ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 労働基準局が実施する検討会等> 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会> 第12回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会(2017年1月30日)




2017年1月30日 第12回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会

労働基準局

○日時

平成29年1月30日14:00~16:00


○場所

中央合同庁舎5号館共用第6会議室(3階)


○出席者

荒木 尚志(座長) 石井 妙子 大竹 文雄 垣内 秀介 鹿野 菜穂子
小林 治彦 高村 豊 土田 道夫 鶴 光太郎 徳住 堅治
斗内 利夫 中村 圭介 中山 慈夫 長谷川 裕子 水島 郁子
水口 洋介 村上 陽子 山川 隆一 輪島 忍

○議題

・解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について
・その他

○議事

 

○荒木座長 それでは、ほぼ定刻になりましたので、ただいまより第12回「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催いたします。

 委員の皆様におかれましては、本日も御多忙のところを御参集いただき、ありがとうございます。

 本日は、岡野貞彦委員、小林信委員、八代尚宏委員が御欠席であります。また、日商の小林委員は若干おくれての到着と聞いております。また、鶴委員は所用により途中退席の予定と伺っております。

 本日の議題ですが、「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」です。

 では、お配りしました資料の確認を事務局よりお願いします。

○大塚調査官 資料は2点ございます。

 資料No.1が、「検討事項に係る参考資料」で、横置きの資料。

 資料No.2が、「検討事項」、縦置きの資料でございます。

 もし不足がありましたら、恐縮ですが、事務局のほうまでお申し出くださいませ。

○荒木座長 よろしいでしょうか。

 それでは、本日より「解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性について」の議論に入ることとなります。

 本日以降の議論の進め方としましては、検討事項にもあるように、今回、制度の基本的な仕組みの在り方について議論を深めていただき、本日の1回で議論が終わらなければ、次回も本日の続きの議論を行うこととし、それ以降の回で金銭的・時間的予見可能性を高めるための方策の在り方について議論することにしたいと考えております。

 本日の進め方ですけれども、まず、事務局より資料No.1とNo.2を全体を通して説明いただいた後に議論に移りたいと思います。

 それでは、事務局より資料1と2に基づいて御説明をお願いします。

○大塚調査官 それでは、御説明させていただきます。

 資料No.1の3ページをお開きください。解雇の金銭救済制度につきましては、過去2回、検討が行われてきておりました。その過去に関する資料がこちらについてございます。3ページ目は、平成15年の労働基準法改正に先立ちまして、労政審から出された建議の抜粋でございます。平成15年の労基法改正では、解雇権濫用法理が労働基準法の第18条の2に設けられた改正でございましたけれども、そのときにあわせまして解雇の金銭解決制度についての検討も行われてございます。

 このページの下のほうの(2)に該当箇所がございます。2行目の後ろのほうに書いてございますように、裁判所が当該解雇は無効であると判断したときに一定の制度を設けるということでございまして、具体的には次の行から書いてございますように、労使当事者の申立てに基づく制度だったわけですけれども、使用者申立てに関しましては、その次に書いてございますように、解雇が公序良俗に反して行われたものでないことや雇用関係を継続しがたい事由があること等の一定の要件をさらに課すという制度設計にしておりまして、その場合には労働契約を終了させて、使用者に対して、労働者に一定の額の金銭の支払いを命ずるというたてつけになっております。

 この文章の書き方からおわかりになろうかと思いますけれども、裁判所で一定の判断をすることを前提といたしました、いわば裁判手続の中にどうやって制度を組み込んでいくかという観点で議論が行われたものと思われます。

 また、金銭の額につきましては、その下に記述がございまして、「この場合に」の行ですけれども、厚生労働大臣が定める額によるとなってございます。こちらが平成1412月に出た建議でございます。

 次の4ページをお開きください。4ページは、同じく労政審におきまして、その翌年2月10日に、現在、事務局で検討している検討内容について御報告したときの資料でございます。

 2の判決等による労働契約の終了の箇所に記述がございますけれども、(1)の冒頭をごらんいただければと思いますが、先ほどの建議とちょっと表現が変わっております。「労働者は、判決で解雇が無効であることが確定した場合において」という書きぶりに変わってございます。これは、建議のときには「判断した場合」ということで、解雇確認訴訟において、確認の判決がなされたことが前提なのかどうが、いわば曖昧な表現になっておりましたけれども、こちらの表現では、そういった確認判決が得られていることが明記されているという理解かと存じます。

 そういった場合におきまして、その次にありますように、当該労働者が職場復帰したとしても、労働契約の本旨に従った義務を履行することが困難となる状況が生じることが明らかであるときという場合に限りまして、退職と引きかえに一定の金銭を支払うという仕組みを設けようとしたものでございます。

 (1)は基本的に労働者申立てですけれども、(2)は使用者申立ての記述でございまして、使用者は、判決で解雇が無効であることが確定した場合、ここの表現は一緒でございます。次のいずれにも該当するということで、ア、イ、ウの3つの要件、全てを満たすことをさらに加重的に求めているという制度設計になってございます。

 アは、いわば法律によって解雇が制限されているような解雇などに該当しないことなどが書かれております。イは、労働者の言動が原因となって、いわば信頼関係が壊れて、それで労働契約の本旨が履行できないような場合といったことを書かれております。ウは、補償金の支払を約すること。このア、イ、ウの全ての要件を満たした場合に使用者申立てを認めるというたてつけになってございます。

 (3)は補償金の額についてですけれども、平均賃金の○日分ということで、具体的な額についてはブランクになっているということでございまして、(4)は損害賠償の請求などを別途起こすことについては、これは妨げないということが明記されているというたてつけになってございます。

 これにつきましては、労使双方からさまざまな御意見、反対意見、反発意見がございまして、一番下の矢印に書いてございますように、その3日後、2月13日に出された労政審の要綱諮問の段階では、この解雇の金銭解決部分は丸ごと落とされているという経緯をたどりました。

 具体的に労使がどういう部分について反対したかについて書いてございますのが、次の5ページでございます。こちらは、かなり時代が下りまして、平成26年に当時の村山課長が、鶴委員が座長を務めていらっしゃいました規制改革会議の雇用ワーキングのほうに当時の経緯を御説明した際の議事概要でございます。

 前のページの法案の検討内容と照らし合わせながらごらんいただければと思いますが、まず労側が反対したのは大きく3点ございまして、4ページの2の(2)に使用者申立ての記述がございましたけれども、いかに限定的といえども、この使用者申立てについて導入することについて反対というのが1点ございました。

 もう一つは、4ページの2の(1)の冒頭の部分ですが、「判決で解雇が無効であることが確定した場合」という書き方に、建議のときに比べて変わっております。これは、解雇の無効確認をするための確認訴訟を起こして、そこで解雇の有効・無効についての判断が固まった後に、さらなる手続をという表現になっているわけでございます。そうなりますと、1回の手続で終わらない、時間がかなりかかってしまうのではないかという御指摘などがあって、反対ということでございました。

 労側の反対の3点目は、その次に書いてございます「当該労働者が職場復帰したとしても」云々の部分でございまして、ここの部分の書きぶりなどについて、さまざまな御意見があったという経緯でございました。

 一方、使用者側でございますけれども、4ページのア、イ、ウ、3つの要件、いずれもということでございましたけれども、この3つの要件、いずれもというのは要件として非常に厳しいということが1点。

 それと、(3)の補償金の額についてでございますが、結果的には○日分ということでブランクであったわけでございますけれども、ここの部分について、大企業のほうで一般的に行われております退職金の上乗せのようなものを、一般の中小企業などについても制度として広めるとなると、額の内容によって非常に負担感が強くなるといった反対意見などがございました。ということがこの5ページに書いてございます。

 次の6ページは、平成17年に出ました労働契約法制の在り方に関する研究会、在り方研と、当時俗称されておりましたけれども、それの抜粋をつけてございます。背景について申し上げますと、この在り方研の後に労政審で議論が行われまして、その後、労働契約法案というものを政府として確定し、国会のほうに御提案申し上げたという、それの前提ではないのですが、前段階で行われた研究会でございます。

 ほかのADRの仕組みがどうなったかと申し上げますと、労働局のADRにつきましては、平成1310月から施行されていますので、この段階では大分時間がたっているということでございますが、他方で、労働審判制度につきましては、法案自体は成立していたものの、施行は18年4月からでございますので、まだ労働審判制度の運用は始まっていない。そういう時点での研究会報告書でございました。

 メンバーといたしましては、この検討会でも御参画いただいております荒木座長ほか、山川先生、土田先生にも御参画いただいたという経緯でございます。

 中身的には、7ページ以降でございます。平成17年9月15日にまとめられた研究会報告書でございまして、このときには労働契約法全体についての研究を行ったということですので、解雇権濫用法理に関する議論のほかに、解雇の金銭解決についての議論も行われということで、7ページの下段のほう、3として、解雇の金銭解決制度の記述がございます。

 この下の記述はちょっと長いですけれども、当時の在り方研の中でさまざまな委員の方が御参画いただきましたけれども、そもそもこの解雇の金銭解決制度について積極的に検討すべき、あるいはそれに対して、やや消極的といった意見、さまざまございましたので、そういった各委員の方々の意見を並べているのが、ここの部分の記述でございます。

 次の8ページに、具体的な在り方研としての考え方を示してございます。

 まず、検討のコンセプトが冒頭の2行ぐらいに書いてございますけれども、この研究会におきましては、1行目の後ろにありますように、まず、実効性があって、かつ、濫用が行われないような制度設計が可能であるかどうかについて法理論上の観点から検討を行ったという趣旨書きが書いてございます。

 その次の3、4、5行目あたりに書いているのですけれども、平成15年の改正のときには、先ほどごらんいただきましたように、最初の建議段階では、一回的解決なのかどうなのかがちょっとはっきりしなかったところ、検討を進めていくに伴いまして、1回の裁判では無理なのではないかということになってしまったというのが、平成15年のときの経緯でありました。そういった反省も踏まえまして、この17年在り方研におきましては、ここの3行目から5行目に書いてございますように、同一の裁判所において、いわば一回的に終えるための仕組みについて検討すべきであるといったスタンスで議論を行ったものでございます。

 具体的な内容につきましては、次の(1)が労働者申立てによる金銭解決の仕組みでございます。これについて、またアの上のところにずらずらと書いてございますけれども、ニーズなども含めまして、積極派、消極派、各委員の御意見ございましたので、それが記述されているところでございまして、具体的な制度論といたしましては、アの一回的解決に係る理論的考え方のところから始まります。一回的解決というのは、きょう御議論いただく際にもたびたび出てくるワードかと思いますけれども、1つの裁判手続の中で終局するといった仕組みを前提としたものでございます。

 この17年の在り方研のときの一回的解決に係る考え方といたしましては、2つ目の「これについては」のパラグラフのところに書いてございますけれども、2つの訴訟を同時に起こすような方法が提起されております。具体的には何かと言いますと、1つは、従業員たる地位の確認を求める訴え。これは、一般の地位確認訴訟でございます。

 もう一つが、いわば将来を約束するような判決を求める訴えのように見受けられるのですけれども、その訴えを認容する判決が確定した場合において当該確定時点以後になす本人の辞職の申出と引換えとする解決金の給付を求める訴え。この2つの訴えを同時に行うものと整理することも考えられるといったことが、この17年在り方研では提言されておりました。

 次のページでございますけれども、9ページのイでは、解決金の額の基準について記述がございます。これにつきましては、冒頭3行では、使用者団体、中小企業の人事労務担当のヒアリングによる意見が書かれておるわけですけれども、企業横断的に一律には決められないといった意見が記載されております。

 「これについては」のところで書いてございますけれども、個別企業における事前の集団的な労使合意(労働協約や労使委員会の決議)がなされていた場合に限って認める。その金額の基準につきましても、この事前に定めた労使合意の基準に従うといった考え方が示されております。17年在り方研のときには、この解雇の金銭解決制度に限らず、ほかの箇所、例えば就業規則の合理性の推定とか、いろいろなところで各企業ごとに事前に労使が合意しておく。そこでルールを決めたものに従ってやっていくという考え方が散りばめられておりまして、こちらでもその一環として書かれたものでございます。

 次に、このページの(2)でございますが、使用者申立てについても詳細な記載がございます。使用者申立てにつきまして、9ページの(2)の下に書いてございますのは、ニーズとか必要性などについて積極・消極の意見、双方ございましたので、これについて17年在り方研の各委員の御意見を並べたものでございます。

 具体的な制度論の記述は、次のページから記載がございます。この解雇の金銭解決制度の、特に使用者申立てに関しましては、いろいろな批判がこれまでもあったところでございました。当時言われた批判としては、アの柱書きに書いてございますように、「違法な解雇が金銭で有効となる」のではないか。あるいは「解雇を誘発する」のではないかといった批判。

 あるいは、イの柱書きにございますように、使用者による解雇の金銭解決制度の濫用の懸念があるのではないかといった批判がございまして、この17年在り方研では、それに対する反論といいますか、対応策について記載があります。

10ページのアの部分からですけれども、まず「違法な解雇が金銭で有効となる」等の批判に関しましては、3行目の後ろのほうでございますけれども、解雇が無効であると認定できる場合に限って行ってはどうかという記述がございます。

 その後ろの「なお」書きのパラグラフの2行目の後ろのほうでございますけれども、裁判を必要とする。これを1つ目の要件として提起しております。

 さらに、2つ目としては、次の「また」書きのパラグラフの2行目からでございますけれども、対象となる解雇についての記述がございまして、人種、国籍、信条、性別等を理由とする差別的解雇とか、労働者が年次有給休暇を取得するなどのいわば正当な権利を行使したことを理由とする解雇については除くといったことがうたわれております。

 さらに、3点目ですけれども、その後ろの「さらに」のところに書いてございますように、使用者の故意又は過失によらない事情であって労働者の職場復帰が困難と認められる特別な事情がある場合。こういった要件を付加することが提起されておりました。

 次に、イの使用者による解雇の金銭解決制度の濫用の懸念についての部分でございますが、ここについては、先ほど労働者申立ての金銭基準のところに書いてございましたように、ここでも事前の集団的な労使合意というものを要件として課すことが提言されておりました。

 次の11ページは、使用者申立ての場合の解決金の額の基準でございます。ここでも同様に、個別企業における労使間の事前合意といったものを要件として課すということが1番目のパラグラフに書いてございます。

 「ただし」のところに書いてございますけれども、使用者による金銭解決の申立ての場合の金銭の額の基準が、労働者の申立ての場合の額の基準よりも低いものであってはならないといった考え方も、あわせて示されております。

 また、一番下の行に書いてございますように、額の最低基準を法律で定めることも考えられるものであるといった考え方も、あわせて示されております。

 最後の(3)双方の申立ての関係ということで、今、ごらんいただきましたように、17年在り方研では、労使双方の申立ての制度を設けることを提言した上で、事前の労使合意を要件として求めているわけでございますが、個々の企業で事前に労使合意する際に、労側申立てだけを認めるというのはオーケーです。他方で、労側申立ては認めず、使側申立てだけを認めるような事前の労使合意はだめですよといった考え方が、この(3)で示されております。

 このような17年在り方研の報告書の後に、労政審で1年以上にわたりまして労働時間法制とともに議論が行われまして、その結論が次の12ページに書かれてございます。平成181227日に出た検討諮問に対する答申でございますけれども、下の(3)に書いてございますように、労働審判制度とか個別労紛制度の状況を踏まえつつ、引き続き検討することが適当であるということで、いわば今回の労働契約法案の中には盛り込まないといった結論が、この12ページでなされております。

 このときには、先ほどごらんいただきました15年改正の反省を踏まえまして、1回の裁判手続で終わらせるといったものを指向して検討を重ねてきたものでございますけれども、実務上も、1回の手続で、当時考えたやり方では無理なのではないかという結論に当時、至りまして、それのまとめが13ページに記載してございます。13ページのこの資料は、当時の労政審などに示されたものではなくて、いわば本邦初でございますけれども、当時、事務方で検討していた結果をまとめたものでございます。

 1に書いてございますのが、17年のお題設定でございまして、裁判手続の中で一回的な解決を図るということで、当時の事務局は、1のマル1からマル3の判決を同時に1つの裁判手続の中で求めるといった設定のもとで検討を重ねまいりました。1つ目は、解雇の有効・無効を争う確認の判決。もう一つが、使用者が労働者に一定の金銭を支払う給付の判決。3点目が、その一定の金銭の支払いがなされたことを形成原因といたします、法律関係の変動、すなわち契約関係が終了することを宣言する形成の判決。この3つの判決を一つの裁判手続でできないのかということで、検討を重ねてまいりました。

 ただ、それにつきましては、2に書いてございますように、日本の裁判制度上、無理だという結論に達したわけでございますけれども、1つは、2つ目の給付の判決と3つ目の形成の判決の関係性についてでございます。3つ目の形成の判決につきましては、これは一定の金銭の支払いという形成原因が成就して、初めてなし得る判決でございますけれども、これを1つの裁判で給付の判決と同時にやるとなると、判決時点では、まさにそのときに給付の判決がなされたものでございますので、まだお金が支払われていない。お金が支払われていない以上、形成原因が成就していないので、形成の判決は書けないということでございまして、無理だということになりました。

 また、2のマル2に書いてございますように、解雇の確認訴訟について同時に訴えるということになりますと、この有効・無効が確定するまでには三審を要するといった問題もあわせて出てくるということがありまして、結論としては、このマル1からマル3の3つの判決を同一の裁判手続で求めていくという、17年のときの検討のやり方では、日本の裁判制度上、無理だという結論に達したものでございます。

 3と4は、仮に2回的解決、すなわち2段階の裁判に分けた場合の問題点について記載してございますけれども、これも2つございまして、1つは、2回の裁判手続に分けるとなると、解雇の有効・無効が確定するまでに三審、そして、その残りの法律関係の変動まで含めてだと三審、計六審かかって、すごく時間がかかってしまうということ。

 もう一つは、先ほど申し上げた給付の判決と形成の判決が同一の時点では相いれないという点については、2回に分けたところで同様といったことがございまして、結論として無理だったということになりました。

 次の14ページは時代が最近にまで下るわけでございますけれども、今回の検討に当たっての閣議決定等を並べたものでございます。14ページは、日本再興戦略改訂2016で、これは皆様方にも何回かごらんいただきましたけれども、下に傍線を引っ張ってございますように、解雇無効時における金銭救済制度につきまして、その在り方と必要性を含めて検討するといったことになってございます。

 これは、その下にある改訂2015で、さらに具体的な金銭救済制度の在り方として、括弧書きに書いてございますように、雇用終了の原因とか補償金の性質・水準等といったことも書かれてございまして、いずれにしても、必要性のみならず、在り方についてもあわせて検討するということが閣議決定で求められているところでございます。

 次の15ページは、規制改革会議の関係でございます。まず、15ページに掲げておりますのは、「労使双方が納得する雇用終了の在り方」に関する意見として、規制改革会議としての意見が掲載されております。

 鶴委員が座長をされておりました雇用ワーキングのほうで、この労使双方が納得する雇用終了の在り方について議論がなされておりまして、個紛制度の活用も含めた議論が行われたわけでございますけれども、解雇の金銭解決制度につきましても審議が相当行われておりました。

 次の16ページから改革のポイントということで記載がございまして、改革のポイントの「また」の4行目に書いてございますように、不当解雇に対する権利行使方法として労働者側に金銭解決の選択肢を付与するといった考え方が明示されております。

 その下の3.今後取り組むべき課題として掲げられておりますけれども、解雇の金銭救済制度については、次の17ページでございますが、裁判所の訴訟における解決の選択肢の多様化に向けた解決金制度の検討ということで、傍線を引っ張ってございますように、労働者側からの申立てのみを認めることを前提とすべきであるということで、労働者申立てに限定した検討をということがうたわれております。先ほどごらんいただきました日本再興戦略のほうでは、申立て主体については特に言及されていないといった事情にございます。

 次の18ページは、規制改革実施計画ということで、今ごらんいただきました規制改革会議の意見を踏まえて閣議決定されたものでございまして、真ん中の規制改革の内容の下のほうでございますけれども、今ごらんいただきました「『労使双方が納得する雇用終了の在り方』に関する意見」に掲げられた課題等について、論点を整理した上で検討を進めるということが閣議決定されております。

 次の19ページは、後ほど御議論いただく際の対象となる解雇はどうすべきかといった検討項目に関する資料でございまして、業務上の傷病による休業期間及びその後30日間につきましては、労基法で解雇が制限されております。また、その下にありますように、産前産後休業期間とその後の30日ですとか、国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇につきましても、解雇が制限されています。

 労基法のみならず、男女雇用機会均等法とか育児・介護休業法などのほかの法律におきましても、解雇が制限あるいは禁止されているといったことがございまして、こういった解雇について、仕組みの検討の際にどうすべきかということが参考になろうかと思います。

 次の20ページは、ちょっと古いのですが、2005年にJILPTが解雇の無効判決を得た後に職場に復帰しているのかどうかといった状況を、労使双方の弁護士に尋ねたものでございます。回収率が低くて、母数もちょっと少のうございますので、参考ではございますけれども、このページの右下にありますように、解雇無効判決の後に、職場復帰せずといった割合は、労使双方ともに4割程度存在するということでございまして、労側弁護士のほうには、その復帰せずのほかに、一度復帰したが離職したという割合も16.3%存在するというアンケート調査結果になってございます。

 最後の21ページは、今までの検討会でも御提示してごらんいただいたかと思いますけれども、諸外国における仕組みの紹介でございまして、国によって裁判上の仕組みも違えば、その取扱件数も違いますし、前提となる事情はさまざま異なるわけでございますけれども、ヨーロッパ諸国などにおきましては、不当解雇などに関しまして一定の金銭を支払うことで一定の解決を図るということが、何らかの形で措置されているのではないかということが見受けられるものでございます。

 以上が資料1の、御議論に当たって参考にしていただくファクトに関する資料でございました。

 次に、資料2「検討事項」ということで、2枚紙でございます。

 2の解雇無効時における金銭救済制度についてということで、1つ目の○は、これまでの検討会での御議論を踏まえて、事実認識として記載したものでございます。これまで載せていたものと同様の表現でございますけれども、解雇無効となった場合でも職場復帰しない方が一定数存在するのではないか。あるいは、労働審判制度などの既存の手続の中で、金銭で解決されているという状況もあるのではないか。さらには、解雇の無効確認訴訟ではなくて、それにかえて解雇を不法行為とするような損害賠償請求訴訟というものも、一定程度行われてきているのではないかといった事実認識でございます。

 次の2つ目の○でございますが、「日本再興戦略」改訂2015等で掲げられている解雇無効時における金銭解決制度については、これまでの検討会におきましても、制度導入に賛成の立場と反対の立場の双方があったかと思います。これにつきましては、個別の検討事項について議論を深めた上で、制度の在り方とその必要性について検討することとしてはどうかという検討の方向性が示されております。

 3番目の○でございますけれども、今、御紹介したような「日本再興戦略」改訂2015等を踏まえまして、具体的な検討の視点が書かれております。2行目にありますように、国民にとってわかりやすいものにする必要があるのではないか。あるいは、労働者及び使用者双方にとって予見可能性があって、労働者の保護が図られて、当事者の納得を高めて、解雇をめぐる個別労働関係紛争の未然防止や迅速な解決に資するような仕組みが可能か、検討することが必要ではないかということでございます。

 「また、併せて」のところでは、これまでの検討会で出てきた御意見も踏まえてのものでございますけれども、濫用的な利用を防止でき、かつ、既存の労働紛争解決システムにマイナスの影響を与えることのないような仕組みが可能かということも検討することが必要ではないかということが書かれてございます。

 ※印のところは、今回の検討に当たって、いわゆる「事後型」に限定して検討を行うことが前提といったことを記載しております。

 次の2ページ目でございますけれども、御検討いただくに当たりまして、具体的な検討項目について個別に4つ書き出させていただいております。

 1点目が、現行制度との関係についてということでございまして、御案内のとおり、今の仕組みにおきましては、行政ADRや労働審判制度もある中で、訴訟に行くとなった場合には、まず1つは、労働契約法第16条に基づきまして、解雇の有効・無効を確認する確認訴訟を起こして、さらにバックペイも請求するといった争い方ができるわけでございます。一方で、先ほど触れましたように、法律上明確な仕組みはないのですけれども、不法行為請求ということで給付の訴訟を起こすこともできているわけでございますけれども、そういった現行の仕組みとの関係について、どう考えるかといった検討項目が1点目でございます。

 2点目が、対象となる解雇についてということで、先ほどの資料1の19ページでも御紹介いたしましたけれども、労働基準法、その他の法令におきましては、解雇が禁止・制限されているような場合もございます。そういったものにつきまして、この制度の対象とするべきなのかどうかといったことが2点目でございます。

 3点目が、一回的解決についてということで、資料1でご覧いただきましたように、15年の改正時あるいは17年検討時におきましては、裁判上の手続に乗せて、どういう判決を求める仕組みを構築すべきかという議論が行われておりまして、その結果、一回的解決にすべきかどうかということも非常に議論になったわけでございますけれども、今回につきましても、この一回的解決が可能となる仕組みとすることが考えられるのかどうかといったことなどについて、御議論いただければなと思っております。

 4点目が、申立て主体についてでございますけれども、規制改革会議のほうでは労働者申立てに限定するという考え方だった一方で、日本再興戦略では、特に申立て主体については言及がなかったということでございます。これにつきまして、労働者による申立てのみを認める仕組みとするのか、そうでないのかといったことを御議論いただくというのが、この4点目でございます。

 その下の菱形に書いてございますように、金銭的・時間的予見可能性を高めるための方策の在り方につきましては、具体的には金銭の性質論ですとか金銭の考慮要素、あるいはその水準などについての御議論があり得るわけでございますけれども、これにつきましては、制度の骨格を固めた後の議論ということに整理しております。

 説明が長くなってしまって恐縮でございましたけれども、以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、ただいまの説明につきまして、御意見、御質問等あれば、お願いいたします。

 鶴委員。

○鶴委員 どうもありがとうございました。途中退席なので、済みません、先に意見を述べさせていただければと思います。大きく分けて2つございます。

 1つは、今後の議論のやり方というか、それについて申し上げたいと思います。いよいよ金銭救済の問題ということで、この検討会が始まって1年ちょっとたったところで本格的なこの議論を始めるということだと思うのですけれども、この場には非常にさまざまな御意見を持っている委員がいらっしゃると思います。せっかくここまで来たので、私も本当に強く感じるのですけれども、非常に有意義な議論をぜひとも行わせていただきたいなと非常に強く感じます。

 それで、先ほど事務局からお話があったように、例えば金銭救済の申立ての主体とか一回的な解決。それから、これは次回以降ですけれども、解決の水準とかをどうやって決めていくのかという非常に大きな課題があると思います。それぞれについて、今回、相当突っ込んだ議論をするべきではないかということを思っています。

 ここからが本題ですけれども、いろいろ議論していく上で、今回、金銭救済制度を導入するのが前提だということではないということで議論が始まったと理解しています。本格的に議論するときに、導入を認めているわけではないから、一切議論はできないという形になると、何も進まなくなってしまうので、これはその中身を議論するときに、その導入を自分はもう認めたのだということを全員、そういうふうに認識してしまうと、議論が進まなくなるということで、最後、全ていろいろな議論をし尽くして、我々委員が本当にどうすべきかという判断が来るときもあるのだろうと思っていますので、そういうことで議論を寸断することはやるべきではないのではないかと思います。

 それから、個別の制度を議論していくときも、一つ一つの制度は非常に補完性が強いので、ある制度をどういうものにするのかというのは、何段階かの仮定をしないと、こっちの制度をどうすべきかということもなかなか議論できないと思うのです。一つ一つ段階的に全員のコンセンサスがつくられて、前に進むようなことができれば、それは多分ベストだと思うのですけれども、そういうわけにもいかない場合がある。そうすると、それぞれある種仮定を置いて議論する。ただ、自分の仮定を認めたとかコンセンサスだということでは必ずしもなくて、これを仮定すると、こういう議論ができますねと。

 とにかく、いろいろなアイデアとか知恵を出していかないと、最終的にいい制度を私は設計できないと思いますので、その辺の議論のやり方というのをこの委員の中で共有できないものなのかということが最初の1点です。

 それから、2点目は、今回、事務局のほうからも規制改革会議の意見を御紹介いただきました。それで、私も最初に少しお話を第1回のときにさせていただいたのを覚えているのですが、なぜ労働者側の申立てのみをこの会議の意見として出したのかということについて、少しお話をしたいと思います。

 それで、規制改革会議で議論したときは、きょうお話いただいた平成14年、15年、どういう議論の経緯があって、なぜこの制度がうまくいかなかったかということをかなり詳しく、我々委員のほうも聞きました。全く同じアプローチで今回議論しても、多分、全く同じ結果になると思いまして、さらに議論を進めるためには何らか新しいアプローチが当然必要になるだろうということを強く考えました。もちろん議論の過程でいろいろな議論が出てきたのですけれども、この議論については、私も座長として判断というのをかなり強くした覚えがございます。労使双方が納得して議論を前に進めるためには、これが非常に必要である。また、イタリアもかつてそのような制度を持っていた実例がある。そういうことを含めて判断をしたのを覚えています。

 その判断をするときに、実は清水の舞台から飛びおりるような状況でして、法理論的に片方に認めるのはどうなのかという議論はもちろんあります。それから、使用者側というか、経営者の方々がいるところで、こういう話をしても通るのかというのもありました。議論のプロセスというのは、全て開示されているわけじゃありませんけれども、この議論を規制改革会議の中で進めていく中で、委員、事務局の中から異論は全くなかったです。私もいろいろな意見が出るのかなというのはありましたけれども、ありませんでした。

 それはなぜかということを考えると、労働者の選択肢をふやすというところが問題の根本にあって、それで規制改革会議としても、その選択肢をふやすというところが改革の非常に重要な方針であると。それが、どの委員もいろいろな分野において認識が共有されていたことが非常に大きいと私は思っています。この意見を出すときには、政府内で若干あつれきがございましたけれども、意見として出させていただくことができたということは、その根本的な考え方が会議の中でも共有できたからこそということを、この場でも申し上げたいと思います。

 長くなりましたけれども、ありがとうございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 土田委員。

○土田委員 議論の進め方については、今、鶴委員がおっしゃったことに基本的に賛成です。それを踏まえて、検討事項の2ページの現行制度との関係について若干発言したいのですが、その前に、第8回の検討会における私の発言の趣旨について若干お話をさせていただきたいのです。座長、よろしいでしょうか。

○荒木座長 どうぞ。

○土田委員 第8回で、このテーマについて若干発言したのですが、その後、つい最近、私、目にしたのですが、昨年11月4日に日本労働弁護団から、解雇の金銭解消制度は不要であり、導入に強く反対するという、本検討会宛てのものが来ております。ネットでも公開されております。ここでは、第8回で私が発言した内容を紹介した上で、それを批判されているのですが、批判されるのは結構ですが、前提となる私の発言内容について重大な事実誤認がありますので、ここで確認させていただきたいと思います。

 どういう事実誤認かといいますと、この弁護団の声明によれば、第8回で、私が解雇の金銭解決制度の導入に賛成したという紹介がされています。しかし、これは議事録が残っておりますので、それで確認していただければすぐわかりますが、私は賛成などしておりませんで、解雇の金銭解決に係る消極意見としては4点考えられ、その4点を踏まえると、こういう論点があるだろうという論点の提示をしたわけです。

 具体的に4点ある中で2点だけ紹介しますと、私が金銭解決制度によって不当な解雇が誘発されるという懸念について、制度設計と運用によって懸念を払拭することができると発言したことになっております。しかし、議事録をごらんいただければすぐわかるとおり、そんなことは言っておりません。私が言いましたのは、制度設計によって不当な解雇の誘発の懸念について対処できるかできないか、その点について議論する必要があると発言したわけです。

 もう一点ですが、労働弁護団の文書によれば、解雇の金銭解決については、労働審判等々の問題点を踏まえた上で、市民が利用しやすい制度をつくるべきであると私が発言したことになっております。しかし、これも事実に反するものでありまして、私の発言の内容は、議事録によれば、市民が利用しやすい解雇の金銭解決制度を新たにつくることが必要かについて議論する必要があるというものです。

 つまり、私の発言は、解雇の金銭解決制度についてしっかり議論しましょうという発言でありまして、金銭解決制度の導入に賛成するなどということは全く発言しておりません。この第8回の発言内容について、今のような趣旨であったことを確認させていただければと思います。この点、議事録が客観的な証拠として残っておりますので、ここで確認していただければと思います。

 なお、日本労働弁護団には、私の研究者としての名誉にかかわる問題ですから、速やかに訂正をしていただきたいと強く求めます。

 その上で、本題の現行制度との関係についてですが、これも誤解・曲解されると嫌なので、金銭解決制度の導入に賛成という意見ではなくて、金銭解決制度を導入した場合にどういう在り方が考えられるかということを2点。それから、金銭解決制度を導入した場合のメリットとして、どういうことがあり得るかということを1点申し上げたいと思います。

 2ページの一番上の現行制度との関係についての第1段落、現行制度の救済の仕組みは維持しつつ、労働者の選択肢を増やす方向とすることについてどう考えるか。私は、この方向性は十分考えられると思います。これは、今、鶴委員が御紹介いただいた規制改革会議以来の考え方、つまり金銭解決制度の目的は何かということを考えたときに、例えば解雇紛争処理システムの選択肢をふやすとか、あるいは解雇の効果をふやすということは副次的なものにすぎないのであって、基本的な目的は、不当解雇に直面した労働者の救済手段を多様化する、これが目的であるべきだと思います。そう考えると、使用者申立てという選択肢は除外せざるを得ないことになります。

 2点目として、論点ペーパーの4つ目の金銭救済の主体とも関連しますけれども、労働者申立てに限定し、使用者申立てを認めないということについては、先の第8回で中山委員から、それは労使対等の理念から問題ではないかという御発言がありました。私は、労使対等の理念というものを形式的に考えるのであればともかく、実質的に考えるのであれば、労働者申立てに限定すべきであると思います。

労働者うしゃ 釈迦に説法ですが、労働契約という契約は、使用者側に解雇権を初めとする強力な権利が帰属する他人決定的な契約であって、労使間に構造的な交渉力や情報格差があり、そして雇用の継続が強く求められる契約であります。そして、労働契約法というのはどういう法かといいますと、労働契約のこうした特質を踏まえて、労使間の交渉力・情報格差を是正して、実質的労使対等関係を確立し、契約当事者としての労働者の保護を図りつつ、さらに雇用の継続を保障する法であると考えることができます。

 これを前提に使用者が解雇権を行使した状況を考えると、これは実質的対等はもとより、形式的対等関係も崩壊した状況であろう。そうすると、その状況を前提として、仮に解雇の金銭解決制度の中で実質的対等関係を樹立し、労働者保護を図るとすれば、これは労働者申立てに限定すべきだということになろうと思います。逆に使用者の申立てを認めるということになりますと、これは使用者による雇用の継続の打ち切りという追い打ちを認めることになる。

 さらに理論的に考えますと、使用者による申立てを認めるということは、使用者が解雇の意思表示をした上で、その解雇が無効とされた後に補償金支払いの意思表示をする。ところが、労働者側は何らの意思表示をしていないという極めて片務的な、変則的な関係を認めるということです。こうした状況を前提に労働契約の解消を法的に認めるということは、労働契約法の在り方としては極めておかしいことでして、この点からも、金銭解決の申立権者を労働者に限定すべきであると思います。

 長くなって恐縮ですけれども、最後、この項目1つ目の現行制度の第2段落、労契法16条による地位確認請求を認めつつ、職場復帰を希望しない者が利用できる新たな仕組みのメリットを1点申し上げますと、これについても既に不法行為による損害賠償請求の制度があるから必要ないという御意見があるかもしれません。

 しかし、これは次回以降の金銭の性格とも関連するかと思いますが、補償金の性格について、単なる損害賠償ではなくて、法定債権だと考える場合、その中身としては、逸失利益の補償、解雇自体に係る慰謝料、そしてそれとは別に、労働契約を解消することの代償という性格が恐らく入ってくるだろうと思います。これは、不法行為による損害賠償から出てこない性格でして、それを裏返せば、労働者にとってはより手厚い補償となるという性格づけができるのではないかと考えます。したがいまして、その点はメリットになるのではないかというのが3点目でございます。

 長くなって恐縮ですが、以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 中山委員。

○中山委員 中山です。今、第8回でのやりとりや、鶴委員が規制改革会議の第3次の答申にあった御説明をいただきました。私の考え方を申し上げたいと思います。

 2ページの最初の論点、現行制度との関係についてということで、御指摘のように、労働者の選択肢をふやす方向とすることについてと記載がありますが、今回検討している解雇の金銭解決制度の目的が、ひとえに労働者の選択肢をふやすだけであれば、そこは大いに異論があります。使用者側の金銭解決制度の選択肢も認めるべきであり、これを否定する理由はないと考えています。

 労働者側に金銭解決の申立権を認めるのであれば、使用者側にも認めるべきです。労働契約には最低の人的な信頼関係が必要です。その中で、解雇の実情として見ますと、もちろん使用者が悪い場合もありますが、労働者側にも相応の問題があるというケースもあるのですね。そこで裁判所が適切な金銭で解決するという裁量の余地を与えて解決させる。これは労使双方にとって、導入すべき制度だという考え方です。したがって、2ページに戻りますが、この金銭解決制度自体を、労働者の選択肢をふやす方向というところが専ら目的であるかのように書いてあるところについては反対です。

 使用者側で代理人をやっている認識では、使用者が解雇権があるからといって、そう簡単に、軽々に、すぐ解雇をやっているかというと、これは非常に慎重にやっていると思うことが多いです。その上で、解雇の紛争が出た場合に、今の解雇の判決制度としては、判決は白か黒かしかありませんので、実体をみると51494951というものもありますから、金銭解決制度という制度を導入して、迅速に、そして労使双方の予測可能性を高めるという必要がある。

  次に、鶴委員が先ほど規制改革の第3次の答申で、労働者側だけの申立てでどうかというところが出た経緯を御説明いただきまして、それはそれで、なるほどそういう事情なのかなとわかりましたが、そこでも、労働者の選択肢をふやすことが目的だ、方針だということが大前提でなされたというのがありましたので、そこは私としては、解雇の金銭解決制度は労働者側だけでなく使用者側にとっても有用な制度として設計されるべきですから、異論があります。

 それから、そのときにイタリアもかつて労働側のみであったというのですが、これは最近、私が聞いたところでは、使用者側の申立てを認める制度改正がなされている。ヨーロッパでは、基本的には労使が、こういう金銭解決制度があっても、ドイツでもそうですし、労側だけじゃなくて、使用者側の申立ても認める制度となっている。ここでの議論で、あえて労働者の選択肢をふやす目的なのだから、労働者側だけだというのは、私は賛同できないので、意見を申し上げました。

○荒木座長 鶴委員。

○鶴委員 一言だけ、今、中山委員がおっしゃった点ですけれども、規制改革会議のほうは、15ページの改革の視点ということを見ていただくと、紛争解決の早期化と選択肢の多様化。それから、一番下に、紛争解決の予測可能性が低いことが、労使双方の雇用終了への対応に歪みをもたらしているということなので、単に選択肢の多様化だけを考えて、この意見を出したものではないと。

 また、17ページにも、そもそも何が必要なのか、早期解決の話も書いておりますので、これはこの規制改革会議で出た意見というのは、全体を見ていただいて、そこになぜこういうものが必要なのかということを書いているつもりなので、そこだけを強調させていただくために意見を出したということではないことだけ、ちょっとお断りしておきたいと思います。

○中山委員 済みません。私も当時、規制改革のものを拝見いたしましたが、なぜ労働側だけなのかというのは、読んだだけでは、不勉強なのでしょうけれども、理由がよくわかりませんでした。したがって、労働者の選択肢をふやすことが目的だ、方針だという以外に、使用者側の申立ては認めるべきでないという理由はどこにあるのかなというのが疑問です。

○鶴委員 当時、先ほど申し上げたように、労使双方が納得する仕組みをつくるということが一番大きなポイントだと考えまして、過去、制度設計をかなり議論したのだけれども、最後、そこに行き着かなかったということを考えてみますと、そこがかなり大きなネックになっていたということで、ここを労働側の申立てということに限れば、次のステップの議論ということをやって、制度設計そのものを考える。ここが使用者側からの申立てということにどうしてもこだわる限り、私は先ほど申し上げたように、過去の繰り返しになって、その制度設計のところに行くのは、現実問題としてなかなか難しいなという判断が大きかったということを申し上げたいと思います。

○荒木座長 高村委員。

○高村委員 今、議論しております使用者申立ての関係について発言させていただきたいと思います。立場としては、土田先生と同じ立場でありますが、私は、解雇権濫用法理を条文化した経緯というものに触れながら発言させていただきたいと思います。

 御存じのように、解雇権濫用法理を現在、労働契約法16条で明文化しているわけですが、その前は、2003年の労働基準法改正によって、初めてこの解雇権濫用法理というものが条文化され、2007年の労働契約法制定に伴って、18条の2の文言がそのまま移し変えられたという経緯があるわけです。

 最初に労働基準法に解雇権濫用法理の条文化というものがなされる際、労働者側も使用者側もこの条文化については賛成ということで、国会も全会一致で労働基準法18条の2に解雇権濫用法理を条文化したということにこぎつけることができたわけですが、この解雇権濫用法理が条文化されるに至ったという経緯を振り返ることは、今日において解雇の金銭解決制度の是非を考える上で、私は極めて重要ではないかと思っています。

 労働基準法に条文化される前というのは、解雇権濫用法理は判例法理として存在していたのですが、この判例法理としてありました解雇権濫用法理に対して、1995年から2002年ごろにかけまして、規制緩和を唱える人たちがこの解雇権濫用法理に批判を加えて、解雇が認められる要件を緩和して解雇しやすくすることですとか、さらには、解雇の金銭解決制度を法律で設けることを強く主張されるということがございました。しかし、当時、財界の主流からは、この解雇規制緩和論に対して、極めて強い批判が出されていたわけであります。判例によって蓄積された解雇権濫用法理を維持すべきであり、解雇の金銭解決制度を設けるべきではないという強い意見が、当時、財界から出されていました。

 この解雇規制緩和の批判の先頭に立たれていたのが、トヨタ自動車の社長であり、当時、日経連の会長をされていた奥田さんです。この奥田さんが2001年夏の日経連経営トップセミナーの基調講演の中で、実はこういうことをおっしゃっています。御紹介しておきたいと思うのですが、「一部の論者からは解雇規制の緩和を求める声が出ているが、これは最もやってはいけないことだ。」「便乗解雇を容易にするとともに、何より経営者のモラルハザードに直結しかねない。」と批判しています。社会全体が崩壊しかねないと心配しているという形で、解雇規制緩和論を強く批判されたわけであります。

 こうした財界の良識ある判断がベースとなって、判例によって蓄積された解雇権濫用法理を守り、さらに法律に条文化するということについて、当時、労使の合意ができたというのが歴史的な経緯であります。こうした歴史的な経緯を踏まえて、解雇の金銭解決制度の是非について考えるならば、とりわけ私は使用者側の申立てによる金銭解決の導入というのは論外だと思っております。

 当時、日経連の奥田会長が言われていた、「経営者のモラルハザードを起こしかねない。便乗解雇を招きかねない」と、経済界のトップとしての奥田さんが強い危惧の念を持たれていたわけですから、使用者申立てを仮に導入するということであれば、奥田さんが当時抱いていた理念を払拭するだけの根拠があるのかどうか、示す必要があるだろうと私は思います。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 水口委員。

○水口委員 議論の進め方について鶴先生が指摘された議論、解雇の金銭解消制度を導入することについての政策的な是非の問題と、法技術論的な制度設計の問題。これらの問題は、2つ分けて議論していくということについては、私は賛成いたします。

 今回、発言したいのは、前者の制度導入の政策的な是非の問題です。労働者側の救済のメニューをふやすということを鶴先生が指摘されました。この間、1年間、さまざまなヒアリングをしてきたことで、特に、労働者が復職はしたくないけれども、解雇についての金銭補償を早期に適正に求めるということについては、労働審判制度が実現しているということが、私ははっきりしたのだと思います。

 平成17年の在り方研究会あるいはその前の議論で、労働審判制度の導入、その運用を踏まえて検討すると指摘されているところ、この間、1年ちょっと、さまざまな既存の紛争解決制度についてヒアリングしてきてはっきりしたのは、労働審判制度がうまく機能しているということだと思います。

 ですので、労働審判制度を何か改善するということになれば、労働審判制度をさらに労働者側が使いやすくするような、既存の制度との連携を図っていくということこそ議論されるべきであって、その意味では、導入の一つの柱になる労働者側の救済のメニューをふやすということは、労働審判制度をさらに充実・発展させるということで実現できることであると思います。金銭解消制度を導入すれば、かえって労働審判制度の調停による解決というものを阻害してしまうということを私は強く懸念します。

 仮にこういう金銭解消制度を導入した場合に、労働者側の実務家として、どういう事態になるのかということを想定してみました。もちろん、これは裁判における金銭解消制度を議論するわけですけれども、一旦、ルールが策定されると、そのルールに基づいて使用者側は動きます。

 例えば、仮に労働者側が解雇無効で勝ったとしても、この金銭を支払うことで解消することができる制度が導入されれば、使用者側は、まず解雇を予告する際にこういうことを言います。「この解雇で裁判になったとしても、金銭解決の水準が100なら100でしか解決できないけれど、もし解雇予告の段階で応じてくれれば、その金銭解決の水準のうち、例えば8割や7割あるいは5割の支払いを提案します。」と。

 労働者が勝てるかどうか、裁判を1年やってみなければわかりません。そのリスクがあります。弁護士を頼むコストもかかります。でも、「この解雇予告を受け入れて退職するならば、法律で定めた解決金水準の8割を提供します」と言われたら、これを断ることができる労働者は、私の経験ではごく限られたわずかな人たちです。その意味では、この金銭解消制度の導入は、机上の空論ではなくて、実際の社会規範、労働に関する規範を大きく変える可能性があるということを、我々は念頭に置いて議論しなければいけないと思っています。

 これは杞憂だと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、私が担当している世界的な大企業のコンピュータ会社は、まさにこういうことをやっています。解雇予告を発して、2週間以内に退職に応ずれば、半年とか1年分の補償金を支払うという解雇事件があります。組合員35人が解雇された中で、それに対して地位確認訴訟を提起したというのは2割ぐらいですね。こういう事態が起こるということも念頭に置いて、金銭解消制度についての弊害、これは政策的な是非の問題として議論していくべきだろうと思います。

 こうした事態を制度的に防ぐことができるのかどうなのかという議論を封じるつもりは、もちろん全くありませんけれども、実務家としてはそういう事態が起こるのではないかということを強く懸念しております。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございます。

 やや使用者の申立てについてどうするかという点に議論が集中しているようですが、きょうの議論は、その点もありますけれども、そのほかにいろいろな論点がある。労働者申立ての場合にも、そもそもどういう制度になるのか等々があると思いますので、その点も含めて御意見いただければと思います。

 長谷川委員。

○長谷川委員 私は、平成1415年(2002年・2003年)の検討時は、審議会委員ではありませんでしたけれども、当時は連合の担当局である雇用法制対策局長でしたので、この検討にずっと参加してきましたし、それから、平成17年の労働契約法制定時の解雇の金銭解決の議論の際は、審議会委員だったので参加してきました。

 今回事務局が整理した資料は、久しぶりにいい資料だと思っています。特に、私たちが当時よく見えなかったところが見えています。それはどういうことかといいますと、資料1の3ページに書いてあるように、20021226日の審議会の報告・建議では、解雇の金銭解決制度、1回的な解決が必要であると書いてあるのですが、その後、翌年の2月の法案要綱になるときに、突然、落ちたのですね。なぜなくなったのかというのは、ずっと私もいろいろと聞いていましたけれども、どこで何が問題だったのかというのがよく理解できないで、今日まで来ました。

 問題の1つは補償金の金額で、中小企業の人たちが金額の制度設計に応じられないということは聞いていましたけれども、手続の問題もありました。私どもは、これは1回の裁判でやるのは難しいのではないかということはずっと申し上げていました。しかし、当時、どこで、どういう問題が生じるのかというのは、目に見える形であまりあらわれていなかったのではないか。当時の資料を見ましたら、雑誌にこの解雇ルールに関する紙上座談会が掲載されておりましたが、そこでもなかなか明確なことは語られていませんでした。手続に非常に問題があったけれども、その他にどういうところが問題だったのかというのは、なかなかすっきり見えなかったのです。

 また、5ページに、平成15年検討時に改正法律要綱に盛り込まれなかった背景についてという資料がありまして、ここでも何が問題だったのかというのがとても整理されていまして、こういうことだったのだなと思いました。

 解雇の金銭解決というのは、過去に、平成14年と17年、2回議論しているのですけれども、いずれの時も制度設計がうまくいかなくて、議論が頓挫しているのですね。解雇が無効であることが確定した場合。そして、確定した上で、解雇が無効であったとしても、金銭補償。どう見たって、判決が2つあり、1回の裁判で行われるというのはできないと労側は主張してきました。平成17年のときも、これは形成判決なのかどうなのかという議論もたくさんしましたけれども、結局、手続のところがすっきりしないまま、制度設計は難しいということになって、このときも落ちたのですね。

 そういう意味では、法律関係者、労側弁護士、使用者側弁護士、それから民訴の先生、民法の先生たち、労働法の先生たちと議論しても、手続上の問題がなかなかクリアできなかったのではないかと思います。

 今回、私が非常に奇異に思ったのは、資料No.2の2ページ、「現行制度との関係について」ということで、「職場復帰を希望しない者が利用できる新たな仕組みとすることについて、どう考えるか」と書いてあるのです。そうすると、これまで解雇の訴訟というのは地位確認訴訟を提起するわけですけれども、これを読むと、新しい仕組み、私たちが今まで経験しない仕組みを考えているのかなとも取れます。仮にそうだとすると大変なことであり、物すごく議論しなくてはなりません。

 今までの議論でも、一回的解決の制度設計は無理であること、2回の裁判手続きなら相当時間がかかることなど、ここに書かれていることがずっと議論されていましたけれども、今回の検討事項で書かれたことはもしかしたら新しい制度なのか何か、見たことのないものができてくるのではないかということを、本日はずっと感じていました。

 確かに、この検討会では、 解雇を不法行為と構成する損害賠償請求の裁判例 の話もありましたけれども、あれらの裁判例は、まだ全体としては数が少ないわけですね。そういう数が少ないものを参考にするというのは、少し無理があるのではないでしょうか。

 それと、中山先生がいみじくも言いましたけれども、労働問題というのは労働者と使用者といるわけですね。労使が一定程度合意しないと、職場とか社会でなかなかうまく機能しないというのが労働法の特徴なのですね。解雇権濫用法理を労働基準法第18条の2につくるときも、判例で確立して、広く使われている解雇権濫用法理を法制化しましょうということを最終的に労使が合意して法制化しています。解雇権濫用法理の条文をつくるときもすごく大変だったわけですね。要件と効果など、条文とした時に解雇権濫用法理として読めるのかという大議論をしてつくったわけです。

 今回の解雇の金銭解決制度導入の必要性の有無というものを考えるときに、鶴先生が真摯な議論をとおっしゃっていましたとおり、私も真摯に議論に参加しているわけですけれども、過去の2回の議論で大変に問題となった手続上の問題が本当にクリアできるのか。また、迅速に1回の裁判で解決できる制度を、本当に制度設計することができるのかという疑問は、私はいまだに払拭できておりません。もし、この制度を導入するということになれば、労働者は解雇無効で訴訟を起こしているわけですから、解雇が無効であるのに、雇用関係が終了するという宣言をして金銭解決するというのであれば、使用者にかわって裁判官が首を切る役割を担うのかという疑問を、私は払拭することはできないのではないかと思うのです。

 したがって、これまでの議論経過についての資料が、きっちり出ていますので、水口先生が言ったように、労働政策上、解雇の金銭解決の導入が必要なのかどうかという観点から、これらの問題点の整理が必要だと思います。そのとき、最初に申しましたように、労使がある一定程度理解しないものは、社会の中では定着しない、どちらも幸せになれないということをしっかりと認識して議論すべきだと思います。

○荒木座長 大竹委員。

○大竹委員 私は、議論がいろいろ混乱しているような気がします。資料2の1ページ目に、実際に労働審判制度や民事訴訟の和解で金銭解決が多いということを踏まえて、それを最初から制度に取り込んだようなものがつくれないか、そうすることは、労働者の選択肢を広げることになるのではないかという議論が自然だと思います。今までどおりの労働審判も民事訴訟もある中で、新たな制度が出来て選択肢が増えたという場合、新たな制度は、今まで泣き寝入りしたとか、不便だったという人が使えるということですから、今までの制度を否定するものでも何でもないはずです。労働者にとってより使いやすいものができるにも関わらずそれを否定する考え方は、私にはよくわかりません。

 ですから、今まで裁判で訴えていた人が訴えなくなるという話よりも、今まで泣き入りしていて、労働審判も使っていない、訴訟にも行っていない人たちがより使いやすい制度というのは、労働者にとっていいように思うのです。

○荒木座長 水口委員。

○水口委員 私の先ほどの意見に対する御質問かと思います。

 私ども実務家とすると、裁判ということで、労働審判と本訴を考えた場合、私どもに相談に来られる解雇された労働者の人たちは、早く、適切に紛争を解決したいとお考えになるのですね。その場合に、私は労働審判をまずお勧めします。労働審判であれば、申立てから平均70日程度で、復職を希望していなくても、解雇が有効か無効かということにつき、裁判官、それから労使の審判員を含めて適正な判断をしてもらって、そこで解決ができる。

 これに対して、本案訴訟の平均審理期間は、今14カ月です。早くても1年ですね。では、1年の本案訴訟で争いますかと言ったら、復職を求めて会社に戻りたいという人は選択肢があるのですが、早期に解決して、次のステップに行きたいという人は、本訴を選択することは非常にまれです。こうしたことが今までのヒアリングで明らかになってきたと思うのですが、そういう実情を踏まえれば、鶴先生がおっしゃるような、復職は希望していないけれども、白黒つけて、一定の補償を得たいという人たちは、労働審判で早期に解決するという賢い合理的な選択肢を取っています。これが今の制度運用の実態ですので、あえて本訴でそういう制度を導入するというのは、政策的にいかがなものか。私はかえってうまく回らないだろうということを先ほど申し上げたということです。

○荒木座長 どうぞ。

○大竹委員 それはよくわかるのです。ただ、労働審判制度も、結局、最終的な決着がどこにあるかということを踏まえて考えているわけですね。そのときにデータ分析してみると、いろいろな事情があって、なれている方は大体相場があるとおっしゃるけれども、地域によっても、裁判官によっても、金銭解決の相場がかなり違い、ばらつきがある。それは、もう少し明確なルールがあったほうが、労働審判の活性化にもつながると思います。

○水口委員 一言だけ。それは、制度設計とも絡むのですが、ここで議論しているのは、民事訴訟、本案訴訟における判決における手続であって、労働審判や調停に関するルールの話ではないと。少なくとも、この議論の設定はそうですから、そこは区別して議論を私はしているつもりです。

○荒木座長 中山委員。

○中山委員 中山ですが、労働審判と解雇の金銭解決制度のかかわりが出ました。今、事後型で検討しているという解雇の金銭解決制度は、裁判所においてということですから、労働審判も裁判所ではありますが、通常訴訟で解雇を争う場合の解決制度ということで議論されているだろうと思います。

 先ほど水口委員のほうで、労働審判があるので、さらにそういう解雇の金銭解決制度を設ける必要があるのかという御指摘がありましたけれども、労働審判は調停か審判、そのうち、調停が7割以上ですけれども、双方合意でやっているわけですから、本訴においても、解雇の金銭解決制度を設ける否定的理由にはならない。したがって、労働審判は確かによく機能して、金銭解決で解雇紛争が短期で終結している実情にあるのは理解しています。それゆえに、本訴における解雇の金銭解決制度は要らないのだ、その制度としてはおかしい、先ほど阻害されるというお話もありましたけれども、私も実務をやっていますと、阻害されるという実感はない。

 したがって、労働審判があるからといって、なぜ解雇の金銭解決制度が必要ない、否定されるのかという点はいかがでしょうか。

○荒木座長 水口委員、どうぞ。

○水口委員 済みません、私の説明が拙いものですから、理解いただけていないようです。

 労働審判制度の調停による解決というものの阻害になるのではないかというのは、要は本訴での金銭解決制度ができたら、結局、労働審判での調停で合意するメリットがなくなってしまうのではないかと思っています。特に使用者側にとっては、労働審判で決めた、あるいは労働審判委員会のほうが双方であっせん、調停案を出したものより、本訴で決めたほうがいいと行動されるのではないかと思います。

 それと、確かに制度的には、先ほど申し上げたように、本訴での解決水準と審判の解決水準は別だということですけれども、一定の解決金額の水準ができた場合には、事実上、労働審判に影響することは当然想定されるわけですね。その場合には、結局は最終的に金銭解決水準での判断だけを基準にして考えるべきであって、調停で労使の合意を探るということよりか、全て裁判所の判断ということで、調停の成立率が非常に低くなるのではないかと思っています。

 これは、フランスでの金銭解決制度の例をお聞きして思ったのですが、フランスは非常に調停の成立率が低い。これはやってみなければわからないことがあるのですが、全て判決まで行ってしまうということであれば、日本でも労働審判にそのような影響を与えるのではないかと危惧したという趣旨です。納得されるかどうかは別として、私の考えとしてはそういうことです。

○中山委員 議論になっちゃうので、一言だけ申し上げますと、先ほども指摘があったように、本訴の訴訟と労働審判の手続は違いますし、現状では、労働審判が70日前後ですから、極めてスピードが速いわけです。一方本訴の制度、現在、解雇訴訟判決でも約400件ぐらいはあるはずです。したがって、それだけのものが毎年あるわけですから、解雇の金銭解決制度を導入について積極的にこれはだめだという理由は、私は余り見当たらないと思っているので、先ほど申し上げました。

 以上です。

○荒木座長 徳住委員。

○徳住委員 ちょっと離れるのですけれども、これまで二度の解雇の金銭解決制度の導入議論において、技術的なことやいろいろな制度の性質から、導入に至らなかったことは、長谷川委員がおっしゃったとおりだと思います。

 問題は、今回、事務局から出された検討事項で、「現行制度との関係について」の項目で、労働者の選択肢を増やすということで、「例えば、職場復帰を希望する者は従前どおり労働契約法第16条による地位確認請求ができることとしつつ、職場復帰を希望しない者が利用できる新たな仕組みとすることについて、どう考えるか」という問題提起がされているわけです。この新たな仕組みを事前型と見るか、事後型と見るかという根本的な問題があるように私は思います。

 事後型で制度設計すると、先ほど言ったように、1回切りの裁判での解決ができるかという訴訟法上の問題がありますし、裁判官は解雇無効としながらも、金銭の支払を命じ、雇用関係を終了させることを裁判官の手によって行うという形成的な問題を含みますから、最高裁が嫌がった部分がここに含まれているわけです。

 このようなことを本当にやり切れるのかという問題があって、これは大変ぬえ的な性格のもので、事前型と考えると、金によって解雇の正当性、客観的・合理的な理由とか相当性のものを補完してしまうという問題があって、これは解雇の金銭解決制度の本質からいうと、金によって解雇を有効にしてしまうという批判をどうクリアするかという問題があるのではないか。

 ここで示されている問題は、解雇の金銭解決制度という大きな枠組みとか制度を導入して実現するものではなくて、現実に労働審判とか裁判で行われていることを言っているだけなのです。現実には、労働審判でも普通の解雇訴訟でも、労働者側は地位確認請求をするけれども、調停とか和解においては、話を一旦とめて、労働契約を解消することを前提に話し合いをするということを労働側が申し入れてやっているわけです。地位確認請求について裁判所が判断しながら、他方で解消制度を判断するというのは、今の裁判制度の中では技術的にも不可能だし、過度な負担を裁判所にかけるから私は無理だと考えます。

 だから、先ほど水口委員が言ったように、新たに本格的な制度設計をする必要はなく、有効に機能しており、75日で8割の問題が解決するという解決率が大変高い労働審判の現実に任せれば十分対応できる課題であって、労働側は十分救済されているのではないかというのが私の考え方です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 大竹委員。

○大竹委員 今の御意見、2つ論点があると思います。

 過去の例で一回的な解決手段をつくるのは難しいという話と、そもそも2ページの一番上の職場復帰を希望しない者が利用できるような新たな仕組みをつくったほうがいいのか、つくらないほうがいいのか。それは、既存のもので十分できているという議論と、十分できていても、さらに選択肢がふえることまでどうして否定するのかというのは別の問題だと思います。だから、自由度がふえることまで否定する論拠にはならないと思うのです。今まで十分できているかもしれないけれども、それでもそこで十分に利用できない人たちがいるかもしれない。そういう人たちに選択肢をふやすということについて、それはもし可能だったらあったほうがいいのではないかという議論も可能かと思います。

○荒木座長 土田委員。

○土田委員 私も今の大竹委員の御発言に共感するところがあるのですけれども、これは先ほどちょっと発言した、第8回のときにも言いましたが、解雇の金銭解決は労働審判で従来から行われているから、これは新たに加える必要はないということに集約されるのかなと思うのですけれども、今、言われたとおり、それはそれとして、労働者の選択肢をふやすような形での新たな制度化を考える余地はあるのではないかというのが1点です。

 それと、労働審判との関係で言えば、先ほど中山委員が言われたように、本訴のほうでこの金銭解決制度を設けることにメリットはないのかということは検討しなければいけないし、従来の制度があるから特に必要ないというのは、積極的な根拠としては納得できないというのが私の考えです。

 それで、第8回のときに4つの論点、水口委員がそれに対してもう一つあるとおっしゃったのです。それは何かと言ったら、労働審判は調停を前提としますから、個々の事案において、労使が合意して、労使の納得を得た上で金銭解決している。ところが、今、考えられている金銭解決制度というのはそうではなくて、いわば法で水準を決めた内容で解決する。そういうことになると、むしろ労使の納得性を踏まえた解決から乖離してしまうのではないか。そこは、私はかなり納得できたところです。かえって紛争処理が硬直化するし、労使の合意から離れるのではないかという論点は、確かにあると思います。

 ただ、これはきょうの資料の在り方研の10ページにもありますけれども、項目としては、使用者による解雇の金銭解決制度の濫用の懸念について書かれているところですが、当時、荒木先生、山川先生、私も入った議論の中では、金銭解決の水準を決めるときに、集団的な労使合意前提として水準を決定するという制度設計もあり得ると思います。

 ですから、従来の制度があるから云々ではなくて、たとえば今、言ったような労使合意を前提とする制度設計を金銭解決制度の中に盛り込んで対処できるのであれば、その点も含めて議論すべきではないかと考えています。

 以上です。

○荒木座長 長谷川委員。

○長谷川委員 先ほど徳住先生がお話しした、資料2の2ページの菱形の1つ目、「職場復帰を希望しない者が利用できる新たな仕組みとすることについて、どう考えるか」について、先ほど私も言いましたように、今の労働契約法第16条ではない、何か別なものを予定されているのではないかと考えています。仮に新しい条項をつくるとなれば、要件と効果をどうするかという議論になっていくのだと思うのです。これは、徳住先生が言ったように、非常に重要なことを提起しているのではないかと私は思います。

 それから、菱形の3つ目、「一回的解決が可能となる仕組みとすることが考えられるがどうか」という点についてです。裁判上の争いになった場合に基本的に1回の裁判で解決する仕組みは無理があるというのが17年の検討時にも再確認されており、必ず2階建てになることがはっきりしているわけです。1階建て、すなわち一回的解決にしようとするならば、今の法律の中では無理であり、今の労働契約法第16条ではない新しい制度をつくるとしか、ここでは読めないのです。そうすると、これは大変重大なことで、大竹先生が言うように簡単ではないと思います。そういう意味では、ここのところはもっと議論が必要であるし、現状の法の立て付けがどうなっているのかということをきちんと認識した上で、制度設計を労働政策上の観点で議論しなければ矛盾が生じます。

 それと、先ほども申し上げましたけれども、制度導入時は労働者申立てに限定しても、3年ぐらいすれば見直して、必ず使用者申立ても認められることになります。これは、労働法に関する様々な制度の成立過程をずっと見てきましたので、そのように言うことができます。だから、最初は労働者のためでしょうといって労働者側を説得しますけれども、次の3年後の見直しのときには、必ず労使双方が申立て可能となります。これは私たちの経験上、明らかなことなので、そこはきちんと議論しておかなければなりません。

 それと、先ほど、土田先生が労使合意の話をされました。17年当時、労使委員会なるものが研究会で議論されました。しかし、あの当時と今の違いは何かというと、事業場における雇用労働者の構造、すなわち正規と非正規の分布が非常に変わってきているわけですね。それで、今の労使代表者の労使協定の結び方というのは、事業場に過半数労働組合があればその過半数労働組合、過半数労働組合がないときには過半数代表者ということで、労使協定は結ばれているわけですね。そうすると、事業場、企業における労務構成の中で、労働者の意見をどうやってつくるかということも議論しないと、これはそう簡単にはいきません。

 今だと、非正規で働く労働者の意見を聞く場所はないのだから、労使合意なんて、簡単に言わないでください。そうすると、もう少し労働政策上、本当にこれが必要なのかどうなのか、現行制度のどこを見直さなければいけないのかということを、まず私は議論してほしいと思います。

 私は、常に労働法制を積極的に前向きに考えようと思って努力しています。今までのものがすべていいとは思っていません。解雇権濫用法理を条文化するときも、何かしなければいけないと思い、使用者側委員ともいろいろ議論しながらつくってきましたので、制度を議論することに否定的といいますが、今までのものでいいとは思っていません。しかし、今回のこの議論は、まず、過去の2回の検討時の問題がどこにあったのか、どこを解決しなければいけないのかというのをしっかりと議論する必要があります。

○荒木座長 村上委員。

○村上委員 今、長谷川委員から冒頭に、法的な要件と効果の議論は必要ではないかという発言がありましたので、その点について補足をいたします。

 今回の資料2については、解雇無効時における金銭救済制度についてということで、幾つか論点らしいことが整理されておりますけれども、これが本当に論点なのか、論点として十分なのかというと、まだまだ不十分ではないかと考えております。もし、労働契約法16条での解雇無効の要件、すなわち客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に金銭解決を認めるとすると、社会的相当性が認められない場合において、一方で労働契約法16条により解雇無効となって、地位確認請求権、賃金支払請求権が発生し、他方で金銭解決に伴う代償金等の請求権が生じるということになります。

 すなわち、共通の要件のもとに、真逆の方向での別々の法的効果が生じることになるのではないかと思われます。地位確認請求権と賃金支払請求権の発生要件と消滅要件、また金銭解決制度のもとでの代償金の請求権の発生要件と消滅要件を明確にする必要があるのではないか、また、それぞれの発生要件と消滅要件の相互関係について、矛盾が生じないようにする必要があるかと思います。ところが、今回の資料2の検討事項では、これらについての法的論点の整理はされておりません。新たな仕組みを提案するというのであれば、きちんとした法的な要件と効果についての議論が必要かと思います。

 さらに、解雇無効の場合に、現行法のもとでは、地位確認請求権と賃金支払請求権が発生し、場合によっては損害賠償請求権も発生いたします。解雇無効の金銭解決の場合に、これらの地位確認請求権、賃金支払請求権、損害賠償請求権が消滅するのか、しないのか。消滅するとしたら、なぜ消滅するのかということも議論、検討課題であるかと思います。また、仮に消滅するとした場合に、使用者が解決金の支払いを命じられたのに支払わない場合に地位確認請求権が復活するのか、しないのか。復活するなら、その法的根拠は何なのか。

 また、地位確認請求権が復活しないということであれば、労働者は地位確認請求権も賃金支払請求権も損害賠償請求権も失いながら、賠償金の支払いも受けられないことになって、踏んだり蹴ったりになるのではないかと思いますが、そういったことでよいのかどうか。そういった法的論点というものは極めて多岐にわたるわけでして、こうした法的論点の整理がないまま議論し、新たな制度をつくろうとしても混乱していくのではないかと思いますので、そういった丁寧な議論をしていただきたいと思います。

○荒木座長 先ほど垣内委員から手が挙がりましたね。

○垣内委員 垣内でございます。

  先ほど水口委員の御発言の中で、政策判断の問題と法技術的な問題と、2つあるという御指摘があり、私もそのとおりだと思っております。私自身は、主として法技術的な問題との関係で、ここに呼んでいただいているものと理解しておりますけれども、本日、先ほど村上委員からも御発言ありましたように、きょうの段階では具体的な法的問題点についての御提示があるわけではありませんので、その点について立ち入った発言をすることは差し控えさせていただきます。

 きょう、これまでの御議論を伺ってまいりまして、私自身の感想と申しますか、印象といたしましては、まず労働者側申立てのみとする制度と使用者側申立ても可とする制度というものを2つ比べたとすると、これは後者のほうが段違いにハードルが高いということについては、大方の認識の一致があるのではないかという気がいたしております。

 そう考えたときに、相対的には労働者側のみが申立てができるというタイプの制度のほうが、やや支持が多いということになるのかもしれませんけれども、私自身が問題として感じている点といたしましては2つございまして、1つは、こういった制度を導入した場合に、具体的にどのような労働者の、現在は引き受けられていないようなニーズがそこですくわれていくのかということが1つです。

 この点に関しては、きょう、配付のありました資料で申しますと、恐らく8ページあたりの記述が最も手がかりになるのかなと理解しております。ここで、平成17年検討時の議論の(1)労働者からの金銭解決の申立てに関し、解雇について労働者が現職復帰を求めずに損害賠償請求をするという場合に、賃金相当額が損害として認められないという問題があるので、このような場合に金銭解決を認める制度を新たに設ければ、そうした労働者がより充実した金銭的な救済を受けることができるということが、あるいは想定されているのだろうかと理解した次第です。

 けれども、この点について、そういう理解でよろしいのかどうかということについて、これはあるいは事務局の方に御質問することになるかもしれませんけれども、可能な範囲で御教示いただければというのが1点でございます。

 もう一つの問題と申しますのは、仮にそうした労働者側申立てのみを認めるという制度を導入したときに、何か労働者の利益が現状よりも害されるという問題が生じるのかどうかということでありまして、これは抽象的にみれば労働者の選択肢がふえただけだということであれば、害はないのだからという議論にあるいはつながっていくのかなという感じもいたします。

 この点に関して、本日伺った御議論ですと、最も明確に問題点を指摘されたのは水口委員の御指摘だったかと感じておりまして、一定の金銭的救済ができるといったときに、その水準はしかし裁判で勝ち取らなければいけないものであって、実際には裁判で勝てるかどうかもわからない。費用も労力も時間もかかるということになれば、それよりも低い水準での解決を事実上強いられるという弊害も無視できないのではないかという御指摘があったと理解しております。確かにそういう弊害というのはあり得るのではないかと感じられるところですけれども、この点については、あるいはこれは水口先生にお教えいただくことになるのかもしれませんが、この問題は、きょうの論点にはなっておりませんけれども、最終的には金銭的解決における金銭の水準をどう考えるのかということと、かなり密接に関係しているように思われます。これがもともとそれほど高くないということでありますと、それよりもなおさら低い水準での解決を強いられることになりそうでありますし、他方で、これがかなり現状でさまざまなところでされている金銭的解決よりは、充実した労働者にとって有利なものであるということが仮にあったとすれば、それが例えば労働審判あるいは裁判所外での処理にも一定の影響を及ぼして、現在よりもなお、8掛けであっても有利な解決になるということがあり得るのかどうか。そのあたりについて、もしお見通し、御感触があればお教えいただきたいと感じた次第です。

 御質問、2点ということになりますけれども、よろしくお願いいたします。

○荒木座長 それでは、最初の点については事務局から、いかがでしょうか。

○大塚調査官 垣内先生の御指摘のありました1点目に関しましては、これは制度を新しく設ける必要性の議論にかかわるものかと受け止めました。垣内先生のほうから御紹介がありました資料1の8ページの当該記述についてでございますけれども、今回、お示ししております資料1の資料自体は、この検討会で御議論を深めていただくための、いわば参考資料でございまして、現時点で事務局として、これによるからという確定的な見解まで持っているわけではございません。

 少なくとも御議論いただく際には、現状におきまして、何ができて、何が足りないのか、あるいは、水口先生のほうからも御意見があったかと思いますけれども、今、できているものが、この仕組みを設けると何かできなくなるものがあるのかといった両面から、先生方の御議論を深めていただければと思っている次第でございます。

○荒木座長 では、水口委員、どうぞ。

○水口委員 垣内先生、私の懸念を的確にまとめていただき、ありがとうございました。

 私は、先ほど申し上げたように、今まで労働法が制定・改正されたときに、経営コンサルタントあるいはさまざまな方がいろいろな指南をしているのを見てきていますので、私が先ほど懸念したことが広く行われるのではないかと思っているところです。

 もう一つ、こういう制度ができた場合の弊害を弁護士が想定するとなると、これは特に使用者側の申立てを認めた場合です。地位確認と賃金支払の本訴が提訴されたら、使用者は負けたら、バックペイ、プラス報償金を払わなければいけないことになりますので、まず、地位確認については被告の使用者が認諾してしまい、使用者側のほうで金銭解消の申立てをするということをします。

 そうなると、解雇の金銭解決制度がバックペイをどういう基準で払うのかという法制度論と関連します。使用者側の申立てが認められれば、その時点で労働契約が解消ということになるのか、あるいはお金を払ってからになるのか、これは分かりませんので、制度設計に絡むところですけれども、要は審理を非常に短くして、バックペイ支払いのリスクとコストを回避して、結果的には労働者を排除できるということが十分可能で、私が使用者側の弁護士だったら、そうするのが合理的な行動ですね。そういうことも含めて議論しなければなりません。

 ついでに法技術論の関係でお聞きしたいところがあります。事務局でまとめられた参考資料の13ページです。平成17年検討時の制度設計上の問題点の整理のところで、基本的な制度枠組みについて記載された1のマル1、マル2、マル3はまさにそのとおりだと思います。この「給付の判決」というのは、解雇の補償金の支払いと、賃金支払い、つまりバックペイの2つがあるわけですね。その点について、バックペイについては、当時どのような議論がされたのか。されていたら、簡単に説明いただけますか。

 また、マル3の「形成の判決」のところですけれども、これは具体的に金銭が支払われたときに、初めて形成原因が発生するということについては、当時の固まった結論だったのか、この2点をお聞かせいただければと思います。その上で、また考えてみたいと思います。

○荒木座長 事務局、お願いします。

○大塚調査官 実は、10年前、私、これを担当していたのですけれども、バックペイにつきましては、これを明示的に含めるかどうかについては余り記憶がございません。そこまでの議論に至っていなかったのではないかと思われます。

 形成判決につきましては、一定の金銭の支払いがあったことを前提に法律関係の返納を宣言するという前提で検討していたかと記憶しております。

○荒木座長 では、鹿野委員、どうぞ。

○鹿野委員 まず、必要性については、私は労働法を専門とする者ではないので、十分なことを申し上げられるわけではないのですけれども、現在、労働審判においても金銭解決が行われ、あるいは民事訴訟でも最近は損害賠償という形での金銭請求を認めるものが出てきているようですが、これらの解決の際、ルールが明確になっているとは言えないのではないかと思います。そして、ルールが明確ではないということは、双方にとって予測可能性が低く、結局、そういうリスクを侵したくないということにもつながってくるのではないかという気がいたします。

 もちろん、どういう内容、手続でのルールにするのかということによって大きく違ってくるのでしょうけれども、少なくともルールの明確化ということは、これを検討していく意義のひとつであり、うまく行けばという話ですけれども、一つのメリットとして挙げることができると思いました。

 それから、先ほど来、事務局の説明とか議論を聞いておりますと、資料1の13ページに書かれている手続的な問題、つまり確認の判決と給付の判決と形成の判決というものが必要で、しかしそれを一回的にやるのはなかなか難しいということが、従来の検討でかなりの障害になっていたと理解しました。そこで、これも可能かどうか確信はないのですが、仮に労働者側からの申立てということを前提に考えた場合に、一定の要件のもとで労働者が金銭の支払いを受けて労働契約関係を解消させることができる、そういう実体法的なルールが何かあれば、この手続上の困難というのは回避できる可能性が出てくるかもしれないと思いました。

 ただ、うまくいくかどうかは、もう少し具体的に検討してみなければわかりませんし、もちろん、先ほど村上委員がおっしゃったように、そういうものをつくるとすると、要件・効果をきっちり詰めていかないと後で困ったことにもなりかねませんので、その辺をさらに検討する必要があると思います。

○荒木座長 斗内委員、どうぞ。

○斗内委員 ありがとうございます。

 この議論に関し、法律の専門家ではないので、どういう場面を想定して、どういう人たちを救済しようとしているのかということをもう少し明確にしていかないと、なかなか議論に参加できないなと思っておるのです。全く新しい制度ができるのかと伺っているのですが、そういった制度ができたら何が影響するかということです。私ども、集団的労使関係を持っている労働組合があるところは、何らかの影響をおそらく受けるのではないかと思っています。

 そういう意味では、この資料2の1の一番下の丸のところで書かれている、「既存の労働紛争解決システム」という中には、その労使自治というものを考えられているのかどうか。そうではなくて、法律上とか裁判や労働審判ということだけの話なのか、今のお考えがあれば少しお伺いしたいと思います。ただ、労使自治とは関係ない話ですと言われても、法律上に何かしらの制度が規定されるということは、プラスなのか、マイナスなのかわかりませんが、多分何らかの影響が出てくるのだろうなという気がしております。

○荒木座長 水島委員、違う論点ですか。でも、結構です。

○水島委員 水島でございます。

 鹿野委員、斗内委員がおっしゃっていたことを引き継いでになりますが、私も鹿野委員がおっしゃったように、ルールを明確化すること、条文化することに意義があると思います。

他方で影響を考えなければいけないということは、斗内委員がおっしゃったことですけれども、本検討会が始まった当初は、あっせんや労働委員会での解決水準が低過ぎるという御指摘が多々あったように思います。審判あるいは裁判にまでたどり着かないような労働者も多数いる中での制度設計を考えるのであれば、こうしたルールが必ずしもマイナスに影響するものではないと思います。しかしながら、水口委員がおっしゃったような大きな影響があることを、本日改めて認識いたしました。○荒木座長 山川委員、どうぞ。

○山川委員 最終的には、政策的コンセンサスが得られるかどうかが重要なのですけれども、その判断材料としては、メリットとかデメリット、副作用をどう考えるかということを考えないといけないのですが、そのためには一体何を検討するかがはっきりしないと空中戦みたいなものになってしまいますので、今後はオプション的なものでも結構ですので、こういう選択肢とか、こういう案も考えられるということで、メリット、デメリットの検討をされてはいかがかと思います。

 平成17年でしたか、2007年でしたか、その際も結局、手続的に具体的な仕組みまで考えて初めて、これは難しいということがわかったという経験からしても、やや具体的な技術論的になりますけれども、いろいろ考えて検討されてはいかがかと思います。その際には、村上委員、鹿野委員がおっしゃられた点に関連しますが、これまで非常に難しくなった理由については、前も申し上げましたけれども、この問題を一体何の問題と考えるか、解雇の金銭解決という手続上の問題と考えるか、それとも実体法上の問題として考えるか。そのあたりが一つのポイントになるのではないかという感じがいたします。

 従来の検討になかったのは、不法行為に基づく損害賠償請求という判例で、これまで2回の検討をしたときには全くの未発達の状態で、今では、不安定ではあるのですけれども、それなりの裁判例の蓄積もあるということで、それもふまえて実体法的に考えるということも一つの今後の制度設計についてはあり得るのかと思います。

 ただ、その場合、要件・効果が難しくて、例えば考えつくだけでも資料2の2ページ目に対象となる解雇についてとありますが、16条に反する解雇だけで済むのかどうか。ほかに不当労働行為とか、労働契約法にあるものだけでも、17条1項の期間途中の解雇、それから雇い止めは解雇権濫用の類推適用になるのですが、それをどうするかとか、いろいろ波及すべきところが多い感じがしますので、このあたりも検討していただければと思います。

 実体法上のこととして考える一つのメリットは、制度の性格づけが割と出てくる。つまり、使用者側について金銭解決と言うと手続上の問題のようですが、実体法上の問題として考えると、要するに解雇権の問題だと、つまり、新たな解雇権を創設するかどうかという問題として、実体法上は把握されることになるのではないかと思います。

 これに対して労働者側の申立てというのは、一定の金銭請求権、それが不法行為とどういう関係にあるのかというのは、また別の問題になりますけれども、そのような形で手続法上の視点と実体法上の視点というものを、両方ということになるのかもしれませんが、踏まえた上で、メリット、デメリットをより具体的に検討できるようなものを今後お出しいただければと思います。

 以上です。

○荒木座長 土田委員。

○土田委員 今の山川委員の意見と関連すると思うのですけれども、先ほどから出ている2ページ目の1つ目の菱形の第2段落、16条とは別に、職場復帰を希望しない者が利用できる新たな仕組み。これは、なかなかイメージがつかめていないと思いますが、今の手続法と実体法の問題を考えると、実体法上、何らかの対処をしておけば、先ほどの資料1の13ページにあるような手続法上の法技術的な問題点が回避されるかもしれないということになってきますので、そこのところは法制度設計の問題として、次回以降、議論する必要があるし、そのためには少し明確なイメージを持てる資料が出るといいかなと思います。

 それから、先ほど私、労使間の集団的合意のところで間違ったページを言っていまして、11ページと言ったのですが、正確には9ページのイの解決金の額の基準のところで、集団的な労使合意を含み込むことで、先ほど斗内委員がおっしゃった労使自治との関係付けができるのではないかという発想をしています。集団的な労使合意と簡単に言うなという発言があったのですが、しかしながら、制度の必要性を踏まえて制度設計を考えるときに、少なくとも労使合意というツールを使う余地があるのではないかという発言に対して、なぜ簡単に言うなという反論が生ずるのか理解できません。

○荒木座長 それでは、時間になりましたので、きょうのところは以上としたいと思います。

 きょうの議論の中でも、具体的に考えるためにはもう少し資料があったほうがいいという指摘があったと思いますので、事務局のほうで次回の議論に資するような資料が用意できるようであれば、検討いただきたいと思います。

 それでは、次回について御連絡をお願いします。

○大塚調査官 次回の日程及び場所でございますが、現在調整中でございますので、決まり次第、追って委員の皆様方にお知らせしたいと思います。

 以上です。

○中山委員 次回の議題は、金銭的・時間的予見可能性ですが、きょう扱ったものを含めてやるのかあるいは別にしてしまうのですか。

○荒木座長 きょうの議論は、まだ次回、検討する必要があると思いますので、引き続き、これを検討したいと思います。

 それでは、本日は以上といたします。どうもありがとうございました。

 


(了)

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 労働基準局が実施する検討会等> 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会> 第12回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会(2017年1月30日)

ページの先頭へ戻る