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2016年8月31日 第8回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会 議事録

労働基準局

○日時

平成28年8月31日(水)14:00~16:00


○場所

中央合同庁舎5号館厚生労働省議室


○出席者

荒木 尚志 (座長) 石井 妙子 大竹 文雄 垣内 秀介 鹿野 菜穂子
小林 信 高村 豊 土田 道夫 鶴 光太郎 徳住 堅治
斗内 利夫 中山 慈夫 長谷川 裕子 水島 郁子 水口 洋介
村上 陽子 八代 尚宏 山川 隆一 輪島 忍

○議題

・これまでの検討会における意見等について
・その他

○議事

○荒木座長 それでは、定刻となりましたので、ただいまより「第8回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催いたします。

 委員の皆様には、御多忙の中御参集いただきありがとうございます。

 本日は、岡野貞彦委員、小林治彦委員、中村圭介委員が御欠席であります。

 本日の議題ですけれども、「これまでの検討会における意見等について」、「その他」ということになっております。

 それでは、お配りしました資料の確認等を事務局よりお願いいたします。

○大塚調査官 資料の確認に先立ちまして、人事異動と体制の変更の御紹介がございます。

 まず、人事異動のほうですけれども、この6月に審議官として土屋が着任しております。

○土屋審議官 土屋でございます。よろしくお願いいたします。

○大塚調査官 また、この検討会につきましては、従来は労働基準局労働条件政策課が担当してまいりましたけれども、6月に本省組織の再編がございまして、新しく労働基準局に労働関係法課ができております。そちらのほうが担当ということで移管しております。

 この労働関係法課は、集団的労使紛争を所掌する旧労政担当参事官室と労働条件政策課の労働契約等の担当が統合されたものでございまして、この労働関係法課長には大隈が着任しております。

○大隈労働関係法課長 よろしくお願いいたします。

○大塚調査官 そして、労働関係法課内の紛争処理業務室長としては田村が着任しております。

○田村労働紛争処理業務室長 よろしくお願いいたします。

○大塚調査官 調査官としては、私、大塚が着任しております。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 続きまして、資料の確認でございます。資料は1点だけでございますけれども、これまでの検討会における主な意見をお配りしておりますので、不足がないかどうか御確認いただければと存じます。

 以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、本日の議題に入ります。

 昨年10月に本検討会が設置されてからこれまで7回開催してまいりましたが、その間、ヒアリング等を通じて委員の皆様の労働紛争解決システムの現状への理解が相当深まったのではないかというふうに考えております。そして、ヒアリング等を実施する中で、これまでの検討会の中で今後の労働紛争解決システムのあり方に対して既に多くの意見が出ております。

 そこで、今回はこれまでの検討会の中における委員の皆様の御意見を振り返りつつ、今後さらに議論を深めていくために必要な御意見をいただければというふうに考えております。

 本日の進め方ですけれども、事務局にこれまでの検討会の中で出た委員の皆様の御意見をまとめてもらいましたので、まず、事務局から資料No.1の説明をしていただき、その後、委員の皆様から御意見をいただきたいと考えております。

 それでは、事務局より資料の説明をお願いします。

○大塚調査官 それでは、資料No.1「これまでの検討会における意見等」につきまして御紹介いたします。

 まず、この資料の位置づけなのですけれども、これは、今、座長からお話のございましたように、第1回から第7回までに各委員の方々から出されました意見につきまして事務局の責任において議事録から抜粋して掲載したものでございます。単なる質問なのかなと思われるものについては除いております。一応項目ごとに並べておりますけれども、その並び順などには特段深い意味はございません。

 では、資料の中身に入らせていただきます。

 1ページ目の1つ目の項目でございますが、「労働紛争解決システム全体について」ということで御意見がございました。最初の2つは、システムの創設や検討が必要だというような御意見でございます。

 3点目は、そういった検討を進めることは認めるのだけれども、新たな制度を設ける必要はないというような御意見がございました。

 4点目は、訴訟や労働審判制度へのアクセス障害の解消が必要ではないかとか、あるいは、解雇ルールを一般的に周知することが必要ではないか、そういうような御意見がございました。

 続きまして、1ページの後段でございますけれども、「労働紛争解決システム間の連携について」ということで御意見がございます。

 まず1点目は、システムはそれぞれありますけれども、それぞれの関連性が不十分ではないかというような御意見。

 また、2点目は、労働局のあっせんと労働審判というのは、事実認定などで大分違いがございますので、それらを関連づけるのが難しいのではないかというような御意見がございました。

 1ページ目の最後ですけれども、システムはそれぞれございますけれども、それと利用者とのマッチングがなかなかうまくいっていないのではないかというような御意見がございました。

 2ページ目は、1点目から3点目が労働局などの窓口での振り分けの御意見でございます。

 1点目は、振り分けは必要ということで、最後のほうに書いてございますが、訴訟ではなく労働審判や労働局、労働委員会で処理すべきものがあればそちらのほうにうまく誘導していく、そういったような仕組みが必要ではないかというような御意見がございました。

 また、2点目なのですけれども、中段にございますように、振り分けていったときに、なぜ最終的に民事上の紛争が紛争処理機関のところに来ないのかということについて分析をする必要があるのではないかというような御意見がございました。

 3点目でございますけれども、これも振り分けの関係でございますが、後段のほうに紛争処理システムの解決効果が調整的なのか、あるいは判定的なのかといったことをとらまえてどこに誘導するかというのは変わってくるのではないか、その辺を意識した振り分けが必要ではないかというような御意見でございました。

 4点目は、訴訟と労働審判との関係についての御意見で、それに関する意見がその後続いております。

 4点目に書いてありますのは、訴訟を提起した後で労働審判に付せるのか、あるいは、案件で分けるのか、前置にするのか、そういったような検討が必要ではないかというような御意見でございました。

 次も同様の御意見が続いております。

 このページの最後のところですけれども、労働審判というのは調停と判定がビルトインした仕組みなので、もしも訴訟に行った後に労働審判に返すということであると、現行制度の改正が必要なのではないか、そういったような御意見もございました。

 次の3ページ目は、現行の付調停との比較において御意見が2点ございました。

 1点目は、付調停というのは、民間の専門知識を活用するというメリットを生かしたものでありますけれども、仮に訴訟を起こしてから労働審判のほうに回す付労働審判ということが合理性を持つとすれば、これは労働審判委員会に労使双方が関与しているというメリットをどの程度とらえるかということであるというような御意見ですとか、あるいは2点目、付調停に関しては、裁判を受ける権利の保障の観点から一定の段階になると当事者双方の合意がなければ付調停はできないという仕組みになっておるのですけれども、仮に付労働審判を考えるような場合には同様の制約を考える必要があるのではないか、そういったような御意見もございました。

 さらに最後ですけれども、労働関係の事件では民事調停は活用されていないというのが実態ですので、労働訴訟の場合に民事調停を位置づけるのは屋上屋を架すことと同じではないかというような御意見もございました。

 続きまして、3ページ目の中段以降でございますけれども、「個別労働紛争解決促進制度等の行政における紛争解決システムについて」ということで若干御意見がございました。

 まず1点目は、労働委員会のあっせんのメリットを労働局のあっせんの改善にも生かしていくべきではないかというような御意見がございました。

 2点目、3点目は労働委員会に関する意見なのですけれども、認知度の向上等に努めるべきではないかといった趣旨の御意見がございました。

 4点目なのですが、これは労働局の総合労働相談コーナーに来た民事上の労働相談が、必ずしも全部あっせんの申請になっていないのですけれども、それはなぜならないのかということで、利用者の声をきちんと把握した上で施策を考えるべきではないかといった趣旨の御意見がございました。

 3ページの一番下のほうでございますけれども、「労働審判制度について」の項目がございます。

 労働審判制度につきましては、ヒアリング等を通じて委員の皆様方の共通の理解が高まってきたのではないかというふうに思われますが、1点目は、労働審判制度につきまして認知度を高めていくことが必要なのではないかという御意見。

 2点目は、労働審判制度によりまして、訴訟類型の間口が広がったのではないかというような御意見もございました。

 4ページ目の1点目でございますけれども、1点目以降は、人的体制やスキルアップなどについての御意見が続いております。

 4ページの1点目は、さらなる活用を目指すべきなのだけれども、そのためには労働審判員の人的資源が十分確保されるかどうかがポイントではないかといったような御意見がございました。

 2点目は、研修等の機会。

 3点目は、交流の機会を通じたスキルアップ、そういったような御意見がございました。

 4点目は、難波弁護士がヒアリングの際に述べられたことなのですけれども、弁護士、裁判官、労働審判員のスキルアップが必要なのではないかといったような言葉が並んでおります。

 5点目は、労働審判員の定年についてでございまして、現行では68歳であるのだけれども、もう2年ぐらい定年を延ばしてほしいといったような御意見もございました。

 その次の6点目は、実務の観点から訴訟と労働審判の選択基準について述べられたものでございます。

 結局、最後に書いてございますように、当事者の要求と主張立証の課題のバランスで総合的に判断というような御経験が述べられております。

 その次も解決金の提案について、あるいは、労働審判のプロセスなどにつきまして実務の観点から述べられたものでございます。

 次に、5ページ目の2点目ですけれども、労働審判制度はうまく機能しているということなのですけれども、何か画一的なものを設けると制度を壊してしまうことになりかねないのではないかというような御懸念が示されております。

 5ページ目の上段のほうに、「解雇無効時の金銭救済制度について」というような新しい項目を設けさせていただいて意見を並べております。

 最初の1点目から4点目ぐらいまでは、解雇の金銭救済制度について積極的な検討を求める、そういう趣旨の御意見でございます。

 1点目は、あくまでも労働者の選択肢をふやすために検討するものであるので、労働者申し立てのみ認めることを前提として検討すべきという御意見でございます。

 2点目は、中小企業の労働者について着目したものでございまして、裁判に訴える余裕のない中小企業の労働者にとっては非常に重要なことなのではないかといったようなこと。そのために、金銭補償のルールの法制化というのは速やかに進めるべきではないかという御意見がございました。

 3点目は、補償金の上限、下限を法律で定めて、その範囲内で裁判官が判断するような仕組みを設けるべきではないかというような御意見でございます。

 4点目は、どこの国でもこういったような金銭救済の仕組みがある。和解については企業の支払い能力に左右されるので労働者にとって公平ではない、そういった趣旨の御意見がございました。

 これに対しまして、次の6ページの1点目の最後のほう、当事者が納得する解決には金額だけではなくて判定に至るプロセスも重要ではないかというような御意見が掲げられております。

 また、2点目でございますけれども、もし検討するとなると手続をどうするのか、あるいは、現在の判例をどう理解するかなど、かなりテクニカルな議論が必要ではないかというような御意見がございました。

 その次からは、しばらく裁判の仕組みなどについての御意見なのですけれども、現行では、御案内のとおり地位確認とバックペイなどについての金銭的な給付を求める訴訟を起こすというのが解雇の有効・無効の判断を求める裁判としては一般的ではございましたけれども、最近、解雇を不法行為として損害賠償請求するという裁判も出てきておりますので、それに関する意見が並んでおります。

 1点目は、損害賠償請求というやり方が出ているのであれば、これを制度化してわかりやすくすることが大事ではないかというような御意見でございます。

 2点目は、東京地裁の判断傾向は固まりつつあるということで、基本的には処分権主義、当事者がどういう申し立てをするかなどによって判断が変わるのではないかということを前提にしつつ、損害賠償請求という一つの道筋はできつつあるように思うというような御意見がございました。

 その次、下から2番目ですけれども、どのような場合に解雇を不法行為とする損害賠償請求をするのかにつきまして、具体的なパターンを示しているものでございまして、既に転職したりして戻りたくはないのだけれども不当な解雇であったとしてそれを争いたいというような場合であるということが指摘された後に、最後でございますけれども、訴訟全体を見ると、今でも多くのケースが地位確認訴訟になっていると思うというようなことが述べられております。

 このページの最後ですけれども、不法行為を、何をもって不法行為と考えて損害をどのように評価するのかという点についてさらなる分析が必要であるというような御意見がございました。

 次の7ページ目の1点目でも同様に、損害賠償でいう損害とは何かということなどについて大きな論点であるというような御指摘がございました。

 ここで、7ページ目の中段から小さな項目として「〈損害賠償請求に係る裁判例について〉」という項目を設けさせていただいております。これは、前回第7回の際に事務局からA3の資料で解雇を不法行為として損害賠償請求している裁判例について御紹介させていただいたところでございますけれども、それに係る御意見を並べさせていただいております。

 1点目は、逸失利益については、当事者が何を求めているかということによるところが大きいのではないかというような御指摘。

 そして、2パラのところでございますけれども、解雇無効がそのまま損害賠償請求権に結びつくわけではない一方で、実質的には解雇無効の考慮要素は不法行為における権利侵害と故意・過失の考慮要素とかなり重複するのではないかというような御指摘がございました。

 次の8ページの1点目は、今の御指摘を受ける形で、不法行為と解雇無効の判断要素に重なりがあるという認識については同感である。その両者に違いがあるとすればとして述べられておりますけれども、従来の裁判例とその後の裁判例で何が違うのかということを具体的に述べられておりまして、将来の就労ができなくなったことですとか、あるいは、収入を失ったことを逸失利益ととらえて損害賠償を認めてきているのがその後の裁判例であるということで違いを述べられております。

 その次は判決の読み方についてですけれども、委員会の第7回資料ではABCの3類型があったわけですが、BとCについてはあわせて理解すべきものであって、最後のところに書いてございますように、裁判例では解雇無効と不法行為の成否は別のものと考えていると思っているというような御意見がございました。

 その次、8ページの中段からは項目を変えまして、「時間的予見可能性・金銭的予見可能性を高める方策について」という項目を立てさせていただいております。

 このうち、時間的予見可能性につきましては、従来の検討会では目立った意見はございませんでしたので実質的にないということになっておりますけれども、閣議決定との関係でこの辺も御議論いただければと思って、項目としては立てさせていただいております。

 意見を並べておりますのは金銭的予見可能性に関するものとなっております。

 1点目ですけれども、解決金水準につきまして何らかのガイドラインをつくるべきではないかという御意見がございました。

 2点目と3点目は、諸外国の労働紛争解決システムのヒアリングを受けての御意見でございますけれども、まず1点目は、金銭和解するときにも金額というのはケース・バイ・ケースで決まっているというのはどこの国でも同じなのではないかというような御意見でございました。

 その次は、後ろのほうなのですけれども、各国の制度の一部だけを取り出すのではなくて、全体的に裁判制度、労働紛争解決システムがどう機能しているのか、それらを有機的に見て非常に慎重に議論しないといけないのではないかというような御意見が述べられております。

 その次の9ページは、後半のほうなのですけれども、中小企業の労働者について着目された上で、民事訴訟で明確な補償金の上限と下限が決められれば、ADRのほうでも当然それに引っ張られるので、現在のように中小企業の労働者がわずかな額で解雇されるということはなくなるのではないかという、いわば積極的意見が書かれております。

 その次ですけれども、解決金の水準は個別事案に応じて当事者の主張を考慮して決めるというのが実態ですので、一概にルール化することは難しいといったような御意見があります。

 その次も積極的な意見なのですけれども、解決金の金額について、解雇されてどういう新たな職場に行けるかですとか、あるいは賃金が大きく下がるのかとか、それによって異なるような対応が考えられるべきではないかといったようなこと。

 4点目も積極的意見ですけれども、イギリスを引き合いに出しまして、イギリスでは逸失利益が補償の対象になるということになっていますので、それは補償金の中に明示的に考えていけば日本でも金銭補償を考えることができるのではないかというような御意見がございました。

 その次、5点目なのですけれども、解決金水準にはいろいろなファクターがあるということを述べられておりまして、本質的なのはデータ化が難しいのだけれども、心証形成だと思うというような御意見がございました。

 その次の6番目は、難波弁護士がヒアリングの際に述べられたことでございますけれども、後段のほうに書いてございますけれども、枠をはめて、最初にこのぐらいからこのぐらいと決めてしまうことによって、この基準がうまくワークするかどうかというのは事案がいろいろあるので疑問だというようなことが述べられておりました。

 その次、7点目ですけれども、ここでも解雇事件の場合は心証が大事ということは労働審判の場で共有されるのですが、それ以外のルールについてはケース・バイ・ケースであるといったような御意見が述べられております。

 その次、8点目でございますけれども、このページの最後のほうからは、何らかの補償を考えたときに勤続年数が影響し得る場面があるのではないかという御指摘がなされております。

 その次の10ページの1点目、勤続年数について同様に述べられておりまして、このパラグラフの最後のほうに、日本の場合には勤続年数の属性をケース化するのは難しいのではないかということで述べられております。

 また、その次のパラグラフの真ん中あたりですけれども、解雇の類型と手続のやり方で一刀両断に和解金額を決定したり、制限で判断するのは危険である。類型化を図る基準をつくるのは労働審判制度の信頼性を損なうことになるのではないかといったような御意見もなされております。

 その次は、実務の観点から労働審判における解決金の決め方について述べられた御意見でございます。

 このページの最後のほうですけれども、月々の賃金請求を基礎として、解雇無効の場合はバックペイは当然、退職となればその将来分の解決金が幾らになるかはケース・バイ・ケースとしか言えないといったような御意見でございました。

 次の11ページでございますけれども、「〈金銭解決に関する鶴委員・大竹委員による統計分析について〉」という新しい小項目を立てさせていただいております。これは、前回第7回の際に2015年のJILPTの分析で用いましたデータを活用いたしまして、鶴委員と大竹委員が独自に分析したものということでございまして、これに関していろいろ意見がございましたので述べさせていただいております。

 1点目と2点目は、分析をされました鶴委員、大竹委員のコメントを載せさせていただいているものでございまして、1点目は、このパラグラフの最後のほうでございますけれども、今回の分析でも平均的に勤続年数が解決金に影響を与えるということがわかったということが述べられております。

 また、2点目の御意見ですけれども、これも2行目あたりですけれども、ほかの要因を一定とすれば勤続年数が解決金水準に有意に影響を与え得ることが明確になったといったような趣旨の御意見が述べられております。

 次のページでございますけれども、今の分析に対しまして意見が縷々述べられておりますが、1つ目は、散布図を見ると、必ずしも勤続年数と解決金の月収倍率が連動しているようには見えないといったような御意見ですとか、あるいは2点目ですけれども、労働審判の実務に照らしまして、男性、女性といったような判断をすることはまずないし、月収で割り返すという換算のベースもそれほど大きく念頭に置いていないといったようなことが述べられております。

 3点目は、非正規の雇止めについての御意見でございますけれども、雇止めを含めて分析しているのであれば、そもそも雇止めの有効性には勤続年数が非常に大きく関係するため、正社員と同じように扱うのは難しいといったような御意見もございました。

 また、4点目は、アンケート調査についてだったのですけれども、アンケート調査の説明変数に離職経験や離職回数が入っていないと現実とは違ったものになってくるのではないかといった御意見もございました。

 それに対しまして、この分析から得られる解雇予告期間を一定程度延ばすことが考えられる等のインプリケーション3点を述べられた御意見でございます。

 次の6点目は、分析を受けた御意見でございますけれども、中段に書いてございますように、勤続年数と関係するという分析結果は妥当であるとした上で、最後のほうですけれども、相場観を知るためには心証について別途の分析が必要であるものの、この分析は有用といったような御意見がございました。

 次ですけれども、解雇に要した期間も(バックペイ相当分を含めた)解決金額に影響を与えるものと思う。裁判上の和解について説明力がないとなると、提示されたモデルは少なくとも訴訟には当てはまらないといったような御意見もございました。

 その次の13ページは、1点目、実際の労働審判制度全体の傾向と合っているかどうかをそもそも確認したほうがいいのではないかといった御意見もございましたし、2点目は、結果を見ると勝ち筋・負け筋が強く影響しており、この分析での予見可能性は低いのではないかといったような御意見もございました。

 それに対しまして、こちらの分析を行った委員からの御説明だったかと思いますけれども、これ以上正確性または予見可能性を高められるかということについては、現在得られている情報では無理といったようにしつつ、最後のほうに、労働審判のときに最低限こういう情報を集めるということをルール化してもらえれば、より予見可能性が高くなるような分析はできるようになると思うといったような御意見が述べられております。

 最後4点目ですけれども、金銭解決に関する統計分析は、あくまでも検討会の議論の参考として大竹委員、鶴委員が分析したものであるとして、検討会として何らかのまとめをしたものではないということを確認したいという御意見もございました。

 最後、その他の論点として「その他、労働紛争の解決を円滑化するための方策について」という項目を立てさせていただいております。1点目から4点目までは、紛争の未然防止とか、あるいは企業内での自主的解決についての御意見でございましたけれども、3点目の企業内の自主的解決に関しましては、苦情処理と予防の関連性が重要であるとして、最後でございますが、予防的な管理と法の周知を職場レベルで徹底することが必要であるというような御意見がございました。

 これに対しまして、企業内紛争処理につきましては、最後のほうに書いてございますように、そういったような企業内での苦情処理制度をつくっても、逆に労働者はそこにアクセスしないのではないかという実態を踏まえた御意見が述べられております。

 最後14ページでございますけれども、1点目は民事訴訟の和解についての御意見でございまして、労使などの第三者が入る形で納得感のある解決ができることが必要な事案があるのではないかといったような御意見がございました。

 その次の2点目と3点目は、法テラスの代理援助の実態を踏まえた上で弁護士の費用補助などを検討してはどうかといったような御意見でございます。

 最後は解雇予告手当に関する御意見でございまして、中小・零細企業の労働者の保護ということであれば、解雇予告期間をドイツなどを例にとって勤続年数に応じて長期化するほうが即効性があるのではないかといったような御意見もございました。

 以上、事務局の責任におきまして、これまでの議論で出た主な意見につきまして並べさせていただいております。これは、これ自体を何か取りまとめに使うとかそういう趣旨のものではございませんで、今日のフリーディスカッションを行うに当たってこういう議論があったのではないかということを振り返っていただくためのあくまで参考資料として事務局がまとめたものでございますので、その点をお含みおきいただきまして、今日の議論をしていただければと思っております。

 以上であります。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、ただいまの説明に関しまして御質問、御意見等があればお願いしたいと思います。

 項目ごとにこれまでの意見の要点をまとめていただいているというものでございますけれども、何か御意見等はございましょうか。

 村上委員、どうぞ。

○村上委員 今、事務局からも御説明があったのですが、このペーパーの扱いについて確認です。これまでの検討会における意見等の抜粋だということで、事務局の責任で項目ごとに整理したという御説明がございました。フリーディスカッションをするに当たって振り返るための資料ということだと思いますけれども、これまでの第1回から第7回までを振り返りますと、第2回以降は、私どもはずっとヒアリングを行ってきました。そのヒアリングは何のために行ってきたかといえば、さまざまな労働紛争解決システムについて現在の運用はどうなっているのか、どこに課題があるのかといった共通認識をつくっていくことが必要ではないかということでヒアリングを行ってきたものだと思っております。

 私どもは、そのヒアリング内容について質問をしたり、それに関連する意見を述べたりしてきたわけであって、今回の資料1では項目立てをされておりますけれども、必ずしもこの項目について整理して議論をしてきたわけではないというふうな認識をしております。ですから、これまで第1回から第7回までは系統的にこのような項目立てについて議論してきたわけではないということを初めに確認しておきたいと思います。

 その上で、金銭解決に関する大竹委員と鶴委員の統計分析についてであります。これについても、あくまでも両委員で独自に分析したものだということは注意書きで書いておりますけれども、両委員の統計分析についても意見を述べたり、質問をしたり、感想を述べ合ったりしたということであって、分析そのものをテーマにした議論を行ってきたわけではないというふうに考えておりますので、その点も確認をしていきたいと思っております。

 また、今回の項目立てについても、細かな点になりますけれども、両括弧で囲まれているものと鍵括弧になっているものとありまして、その違いがよくわからないということもありますので、その点についてももし何かあれば御説明いただきたいと思っております。

 最後になりますけれども、これまでも述べてきておりますとおり、解雇無効時における金銭救済制度というものについて、訴訟であれば和解がありますし、労働審判の多くは調停で解決しているということ、また、無料でできる労働局のあっせんというものもあることから、私たちは新たに制度を設ける必要はないと考えていることを改めて申し上げておきたいと思います。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 資料について質問がありましたけれども、それについて何か事務局からございますか。

○大隈労働関係法課長 労働関係法課長です。

 先ほど大塚から説明申し上げたとおり、この資料の扱いは、今日、議論の振り返りを行うに当たって手元に何の資料もないままでというのもなかなか難しいかと思いますので、事務局の責任で、これまで1回目から7回目までの御発言を並べさせていただいたということでございますし、項目立てにつきましても、これも全く何もないとなかなか資料も見にくいということもあるので、あくまでも便宜上、こういう丸括弧でつけさせていただいているということでございます。

 あと、大竹委員、鶴委員の統計分析の扱いについても資料に注記させていただいているとおりということでございます。

 この資料自体、これを中間取りまとめにするとかという意味合いのものではございませんので、丸括弧、鍵括弧も特段の意味があるわけではないですけれども、あえて言えば、丸括弧がある程度大きなくくりのもので、鍵括弧というのが2か所ございます。7ページの損害賠償請求に係る裁判例のところ、それから11ページの金銭解決に関する統計分析、ここはその丸括弧と同じ分類というよりは、それを検討する中で取り上げた一つの細項目というような意味合いで括弧の違いはつけさせていただいておりますけれども、これも今までヒアリングという流れの中で議論してきたという意味では、今後この項目に沿って議論していくことが前提になっているものではないということでございます。

 今日は、この資料は議論の素材としつつ、これまでの議論を振り返ってちょっと言い足りなかったこととか、あるいは、今後の議論に向けてさらにこういうところは強調していくべきだとか、そういう観点からの御意見をいただければありがたいと思います。

 以上でございます。

○荒木座長 八代委員、どうぞ。

○八代委員 事務局も言われましたように、これはあくまで過去の議論をまとめたもので、余りこの資料自体について議論をするのは時間のむだだと思います。

 それで、この中を見ても、例えば相談員のスキルアップとか定年を延ばすとか、そういう現行制度についての細かい改善案について反対する人は誰もいないと思うのです。だから、そういうことをこの大勢の場で議論しても仕方がないので、それは事務局ベースでやっていただければいいので、むしろ、先ほど村上委員がおっしゃったように、委員の間で意見が違うことに集中して議論してはどうでしょうか。例えばブロックごとに何が委員の間で意見が違うものかというのをまず明らかにするのが今日の大きな課題ではないかというふうに理解しております。

○荒木座長 そのような御提案がございましたけれども、そういう形で議論していくということでよろしいですか。

 どうぞ、中山委員。

○中山委員 今の八代委員の御見解に私も賛成なのですが、これまで7回の検討会を開いて、いろいろな知見と、それから論点も相当幅広なものですから、もうそろそろ具体的に焦点を絞って意見交換をした方がよいと思います。これまでの議論を見ますと解雇の金銭解決制度が一つ中心になるはずです。もう一つは、既存の紛争解決制度の検討です。裁判所、行政・労働局と労働委員会がありますし、紛争解決という意味で連携の話も出ました。恐らく主としてこの2つの分野かと思いますので、今日の議論を受けて、テーマを絞っていただいて検討会を進めたほうがよろしいのではないかと思います。

○荒木座長 土田委員、どうぞ。

○土田委員 今、中山委員がおっしゃったように、この検討会の課題の1つは解雇の金銭解決の問題で、もう一個は紛争解決システムの連携を含めた問題だと思うのですが、解雇の金銭解決については、今日の資料を見ると、最初の1ページの上の○2つは積極的なスタンスで、さらに飛んで5ページの先ほど御紹介があった中段から下のほう、あるいは6ページの3つ目の意見もそうです。これに対して、解雇の金銭解決に対して消極的な立場の意見が資料にははっきりと出ていないのです。1ページの3つ目の○に「必要はないと考えている」とありますが、何で必要がないのかよくわかりませんし、その理由も書かれていません。

 一方で、消極論の理由としてなるほどと思ったのは、9ページの2つ目の「当事者の主張を考慮して決めることとなる以上、一概にルール化することは難しい」、これは金銭解決だけの話ではないかもしれませんが。それから、その4つ下の難波裁判官の発言もあります。こういった点が、要するに一律に解雇の金銭解決の基準をつくるのは難しいのではないかというような御意見があって、それはよくわかります。いずれにしても、今の中山委員の発言を受けて言いますと、解雇の金銭解決について少し論点を抽出したほうがいいと思います。そこで、解雇の金銭解決について積極的な意見がここに並んでいるが、これに対して消極的な意見というのはどういう理由があるのだろうということを考えてみたら、少なくとも4点あるのではないかと思うのです。

 第1は、過去の話になるかもしれませんが、申立権者の議論で、使用者申立てを認めると不当な解雇が濫発されるという懸念があると思います。ただ、これは恐らく規制改革会議以来、申立権者は労働者に限定する、労働者にとっての選択肢をふやすということが言われていますから、この懸念はクリアされるのかと思います。

 2点目は、申立権者を労働者に限定しても、なおかつ金銭解決によって不当な解雇が誘発されるという懸念が考えられます。つまり、不当解雇の処理をお金で済ませてしまうのはおかしいという理由づけがあると思います。

 ただ、この点については、金銭解決制度を導入すれば不当な解雇が誘発されるというのはこの制度に本質的な問題なのか、それとも制度設計によって解決できる問題なのか。かなり以前ですが、労働契約法が制定される前に、座長、山川委員、私も参加した「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」があったのですけれども、その報告書で金銭解決制度について提案しました。あの研究会では、不当な解雇の誘発を防ぐための制度設計ということを提案したわけです。それが十分かどうかはわかりませんけれども、少なくともそういうような制度設計と運用によって不当な解雇の誘発ということについて対処できるのかできないのか、その点についてはここでしっかり論点として議論する必要があると思います。

 3つ目の理由は、これはひたすら法学的な論拠ですけれども、そもそも労働契約法16条の解雇権濫用法理は、金銭解決を許容しないのではないかということも理屈としてはあり得るかと思っています。つまり、16条は解雇の効果を無効と定めていますので、そもそも金銭解決はなじまないという理屈です。ただ、これも前回、私、残念ながら欠席しましたが、解雇の不法行為の処理がありますから、16条が無効と定めているからといって金銭解決を許容しないわけではないと思います。

 ただ、日本の解雇法制の基本的な理念が雇用の保障だとすると、これは金銭解決の政策ではなくて、例えば就労請求権をきちんと認めて使用者に労働の受領を強制する、それこそが解雇の規制の望ましい姿だ、そういう議論ができると、それは一つの反対論になると思います。ただし、かなり極端な話ではあります。

 4点目は、最近はかなり有力かと思いますが、解雇の金銭解決は現行制度でも既に行われているという理由です。先ほど村上委員がおっしゃったのはそういう趣旨かと思うのですが、金銭解決については労働局のあっせんとか、民事訴訟・不法行為の処理で既に行われているのだから今さら制度化は必要ない、こういう議論があると思うのです。これはかなり有力だと思うのですが、疑問があります。少なくとも論点としては、解雇の金銭解決が既に行われているから制度として金銭解決制度は不要だとするのか、それとも、行われているからこそ制度化が必要だと考えるのか、ここはしっかり議論しなければいけないと思います。

 まず、労働局のあっせんで金銭解決が行われているから不要という点については、労働局のあっせんは、御存じのとおり、補償金の水準がかなり低いわけです。その低い水準で行われているあっせんがあるから必要ないではないかというのは、逆立ちした議論で余り賛成できません。

 それから、民事訴訟上、不法行為で処理されているからという議論もありますが、しかし、これは前回の御議論でも今日の資料にもありますけれども、民事訴訟の場合、例えば当事者が何を請求したかによって、あるいは事案の内容によっていろいろ左右されるわけです。それから、ここに出ていませんが、私は裁判官の資質・能力によっても左右されると思います。例えば三枝商事事件というのは非常にすぐれた判決だと思いますが、裁判官がみんなああいうすぐれた判決を出すとは限らないわけです。つまり、裁判上の解決は、当事者にとっては予測可能性がありません。そうすると、民事訴訟で金銭解決が行われているからいいかというと、そうでもないと思います。 

もう一つ大きな疑問があるのは、法の支配ということを考えたらどうなのか。裁判というのは、一般市民にとっては敷居が高いものなので、例えば不法行為の処理や損害賠償の水準などと言われても、法の専門家以外はわかりません。それを市民に理解してというほうが無理なので、ということは、訴訟で金銭解決が行われることを踏まえて市民にわかりやすい制度化をする必要があるのではないかという理屈は当然あり得ると思うのです。先ほどの当事者の予測可能性という点からいってもそう思います。

 そうすると、弁護士に相談する必要もなく、社労士に相談する必要もなく、法テラスに相談する必要もなく、一般市民から見てわかりやすい解雇の金銭解決水準を定め、市民が利用しやすい解雇の金銭解決制度を新たにつくることは必要ではないかという議論は少なくとも必要ですし、既にあるからいいという話には決してならないと思います。

 それから、しばしば労働審判でも金銭解決が行われているから必要ないという意見もありますけれども、私に言わせれば、労働審判は非公開で、記録もほとんど残らない、一般市民からはわからない、私だって労働審判の実態なんか知らない。労働審判に携わっている人が知っているだけの話で、要するに、これはオープンなものではない。ですから、労働審判で金銭解決が行われているから必要ないでしょうという話には決してならないと思います。

 最後にしますが、もちろん解雇の金銭解決はいろいろな課題があるので一つ一つ丁寧に議論する必要がありますし、先ほどのように、金銭解決の基準をがちがちに決めるのは適切でないという論点もあります。後者については、例えば、解決基準をデフォルト・ルールにするとかいろいろな知恵があると思いますけれども、それを含めて、本格的に議論する必要があるだろうと思います。金銭解決制度について、最初から必要がないとか、既に行われているから必要ないという議論には賛成できません。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 ほかにはいかがでしょうか。

 中山委員、どうぞ。

○中山委員 今、土田委員から解雇の金銭解決制度のお話しがあって、冒頭に、仮に金銭解決制度を入れるとしても規制改革会議の答申もあるし、この検討会では労働者申し立てだけのいわゆる片面的な金銭解決制度が前提になるやにお聞きしたのですが、私は反対なので、その点を申し上げたいと思って手を挙げました。使用者に申立権がない、つまり両面ではなくて労働者側だけということになれば、解雇の金銭解決制度としては大幅に有意な意味合いが減ると思いますし、解雇の紛争解決の選択肢を考えるときも、やはり労使対等の理念という点から両面にすべきだと考えます。先ほど御指摘のとおり、使用者に申立権を認めると不当解雇を誘発するのではないかというおそれがあるとしても、それは制度設計上どういうふうに防止したらいいかという問題であって、これは先ほど触れられた以前の在り方研究会でも検討されておるとおりです。要は使用者申立の蛇口をとめるのではなくて、どのような蛇口にすべきかという方向で検討すべきであるというふうに考えております。

○荒木座長 八代委員、どうぞ。

○八代委員 事務局に事実確認したいのですが、今、まさに土田委員がおっしゃった規制改革会議で労働者の申し立てに限定するというのは、厚労省と合意とか閣議決定とかそういうレベルの話なのですか。

○鶴委員 済みません、私が当事者なので御説明しますけれども、これはあくまで規制改革会議の意見として出したもので、この内容自体が閣議決定をされたとか、そういうものではない。ただ、規制改革会議という会議体自体が、一応そこの中には皆さん御承知のように、さまざまな委員がいらっしゃいまして、経営者側の委員もいらっしゃいますけれども、そういう方々も含めてこういう考え方で規制改革全体としてまとめてこういう提言を出したという事実はあるのかというふうに思っていますので、先ほど八代委員のおっしゃったどういうようなレベルのものなのかということになれば、あくまでこの会議体、規制改革会議の意見、そこの中に記された考え方であるというふうに御理解いただければと思います。

○荒木座長 そのような認識でよろしいですね。

 ほかにはいかがでしょうか。

 大竹委員。

○大竹委員 私も土田委員がまとめられた4つの点、もっともだと思います。特に4つ目におっしゃった金銭解決について既に行われているから不要だということについての問題点というのはそのとおりかと思います。現在行われているから不要だという議論については、先ほどの検討会の意見のまとめにもありまして、4ページ目のスキルアップが必要だという当事者の方々の指摘そのものは、裁判官あるいは労働審判員の質にかなりばらつきがあるということですから、それについての改善というのは必要だというふうに思います。

 それから、労働審判につきまして私も統計分析しましたけれども、オープンになっている情報が非常に少ないというのは御指摘のとおりで、どんなルールなのかということを明らかにしようにも情報がない。データ分析をした本人もわからないぐらいですから、一般の人がどういうふうな形で労働審判で決着しているかということを推測するのはほぼ不可能だというふうに思います。そういう意味では、何らかのルールをつくっていくことは望ましいのではないかというふうに、土田委員の意見を聞いて私も思いました。

 以上です。

○荒木座長 どうぞ、水口委員。

○水口委員 土田先生の4つのまとめに関連するのですけれども、私は現状で金銭解決制度を導入するのについては反対です。理由を4つにきれいに整理されたわけですけれども、私自身の反対の根拠というのは、日本の民事制度、労働訴訟制度の解雇事件では、やはり解雇が無効で雇用継続というのが大原則だということです。これは準法理的な面だということで土田先生は3つ目に整理された意見に分類されると思いますけれども、やはりそれが大原則です。英・独・仏の海外の金銭解決制度について研究者の先生方の報告を受けましたけれども、ドイツも解雇制限法が導入されるまでは、違法解雇については金銭賠償が原則という法律制度だったというふうに理解をしています。ただ、日本では解雇無効・地位確認が大原則であり、本来であれば極論と土田先生はおっしゃるかもしれませんけれども、私は就労請求権も日本で認められるべきだというふうに考えているわけです。その法の大原則を当事者双方の申し立てで行うものである以上、労働者の意に反して、雇用契約を解消して金銭に変えるというのは、この大原則に反するというふうに思っています。

 それと、労働審判等で既に解雇の金銭解決が行われているからいいとかいうことではなくて、今までの議論ではルールがない云々とおっしゃっていますけれども、基本であり確認できることは、その解雇が有効か無効かということをまず判断することですよね。これについては、ルールにしろと言っても、解雇権濫用法理で展開されたもので判断するしかないわけです。

 では、解雇無効になったときに一つの金銭解決のあり方ということについては、労働審判では解雇無効の心証の確度・精度を持ちながら、たとえば難波弁護士のヒアリングでは、「労働審判での解雇無効の場合には1年を一つの基準にする」というようなことをおっしゃっていました。労働審判のケースということで、解雇無効になったときに、要は労働者が雇用継続を求めた場合、または、就労請求権がないためにどうしても使用者が職場復帰は認めないと主張し職場に戻れず、やむを得ず金銭解決する場合には、労働審判の中で労使が協議をして、それぞれの解雇無効の心証の確度、それぞれの労働者の条件、会社の条件で双方が納得した上で解決をする、こういうことなのです。

 ですので、土田先生は4つというふうにおっしゃいましたが、5つ目として、現在こういう形で労働審判において8割ぐらいが解決をしており、解雇訴訟における地位確認と同様に、労働審判においても金銭解決というのが珍しくない。それは労使双方とも納得をして解決をしているからに他なりません。大竹先生や鶴先生が出されたあの基準は、私は果たしてどうかというふうに疑問を持っていますけれども、このような解決に対して何らかの基準を当てはめるということになったら、それぞれの制度におけるケース・バイ・ケースの判断、当事者の意向や条件での解決というのを壊すことになると思います。

 基準が入った場合に実務家としてどうなるかといったら、労働審判においては、労働者、使用者のほうが調整をしながら決めるのではなくて、裁判官に決めてくれ、審判で出してくれ、あるいは訴訟で解決金を決めてくれということになって、フランスのように調停成立、和解成立率は非常に低下する、壊れるだろうと思います。弁護士としては当事者を説得する手間暇が要らなくなり、裁判所が決めればいいということになってしまいます。

 そういう意味では、4番目に挙げられた労働審判等で既に解雇の金銭解決が行われているからいいということではなくて、今、少なくとも労働審判の中で早期に解雇事件について金銭での解決を当事者が納得しており、それが制度として成立しているにもかかわらず、新たに基準を入れることによって全体の運用が壊れる危険性は非常に高いと思っています。やってみなければわからないではないかという意見もあるかもしれませんが、やってみてだめだったということになったらどうするのですかというふうに考えています。

 その意味では、先ほどの労働審判や民事訴訟で和解しているからいいという話ではなくて、和解で当事者が納得して解決したものを壊してしまうという、その危険性をどう見るかということの議論もすべきだし、私はその危険性があるから反対をするということです。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 斗内委員。

○斗内委員 今ほどの御議論がある中で、私も今回事務局でおつくりいただいた別紙1のペーパーについて、これをどのように扱っていくのかということに関して、ちょっと違和感を覚えているところでございます。

 先ほどありましたように、12ページの上から2つ目、「いろいろな要素をケースバイケースで判断しながら解決のあっせんをしている」というのは、おそらく第7回検討会に私が発言させていただいた意見を書いていただいていると思いますが、その後ろに男性、女性の話が出てきますが、これはその前段におきまして、「大竹先生、鶴先生の分析の中で勤続年数についても有意差が認められるが、男性、女性に対しても有意差がある程度認められるのではないか。また、ここには出ていませんが、役職についても有意差が認められるという結果になっているということではないでしょうか」という質問をさせていただいたことに対しお答えをいただいて、その上で私は労働審判員として、「そういった男性、女性というのは余り意識したことはないですよ」というお答えをさせていただいたということです。よって、前段の発言部分がない中でこの部分だけが引用されるというのは多少違和感を覚えているところです。

 ただ、今ほどもありますように、大きな議論の中で、資料の11ページから鶴先生、大竹先生が分析した結果について事細かに数値面が出ているというのは、僕からすると非常にテクニック面だというふうに見えますので、そういう意味からも非常に違和感を覚えるということだと思います。

 以前にも申し上げましたように、もともと私は労働審判員として、解決、調停に携わる中で、各自当事者が何を求めるかということを確認した上で、最終的に調停する中で解決金というものが出てくる。そのときには、10ページの一番下の○に書かれているような作業を進めていくという形になります。それぞれの心証を固めながら最終的に解決金のところに審理がいくとすれば、例えばバックペイの問題ですとか、解雇が無効であれば会社都合の退職金がどうなのかということも気にして最終的にまとめていきます。

 そういう意味で言うと、勤続年数と解決金というのは、やはり日本型の雇用システムからいうとある程度関係性はあるのだと思います。ただ、両先生がおっしゃられていたように、勤続年数だけですべてが説明できるわけではなく、分析結果はいろいろなことをプラスマイナスしながら出た結果であり、結果のばらつきがそのことをあらわしているのだろうと思っております。

 そういう意味では、テクニック論ではなく、今ほどの大きな議論をどのように進めていくのかというところも非常に重要ではなかろうかと思っております。

○荒木座長 ありがとうございます。

 ほかにはいかがですか。

 高村委員。

○高村委員 私は、以前、東京都労働委員会で多くの事件に携わってまいりました。東京都労働委員会の場合は、集団的労使紛争のみ扱うということになっていますが、事件の実態は、労働者が解雇されて、合同労組に駆け込んで、そして合同労組が使用者に団体交渉を申し込むも拒否されて、不当労働行為救済申し立てが上がってくるというケースも少なくありません。そうした中で解雇の問題も含めて金銭解決ということもやってまいりました。

 現在は、東京地裁の労働審判員ということで解雇事案を含めた事件に携わってきています。そういう私自身のつたない体験を含めて申し上げますと、要は、当事者が納得いく形での解決が図られるためには、解決に当たる側にフリーハンドの裁量がなければ無理だというふうに思っているのです。労働審判でも、東京都労働委員会でも、双方の事情を十分聞き、そして双方の溝を埋める努力をこちらがしながら解決案を示し説得をして、そうしたプロセスを経て、やっと当事者が納得いく解決が図れるというふうに私自身は思っているのです。

 ですから、先ほど土田先生の整理の中には解決に当たる側から見たお話がなかったと思うのですが、私は実際多くの事件に携わってくる中で、解決に携わる側にフリーハンドの裁量がなくて、ある基準が定められて、それで説得しろなんて言ってもそれは難しい話です。結果として当事者が納得いく形の解決を、現行制度において図られている中、解雇の金銭解決制度を導入することは、それを硬直化することにつながると思っています。

○荒木座長 鹿野委員、どうぞ。

○鹿野委員 私自身は、この金銭解決制度がうまく設けられるのか、設けるべきかどうかということについては未だ定見を持っていないのですが、先ほどから出された御意見をお聞きして、幾つか感想めいたことを申し上げたいと思います。

 1つは、労働者の利益という観点からこのような制度を設けることは適切ではないという趣旨の御発言があった点です。これについては、既に御指摘もありましたように、申立権者をどのようにするのかによっても大きく違いが出てくるのではないかと思います。申立権者を仮に労働者に絞るということであれば、そして労働者がそれを使いたくないときにその手続の利用を強制されるわけではないということであれば、その点はそれほどの心配はないのではないかと思います。

 損害賠償請求訴訟の資料を以前お示しいただきましたけれども、こちらにおいても、不当解雇で、実際には地位確認の訴えを提起できるような事案であっても、労働者の側が、地位確認ではなく損害賠償の請求をして、それが認められているというケースがありました。これはまさに労働者の意思がそういう形で尊重されているというふうに見ることができるのではないかと思います。

 ただし、制度がうまくいくためには、もちろん前提の条件が必要でしょうし、簡易に金銭で解決する手続を考える場合には、金額をはじき出すときの適切で明確な指標のようなものを立てることができるのかということが、特にポイントになろうかと思います。仮に明確な指標が示されていて、その上で労働者自身の意思として、これに則って解決することを望むときに利用できるいうことであるならば、そのような仕組みを設けることも考えられるかもしれません。

 ただ、この明確な指標が本当に適切な形で出せるのかどうかということがわからないのでそれが悩ましいところなのですが、これも以前の損害賠償請求に係る裁判例を拝見しておりますと、一つの指標というか枠組みとして、相応のところに再就職するのに合理的に必要とされる期間についての賃金相当額が、基本的に不当解雇による損害という形で観念され、それに他の要素を加えて、場合によってはプラス、あるいはマイナスをして調整が図られるという傾向が見られました。

 そこで、再就職をするのに合理的に必要とされる期間ということに関して、より具体的にどういう要素によってその期間が導かれるのかということがもしうまく明らかにできるのであれば、それをある程度類型化し、それを念頭に置きながら制度設計を考えるということもあり得るのかもしれません。そのような類型化がうまくできるかという点についても、私は現時点では何とも言えないところであります。

 以前の難波先生のお話では、1年をまずスタートラインとしてというようなくだりもありました。ただ、やはりケースにより違いがあるでしょうし、事案によっては1年では長過ぎる場合も短過ぎる場合もあるでしょう。そこで、それを判断する際の考慮要素としてどういうものがあるのかということを検討する必要があると思います。

 それから、最後に、確かに労使含めて納得がいく解決の実現ということを考えますと、最終的に和解的なものによって解決をするということが一番の手だてかもしれませんし、和解を促進する手続の充実は大切だと思います。しかし、そういう形での合意が成立しないという場合も少なくないわけですから、その場合の解決の制度をどうするのかは別途考える必要があるものと思います。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 徳住委員、どうぞ。

○徳住委員 先ほど土田委員のほうから4つの視点が示されましたけれども、私は労働側の実務家で、使用者側の実務家ともいろいろ話したところ、実は現時点で金銭解決制度の導入が必要だと主張する実務家というのはいないのです。だから、解雇の金銭解決制度導入の必要性がどこから出てきたかということは大変疑問です。この検討会でも各国の金銭解決制度があって、本日の資料の中でも諸外国の労働紛争解決システムのヒアリング時の意見が入っていて、諸外国の制度を学びながら導入すべきだという意見がありますけれども、よくよく見てみるとほとんど外国では制度が機能していないわけです。ドイツでも2つの制度が入っていますけれども、ほとんど使われていない。結果的にほとんどの事件、48万件のうちの4分の3ぐらいの事件が1回目の和解弁論での解決が図られている。

 フランスの場合は、先ほど水口委員も指摘されましたけれども、損害賠償制度になっているためにかえって紛争が長引き、2年から3年かかって裁判所の判決によって解決している。

 ですから、金銭解決制度を導入したと言いながら、違った道を諸外国とも歩いているのではないか。現状は金銭解決制度と違った流れで解決しているというふうに思うのです。

 やはり難波弁護士が裁判官の経験を踏まえておっしゃいましたけれども、一定の上限、下限の枠とか判断基準の枠をやるということは大変危険であり、結果的に制度がワークしない、和解の結実の度合いを破壊してしまう可能性があると思うのです。この中でも議論されましたけれども、労働者側、使用者側、いろいろ立場にある中で、判断要素がいっぱいあるわけです。水口委員も言いましたけれども、やはり最も大きな要因は解雇が有効か無効か、まずこれによって全然違います。また、難波さんも言いましたように、無効だとした場合1年を一つの基準として考え、有効だとすると3か月が上限といったことをおっしゃいましたけれども、そういう裁判官の人によっても有効か無効かによって違います。また、JALの判決でありましたように、使用者側は将来の貢献度を見ますから、過去の勤続年数というのは余りカウントしないという考え方なので、そういう点では勤続年数は余り考えないで、再就職の期間とか、それまで企業の中でどういうトラブルを起こしたかや貢献をしてきたかということや、労使の金銭に対する支払い能力など、そういうことを総合的に判断してやっているわけです。どちらかというとどの判断要素をとるかということを確定しない中で、労使がそれぞれ申し立てて、例えば労働審判だと労働審判委員会で審理していく。労働審判では、そういう大変ファジーだけど実のある作業を労使の労働審判員を入れてやっている中で解決している。

 ですから、ドイツの場合が48万件の事件数を1回でその約4分の3を解決すると言っていましたけれども、我が国の労働審判制度は2か月半で約80%の事件を解決しているわけです。それは先ほど言ったように、大変ファジーだけれども双方の意見を組み込んで解決している結果だと思います。

 そういう点では、菅野先生がおっしゃっているように、今せっかく育ちつつある労働審判の中に枠をはめるようなことをやると、労働者の求めている解雇についての解決の期間とか水準とかを壊してしまう可能性があるのではないかということで、解雇の金銭解決制度は、どういう制度を入れるかの議論はまた別の問題ですけれども、私は反対ということになります。

 さらに問題なのは、都道府県労働局のあっせんについては、私も経験していないので何とも言えませんけれども、労働局あっせんをどうするかという問題については、別途議論する余地は十分あるので、そのことを抜きにして裁判制度全体の金銭解決制度の導入に結びつけて議論するのは間違いではないかというふうに思っています。

 以上です。

○荒木座長 八代委員、どうぞ。

○八代委員 まず、何人かの方のおっしゃった当事者主義ですが、労働審判は当事者主義でいいのですが、今議論しているのは裁判における解雇の金銭補償の問題で、今うまくいっている労働審判はそのままでいいのではないかということだと理解しています。

 それから、労働者の利益というときに、労働者全体があたかも共通の利益を持っている存在だというふうに前提を置くこと自体が間違っているのではないか。大企業の強い組合に守られた労働者と中小企業の非常に弱い立場にある労働者を分けて考えるということが、この金銭補償の議論の第一歩です。そのときに労働審判にかかっても使用者側がそれでは和解金が高過ぎるから裁判に訴えるぞと脅かした場合に、労働者は不満足でも受け入れなければいけないというケースもあるわけです。仮に、裁判においても一定の金銭補償の枠があれば、より労働審判とか労働委員会のあっせんもうまくいくのではないかというふうに考えているわけです。

 それから、今は実際に裁判でそんな金銭補償の必要性を感じている人はいないということですが、それは当然であって、必要があっても裁判に訴えられない労働者も多いのではないか。いわばこの問題は、主として裁判にまで訴えられない中小企業の声なき声の労働者を救済する手段だというふうに考えています。

 それから、もう一つは、合意が大事だ、納得が大事だということですが、それが本当にフリーハンドでいいのかどうか。つまり、肝心の労働者が和解金の相場に関する情報をどれだけ持っているか。それから、もちろんそれはサポートする弁護士のいる場合は弁護士の能力にも依存するわけで、本来もっともらえるはずの補償金が弁護士の能力不足とか当人がささやかな要求をすることによって非常に少ないものになってしまう可能性もあるわけです。だから、当然、情報の不確実性ということを認めた上で、法律で一定の枠を決めて、その枠の中で個々の事情に応じて裁判官が判断するというほうがはるかに公平な手段ではないでしょうか。

 だから、言いたいことは、ここでの議論の前提にかなり違いがあるわけで、前提をそろえて議論しないと極端なケースだけを見ることになるのではないかと思います。

 それから、日本では解雇無効、地位確認が大原則だというのは法律家の間ではそうだと思いますが、我々から見ると経済環境の変化をどう見るのかという点が全く抜けているわけです。そもそも解雇権濫用法理というのは別に政府が法律で決めたわけではなくて、過去の高い成長期に普及した、いわば業界ルールです。少なくとも大企業であれば正社員を解雇するときにはこういう補償をしてきた、あるいはこういう手続をしてきたという一種のルールをベースにして、裁判官が企業に対して人並みのことをやれよということから出てきたわけです。それは過去の高い経済成長期が終わって、ゼロ成長、1%成長の中で不況が長引いて、かつてのように企業が過剰雇用を抱え切れなくなっている、そういうときに法律だけが雇用の継続性を担保しても意味がないのです。あくまで労働紛争というのは経済問題ですから、企業の支払い能力、雇用保障能力というものを前提にしないとまずいわけで、経済環境の変化に応じて原則を変えていくというのは当たり前のことではないかと思います。

 だから、あくまで解雇が有効か無効かという話より、有効のときはそれでいいわけですから、解雇が無効のときに限定して議論していかないといけないのではないか。

 先ほど土田委員が整理された4つの論点を中心に議論していけばいいと思いますし、議論するときの前提も確認していきたい。いつの時代の労働者を想定しているのか。弁護士をつけられる労働者を想定しているのか、そうでないのか。

 そういう意味では、労働者と労働者の利害の対立を考えないと今の低成長下の解雇問題というのはよく理解できないのではないか。JALの倒産の場合もそうですけれども、やはり一定数の労働者が解雇されることで残りの労働者は雇用を守られたわけですから、問題は解雇された労働者とされない労働者の間の公平な調整というのが大事で、伝統的な企業対労働者の利害対立というのは過去の高い成長期の産物ではないかというふうに考えております。

 以上です。

○荒木座長 高村委員。

○高村委員 今の八代委員の御発言にも係るのですが、いわゆる整理解雇というのは、残る従業員にしても、解雇される従業員にしても全く従業員に落ち度がないわけですよね。使用者の事情によって解雇するのです。そして、解雇というのは労働者にとって家族を含めてどんなに過酷なものかという視点が欠落しているというふうに、今、発言をお伺いしていて感じたのです。

 それと、中小企業労働者のためにというお話もございました。実は、経営法曹会議の常任幹事もされている石嵜先生が、「労働審判の最大の致命傷は弁護士費用だ」という言い方をされているのです。ですから、私もこの間、訴訟や労働審判のアクセス障害をどうなくしていくかということも申し上げましたが、それをどうするのかも検討すべきと考えます。また、労働局あっせんについては、どう機能するかによって、また大きな役割を発揮する可能性があると思っています。

 まず、労働局あっせんの解決は、私もこの検討会で質問して、計算式はそうなっていたのかというふうに回答を聞いて理解したのですが、あれは不開始を計算式の分母から除けば労働局あっせんの解決率は6割を超えるわけですね。要は、当事者が面と向かい合えば6割以上は解決するということなのです。ですから、出頭にどう持って行くか、労働局のあっせんは制度的に出頭を担保するということは難しいのかもしれませんが、職員の皆さんが、例えば東京都労働委員会では職員の皆さんが相手方を熱く説得して労働委員会に出頭してもらうように努力をしているわけです。だから、労働局のあっせんにしても、職員の皆さんもそういう努力をすると同時に、訴訟の将来を見通せるような実務家を委員として選任して、そこで積極的に解決金額も含めて解決案を積極的に出せるような体制を整えておけば、今の労働局のあっせんというのは大きく機能が強化されるということにもなっていくのではないかと思っています。よって、現行制度にはみんなが反対しないから議論しなくていいのだということではないだろうというふうに思います。

○荒木座長 水口委員。

○水口委員 八代先生の発言に関連して、前提事実を共通にするために申し上げるのですが、今までの検討会の中でも発言しましたとおり、労働審判に申し立てをする労働者が大企業の労働者に限られているというわけではないですね。これは東大社研の調査などでも分かるように、中小企業労働者のほうが多く申し立てをしているということです。

 2点目は、「裁判のできない中小企業労働者のために基準をつくるべき」だという点です。しかし、ここで提案されている、あるいは検討事項として提案されているのは、八代先生も先ほどおっしゃったように、民事訴訟における解雇が無効になったときの解決金制度です。もし民事訴訟に制度をつくっても、裁判では解雇が無効か有効かというのを決めない限りは金銭解決制度を使えないということになるわけですので、中小企業労働者のためにということと裁判所での金銭解決制度というのは直接関連をしないということです。

 それと3点目、これも前提事実ですけれども、八代先生がおっしゃった大企業の労働組合がバックにして戦う労働裁判というのは、高村さんも触れられましたとおり、現実には整理解雇事案なのですね。労使が対立をしていて、使用者側が整理解雇で大量解雇するような場合に、労働組合員が原告になったときに、労働組合が弁護士費用なども含めて全面的にバックアップします。しかし、大企業に勤める労働者で今問題になっているようなケースは非常に少ないわけです。整理解雇をして労使の全面的な対立になる事案は、ないわけではないですが非常に少ない。今、個別労働紛争解雇訴訟で一番は個別の理由による解雇なのです。この場合には大企業の労働組合員が解雇されても、個別裁判として個人で訴訟費用を負担をしていくわけです。その意味では、大企業労働者は保護されているけれども中小企業労働者は保護されていないというのは、そこの切り分けの認識が違うのかというふうには思っています。この点については、以前発言した意見は今日の資料の中に書かれていましたが、裁判もできない、あるいは裁判もしたくない中小企業労働者を救うためだったら、例えば勤続が10年たったら解雇手当を2か月にする、20年たったら4か月にする、こういう制度のほうが裁判もできない中小企業労働者をまさに速攻で救済できる制度だと思いますので、本当に中小企業・零細企業に勤める労働者を救済するためには、ドイツにならって解雇予告期間の長期化を実現すべきだというふうに思います。

 以上です。

○荒木座長 中山委員。

○中山委員 解雇の金銭解決制度の議論が出たので少しコメントをさせていただきたい。現行法では解雇訴訟において,解雇無効であれば地位確認が原則だと、これは立てつけ上はそうだと思うのですが、実務家的に見ると、むしろ実態は金銭解決が基本だ、それが適していると実感しています。実際に解雇の有効・無効にかかわらず、労働契約が終了しているケースも多いです。先ほどドイツの例が挙がって、私はドイツは不案内ですけれども、金銭解決制度はほとんど使われていないということですが、そんなに不要であればドイツで金銭解決制度がなくなっているのかというとなくなっていない。むしろ金銭解決が解雇紛争では基本だということで、当初の和解手続の段階で話がつくケースが多い、しかもこの検討会でも報告がありましたけれども、おおむね水準が決まっている。

 この点では、金銭解決制度があるということが、より金銭解決が助長されるという考え方もあると思います。日本の労働審判でみると、先ほど当事者の納得が必要だということですが、もちろん調停により双方の合意で金銭解決するケースが非常に多いと思いますけれども、仮に調停不調になった場合には、金銭支払いを含んだ審判が出せるようになっているわけです。実際にそのような審判が出て異議が出ないケースも多々あるわけで、したがって、そういう制度的な支えの中で双方が調停に合意していくという実態もあると認識しております。次に、本訴の場合でみると、当然納得ずくで話ができれば和解で終わるわけですが、仮に和解ができないために判決をする場面では、現行法では白か黒しかないわけです。しかし裁判所の心証としては100対0もあるかもしれませんが、5149もあるので、そういう場合に使用者を勝たす、あるいは労働者を勝たす、このような白・黒の二者択一自体も決して適切な解決とは言えないケースもあると思います。そこで金銭解決制度が出てくるので、今議論している解雇の金銭解決制度というのは、八代委員がまさにおっしゃったように、制度として、司法判断として、判決だけでなく金銭解決の選択肢を設けるということです。したがって労使双方が必ず納得するかどうかは判決と同様にそうとは限りません。

 ですけれども、そういうところがあるからといって、やはりこの制度は入れるべきではないか。つまり、否定する積極的理由はないのではないかというのが私の考え方です。

 それから、もう1点、先ほど土田委員のほうで4つ論点を挙げていただきました。私もこれらの論点は今後議論になると思いますが、もう一つは、民事訴訟の手続の中で金銭解決制度というのは一種の形成的判決になると思うのですけれども、そういう制度としての立てつけに問題がないかどうかというのも論点に入れていただいたほうがいいかと思います。

 最後に、私は金銭解決制度導入に賛成ですが、各論点で考えると、金銭の解決基準をどうするかというのが非常に難問だというふうに思っております。

 以上です。

○荒木座長 垣内委員、どうぞ。

○垣内委員 私自身は、この金銭的解決制度を導入するかどうかということについては、なお確たる意見を申し上げるべき知見を持ち合わせていないのですけれども、1つ議論を進める上で非常に問題を難しくしていると思われる点といたしまして、今、直前の御発言にもありましたけれども、仮に何らかの制度を設けるとして、その内容がどういうものであるのかということによって制度の機能というのはかなり大きな違いが出てくるだろうというふうに思います。

 細かい点はいろいろあるかと思うのですけれども、2つ最も重要な点を挙げるとしますと、1つは申立権者を誰にするかという点で、これが労働者側に限られるのか、それとも使用者側も申し立てができるのかということによって制度の性格というのは大きく変わるだろうというふうに思いますし、直前の御発言にもありましたけれども、解決金の水準がどのようなものになるのかということによってもかなり制度の性格が変わってくるところがあるのではないかと思います。

 解決金の水準という点に関してなのですけれども、現在、既にさまざまな先生方から御指摘がありますように、こういう制度がない中でさまざまな局面で金銭的解決が現に行われているという実情があるということですけれども、そこでされている金銭的解決の内容、金額というものがどういう形で決定されているのかということを考えますと、これはあくまで解雇が無効である限りは、言ってみれば両当事者に金銭的解決に対する拒否権がある、こういう法制度の中で交渉が行われて金額に合意がされている事例が現在の金銭的解決であるということかと思いますので、これが仮に解雇が無効だと判断される場合でも裁判所が金額を決定することによって解雇の効果を発生させることができるということになったといたしますと、そのことによって裁判外、あるいは裁判内であっても合意によって解決するという場合の金額の形成には一定の作用が生じてくるだろうということがあるかと思います。

 したがいまして、仮に金銭的水準を考える制度を導入するとして、そこでどのような金額での解決を考えるのかという点を検討するに当たっては、そのような点も考慮に入れた上で水準の当否を検討する必要があろうかというふうに思います。

 それから、もう1点、その検討の際に、現在は現に労働審判あるいはその他の場面でされている金銭的解決における水準、あるいはその考慮要素というものが当然参照されることが考えられるかと思いますけれども、その際には、現在、例えば労働審判、その他の場面でなされている金銭的解決の水準がどの程度に合理的なものなのか、これは立場によっては高過ぎるという見方、あるいは逆に低過ぎるという見方、合理的なものであるという見方、さまざまあり得るというふうに思いますけれども、その点も十分に検討していくということでないと、仮に裁判でそれをやるといったときにどのような金額が合理的なのかということを評価するのは難しいのではないかというふうに思いますので、今後検討を進める場合にはそのような点にも十分御留意いただければよいのではないかという印象を持っております。

 以上です。

○荒木座長 鶴委員。

○鶴委員 どうもありがとうございます。今日は、いろいろ委員のお話を聞いていて、今日の検討会の位置づけ自体がちょっと中途半端だなというのを非常に感じました。

 というのは、これまでにどういう意見が出たのかということに基づいて何か議論するのかというと、これは複数の委員がおっしゃったように、なかなか難しい。ただ、もう既に個別のテーマに入っているのですけれども、一つ一つかなりきちんとした論点整理を、私は土田先生の御提出された、これはほかの委員の方々もおっしゃった4つというのは、一つわかりやすい論点の整理だったかと思うのですけれども、それを明確にしないまま話をすると、各委員が言ったことについてこれだけは言っておかないといけないという応酬みたいになってしまって余り有意義ではない。

 私もなぜこういうことを申し上げるかというと、この検討会自体、昨年の秋から始まって、これだけ多様な立場を代表する方が集まりながら結構いい議論ができてきたなと思うからです。その中でいろいろ勉強しながらそれなりに認識の一致というか、コンセンサスとまでは言わないまでも現状理解についてはかなりいろいろまとまって、私自身、逆にこんな感じでできるということも余り想定していなかったので、この数か月でやってきて驚きというか、非常に充実した議論ができてきたなという感じがするのです。

 今日あと残り30分というのは、今後どういう形でこれを議論していったらいいのかということをもう少し話をしたほうがいいのではないかという感じがするのです。

 冒頭、八代委員が異なっているところはどうなのかということをおっしゃいました。それは非常に大事なのですが、私は逆に、これまで議論して、割と認識は一致してきているところもそれなりに多いのではないかという感じを持っていまして、そういうところを少し、これは事務局にお願いなのですが、次回以降、どういうところは割と認識が一致している、ただ、ここから以降は、こういうことについてはかなり認識が異なっている点があります。では、そうしたところはどういうふうに、最終的には検討会をまとめるには委員のコンセンサスというのができないと何もまとまらないわけで、お互いの双方の違った立場をただ言いっ放しで何回も続けていても何もまとまらない。そうすると、どこまでは割と認識が一致しているのかというところをもう少し着目するというやり方もやっていかないと生産的な検討会にならないということを非常に強く思います。

 2番目として、これも今日幾人かの委員の方がおっしゃった中で共通しているのですが、現状認識というか、実態として法律とかガイドラインとかそういう強制的なものがなくてもこういう形でできているではないか。例えばこういう目安があるではないか、こういう解決がされているではないか。ある程度そこの当事者にとって認識が一致している面というのは、これまでの議論では結構たくさんあったと思うのです。そこから次どこに行くのかというところで、実はそこまでの認識は同じにもかかわらず、次の一手で大きく考え方が変わっている。つまり、そこまである程度実態としてできているのだから、それをもうちょっとフォーマルな形にしたほうがいいではないか。ある程度法制度という形もできるのではないか。そういうふうにやったほうが、もっとよりよくうまくいくのではないかという考え方と、もう実態としてそこでうまくやっているから余りそういう余計なことをやらなくて当事者間でうまくやって目安もあるからそれでいいではないか、この2つはかなり思想的に、あるところまでの認識は非常に同じなのに、次の一歩というところで大きく変わっている。多分ここが最後の最後まで議論のポイントになっていくのだろうと思うのです。

 私は、今日いろいろ御議論をしている中で、やはり両面あるなという感じを持っています。ある程度フォーマルなものにしたほうがより早く、より納得した解決ができるという考え方もある。一方、それが何か制約を与えてしまうのではないか、そういう場面もあるかもしれない。この辺はかなりよく考えて議論のポイントになっていくのではないか。

 なので、今日は両面のことを委員の方々はおっしゃったのですけれども、私は、両方とも一理あるし、ただ、一方的に主張できるポイントだけではないだろうという印象を持ちました。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 斗内委員。

○斗内委員 今、さまざまな御議論がある中で、今回の検討は誰のため、何のために行っているのかというところもあると思うのです。先ほどまで金銭解決制度に議論が集中していましたが、検討項目としてその前段にあります、これまでの7回のヒアリング等を行ってきた現行のさまざまなタイプがある労働紛争解決システムをどう有機的に関連づけることが必要なのかという観点も抜けてはならないと思っております。

 この資料で言うと1ページ目にありますように、やはり現在、それぞれの制度間の関連性が不十分だとか、アクセスの問題ですとか、利用者とのマッチングの問題等々が指摘をされていますが、そういったことも含め、大きく俯瞰する中で本当に何が必要なのかという議論は必要なのではないかという気がしております。

○荒木座長 山川委員。

○山川委員 今の鶴委員と斗内委員の御意見に共感しております。これからの議論の仕方ということだと思いますけれども、1つは、確かに余り異論はなかったかもしれませんけれども、他の制度についてどういうふうにしていくのかについては、方向性まではまだ明確には示されていないように思います。個別的な話になりますけれども、今日の資料ですと2ページから3ページ目で行政における紛争解決システムの記載が非常に少ないですが、例えば今、斗内委員からも御指摘がありましたけれども、相談窓口における振り分け機能ですとか、相談員のスキルアップという2ページ目の最初の2つは行政のお話になろうかと思います。

 スキルアップという点は、それ以外、審判員もそうですけれども、全体として人的資源をどういうふうに高めていくかという問題があります。また、行政のあっせんについては参加率とか説得力のある解決率をどういうふうに高めていくかというようなお話もありますので、こちらのほうもこの検討会の一つの大きな柱ですので、収れんは比較的しやすい点かと思いますので、そちらのほうも議論を進めていっていただければと思います。

 あとは、金銭解決と言われるシステムの問題ですが、これも鶴委員のおっしゃられたように、今日はかなり中身の議論に入りましたが、やや何を対象として議論すべきかというところに食い違いがあるような感じもいたします。その意味では、在り方研の御紹介もありましたが、第1回目の資料には出てきたのですが、余り詳しい議論もなされていませんので、そもそも問題の所在といいますか、何が問題ないし検討の対象になるのかをもう一度確認した上で新たにさらに検討を進めていくということが必要かと思います。

 その意味では、方向性を出すという意味で資料を出すというわけではなくて、問題の所在をつかむという意味では、使用者側の申し立てとか、これも在り方研で検討したところですけれども、広目に問題の所在を把握するような形で議論していってはどうかと思います。これは垣内委員のおっしゃられたこととも関係ありますけれども、金銭解決という言葉自体をそもそもどう見るかという点がありまして、端的に言えば、金銭を支払って契約を解消する仕組みであるということに、合意によらない場合を考えると、金銭支払いプラス契約解消の仕組みを入れるかどうかというようなことになるのではないかと思いますけれども、そのような形で問題の所在の意味を明らかにした上でさらなる検討を進めるという進め方は結構かと思います。

 以上です。

○荒木座長 輪島委員。

○輪島委員 言っておかなくてはいけないと思ったので申し上げると、5ページにある、先ほど中山先生が御指摘になりました「解雇無効時の金銭救済制度について」、委員から2行目にある「労働者側からの申立てのみを認めることを前提とすべき」というような意見があったのだろうと思いますけれども、今、山川先生がおっしゃったとおりに、さまざまな可能性を含めてこれから広く議論するということなのだろうと思っております。

 それから、同じ点で11ページについて、前回、鶴先生と大竹先生から統計分析について御披露があったということで、ここの11ページと12ページのほうは非常にポジティブに評価をするようなことが書かれているように私には読めるのですけれども、どちらかというと私の印象としてはなかなか難しい。これは、先ほど中山先生がおっしゃったとおりというところで、今回の統計分析について本当に有用な検証ができたのかということについて言うと、現状ではなかなか課題が多いのではないかというふうに思っているところでございます。

 そうすると、先ほど鶴先生がおっしゃったように、大きな方向性とこれからの議論というところで議論を整理してさらに深めていくということは必要だろうと思います。最終的に課題になるのは、予見可能性についての金銭のレベル感というところなのですが、今のところこれ以上検証するすべがないということになると、今後、制度の議論はしても、結局、最終的に制度設計についてどうなるのかというところはブラックボックスになってしまうのではないかというふうに思っておりますので、その点も含めて、せっかくやっていただいた統計分析のさらなる検証をどのようにするのかというようなことも含めてさらに議論が必要なのではないかというふうに思います。

 以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 土田委員。

○土田委員 先ほど山川委員が言われた紛争解決システムについてですけれども、どういうレベルで議論するかということです。今日の資料の1ページの下から2つ目のところで、労働局あっせんと労働審判を関連づけるのは難しい。これは、確かにここにあるような事例は難しいと思うのですが、それを改善することをどういうレベルで考えるのか。例えば、イギリスのACASETのような連携の仕方を制度的につくるところまでこの検討会で議論するのか、それとも、例えば2ページの先ほど指摘された2つ目のスキルアップの点については、認識は一致しているわけですから改善に向けて具体的にどう提案していくか。後者の方は議論しやすいと思うのです。

 ところが、本当に大切なのは、先ほど言ったあっせんと審判との関係性のあたり、実はこれは大変重要な問題だと思っていて、行政ADRと審判・訴訟との関係ですね。だから、どこまで具体的な提言ができるかはわからないけれども、しかし、少なくともそういう問題点の所在と基本的な方向性については、事務局から資料を少し出していただいて、諸外国の資料等もあれば含めて出していただいて、それで議論できればと思います。

 それから、先ほど鶴委員が言われた、今日は各論になってしまっていて、言いっ放しになってもおかしいからというのは、全くそのとおりですけれども、私は言い出しっぺですので3点ほど感想を言わせていただきたいのですが、水口委員が言われたように、金銭解決制度というのは裁判上のものです。ですから、裁判に行かないと始まらないということはそうなのですけれども、大きな波及効果があるのは、金銭解決制度をきちんと裁判上の制度として設けて金銭解決の水準を設ければ、ほかの紛争解決機関に波及すると思うのです。もちろん、金銭解決水準については先ほどから議論があるとおりに難しい点があるので、詰めなければいけないのですけれども。つまり、裁判に来ない人たち、来れない人たちに、また本当に簡易なあっせんを利用する人たちにも波及すると思います。ですから、別に裁判上の制度としたから裁判を使わなければ機能しないということにはならないだろうというのが1点です。

 それから、特に労働審判では労使が合意し納得して解決しているのだということですけれども、問題は労使が納得せずに合意できなかったときの人たちをどうするのか。その人たちについて、労働局のあっせんのように簡易な解決を行うところで金銭解決制度によってベターな解決のよりどころとなるようなものができれば、救済される人は増えると思います。その意味で、金銭解決制度は、労使が合意して納得しているところを壊すのではないかという意見には余り賛成できないというのが2点目です。

 最後に、八代委員がおっしゃった、合意に際してフリーハンドでいいのかという点ですが、先ほどフリーハンドでいいのではないかという御意見もありましたけれども、私も労働局や労働委員会であっせんを担当していますから、フリーハンドでやっているわけです。しかし、フリーハンドでいいとは全然思わないです。その一つの理由は、先ほど八代委員がおっしゃったように、労働者の情報量が圧倒的にないからです。そこで、労働者がよりどころとなる情報を持つためにはどうするのかということも考えなければいけない。もう一点は、そういう情報があれば、我々が労働局や労働委員会で労使双方を説得するときのよりどころにもなります。ですから、金銭解決制度によって、あっせんなどの担当委員がフリーハンドでできるところが侵されるのではないかというような御意見には賛成できません。

 以上です。

○荒木座長 徳住委員、どうぞ。

○徳住委員 山川委員と土田委員の意見に関連ですけれども、私は、金銭解決制度導入の可否の問題と、もう一つは、各制度間の連携性を深めるための議論は、ぜひこの検討会でやっていただきたい。確かに資料に書いてありますように、行政と裁判所の連携に関しては、労働局あっせんの場合は1枚の申立書で済むにもかかわらず、労働審判の場合は、裁判所からは全部の資料を出せということで、労使とも現在は包括提出方式で全ての資料を提出しているわけです。そのため、労働審判では膨大な記録になっていて、労使間の情報の格差が大きいという資料の格差の問題があるうえ、権利義務を踏まえて判断する、つまり有効か無効かを踏まえてやるということですけれども、労働局あっせんの場合はそれがない。この手続的な違いと判断手法の違いがすごく影響してきていると思うのです。

 しかし、これは今回の検討会ですべての問題を解決できるかどうかわかりませんけれども、本当に労働審判でもあんなに大量の書類を出す必要があるのか、反対にあっせんの場合はあんな申立書1枚だけでいいのかという問題の双方を考えて、連携性の問題を考えるべきではないか。このように検討することによって、八代委員が言っている相当多くの裁判所まで届かない労働者が救われる可能性があるというふうに思っていますので、その制度設計によっては相当の救済効果があるのではないか。この問題は今まで手つかずの分野ですし、検討事項の「既に制度化されている雇用終了をめぐる紛争等の多様な個別労働紛争の解決手段が有効に活用されるための方策」のほうに任された問題であるので、私は検討するに値するのではないかと思っています。

 もう一つは、金銭解決制度を導入すると、その他の制度に対して波及効果があるのではないか、また、波及効果があるかないかがはっきりしていないのではないかということです。例えばドイツの解雇の解消判決制度は解雇が無効になった後に労使の申立てによって行うとされているのですけれども、制度自体ほとんど利用されていないし、ほとんど機能していないということですから、解消判決制度での解決金水準が最初に和解を行う際の水準に影響していると思わない。そういう点からも解雇の金銭解決制度を考えるのはどうかというふうに思っています。

 以上です。

○荒木座長 鶴委員。

○鶴委員 個別の話で反論するのはおかしいと言っていた人間が言うのも申し訳ないのですけれども、今おっしゃったドイツのケースなのですけれども、これは私の理解が正しいかどうかというのはもちろん自信があるわけではないのですが、例えば2週間以内で和解をやらなければいけなくて、和解のやり方も勤続年数で0.5か月というルールは決まっていて、まずそこでドイツの場合は解決してくださいと。そこでほとんど決まっているというのは、もし裁判に行った後に解雇無効というドイツの場合での判決なのですけれども、その場合でも金銭解決というものが制度上準備されているからこそ、そういう前の段階のものが機能するという条件になっているというふうに理解をしているつもりです。

 もともと裁判をやって金銭解決というものが、その制度がなかったときに最初に和解で非常に短時間に決めるという仕組みが、本当にそれができるのか、それがワークするのかということについては、それはセットとして考えるべき話ではないのかというふうに理解をしています。

○荒木座長 村上委員、どうぞ。

○村上委員 いろいろ御意見を聞かせていただきましたが、幾つか申し上げたいと思います。まず、鶴委員の今のドイツの話ですけれども、つい最近ドイツに行って伺った私の理解では、解雇制限法は解雇無効で雇用継続を目的とする法律だからこそ和解が進むのだ、調停が進むのだというふうに裁判官も労働法の学者も指摘されていました。結局、行くところまで行ってしまうと雇用を継続しなければならないから使用者側にとっては和解をするインセンティブができるし、景気の状況にもよりますけれども、労働者にとっても早いうちに新しく雇用が見つかるようであれば和解をしたほうがよいのではないかということになるので、解雇無効であるからこそ調停が進むというふうに聞いておりましたので、その点は少し理解が違うのかという感じがいたしました。

 また、今回、水口委員も徳住委員もいろいろ意見を申し上げましたけれども、「解雇の金銭解決制度にどのようなイメージを持って議論しているか」ということ対してさまざま理解の違いもある中、これまでそのような意見が少なかったのは、そのテーマについて議論をしてこなかったということがあると思っています。検討会の検討事項が、雇用終了をめぐる個別労働紛争の解決システムがより有効に活用されるための方策と、解雇無効時における金銭救済制度のあり方とその必要性であるということは、第1回の開催要綱に明示されておりますけれども、第2回以降はずっと前者に関してヒアリングをしてきた経緯がありまして、そのため後者の解雇無効時の金銭救済制度のあり方とその必要性に絞った議論をしてこなかったのだろうと思っております。

 3点目は、斗内委員をはじめさまざま意見が出ておりますけれども、何のために私たちはこの議論をしているのか、何か新しい制度をつくるのであれば、何のために必要なのかということをきっちり確認して議論していくことが必要だと思っております。

 「裁判に訴える余裕のない中小企業の労働者にとって大事なことは何なのか」ということを八代委員はずっとおっしゃっていますけれども、そういうことであれば、徳住委員も高村委員もおっしゃっていましたとおり、やはり既存のシステムをより有効に活用される方策をまず議論するべきだろうと思います。例えば、労働局のあっせんであれば出頭義務をかけていくということも一考に値するのではないかと思いますし、労働審判についても定型申立書を作成するなどして労働者の負担を軽減していけば、簡易な事件であれば弁護士をつけなくても申し立てできるということもあるかと思います。そういった具体的な話をぜひ議論していくべきだろうと思います。

 以上です。

○鶴委員 関連で1点だけ。

○荒木座長 鶴委員。

○鶴委員 今のお話がそういうことであれば、私も基本的に向こうでお聞きになられた話と大きく違いはないと思っているのだけれども、それであれば、逆に日本でも期限を切って、訴訟でも最初に頭で和解をするという仕組みが日本でも導入可能であるというふうに、私はお話をいろいろ聞いていて感じましたので、そういうこともぜひここでドイツ式の、そこがうまく機能するのだったら同じような制度を持っているわけだから検討したらどうかという1点だけです。

○荒木座長 八代委員。

○八代委員 今の村上委員のおっしゃったのは全くそのとおりだと思うのですが、それは労働審判が最終決着場所でない限り機能しないと思うのです。つまり、使用者側が裁判に持ち込めば労働者側は折れるというのがわかっていれば、労働審判でもそんなに妥協はしないわけですから、いわゆる労働裁判所みたいなものがあって、そこで最終決着できる。それが労働審判だということであればおっしゃるとおりだと思いますが、上に普通の民事訴訟がある限りは、裁判に訴えられ難い中小企業の労働者の場合には経営者が有利になるというふうに考えています。

○荒木座長 村上委員。

○村上委員 今の点なのですが、労働審判員の経験で申し上げますと、大企業の使用者の場合はあるかもしれないですけれども、中小企業の使用者で「訴訟にするぞ」と脅かすような方というのはほとんどいらっしゃらなくて、どちらかというと中小企業の使用者の皆さんは早く紛争を終わらせたいといった要望を持っていらっしゃることが多くて、労働審判においてできれば解決したいと思っていらっしゃる方のほうが多いのではないかと思っております。

○荒木座長 土田委員。

○土田委員 今、最後のところで議論がありましたけれども、私が先ほど言った4つ目、つまり解雇の金銭解決は現行制度でできているからいいではないか、別に必要ないという議論をさらに深堀りすると、今、村上委員がおっしゃったように、例えば労働局あっせんであればここを改善すればいい、労働審判制度であればここを改善して運用していけばそれで十分だという御意見が出てくると思います。しかし一方、そうした現行制度の改善点を補って余りあるメリットが解雇の金銭解決制度にはあるのかないのかについても、そこは深堀りして検討する必要があると思います。そういう議論がまたできればいいと思います。

 以上です。

○荒木座長 大変いい議論をしていただきました。かなり金銭解決に話が集中いたしましたけれども、お話をお聞きしていてもいろいろと検討すべき点があるように思います。

 ドイツの話がちょっと出ましたので、私もヒアリングなどをした経験を踏まえて申しますと、ドイツの解雇制限法で金銭解決、解消判決が出せるという仕組みがありますが、これはほとんど使われておりません。ドイツの金銭解決というのは、和解弁論を最初に持ってきて、その場で実体審理に入る前に金銭解決をするというのがほとんどということです。その場合に、裁判になっても最終的に金銭解消判決が出せるからそういう初回の和解弁論での金銭解決が機能しているのではないか、という点について盛んにヒアリングをしましたけれども、そうだという答えはドイツでは誰からもありませんでした。それは全く関係ないという答えでした。

 それから、特に諸外国の議論を参考にする場合には、その国における訴訟がどういう状況かということも重要で、ドイツは43万件ですが、そのちょっと前は60万件、日本の200倍の訴訟が起こっておりました。どの国も訴訟の洪水で困っており、限りある国の資源をどう有効に活用するかということが問題で、なるべく金銭解決できるものは入口で落としてしまって、実質審理をすべきものに絞らざるを得ないという中での議論でした。

 日本の場合は労働審判がふえてきたといっても労働事件数は1万件にいっていないという状況です。当事者が納得する解決を目指しているという議論もありましたけれども、どういう形で紛争が起こっていて、その国の制度をどう動かしていくか。そういう観点からすると、現在、諸外国に比べて日本は紛争解決システムが乱立している状況です。これをどう調整しなければいけないのかについて後半のほうに議論があり、検討会でもずっと議論してきましたけれども、重要な課題であろうと思います。

 それぞれの紛争処理制度に行ったときにどういう解決が得られるのか。労働者本人にとっては、例えば解雇されて一定の期間にどの紛争処理機関でその時間を費やすのかは、後では取り返しのつかないことですから、自分の行くべきふさわしいルートが整備されているかどうかというのは非常に大きなことだと思います。そうした問題も踏まえて、さらに検討すべき課題は多いと、御指摘を聞いて感じたところです。

 そこで、事務局には、今日の議論の整理、そして、今日の示唆を踏まえて、金銭解決について過去に検討したものや、制度間の連携等も含めて必要な資料について検討いただければと思います。

 それでは、時間も参りましたので今日はこの程度にいたしまして、次回について事務局からお願いいたします。

○大塚調査官 次回第9回の日程につきましては、現在調整中でありますので、それが確定次第、開催場所とともに委員の皆様方に御連絡申し上げたいと思っております。

 以上であります。

○荒木座長 それでは、本日の検討会は以上といたします。お忙しい中御参集いただき、ありがとうございました。


(了)

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