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2019年6月13日 第9回「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」議事録

労働基準局労働関係法課

○日時

令和元年6月13日(木)11:00~13:00

 

○場所

厚生労働省共用第8会議室

○議題

・賃金等請求権の消滅時効の在り方について(意見交換)
・その他

○議事

○山川座長 まだ定刻より少し前ですが、委員の皆様方、おそろいですので、ただいまから第9回「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」を開催いたします。
委員の皆様方におかれましては、御多忙のところ、本日もお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
本日は、安藤至大委員、佐藤厚委員、水島郁子委員が御欠席です。森戸委員は、所用のため、12時ごろをめどに御退出される予定となっております。
本日の議題ですが、「賃金等請求権の消滅時効の在り方についての意見交換」となっておりますが、これまでの検討会での議論を踏まえまして、事務局に論点整理のための資料を用意してもらいました。本日は、この資料に基づいて、取りまとめに向けて議論をお願いしたいと考えております。
では、まず事務局から配付資料の確認をお願いします。
○坂本課長補佐 それでは、お配りしました資料の御確認をお願いいたします。
資料としましては、資料1種類と参考資料1種類でございまして、資料につきましては縦置きのものでございます。タイトルが「「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」論点の整理(案)」というものでございます。
参考資料につきましては横置きの紙でありまして、「消滅時効の在り方に関する検討の参考資料」でございます。
その他、座席表をお配りしておりますので、不足がございましたら事務局のほうまでお申しつけいただければと思います。
○山川座長 それでは、本日の進め方は、初めに事務局から資料の説明をお願いしまして、その後、取りまとめに向けた意見交換をお願いしたいと考えております。
では、早速ですが、事務局から資料の御説明をお願いします。
○坂本課長補佐 縦置きの右肩に「資料」という記載がある資料につきまして御説明申し上げます。こちらにつきましては、先ほど座長からも御紹介ありましたけれども、これまでの議論を踏まえまして、論点を整理した資料ということになっております。
1ページ目は目次でありまして、大きく分けますと、まず1ポツが「検討の経緯」でございます。2ポツが「労基法第115条に規定する賃金等請求権の消滅時効の在り方について」ということで、(1)で賃金等請求権の消滅時効の制度趣旨等について記載しておりまして、(2)は各論点についての検討の経緯をまとめさせていただいております。最後(3)は「見直しの時期、施行期日等」につきまして記載している形になっております。
それでは、1枚おめくりいただきまして、2ページをごらんください。
まず、「1.検討の経緯」でございますけれども、労働関係におけます賃金等請求権の消滅時効につきましては、民法に規定しております消滅時効関連規定の特則として設けられておりまして、具体的には労働基準法第115条という規定が適用されております。この規定に基づきまして、現行の労務管理とか裁判実務等が行われてきているという状況でございます。
民法につきましては、一昨年ですけれども、平成29年の通常国会におきまして民法等の一部を改正する法律が成立しておりまして、消滅時効の関連規定については大幅な見直しが行われているところでございます。
具体的な内容としましては、労働基準法115条が設けられる際に、その根拠となっております使用人の給与に関する短期消滅時効、これは民法の中では1年間と規定しているわけですけれども、この短期消滅時効の規定が廃止されるとともに、債権一般に係る消滅時効につきましては、まず①ですが、債権者が権利を行使することができると知ったとき、これを主観的起算点と呼んでおりまして、ここから5年間行使しないとき、または②の部分で、権利を行使することができるとき(客観的起算点)から10年間行使しないときは、時効によって消滅するという見直しが行われております。
こうした民法改正を踏まえまして、労基法の115条の規定をどうするかということにつきましては、改正民法が法案提出される前ですけれども、平成27年2月17日に労働政策審議会労働条件分科会において、民法改正の動向について厚労省事務局から一度報告を行っております。その際、労使双方の委員から、この賃金等請求権の消滅時効については、仮に見直すとなると実務的な影響が非常に大きいことから、必要な議論を尽くした上で結論を出す必要があるといった旨の御発言がありまして、最終的には、本検討会のことですけれども、専門家による多面的な検証を行った上で、労基法等の改正の議論が必要になれば、公労使三者構成の労働政策審議会の場で議論するということにされております。
その後、民法改正法案が提出されまして、少し時間がたちますけれども、平成29年6月に改正民法が成立したということでございます。そうしたことも踏まえまして、この労基法115条の在り方につきましては、本検討会を平成29年12月26日に設置しまして議論を進めさせていただいているところでございます。
この検討会におきましては、委員の先生方の議論に加えまして、労使団体の方ですとか労務実務に精通した弁護士の方、また諸外国の制度に精通する研究者の方にもヒアリングを行いながら、労働者保護の観点や取引の安全、改正民法の趣旨等を踏まえて検討を行ってきたところでございます。
次に、「2.労基法第115条に規定する賃金等請求権の消滅時効等の在り方について」という部分でございます。
まず(1)賃金等請求権の消滅時効の制度趣旨でございます。これは、若干これまでの説明の繰り返しになって恐縮ですけれども、まず①で、労働基準法第115条が設けられた趣旨を記載しております。これは条文の中身ですが、労基法に規定されています賃金等請求権につきましては、その規定によって2年間、これは退職手当については5年間ということですけれども、行わない場合は時効によって消滅するということにされております。この規定につきましては、昭和22年に労基法が制定されたときから記載されている規定でありまして、その考え方につきましては、その下のポツのような考え方とされております。
まず、1つ目のポツとしては、賃金の請求権については従来特別の規定がなく、多くの場合は民法第174条の規定、これは先ほど御紹介しました短期消滅時効ですが、そちらで1年ということになっておりましたが、本法、労基法では、適用労働者も広くなり、かつ賃金台帳の備えつけ等によって賃金債権も明確にされることになっておりますので、労働者の権利保護という観点と取引上の一般公益を調整するために消滅時効を2年としたという考え方でございます。
それから、もう一つ、別の本にも記載されておりますけれども、労働者にとっての重要な請求権の消滅時効期間が1年ということでは、その保護に欠ける点があり、さりとて10年、これは短期消滅時効ではない、民法の一般債権の消滅時効期間でございますが、10年ということになると、使用者には酷にすぎ取引安全に及ぼす影響も少なくないということを踏まえまして、当時、工場法という法律がありましたけれども、工場法の災害扶助の請求権の消滅時効にならい、2年としたという考え方を記載しております。
その下の※印の部分は、労基法第115条の対象となっている請求権でございます。それを条文ごとに記載しております。大きく分けますと、賃金等の請求権、災害補償関係の請求権、3つ目がその他の請求権ということで、ここは年次有給休暇の請求権等が含まれております。最後の部分は退職手当の請求権ということで、この部分については、先ほど御紹介したとおり、5年間の消滅時効ということになっております。
退職手当の消滅時効につきましては、その下の※印のところで改正の経緯を記載しておりますけれども、労基法制定時は、退職金につきましても賃金等請求権と同様に2年間ということにされておりましたけれども、退職手当というのは高額になる場合が通常でありまして、資金の調達ができないこと等を理由に、その支払いに時間がかかる場合があること。労使間において、退職手当の受給に関し争いが生じやすいこと。退職労働者の権利行使につきましては、定期賃金の支払いを求める場合に比べ、必ずしも容易であるとは言えないといった理由から、昭和62年に労働基準法を改正しまして、昭和63年4月から消滅時効は5年間ということになっております。
一番下の「また」以下でございますけれども、現行の労基法の消滅時効の起算点でございます。こちらは、条文上は特段明記されておりませんが、これまでの実務運用とか過去の裁判例等を踏まえますと、客観的起算点ということで、権利行使ができるときと解されているところでございます。
次に、1枚おめくりいただきまして、4ページをごらんください。起算点の続きでございますが、具体的に客観的起算点はいつなのかというものでございます。それが「注釈労働基準法」という本に記載されておりまして、後段の「したがって」以下ですけれども、賃金請求権についての客観的起算点は、それが具体化する各賃金支払期であるということで解釈されてきたところでございます。
次に、②に改正民法の説明を書いております。先ほどの説明と重複しますけれども、平成29年に成立した改正民法におきましては、まず使用人の給与等に関する短期消滅時効、これはほかの短期消滅時効も含めて、全て廃止されるとともに、主観的起算点から5年、又は客観的起算点から10年権利行使しないときは、時効によって権利が消滅するという改正がされております。
この考え方でございますけれども、改正の趣旨としましては、現代では合理性に乏しい短期消滅時効関係の規定を廃止しまして、時効期間の統一化・簡素化を図るといった趣旨であるとともに、短期消滅時効を単純に廃止するだけですと、現行民法を前提にすれば、単純に消滅時効期間が一律に10年ということで長期化してしまいますので、そうした負担にも配慮する観点で、新たに主観的起算点というものを設置しまして、主観的起算点がもしあるのであれば、そこから5年間ということで、新たに消滅時効期間が設定されたものでございます。
その下の※印におきましては、改正民法の国会審議における法務省の政府参考人の答弁を記載しております。主観的起算点の考え方でございますけれども、2段落目の「このような」という段落で、このような趣旨からしますと、債権者が権利を行使することができることを知った、これは主観的起算点でございますが、ということを言うためには、権利行使を期待されてもやむを得ない程度に権利の発生原因などを認識していることが必要であると考えられる。具体的には、権利の発生原因についての認識のほか、権利行使の相手方である債務者を認識することが必要であると考えられるという答弁がなされております。
それから、③は諸外国における制度の御紹介でございます。本検討会の第3回におきまして、フランス、ドイツ、イギリスの3カ国の制度につきまして有識者からヒアリングを行っております。その結果につきまして、5ページ以降、少しまとめております。
まず、一番上ですけれども、フランスの仕組みでございます。フランスにおきましては、一般債権の消滅時効については民法に規定されておりまして、もともと30年という期間でしたけれども、2008年の改正において、原則5年間という形で訴権が消滅するという形になっております。フランスの場合、賃金については、我が国と似たような形ですけれども、民法の特則として労働法において別の規定がされておりまして、こちらにつきましては、従来5年だったものが2013年の改正で3年ということになっております。なので、一般債権については原則5年、賃金債権については原則3年という形になっております。
次に、ドイツでございますけれども、ドイツにつきましてはフランスと少し形が異なっておりまして、賃金債権の特例というものは設けられていないという形になります。このため、一般債権と同様に、賃金債権も含めまして、民法が適用されるという形でありますけれども、もともとその期間につきましては30年という形になっていたものが、2002年の法改正によって、主観的起算点から3年間、客観的起算点から10年間ということで、今回の改正民法のような形になったということでございます。
ただし書き以下で書いてあるものは、民法の規定は先ほど御紹介したとおりでありますけれども、ドイツの場合は、労働協約の中で除斥期間という形で、さらに労使で特別の定めをする。それによれば、客観的起算点で2~6カ月という訴権の消滅が設定されていることが一般的であるというお話がありました。
※印の部分につきましては、本検討会でも御指摘ありましたけれども、日本の場合にそういったドイツのようなことができるのかという問題でありますけれども、日本の場合、労働基準法13条という規定がありまして、労基法で定める基準に達しない労働条件を定める契約というものは、その部分については無効となって、無効となった部分は労基法で定める基準によることとされておりますので、こういった規定の関係にも留意が必要であると考えております。
次に、イギリスでございますけれども、イギリスにつきましてもドイツと同様に賃金債権の特例というものは設けられていないことになります。一般債権と同様になっておりますが、争い方によって適用される法律が違うということで、やや複雑です。
まず、①、契約関係訴訟ということで賃金請求を争うということであれば、出訴期限法という法律がありまして、こちらは客観的起算点から6年間という形で訴権消滅が定められております。
それから、別に制定法上の申立てという形でも訴えを提起することが可能でありまして、②のほうであれば、各制定法において出訴期限が定められているということになります。賃金につきましては、雇用権利法という制定法上の申立として、客観的起算点から3カ月という形で出訴期限が定められていることになっております。
なお書きの部分は、少し細かい話ですけれども、賃金未払いが複数回継続しているという場合につきましては、最後の未払いのところから3カ月間という出訴制限が定められている。例えば、それで細切れで未払いがなされているような場合、その未払いが一体のものなのか、それとも別のものなのかという判断につきましては、その未払いと未払いの間に3カ月以上の期間があるかどうかというところで判断しまして、絶対的な遡求期間ということで、最終的に遡れる期間については2年間が上限とされております。
諸外国につきましてはこういった形になっておりまして、次に(2)各論点についての検討ということで、①は検討の前提の部分を記載しております。ここは、労基法と民法の関係についての考え方を記載しております。
まず、5ページの一番下の1つ目のポツですけれども、民法改正は今回の検討の契機ではありますけれども、あくまで民法と労基法というのは別個のものとして位置づけた上で、労基法上の消滅時効関連規定については民法と異ならせることの合理性を議論していけばよく、仮に特別の事情に鑑みて労基法の賃金等請求権の消滅時効期間を民法よりも短くすることに合理性があるということであれば、短くすることもあり得るという考え方でございます。
それから、2つ目のポツは少し異なる考え方でありまして、民法より短い消滅時効期間を、労働者保護を旨とする労基法に設定することは問題であるという考え方でございます。
ただし書きで書いておりますのは、後者で、民法より短い消滅時効期間を労基法に定めることが問題なのかどうかということですけれども、こういう観点から問題となるのは賃金の請求権のみである。具体的には、先ほど申し上げましたとおり、賃金の請求権につきましては、民法では1年とされているところを、労働基準法において2年としている形でございますけれども、その下に書いておりますけれども、例えばその他の請求権ということで、退職手当の請求権とか災害補償の請求権といったものにつきましては、民法の原則を当てはめると10年の消滅時効期間になるところを、一律に労基法のほうでは2年という形にしております。
ですので、そうしたことも考慮しますと、まずは賃金請求権の消滅時効期間について、民法と異ならせることの合理性があるのかどうかということを検討した上で、その後、その他の請求権について取扱いが妥当かということを検討していく必要があるということを記載しております。
②の部分は、賃金等請求権の消滅時効の起算点でございますけれども、先ほど説明したとおり現行の取扱いとしては客観的起算点ということで、これまで運用してきました。今回、民法のほうで新たに主観的起算点というものが新設されましたので、そうしたことも踏まえて労基法についてどう考えるかという問題でございます。
まず、1行目で、賃金請求権につきましては、主観的起算点と客観的起算点というものが基本的には一致していると考えられるということを記載しております。これは、例えば先ほど文献を御紹介したとおり、賃金請求権の起算点については、各賃金支払期ということで今、解釈されておりますが、この賃金をいつ支払うかということにつきましては、労働基準法15条等の規定によりまして、使用者が労働者に対して明示しなければいけない労働条件の明示事項として規定されております。そういうことを踏まえますと、労働者としては、当然その明示を受けているわけですので、各賃金支払期というのは当然に知り得ているであろうと考えられるところであります。
こうしたことを考えると、基本的には労働者が主観的起算点として権利行使ができると知っているときと、客観的に権利行使ができるときというのは、賃金請求権の場合は一致するのではないかと考えております。
その下は、そうは言いながらも、賃金請求権の消滅時効の起算点の問題については、例えば管理監督者として扱われていた労働者の方、これは割増賃金等も適用除外になるわけですけれども、そうした方が事後的に裁判等によって、その地位が否定されて、使用者が労働者に対して、過去にさかのぼって割増賃金の未払い分を払うというケースが実際にもあり得るわけですけれども、そうした場合は、もしかすると客観的起算点と主観的起算点はずれるのではないかというところが懸念としてはございます。
この点につきましては、仮に新たに主観的起算点を設けるとした場合には、場合によっては、労働者が裁判等によって、より多くの未払金を請求することが可能となるという考え方もある一方で、その下の2つのポツですけれども、こうした管理監督者等の適用の問題につきましては、消滅事項という形で救済するのではなくて、それぞれの制度の中で解決を図るべき問題ではないかという御意見もございました。
それから、主観的起算点というものは、今回、改正民法で新たに創設したものでありまして、実際、どういうときがそれに当たるのかというものにつきましては、今後の裁判例の蓄積等に委ねられているということも踏まえますと、かえって現場において混乱を来すおそれですとか、労働者にとってもいつが主観的起算点に当たるのかということがわかりにくくなって、逆に新たな紛争が生じるおそれがあるという課題もあるのではないかという御意見も出ておりました。
続いて、7ページでございます。先ほどの文章の続きですけれども、そうした課題があるということも踏まえまして、賃金請求権の起算点につきましては、労働政策審議会で速やかに議論を行うべきという記載をしております。
それから、③は賃金請求権の消滅時効の期間でございます。こちらにつきまして、これまでのヒアリングとか御議論で出た御意見を順次まとめております。細かいところも含めまして、少し御紹介させていただきますと、1つ目のところは、労働審判や労働関係訴訟において賃金等の請求に関する事案の割合は、全体の半数以上を占めている。また、労働基準監督官による未払賃金関係の是正状況も高どまりしている状況という意見でございます。
それから、その次でございますけれども、3年間病気休職をした後に解雇されたケースを想定されますと、解雇後に休業期間中の未払賃金を請求することもケースによってはあり得るわけですが、そうしますと、3年間休んでいますので、2年よりも昔の給料につきましては、未払賃金が時効によって消滅してしまっているというのは問題があるのではないかということでございます。
次は、適切な紛争解決期間を探しているうちに賃金債権の一部が消滅時効を迎えてしまうということで、実際に労働組合が未組織の事業所における労働者にそうした状況が見られるという御意見でございます。
次に、未払賃金につきましては、台帳にある賃金を払っていたとしても、実際に訴訟になった場合には、台帳に記載されていない部分について、当事者の証言等が必要になることが多く、企業側の立証が困難だという御意見でございます。
次は、文書の保存の関係でありまして、仮に消滅時効期間を見直した場合には、企業においては一定のシステム改修等が発生するとともに、文書の保存期間も延長されるということであれば、その文書の保管コストの負担が大きくなるのではないか。特に、経営基盤の弱い小規模事業者にとっては過大な負担だという御意見でございます。
その下は、それとやや異なる御意見でございますけれども、今、文書の保存期間は3年ですが、これを5年にしますと、単純計算では約1.6倍ということでございますが、それに伴う負担増というのは、保管の実態にもよるけれども、保存期間の延長を躊躇すべき理由として挙げられるほどのものなのかという御意見が出ておりました。
それから、その下でございますけれども、未払賃金に関して実際に争点になるのは、ある業務について指揮命令があったかどうか、その時間が労働時間かどうかという点でありまして、こうしたものにつきましては、当該期間の業務指示の有無について、そのときの上司に確認する必要があるという御意見です。ただ、人事異動とか退職等で確認が困難な場合が多く、正確な記録確認というのは、消滅時効期間が延びるほどに困難になるのではないかという御意見でございます。
それから、企業再編が活発になっておりますので、例えばシステムの統合の問題ですとか、あと従業員IDのようなものも、労働者の入れかわりが激しい業種においては、一定期間経過すると同じIDを使う場合があるようでありまして、そうしたことによる負担が大きいという御意見でございます。
それから、記録の保存のところでございますが、今回の改正民法におきましては、短期消滅時効が一律に廃止されておりますので、もともと短期消滅時効の対象になっていた運送賃とか宿泊料というものも、民法の一般原則が適用されるという形になっております。そうなると、それについても膨大な記録が必要になるけれども、各事業者から負担軽減のために短期消滅時効を残すべきだという意見は出ていない。そうした状況で、労働分野に限って負担が重くなるというのはおかしいのではないかという御意見でございます。
その下につきましては、事業主がさまざまな資料をITを活用して保管できないというのは、今の時代には通用しないのではないかという御意見でございます。
次のイの部分は、消滅時効の期間に関する御意見でございます。
まず、1つ目は、民法よりも短い消滅時効期間を労働者保護を旨とする労基法に設定することは、労働条件の最低基準を定める労基法の基本的性格を変質させることになるのではないかという御意見でございます。
2つ目でございますけれども、これは労働契約に該当しない請負ですとか、労基法の適用対象とならない家事使用人等との雇用契約ということで、その場合、民法が適用されるわけですが、そうしたものと労基法の賃金等請求権の消滅時効期間につきましても整合性を図る必要があるのではないかという御意見でございます。
それから、3つ目につきましては、仮に賃金等請求権の消滅期間を5年より短縮するということであれば、使用者における懲戒ができる権利、解雇ができる権利というものの権利行使期間についても、あわせて限定しなければ均衡がとれないのではないかという御意見でございます。
その次は、労基法115条の在り方につきましては、社会的弱者の保護等を念頭に置いて検討されなければならず、労基法に違反した使用者に消滅時効による賃金支払義務の消滅という利益を付与する合理性は見当たらないのではないかということでございます。
その次でございますけれども、賃金債権の特徴というものは、本来、法律に基づいて適正に支払いをしていれば、特に問題にならないのではないかという御意見でございます。
ちょっと長くなって恐縮ですが、次の御意見は、消滅時効期間が延長されることによって、労務管理等の企業実務も変わらざるを得ず、実際にはトラブルが起きないように指揮命令の方法も変わって、それが紛争の抑制に資するのではないかという御意見でございます。
次は、諸外国との関係でございますけれども、先ほど御紹介したとおり、諸外国の場合は、賃金については民法よりも短い出訴制限期間というものが設定されているわけでございますけれども、欧州諸国におきましては、そもそも個別紛争の件数も多くなっておりますし、国ごとに紛争解決機関の状況も異なっているというところがありますので、そういったものとの違いというのも考慮する必要があるのではないかという御意見でございます。
その下につきましては、現行の賃金請求権の消滅時効期間が2年で特段の問題は生じていないので、現行の維持をすべきではないかという御意見でございます。
次は、賃金は毎月支払いが必要になってきますし、企業によっては月に数百人という単位で給与を支払うということですので、そういう債権の特殊性というものも十分踏まえる必要があるという御意見でございます。
最後の2つですが、上のほうは、労基法は刑罰法規という側面も有しておりますので、民法の消滅時効関連規定が改正されたからといって、必ずしも労基法をそれに連動させる必要はないのではないかという御意見でございます。
一番最後は、それとはまたちょっと異なる御意見でございますが、仮に労基法が刑事的な制裁を科しているという性格を有しているからといって、労基法の消滅時効期間について民法よりも短くしなければならないということは、必ずしも合理的ではないという御意見も出ております。
その下のなお書きの部分ですが、説明が少し重複するところがありますので、やや割愛しますけれども、諸外国との比較で見たときに、最初に書いておりますけれども、未払賃金の発生状況や、賃金を初めとする労働条件に関する民事紛争の状況ですとか、解雇訴訟につきましても、諸外国の場合は一定の出訴制限期間というものが設けられている場合もありまして、そうした労働関係紛争の解決システムの在り方の違いもありますし、集団的労使関係をめぐるルールの在り方など、広い意味での雇用システムの実情に応じた取扱いというのが異なるということでございます。
その下にドイツのことも記載しておりますが、「これは」という最後の部分ですが、ドイツにおいては、憲法で労働組合の協約自治というものが保障されているというドイツ特有の事情が影響していることも考えられるのではないかということを記載しております。
「以上のことから」という部分でございますけれども、諸外国との比較につきましては、個別紛争の件数の違いですとか、紛争解決機関の状況も異なっておりますので、日本の制度を検討するに当たっては、紛争解決機関に申立てる容易性ですとか、各国との事情の違い等も考慮して検討する必要があると考えられるという記載をしております。
それから、段落が分かれまして、そうしたことも踏まえまして、賃金請求権の消滅時効の在り方を検討するに当たりましては、賃金請求権の性質について留意する必要があるということを記載しております。賃金請求権は、国民生活にとって極めて重要な債権でありまして、そうしたことから賃金全額払いの原則等の規制が設けられていることに鑑みても、その保護の必要性が高く、それゆえに消滅時効についても、民法とは別の規定が労基法に設けられたという考え方を記載しております。
「一方で」以下は、また別の特殊性でありますけれども、賃金請求権は、業種を問わず、労働者を雇用する全ての企業に共通して関係する債権である。また、労働契約という継続的な契約関係に基づきまして、大量かつ日々定期的に発生するという特徴を有しますので、労働者、使用者それぞれにおいて、異なる意味で、その特殊性が高い債権であることが考えられるということを記載しております。
大分長くなりましたけれども、「以上を踏まえると」ということで、最後、結論の部分ですが、賃金請求権の消滅時効期間については、1つ目のポツで、労基法第115条の消滅時効期間については、労基法制定時に民法の短期消滅時効の1年では労働者保護に欠ける。こうしたことも踏まえて2年とした経緯がありますけれども、今回、短期消滅時効が廃止されておりますので、改めてその合理性を検証する必要があるということが1つ目でございます。
2つ目は、現行の2年間の消滅時効期間のもとでは、未払賃金を請求したくてもできないまま消滅時効が成立してしまうという問題もあると考えられること。
3つ目は、仮に消滅時効期間が延長されれば、労務管理等の企業実務も変わって、紛争の抑制に資する可能性があるということなどを踏まえますと、仮に賃金請求権の特殊性を踏まえたとしても、現行の労働基準法上の賃金請求権の消滅時効期間を、将来にわたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないかと考えられるという記載でございます。
「なお」の部分でございますが、この検討会の御議論の中では、例えば改正民法の契約に基づく債権と同様に、賃金請求権の消滅時効期間を5年にしてはどうかという御意見もあったところでございますけれども、実際、この検討会でヒアリングを行った際の労使の意見に隔たりが大きい状況も踏まえ、また消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていること。それから、大量かつ定期的に発生するといった賃金債権の特殊性に加えまして、労働時間管理の実態やその在り方、仮に消滅時効期間を見直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間につきましては、速やかに労働政策審議会で検討し、労使の議論を踏まえて一定の結論を出すべきであるという規定でございます。
それから、④に行きまして、先ほどまで賃金請求権の消滅時効期間でしたが、賃金請求権以外の消滅時効期間でございます。ここにつきましては、基本的には賃金請求権等の結論に合わせて措置を講ずることが適当と記載しつつ、年次有給休暇と災害補償請求権については、以下の点に特に留意が必要であり、これを踏まえて速やかに労働政策審議会で検討することが適当であるという記載でございます。
まず、年次有給休暇につきましては、この検討会でも何度か御議論いただきましたけれども、基本的には、年休については、それが発生した年の中で取得するということが想定されておりますので、仮に取得できる期間を延長させることになりますと、年次有給休暇の取得率の向上という政策の方向性には逆行するおそれがあるのではないか。こうした考え方につきましては、この検討会における御議論ですとかヒアリング等を踏まえましても、必ずしも賃金請求権と同様の取扱いを行う必要性がないという考え方で、おおむね意見の一致が見られるところであるという記載をしております。
それから、イの災害補償請求権でございますけれども、仮に労基法上の災害補償請求権というものを見直す場合には、今、労基法の中では、労災保険で支払いをした場合には、使用者の災害補償責任を免れるという形で規定があるわけですけれども、こうした労災補償の消滅時効の取扱いをどのように考えるかという問題も生じますし、さらに、その場合に、他の労働保険とか社会保険の給付との関係、併給調整についても、どう考えるかといった課題があると考えております。
この点に関しましては、仮に労基法の災害補償請求権の消滅時効期間を見直した場合に、労災保険の短期給付の消滅時効期間についても、あわせて見直しを行わないと、労災のほうは、例えば短期で2年で時効のまま、労基法の災害補償請求権のほうがさらに長いということになりますと、その2年を超えた部分につきましては使用者に直接責任が生ずるということで、ここは混乱を招くおそれがあるということで、留意が必要だという記載をしております。
次に、なお書きの部分ですけれども、これは労基法の災害補償請求権と、調整規定が置かれております民法の損害賠償請求権の比較でありますけれども、災害補償のほうは労基法で規定されておりますけれども、使用者は無過失責任を負うことになっております。一方で、民法の場合につきましては、これは不法行為であれば、今、主観的起算点から3年で、改正後の民法では、人の生命または身体を害する不法行為は5年とされておりますけれども、民法のほうは加害者の故意・過失ということで、使用者の故意・過失が要件とされております。災害補償請求権の消滅時効期間の検討に当たりましては、法律関係の早期確定という観点からも、このような規定の関連性についても留意する必要があるという記載をしております。
次に、⑤記録の保存でございますけれども、こちらは労基法の第109条で、労働者名簿とか賃金台帳の記録の保存については3年間という記載がなされております。この規定につきましては、紛争解決の観点とか監督上の必要性という観点から設けられておりまして、義務に違反した場合には、罰金ですけれども、使用者に対する罰則というものが規定されております。
記録の保存について検討するに当たりましては、刑事訴訟法に規定しております公訴時効、罰金の場合は3年間ですけれども、公訴時効との関係ですとか、記録の保存年限の規定の趣旨、仮に見直すとした場合の企業における影響やコスト等も踏まえて、賃金請求権の在り方とあわせて検討が必要だという記載をしております。
それから、⑥の付加金でありますけれども、付加金につきましては労基法第114条に規定がありまして、割増賃金等を払わない使用者に対して、違反のあったときから2年間ですけれども、労働者が請求すれば、未払金のほか、これと同一額の付加金、すなわち最大で未払金の2倍までの金額の支払いを裁判所が命ずることができるという規定でございます。この規定の趣旨につきましては、所定の違反に対する一種の制裁として、未払金の支払いを確保するということですとか、私人である労働者の権利の実現を促進することによって、私人による訴訟の持つ抑止力を強化するといった考え方がなされているところであります。
その次ですけれども、条文上は、裁判上の請求期間の起算点は違反のあったときとされておりますので、賃金と同様に客観的起算点ということで、これまで解釈されてきているところであります。
この付加金の支払規定につきましても、賃金請求権の消滅時効規定と連動したものと位置づけられておりますので、また、未払金の支払いを間接的に促すという仕組みであることを踏まえますと、裁判所の請求期間は、賃金請求権の消滅時効期間とあわせて検討することが適当という記載をしております。
最後、(3)見直しの時期、施行期日でございます。仮に労基法115条の規定の見直しを行うという場合には、改正民法の施行期日も念頭に置きつつ、一方で、働き方改革法が本年ないし来年以降も順次施行していくわけでございますけれども、そうしたものに伴う企業の労務管理の負担というものも一層増大してくるという御意見もありましたので、こうした実態も踏まえ、見直しの時期ですとか施行期日につきましても、速やかに労働政策審議会で検討すべきであるという記載でございます。
それから、これまで経過措置として御議論いただいておりましたけれども、仮に労基法115条を改正するとした場合に、その改正法につきましては、改正後のどのような債権から適用するのかという問題でございます。これも従前からお示ししておりますが、①、②ということで、①のほうは、民法改正の経過措置と同様に、労働契約の締結日がいつかということで、それを基準に考える方法。②は、賃金等請求権の特殊性なども踏まえまして、賃金等の債権の発生日を基準に考える方法のいずれかが考えられるのではないかというところでございます。
仮に①をとった場合につきましては、労働者ごとに改正前の規定か改正後の規定かということは、ある意味契約の締結日で明確になるという一方で、②については、契約の締結日がいつであるかにかかわらず、賃金の発生が改正法の施行の前か後かということで見分けをするということでございます。
「例えば」のところで記載しておりますのは、施行日前に月給制で無期の労働契約を締結されている方を念頭に考えますと、①の経過措置の場合は、仮に改正前に労働契約を締結していれば、相当な期間は旧規定ということで、2年間の消滅時効で運用されますけれども、②の場合は、施行日後に発生している賃金については5年、施行日前に発生している賃金については2年という形で区分けがなされていくことになります。
この経過措置につきましても、改正法の対象となる労働者の範囲や企業の労務管理に大きな影響を及ぼすものでありますので、その在り方について、速やかに労働政策審議会において検討すべきであるという記載をしております。
済みません、ちょっと長くなりましたけれども、説明は以上でございます。
○山川座長 ありがとうございました。
それでは、これまでの検討会での議論等を踏まえまして、ただいまの論点整理(案)について、委員の皆様から御質問、御意見等がありましたら御発言をお願いいたします。
森戸委員、どうぞ。
○森戸委員 済みません、先に失礼しますので、早目に言っておきます。全部コメントです。
1つ目は、労政審で速やかに議論をしろということがいっぱい、全部それで終わっていて、それでいいのでしょうけれども、労政審の側からすると、そういうものをこっちで議論してもらおうと思って、こっちに送ったのに、全部労政審で速やかにやれと言うのかと言われる気もするので、私、労政審には関係ないので、そこをフォローじゃないですけれども、上の審議会にちゃんと説明していただければと思います。それが1つ。
あとはもうちょっと中身ですが、三つ四つあるのですけれども、1つ目は、6ページの上のほうでは、賃金請求権の消滅時効期間について、民法と異ならせることの合理性があるかどうかを検討して、それからと書いてあって、下のほうの②消滅時効の起算点のところでは、今の労基法は民法と客観的起算点を統一しているけれども、起算点については、民法と異ならせることの合理性があるかどうかは検討しろということは書いていないので、そこは別にそれでいいですという趣旨なのかということが1つ目、質問というか、確認です。
全部言ってしまいますけれども、それから、10ページで結論というか、方向を示したところで、いろいろ考えると、現行の2年を維持する合理性は乏しく、権利を拡充する方向で見直しが必要ではないか。しかし、その後で、なお5年という意見もあるが、それについてもいろいろな意見があるというまとめ方なので、これは結局、2年は短いけれども、といって5年に当然しろというわけでもないよという趣旨だから、そうすると、あと3と4しか残っていないのですけれども、その辺も含めて検討しろという趣旨でよいのかということが2点目です。
それから、3つ目は、賃金等請求権で賃金の話が一番重要ですねという話で、④で賃金請求権以外で年休、災害補償が挙がっていて、途中の説明にはあったのですけれども、退職手当のことには特に触れていないわけですね。だから、退職手当というのは賃金請求権以外なのか、もちろん賃金のほうが変われば、退職手当もそっちに吸収されるのかもしれませんが、そこについては、こちらでどういう話になって、労政審で何を議論してほしいかということは特に書いていないので、どういうふうに理解したらいいのかというのが3点目。
最後ですが、全体にかかわりますが、速やかに労政審で議論してほしいということで、労政審に上がっていくのでしょうけれども、時期的に考えても、来年、民法施行で、労政審でまとまるかどうかもわからないし、まとまったとしても、ここにも書いてあるように、施行まで法制の準備もそうだし、実務の準備も大変だろうということになると、可能性として、改正民法が施行されたけれども、労基法のほうは、少なくともしばらくそのままという感じでスタートする可能性があるのではないかと思います。
確認ですけれども、その場合は、要するに今のまま。時効2年、現行の労基法の賃金請求権に関する取扱いがそのまま継続して、民法改正で特に変わらないという理解でいいのか。実務上はそこも関心が非常にあると思いますので、一応確認しておこうかなと思いました。
いっぱいあって済みませんが、よろしくお願いいたします。以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
最初の点は、所感というか、コメントということであるかと思いますが、4点御質問いただきましたけれども、事務局から何かございますか。
○坂本課長補佐 まず、冒頭いただきました労政審の議論につきましては、こちらとしても丁寧に説明していきたいと思っております。
それから、御質問4点あるかと思いますが、まず1点目で、6ページの賃金請求権の起算点の部分で、民法と異ならせることについて検討が必要なのではないかという御意見で、こちらにつきまして、事務局の認識としましては、民法では、今回新たに主観的起算点というものを設定したわけでありますけれども、民法の主観的・客観的起算点と対象となる債権というのは、一般債権全体ですので、かなり種類があります。そういった意味で、主観と客観がずれる場合もあり得るということで、恐らく主観的起算点というものを設定しているものと考えております。
労基法のほうにつきましては、この6ページの②に記載しておりますとおり、基本的には主観的起算点と客観的起算点というものはずれないということで考えておりますので、そういう意味では、書き方はもう少し工夫が必要かもしれませんが、労基法の115条につきましては、客観的起算点に統一するという形で民法との違いというものを考えることもできるのではないかと思っております。
それから、2点目の御指摘は10ページの部分かと思いますけれども、具体的な消滅時効期間の年数のところでありまして、2年の部分を将来的に維持する合理性が乏しいと記載して、あと、5年としてはどうかという意見もあったが、最終的には労政審と記載されていることの考え方でございます。
これは、事務局の認識としましては、まさに今の2年という規定、それから改正民法を踏まえますと、契約上の債権というのは一般的には5年という消滅時効期間でありますけれども、そうした具体的な期間の在り方、先生がおっしゃったように、3年なのか、4年なのかというのも排除する趣旨では当然ありませんので、そうした点も含めて、実際に何年がいいのかというところを、まさに労働政策審議会のほうで御議論いただければと考えております。
それから、3点目の退職手当の消滅時効期間でございますけれども、こちらにつきましては、先ほど御説明したとおり、昭和62年の改正で5年間ということになっております。記載が少し不十分だったかもしれませんが、今の5年間につきましても、改めて検討する必要があるのか、または5年ということでも妥当性はあるのではないかという御意見をもしいただけましたら、報告書のほうにも記載することを検討させていただきたいと思います。
それから、4つ目の御指摘でございますけれども、仮に労基法の改正というものを来年4月までに行わなかった場合に、賃金等請求権の消滅時効期間については何法が適用されるのかという問題でございます。建付としましては、労働基準法は民法の特別法という位置づけになっておりまして、特別法であるがゆえに民法に優先して適用されるという形でございます。なので、御質問の点につきましては、仮に労基法につきまして、来年4月までに特段措置を講じなかった場合につきましては、改正民法が施行されて一般債権は5年、10年という消滅時効期間になりますけれども、賃金につきましては、労基法のほうが優先的に適用されて、現行の2年間という消滅時効期間が維持されることになると考えております。
以上でございます。
○山川座長 森戸委員、何かよろしいですか。
○森戸委員 大丈夫です。
○山川座長 ほかにいかがでしょうか。
○鹿野委員 従来の議論をまとめていただいて、ありがとうございます。
私から3点ほど申し上げたいことがあります。
1つ目と2つ目は、6ページにかかわるところですが、②の賃金等請求権の消滅時効の起算点についての3段落目に、「この点については、仮に新たに主観的起算点を設けることとした場合・・」と書いてあるのですが、もちろん、どっちに、どういうふうに有利になるかということは、起算点だけの問題ではなくて、期間とあわせて、どのように作用するのかということが決まってくるので、その点に誤解のないようにお願いします。この文章を改めるべきだとまでは私は申しませんけれども、それを明らかにさせていただいたほうがいいのではないかと思います。
ここでの流れとしては、先ほどの10ページにも記載がありましたとおり、この検討会の中では、客観的起算点から5年ぐらいという方向での意見がかなり強く出ていたわけです。それに対し、客観的起算点と主観的起算点が若干ずれることがあるかもしれないということ、例えばということで、6ページにある名ばかり管理職というのですか、そういう事例などを想定すると、もしかしたらずれることがあるかもしれないということ。そのときには、比較の対象として、客観的起算点から5年ということと、主観的起算点から5年ということを比べた場合には、主観的起算点から5年のほうが長くなる可能性がありますねという話だったのだろうと思います。
しかし、「主観的起算点を新たに設ける」ということが、例えば客観的起算点から5年をとったうえで、新たに主観的起算点から3年の期間を設けるとすると、もちろんそれにより、早く時効完成が来てしまう。しかも、多くの場合には、主観的起算点と客観的起算点が一致しているというのが通常の契約上の債権ということになりますから、そういうことになると、この例では通常は3年ですねということに結論的にはなるわけなのです。そのように、期間と起算点というものの組み合わせをどうするかによって決まってくるものだということを、誤解のないように表現していただいたほうがよかったかもしれないし、少なくともそれを説明していただきたいと思った次第です。
2点目は、同じ6ページですが、客観的起算点は、確かに一般的には権利行使についての法律上の障害がなくなった時ということで、例えば債権が発生して弁済期が到来したら、そこが起算点となるということなのですが、前にも御報告しましたが、判例でも、場合によっては、法律上の障害がなくなっても、権利行使の現実的な期待可能性がなおないという場合に、権利行使の期待可能性という観点から、もっと遅い時期を客観的起算点と認めたものもあるわけでございます。だから、客観的起算点ということをとった場合に、必ずしもそういう柔軟性が全くなくなるわけではないと思います。
ただ、ここで例に挙げられているところの名ばかり管理職の場合にどうなるのかということについては、少なくとも民法的には議論が従来なかったし、恐らく判例も出ていないので、それがどうなるのかというのはわかりませんけれども、少なくとも客観的起算点の認識として、それを確認しておきたいと思います。
それから、3点目ですが、これは先ほど森戸委員がおっしゃったこととも関連するのですが、いよいよ改正民法の施行が来年4月1日ということになりました。この検討会も、そこにできれば間に合わせるような形でと考えてきましたし、あるいは、最後のほうでは、この労基法をどうするかということにつき、法改正して施行するということまで考えると、この時期を一致させることはできないかもしれないけれども、少なくとも改正民法が施行されるときまでに、これがどうなるのかということは明らかにしておく必要があるのではないかということで検討してきたと思います。
ということで、最後の点はお願いということになりますが、できるだけその点を考えて、混乱のないように速やかに議論を進めていただければと思います。
以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
事務局からは何かございますか。要望の点も含まれていたかと思いますが、どうぞ。
○長良課長 3点目の先生の御意見につきましては、今後、労政審などでもそのような形で方向性を明らかにするよう努力していきたいと思っております。引き続き、そこは労政審の場でしっかりやっていきたいと思います。
○山川座長 鹿野委員、よろしいでしょうか。ほかに何か。
ほかにいかがでしょうか。これまでの御意見あるいは説明から、さらに触発された点等ございましたら。よろしいでしょうか。
どうぞ。
○坂本課長補佐 先ほど森戸先生から御指摘いただきました退職手当の消滅時効期間ですけれども、こちらは現行法で5年ということにされていますけれども、何か変更の必要性とか、そういったことについて御意見等ありましたら、教えていただければと思います。
○山川座長 退職金5年という現行法について、何か改正等の御意見があるかどうかということですが、いかがでしょうか。
○森戸委員 検討会のきょうのものも、いろいろな意見が出たものを事務局で一生懸命まとめていただいたものですね。退職手当については、何となく意見も言ったような気がしないでもないけれども、そんなに明確な意見は委員から今までなかったということですか。もしくは、事務局として独自の論点にもしていなかったのかもしれないですけれどもね。
○山川座長 長良課長、どうぞ。
○長良課長 退職手当は、議論の中で若干言及はございましたので、そういった点を少し整理して考えてみたいとは思います。
ただ、実は、論点の流れの中では、賃金の請求権を検討するときに、確認のような形で退職金の5年の話が出てきたような状況でしたので、とりたてて一つの項目として退職金の在り方についての議論は余りなかったということでございます。これについて、特に時効期間の変更が必要であるという御意見はなかったように認識しておりますので、基本的には、この検討会としてまとめるのであれば、そのような形になるのかなと思っております。
○森戸委員 要は、賃金のほうが何年になるのかという話が先だから、こっちの話に余り行けなかったのだと思うのです。ただ、流れとしては、こういう趣旨で今あるが、賃金のほうが変われば退職金のほうもそれにあわせて検討していかなければいけないという、当たり前ですけれども、そういうことがどこかにあってもいいのかなと。結局、それも労政審でやってねという話になると思いますけれども、最低限でいいですけれども、今のような。結局、賃金のほうが何年になるかということを切り離せない話だと思いますので、その上でこの退職手当のかつての趣旨がどうかということをあわせて検討しなければいけないということだと思います。そういう趣旨だと思いますけれどもね。
○山川座長 それでは、議論の状況をもう一度確認した上で、加筆できるかどうか検討していただけるでしょうか。
ほかはいかがでしょうか。何かございましたら。特にございませんでしょうか。先ほどの森戸委員の最初のコメントの点は、本検討会の趣旨は、開催要綱では、法技術的・実務的な論点整理を行うということになっていましたが、関係者の皆様の御意見を種々伺う過程で、政策的な点についての御意見も伺えましたので、それを踏まえてということではありますけれども、今回の論点整理にありますように、労基法制定時には民法の1年という短期消滅時効を前提に、それでは労働者保護に欠けるということで、現行法の規定になった。
その前提が変わっているので、改めて検討するという流れであったかと思いますので、最終的な政策判断は労政審でという位置づけになり、そのための政策的な御意見も含めて、検討材料をこちらで出していくということかなと、途中から参加したのですけれども、私としては考えているところであります。
委員の方々、特になければ、事務局から何かございますか。よろしいでしょうか。
では、本日の議論で御意見は出尽くしたと考えられますので、この論点整理(案)につきましては、本日いただいた御意見、御質問等を踏まえて適宜加筆・修正することとしたいと思います。修正の中身につきましては、最終的には座長であります私と、あとは事務局にお任せいただくという形でよろしいでしょうか。
(「異議なし」と声あり)
○山川座長 ありがとうございます。
では、本件に関する議論はここで終了とさせていただきます。これまでの議論を踏まえまして、労働基準局長から一言御挨拶がございます。
○坂口局長 それでは、一言御挨拶申し上げます。
委員の皆様には、一昨年の12月から約1年半にわたりまして、有識者の方あるいは労使関係団体へのヒアリングを含めまして、大変御丁寧に御議論いただきまして、まことにありがとうございました。私ども事務局といたしましても、この賃金等請求権の消滅時効の在り方につきまして、幅広く多角的な観点から委員の皆様のお知恵をいただくことができたと考えております。
今後につきましては、今、座長のほうからもございましたけれども、本日、御議論いただきました論点整理の一部修正等について、山川座長に御確認いただいた上で、速やかに労働政策審議会における議論に努めてまいりたいと考えております。
簡単ではございますけれども、御挨拶とさせていただきます。本当にありがとうございました。
○山川座長 ありがとうございました。
それでは、この検討会はこれをもちまして終了とさせていただきます。
大変ありがとうございました。

 

(了)

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