくことが必要ではないかということ。それから、シミュレーションについては、これは枇杷委員からもありましたけれども、いろいろな目的があるので、そういうところはよく念頭に置く必要があるということです。そして、stochasticモデルについては、これはストレートに使うのではなくて、野呂委員からあったような、補助的な使用方法というものがあるのではないかということです。これは例えば、示現確率を求めていくということではないかと思いますけれども、そういうところでも利用できるのではないかということです。
以上です。
○菊池部会長 どうもありがとうございました。
ほかにも御意見がおありかと思いますが、あと2つございますので、次に移らせていただきます。最後に、できれば皆様にまとめを兼ねたコメントをいただければと思っておりますので、そこで補足いただければと思います。
2つ目は、財政検証に関する情報提供についてです。先ほど坂本先生からISAP2において財政検証の報告書に記載すべきとされている事項について解説いただいたところです。資料の20ページの付録のところでしたけれども、さまざまな項目が挙げられていました。18ページにあったとおり、健全な意思決定ができる情報が含まれ、将来のキャッシュフローの性格やリスクや不確実性について説明がなされていることが求められるということでありました。
他方、日本の数理レポートには、ISAP2が求める内容はほぼ入っているというお話もありましたが、改めてISAP2の基準をごらんになって、日本において何か示唆があるのかといった点など、御意見をいただければと存じます。
また加えまして、公的年金財政に関しては、多くの国民が関心をお持ちですし、また広く一般の方々に理解していただく必要もあるわけです。他方、情報の受け手には、ここにおられる専門家の方々や実務家の方々だけでなく、一般の市民の方々もいらっしゃいますので、対象者によって情報提供の内容も工夫する必要があるかもしれません。ということで、そういった点についての配慮のあり方といった点についても御発言いただければと存じます。
いかがでしょうか。
永瀬委員、お願いいたします。
○永瀬委員 先ほどは発言しませんでしたので、ここで先ほどのこともあわせてお話ししたいと思います。私は労働経済学が専門で、あとは社会保障を25年ほど教えておりますけれども、主には労働経済学が専門でございます。また、年金部会としては私は外部の者でございますので、前回の財政検証は非常に関心を持って読みました。
そのときに、基礎年金が4.5万円ぐらいまで落ちるというようなこと、あるいは3.5万ぐらいもあり得るということを読み取ったときには、非常に驚きました。これは学生も一般の人も、それほど知らないのではないだろうかと思いまして、こういうことは、やはり幅広くお教えしたほうがいいのではないかと思いました。というのは、専業主婦世帯で代替率5割を切らないということだと結構わかりにくいというか、また、専業主婦世帯そのものの数も随分減っていると思うので、それがどのくらい代表するか。昔はかなり多くの厚生年金の世帯を代表していたように思いますけれども、現在はシングルの方もいらっしゃいますし、共働きもいらっしゃいますし、いろいろいらっしゃいますので、財政検証の問題とは別に、財政検証は財政検証として、非常に貴重な情報を国民に提供していると思いますけれども、その提供の仕方として、分布がどうなるのか、その可能性はどうなのかということをもう少し、個々人の方に近づけて提供することは、必ずしもハッピーな情報ばかりではないかもしれませんが、提供することには意味があるのではないかと。前回もその分布について、もう少し提供するということが書いてありましたが、そのように考えます。
○菊池部会長 ありがとうございます。
財政検証においてモデル世帯を設定することの意味というようなお話、多様化した家族のあり方の中でモデル世帯を設定する意味というお話でもあるかと思います。また、26年の推計にもありましたが、年金の分布推計のようなものをもう少し見せたほうがいいというようなお話でもあると思いました。
では駒村委員、お願いします。
○駒村委員 永瀬委員のおっしゃることは私も共有する部分が多く、きょうの資料の中でもやはり注目するのは所得代替率が50%をモデル世帯で維持できているのか。確かに所得代替率の変化を見るためには、特定のモデル世帯を使わないと、途中で尺度が変化してしまったら評価のしようがないので、それはある程度しようがないのですけれども、きょうは坂本先生から、カナダの話の中で、わかりやすく表現しているのかというところがありました。もう一つはやはり、年金が将来どの程度の水準になっていくのかという見通しですね、それがモデル世帯だけでなく、自分に近い世帯でどうなっていくのかという見通しを、国民にきちんと見せていく。要するに、この程度の年金水準は、このパターンの世帯だったらもらえますよということを見せていくことによって、では、今度は、どのくらいまで働こうか、どう働こうか、どのくらいの金融資産が必要になってくるのかという準備をしてもらう手がかりになりますので、わかりやすい出し方をするということが数理部会の役割かどうかは別として、年金部会の役割かもしれません。そうだとすれば、数理部会としてはもう少し多様なパターンも見せて、そして自助に向けての準備を促す。いずれにしても代替率は下がっていき、マクロ経済スライドでは世帯のパターンによっても違いますけれども、かなり厳しいことも起き得るので、準備をしてもらわなければいけない。そのメッセージが果たして今の状態で伝わっているかどうかというと、ややおぼつかないのかなと思います。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
ほかに、いかがでしょうか。
関委員、お願いします。
○関委員 2点ございます。ちょうどけさの日経新聞で、日本の年金は世界で29位という、アメリカのマーサーというコンサルティング会社の調査の結果が出たかと思います。この調査に対しては、多分、専門家の方からいろいろと評価があるかと思うのですけれども、一般的にはこのように日経新聞に出た記事には非常に大きなインパクトがあるのではないかと思います。それに対して日本の状況はどうなっているのかということを、一つはやはりしっかり説明できることが必要なのではないかと思っています。つまり、こういう記事で不安を持つ人の割合というのは、やはり無視できないのではないか。いかにいろいろなことを検証して、将来のことをシミュレーションしていても、なかなかそれは一般には伝わっていないのではないかということが1点目です。
2点目は、学生への教育という話なども論点として挙がっていましたが、まず専門家に向けては、財政検証について詳しく見ていただければ情報が伝わるかもしれません。専門家に向けての情報は一つあると思うのですけれども、他方で、例えば高校生に向けては年金教育など、ある程度、情報提供がされようとしている。それも十分なものかという問題はあるかと思いますが、その間にある、もうちょっと詳しく伝えるべきである、しかし経済等の専門家ほど専門家ではない、マスコミも含めた、それから一般の人たちに向けての、詳し目の、しかしそれほど専門的ではないという伝え方のところが、もしかしたら足りないのかなと思っています。大学で講義をすると、講義が終わった後のアンケート等を見ると、年金はもたないと思っていたけれども、講義を聞いて少し大丈夫かなと思ったとか、そういった発言も聞くので、やはり、簡単なものよりもう少し詳し目な情報の伝達も必要なのではないかと思いました。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
今、お三方からお話をいただきました。財政検証をやる部会ではないわけですけれども、財政検証のあり方についての提言というか、あり方、見せ方も含めて、それについて発言していくということは年金数理部会に課された部分だと思いますので、その辺は今後、我々としてどう発信していくかということが一つの課題かと思います。
それから、今、学生の話が出ましたけれども、我々もこれまで、毎年、報告書が出ても読まれないということを非常に悩みながらやってきたわけです。何とかこれを使ってもらいたいというところで、ことし、年金部会で御報告いただくということをやっていただきまして、まずは一つ、発信という面で、一歩ではありますけれども、進めることができたかと思いますが、一般の方も含めた発信について、年金数理部会として何ができるかというあたりも今後の課題なのかなと思うところです。
翁委員からも、このテーマ2についてコメントをいただいていますね。
○山本首席年金数理官 翁委員からはリスクに関してですけれども、読み上げますと、オプション試算の面で気になっているのは、国家財政の持続可能性について、市場から懸念が高まったときのリスク、すなわち長期金利の急騰、円安の進行、インフレの高騰といったリスクがある。現状では、日本銀行が国債を買い支えているが、長期的にはさまざまなストレスが今後予想される。そうしたときに、どのような影響が年金に出てくるのか、長期的に影響は吸収可能なのか、検討しておく必要があるように思う。
そのような御意見をいただいております。
○菊池部会長 ただいまの翁委員の御意見は今までとは少し違った側面になりますが、リスクの検証の仕方や幅など、そういったお話です。
これに関連して、いかがでしょうか。
野呂委員、どうぞ。
○野呂委員 初めのほうの翁委員の御意見にも関係するのですが、ちょっと違う話になりますけれども、去年、経団連で、なぜ個人消費が伸びないかという大々的な調査をしたところ、社会保障が将来、非常に厳しいので、お金を使うよりも貯金をしておこうという答えが圧倒的に多かった。やはり社会保障制度、これは年金だけでなく医療・介護も含めてですけれども、そこに対する不安が消費の伸び悩みに影響していることが極めて鮮明に出たわけです。そのときに、国民の平均的な人がどこまで社会保障に対する不安感を持っているのかというのは、ひょっとしたら、前回の財政検証のシナリオHよりももっと悪い状況を想定しているのではないかという気もしました。
先ほど翁委員が、内閣府の中長期前提は国家の目標であって、坂本先生の言われた悲観シナリオには当たらないのではないかというところについては、多くの国民がそういう感じを持っているのではないかと思います。悲観シナリオの設定はなかなか難しいのですけれども、内閣府の中長期前提よりももう一段低いシナリオも考えてはどうか。例えばシナリオHでも、初めの10年間は上がって11年目にまた下げるのであれば、もしもあの最初の10年間の駆け上がりがなければというようなシナリオを設定すれば、要するに現状から全然変わらないとすれば、もう少し見え方も違うと思うのです。その効果は国民から、特に普通の、年金の専門家ではない国民から見れば、悪くてもこれぐらいはもらえるのだという、ある意味で開き直った安心感になって、期待という意味では逆に言うとこれぐらいは消費をしてもいいかなというようなことで消費行動につながるのではないか。要するに、自分の未来が計算できないという状況から非常に閉塞的になっている現状においては、逆に、ここが岩盤ですよということを説明できるような見せ方、あるいは前回は余りシナリオHについては光を当てていないのですけれども、そういうところについて、もう少しかみ砕いて国民にアピールするというような見せ方もあってもいいかなと思いました。
○菊池部会長 ありがとうございます。
先ほどの1つ目のテーマにもかかわる御意見だったと思います。
ほかに、いかがでしょうか。
枇杷委員、お願いします。
○枇杷委員 利用者には結構いろいろな人がいるということが、今の翁委員のコメントからもあって、市場関係者、マーケット関係者というのは私は頭の中になかったのですけれども、ああ、そうかと。そういう目線も感じました。
もちろん政策決定者や年金のいわゆる業界にいる人は、詳細なレポートを多分読みたい。市場関係者も別の目線で詳細なレポートを見たいということなのかなと思った一方で、一般の国民の方については、もっとシンプルなものをという話も皆さんからあったということなので、やはり出し方については、出す相手を想定して、その相手ごとにカスタマイズしてやっていくのが本当は望ましいのかなと思います。
特に一般の人ということで申し上げると、長いともう、多分、お読みにならないというか、もう難しいので、わからないと。わからない、イコール、思考停止になって、駄目ではないかという空気に流されるという感じはあると思うので、そこをもう少し何か工夫できるといいなと。ジャストアイデアですけれども、例えばアプリのようなものに自分の属性を入れてみると、それに立脚したモデル年金額が出てくるようなレポートが出る。要するに、紙ではなくて、そういうやり方ももしかしたらあるのではないかということを少し思いました。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
今のも、どう見せるかというあたりで、年次報告書の概要版も一応つくってはいるのですけれども、どこまで読まれているかという課題があるところです。
ほかに、いかがでしょうか。
では浅野代理、お願いします。
○浅野部会長代理 まず、この財政検証に関する情報提供ということについては、現状においてもかなりの情報提供がありますし、それに対して結果の再現可能性というものも、それなりに高いのではないかと思っています。
一方で、財政検証結果の確からしさというか、その計算が正しいということは、これは間違いないわけですが、その前提について、どの程度の確実性があるかというところが、今、国民にはなかなかわかりづらいのではないかと思います。あえてそうされているということも一方では理解はするのですけれども。
例えばよく金融機関でストレステストを行いますけれども、そのときには、先ほど野呂委員からも出たようなシナリオの示現確率というものを伝えて、そのシナリオの起こりやすさを伝えていくわけですけれども、何らかのシナリオの起こりやすさ、これを数値で示すのはひょっとすると難しいかもしれませんが、言葉でもいいのかもしれません。何か必要ではないかと思います。
こうした確からしさを示すことと並んで、前提がこのぐらい変化したら結果はどの程度変化するという、いわゆる感応度分析ですか、こういうものも国民の予見可能性を高めるという観点からは有用な情報ではないかと思います。
それから、一般向けということでは、前回の財政検証について、国民の理解促進を図るために、開示内容については随分工夫されているのではないかと思います。しかしながら、現実的には財政検証結果ですと言われても、一般の国民の方にはぴんとこなくて、なかなか自分事として捉えられないのではないか、これが現実ではないかと思います。
一方、我々生命保険会社が年金セミナーなどをやりますと、それなりにお客さんが来ますので、潜在的な興味は国民の間にあると思いますから、やはり一般の国民の方へ、どのように伝えるかということだと思います。こういうことが可能なのかどうかわかりませんが、一般の人たちに伝えるという面ではパブリシティーの事業者がいて、こういう人たちはさまざまなノウハウを持っているのではないかと思います。安易かもしれませんが、そういう方々と相談して、国民への伝え方を検討されることも一つの手だてではないかと感じている次第です。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
ほかに、いかがでしょうか。
小野委員、お願いします。
○小野委員 お話を伺っていて、一点だけ感想を述べさせていただきます。
翁委員から示された国家財政の懸念という点で、それがどう影響するかというような御指摘があったかと思います。先ほどのマーサーの話ですが、これは基本的に公的年金と私的年金ということで、合算で考えて評価されているようなところがあるわけです。その中で、私的年金というのは、やはり請求権を金融資産を通して発揮するというところが大きな特徴だと思います。金融資産を通す制度と通さない制度という、そういう仕訳の仕方で、国家財政に懸念が示された場合に、では、どちらに大きな影響があるのかといったら、普通に考えると金融資産を通す制度のほうがより大きな影響があるだろうと思います。それを一点、指摘させていただいて、感想として述べさせていただきます。
○菊池部会長 ありがとうございます。
ほかに、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
いろいろ御意見をいただきまして、ありがとうございます。
専門家に対する発信と、それから一般の国民の皆さんに対する発信の仕方、特に後者についての工夫のあり方という御意見をいろいろいただけたかと思います。ただ、それは単なる見せ方だけではなく、第1のテーマでもありましたけれども、楽観ケースだけでなく悲観ケースも設定して示す必要性というお話と、それによる中立性の確保というお話がありました。そもそもの前提の置き方など、そういったところの検証の必要性というところも浮き彫りになったかと思います。
よろしいでしょうか。それでは3つ目のテーマ、ピアレビューの意義と役割についてです。先ほど坂本先生から幾つか御提案がありましたが、今後のあり方について議論する前に、少しこれまでの活動について押さえておきたいと思います。年金数理部会のピアレビューについては先ほど事務局から説明があったとおりです。
委員の皆様には新任の方も多く、私もここ2年ちょっとですので、それ以前の経過はわからない部分があります。前回のピアレビューも私は担当しておりません。そこで、在任の委員の方から、年金数理部会の活動を振り返って、ピアレビューの果たしてきた役割についてお話をいただければと思います。
浅野委員と駒村委員ということになりますけれども、いかがでしょうか。
○駒村委員 持ってきた意義ということですけれども、きょうの坂本先生のお話からもあったように、この部会の持っている権限というか役割は、検証して公表することとなっているのですが、逆に言うと公表以上のものがどうもない。要するに、こういうことをやったほうがいいのではないかという勧告権まではないという状態なので、この公表によってどのような意義があるのかということが、この部会の生命線ということになると思います。この部会のさまざまな報告書が、これまで十分に知られてきて、それが政策的な影響を持ってきたのかというと、やや控え目というか、物足りない感じがあります。
その一方で、部会としては、いろいろなやるべきこともあるだろうと思います。今の範囲の中でやるべきこともあるだろうと思います。坂本先生の資料の34ページにも、部会の役割としてはデータの整合性の話など、あるいは運用結果のところなどもモニターする、それからキャッシュフローの円滑化についても関心を持つという問題提起をいただいています。たしかこの部会だったと思いますけれども、GPIFの資産の構成の中で、厚生年金とGPIFのお金の流れ、やりとりのところで、意外にキャッシュが多くGPIFにたまっているような感じがあったという議論をした記憶があります。その理由は一体何なのか。そうすると、厚生年金基金の代行返上であるという説明だったと記憶していますけれども、そうなってくると、やはりそういう部分にも気を配っていく必要があって、厚生年金基金は今、縮小途中であるわけですけれども、結局そこの代行部分が傷んでいれば、それは本体にも影響を与えるわけですし、それからどういう順番で返上していくのかということによって、キャッシュフローにも影響を与えてくるということだと思いますので、きめ細かく、さまざまな部分に情報を提供してもらうように心がけていき、さらに我々が持っている機能である公表を、いかに有効に使っていくのか。その公表があるから、逆に言うと年金経済前提委員会も年金部会も、やはりそこでチェックを受けるのだという緊張感を持って議論ができると思いますので、この部分を強化していく必要があるのではないかと思います。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
確かにチェックを受けるのだという緊張感は。
○駒村委員 私はあります。矛盾したことは言えませんからね。
○菊池部会長 そうですね。そういう大事な役割があるということです。
浅野代理、お願いいたします。
○浅野部会長代理 私は前回の財政再検証のピアレビューから参加させていただいておりまして、その経験を踏まえて3点ほどコメントをさせていただきたいと思います。
1点目は、当然かもしれませんが、想像以上にこの部会においてさまざまなデータや情報を収集して、事務局を中心に、しっかりした分析がなされているということで、年金財政の安定性を評価する上で、我々の部会がピアレビューという機能を果たすことができているのではないかと感じています。もちろんこれ以上もっと、さらに深める、ないしは幅を広げるということはあるのかもしれませんが、閣議での目的には合ったことができているのではないかと思います。
それから2つ目は、冒頭のコメントでもちょっと触れましたが、財政検証の前提として、各制度の実施機関で管理しているデータに基づいて財政検証が行われているわけですが、そのデータの精度や信頼性について何らかの形でさらなる検証が必要であるようには感じています。また、各制度の御担当者が本当に要員が少ない中で、大変御苦労をされているということをお見受けしていて、やはり制度間で横串を刺すということも含めて、このあたりの体制強化がピアレビューのレベルを上げるためにも必要ではないかと感じています。
それから最後に、今、駒村先生からもお話がありましたが、ピアレビューをしていて報告書を出すわけですけれども、数理という言葉がついているだけで、小難しいことをやっているということで、なかなか振り返られず敬遠されてしまっているのかなという印象があります。より発言力を高めなくてはいけないと、口で言うのは簡単ですが、委員の一人として、さらなる努力が必要なのかなと。どういう解決があるとは今、具体的な案は言えないのですが、そのように思っている次第です。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
これまでの御経験を踏まえて、お二人から御発言をいただきました。
残りの時間も大分押してまいりました。ここで皆様から、今後のピアレビューのあり方についての御意見、そして本日の議論を通じてお感じになった点も含めてのお話で結構ですので、御発言をいただければと思います。そして最後に坂本先生からも、きょうの議論をお聞きになっての感想も含めたお話を伺えればと思いますので、よろしくお願いいたします。
よろしければ枇杷委員から順にお願いいたします。
○枇杷委員 私は新任ということで、財政検証自体はこれからやるということですから、正直、どういう感じでいくのか、内心、不安を持ちながらというのが今ですけれども、浅野部会長代理がおっしゃったように、結構緻密にいろいろなことを分析してチェックしているということは、そうかなと理解しました。
データの正確性のところもやはり確認しなくてはいけないというのはそのとおりで、ISAP2にもそのようなことが書いてあるわけですが、そこは部会が行うというよりは、実施機関のほうでしっかりとした内部統制をつくっていただいて、それがきちんと運用されているということを我々が確認するというようなレベル感なのだろうと思った次第です。
それから、年金数理部会の検証が、位置づけとして、先ほどのどなたかのコメントですと、もうちょっと前に出ていったほうがいいというか目立ったほうがいいという御意見もありましたが、私はどちらかというと逆の意見で、例えば公認会計士の監査で監査報告書を普通に出しているときは、実は公認会計士は全く目立ちません。何かあると非常にたたかれるという、ある意味、黒子的な役割だと思うのですけれども、この部会の役割はもしかすると、突き詰めて言うと、個人的にはそういう役割に近いような気もしています。この辺はいろいろな意見があると思います。情報発信をするということは、全体としては必要なことだとは思うのですが、部会の役割としてそうかどうかというのはまた別の問題ということで、そういう意味では年金数理部会の役割などもこれから皆さんと意見交換をして、理解を深めていきたいと思います。
以上です。
○野呂委員 ピアレビューについてですけれども、私は駒村先生の御意見に賛成です。非常に悪い言い方をすると、何となく、今の年金数理部会のピアレビューは言って終わりというような感じがありますが、企業の内部監査では各部門が、これは対応できます、できません、今後どうします、ということをきちんと、二段表をつくるというのが普通かなと思います。そこで厚生労働省の方にそれを申し上げたところ、それはちゃんとやっていますという話だったので、それでしたらぜひ、次回の財政検証でもやっていただきたいと思います。また、そのことを、こういう委員をさせていただいた私も知らない、ピアレビューで指摘のあった確率論的なやり方をなぜ見送ってきたかということについての理由も、どこを見たらいいかわからないというあたりは少し気になります。もう少ししっかりと、その辺をアピールしていただくと、ああ、そういうことかというようなことで、国民の信頼や安心が高まるのではないかと、ピアレビューについては思いました。
○永瀬委員 私も委員ははじめてにて、わからないところがいろいろあるのですけれども、労働データはずっと見てきております。賃金分布がどのように変化しているかということは、ずっと見てきているわけで、これは将来の年金に大きい影響を及ぼします。その中で、やはり1号的な非正規雇用の人の男女ともに増加していることや、かつてならば結婚して第3号になったかもしれませんが、結婚せずに1号や2号でいる男女の増加、それからあとは90年代から2000年代、2010年代と、男性の賃金が全体に落ちてきていることを指摘できます。女性のほうの賃金は若干上がっていますけれども。
そのような大きな変化がある中で、前回の財政検証が示したものは何かということを私なりに考えております。専業主婦世帯が減っていますが、これは日本の20年後、30年後の高齢期の所得分布に非常に大きなことを意味していると、前回の検証を見て思いました。
前回の財政検証では、雇用者のほとんどを被用者年金に入れるというオプション試算2が年金給付を改善させる希望があるオプションとして出されていました。今回ももう少し長く働き社会保険の支え手になるという視点も提案されると想像しています。しかし日本の1号、2号、3号とわかれた制度のお膳立ての中で、労働市場の変化を見ると、低い賃金のシングルや共働きには結構厳しい給付制度であることは明確です。そして最近、そういう働き方が非常にふえています。そういうことを考えると、どのような方向になっていくのかということを、財政検証をもとに、明確に見通して捉えていく必要がある。経済成長や賃金上昇など、いろいろな前提で「モデル年金」がどう動くかという視点とは別に、年金給付の分布がどのように変化する方向に向かっているかという視点で、しっかりと考える必要があると私は思います。
その上で、現状、それからこのようにしたらもう少しいい方にいくという、方向性を、財政検証とオプションの形で示せれば良いのではないかと思います。私は普通の生活者の目線で考えているのですが、そういう方の希望や警告になる情報が必要かと思います。
以上です。
○小野委員 ピアレビューに関しては、私は資料を拝見していて、平成21年のピアレビューで既に平成16年改正において設定されたマクロ経済スライドの仕組みが十分期待どおりに機能していないということを指摘していたということは非常に重要なことだと思います。
また、財政状況報告のほうで恐縮ですけれども、例えばきょうの資料の33ページに、第3号被保険者の5年ごとの年齢別分布が出ています。そういったものを見ていくと、第3号被保険者が今後どうなっていくかということが、ある程度予想できる。ですから、拝見していると、非常に有用な情報があるのではないかということを思います。これを広めていかなければいけないという意味では、年金部会での報告を定例化していただきたいというのが一つです。
それとともに、年金数理部会セミナーという、こういう場も定例化していただくのがいいのではないか。
私も日本年金数理人会の会員ですけれども、こういう職業専門家団体というのは継続教育プログラムというものがありまして、こういったものに御活用いただくことができると聞いています。年金数理人の皆さんが集まるということは、こういった議論を共有していただく人がふえるということになりますので、そういう意味では非常に重要なのではないかと思います。
一つ考えているのは、平成16年改正において、ある意味、年金制度の運営が、財政という観点はもちろんあるのですけれども、そこから世代間の分配という仕組みに変わってきているということがあると思います。それを受けた形で年金数理部会が国民のニーズを反映したような情報を提供しているかというようなところは、議論しておいてもいいのかなと思います。
例えばマクロ経済スライドが適用できないということで、結果的には足元の給付水準が少し上がってしまっているということの影響が将来的にどうなるかというようなことは、財政的に積立金が予定より多いとか少ないといったこととは別に、国民としては知りたいことなのかもしれません。そのあたりも含めて数理部会で検討するということも、できるかどうかは別として、検討ぐらいはしてもいいかなと思います。
以上です。
○浅野部会長代理 きょうは坂本先生から、海外の年金制度のお話を伺って、国によってはピアレビューの仕組みがないところもありましたので、改めてこの年金数理部会の役割の重さを痛感した次第です。引き続き、負託に応えられるよう頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○駒村委員 先ほど、公認会計士の例を挙げて御説明をされて、まさにそこがポイントかなと思っています。恐らく公認会計士は決算が駄目なら判こを押さないということができるので、静かにしていてもいいのですけれども、ここは判こを押さないという権限がないので、そうなってくるとやはりヒアリングと公表で。判こを押さない権限を与えてもらえるなら、またさらに強くなるわけですけれども、そこは今は与えられていませんから、やはりヒアリングと公表で頑張るしかないと思っています。
先ほどのマーサーのような報告のほうが、どうしても前に出てしまう。カーネマンの行動経済学の二重構造ではありませんけれども、人間の情報の処理と意思決定というのは早く判断する部分と、情動で判断する部分と熟慮で判断する部分があるのですけれども、このレポートはかなりの熟慮がないと読み切れないし、これを出すときは、国民にとって安心だというように伝わらないのです。情動に訴える部分はなかなか難しいのですけれども、少なくともこの部会があることによって、いいかげんな検証は行われていないと、この部分だけは素早く、情動的にも理解できるように発信する必要があるのではないかと思いました。
以上です。
○関委員 きょう、坂本先生のお話を伺って、第三者の評価を入れるということがいかに年金制度の信頼性を高める上で大切かということを改めて実感しました。特にカナダの例で、カナダでは独立した委員会がピアレビューを行って、それをほかの国に評価してもらうというのは、すごいことをやっているなあと大変びっくりしました。
そこまでしなくても、もう少しピアレビューということを考えるほうが信頼性は高まるのかなと思いました。例えばパブリックコメントの形で財政検証に関する意見をもう少し詳細な意見という形で募集するというのはどうだろうかと少し思いました。そうすると、今まで、いかにより多くの人に理解してもらうかという話もありましたけれども、そこで出てきた意見の中に、この点が理解されていないとか、この点が問題と思われているのかということもわかることにつながるので、もう少しそういった外からの意見を、この数理部会でも取り入れて、それを見た上で、中で報告のあり方などを考えていくのも一つあるのかなと思いました。
全体としては、今、駒村委員の情動の話もありましたけれども、浅野委員がおっしゃったように、パブリシティーの専門家を入れるというのはお金がかかることではありますが、これは素人としては難しいことだと思うので、もしかしたら重要なのかなと思いました。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございます。
外国の例に倣うとすれば、ピアレビューにパブリックコメントをいただくというのもありかもしれませんけれども、それはそれとして、きょうの基調講演と、それから委員の議論をお聞きいただいて、最後に坂本先生から一言いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○坂本氏 今、先生方から、これからの年金数理部会のあり方ということで意見をいただいたわけですが、大事なところは全部含まれているように思います。その中で一番大事なのは、制度への信頼性を保つということに対する数理部会の役割について、何人かの先生が挙げられていましたけれども、やはりこれはあるのではないかと思います。そういう意味で、駒村先生が公認会計士のように判こを押さないということは言えないとおっしゃいましたけれども、そういう機能ではなくて、今回のこれについて、こういうことに気をつけるべきだとか、こういう点を改良すべきだというようなことを、このピアレビューで勧告して、それが次の財政検証のときに生かされているかどうか、そういう形で見ていくのが一つの実際的なやり方かなという感じもしたところです。やはり制度への信頼というものが一番重要なところだろうと思いますが、これは各先生方も一致している見方ではないかと感じたところです。
以上です。
○菊池部会長 ありがとうございました。
制度への信頼を確保するための年金数理部会の役割ということで、大きな宿題をいただいたと思っています。
以上、ちょうど時間となりましたので、本日の年金数理部会を閉じさせていただきます。
実は私もこの委員にならせていただいて以来、通常は毎年の報告書の完成に向けた作業に追われるだけで、なかなかこういう本質にかかわるような議論を委員の皆様と共有する機会がなかったので、そういう意味では今後の部会の活動に当たって非常に有意義な機会をいただいたと思っています。
きょうの議論も踏まえまして、来年なされる財政検証のピアレビューを当部会で行っていくということになります。
本日、会場にお集まりいただいた皆様方におかれましても、今後の年金数理部会の活動に、ぜひ注目していただければと存じます。
それでは、これを持ちまして、本日の部会を終了いたします。長時間にわたりまして、どうもありがとうございました。
                                                                                                    

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