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2019年3月6日 第3回毎月勤労統計の「共通事業所」の賃金の実質化をめぐる論点に係る検討会 議事録

政策統括官付参事官付雇用・賃金福祉統計室
政策統括官付参事官付統計企画調整室

○日時

平成31年3月6(水)10:00~12:00

 

○場所

中央労働委員会7階 講堂
(東京都港区芝公園1-5-32 労働委員会会館)

○出席者

構成員(五十音順、敬称略、○:座長)

  石原 真三子
  稲葉 由之
○ 今野 浩一郎
  神林 龍
  樋田 勉
  山田 久

構成員以外の有識者

  明石 順平(弁護士)
  阿部 修人(一橋大学経済研究所教授)

事務局

  吉永審議官
  瀧原統計管理官
  細井統計企画調整官
  田中審査解析官
  村木雇用・賃金福祉統計室長補佐

○議題

(1)有識者からのヒアリング
(2)その他

○議事

 
○細井統計企画調整官
 それでは、皆様おそろいのようですので、ただいまより、第3回毎月勤労統計の「共通事業所」の賃金の実質化をめぐる論点に係る検討会を開催いたします。
 構成員の皆様にはお忙しいところ、御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。
 本日の出席状況でございますが、野口構成員から御欠席の御連絡をいただいているところでございます。早速ですが、以下の進行については、座長にお願いをいたします。よろしくお願いいたします。

○今野座長
 それでは、お手元に議事次第がございますので、それに沿って進めたいと思います。
 本日は有識者からのヒアリングをしたいと思っております。
 本日、お二人の有識者をお招きしておりますので、それぞれお話を20分ぐらいいただいて、議論を30分ぐらいできればと思っております。
 まず、弁護士の明石順平さんからお話をいただきたいと思います。
 よろしくお願いします。

○明石弁護士
 おはようございます。
 弁護士の明石と申します。よろしくお願いいたします。
 私のほうからは、資料1「毎月勤労統計の賃金について」という資料がございますけれども、これに基づいてお話しさせていただきます。
 この資料は、この前、衆議院の予算委員会で公述人として呼ばれたときの資料をちょっとアレンジしたもので、内容はほとんど同じものです。
 資料の2ページ目をご覧ください。まず、前提としてどういう状況になっているのかという説明を申し上げたいと思います。2018年1月に、毎月勤労統計調査における賃金の算出方法が変更されまして、賃金が大きくかさ上げされることになりました。要因は下記の3つがあります。
 1番目が、サンプルを一部入れ替えた。2番目がベンチマーク更新。これはいつも賃金を算出する際に使う係数のようなものだと説明しているのですが、このベンチマークが新しいものになりました。3番目が復元処理。これは東京都における500人以上の事業所について3分の1しか抽出していなかったため、それを3倍して復元した。この3つの処理が入った。わかりやすく言うために、こういう例えをいつも言っているのですけれども、1番目はちょっと背の高い別人に入れ替えて、2番目はシークレットブーツを履かせて、3番目は頭にシリコンを入れたと。これで身長が大きく伸びたように見せかけたということです。3はばれてしまったので、遡って修正したのですが、1と2については遡って修正しなかったため、そのまま2017年と比較するという結果になっています。
 当然賃金がものすごく伸びる結果になっているのですね。左のこの図は、長妻議員が国会で使ったパネルをそのまま引用させていただいているのですけれども、上側が従来の説明です。従来はベンチマーク入れ替えとサンプル入れ替えだけだという説明だったのですが、本当は下のベンチマーク入れ替え、サンプル入れ替え、そして、復元分が入っていたことが後になって分かったということです。
 ついでに申し上げておきますと、従来の説明というこの資料なのですけれども、いまだに毎月勤労統計のページを見ると、この資料がそのまま掲載されているのですね。この前の野党合同ヒアリングで、これを直さないのですかと言って、そのままになっているので、これは直したほうがいいと思います。ついでに申し上げておきます。
 次に3ページをご覧ください。これは公表値における名目賃金の前年比の伸び率の推移を示したものです。2013年から2017年までの5年間で1.4%しか伸びていませんでした。しかし、2018年のわずか1年間で1.4%伸びるという異常な結果になっています。これは先ほど申し上げたとおり、サンプルを一部入れ替えて、ベンチマークも更新したのに、それを遡って改定しなかったからこんなことになってしまったのです。実質賃金については前年比0.2%のプラスになっています。これは算出方法の異なるものを比較した伸び率ですから、端的に言ってうその数字であると思っていますし、そこに書いたとおり、統計法60条2号に該当するような、統計法違反と言っていいような状況にあるのではないかと私としては考えているところであります。
 次のページをご覧ください。今までの賃金の推移はどうなっていたのかということなのですけれども、アベノミクス前との比較がしやすいように、私が2012年を100として計算し直した賃金と物価の推移を見てみたいと思います。別人の身長を比較するような手段を講じても、2018年に消費者物価指数が1.3ポイント伸びていますので、結局実質賃金は0.1ポイントしか伸びませんでした。
 これはアベノミクス以降2014年の消費税増税に加えて、無理やり円安にして、円安インフレを起こしたため、物価が急上昇してしまった。それが名目賃金の伸びを大きく上回った結果、実質賃金が大きく落ちたということです。2018年の実質賃金はアベノミクス前より3.6ポイントも低いという状況が続いています。
 以前は原油価格の下落、2015年頃にどんといきなり落ちたのですけれども、これである程度円安インフレが相殺されていたのですが、2017年頃から原油価格がもとに戻ってきたので、物価が再び上昇傾向になっています。だから、ちょっとずつ上がってきているのですね。
 よく新規労働者がふえて平均値が下がったから実質賃金が下がったという言説を見るのですけれども、これはデマです。平均値の問題であれば、名目賃金、つまり、このグラフで言う青線ですが、これも下がっていかないといけないのですけれども、別に下がっていないので、ただ単に名目賃金の上昇を物価上昇が上回ったから、実質賃金は落ちたということです。非常に悲惨な状況なので、実質賃金はマイナスという結果を出したくないのではないかというふうに私としては考えています。想定が外れたということですね。物価が上がれば恐らく賃金も勝手に上がるだろうと思っていたら、そうでもなかったので、実質賃金が落ちっぱなしになっている。私としては、単純に言って順番が逆だったのではないかと思っています。
 この推移を見ると、いまだに物価上昇率2%、毎年2%ずつ上げていくということが目標になっているのですけれども、2%上がったら確実に実質賃金が落ちるということが、この推移を見て明らかだと私としては思っています。
 次のページをご覧ください。賃金の伸び率について統計委員会が何と言っているかというと、共通事業所同士を比較した参考値を重視せよとはっきり言っているわけです。先ほど言った公表値ではなくて、公表値は1年で1.4%伸びるというものすごいことになっていますから、これは伸び率としては実態を表していないということで、共通事業所同士を比較した参考値を重視せよと言っているわけです。しかし、いまだになぜか実質賃金の伸び率については公表されていない。
 ただ、これは計算をして簡単に出せるのです。名目賃金の伸び率と物価の伸び率が分かれば出せます。実質賃金指数は、名目賃金指数割る消費者物価指数掛ける100です。消費者物価指数は持ち家の帰属家賃を除く総合というものなのですけれども、これで出ます。ここで言っている指数というのは、ある時点での数値を100とした数です。なので、前年同月からの伸び率に100を足すと、前年同月を100とする指数になる。
 そして、名目賃金指数と消費者物価指数の前年同月からの伸び率は公表されておりますので、それぞれの前年同月を100とする指数を算出できます。2つの指数がこれでそろいますので、前年同月を100とする実質賃金指数も算定可能になる。
 このように、前年同月を100とする実質賃金指数を計算することにより、実質賃金伸び率を算定したのが、次のページの表です。この計算表は野党合同ヒアリングでも出したことがありまして、厚労省の屋敷さんもこれを見て、同じような結果が出ると思いますと、ぽろっと言ったので、それが大きく報道されたということがあったのですけれども、こういう結果になるということです。計算方法が違うと言われると嫌なので、こういうちゃんとした表をつくったのですけれども、単純に言って、別に引き算でも出るのですね。名目賃金の伸び率から物価上昇率を引けば同じ数字が出ますので、実質賃金の伸び率はすごく簡単に出せるわけです。
 次のページをご覧ください。参考値の実質賃金伸び率を見てみますと、プラスになったのは去年、たったの2回しかなかった。あとはゼロが1回、マイナスが9回。プラスになったのも、これは6月、12月がボーナス月だからです。このように悲惨な状況なので、公表したくないだけではないかと私は思っています。
 「名目は参考になるが実質は参考にすべきではない」ということはあり得ない。恐らくサンプル数が少ないとか、そういう理由が、公表に反対の立場からはそういう反論が予想されるのですが、どういう反論をしても、それは全部名目の伸び率にも当てはまってしまいますので、名目の伸び率を参考にしろと言っている以上、実質も参考にすべきであるというふうに私としては考えています。公表値の伸び率については、かさ上げされたうその数字なのですから、公表をやめるべきだと考えています。
 ついでに、実質賃金の下落が何をもたらしているかということです。これは実質民間最終消費支出といいまして、実質GDPの6割ぐらいを占めている数字なのですけれども、2014年から2016年にかけて、ご覧のとおり3年連続で減少しているのです。これは戦後初の減少です。2017年はプラスに転じたのですが、4年も前の2013年を下回っています。この4年前を下回るという現象も戦後初なのですね。実質賃金の大きな下落は戦後最悪の消費停滞を引き起こしています。消費が停滞しているわけですから、国民の生活は全然向上していないということです。景気回復の実感がないのも、これは当たり前でしょう。これもついでに申し上げますけれども、GDPが平成28年12月に改定されたのですが、このときに、どさくさに紛れて異常な数字の調整がされたのですね。これがないともっとひどい数字になっていたと私としては考えています。
 次のページはGDPの改定前後の名目民間最終消費支出の差額を抜き出したものです。これを見ると、アベノミクス以降が突出しています。特に2015年が異常でして、8.2兆円もかさ上げされているのです。名目民間最終消費支出のかさ上げは、国際的GDP算出基準(2008SNA)とは全く関係ない「その他」という部分でなされています。アベノミクス以降は大きくかさ上げしているのに、なぜか90年代は全部マイナス。全部なのですね。なぜか90年代は全部マイナスになっている。その他によるかさ上げ・かさ下げ現象を「ソノタノミクス」と私は呼んでいます。
 こんなに数値をかさ上げしているのですが、先ほど見たとおり、なお消費の低迷を覆い隠すことができていないのです。あんなに思い切りかさ上げをしても、やはり悲惨なのです。消費が低迷する大きな要因の1つは、先ほど申し上げたとおり、実質賃金が上がらないからです。給料が全然上がらないのに、物価だけがどんと上がってしまったので、このように消費が低迷しているということです。
 次のページをご覧ください。これもついでの指摘になるのですけれども、常用雇用指数というものでして、常用労働者数を指数化した数値の推移なのですが、まず、実数のほうなのですが、平成30年速報だと常用労働者数は年間で4980万7000人なのです。平成29年確報だと常用労働者総数は5003万1000人。実数で見ると、平成30年速報のほうが22万4000人も少ないのです。これは日雇い外しの影響です。
 そうすると、常用雇用者を指数化した常用雇用指数で見たら下がっているのかなと思って見てみたら、これはなぜか下がっていないのです。平成30年速報のほうが、なぜか1.1ポイントも高いのです。これはなぜかといいますと、平成30年1月分調査の補正においては、ベンチマークを「平成21年経済センサス-基礎調査」から「平成26年経済センサス-基礎調査」に変更したことから、平成21年7月分以降についてギャップ補正を行ったと説明がしてあるのです。要するに、実数を単に指数化してしまうと、平成30年が思い切り下がってしまいますので、常用雇用指数については遡って改定しているわけです。つまり、賃金は遡らないのに、常用雇用指数は遡るという非常に都合のいい操作を行っているという状況なのです。
 なので、もし参考値が、サンプル企業の数が少ないから正確性に欠けるとか、そういう反論をするのであれば、単純に公表値のものも遡って改定すればいいだけなのです。ちなみに総雇用者報酬という内閣府が出している数字がありますが、内閣府はちゃんと遡って改定しているわけです。そういう問題がありますので、私としては、参考値の実質賃金は簡単に出ますし、出ていますから、これを公表するだけでいいので、公表していただくことも、それがどうしても嫌だというのであれば、公表値のほうも遡って改定すればいいだけではないですかと考えております。
 私のほうからの意見は以上です。

○今野座長
 ありがとうございました。
 それでは、皆さん、御質問がありましたら、どうぞ。
 どうぞ。

○稲葉構成員
 よろしくお願いいたします。
 2つ質問があります。1つは明石先生に対してで、1つは事務局側に対してということです。まず、1つ目の質問といたしましては、明石先生の7ページの最後にある、公表値の伸び率はかさ上げされたうその数字なのだから、公表をとめるべきであるということなのですけれども、このことについて少し詳しく教えていただきたいのですが、これが指す公表値とは何であるのか。そして、かさ上げされたうその数値というのは、どこの部分を言っているのかについて教えていただきたいというのが1つ目の質問です。
 2つ目の質問は事務局側にですけれども、ページ数がわからないのですが、こちらの明石先生の最後のページにあります平成26年経済センサスに変更したことからギャップ修正を行ったとあるのですが、この内容について簡単で結構ですので、内容を教えてください。
 以上、2点です。

○今野座長
 お願いします。

○明石弁護士
 公表値というのは、毎月勤労統計において、こちらのほうが正式なものですというふうに公表されている数値ですね。

○稲葉構成員
 本系列ですか。

○明石弁護士
 そうです。おっしゃるとおりです。本系列のこと。

○稲葉構成員
 系列としては、共通事業所ではなくて本系列。

○明石弁護士
 そうです。本系列のことを公表値と言っております。何でかさ上げされたうその数値かといいますと、先ほど申し上げたとおり、まず、サンプル事業所が一部異なるということと、あとはベンチマークが違うということですね。要するに、高く出るようになっているわけです。
 具体的に言いますと、私の資料の最初のほうですが、2ページ目です。新旧の差の内訳が書いてありますけれども、新旧を比べると2,086円ぐらい上がっていて、ベンチマークの入れ替えで967円も上がっているわけですね。本来は遡って改定すればいいだけなのですけれども、なぜか遡っていないので、こんなにものすごい差ができてしまう。これでは実態を表しているとは言えませんので、これはうその数字でしょうと。要は、違うものを比較しているということになってしまう。連続性のないものを比較しているということになりませんかということなのですね。
 なので、この伸び率はうそではないですかと私は指摘をしているわけです。

○稲葉構成員
 そういたしますと、明石先生の御指摘としては、ベンチマークとして経済センサスが行われたときに直すのではなくて、それを遡って補正のところの数値も変えるべきだというような御意見ですか。

○明石弁護士
 そうですね。今までもそうされていたので、今回からなぜかそれをやめてしまったので。

○稲葉構成員
 わかりました。ありがとうございます。

○今野座長
 事務局から、どうぞ。

○瀧原統計管理官
 では、明石先生の資料の最後のページにあります、平成26年の経済センサスに変更したことからギャップ修正を行ったというところでございますけれども、毎月勤労統計におきましては、サンプルの入れ替えを行ったタイミングで、そのときにベンチマークとしております経済センサスが新しいものに変わっておりましたら、ベンチマークを入れ替える、更新するという形をとっているのですが、その際に、ベンチマークを更新することによってギャップができる、断層ができるという状況に対して、どのように対処するかというような対応がございまして、そこにつきまして、まさに今、国会等でも審議されているところになるのですけれども、過去におきましては、先ほど明石弁護士からお話がありましたように、ギャップについて何らかの補正をするということをやっておりました。
 そこの部分について補正をしますと、今回で言いますと30年1月になりますが、それ以前の数字を補正することになりますと、例えば29年のときの公表している数字が、一旦公表していたものが、当然ですけれども、30年以降の数字を公表したときに、数字を変えるということになり、上げる場合も下げる場合もあるかと思いますけれども、そういうものをギャップ補正という形で行っておりましたが、これについて、前回は、平成27年1月にギャップの補正を行ったわけです。
 そのときに、当然過去の部分が変わりますので、ここについていろいろ御意見がありまして、一旦発表している数字が変わると使いにくいとか、分かりにくいとか、そのような議論もありまして、そこの部分をどのように対処すべきかというような議論が前回の平成27年のギャップ修正以降にありました。それに対しまして、厚生労働省、あるいは統計委員会で議論がありました。
 どのように対処すべきかを議論された中で、一定の方向性として示されたのが、ベンチマークは我々が使っております経済センサスですと、経済センサスで出ております事業所全部に対する労働者数は経済センサスが全数調査ですので、そこの部分が真の値になる。それが実際に存在する値になるということで、そういうものがあるものについては、そこにそろえることにするということがございまして、ここに出ております常用雇用の労働者数、常用雇用指数ですが、指数につきましては、平成26年の経済センサスの時点の労働者数が真の値だということで、そこになめらかにつながるようにギャップ補正をする。真の値があるものについてはつなげていくということで、方向性として決められましたので、その作業をやったというのがここでございます。
 一方で、指数は、常用雇用指数以外にも我々としては賃金の指数と労働時間の指数があります。ここの部分について、どのようにするかというところで、賃金と労働時間については経済センサスで調べるものではありませんので、これについては、例えば平成26年の経済センサス時点で賃金総額あるいは1人当たり賃金額の真の値、労働時間の真の値が存在しないということで、そこは同じように遡るのは適切ではないのではないかという議論で、そこについてはギャップ補正をしていないということです。今回の30年1月でのギャップに対しての対処は、毎勤についてはそのようにさせていただいているというところでございます。
 明石弁護士から御指摘をいただいている点は、この点が実は前回の27年とは違った対処になっておりまして、27年のときは真の値があるか、ないかという議論はされておりませんで、実はそれ以前も同じだったのですけれども、やはりギャップについてなめらかに補正するという常用雇用と同じようなやり方でつなぎ、ギャップ補正を賃金、労働時間に対してしていたというのが27年までの対処法でございます。そこの部分につきまして、30年のときはやり方を変えたということがございます。その点も含めて今、明石弁護士から御指摘をいただいている内容と理解しております。

○稲葉構成員
 その件に関して2つほど質問があります。1つは、その考え方自体は公表されているのかどうかということ。つまり、変更したというところの考え方自体を、2つの指数に関して出さなくなったということの説明はされているのかということ。あと、少し技術的な話になるのですけれども、1回前の経済センサスのときから修正を行ったということなのですが、具体的に言うとどのような修正方法をかけたのかについて、簡単でいいので教えてください。

○瀧原統計管理官
 この公表につきましては、実際に、まず、議論としては統計委員会にお話をして、そこの部分で御了承をいただいているということで、公の場で一応議論いただいているものだという認識を我々は持っているということと、実際の公表資料で、ここについてはサンプル入れ替えとベンチマークにおきましてギャップが、断層が発生しているようなものにつきましては、毎勤の公表資料に注書きとして書かせていただいているというのが現状でございます。
 それから、やり方なのですけれども、考え方としては、経済センサス自身が今回の場合は平成26年6月の調査ということで、労働者数のタイミングを合わせるという意味では26年7月の毎勤の調査と合わせております。その時点で、労働者数を持っておりますので、毎勤のほうで、毎勤は平成21年のセンサスをまずはベースにしている。それ以前はベンチマークにしておりますけれども、そこから毎月、毎勤の労働者数と、あとは雇用保険データの改廃も含めて補正して、21年の時点からずっと伸ばしてきています。
 その伸ばしてきた数値と、平成26年7月時点で、経済センサスの労働者数との差を見ます。そこを我々はギャップ率という形で見ているのですけれども、そのギャップ率を把握した上で、実際にギャップ補正をするのは平成30年1月ですので、平成30年1月の労働者数を今のギャップ率で、今回の場合は下がりましたので、落とすという形になるのですけれども、落としてつなげます。
 経済センサスの数字があって、毎勤の数字は上のほうに伸びていますので、ここの部分がギャップ率なのですけれども、ここのギャップ率を把握した上で、30年1月の時点で実測された毎勤の労働者数をギャップ率分だけ戻して、そこをつなげていくという形になるということです。

○稲葉構成員
 比率で戻している。

○瀧原統計管理官
 そうですね。

○稲葉構成員
 わかりました。ありがとうございます。

○神林構成員
 そこなのですけれども、その比率の算出の単位はどのようにしていますか。全国で、一発でやるのか、それとも、推計乗率をつくる単位でギャップ率を一々考えて伸ばしているのか、どうなのでしょうか。

○瀧原統計管理官
 実は、労働者数自身が、もちろん常用雇用者数そのものにも効くのですけれども、労働者数自身はほかの賃金とか労働時間を出すときのウエートとして影響してきます。前回か前々回かの検討会の場でも申しましたけれども、そのウエート自身は企業規模と産業別のクロスで単位集計区分をとっておりますので、その区分ごとの労働者でギャップ率を見るという形でやるということです。ですから、全国は全部で一本なのですけれども、区分。

○神林構成員
 それは推計乗率と対応関係になっているわけですか。

○瀧原統計管理官
 はい。

○今野座長
 そういうことですね。
 どうぞ。

○山田構成員
 以前は少しずつ前の出ている数字との三角法というのですか、少しずつやっていたのですが、今回に関してはもう平均で、全部シフトさせるやり方をやっているのですか。伸び率を変えずという形でやっているわけですか。

○田中審査解析官
 前々回の26年のセンサスの前に21年の経済センサスがございましたが、この間から既にずれ出しているということになりますので、21年から26年の間は、山田構成員がおっしゃったように、なめらかにつなぐような形での補正をさせていただき、そこから先は毎勤のデータしか存在していない、真の値がまだわからない状態でございますので、定率でやっているという形になっているということでございます。

○山田構成員
 関連してすみません。今回の検討会は共通事業所が中心だったので、今日明石先生が御指摘されているところはあまり議論をしていないのですけれども、私もちょっとベンチマークのところの修正の仕方は、ユーザーとしては違和感があるのですね。いろいろな議論の結果として御判断されているとは思うのですけれども、このようにここはやらないというやり方も、というか、事実上雇用のほうは真の値があるから修正をした。ここも従来やっている少しずつ調整していくやり方と、伸び率でわっと過去までわたって遡及するというやり方もあると思うのですね。これも結構一般的にやられているやり方で、ここはなぜ今のところを選択しているのかという議論があれば、ちょっと教えていただきたい。
 それと、私も、賃金のほうは真の値がないから、このままにしているという御判断ということなのですけれども、これは一応の決定事項なのか、それとも、今は改善のプロセスであって、とりあえずそこの部分は保留にしているという状況になっているのか。そこをちょっと教えていただきたいのです。

○瀧原統計管理官
 まず、そこのつなぎ方の部分ですけれども、1つ山田先生がおっしゃっている、伸び率を変えないという部分につきましては、我々は平行移動方式という形でやっていまして、平行移動ですと伸び率は全然変わりませんので、そのまま過去によって修正されることがないという部分で、そこはメリットがある。ただし、その場合には、平行移動方式のみでやりますと、過去にずっと最初にまで戻って修正する形になる。
 一方で、先ほど田中のほうから申しましたけれども、ベンチマークで真の値があると分かっているところには、そこにつなげるのが適切だろうということで、2つのものを組み合わせて、26年までは平行移動をさせて伸び率を変えないとしつつも、そこから先は21年のところになめらかにつなぐような形で三角につなぐという2つの組み合わせをやったということで、それ自身の意味は今、申し上げましたように、伸び率を一定にさせるとともに、つなげるべきところにつなげるという方法でやったということです。ですので、今の常用雇用については、そういう形でやっているということでございます。
 一方で、今回の賃金、労働時間につきましては、過去の部分が変わるというところですね。いずれにしても、三角補正をやるとそこの部分で過去を遡って変えないといけない部分が発生しますので、それについて、ローテーション・サンプリングも今回は初めて30人から499人のところで導入し、3分の1ずつ入れ替えをすることによって、ギャップも縮小するだろうという考えもあり、今回についてはそこの部分をやらないという方向で決めたものでございます。
 そういう意味では、今回については、そういうふうにやるという政策決定のもとでやっておりますけれども、それについて全く議論の余地がないのか、あるいは今後もずっとそれでやり続けるのかどうかということは、そこはまだ今後考えるべきことだと思います。ただ、今回につきましては、そういう形でやるということで決めたというものでございます。

○山田構成員
 とりあえず今の段階でということですね。私、ユーザーから見ると、明石先生がおっしゃったような何かの形で、ちょっとギャップがあるというのは不自然な感じがしますので、将来にわたってそこはさらに検討していくことが適当かなと、個人的にはそのように思います。

○今野座長
 明石さんの2ページ目の中で、上に○1、○2、○3があって、「例えていうと」と書いてありますね。この意味は、2つ、ちょっと解釈し切れなかったのですけれども、上の○1、○2、○3は、これ自身に意味がないと言っているのか、意味はあるけれどもやり方が悪いということで下の○1、○2、○3を表現したのか。どちらかという可能性がありますね。

○明石弁護士
 意味がない。何というか。

○今野座長
 つまり、サンプル入れ替えなどはしなくていいのだと。ベンチマーク更新などはしなくていいのだということで下を書いたのか、そうではなくて、必要なのだけれどもやり方が今、間違えているから下を書いたのかによって基本的な認識は違いますね。

○明石弁護士
 そうですね。おっしゃるとおりで、別にやってはだめだと言っているわけではなくて、一番の問題は遡及していないということなのですね。遡っていないので、全然違う数字になってしまっているということなのです。

○今野座長
 遡及していないというのは、今出たものの話ですか。調整していないということですか。

○明石弁護士
 そうです。段差が出てしまうのを本来であればなめらかにすべきであるし、今までそうしていたので、そうすべきである。それが段差がそのままになってしまっている。それをわかりやすく説明するために、このようにしたということです。

○今野座長
 ということは、もう少し聞きたいのですけれども、今やっているサンプル入れ替えの方法は別に問題ない。今やっているベンチマーク更新の方法は問題ない。3番目の復元処理はやらなかったから問題でしたね。

○明石弁護士
 そうですね。ただ、復元処理は遡りましたから、2018年12月以前の分についてもちゃんと遡ったので、そこの変な段差は解消されたのですけれども、○1と○2の段差はそのままです。ですから、これも本来遡って、なめらかになるように補正すべきではないですかということです。

○今野座長
 しつこいようで申し訳ない。ということは、今やっているサンプル入れ替えの方法とかベンチマーク更新の方法とかはいいと。復元処理の方法も問題ないと。ただ、結果についてギャップが出ているのをちゃんとなめらかに調整しないからいけないのだということが御趣旨だと理解していいですか。

○明石弁護士
 そうですね。変な段差ができてしまうのが一番の問題ですから、なめらかな修正をしないのが一番の問題だというのは、それはそのとおりですね。

○今野座長
 ということは、今やっているサンプル入れ替え、ベンチマーク更新、復元処理の方法自身には問題ないので、その結果出たギャップの処理の仕方を考えろというふうにお考えだということですね。

○明石弁護士
 はい。このようにギャップが出てしまうからこそ、共通事業所同士の参考値を厚労省側も公表しているのだと思うのです。そういう変な段差がないデータを提供して、賃金伸び率について把握できるようにしている。ただ、私としては、本系列のほうで遡及すれば、そういう問題は発生しないのだから、本来はそちらではないですかという意見ですね。

○今野座長
 わかりました。今、私が言った、どちらの考え方かによってそこから先の議論が全然違いますので、我々は調査方法とか統計的な方法に問題があるのか、あるいはどうしたらいいのかということを議論しようと思っているので、そういう点からすると、ちょっとしつこいようですが、明石さんはサンプル入れ替え、ベンチマーク更新、復元処理の方法については、特に問題は感じていないというふうに我々は理解して議論していけばいいということになりますね。それでいいですね。

○明石弁護士
 ですから、遡及していないということが一番の問題点ということです。
 あと、ちょっと確認しておきたいことが1個あって、ベンチマークを遡及しないということについては、私が知っている範囲だと、統計委員会の西村委員長は遡及しないということについて承知していなかったみたいな答弁をたしか国会でしていたような気がするのですけれども、統計委員会のほうは、ベンチマークを遡って改定しないということについて了解していたのですか。そこは結構重要だと思うのですけれども、いかがですか。

○瀧原統計管理官
 そこはまさに国会のほうでも、質問とかで審議がされているところだと理解しておりますので、そのことにつきましての厚生労働省の考え方は、その場でも答えていることですけれども、この場で申し上げさせていただきますと、議論の流れとしてギャップ修正を行わないという形で、ローテーション・サンプリングを入れる等により、あるいはユーザーの利用しやすさ、混乱を招かないためという方針で、我々としてはギャップ修正をしないという形で御説明して、その上で御理解を得たということで、厚生労働省としては理解している状況でございます。
 その点で、今、もしかしたら理解の中で若干差が出ているのかもしれませんけれども、我々としては、そこは統計委員会のほうで御理解いただいて、それが適当という形で評価いただいたという認識でいるということでございます。

○明石弁護士
 その点も、厳密に言うと恐らく統計委員会のほうは、サンプルについて遡及しないということについては承知していたかもしれないのですが、ベンチマークに遡及しないというのは、明示的に示して了解を得たのか、明示的に示さないでもにょっと出してそのまま通ってしまったのか、どちらなのですか。そこの意識の齟齬が生じていた可能性はないのですか。

○瀧原統計管理官
 そこはあるかもしれません。我々としては、一体的に、全体としてギャップ修正はしないという形で資料をお示ししていたつもりなのですけれども、そこの部分が十分に我々と統計委員会の先生方の中でちゃんと共有されていたかどうかということは、我々としてはそのように理解していたという状況でございます。

○今野座長
 もう一点、私は明石さんに質問したいのですけれども、先ほどのお話ですと、先ほど言った○1、○2、○3の方法をとってやれば、ギャップの問題はちょっと横に置いておいて、出てきたデータはオールジャパンの状況を正確に出していますねというふうに明石さんは思われていると考えます。そうすると、参考値のほうですけれども、オールジャパンがちゃんとしていれば、オールジャパンのデータで比較をすれば、賃金の上昇とか労働時間の変化とかは正確に把握できるということになりますね。

○明石弁護士
 遡れば。

○今野座長
 そこの問題はちょっとあったとしても、そうすると、この参考値は、オールジャパンは表現していないというふうに考えたほうがいい。

○明石弁護士
 それは厚労省側もそのような説明をしていたと思います。

○今野座長
 明石さんもそのようにお考えだと考えていいかなと思ったのですけれども、論理的に考えると、先ほど言った調査方法をちゃんとやっていれば、それでオールジャパンを表現できるのだから、それを見れば日本全体の賃金上昇率とかそういうものは把握できる。そうすると、オールジャパンのデータ以外の参考値は、サンプルも少ないとか、いろいろな問題があるとしても、いずれにしても、オールジャパンの情報は示していないというふうに、論理的に言うと明石さんはそうお考えかなと思って聞いたのです。

○明石弁護士
 2つに分けて考える必要があって、現時点の状況を示している数値としては、それは本系列のほうが正確であるとは思いますが、伸び率は違います。このように段差ができてしまうわけですから、伸び率については、公表値の伸び率のほうが正確とは、これは言えません。参考値のほうが、伸び率についてはそれを見るべきですし、統計委員会の見解とも一致します。だから、問題を2つに分ける必要があります。

○今野座長
 ということは、調整さえすれば本系列のほうが、賃金上昇率とかそれを見るのは正しいインデックスだというふうにお考えだということですね。

○明石弁護士
 おっしゃるとおりです。

○今野座長
 そちらが今、変なものになっているので、参考値を使わざるを得ないのだと。

○明石弁護士
 そうですね。

○今野座長
 ということは、もう少し言うと、この参考値自身が少しオールジャパンからはずれているかもしれない。でも、今よりはましだというお考えだということですね。

○明石弁護士
 それはそうです。

○今野座長
 他にいかがですか。
 もう一つだけいいですか。このヒアリングは明石さんと我々のヒアリングなので、事務局と我々のヒアリングではないので、なるべく明石さんにお話を聞いたほうがいいかなと私は思っているのですけれども、いただいたお手元の資料の7ページ目で、これは小さいことなのですが、上から3行目で、プラスになったのもボーナス月だからと書いてありますね。これはあれか。

○明石弁護士
 前年同月です。

○今野座長
 前年同月ですね。ということは。

○明石弁護士
 ボーナス月なので、上下はあるわけで、ボーナスが多く出たので伸びたのでしょうと。そういうことですね。だから、プラスが6月と12月だけなのです。

○今野座長
 ということは、たまたまこの年はボーナスが高かったと。

○明石弁護士
 そうですね。おっしゃるとおりです。

○今野座長
 ということは、もう少し言うと、多分、まあまあ会社の景気がいいからボーナスを多目に払ったぞと。

○明石弁護士
 その点だけ見ればそう言えるでしょうね。

○今野座長
 それにもかかわらず、毎月の給料は対前年比で下がったぞというふうに解釈するということですね。

○明石弁護士
 おっしゃるとおりです。

○今野座長
 ということは、まあまあもうかっているのに、ボーナスだけ多目に払って、月例賃金を低目に払っているのだという解釈になりますね。

○明石弁護士
 そうですね。基本給が別にそんなに上がっていないということでしょうね。

○今野座長
 どうぞ。何かありますか。顔を見たので。

○山田構成員
 明石先生に、若干本題からずれるかもしれないのですけれども、4ページです。4ページに賃金と物価の推移があって、消費者物価が14年にぼんと上がっていますね。ベースとしてずっと上がり続けているのは円安の影響ということは御指摘のとおりだと私も思うのですけれども、14年に関しては消費税の影響がかなり入っていますね。

○明石弁護士
 もちろんそうです。

○山田構成員
 消費税の影響をどう解釈するのかは私も悩んでいるのですね。というのは、消費税の裏側の問題として、やはり社会保障をしっかり支えている部分があるので、ここで示す数字は消費税を除くベースで示したほうが適切という考え方もあり得るのかなと思うのですが、それに対して、消費税をどう考えるかということを教えていただけますか。

○明石弁護士
 これは物価の上昇に絶対に加えるべきです。そうしないと、国民の生活実態と乖離します。まさに増税に円安がかぶさったので二重に物価上昇がどんと来て、実質賃金がどかんと落ちたということがありますので、これは除いて考えるべきではないですね。加えて考える。そうせざるを得ないかなと。私としてはそう思っています。

○山田構成員
 1つコメントすると、個人消費の統計は、SNAの統計だと、いわゆる家計ベースの部分と、もう一つ実は消費の統計があるのです。というのは、一部政府消費に入っているのですけれども、要は、医療とか保育の部分で、政府負担部分が、実際は家計が便益を受けているわけですが、個人消費から除いて政府消費のところにつけているのですね。
 消費税をもし入れるのであれば、結局消費税はそこの原資をファイナンスしているものですから、もうちょっと正確に見るには、それを足した、戻したもので見るというほうが適切かなというようにも思うのですけれども、それについてはどういう御意見でしょうか。

○明石弁護士
 ちょっとそこは特に考えたことはないので、ただ、単純に出されている賃金と物価の推移をこのように分析しただけですから、そこはそういう考え方もあり得るのかなとは思いますけれども。

○山田構成員
 ありがとうございました。

○今野座長
 もう一ついいですか。もう一つ重要な、明石さんが今日言われた問題は、実質賃金の伸び率の計算の仕方の問題なのですけれども、5ページ目にそのことが書いてあると思うのですが、先ほどの明石さんのロジックからすると、先ほど言った○1、○2、○3の方法でオールジャパンの状況をちゃんと把握して、それで調整をして、それの名目を使って実質を出すというのが一番いい。ロジックからするとそうなる。そうなると、今、参考値を使って実質化するということは、やむにやまれぬことでそうなっているというふうに。

○明石弁護士
 そうですね。それしかなくなってしまうので、もうこれを出すしかない。

○今野座長
 もう少し言うと、オールジャパンの状況は正確に把握して、表現していないかもしれないけれども、やむにやまれずこれで出すということでよろしいですね。ということは、オールジャパンのほうがちゃんとなれば、そちらを使えばいいではないかと。

○明石弁護士
 そうですね。

○今野座長
 おっしゃるようなやり方ですと、ちゃんと調整をした後に、そういうことですね。ありがとうございます。
 他にいかがですか。そろそろ時間が来てまいりましたので、よろしいですか。
 それでは、長い時間ありがとうございました。

○明石弁護士
 ありがとうございます。

○今野座長
 それでは、もう一人、今日はヒアリングをしたいと思います。一橋大学経済研究所教授の阿部修人さんからお願いいたします。よろしくお願いいたします。

○阿部教授
 一橋大学の阿部です。ちょっと風邪気味ですので、マスクをしながらで申しわけありません。20分ですね。

○今野座長
 そんなに厳格ではなくていいので、20分程度で。

○阿部教授
 何が期待されているのか、事前によく分かっていなかったので、かなりアカデミックな内容になっておりますが、本日お話ししたい内容は、実質賃金をつくる際に必要なデフレーターについてです。消費者物価指数が多くの場合使われていると思うのですけれども、それがどうあるべきなのか。また、どのようにつくられるのか。それをアカデミックな立場からお話ししたいと思います。
 最初に1枚めくっていただき、実質賃金についてお話します。経済学の入門書で、必ず名目と実質を分けなければいけないと強調されるわけですけれども、ミクロ経済学の教科書を開くと、需要関数は相対価格の体系に依存していて、実質所得とか実質賃金という概念はほとんど出てこないのですね。マクロでは頻繁に出てきますけれども、では、実質賃金とはどのように定義されるものなのだろうかと。無論財が1種類しかないマクロ経済学では明らかなのですけれども、財が複数種類あるときに、実質賃金は理論的に意味があるものなのだろうか。また、理論的な意味があるように、理論的な意味と整合的な統計はどうあるべきなのかというお話を今日はしたいと思います。
 3ページ目に簡単な目次がありますが、適宜端折りながらやっていきたいと思います。最後のほうに参考資料が分厚くありますが、これは総務省の統計研修所でさせていただいた理論研修用資料からの抜粋です。詳しい話は、興味がありましたら、そちらをご覧ください。33ページ以降です。
 最初なのですけれども、いきなり数式で申しわけありません。経済学者が多いという前提で話しているのですが、実質賃金の理論フレームワーク、私はマクロ経済学と家計消費及び物価を専門にしていますので、ここではあくまでも家計サイドから見た理論を展開します。企業サイドから見ることも可能ではあるのですが、企業サイドから見た実質賃金は、非常に困難だと思います。家計サイドで話をさせていただきたいと思います。
 家計サイドで見ますと、経済学の入門書を思い出していただきたいのですけれども、予算制約式があって、所得があります。予算でpとqをそれぞれ、i財の価格と、qを数量として、jを個人のインデックスとしますと、個人jさんの総支出は、時間を無視して貯蓄をしないという前提にすれば、pi掛けるqiのサメーションですね。これが総支出額になっています。それがWとLの掛け算で、労働供給と賃金。WとLを両方一緒にすれば労働所得に一致する。これが予算制約になります。
 ここで、物価指数というものがあれば、もしもΣのpiとqi、要するに、価格と数量を掛け合わせた内積ですけれども、それが2つの実数の掛け算、QとPという2つの実数値の掛け算に分解できれば、これが物価指数になって、WをPで割れば実質賃金になります。
問題はこういうPやQが存在するのだろうかということです。
 例えば、複雑な式が5ページにありますが、これはマクロ経済学でよく使われるCES型のアグリゲーターと呼ばれるもので、日銀のワーキングペーパーの多くはこれに基づいていますが、Qというものは、もしも効用関数がこういうCES型のアグリゲーターになっていれば、その効用関数の形状そのものを、Qは数量指数ですが、すると、この支出、それの効用関数に対応する支出関数ですね。費用支出関数、これはホモセティック関数なのですけれども、それがPで、たまたまこのコンビネーションは奇跡のコンビネーションで、P掛けるQが何と予算制約と予算総額と一致する。こういう奇跡のコンビネーションがあって、これがマクロ経済学で頻繁に使われています。
 ですが、残念ながら、この分解は奇跡のコンビネーションで、一般的にはこれができないということが知られています。一般的にどうやっているかというと、水準ではなくて変化で示します。Pは今期の物価の水準ではあるのですけれども、物価水準を計算する際には、前年期もしくは基準時からどれだけ変化したかという変化分を見ることになります。
 それが6ページなのですけれども、まず、所得の変化額ですね。もしくは総支出の変化。例えば前年同期比を見るのであれば、前年の2018年3月と2019年3月の総支出の比をとります。指数理論ではValue Indexという名前がつけられています。日本語では価値指数というのですが、これは単なる支出の比です。総支出の比を、これを物価指数と数量指数に分解したい。つまり、ここでは物価指数というのは前年から何%変化したか、もしくは1.05とか1.02という数値になります。これが皆さんよく見ている、いわゆる物価指数になります。
 それに対して数量指数を見ます。もしも価値指数をPとQに分解し、かつQが効用水準の比にできるようにすれば、すると、実質賃金は、7ページに書かれているQIはWIオーバーPI掛けるLI。W掛けるLをPで割ったもの。これは賃金の変化と労働の変化になります。これをPで割ったものは、実は、数量指数と一致します。
 つまり、ここで定義されている実質賃金は、労働供給は込みで入れるか、分解するかでまた話が違ってきますが、もしも各労働者に支払っている賃金総額として賃金指数をつくるのであれば、この実質賃金指数は厚生の比になります。実質賃金が1よりも高くなっていれば、前期に比べて効用が、厚生が上がっている。1よりも小さかったら、厚生が下がっているということになります。実質賃金は極めて大事な情報で、名目賃金だけではわからない厚生がわかる。皆さんがハッピーになったかどうかということがわかります。
 ただ、無論留意事項があるのは、労働供給が内生の場合、つまり、働きたくないのに貧乏だから働かなければいけない場合は、労働供給は厚生に負の影響を与えますが、その影響は見ていません。その影響を考えるためには、もっと複雑なものになります。ですから、これそのもの、実質賃金だけを見て厚生が上がったか、下がったかということを判断するのは結構危険で、特に今のように、これまで働いてなかった人が働きにでるようになり、労働参加率が上昇している状況では、その労働供給増加による厚生悪化は無視してはいけないと思っています。ですが、今、実質賃金を語るときには、とりあえずは、それは別の問題として無視していきます。
 では、問題は、このPIをどのようにつくればいいのだろうか。また、どのようにつくることができるのかという話になります。ここからは指数の理論になります。
 物価指数の理論は、9ページ目に書かれていますが、3種類で完全に独立といいますか、ばらばらに展開されております。まず、第1は公理・テストアプローチといいまして、近年では数学者により展開されています。19世紀の後半から始まった、いわゆる指数理論の王道のアプローチでもあります。もう一つは経済学的アプローチで、経済学者が頑張ってつくってきたものです。3つ目は確率・統計学的アプローチといって、たしかエッジワースとか、大昔の人が19世紀に展開されたものでして、これも、PPPという国際連合や世界銀行など作成している国家間物価指数、購買力平価の計算時に活用されております。非常に実践的なものです。どうあるべきかというよりは、どのようにつくれたら確率的にどのような構造を持っているかという話です。
 確率・統計学的アプローチは、今回はお話ししません。あくまでも公理・テストアプローチと経済学的アプローチという、この2種類のアプローチから見て望ましい物価指数が何かという話をさせていただきたいと思います。
 まず、公理・テストアプローチですが、これは理想的な物価指数があると仮定して、理想的な物価指数があるとしたら、それはどういう性質を満たさなければいけないかということを演繹体系からつくっていこうというものです。皆さんが同意できる望ましい性質をリストアップして、それを満たす指数がもしも1個しかなかったら、理想的な指数は1個で決まりです。もしも完全に全て満たす指数がないのであれば、望ましい性質をなるべく多く満たす指数が望ましいだろうと。これが昔、アーヴィング・フィッシャーが展開した公理・テストアプローチです。
 しかし、これはすばらしいアプローチではあったのですが、問題含みの公理がありまして、特にとても大事な公理、11ページで書かれている推移性という公理ですね。何かというと、去年と今年の物価指数をつくります。次に、今年と来年の物価指数をつくります。この2年間分の物価、去年から来年の物価指数はどうなるかというと、去年と今年の物価指数を掛け算すれば、2年分の物価指数になるべきなのですけれども、なりません。ほとんどの物価指数はこれを満たしません。したがって、これを見つけてアーヴィング・フィッシャーの理論はほぼ崩壊というか、推移性は満たさないものなのだというふうになってしまったのですね。推移性は今、最先端でいろいろとやられてはいるのですけれども、これを満たさないという点で、公理・テストアプローチ以外のアプローチが注目されてきたのです。
 もう一つの問題含みの公理は、要素反転性と言われるもので、これは余り知られていないのですが、何かというと、価格指数は一般的に数量と価格の関数です。具体的には支出シェアと価格の関数ですね。その価格と数量を入れ替えてしまう。そうすると、数量指数になります。つまり、価格変化ではなくて数量の変化ですね。この価格と数量の情報をひっくり返したものを掛け算したら、もともとの所得に戻ってほしいのです。Value Indexです。これが要素反転性と言われるもので、実は、これを満たす指数はほとんどありません。ごくわずか、よく知られている指数の中では、フィッシャー指数とかSato-Vartia指数という2つしか満たさないのですけれども、  
 要するに、非常に望ましい性質をざっと並べていっても、それらをすべて満たすものがないのです。
 推移性を満たさないというのは、時系列上では特に大問題で、実質賃金をはかる上でも結構大きな問題だと思うのですけれども、当然総務省がつくっているラスパイレス指数もこれは満たしません。特に私のようにPOSデータを使って高頻度のデータをつくるときに、これは深刻な問題になっていて、基準時を次々と変えていって、それで全部つくり変えていく連鎖指数という概念もありましてこれが今、SNAで使われているのですけれども、連鎖指数になると今度はドリフトというトレンドが発生してしまうことが広く知られていて、この辺はうまいやり方がない。ドリフトが発生しても構わないと。つまり、そのような前提で今のところは議論が進められています。これが公理体系という現状です。
 次に、経済学的アプローチです。経済学者以外の方には理論的になってしまい非常に恐縮なのですけれども、これは支出関数といいまして、何かというと、基準年、例えば1年前にある効用水準を実現しているとして、その効用水準を実現するためには、今期の価格ではどれだけの支出が必要かというものをはかるのが支出関数です。
 14ページはその数式なのですけれども、支出関数の比を物価指数とみなそうと。これは名前がつけられていまして、生計費指数、Cost of Living Indexと名づけられています。Cost of Living Indexは、経済学者にはとても魅力的なアプローチで、なぜかというと、例えば価格がものすごく変わったとしましょう。円安が進んで輸入価格がどんどん上がったとすると、輸入品から国内品への需要のシフトが発生するかもしれません。ところが、通常のラスパイレス指数はそうした需要の変化を無視しております。生計費指数は、相対価格体系が変わったときに、その状況を見越した上での人間の行動パターンを取り入れていくことができる。経済学者としては、人々の最適化行動を考慮できるという点で、生計費指数は非常に魅力的なのです。
 ですが、これは最初から実務統計の間ではほとんど無視されておりました。なぜかというと、効用関数や支出関数の形状は誰も知らないだろうと。強い仮定に依拠する必要があるものは意味がない、というふうにほぼ一蹴だったわけです。確かに、厳密に考えていくと、効用に影響を与えるのは、例えば気候が、雨が多かったり、もしくは寒かったり、治安とかいろいろなものも影響を与え得るので、この辺を厳密にやっていくとほとんど不可能でしょうという議論だったのです。
 それが16ページ、Diewertの最良指数という概念が出てきます。これは70年代に指数理論の大家、Erwin Diewertがつくったものなのですけれども、Superlative Indexというもの。もともとアーヴィング・フィッシャーが大昔にSuperlativeという言葉を使ったので、そのまま名前が生き残っているのですが、Diewertが発見したのは、よく言われているフィッシャー指数、すなわちラスパイレスとパーシェの単純幾何平均と、トルンクビスト指数という対数をとったものと、これが全然違う指数算式なのですが、動きが非常によく似ているのですね。何でこんなに似ているのだろうかというぐらい、エクセルで図を拡大しないと、ほとんど差が出てこない。何かしら根拠があるのではないかというところから始めます。
 76年に彼が発見したのですけれども、両者とも実は真の経済学的なアプローチが正しいという前提として、誰もわからない、神様しか知らない真の生計費指数があるとしたら、フィッシャー指数もトルンクビスト指数もそれの2階の近似になっているのだということを彼は発見したわけです。
 これはテクニカルなので詳しい説明は避けますが、簡単に御説明しますと、フィッシャー指数やトルンクビスト指数というものを生計費指数にするような非常に特殊な効用関数もしくは支出関数を考えましょうと。これは非常に特殊です。ほとんどあり得ないぐらい特殊な関数です。ですが、その効用関数に、その効用関数の構造を維持しながら、たくさんのパラメターを中に放り込むことが可能です。
 例えばよく知られているのが、トランスログ型の関数があります。トランスログ、ログがたくさんついているものですね。これには大量のパラメターがあります。大量のパラメターがあれば、そのパラメターを動かすことによって、任意の効用関数の2階部分まで一致させることができる。そして、実際に観察されたデータからつくられるフィッシャー指数やトルンクビスト指数にもたくさんのパラメター、支出ウエートがあります。ウエートがパラメターになるので、フィッシャー指数やトルンクビスト指数は、生計費指数としては厳密には間違った生計費指数かもしれないけれども、実は、それは任意の生計費指数の近似になっているので、2階までの近似なので、真の生計費指数や真の効用関数がわからなくても、フィッシャー指数やトルンクビスト指数を使う限りにおいて、いい近似になっているのだということを彼は見出しました。
 同じような議論が当時、いろいろなところでされていたのですけれども、それを物価指数に適用したのがDiewertのすばらしいところで、これから何が起きたかというと、フィッシャー指数が任意の生計費指数のいい近似だということがわかってしまったわけで、生計費指数という経済学的なアプローチが指数理論の中で復活してしまったのですね。
 80年代とかに90年代にかけて、ヨーロッパやアメリカで物価指数がどうあるべきかということで大論争が繰り広げられます。物価指数は生計費指数であるべきだという立場に立ったのがアメリカ合衆国で、アメリカ合衆国は、物価指数は生計費指数だとしています。それに対して、ヨーロッパの各国は、生計費指数ではないと言って、アンチ生計費指数という立場。生計費指数という概念がフィッシャー最良指数によって、議論はアメリカとヨーロッパで完全に2つに分かれていて、日本に関しては中途半端というか、生計費指数ということは絶対に宣言していません。むしろ生計費指数ではないと言いながら、実際につくっているやり方はアメリカに似ている。帰属家賃を入れるかどうかというところがポイントなのですけれども、そこで生計費指数、日本は両者の中間になっている。
無論最良指数に対していろいろな批判があるわけですけれども、フィッシャー指数やトルンクビスト指数を使う限りにおいては、多くの批判に対しては答えられる。
 そして、21ページからがようやく本題なのですけれども、日本の実質賃金のデフレーターとして何が望ましいのかという話なのですが、論点が幾つかあります。
 多分、ここで一番大事なのは集計方法というか、どのように集計していくかということなのでしょうけれども、まずは指数算式の話からさせていただくと、まず、Diewertの最良指数であり、かつFactor Reversal、数量指数が厚生になる。つまり、実質賃金イコール労働供給を無視すれば、労働供給に伴う効用を無視すれば、それが厚生の評価になるという点で望ましい。Factor Reversalを満たし、かつ、Diewertの最良指数であるフィッシャー指数が理論的には望ましいことになります。
 問題点は無論フィッシャー指数が公表されていないので、自分たちでつくらなくてはいけなくなります。つまり、計算には基準時・比較時、両方の各商品の支出シェアの情報がパーシェ指数とラスパイレスで両方必要なので、毎期毎回つくる必要があります。さらに、問題点としては推移性を満たさないので、例えば前年同月を計算したとして、次に1年間分の2018年、1年間分の実質賃金はどうなりますかといったら、またつくり直さなければいけなくなります。10年分だとまたつくり直さなければいけません。でも、厳密にやっていけば、それはやらざるを得ないわけです。無論ラスパイレス指数とか、総務省のデータでは、ラスパイレス指数はあくまでも2005年とか2010年の5年刻みの基準年でのみ正しいラスパイレスになっていて、前年同期で実質賃金、物価指数をはかるのは、決してラスパイレスでも何でもないのですね。ロウ指数といって、後で説明するものですけれども、これを厳密にやっていくことは、決して不可能ではありません。ただ、ちょっと面倒くさい作業が必要になります。
 次に、ラスパイレス指数を使う。ラスパイレス指数は24ページに書かれていますが、現在、多分、消費者物価指数に使われていると思うのですけれども、ラスパイレス指数の問題点は、生計費指数ではないので、上方バイアスが生じることがよく知られています。ラスパイレス指数は過大評価とよく言われていると思うのですけれども、これを割り算で使うと、当然実質賃金は下方にバイアスが発生します。問題は、それがどれだけ深刻なのかです。
 これがラスパイレスとパーシェ指数の差で、通常フィッシャー指数がラスパイレスとパーシェの中間にほぼ位置するので、ラスパイレス・パーシェのギャップの半分だけ上方バイアスがあると見ていいと思うのですけれども、25ページのこれは総務省統計局で発表されているパーシェ・チェックです。全国消費実態調査が5年、5年でずっとやっているので、それで常にラスパイレスとパーシェを5年ごとに比較して、それをパーシェ・チェックという。25ページの一番右の列がパーシェ・チェックです。
 最初のマイナス0.2であればほぼ無視できる数字だと思うのですけれども、問題はリーマン・ショックとかGlobal Financial Crisisがあった2005年基準と2010年でやってしまうと、マイナス6.6なのですね。マイナス6.6ということは3.3%の上方バイアスになってしまう。無論上方バイアスが少ないケースもありますが、大きなケースもある。3.3をどう評価するかは、私はかなり大きなものだと思います。上方バイアスがあったとしても、上方バイアスが期によって違っていってしまう。実質賃金が下がった、上がったとして、厚生が上がった、下がったというのですけれども、これは、実はラスパイレスの上方バイアスの可能性もあるわけで、極力そういうものは避けたほうがよいのではないかというのが私の立場です。
 次に、ほかの留意事項が幾つかありまして、まず、26ページですけれども、全国消費者物価指数は基準年が5年に1度改定されていて、それ以外は、この5年間は基準をずっと固定されているので、前年同期比を見る場合は、今年と去年の間、例えば2019年2月の物価指数をとる際のウエートは2015年の支出ウエートになっているのです。つまり、去年も今年も全然関係ない、これはロウ指数という18世紀のイギリスの政治学者が提案したものそのままになっています。ですから、これは留意しておく必要があるでしょう。
 フィッシャー指数を使う場合は、フィッシャー指数をあえてつくる場合は、総務省CPIとの乖離が生じるので、総務省CPIが上がっていても、フィッシャー指数は下がっている可能性も当然あります。その説明責任は厚労省が負うことになってしまいますが、しかしながら、計算そのものは、実は楽で、後で御説明しますが、家計調査の品目がほとんど物価指数の品目と一致しています。家計調査のほうがより細かいので、多少集計する必要がありますが、大学院生にエクセルで、宿題で課せばすぐにできるレベルのものです。これそのものは難しくありません。
 総務省CPIを使う場合の留意事項が幾つかありまして、まず、総務省CPIで、これはいいや。27ページはもう説明しましたね。総務省CPIを使う場合は、ラスパイレスの上方バイアスの問題が発生するということです。
 次の論点が商品範囲です。物価指数をする場合、現在、恐らく帰属家賃を除いた総合を使っているのではないかと思います。帰属家賃の説明はここでしませんが、実際には支出として表れていない、あくまで帰属計算といって、持ち家を持っている場合、持ち家に、自分に対して家賃を払い、家賃収入があるというふうに解釈して、それを支出項目に入れるというのが帰属家賃です。帰属家賃を経済学的に考えるとどういう意味を持つかというと、もしも数量指数を効用水準と解釈するならば、効用水準に影響を与えるものは全部中に放り込むべきです。したがって、経済学的アプローチ、生計費指数の立場で行けば、帰属家賃は当然入れるべきです。帰属家賃以外にも、専業主婦の家庭内労働とか、全て中に放り込むというのが経済学的には正しいアプローチです。例えば家庭内労働をホームヘルパーさんに移行したらGDPが増えるのかといったら、GDPは増えても、実は、家計の厚生は一定かもしれないわけですね。
 実は、国民経済計算に帰属家賃が含まれていまして、帰属家賃は、実際は家計消費の10%程度を占めるのでかなり無視できないものになります。これのおかげで物価が動かないとか、日銀がよく総務省に文句を言っているわけですけれども、問題は、帰属家賃を入れるのは理論的に正しいと言っても、帰属家賃そのものが、計測が非常に困難なもので、大論争が進行中です。ヨーロッパでもアメリカでもかなり論争が続けられています。正しい帰属家賃は神様しか知らないわけで、これはなかなかどれが正しいと言っても、2つ違う帰属家賃の系列を見て、どちらが正しいというのはなかなか判定しづらいという問題があります。家庭内労働もそうで、これは現在、SNAではサテライト勘定で家庭内労働のGDP換算をされていますが、まだまだ実践的にはなっていない。
 29ページですけれども、帰属家賃を計算する。実際に帰属家賃を計算するには、家計調査に帰属家賃の項目がないので、そもそも毎月計算することが不可能です。さらに、帰属家賃を含める場合、問題は帰属家賃の所得も同時に入っているのですね。先ほど消費税を払うとその分だけサービスが返ってくるだろうという議論がありましたけれども、帰属家賃を払ったら、例えば帰属家賃が上昇したら、それで物価水準が上がって、その間支出が増えるのですが、その分所得も増えるので、ネットのゲインは、直接はないのですね。帰属家賃だけを考慮して帰属所得を考慮しないというのは、帰属家賃の概念、議論としては、実質賃金の厚生を把握する上ではよくないだろうと。
 SNAでは帰属所得がここに入っているわけですけれども、帰属家賃を除く、家庭内労働を除くというのは、事前としては正しいものだと私は思います。そのかわり、特に家庭内労働の無視は、先ほどお話ししたように、ちょっと指摘しましたが、専業主婦だった人々が労働を外に出すことによって、家庭内のクオリティーが下がる可能性があるので、決して専業主婦が家庭の外に働きに行くことによって所得が増えたから厚生が上がったとは必ずしも言えない。この留意事項は常に把握しておくべきだろうと考えます。
 30ページは個人、地域情報で、無論こちらの賃金統計、毎勤は個人データではなくて事業所単位のデータであることは把握しています。それでも、たしか男女別とか正規・非正規とかの区別はできていたのではないかと私は記憶しています。つまり、物価指数は、Diewertの最良指数もそうなのですけれども、常に批判を浴びているのは、代表的な個人が1人いて、国全体を代表するその人の家計行動を議論しているという特性で、ディートンとかミクロの人々から批判を浴びるわけです。その点は、指数理論でも最近、よく知られていて、個人によって購入する商品も違う。そもそも価格も違ってしまう。コンビニエンスストアで買うのか、イオンで買うのか、アマゾンや楽天で買うのかでそもそも値段が違うわけですね。こうした違いは計測の問題になっていくわけですけれども、実際に個人属性で、物価指数がどれだけ変わるのかという問題なのですが、これは今、議論中です。ですが、大体アメリカでは高齢者層が低い物価、日本やイギリス、ほとんどの多くの国では高齢者層ほど高い物価に直面しているということが知られているところです。
 次の31ページは総務省の統計局から持ってきたものですけれども、消費者物価指数の対前年変化率で、高齢者と若年層を比較すると、動きとしては大体似ているのですが、よくよく見ると、例えば平成26年では60代の人々が3%以上の物価上昇に対して、29歳以下は2.5%程度になっています。平成29年でも高齢者のほうが結構高い物価指数になっている。プラス1%ポイントとか、プラス0.5%ポイントを高いと見るか低いと見るかはありますが、かなり違いが出てくるときがある。地域間でも当然出てくるでしょうし、男女間で、もしくは非正規・正規間でも起こり得る話です。
 できるだけこういったものをグルーピングして、例えば事業所が東京の非正規の賃金、東京の女性の非正規の賃金ぐらいにもしも分割できるのであれば、それで家計調査の対応をするところを再集計して推計というのが、可能であればそれをすることが、より正確な、アカデミックな立場からはより正しい厚生評価に近づけるものなのではないかと考えます。
 最後、これはまとめで、繰り返しになるので、一旦ここで終わらせていただきたいと思います。

○今野座長
 ありがとうございました。
 それでは、どうぞ御質問、御意見をお願いします。
 どうぞ。

○神林構成員
 ありがとうございました。
 2点大きいことを聞きたいと思うのですけれども、1つは冒頭、企業サイドでは無理だというお話があったのですが、企業サイドの直面する実質賃金と、世帯サイドが直面する実質賃金は違う場合があり得ます。なので、企業サイドでは無理だとおっしゃった真意をかいつまんで御説明いただけますでしょうか。
 もう一つは、先ほど帰属所得の話が出てきたのですが、この点についてもう少し詳しく説明をしていただきたいのですけれども、今までのモデルは全部、一時点で所得が全部発生して、一時点で全部支出するというモデルですが、特に毎月勤労統計調査の場合には月給、月額で考えます。そうすると、年収とはちょっとずれるというところもありますし、月給以外の所得がその世帯に発生するということもあり得ます。なので、帰属所得がどのような役割を、どのようなバイアスを発生させる原因になるのかということについて、さっと説明していただけますでしょうか。
 2点です。

○阿部教授
 企業サイドについては、昨日の夜に思いついた話で、そういえば企業サイドの話をしていなかったということで、ちょっと余計なものをつけ加えたかもしれません。
 これはあくまでも家計の最適化行動を前提にしていますが、企業の最適化行動を考えて一企業にとっての労働者の賃金というものを、企業のアウトプットプライスを用いて実質化するということは、理論的には可能です。問題点は、ある企業を考えて、その企業がつくっているものが1財であればいいのですけれども、複数の財が存在する場合、例えばソニーに勤めている労務担当や人事担当の人の実質賃金は幾つかと考えたら、ソニーがつくっている商品の価格の指数をつくって、その価格指数で割らなければいけないのですが、企業単位の物価指数は、私は見たことがありません。
 無論POSデータを使って企業のデータをひもづけてやろうとしている人々は結構いるのですけれども、まだまだ学会で論文が出て、大議論になって、だめだねというレベルで終わっています。しかも賃金とひもづけることはとてもできていません。ですから、これはいろいろなものが、企業がつくっている生産者行動に対してかなり詳細なデータがないと、これは無理だと思います。
 あと、私はあくまでも家計の専門家なので、できるのかもしれませんが、そういう研究はほとんど存在しませんし、あるとしてもごく一部の産業でしかできていません。企業がつくっているアウトプットプライスの細かなデータがないと、それが無理なのですね。企業側のサイドのデータは、日本銀行がPPIでしたか、企業物価指数をつくられていますが、これは議事録に残るのですね。総務省の消費者物価指数ほどの精度にはなっていないというのが私の認識で、それを使ったミクロのデータ分析もあまり進んでいないと私は理解しています。
 帰属所得に関しては、これはあくまで実質賃金の意味として、厚生評価として考えるのであれば、それは所得も、そこで、厚生評価に帰属家賃が上昇したときに、実質賃金が低下したというふうにされてしまうと問題だと。なぜなら、帰属家賃の上昇は帰属所得の上昇も伴うので、直接効果は打ち消してしまうのですね。相対的な、帰属家賃が上昇したので、人々の消費者行動が変わるという可能性はあります。ですから、あくまでも厚生というふうに考えるのであれば、帰属所得は無視するほうがよりいいだろうと。データ作成上でもそもそも難しいですし、解釈する上でも余計なものが入ってしまうだろうということ。

○今野座長
 ほかにいいですか。
 どうぞ。

○山田構成員
 私自身は民間のエコノミストで、実務的なことをやっているので、そういう感覚から、先ほどの神林先生ともかかわるのですけれども、企業にとっての実質賃金、実質化ということの意味を私なりにちょっと理解しているのは、一種の交易条件ではないかという感覚を持っているのですね。要は、アウトプットとインプットの単価の比ということです。
 アウトプットは単純に、製造業であると数量ということでわかりやすいでしょうけれども、インプットもいろいろなものがあるわけですが、それを抽象的に、原材料もあれば、労働もある。その労働部分だけ持ってきている。そういう意味合いで、労働コストということ。というのは、もうちょっと広い概念で言うと、要は、企業にとってのアウトプットで、インプットですね。それから、家計もアウトプットは効用というふうに考えると、結局全体を考えると、交易条件を見ているのではないかと。そのように私は理解しているのですけれども、それに対してコメントをいただきたいなということ。
 あと、効用比は確かにそうだと思ったのですが、もうちょっと実務寄りに近いところで言うと、私の理解は、購買力というのですか、家計の持っている実質的な意味での購買力をはかっているのが実質化ではないかと。ですから、まさに結論のところで、購買力ですので、お金の取引のないような帰属家賃みたいなところは当然、物価のところは引いていく。ちょっと見ているところが違うのですが、理論的なところからコメントがもしいただければありがたいと思います。

○阿部教授
 企業行動も家計行動も最適化行動の対象が効用関数なのか、それとも、企業の利潤関数なのかだけの違いで、数学的には構造が同じです。家計のほうは観察不可能な効用ということなのですけれども、企業のほうは大量のデータがあるので、企業のほうがより直接的な分析がしやすいといえばしやすいのですが、構成としては同じです。交易条件は、言葉の選び方で、家計の場合は交易条件とか、そういった言葉は言いません。厚生ということで、企業のほうでは交易条件という概念も、無論交易条件ですから、それは確かにインプットとアウトプットのものですから、交易条件というのは、ある種の仮定のもとでは厚生指標になり得るわけで、そうした解釈も可能だと思います。家計サイドでは余りそういう議論はしません。
 購買力は、確かに実施時、もともとの消費者物価指数を最初につくった明治時代とか、その辺は生計費指数といって、それはあくまでも家計の購買力をはかるためのものだと。それをやって、さらに賃金設定の際の基準にする。まさにおっしゃったとおりなのですが、問題は購買力をどう定義するかということで、それはここで数量指数を購買力というふうに私はみなしているわけですが、その購買力というものを理論上こちらで定義したつもりであります。購買力として、単なる購買力であれば、1財で、経済学で行けば、単に一つの価格で割ってしまえば、それは全てリアルになってしまうので、相対価格で、どれで割ってもいいわけですけれども、そこであくまで購買力というものに厚生という解釈を与えることができますよと。

○山田構成員
 ありがとうございました。

○今野座長
 どうぞ。

○樋田構成員
 御説明ありがとうございました。
 幾つか教えていただきたいのですが、実質的な労働者の購買力の変化を測定するという意味で、CPI以外に使えるデフレーターは存在するとお考えでしょうか。

○阿部教授
 CPI以外のデフレーターとしては、無論GDPデフレーターがありますが、あれはもともとCPIデフレーターを加工してつくられているものなので、GDPデフレーターを使う意味がありません。他は、私たち一橋がつくっているデータとか、東大の方々がつくっているデータでもありますが、あとはMITのCavalloたちがつくっているデータもあります。この新しいPOSデータの利点は、1週間とか1日とか、より高頻度でなるべく速報性を持つ、ナウキャスティングですか、それに力を入れているので、精度は高いかどうかはとりあえず、精度は高いかもしれませんけれども、まだ公式統計に比べてそちらを使うメリットが、実質賃金化ではかるメリットがあるかどうか。無論私は一部あると思います。
 なぜかというと、CPIの悪口を言ってもしようがないのですけれども、CPIの最大の問題点は、特売行動を無視しているということにあります。日本の企業は結構特売の頻度によって実質的な価格調整をしているので、あとは実質値上げと言われているものも、CPIでは大分取り入れているものの、完全に取り入れてはいないと私は考えているので、その点はPOSデータを使うものに関しては、その辺の分野に関してはより高精度なものになっていると私は思います。ですが、これはまだ議論が分かれているところで、実質賃金で、公式統計で使うほどの、参考統計で使ってくれる分にはすごくありがたいと私は思いますが、公式統計として使うほどのものはまだ、何せ対象範囲が狭いのですよ。あと、CavalloたちがつくっているBillion Prices Projectですか、あの辺のデータは、データの作成方法に関してたしか公表していないので、かなり大雑把な、ネット上のスクラッピングからつくっていますよというだけで、余り細かくつくられていないので、可能では、つくることはできると思いますが、CPIに比べて特に大きなメリットがあるかどうかは、私はよくわかりません。
 ただ、CPIには、公式CPIにいろいろな問題点があるということを認識して、それでさまざまな参考統計をつくるということはありだと私は思います。

○樋田構成員
 そういたしますと、CPIをベースとして、フィッシャー型のような加工をするということに意味はあるとお考えでしょうか。
 それから、先ほど個人ごとに直面する物価は違うという話がありました。そうすると、理想としては個人ごとにデフレートし、それを集計したものが実質的な賃金になるというのが先生のお考えということですか。そのような処理を、もしもこの統計で行った場合、他の公的統計とデフレーターが変わります。他の統計での物価の処理の仕方と違ってしまうということと、その処理をしても誤差の範囲の程度かもしれないということを考えても、例えばフィッシャー型を使うことや、個人ベースのデフレートをして、それを集計したほうが、賃金統計によって有益だろうとお考えでしょうか。

○阿部教授
 他の統計との整合性に関して、SNAの中を引っかき回すようなものは避けたほうがいいですが、私の理解では、実質賃金のデータはSNAには含まれていないですね。その点では、これはSNAの勘定で入っていないのであれば、別に何を気にする必要があろうかと私は思います。それはより高精度なデータを使うほうが国民のためだと私は思います。
 次に、公式統計にはさまざまな誤差があります。たくさんあるかもしれません。ですが、フィッシャー指数は原則ラスパイレス指数に対して追加の情報を加えてスムージングするというふうに考えてもいいと私は思います。そうすることによって、逆に精度はスムージングといいますか、追加の情報を与えることで、ラスパイレスが含まれている情報を全て使った上で、さらに追加の情報を入れて、ラスパイレスが持っている、ラスパイレス指数は上方バイアスがあるというのは、ほぼ多くの人にとっては共有されている話なので、それを逆に修正するので、誤差は逆に小さくなっていく可能性のほうがはるかに高いです。フィッシャー指数を使うことによって誤差が拡大していく可能性。無論誤差が拡大する可能性があるとしたら、家計調査の毎月のデータの支出ウエートですね。これに誤差が発生する可能性は確かにあります。それに関しては、実務的に大きな変動が発生したら、そこら辺は丸めるなどの処理が必要になるとは思います。
 そこは実際につくってみなければわかりませんが、それでも、比較する上でフィッシャー指数がものすごく大きな変動をしてしまうのであれば、それは仕方がないです。それはつくってみなければわからない。私が見た感じでは、それほど大きな動きはなかった。1週間単位で見ると、すごく大きく変動しますが、月間で集計してしまえばそれほど大きな変動はないし、例えば台風が来て、全然支出がされませんでしたというときの情報を無視するのか。それとも、中に入れるのか。それは誤差なのかどうか。これは誤差かどうかは神様しかわかりません。
 私は誤差つきであろうともそうしたものは公表して、誤差かどうかは使うユーザーが判定すればいいと思っています。

○樋田構成員
 ありがとうございます。
 もう一点なのですが、先ほどのご説明では、特売が入っていないのが消費者物価指数の問題だということでした。消費者物価指数は、短期間の特売を含まない価格変化を捉えるという考えに基づいていると思うのですが、そのあたりの整理はどうお考えでしょうか。

○阿部教授
 総務省が、公式CPIが特売を入れていないのは、ILOがつくっている基準、ベンチマークというかマニュアルに従っているわけで、日本だけではなくて、世界中で特売は入れていません。無論POSを使っている一部のオランダとかの国では入れていますけれども、特売を入れない理由は、特売は通常例外的な現象で、閉店セールとか、もしくは発注ミスで特売をしますというノイズとしての扱いだと私は理解しているのですが、日本の場合、特売は決してノイズではなくて、毎週水曜日は特売とか、毎月15のつく日は特売というふうに、特売は前提に組み込まれていて、インスタントコーヒーとかカップラーメンとか、一時期は9割方のインスタントコーヒーの購買は特売時に行われている。つまり、特売は例外的な状況であればノイズとして除くべきなのですけれども、ノイズではないだろうと。さらに問題点は、特売を変更することによって実質的な価格調整をしているというのが私の最近の研究結果で、実質的な価格調整を無視した動きを物価指数がしているというふうに私は考えています。
 ただ、その辺は総務省がいろいろと、総務省がもともとやっていた価格に関する悉皆的な調査をやめてしまったので、残念ながら特売がどれだけ重要かどうかはなかなかわかりづらくなってしまったのです。私たちのPOSデータでは、特売の頻度はかなり変わるというところで、実質的な価格調整が行われているとしたら、家計の実際の購買行動だけではなくて、販売から見た代表的な商品の価格も動いているのに、公式統計ではそれを十分に把握できていない可能性が高いと思っています。
 では、POSデータでかわりができるかというと、POSデータでかわりができるのはごく一部の品目だけなので、シャツとか家電製品とか、なかなかそこまではできませんから、POSデータで公式統計をつくるべきだとまでは思いませんけれども、公式CPIにはそういう問題があるのだということは認識していただければと思います。

○樋田構成員
 ありがとうございます。

○今野座長
 突っ込んだ話ですけれども、特売はどうやって定義するのですか。スーパーが特売と言うと特売に入るのですか。

○阿部教授
 この辺もアカデミックでいろいろな定義があります。ILOのマニュアルは、たしか5日以上継続してつく価格。5日以内に変動する価格を特売と定義しています。ですが、何で5日なのだといったら、3日とか1週間とかで、最近の研究者は特売フィルターをつくって、特売フィルターをかけた後に特売を除くというふうにしている。どのフィルターが一番役に立ちそうかという競争をしているというのが現状です。

○今野座長
 ありがとうございます。
 どうぞ。

○稲葉構成員
 2つ質問があるのですけれども、一つ一つ分けて質問させていただきます。
 まず、下方バイアスの話なのですが、御説明のところで、基準年からの経過年数が経過すればするほど下方バイアスがかかってくるというお話がありました。前年同月比の実質化といったものを考えた際に、例えば2019年と2018年を比べたときに、2015年を100として考えた場合、2018年よりは2019年のほうが下方バイアスがかかっているというふうに考えてよろしいわけでしょうか。

○阿部教授
 一般的には、下方バイアスや上方バイアスがなぜ発生するかというと、家計の購買行動が変わる。変わったことを反映させるので、変わるというのは、大体相対価格が変わる、もしくは所得水準が変わるとか、いろいろな経済状況が変わってきますけれども、変わる確率が高いのは、期間を長くすればするほど変わる確率が高くなるのです。そういうときに、変わるときに、より高くなった商品を買わなくなるという需要法則ですね。需要法則に従っていれば、ラスパイレスでは上方バイアスが発生します。ですから、一般的には期間が長くなればなるほどバイアスが大きくなっていくはずです。

○稲葉構成員
 ありがとうございます。
 もう一つの質問は、適切な物価指数の選択といった面です。確かに個人で指数を考えるというのが最も適切であると考えるのですが、現状で、公表されているものを使うときに、持ち家の帰属家賃を除く総合指数を使うことも考えられるわけです。そういった場合に、この指数自体は家計調査の2人以上の世帯の消費構造をウエートとして考えて、算出しているわけです。一方で、賃金を考えた場合、単身世帯でももちろん賃金をもらっているわけですので、単身世帯の構造は考慮されていない指数でデフレートするという形になってしまうことになるかもしれません。そういったときに、2人以上の世帯の消費構造をウエートとして用いた指数自体が適切であるのかどうかということはどうでしょうか。

○阿部教授 
 大問題だと私は思います。理想的には個人属性ごとに物価指数をつくるべき。個人ごとは観察に無理があるので、観察可能な個人属性ごとに物価指数をつくり、それを人口構成比で乗率をつけるなりして、それを集計するのがベストです。
 現状は2人以上になっているのですが、実際には高齢単身家計はすごくふえていますし、また、逆に出戻りの人で高齢者世帯に戻ってきている人々もたくさんいるわけで、そうした意味では、完全に個人属性をコントロールすることは絶対に不可能なのですけれども、あくまでもできる限りの属性別で、別々につくって集計するべきだとは思います。
 家計調査でも、たしか単身も入っているので、頑張ればつくれます。ただ、問題はどれだけ変動するかとか、どれだけ信頼性の置けるものなのかどうか。その辺は現場の実務の人々の手ざわり感に依存するのでしょうけれども、理想としては、特に単身世帯の高齢者になると、40代30代に比べて支出の動きが大分違うので、その辺は極力それを反映させるべきであろうとは思います。ただ、賃金、デフレーターをつくる場合に、Wの母集団にどれだけ70代、80代の人がいるかどうかはまた別問題だと。Wのほうで、もしも各データに関して乗率がついて、その乗率が母集団の正確な分布を再現できるのであれば、それに対応する物価を使えばいいと思いますし、その辺はW次第というか、名目賃金の代表性というか、乗率をつけるときにどのようなもので、何を目標に乗率をするかという問題になると思います。

○稲葉構成員
 ありがとうございます。

○神林構成員
 その点なのですけれども、30ページですか、個人、地域情報を使って、個人によって直面する物価が違うということがあるわけなのですが、この属性の中で、この属性のこの辺は異質性がすごく大きくて、この辺は異質性が少ないというようなことはわかっているのですか。

○阿部教授
 物価指数の最先端のところで、ただ、個人間で物価指数が違うという研究は、研究所の北村さんとか宇南山さんも前にされていて、大体彼らの関心は年齢間。最近の研究はほとんど年齢、ライフサイクル行動においてという限定が多かったので、それに関する分析はかなり蓄積があります。
 地域間に関しては、日本の地域間の物価指数の研究は、私はそんなに知りません。ちゃんと行われていないというか、日本の地域間の物価指数も、総務省がつくられているのは、いわゆるPPPのようにちゃんとつくられてはいなくて、物価指数の最先端の議論を反映していませんし、ただ、地域間の物価指数で私が見た感じでは、家賃と生鮮食料品は地域間で大分違います。レベルで見るか、変化率で見るかでまた違ってきますけれども、無論地域間の差が人口構成比の差、もしくは女性の就業状態の差で実は説明できるものなのかもしれません。その辺をちゃんとコントロールした上でつくるべきだと思いますが、その辺はまだ確立されてはいないと思います。ただ、計算するのは結構楽なので、やっていただければと思います。

○今野座長
 どうぞ。

○石原構成員
 物価指数のつくり方というか、例えば新しいプロダクトが出てきて、それをいつ指数の中に、物価の計算の中に入れるかとか、あるいは牛乳が1パック1,000ミリリットルだったのが、同じ値段で900ミリリットルになったとか、そういう変化ですね。実際の経済の変化に伴って入るものが変わってくるという部分があると思うのですけれども、基本的な質問なのですが、それは例えば総務省の物価指数だと5年に1回の改定のときに一緒に考え直すという形になっているのでしょうか。

○阿部教授
 違います。総務省は毎月対象銘柄の品目を変えていまして、どの銘柄をどのように変更したかも全部公表されています。
 問題は、テレビとか、物価指数の動きを見ていただくとすぐにわかるのですけれども、冷蔵庫とか電子レンジの値段、価格を見ると、毎年ぽんぽんと、つまり、新製品が登場のたびにぽんとはね上がるのですね。テレビは特に新型テレビになったとき、毎年テレビが出るときに、みんな民間の人は緊張すると思うのですけれども、公式CPIが動くときはテレビで動かされるケースが結構あって、新商品をそのまま、それまで10万で売られていたものが15万円の新商品を買ったら5万円テレビの価格が上がったというふうにされてしまっているので、それが結構問題になっている。
 新しい銘柄に変更する頻度が高いですね。それは正しいことは正しいのですけれども、問題はその入れ方をどうするべきか。これは大論争中で、特に牛乳の値段が1,000円から900円になったときに、よりおいしくしましたとか、カップをあけやすくしましたという付加価値をどう判断するのだと。多分、総務省はそれを何も考えていない。1,000を900で割って、それで値上げというふうにしていると思うのですけれども、実際に家計の判断というか、クオリティーの判断、家計側の判断で、これはとても難しい。
 さらに問題なのは、指数理論で問題になっているのは、iPhoneのようにカテゴリーを破壊するような新商品が出てきたときに、それをどう構成に入れるのだと。これはまた大問題で、特に最近、我々は物価指数だけではなくて、経済発展にとって新商品の投入は大事だろうという議論があります。また、一つの解釈、一つのやり方は、新商品を無視して継続商品だけ限定するというアプローチもあるのですが、多分、こちらの賃金に関しても継続企業に限定しているというふうになっているのです。
 継続商品だけに限定すると、継続商品の中には崩壊寸前とか消滅寸前の商品が結構あって、数量指数で見るとマイナスになっていく傾向があるのですね。その辺は新しい商品の中に入れて分析せざるを得ないのですけれども、難しい。とても難しい。その辺は総務省の方々に聞いてもらうしかないと思うのです。

○石原構成員
 そういう継続事業所みたいな、変わらない商品だけを選んで指数をつくるというような話はあるのでしょうか。

○阿部教授
 総務省が選んでいる商品は、原則そのマーケットで最大売上の銘柄をとってきているのです。最大銘柄は、例えばカップラーメンであればチキンラーメンとか一番定番ですね。定番商品であればなるべくそういうことが発生しないようにはなっているのです。ですが、例えばアイスクリームではたしかハーゲンダッツのバニラが対象品目になっていますが、ハーゲンダッツのバニラが値上げした瞬間にぽんとはね上がるのですね。ところが、アイスクリーム全体は徐々に上がっていって、ハーゲンダッツが5年に1度か6年に1度上がるときにぽんとはね上がってしまう。
 これが正しいか、間違っているものかということは、私は間違っていると思っているのですけれども、継続商品に限定してしまうと、最後の1個を投げ売りとかにしてしまうと、継続商品限定で価格がゆがんでしまうし、数量も、最後の10個とか20個だけ残っている継続商品もデータには出てきてしまうので、数量指数がマイナスになってしまう。消えていくものはデータに残っていても、新しく入ってくるようなものは物価に入ってこないので、全体としては定常というかプラマイゼロになっていてもマイナスのところだけとってきてしまうので、やはりそれは問題になるわけです。
 その辺はどうやって計算するべきかということは大論争中で、総務省がベストエフォートをやってはいるけれども、私たちは常に批判しているということです。

○石原構成員
 ありがとうございます。

○今野座長
 将来的に全てが電子決済で、特定の、アマゾンがもっとビッグになって、そうすると、アマゾン指数が一番正確とかいうことはないですか。

○阿部教授
 数量の情報がアマゾンにもしも入っていれば、そうしたもので。

○今野座長
 日本中全体がアマゾンを利用していれば。

○阿部教授
 オランダが既に、現金決済から全て、政府がたしか統計データの記録をしているはずで、そちらで物価指数をつくろうと思えばつくれるはずではありますが、そこまで私は話を聞いていません。ただ、現実、取引記録が全部残っていれば、そこから物価指数をつくるというのがベストではあります。

○今野座長
 少なくともあれですね。大手のスーパーはPOSで全部情報をとっているので、社内的にはそれに似たようなことはやっているということですね。

○阿部教授
 宣伝させていただければ、私たちがやっている、一橋がつくっているPOSデータのCPI値は全国数千店舗のPOSデータを自動的に吸い上げて、フィッシャー指数的なSato-Vartia指数をつくって毎週発表していて、それはなるべく速報性があって正しいものだと信じてつくっております。ただ、品目は限定されています。スーパーで売られているものに限定です。

○今野座長
 ほかに、いかがでしょうか。
 どうぞ。

○山田構成員
 先ほどの議論をされているところで言うと、もともとCPIの、ラスパイレスももちろん上方バイアスがある。これも数年前に物価指数のときにかなり議論があったと思うのですけれども、いわゆる質の向上部分がかなり過小評価になっている。そうすると、今、使っている毎勤統計で実質化しているところの数字だと、一つはパーシェにしていないということのバイアスと、もう一つは、質的向上部分を過小評価しているのではないかということで、かなり実質賃金が下方バイアスを持つというふうに理解してよろしいのでしょうか。

○阿部教授
 質の調整に関しては、逆の議論もありまして、例えば携帯電話とかスマートフォン、もしくはコンピュータのCPUとかメモリーとかで質をはかっていいのか。今、携帯電話がデフレーターの日本の物価の上昇の停滞の一因だと議論する人もいるのです。確かに性能は上がっているのですけれども、ウェルフェアが上がっているか。つまり、質の向上というのは、物的にはかれるものと、あと、家計の厚生というか、効用タームではかるべきものと両方があって、質で、究極は、私は消費サイドの人間なので、家計の厚生ではかるべきだと。そうだとしたら、携帯電話の性能向上は確かに厚生を上げているけれども、CPUの向上やメモリーサイズではかるほどには上がっていないだろうと私は考えています。そこはヘドニックということで、そこでかなり強引に彼らはヘドニックをやっているわけです。
 あと、質の向上とか、帰属家賃の上昇も、帰属家賃が停滞しているのも、一部の人々は同じ家にずっと長いこと住み続けることで、家の減価償却がどんどん進んでいくはずなので、それを無視しているという議論もありますし、では、法隆寺が1,000年も建っているのはなぜだという議論も当然あるわけで、その辺は、最後は人々の持つ厚生次第。日本の物価指数が質の向上を十分に反映していないという議論は、私はくみしません。無論質の向上が不十分な調整をされているとは思いますけれども、あるところでは過大になって、あるところでは過小になっているということです。

○山田構成員
 もう一つすみません。30ページの集計で、個人ベースでやるのが一番いいのではないかという御意見なのですけれども、家計ベースのほうがいいという議論はないのでしょうか。家計と個人、どちらで見たほうがいいのか、ある程度これは使うときに、やろうと思ったらできると思うのですけれども。

○阿部教授
 大問題です。家計消費の分析で単位をどうするべきなのか。私たちがモデリングをするときには、個人レベルで経済モデルをつくるのですが、当然結婚していれば、シェアできるものがありますから、2人で住むのと1人で住むのとでは全然コストが違うのです。では、2人家計と1人家計をどう行動モデルをつくるかは、ようやく使えるモデルができ上がりつつあるというか、協力ゲームとか非協力ゲームを使って、がちゃがちゃやっていたのですけれども、ようやく使えるモデルが提案されたのが今から数年前で、それでようやく通常のデータに落とし込んで分析することが可能になりつつはあるのですが、複雑な非協力ゲームみたいなモデルになっているのです。
 実際には、家計内の消費を分解することができないので、旦那向け、子供向け、おばあさん向けというのが、データとしては家計単位にならざるを得ないのだろうと私は思います。家計単位で見るときに、家計でどのようなパラメータをつけるのか。これはEquivalent Scaleという問題になるわけですけれども、実は残念ながら、Equivalent Scaleもよほど強い仮定を置かない限り観察可能なものからEquivalent Scaleを推計することはできないという研究結果が今から十数年前に発表されておりまして、仮定をぼんと置くしかない。ルート2であるとか、もしくは年齢でパラメータを置くとか、その辺は統計をつくる人の自己責任で、例えば15歳以下の人は何倍とかいうふうにつくらざるを得ないのだろうと思いますが、実際的には家計単位でやらざるを得ないと思います。

○今野座長
 それでは、まだあるかもしれませんが、大分長い間議論させていただきました。終わりたいと思います。本当にありがとうございました。

○阿部教授
 ありがとうございます。

○今野座長
 それでは、今日のヒアリングはこれで終わりたいと思います。その他について、何かありますか。

○瀧原統計管理官
 本日は特にございません。

○今野座長
 それでは、私の仕事は終わりかな。
 事務局にお願いします。

○細井統計企画調整官
 長時間にわたりまして御審議いただき、ありがとうございました。
 次回でございますが、連日になって恐縮でございますが、明日、3月7日木曜日、15時半から17時半。場所は本日と同じこの建物でございますが、6階の606会議室になります。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、これをもちまして、第3回の検討会を閉会させていただきます。
 本日は、お忙しい中を御出席いただきまして、まことにありがとうございました。
 

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<照会先>
政策統括官付参事官付雇用・賃金福祉統計室
電話:03-5253-1111(内線7609,7610)
政策統括官付参事官付統計企画調整室
電話:03-5253-1111(内線7373)

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