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2018年12月3日 第6回複数の事業所で雇用される者に対する雇用保険の適用に関する検討会議事録

○日時

平成30年12月3日(月)15:00~15:50

 

○場所

厚生労働省 職業安定局第1会議室(12階)

○議題

 ○複数事業所で雇用される者に対する雇用保険制度の適用について

○議事

○岩村座長
  それでは、ただいまから「第6回複数の事業所で雇用される者に対する雇用保険の適用に関する検討会」を始めたいと存じます。委員の皆様におかれましては、お忙しい中をお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
それでは早速、本日の議事に入りたいと存じます。議事次第を御覧ください。本日の議題は、「複数の事業所で雇用される者に対する雇用保険の適用について」となっております。まず議題に先立ち前回の検討事項について、回答を用意いただいているようですので、事務局からその説明をお願いいたします。

○ 引田課長補佐
 事務局でございます。
 資料1の1ページです。前回御質問がありました就業形態別の離職者の理由の状況です。
 雇用動向調査による一般労働者とパートタイム労働者の状況でございます
 離職理由について、一般労働者及びパートタイム労働者の「期間の定めなし」のものの理由では個人的な理由が最も高くなっております。また、一般労働者及びパートタイム労働者の「期間の定めあり」のものでも個人的理由が最も高くなっています。
 また、個人的理由としたものを一般労働者とパートタイム労働者で比較したところ、期間の定めなしのもの、期間の定めありのもの、いずれも一般労働者よりパートタイム労働者のほうが高くなっているところです。
 2ページ目は、雇用動向調査の定義を掲載しております。事務局からは以上です。

○ 岩村座長
 ありがとうございました。資料1に基づいて説明いただいたところですけれども、これについての御意見、御質問で何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。
 続きまして、今日は、各論点につきまして、これまでの委員の皆様方の御意見を整理し、全体を通して整合性が取れているか、更に議論を深めるべき点がないかということについて御検討いただきたいと思っております。これにつきまして事務局で資料2を用意しておりますので、事務局から資料の説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○ 田中課長補佐 
 事務局です。お手元の資料2の1ページです。今ほど座長から話がありましたとおり、各回における委員の方々の主な御意見について、当課の責任において整理したものです。
 2ページです。第2回検討会で、マルチジョブホルダーに対する雇用保険の適用につきまして各論点を挙げています。1つ目の論点として、適用の必要性を挙げたところですが、それについて各委員から出た御意見を整理したものです。まず、マルチジョブホルダーと一口に言いましても、例えば本業が会社の役員でおられるような方もいれば、パートを重ねておられるような方々もいらっしゃるということで、その業については様々です。そういった方について雇用保険で保護すべき失業についてどのように考えるかという内容です。
 1つ目の○ですが、2つの仕事を持っている方のうち、1つを失ったときに、それがどの程度生活に影響するかという問題を考える必要がある。例えば、フルタイムで働いておられるサラリーマンの平均程度の年収水準の方が、さらにプラスアルファーで兼業している場合、その兼業分についての雇用を失ったときに、雇用保険でそこをカバーする必要があるのかといった御意見がありました。
 2つ目の○ですが、いずれの仕事も週所定労働時間20時間には満たない、すなわち雇用保険が現行適用されていないが、合算すると20時間以上の人たちについてどう考えるかということと、既に30時間あるいは40時間働いておられて、更にプラスアルファーで副業をやっている方をどう考えるかということについては、やはり取り上げる側面や性質が異なるのではないか。一般にマルチジョブホルダーと言いますと、イメージとしては、後者の40時間働いていて、更にプラスアルファーで副業を行うという、最近言われておりますようなクリエイティブな仕事との兼業という側面もありますが、そこを雇用保険で保護する必要があるのかといった御意見が出されました。
 続きまして、今ほど挙げた例では前者に当たりますが、マルチジョブホルダー、いわゆる現行雇用保険が適用されておらず合算によって週所定労働時間が20時間以上となる方々に対する適用についてということで出た意見です。
 まず、1つ目の○です。具体的には合算の対象となる雇用をどの程度とみるかということに関する意見だと認識しておりますが、2行目の「例えば」のところにありますとおり、1つが19時間で、もう1つが2時間といった仕事をしておられる方の場合、2時間の仕事に対して雇用保険でカバーする必要があるのかといった意見が出ていました。
 次に、2つ目の○です。2つ以上働いているけれども、どれも週所定労働時間20時間に達しないために雇用保険の適用とならない方々、2つ以上合わせれば適用対象になるといったマルチジョブホルダーについては、検討会で御議論しましたデータをもとにしますと、対象者が少ないという状況が見て取れるのではないかといった意見がありました。こういったことを考えますと、所定労働時間を通算して適用対象にしたとしても、そのほかの事務的な変更などのコストをどう考えるかといった意見です。
 最後の○です。検討会で行ったヒアリング等を踏まえての意見ですが、週所定労働時間30時間働いた上で、生活のために収入が足りないので副業している方は、現行の仕組みでも雇用保険は適用されていると考えられます。一方で、週所定労働時間20時間未満で働いている方々は、就労調整をしている被扶養者の方が多いような印象もあったという意見です。そうならば、雇用保険制度の目的からすると、保護がどの程度必要になるのだろうかということについては疑問が残るという意見でした。それに対して、その意見とセットで紹介がありましたが、3ページの1つ目の○です。独身者やシングルマザーの方を想定して、何らかの制約で、週所定労働時間20時間未満の仕事を2つ重ねており、トータルでは20時間を超えてくるといったケースで、どちらか一方の仕事を失った場合、どうするかという課題は残るということです。一方、2つの仕事をしているマルチジョブホルダーが、1つの仕事を失って20時間未満になったというケースについて、雇用保険の基本手当という枠で、喪失分の所得の一部の保障するのか、むしろ雇用保険とは別のメカニズムで考えるのかといった制度設計自体の問題は、大きな観点からすると存在するといった意見もありました。
 その次の○ですが、やはり雇用保険であれば当然、労働者側も雇用保険料を負担することになりますので、もともと賃金水準が低い労働者の雇用保険料はさほど高くないと考えられますが、手取額が減ることについては考慮する必要があるといった意見です。
さらに最後の○ですが、現状では、シングルマザーであるマルチジョブホルダーの割合が少なかったとしても、今後その増加が蓋然性をもって予測できるならば、先立ってセーフティーネットを準備するという意味合いもあるのではないかといった意見もありました。
 4ページです。第2回で示した論点のうち、具体的には適用に関する制度設計について、それぞれ個別の論点について議論しましたが、その紹介です。
 4ページの1番目ですが、適用事業の範囲についてどうするかということについて議論しました。これについては、特に異論はなかったと認識しておりますが、現行の雇用保険制度の整合性を考えても、どこかの業種に絞ることは考えにくいだろうという意見です。
 2番目の適用基準に関する意見ですが、前回も紹介しましたが、大きく2つの考え方で、意見を並べております。(1)ですが、労働時間を合算して20時間以上となる場合、合算して適用する場合についての意見です。前回も紹介しましたが、1つ目の○と2つ目の○は、やはり合算の適用を前提とした場合は、一般の被保険者とのバランスが問題になるだろうということに関する意見です。
 1つ目の○です。週所定労働時間でA事業所が15時間、B事業所が10時間、合算させて20時間を超える場合、A事業所を離職すれば給付が出ることを前提としますと、仮にA事業所20時間、B事業所5時間、合算すると25時間で同様ではありますが、既にA事業所で雇用保険が適用され、B事業所を離職しても、引き続き週所定労働時間が20時間を超えますので、同じ合算した労働時間なのに一般の被保険者については給付が出ないということで、適用のあり方で大きな差が出るといった意見があったところです。
 3つ目から5つ目ですが、合算適用とした場合の合算の範囲についての意見です。
 3つ目の○は再掲ですが、2行目の「例えば」以下の部分です。1つが19時間で、もう1つが2時間といった仕事をしている場合、2時間の仕事に対して雇用保険でカバーする必要があるのかといった意見です。4つ目の○です。副業しても2番目ぐらいまでの合算で十分に労働者をカバーできるということで、多くの仕事をしている人も、労働時間が短い雇用は対象とはしないが、最も労働時間が長い2つの雇用については失業すれば基本手当がもらえるということで、こういった形で十分ではないかといった意見もありました。
 最後の○です。事業所の合算について、2つ、3つの事業所であっても、90%以上が週所定労働時間20時間に包括できて、副業の数が多い方が低収入であることもデータ上確認されませんので、合算対象を4つ、5つと拡大していく必要はないのではないかという意見です。
 5ページです。(1)で説明しました合算での適用に対して、(2)として現行の適用基準である週所定労働時間20時間自体を引き下げることについてです。先ほど申し上げましたとおり、合算を念頭におきますと、一般被保険者とのバランスが問題になるという意見が出ておりましたので、そういったアンバランスを避けつつ、マルチジョブホルダーに雇用保険を適用させるとなると、週所定労働時間20時間という適用基準そのものを下げることを考えなければならないのではないかという意見でした。その場合、マルチジョブホルダーのみ適用基準を下げることは、オペレーションの観点から難しいと考えられるので、区別せずに一律に下げるしかないのではないかといった意見が出ております。
 1つ飛ばして3つ目の○ですが、このように適用基準を下げることを考えますと、当然現行の雇用保険の根本的な考え方、すなわち、自らの労働によって主たる生計を維持していると考えられる労働者を保護するといった考え方を変更することになりますので、具体的にどのような時間設定をするかを含めて留意が必要であるといった意見も出ておりました。
 続きまして、3.適用の強制性に関する御意見です。任意適用とした場合、やはり結局、自分は失業しそうだと思う方が雇用保険に加入する可能性が出てくる、雇用保険の場合、もともとは辞職、この場合は自己都合の離職の場合についても給付が一定の要件の下で認められるという状況です。モラルハザードが非常に起きやすい制度と言えるので、やはり強制適用で考えざるを得ないのではないかといった意見が出ておりました。
 次の○ですが、週所定労働時間20時間という要件を、例えば10時間に引き下げた場合には、10時間以上の労働者を事業主が雇用した際にハローワークに届け出れば強制適用が担保される。しかし、合算での適用ということを考えた場合は、その人が雇用保険の適用になるかどうかは、複数の事業所での週所定労働時間を合算しないと分からない。こういったことについては、副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会でも報告しましたが、事業主の異なる場合についての通算に関する労働時間の把握の仕方を何らかの形でルール化されるなりシステム化されれば、それを使って適用対象となるかどうかを判断することになるだろうといった意見もあります。
 続きまして次の○です。マルチジョブホルダーの週所定労働時間を網羅的に把握することは技術的にかなり難しいので、強制適用の場合、常にリアルタイムで個人の雇用の動きをキャッチできるような制度を仕組めるかどうかが課題として残るのではないかという意見もありました。
 5ページの一番最後です。任意適用では、雇用保険の負担を嫌がって、事業主が届け出を行うことをためらうことも想定されるのではないかという意見です。
 6ページです。具体的な適用を考えた場合の保険料率の設定は現行の一般被保険者の失業等給付分で1,000分の6ですが、そういった保険料率の設定や徴収業務についてどのように考えたらよいのかという論点を提示しておりました。
 1つ目の○にありますとおり、労災保険のように、業種ごと、あるいは事業所ごとに保険料率が変わってくるという仕組みについては、あくまでも保険事故を抑制するというインセンティブがあって意義のあるものとなりますので、マルチジョブホルダーに関しての雇用保険の適用を考える場合には、同様のインセンティブを付与するという側面はないため、一般被保険者よりもマルチジョブホルダーの料率を高くするといったことは考えられないのではないかという御意見です。
 2つ目の○及び3つ目の○も同様の趣旨で、やはりマルチジョブホルダーの保険料率を高くすることでは、雇用保険のセーフティーネットの機能としていかがなものかといった御意見です。
 7ページ、給付に関する制度設計です。1番目に、求職者給付の保険事故の設定についての意見を挙げております。
 1つ目の○は、適用基準を引き下げるという方法での適用を考えるならば、今まで失業等給付が支給されていた一般被保険者の中には、不利益な変更となってしまう方が出てくるのではないかといった指摘がありました。
 2つ目の○は、合算の適用の場合についてです。2行目の「例えば」の所ですが、A事業所(15時間)とB事業所(10時間)で働いているマルチジョブホルダーについて、A事業所を離職したと仮定すると、その時点で、マルチジョブホルダーの被保険者資格は喪失となりますので、この時点で保険事故の発生と考えないならば、その後B事業所の離職を「保険事故の発生」と捉えても、給付を受けられない可能性が出てくる。すなわち、この場合はA事業所の離職を保険事故の発生と捉えないと不合理な事態が生じるのではないかといった御意見です。
 2番目として、具体的な求職者給付の給付方法です。第2回の検討会の論点では、基本手当方式か、一時金方式かという形で挙げておりました。
 1つ目の○ですが、基本手当方式を採用する場合、マルチジョブホルダーについては、一方の雇用が継続している状態で保険事故が発生しているというケースがベースになると想定されますので、内職減額の発生を考慮することが難しいのではないか。さらに、失業認定についても、現行制度では、ハローワークの指定した認定日に来所することを前提としておりますので、有給休暇を取らなければ困難になる方が出てくるのではないか。認定日の変更などの柔軟な対応ができるように考えなければいけないのではないかといった御意見もありました。この点につきましては、立法の趣旨から現行の一般被保険者にも認めていないような失業認定の柔軟な運用を認めていくと、立法趣旨にかなった制度運用ができなくなる可能性があるのではないかといった指摘も頂いています。
 その下の○ですが、一時金方式の部分です。一時金方式を採用した場合には、年齢等に応じて給付日数を変えるとか、それを一律にするとか、そういったことについて別に検討する必要があるのではないかという御意見です。この点につきましても、現行の高年齢求職者給付よりも給付日数を高く設定するというのは、高年齢者とマルチジョブホルダーの性格から説明が難しいのではないかという意見です。
 最後の○ですが、一時金方式を取った場合は、マルチジョブホルダーをハローワークでグリップすることが困難であって、求職活動をしなくても把握できない、すなわち、モラルハザードが起こりやすいといった問題があるのではないかといった御意見です。
最後のページ、3番目は、賃金日額の算定、すなわち、求職者給付のベースになります基本手当日額の算定の基礎になる賃金日額の算定方法に関する御意見を掲載しております。
 1つ目の○ですが、失業していない事業所の賃金も賃金日額として合算すると、過大な給付になってしまうと考えられますので、現行の内職減額の仕組みを超えて、継続する雇用に関する賃金を減額する仕組みが必要であるといった意見。さらに、賃金日額を合算すると、雇用に変動がない事業所にも資格喪失届出に加えて離職票を作成してもらうといった事務が増えるのではないかといった御意見です。
 4番目ですが、自己都合離職について御議論いただきました。この点につきましては、雇用保険である以上、やはり強制適用が原則であると考えますと、明確にマルチジョブホルダーは自己都合で離職する割合が高いといったエビデンスがない現状であれば、マルチジョブホルダーと一般被保険者で自己都合離職に関する取扱いを変える必要性はないのではないかといった御意見です。
 最後に5番目ですが、求職者給付以外の教育訓練給付と、雇用継続給付につきまして具体的に給付の要否についての議論をしたところです。1つ目の○です。教育訓練給付につきましては、マルチジョブホルダーのような収入が不安定である方こそ、積極的に能力開発をすべきであって、受給を認めるべきではないかといった意見が多かったと認識しております。
 2つ目の○は、育児休業給付につきまして、一般被保険者では部分的な就業を行った状態では育児休業とは考えておりませんので、そのバランスの観点から、マルチジョブホルダーも一部の事業所で就業を継続する場合は、給付を認めていくのは難しいのではないかといった御意見でした。もし、こうしたものを認めていくということであれば、現行の育児・介護休業法自体も、このような働き方を前提として見直していく必要があるということです。
 最後の○ですが、マルチジョブホルダーが片方の事業所で育児休業を取得したが、残る事業所では休業を取得できずに育児を理由として事業所で就業継続を断念したという場合、現行制度を前提とすると、育児休業給付の支給にはならず、基本手当も求職活動を再開する段階での給付となるということの確認があったところです。
 長くなりましたが、第2回検討会で掲げました各論点につきまして、御意見を整理したものです。事務局からは以上です。

○ 岩村座長
 ただいま資料2について、事務局から説明がありましたが、これについて御意見あるいは御質問があればお願いしたいと思います。

○ 酒井委員
 個々の項目に関しての質問ではなく、これまでの議論の補足的な意見となりますが、2点あります。これまで事務局のほうで、データの分析をいろいろな形でたくさんしていただきました。その中で現状では、マルチジョブホルダーへの適用拡大の必要性は必ずしも高くないのではないかという見方も出たかと思います。しかし、そのことが全てのマルチジョブホルダーが職を失っても、何らセーフティーネットを必要としないわけではないというところは押さえておきたいと思います。ただ、そうであっても、雇用保険の適用拡大によってマルチジョブホルダーを救済すべきかどうかという議論は、またちょっと別な問題ではないかと思います。
 具体的には、マルチジョブホルダーの失業・離職に対しては、例えば求職者支援制度による支援があるかもしれません。求職者支援制度だと、保険料の拠出が前提となっていませんが、求職者支援制度あるいは職業訓練といった形での支援もあり得るのではないかと。場合によっては、そういうほうが支援として有効ではないかということもあるかと思います。その点は全体に関わることだと思いますが、1つの論点として押さえておくべきかと考えます。
 もう1点は、給付額に関しての議論があったかと思います。その中では給付日数に関しても議論に上ったかと思うのです。特に、一時金方式を採用した場合の給付日数については、前回までの議論を踏まえると、高年齢者求職者給付の一時金とのバランスを勘案して決めることになりそうです。そういうことなので、実施した場合にも給付日数が長くなることは決してないかと思うのですが、経済学の知見というか、経済学の立場から言わせていただくと、やはり給付日数が長くなり過ぎるのは慎重になるべきではないかと考えております。というのも、給付額よりも給付日数のほうに失業期間が反応しやすいということが言われます。すなわち、給付額を手厚くしても失業期間はそれほど延びないけれども、給付日数を延ばすと如実に失業期間が延びてしまうという研究が多数報告されています。
 残念ながら、給付日数が長く失業期間が長いほど良い仕事を見つけているというエビデンスも、現時点で確たるものがないというのが実証研究の結果なのです。多分、そういうことにはならないと思いますが、やはり長すぎる給付期間というのは慎重に考慮すべきであるということです。一時金についてはモラルハザードが発生しやすいということが挙げられていましたが、その補足として、研究の知見からということで述べさせていただきたいと思います。

○ 岩村座長
 付け加えると、我が国の場合は再就職手当が非常に効いているのです。実は、あれが受給期間を短くして、なるべく早く再就職するということに非常に有効に機能しています。正に今おっしゃったところだろうと思います。ほかにはいかがでしょうか。

○ 中野委員
 資料2の最後のページ、自己都合離職の場合の給付制限の議論についてです。前回の検討会の場では、資料2にまとめられているように、雇用保険は強制適用が原則であるということを前提として、特段のエビデンスのない限りは一般被保険者と区別をする必要はないのではないかという議論がなされました。しかし、今日の資料2の5ページでまとめていただいている、適用の強制性に関する議論を振り返ってみますと、確かに理念的には強制適用が原則ですが、現在の労働時間の管理の在り方を前提とすると、いろいろ課題があるという話であったかと思います。
 そのときの議論の中で、試しにやってみる、試行するということが必要ではないかという話があったと記憶しております。労働時間の把握方法がない現状において、もしもマルチジョブホルダーに関して雇用保険の適用を試行するということを考えるとなると、本人からの申出を適用の契機とせざるを得ないのではないかと思われます。その場合は、モラルハザードの防止という観点からしても、結局、給付制限について何らかの工夫をする必要があるのではないかと思います。

○ 岩村座長
 前回、強制適用の議論をしていたのは私だと思うのです。私自身は雇用保険そのものを考えるときには、強制適用が基本だろうと思っています。ただ、マルチジョブホルダーについて、どう制度設計をしていくかということを考えたときに、中野委員がおっしゃったように、また今日の資料2でも出ていたように、今、検討はしているけれども、労働時間の通算を把握する方法が、少なくとも現状ではないのです。だとすると結局、マルチジョブホルダーについて直ちに強制適用というのは難しくならざるを得ないかと思っています。そうなると、試行としてやってみるという段階では、御本人から手を挙げてもらってという形で、そういう方法に依っていくしかないかなという気はしているところです。

○ 中野委員
 念のために申し上げておくと、私も強制適用が原則であるというところは同意していますので、もし本人からの申出を契機に試行をするならばということです。

○ 岩村座長
 そうですね。本人から手を挙げてもらってとなると、正におっしゃるように、今度は逆選択の問題なども発生するので、その辺をどうコントロールするかというのは、どうしても出てくる問題かと思います。ただ、トライアル(試行)でやるのだからそこは目をつぶって、逆に逆選択がどのくらい出るかというのを、それで検証するというのもあるかもしれないですよね。ほかにはいかがでしょうか。

○ 渡邊委員
 資料2の最後の所です。求職者給付以外の給付に関して、教育訓練給付と育児休業給付はまとめがあり、この資料には介護休業給付はありませんが、基本的な考え方は、育児休業給付の場合と同じだろうと思います。決定的に出ていないのが、高年齢雇用継続給付に関してどうするかという議論だったと思います。高年齢雇用継続給付に関しては、60歳定年制の下でその後も継続して雇用されていた場合に、定年前、60歳前の賃金から60歳以降では大幅に賃金が下がることを前提として、雇用を確保するために、正に雇用を継続するためにということを目的として設けられた給付であることを考えますと、マルチジョブホルダーに関して、この給付をすべきかどうかというのは、制度の趣旨と違ってくるのではないかと考えております。
 事務的にも定年前と定年後の賃金を比較して、低下があった場合に給付をするという仕組みからすると、マルチジョブホルダーの場合は何と何を比較するのか、どことどこの事業所の賃金を比較するのかというところでも問題が生じてくるのではないかと思います。そう考えますと、高年齢雇用継続給付の支給を認めるかどうかということに関して、個人的には否定的な意見を持っているのですが、ほかの委員の御意見もあれば伺いたいと思います。

○ 岩村座長
 私は、雇用保険部会でも発言しているので問題ないと思いますが、個人的には高年齢雇用継続給付は、なるべく早くやめたほうがいいという意見です。逆にマルチジョブホルダーを含めるとすると、高年齢雇用継続給付については余計に、その問題が発生するかなと思います。ほかにはいかがでしょうか。

○ 酒井委員
 ちょっと細かい話で恐縮ですが、先ほどから強制適用か任意適用かという議論が出ています。ここでの任意適用というのは、いわゆる自己申請方式ということで、自己申請するということと同義で使っていると思うのですが、よく考えてみると、任意適用イコール自己申請なのかは疑問に思いました。任意適用になるとほぼ100%自己申請にならざるを得ないというロジックは分かるのですが、ここでの書き方として、例えば、任意適用という言葉の後に括弧を付けて、「自己申請方式」と書いておいたほうが、場合によっては分かりやすいのではないかという気はします。何か事務局のほうのお考えがあって、そうしていないということであれば、それでも構いません。
 もう1点、よろしいでしょうか。ここまでの議論で、本当にいろいろな適用や給付のパターンに関して、何が起きるのかを議論して考えてきたわけです。それでも場合によっては考えきれていない可能性もあるのかなという懸念はあります。1つ例を挙げますと、前回までの議論で、部分失業について、我々の中であまり意識していなかった離職者・失業者の行動があるかと思います。1つの仕事だけを失った場合に、当然ながら失った仕事のために職探しをするということを前提に議論をしていたと思うのですが、離職者の行動としては、既に失われたほうの仕事を探すというよりは、残っている仕事のほうの労働時間を長くして正規雇用になるとか、そういったビヘイビアも考えられるかと思うのです。
 当然ながら、現行の考え方を適用していくと、それは求職活動をしているわけではないので失業認定はされないことになります。私がここで述べたいのは、別にそれを失業認定すべきではないかということではなく、離職者の行動がどのようになるかというのは、完全に予測しきれない部分があるのではないかと思います。先ほど岩村座長からもお話があったように、やはり十分に慎重に配慮した上ではありますが、部分的であれ、何らかの形で試しに制度をスタートさせてみて、時間が経たないうちに一定の評価をして再設計するという視点も必要ではないかと考えております。

○ 岩村座長
 2番目の点については、私もそういう考えを持っています。とにかくマルチジョブホルダーに雇用保険を適用した結果として、マルチジョブホルダーの人たちの行動がどう変わるかというのは、あまり明確に予測できないところがあります。そういう意味で、まずは最初に試行的にやってみて、少し実証データを得た上で、どうしましょうか、本格的に実施しますかと。それで本格実施をするときの制度設計としては、どういうものがいいかというのを検討するのが賢明なのかと、私もそのように思っているところです。
 前者については、事務局がどう考えているかというのはありますが、社会保険の場合、「任意適用」と言うと、幾つかのタイプがあります。本人手挙げ方式というのは、例えば労災保険の特別加入です。健康保険だと、適用事業所でない所が手を挙げて「適用」というのもあります。厚生年金には、任意単独があります。あと、国民年金も手挙げ方式という形で、「任意適用」と言っても幾つかのパターンがあるだろうと思います。
 今ここで前提としたのは、任意加入の幾つかのパターンの中で、どちらかと言うと労働者側の手挙げ方式ですよね。他方で、事業主側からの手挙げ方式もあります。事業主側からの手挙げ方式だと、健康保険や厚生年金の例を取ると、事業者が手を挙げてしまうと、その事業所については任意適用だけれども、労働者に関しては強制適用になってしまうという形を取るので、またタイプが違うということになります。そういう意味で、少なくともここで議論をしてきたのは、任意適用の中で労働者個人の手挙げ方式を前提として議論をしてきたのではないかというように、私は理解しております。

○ 渡邊委員
 先ほどの酒井委員のお話のところで、マルチジョブホルダーが片方の職を失ったときに、そのあと本当に求職活動をするかどうか分からないというのは正にそうだなと思いました。同じように、マルチジョブホルダーの方の行動として、片方の事業所の職を失ったら、もう一方も辞めてしまって、次は正社員の職を探しましょうということが出たときに、AとBの喪失の時期が少しだけ違う、微妙にずれているといった場合、どこまでだったら一体として扱うのかというのは考えてこなかったなという気がしたのです。

○ 岩村座長
 それは全くおっしゃるとおりです。しかも、その場合に、AとBの離職の理由が違うのです。だから先に部分失業になってしまったけれども、この際だから正社員の職を探そうということで、もう1つのほうも辞めてしまうと、そのままだと自己都合退職になって、3か月の待機が入ってしまうのです。そういう問題があるので、確かにおっしゃるとおり、それも論点としてあります。

○ 中野委員
 前回の議論を前提とすると、今の例の場合は、保険事故の発生をどこで捉えるかという問題で、最初のA事業所を辞めた時点で20時間を下回るから保険事故だと言うのであれば、その時点で被保険者資格も喪失するので、その後にB事業所をどのような理由で辞めようが関係してこないのではないでしょうか。

○ 渡邊委員
 ただ、そのときの給付を一時金とするにしても、本当にタイムラグがほとんどないときに合算する、しないというところもありますが、ベースは合算しないとして、すぐ後に辞めたということになると、逆に合算しないと、おかしなことになる。

○ 中野委員
 ほぼ同時期に辞めたとなると、そうですね。

○ 岩村座長
 そうすると、正に先ほどの議論に戻って、マルチジョブホルダーの人たちの離職行動がどう変わるかという問題で、一方を辞めるという状態になったら、直ちにもう一方も離職してしまったほうが、給付としては得かもしれないということになるのです。

○ 中野委員
 あと、先ほどの話に絡むのですが例えば、合計20時間で雇用保険に入れますという仕組みを用意したときに、マルチジョブホルダーの人たちがどう行動するのか。つまり、20時間以上働いて雇用保険に入ろうというように動くのか、それとも健康保険や厚生年金保険でよく言われるように、保険料の負担を嫌って、むしろ就業調整をしてしまうのかということもあると思うのです。ですから、どのぐらいこの制度が必要とされているのかということや、マルチジョブホルダーとして働いている人たちの意向を知るためにも、やはり試行するのが有意義なのかなと思いました。

○ 岩村座長
 ただ現在のところ、部分的に社会保険の適用拡大をやっていますが、当初危惧されたほどの就業抑制は起きてないと、一般的には言われていると思います。というのは、やはり20というラインが比較的低いので、そこより下に就業抑制ということになると、なかなかやらないというのと、むしろ今は景気が良くて人手が足りないので、適用拡大をして人手を集めるほうが良いというのが恐らく影響していると思います。ほかにいかがでしょうか。事務局のほうで何かありますか。

○ 松本雇用保険課長
 今日、相当追加的に御議論いただきましたので、私どもとしては十分御意見を頂戴できたつもりでおります。

○ 岩村座長
 もし、特にその他ということがなければ、ここまでの議論で今日、資料2で事務局にまとめていただいたものに加え、幾つか追加的にも御指摘等を頂きました。それで第2回にお示しした適用の必要性と適用等給付という各論点について、委員の皆様からの御意見は、ほぼこれで頂戴できたかと考えております。
 私のほうで委員の皆様からのこれまでの御意見を振り返ってみますと、まず適用基準については、合算方式と基準引き下げ方式という2つの方式について御議論を頂いたように思っております。基準引き下げ方式を採用するとした場合には、適用の仕方というのは現行の一般被保険者と同じことになりますが、その結果として一般被保険者の保険事故の考え方が変わるということがありますので、その点をどう考えるかという論点が提示されていたと思います。また、適用基準については合算方式を採用するとした場合には、マルチジョブホルダーへの雇用保険の適用の仕方として不自然さはないように思っています。他方で、現状では労働時間の把握が困難であるため、強制適用の実現というのが非常に難しそうということだったと考えております。
 そこで、現時点での実行可能性を考えますと、今日も御議論いただきましたが、労働者御本人からの申出をベースに適用するということを検討しなければいけないのかなと考えます。しかし今日の議論でもありましたように、やはり逆選択の問題の懸念というのが、どうしても出てくるかと思います。制度給付の設計については、明確にこの方式しかないという案には、なかなかいかなかったと思いますが、マルチジョブホルダーの場合は、基本的に手挙げ方式だと内職の減額の問題や失業認定との関係をどうするかという問題があるので難しいという議論があったように思います。
 一方、一時金方式だと、このような問題は生じないという点では楽ですが、他方で給付水準をどう考えるか、モラルハザードのリスクをどうするかといった議論もいただいたように思っております。また、賃金日額についても各事業所の賃金を合算しますと、何らかの減額の仕組みが必要であるということや、そもそも事業所の事務負担はどうなのかという懸念の御意見もあったかと思っております。
 適用と給付については今、私のほうで大体まとめさせていただいた意見が出ていたように思います。こうした意見を組み合わせることによって、おおむね適用から給付までの基本的な制度設計が組み上がっていくのではないかと考えます。
そこで、皆様の御意見を伺いたいのですが、次回に向けて私と事務局で相談をして、今まで委員の皆様からいただいた御意見を整理した上で、皆様にお諮りしたいと考えておりますが、次回に向けての進め方としては、そのようなことでよろしいでしょうか。
ありがとうございます。それでは、そのように進めていきたいと思いますので、事務局におかれましては、それに必要な資料の準備をお願いしたいと存じます。よろしくお願いいたします。
 予定よりは大分早いのですが、御意見も尽きたということで、本日はここまでとさせていただきたいと思います。事務局から連絡事項がありましたら、お願いしたいと思います。

○ 引田課長補佐
 次回の検討会の日程は、決まり次第、御連絡をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

○ 岩村座長
 それでは、これで第6回複数の事業所で雇用される者に対する雇用保険の適用に関する検討会を終了させていただきたいと思います。今日はお忙しい中をお集まりいただきまして、誠にありがとうございました。

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