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2017年4月4日 第15回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会

労働基準局

○日時

平成29年4月4日(火)14:00~16:00


○場所

中央合同庁舎第5号館厚生労働省議室(9階)


○出席者

荒木 尚志(座長) 石井 妙子 大竹 文雄 岡野 貞彦 垣内 秀介
小林 治彦 高村 豊 土田 道夫 徳住 堅治 斗内 利夫
中山 慈夫 長谷川 裕子 水島 郁子 水口 洋介 村上 陽子
八代 尚宏 輪島 忍

○議題

・解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について
・その他

○議事

 

○荒木座長 それでは、全員おそろいということですので、ただいまより第15回「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催いたします。

 委員の皆様には、お忙しい中、御参集いただきましてありがとうございます。

 本日ですが、鹿野菜穗子委員、小林信委員、鶴光太郎委員、中村圭介委員は御欠席です。なお、山川隆一委員におかれましては、2月27日に中央労働委員会会長に就任され、4月からは常勤ということになりましたので、本検討会の委員からは御退任なさるということになりましたので御報告いたします。

 本日の議題ですけれども、前回に引き続き「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」です。

 配布してあります資料について、事務局より確認をお願いします。

○大塚調査官 資料は4点ございます。

 一番上の資料No.1が本日のメーンの資料ですけれども、「検討事項の補足資料ver.2」ということで横書きの資料です。

 参考資料は3点ついておりまして、前々々回の資料が参考資料1、前回の資料が参考資料2と3になっております。

 もし、不足や落丁などがございましたら、事務局までお申し出くださいませ。

○荒木座長 よろしいでしょうか。

 それでは、本日も前回に引き続き、「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」議論したいと思います。

 前々回から前回の御議論を踏まえまして、制度の基本的な枠組みについての論点を資料No.1「検討事項の補足資料ver.2」として準備いただきましたので、事務局より資料の説明をいただきまして、その後に議論に移りたいと考えております。

 事務局より資料No.1に基づいて、説明をお願いします。

○大塚調査官 事務局より説明いたします。

 資料No.1をお開きください。こちらの資料は前々回にお示しした資料に関しまして、先ほど座長から御紹介のございましたように、皆様方からいただいた意見をプラスして盛り込んでおります。

 1ページ目でございますけれども、これは変更ございませんで、検討の対象がどこなのかというのを示した図でございます。一番下のところ「解雇無効時における金銭救済制度」を議論するというのがこの検討会のミッションでございます。

 2ページ目は、措置を講ずる手法としてどういうものがあるのかというのをまとめたペーパーでございましたけれども、最初の「手続的手法」と「実体法的手法」があるという2点については変わりございませんが、その下に数行追記しております。

 1つが、「金銭的予見可能性を高めるための方策」として、考慮要素ですとか、あるいは上下限を設けるのかどうかですとか、あるいは算定式方式をとるのかどうかといったことの御議論をいただくのが1点です。もう一点は時間的予見可能性につきまして、消滅時効についてどのように考えるのかということでございます。

 その下に、平成15年検討時と平成17年検討時の当時考えていた流れ図が書いてあるわけですが、それぞれの下2行に追記しております。平成15年検討時におきましては、金銭的予見可能性といたしましては「平均賃金の○日分」ということで、結局、この「○日分」は最後まで埋まらなかったということでございます。時間的予見可能性については特段の措置なしと。

 平成17検討時ですけれども、金銭的予見可能性につきましては事前の労使合意を想定していたと。時間的予見可能性に関しましては、判決が出てから30日以内に労働者が権利を行使しなければ、金銭を請求する権利を失うといったことが考えられておりました。

 3ページからそれ以降にかけましては、これまで御議論いただきました例1、例2、例3の3つの方向性が示されておりまして、それぞれについて考えられる流れですとか論点を記述していった資料でございました。

 3ページの例1に関しましては、これまでの御議論で出たものを一番下の※に追記しているわけでございます。これまでの御議論で、中山委員からございました御意見でございますけれども、平成17年の図をごらんいただきますと、判決として求めるのはこの3つの判決なのですが、特にネックになっていたのが労働契約の解消を命ずる形成判決で、この形成判決が要件として一定の金銭が支払われていることを前提にしていたところ、判決の時点で一定の金銭を支払えという給付の判決も同時に出すことになりますと、判決の時点ではまだ一定の金銭が支払われていない状態なので、形成判決の形成原因を満たしていないので無理だったというのが、平成17年の検討のときの最終的ななれの果てだったわけなのですけれども、中山先生から、この形成の判決と給付の判決をどちらかが条件であるかのような構成にせず、セパレートしてやればいいではないかという御意見があったかと思いますので、その旨記述しております。これに関しましては、金銭が支払われていないにもかかわらず、裁判所が形成の判決を出すことになりますので、労働者保護の観点からどうかという御意見もあったかと思いますので、その旨もあわせて記述しております。

 4ページは例2といたしまして、現在幾つかの裁判例がございます不法行為に基づく損害賠償請求を前提に金銭救済制度を仕組むとすれば、どんなやり方があるかというのをまとめたものでございました。これに関しましては、これまでの議論の中で、例えば徳住先生からは、不法行為の要件と労働契約が解消される労働契約法16条の要件とは全く異なり、不法行為に該当するような解雇が必ずしも権利濫用になるとは限らないし、逆もまたしかりだといった御意見などがございまして、全体的にこの検討会の先生方におきまして、例2を積極的に支持される方はいらっしゃらないということかと思いますので、このページの最後の文末の表現を「難しいのではないか」と改めたものでございます。

 5ページ目は例3といたしまして、例1と異なりまして、実体法上に一定の金銭を請求することができる権利を創設するというものです。それの法的効果として、労働契約が終了するといったものを仕組んではどうかという案でございますけれども、5ページではそれぞれの場面において、どのような論点があるのかというのをまとめた図に改めております。左のほうからごらんいただきますと、まず解雇が行われるわけなのですが、制度の対象となる解雇は何なのかというのが論点の1番目でございます。一定の要件を満たした上で、労働者が金銭救済を請求するわけなのですけれども、その際の要件はどう設定するのか、あるいはその労働者の権利というのは一体どういう権利なのかというものを御議論いただくのが論点2でございます。

 裁判に行った場合、その下のほうに矢印が流れていきまして、一番下が労働者勝訴のパターンで給付判決がなされる場合ですけれども、その給付判決を受けまして使用者が金銭を支払います。その際の金銭の性質といったものはどういうものなのかということで、特に前回バックペイとの関係が議論になりましたけれども、そのあたりを御議論いただくのが論点3でございます。その後、労働契約の終了ということなのですけれども、その終了するというのがそもそもどういう位置づけなのかということですとか、あるいは終了の時期がいつなのかというのを御議論いただくのが論点4でございます。

 図の上のほうをごらんいただきますと、既存の地位確認訴訟とか、あるいは現行でも民法536条2項に基づくバックペイ分の請求訴訟、あるいは損害賠償請求訴訟などがありますけれども、それらの既存の訴訟との関係をどう考えるのか、整理するのかというのが論点の5番目でございます。

 一番下に2行書いてありますけれども、金銭的予見可能性について考慮要素をどうするかなどの議論が論点6、消滅時効など時間的予見可能性についてどうするのかが論点7でございます。

 6ページ以降に、今御紹介しました論点に従って、さらに細かく論点の書き出しを行っております。

 まず、論点1「対象となる解雇」でございますけれども、1つ目の○に書いてございますように、基本となりますのは現行の労働契約法第16条と同様の解雇、すなわち権利濫用に該当するような解雇が基本になるかと思いますけれども、2行目の後段に書いてございますように、労働協約違反の解雇ですとか就業規則違反の解雇をどうするのかというのもあわせて御議論いただく論点となっております。

 2点目は、労働基準法などの法律によって制限されているあるいは禁止されている解雇というものがございます。これについて、制度の対象とするべきなのかどうかということで、※に書いてございますように、労働者申し立てにつきましてはあくまでも労働者の選択という意味でありますので、これらの解雇につきましても対象とすることも考えられるが、どうかという投げかけを行っております。

 3点目は、有期雇用の期間途中の解雇は労働契約法16条の世界ではなくて、17条、すなわちやむを得ない事由がなければ解雇できないとされているものでございますけれども、こうした解雇ですとか、あるいは労働契約法第19条の対象となっております有期契約の雇止めにつきまして、一般の権利濫用の解雇と同様に制度の対象とするべきなのかどうかということもあわせて御議論いただければと思います。

 論点の2番目でございますけれども、「労働者が金銭の支払を請求する権利」ということで、ここでは2点ございます。まず1点目は権利の発生要件をどう考えるのかでございます。これはこれまでの資料でもお示ししましたように、基本としては3つの要素があると考えておりまして、1つは解雇がなされていること、2点目がその解雇が権利濫用に該当すること、3点目が労働者が金銭の支払いを求めているといったことが基本形かと思いますが、この○の「また」のところに書いてございますように、例えば復職する意思がないなどの付加的な要件を設ける必要があるのかどうかについて御議論いただければと思うのですが、これに関しましては前回土田先生からお話がございましたように、付加的な要件を設けるとなると適用範囲が絞られることになりますので、その点をどう考えるのかということもあわせて御議論いただければと思っております。

 2つ目の○でございますけれども、権利の法的性格についてでございまして、これを形成権と位置づけることが適当かどうかということでございます。形成権といいますのは、上の要件との関係でいいますと、1つ目の解雇がなされていること、2つ目のその解雇が権利濫用に該当することの2要件を満たした場合には、労働者側が金銭を請求することができる権利が法律上与えられるわけです。実際にこの要件の要素の3つ目、労働者が金銭の支払いを求めたという、いわば引き金を引くことによって権利関係の変動が生じる。この場合の権利関係の変動は何かといいますと、使用者は労働者に対して労働契約の終了という効果をもたらす一定の金銭を支払わなければいけない債務を負うということで、新しい債権債務関係が労働者の金銭請求という意思表示によって、いわばそれが引き金となって権利関係の変動がもたらされるわけです。

 これを形成権と考えるのですけれども、形成権とした場合に議論になりますのが、前回、垣内先生からお話がございましたように、撤回ができるのかどうかという論点につながります。ここで言う撤回というのは法律用語としての撤回でございますので、ある意思表示をなした人がその人の一方的な意思表示のみによって、それを取り下げることができるかどうかというものでございまして、両者が合意の上でそれを取り下げるというのは、一般用語としては「撤回」という言葉を使いますけれども、法律用語の「撤回」はそうではなく、一方当事者の意思表示のみによってそれを取り消すというものでございます。

 法律用語としての「撤回」に関する論点が次の7ページ目でも詳述されております。まず仮に撤回をするとした場合の「撤回」の対象は、労働者が使用者に対して一定の金銭を求めているという意思表示が「撤回」の対象になるわけなのですけれども、その金銭を求めたという意思表示を一方的に撤回することが可能なのかどうかということを改めて御確認いただければと思います。

 垣内先生からは、形成権は一般的には「撤回」は認められないものであると。もうそれは意思表示をした瞬間に権利関係の変動が既に生じてしまっておりますので、それは基本的には撤回できないが、労働関係の解雇の意思表示という関連する意思表示に関して撤回を認めているのかどうか、その辺との兼ね合いでも議論するべきではないかといった趣旨の御発言があったかと思います。

 それとの関連で申し上げますと、資料の最後の13ページをごらんいただければと思うのですが、ここでは解雇あるいは労働者が行う辞職につきまして、撤回が認められると解されているのかどうかを関連する書籍などから抜き出したものでございます。

 一番上の「解雇の撤回の可否」については、労働基準法のコンメンタールから抜き出しておりますけれども、「解雇の予告は、使用者が一方的になす労働契約解除の意思表示であって、これを取り消すことはできない」といったことが書いてございます。ただ、その後ろに書いてございますように、両者が話し合った上で、その取り消しをなすことは可能ということになっております。

 一般の世界では、例えばある事業所で管理職の方を解雇した際、管理職の方はそれまで組合には入っていなかったのですけれども、管理職ユニオンに加盟して、それでユニオンが会社と交渉して、いわゆる撤回するということもあり得るわけですけれども、そこで言う「撤回」はここで言うところの両者が合意した上での取り下げのことでありまして、本論点で問題になりますのは解雇の意思表示をなした使用者が、その一方的な意思表示で取り消すことができるのかどうかということでございまして、それにつきましては現行では解雇の撤回、一方的な意思表示の撤回はできないという解釈になっております。

 これは、次の辞職に関しても同様でして、労働者が一方的に辞職する場合につきましては、労働者の一方的な意思によってそれを取り下げることはできないと。ただ、この辞職と似たようなものとして合意解約というものがあって、それは一番下に書いてあるのですけれども、合意解約の場合には労働者がやめますという申し出をして、それに対して使用者が承諾の意思表示を示して、初めて合意によって解約されるわけなのですけれども、そういう場合におきましては、労働者が行ったのはあくまでも最初は申し出でありますので、それを使用者が承諾するまでの間に取り下げることは許されるという解釈になっております。

 以上が、解雇などに関する意思表示の撤回の可否に関する現行解釈でございましたけれども、そこで7ページに戻っていただきまして、そういったように現在の解雇の意思表示などにおきましては、一方当事者の意思表示のみによって取り下げ、撤回をすることはできないという解釈になっておりますので、それとのパラレルで今回の金銭救済請求をした場合に、労働者が一方的な意思によってそれを取り下げることができるのかどうか、できるようにするべきなのかどうかというのを御議論いただければと思っております。

 仮に一方的な意思表示での撤回を認めるとなった場合には、それがいつまでもできることになりますと、これは著しく法的な安定性を害しますので、いつまでにできるのかといったことなどもあわせて御議論いただければなと思っております。

 7ページの一番下の矢印は、鹿野先生の御発言を受けて書いたものでございますけれども、解雇の撤回ができるのかどうかということとも絡む話なのですが、労働者が金銭救済を請求するに先立って、使用者側に対して対象となっている解雇を取り下げるのかどうかなどの事前の手続をかませる必要があるのかどうかといった御発言がありましたので、これも一応論点の一つとして御議論いただければと思いまして、ここに掲げております。

 8ページの論点3「使用者による金銭の支払」についてでございますけれども、ここでは金銭の性質をどのように考えるのかというのが主な論点になってきます。この金銭には2つの要素があると思っておりまして、それが次の行に書いてありますけれども、1つは労働契約を終了するかわりに受け取るという意味でのいわば交換条件分としてのお金の性格、もう一つの要素がバックペイ分ということで、これはその下の※に書いてございますように、民法536条2項によりまして認められる未払い賃金のことであります。

 労働契約期間が存続していて、その間に使用者側の解雇の意思表示によって働くことができない状態ができるわけです。労働者側に労働契約に基づく労務の提供の意思、就労の意思がある場合には、使用者側の事情によって働けない状態になっているということで、この場合には、使用者は引き続き賃金を支払うという義務を労働契約に基づいて負うことになります。これが解雇の無効確認の訴訟とともに提訴されることが多いのですけれども、もし仮に解雇が無効で、労働契約期間が継続しているとなった場合には、労働者側は就労の意思があるにもかかわらず使用者側の事情によって、賃金が支払われない状態になっているということで、期間にもよるのですけれども、未払い賃金の請求権を労働者が有することになるということでございます。

 この2つのお金の性格を切り分けて、それぞれ御議論いただく必要があるなと考えておりまして、論点3の2つ目の○にございますように、交換条件部分につきましては、その考慮要素をどのように考えるのかということが1つの論点として挙がってきます。※にも書いてありますように、年齢とか勤続年数、解雇の不当性の程度あるいは精神的損害などいろいろ考えられるわけですけれども、そこを御議論いただく。

 3つ目の○に書いてございますのは、前回も相当御議論ありましたけれども、バックペイの部分についてどう考えるのかということでございます。今回新制度を設けるとした場合に、お金の性質に含めるのか含めないのかなどによりまして、A、B、C、3とおりの考え方がこの検討会では示されたと考えておりますので書いております。

 1つ目はAでございますけれども、今回の金銭には含めなくて、これまでと同様に民法536条2項に基づいて認められる未払い賃金として位置づける。いわば民法536条2項の世界は別建てでとっておくというものでございます。

 2つ目がBでございますけれども、「バックペイ分を今回の金銭に含める」ということでございます。

 C説は、バックペイ分につきまして全額を入れるということではないにせよ、その交換条件分の算定に当たって、バックペイ相当分を盛り込むという趣旨でのいわば考慮要素とするものでございます。

 これらにつきまして、どうあるべきかというのを御議論いただくわけなのですが、4つ目の○に書いてございますように、バックペイの発生期間がどれぐらいになるのかということについても、あわせて御議論いただく必要があると考えておりまして、その発生期間がどの程度になるのかというのを「参考」と書いてある表に整理しております。バックペイ分がどこの機関について生じるのかにつきましては、労働契約がいつまで続いていたことになるのかということと、労働者の就労の意思がいつまで認められていたのかということの組み合わせで整理されるわけですけれども、左側の縦の欄は労働契約の終了の時期がいつなのかというものでございまして、4通りの考え方があり得ると考えております。一番早く終わってしまうのが1番目の解雇時であります。2つ目が金銭の請求時、3つ目が金銭請求訴訟における判決確定時、4つ目が実際に金銭が支払われたときの4通りの考え方であります。

 労働契約期間が存続していても、労働者に就労の意思が認められなければ、そこはバックペイとしては発生しないことになろうかと思いますが、その労働者の就労の意思がいつまでなのかというのを整理したのがこの表の右側でございます。2通りありまして、1つが「ア 金銭請求時」であります。これは復職することを諦めるかわりにお金をいただくということになれば、お金を請求した時点で既に復職、就労の意思がないのではないかということでございます。次なる考え方が右側の「イ 金銭支払時」です。これは一定の金銭が支払われたならばやめてもいいという、いわば条件つきの意思でありまして、労働者目線でいうと、金銭支払い時というよりは金銭受け取り時なのかもしれませんけれども、そういう条件つきの意思が認められるとするならば、金銭を請求した時点では、必ずしも就労の意思なしとならないのではないかという考え方でありまして、この両者の組み合わせによってこの表に記載してあるようなバックペイがそもそも発生しているのかどうか、いつまで発生しているかの考え方が数通りに分かれるというものでございます。

 このページの一番下のなお書きでございますけれども、金銭が支払われた後におきましても、金銭の水準に不満がある労働者から金銭の額に係る訴訟が提起される可能性があると考えられるがどうかということでございまして、これは裁判外で支払われた場合と裁判において金銭が支払われた場合でまず分けて考える必要があるのかなとも思います。また、新制度に基づく金銭の支払いが裁判所により命じられて、その判決に基づいて払った場合、これは既判力が及ぶと思います。他方で、例えば新制度の金銭以外のバックペイ分を追加的に要求するとか、損害賠償分を追加的に要求するといった場面とではまた違ってくるとも思いますので、幾つか場合分けして議論する必要があるのかなというふうにも思います。

 9ページは、論点の4番目として「労働契約の終了」についてでございます。金銭の支払いによりまして労働契約が終了する根拠をどう考えるかということなのですけれども、合意等による労働契約の終了とは異なりまして、この仕組みを法律に設けたことによりまして、いわば新しい契約の終了事由が規定されるものと考えられるのではないかということがまず1点目でございます。

 2つ目は、労働契約を終了する時点についてでございますけれども、先ほどの参考の表の縦の部分に関連するものでございますが、これをいつに設定するべきなのかということでございます。

 この新制度が仮にできた場合に、どういう裁判が起こされて、どういう判断が行われるかということを想像するに、まず権利濫用という要件を仮に設定した場合には、裁判所はその解雇が権利濫用に該当して、地位確認が起こされていれば無効とするような解雇であるという判断を行うはずであります。そうなりますと、労働者勝訴のパターンでいうと、権利濫用の解雇に該当すると。その結果、雇用契約は継続しているのだけれども、一定の金銭を支払えという給付の判決がくだるわけでございまして、前提としては労働契約が継続しているものと考えます。

 そうなりますと、普通に考えれば、先ほどの表で言うところの3ないしは4の考え方がベースになるのかなと考えられますが、その辺も含めてどう考えるのかというのがメーンの論点になります。

 これまでの検討会で、長谷川委員などからお示しのあった論点を※で書いてありますけれども、分割払いの場合はどうなのかということでございますが、これもそういう意味では、いつ契約が終了するとするのかとリンクしているわけでございますが、仮に金銭支払い時に契約が終了することにしますと、分割払いの場合にはまだ満額支払えていないことになりますので、契約は終了しないと考えられますけれども、その辺も含めてどう考えるのかということでございます。

 論点の5番目でございます。「他の訴訟との関係」でございまして、前回垣内先生と水口先生のやりとりで何らかが整理されたのではないかなと思いますが、それを改めて書いたのが1つ目の○でございます。新しく設けます金銭の救済制度における金銭請求訴訟と既存の地位確認訴訟、バックペイ訴訟、損害賠償請求訴訟は、それぞれ裁判の対象となるもの、訴訟物が異なることになります。訴訟物が異なる以上、二重起訴には該当しない。すなわち二重起訴に該当した場合にはその内容審理に入らず、却下されるという法的効果が伴うわけなのですが、そういった二重起訴には当たらない、訴訟物が異なる以上は二重起訴に当たらないので、内容審理に移ることなのかなと考えられますけれども、それについて改めて御確認いただければと思います。

 2つ目は、金銭請求訴訟等の併合提起は可能かどうかということで、特に地位確認訴訟と併合提起が可能かどうかということが主に論点になってこようかと思いますけれども、その下に2つポツを書いてございますように、これはいつの時点で労働契約が終了したのかということとリンクしてくるものだと思います。仮に金銭請求時点で労働契約が終了するとした場合には、地位確認訴訟とは両立しない。ただ、支払い時に労働契約関係が終了する考え方に立つならば両立し得ることになろうかと思います。

 3つ目の○でございますけれども、これは既判力の話でございます。金銭救済制度におきましては、権利濫用に該当するかどうかの判断を裁判所が行うわけなのですけれども、その判断は判決の主文ではなくて、理由の中に書き込まれることになります。既判力、つまり、その後の裁判などを拘束するかどうかということにつきましては、主文に書かれたものが既判力を有することになっておりますので、厳密というか形式的に言いますと、その判決の理由の中に書かれた当該解雇が権利濫用だったかどうかの判断というのは既判力はないことになりますが、その点についてどう考えるのかということです。

 これは具体的な場面を想像いたしますに、金銭救済制度に基づく金銭の支払いを求める裁判を労働者側が起こし、その解雇が権利濫用かどうかを判断した結果、それは権利濫用に当たらず解雇は有効であるとなった場合に、例えば労働者側が改めて地位確認とバックペイ分の請求訴訟というものを後に起こせるのかどうかといった問題を想像していただければと思います。

 4つ目が、裁判外でお金の支払いと契約の解消に合意していたのだけれども、後にそれを争うことができるのかどうかということでありまして、錯誤無効や詐欺取り消しなど、民法の一般的な意思表示に係る瑕疵の規定に基づいて、訴訟を起こすこと自体はできるのではないかということであります。

 最後の5番目でございますけれども、金銭にバックペイ分を含めないこととした場合には、別途バックペイ請求訴訟が提起される可能性があるわけでございますけれども、迅速な紛争解決のためには、どのような方策が考えられるのかについて御議論いただくものでございます。

10ページでございますけれども、論点6といたしまして、「金銭的予見可能性を高めるための方策」についてでございます。これにつきましては先ほども述べましたように、まずは考慮要素をどう設定するのかということや、あるいは上限、下限などの限度額を設定するのかどうか、そして、算定式などのやり方を明示していく必要があるのかどうかといったことを御議論いただくのが1つ目の○でございます。

 2つ目の○は、交換条件部分につきまして、考慮要素を明示することはもちろんのことなのですけれども、上限や下限を明示することについてどう考えるのかということでございます。

 3つ目は、バックペイ分についてでございますけれども、これもそもそも今回の金銭に含めるのか、あるいは考慮要素にするのか、それとも民法の世界で別建てにするのかにもよるのですけれども、何らかの形で含めるとなった場合には、交換条件分とともに限度額、上限や下限を示す必要があるのかどうかといったことを御議論いただければと考えております。

 この○の後段に「仮に」と書いてございますように、仮に上限を設定する場合には、その上限の金額が通常民法536条2項に基づいて認められるであろうバックペイ額を下回ってしまうこともあり得るのですけれども、そのあたりをどう考えるのかということでございます。具体的な上限、下限の議論をされる際の参考指標といたしまして、あっせんですとか労働審判、和解、あるいは早期退職優遇制度などにおける額の実態データをこちらに参考として載せております。

 最後の○でございますけれども、法律等で考慮要素を定めた場合でありましても、別途労使合意で一定の金額の水準を定めることなどについてどう考えるのかという論点を掲げさせていただいております。この労使合意につきましては、平成17年の検討時には労使委員会を含めた労使合意ということがありました。前回の検討会では、土田先生のほうから労働協約を例示されましたけれども、労使合意の手段をどう考えるのかということを御議論いただくのがまずあろうかと思います。その上で、仮に上限や下限を設定した場合、この労使合意との関係、すなわちその上限や下限の強行規定性についてどう考えるのかということもあわせて御議論いただければなと思っております。

11ページでございます。論点7「時間的予見可能性を高めるための方策」についてでございますけれども、これにつきましては、紛争の迅速な解決を可能とするということも一つの目的としてあるのではないかという御意見が鶴委員からもございましたので、具体的には消滅時効の定めを置くのか、置いたとしてどれに合わせるのかということを御議論いただければと思いまして、参考といたしまして、現行の各種消滅時効の例を載せているところでございます。

 2つ目の○にございますように、消滅時効の議論のみならず、時間的予見可能性を高めるために何らかの方策が考えられるかということもあわせて御議論いただければと思っております。

 最後、12ページでございますけれども、こちらは使用者申し立てについてでございます。前々回お出しした資料に、その後の議論で出された御意見などを付記しております。付記した部分について申し上げますと、真ん中あたり、平成15年の検討スキームの最後の2行のところを追記しております。追記した内容は、先ほど御紹介したものと同じでございます。

 あと、下の※でございますけれども、使用者申し立てに関しましては、中山委員あるいは石井委員から、労働者にも一定の問題がある場合など、労使双方の信頼関係が崩壊しているような状況下で認めるのであれば合理的ではないか、進めるべきではないかといった積極意見がございましたので、それをまず1番目に書いてございます。

 他方で2番目には、解雇後に再度使用者から労働契約の終了を申し入れることとなるわけで、この検討会では「二の矢」という表現が使われていましたけれども、そういったものなので、労働者申し立てに比べて法技術的に一段ハードルが高いのではないかという御意見もございました。

 3点目は、たしか高村委員からの御意見だったかと思いますけれども、使用者申し立てを認めた場合には、不当な解雇や退職勧奨など使用者のモラルハザードが起きるのではないかという懸念が示されておりましたので、それも付記しております。

 以上、長くなって恐縮でございましたけれども、今回御議論いただきます資料No.1について御説明いたしました。

 以上であります。

○荒木座長 ありがとうございました。これまでの議論を反映させて、バージョンアップした資料を提出いただいたところです。

 それでは、御自由に御意見あるいは御質問等ありましたらお願いしたいと思います。

 水口委員。

○水口委員 水口です。6ページの論点2について、権利の法的性質に絡むのですが、形成権であるかどうかという点です。今御説明あったとおり、通常は形成権と考えると撤回はできないとされています。例えば、民法540条2項に契約解除が撤回できないと明記されています。実際の場面を想定すると、労働者が解雇されて、その解雇に不満で不当、違法だという場合に、労働者は地位確認請求をするという法的知識がありませんから、使用者に対して解雇するなら金をきちんと払ってほしいと述べることは良くあると思います。そして、使用者が金の支払を拒否したあとに、はじめて弁護士、法律事務所に相談に来られる方はたくさんいらっしゃるわけです。

 新たな権利を形成権と考え、しかも裁判外でも行使できることになれば、先ほどの例では一旦形成権を行使してしまったとなりかねないわけです。弁護士に相談する前にそのような発言をした場合に結果的に撤回できないとなれば、地位確認訴訟等は起こせないことになりかねません。あるいは、場合によっては、会社側がそういう事態になった際に、「わかった、この分の金を払います」とお金を一方的に支払って、それで労働者が受け取ってしまったということを裁判外の行使として金銭解消を認めることになれば、それで労働契約は終了することにもなりかねません。合意で終了するならまだいいですけれども、一方的に会社がお金を振り込んできてしまった場合、会社側の金銭解消金の支払はそれでOKということになると労働契約が終了してしまいかねません。このように、法的性質は形成権であるとし、裁判外でも行使できるとして、撤回できない構成とするのは、実際上非常に不都合で、現場においてはこのようなトラブルが発生をしてくることが予想されます。弁護士に相談に行く前、あるいは行政の相談に行く前にそういうことになりかねない事態は想定するべきです。これは不都合だと思うのです。

 また、法律面から考えると、6ページに記載のある形成権の考え方は、形成権を行使して使用者に解雇の金銭請求権という権利を発生させることになるのですが、「金銭請求権の発生のための形成権」というのが私は落ちつきが悪く感じています。金銭請求権を請求するのであれば、これは別に形成権ではなくても良く、金銭請求という法定債権を要件1、2、3と書かれていますけれども、1、2、3を請求原因と主張して、あくまでも給付請求権として行使すればいいだけの話で、なぜあえて形成権と構成するのかが分かりません。

 もし形成権と構成し、この形成権の中にお金が払われれば労働契約を終了するという法律関係の消滅までも含んだ権利であるとすれば、形成権という考え方のほうがなじみやすいと思うのですけれども、あくまで権利の発生というのは金銭請求権の成立なわけですから、あえて形成権とする必要がありません。あるいは労働契約の終了まで含めた形成権とするとあくまで条件つきの形成権となります。会社がお金を払ったら消滅するという条件つき形成権というのは普通は考えられないのではないかと思っているのですが、仮に形成権と構成すると一方的な撤回ができるのかできないのか、それとの見合いで使用者側の解雇の撤回ができるかどうかという議論まで発展していきます。そうなれば労働契約の辞職の申し出、解約申し出も撤回できるのかできないかという議論にまで発展してしまうので、形成権というのは法律技術的になじまないのではないかと思います。

 先ほど言った実態面の弊害を考えると、仮に新たな制度を作ることに対して私は反対の立場ですが、法律技術論で考えれば、給付請求権で構成するのが普通なのかなという感じがします。最初の例3の大塚さんの御説明の際に、私が「形成権なのですか」とお聞きしたら「あくまで給付権だと考えている」と答弁いただきました。やはりお金が支払われれば労働契約が終了するというのは形成権行使の結果ではなく、法律上お金が支払われれば労働契約が終了するという仕組みが考えられているとおっしゃったのですが、法律技術論から考えるとそちらのほうがストレートではないかなと思っています。形成権構成については実態面からも、法律面からも非常に疑問があると考えています。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 中山委員。

○中山委員 今、大塚さんと水口委員から、いずれも実体法に権利を創設する仕組みを中心に御説明と御意見がありました。私は前回も申し上げましたが、金銭解決制度のために実体法に新しい権利を創設することは過ぎたるものであり、裁判上、裁判外でもこれまでにないような新たな紛争も生じるでしょうし、金銭の請求権、これが形成権としても、結局、その金銭を支払わないと雇用契約は終了しない形になるので、したがって、引きかえ給付の問題というのは依然として残っているはずですから、私はこの実体法に権利を創設する仕組みには反対です。この点を改めて申し上げておきたいと思います。

 一方、手続的手法をとって、資料の3ページの※の最後のほうに私の意見として、個別の訴訟、つまり、解雇が無効だという訴訟の中で、裁判所が無効だという判断をした場合に、それを判決の理由中に入れて、判決主文では当事者の申し立てに基づき、金銭の支払いと労働契約の終了を引きかえにしないで、それぞれ給付と形成の判決をするという考え方が記載されています。この点については※で「他方、この場合、契約の終了に当たり金銭の支払が確保されず、労働者の保護に欠ける可能性があることについてどう考えるか」という問題提起がありましたので補足したいと思います。

 これも前回申し上げましたが、例えば解雇紛争の労働審判で審判を出すときに、金銭支払と契約の解消は引きかえではありません。別々です。それから、我々は実務の解雇紛争で和解するときにも、通常は契約は解雇日で終了、一方で金銭はいつまでに幾ら払えという内容になっております。このような実務の扱いからみると、今回の金銭解決で取り立てて金銭支払と契約解消とを引きかえにしないと、労働者の保護に欠ける可能性があると特別に言われる事情というのは、私は今申し上げた例からしても認められないのではないかと思います。

 これは事案が違いますが、例えば離婚の訴訟においても、離婚の判決で慰謝料という金銭給付がありますが、もちろんこれは引きかえ給付ではないわけですが、一方で形成判決で離婚ということになるわけです。ですから、金銭と契約終了が引きかえだという御見解もあろうかと思いますが、私が先ほど言った実務の取り扱いからいくと、決して当然ではなくて、むしろ別々が当然だろうと思っております。したがって、3ページの※最後のくだりの部分について、他の事例と比べて取り立てて労働者の保護に欠けているのだと考える理由はないのではなかろうかと思います。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 土田委員。

○土田委員 今、お二人の委員から出た点についてちょっと補足したいのと、意見を言いたいのですけれども、中山委員が言われた3ページの最後の※のところです。実務上そうだというところは理解できるのですけれども、※の下から2行、3行目のところにあるような、別途、形成判決と給付判決を求める仕組みにするとどうなるかというと、実務上はともかく、理屈としては解雇が合理的理由がないということで権利濫用と判断され、しかも金銭支払いもない状況にあるわけです。そういう場合に、なぜ契約を終了できるのかというところをどう説明するのか、その要件は何なのかということがやはり問題になると思うのです。少なくとも引きかえのほうでは、解雇と金銭の支払いが引きかえですから、金銭の支払いが確保されているわけですが、それがないにもかかわらず、なぜ使用者が、労働契約終了の形成判決を求めて契約の終了という効果まで持っていけるのかということについて一つ疑問があります。

 それから、先ほど水口委員が言われた形成権のところの6ページなのですけれども、これはそもそも根本的な疑問が一つあって、先ほど言われた裁判外での処理の場合に形成権と構成してしまうと、これは不都合があるというのはよく理解できるのですが、そもそも5ページの一番右の欄に「裁判外での解決」というものがあって、確かに例3は「裁判上での解決」以外に「裁判外での解決」も念頭に置いていると思うのですけれども、よくよく考えたら、6ページの2にあるように、1、2、3が要件としてあるわけです。特に、2の「客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと」という要件があるわけです。

 例えば、5ページにある行政ADRの典型的な労働局あっせんですが、労働局あっせんでは正確な事実認定はできないし、客観的合理的な理由があるかどうかの判定もできない。場合によってはするかもしれませんけれども。そうすると、この仕組みをつくった場合に、裁判外での解決に法的にストレートに適用できるものかどうかという疑問が一つあって、私あるいは大竹委員も最初から言われていますけれども、こういう制度ができれば波及的にADRに影響して底上げ効果を持つだろうことは言えるとしても、裁判外での解決にそもそもこの制度がどのような形で適用されるのかということについて若干疑問がありますので、これはまた議論していただければという気はします。

 もう一つだけ別の点で意見を言ってしまいますと、先ほどの8ページのバックペイとの関係で金銭の支払いの性格をどうするのか。これは前回随分議論が出て、一つの中心的な論点ですが、金銭については、金銭の性格をどう考えるかということと内容をどう考えるかということは分けたほうがいいと思うのです。前回も言いましたが、金銭の性格としては、例3による場合にはバックペイとは区別して考えたほうがいいと思います。しかしながら、内容としてはこのバックペイが入ってくるということを言いました。

 そうすると、8ページのA、B、Cの構成で、私はAには賛成できないですけれども、B、Cの両者はそれほど変わらないだろう。今回の解消金の場合、バックペイのみが解消金の要素になるのであれば、BとCははっきり違いますけれども、バックペイ以外にも考慮要素を設けるのであればBとCの違いは微少になるだろうと思います。

 ただ問題は、先ほど事務局の大塚さんから説明がありましたように、10ページのところに上限を設けるかどうかということになってきますが、仮に上限を設けないことになると、Bの構成ですとバックペイが恐らく全て入ってくるだろう。ところが、上限を設けないことになると、Cの場合にはバックペイが全ては入らない可能性がある。つまり、先ほどの10ページで事務局が説明されたバックペイの額を下回る額となる可能性があるけれども、そこをどう考えるかということが出てくるわけです。逆に、上限を設けることになると、BとCの違いは微少になると思います。ですから、上限を設けるかどうかということとかかわってくるのではないかなという気がします。

 それと、私は「交換条件」という表現にはかなり不満がありまして、交換条件というのは、会社をやめるからかわりにお金をくださいねみたいな話なのですけれども、前回も言ったとおり、今回の制度は不当解雇、つまり、客観的合理的な理由がない解雇を前提とする制度です。その不当な解雇をした使用者に対するサンクション的な機能ということを考えたら、私は前に代償と言いましたが、むしろ代償としての側面がネーミングとしても性格としても妥当ではないかという気がします。

 ほかにもありますが、長くなりますので以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。

 垣内委員。

○垣内委員 垣内でございます。何点か発言をさせていただきたいと思います。

 初めに、先ほど中山委員から御発言があった点で、資料で申しますと3ページの一番下の※のところに関連する点ですけれども、金銭の支払いが実際にされるまで労働契約が終了しないと考えるのか、それとも、その以前に既に終了すると考えるのか、これは前者のほうが労働者の保護には厚いことになろうかと思いますけれども、どの程度までこの局面で労働者保護を図るべきかという判断になりますので、ここはどこで合意ができるのかということに係ってくるお話なのだろうと基本的には考えております。

 ただ、先ほど和解等で解決をした場合との対比について御発言があったわけですけれども、基本的には和解等で関係を終了させる場合については、これは労働者の側も使用者の側もその内容で合意をして、一定の時点で契約を終了させるということですので、その場合には合意の内容としていかなる時点であれ、自由に終了時点を定めることができると。かつ、金銭の支払いがされなくても終了しているのが通例であると。その点はまた事後の問題として残されていても契約終了は妨げられないということでありますけれども、和解の場合には、使用者側としてもそういった金銭の支払いをすることに合意をして和解成立に至っているわけですので、使用者としても支払いの意思もあるし、労働者としても使用者には支払いの意思があり、かつ、資力も問題ないだろうと思ってそういう同意をしているという前提条件があろうかと思います。

 それに対しまして、この制度を仮に導入した場合には、使用者が資力もあって、かつ、支払いの意欲、意思も十分にある場合であれば、実際に問題は生じずに、最終的には金銭が支払われることになると思われますけれども、労働者の側の一方的な意思表示あるいは請求によってこのようなスキームが始動する建前でありますので、場合によっては使用者側には全く支払う気はない場合でも、労働者としては金銭が早く支払われないと困るといった事情から、こういった意思表示あるいは請求をすることも考えられるわけでありまして、その際に請求時あるいは金額が確定したら、直ちに契約が終了していいかどうかというのは、和解の場合とは必ずしも同列には論じられない部分もあるような気がいたしております。したがいまして、和解の場合はそれとして、この局面についてどう考えるかは、また独自の問題として別途検討する必要があるのかなという感じがしているところです。

 その前に水口委員から御意見の表明がありました。形成権構成の問題点に関してでありますけれども、確かに御指摘のとおり、形成権行使の結果、金銭請求権が発生するというのは私の知る限りでは余りほかに例のない制度でありまして、今回つくるとすれば非常に新たなものになるのだろうと思われます。

 また、金銭請求権が成立しただけでは、実際には関係が最終的に確定するわけではなく、これは労働契約の終了の時点をどう解するかということとも関係しますけれども、金銭支払い時に終了する立場に立った場合には労働関係そのものはまだ残っていて、金銭が支払われて初めて最終的に全ての関係が清算されると。ですので、意思表示がされて金銭請求権が成立しただけでは、なお状況としては浮動的であるにとどまるところが非常に特殊な制度だということになろうかと思われます。

 ただ、翻って、水口先生から御示唆のありました端的に金銭請求権として構成してはどうかと。その際の要件としては、資料6ページの2のところにある1、2、3を要件とすると考えるのがシンプルではないかということでありますけれども、この点に関しては3の労働者が一定額の金銭の支払いを求めているという要件をどのように取り扱うのかということが、請求権構成をとった場合と形成権構成をとった場合とで違いが出てくるところかなと思われまして、形成権構成をとった場合には、3の要件は一旦そういった意思表示がされたことによって、あとは1、2の問題だということになるわけですけれども、請求権がこの3要件によって発生するときに、訴訟になれば、恐らく3の要件の内容である「支払いを求めていること」というのは、事実審の口頭弁論終結時にそういう意思がある、現に求めているということが認定されて、請求権ありと判断されることになるのだろうと思われます。

 しかし、この求めていることが「一旦求めたこと」になるのであれば、これは形成権の行使を構成するのとそれほど変わりがないことになりますし、「現に継続して求めていること」なのだといたしますと、これは求めているときには請求権はあるけれども、やはり求めないと気持ちが変わった場合には請求権がなくなる。判決でそのような権利があると認定されたとしても、後で求めませんということになれば、その段階で消滅することになるのかどうか。そのようなかなり不安定な状況になりはしないかという感じもしているところでありまして、そうだとすると、形成権等を構成した上で、どのような形で権利がどの時点で発生するのかということが明確になったほうが、メリットがあるという考え方もあり得ないものではないように感じております。

 ただ、その場合には、労働者の意思表示ということに非常に大きな法的効果が結びつけられることになりますので、例えばこの意思表示が不当な圧力のもとでされるであるとか、十分な考慮をせずに軽率な形でされるといったことについてどう考えるのかという問題が生じますし、裁判外の意思表示でも足りるとする場合には、その存否について後に争いになることがないかといった点についても考慮をする必要があろうかと思います。

 この点についてはいろいろな対応の方法が考えられるところかと思いますけれども、一番確実、安全という線でいきますと、例えば倒産手続では否認権という制度が一種の形成権としてありますが、これは裁判上で行使をしなければならないと。形成訴訟ではありませんけれども、裁判上行使を要する形成権が一方の極にありますし、もっと緩やかなものでいいということであれば、一般的に広報周知活動等によって軽率な取り扱いがされないように努力していくといったところまで、さまざまな選択肢があろうかと思いますので、どの程度の保障があればこういう制度を導入しても心配がないと言えるのかという点について、そういった角度から検討していく必要もあるのかなと考えております。

 長くなって申しわけありませんが、以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。ほかにはいかがですか。

 中山委員。

○中山委員 垣内先生、御指摘ありがとうございます。私は契約解消と金銭支払いが引き換えではなく、別々にするという例は実際にあり、そちらがむしろ一般的ではないのですかということを労働審判とともに和解の例で申し上げました。御指摘のとおり和解は当事者の合意ですから、労働審判委員会の審判とは違うのですけれども、私が言いたかったのは、仮に実務において労使が一般的に契約解消と金銭給付とが引きかえでないと労働者の保護に欠けるのだという認識があるとすれば、和解のときでも当然労働者のほうで引きかえにしてください、引換えでなければ和解はできないということがあろうかと思うのですが、私の経験ではそういった引きかえ給付で和解をした例はありませんし、労働者側からそういう要求もない、引きかえ給付にするかどうかという問題さえ余り聞いたことがない。したがって労使、特に労働者の意識としても、当然引きかえ給付ありきという見方は、和解を例にとってもないのではないか。そういう趣旨で補足させていただきます。

○荒木座長 水口委員。

○水口委員 今、垣内先生と土田先生のお話を聞いて、仮にこういう制度を入れるとしたら、労働者の意思表示が軽率になされる懸念があるとか、先ほど申し上げたようないろいろな問題が予想されるとなれば、法的性質が形成権かどうかは別にして、裁判上の行使に限定すべきです。その場合にも、裁判外の行動に事実の影響があるかもしれませんが、裁判外の行使は認めず、裁判上の権利行使の制度として考えるべきなのだろうと今のお話を聞いて思いました。

○荒木座長 徳住委員。

○徳住委員 私は、新たな制度が導入されることについて賛成の立場ではないのですけれども、検討されている法技術的な問題については、意見を述べたほうが良いと考え、意見を言います。

 現在、新たな権利行使を裁判上だけに限るかという論点が一つの大きな問題になっていて、最終的には裁判上の行使だけに限ることもあり得ると思うのですけれども、労働審判の場合にこれを行使できないのかという問題が残ります。前回も発言しましたけれども、労働審判は非訟事件なので、労働審判では請求できないということになることは、不具合かとも思います。しかし、実体法の請求権の裁判外の行使まで認めてしまうと、水口委員が指摘されたように大変な問題が出てきます。例えば、解雇された労働者が「これは不当な解雇だ」と思って金銭請求したことで形成権の行使が既に行われていたことになり、撤回も認められていないとなると、やはり弊害が極めて大きいのではないかと。あわせて、地位確認訴訟への転換の可否や民法536条2項のバックペイの支払いも難しくなってくるのではないかと思われます。

 問題は形成権を行使したときに、何をもって形成権の行使とするのかという点です。意思表示によるわけですけれども、結果的に形成権の意思表示の場合は法律関係の変動を求めるわけです。形成権行使の結果が金銭請求権というのは、私はほかの例でも形成権の行使として見たことがありません。例えば、遺留分減殺請求権は形成権の行使ですけれども、そこから給付請求権が出てくる構造になっているわけです。新たな制度では1、2の要件を求めて金銭を請求すると、その時点で形成権の行使としては法律関係の変動、この場合は労働契約関係の終了という効果しか考えられないのではないかと思います。そうすると、形成権の行使としては、労働契約の終了は意思表示した時点でしかあり得なくて、これを金銭支払いの時点までずらしてしまうと、条件つきの法律効果の発生ということになるので、形成権の行使としての仕組みとしては大きな問題を含んでいるのではないかと思います。ですから、行使の仕方としては一つ考えられるところですけれども、ほかの類似の法律関係の変動との対比、また、形成権行使については条件つきのものは認められない原則があることからすると、やはり形成権行使はいろいろ問題があると思います。

 これらの点から考えるとするならば、給付請求権の行使にして、一定の支払いがあれば労働契約が終了するという実体法上の仕組みを考えて、単純化するほうが私はいいのではないかと思っています。

 また、6ページには、更に要件を加えるとして、復職する意思がないということを要件にするとあります。労働者の意思表示を裁判上の請求権にするか、裁判外の請求権にするかは別にして、「復職する意思がないけれども、金銭請求をしま」すという意思表示を求めるわけですから、このようにするとバックペイの問題が生じますし、撤回ができない問題が出てきて、やはり労働者の権利を著しく狭めるのではないかと思っています。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。

 土田委員。

○土田委員 今の6ページの議論ですけれども、私は別に水口委員が指摘された疑問に反対だという趣旨ではなくて、今も言われましたけれども、むしろ私が先ほど言った裁判外の位置づけの論点となるわけです。ところが、一方で私は例3が基本的に妥当だと思っているのですけれども、今おっしゃったように、この制度を裁判上に限定するという論点にしないほうがいいと思うのです。そうすると、仮に形成権構成を採用したら、先ほどの撤回不可の問題が出てきて、例3の適用範囲は極めて限定されることになってしまうと、それはそれでよろしくないので、もしそういう効果を持つのであれば、形成権構成をとるのか、それとも、今言われたように法定の給付請求権構成をとるのか、そこのところは制度設計の法技術的な問題として別途議論すればいいので、例3の方向性というものを阻害しようという意図で発言したわけではないです。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 形成権構成か、請求権構成かというかなり法的な議論に集中しておりますけれども、前回ほかに大きな検討すべき課題として、何と呼ぶかはわかりませんけれども、「解消金」といいましょうか、これが雇用関係の解消に対応したものなのか、それともバックペイまで含むのかということも今の議論とも関係して重要な論点だと思います。このような観点についてはいかがでしょうか。

 垣内委員。

○垣内委員 私自身は、この点について確たる定見があるということではないのですけれども、資料の8ページですとバックペイの取り扱いに関して、A、B、Cの3つの考え方が提示されておりまして、私自身はAとBについては当否はひとまず置くとして、内容的には理解できる内容のように思われるのですが、Cについては土田先生が御提示されている考え方ということになるかと思いますけれども、性質としてはバックペイではないが、内容的には考慮要素として含まれるということで、そうしますと、民法536条2項に基づいて発生している請求権との関係については、どのように考えることになるのだろうかという点が、必ずしもCの内容だけからは明確ではないように思われますので、その点について何かお考えをお聞かせいただければ理解が深まるのではないかと考えております。

 以上です。

○荒木座長 土田委員。

○土田委員 お答えになるかどうかわかりませんが、先ほども言いましたけれども、私の発想は、バックペイについて金銭の性格と内容を分けて、性格についてはバックペイそのものとは違うとした上で、内容についてCの構成をとる場合に、交換条件分に係る考慮要素として位置づけてみます。その上で、仮に金銭に上限を設けることにした場合には、上限が設けられるわけですから、Bの構成をとろうと、Cの構成をとろうと、その上限の枠内におさまってしまって、別途はみ出たところについてはどうするかという話になりますので、上限を設けた場合にはBとほとんど変わらないことになるのかなという気がしています。

 上限を設けるかどうか自体も議論の対象ですけれども、仮に設けた場合に民法536条2項のルートをどう考えるのかという問題が次に出てくると思いますが、それは認めるべきだと思います。それは仮に上限を設けた場合です。そうすると、BもCもそこでは同じ問題を抱えてくるだけなのですけれども、536条2項のルートは認めるべきでしょう。

 そうすると、一つの問題点として9ページの一番下のところですか、「金銭にバックペイ分を含めないこととした場合には、別途バックペイ請求訴訟等が提起される」。これは仮にB、Cで上限を設けた場合には同じような問題が出てくると思うのですが、そうすると、迅速な紛争解決であるとか、あるいはもう一つ出てくる国民にわかりやすい制度設計といったこととは矛盾してくるわけなのですけれども、民法536条2項ルートを認めないというのは、そもそも「労働者の救済の選択肢を多様化し」としながら、労働者保護は後退してしまうというおかしな結果になりかねませんので、そこは認めるべきだと思います。そうすると、性格はバックペイではないのだけれども、内容としてBでもCでもバックペイ分を含めた上で別のルートを認めるということで、それほどBとCに大きな違いはないのかなという気が個人的にはしています。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 八代委員。

○八代委員 これは意見というより御質問なのですが、経済学で考えると労働者のインセンティブが重要になるわけです。このバックペイの議論というのは、不当な解雇をされた労働者が仮にほかの企業で働いたら、ある意味で損をするインセンティブをもたらす面もあります。つまり、他の企業で働いた分がバックペイから差し引かれてしまうので、結果的に働く能力があって、ほかの企業で就職することが可能であっても、あえて失業状態を選んだほうがいい場合が起こり得ると考えたらおかしいかどうか。逆に言うと、今までの法学者の方の議論というのは、この企業をやめたらほかに全く働き先がないような特殊な労働者の状況を考えて、この労働者が働けないのは使用者の責任だから、その間の未払い賃金を払えという論理構成になっていると思うのですが、現実の世界では、特に中小企業の場合はどこの企業でも賃金水準が大きく違うわけではないので、ある意味では不当な解雇であっても、その間、他の企業で働くのが当たり前になるわけです。

 そうすると、ほかの企業で働いた場合と働かない場合でイコールフッティングにしないと、先ほどもどなたかがおっしゃった、不当な解雇をした経営者に対するペナルティーとしては不公平なことになってしまうのではないかと考えるのですけれども、その点について教えていただければと思います。

○荒木座長 それでは、現在の判例状況等も含めてどなたか説明いただけますでしょうか。事務局から説明されますか、それとも、労働法の専門家のほうがよろしいですか。

 事務局、お願いします。

○大塚調査官 本日、お配りしております参考資料2ですけれども、これは前回の検討会で配布した資料のNo.2と一緒でございまして、3ページにバックペイと、八代先生からお話のありました他の事業所で働いている場合などの中間収入があった場合の取り扱いについて書いてございます。

 八代先生がおっしゃった、他の会社で働くこととの兼ね合いでインセンティブがどうなのかというのは、こちらからお答えする立場にないことかと思いますけれども、事実関係だけを申し上げれば、中間収入があった場合には、6割分はそれでもなお、元の事業主、解雇した事業主が支払わなければいけないことになってございますが、それを超える部分につきましては、バックペイから控除される扱いになっているのではないかと考えられます。これが事実関係であります。その上で、インセンティブ論の話につきましては、先生方の中で話し合っていただければと思います。

 以上です。

○荒木座長 ほかで働けば働いただけ全部バックペイから減額されるということではなくて、平均賃金の6割を上回る部分についてのみ減額が可能であるというのが現在の判例状況ですね。

 インセンティブの話もありましたが、少し大きな論点を提起されていますので、ほかの論点でも結構ですので御発言をいただければと思います。

○水口委員 今の点に関して、バックペイについては要素云々といろいろありますけれども、もしバックペイが支払われないとか、あるいは解消金にバックペイが含まれないこととした場合の労働者側の行動を予測すれば、地位確認訴訟を申し立てたうえ、解雇無効という裁判所の心証を獲得した段階で解雇無効地位確認の判決を得た上で、その後、金銭請求を行うという行動パターンが金銭面だけを考えれば一番合理的な行動ということになってしまいます。ですから、バックペイを全く考慮しない制度の仕組みというのは誰も使わなくなってしまうのではないかと思います。そもそも、そのような制度をつくる意味がないのではないかという感じがします。

 八代先生の御質問については、私がよく理解できていないのかもしれないのですが、要は、日本の労働者の再就職・転職可能性は年齢によっても全然違いますし、職種によっても全然違います。さらに、現在の経済情勢でいけば、正社員の場合は解雇をされて、次に正社員の職を従前と同じ賃金水準があるのかというと、それは非常に難しいというのが現在の情勢です。特に中高年はそういう状況ですので、その意味では、地位確認訴訟を提起したとしても、訴訟の途中で良い転職先が見つかったということであれば、その時点で復職ではなくて、転職を選択するという人は珍しくありません。労働者の意向というのは御本人の意思だけではなくて、経済情勢、雇用情勢、就業状況、家族状況によって変わってくるので、一般的にインセンティブがあるかないかということになるというのは、個々の労働者の属性によって異なってくるのかなというのが私の印象です。

 以上です。

○荒木座長 八代委員

○八代委員 よく整理していただいてありがとうございました。

 そこが、私がもともと疑問に思った点で、逆に言うと、中小企業の賃金の低い労働者にとってはバックペイがあるかないかというのは余り重要ではないのではないか。もちろん勝った場合、平均賃金の6割があることは事実なのですが、バックペイが大事かどうかというのは、今水口委員がおっしゃったように、大企業の市場賃金と比べて非常に高い中高年の年功賃金の労働者にとってとくに重要な問題である。そういう場合は、仮に転職したとしても、中途採用者だと、本人にとってはかなりの損失がある。そうなると、やはりバックペイを求めることが非常に重要になってくる。

 だから、一切バックペイを認めないというのはもちろん問題だと思いますが、どこかで上限を設ける必要がある。バックペイを認めたとしても、それが裁判が長引けば長引くほど際限なくふえることはまずいのではないか。だから前回申し上げましたが、消滅時効みたいな形で一定範囲で打ち切らないと、同じ不当な解雇をされた場合でも、大企業の労働者と中小企業の労働者の間に非常に大きな補償金の格差が生じるというのがバックペイの性質ではないかと考えます。

○荒木座長 中山委員。

○中山委員 バックペイについては、前回私もコメントさせていただきましたけれども、金銭解決の金銭に入れること自体は私は反対でして、なぜかというとバックペイというものは契約存続中の未払賃金の精算です。解消金というのは存続契約したを終了させるためのお金という整理でいくと、バックペイの問題というのは、金銭解決制度を設けた場合にいつ契約が終了するかという論点になる。例えば解雇時点で契約が終了するというのであればバックペイはない、契約存続中の精算はないということです。

 金銭請求時ということであれば、その時点で契約が終了するわけですから、そこで契約終了の解消金とそれ以前のバックペイということになる。そういう意味で制度設計上、契約終了時点をいつにするかという問題になる。そこで、仮に契約終了時点を契約の解消金支払い時とすると、バックペイの期間も予測できないなど余りに複雑な制度となって、実務でどれだけ使われるのかというのもありますし、金額がそんなに多額ではとても中小企業の皆さんで払えないこともあろうかと思います。現実的に考えると、制度としては解雇時契約が終了する扱いにしてバックペイが発生しない形で仕切って、バックペイは発生しませんけれども、仮に契約終了が解雇時にさかのぼるとしても、それぞれの事案の中で仮にバックペイはこのぐらいは考慮しようかという意味の一考慮要素にするやり方もあるのではなかろうかと思います。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 垣内委員。

○垣内委員 先ほどの水口先生の御発言について、ちょっと私が実情に暗いものですので御教示いただければと思うのですけれども、先ほどのお話で仮にバックペイと別建ての制度にした場合には、まずは地位確認あるいは金銭請求をしていって、その後でおもむろに長期化した分のバックペイを払っていくことが金銭の額という点では労働者にとって合理的な選択肢になるので、そういった行動を促すことになりはしないかという御懸念を述べられたかと思うのです。

 ごく一般的に申しまして、ここから実情の話ということになるのですが、労働者は労働によって生活の資を得ていることかと通常は思われますけれども、その場合に解雇を通告されて、バックペイの支払いが問題になるというのは、以後給与が支払われないことが前提かと思いますけれども、仮にバックペイを別建ての制度としたときに、バックペイの分は直ちには請求しないで地位確認とか、ほかの請求だけを立てる行動をする労働者が広範に現実的に想定可能なのか、それとも多くの方はお金を早く払ってもらえないと困るので、バックペイも別建てであったとしてもやはり併合して請求することが一般的と予想されるのか、そのあたりについて実務の見地からもし教示いただけることがあればと思います。

○水口委員 いろいろな方がいらっしゃるので、解雇された労働者がどのような行動パターンをとるかというのは全体的にこうだとは言えないのですけれども、再就職するにしても、中小企業であろうと、大企業であろうと、特に中高年の人はなかなか大変です。これは大企業の人に限った問題ではありません。特に現状でいくと、正社員の方が、労働条件が良く安定をしていることになれば、45歳以上の方では、なかなか正社員の口がなく苦労されている人がたくさんいることになります。話を聞くと、3カ月でよい条件の再就職先が見つかる人はそう多くはなく、やはり転職活動に最低半年は欲しいとお考えになっている人が多いです。

 いい転職先が見つかるのだったら別だけれども、転職できないかもしれないので、解雇で争って、地位確認して、バックペイをもらって復職という道も捨て切れないという労働者のことを考えてみます。訴訟を提起し、解雇が有効か無効かが判断されるまで、半年、せいぜい1年かかるということになれば金銭請求にしようとなります。解消金にバックペイが含まれず、地位確認請求とは別々だということになった場合、金額が安くてもいいから早く解決するというのだったら労働審判に行ったほうがいいですから、労働審判において地位確認で解決すればよいことになりますが、請求は別立ての点を覚悟して、やはり判決をもらいたいということになれば、まずは地位確認請求をして、良い転職先が見つかったときや、あるいは解雇無効だとの心証になったときに初めて金銭解決請求をしようと考える。解消金として支払われる金銭は転職しようとしないと払われる金額ということになれば、なおさらバックペイ取得後に金銭請求をすることになると思います。ある時点までは就労の意思があって、その間に判決までいくのかどうか、色々なケースがあり、全部が全部そうだとは思いませんけれども、金銭請求して両方同じだけ時間をとるのであれば、まず地位確認請求とバックペイの支払を求めて裁判提訴して、その後に金銭請求するという行動をとる人、あるいはそういうやり方を指南する弁護士というのは今の世の中は必ず増えると思います。

 お答えになっているかどうかはわかりませんが。

○荒木座長 よろしいですか。

 どうぞ。

○垣内委員 今のお答えは、まず地位確認をして、その後で金銭請求をすることがあるのではないか。私がお尋ねしたかったのは金銭請求とバックペイを別建てとするか、それとも両者をまとめたものとするかによって、最初に金銭請求をして、別建ての場合には後でバックペイということが選択肢としては可能になるのですけれども、そういうことも促されるという御理解でいらっしゃるのか。それとも、その場合には別建てであろうとも、金銭請求とバックペイの請求は通常併合してやることがより想定されやすいのか、そのあたりについての感触を伺えればと思いました。

○水口委員 今の理解した範囲で言うと、金銭請求にバックペイも入る形になれば、金銭請求で全部解決してバックペイも入っているのですから、改めて別途賃金、バックペイ請求というのはないだろうと思います。

○荒木座長 垣内委員。

○垣内委員 別建てにした場合には、十分あり得るだろうという考えですね。

○水口委員 はい。

○垣内委員 わかりました。

○荒木座長 恐らく、上限という場合も何の上限を議論しているのかということだと思います。ここにいう金銭請求、仮に解消金と呼びますと、解消金には上限があるといった場合に、それと別にバックペイを考えるということなのか。バックペイは、現在判例法によると、使用者の責めに帰すべき事由によって就労できなくなった場合には民法5362項により賃金請求権が発生する、しかし、中間収入があったら、平均賃金の6割を超える部分については控除ができる、というルールで回っている。そこにまでこの上限の規制は及ばないという議論をしているのか、それとも、バックペイも解消金の中に入れるということだと、民法536条2項によって当然上限なく請求できている部分について、どう取り扱うのかという論点を整理しなければいけない。そういうことだと思います。

 斗内委員。

○斗内委員 ありがとうございます。現在、例3のところで御議論がなされている状況かと思っております。

 正直申し上げまして、私は制度の中身について非常に多数の論点があるのだなと感じました。しかも、非常に複雑で法的な論点が山積みをされているのだなと受けとめをさせていただいています。論点には、先ほども裁判外の解決なのか、裁判上の解決なのかという御議論もありましたが、そもそも解雇無効時というものを、何をもって特定をするのか、いつの時点でどのような状況で、どのような要件が整ったときに、解雇無効時というものをどう捉えるかという論点もまたあるかと思っています。また、先ほど大手企業と中小企業の違いというお話もありましたけれども、その違いをどう区分けをするのかというのも、新たな論点にもしかしたら入るのかなと思ってお伺いをさせていただいたところでございます。

 そういう意味で言うと、非常に論点が多く、課題が山積しているなかで、これらの論点について全ての回答を引き出すことが、労働側から見てみますと、非常に困難なところが多いのではないかなと思っております。

 誰のため、何のための制度を今御議論していこうとしているのか、私は労働者の選択肢を増やすのだとお伺いをしておりますが、むしろ解雇の多様化の選択肢を増やすことにつながるのではないかということで、非常に危惧をしているところが正直な感想でございます。

 改めて申し上げますが、このように解雇を多様化するような制度というのは、私は必要ないのではないかなということで申し上げさせていただければと思います。

○荒木座長 ありがとうございました。

 水島委員。

○水島委員 ありがとうございます。水島です。

 私も、斗内委員と部分的に共通する考えです。検討会で、労働契約法16条に準ずる一般規定を設ける方向も検討する中で、法的整合性を欠くものにならないように御議論が続いていたように思います。

 しかし、解雇の場面はさまざまでありますし、労働者がどの機関に救済を求めるのかは先ほどもお話がありましたように、大手と中小企業でさまざまであり、あっせんなり審判なりいろいろな方法が使われているところです。

 この検討会の目的が、労働者の多様な選択肢をふやすことであるならば、現在どのような労働者が不利益な立場にあり、そのような労働者にどのような形で選択肢をふやすのかを少し整理して、検討する必要があるのではないかと思います。

 さまざまな場面を考えると、いろいろな問題があり、全てを解決する制度をつくるのが困難となりそうですので、どういう労働者の選択肢をふやすべきかをいま一度整理できればと思います。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 長谷川委員。

○長谷川委員 3点ありまして、1点目は、日本の解雇紛争において、今議論になったバックペイというのは非常に特徴的な制度だと思うのです。解雇されて、解雇無効だということで争ったときに、最終的に金銭和解で解決するときにバックペイを考慮していくことになります。解雇訴訟はおおよそそのようになっていると思います。私は新たな制度を取り入れることはしないほうがいい、解雇の金銭解決制度は必要ないと考えていますが、仮に取り入れた場合において、現在一般的になっているバックペイを含まないことはやはり考えられないと思うのです。バックペイを含まない制度であれば、労働者からは「何だ、そういうものも入っていないのか、後退するような制度をつくったのか」と見えると私は考えています。現状の制度よりも後退するような制度を新たに設計することは無理だと思っています。

 それから、2点目は、本日の資料にも記載があるように、金銭的保障の限度額について、下限を決めるのか、それとも上限を取り入れるかどうかという議論です。資料10ページにある「6 金銭的予見可能性を高めるための方策」の箇所で、「(参考)限度額に係る参考指標」で平均値などがいろいろ記載されているのですけれども、平均値や中央値でこういうものが決められるのでしょうか。私は現在働いていませんので、解雇される年齢でもないのですけれども、もし解雇された場合に自分の解決金の数値が中央値とか平均値で決められていいのかは疑問です。

 やはり労働者はそれぞれに個性があるわけで、働き方にその人なりの属人性があると思うのです。私は非常に和解というのは日本人らしい制度だと思っているのですけれども、和解ではそういう点を考慮しながら、裁判所の中でこれだとこうか、これだったらいいかということでお互いに納得することで、和解がうまくいっているのだと思うのです。

 そういう意味では、解決金を決めるに当たって限度額を決めるのは、非常に難しいのではないでしょうか。八代先生なども最低基準ということをおっしゃっていたのですけれども、私は最低を決めるにしても、最高を決めるにしても、非常に無理があるのではないかと思っています。

3点目は前に土田先生がおっしゃった話なのですけれども、資料10ページで、「考慮要素等を定めた場合でも、別途、労使合意等によって金銭の水準に関するルールが定められた場合にはそれによることとすること」というルールについてです。労使合意の話が以前にも出ていたのですけれども、そのときに私は「労使合意といったって無理でしょう」とやや乱暴な言い方をしたのですが、最近、労働関係の中で労使協定や労使合意というものが非常によく使われているのです。

 しかし、私は現状では、労使協定だとか労使合意のつくり方、決め方が非常に民主的ではないと思っているのです。職場の中の労働者は正規の人もいるし、期間の定めのある人もいるし、いろいろな方がいらっしゃるわけですけれども、労使合意とか労使協定をつくるときのルールというのは、労働基準法の中にある労使協定が参考にされて決められているものの、民主的に決められるわけではないし、代表者が民主的に決まってくるわけではないです。

 このような中で、解雇という自分の一生にとって重要な事態で、さらにはその金銭の水準などが労使協定でもし決めるとすれば、私は労働者代表制をきっちり議論して導入しない限り無理があると思います。

 ドイツなどは、きちんと事業所の中で労働者代表制が決められて、民主的に選ばれてくるわけですけれども、新たな制度をつくるとすれば、やはり労働者代表とか従業員代表を民主的に複数決めて、民主的にいろいろなことが決められるルールを決めないと私は無理があるのではないかなと思っています。

 この間、解雇の金銭解決制度の各論点について様々な議論されてきました。今回いろいろな議論をされたこと自体は、それはそれでよかったと思いますけれども、現在、労働審判制度をはじめ多様な紛争処理制度がうまく機能し定着しています。今までは労働者が解雇されたからといって裁判沙汰などにしなかったのですけれども、最近では労働審判など

、裁判所で解決するということも定着してきており、いい具合で進んでいるわけですから、私はいい具合で進んでいる制度をもっと伸ばしていったほうがいいのではないかなと思います。このような観点からは、まだ解決金の資料なども不十分でありますし、このような状況で、私たちで制度設計するのには少々無理があるのではないかなということを感じております。

○荒木座長 八代委員。

○八代委員 ちょっと名前が出たので。長谷川委員は誤解されていると思うのですが、平均値とか中央値というのはあくまで参考資料で、機械的にこれにしろというインプリケーションはないと思いますが、おっしゃったような個別の事情は当然あるわけで、それはこの平均値なり、中央値にプラスアルファ、マイナスアルファを加えればいいわけであって、そういうものだと私は理解しています。

 それから、和解がいいか審判がいいかというのは、この資料はただ「和解」と書いたからそういう誤解が出るので、労働審判も一種の和解だと思いますが、これは民事裁判における和解としているわけで、なぜ最低基準と最高基準が要るかというと、弱い立場にある中小企業の労働者はわずかの補償金で泣き寝入りしている。それを防ぐために最低基準は当然必要ですし、逆に青天井の和解という現状だと、一部の労働者が極めて同じような状況でありながら利益を得ているというのもまた現実なわけでして、そういう意味で最低と最高基準を設定する必要があるのではないか。それをどうやって決めるかはこれから議論すればいいのではないかと。

 だから、属人性があるというのはもちろん大事なわけですが、その属人性を考慮するためにも基準となる数値が必要なので、それを我々が今議論しているのではないかと理解しております。

○荒木座長 長谷川委員。

○長谷川委員 八代先生がよく、「かわいそうな、気の毒な中小労働者と大企業の労働者」という言い方をなさりますけれども、私は労働者が中小企業で働こうが、大企業で働こうが、その人が自分がかわいそうかかわいそうでないかというのは、みんなそれぞれ違うと思うのです。解雇されたときの金額の決め方は、金額で決めているのではなく、大体はその人の時間当たりの賃金だとか月額賃金で大体決めています。よって、極端にこちらの労働者がすごくかわいそうなのに、大企業の労働者が解雇されたときには青天井、例えば30代で解雇された人が60歳まで解決金を出すかといったらそんなことはあり得ないので、月数でいくとほぼ同じようなところで解雇の金銭解決が図られているのではないかと私は思っています。金額で大小があるとすれば、その人の月額賃金という要素のところの問題だと思います。

○荒木座長 村上委員。

○村上委員 ありがとうございます。

 これまでさまざまな御意見が出てきました、例3あるいは例1、例2のいずれの場合でも、基本的にこのような制度は要らないという立場はありますが、どのような制度が考えられるのかということで議論に参加してきた立場です。

 その上で、八代委員から先ほどバックペイの御質問などがございました。ご質問を伺うと、基本的に職場復帰している労働者が少ないのではないかという前提で議論がスタートしているようなのですが、初めから職場復帰を諦めている労働者がすごく多いということでは必ずしもそうではありません。労働審判の経験でも、多くの申立人は職場復帰をしたいと考えて審判に来られるわけですけれども、交渉の中であったり、あるいは会社側からいろいろな資料を出されたりして、もうこの職場にはいづらいということがわかってくる中で、最終的に金銭で解決していることが多いわけですから、職場復帰を初めから諦めている労働者が多いわけではないということです。

 また、審判というのは平均75日の中ではありますけれども、再就職できている労働者が多いかというと、そういうことではありません。審判が終わるまで、和解できるまで再就職できていない人たちも多いこともぜひ念頭に置いて議論いただきたいと思います。

 それから、中小企業の労働者であろうと、大企業の労働者であろうと、未払いの賃金が支払われないことは問題でありまして、そこに上限をつけることは大変理解に苦しむところであります。

 バックペイを多くもらうために訴訟なり、係争を長引かせているのではないかという御意見だったと思うのですが、前回か前々回か長谷川委員がおっしゃっていたと思いますが、未払い賃金をもらいたいために再就職を遅らせるとか、あるいは係争を長引かせるといった労働者には私自身は会ったことがありません。

 資料No.1の8ページの下の表で、バックペイの発生期間についていろいろ表がございますけれども、労働者の選択、救済制度を多様化するといったことであることを考えれば、金銭請求時に就労意思がなくなったということは考えられずに、金銭が支払われて初めて労働契約を終了する、労働者の就労の意思もなくなったとしていかなければ、労働者の救済にはならないと思います。その観点から言えば、解雇から金銭支払い時までは未払いの賃金が認められてしかるべきだろうと思っています。

 先ほど、水島委員からもございましたけれども、どのような人を想定しながら制度を考えるのかということで言えば、検討事項の1にある現行の紛争解決システムをどのようにに充実させていくのかということこそが必要であると思っております。

 以上です。

○荒木座長 八代委員。

○八代委員 私が言ったのはインセンティブの問題であって、そういう人に会ったか会っていないかの話はしておりませんので、あくまでそういうインセンティブが働くことを防ぐ必要があるということです。ですから、この前にお配りした資料によっても、明らかに労働者側に非があるような裁判も現にあるわけです。そういう人に私も会っていませんけれども、会ったか会っていないかで議論するのはちょっとどうかと思います。

○荒木座長 土田委員。

○土田委員 先ほど、斗内委員と水島委員がおっしゃった点がよくわからないのです。今回は制度設計の議論をしているわけで、そうなったら法律的な複雑な論点は出てくるに決まっているわけです。そういう議論が複雑化すると、あたかも何かわかりにくい話になって、それは誰のためなのかみたいなニュアンスにちょっと聞こえたのですが、もしそうだとするとそうではないだろうと思います。今回出てきた資料No.1は相当精錬されたものだと考えていまして、一つ一つきちんと法的な論点、制度設計上の論点を議論していくべきだろうと思います。

 その点を踏まえて、座長が先ほど整理してくださったとおり、「上限」という言葉が出ているけれども、一体これは何の上限なのかということは非常に重要な話でして、示唆的な文章は10ページの論点の真ん中の○ですか、バックペイ分についてはBまたはCとする場合、限度額を明示することをどのように考えるか云々という箇所です。

 私は、議論すべきはバックペイの上限ではないと思います。それは先ほど座長が使われた言葉で言えば、解消金の上限だということになる。例えばBの考え方をとってバックペイを含めるということになってくると、その際にバックペイそのものに上限を設けるという選択肢があるわけです。しかし、それは適切ではありません。

 そうすると、バックペイそのものには上限は設けないのだけれども、仮にこの解消金について上限を設けるという制度設計をとった場合に、10ページの真ん中の論点が出てくるわけです。つまり、536条に基づくバックペイの額を下回る可能性がある。そうすると、先ほど来の水口委員と垣内先生の議論とも関連しますけれども、別建てにした場合に労働者がどういう行動をとるかはいろいろなパターンがあると思いますが、解消金の請求をして、かつ、別建てで併合する形で民法536条2項に基づくバックペイを求めることにしておけば、バックペイそのものに上限を設けなければそれは可能だし、労働者に不利益になるわけではない。

 ところが、仮にバックペイに上限を設けてしまえば、これはやはり先ほど言いましたとおりおかしな話ですから、仮にB案をとる場合にはそのような形で併合して求めるような形をとる必要があるし、また、逆にそうしないと、迅速な紛争解決とも背反しますから、それはそうすべきだろうと思います。そこはCでも余り変わらないので、基本的には同じようなことになるのではないか。

 ですから、論点は複雑でたくさんありますけれども、議論をする必要があると思います。以前、水口委員がきちんと分析されたとおり、政策的な当否と、制度設計に入った場合にどういう論点があるのかということで、今は後者を話しているわけですから。

 そのことを前提にして、もう一つだけ今回のペーパーで出てきた論点について言いますと、これは前も発言したのですが、6ページのどのような解雇が対象となるのかということについて発言しますと、ここに挙がっている解雇類型のうち、私は金銭解決の対象になる解雇は16条において無効とされる解雇と雇止めに限るべきだろうと考えています。

 なぜかというと、例えば2つ目の法令に違反する解雇で一つ例を挙げますと、公益通報者保護法という法律があります。公益通報者保護法は、正当な公益通報をした労働者の解雇を禁止しているわけです。なぜ禁止しているのかということを考えると、これは以前も言った保護法益の話になりますけれども、公益通報をした労働者の雇用を保護するだけではなくて、そういう人を解雇してしまうと、公益通報を萎縮させるという理由があるからです。そういうことになると、消費者とか国民の利益にも反するからです。だから、不利益取り扱いとしての解雇を禁止するわけです。

 そうすると、そこでは16条で保護される雇用の保障のみならず、国民とか消費者の利益という一種の公序性のある利益をも保護しているわけです。私は、そういう公序性がある解雇の規制については、たとえ労働者申し立てであろうとも認めるべきではないと考えていて、この点について、以前、労働協約の協議条項違反の解雇についても同じことが言えるだろうと発言しましたが、その点をもう一度確認しておきたいと思います。

 有期雇用の期間途中の解雇についても、労働契約法17条のやむを得ない事由というのは、16条の客観的合理的な理由よりもさらに厳しいと言われているわけですが、それはなぜかというと、結局期間を定めたのにもかかわらず解雇をすることについては、期間の定めがない場合に解雇すること以上に使用者に帰責性があるということです。期間の利益というのも、一種の準公序的な性格がありますので、これを含めるべきではない。唯一、雇止めについては、金銭解決制度を準用するような形で考える余地もあるのではないかと思います。

 以上です。

○荒木座長 大竹委員。

○大竹委員 私は、バックペイを含めるか含めないかという議論は、金銭的予見可能性を高めるかどうかというところが一番大事だと思います。バックペイは判例法である程度はっきりしたルールがあるのであれば、両方入れたとしても、その算定基礎をしっかり明記すれば、解消金、あるいはここで議論していた交換条件分というのも差分できっちり出てきますから、それを分けて議論するかどうかということだと思います。それで合計が今までの民法536条2項よりも足りない部分は、土田委員がおっしゃったとおり、それを調整するというのが自然かなと思います。

 いずれにしても、ここでの議論の一番の目標は金銭的な予見可能性を今よりも高めるということですから、労働審判制が充実してきたというのはよくわかるのですけれども、今までのいろいろな資料でわかったとおり、かなりばらつきがある。大体どのぐらいになりそうかということも当事者以外はわからないことですから、それをできるだけ改善していくことが、今までの制度の充実化にもつながると思います。

 そういう意味で、金銭的な水準を決めるという場合、今回のものを、バックペイを含めるという形にしたほうが、今までの労働審判、あるいは10ページにある水準をそのまま使えるという意味では簡単だと思うのです。ただ、今までの数字の中にバックペイ分が幾らかというところが明記されていないという問題点がありますから、そのままでは難しくて、ルールとしてきっちりバックペイ分と今回の解消金分というのを明確に分けて、制度の運用がしやすい、多くの人が受け入れやすい形で整理したらどうかと思います。

○荒木座長 石井委員。

○石井委員 先ほど、和解や労働審判が十分機能しているのでという御意見がありましたけれども、確かに柔軟で落ちつきのいい解決ということでは合意解決にまさるものはないとは思うのですが、やはりこの場で議論しているのは、既にお話に出てきたところだとは思いますけれども、合意ができなくてもう煮詰まっている事案についてどうするか、かつ、従前の裁判では解決にならない地位確認、バックペイでは実際には解決にならない、戻りたくても戻れないとか戻せないものに対して、早期にある程度予見可能性のある範囲内での解決を提供できるのはどういうものなのかというのがテーマだったと思いますので、そこは十分話をしていく余地があると思うのです。

 その点から言って、実体法上の権利という話が出ていましたが、ここでの議論を伺っていると、やはり撤回の問題ですとか、あるいはバックペイでの調整の問題ですとか、さまざま技術的な問題が出てまいりますので、ここは裁判所での手続ということでないとうまく運用できないのではないかなという気がしております。

 例えば労働関係でも、付加金なども裁判所が支払いを命じる形になっておりますが、訴訟手続的なことはまだ十分検討したわけではないのですけれども、そういう形で裁判所が決めることで手続の設計をしていくのがいいのではないかなという気がしています。

 バックペイについては、そのために紛争を長引かせるようなことはないというお話ではありますけれども、やはり長引けば長引くほど積み上がっていく性質のものですので、ここで新しい解決方法で早期に予見可能性のある手続ということであれば、そこも早期解決と逆行する要素があるので、考え方を切りかえる必要があるのか、少なくとも上限等を設定していく必要があるのではないかと思います。

 ばらばらで恐縮ですが、対象となる解雇について、雇止めは考えられますが、期間途中の解雇は期間があるので、構わないというのはおかしいですけれども、結局、雇止めの話になり、解決方法として特に用意しなくてもとは思います。法令違反等の解雇の問題については、紛争解決という点から考えると、労働者にとして、そのような会社でこのまま働き続けたいかというのは、使用者側が言うのはおかしいかもしれませんが、あると思うのです。そこは使用者側が申し立てを認めるかどうかとも絡むとは思いますけれども、労働者申し立てを前提とすれば、労働者保護の観点から除外するというのは矛盾があるような気がいたします。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 中山委員。

○中山委員 バックペイの議論でちょっと教えていただきたいのですが、これは8ページでバックペイが金銭解決の金銭の中にも入るか、A、B、Cとあって、例えばバックペイというのは当然だということで、バックペイを今回の金銭に含めるというBの場合の御意見もあったと思うのですけれども、今回実体法に契約解消金請求という権利を創設するとしてもバックペイ分自体というのは法的には未払い賃金なのでしょう。だから、それが一緒に解消金請求権の中に入ってくる考え方というのは、どういう整理なのかなと思って教えていただきたいと思います。

 考慮要素についてならいいですけれども、バックペイを計算して乗せるといっても、それは未払い賃金ですから、それを実体法上の権利の契約解消金請求権の中に入れ込むとなると、もともと2つの別の権利ですから,どのような整理になるのか。バックペイ分を今回の契約解消金に含めるというのが、どういう整理かわからないのでちょっと教えてもらいたいと思っている。

○土田委員 ですから、もともと前々回、徳住先生からも出てきた議論もそうなのですけれども、つまり、バックペイは過去分の賃金の請求ですから、解消金になるはずがないので、性格としてはバックペイとは別のものだと。しかしながら、内容としてはバックペイ分を含める制度設計がありうる。それを法律上の請求権、法律上の制度にしてしまうということで、バックペイを中身に入れ込んでしまう制度設計があり得るのではないでしょうか。

○中山委員 解雇無効の場合の労働者に私法上の請求権を新設するわけでしょう。その中に従来の未払い賃金があって、その未払い賃金というのは、ケースによって多い場合も少ない場合もありますが、それを契約の解消金の中に、乗せなくなったって別に請求権があるのですから、それを一つの解消金請求権の中に盛り込むという議論が私は整理としてわからないのです。

○荒木座長 予定の時間を過ぎてしまいましたので、本日のところは以上としたいと思います。

 重要な論点をいろいろ提起していただきました。これはまだ検討すべき論点でありますので、次回も引き続き本日の議論の継続ということで行いたいと思います。また、可能な範囲で「その他個別労働関係紛争の予防や解決を促進するための方策について」の論点もございますので、これも次回あわせて議論できればと考えています。

 本日いただいた御意見を踏まえまして、次回の検討会では事務局からさらに議論を深めるために必要な資料を用意していただければと考えております。

 次回の日程について事務局からお願いします。

○大塚調査官 次回日程につきましては調整中でございますので、決まり次第、場所とともに委員の皆様方に御連絡いたします。

 以上です。

○荒木座長 それでは、本日は以上といたします。

 どうもありがとうございました。


(了)

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