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2017年6月23日 平成29年度第二回高齢者医薬品適正使用検討会議事録

医薬・生活衛生局

○日時

平成29年6月23日(金) 
15:00~17:10


○場所

厚生労働省専用第22会議室(18階)


○議題

(1)構成員等からの情報提供
(2)今後の課題の整理と検討の方向性について
(3)その他

○議事

 

○安全対策課長 定刻になりました。開会に先立ちまして、傍聴の皆様にお知らせをいたします。傍聴に当たりましては、既にお配りしております注意事項をお守りいただくようお願いいたします。本日の検討会は、従来の取扱いと同じく公開で行うこととしております。カメラ撮りは議事に入るまでとさせていただいておりますので、マスコミの関係者の皆様方におかれましては、御協力と御理解をお願いしたいと思います。

 それでは、ただいまから「第2回高齢者医薬品適正使用検討会」を開催いたします。御出席の構成員、参考人の先生方におかれましては、御多用のところ御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。本日の会議ですが、厚生労働省の会議室はエアコンの効きが大変悪く、お暑いかと思います。一応、役所は6月からクールビズ期間となっております。上着を着ておられる方、ネクタイをされている方も、クールビズということでリラックスしていただいて構いませんので、我々もできるだけクールビズに励もうと思っておりますが、御協力をよろしくお願いいたします。

 本日は17名の構成員に御出席いただいておりますが、初めに今回、初めて御出席される構成員を御紹介させていただきますので、一言御挨拶を頂ければと思います。一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会の伴信太郎先生です。

○伴構成員 伴でございます。現在は愛知医科大学の医学教育センター長をしております。どうぞよろしくお願いします。

○安全対策課長 ありがとうございます。また、今回から構成員の変更がありまして、公益社団法人日本看護協会の福井トシ子構成員に代わり、勝又浜子先生に御出席をいただいております。

○勝又構成員 日本看護協会の勝又でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

○安全対策課長 どうもありがとうございます。本日、樋口構成員は、遅れて御出席との御連絡を頂いております。三宅構成員におかれましては御欠席との御連絡です。以上、構成員19名中、現時点で17名の出席をもちまして検討会を開催させていただきます。

 また、本日は、参考人の先生方4名に御出席を頂いておりますので御紹介します。呉市福祉保健部福祉保健課の前野尚子先生、広島大学大学院医歯薬保健学研究科看護開発科学講座の教授の森山美知子先生、株式会社データホライゾンの内海良夫先生、一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構研究部の奥村泰之先生です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、議事に入ります。座長の印南先生、よろしくお願いいたします。なお、カメラ撮りはここまでとさせていただきますので、マスコミ関係者の方々には御協力をお願いいたします。

○印南座長 それでは、議事を進めます。初めに、事務局から資料の確認をお願いします。

○安全対策課課長補佐 配布資料の確認をいたします。お配りした資料ですが、一番上に座席表、その裏面に出席者名簿、議事次第、配布資料一覧、開催要綱、その裏面に構成員名簿となっております。

 続きまして、資料1から順に確認します。資料1「高齢者の特徴的な薬物動態と薬物治療の問題点、資料2「高齢者で特徴的な薬物有害事象」、資料3「呉市多剤併用対策について」、資料4「高齢者への向精神薬処方に関する研究」、資料5「Choosing Wisely」、資料6「高齢者の医薬品適正使用に関する検討課題と今後の進め方について」、資料7「今後の予定」です。また、参考資料として、参考資料1「医薬品添付文書における高齢者に関する注意喚起の現状」、参考資料2「呉市多剤併用対策について」となっております。なお、参考資料2は構成員のみに配布しております。本日の資料は以上です。不足等ありましたらお申し付けください。

○印南座長 よろしいでしょうか。それでは、議事次第に沿って議事を進めます。議題1は、「高齢者における薬物動態及び副作用について」です。これについて、大井構成員と溝神構成員にプレゼンテーションをお願いしております。まず、大井構成員から「高齢者の特徴的な薬物動態と薬物治療の問題点」ということで御説明いただきます。よろしくお願いします。

○大井構成員 御紹介ありがとうございます。鈴鹿医療科学大学薬学部の日本老年薬学会理事の大井と申します。よろしくお願いいたします。

 それでは、高齢者の特徴的な薬物動態と薬物治療の問題点ということで、お話させていただきます。このように高齢者人口は増えているということで、現在、65歳以上の高齢者は約27%を占めているというのは周知の事実です。一方、要介護者数の推移についても増加しており、要支援から要介護5までを図示したものがありますが、このように要介護者も非常に増えております。

 これは、東京のある独居の家の写真です。私も同行して見せていただきましたが、この方は認知機能もかなり低下していて、輸液が無造作に投与されています。一方、粉砕された薬剤を定期的に飲まされているという現状です。このような高齢者、またそういう人たちに投与する薬剤が本当に適切なのかどうかということが、現場の人たちからも、私の所に多く問題として投げ掛けられております。

 このように介護が必要となった主な原因ということで、厚生労働省が示しているデータを提示しております。男性と女性では中身が違いますが脳血管疾患、心疾患、関節疾患等、いろいろなものがあいまって介護が必要となっております。私は薬学部教員であり、薬剤師でもありますので、地域で何かできないかということは常日頃議論をしております。我々としては、骨折・転倒、また高齢者による虚弱な部分に関しては、薬剤師でも予防や防止に関与できるのではないかと考えております。なぜかというと、骨折・転倒はそもそもそういうリスクが高い薬剤処方がされているという背景もあるので、それをチェックする。また、活動力や身体能力のチェックをすることは可能ではないかということで、身近なリスク・マネジメントにもかなり積極的に関与していく必要があろうかと思います。

 これは、先般もお示しいただいた東大の秋下先生のグラフそのものですが、高齢者のポリファーマシーと有害事象ということで、統計学的に薬物有害事象の頻度は6剤以上で高まる、また転倒の発生頻度は5剤以上で有意に高まるということが既に公表されております。

 この医薬品の適正使用ですが、1993年に「21世紀の医薬品のあり方に関する懇話会」で示されております。まず的確な診断があって、最適な薬剤・剤形の決定、最も適切な用法・用量の決定、そして正確な調剤がされて、患者への説明に対する十分な理解がなされ、かつ正確な使用、治療効果・副作用の的確な評価、これらがうまく回る、つまり治療効果・副作用の的確な評価がまた次の診断に戻されるというのが「適正使用」であると定義されております。しかし、今の時代に合わせると、この赤く書いた所が問題ではないかということで、適切な薬剤というところを高齢者に合わせてみると、転倒リスクの高い薬剤が選択されていたり、用法・用量の決定のところでは多剤併用による重複投与が結構多いこと、患者への説明に対する十分な理解のところでは、それが余りなされておらず、コンプライアンスの低下を招いている。正確な使用のところでは、アドヒアランスの低下も防げていない現状もあるということです。また、ここでは有害事象が増加しているということで、社会背景の変化とともに医薬品の使い方、特に高齢者ですが、そこでの問題点があるのではないかと思います。ですので、高齢者に見合う薬物治療の適正化を考えるのが重要なわけです。

 高齢者と言っても、これはイメージ図ですが、このように非常に虚弱な高齢者、不安感が強くて、例えば孤食であるという高齢者がいたり、健康であると自負する高齢者もいるわけで、様々な高齢者がいます。さて、高齢者には様々あるということですが、一般的には生理機能が低下すると言われております。ここに示したのはデータとしては少し古いのですが、まず加齢とともに生理機能が低下するということです。特に心拍出量及び腎機能の減少が顕著であると言われています。ここに示したように、心拍出量では約3~4割、腎機能においては、年齢にもよりますが、40%~50%ぐらい低下していると言われております。また、認知機能の低下や聴力・視力等の低下も起きております。

 薬物感受性の変化ですが、感受性が増大してしまうもの、感受性が低下してしまうものがあるということも知られております。このように薬を服用、投与した場合、若年成人に比べて高齢者の場合は随分違うということが知られております。薬物動態を考える場合は、吸収、分布、代謝、排泄、つまり口からカプセルや錠剤を服用した後、胃を通って小腸から吸収され、肝臓に回って、そこで薬がある程度分解され、組織に分布していきます。そこで薬が効いて、それらがやがては腎臓から尿として排泄されるわけですが、こういう普通のことが、高齢者の場合は吸収、分布、代謝、排泄の機能が全て低下していると考えると、その辺りのスピードが遅くなる。したがって、高齢者では薬剤の生体内の蓄積が非常に起こりやすいということが考えられております。

 また、薬を考えるときに、脂溶性の薬剤と水溶性の薬剤ということが考え方の1つとして重要です。脂溶性ですと、代謝というプロセスを経て、やがては体外へ排泄されます。しかし、水溶性の場合は、ダイレクトに腎臓に行って尿に流されるということですので、少しニュアンスが違います。ですから、ここの脂溶性か水溶性かという分類も、処方時や患者に投薬するときは大変重要なファクターです。

 さて、海外の文献に、高齢者が入院となった要因薬剤という文献があります。これによると、ワルファリン、インスリンが多いということです。3つ目として、ジゴキシンというものがありますが、ここに少し注目して取り上げてみました。ジゴキシンはかなり古い薬ですが、いまだによく使われております。心不全治療薬として有名ですが、薬には併用によって作用が減弱するもの、併用によって作用が増大するものとが必ずあります。ここにお示ししていますが、これはジゴキシンの体内動態で、横軸に投与日数、縦軸にジゴキシン濃度が書いてあります。若年者に比べて高齢者は非常に蓄積性が高く、腎臓が悪かったら更に濃度が上がるというのが現状です。ですので、若年成人と同じような投与量を高齢者に与えていると、このように体内蓄積が起きてくるわけです。

 実際に、このような症例がありました。73歳の女性で、痩せております。左の縦軸は心拍数で、右の縦軸がジゴキシン濃度を示しており、黒丸(●)がジゴキシン濃度で白丸(○)が心拍数を示しております。7月18日、非常に血中濃度が低いです。入院したときのジゴキシン濃度が大変低かったということで、急いで濃度を上げたところ、急上昇してきました。ジゴキシンというのは、副作用として消化器症状がかなり出やすいのですが、嘔吐・むかつきが出ました。ところが、ザンタック、タケプロンというのは正に胃の薬なのですが、それが処方され、なおかつ胃カメラまで施行されたという例です。そもそも高齢者には体内蓄積が起きて、こういうことが起きやすいということが情報共有されていれば、胃の薬が処方されたり、胃カメラまで発展することはなかったのではないかと思います。

 続きまして、プロプラノロールという降圧薬があります。これも併用によって減弱するもの、増大するものがありますが、高齢者では若年者に比べて、血中濃度が大体2倍ぐらいに上昇すると言われております。心拍出量・肝血流量の低下によってこれらが引き起こされると結論付けられております。また、エナラプリルも降圧の薬ですが、クレアチニン・クリアランスという腎臓の機能を調べる1つの指標で、25歳のときは110ぐらいですが、85歳ぐらいになると3分の1ぐらいに低下してしまいます。このような背景でクレアチニン・クリアランスで見てみたところ、クレアチニン・クリアランスの悪い患者では血中濃度がはね上がるということが分かっております。こういう患者は副作用が必然的に起きやすいだろうということが推察されます。

 次に、これも歴史的にかなり処方されてきたジアゼパムですが、神経症やうつ病に大変多く使われてきました。このデータでも、過去の文献を紐解くと、加齢に伴って肝機能が低下し、ジアゼパムの半減期が年齢によって非常に変わります。つまり、これによって血中からの消失が遅延するために、ジアゼパムの効果がいつまでも残ってしまうということです。ジアゼパムは筋弛緩作用が非常に強く出るので、当然、次から次へ投与していれば、眠気とともにふらつきが出るということは容易に推察できます。

 次にトリアゾラムです。ハルシオンという睡眠薬ですが、これもかなりよく使われてきました。これもデータがありますが、若年者と高齢者を比較すると、やはり血中濃度の値が約2倍ぐらい上昇しているので、もし高齢者で使うのであれば、低用量から開始することが望ましいと言えるかと思います。また、GFR(糸球体ろ過率)という指標があります。これは、日本腎臓学会が示しているデータですが、年齢とともに低下が見られます。男女ともに同じように見られるということです。ピルシカイニドという抗不整脈薬がありますが、これを見ると、加齢によってクリアランスの能力が落ちていくということで、副作用である催不整脈作用がかなり出ると言われております。

 少し話が変わりますが、最近、抗菌剤の適正使用がいろいろな所で議論されております。私は、今、高齢者は全部減らしなさいというニュアンスで伝えてきましたが、抗菌剤の場合は少し別なところがあります。この表の一番左は「腎排泄型薬剤」ですが、これは腎機能低下時は投与量の調節が必要です。真ん中のものは「肝・胆道系排泄型薬剤」ですので、腎機能低下時の投与量の変更は不要です。右側の「腎、肝・胆道系両方」の場合は、腎機能を見ながら投与量をある程度変更するというように、3つのカテゴリーに分かれます。今、割と高齢者は減らす、薬の量は半分にしなければいけないということもあって、抗菌薬で低用量でいくという処方も増えているという現状は、少し歯止めも掛けなければいけない。適正使用とは別の意味で、先ほど適正使用には必ず用法・用量があると言いましたが、そういうところの歯止めも必要ということは、ここで1つ付け加えたいと思います。

 次に、セルセプトという免疫抑制剤と、セフゾンという抗菌薬があります。これに鉄剤を飲み合わせたときの血中濃度の推移を御覧ください。単独だったらきちんと血中濃度が上がって下がっていくのですが、鉄剤を併用すると、ほとんど血中濃度が上がってこないということがあります。ということは、全く免疫抑制作用も抗菌作用も示さないということが、これで分かるわけです。ですので、これは高齢者うんぬんには関係ありませんが、更にこういうファクターがあるということです。たくさんの薬が合わされば合わさるほど、このような可能性がいろいろ出てくるということの1つの例です。

 実際、相互作用の実態ということで、AとBを足したとき作用が増強する、またAとCを足すと作用が減弱するというものがあります。これに、2剤だけの処方は少なくて、現実問題としてたくさん薬が処方されます。では、AにB、そしてCが加わったらどうなるのかというと、これは推測の域でしかならないということで、相互作用の研究はAとBが合わさったときにはどうかというものがほとんどで、3剤以上になると予測不可能な現状にあります。ですから、ある程度これが3つ、4つと重なったときにどうなるのかということも、推論でも立てておいたほうが、今後の安全対策にもつながるのではないかと思っております。

 最後のスライドです。高齢者が医薬品を適正に使用できない原因ということで、薬の理解不足、情報提供の在り方の問題が1つあると思います。このように、例えば3つの薬剤が処方されていたときに、今、各々の薬の情報提供がなされております。これは血圧の薬です、これは糖尿病の薬です、これは精神安定剤ですと。ですから、血圧が下がりすぎるかもしれません、血糖値が下がりすぎるかもしれませんと、各々です。高齢者はそれらを全て理解して服用するかというと、なかなかそれは難しいのではないかと思います。ですので、これは私が勝手に作った言葉ですが、「階層別包括的情報提供」が必要ではないかと思います。階層別というのは、例えば年齢で、ある程度カテゴリーを分ける。ある一定の薬効群が合わさった処方では転倒リスクが高くなりますよ、というように安全に配慮した、しかも患者に分かりやすい情報提供があったほうがいいのではないかと、私はこの文献を紐解いていく中で最終的に考え付きました。

 また、高齢者は身体不調、生理機能低下、老年症候群等が相まっているので、どうしても多剤併用が行われるという現状があります。すっきりしないことが続くので、どうしても更に薬を求めたり、サプリメントに頼る社会背景がかなり大きいということですので、医療用医薬品、一般用医薬品、サプリメント等も包括的に考えていったほうがいいのかもしれません。ということで、ライフステージに応じた情報提供をプロダクトしていくことが必要ではないかというのが私の結論です。ありがとうございました。

○印南座長 ありがとうございました。ただいまの御説明への御質問、御意見等については、次の溝神構成員のプレゼンテーションの後に併せてお願いします。

 続いて、溝神構成員から「高齢者で特徴的な薬物有害事象」について御説明をお願いします。

○溝神構成員 国立長寿医療研究センターの薬剤師の溝神と申します。私からは高齢者に特徴的な薬物有害事象ということで、本日は2つの症例を使って御説明させていただきます。症例から得られる情報というのは実は少ないようで、非常にたくさん得られるものがありまして、今回は目に見える疾患ということで皮膚の薬物有害事象ということで、薬疹と褥瘡です。褥瘡というと、薬が影響するというのは考えにくいと思うのですが、こういった症例を我々のセンターで経験しましたので、そういったところをお話させていただきます。今回は症例を通して、薬物有害事象を考えてみたいと思います。

 症例1です。83歳の女性で、深夜に発疹が出現し、近医にて点滴、内服をもらったが改善せず、当院を受診しています。薬疹ということで入院となっています。既往歴には、糖尿病、骨粗鬆症、高尿酸血症、高脂血症、高血圧症、不眠症ということで、様々な疾患をお持ちの方です。近医から、8剤9成分の処方を受けており、リナグリプチン、アロプリノール、ラロキシフェン、テルミサルタン/ヒドロクロロチアジドの合剤、アルファーカルシドール、アムロジピン、プラバスタチン、ゾルピデムということで、非常にポリファーマシーの状態であるのが、これを見てうかがえると思います。

 入院時の皮膚の状態ですが、薬疹が出現している状況です。当初、この方は薬剤性以外の可能性も考えられましたので、薬剤を中止せずに、そのままプレドニン15mgで治療されていたのですが、そのところ紅斑が拡大し、特徴的なtarget lesionということで、標的病変が出現し、非常に病態が拡大し、多形滲出性紅斑になっているということで、プレドニンを増量となっています。このとき、薬剤も全て中止とさせていただいております。

 先ほどの持参薬を見ますと、アロプリノールが一番疑わしい薬剤と考えられるわけですが、このように非常にポリファーマシーの状態で、かつ服用してからしばらく期間がたっている状態で突如として現れた薬疹ですので、アロプリノールが被疑薬として疑わしいのですが、ポリファーマシーの状況で、被疑薬が推定しにくいというところできております。その後、プレドニンを増量し、改善傾向ということで、薬剤性が疑わしいということで近医にまた戻ったという形になっております。

 薬剤としては、血圧のお薬とか、プラバスタチンといったものを再開してはおりますが、疑わしいアロプリノール、ラロキシメン、アルファーカルシドールといったところを中止した状態で、そのままお帰りいただいたという形です。

 高齢者であり、この症例から考えられる点としては、ポリファーマシーという影響、そして、ポリファーマシーから考えられる薬物相互作用、薬物体内動態の加齢による変化といったものが影響していたのではないかと、総合的に推察できるわけですが、被疑薬の推定が難しいという状況でした。

 症例2です。こちらも同じ83歳の女性で、糖尿病、アルツハイマー型認知症で治療されていた方です。認知症の中核症状の進行と筋力低下はあるが、杖を使って歩くことが可能であったという患者です。2、3週間前から、立てない、歩けない、頷く程度の発語しかできないという状況が続き、微熱があるということで当センターを受診されております。簡単な指示動作に従うことは可能でしたが、脳梗塞の所見はなく、入院時に発症直後の背部褥瘡を発見したという状況です。この方は夫と義理の妹と3人暮らしで、主介護者は夫で、介護サービスの利用は特になかったという状況です。

 当初、何でこのような状態になったのかが老年科の先生も分からないということで、薬剤性で何か影響がないかということで、最初に薬剤師に薬を調べるようにと言われました。結局、背部褥瘡を薬物有害事象と判断したのですが、これもたまたま判別できたというところがあり、その経緯をお話します。当センターでは全て持参薬を鑑別していますので、私が持参薬の鑑別を行ったところ、ファモチジン、プラバスタチン、クロチアゼパム、ドネペジル、インスリンを服用していたのと、1つ薬袋の名前が男性のものがあり、トリアゾラム(不眠時)というものを持って来られていたところでした。なぜ男性の名前の薬袋があるのかということで、患者と旦那さんの所に面談に行ったところ、薬の管理、インスリンの投与、服薬、介助は全て旦那さんが行っていたのですが、非常に薬識に乏しい方で、薬に対する知識、理解度が全くなく、服薬というのは忘れずに飲ませていたようなのですが、効果がないという理由でリーゼは服用していなかったということです。さらに、この患者が不眠を訴えたところ、旦那さんも別の病院に受診されていて不眠症の治療薬のトリアゾラムを頂いていたということで、このトリアゾラムを奥様に飲ませてしまったという状況でした。御本人にお話を伺えるようになってから聞いてみたところ、先発の青い色の着いているトリアゾラムでしたので、「眠気は青い薬を飲んでからですか」という形で伺ったところ、そのように御回答があり、こういった形に至ったところです。

 話をまとめると、不眠を訴えた患者に対し、夫が自己判断にてトリアゾラムの0.25mgを服用させたことにより過鎮静になり、ADLが少し低下している患者でしたので、「無動」につながったのではないかと推察されました。いろいろと話を伺っていると、椅子に長時間座っていた状況があったようで、椅子の背もたれと、背部の褥瘡の位置が一致するということで、背部褥瘡がトリアゾラムの薬物有害事象ではないかということで判断いたしました。これは、たまたま老年科の先生と皮膚科医師と薬剤師が複合的に原因を追及した結果、判断できたということで、結果として原因薬物を中止したことによりADLは上昇し、褥瘡も改善して退院となっています。問題点としては、認知症に伴う薬剤過敏とか、夫の薬物に対する理解力、認知力の低下が一番の問題に挙げられました。

 Aの写真は入院直後の褥瘡ですが、debridementし、退院直前の写真が44日目の写真ですが、このような状態です。基本的には、薬物を中止したことによって外来時の写真のように、動けるようになって、外来のときにも御自身で車椅子に乗ってこられたということで、140日後には治癒したということです。

 実は、当センターではこういった症例が4症例ほど立て続けに続きまして、薬剤誘発性褥瘡ということで報告させていただきました。症例をまとめて見てみますと、全症例で認知症が背景にあり、BPSDの治療に対して被疑薬が使われていました。その被疑薬が過鎮静、無動を引き起こし、更にはIV度の褥瘡を発症したという状況でした。

 どの症例も被疑薬を中止したことにより、ADLが改善し、3症例が治癒に至っています。1症例は、ほぼ治癒でしたが、別の理由でお亡くなりになったという状況です。

 こういった症例は我々の所だけかと思って調べてみますと、抗精神病薬のクロルプロマジン換算、ジアゼパム換算の抗精神病薬での踵骨部褥瘡のリスク因子を検討したところ、リスクファクターになり得るという後方視的なデータもありますので、処方の過量投与に伴う褥瘡の発症も関連性があるのではないかと考えられます。

 我々はこういった症例を1年間に4症例経験し、先ほどのような入院を必要とするような症例は3症例ぐらいで、潜在的にはこういう患者は多いのではないかと考えています。というのも、褥瘡は薬剤の有害事象の鑑別が難しいというのと、まだまだ医療従事者間での認識が少ないのではないかと考えられます。

 こういった薬物有害症例を2つお示しさせていただいたのですが、2つの作用に分けられるのではないかと考えられます。薬剤過敏のような、直接的に薬が作用して起こすもの、こういったものは若年者でも起こると思いますが、先ほどのような褥瘡というのは薬の影響プラスアルファ、何か介護者の影響ですとか、服薬アドヒアランスの低下といった間接的な要因もあいまって老年症候群の悪化ですとか、副次的なものを引き起こすということで、こういったものは高齢者特有ではないかと考えられます。

 その特徴をまとめてみますと、直接的な作用というのは若年者でも起こり、薬剤過敏とか、肝機能低下といったものは添付文書に記載したり、医療従事者間での認識はされているのですが、例えば転倒骨折などは一般的ですが、添付文書に記載のない褥瘡といったものは認識されていないものもあると思いますし、影響を与える因子が多種多様なもので、ADLの低下、疾患の影響、服薬アドヒアランスの低下、介護の問題といったものがあるので、非常に複雑な状況なのではないかと考えられます。

 こういったものを図で表してみました。直接的に薬が作用する、いわゆる免疫学的な副作用のような薬剤過敏というようなものは若年者でも起こりますが、ある一定の年齢を過ぎてくると、臓器機能依存的に蓄積が起こったりします。それがADLが低下してくると、ADL依存的に副作用が起こって、薬剤誘発性褥瘡、転倒・骨折といったものにつながっていくのではないかと考えております。

 こういった薬物有害事象を発見するには、1つは患者をしっかりと見ないと発見できないというのと、薬を取り巻く問題を包括的に、多面的な視点で捉えないと発見が難しいと考えますので、薬を取り巻く問題を包括的に捉えていくことも必要ではないかと考えています。

○印南座長 議題1に関して御意見、御質問をお伺いする前に、この関連で、参考資料1についても事務局から説明をお願いいたします。

○安全対策課長 本日のプレゼンテーションで、大井先生から高齢者の特徴的な薬物動態と副作用等についても御紹介いただいたところなのですが、前回の会議で、医薬品の添付文書等で高齢者に関する用法・用量などの注意喚起がどのぐらいなされているのかということがあり、私どもからは「限定的だ」と、お答えさせていただきました。

 今回、催眠鎮静剤、高血圧の薬、糖尿病の薬の3つのタイプのものについて、具体的に高齢者の用法・用量等が規定されているような医薬品の例示とか、そういった規定の状況について事務方で資料をまとめさせていただきましたので、御議論の参考にしていただければということで、参考資料1を提出させていただいております。

○印南座長 それでは、大井構成員、溝神構成員からの御説明に、御意見、御質問等がありましたらお願いいたします。

○松本構成員 まず、大井さんにお伺いします。患者の自宅に行っての写真の御説明の中で、「無造作に輸液をしている」「薬を飲まされている」という表現がありましたが、そういうような事実があって、そういう言葉になっているのでしょうか。

 それと、資料が随分古いようなのですが、今もこういうのは変わらないという理解でよろしいのでしょうか。例えば高齢者の生理機能などは変わらないのかなとは思いますが、随分古い資料ですので、その辺は今も変わらないのかどうかの確認をお願いいたします。

 それと、「胃カメラまでしたのはやりすぎだ」と私は解釈しましたが、それも何か根拠があって言われているのでしょうか。以上についてお願いいたします。

 それと、溝神先生にお伺いしますが、今どきトリアゾラムを高齢者に使うドクターは余りいないとは思うのですが、これは非常に不幸な例だったと思います。症例2に関してもポリファーマシーと言えるのかどうかをお聞きしたいと思います。症例1は確かにポリファーマシーだと思いますが、これも、どれとどれが混ざって、薬疹と言われましたが、こういうような紅斑が出たのか。結局、これは全部やめてしまって、この方はその後に退院されましたが、内服薬は飲まれていないのかどうかを教えていただければと思います。

○印南座長 まず、大井構成員からお願いいたします。

○大井構成員 3つほど御質問いただきました。まず、「無造作」になどの発言についてですが、私が現場の薬剤師に同行したときのそのままの言葉をお伝えしたので、言い方が足りなかったのかもしれません。申し訳ございません。

 「データが古いのではないか」ということですが、高齢者ということでかなり情報検索した中で、これが妥当であろうということです。実は、2000年を超えてから高齢者のデータがほとんどないと思いました。私の情報検索の弱さかもしれませんが、大体1990年、1980年代が多いというのが現状でした。今は臨床研究が難しいことが背景にあるのかもしれません。

 最後の胃カメラの点ですが、これは、ある医療センターのものをお借りしてきたそのものです。これも薬剤師がもう少しモニタリングを早めにしていれば、こういうことは防げたのではないかという見解でした。

○印南座長 溝神構成員からお願いいたします。

○溝神構成員 まず、症例2の持参薬がポリファーマシーに当たるかということです。非常に難しいところかと思います。ポリファーマシーの定義が明確になされているかというと、ないのではないかと考えています。ポリファーマシーについて海外の文献等で見ると、5剤以上、6剤以上、場合によっては8剤以上ですとか、いろいろな定義がされています。厚生労働省の薬剤総合評価調整加算では6剤となっていますので、その定義から当てはめると、トリアゾラム自体はこの方自身に処方されているものではないので、この方はポリファーマシーには当たらないのかなと考えるのですが、文献によっては5剤以上と捉えるものもあるので、難しいところかと思います。

 症例1の患者が、今はどのように薬を飲んでいるかということですが、この方は紹介で当院に薬疹の治療で入院されて、その後は近医にお帰りいただいている形になりますので、現在の状況は把握しておりません。申し訳ありませんでした。

○松本構成員 程度にもよると思うのですが、例えば高血圧の治療薬とか糖尿病薬などは、我々から考えるとやめにくい薬ではないかなと思いますので、できれば入院中にその辺のところを探っていただければ、何と何の飲み合わせが悪くて、薬疹が出たのかが分かったと思いますので、今後はよろしくお願いいたします。

○溝神構成員 皮膚科としては、アロプリノールが一番疑わしいということで、近医に紹介状を書いている状況でした。

○印南座長 ほかにいかがでしょうか。

○齋藤構成員 溝神先生にお伺いします。今の松本先生の御質問と関連するのですが、アロプリノールについては、今回は多形滲出性紅斑ということで該当しないのですが、重症薬疹については腎機能低下がリスクファクターの1つになるという論文があります。この症例については、腎機能の低下はございましたか。

○溝神構成員 なかったように思います。

○池端構成員 私も松本構成員と同じ点で、溝神先生にお伺いします。症例1の件ですが、最終的には内服を一気にやめたということをおっしゃったと思うのですが、私自身の経験でも、よく皮膚科の先生から「どれが原因か分からないから、1回全部やめてくれ」ということを外来で言われることがあるのですが、松本先生がおっしゃったように、現実的にはかなり厳しいのです。こういう場合に、入院して慎重に慎重に、1回やめるならやめて、少しずつデータを見ながらやっていかなければいけないと思います。

 とすると、こういう副作用と思われる薬疹等が出る場合に全て入院で対応するというのも難しい話になると思います。その辺の分岐点というか、その辺について、こういうときはこうしたほうがいいというのがあれば、教えていただきたいと思います。

○溝神構成員 薬疹を判断する状況としては、患者のhistoryからして、直近に始めた薬があるといった状況であれば分かりやすいとは思うのですが、このようにポリファーマシーの状況で、かつ飲んでから期間がたっていると実際にどれが被疑薬として該当するのかを考えた場合に、文献的に多い薬剤を中止するのが一般的なやり方だと思うのですが、そういった形でしか、患者の様子を見ながらというのが一番になってくると思うのです。

 今回は入院中だということで、全身管理ができるということで、一旦、全て中止になっているわけですが、ここまでひどい薬疹でなければ、やはり外来で診られるケースが多いと思うので、先生がおっしゃるように全て中止するというのは、必ずしも全てが全てできるわけではないかと思っています。

○美原構成員 このディスカッションは正に重要なところだと思います。確かに、それぞれの専門の先生、整形外科の先生は、骨粗鬆症を診ているから骨粗鬆症は切れない、高尿酸血症があるからそれは切れない、高血圧があるから切れない、だからみんな切れないのだというのがポリファーマシーなわけです。では、83歳の人に、いつまでスタチンを飲ませるのかというようなことが問題なのだろうと思います。ですから、それぞれ専門の先生が専門の立場から診たら、どの薬も切れなくなってしまう。その結果、ポリファーマシーになっているのです。

 そのときに、一体どうすればいいかということが、ここで議論されるべきで、「切れない」といってしまったら、この話は始まらないように思うのです。

○印南座長 ほかに御質問、御意見等はございますか。

○秋下座長代理 今、正に「重要だ」とおっしゃった点ですが、発表された溝神先生の所では「ポリファーマシー削減チーム」を作られています。ポリファーマシー対策でよく問題になるのは、例えば循環器のドクターが自分の所でエビデンスのある薬だからこれは切れないという話ですが、そういう先生をチームに入れて検討すると、今の状況だと切ってもいいでしょうというようなことで、専門家の意見も聞きつつ1回切ることができる。そして、もし血圧が上がってきたら、あるいは血糖値が上がってきたら、血圧や糖尿の薬を戻していくというような先進的なことをされておられます。今日はその話がなかったのですが、機会があれば、また聞かせていただければと思います。そういう体制をどこでもできるわけでもないのですが、そういうことをやられれば、この問題はある程度改善するのではないかと思っています。これが1つです。

 もう1つです。この症例はたまたま薬疹ということなのですが、同じような状況というのは、例えばかなり重症の、薬剤性らしい肝障害とか、薬剤性らしい腎障害、血小板減少、好中球減少で経験します。そういうときには入院していただいて、病状的に入院が必要かなというのもあるのですが、池端先生がおっしゃったように、処方薬を全部切るということの不安もあります。特に高齢者の場合は、入院していただいて、対応できる体制を取ってから薬を中止する方が安全というのもあります。入院して、どうしても残すもの、例えば6種類のうち4種類だけやめてみるというケースもあって、それで改善すればよかったということになるのですが、原則は全部やめて、必要があれば戻すとか、同系統の違う薬に替えていくといったことをするのが現実的には行われているのではないかと思います。補足として発言させていただきました。

○印南座長 ほかによろしいでしょうか。

 では、次の議題に移ります。高齢者医薬品の処方実態についてということで、前野参考人、森山参考人、奥村参考人にプレゼンテーションをお願いいたします。まず、前野参考人と森山参考人から、呉市の多剤併用対策についての御説明を頂きます。よろしくお願いします。

○前野参考人 呉市役所の前野です。この度はこのような機会を頂き、ありがとうございます。広島大学大学院の森山教授とともに御説明いたします。

 まず、「呉市多剤併用対策について」ですが、呉市における現状と取組の紹介ということで話をさせていただきます。まず呉市の概要です。広島県の南西部に位置しており、明治には海軍の鎮守府が置かれたということで、一時期は人口が40万人おりましたが、現在では約23万人を切るという人口になっております。そのうち国保の加入者が4万7,000人、後期の加入者が4万1,000人ということで、人口の38.2%を占めています。今日は、この国保と後期のレセプトの集計の御紹介をさせていただきます。

 まず高齢化率ですが、呉市の高齢化率は現在34%となっており、人口15万人以上の都市では最も高い高齢化率です。また、医療の状況は、400床以上の大規模病院が呉市内に3機関あります。1人当たりの国保の医療費は、平成27年度は461,000円と、国や県の水準を上回っています。

 呉市の取組の特徴としては、平成20年度から国保でレセプトのデータベースをいち早く取り入れました。これにより、ジェネリックの使用促進、保健事業の推進、レセプト点検に活用し、被保険者の健康、負担の軽減、医療費の無駄を省くところを目標に、様々な事業を実施しています。

 現在では、国保に限らず高齢者へもということで、平成27年度から国保、後期のレセプト、介護のデータ、特定検診のデータを個人ごとに連結したデータベースを作成しています。そして、Population Health Managementの概念に基づき、対象者をリスクに応じて階層化し、状態に応じたアプローチをするというのを現在実施しているところです。このマル2(リスク中度)に、多剤投与とありますが、今日は後ほど、この御紹介をさせていただきます。

 続いて、呉市における多剤投与等に関する調査ということで、この度、厚生労働省から依頼のあった調査を御説明いたします。集計の対象は、国保と後期のレセプト、医科入院外、調剤の平成2710月診療分です。年齢の基準日も合わせています。先ほど申し上げたように、人口の約4割、9万人の方のレセプトです。人口構成は御覧のようになっており、ほとんどを高齢者が占めています。薬剤投与種類累計数毎の患者数と割合ですが、6種類以上の方が約4割、8種類以上は約3割を占めています。

 また、年齢階層別の薬剤投与種類累計毎の患者数です。上のほうのグラフですが、横軸が年齢、縦軸が人数です。6種類、8種類、10種類と3パターンで集計しています。8084歳がピークになっており、その後は下降しています。下のほうのグラフが被保険者に対する割合です。ピークは8589歳となっておりますが、90歳以上でも6種類以上は3割を超えているという状況です。

 続いて、こちらも年齢階層別の薬剤投与種類累計数毎の累積患者割合です。例えば6種類以上ですと、処方者のうち高齢者がどれぐらいを占めるかという視点で集計したものです。6種類以上の場合、65歳以上が約92.5%、75歳以上が67.9%を占めるという結果となっています。薬剤投与種類数が6種類以上の患者割合です。国保では4人に1人が6種類以上、後期高齢医療では2人に1人です。10種類以上においても、同様に後期高齢のほうが増えているという傾向になっています。

 それから、医療機関の受診傾向ですが、6種類以上と10種類以上で分けて集計をしてみましたが、特に変化はなく、年齢による変化もありません。ただ、2機関以上というのが6割の方が占めているという現状になっています。

 続いて、薬局数別の状況です。こちらも年齢による変化はありません。処方数が増えると、若干薬局数が増えているという状況になっています。疾患別の割合についてですが、ここでは6種類以上のみの御紹介です。国保、後期ともに、高血圧、脂質異常、その他の消化器系の疾患をお持ちの方が上位3位にきています。薬効別も、6種類以上の御紹介ですが、消化性潰瘍用剤、血圧降下剤、脂質・高脂血症用剤、血管拡張剤という上位4位は、国保、後期ともに同じ傾向となっています。

 続いて、重複服薬の要因となる上位10薬品の割合は、モーラステープ、ロキソニンテープなどが、国保、後期ともに上位となっています。併用禁忌用剤の処方状況は、お薬の添付文書の相互作用欄に併用禁忌又は併用を行わないことという薬の組合せで集計をしており、御覧のような状況となっています。併用回避についても、添付文書に「原則併用禁忌」又は「併用注意」などが書かれている薬の組合せで集計しており、御覧のような結果となっております。

 続いて、この度、集計の対象とした呉市の「多剤患者の重複・禁忌・回避処方調査」です。これは1年分のレセプトを対象に、「3か月以上継続して」という条件で集計しました。10種類以上の処方の場合、国保も後期も共に1万1,650人おられます。そのうち、重複処方、禁忌処方、回避処方で、複数医療機関かつ複数薬局の方が、重複服薬であれば211人、禁忌処方であれば74人、回避処方が956人という結果となりました。処方情報を一元的に有する医療保険者として、被保険者のQOLを維持するという目的において一体何ができるだろうかと考える資料かと思っています。

 続いて、既に実施している事業です。呉市の併用禁忌・回避医薬品情報提供事業です。これは平成23年度から実施しており、レセプトで併用禁忌、回避となっている処方の組合せを抽出し、地元医師会にスクリーニングをお願いしております。その後、スクリーニングを通過した組合せのみ、後処方の先生に通知させていただき、医療機関にて直接、患者に指導していただいているという事業です。実施状況は下段の表です。以上までが、呉市のレセプトからの集計の状況と、実際に行っている事業の一部ということで御紹介させていただきました。続きまして、広島大学のほうにお願いいたします。

○森山参考人 それでは、呉市で試験実施した多剤事業について御説明します。島しょ部であり、少子高齢化が進む安芸灘地区をモデル地区として多剤事業を実施しました。この地区は、平成28年度は住民の60%が65歳以上の高齢者となっております。平成27年度から、看護師の在宅医療・介護連携推進員を地域に配置し、地域包括ケア関連の様々な多職種連携事業を展開しております。

 次は、私たちが実施した事業のフレームワークになります。主な目的としては、医療保険者における多剤併用者の抽出方法を確立する、薬剤調整を行う連携の流れを構築する、それから、調整を受けた患者の日常生活レベル、心身の機能が改善され、疾病や症状が改善、安定することを目的とする、です。

 成果は少し先になるのですが、結果的にQOLの向上、医療費が適正化されるとともに、QALYが改善されるように枠組みを組んでおります。平成28年度は、呉市医師会の了解の下、呉市薬剤師会の協力を頂きながら、何度も話合いを重ねて、平成29年度以降の本格実施に向けた基盤整備の位置付けとして、多剤事業を実施しております。実施の方法論を検討することから、安芸灘地区という小さい地区に限定し、ここに所在する薬局と、そこに係る住民に限って実施しております。

 このモデルを考えるに当たり、他県の自治体で郵送による多剤の通知事業を実施されたという情報が入りました。患者さんは、その通知や薬を薬局やかかりつけ医に持参されずに減薬が難しかったという情報を得たことから、呉市では試験的に看護師の在宅医療・介護連携推進員が抽出された被保険者宅を訪問して、事業参加の同意を得るとともに、聴き取り調査を行うという方法を取りました。

 そして、その情報を本人の同意を得て、かかりつけの薬局に提供し、かかりつけの薬剤師は家庭訪問をして薬剤の調整を行う、又はかかりつけ医に連絡を取って、調整を行うというスキームを作りました。この事業のポイントは、かかりつけの薬剤師やかかりつけ医を中心に置くというものです。

 広島大学の研究員となられている株式会社ホロン、すずらん薬局グループの薬剤師の方の助言を得て、対象者をどう抽出するかという検討を行っております。この検討会の構成員の秋下先生がまとめられた「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」ほか、「ストップ・スタートクライテリア」といった、複数のガイドラインを基に抽出しております。

 薬剤レセプトのスライドは平成27年になっているのですが、平成28年の間違いです。修正をお願いいたします。平成28年1月から3月分を分析しておりますが、抽出対象者は内服薬に限りました。内服薬で抽出した3か月間のいずれかの月で、10剤以上処方されている方としました。6剤以上とすると対象者が増えますので、10剤以上を服用している方で、島内の薬局にかかっている方を抽出しております。

 このスライドの一番下にハイリスク薬とあるのですが、これは特定薬剤管理診療報酬で特定薬剤管理指導加算を付けてもよいという薬物のリストの処方を受けている対象者になっております。それから、黄色い網掛けの所ですけれども、課題のある事例です。「重複」は、同じ薬効で違う病院から出ているというもの、「長期」は、通常は長期内服しないであろう総合感冒薬などの長期内服、「併用注意」は、長期間のPPIH2ブロッカーの併用など。「用法用量」は、腎機能の低下者に腎排泄のお薬を使っているなどです。それから、クレメジンのような他の薬剤を吸収するものが、他剤と服用時期が同時であったものなどを抽出しております。この中から試験実施で、5人を抽出して実施しました。

 次のスライドは、薬剤師の方が作成してくださった個人個人の分析結果です。ここに薬物療法に関するガイドラインのハイリスクのチェックが付くという形で、表を作成しております。これがあると注意点が分かりやすいということで作成いたしました。本来はかかりつけの薬剤師さんに活用していただこうと思って作成しております。実際は看護師の在宅医療・介護連携推進員がこのシートを持って、注意点を確認して、直近のレセプトに記載された薬剤の一覧を持って家庭訪問をしております。

 私たちは「減薬ありき」とは考えておらず、高齢者の安全な薬物のガイドラインや、ハイリスク薬の使用、傷病名との関係、また薬の効果、例えば降圧薬を飲んでいるのに血圧が下がっていないとか、それから副作用などの有害事象のチェック、また生活全般への影響のチェックをするために、この事業に取り組んでおります。

 次のスライドですが、取扱い注意でお願いします。1名は同意拒否でしたので、同意した4名の方の訪問をしております。まず私たち看護師の存在ですが、医師や薬剤師の総合的な判断を支援するという立場に立っております。そして家庭訪問し、家の中の環境や生活状況を観察、ヒアリングし、残薬もカウントしております。それから高齢者総合機能評価を用いた総合的なアセスメントを実施しました。転倒や睡眠、食欲、体調の変化なども聴取し、受診している複数の医療機関での病歴、検査、治療内容を見せていただく。それから、薬の管理方法、服薬の実際、いわゆるアドヒアランスも確認し、サプリメントや市販薬の使用についても確認しております。それから本人に、これは何のお薬で、どのように飲んでいらっしゃるのかをお聞きしました。それが正しいかどうかをチェックするとともに、有害事象がないかどうかを分かる範囲で情報収集しております。

 事例1と2に関しては、2医療機関から10剤以上が処方されていたのですが、訪問時には1医療機関に変わっており、既に減剤になっていました。それから、重複投与は解消されていました。

 事例3と事例4は、総合感冒薬PLの長期投薬です。これは患者さんが自己調整されていて、また薬への依存が、本人、家族とも強く、特に事例4に関しては、ドクターのほうが止めたにもかかわらず、本人の強い希望で薬が復活しているという状況です。例えば事例3は、抗アレルギー薬や気管支拡張薬も服用しているのですが、訪問したら家が埃だらけで、ハウスダストで、ヘルパーを入れて掃除をするという方向です。このようにいろいろな状況が分かりました。

 次のスライドです。実施後に見えてきた課題ですが、まず医師、薬剤師、看護師の専門性により視点が異なり、対応方法も異なることから、複雑な事例に関しては、多職種のアプローチが有効ではないかと考えております。そのためには、関わる医療者の意見や見方を合わせていく必要があるので、薬物療法のガイドラインなどを用いて、定期的な勉強会や情報交換会などの情報共有の仕組みの構築が必要と考えております。この中には、痛み止めを使用するタイミングの指導や、適切な疾病管理の指導など、また介護サービスを適切に入れることなどで解決される事例もあるので、こういった点も多職種アプローチが有効かと考えております。

 それから、総合的な判断の難しさですが、先ほどから構成員の先生方が話し合われているように、患者さんは高齢ですので様々な病態を持っておられますし、不定愁訴もあります。本人が病歴や病名を正確に把握していなかったり、レセプトに出ていない昔の薬を飲んでいるなどがありましたので、有害事象を含む総合的な判断というものは非常に難しいということが改めて分かりました。それから、本人や家族の薬に対する依存も強いこともあり、多剤弊害の注意喚起の教育の重要性を感じました。

 これは1つの例ですが、一般向けパンフレット「高齢者が気をつけたい多すぎる薬と副作用」(日本老年医学会)といったものを高齢者の方に配布して住民教育を行うことも1つの方法かと、今年度は考えております。それから、分析する薬剤の範囲の検討ですが、今回は内服薬だけにしたのですが、インスリンなどの注射薬やモーラステープなどの貼付薬、吸入薬といったものも検討していくことが必要だと考えております。

 今回のスキームの利点としては、レセプトで情報を集めておりますので、複数の医療機関、複数の薬局にかかっていても、全部が一覧になるので、それを持って訪問したり対応することができるので有効でした。特に院内薬局では、お薬手帳にもリストアップされていない、お薬手帳がないという場合もありますので、レセプトを使うのは、有効と考えております。

 特に保険者の役割として、複数の医療機関や薬局にかかっているがために発生する、重複処方や併用禁忌、回避処方などでは、レセプトで集めて対応するのは効果があるのではないか、また、保険者の役割としても重要なのではないかと考えております。

 利点2として、看護師による自宅訪問・傾聴による総合的な支援があります。「持っているお薬を薬局に持って行ってください」と言っても患者さんは持って行かなかったり、忘れていたり、残薬が押入れの奥に隠れていたり、いろいろありますので、家庭訪問して観察することは効果的でした。また、生活に困っているなどの、生活の影響も判断することができました。

 ただし、今回は看護師の訪問ということで、費用対効果の面からは、問題があります。多くの住民をカバーできる方法を基盤に、事例によってはこういう丁寧な対応も入れる方法もあると考えております。

 ですので、今年度の事業に関しては、呉市医師会や呉市薬剤師会と話合いを進めて、効率的で有効な方法を検討していく計画です。以上です。

○印南座長 ありがとうございました。ただいまの御説明への御意見、御質問等につきましては、次の奥村参考人のプレゼンテーションの後に、合わせてお願いいたします。

 続いて奥村参考人から、「高齢者への向精神薬処方に関する研究」について、御説明をお願いします。

○奥村参考人 医療経済研究機構の奥村と申します。高齢者への向精神薬処方に関する研究ということで、お話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。

 3ページにあるのが、全体の要約です。まず最初に、高齢者において多数の医薬品が処方されることは稀ではないことをお話します。外来患者さんにおける薬剤数を調べております。19%から34%の方は5剤以上の薬剤が処方されておりました。この状況は認知症を患っているとグッと上がっており、33%から53%の方は5剤以上の薬剤が処方されているという状況です。

 高齢者における、副作用の被疑薬を薬効別に調べているのが、この図です。上位3薬が向精神薬を占めているという状況です。すなわち高齢者に対して医薬品の適正な使用を進める上では、向精神薬使用の適正化ということが重要になってくるテーマかと考えております。

 いろいろな向精神薬があります。ここではまず最初に、ベンゾジアゼピン受容体作動薬につきましてお話します。日本では33種類のベンゾジアゼピンが上市されております。様々な効能・効果があります。抗不安作用、鎮静作用、睡眠導入作用、筋弛緩作用、抗痙攣作用などがあります。一方で、当然ながら様々な副作用があり、集中と注意の障害、運動失調、持ち越し効果、あとは連用により依存形成がされるということが分かっております。

 ベンゾジアゼピンの処方割合ですが、加齢とともに上がっていくことが分かっております。75歳以上では、大体25%の方に、ベンゾジアゼピンが外来で処方されております。この状況は認知症を患っている方でも同じような状況で、85歳以上の方であっても、25%程度の方にベンゾジアゼピンが処方されている状況です。

Beersクライテリアでは、高齢者へのベンゾジアゼピンの処方はするべきではないといわれておりますが、一方で、ベンゾジアゼピンにもベネフィットがあります。具体的にどのようなベネフィットがあるのかをまとめた表が、このスライド12です。これはRCTのメタアナリシスの結果ですが、ベンゾジアゼピンはプラセボよりも主観的な睡眠時間を少し良くして中途覚醒の回数も少し改善することが分かっております。その一方で、リスクもあり、転倒や認知機能障害といったリスクが上がってしまうというような状況です。

 認知症に伴う不眠へのベンゾジアゼピンのベネフィットですが、実はRCTは世界中にもないような状況です。今のところ、認知症に伴う不眠に対して有効性が検討されているのは、メラトニン、ラメルテオン、トラゾドンといった、ベンゾジアゼピン以外の薬剤であるという状況です。

 続いて、ベンゾジアゼピン使用による有害事象の発生リスクを調べているコホート研究を御紹介します。スライド14ですが、高齢者やアルツハイマーの方で、ベンゾジアゼピンの使用を開始すると、大腿骨頚部骨折のリスクが大体1.6倍程度上がってしまうことが分かっております。そのほかのコホートの研究ですが、ベンゾジアゼピンの使用によって、交通事故の発生リスクが2.2倍ほど上がってしまうことが分かっております。これはベンゾジアゼピンの使用開始後1年ぐらい経過しても、リスクは持続してしまうというものです。そうした背景から、ベンゾジアゼピンをいかにやめていくかということが着目されております。

 ここでは2つの休薬に関するRCTを御紹介します。薬局で患者さんに教育用の冊子をお配りしてみるというようなトライアルがあります。どのような冊子をお配りしているかというと、左下の図にあるような、8ページの冊子を提供しております。この冊子に記載されている情報は、ベンゾジアゼピンの副作用の情報とか、ベンゾジアゼピン以外の代替的な手段は何があるのかといった情報を提示しつつ、必要に応じて主治医や薬剤師の方の指導下で減薬してくださいというインストラクションを与えるものです。このトライアルの結果ですが、この冊子を提供している群の6か月時における休薬率が27%で、何もしない場合の休薬率が4.5%と、8倍程度の効果が認められたというようなトライアルです。

 もう1つのRCTを御紹介します。これは、より積極的な介入を行っております。医師による複合的な介入を行っているのですが、医師が患者教育をして、定期的に減薬をしていくというようなプロトコールを作っているトライアルです。この結果ですが、医師による複合的な介入を行うと、介入1年時における休薬率は45%ということで、通常診療に比べると約3倍の効果があったというような結果です。

 続いて、諸外国におけるベンゾジアゼピンの規制の状況についてお話します。イギリスやフランス、カナダ、デンマークでは、ベンゾジアゼピンを長期連用できないように制限をしたり、推奨をしたりしております。もっと強いことをしている国もあります。例えばフランスでは、催眠鎮静作用を目的としたベンゾジアゼピンの保険償還率を65%から15%に削減するといったことを行っております。また、オランダでは、催眠鎮静作用を目的とした保険償還を対象外としているというような現状です。

 これらを踏まえて、施策への期待を申し上げます。まず、非薬物療法への診療報酬評価が必要になってくると考えております。

 具体的には、頑張って睡眠衛生教育とか、認知行動療法とか、減薬を行ったところで評価されないのでは、なかなか広がりが見られないのかと思っております。次に認知症に伴う不眠に対する臨床試験につきましては、これは推進しないといけないということは世界中で言われております。続いて、一部の例外を除いて、処方抑制施策を導入するべきだと考えております。その例外としては、短期間の処方などがあるかと思っております。一方で、諸外国の経験では、処方抑制施策を導入すると、適用外使用薬である抗うつ薬や抗精神病薬の処方が増えてしまうというような状況も見られております。ですので、これらに関しては治験を推進することが大事になってくるかと思います。

 最後に、日本では安全性に劣る代替薬(バルビツール酸系睡眠薬)の処方が見られますが、これにつきましてはベンゾジアゼピンとともに制限をしていく必要があるかと考えております。

 続いて、重複処方の問題についてお話します。重複処方とは、複数の医療機関から同種・同効薬を全く同じ時期に入手することと定義されております。重複処方の問題の中心は、米国やフランスではオピオイドであることが分かっております。一方で、日本では重複処方の問題の中心は、ベンゾジアゼピンであることが明らかになっております。

 どのぐらいの人に、ベンゾジアゼピンの重複処方が見られるかということを調べております。慢性身体疾患が全くない方では、重複処方の割合は0.8%程度と、それほど高くはありません。ただ、この慢性身体疾患は、2つとか増えていくと重複処方の割合が4.5%ぐらいに上がってしまうという状況です。ここから読み取れることですが、複数の身体疾患の加療に伴って、いろいろな診療所に行く必要があります。その結果として、意図せずに重複になってしまっていることが、まま見受けられるのではないかと考えております。

 更に、重複処方された方々を1年間追跡してみました。その結果が紫色のところです。53%の方は、1年後もベンゾジアゼピンの処方を継続されており、更に重複処方をまだ継続されているという状況でした。

 これらの結果から言える施策への期待を申し上げます。まず、既に生活保護受給者では導入されているのですが、保険者による重複処方のモニタリングをすることが大事になってくるのではないかと考えております。次に、特に慢性身体疾患を複数患っている方に対しては、薬剤師の方による関与を強めていくことが大事になってくるかと考えております。

 最後に、BPSDの向精神薬使用につきまして、お話します。BPSDというのは、認知症の行動・心理症状の略であり、様々な症状の総称です。具体的には、無関心、興奮、うつ、妄想、不安、易怒性といったような症状です。これは認知症を患っていると、かなりの方に発現することが分かっております。

 そのBPSDのうち、特に向精神薬が処方されることの多い症状をまとめたものが30ページ目です。不眠や攻撃的行為、興糞、妄想、易怒性、暴言といったようなBPSDに対して、薬剤が使用されることが少なくありません。不眠につきましては先ほどお話しましたので、赤で括っているような症状について、今から特にお話します。かかりつけ医のためのBPSDガイドラインというものがあります。この中では、興奮・幻覚などへの薬物療法として、第1選択薬としては抗認知症薬、それで良くならなければ第2選択薬として抗精神病薬や抑肝散や気分安定薬の使用を検討するようにガイドされております。

 一方で、BPSDに対する抗認知症薬のRCTの結果は良好ではありません。プラセボ対照無作為比較試験の結果をスライド32とスライド33にまとめておりますが、6つのトライアルのうち優越性が確認されているものは1つの試験だけです。一方で、BPSDに対する抗精神病薬のベネフィットに関しては、RCTで一定のベネフィットがあることが分かっております。スライド34RCTのメタアナリシスの結果をまとめております。抗精神病薬はプラセボに比べ、精神症状や興奮状態を少し改善することが明らかになっております。

 一方で抗精神病薬は、死亡や脳血管のイベントが上がってしまうようなリスクもあることが分かっております。実際に、この抗精神病薬使用による死亡率増加を調べているコホート研究があります。ここでは、施設入所者でも在宅の患者さんでも、抗精神病薬使用をしていると死亡リスクが1.6倍程度上がってしまうというようなことが示されております。

 こうしたことから、2005年に米国のFDAでは、添付文書で警告を発出しております。BPSDに対して抗精神病薬を使用すると死亡リスクが上がってしまうことを添付文書で書いているというような状況です。世界中の規制当局は、同時期に警告を発令しております。そして、その警告の発令前後で抗精神病薬の処方がどうなったかということを調べている研究があります。イギリス、アメリカ、フランス、イタリアでは、抗精神病薬の処方率が、警告前後で減っていることが分かっております。一方で、日本では残念ながら減っている状況は認められないという状況です。

 更に2012年、米国のCMSは施設入所者への抗精神病薬の処方の抑制施策を推し進めております。具体的にどのようなことをやっているかというと、ケアスタッフ等への教育を強化したり、非薬物療法を推進したり、更に、抗精神病薬処方の透明性の向上を行っております。この抗精神病薬処方の透明性の向上につきまして、もう少しお話させていただきます。右側の図を御覧いただきたいのですが、これは米国のnursing home全体における抗精神病薬の処方割合を示しております。クォータごとに抗精神病薬の処方割合が出ており、だんだん減っている状況が分かります。更に、全米のnursing homeの結果の基のデータも公開されており、各nursing homeにおける抗精神病薬の処方割合も開示されているという状況です。つまり、介護の質の指標の1つとして、抗精神病薬の処方割合が開示されているという状況です。

 最後に、非薬物療法につきまして、御紹介します。非薬物療法のRCTの事例ですけれども、このRCTでは施設での多職種の複合的な介入の有効性を検討しております。具体的にどのような介入を行っているかというと、BPSDが見られた場合には、最初に生理的なニーズを評価し、痛みの評価をして、情緒面のニーズの評価もして、快適さ第一優先のケアをしていただいて、それでも良くならなければ鎮痛剤の使用を検討します。それでも良くならなければ、精神科コンサルテーションをしたり、向精神薬の使用を検討します。以上のように、向精神薬の使用に至るまでに幾つかのゲートウェイを用意するといった介入法です。このトライアルの結果ですが、複合的な介入を行うと、興奮状態や精神症状がグッと良くなることが分かっております。

 最後に、施策への期待をまとめさせていただきます。まず、非薬物療法の標準化と評価が必要になってくるかと考えております。次に、抗精神病薬処方の透明性の向上が重要になってくるかと思います。最後に現状では、BPSDに対する抗精神病薬は、保険償還はされますが適応外使用という位置付けですので、これにつきましては、より安全に使えるようにするためには、治験を推進することが大事になってくるかと思っております。以上です。

○印南座長 ありがとうございました。ただいまの奥村参考人と、1つ前の森山参考人、お二人の御説明に、御意見、御質問等がありましたらお願いいたします。

○島田構成員 今の呉市の取組の御報告は素晴らしかったと思います。薬物の提供と水際の部分で、薬局薬剤師の役割について、非常に分かりやすいご説明をありがとうございました。その中で、10ページと16ページにありますが、複数の薬局が関わっていた場合に、配合禁忌薬や併用回避の必要な処方箋があるということの実態について、全くこれは事実だろうと思っております。

 処方せん受取率は70%を超えて、これまでは各専門領域の先生方の処方箋を受け取るという薬局が、多かったことは事実ですが、かかりつけ薬剤師・薬局としての機能を発揮する中で、他の医療機関から処方された薬との重複や相互作用防止の回避のため、お薬手帳の普及が進んでおります。

 このお薬手帳も、それぞれの医療機関に1冊ずつという現状があったのですが、1冊に情報を集約するはたらきかけを推進している最中です。また、こういったことから、かかりつけ薬剤師による情報の収集・把握にも、取組んでおります。ですので、こういったところで、これからの疑義照会等も含めて、薬局の数があっても、そこで患者による不適切な使用の可能性のあるようなものについての成果も今は出ていることも御報告しておきたいと思っております。

 最後のページの課題にありますが、確かにレセプトからこの問題点を見つけ出すという、これも非常に有効な手段だろうと思いますが、単なる物理的に多いとか少ないとかという前に、私たち薬剤師・薬局としても、今はかかりつけ薬剤師、かかりつけ薬局という活動を急速に進めております。やはり薬学的な知見に基づいた指導というようなものも、現場で行われているといったことも、少し付け加えさせていただきたいと思います。

 あとは、表記の部分だけなのですが、10ページのグラフの中に薬局別の表記がありますが、このグラフの中には調剤薬局という表記があります。しかし、OTC医薬品の取り扱いも含め、薬局では調剤以外の機能も担っているので、調剤薬局と限定して書かれてしまうと、それだけを中心にしているという誤解もされると思いますので、この表記は、今後、少し検討していただきたいと思います。以上です。

○印南座長 ありがとうございました。何かコメント等ありますでしょうか。よろしいですか。

○松本構成員 ありがとうございました。我々も重複処方の問題というのは調べたことがあります。異なった医療機関3つから、しかも調剤薬局も異なると。そこで同じ薬剤が何か月にもわたって処方されていたということがございました。それで、呉の方にお伺いしたいのですが、17番目のスライドの所に、これは重複処方ではないですけれども併用禁忌があります。これもレセプトデータから調べたのだと思いますが、異なった医療機関で出されたと思います。先ほども島田構成員から出ましたが、お薬手帳の呉での普及率はどれぐらいなのか。それと、この調査されたのは院内で調剤されたのか。この医療機関の院内なのか、あるいは院外なのか、その点だけ教えていただけますか。

○前野参考人 ありがとうございます。お薬手帳の普及率ですが、呉市ではまだそういった数は捉えておりません。それと、院内と院外両方なのかということですが、17ページ、既に実施しております併用禁忌・回避医薬品情報提供事業におきましては、院外はもちろん、院内のほうも情報を取り込んで実施しております。

○松本構成員 そうでなくて、これは院外が多いのか、院内がほとんどなのかという質問です。

○前野参考人 その辺りの数の傾向というのは、まだ把握はしておりません。

○松本構成員 医療機関は、黒塗りにしてありますけれども、医師会に渡すときは、この黒塗りは医療機関がちゃんと分かるようになっていますよね。

○前野参考人 いえ、医師会のほうのスクリーニングは、お薬の組合せのみでお渡ししております。

○松本構成員 そうすると、患者さんの名前も分からない。医療機関も分からないでは、医師会は渡されてもどうしようもないのです。保険者が患者さんに接触をして、あなたはA医療機関でこの薬を、B医療機関でこの薬をもらっている。これは一緒に飲むと駄目ですというところまでいかないと駄目なのです。でも、できればそれは保険者がするべきことではなくて、併用禁忌ですから医療機関同士で調整しないといけないことだと思います。是非、もう一歩進んでいただきたいと思います。

○前野参考人 ありがとうございます。

○印南座長 ほか、よろしいでしょうか。

○秋下座長代理 今のことに関係しますが、このスライドの上の所に「関係医療機関に情報提供」と書いてあります。それは薬局ないしは、医療機関と書いてあるので診療所等かなと思ったのですが、いかがでしょうか。

○前野参考人 医療機関で、なおかつ、後処方の先生のほうに情報提供をさせていただいております。

○秋下座長代理 ということは、今、松本先生がおっしゃったことは、既にある程度は対応されているということですね。

○前野参考人 後処方の先生に情報提供させていただいておりまして、その先生から患者さんに御指導をしていただいているという事業です。

○松本構成員 それなら結構ですが、もう一歩進んでいただいて、A医療機関に、この患者さんの氏名を伝え、B医療機関にも患者名を伝えて、ここからこういう薬が出ているというところまでされているのですよね。

○前野参考人 そうです。実際、後処方の先生にお伝えするときは、患者さんのお名前、年齢などもお伝えしております。併せて個人情報をお渡ししております。

○松本構成員 後処方と言うと。

○前野参考人 時期です。処方のタイミングが後の先生ということです。

○松本構成員 先の医療機関には、どんなふうに。

○前野参考人 お伝えはしていないです。

○松本構成員 そうですか。

○前野参考人 一応、そういったルールでやらせていただいています。これは医師会との協議の上、決めさせていただいたルールです。

○印南座長 よろしいですか。ほかに御質問等、お願いします。

○平井構成員 呉市の取組、非常に素晴らしいなと思いました。森山先生にお尋ねしたいのですが、最後から2枚目のスライドで、患者さんのお宅を訪問したときの状況で掃除をしていなくてとか、この方々は訪問看護は入っておられる患者さんたちでしょうか。

○森山参考人 今回は、どの方も訪問看護は入っておりませんでした。

○平井構成員 入っていない。お掃除をされて、そうすると例えば抗アレルギー薬とか喘息の薬が不要になったとか、そういうエビデンスはあるのでしょうか。

○森山参考人 この3番の方はそこまでいっていないのですが、1番の方は薬の飲み方自体が合っていなかったので、それをきちんと指導しました。また、ヘルパーを入れたらいいのではないかということで、介護のほうと連携を取るということはいたしました。

○平井構成員 看護師の方々は、患者さんの生活面をしっかりと御覧になるということで、こういったデータが出るのは非常に素晴らしいことです。こういうことを基に、先ほど奥村先生から御提案がありました非薬物療法の標準化や評価といったものにつなげていけば、すごくいいのではないかと思いましてお尋ねいたしました。

○森山参考人 ありがとうございました。

○印南座長 それでは、美原委員、お願いします。

○美原構成員 奥村先生に教えていただきたいのですが、認知症に伴うBPSDというのは、患者さん及び患者さんの御家族にとってはとても大きな問題だろうと思います。そのときに、もちろん抗認知症薬があまり効かなくて向精神薬、例えばクエチアピンとかを使うことが多いですが、39ページにお示しのデータのように、施設では、このような多職種による臨床的なニーズの評価から非薬物療法へということが可能なのは十分理解できますが、現実的に我が国の今の現状では、御自宅で診ているときに向精神薬ですか、クエチアピンとかをどうしても使いたくなるのです。確かに先生がおっしゃるように、この治験を推進することは重要だろうと思いますが、現時点でどのようにしていったらよろしいとお考えですか。今、この時期に。

○奥村参考人 御質問いただき、ありがとうございます。私自身が臨床の人間ではございませんので、現時点でどうするべきかを直接的にお答えするのは難しい状況です。ただ、おっしゃるとおり在宅の方が多いという状況で、この事例でお示ししたような施設での介入が、そのまま役に立つかというと、役に立たないのはおっしゃるとおりです。これにつきましては海外でも同じようなことが言われていて、在宅の患者さんにどうやって非薬物療法を適切に届けるかというトライアルも幾つかやられています。具体的には電話をして指導するというトライアルはございます。ただ、そのトライアルの結果がそれほど良好な結果が得られているかというと、まだ開発途上の状況であるということを把握しています。

○印南座長 よろしいですか。お願いします。

○池端構成員 呉市の取組について2点ほど伺います。私も非常に素晴らしい取組だと思ったのですが、前野さんにお聞きします。この呉市の国保のレセプトを使った調査というのは、全国、どの市町村でも現時点で状況さえ整えば簡単にできる調査なのかどうか。その辺を、まず1点、お伺いしたいのですが。

○前野参考人 ありがとうございます。全国でこういった調査ができるかという点ですが、今、国保・後期ともにKDB(国保データベース)システムという基盤が整っております。そちらでできる可能性はあると思いますが、私ども、今、いらっしゃるデータホライゾンさんに、かなりカスタマイズをお願いして集計と抽出等をしていただいていますので、そういった柔軟な要望に対応していただけるのであれば全国でもできると思います。

○内海参考人 今の御質問ですが、KDBのレセプトデータをもらいまして、そのままだと分析できないのですが、レセプトの病名欄の病名で意味のない病名が4割ぐらいあるので、まず意味のあるものだけを抽出するというクレンジングと、それから病名と診療行為、特に薬との紐付けをやって初めて、呉市でやられたアウトカムが出ます。データはKDBからもらってきます。

○池端構成員 続けてよろしいですか。もう1つ、国保が都道府県化になると思いますが、その段階でもできるかどうか。あと、これは地域医療構想でレセプトデータを使うときの法的な縛りというか、特に問題なく自由に使って構わないのかどうか。その辺についてはいかがですか。

○内海参考人 来年度から広域化になるにしても、保健事業は自治体単位でやられるということなので、自治体ごとの保健事業に合わせて県がまとまらないとできないということではないようです。

○印南座長 今の後半の部分は、2つおっしゃった。

○内海参考人 もう1点は何ですか。

○池端構成員 レセプトデータを、こういう事業で使うということが、例えば地域医療構想などでは、一応、法的に、法案が通って認められて、それを使って公表されていますけれども、そういうことは大丈夫なのかどうか。

○内海参考人 自治体からの委託事業の場合は使えます。これを二次利用するのは難しいのですが、委託事業という前提のもとでは可能です。

○池端構成員 ありがとうございます。もう1点だけ、広島大学の森山先生にお聞きします。これもまた素晴らしい取組だと思っているのですが、レセプトデータを個人情報として、今、個人の所まで訪問することに対して、そういう使い方をすることはどうなのか、1点、気になったのと、取組そのものは素晴らしいことだと思いますが、今、4例のケースを見させていただくと、正にこれは訪問薬剤指導管理でやれることであって、通院困難な方であれば、どんどんそれを広げることによって、こういうことが現時点でもできるのかなと私は感想を持ちました。それについて何か御意見があったらお伺いしたいのですが、2点です。

○前野参考人 ありがとうございます。個人情報の点ということですが、このたびは看護師が呉市の在宅医療介護連携推進員という位置付けで、直接、対象者のほうに訪問する事業を行いました。先ほどのレセデータを使うことがどうなのかという話にも関わってくるかと思いますが、今、医療保険者はデータヘルス計画を作成することとなっていまして、レセプトなどの各種データを使って保健事業をするという国の施策となっています。それに基づいて実施しています。私ども保険者は広島大学と共同研究契約ということで、訪問された看護師さんは呉市の在宅医療介護連携推進員という位置付けで、個人情報も呉市の個人情報条例にのっとって扱うというルールの基に実施をしております。それと、訪問指導管理料でやるべきではないかというご意見。

○池端構成員 やれるのではないかと。

○森山参考人 薬局のほうには、その方のレセプトデータを渡すことができないので、今回は、全部まとめたデータを個人(患者さんの)の所に持って行って同意を得てから動いたということです。保険者から薬局のほうにレセプトデータを出すことはできないということと、今回も分かったのですが、わざと患者さんがお薬手帳を薬局に持って行かないとか、お薬を隠したり、言わないことがありますので、レセプトで一旦統合してから対応したということです。

○印南座長 よろしいでしょうか。ほかに、お願いします。

○伴構成員 伴です。奥村先生に3つほど質問したいのですが、スライド20の一番下に、バルビツール酸系睡眠薬の処方制限とあります。私たちの現場感覚から言うと、バルピツールはほとんど処方されていないという感覚なのですが、どういうデータでまだまだ出ているということなのか。1つずつ質問しますのでお答えいただいてよろしいですか。

○奥村参考人 バルビツール酸系睡眠薬の処方割合、現状では精神科の場合に約3%というデータを私どもは検討しています。

○伴構成員 それは複合薬みたいにして出されているということですか。

○奥村参考人 それは以前、販売されていたベゲタミンについてはそうですが、それ以外にラボナもよく出ています。

○伴構成員 2つ目が、スライド37です。米FDAの警告前後の抗精神病薬の処方トレンドということで非常に興味深いのですが、日本の研究は先生からの研究ですけれども、これはどういうデータに基づいた比較なのでしょうか。

○奥村参考人 ありがとうございます。私どもが検討しているのは、社会医療診療行為別調査と言いまして、厚生労働省が集めているレセプトデータを使っています。これは外来患者さんのレセプトです。

○伴構成員 3つ目は、最後のスライドで抗精神病薬処方の透明性の向上という施策提案を頂いていますが、これは今、こういう状態なのを、どういうふうにしたら透明性が向上するという意味なのか。ちょっと理解しかねたので教えてください。

○奥村参考人 ありがとうございます。具体的にはスライド38にありますように、CMSがやっているような形で、今現在、日本全国の施設でどの程度の抗精神病薬が処方されているかという情報をウォッチし続けられるような仕組みが必要になってくると考えています。

○伴構成員 ありがとうございます。

○印南座長 よろしいですか。お願いします。

○勝又構成員 呉市の方にお伺いしたいのですが、多剤併用対策について平成23年度から情報提供事業をやっておられて、すごいなと思っているのですが、これ以外に、例えば患者さんに対して何か教育的なこととか、多剤併用対策としてやっておられるようなことがあるのか、ないのか。それから、この後、森山先生が話されたような事業の中身を将来的に取り入れてやっていこうとされているのか。保険者としてどのように考えておられるのか、お聞かせいただければと思います。

○前野参考人 ありがとうございます。併用禁忌・回避について、患者に直接何か教育的なところをやっているかということだと思いますが、先ほどの森山教授と一緒にやっている直接訪問すること以外には、現在のところ実施していない状況です。

○森山参考人 もう1点追加ですが、スライド4をお願いします。このピラミッドの事業を、今、呉市と一緒に全部実施しています。マル1の高度ケースマネジメントで、必ずしも多剤ということではないですが、看護師として訪問して疾病管理も含めたケースの調整をしていると、かなりの方が多剤ですので、ここでは教育を提供したり疾病管理をしたり、ACP(Advance Care Planning)をやったり、そういったことも一括してやっています。

○印南座長 よろしいでしょうか。それでは、かなり時間も押していますので、次の3番目の議題です。患者との関わりについて、北澤構成員にプレゼンテーションをお願いします。よろしくお願いします。

○北澤構成員 北澤です。よろしくお願いします。いろいろな医療行為にはリスクとベネフィットの両方があるということは、皆さん、御承知のことと思います。

 今日、御紹介するのは「Choosing Wisely」というキャンペーン活動です。Choosing Wiselyとは、これはホームページに出ている情報ですけれども、「医療者と患者が対話を通じて科学的な裏付けがあり、既に行われた医療と重ならず、害が少なく、患者にとって真に必要な医療の賢明な選択を目指す、国際的なキャンペーン活動」と言われています。ざっくり言うと、適切な医療を過不足なく賢く選んでやろうというのが、Choosing Wiselyと思います。 そもそも、このChoosing Wiselyは、どういうふうにして生まれたのかということですが、今から10年以上前になりますけれども、新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章(Physician Charter)から始まりました。これは、米国内科学会などの団体が主導して作られたものです。その中に「患者の福利優先の原則」「患者の自律性に関する原則」「社会正義(公正性)の原則」という3つの基本的原則が書かれています。具体的な10か条の責務、医師の責務ということですね、その7番目に「有限の医療資源の適正配置に関する責務」が含まれています。こうした医師憲章を受けて、ABIM財団がフォーラムを、毎年、アメリカで開いてきたのですが、2011年に「Choosing Wisely」という言葉が初めて登場したという経緯です。

 その前年(2000年)に、アメリカの家庭医療学の先生で医療倫理の専門家でもあるHoward Brodyという先生が、『New England Journal of Medicine』に1つの提言をなさいました。ここに書いてあるとおりで、オバマケアに協力して、いろいろなアメリカの業界がこういう取組をしてきたのに、お医者さんたちは何もやっていない。そこでブローディさんは、各学会に対して、患者の利益を損なうことなく医療費が節約できる“Top Five”リストを学会自ら作ることを提案したいと述べました。この提言を受けて、具体的にやろうということで始まったのが、Choosing Wiselyです。 これがインターネットのアメリカのサイトです。ここで左から2番目のListsという黄緑の所をクリックしていただくと、具体的なリストを見ることができます。 これは1例ですけれども、アメリカ老年医学会が「10のリスト」を作っています。その中の例えば4番目に、先ほども御紹介のあった、高齢者の不眠に対する第一選択薬としてベンゾジアゼピン系のお薬についての提言が出てきます。右側は、それを患者さん向けにやさしく解説したもので、これはアメリカの消費者団体であるConsumer Reportsと一緒に作っています。

 最近、薬剤師の団体もこの「5つのリスト」を作りました。訳が悪くて恐縮ですが、5つのポツのことを薬剤師の団体が宣言しています。これを見ますと、1番目のものは、前回のこの検討会でも話題になった副作用対策が目的で、いわゆる処方カスケードというのをやらないということを言っていますし、3番目は、いわゆる安易なDo処方をやらないということを宣言しています。 Choosing Wiselyは、医師を中心とした医療従事者の方々の活動ですが、医療従事者だけでできるわけではなく、一般の人、あるいは患者の協力というか理解も必要だということで、啓発動画をYou Tubeに上げています。こんな形で、替え歌で楽しくChoosing Wiselyを紹介するという取組もなさっています。次、お願いします。

Consumer Reportsは、Choosing Wiselyと一緒に、検査・治療・処置を受ける前に、医師にこういう質問をしてみましょうということを提案しています。彼らはカードぐらいの大きさの小さな紙に、この5つの質問を書いて、それを一般の方に配るということをやっていて、最近の情報では既に20万枚以上を患者に配布しているということです。 ここで、Choosing Wiselyの6原則を挙げておきました。大事なのは、1番目に臨床医主導ということで、これは保険者や政府に言われるのではなく、いわゆる医療者自身がプロフェッショナリズムの観点から自らやるのだということを言っています。2番目も重要で、強調すべきメッセージは、要するに費用削減がありきということではなく、患者さんへのケアの質と、不要なことをやることによる有害事象の予防だということを言っています。以下、3、4、5、6と、このようなことを言っておられる活動です。 今まで外国での活動について紹介してきましたが、日本では、今から2年前に総合診療医の指導医の方々のグループが、日本で初めて「5つのリスト」を発表しました。その年に、医療の質・安全学会に「過剰医療とChoosing Wiselyキャンペーン」ワーキンググループが設置されました。私は医療従事者ではないのですが、このワーキングの1人です。その翌年(2016)の秋に、Choosing Wisely Japanキックオフセミナーを開き、現在、その代表を佐賀大学名誉教授の小泉先生が務めておられます。つい先日、6月1日に日本医学会シンポジウムで、日本医師会会館でChoosing Wiselyをテーマにシンポジウムを開催したところです。

 ここで言いたいのは、医療専門職と患者・市民が一緒になって、Choosing Wiselyということを実践することで、患者が不要な害を被ることなくベネフィットを増やすと、そういうような活動、取組であるということです。以上です。

○印南座長 ありがとうございました。ただいまの北澤構成員の御説明に、御意見、御質問等ありましたらお願いします。

○水上構成員 患者さんと医療者の双方から、アプローチをしていくというのは素晴らしいことだと思います。

○印南座長 ほかにございませんか。お願いします。

○秋下座長代理 日本でもこのようなものが早くできるべきだなと思ってました。ただ、これがそのまま日本に来たら結構まずいなと、新聞とかに出るとまずいなとも思っていたのです。つまり日本の一般の方々というのは、こういうものを受け入れる素地があるのかなというのが、普段、私が高齢者を診ていて素朴に感じる疑問です。英語と日本語とはニュアンスが違うので、英語をそのまま日本語にするとかなり過激な表現になってしまうというのは、よくあることかなと思います。そういう意味で、これを作成してまだ発表していないとしたら、患者団体とか、一般側の人が作成グループに含まれていることが重要なのかなと思っています。そういう形になっておられますか。

○北澤構成員 まだ、そこまで具体的に、日本でどうするというところまではいっていないのが現状です。今、先生が言われたように医療者だけで決めるのではなく、そこに患者とか市民の立場の関与も必要と感じます。また、先生が前段のほうで言われたように、患者さんにもいろいろな人がいるというのは前回も言ったのですが、この取組は単に医療をやめればいい、薬を減らせばいいということではなく、過不足ない医療を提供するというところを重視するのがいいと考えています。

○印南座長 ほかに、よろしいでしょうか。それでは議題3を終了しまして、次の議題、検討課題と今後の進め方について、時間を過ぎていますが、取りあえず事務局のほうから資料の説明をお願いします。

○安全対策課長 本日、資料6を提出させていただいています。前回、第1回目のときに様々な議論を頂きまして、その議論を整理する中で、今後、高齢者の多剤服用、ポリファーマシー対策のためのガイドライン等を作る場合、どういった視点を含めて御検討いただいたらいいかといった点も踏まえて、まとめのほうをさせていただいています。1番目が現状の分析という部分、2番目がポリファーマシー対策のガイドラインを作成する場合の視点、3番目が多様な医療現場の多職種連携の下での情報収集、管理及び共有のあり方という部分、4番目が医療関係者の理解・意識の向上ということで、人材育成等も含めた形でのお話とか、今、北澤構成員からも御紹介がありましたようなChoosing Wisely的な部分、患者に対する啓発の機会等の部分も含めてということで整理しています。

 本日、もう時間が過ぎていますので、もし何かこの場でおっしゃりたい部分とか、御意見でどうしてもという部分があればお伺いしたいと思いますが、基本的にこれをお持ち帰りいただき、また次回、第3回の会議で少し時間をとって御議論いただくような機会にさせていただければと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。

 あと、今後の進め方で、これからガイドラインを作るということになってきますと、少し集中的な検討が必要だろうということで、また次回、この検討会にお諮りしたいと思いますけれども、検討会の下にワーキンググループを組織してはどうかということも、併せて御提案させていただければと思っています。事務局からは以上です。

○印南座長 ただいまの事務局の説明につきまして、よろしいでしょうか。一応、本日の予定した議題は終了としまして、次回、今、事務局から説明があったとおり、今後の進め方について議論するということで進めたいと思っています。よろしいですか。活発な御議論、大変ありがとうございました。最後に事務局から何か連絡事項があればお願いします。

○安全対策課課長補佐 次回の検討会ですが、第3回になります。7月14()14時からを予定しています。場所等の詳細につきましては追って事務局より御連絡させていただきます。なお、本日の議事録につきましては、後日、送付させていただきますので内容の御確認をお願いいたします。修正、御確認いただいた後は厚生労働省のホームページに掲載いたしますので、よろしくお願いいたします。事務局からは以上です。

○印南座長 よろしいですか。それでは、本日はありがとうございました。これにて閉会いたします。


(了)

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