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2019年5月15日 第32回ILO懇談会議事概要

大臣官房国際課

○日時

令和元年5月15日(水)15:30~17:30

 

○場所

厚生労働省共用第9会議室(20階)
 

○議題

1 第335回ILO理事会について(報告)
2 未批准条約について
  第111号条約(差別待遇(雇用及び職業))
  第155号条約(職業上の安全及び健康)

○議事

1 第335回ILO理事会について
政府側から、資料に基づき説明を行い、その後意見交換が行われた。
 
(使用者側)
2点、申し上げたい。予算議題については、真に賛成を得た結論であったのか疑問である。総会に提出される予算案について、日本政府がどういった投票行動を行うのか教えてほしい。2点目は、100周年の成果文書の議題について、現在ILOのウェブサイトに討議資料が出ているところ、総会前に政労使で意見交換ができればありがたい。
 
(政府側)
予算の投票行動については、諸般の事情を考慮し判断する。100周年成果文書の議題の政労使打合せについては、また検討の上、相談させてもらいたい。
 
2 未批准条約について(1)第111号条約(差別待遇(雇用及び職業))
政府側から、資料に基づき説明を行い、その後意見交換が行われた。

(労働者側)
日本政府は、批准に向けた進展がない状況をどう捉えているのか伺いたい。厚生労働省、他省庁も含め、批准に向けたロードマップを作るなどの努力をしてもらわなければ、この問題は前に進まないと考える。ILO理事会に提出されている未批准の基本条約のフォローアップ報告においても、日本は批准するつもりがあるのか明らかではないと指摘されていると承知している。政府が、条約を批准するために、政労使で協議をすべく開催する、というのが本来の当懇談会のあり方だと思うが、現在はそういう形になっていない。今年はILO創設100周年の年でもあるため、批准に向けた道筋を明らかにしてほしい。どのようなスピード感で検討を行っているのかを聞かせてほしい。
日本が基本条約をすべて批准していないことは、対外的にも、特に関係が深いアジア諸国に影響があると考える。そういった状況を踏まえても日本が率先して批准すべき。もっと言えば、ILOで影響力のある立場を得るためにも、批准に向けて努力することが必要である。
最後に、韓国とEUとのFTAについて、「中核的労働基準の批准に向けて継続的に努力する」という項目があるが、韓国が約束を果たしていないので、EU側がしびれを切らして紛争解決手続に入っていると聞いている。日本もEUとのEPAの中に同じような項目が入っていると思うので、韓国と同じことにならないよう、早期に第111号条約の批准に向けて努力をしていただきたい。
 
(政府側)
当該条約の批准を検討する中で、各国の制度や適用状況も確認しているが、日本は公務員法制の課題があり、前に進まない状況。
韓国の教員の政治的思想に関する今年3月の専門家委員会のオブザベーションについては、教員の政治的行為の制限についてかなり厳しい意見を出している。新しい資料及び材料については引き続き勉強し、参考にできるところは参考にしていきたい。外務省とも意見交換をしているところである。
EUとの関係では、日本とEUが結んだ協定では、「ILO条約のうち、それぞれが適当と認めるものについて批准に向けて努力すること」とされており、基本条約を批准することが直ちに義務づけられているわけではない。EUは市民社会の声が大きく、EU関係者と会うたびに条約の批准について質問されている。協定は発効したため、今後は、EUに対して説明等していきたい。韓国とEUの状況も注視していきたい。
 
(使用者側)
「対象となる7つの差別事由(人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身又は社会的出身)に基づく差別待遇の除去について、民間は担保できている」というのは、雇用における全ての段階で指導ベースのものも含めて概ね対応できているという整理なのか。例えば、「雇用及び職業」に含まれると解される「職業上の訓練を受けること」、「雇用されること及び個々の職業に従事すること」及び「雇用の条件」について、7つの対象となる差別事由に基づく差別待遇を除去することについては指導ベースも含めて対応できているのか。
 
(政府側)
条約第3条(b)に規定されている「「国家の方針」の承認及び遵守を確保するに適当とされる法令を制定し、かつ、そのような教育計画を促進すること」は、漸進的に実施することができるとされており、法令上規定がないことをもって課題になっていることにはならないと考えられる。他方、条約第3条(c)に規定されている加盟国は、差別待遇を除去し、雇用又は職業の機会及び待遇の均等の促進を目的とする国家の方針と両立しない全ての法令の規定を廃止し、行政上の全ての命令又は慣行を修正することについては、この条約で言う差別に該当する規定が国内法制にある場合には、廃止する必要がある。民間については、妊産婦等の女性に関する就業制限を設ける規定を精査が必要な法令としているが、母性保護条約と整合的であることから、差別に当たらないという方向で整理ができるかどうかについて検討中である。それ以外のところでは、公務員の政治的行為の制限について、条約との整合性について慎重な検討が必要である。
 
(労働者側)
公務員法制に関する課題を除くと、第111号条約に規定されている「国家の方針の承認及び遵守を確保するに適当とされる法令を制定すること」への対応について、担保できているという判断は、誰が、いつ、どのように行うのか。
 
(政府側)
「国家の方針と両立しない全ての法令の規定を廃止し、かつ、行政上のすべての命令又は慣行を修正すること」という部分は別だが、雇用及び職業における差別待遇の除去は、募集・採用段階を除き、法令に規定があるので担保できていると考える。募集・採用段階においては、性以外に基づく差別待遇の除去を規定する法令はないが、指導・啓発を行っている。これをもってすれば現行法上、募集・採用段階における差別禁止は限定的であるが、問題にはならないと考えている。外務省とも相談しながら政府として進めており、「差別待遇を除去し、雇用又は職業の機会及び待遇の均等の促進を目的とする国家の方針の承認及び遵守の確保に適当とされる法令を制定すること」については、ほぼ担保していると理解している。
 
(労働者側)
後から他の問題点が出てくることはないか。
 
(政府側)
最終的に条約の解釈権をもつのは厚労省ではなく外務省の国際法局であるが、今ご説明した「ほぼ担保している」という見解は外務省国際法局と協議をした上でのものなので、問題ないと考えている。
 
(労働者側)
どういうタイミングで何を見直していくかについては、日本政府が批准しようと決めてから、検討し始めるものなのか。
 
(政府側)
公務員法制について、例えば外国において、管理職員の政治的行為は禁止するが一般職員は制限しないといった制度があるところ、日本においても議論の方向性がそのように定まれば別だが、今の状況では批准に向けて動き出すことはなかなか難しい。
 
(使用者側)
既に批准している第100号条約の日本における履行状況に関して、ILOは男女の賃金格差について問題視している。賃金格差があるということを主張する際には、数値だけでなく、格差が生じている原因の証明が必要だが、ILOではその立証責任は政府にあることとなる。裁判での基本的な考え方として、格差があることの証明は差別を訴える方に求められるが、ILOでは違う。そのため、第100号条約の関係では、日本政府が大量の説明資料をILOに提出して説明しているという実態がある。第111号条約を批准した場合にも、差別がないことを政府がきちんと説明できるかどうかが問題である。国家の方針を定めればよいという規定であっても、実態は他の国の状況を見てみると国家の方針を定めるだけでは許されていない。男女間で差があるイスラム教の国々も中核的条約だからということで第100号条約や第111号条約を批准している。しかし、申立があれば、総会の基準適用委員会で取り上げられてしまう例が多々見られる。実際は、国家の方針を作ればよいということだけにはならない。条約を批准してもILOから指摘されるという状況があることも知っておいてほしい。
 
 
3 未批准条約について(2)第155号条約(職業上の安全及び健康)
政府側から、資料に基づき説明を行い、その後意見交換が行われた。
 
(労働者側)
アジアにおける労働分野の日本政府による主要な支援が労働安全衛生分野であるにも関わらず、この条約を批准していない。アジア諸国に模範を示すという点で条約の批准は大変重要だと考えているので、現行法の見直しを行って、ぜひ批准に向けた努力をしてほしい。
 
(政府側)
日本政府は、「ILO条約については、それぞれの条約の目的、内容に鑑み、国内の制度との整合性を確保したうえで批准すべき」という立場である。その上で、なお検討すべき部分があるため未だ批准に至っていないというところである。例えば、本条約第17条において、2以上の企業が同一の作業場において同時に活動に従事する場合には、これらの企業は、この条約の要件を適用するに当たって協力することとされているが、1981年に第155号条約が採択された後、労働安全衛生法では、建設業や造船業に対する措置として、1992年には安衛法第30条を改正し、さらに2005年には、製造業に対する措置として安衛法第30条の2を新設するなど、着実に取り組み、さらに2013年には、「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」を設けるなど、取組を着実に進めている。
 
(使用者側)
同部分について、建設、造船、製造業の3業種以外での2つ以上の同一作業場とは、どのような作業をイメージしているのか。
 
(政府側)
現実的に労働災害が発生するおそれがあるという観点からすると、トラックドライバーが荷物を運び込む荷主先で、荷主の事業場の労働者と外から来たトラックドライバーが混在するということは考えられる。
 
(使用者側)
それは2013年のガイドラインで若干担保しているが、全部は担保しきれていないということか。
 
(政府側)
法的な担保というより、荷主というのが請負関係にあるものとは限らないので、荷主及び陸運業者のコンセンサスを図るという観点から、ガイドラインということで指導している。
 
(使用者側)
それ以外はサービス業など、他に何かあるか。ショッピングセンターなどは関係ないのか。
 
(政府側)
一つの作業場で複数の事業者が混在する可能性はあるが、それが原因で労働災害が起こり、人の命が害されるという想定はしにくいのではないか。そのような事実も把握していないところ。
 
(労働者側)
サービス業でも、重度の災害ではないかもしれないが、転倒災害などの小さな災害は起こっている。そういう作業環境における労災防止について、現行では何も担保するものがないという状況なのであれば、サービス業についても検討していただいた方よい。
 
(政府側)
小売、飲食店での労働災害が増加していることについては、労政審安全衛生分科会でも議論の対象となっており、労働災害防止計画でも重点項目としている。ただ、小売、飲食店で災害が増加している要因は労働者数が増加していること、あるいは高齢化していることが考えられる。ご指摘のあったテナントについては、この条約にある同一の作業場において同時に活動することに従事する場合になるかもしれないが、これが原因で労働災害が増加あるいは多発しているということは承知していないので、法令で義務づけるまでには至っていない。
 
陸運業については、荷役作業での労働災害が多く、また、それが荷主のところで多いという状況があり、それらの災害を防止するという目的から、ガイドラインとして示している。現段階では荷主と陸運事業者とのコンセンサスを図る観点から対策を進めているところ。
 
(労働者側)
条約第19条(c)の前段にある「企業における労働者代表が職業上の安全及び健康を確保するために使用者によりとられる措置に関する十分な情報を提供されること」についてはクリアされているという理解だと思うが、後半の労働組合の組織のあり方は、産別組合と協議する欧米とは違うので、「代表的な労働者団体」が必ずしも労働組合でない場合もあり、日本はどのように考えればよいのかよく分からない部分がある。例えば、労働組合のない日本の企業における過半数代表者が連合に相談に来る、というようなことを想定しているのか。条約の読み方が難しい。
 
(政府側)
前半については、安衛法で、安全委員会、衛生委員会を定めることとなっているなかで、使用者代表と労働者代表とで議論する場があるので、そこはできるということになっている。一方、後半について、事業場の労働者代表について、事業場外の第三者に対して企業の秘密を守ることを前提として情報を出すということは想定し難いところ。
 
(使用者側)
労働安全衛生分科会で、労働側から要望が出たことはあるのか。日本だと、通常はほとんど必要のない規定だと思う。過半数労働者代表とは書いていないので、単なる労働者代表であろうと思うが、そもそも日本においては、多くの場合は企業内組合であるため、この規定はほとんど意味がない。
本条約第11条(f)の規定に係る課題(労働者の健康に対する危険に関し化学的、物理的及び生物学的な因子の試験を行う制度の導入又は拡大を行うよう規定していること)については、安衛法と人事院規則で整理されているが、船員法等は、他での議論が行われない限り、担保されないという理解でよいか。
 
(政府側)
第155号条約は、第111号条約と比べると技術的であり、詰めていけば可能性がないとは言えない。例えば、第11条(f)の規定に関して、他の国がどこまで全職種について網羅的に整備しているかということや、第17条についても、批准している国がどこまでやっているか、第19条に至っては趣旨がよくわからない等、確認のしようがあると思う。資料3-1にも記載があるが、批准国数は67か国となっており、安全衛生の基本的な条約にしては批准国数が多くない。
 
(政府側)
第155号条約は我が国とともに米、英、独、仏も批准していないが、第187号条約は、2006年に採択され、2007年に批准した。第187号条約は、第155号条約の批准が進まないなかでできたもの。米、英、仏及び独も批准している。
 
(使用者側)
第187号条約は、日本が世界で初めて批准した誇るべきもの。個別の国のレベルで考えると、古い条約の批准が必ずしも必要なわけではない。
 
(労働者側:村上総合労働局長)
第155号条約と第187号条約は内容が重複しているのか。
 
(政府側)
重複していない。第187号条約は、基本的な枠組みになっており、国は労働政策、制度、計画を使用者団体、労働者団体と協議しながら定めるべきとされている。一方、第155号条約は第187号条約に比べ具体的・技術的な内容が定められている。
 
(使用者側)
第187号条約は、条約に日本がすでに実施している災防計画の策定についてはっきりと規定されているため、日本としては批准しやすかったのだと思う。
 
(労働者側)
第155号条約はなぜ他国が批准しないのか。また批准している国はどのくらい厳密に実施しているのか。外国の状況について調査や研究はしてもらえるのか。
 
(政府側)
どの条約をターゲットにするかは考えたいが、第155号条約を真剣に検討した方がよいということであれば、各国の大使館に訊くという選択肢もある。しかしまずは、比較的最近の安全衛生に関するジェネラルサーベイに、安全衛生に関係する記載があるか確認したい。
 
(使用者側)
連合が本当に条約を批准したいと思うのならば、声を挙げなければならない。
 
 
 

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