ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 労働基準局が実施する検討会等> 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会> 第14回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会(2017年3月17日)




2017年3月17日 第14回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会

労働基準局

○日時

平成29年3月17日(金)14:00~16:00


○場所

全国都市会館第2会議室(3階)


○出席者

荒木 尚志(座長) 石井 妙子 垣内 秀介 鹿野 菜穂子 小林 信
高村 豊 土田 道夫 鶴 光太郎 徳住 堅治 斗内 利夫
中山 慈夫 長谷川 裕子 水口 洋介 村上 陽子 八代 尚宏
山川 隆一 輪島 忍

○議題

・解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について
・その他

○議事

○荒木座長 それでは、定刻となりましたので、ただいまより第14回「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催いたします。

 委員の皆様におかれましては、本日も御多忙の中お集まりいただき、ありがとうございます。

 本日は、大竹文雄委員、岡野貞彦委員、小林治彦委員、中村圭介委員、水島郁子委員は御欠席であります。あと何名か遅れて来られるという連絡を受けておりますが、始めることといたします。

 本日の議題ですが、前回に引き続き「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」であります。

 では、お配りしました資料の確認を事務局よりお願いします。

○大塚調査官 資料は、5点ございます。資料No.1は前回資料のNo.1と同じでございますけれども、検討事項の補足資料。

 資料No.2は横置きの「検討事項に係る参考資料」で、今回の新規資料でございます。

 資料No.3は、縦置きの「検討事項」です。

 参考資料1は、横置きの前々回と同じ資料でございます。

 参考資料2は、前回八代委員からの御要望に基づきまして御用意いたしました「雇用指針(抜粋)」であります。

 資料に不足などがございましたら事務局まで、お手数ですけれどもお申し出いただければと思います。以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 本日は、前回十分に時間のとれなかった使用者申し立てについての続きの議論をいただくとともに、前回欠席された委員がおられますので、前回の資料について御意見等があれば伺いたいと考えております。

 その後、解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について検討するため、金銭的・時間的予見可能性を高める方策の在り方について議論したいと思います。

 なお、前回、使用者が金銭を支払わなかった場合の取り扱いなど、さらに詳細な点も含めて論点を提出したほうがよいという御意見がありました。これらの論点は、この金銭救済制度における金銭の性質などにも密接に関連していると考えられますので、金銭的予見可能性等の議論を各委員からいただいた後、さらに詳細な論点については事務局に必要な資料等を用意していただいて、次回議論いただくという方向で進めたいと考えています。

 本日の進め方ですけれども、まず資料No.1に基づき前回の積み残し分について御議論をいただくこととし、次に事務局より資料No.2及び3について説明をいただいた後に、金銭的・時間的予見可能性を高める方策の在り方の議論に移りたいと考えています。

 では、前回積み残しといいますか、時間が十分にとれずに議論いただけなかった論点についての御意見、御質問、それから前回御欠席になられた委員からも御意見があれば、前回の全体についてでも結構でありますので御意見をいただきたいと考えております。

 では、どうぞ御発言をお願いいたします。

 垣内委員、どうぞ。

○垣内委員 垣内でございます。前回欠席をさせていただきましたので、前回配布された資料、今回の机上配布資料ですと資料No.1というものに書かれております3ページ以下の例1、例2、例3という前回議論の対象とされたと承っております仕組みについて若干のコメントをさせていただければと考えております。

 まず、例の1に関してです。これは従前から検討の経緯がある仕組みということでありますが、基本的にはこれは(1)(2)とありますけれども、いずれにしても裁判所の判決によって労働契約の終了という効果を生じさせる制度だと理解をしております。そういう意味では、訴訟の類型ということで申しますと、いわゆる形成訴訟を新たに設けるという考え方かと思われます。この場合には、効果はあくまで裁判所の判決によって生ずるということですので、当該個別事案の処理という観点からいたしますと、非常に明確である。裁判所の判決で効果は生ずるし、逆に判決がなければ効果は生じないということで、必ずこの仕組みによる労働契約の終了については裁判所が関与する。そういう意味では、濫用のおそれというものも相対的には小さいといったようなところがメリットなのだろうと思われます。

 ただ、これは従前から指摘されているところかと承知しておりますけれども、制度の仕組み方について非常に難しい点があります。私の観点からしますと、一つ非常に悩ましいと申しますか、難しいと思われるのは、実際の金銭の支払いをこの仕組みの中でどのような形で位置づけるかということが一つ大きな問題のように思われます。金銭の支払いは実際に確保されたほうが望ましいということについては異論がないところかと思いますけれども、実際に金銭が支払われた後に判決で終了の効果を生じさせるということになりますと、そこまで含めて1回の手続で全てを構成するということに非常に手続的な難しさが出てくるということかと思われますし、他方、逆に金銭の支払いなしで判決をしてしまって、その段階で契約が終了ということになりますと、当該金銭の支払い確保の問題というものがその後に残されるということになりますので、場合によっては支払いが実際にはされずにその点が労働者にとって非常に大きな負担になり得るといったあたりが問題点ということになろうかと考えております。

 次に、例2についてです。これも前回、恐らく御議論があったところかと思われますけれども、これにつきましては不法行為に基づく損害賠償請求と労働契約の終了という効果と接合させようというもののように理解をいたしましたが、不法行為は民法709条を中心として規律がされている問題であり、それと労働契約の終了あるいは解雇が有効かどうかというのは別の問題でありますので、この2つの問題を直結させるというところが理論的にはなかなかハードルが高いところではないかと思われるところでありますし、同じことを別の言い方で申しますと、あくまで不法行為の効果であるところの損害賠償の支払いによって、労働契約の終了という効果が生ずるというのはなかなか理論的には説明が難しいのではないかと思われるところであります。

 最後の、例の3であります。こちらは今回新しく検討の対象として出てきたものかと思われますけれども、例1について形成訴訟ということを申し上げましたが、それとの対比で申しますと、この例3というのは一種の実体法上の形成権を新たに設けるという考え方のように位置づけることができるかと考えております。当然、新たな実体法上の権利ということでありますので、この資料の論点でも挙がっておりますように、そうした権利を新たに設けるとすれば実体法上の根拠規定を新たに整備する必要があるだろうと思われるところです。

 この制度の場合には、判決によって労働契約終了の効果が生ずるということではありませんので、形成訴訟ということではない。一般の確認、あるいは給付訴訟の組み合わせということになりますから、その限りでは手続的な難点というものは例の1の場合に比べますと相対的には少ないということになろうかと思われます。

 ただ、この考え方をとりますと、労働契約の終了の効果というのは裁判外でも実体法上は生じ得るということになりますので、場合によっては裁判所が関与しない形でこの制度を使って労働契約が終了するということを想定していかなければならない。その場合には、そうした裁判外での事案に関して、場合によっては派生的な紛争が生ずる。例えば、労働契約が本当に終了したのかどうか、金額は相当であったのかどうかといったような問題について、なお紛争が残り、それが場合によっては裁判所に来る可能性があるというようなあたりを考慮に入れて検討する必要があるだろうと思われます。

 ただ、今まで挙がっている1、2、3の中では相対的にはこれが選択肢としては最もあり得るものなのかなという印象を現状では持っているところです。

 そうして考えたときに、この例3を仮に導入するとしたときの課題といたしまして、既にペーパーのほうで幾つかの論点が挙がっております。ここで検討が必要ではないかとされている点はいずれもそのとおりであろうかと思われますけれども、これに加えましてなお検討の必要があると思われる点としまして、1つには例えばこの制度に従って労働者が金銭請求の意思表示をしたときに請求権が実体法上発生するのだといたしますと、その意思表示の後にその意思表示の撤回というものができるのかどうかということが一つ重要な論点になるのではないかと思われます。仮に撤回ができるとしますと、その撤回はどの時点まで可能なのかということもあわせて検討する必要があるように思われます。

 その問題と関連いたしますけれども、他方で相手方である使用者のほうで紛争のもとになっている解雇の意思表示があるわけですが、労働者の側でも金銭請求の意思表示を撤回できるとすれば、使用者の側でも解雇の意思表示は撤回できると考えるのかどうなのかということが問題となりますし、仮にそうした解雇の意思表示の事後的な撤回ということが可能だとしますと、それはいつの時点までできるのかという問題も明らかにしておく必要があり、そのあたりが今後この制度との関係では議論の対象になり得るところかなという印象を持ったところであります。

 長くなって申しわけありません、私からは、以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。では、ほかに前回欠席の委員からいかがですか。

 では、斗内委員。

○斗内委員 前回欠席をさせていただいておりましたので、私から前回御議論をされた資料1の全体像の箇所について、解雇というところを捉えての発言とさせていただければと思います。

 私としましては、これまで「解雇無効時」とは、解雇が有効か無効かというものを争う裁判の中で、解雇は無効なんだ、不当解雇なんだという判決が出た時点を指すという認識をしてこれまで議論に参加させていただいていたところでございます。

 前回の御議論で、事務局からはその解雇無効時がいつの時点を指すのか御議論願いたいという趣旨の御答弁があったと聞いております。その点が議論になるということであれば、さまざまな議論が錯綜してしまうのではないか。前々回のときにも少し同様の趣旨の発言をさせていただきましたが、そういう意味では最終的に事務局がどのような制度を設計しようとしているのかということがなかなか私には見えないといいますか、理解しにくいということでございます。

 そもそもの大前提であるところの「解雇無効時」というものをどの時点で捉えるかということについて発言をさせていただきました。

○荒木座長 ありがとうございました。

 中山委員。

○中山委員 中山です。前回、参加できなくて申しわけございませんでした。今、前回の資料No.1の例1から3のお話がありましたので、私もそれについて意見を述べておきたいと思います。

 私は、解雇の金銭解決計制度については、具体的な解雇訴訟において裁判所が解雇無効だという判断をした場合に、当事者の申し立てに基づいて、裁判所の判決によって金銭給付と労働契約を終了させる制度というたてつけにすべきだと考えております。したがって、手続的手法で金銭解決制度を考えるべきだと理解しておりました。

 ところが、前回の資料の例3でいきますと、これは裁判所を介さずに民事私法上、労働者に無効な解雇について金銭請求権を認めるという新たなたてつけになっております。これは法的な根拠がまず一つ疑問でして、例2のように不法行為を前提にする損害賠償請求の金銭ということであれば一つだと思うのですが、ここで言われているのはそれと別の労働契約解消自体についての金銭請求権ということでありますので、そもそも裁判所を介さずに民事実体法上、一体どんな権利があるのかというのが疑問です。

 そこで、恐らく前回の議論では、それは労働契約法で新たに労働者にそういう請求権を認める定めを置けばいいのではないかという御意見もあったのであろうかと推測しますが、仮にそのような定めを置いた場合、私法上の権利として認めるわけですから、まず金銭請求の性質とか具体的な請求権としての金額算定根拠、要件ということを確定させるための定めも置く必要があろうかと思いますし、仮にそこまで実体法で定めるのであれば、それは裁判所による解雇訴訟についての金銭解決制度というものではなくて全く別の制度であり、いわば解雇についての金銭請求制度ということになる。

 ですから、この例3のたてつけは私は非常に違和感がありまして、解雇紛争の金銭解決制度としてこれを土台に構築するというのはなかなか理解できないところだと考えております。例3をそういうふうに見させていただきました。

 もちろん、そうすると訴訟手続の中でどういうふうに仕組むのかということで、例1は以前からの議論で非常に難しいという問題はあろうかと思いますが、だからといって今度は例3のように実体民事法上金銭請求権を認めるというのは飛躍であり問題です。解雇のこれまで議論してきた金銭解決制度と整合性がとれない。実務家から言いますと非常に落ち着きが悪い、鶏を割くのに牛刀を持ってやるのだというような感じで、私は非常に違和感を覚えてこれを見させていただきました。以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。ほかにはよろしいですか。

 では、鹿野委員。

○鹿野委員 私も前回欠席をしまして、きょうも少しおくれて来ましたので今までの御議論を十分に承知しているわけではないのですが、前々回の最後のほうで私自身も、例の2でしょうか、3つの判決を必要とするような形での議論が従来行われてきたということを前提に、それはかなり手続的に何度も繰り返さなければいけないということで、紛争の早期解決、一回的な解決という観点からいうと問題があるのではないかという議論があったように伺いましたので、一つの考え方としては実体法上の権利という形で検討をする余地があるのではないかと申し上げたところでございます。

 そこで出てきたのが、資料の例の3ということではないかと思っているところです。既に御指摘があったように、不当な解雇の場合に損害賠償請求をして、それが認容されたという裁判例も最近幾つかは出てきているようですが、その損害賠償請求が認められた場合における労働契約関係がどうなるのかということは、必ずしも明らかではなかったように思います。

 そのような訴訟では、労働者が別の仕事に既についているとか、あるいは職場復帰の気持ちがないから不法行為という形で金銭的な請求をしたというケースが多いのでしょうけれども、少なくとも理論的にいうとその関係が明確ではないということであります。

 それから、要件面でも不法行為の要件を検討するということと、労働契約法の解雇無効との関係ということもございましょうから、実体法的に何らかの整理をするということが可能であればという考えを簡単に申し上げたところでありました。

 今もまだ細かなところまでは検討がいっていないので、これでできるじゃないかということは申し上げにくいのですが、先ほどの全然別物になるというご指摘については、違和感を覚えました。ここで整理されているのは、解雇無効の基本的な要件が満たされている場合において、労働者が解雇無効という形ではなくてそれにかわる金銭的な請求をするということですから、従来議論されていたところの、まずは無効判決を経てということとは手続は違いますけれども、実体法上の要件としては必ずしも全く従来の議論と異なるということにはならないのではないかという気がいたしました。

 ただ、そのような実体法上の権利を認めるとすると、これは裁判の外でも請求できるのかというような問題もあります。実体法上の権利という以上は、特別の制限を設けない限り裁判外でもできることになるのではないかと思います。けれども、そもそもここで問題となっているのは、解雇の有効性それ自体、あるいはその解雇無効に該当するような要件が満たされているかどうかということ自体にかなり争いがある場合ということになりましょうし、それが後で客観的にみると満たされていたとしたら、解雇の無効だから雇用継続ということになるのか、あるいはそれにかわる金銭を請求するのかという話になろうかと思います。ですから、理論的には裁判外でもできそうなのですが、実際上、裁判外でそういう形で決着がつくのはそう多くはないのだろうと思います。

 むしろ、検討しなければいけないのは、この金銭的な請求権というものを考える場合に、その中身が何なのかということだろうと思います。恐らくは不法行為による損害賠償請求権と同じというわけではないと思いますが、仮に例えばこれを補償金とか別の名前で呼んだとしても、その補償金によってどこまでがカバーされるのか、含まれるのかということは整理をしておく必要があると思います。

 特に損害賠償と違うとはいっても、損害賠償請求権との関係はどうなるのか。その補償金によって解雇通知を受けたことによる損害がある程度填補されるとすると、当然それは損害賠償請求にも影響を与えることになるでしょうが、それはここでの金銭解決の金銭の中身によって違いが出てくるのではないかと思います。さらに、具体的にはバックペイを含めるのかどうかということも問題となるでしょう。いずれにせよ、そういう中身あるいは法的性質について検討をする必要があると思います。

 それから、先ほど垣内先生から、意思表示の撤回ができるのか、あるいはそうであれば、使用者のほうの解雇の意思表示の撤回はできるのかも検討する必要があるというふうな御指摘がされたものとお聞きしました。その点とも恐らく少し関係すると思いますけれども、この金銭的な解決の手続を用いるとした場合、解雇通知がひとたびあれば、いきなり労働者のほうが解雇無効ではなくて金銭請求という形での申立てをすることができるのか。それとも、いわば催告的な形で、解雇の意思表示の撤回を、つまりそれは不当な解雇だから解雇の意思表示を撤回しろというふうな形で要求し、一定の期間が経過して初めて金銭請求ができるというようなたてつけにするのか。そういうことも、ちょっと細かな話ですけれども問題になりうるのかなというふうな気がいたしました。とりあえず、以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 前回の積み残しというのは使用者申し立ての部分がございますので、水口委員どうぞ。

○水口委員 前回もいろいろ指摘をさせていただきました。論点の提示を受け、前回の検討会後もいろいろと考えてまいりました。制度導入に賛成かどうかは別として、法律技術的に見てどうなのかという点をはっきりさせなくてはいけないという観点で、前回申し上げなかったことも含めて申し上げたいと思います。

 まず1つは要件論で、例3の5ページの論点で挙げられた権利の発生要件です。ここに書いてあるのは、マル1使用者の解雇と、マル2解雇権濫用法理に反していることと、マル3労働者が一定の金銭の支払いを求めていることとあるわけですが、これ以外の要件は何かということを考えたときに、この権利、たとえば解雇の解決金請求権を行使する際に、労働者がその金銭の支払いを条件として労働契約の終了を求めるという要件も含まれるのか、含まれていないのか。あるいは、労働者に復職する意思がないというのが消極的要件として想定されるのかどうかも検討しなければいけない。これは、バックペイの問題に絡む問題になるかと思います。

 それから、対象となる解雇の範囲についてです。労働契約法16条の解雇ということが想定されているわけですが、有期労働契約の中途解雇、すなわち労契法17条違反の解雇についてはどう考えるのか。あくまで論点ということで申し上げるだけですが、労契法19条の雇い止めについてはどうするのかということも重要な論点になってくるかと思います。

 それで、法的効果の関係では、お金を支払った段階で労働契約が終了するわけですけれども、ではいつの時点で労働契約終了の効果が発生するのか、解雇効力発生日なのか、判決日なのか、金銭支払い日なのか。この論点もバックペイとの関係でも問題になってくるかと思います。この点についての私自身の意見は、労務の提供がなければ賃金請求ができないという民法536条2項の規定があるわけですけれども、使用者が、違法な解雇をしたことが使用者側の責に帰すべき事由というということであれば、労働者が金銭請求したとしてもバックペイは発生すると解釈することは十分できるのではないかと思っているところです。

 それと、地位確認請求訴訟プラス賃金請求権の今までの訴訟と、仮に解決金請求権ができたとした場合に相互の訴訟物の関係ですね。前回も少し指摘しましたように、私が疑問に思ったのは、両者の訴訟物が違います。前回のイメージでいくと、解雇の金銭解決請求権というのは給付請求権とありました。地位確認請求権というのはもちろん確認訴訟ですから、給付請求権とは訴訟物が違うところ、この2つの関係が重複起訴に当たるか当たらないか、規範力が及ぶか及ばないかということになるわけで、実務的に考えると、解雇の金銭解決請求は裁判にまでなって負けた場合に、もちろん労働者が敗訴した場合ですが、控訴もできますけれども、では負けたのだからやはり地位確認請求訴訟をするということも考えられ、訴訟が錯綜する制度になってしまうという点をどういうふうに考えたらいいのか。

 それから、これはよくある話ですが、地位確認訴訟を提起しながら、半年、1年と裁判が続いているなか、労働者としては職場に戻りたいと思ったけれども、これだけ時間がたったら職場復帰はあきらめる、あるいはいい転職先が見つかったので転職するということで、地位確認訴訟の途中で金銭請求権を行使するというようなことも十分あり得る話であり、この相互関係をどうするのか。逆に金銭請求権で裁判を提起したけれども、途中から地位確認訴訟を追加的に訴えることができるのかどうかという問題をどのように考えるか。今、発言した点についてもう少し議論を深めたいと思っており、もし垣内先生にお考えというか、何かコメントがあればお聞きしたいと思っているところです。

○荒木座長 ありがとうございました。

 この金銭解決制度における金銭の性質は、この後、十分時間をとって議論をしたいと思っておりますけれども、その点は別にしても垣内先生から何かございますか。

○徳住委員 その前に、同じように問題点を垣内先生に。

○荒木座長 では、どうぞ徳住委員。

○徳住委員 水口先生の質問と結果的には同じところがあるのですけれども、先ほど垣内先生が意思表示の撤回の問題をお話になって、この点が制度論とかかわってくると私も思っています。現在も実務的に問題が起こってきているのは、使用者側が解雇して、労働側がおかしいと感じ、「解雇無効だから復職させろ」などいろいろ言うと、使用者はすぐに解雇を撤回して、職場復帰を言ってきます。でも、労働側としてみれば、戻ってまた嫌がらせをされるのではないかということに対して恐怖感があり、解雇事件の2~3割ではそういう状態が生じてきていると感じています。

 その場合に解雇を撤回できるかという問題は、我々は旧来から退職の意思表示が撤回できるかという問題の逆のパージョンで争われてきて、その場合は一旦、意思表示が相手に通じた以上、撤回できないとされています。

 ただ、合意解約の場合は、相手が承諾の意思表示がなされるまでの間は撤回できるというという論理ができていました。これに対し、使用者側の解雇の撤回は、私の理解では、やはり労働者に通知した時点で効力は発生しているわけだから、撤回という効力は発生しません。和解調書の中には、撤回という文言があるのですけれども、それは労使で一旦、意思表示関係を元に戻すという合意であるので、その場合は問題ありません。もし使用者側の意思表示の撤回を認めるとするならば、解雇が無効であることの認諾であり、これはできるのだということが現在の労働側の主張になっているのです。ただし、その時点までバックペイを払わなければいけませんし、元に戻した場合にどうなるかという問題が次に出てきます。

 それと同じように、先ほど労働側の意思表示が撤回できるかという問題があったのですけれども、これは一旦、金銭請求すると地位確認請求訴訟ができないということを前提とした論理ですね。その点はどうなのでしょうか。

 先ほど、水口委員が言うように、最初から2つの請求権の申し立てが可能かという問題と、訴訟の途中で乗りかえができるかという問題は、この間から議論していますが全然解決されていないのではないかと感じています。特に、金銭を払えという判決が出た後、使用者側が金銭を支払わないと、労働者側としては改めて地位確認請求するという乗りかえも当然想定されるわけで、労働者側が一旦、金銭請求したら撤回が問題になるということだとすると、一旦その道に進んだら地位確認請求はできないのではないかということを前提にしている論理ではないかとも考えられます。その場合、地位確認と金銭請求の関係はどうなるのか。私は水口委員と同じように大変疑問に思っている点です。

○垣内委員 私がお答えすべき立場にあるのかどうかはよくわかりませんけれども、私の理解するところを今、伺って考えたところで申しますと、まず地位確認と金銭請求の関係についてですが、前提として労働者が金銭請求による解決を求めたときに、これは従来から議論になっているところですけれども、労働契約終了の効果はいつの時点で生ずるのかという問題があるわけです。

 それで、選択肢としてはいろいろな論理的な選択肢があり得て、意思表示した瞬間に労働契約が終了する。これは、労働者側に非常に不利なわけですけれども、そういう選択肢もあれば、それが何か裁判で認められたときとか、あるいは実際に金銭が支払われたときといったような選択肢が考えられるかと思います。私自身は、最後の選択肢が穏当ではないかという印象を持っておりますけれども、これは基本的には実体法上の政策判断の問題だと考えております。

 それで、仮にこの意思表示のときにいきなり労働契約が終了したということになれば、これは地位確認と金銭請求は両立しない関係にあるということになるわけですけれども、そうではなくて労働契約が終了するのはあくまでも金銭が実際に支払われたときであるという構成が仮にあり得たとしますと、その場合には請求の意思表示をしてもまだ払われていない段階においては地位は残っている。労働契約が終了していないわけですので、地位が残っておりますから、金銭請求に追加的に地位確認の請求を併合して、訴えの内容を変更して請求を拡張して、両方とも要件が満たされればいずれも請求認容ということもあり得るのだろうと考えているところです。

 それから、使用者側の解雇の意思表示の撤回との関係についてですけれども、基本的には現在こういう制度がない状態で一旦された解雇の意思表示というものが撤回できるのかどうかというのは、現行法の解釈問題として存在する問題だろうと思います。その点について私は労働法の専門家ではありませんので、現在どうなっているのかということを前提にまずは考える必要がある。

 問題は、この制度を導入したときには、労働者の側で金銭請求ができますということになりますけれども、そのときに金銭請求の意思表示をすれば、そこで恐らく実体法上、現行法ではなかった金銭請求権が発生するということになるのだろうと思います。

 そうしますと、これは意思表示によって新たな実体法上の権利が発生するということですので、一種の形成権のようなものだろうというのが先ほどの発言の趣旨ですけれども、通常の形成権ですと、例えば債務不履行に基づく解除の意思表示をしました。それで、その後でやはり履行の提供をするから債務不履行はないですと言っても、これは解除の効果はもう発生しているわけですから、後で解除権の意思表示が覆るということはないというのが通常の考え方だろうと思います。

 仮にそうだとしますと、金銭請求の意思表示をして、それによって金銭請求権が一旦、発生した。実体法上の権利の変動が生じた以上は、それ以後は撤回はできない。もちろん、両者合意して元に戻すということは契約自由ですからあり得ると思いますけれども、撤回できないというのが一つあり得る考え方だろうと思います。

 ただ、そうなりますと、労働者の側としては、一旦この意思表示をすると、あとは使用者の一存で、払えば有効に解雇できる地位を相手方に与えるということになるので、場合によって撤回を認めた方がいいのではないかという議論もあり得るのかもしれないという気がしているところで、そのあたりが問題になるのではないかというのが先ほど申し上げた趣旨であります。

 仮に、労働者側に一定の期間、撤回を認めるという考え方を採用したとしますと、それを前提としたときに現行法上の解雇の意思表示の撤回の可否はそれとして、この制度を導入した際に使用者側に別のオプションを与える必要がないかどうかということがまた新たに問題として出てくるのではないかというのが先ほどの私の発言の趣旨であります。そのあたりは、この意思表示によってどの時点で終了の効果が発生するのかということをまず検討する必要があって、それとの関係でさまざまな問題が変わってくるのだろうと考えております。

 それから、水口先生の御指摘であった二重起訴の関係ですけれども、基本的には既に御指摘のとおり訴訟物が異なるということで、それぞれ既判力の対象も異なるということになりますので、現在の最高裁判例などを前提とする限りは、これは二重起訴ということにはならないのではないか。

 もちろん民事訴訟法学説上、有力な学説では、主要な争点が重なっているので事件の同一性があるのではないか。したがって、併合審理を強制すべきではないかといったような議論はあり得るところかと思いますけれども、現在の民事訴訟法142条の規定、あるいは最高裁の判例を前提としますと二重起訴の法理の効果というのはあくまでも訴え却下ということであり、別の訴訟物についての訴えを却下するというのは、これは行き過ぎた規律であろうということになりますから二重起訴にはならない。したがって、いずれの訴えもそれ自体としては適法であることを前提に、あとは裁判所の審理上の工夫として弁論を併合するであるとか、そういったことは現行法のもとでも考えられるだろうと思います。

 もしこれを一回的にすべて解決する必要があるという観点でまとめてやったほうがいいのではないかということになれば、別途併合を強制するとかしないと失権するといった新たなルールを導入する必要が出てくるのではないかというように現状では差し当たり考えているところです。

○荒木座長 ありがとうございました。

 前回の積み残し分はこのくらいにしようと思っているのですけれども、使用者申し立ての件については何かございますか。

 中山委員。

○中山委員 中山ですが、前回土田委員のほうから、中山か、石井委員に使用者申し立てを認めるべき理由について御質問的なお話があったと聞いておりますので、この点を私のほうから御説明させていただきたいと思います。

 使用者申し立てを認めるべきだというのは、解雇の金銭解決制度において申立人として使用者申立を認めるべきだということですが、幾つも理由があろうかと思います。1つは解雇が無効と判断されても実態として復職しない場合が多い。これは、解雇の金銭解決制度を考える場合の大きな前提理由になろうかと思いますが、これは雇用関係における労使双方の最低の人的な信頼関係が維持できないというところが大きな理由だろうと思います。

 実例として挙げますと、例えば労働者の勤務態度とか勤務状況が大変不良だ、あるいは能力が大きく不足しているという理由で使用者が解雇するというような場合で、実際に労働者の方もそれなりに勤務態度不良とか、能力不足について相当な問題があるケースです。

 ただ、それを考慮しても、解雇が濫用で無効と判断される場合というのは実際に多々あるわけです。

 ところが、そういうケースでは、労使の信頼関係が回復しがたい状況になっていると、実際我々は実感しているところです。したがって、裁判所の心証においても使用者だけに責任を帰すべき事案とは言えないケース、権利の濫用論なものですから、前にも言いました6対4とか、7対3とか、そういう心証であっても、結論的には解雇無効の判断ということになるわけです。そういう信頼関係が維持できないという実態から見ると、使用者の申し立てに基づいて金銭による労働契約の解消という選択肢を認めることは、有用だろうと考えています。

 それから、2つ目は無効な解雇が直ちに不法行為となるものではないというのが現在の裁判例ですから、先ほど言いました勤務態度、あるいは能力に問題がある。信頼関係もなかなかつなげないというような事例において、使用者に金銭解決の申し立て権を認めることが不当だ、おかしいという不当性を強調するような事情はないと私は思っています。

 3つ目は、労使対等の理念からしても、解雇訴訟における金銭解決の選択肢を労働者だけに認める理由というのは見当たらないのではなかろうかと思われるところです。金銭解決制度のたてつけをどうするかというのは先ほど来議論がありましたが、私のほうで想定していますのは、具体的な訴訟において裁判所の判断で解雇無効だけれども、裁判所が当事者の申し立てに基づいて金銭による契約解消をするという制度です。したがって金銭解決が裁判所の判断に委ねられるということを前提に考えますと、労使間の交渉力の格差是正が要請されるような場面ではありません。したがって、裁判所による金銭解決の選択肢というものが合理的であれば、その契機となる申し立ては労働側でも使用者側でも認められるべきだと思います。

 ただ、これは従来から主張されているように、使用者はその申し立て権を濫用するのではないかという問題もあろうかと思いますので、使用者の申し立てについては金銭解決を認めるためにプラスの要件として、例えば国籍、信条等の人権侵害になるような差別的な解雇ですとか、そういうものはもちろん金銭解決の対象となる解雇類型から除外する。こういうような工夫をして対応するということになろうかと思います。

4つ目は、現在労働者のイニシアティブで金銭解決を求めたいという場合、労働審判制度が現にあって相当機能しているんですね。ですから、むしろ使用者に解雇の本訴訟における金銭解決の選択肢を認めるというのは、この点でも有用ではないかと思っております。

 それからもう一つ、欧州諸国の金銭解決制度を見ても、ドイツを初め労使に申し立て権を認める制度となっていて、労働者側だけに申し立て権を認めているというのは、私は不勉強かもしれませんが、知りません。もちろん行使要件は違うかと思いますが、いずれも双方認めている。

 そういった事情をいろいろ考えますと、解雇が無効の場合労働契約法16条というのは契約の存続保護法ですね。無効になったら契約が存続するよという解決の仕方をしているわけですが、さらに金銭解決制度を導入すれば、いわば解雇の無効の場合の金銭解決の選択肢を認めるわけですから、その選択肢を設けること自体に合理性があるとすれば、先ほども言いましたようにその契機として労働者側だけに申し立てを認めるべきだという理由はなくて、一定の要件で使用者にも認めてしかるべきじゃないかと理解しているところでございます。

 なお、先ほど金銭解決ルールのたてつけで、手続的手法として資料No.1の例1というものが従来から言われていました。例1では、具体的な解雇訴訟の中で裁判所が金銭解決の判決をする場合に解雇無効、それから一定の金銭給付と労働契約の終了、こういう3つの判決をしなくちゃいけないし、1回で終わるのかどうか問題がありました。訴訟手続の中に金銭解決制度を設けることについては、いろいろな問題があるのは理解しております。しかし、例えば訴訟手続の中で認めるとしても、裁判所の判決では、解雇が無効であることは主文中に入れないで理由中で示して、一定の金銭の支払いと契約終了を並列的に主文に入れて解決するというやり方もあります。ドイツの例でも使用者の金銭の支払いと契約の終了は引換とせず、リンクさせないで、契約終了の形成判決は条件つきではない。一方、それとは別に金銭支払を命じるという形でやっている例もあるわけです。それでもいろいろな御意見もあろうかと思いますが、決して訴訟手続の中で考えるのが理屈として不可で、とても手をつけられない制度だとはいえないのではないか、私はもう一回その辺を考えてみていいんじゃないかと思っています。

 特に、金銭の支払いと契約終了について引きかえにするという見解もありますが、例えば労働審判などは審判制度ですから判決ではありませんけれども、労働審判の審判主文では労働契約終了と金銭支払は別々であり、同時履行じゃないんです。そういう審判主文が出ていて、これまでそんなに問題なく行われているわけですから、契約終了が金銭支払と引きかえじゃないとだめだということはないと思います。手続的手法で制度を構築するという場合でもいろいろな問題はあろうかと思いますが、思い切って先ほど言ったような形を一つ考えて議論するというのもあるのではなかろうかと考えています。以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

○高村委員 使用者申し立てについてよろしいでしょうか。

○荒木座長 では、高村委員お願いします。

○高村委員 前回の検討会で、この使用者申し立ての問題についての事務局からの答弁では、「使用者申し立ては使用者に二の矢を放つことができる仕組み」という趣旨のお話があったわけですが今さら申し上げるまでもなく、解雇というのは労働者にとっては単に生活の糧を奪われるというだけではなくて、自己実現の場を含めて奪われる。家族を含めれば、その日から路頭に迷わされる過酷な状態に置かれるという問題ですから、使用者に二の矢を放つ機会を与えればさらに追い打ちをかけることになるだろうと思います。

 そして、私は日々、労働相談の現場におりまして、雇用というものに対する使用者の責任放棄、モラルハザードという問題を実感することが多々あります。少し具体例でお話を申しますと、ちょうど昨年の今ごろ、労働移動支援助成金を使ってリストラを強要するというようなことがマスコミで報道されておりました。御記憶のある方もおられると思います。

 私どものところにも、その問題で複数の会社の社員の方が御相談にお見えになっているわけですが、問題となったのは、人材会社が企業に対して「ミスマッチの社員ですとか、あるいはパフォーマンスの低い社員にやめてもらえば、経営体質を強化することはできますよ」というアピールをしながら、そうした社員をリストアップして退職勧奨するようにという提案をしたことです。

 そして、提案を受けた会社の方も、業績が好調であるにもかかわらず、不要と判断した社員をリストアップして退職金の加算ですとか再就職支援のサービスの提供という退職条件を前面に出して、執拗な退職勧奨を繰り返して退職に追い込む。そして、退職勧奨を拒否した社員に対しては、人材会社に行って自分の転籍先を自分で探せという業務命令を出した。これが実態であります。

 人材会社とその会社との間では、転職のための費用として一人60万円で契約が締結されていて、その一部に労働移動支援助成金が使われたということであります。要は、雇用を守るための支援助成金が人材会社のビジネスに利用されて、一方、その提案を受けた会社のほうで社員を退職強要する費用の一部に使われました。まさに、これは解雇に対する経営者の責任放棄、モラルハザードだと思います。

 さらに、これは労働移動支援助成金の悪用とは関係がないわけですが、ある会社で退職勧奨をして、退職勧奨を拒否した人間を一室に集めて、自分の転籍先や出向先は自分で探せという業務命令を下しました。それを不服として、一部の人は裁判で争って現職に近い形で復帰をした方もいるのですが、結局精神的に追い込まれてみずから退職された方もいます。これも、私は雇用というものに対するまさに経営者の責任放棄、モラルハザードだと思っています。こういうことが、日々起こっているわけです。

 さらに、産業競争力会議の場においてある経営者の方が、労働市場の流動性を高めるということで、これが実際に産業競争力会議の中でどういうふうに扱われたかというのはわかりませんが、民法627条に規定されている解雇自由の原則を労働契約法に明記するとともに、再就職支援金という名目で、企業が社員にお金を払うことで解雇できるなどを含め合理的な解雇ルールを明文化すべきだということが、民間議員のある方から産業競争力会議で提案をされたと聞いております。

 前々回の検討会で、日経連の会長をされていた奥田さんの言葉を御紹介したことがありますが、産業競争力会議である経営者の方が提案されたことは、奥田さんの言葉を借りれば最もやってはいけないことであって、そのようなことをすれば便乗解雇を容易にするとともに、経営者のモラルハザードに直結しかねないということになるのだろうと思います。

 今、申し上げたようなことを踏まえますと、私は解雇の金銭解決制度、特に使用者申し立てというものを認めるとなれば、理由のない解雇であっても会社が初めからお金を払ってやめさせるという前提で解雇に踏み切れば、結局、裁判で争って解雇無効という判決を勝ち取ったにしても、会社が一定の金銭を払えばその労働者をその企業の外に放り出すことができる。こういうことにもつながる危険性が、私はあるのだろうと思います。

 こうした経営者のモラルハザードというのは今後も起きうる可能性がある中で、使用者の申し立てというものをやはり認めるというのは、私は論外な話だろうと思っています。以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、時間もございますので、続いて金銭的・時間的予見可能性を高める方策の在り方に関する議論に移りたいと思います。

 まず、事務局より資料No.2及び3に基づいて説明をお願いいたします。

○大塚調査官 事務局から資料No.2につきまして御説明申し上げます。

 横置きの資料をおめくりいただきまして、2ページ目から39ページまでが金銭的予見可能性についての資料になります。

 2ページ目は、その後ろに続きます34ページあたりまでの資料を総括した表になっておりますので、まずこの表に基づいて御説明したいと思います。

 1番上の段は「地位確認訴訟」なのですが、これまでの検討会の議論でもございましたように、地位確認訴訟とあわせて未払い賃金分の請求訴訟が行われる場合があります。それにつきまして、ここの1段目に記載しておるところでございます。

 どの部分が未払い賃金になるかということでございますけれども、これも委員の先生方から御指摘がございましたように、まず解雇の意思表示の段階から労働者としてみれば労働の意思がある、労働の提供の意思があるにもかかわらず、使用者側の解雇の意思表示によって業務が提供できない状態になっているということがありますので、解雇の意思表示の時点から未払い賃金状態が発生する。それで、裁判で争われて判決が確定した時点まで、この時点までが未払い賃金分ということになります。

 それで、その間に他の事業所で働くなどして中間収入があった場合の取り扱いについては、次の3ページにも少しつけ加えているのですけれども、結論だけ申し上げますと、前の解雇した事業主のところで支払われた賃金の6割については控除対象外ということで、これは敗訴した場合には支払わなければいけないということになってございます。

 2ページに戻っていただきまして、その地位確認に伴って行われています未払い賃金の請求訴訟について、金銭の水準はどうなっているのかというのが真ん中あたりに書いてございますが、これはまさに事案によるものでございます。

 4ページに、地位確認訴訟にあわせてこういった金銭の支払いが求められた裁判例の結果などをつけておりますけれども、まさに事案によってさまざまな金銭水準で決着しているところでございまして、事の性質上、争う期間が長くなれば長くなるほど未払い賃金分は膨らむという関係にございます。

 2ページに戻っていただきまして、損害賠償請求との関係でございますけれども、一番右にございますように別途、損害賠償請求をすることは可能ということになっております。

 次に、2段目の個別労働紛争の関係の労働局のあっせんの仕組みでございますが、こちらにおきましては左側に記載してございますように、額を決めるに当たってはまずは当事者双方の提示額がベースになります。これに事案によって、例えばそのあっせん委員が持っていらっしゃる相場観みたいなものもあるかもしれませんし、さまざまな事情を勘案して額が決まっていくという関係にございます。

 具体的にどれぐらいの水準かというのが右のほうに目を移していただきますと書いてございますけれども、大体1カ月程度分ということになってございます。この中には、右側に書いてございますようにバックペイ相当のお金ですとか、あるいは損害賠償見合いのお金というのがもろもろ込みということになっております。後ほど御説明しますように、労働局のあっせんは早く終わりますので、早く終わる分、そういった賃金相当分なども圧縮できるという関係にございます。

 次の「労働審判」と「和解」についてでございますけれども、これにつきましては第6回に裁判官でいらっしゃった難波先生にお越しいただきまして、具体的にどういう基準で決めていたのかといったようなお話を伺ったところでございますけれども、そこをまとめているのがここの部分でございます。具体的には、5ページから6ページに難波先生がおっしゃったことを要約してまとめております。

 先生がおっしゃいましたのは、和解におきましてはまずは裁判官が解雇が有効か無効かの心証を形成する。その心証をもとに、解雇が無効だった場合にはその会社で行われております退職金の支払いに加えて幾らオンしていくかということを決めていく。解雇が有効の場合であっても、大体3カ月以下ぐらいの基準で決着しそうであれば、そういったベースで進めていくというようなお話だったかと思います。

 労働審判の場合には、同じく労働審判員と一緒にその解雇が有効か無効かの心証を形成していきまして、それに基づいてお金を示していくわけでございますけれども、解雇が無効の場合には1年ぐらいを目安にプラスマイナスアルファしていく。解雇が有効の場合には、大体1カ月から3カ月の金額水準で決めていくというようなお話だったかと思います。

 それで、その際のお話でありました各事項をこの2ページの総括表には載せております。その額の水準については右側に載せておりますけれども、和解のほうがより時間がかかる傾向もございまして、そういう意味で労働審判よりも額の水準は高まっているということでございまして、具体的には7ページから10ページあたりに労働局のあっせんや労働審判、あるいは和解についての金額の水準が載せてあります。この金額の中にはバックペイ相当分ですとか、あるいは損害賠償見合いのものももろもろ込みで入ってくるという関係にございます。

 駆け足で恐縮ですけれども、2ページの4段目で「不法行為に基づく損害賠償請求」についてでございます。これは例としてはちらほら出ている程度でございますけれども、幾つか裁判例として挙がってきておりまして、中身としては2つです。1つは財産的な損害、逸失利益でございます。これともう一つが精神的な損害としての慰謝料で、この辺を勘案して決めていくのですが、金額につきましては右側に書いてございますようにまさに事案による世界でございまして、具体的には11ページから13ページに過去の検討会で御紹介した不法行為に基づく損害賠償の事件の一覧をつけてございまして、額の欄をごらんいただきますとさまざまであるということがおわかりいただけるかと思います。

 この不法行為に基づく損害賠償請求を起こした場合でも、別途未払い賃金分についての訴訟を起こすことは可能ということになっております。

 2ページの総括表にお戻りいただきまして、退職金と早期優遇退職制度等についてでございます。これは民間の労働条件でございまして、もしかしたらその金銭の性質論を議論する際に退職に係る労働条件というのも考慮することがあるのかもしれないと思いまして載せた趣旨でございます。

 退職金制度につきましては、何が勘案されているかということです。具体的には後ろの14ページから21ページぐらいまで資料を載せているのですけれども、勘案している要素といたしましては勤続年数ですとか年齢、あとは退職理由によって額が異なってくるのかなということでございます。

 退職理由に関しましては、16ページが会社都合の場合の退職金のデータで、次の17ページが自己都合の場合の退職金のデータでございますけれども、ぱらぱらと見比べていただきますとおおむね会社都合のほうが金額水準が高まっているというような傾向が見てうかがえると思います。

 この16ページの会社都合のときの勤続35年のところを見ていただきますと、これはなぜか高卒のほうが高くなっているという不思議なデータなのですが、大体40カ月分からそれ以上の金額は支払われているというのが実態としてあるのではないかと思われます。

 次に、早期退職優遇制度と希望退職制度についてでございます。早期退職優遇制度につきましては22ページから24ページに、希望退職制度につきましては25から28ページに、29ページから31ページは両者共通の資料でございます。

 まず、早期退職優遇制度は恒常的に設けられる仕組みでありまして、定年前にやめていただく方を募集するために退職一時金などの割り増し等の優遇措置を講ずるものでございます。希望退職制度は、事業再構築等の際に同じく定年前にやめていただく方を募集して、その際に退職一時金等の優遇措置を講ずるものでございます。後者のほうは、臨時的なものです。

 これら両方とも勘案する要素といたしましては、年齢ですとか、勤続年数、それと役職などが勘案されております。

 具体的な金額の水準につきましては、例えば早期優遇退職だと24ページに記載があるのですけれども、勤続35年で見ますと大卒、高卒とも大体50カ月を超える基準で支払われているというのが実態としてございます。

 2ページの総括表の最後、「失業等給付の基本手当等」についてでございます。これは、資料といたしましては32ページから34ページに記載がございます。雇用保険に当たって勘案されている要素としては、1つは年齢もございますし、被保険者期間、それと離職理由というのがございます。

32ページを御覧いただきますと、真ん中のパターンが一般離職者で基本パターンなのですけれども、その上の(イ)のほうは倒産、解雇等による離職の場合ということで、真ん中の一般離職者に比べますと給付日数が手厚くなっているということでございます。さらにその年齢で見ますと、45歳以上60歳未満という中高年層は再就職は困難ということもありますので、さらに加算されているということでございます。

 一番下の就職困難者につきましては、さらに所定給付日数が上増しされているという関係にございます。

 駆け足で恐縮なのですけれども、35ページに飛んでいただきますと、35ページから38ページまでは諸外国関係の資料でございます。

35ページは不当解雇等の場合の金銭機救済の仕組みにつきまして、これまでの検討会でも御紹介いただきました内容をまとめたものでございます。例えば35ページの1段目、イギリスにつきましては上限の設定がある上に2段階のお金の構成となっておりまして、基礎裁定額のほうは年齢とか勤続年数を考慮している。一方で、補償算定額のほうは損害賠償見合いということで、具体的には次の下に並べておりますような考慮要素を勘案して決められているようなものでございます。

 フランスにつきましては、左側にございますように企業規模と勤続年数に応じまして下限額に差を設けているということでございますし、具体的には右側にありますように勤続年数ですとか、年齢や再就職の困難さを勘案して12カ月から18カ月ぐらいで決められているといったものでございます。

 その下のドイツの解消判決制度でございますけれども、これは上限の設定がございまして、年齢ですとか勤続年数によって差異が設けられている。基本的には裁判官の裁量で決めるというたてつけにはなっているのですが、実際には一定の算定式、「勤続年数×月給額×0.5」の算定式を目安にして、それに諸事情を勘案して決めているといったような事例がございます。

 右側には、バックペイが損害賠償請求との関係についても記載しておりますので御参照いただければと思います。

 次に37ページの諸外国の一覧ですけれども、これは退職金などに関する一覧でございますので、こちらも議論の際に御参照いただければと存じます。

 次の38ページです。これも諸外国でございますけれども、これは不当解雇の場合の補償金額の水準について並べたものでございまして、例えばイギリスにつきましては右のほう、5.5カ月分というのが平均でございますし、ドイツとかフランスはもうちょっと高くて18カ月とか16カ月とか、その辺が平均値となってございます。

 駆け足で恐縮ですが、39ページでございます。これは、我が国におきましてRIETIのほうで行ったウエブアンケートで、鶴委員ですとか大竹委員もおかかわり合いになったものでございますけれども、グラフの下のほうに「※」印で質問した項目が書いてあります。不当解雇に対して、職場復帰を求めずに金銭補償での解決を求めるならば、最低限幾らくらい必要ですかということを聞いたものでございまして、右側のほうにいけばいくほど勤続年数が長くなるのですが、それに応じて求める月数も高くなっていく。勤続年数20年以上ですと17カ月分ということでございます。

 以上が、金銭にかかわる資料でございました。

 次に、時間的予見可能性に関する資料なのですけれども、41ページをお開きいただければと思います。これも今までの検討会で何度か御紹介してきた話でございますが、労働局のあっせんにつきましては2カ月以内でほぼ全部が終わっている。労働審判につきましては6カ月以内でほぼ全部、和解につきましては6カ月を超えるようなケースも多々あるということでございます。

 次の42ページでございます。42ページは、左側が労働審判の平均審理期間です。先ほど6カ月以内でほぼ全部というふうに申し上げましたけれども、平均で見ますと79.5日ということで、2カ月半くらいで終わっているというのが実情でございます。

 それに対しまして、右側です。これは労働事件の裁判にかかっている月数でございますけれども、14.3カ月ということになってございます。

 次のページをお開きいただきますと、次の43ページは2つありまして、上段は事件が発生してから労働審判手続に申し立てがなされるまでどれぐらいの期間を要したかというものでございまして、労使双方ともに3カ月ということが多くなってございます。

 その下は、労働事件の裁判と一般の裁判についてかかっている月数を比べたものでございまして、労働事件につきましては左側ですけれども、先ほど御紹介したように14.3カ月、それに対しまして一般の裁判の場合には右側の8.5カ月、これが全体の平均となっておりまして、労働事件については時間がかかるというような特徴が見受けられるかと存じます。

 次の44ページは、それぞれの紛争解決システムにおきまして処理の目標期間の設定があるのかどうかというのが真ん中の欄、そして右側の欄は事案が発生してから申し立てまでに消滅時効等の一定の期間の定めがあるかどうか。そういった関係をまとめたものでございます。

 一番上の労働局のあっせんにつきましては、法令上は明確になっていないんですけれども、運用上2カ月以内に原則として処理するというようなことがなされております。それで、申し立てまでに要する期間についての定めは特段ないのですけれども、「※」印に書いてございますように、余りにも古いような事案につきましては実態として処理しないというような運用になっております。

 次の「労働審判」や「和解」についてですけれども、「労働審判」につきましては労働審判法第15条第2項に基づきまして3回以内の期日で処理するというようなルールになってございます。それで、申し立てまでに要する期間につきましては地位確認訴訟と同様ということなので、その2段下の「地位確認訴訟」の同じ覧をごらんいただきますと、地位確認につきましては消滅時効に関する規定はございません。

 ただ、先ほど申し上げましたように、未払い賃金についての請求訴訟があわせて行われている場合には、労働基準法第115条に規定されます賃金債権についての消滅時効が適用されますので2年ということになってございます。

 それで、その左側でございますけれども、これは地位確認訴訟にしても、不法行為に基づく請求訴訟にしても同じなのですが、裁判の迅速化に関する法律によりまして2年以内に処理するということになってございます。

 最後の不法行為に関しては、3年の消滅時効の規定があるということでございます。

 次の45ページは今、申し上げたような各ルールにつきましてそれぞれ規定を列挙していますけれども、下のほうの消滅時効についてちょっとごらんいただきますと、民法上、一般の債権につきましては10年の消滅時効となっておりますし、財産権につきましては20年となってございます。不法行為に基づく損害賠償請求権は先ほど申し上げたように3年となっておりますし、賃金請求権については2年、そして退職手当の請求については5年、雇用保険関係については2年といったような消滅時効の定めがございます。

 その次の46ページは、これらの規定についての根拠規定などを示したものでございまして、最後の47ページは諸外国の例でございます。こちらの47ページの表では、事案が発生してから紛争、申し立てまでに一定の期間を要する定めがあるかどうかということをまとめたものでございまして、例えば一番上のイギリスにつきましては解雇後から3カ月以内という定めがございますし、その下のドイツの場合にはもうちょっと早くて、地位確認の場合には解雇通知の到達から3週間以内となってございます。また、フランスにつきましては2年間の消滅時効があるといったように、国によってさまざまなこうしたルールの定めがあるようでございます。

 以上が、ファクトに関する資料No.2でございまして、これに基づきまして資料No.3の具体的な検討項目について御議論いただければと思います。

 資料No.3の1ページ目については、従来お示ししたものと同じでございますので説明は割愛いたしまして、2ページ目の上3分の2くらいは前回、前々回にお示ししたものと同じでございます。新規につけ加えたのは、一番下の「金銭的・時間的予見可能性を高めるための方策の在り方」の部分でございます。

 (1)の「金銭的予見可能性について」ですけれども、まず金銭につきましては金銭の性質論を御議論いただければと思っておりまして、この場合において4つの点の関係に御留意いただく必要があるかと考えています。

 1つ目が、これまでの検討会でも何度か御議論になりました、いわゆるバックペイとの関係についてでございます。

 2つ目が、現行の労働審判や民事訴訟法上の和解等における解決金との関係。

 3つ目が、損害賠償請求のお金との関係。

 4つ目が、民間の早期退職優遇制度ですとか、希望退職制度等との関係。

 これらについて金銭の性質論を議論する際に参考、あるいは整理が必要な項目であるかと考えております。

 それで、2ページ目の「・」がついている金銭の水準についてもあわせて御議論いただければと思っておりますが、「※」印に書いてございますように、先ほど資料2でごらんいただきました欧州諸国の例に鑑みますと、3つの点が議論としてあり得るかと思っております。

 1つ目は算定の基礎となる考慮要素を明示する方法、これはイギリス等で見られたものでございます。

 2つ目は、金銭補償額の限度枠として上限ないし下限を設定するのかどうかということで、上限ないし下限を設定している国としては先ほどの資料で申し上げますとドイツとかフランスとかイギリスなどでございました。

 あとは、金銭の算定式を明示する方法といたしましてドイツなどの例がございましたけれども、こういったものを導入することがあり得るのかどうか。それも、あわせて御議論いただくのかなと考えております。

 次の(2)の「時間的予見可能性について」ですけれども、時間的予見可能性につきましては先ほど資料No.2に基づきまして労働審判、あるいは労働局のあっせんなどにおきます目標期間の設定ですとか、あるいは事件が発生してからそういった紛争処理までに申し立てるべき期間の定めを置いているのかどうかといったような例などを御紹介していましたけれども、それらを勘案しまして、その時間的予見可能性を高めるためにはどういう方策が考えられるかということを御議論いただくのかなと考えております。

 説明は、以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。非常にたくさんの資料をお示しいただきましたけれども、今も言及がありましたように、この金銭の性質をどう考えるかというのがいろいろな議論の出発点になろうかと考えておりますので、まずこの金銭の性質から議論いただければと考えておりますが、まずは質問等があればお願いしたいと思います。

 では、土田委員どうぞ。

○土田委員 質問でなくても、意見でもいいですか。

○荒木座長 意見でも結構です。

○土田委員 金銭的予見可能性のほうについて若干論点提起も含めてお話をしたいのですけれども、前回この法的性質についてはバックペイとしての性格を認めるべきではないかというふうに申し上げたのですが、あれからいろいろ考えまして、むしろ先ほどの例3のような制度設計で考えた場合には、これは地位確認とは別途の実体法上の権利を認めるということになるわけですので、バックペイとは性質が異なるものと考えるほうがむしろ妥当ではないか。

 ただし、バックペイの分は中身として考慮せざるを得ないだろうという気がします。一体、法的性質というのはどう考えるかというのと、これは前回も言いましたが、労働契約を解消することの代償という性格づけはできるだろうと思います。

 これはドイツなどもそうなんですが、実際に先ほど資料No.2の35ページのフランスなどもそうですけれども、労働関係を解消することの代償と言いながら、実質的にはそのバックペイを考慮しているわけです。

 労働契約を解消することの代償と一言で言っても、これは大変抽象的なので、1つ考えられるのはやはりバックペイに相当する部分が中身としては入らざるを得ないのではないか。

 それから、外国法を参考にしますと、労働関係を解消することの代償としては今のバックペイを含めた経済的損失の補填という性格が入るでしょうし、それから精神的な損害に対する補填というものが含まれるであろう。

 それと、解雇の無効あるいは合理的理由と社会的通念上の相当性がないということを前提にすると、そうした解雇を強行した使用者に対するサンクションという性格づけも含まれてくるのではないかという気がします。

 バックペイというところに固執すると非常に複雑な問題がいろいろ出てきますので、むしろ制度設計、あるいは法的性質論としては労働契約を解消することの代償ということにして、そしてその中に幾つかの要素を含めるという考え方ができるのではないか。

 そうすると考慮予想が問題になるわけですが、今の点からいいますと1つはバックペイですね。それから、当然ながら年齢、勤続年数といった属人的な要素が入ってくるだろう。バックペイ以外の経済的損失の補填ということを考えますと、例えば配偶者であるとか、扶養家族の有無ということもあるでしょうし、精神的損害の補填ということを考えると慰謝料的なものも入ってくるだろうと思います。

 私は1つ考えていただきたい、議論していただきたいと思うのは、解雇の不当性の程度というものが考慮要素にならないかということでして、先ほど中山委員がおっしゃったように、ほとんど100%近く使用者に非があるという解雇もありますけれども、6・4、7・3もあるわけです。そのようなケースもあるわけですので、解雇の不当性の程度というものを考慮要素に含める必要があるのではないかという気がしています。

 このようにして考慮要素を幾つか整理するということの意味は恐らく2つあって、1つは余り一律に、きょうの資料3でいうと3ページの上のほうにある(2)の直前の算定式明示のようなやり方ではなくて、従来からの個々の事案に沿った柔軟な解決をしつつ、しかしながら、それを例えば裁判官の裁量に委ねる。白紙委任するのではなくて、その判断の要素を明確化する、透明化する。それで、予測可能性を高めるという意味では、今のような法的性質論に立って考慮要素を整理することは有意義であろうと思います。

 その上でもう一点だけ言いますと、3ページの上のほうにある金銭の性質を踏まえつつ、金銭の水準ルールをどうするかということですが、今のような考え方からすると、金銭の算定式の明示というのは論外だということになってきます。

 それで、問題は上限、下限をどうするかということですが、上限を設けなくてもいいという気もするのですけれども、そうなってくるとやはり予測可能性の点で問題がありますので、上限、下限を設けるという選択肢も考えられるであろう。その場合には、先ほどの資料2の9ページにあった労働審判の解決金の水準というものが参考になるだろうと思います。

 ただ、この上限を設けると当然出てくる問題は、そうするとバックペイを下回る可能性が出てきますので、そこのところは悩ましい問題で、そこをどう考えるかというのはひとつあろうかと思います。

 最後に、これも前から言っていますが、こういう法律上の基準とは別に、例えば労使が集団的に合意できた場合にそれを尊重する。その金額を尊重する。言いかえれば、法的補償金額としてはデフォルトにしておくというような考え方もあり得るかと思います。

 一体何が必要な合意かというと、これもいろいろ議論がありますけれども、例えば労働協約ですね。労働組合がある企業では労働協約で合意した場合に、それが裁判所を拘束するというような水準の決め方ということもあり得るかと思っています。

 ほかにもありますが、差し当たり以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 八代委員。

○八代委員 ありがとうございます。事務局から最初にお話しがありましたが、雇用指針という資料を配っていただきました。これは余り知られていないのですが、実は国家戦略特区という法律の中で、いわば企業が新たにできて労働者を雇うときに、雇用契約終了時のコストの予見可能性を明確にしないとなかなか企業が正社員を雇えない。特に、外国企業にとってはそうですね。

 だから、先ほどもヨーロッパの例がありましたが、解雇規制が厳しいイタリアですら、なぜこの解雇の金銭補償ルールをつくったかというと、これがないと外国から直接投資が入ってきてくれないわけです。そこでできたという要素もあるわけで、日本は今、先進国の中では極端に直接投資の内外格差が大きい国で、日本から外国には行くけれども、外国から日本にはほとんど入ってきてくれない。

 その一つの要因が、やはりこの雇用契約の不透明性にあるのではないかということで、ちょうどこの検討会と同じような問題意識でそのルールをつくろうとしたのですが、諸般の事情によってルールができなかった。したがって、厚生労働省と外国企業に強い弁護士さんが集まって、判例等をまとめたという資料でございます。この委員会の議論とも関係するかと思うので配っていただきました。

 それで、今、土田委員がおっしゃった点が大事なわけでして、まさにこういう雇用指針というのは労働協約をつくるための一つの材料になるわけです。この解雇ルールというものは、多分基準法ではなくて労働契約法の改正であって、あくまでも法律はあるけれども、労使が合意すればそれを上回ることは可能であるということです。

 それから、上限、下限を設けるというのは私は当然のことでして、その場合、例えばバックペイを下回る可能性があるということですが、逆に上限を設けないと現在のように解雇無効判決の後、和解交渉になったときに再現なく、例えば労働者側が引き延ばす。そうすると、どんどんバックペイがたまってしまうという危険性を防ぐ目的もあるわけです。

 もちろんこれは逆もあって、使用者側にとって有利な場合もありますが、そのバックペイというのは労使双方のモラルハザードを引き起こす危険性があるというのは考える必要があるのではないか。だから、どこかで時効の中断みたいな考え方をしないと、いずれかに再現なく合意の形成をおくらせるというインセンティブが出てしまう。もちろん、中小企業の労働者の場合はそんなことをしたら生活ができませんけれども、そうでない十分な経済的な支援がある大企業の労働者であれば、そういう引き延ばし作戦というのも考えられないことはないわけです。

 それから、この雇用指針の中でいろいろケースが入っておりますが、使用者のモラルハザードと同様に、労働者のモラルハザードもかなり厳しいものがあります。

 例えば、雇用指針の25ページを見ていただきますと、小野リース事件というものがあります。最高裁判決が出ているのですが、なぜ企業がアル中の重役をやめさせたらどうのという問題が最高裁までいったか。これは、実は地裁と高裁でいずれもアル中の労働者がいたとしても、しかも普通の労働者ではない取締りクラスなのですが、解雇してはいけない。アル中をやめさせるのは企業の責任だというような判決が出た。この企業が頑張って最高裁までいって、ようやく解雇有効の判決を勝ち取ったわけです。こういう極端な例もあるわけですので、労使双方にモラルハザードがある。だからこそ、きちんとしたルールをつくる必要があるという一つの証拠ではないかと思います。

○荒木座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。

 水口委員。

○水口委員 導入の是非ではなくて法律論点についてです。土田先生がおっしゃった解決金制度が入った場合の解決金の性質ということですが、その性質を考えた場合、土田先生より代償金、それから制裁的な意味や経済的補償の意味もあるし、慰謝料的な意味もあるというような御指摘がありました。そのご指摘はそのとおりかとは思うのですが、代償については2つに分けなければいけないと思います。

 1つは、解雇が無効の場合を念頭に置けば、解雇が無効ですから判決になればバックペイは命じられるわけですね。その間の給料は払われていないわけですから、それを補償するというのは代償金というよりは現実に奪われた経済的補償を回復するという意味を持ちます。それからもう1つは、解雇無効ですから、狭い意味での代償金というのは、本来は将来に渡って働くことができたにもかかわらず退職するということになるので、将来働けたということに対する代償金、こちらが本当の意味での代償金なのだろうと思います。

 その意味では、解決金を考えるとき、536条2項の解釈については先ほど申し上げたとおりですけれども、仮にこういう解決金ができたとしても、現実に解雇するのは使用者のほうですから、判決あるいは裁判所の心証で無効になった場合に、そこで奪われた給料、すなわちバックペイが経済的に回復されないということは、私はあり得ないのではないかと思っています。雇用契約を労働者の意向で解消するにしても、将来勤められたものについて奪われ、それを放棄するわけですから、その代償金としても支払うべきです。

 したがって、金銭的予見可能性の観点から、バックペイについては当然予見可能性があるわけですね。何年すればいくらか、何カ月ならばいくらだというふうに明確なわけですから、予見可能性ということになれば、将来勤められた地位を解消するという代償金の金額の基準と本来考えるべきだろうと思っています。

 それで、もう一つ違う観点から申し上げると、バックペイを解決金に含めなかったらどういうことになるかということです。先ほど申し上げた訴訟物との関係があります。モラルの関係もあるかもしれませんけれども、一番経済的補償を取る方法は何かと考えれば、まず地位確認訴訟を提起して地位確認訴訟で勝つことです。この場合にはバックペイが取れます。そして、地位確認訴訟で勝ってから、改めて解雇の金銭解決補償請求権を行使する。こういう行動パターンが想定されます。

 全部が全部そうなるとは思いませんけれども、こうした行動パターンを取ったほうが一番経済的補償をとれるということになります。裁判やルールをつくってしまえば、そのルールに基づいて動いていくというのが人間の性だと思います。

 フランスのことが先ほど説明された資料の35ページに載っていまして、この検討会でフランスの制度について、JILPTの研究者から報告を受けたことを思い出します。フランスは、不当解雇補償金請求権であり、いわゆる濫用的解雇だけではなくて、差別的解雇の場合でも不当解雇補償金請求権があります。フランスの場合には、差別的解雇の場合には復職を求める権利もあるし、不当解雇補償金を求める権利があります。

 フランスの場合、どうだったでしょうか。結果的に12カ月から18カ月分の不当解雇補償金はありますけれども、その結果がどうかは別として、事実としては調停がほとんど成立しなかったのです。調停成立率は極めて低く、裁判を提起し、その解決までは長いところは2年かかるようなことになっているというのがフランスの現状だという報告がありました。私が先ほど申したように、この制度を導入し、もしバックペイを解決金に入れなければ、経済的補償の観点のみ合理的に考えれば、地位確認訴訟を提起し、それで勝ってから解雇の金銭解決請求権を行使することもあり得る話になってくるわけです。

 ですから、この前、土田先生がおっしゃったように、仮に不当解雇補償金において、バックペイは考慮要素ではなく、バックペイを払った上で将来の雇用契約を解消するのであれば、その代償金は二つに分けて考えないと理屈が通らないかと思います。もしバックペイなしの制度をつくった場合には先ほど申したように訴訟の在り方や、労働者側が訴訟をどのように利用するかについての行動パターンに大きな影響を与えかねません。

 最後に、八代先生のご発言に対して、労働者は訴訟を引き延ばすことはしていません。労働者は、一審判決で復職ができるという制度が日本にあれば、それに基づき復職するわけです。これに対して、会社側が一審判決で負けても高裁に控訴します。その場合に就労請求権があれば、労働者は復職できるわけです。この検討会の冒頭で申し上げましたけれども、日本では就労請求権が認められていないがゆえに、労働者は解雇の金銭解決に応ぜざるを得ないというのが、現状です。一審判決が出て勝訴したら就労請求というのを認める、または、少なくとも判決が確定すれば就労請求権を認めるという制度についても論じないと、制度全体のバランスを失しているのではないか。やや余計なことでしたけれども、以上です。

○八代委員 ちょっと質問をいいですか。

○荒木座長 八代委員、どうぞ。

○八代委員 その場合の就労請求権ですが、例えば労働者が著しく能力が不足したと会社からみなされたときに、会社側がそのかわり和解で補償金を払いましょうといった場合、労働者が応じる場合も多いわけですね。あるいは、労働者もそんな会社にはいたくないから補償金が欲しい。

 問題は、そこの和解というのは別に企業だけではなくて労働者も望んでいる場合も多いのではないかというのが1つで、一方的に職場に復帰すれば労働者の幸せかどうか。さっきもありましたが、むしろそれによっていじめられる危険性もあるというケースも聞きましたけれども、それが第1点です。

 それから、先ほど言われた将来の賃金の補償権ということなのですが、これはほかに全く働き場所がないのならばともかく、今後の労働力不足時代に一定のスキルがあればほかの企業でも働けるときに、定年退職までの一種の就労請求権を前提として、その金額をバックペイの逆ですね。将来の金額を請求する権利までがあるとしたら、むしろ自発的失業を促進することにならないだろうかと懸念しますが、それはいかがなものなのでしょうか。

○荒木座長 水口委員。

○水口委員 八代先生の1点目の御質問ですけれども、私は労働者と使用者側との話し合いでそういう形になれば、それはいいだろうと思います。ただし、今、問題になっているのは労働者が戻りたいと思っても使用者側がお金を積めば解消できるという制度についてですから、その問題点に限って申し上げました。

 2点目については、労働者は将来の定年まで取得するであろう給与全てということは念頭に置いていませんし、実際に和解においてもそこまでは言わないです。定年まで残り2年というケースであれば別ですけれども、定年が10年、20年後ということになればそのような議論にはなりません。その際には、その方の年齢や業種、転職可能性、転職に必要な期間など、さまざまなことを考慮しながら、和解においてまとまっているというのが実態だろうと思いますので、私も定年まで全ての金額を払うというようなことを想定をして発言しているわけではありません。

 さらに、日本では中高年とひとくくりにしましても、実際に何歳かによっても全然違ってきます。これが45歳、55歳、35歳とでは全然就職の状況が違いますし、八代先生がおっしゃっている雇用流動化の善し悪しは別として、そのような土壌がない以上、現在の日本の土壌に合った制度を考えていくべきではないかと私は思っているところです。

○荒木座長 山川委員。

○山川委員 いろいろな議論で、もし実体法上の金銭補償請求権を設ける場合に、その性質というか、あるいは理由が重要になるかと思います。先ほど土田委員がおっしゃられたような形が1つ考えられるかと思います。将来にわたっての雇用機会、それはどこまでかというのもまた別の問題で、例えば不法行為に基づく損害賠償請求でも3カ月とか6カ月とか、数カ月くらいの損害を認めるにとどめる裁判例が多いので、定年までという損害賠償を認めた例は当然ないと思いますけれども、それとバックペイをどういう関係にするかというのも別の論点です。

 ただ、もし切り分けるとしたら、バックペイの場合はいわゆる就労の意思が失われた時点で消える。使用者の帰責事由に基づく履行不能でなくなるということです。他方でもし金銭補償請求権を将来の雇用機会の放棄ないし解消の代償と捉えれば、それは就労の意思がなくなった後の話なので、一応時期的な切り分けはできるのではないかという感じがします。

 つまり、就労の意思をどう考えるかということはありますけれども、使用者の責に帰すべき事由によって働けなくなったと言える場合で、つまり就労の意思はあるけれどもというような場合についてはバックペイですが、しかし、いわば就労の意思がないということを前提にした金銭請求をするということは、そこから後ですね。そこからというのは、雇用関係がもし金銭が支払われて解消されるとしたらその後ということになって、時期的な区分は若干微妙な部分があるかもしれませんけれども、こういうふうな切り分けはあり得るかと思います。

 そうすると、先ほど水口委員のおっしゃったような、もし金銭補償の請求を訴訟で考えた場合に、労働者は復職の意思があるんだというようなことが立証できた場合には一種の抗弁になるのかなと、全部抗弁か一部抗弁かはわかりませんけれども、つまり無効な解雇を前提にして就労の機会、あるいは雇用の機会を放棄したことの金銭補償と考えれば、放棄はしていないという意味で復職の意思があるということは、使用者側の反論として考えられるのではないかと思います。

 あとは、地位確認との関係ですが、地位確認訴訟を起こすというのはそもそもやはり復職の意思があるというか、雇用機会を放棄していないということではないかと思いますので、訴訟物とか規範力との関係は別に、やはりこれは補償金の性格をどう考えるかということによって変わってくる問題ではないかと思います。

 つまり、バックペイについては時間的な切り分けをどうするかという問題は残りますけれどもあり得る。しかし、地位確認を求めつつ補償金も求めるというのは、補償金の支払いを命ずる判決が出た時点においては、もう戻る意思がないということになりますと確認の利益のほうが失われるから、地位確認のほうは出せない。仮に訴えの提起をしたとしても、あるいは実体法上の要件を欠くということかもしれません。

 これは請求権の性質をどう考えるかということにもかかわっていて、形成権という考え方と、あとは法定の請求権というような考え方ももしかしたらあるかもしれない。それで、復職の意思がある、ないしは雇用機会を放棄していないということがあれば、その請求権を消滅ないし減縮させる事由として実体法上の位置づけが可能になるということかもしれません。

 もう一つの課題は話が細かくなりますけれども、解雇の撤回の問題については、もし実体法上の権利として仕組むとすると、16条違反が前提となっているので、徳住先生が言われたように解雇は無効で契約は存続しているという前提になりますから、撤回すべき解雇の意思表示については、意思表示はあるのですけれども撤回する意味がないので、受領拒絶を解消する意思表示だというふうに読みかえることになって、受領拒絶の撤回が十分なものであればその時点でバックペイは消えますけれども、補償請求についてどうするかというのはまた議論になるかと思います。かなりテクニカルな話で、申しわけありません。

○荒木座長 ありがとうございました。

 垣内委員、どうぞ。

○垣内委員 今の山川先生の御指摘に関係いたしまして、最終的には山川先生も御指摘のように、この金銭請求権の性質をどう理解するかということにかかるものかと思いますけれども、1点、就労意思との関係で、労働者が金銭の請求の意思表示をしたことがどのように評価されるのかということについては、今の山川先生のお話のように金銭的解決を求めた以上はもはや就労の意思が確定的にないと理解するというのが一つの考え方かと思われます。

 その他の考え方としまして、これは請求権、労働契約終了の効果がいつ発生するかということに関係しますけれども、あくまでこれは実際に金銭が支払われたときに終了するのだという制度だったといたしますと、その場合には払われれば終了するのでその時点からはもちろん就労意思はなくなるが、払われるまでの範囲では労働契約は存続しているという前提であるので、地位確認の利益もあるし、就労の意思もその限度ではあるという、一種の条件つきの就労意思がなくなるということでしょうか。そういう考え方も、絶対にあり得ないとまでは言えないのかなという気もしております。

 そのあたりが、まさにこの請求権の趣旨、性質をどう理解するかというところに関連して、なお問題となり得るのかなという印象を持っております。

○荒木座長 山川委員。

○山川委員 さすがにといいますか、非常に適切な御指摘ありがとうございます。私の先ほど申し上げた雇用機会の放棄というのも、支払われれば放棄する。契約の終了は支払われた時点ですから、そういうものになるかと思います。

 そうすると、一審判決を考えてみると、これこれを支払えというもので、支払った段階で実体法上、雇用契約は終了する。それとバックペイの支払いの判決、これは問題なく出せるのですが、地位確認判決も支払うまでは就労の意思があるというふうな認定がもしできるのであれば、確かに出せそうな気もします。それが紛争解決としてどのくらい有効かという実際上の問題があるかもしれませんが、御指摘のとおりかと思います。ありがとうございます。

○荒木座長 徳住委員。

○徳住委員 先ほどから議論がありますように、金銭の法的性格をどう見るかというのは大変重要な問題であり、その際想定する金額をどれくらいのものと見るかということに関しては、私はこの制度を使用者側が容認するか、労働側が容認するかの大きな要素になってくる可能性が十分あると思います。

 前回、一定の金銭の枠を決めること、すなわち上限、下限の問題ですけれども、その範囲内で請求するということに関して、「労働者が1年もかけて戦うのか。そのような労働者はいるのか」という旨の発言したのですけれども、土田先生から、それはバックペイを含むとのご発言がありましたので、そのような制度があるのかと思ったところです。現在の裁判所の傾向としては、労務提供の意欲があるかないかという点を結構厳格に見る判例が増えてきています。労務提供の意欲がないと判断された場合には、その時点で地位確認請求は認めるけれども、バックペイは切ってしまうという判決さえ出るような状況になってきているなか、私は地位確認請求があるのに金銭請求すると、先ほどから出ているようにその時点で労務提供の意欲がないとみなされる可能性があり、問題ではないかと考えています。

 それで、前回の検討会後に土田先生と少し議論したときに、その場合は法律的にバックペイを含む立法をすればよいではないかということをおっしゃったのですけれども、解雇無効のときは、使用者の責めに帰すべき事由により労務提供を履行できないことから、民法536条2項に基づきバックペイが認められており、判例法上確立した法理です。536条2項をそのまま立法ができるかということは考えどころではないでしょうか。

 先ほどからの議論もこの点に関連してきていて、特にフランスではこの一定の金銭補償と言いながらバックペイを含むと解釈しているのです。ここに何かヒントがあるのか、ないのか分かりませんが、私は、金銭にバックペイが含まれないようであれば、基本的にはこの金銭解決制度は労働側も受け入れられないのではないかという立場で考えているので、この論点は考えどころではないかと思っています。

 もう一点、関連して上限についてです。フランスは上限を決めていませんし、ドイツは上限を決めていますけれども、ドイツでは結果的に解消判決制度は利用されていない実態にあります。私はその点にも絡んでくると思うのですけれども、上限を決めてしまうと使用者側もそこでそれだけ払えばいいと考えます。先ほど事務局から報告がありましたけれども、特別退職金制度は一定の企業規模以上のところでは、1年分、2年分、3年分払うわけですよね、それぐらいの金額を支払って、労働者にやめてもらいたいということを提案する企業が結構多いわけです。

 こうした実情からいうと、上限を決めてしまうと、使用者側としては解雇してでもそれぐらい払えばよいのかというモチベーションが生じ、不当な解雇を誘発する可能性もあります。また、私が使用者側であれば、労働者側が金銭請求をしたら即座に認諾して、バックペイを全部遮断した上で、上限内の一定の金額だけで処理してしまうということを実行すると思いますので、その辺りも含めて、制度設計をきちんとしていただきたいと私は思います。

○荒木座長 よろしいですか。

 では、鶴委員。

○鶴委員 ありがとうございます。金銭的・時間的予見可能性の議論ということで、多分これまでここまでの議論を過去の研究会というのはやったことはなくて、ここまでたどり着いているというのは大変意義深いというふうに私も認識をしております。

 それで、これまでの議論を聞いていて、バックペイをどう扱うのかというのは非常に重要な議論だと思います。

 ただ、確かに新しい制度をつくって金銭の性質とか水準をどうするかという議論の場合、当然、労働者側も使用者側もこれまである既存の制度、それからまた新しい制度をつくったときに、結果的にどれくらい前よりも取れなくなってしまうのか、それとも取られてしまうのか。そこをいろいろ考えながら議論をしていかなければいけない。私は、それは本当に当然だと思うのですね。

 ただ、ここの今回大きな表題がついている金銭的・時間的予見可能性を高める。まさにそこをどういうふうにするのか。労働審判とか、和解とか、いろいろこれまで我々も議論を重ねてきた中で、そこにまさに従事しているプロの方々の頭の中にはどうもそれなりの目安みたいなものがある。そういうことを我々も学んだわけですけれども、実際にそういう当事者になったような労働者の方々の中にそういうものがあるのかというと、必ずしもそうではない。

 そうなると、金銭的・時間的予見可能性をどうやって高めればいいのか、高めていくことができるのか。そのために、どういう制度設計をするのかというところのしっかり議論を、私はトレードオフの部分というのはいろいろあると思うのですけれども、それをやらざるを得なくて、裁判官でもいいのですけれども、全て裁量ということで何も枠はないと予見可能性というのはどうしても高まらない。

 ここに書いてある上限、下限とか、算定式とか、いろいろな欧州の例があって、私は日本は日本流のやり方できちんと考えるべきだと思うのですけれども、どういう要因を考えるのかとか、どういう理屈をイメージ的に考えるのかということがある程度明確にならないと、その予見可能性というのは高まることはない。だから、議論の中でしっかりそこを我々も考えていかないと、この先の議論というのはなかなかついていかないと思います。

 それともう一点、この後になると思いますけれども、時間的予見可能性という話をするときは、非常に長い時間がかかるということが予見できることをここでは言っている話ではないと私は思うんですね。当然、短くなることが予見できる。ここをしっかり考えてやらないと非常に議論がおかしくなって、私はバックペイの話はそこに非常にかかわってくると思っていますので、時間的予見可能性についてはまたこの後の議論だと思いますけれども、それは非常に関わっているという認識を持っています。以上です。

○荒木座長 先ほど土田委員と中山委員から手が挙がっていましたので、では続けて中山委員どうぞ。

○中山委員 金銭の予測可能性で先ほど来バックペイの問題が出ていて、労働契約解消の補償金、あるいは代償金としてバックペイは当然入るべきではないかという御意見がありました。補償金の実際の支払い時に契約がその時点で消滅するのだと言えば、確かにバックペイが出てきますよね。

 ですけれども、そういうたてつけにするとどうなるかというと、例えば一審で金銭解決の判決が出たといっても、当事者が控訴した。そうすると、控訴審判決までの間のバックペイ分は追加されますし、それから、上告して判決が確定したところでさらに追加となる。それの期間というのは、どちらが控訴するかもわかりませんから非常に不透明です。例えば、労働者が、一審判決の金額が安いと言って控訴する場合もあるわけです。

 それから、現在出訴期間がないわけですから、解雇されて1年とか2年後に金銭請求しましたといった場合、まず1年とか2年間のバックペイが乗っかるわけですからとても予測可能性は困難となる。私はバックペイ自体を、補償金に入れるのは不適だと思います。つまり、このバックペイの問題というのは金銭解決の判決がなされたときに契約解消がどこまでさかのぼるのかという話ですから、それは解雇のところまでさかのぼるという考え方もあります。 その上で補償金をどれくらいにするかというときに、この事案のバックペイの要素を考慮するという考慮要素として、裁判所が柔軟に考える。考慮要素にすればいいわけです。それ以上にバックペイそれ自体を補償金の中に計算して入れなくてはいけないとなると予測可能性もないし、結果的に金額的にもとても制度として維持できるような内容にならないと思います。バックペイありきの補償金に反対です。

○荒木座長 土田委員。

○土田委員 これはなかなか結論が出ない問題だと思うのですけれども、今すごくいい議論になっていると思うのですが、まずそもそも私が最初に労働契約解消の代償と言ったことの意味は何か。これは結構大きな問題で、一体これは何なのかということを詰めなければいけないと思うんです。

 それで、水口委員がおっしゃったように、厳密な意味での、あるいは狭い意味での、本来の意味であれば、本来労働契約を継続できたのに、できなかったということの代償ですから、そうすると将来見合いになってきて、きょうの資料でいったら早期退職割増金額などというのも考慮要素に入ってくるかもしれない。

 一方で、しかしながら、そのバックペイというものをどう位置づけるかということを考えてくると、それは必須の要素というか、バックペイは当然入るべきだという議論は一方にあって、他方で今、中山委員が言われたように、むしろそれは考慮要素にするべきなのだという議論と両方あると思うんです。

 ですから、これは相当大きな議論でして、きょうはとても時間がないと思いますけれども、ともかくそこは論点にしてきちんと議論しておく必要があるだろうという気がします。

○荒木座長 長谷川委員。

○長谷川委員 前回と本日の検討会において、重要な論点が多数提起されているので、少し整理して議論しないと難しいのではないかと思っています。

 前回、いつの時点を指して、労働契約の終了と言うのかということを質問しました。労働契約の終了はどの時点で終了するのか、それからバックペイの問題をどのように扱うのか、労働者の意思表示の撤回についてはどのように捉えるのかという重要な論点があります。

 それから、もし新しい法律をつくるとなれば、法律の要件だとか効果というものをどういうふうに考えるのかということも問題となってきます。これまで事務局から出されている資料は、ポイント毎に議論しやすいようにラフに書かれていますけれども、もう少しきちんと議論できるような理論だった文章化したものがないとさらなる議論はできないのではないかと思います。これが1つです。

 もう一つは、先ほど土田先生と八代先生がおっしゃったのですけれども、解雇事件を紛争機関で扱っているものから見ると、いつまでもバックペイが欲しくて延ばしている労働者はいません。労働者は、まず解雇されたときにびっくりしてしまうわけです。「解雇されたどうしよう、どうしよう、生活をどうしよう」と、とにかく解雇を撤回してほしいという気持ちがあって、しかし、解雇が撤回されない場合に、解決手段として労働審判や訴訟を提起することになると思います。

 多くの労働者は、そんなに沢山蓄えがあるわけではなく、早く生活費が欲しいので、生活のために何とかして仕事を探そうとする。これが、労働者の気持ちだと思うのですね。だから、バックペイがほしくて訴訟を引き延ばす労働者はほとんどいないのではないかと思います。それと、ここでは日本の話をしていますので、日本的雇用を考えてみますと、日本の国民や労働者というのは、きちんと働いて自分の生活費を得て、それで家族が幸せに暮らしたいと思っています。その意味では長期にわたる失業状態ですとか、長期にわたる紛争状態は精神的にも疲弊します。その状態からは、一刻も早く解決したいと考えているのではないかと思います。このような観点からも、バックペイがあるから紛争が長引くというのは、違うのではないかと考えます。

 最後に、鶴先生がおっしゃったように、この間様々な議論がされてきました。関係者それぞれが、前向きに、そして非常に真摯に議論をしてきましたので、さらに議論を深めていくとすれば、きちんと論点を整理しながら議論をしたほうがいいのではないかと思います。以上です。

○荒木座長 先ほど山川委員から手が挙がっていましたので、山川委員どうぞ。

○山川委員 簡単な点で、1点だけです。整理といいますか、バックペイとこの補償金と言われるものは、理屈の上では区別をしたほうがいろいろわかりやすいかと思うのですけれども、ただ、その金額を考えるときは先ほど中山委員の言われたことは重要かと思います。

 要するに、実体法上の仕組みとして一体いつ契約が終了したこととするか。支払われたときということもありますし、そもそもそういう請求をすること自体で将来働く意思を放棄していると考えれば別の構成もあり得るかもしれないので、切り分けをどの時点でするかは、いつ契約を終了させるかとかかわるかと思います。以上です。

○荒木座長 村上委員。

○村上委員 本日、金銭的・時間的予見可能性ということで資料も出していただいて、議論していましたことに関し、2点ございます。

 1点は、先ほど鶴委員から金銭的予見可能性について、それをいかに高めていくことが必要かといった御意見だったかと思います。以前の検討会でも、金銭的予見可能性については必ずしも労働者側には高めてほしいというニーズはないのではないかということを申し上げました。解雇されて初めて紛争処理をすることになりますが、紛争処理機関に駆け込んでいったときに、どのくらいの期間であれば、どの程度の時間で、どの程度のことが解決できるのかがわかることは必要ですけれども、必ずしも解雇されたら幾らの補償金なり何なりがあるのかということをあらかじめ知っておきたいということに対するニーズはないのではないでしょうか。後者に対するニーズは使用者側にあるのかもしれませんけれども、労働者側にはないのではないかと考えています。

 それから、時間的予見可能性についてはおそらく次回の議論になるのかもしれませんが、本日1点だけ申し上げると、本日の資料2「検討事項に係る参考資料」の最後のページに諸外国における仕組みの中で出訴期間の制限についての資料が出されております。こういった資料を出されたということは、もしかしたら出訴期間制限についても考えるべきということなのかもしれませんけれども、それはややバランスを欠いた議論ではないかと思っております。諸外国では使用者に対する様々な解雇制限もあり、労働者の権利を制限する出訴期間制限のみを議論するのでは、バランスを欠くところであり、両者のバランスがなければ出訴期間の制限ということの議論はあり得ないのではないかと考えています。以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 時間になりましたので、本日は以上としたいと思います。きょうはまだ議論が収束したわけではありませんで、重要な論点の指摘もございましたので、本日いただいた御意見を

踏まえて、次回はさらに議論を深めるための資料を事務局に用意いただいて開催するということにしたいと思います。

 では、次回の日程について事務局からお願いします。

○大塚調査官 次回、第15回の日程につきましては現在調整中でございますので、確定次第、開催場所とともに御連絡差し上げます。以上です。

○荒木座長 それでは、本日は以上といたします。どうもありがとうございました。


(了)

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 労働基準局が実施する検討会等> 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会> 第14回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会(2017年3月17日)

ページの先頭へ戻る