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2018年11月22日 第6「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」議事録

労働基準局労働関係法課

○日時

平成30年11月22日(木)10:00~12:00

 

○場所

中央労働委員会612会議室

○議題

・賃金等請求権の消滅時効の在り方について(意見交換)
・その他

○議事

○岩村座長 それでは、ただいまから第6回「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」を始めることにいたします。
委員の皆様方におかれましては、きょうも御多忙のところをお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
本日は、鹿野菜穂子委員、佐藤厚委員、水島郁子委員が御欠席と承っております。
本日の議題に入ります前に、前回検討会を開催してから事務局に異動があったということでございますので、事務局のほうから御説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○坂本課長補佐 7月31日付の人事異動で事務局に異動がございましたので、紹介させていただきます。
労働基準局長の坂口でございます。
大臣官房審議官(労働条件政策、賃金担当)の田中でございます。
総務課長の富田でございます。
労働関係法課長の長良でございます。
労働関係法課調査官の五百旗頭でございます。
申しおくれましたが、私、労働関係法課で課長補佐をしています坂本でございます。よろしくお願いいたします。
本日、監督課長の石垣につきましては、公務の都合上、欠席させていただきますき。
○岩村座長 ありがとうございました。
本日の議題でございますが、お手元の議事次第にありますように「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(意見交換)」ということでございます。これに関しまして、事務局のほうで、これまでの検討会での御意見や労使団体などへのヒアリングを通しまして、賃金等の請求権の消滅時効のあり方についての幾つかの各論点を整理した資料を用意いただいているところであります。今日は、賃金等の請求権の消滅時効の在り方の見直しについて、今まで行ってまいりました御議論を踏まえて、全体を通しました意見交換を行わせていただければと考えております。
初めに、事務局から配付していただいている資料の確認をお願いいたします。
○坂本課長補佐 それでは、お配りいたしました資料の御確認をお願いいたします。
本日は資料を2種類配付しておりまして、右肩に「資料」という四角枠囲みが入りました「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する論点の整理」と、右肩に「参考資料」という四角枠囲みが入りました「消滅時効の在り方に関する検討の参考資料」でございます。その他、座席表をお配りしております。不足等ございましたら事務局までお申しつけいただければ幸いです。
○岩村座長 ありがとうございました。
資料についてはよろしいでしょうか。ありがとうございます。
それでは、早速ですが、事務局から御用意いただいている資料の御説明をいただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
○坂本課長補佐 では、資料「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する論点の整理」に基づきまして説明させていただきます。
1ページ目でございますが、目次を記載しております。この資料につきましては、これまでの御議論を踏まえまして、全体を5つのパーツに区分しております。①から⑤までそれぞれございまして、①が賃金請求権の消滅時効期間、②が消滅時効の起算点、③が年次有給休暇の消滅時効期間、④がその他の関連規定、⑤がその他となっております。
資料の構成でございますが、これら5つの論点につきまして、全ての項目について3段の構成にしております。1つ目が「現状・課題」ということで基本的な考え方等を記載しております。その次に、この検討会におきますヒアリングまたは委員の先生方の御意見をまとめた「主な意見」、最後に「論点」という形の3段の構成でつくっております。早速、項目ごとに説明させていただきます。
2ページは、①の賃金請求権の消滅時効期間に係る論点でございます。
「現状・課題」のところは、これまでの説明とも重複するかもしれませんが、改めて説明します。1つ目の労働基準法115条に規定する賃金請求権につきましては、労基法を昭和22年に制定した当時からでございますが、もともと民法では使用人の給料に係る消滅時効は1年間の短期消滅時効が定められていたところですが、労基法はその特例といたしまして、2年間ということで消滅時効の期間を定めております。※印で書いておりますのは、当初、賃金については全て2年ということでしたが、退職手当につきましては、昭和62年の労基法改正によって消滅時効期間が5年に延ばされております。
2つ目の労基法の消滅時効期間の考え方ですが、労働者にとって重要な債権の消滅時効の期間につきましては、民法の短期消滅時効である1年という期間ではその保護に欠ける一方、民法の原則的な消滅時効期間であります10年という期間では使用者に酷に過ぎ、取引安全に及ぼす影響も少なくない。こうしたことを踏まえまして、当時、工場法という法律がありましたが、その法律の災害扶助の消滅時効の期間が2年間でしたので、それに倣い、2年としたものでございます。
3つ目に、昨年の通常国会で民法の改正がなされまして、民法でもともと使用人の給料を1年と定めていた短期消滅時効が廃止され、一般債権の消滅時効に統一されました。一般債権の消滅時効についてはもともと10年間ということで、客観的起算点のみでしたが、今回新たに①で権利を行使することができることを知ったときということで主観的起算点が設けられ、これにつきましては、そこから5年間で権利が消滅、②で権利を行使できるとき、客観的起算点ということで10年間行使しないときに消滅するとされております。こうしたことを踏まえまして、今般、労基法の賃金請求権の在り方についても検討が必要ということでございます。
続いて、3ページは、本検討会におけるこれまでの主な御意見を事務局の責任でまとめたものでございます。
1つ目は、本検討は民法改正を契機としているため、その改正趣旨をできるだけ踏まえて検討するという考え方もあるが、民法と労基法を別個のものとして独立させて検討する考え方もあるのではないかという御意見でございます。
2つ目は、労基法115条は、もともと民法の特則として規定されていた。その基礎となる民法の短期消滅時効の規定が廃止された以上、改めて労基法のほうで特例としての規定を設けるのであれば、その合理性が必要ではないかという御意見でございます。
3つ目は、刑罰法規との関係ということです。まずは民事上の債権として検討した上で、刑罰法規との関連性も考慮するという順番がいいのではないかという御意見です。
4つ目は、現行の消滅時効期間2年の場合ですと、適切な紛争解決機関を探しているうちに時効を迎えてしまうといった事態が見られるケースがあるという御意見でございます。
5つ目は、労働契約に基づく賃金請求権と、労働法が適用される労働契約に該当しない請負契約に基づく報酬の請求権の消滅時効期間の平仄を合わせる観点から、賃金請求権の消滅時効にも民法一部改正法の規定を適用すべきという御意見でございます。
6つ目は、仮に未払い賃金が問題となったときに争点となるのが指揮命令の有無や労働時間だったのかそうではないのかという点であり、こういった点につきましては、当時の上司に確認する必要があるが、正確な記録の確認は時効期間が延びるとそれに従って困難になるという御意見でございます。
7つ目も、同様の御意見でございますが、未払い賃金について民事訴訟になれば、賃金台帳に記載のない部分について証言や追加の資料の提出が必要となることが多くありますので、企業側の立証は困難をきわめるということで、訴訟実務上の負担が重いという御意見もございました。
こうしたことを踏まえまして「論点」でございますが、労働者保護の観点からの賃金等請求権の特殊性や企業の労務管理等の負担を踏まえて、労基法115条の消滅時効期間についてどのように考えるかという論点でございます。
次に、4ページに行きまして、ここからは②の賃金等請求権の消滅時効の起算点、時効がスタートする時点についての論点でございます。
「現状・課題」の部分でございます。現行の労基法第115条の消滅時効の起算点につきましては、条文上、特段いつから時効がスタートするということは明記されておりませんが、これまでの運用の実務や過去の裁判例等を踏まえると、権利を行使することができるとき、客観的起算点であると解釈・運用されてきております。繰り返しになりますが、今回、民法一部改正法によって一般債権の場合の消滅時効については、従来は客観的起算点のみでしたが、今回新たに主観的起算点というものが創設されているという形になっております。
「本検討会におけるこれまでの主な意見」ですが、1つ目は、民法改正前は客観的起算点のみだったため、労基法についても特段議論の余地はなかったわけですが、今回の民法改正によって時効の起算点については考え方が2つとれることになり、それを受けて労基法においても議論する余地があるのではないかという御意見でございます。
2つ目は、契約に基づく債権については主観的起算点と客観的起算点が一致すると考えられておりまして、その限りでは客観的起算点のみで足りるのではないか、ただし、主観と客観がずれる場合もありますので、そういうことがあるのかというところを検討してはどうかという御意見でございます。
この関係で参考資料を紹介させていただきます。参考資料の12ページをお開きください。これは法務省のホームページから抜粋したものですが、今回の民法改正に係る考え方を示した法務省の資料です。
消滅時効の起算点の関係で、まず、権利を行使できることを知ったときと権利を行使することができるとき、主観と客観が基本的に同一時点であるケースです。例としては、売買代金の債権、飲食料債権、宿泊料債権のような契約に基づく債権につきましては、基本的には、権利を行使することができるときと当事者が権利行使ができることを知ったときというのは同一だと、この場合は今回の民法改正を踏まえましても主観と客観が一致しますので、いずれか早いときにおいて権利が消滅するということで、5年間たったときに消滅時効として権利が消滅するという考え方になっております。
次に、権利を行使することができることを知ったときと権利を行使できるとき、主観と客観がずれるケースでございます。例としては消費者ローンの過払い金返還請求権を挙げています。利息制限法所定の利率を超えて利息を支払っていたとして、結果的に過払いだった。それの返還を求める権利の消滅時効がどうなるかというところです。これはさまざまなケースがありますが、例えばということでケースが2つ載っています。
ケース1につきましては、権利行使ができるときは取引が終了されたとき、個々の判断になるかと思いますが、例えば弁済がなされたとき、過払いであることが判明したときから10年間、客観的起算点がスタートしまして、その途中で過払いであることを知ったという場合は、知ったときから5年ですので、権利行使できるときから10年たっていなくても知ったときから5年で、ここは消滅時効にかかるという考え方であります。
ケース2は、ケース1と違って、知ったときが大分後になってから、例えば権利行使できるときから7年ぐらいたってから過払いであることを現実に認識したという場合は、権利行使することができるときから10年のほうは早く到来しますので、この場合は取引終了時から10年で権利が消滅する。こういう考え方になっているところでございます。
資料にお戻りいただきまして、4ページでございます。先ほど主な意見の2つ目まで御紹介させていただきました。
3つ目は、主観的起算点と客観的起算点が賃金請求権の場合、ずれる場合があるのではないかということで御紹介された例です。例えば名ばかり管理職と呼ばれるような、実際は管理職ではないけれども、管理職としての地位で仕事をしていたが、事後的に裁判等で否定される。そうしますと、管理監督者ではないので、例えば割増賃金の対象になってくる場合があります。そういうときに遡及的に未払い賃金を支払うような場合は、現行の労基法の運用のように客観的起算点のみとすることが妥当かどうかという論点が存在するのではないか。ただ、こうした問題につきましては、そもそも消滅時効の見直しで救済するものではなくて、それぞれの制度の中で解決を図るべき問題なのではないかとも考えられるという御意見でございます。
4つ目は、今回の民法改正で新たに設けられた主観的起算点、これは賃金請求権請求であれば労働者が権利行使できると知ったときということになるわけですが、知ったときは果たしていつなのかというところは解釈の幅が出てくる可能性もある。また、いつがその主観的起算点に該当するかというのは、例えば法律等の専門家でないとわかりにくいケースもあるのではないか、このため、新たにこうしたものを設けると混乱が生じる可能性があるといった御意見も出ております。
「論点」でございますが、労基法115条の賃金請求権の消滅時効の起算点につきまして、これまでは客観的起算点、権利行使をできるときということで解釈・運用してきましたけれども、今般の民法の改正を踏まえて、それをどのように考えるかということでございます。
5ページは、③の年次有給休暇の請求権の消滅時効期間でございます。
「現状・課題」のところですが、まず、年次有給休暇に係る労働者の権利は2つのものから構成されております。労基法上の要件を満たすことで当然に発生する権利である年休権と、具体的にいつ休むのかという取得時期を労働者が指定する権利である時季指定権、この2つの権利から構成されるということで考えられております。これらが労基法115条の対象となって消滅時効にかかるということでこれまで解釈されてきております。
次に、年次有給休暇自体は、名前も年次となっておりますので、原則的には年休権が発生した年の中で取得することが想定されているという仕組みですが、消滅時効の規定を踏まえまして、未取得分の年次有給休暇については翌年へ繰り越しができるということで運用されてきております。
「本検討会におけるこれまでの主な意見」でございますが、2つ目は、そもそも年次有給休暇は法律の趣旨としては、完全にその年において取得することが望ましいものであって、仮に賃金の消滅時効と合わせてこの年次有給休暇の請求権の消滅時効期間を延ばした場合には、こうした制度趣旨の方向と合致しないのではないかという御意見でございます。
3つ目は、年次有給休暇の請求権は、賃金請求権とは異なる部分もあるという理解をしているため、この違いを踏まえれば、賃金請求権については民法一部改正法の適用を受けるものとすべきであるが、年次有給休暇については現行の2年という消滅時効期間を残すという考え方もあるのではないかという御意見も出ております。
「論点」ですが、年次有給休暇請求権の消滅時効期間について、年休の制度趣旨、取得促進といった観点を踏まえてどのように考えるかという論点を入れております。
6ページは、④のその他の関連規定でございます。
「現状・課題」は、大きく3つのパーツに分けております。
まず、その他の請求権ということで、先ほどから、賃金ないし年次有給休暇の話をしてきましたが、労基法第115条の対象となる請求権につきましては、そうしたもの以外にも、例えば災害補償請求権ということで、療養補償、休業補償、障害補償といった請求権につきましても対象になっておりまして、これらの消滅時効期間についても現行2年間ということになっております。考え方としましては、これらの請求権については、労基法の賃金請求権が2年ですので、それに合わせて2年間という消滅時効期間にしたものと考えられているところです。
2つ目の文書等の記録の保存の関係でございます。こちらにつきましては、労基法第109条で、使用者は労働者名簿や賃金台帳等の文書の記録につきましては、3年間保存しなければいけないという義務規定が入っております。この規定の考え方につきましては、文書の保存によって労使の紛争解決に資することや、監督上の必要性を考慮して、もちろん保存の目的からすれば保存年限は長ければ長いほど便利ではありますが、使用者の負担というものもあわせて考えて、3年間という保存義務を課しているものでございます。
3つ目の付加金は、労基法第114条におきまして、割増賃金等を支払わない使用者に対して、違反があったときから2年間におきましては、労働者が裁判所に請求することによって、未払い金だけでなく、これと同一額の付加金の支払いということで、最大2倍までの金銭の支払いを裁判所が命ずることができるという仕組みでございます。
この仕組みの考え方につきましては、賃金未払いのような違反に対する制裁たる性質ということで考えられておりまして、こういった規定があることによって未払金の支払いを間接的に促していくという仕組みでございます。
消滅時効の期間につきましても、現行2年となっておりますのは、賃金請求権の消滅時効期間と合わせて2年間としたものであると考えられております。
7ページは、これまでの主な御意見でございます。
まず、その他の請求権につきましては、賃金以外の請求権については特段の理由がなければ賃金請求権の消滅時効期間に連動させて考えればいいのではないか、その場合に、例えば請求権によっては特殊性があって別の期間を設けるべきというものがあればそうした議論をしていくべきではないかという御意見でございます。
記録の保存につきましては、1つ目は、例えば残業の有無が争いになった場合、残業を行ったということで未払い賃金があると訴える場合には労働者側に一義的には立証責任がありますが、使用者にとっても、そうした訴えがあったときに残業はなかったと主張するためには、例えば文書の保存、そういったことの負担があるのではないかという御意見でございます。
2つ目は、仮に3年間となっている文書の保存年限が延長された場合につきましては、文書をデジタルデータでとっているか、紙媒体でとっているかにかかわらず、保管のコストは相当なものになる。当然それが企業経営に多大な影響を及ぼす可能性もあると考えており、結局は労基法115条の立法趣旨である取引の安全性に反するのではないかという御意見であります。
付加金につきましては、これも賃金の消滅時効期間に合わせて延ばした場合には、付加金の額が相当に大きくなることも考えられますが、この付加金の額をどうするかというのは最終的には裁判所で判断されるという形になっていますので、裁判所の裁量で判断すればよいのではないかという御意見でございます。
「論点」でございますが、その他の関連規定(書類保存年限や付加金等)、その他の請求権等につきまして、賃金請求権の消滅時効期間の在り方を踏まえてどのように考えるかという論点でございます。
⑤のその他についてということで、ここは施行期日等と労基法以外の法律への影響等について記載しております。
まず、施行期日につきましては、民法の一部改正法につきましては、昨年成立して、施行は2020年4月からになっております。仮に労基法115条の改正を行う場合につきましては、こうした民法一部改正法の施行時期も踏まえて、労基法の施行時期についても検討を行っていくことが必要であると思います。
なお、本年の通常国会で成立しました働き方改革法につきましても、来年4月以降、順次施行を迎えるタイミングとなっておりまして、2020年のタイミングでも、例えば中小企業であれば労働時間の上限規制の施行のタイミングということになっておりますので、こうした働き方改革法の施行と重なってくることも想定されるところであります。
また、もし仮に労基法115条を改正した場合に、当然、改正前の規定と改正後の規定ができるわけですが、新しい改正後の規定については、いつの時点で発生した賃金請求権に適用させることとするのかといったことの整理も必要になってくると考えております。
労基法以外の関連する法律でございますが、これまでの本検討会におきましては、基本的には労基法の規定についての検討を行っております。仮に労基法を見直した場合に、例えば労災保険法のような関連する法律にどのような影響を及ぼすのかというところにも検討が必要と考えております。
参考資料でいいますと、条文なので恐縮ですが、32ページをご覧ください。労働基準法の条文を書いておりますが、75条から以下に療養補償、休業補償ということで、使用者の災害補償の責任に係る規定を置いております。
33ページの77条以下で、障害補償、遺族補償、葬祭料、打切補償補償等の規定を置いております。先ほど御紹介しましたとおり、これらの規定の消滅時効期間につきましては、現在、労基法115条の対象となっておりますので、現行は2年間となっております。
その上で、33ページに第84条という規定がございまして「この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる」という規定がございます。この規定によって、今ですと先ほど御紹介した75条以下の補償責任というものは労災保険法によってカバーされている。もし仮に今回、75条以下の療養補償等についての消滅時効期間を延ばすということになった場合、労災の短期の給付の消滅時効期間は2年間となっていますので、そこで違いがもし生じてくると、その分、新たに使用者の側には災害補償の責任が出てきますので、それとの関係をどうするかというところも論点になってくるかと思っております。
本体にお戻りいただきまして9ページ、その他に関する本検討会におけるこれまでの主な御意見として、まず、施行期日につきましては、経過措置の話を1つ目で書いておりますが、①と②の2つが考えられるのではないかということです。
①につきましては、民法の経過措置と同様ですが、労働契約の締結日を基準に考える方法です。労働契約の締結日が改正法の施行期日より後であれば、新しい消滅時効期間を適用しますし、逆に労働契約の締結日が改正法の施行期日より前であれば、従来の消滅時効期間に係る規定を適用する。そういう考え方でございます。
②につきましては、賃金等の債権の発生日を基準に考える方法です。賃金請求権がいつ発生しているかを基準に考えますので、改正法施行期日より後に発生している賃金請求権であれば、新しい規定を適用して、改正法の施行期日より前に発生している賃金請求権であれば、旧法を適用する。
そういう2つの考え方がありますが、民法の場合は①をとっているということですので、そうしたことも考慮する必要があります。
2つ目は施行期日の関係ですが、施行を改正民法の施行期日も念頭に置いて考える場合に、働き方改革法の施行も重複してきますので、現在生じている企業の労務管理の負担が一層増大する懸念もあり、そうしたところの検討も必要という御意見でございます。
労基法以外の関連法律の関係ですが、労基法の賃金請求権の消滅時効期間が改正される場合、例えば労災保険法等の関連法律にも影響があるので、その影響の大きさを考慮すべきだという御意見も出ております。
「論点」でございますが、仮に労基法115条の見直しを行う場合に、その施行期日や経過措置のあり方をどのように考えるか、また、労基法の見直しに伴って、労災保険法などの他の法令などに及ぼす影響についてもどのように考えるかという論点を掲げております。
長くなりましたが、以上でございます。
○岩村座長 ありがとうございました。
それでは、これまでの検討会での議論を踏まえて、今、事務局から包括的に御説明をいただいたところでありますが、賃金等の請求権の消滅時効の在り方に関しまして、御説明していただいた各論点について御意見あるいは御質問がありましたら、御発言いただければと思います。どこからでも結構です。
○安藤委員 ありがとうございます。
今回の話で一番大事なのは①の消滅時効の期間についてだと思います。以前もヒアリングなどの際に私が気にしていた論点は、仮に2年から5年にしたら企業における実務や働き方がどう変わるのかというところが本来知りたいところでした。現場の方にお話を聞くと、どうしても争いが増えるという答えだけ出てくる。しかし、岩村先生も同様の御意見をおっしゃっていましたが、今までの仕事の割り振り方や今までの実務を前提として単純に2年から5年に期間が延びたら争いは増えるでしょうという議論をしていて、それは私たちの求めているものではないという風風風に感じておりました。
そうではなく、例えばスポーツでもルールが変わったらプレーの仕方が変わる。新たなルールのもとでどういう問題があるのか。サッカーからラグビーになったらもちろんプレーの仕方は変わるわけです。新たなルール設計として何が望ましいのかという議論を本来はしなければいけない。
③の年休についてはそういう議論が既にできています。年休については、これを2年から仮に5年にしたとすると、かえって年休をとらなくなるという行動の変化が予想できる、だから2年のままでいいのではないか、労使双方からそのような意見が出ています。
本来①の消滅時効期間についても同様の議論を展開しなければいけないはずだと考えております。賃金請求権の消滅時効期間が仮に5年になると、企業において労働者や上司の行動にどういう変化があるのか。例えば、以前お話しした可能性としては、争いになったときの負担が大きいので、明示的に記録が残るような形で指揮命令をするようになるのではないか。例えば口頭で「あれをやっておいてよ」みたいな話ではなく、メールでいつからいつまでにこの仕事をやってください、そういう記録が残る形で指示を出すようになる。時間外労働についても、上司がちゃんと命令をして、それに基づいて仕事をした記録をちゃんと残すようになる。こういうのは労働時間の把握という面でも、また健康確保という面でも大事と思っています。
では、今度は労働者の視点からそれが常にいいことかといったら、要注意だろうとも考えております。例えば、仕事が終わって、その後、同僚と少しおしゃべりしたりすることが一切認められない。会社を退館した時刻のデータが後で紛争のもとになるのだったら、上司から決められた仕事時間が終わったらすぐに職場を出ていけという形になると、それはそれでマイナスもあるかもしれないと考えております。
例えば、会社にある本や資料を使って自分のために勉強したり、上司が8割のできでオーケーした仕事について、自分のため、勉強のため、自分の名前で公表するから9割、10割に近づけたいというような業務命令に基づかない作業を会社内で行えなくなる。こういう波及効果まで考えて、どのような実務上、また労働者の視点からも問題があるのか、こういう議論をしていただく必要があるかなと感じておりました。
個人的にも、例えば私が勤めている大学が労働時間の管理を今以上にしっかりするといって、必要ないときには研究室を使ってはいけない、学校に来るなといって追い出されたりすると非常に大変なわけです。海外の共同研究者とやりとりしたいから、資料があるから職場のパソコンを使って、夜中にスカイプを使って会議をしたいといっても、建物に入ってきてはだめだと言われてしまうと、それはそれで困る。確かに会社側から指揮命令があって働いているわけではなくて、自分のキャリアのために、論文を書きたい、研究打ち合わせをしたいが、これもまかりならぬと言われてしまうと困るような気もするわけです。
そういうわけで、これは極端な働き方の例かもしれませんが、具体的に記録の保存、残すとか、帰るかどうか、そういうところだけでなく、働き方がどう変わるのかというところについて本来考えなければいけないと考えております。
とりあえず、今回の話について一番重要だと思っている時効についての考え方について一通り意見を申し述べました。以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
今の安藤委員の御意見は私もごもっともだと思っています。
もう一つ考慮に入れなければいけないのは、労働時間の規制が今度大きく変わって、一般の労働者だけではなく管理職等も含めて労働時間の把握を使用者が行わなくてはいけなくなったという点も、当然これと絡んで出てくる問題だろうと思います。
今までのように曖昧な形でもって会社に残って仕事をしている、しかし、その時間を把握していないということだと、今度は法律違反ということになるので、当然、使用者側としてはそういった労働時間管理をどうするかということをまず考えなければいけないということがあります。
そもそも労働時間の上限規制が今度変わるので、したがって、今までのような形でのルーズな時間外のコントロールではなく、もっときちっとした労働時間のコントロールをしないと、すぐ上限に達してしまうということが起こります。そういったいろんな法制の動きやその他もかかわってくる中で、仮に消滅時効の期間を5年としたときには、では今後どういう形で労務管理上対応していくかを考えるということだと思っています。
よく問題になって例が挙がっていた、管理職に当たるのか当たらないのかというのもありますが、企業の側としては、今後は管理職に当たらないとされた場合、リスクが大きくなるということを考えた上で、法制上、労働法規との関係で管理職に当たるのかどうかということをきちっと検討した上で管理職の扱いを考えるということかと思っています。
その他、訴訟上の負担というのも、結局のところ、今までのやり方を前提としているからそうなってしまうので、仮に5年となったときには、リスク回避の観点から、ではどういう記録を残しておくべきかという観点からの管理を考えるということだと私も思っているところです。
いかがでございますか。森戸委員、どうぞ。
○森戸委員 今の安藤委員と座長のおっしゃったことはよくわかるのですが、安藤委員もバランスをとって労働者側の話もしていただいたと思います。おっしゃるようなポイントはあると思いますが、労働時間把握云々というのは座長もおっしゃいましたけれども、もっと大きな、ほかの働き方改革なりそういうものの影響も大きいかと思うので、時効の話で労働時間の把握が厳しくなったとか、そういうことと相まってあるのかもしれないけれども、同じぐらい何か大きな実務に影響を与え得るのかどうかというのは、私としては疑問があるところではあります。感想です。
こちらの議論についてはいろいろありますが、ちょっと間があいたので、既に一通りいろんな議論もしたような気もします。繰り返しになったら申しわけありません。②の賃金等請求権の消滅時効の起算点についてのところです。結局、民法改正を契機とした話なので、いずれにしろ民法改正に伴ってどうするかということで、民法となぜ違えているのかという説明は常に必要だと思います。ここにも書いてありますが、民法は、客観的起算点、主観的起算点というもので、よりちゃんとした時効制度にしようという趣旨で改正されたわけですから、労基法のほうも、例えば客観的起算点に統一するのであれば、やはりそれなりの理屈が要るのだろうと思います。そこの理論武装も必要なのだろうと思います。
むしろ④や⑤にもかかわるのですが、施行期日等について聞きたいのですけれども、さっきありましたように、労基法は制定当初から時効はずっと2年で来て、昭和62年62に退職金だけ5年に改正しましたね。そのときの経過措置というか、施行はどうなっていたかという資料はありますか。
○岩村座長 いかがでしょうか。
○坂本課長補佐 昭和62年の改正で労基法115条を改正しまして、退職金につきましては消滅時効期間を5年にしております。このときの経過措置につきましては、先ほど本体資料の9ページの2つの経過措置の考え方を御紹介させていただきました。①と②がありますが、退職金の消滅時効期間を延ばしたときには②のほうの経過措置ということで条文を置いております。退職金債権の発生日が昭和62年の改正法の施行の前か後かによって2年か5年かという区分けをしております。
○森戸委員 ありがとうございます。それは経過措置はなかったという理解でいいのか。
○岩村座長 一応、経過措置はあったのです。いつのものから適用になるかという点で施行のための規定というのは当然置かなければいけないので。
○森戸委員 それは経過措置という言葉の意味によるのだろうけれども、呼び方ですが、わかりました。退職金の場合は発生日基準でやったということですね。つまり、契約締結日ではなかったということですね。それは何か理屈というか、退職金だからという話だったのかというのは、この話も結構大事かなと思って。
○坂本課長補佐 ここは当時の資料からも完全に把握できているわけではないのですけれども、賃金の場合は、基本的には毎月賃金支払い日において債権が発生するということですが、退職金の場合は、お一人の方で同じところに勤められていれば一回ということになります。これを労働契約の締結日で見てしまうと、30年先ぐらいになってようやく新法が発動する。そういう実務上の課題等も踏まえて、恐らく経過措置としては退職金の債権発生日というものを基準として考えたのではないかと思われます。
○森戸委員 ありがとうございます。
今回は退職金だけではなくて賃金全体の話だから、そのときに民法がこっちの契約締結日なわけですね。それと違えるとしたら、やはり何か理屈をつけなければいけないだろうということを思いました。
今の労基法もそうですけれども、労災保険法なんかも2年、5年となっていて、客観的起算点なのだと思いますが、その趣旨というのか、それも本当はあわせて考えなければいけないのでしょうが、本丸ではなくて経過措置のほうを言って申し訳ないのですけれども、この話こそまさに実務上は結構影響も大きいと思うので、どっちがいいのかということしか言えないのです。とりあえず、その質問をしたかったのです。
以上です。
○岩村座長 ちょっとよろしいですか。今、退職金債権が出たので、退職金のほうは現行で5年になっているのですが、これはいじらなくてもいいのかという点はいかがですか。
○森戸委員 いじらないの意味ですけど。
○岩村座長 例えば、今、5年なのだけれども、民法の客観的起算点から考えて10年、そういう方向に持っていくのかという議論はあり得ることはあり得るのですが、そこはいかがでしょうか。
○森戸委員 すぐこうだと言えませんが、5年にするということは同じですけれども、賃金、退職金とも区別する必要がないと考えたということになりますね。今までの趣旨が退職金は常に賃金より長くあるべきだということでこうなっていたのか、そうではなくて退職金はこのぐらいないと、という理屈だったのだから別に5年のままでもいいという話でもあるわけですね。
○岩村座長 多分、私の理解しているところでは、退職金は額が大きいので、それを2年という消滅時効にしてしまうと、場合によって企業の資金繰りの問題とかで時間がかかっている間に消滅時効にかかってしまうという話もあって5年にしたという説明を昔聞いた気がします。
○森戸委員 であれば、5年あればいいだろうというのは一つの説明ですね。
○岩村座長 恐らくそういうことになるだろうと思います。
○森戸委員 いずれにしても、さっきの昭和62年2の改正にしてもそうなのですが、この話は余りよりどころがないようなところもあるから、過去の取り扱いとか、そういうのもどういう趣旨でなされたかというのは割と参考になる、あるいはしなければいけないところもあるのかなと思って、ちょっと細かいことなのですけれども、いろいろお聞きしました。
○岩村座長 ありがとうございます。
では、安藤委員、どうぞ。
○安藤委員 先ほど説明で、法律に詳しくない経済学者の私の立場から言うと、よくわからなかったのは、退職金債権の発生日というのは退職する段階なのかということです。もちろん給料というのは後払いできず現金で月に1回以上通貨払いしないといけないというあたりは存じ上げているのですが、退職金は別に義務ではなくて、やりたい会社が勝手にやっている。しかし、会社に勤める場合、大手だったら大体、退職金がある。私が働いている職場にもあって、入社する段階でその存在を知っていて、かつ、それは勤続年数に応じて逓増していく。勤続年数が長くなればどんどん積み上がっていって加速度的に上がっていくような形態になっているということは、退職する段階でいきなり新たに発生した権利ではなく、勤め出して継続している期間、ずっとその存在を知っていて働いているという観点から、その段階からすぱっと切ってよかった議論なのか、疑問なのですけれども、それはいかがですか。
○岩村座長 どうぞ。
○森戸委員 いろいろ議論はありますが、もちろん究極的には債権がいつ発生するかは契約の解釈の問題だと思います。一般に退職金は退職時に発生すると通常考えられていて、そういうものだというふうに契約を解釈するのが大原則になっている。おっしゃるように会計上の扱いとは微妙に違っている点もあるし、期待権として大きいのも確かなのですが、退職金は究極的にはやめてみないと幾らになるかわからない、懲戒解雇になったらもらえないかもしれない、そういうことで一応、法的にはやめたときに発生する。就業規則もそう解釈するのが通常の考え方というのが教科書的な説明です。
○岩村座長 どうぞ。
○安藤委員 ありがとうございます。今の説明で理解できたつもりでおります。
では、岩村座長からあった退職金についての扱いが5年でいいのかという話ですが、疑問に思っている点が一つあります。一般の賃金債権については、争いになるとしたら恐らく時間外労働の有無であったり、指揮命令の有無であったり、時間外労働に対する割増賃金の支払いをするかしないかというのが想定できると思います。退職金について退職後に争いになるとしたらどんなパターンが考えられて、そのパターンについての事実認識というのがこの5年以内で十分に終了するものなのかというところが大事かと思います。毎月の賃金ではなく退職金について実際にどういう争いがあったのか、事例があったらお知らせいただきたいのですが、いかがでしょうか。
○岩村座長 少なくとも私の承知している限りでは、一番多いケースは、退職するまでの間の、とりわけ退職まであと5年とか、そのくらいのところで退職金の規定の改正があって退職金の額が切り下げられてしまう。その結果として、もちろん退職する前にそれをめぐって訴訟が起きるというケースもありますが、場合によっては退職した後になって当初自分が計算していたよりも額が少ない。よく考えたらいつの間にか規定が変わっていて切り下げられているという形で退職金の差額を請求するという事例もあります。その場合だと、額が変わっていて、本来もらえると思っていたのより少なかったというのにいつ気がつくかということだと思います。
通常のケースだと、このごろでは、あらかじめ自分で計算したり、就業規則で退職金規定を見ると大体こんなものだというのがわかりますけれども、とりわけ途中で規則が変わっていたというようなことが余り周知されていないと、そういうケースで紛争になることがあります。企業がやっている企業年金でも同じような問題が生じて、途中で変わったときに争うというのもありますが、最後になってもらってみたら当初より少ないというので、差額をよこせという形での争いもあるように思います。
森戸さん、何かあれば。
○森戸委員 おっしゃるとおりだと思います。賃金も退職金ももらえるはずなのにもらえていなかったが、後で気がついたというのもあると思いますが、座長がおっしゃったように、不利益変更的な事案が多いかなと思います。最近の山梨県民信用組合事件の最高裁判例でも、企業再編でぐちゃぐちゃと規定が何度も変更になって、実はその変更が有効ではなかったからもっともらえていたとか、そういうのが後でわかるということは結構あり得る。確かに2年だと、いろいろ調べていたりしたら、気づいたら2年たっていたということはあり得る気がするし、もちろん賃金もあり得るのでしょうが、退職金の金額の大きさを考えると、現行法で賃金2年、退職金5年というのは、それなりに合理的な理由の説明はつくという気がします。
○岩村座長 よろしいでしょうか。
起算点の話がさっき出ましたが、主観的起算点と客観的起算点があって、恐らく一番問題になるのは主観的起算点が労働法の領域だとさっきの管理監督者というような問題とか、要するに、民法で一般に考えているような契約でぱちんと決まっていて、履行期がいつでというのとちょっと違って、場合によって紛争になると評価が問題になってというようなことがあります。いつから知ったということが最後の最後は裁判までやってみないとわからないということがあるとすると、それ自体としては一般の契約の場合と違って、ちょっと主観的な、知ったときというもの自体がふらふら動く可能性があるというのが、通常の民事取引とか商事の取引を考えたときとはちょっと違う特性がここにはあるかもしれない。
管理監督者というのは一番典型例ですが、残業についても場合によってそういうことは、裁量労働制の適用者だと思っていたら、実はそもそも裁量労働の適用者ではないという、これも評価の問題になるので、裁量労働制の対象ではないといった途端に今度は残業代を払わなくてはいけない、そういう世界に行く。そういう問題が存在するというのが、多分、一般の民事あるいは商事のケースとは違うところだという気はします。場合によっては、労使の間での賃金の債権のあり方を非常に不安定にしてしまうところが存在するのは否定できないという気がします。
どうぞ。
○安藤委員 先ほどの民法改正で設けられた主観的起算点という話について、恐らく先ほども例に出てきた中で一般の人に一番親しみがあるのは過払い金の訴訟の問題だと思います。これについてはグレーゾーンだと言われていて、最高裁判例が出て、これで確定した。ここが主観的な起算点になるので、客観的なところからのずれの例として非常にわかりやすいと思います。それ以外に、客観的なものと主観的なものが分かれるという典型的な例としてどういうものがあるのか、もしわかったら教えていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか。
○岩村座長 今日は、助けになる鹿野先生がいないので、なかなかぱっと浮かばないのですが。
○安藤委員 何を気にしているのかというと、客観的か主観的かということで、主観的というのは自分が情報をとりにいくという行動をしなければ幾らでも後に延ばせるのだったら、例えば自分が時間外労働をしていると思いながら、裁量労働になっていないと知っていながら、自分がどのくらい時間外労働をしているかをちゃんと調べるとそこが主観的になってしまい、放置しているとそれが後に延びていくとしたら、人々が適切に自分の労働時間を把握するという行動を逆に阻害してしまわないのかというあたりが気になって申し上げました。
○岩村座長 ありがとうございます。
ただ、主観的起算点の問題は、主観的とは言いつつ、実際の訴訟になるとこの時点で本当に知ったのだということを証拠でもって立証しなくてはいけないということになります。証明責任の配分がどうなるかというのは横に置きますが、少なくとも労働者の側がここから私は知ったのだと言うとすれば、裁判所側を説得できるだけの何か証拠を出さなければいけないということになりますので、単に私はそう思っていたというだけだと裁判所に採用してもらえないという点を御注意いただく必要があると思います。
○安藤委員 では、そうであったとすると、例えば、私はここで知りましたというよりも、この段階で知ってしかるべき状況にあったということでカウントが始まるのであれば、4ページ目の主な意見の一番下に出ているような、専門家でないとわかりにくくて混乱を生じさせる可能性があるというお話については、余り心配しなくてもいいという気もするのですが。
○岩村座長 そうなのですが、他方で、主観的起算点から考えるということになると、労働者の側としてもそこもも気をつけなくてはいけないということになります。労働者の側としては、先ほど申し上げたように評価の入るようなことになってくるとなかなか確信を持ってわからない、その問題は一方では生じるかもしれないということだと思います。
○森戸委員 結果的には安藤委員がおっしゃったとおりだと思います。では、普通ならどう考えてもここで知っているだろうと言えるかどうかが、結局、裁判でここならわかっていたとかわかりませんということが争いになるから、そういう意味では、完璧にはこことは言えないということで、さっきの判例云々だったら、明らかに最高裁が言ったのだから、知らない人がいるかもしれないけれども、ここだと言いやすいけれども、名ばかり管理職がどうだとかいうことになるともっと微妙になるという趣旨だろうと思います。
それに関連してですが、この話は、もともと民法よりも労働者保護のために1年を2年に長くしていたものが、民法が変わったのに民法よりむしろ制限していたらおかしいではないかという話で、始まりはそうですけれども、いろいろ検討していくと、究極的にはどんな改正に、つまり、もし5年になったとしても、客観的起算点5年だったら、その意味では民法よりまだ短くなっているのですね。
○岩村座長 そうです。
○森戸委員 それから、年休に関しても2年でいいと労使も言っていて、ここでもそうだろうと思っているのですが、これに関しても民法より短くしていることになるわけですね。原則は、民法より労働法が労働者のためなのに権利を縮減しているのはおかしいではないかという話からスタートしていたけれども、場合によっては、今までは民法が1年だったからこれより長くしないとおかしいという話だったけれども、民法のほうが5年、10年となった以上、切り口によっては民法より権利が縮減する部分があることが絶対いけないという議論はできないというか、少なくとも年休などに関してはそこは捨てているのだから、結局、現在の労働法なり労働者保護のために何がいいかを議論して、その結果、もしかしたら民法より場合によってはここはむしろ制限していますが、これはそういう趣旨ですという説明をせざるを得ないということを、当たり前なのですけれども、確認できたと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。
先ほどの例ですと、やはり労働関係なのですが、じん肺のときの損害賠償請求権の起算点がいつかという問題がありました。これも最終的には最高裁判決で区分4になったときだったか、3になったときだったか、要するに、その段階から請求権が発生するので、そこが起算点だということがあります。これは主観的な問題とはちょっと違いますが、そういう問題がある。
労働法の場合、さっき言ったような規範的な評価が入るようなもので主観的起算点をとると非常に不安定になるというのがあるのですが、他方で客観的起算点も、じん肺の例もそうですけれども、必ずしも常に定点で決まるというわけではなくて、そこは法解釈などによって実は客観的起算点が通常言われているより遅くなることもケース・バイ・ケースで起きるということがあります。ですから、いろいろ考えると、主観的起算点には余りこだわらず客観的起算点ということで整理してしまって、後は裁判所の合理的な解釈に委ねるというのも一つの整理の仕方と思っています。
さっき年休の話が出ましたが、年休はやはり2年でいいのですね。5年とすると、実際にはあり得ないけれども、4年間とらないで最後の5年は1年間年休で休みとかいうことになりかねなくて、何だかおかしなことになってしまう。しかし、年休で1年間休んで世界旅行に行くのもいいのだという価値観の人もいるかもしれないけれども、一般的には年休の趣旨はそうではないだろうと思います。
○森戸委員 理論的にと言われると実は困るのだけれども、実情からしても、繰り越せるということ自体も、本来はこの年に休むものだという制度であることからすれば現行どおりでいいのかなとは思います。
年休に限りませんが、他方で、これは時効と関係ないですけれども、さっきの主観的起算点にもかかわりますが、労働者が自分の権利なり、つまり年休についても場合によっては年休なんてとれるとは思っていませんでしたみたいな人だって現にいるわけです。もちろん年休があることを知らないという評価をする事例ではないかもしれないけれども、ただ、前提として年休の時効2年でいいというのは、労働者がちゃんと年休の権利を把握していて、とりたければ会社と調整して請求するし、今度、労基法は変わりますが、ちゃんと権利を認識しているという前提のもとだから、やはりそこは時効とは別に、こういうことは使用者は確認してくださいとか、労働者もちゃんと権利があることを知りましょうという話はセットで、今、やっているのだろうけれども、それは一緒にやらなければいけないということは言えるかと思います。
○岩村座長 安藤委員、どうぞ。
○安藤委員 今の森戸先生の議論をそのまま賃金に敷衍すると、賃金についても自分の賃金についてはきっちり知っておくべきだ、自分の労働時間も自分でちゃんとカウントして、未払いの賃金があったりしたら、それについては適宜不満を訴えていくべきだと考えてしまうと、では年次有給休暇についての話と賃金の請求についての話はどこが違うのかという問題になってくるような気がします。
賃金についてよく言われるのは、仮に不満があったとしても、それを会社に訴えたりすれば、それによって不利益に扱われるのではないか、上司に目をつけられるのではないかとか、不満があって、それを抱えたままで、退職する段になってやっと訴えられるという話があると思われます。それであったら年休についても同じではないかという気もします。
年次有給休暇について、実際はそんなことはないのだろうけれども、自分がいなかったら仕事が回らないのではないか、いろんなことを理由として、とらないと皆さんはおっしゃるわけですが、それを申請したら「みんなとっていないのに」と上司に言われるのではないかと思って、あえてとっていない人もいるかもしれない。だからこそ、10日以上持っている人については5日間とらせるという、外から規制をかけるという形になったわけですね。そう考えると、自分で把握していくべきだということを考えたら、賃金についても同じなのではないかと思ってしまうのですが、そこにギャップがあるとしたら何なのか、気になっています。
○森戸委員 おっしゃるとおりで、賃金に関してもちゃんと労働者が自分の権利なりを把握するのは大事だし、突き詰めていけば同じ話ではないか、では、賃金も2年でいいではないかとなってくるかもしれませんが、やはり違うと思うのは、金銭債権か、休むという権利そのものかということで、休むのはこの年に休むべきだろうという趣旨は強くなるのではないかと思います。お金は後からでももらえるならもらったほうがいいというのはあると思います。
もちろん賃金も単純にもらえるというのはそれだけだけれども、さっきから座長もおっしゃっているように、いろんなややこしい複雑な仕組みが、裁量労働ではどうだとか、管理職がどうのとかいうのもあるから、問題をより複雑にする部分があるという違いはあると思います。
でも、おっしゃるように、それは考え方で、両方とも労働者の権利だし、同じだし、ちゃんと周知して早目にちゃんとけりをつけるようにしろというのは、そこは同じだというのは別に否定はしないですけれども、ちょっと違うかなと思います。労使もここに関しては話がびっくりするぐらい一致するのは、やはり現場の感覚からもそうなのだというふうに理解はしています。
○岩村座長 恐らく労働法学者の多くは、やはり年休というのは本来その年度にとるべきものだと、少なくとも翌年度までという趣旨のものだという感覚があるので2年ということだと考えているでしょう、この場にいた先生方の御意見も大体それに集約されたということだと思います。
今度、5日間は強制にするという一つの背景としては、何を言っても年休をとらない人がいる。企業の方に聞いても、どうにもならない。どう説得しても年休をとってくれないというのが実は背景の事情の一つで、その方々がいると年休の取得率が上がらない。それを一つの背景として、5日間をむしろ強制的にとらせる、そういう形にしたということがございます。
その後はだんだんマニアックな話になってきて、その他の請求権で頭の痛いのが災害補償です。もともとこれは労災との抱き合わせで2年なのかという気はしていたのですが、仮に賃金と合わせて5年というふうにして、しかし、労災保険のほうを2年から5年に延ばすと、他の社会保険との並びがあって、恐らくこれはすぐには難しいだろうと思います。そうすると災害補償が5年で、労災保険が2年というずれが発生したときに、労災保険のほうが2年で消滅時効に到達してしまったときに、災害補償の3年の請求権は残っているのかというのが気になっていて、ひょっとすると残らないのではないかという気もしたのです。
というのは、さっき御紹介のあった労働基準法第84条1項だと、給付を受けるべき場合においては補償の責を免れるとなっていて、現実に給付をもらえるかというのではないのです。そうすると、恐らく一つの解釈としてあり得るのは、労災保険のほうから給付を受けるべき場合でということであれば、それで災害補償の責は免れるので、途中2年で消滅時効にかかったとしても使用者の補償責任は多分復活しないのではないかと、法解釈としてもあり得ると思ったのですが、そこは誰も今まで考えたことがないのだろうと思うので、どうなのでしょうか。
○尾崎課長補佐 済みません。そこはまだ確認していないので、確認させていただきたいと思います。
○岩村座長 どこを探しても多分誰も書いていないと思うので、ここで本邦初公開で考えるしかないのではないかという気はするのですが。
○森戸委員 今までその話はしなくてよかったからですね。
○岩村座長 そうですね。
○森戸委員 おっしゃったように、84条2項と比較すれば、補償を行った場合ではなくて行われるべきものである場合だからおっしゃるような解釈になると思います。前提として時効だから援用されればということですね。
○岩村座長 ただ、労災保険法は会計法上の時効なので、援用は要らない。
○森戸委員 でも、労基法のほうでは。
○岩村座長 もちろん労基法は援用は要る。
○森戸委員 これは奨学金ではないけれども、役所が言うのか、言わないのかみたいな。
○岩村座長 災害補償のほうはあくまでも使用者と労働者との関係なので、それは労使の関係の話で、他方で労災保険のほうは会計法上の時効の問題になるので援用は要らないということなので、ちょっと検討してみてください。本邦初公開の問題だと思います。
○森戸委員 やはり早目に労基法のほうを決めないとほかの議論ができないということですね。
○岩村座長 おっしゃるとおりだと思います。逆に言うと、そこのところの解釈を解決しないと災害補償の請求権をどうするかは決まらないという気がします。
○森戸委員 休業補償の最初の3日間は5年間。
○岩村座長 もらえるのか、それともそこは災害補償の特質で、労災給付との並びがあるので、消滅時効はいじれないから現状通り2年のままにするということになるのか。
○森戸委員 そこは労災保険が支給されないところですね。
○岩村座長 そうです。さっきの議論が通るのであれば、別に5年にしたところで影響はないということになるのだけれども、その議論はやはり難しいということになるでしょう。ちょっとマニアックで済みません。すぐそういうマニアックなところに興味を持つものですから。そこはまた議論を整理していただいてということで。
記録の保存なのですが、これはいかがでしょうか。
○森戸委員 保存のコストが相当なものになるという研究会での意見は、これはヒアリングでの話ですね。これもさっき安藤委員がおっしゃったけれども、今の紛争の状況がそのままだったらというお話だったという理解なので、負担が大変ではあると思いますが、法改正すべきでないほどの負担なのかどうかというのは考えたほうがいいとは思いました。
○岩村座長 仮定的な議論として、労基法上の罰則つきの記録の保存義務は3年にとどめておくというのは、あることはあるのかなとと思います。ただ、消滅時効は5年なので、結局5年までは保存しないと企業は負けるというだけということもあります。
他方で、監督への影響ということを考えると、例えば未払い賃金の消滅時効が5年になったときは、監督署としては、賃金未払いの問題というのは消滅時効にかかる5年までは問題となるという理解になるのか、そこは確認させていただければと思います。課長、お願いします。
○長良課長 きょう、監督課長がおりませんので、不確かな回答になるかもしれませんが、もともと監督権限の行使が何年までとか法律で何かが決まっているものではございませんので、基本的には、例えば事業所などに立ち入って把握できた証拠をもとに指導なり是正勧告なりをしていくという形になっています。
刑事訴訟法の公訴時効が一つだけ違うものを除けば全て罰金刑、基準法は罰金刑ですので、そうなると公訴時効は3年というものが制度として存在するということになります。
○岩村座長 ありがとうございます。
ある意味では、記録の保存は公訴時効と平仄を合わせていると言うこともできるだろうという気はします。だから、消滅時効のことはほっといて、ここは3年のままにしておくというのも一つの考え方としてはあるのかもしれない。ただ、企業としては3年で捨ててしまうと、その後、訴訟が出てきたときにはアウト、そういうことではあるということです。
○森戸委員 記録の保存が大変だというのは、私の理解では、時効5年にされたら記録の保存が大変だという文脈だから、時効は5年にしますが、記録は3年にしてあげましたよというのは、経営側はうれしくもないという気もします。もし5年にするのだったら記録のほうも5年にしてもいいのではないかとは思います。
○岩村座長 ありがとうございます。
そういうことも当然あると思います。これは罰則つきなのですね。問題は罰則つきで5年までにするか、そういう話でもあるのです。
○森戸委員 確かに時効の話は別に罰則ではないけれども、こっちは罰則の期間が延びるという意味では非常に重大な話なのです。わかりました。それはちゃんと配慮しなければいけないと思います。
○岩村座長 罰則がかかるというのが誤解であれば申しわけないのですが。
○田中審議官 かかります。
○岩村座長 ありますね。罰則をかけてどこまで保存させるかという話としては、公訴時効との関係で3年というのはあるけれども、民事時効との関係で5年まで保存させるのを罰則をもって強制するかというのはまた違う議論だというのはあるような気がします。
○安藤委員 今、3年はどんな会社でも記録を残しているわけですね。とすると、3年のデータを社員の数は同じだとして5年にすると1.6倍のデータになる。これの負担が大きいかどうかということが実際問題どうなのか、気になります。
例えば大企業とかだったら入退館の記録であったりいろんなデータがある程度は残っていると思います。恐らく問題になるのは中小企業で、紙で記録を残しているようなところが、今、3年分のデータ保存にどのくらいのスペースを使っているのかなど、どういう実態があるのかというところが気になります。
例えば、都心にあるような土地のコストが高いところで大量の資料を山積みにしているのかといったら、恐らく違うのではないか。どこか倉庫みたいなところを借りて預けている、何かそういう実態があるのであれば、先ほど森戸先生がおっしゃったように、5年にしたからといってどのくらいの負担が企業に発生するのか、それが2年を5年にすることを躊躇すべき理由として挙げられるほど大きいのかというと、私もその点については少し疑問に思っています。
とはいえ、では、データをどのくらいとっていますかといったときに、自分個人のデータでも数年前のものとか要らないと思って消しているものもありますし、私が住んでいる集合住宅の入り口やいろんなところに監視カメラがありますが、監視カメラのデータは1週間ぐらいで消えるわけです。どんどん上書きしていく。私が乗っている車にもドライブレコーダーがついていますが、数日分のデータがたまっていって、昔のものから消えていく形で、そんなに気にしないで、とっておかない。
もちろん3年というのは罰則つきだからとっておかなければいけないものですが、どのくらいの精度でどのくらいの人をとっておかなければいけないのかというところが、5年になったことによって企業実務がどう変わるのかということは、企業の方はそれは大変だとおっしゃいますが、客観的に見てどのくらい負担なのかということを確認する必要はあるのかと感じております。
○岩村座長 ありがとうございます。
次が、付加金についてというのがまだありますが。
○森戸委員 付加金は、趣旨としては2倍賠償的な罰、制裁なわけです。普通に考えれば、こっちで5年分だったら5年、倍にできないとおかしいのではないか、もちろん裁判官の裁量だから常にではないでしょうが、というのが通常の考え方かなと思います。
○岩村座長 私もそこは同感で、仮に時効の期間を消滅時効5年に延ばすのであれば、そこまでは延びる。後は裁判官の裁量なので、それによって決めるということかと思います。
残っているものとしてはその他の請求権というのが幾つかありますが。
○安藤委員 済みません。今の付加金についてよろしいですか。日本の法律でこういうピュニティブダメージみたいなものがほかで認められているのはどういうケースがあるのか、気になっています。
と申しますのは、付加金が労働者に支払われるのだとしたら、5年間仮に延ばしたとしたらチャレンジする人が出てくるのではないか。つまり、あえてためにためて、でも払ってくれなかった、付加金をよこせ、裁判所が認めてくれたらどかんとボーナスが発生するみたいな、これはアメリカでも実際ある議論です。ピュニティブダメージをやると乱訴が起こるので、それに対処するために、懲罰的な部分は国に納める。デカップリングという議論がありますね。訴えた側の手元に入るのは1倍の部分まで、3倍賠償を課したときには2倍部分は国庫に納めてしまう。そうすると訴える側の乱訴も抑えられるし、かつ訴えられたことを前提として懲罰の部分を払う側は払わなければいけないので、抑止にもつながる、こういう議論があるわけです。
今回、労働者側の手元に入るとすると、何かその点で行動がゆがんでしまわないかということも気になります。
○岩村座長 おっしゃることはわかります。日本の中で制度的に懲罰的損害賠償は恐らくほとんどないのではないかと思います。金商法関係あるいは会社法関係、独禁法関係でかつてあったかどうかも定かではありませんけれども、余りないのではないかと思います。非常に珍しい規定です。
ただ、アメリカと事情が違うのは、ピュニティブダメージの額の桁が違うのですね。アメリカだと何千ドル、何千万ドル、何億ドルというピュニティブダメージになる可能性があります。日本の場合は未払い賃金を5年ためても、もちろんデフォルトの金額が幾らかにもよりますが、裁判例を見ていても、付加金でもって数千万というのは見たことがないので、そんなに心配はないのかなと思います。
○森戸委員 座長と同じ意見ですが、そんなに心配は要らないと思うのは、裁判所は合理的な範囲におさめるだろうと何となく思っているというのが一つです。
安藤委員がおっしゃるような問題はあり得て、5年分というのも、それこそモルガン・スタンレー・ジャパン事件の人だったら、5年分の2倍だったらまあまあの金額になりますね。もちろんそういうことはないとは言えないと思います。
○安藤委員 座長がおっしゃるように、アメリカみたいに陪審員制で、電子レンジで猫を温めてしまって何億円みたいな、そういうのは日本では起こり得ないですね。
○岩村座長 アメリカはとにかく陪審でピュニティブダメージが幾らになるかというのはわからないというのがあって、そのためにみんな訴訟外でいかに解決するかというのに非常に力を注ぐ、そういうことではあります。
その他の請求権というのもありましたが、さっき見ていてちょっと気になったのは、退職時の証明、これも5年にするのですかね。
○坂本課長補佐 参考資料の5ページに対象となる請求権の一覧表を入れております。
○岩村座長 一覧表があります。帰郷旅費、退職時の証明、退職に伴う金品の返還とか、そういったのはむしろ事の性質上、早目に解決させるというほうがいいような気もしなくもないのですが。
○森戸委員 請求した場合だから、確かに企業としては、労働者が5年ぎりぎりで請求してくることができるようになってしまうというのはもうちょっと。
○岩村座長 ただ、微妙なのです。未払い賃金だって、あのときの5年前の残業命令がという話になったとすると、退職時の証明だって、5年前退職したときのあれを出せというのも、何が違うのだといえば同じといえば同じなので。
○森戸委員 それで何かすごく困るのかどうか、物すごく困ることがなければ原則5年にするというのも考え方としてはありますかね。
○岩村座長 今でも退職時の証明だって2年だから。
○森戸委員 結局、5年間はちゃんといろいろ記録をとっておけというさっきの話になるわけですね。
○岩村座長 そういうことですね。退職時の証明に備えて、今だって2年間は記録を少なくともそれに関しては持っていなければいけないということにはなっているので。
○安藤委員 これを請求する労働者というのは、どういうときに退職時の証明を欲しいと言うのですか。
○岩村座長 解雇されたときに解雇理由を明らかにせよという形で求めるというのが恐らく典型的なケースです。
○安藤委員 次の就職で使うとか、そういうわけではないですね。
○岩村座長 推薦状の意味はないので、あくまでも退職したときの理由が何かを書いてもらうということなのです。一般的に、今申し上げた、解雇の場合の理由を書いてくれということが多いということだと思います。
○森戸委員 安藤委員がおっしゃったように、請求しない事項は書かないことになっているから、次の会社に、懲戒解雇されませんでしたという証明には正式にはならないから、そう考えたら別に2年くらいでもいいのかなという考えもあるかもしれません。5年たって要ることはないだろうと、もちろん考え方はあるということですが。
○安藤委員 これの使われ方次第だと思います。例えば、出産を機に仕事を一回やめましたという人が過去にこういう会社で働いていましたと本人が言っていたとして、次に子供が手を離れて就職活動するというときに、私はこの会社で働いていましたと履歴書に書いたとして、それを証明できますかと言われた。そういうシチュエーションで5年前のデータが残っていたほうが有利になることがあるのかないのか、そんなことを一々証明を求める企業は今の人手不足の時代にほとんどないと思いますが、退職時の証明というのが紛争があったり解雇事由を知りたいということ以外に何か使われているという実態があるのであれば、もしかしたらこれの期間ということもちゃんと考えなければいけないのではないかと感じたわけです。
○森戸委員 ない気がします。結局、今までは全部2年で、何も考えずといったら怒られますが、労基法上の話はみんな2年でやってきたから、それでよかったのだけれども、今回この議論でそれぞれの制度の趣旨は何なのでしょうねということを考え出すと、おっしゃるように、そういう使い方もできなくはなさそうだが、もうちょっと考えると本来そのためのものではないというところに戻ってくる。基本は、退職したときの理由をちゃんと、あるいは退職したということをちゃんと証明してもらいなさいということだから、通常は、やめて一定の期間内に要るものでしょうということに、現行の労基法ですから、少なくとも次の再就職を助けようという趣旨までは直接はないと思います。
○岩村座長 安藤委員のおっしゃるような使い道もあるかと思いますが、余りそういう使い道がされているということは聞いたことがないのです。他方で、仮に賃金の消滅時効を5年にすると未払い賃金として5年までは請求できるので、最後の最後になって解雇無効で争う、退職証明よこせというケースが出てくるかなと思います。そのときに退職証明の消滅時効を2年ということにしていると、その時点では退職証明は請求できない、そういう問題はあるかと思います。もちろん5年もたってから解雇を争うというのがいいのかどうかという価値判断の問題はまた別途ありますが、ただ、現行法上はできます。
○森戸委員 組合に駆け込み加入して請求というのもありますからね。
○岩村座長 あと一番大きな問題は施行期日と経過措置の問題です。民法と合わせるというのが恐らく理想であることは確かですが、これはその後の経過規定との関係をどうするかということとも関係します。確かに企業の実情としては、働き方改革関係の本格的実施が2020年、大企業は来年からだけれども、全体としては2020年4月からというふうになると相当大変であることは大変で、そういったものも同日でやろうとすると、それまでに今度は記録の保存をどうするかを解決しておかなければいけないということはあります。
○森戸委員 契約締結日だと、順番に、昔の人は適用ないけれども、新人から適用になる。再雇用になったら今度は適用になるとか、ややこしくなりますね。
あと、別に集団訴訟ではないけれども、みんなで未払い残業代訴訟をしたら、こっちの人は5年分でこっちは2年分でとか、それはしようがないと思いますが、実際にやるとなると、施行日の話も実は結構重要かなという印象があります。
○岩村座長 施行日は、もちろんどういうふうに適用するかということと絡んでいて、ただ、民法の本体が結局のところ契約の締結日で考えるとなっているので、逆に言うと、こちらの基準法のほうはそれとは違う考え方をとるとすると、むしろそれを説明しなければいけないということになって、そこの説明はなかなか苦しい。そう簡単に理屈は見つからないのではないかという気はします。
○森戸委員 途中で企業再編があったりすると一回切れたりとか、契約が承継なのか新しい締結なのか、契約締結が基準だとするとそういうことになるわけですね。
○岩村座長 企業分割とかのときは、承継型であればそれは新規契約の締結ではないのでそこでは切れませんね。
○森戸委員 でも、新規契約締結型みたいなのもあるから、そうすると切れるのですね。
○岩村座長 そのときは切れる。営業譲渡でやってという形で、新しく契約を結ぶという形をとると、その場合はひっかかる、そういうことにはなります。ただ、新規契約からやったほうが企業の側は余裕は出ることは出ます。今から施行までの間と、施行から順次いくので、いきなり数千人についてどんとやらなければいけない、そういう話ではないということにはなります。
労働時間は大企業は2019年4月ですね。中小が2020年4月。そうすると大企業は2020年でもいいような気がする。
○森戸委員 この話も大企業と中小企業で変えるかという話ですね。
○岩村座長 仮に考えたときに、大企業は2019年4月、つまり来年4月から一応始まる。同一労働同一賃金が2020年ですね。消滅時効の適用が大企業と中小企業で違うというのは余り説明がつかない気はする。
○森戸委員 正直、同一労働同一賃金が企業規模でで違うというのも違和感があるぐらいなので。
○岩村座長 経過措置は民法と同様に契約の締結日に合わせるというほうが素直なのかと思いますね。これは施行日とも関係しますが、企業のほうもそれだけ負担は減るだろうという気はしますね。
最後に、皆さんの感触としては、起算点の問題が客観的か主観的かというのはありますが、消滅時効としては5年という感じでよろしいでしょうか。
○安藤委員 これまで出てきた反対意見というのは主に記録の面であったこと、先ほど私が懸念していた人々の行動がどう変わるのかという点について、森戸委員からも座長からも、そもそも時間把握の話とか別のところで手当てがされていることがあるので、ここで変わるという要素がそれほど、増分、インクリメンタルな部分がほとんど無いのであれば、シンプルに5年でいいのかと今のところ考えております。
○岩村座長 ありがとうございます。
○森戸委員 私はここで前も言ったのですが、逃げるわけではないですけれども、この話は余り理論的な、こうだというのはない気がして、決め事だろうと思っているので、どう決めるかという話だと思います。流れとして民法改正に合わせてということであれば、全然変えないか、5年かという、ある程度選択肢が絞られるとすると、2年というのは、全く変わらないというのは、民法がこっちになったのに、やはり短いかなと思います。といって3年、4年というのも何も根拠がないとなると5年しかあと残っていないという消去法みたいな感じですが、そういう感じはしております。
○安藤委員 森戸委員がおっしゃるとおりで、理屈上これが正解というものがほかの数字を一切参考にせずロジックだけで導き出すことができない分野であるということを認識すると、では民法が5年、これより短くするロジックが何かありますかといったときに、それにかかる費用や実務上の問題をこれまでいろいろ取り上げてきた中で、それほど特別に新たな別のルールを設けるほどのものが、これまで当事者の方にも意見を聞いたところ、提示されなかったというのが私の理解でもあります。
○岩村座長 ありがとうございます。
今回、消滅時効の問題を考える立法事実としては、民法の規定が大きく変わって、その結果として、昔の賃金についての短期消滅時効の1年がなくなってしまったという中で、ではどうしましょうということでして、普通、素直に考えると、民法に合わせるということになります。民法に合わせると労働関係特有の問題があって、5年ではまずいのだという議論は当然あると思いますが、今までヒアリング等で聞いてきた議論を参照しても、労働関係特有でこれをやっては非常におかしなことになるというような説得力のある論拠は余り示されていなかったと私も思っています。そうなるとやはり民法に合わせて5年ということなのかと思います。
しかし、先ほど議論したように、起算点の問題をどうするか、これはやや労働関係特殊の問題があるような気がしますし、それから、記録の保存の問題もどこまで義務的に強制するのかというのと、消滅時効との関係でそこをどう整理するかというのは若干あるだろうという気がします。
それから、施行のところの特に経過規定について、そこは民法と合わせるとすればやはり契約の締結時で始めるという感じであるのかと思います。それをさらに考えて、施行期日について企業にとって生じる負担というのがどの程度かを考慮した上で、そこは最後、決めの問題なのかという気がいたします。
大体御意見は頂戴したような気がしますが、事務局のほうで何かここは聞いていないのでというのがもしあればと思いますが、課長、どうぞ。
○長良課長 論点についてのお話ではないのですが、今日、お集まりくださったのが3名ということで申しわけございませんでした。いろいろ御議論いただいた点と、御欠席されている委員の御意見も伺いながら、次回の日程を含めて、また改めて御相談させていただければと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。
おっしゃるとおりで、御欠席の委員が3人いらっしゃるので、きょう我々がした議論を整理していただいた上で、お三方の先生方の御意見も聴取していただければと思います。
それでは、時間も近づいてまいりましたので、きょうの議論はここまでということにさせていただきたいと思います。
次回の日程ですが、今、課長からお話があったように、後日、日程設定させていただくということでよろしいですね。ありがとうございます。
それでは、これをもちまして、第6回「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」を終了させていただきたいと思います。皆様、お忙しい中を御参集いただいて、活発に御議論いただきまして、まことにありがとうございました。
 

 



 

 

 

(了)

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