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2015年3月12日 第6回目安制度の在り方に関する全員協議会 議事録

労働基準局

○日時

平成27年3月12日(木)
10:00~11:50


○場所

厚生労働省12階専用第14会議室


○出席者

【公益委員】

仁田会長、鹿住委員、武石委員、土田委員、中窪委員、藤村委員

【労働者委員】

木住野委員、須田委員、田村委員、冨田委員

【使用者委員】

小林委員、高橋委員、中西委員、横山委員、吉岡委員

【事務局】

谷内大臣官房審議官、久富副主任中央賃金指導官、
新垣賃金時間室長補佐

【参考人】

川口一橋大学大学院経済学研究科教授

○議題

目安制度の在り方について

○議事


○仁田会長 それでは、ただ今から第6回目安制度の在り方に関する全員協議会を開催いたします。
 本日は、萩原委員、松田委員、渡辺委員が御欠席でございます。また、土田委員は若干遅れての御出席と承っております。
 前回は、静岡と大阪の2つの地方最低賃金審議会の会長からヒアリングを行いまして、最低賃金の在り方と3要素の在り方、目安審議の在り方についての御議論をいただいたところでございます。
 本日は、川口大司一橋大学教授においでいただきましてヒアリングを行うこととなっております。
 お忙しい中、おいでいただきまして誠にありがとうございます。
 それでは、早速お話を伺いたいと思いますけれども、一応30分程度御説明をいただいた後で、30分程度質疑を行うこととさせていただければと思います。
 それでは、よろしくお願いいたします。

○川口一橋大学教授 皆様、おはようございます。今、御紹介にあずかりました一橋大学の川口と申します。
 本日は、最低賃金の経済分析ということで、私が共著者ともども10年ぐらいにわたって最低賃金の研究をしてきたのですけれども、その中で得られた知見について御報告申し上げたいと思います。
 よろしくお願いいたします。
 資料1を御覧いただきたいと思います。
 1枚めくっていただきますと、これは皆様よく御存じのことですので割愛させていただきたいと思いますけれども、「地域別最低賃金の決定プロセス」というのはここの図のような流れになっているということでございます。
 2007年の最低賃金法の改正を受けまして、生活保護との逆転現象の解消が政策的な課題となりました。
 結果として、1枚めくっていただいて「最低賃金額の長期時系列」というグラフを御覧いただくと、これは東京と青森の地域別最低賃金の金額を時系列でプロットしたものなのですけれども、2007年を境に東京の最低賃金の伸び率が青森のそれを上回るというような形になっております。
 この本質的な理由なのですけれども、東京都は最低賃金と生活保護水準の逆転幅が大きかったため、その逆転を解消するために相対的に大きな最低賃金の引上げが求められることになり、結果として東京と青森ではトレンドに乖離が生じたということでございます。
 その点をより明確にしたものが「2007年改正以降」というグラフでございまして、伸び率という観点で見ますと、2007年までは北海道、東京、鳥取と3都道県ともに並行して動くような形になっていたのですけれども、東京の伸び率が大きくなっています。北海道も逆転幅が大きい都道府県の一つでございまして、鳥取などに比べると伸びの大きさが顕著であるということでございます。
 最低賃金の話は、最低賃金そのものは余り賃金分布の中に食い込んでいないので、最低賃金が実質的に賃金を決定する力というのはそれほど強くないのだという議論が伝統的にはございました。
 その状況が変わることがありました。その2つの大きな原因なのですが、1つは、今申し上げた2007年の最低賃金法の改正なのですけれども、もう一つは、より長期のトレンドにわたる話でございまして、1997年を境に日本では名目賃金の下落が観察されておりまして、デフレ 環境の中で最低賃金は下がりませんので、結果として最低賃金の水準が相対的に高くなるといったことが起こりました。
 例えば青森県は、「最低賃金と賃金分布(男性)」の「Figure3」というのを御覧いただきたいのですけれども、このグラフは賃金分布を表出したものであります。縦軸が頻度、横軸が時間当たりの賃金額でございまして、これは賃金構造基本統計調査を使って時間当たり賃金を 各労働者に関して出したものの分布なのですが、1994年の青森県を御覧いただくと、赤い線が最低賃金の金額なのですけれども、最低賃金のところで働いている方というのはほとんどおられないという状況でございましたが、2003年になりますと最低賃金が賃金分布の中に食い込む。具体的に賃金を下支えするような機能を果たすようになったということを御覧いただくことができるかと思います。
 1994年の東京と2003年の東京というのも参考に挙がっているのですけれども、デフレによって賃金分布が下側にずれてきて、結果として最低賃金がバインドする、拘束するという現象というのは、東京では2003年の時点ではまだ見られていないということでございます。
 これは男性なのですが、女性に視点を移しますとちょっと違った図が見えてくるのですけれども、青森県においては1994年の時点で既に賃金分布の中にかかっているというような状況でございました。2003年になりますと、もう賃金分布のベル型の形状の真ん中を切るようなところまで最低賃金の水準が上がるということがございました。
 1994年の東京、2003年の東京というのを見てみると、1994年の東京は女性についてもそれほど賃金分布の中に食い込むことは観察されないのですが、2003年になってきますと最低賃金の位置と賃金分布の壁のようなものが観察される位置が若干ずれていますので、因果関係はそれほど明確ではないのですけれども、最低賃金が賃金分布に何らかの影響を与えた可能性があることを示唆するようなグラフになっております。
 今度は2007年と2010年で最低賃金法が改正された後の分布を御覧いただきたいのですけれども、沖縄のように賃金水準が低く相対的に最低賃金の水準が高い県においては、2007年の時点で男性の賃金分布の中に食い込むということが起こっておりました。
 2010年になってもその状況はそれほど変わらないということなのですけれども、東京に目を転じてみますと、2007~2010年にかけて最低賃金は719円から791円まで上昇いたしました。比較的大幅な引上げの結果として、賃金分布の中に最低賃金の位置が食い込むことが観察されるようになりました。ある種、これは政策の目的にかなったものと考えることもできるかと思います。
 最低賃金が上がった結果として、賃金水準の下支えとして機能するということが見てとることができたわけですけれども、これが一体賃金分布を平等化させるのにどの程度役に立ったのだろうかというシミュレーションを行った結果が「最低賃金の女性賃金下支え機能」というグラフでございます。
 これは横軸が賃金分布のどこに位置している人なのかということでございます。縦軸は1994~2003年にかけて賃金の上昇の幅がどの程度あったのかということを百分比で表しているということでございます。縦軸が0.1という値をとるということは、名目賃金が10%上昇したということでございます。
 一番上の実線が実際に観察されたものです。その下にある点線なのですけれども、こちらは仮に最低賃金が上がらなかったとしたならば実現したであろう賃金上昇の幅ということになります。
ですので、これはシミュレーションの仕方によって若干結果は変わるのですけれども、実線と各種点線の間の距離が最低賃金の政策効果ということになります。
 賃金分布の下のあたり、10パーセンタイルですとか、20パーセンタイルというのは賃金分布のボトム10%、ボトム20%ということなのですけれども、この賃金分布の下のあたりにおいては最低賃金が実際の賃金を下支えするような機能が強く働いていたということで、女性の賃金分布の平等化に役立ったということは言えるということでございます。
 ここまでは最低賃金のある種望ましい側面ということが言えるかもしれません。仮に賃金分布の平等化というものが政策の目標であるとするならば、最低賃金を上げていく、あるいはデフレ環境において最低賃金を名目では下げないという政策目標を達成したということを言うことができるかもしれません。
 一方で、仮に最低賃金を上げるということが貧困の世帯の世帯所得を上昇させることにあるのだという観点で評価するとどうだろうかということでお示ししたのが「だれが最低賃金労働者か?」という表でございます。
 こちらを御覧いただきますと、最低賃金労働者というのが一体どんな人々なのかということに注目した分析でございます。
 最低賃金労働者が一体どんな世帯に所属しているかという研究というのは、実を言うとそれほどされてはおりません。賃金の情報が正確に手に入る「賃金構造基本統計調査」は事業所の賃金台帳からデータが取られているものですから、各労働者がどのような世帯に所属しているのかという情報がございません。
 そのため、ここの表を作成するに当たっては、総務省が5年に一度行っております「就業構造基本調査」を使って計算を行いました。
 結果として、時間当たりの賃金がそれほど正確に推定されているわけではございませんので、この表はあくまでも参考ということで御覧いただければと思いますけれども、おおよその傾向は見てとることができるのではないかと思っております。
 2002年の時点の最低賃金労働者が一体どんな世帯に所属しているのかという分布を御覧いただきますと、最低賃金労働者が世帯主で、かつ世帯所得が100万円を下回っている人は2%強しかいないということでございます。200万円以下の方が7.26%ということでございまして、世帯主で、かつ200万円以下の所得を稼がれている方というのは、最低賃金労働者全体の中の1割ぐらいだということがわかりました。
 しかし、この世帯の方々が貧困対策の対象になるということを前提とするならば、ターゲットにしている人に届いている。ただ、届いている確率は10%ぐらいだということが言えるのかもしれません。
 一方で、ターゲットとは必ずしも考えられない人に目を転じてみますと、これは具体的にはどういうことかというと、最低賃金で働いていらっしゃる方の中には、家はそんなに貧しくないのだけれども、学生でアルバイトをしているような方もおられるということでございますが、仮に最低賃金労働者が世帯主以外で世帯所得が500万円を超えている人たちだと考えたとしますと、実を言うとそういう人たちが最低賃金労働者の中の半分を占めています。50.54%というのはそういう数字でございますけれども、少なくともこのデータの中で最低賃金労働者とカウントされる人の半分ぐらいは、世帯主以外の世帯構成員で、かつ世帯所得が500万円を超えている世帯に所属しているということがわかりました。
 今の表から読み取れるメッセージは、貧困対策として最低賃金というものを考えると、確かに貧困対策になっている部分はあるのだけれども、貧困世帯とは必ずしも言えない人々のところに政策が行っている側面もあるということであります。
 次に行きたいのですけれども、最低賃金を上げるという話をしたときに典型的に出てくる批判は、中小企業等で経営が苦しいところに最低賃金労働者というのはたくさんいて、最低賃金が上がってしまうと企業が倒産するようなケースが起こり得るということで、雇用が減ってしまうという批判がしばしば聞かれるわけでございます。
 経済学的に考えてもそのようなことというのは起こり得まして、主に2つの経路で雇用の削減というものが起こる可能性があります。
 1つは、企業は潰れないのだけれども、自動化などの影響が出て機械への代替が起こるということです。これは理論的な話だけではございませんで、スーパーマーケットの自動レジの導入などに見られるように現実に観察されている現象でもあります。
 また、ファミリーレストランも最低賃金労働者が多い産業の一つでございますけれども、典型的に人を減らすための方法というのは、ドリンクバーを導入してコーヒーをつぐサービスを省力化するようなことが行われるという資本への代替が第1の経路でございます。
 もう一つの経路は、事業規模が縮小することでございまして、例えば、少し前の時期の話なのですけれども、北海道にはコールセンターが多数立地していたという話を聞いたことがございます。コールセンターの立地というのはどこにあってもいいわけなので、賃金が比較的低 いところに立地するような傾向がある。そういったものが、例えば北海道の最低賃金というのが上がっていくとほかの地域に動くというわけです。
 あるいは本来であれば立地したであろう産業が立地しなくなるということで、事業規模が縮小するといったことも起こり得ます。これは実際に観察されない現象ですので、認知するのが難しいわけですけれども、ポテンシャルには、潜在的にはあった企業が開業しなくなることが まずあり得ます。
 もう一つは、もっと見えやすいケースですけれども、最低賃金が上がってしまったがゆえに、企業が労務費の上昇に耐えることができずに潰れてしまうという形で事業規模が縮小することが考えられます。
 「代替」と「規模の縮小」の2つの経路を通じて、最低賃金が上がると雇用が減少するということが潜在的には起こり得るということです。
 10ページのグラフを御覧いただくと、労働供給曲線というのが右上がりでありまして、労働需要曲線が右下がりであります。もともとの賃金はこの2つの線が交差するところにあったわけですけれども、最低賃金が上がると労働需要曲線に沿った形で雇用が減ります。
 最低賃金を上げても労働生産性を上げれば大丈夫なのだという意見はございますけれども、このグラフで御覧いただいても、労働需要曲線の裏には本質的には労働の限界生産物価値というものがございまして、最低賃金が上がった結果として職場で生産性の低い仕事というのはなくなりますので、残る仕事は生産性の高いものだということで、生産性が上がるというのは、実を言うと、この単純なグラフでも含意としては出てきております。
 問題は、雇用が減った結果として生産性が上がっているということでございますので、生産性が上がるから最低賃金を上げても構わないのだという議論は少しナンセンスなのかなとも思います。
 これが最低賃金が上がると雇用が失われるという一つの議論なのですけれども、ただ、必ずしもこういったことが起こるとも限らないという理論もございます。
 これは1950年代の半ばにスティグラーという人が論文に書いていることなのですけれども、最低賃金が上がったからといって必ずしも雇用が減るとも限らない。どういう状況でそういうことが起こり得るかというと、労働市場において企業が賃金を決定するようなある種の力を 持っている状況においては、最低賃金を上げることが雇用の増加につながる可能性があるということを早くも1950年代にスティグラーは指摘しております。
 どういう議論かと申し上げると、このグラフを使って直接お話しするのは少しややこしいので直感的なお話をさせていただきたいのですが、仮に1つの町に雇用主が1人しかいないという極端な状況を考えてほしいのですけれども、こういう状況では自分の会社の雇用を減らすと賃金を下げることができます。雇用を抑制することによって労務費を節約することができます。時間当たりの賃金を下げることができます。その町には、1つの労働市場にはその会社しかないという状況であれば、自分の会社が雇う労働者の人数を減らせば賃金を下げることができる。
 一方で、先ほどのグラフで考えていた「完全競争」の市場と呼ばれるものでは、労働市場にはたくさん企業がいるということが想定されています。そのような状況では、ある会社が雇用量を減らしたからといって、ほかの会社が労働者を雇用する可能性があるので、必ずしも賃金は下がらないということになります。
 ですので、ある会社がどれだけ雇用するかがその地域の賃金を決めてしまうような状況では、企業には雇用量をあえて抑えて賃金を低くするという誘引が働きます。
 この状態で最低賃金というものが課されると何が起こるかというと、雇用量を抑制して賃金を減らすというメカニズムが働かなくなります。最低賃金以下で人を雇うことができなくなりますので、雇用を抑えて賃金を下げるというインセンティブが働かなくなることによって、むしろ雇用が増えるのだというのが「買い手独占」の議論であります。
 そうすると、最低賃金が上がったときに雇用が減ってしまうか、増えるのかということは、労働市場の構造に依存して決まるわけで、理論的に最低賃金を上げると雇用が減るのか、雇用が増えるのか、あるいは全く変わらないのかということを予測することは残念ながらできません。ですので、最低賃金が上がったときに一体雇用がどのように反応するのかというのは、実証研究を待つしかないということでございます。
 1枚めくっていただきますと「最低賃金と雇用、労働市場構造」というスライドが入っておりますけれども、今御説明申し上げたことがまとめてあります。
 次のページの「最低賃金と雇用 実証分析」というところを御覧いただきたいのですけれども、実証分析は既にされております。
 これは樋口先生の日本経済学会の会長記念講演ですけれども、最低賃金の上がり幅が大きかったところで、女性の非正規労働者の離職が増えているかどうかを慶応義塾家計パネル調査のデータを用いて検証していらっしゃいます。
 この結果なのですけれども、負の影響があるということを示しています。最低賃金の上がり幅が大きいところで離職が増えています。係数が負というのはちょっと正確でなくて申し訳ないのですけれども、離職が増えています。雇用を減らすような形で最低賃金の上昇というのが機能してしまっているということが報告されているのですけれども、何分サンプルサイズが2,000ということでございまして、この2,000人の人たちが皆さん最低賃金で働いているわけではございませんので、効果が余り正確には推定されないということでございます。
ですので、確定的な結論が得られていないというのが私の解釈です。
 樋口先生は、最低賃金を上げても必ずしも雇用は失われないと、慎重に「減らしているようには見えない」と英語でお書きになっているのですが、私のこの結果の読み方は、減らしているようにも見えるのだけれども、結果は正確には推定されていないということだと思います。
 この先行研究の限界を乗り越えるために、今、学術振興会で特別研究員をやっている森悠子さんと私で共同研究をしたのですけれども、「賃金構造基本統計調査」と「労働力調査」という両方とも大規模な政府統計を用いて実証研究を行いました。
 まず、実証研究を始めるに当たって、最低賃金が上がったときにほとんど影響を受けていないグループの雇用率の変化というのを見ても結果が出てこないのは当然ですので、まず最初に、誰が最低賃金上昇の影響を受けたのかという人々を特定する作業を行いました。
 どのように行ったかというと、2007年の賃金が2010年の最低賃金よりも下回っている人たちというのは、基本的に3年間の最低賃金の引上げの影響を受けた人々だと考えることができるので、その人たちが特定の年齢層の中で何%ぐらいいるのかというのを計算してみました。
 そうしますと、16~19歳の人々の中では、働いている人の9%は最低賃金引上げの影響を受けた人々だということがわかりました。
ですので、16~19歳に研究の焦点を当てて、最低賃金が引き上がったことがどれぐらい賃金上昇につながったのかということをまず検証しました。
 そうしますと、最低賃金が10%上がりますと、16~19歳のグループのボトム10%の人の賃金は3.9%上がるという結果が出てきました。色づけしてある係数の0.390というのは、最低賃金が1%上がったときに賃金が何%上がりますかという係数ですので、1%上がるとボトム 10%の賃金は0.39%上がることがわかったということで、ボトム30%ぐらいの人までは効果が認められました。
 今度は、ここで確認できたことは、最低賃金を上げると16~19歳のティーンエイジャーの労働者の賃金が上がるということが確認できたのですが、賃金が上がって、そのことが一体雇用にどういう影響を与えたのだろうかという推定を行ったのが次のページのモデルでございますけれども、ここの部分は若干テクニカルな話でございますので、申し訳ないですが、割愛させていただき、どこまで飛ばしていただきたいかと申し上げると、右下に22ページという数字が入っているスライド「最低賃金変化率と雇用率変化」というグラフがございます。
 横軸は、2007~2010年にかけて最低賃金が一体何%上がったのですかということを百分率で表したものでございます。見ますと東京や神奈川は10%ぐらい上がったということがわかります。
 縦軸は、就業率の変化をパーセンテージポイントで表したものであります。16~19歳のティーンエイジャーの就業率がどのように変化したのかというのを見たものでありますが、2007~2010年の期間にかけて東京、神奈川では就業率が約5パーセンテージポイント下がりました。もとの就業率が全国平均で大体17%ですので、就業率が5パーセンテージポイント下がるというのは結構大きな数字だということでございます。
 回帰分析の結果なのですが、24ページを御覧いただければと思いますが、色づけしてある「最低賃金の自然対数値」のところにかかっている係数というのがその効果を表しているものなのですけれども、最低賃金が1%上がったときに雇用率が何パーセントポイント下がるの かというものでございまして、0.5パーセントポイントぐらい下がるというのが1列目の結果ということになっております。
 ですので、これは統計的にも有意でございまして、少なくとも16~19歳の方の雇用に関して言いますと、最低賃金が上がると雇用率が下がるという関係がかなり頑健に観察できました。
 ただ、16~19歳の方で働いている人というのはどういう人なのかというのを考えてみますと、学業の傍ら就業している方もいらっしゃるということでございまして、そこの部分を分解したのが「最低賃金と16~19歳の就業・就学」という表でございますが、この表でわかることは、最低賃金が上がると就学せずに就業している人は減ります。統計的な有意性はないのですけれども、就学していて就業する人も減ります。就学していて就業していない人が増えます。就学せず就業していない人も減りますという形で、何が起こっているかというと、最低賃金が上がると学生のアルバイト先がなくなるということが起こった結果として、就学に専念するということが起こっているようだということでございます。結果として、結構大きなインパクトが推定されているということでございます。
 結果を要約させていただきますと、最低賃金の引上げは16~19歳の賃金を上げたということがわかりました。
 最低賃金が10%上がると就業率が5.3%下がります。平均就業率が17%ですので、就業率の5.3パーセンテージポイントの低下は、大体30%ぐらいの減少ということですので、最低賃金が10%上がって就業率が30%下がっているということですので、経済学の言葉で言うと弾力性は3ぐらいだということがわかります。
 この弾力性が3というのは国際的に見ても非常に大きな数字なのですが、なぜだろうかということを考えてみると、16~19歳だとアルバイトをする高校生や専門学校生、大学生も入るわけですけれども、就業している学生が減って就学に集中するようになり、結果として雇用が 減っているということでございます。
 ただ、注意しなければいけないのは、雇用への影響がないと結論するのは恐らく間違っているのだろうということでございます。
 もう時間ですので、これで私からの報告は終わりにさせていただきたいと思います。
 御清聴ありがとうございました。

○仁田会長 どうもありがとうございました。
 それでは、時間も限りがございますので、早速、御質問をお出しいただければと思いますが、いかがでしょう。
 どうぞ。

○須田委員 どうもありがとうございました。
 難しくてよく理解できないところがあるので、教えていただきたいというか、感想になってしまうかもしれませんが、調査対象期間が2007~2010年で、雇用に影響がないとは言えないという御説明だったと思うのですが、最低賃金が上がったという事実と、この期間はリーマン   ショックを含めて現実の経済状態が悪化していたという事実がある。この関係をどう見たらいいのか、ちょっとわからなかったというのが1つです。
 労働者側の委員として、最低賃金を上げるということの目的は、実はワーキングプア対策とは思っていなくて、そもそもワークペイとしてどうあるべきかという観点で私は参加してきたつもりなのですが、いろいろな見方があるのでしょうけれども、貧困世帯の所得向上という目線で見るのか、あるいは働く者の最低賃金としてまさにワークペイとしてどう見るのかという見方でちょっと違いが出るのかなと。これは印象です。
 もう一つは、実証としてこういう結果だったという話でしたが、これから先のことを考えると労働力不足という時代に入っていく。言ってみれば、売り手市場みたいな状況になっていくときの最低賃金と雇用との関係というのはどのように見たらいいのか。
 率直な疑問で申し訳ないのですが、この3点を教えていただければと思います。

○川口一橋大学教授 非常に鋭い御指摘をありがとうございます。
 リーマンショックですとか、そういう景気循環の影響のコントロールというのは研究上も非常に重要な問題でございまして、どのようにここでは対処しているかというと、基本的に都道府県ごとのデータを使っているのですけれども、景気の動向を違う年齢層の失業率などのデータを使って整理するということをまず行っています。
 あとは、都道府県ごとにパーマネントに景気が余りよろしくない都道府県もあるわけですけれども、そういうところの影響というのもコントロールしています。また、日本経済全体に対して影響があったマイナスの効果というのも制御しております。
 ですので、何を行っているかというと、似たような都道府県が2つあって、例えば東京と山梨というのは最低賃金の上がり方が対照的なのですが、この研究で実際にやっているわけではないですけれども、やろうとしていることは、東京と山梨の非常に近い地域を持ってきて、同じような景気状況に直面していたはずだと。
 東京は最低賃金がかなり上がりました。山梨は余り上がっていません。では、県境をまたいだところでコンビニエンスストアの雇用がどのように変化したかを比較しますということが理想的な状況なのですが、そこまではできていないのですけれども、そういったことをやることを 目的に計量分析というのは行っておりますので、完全とは申しませんが、景気循環の影響はかなり捉えられていると思っております。
 もう一つの2番目の論点で、最低賃金の役割というのはそもそも適正な賃金水準を保障するためのものであって、ワーキングプア対策では必ずしもないのだという御意見は、オリジナルな最低賃金法の理念を考えるとおっしゃるとおりだと思うのですけれども、2007年改正で生活保護というものが参照基準として入ってきた時点で、ある種ワーキングプア対策も理念の中に入ってきたのかなとも理解できるかなと思います。
ですので、望ましい賃金水準の決定ということを目標にするのであれば、実勢の賃金状況がどのようになっているのかということを参照にして、最低賃金の上げ幅というものを決めるというような実務に落ちてくるのかなとも思うわけです。
 御意見は私も個人的には賛成でございまして、何が望ましい最低賃金の決め方なのかというところで、実態は2007年以降、生活保障の部分も入ってきたのかなという印象だということでございます。
 3点目の労働力不足なのですが、今朝の日経新聞のトップの記事はトヨタの賃上げでございますけれども、実際にトヨタが円安で調子がいいので、大企業だけの特殊な例でしょうということもあるかもしれないのですけれども、日本経済全体で見てみますと、労働生産性と実質 賃金の間にはかなり強い関係がございまして、景気が回復して労働生産性が上昇するという局面においては、それに伴って実質的な賃金も上昇してきたというのが過去20年ほどのデータで観察される現象でございます。
 実質賃金といったときに2つの実質化があるのですけれども、名目の賃金を何らかの価格指数で割ることによって賃金を実質化するということがございますが、価格指標には幾つかの指標がございまして、消費者物価指数(CPI)を使うと、労働生産性は上がっているのだけれども、残念ながら実質の賃金は下がっているというような関係が出てまいります。
 しかし、賃金の実質化のために「GDPデフレーター」と呼ばれる価格指数を使いますと、労働生産性と実質賃金の関係というのは極めて安定的に推移しております。
 何が起こったのかというと、GDPデフレーターで見てみると、デフレの進行が激しかったにもかかわらず、消費者物価指数はそれほど下がっていないのです。デフレだ、デフレだと言っていますけれども、過去20年ほどでほとんどゼロのところに張りついている状態でございまし て、何がそのずれを生んでいるかというと、消費者物価指数というのは我々が消費するバスケットの価格指数で、GDPデフレーターはGDPをデフレートするものなので、日本国内で生産されているものの価格のインデックスです。
 ずれの最大の要因は、原油とか食糧といった一次産品の価格が入るか、入らないかなのですが、今は原油価格が下がっていますけれども、それは直近の現象でありまして、ずっと上がっているような局面だったわけです。
 そうすると、消費者のバスケットに入るものの値段はそれほど下がらないのだけれども、日本企業が生産しているもの、また、輸出品の価格が下落しているというのもあるのです。これは日本企業の競争力が弱くなったことの現れだと考えられていますけれども、輸出品の価格が残念ながら下がってしまった。
 結果として、GDPデフレーターは下がったのだけれども、消費者物価指数(CPI)はそれほど下がらないということがございました。
 結果として、見方によっては労働生産性は上がっているにもかかわらず、実質賃金が上がっていないように見えることもあるのですが、日本国内の企業の賃金支払い能力を決定するのは日本企業が生産しているものの価格ですので、賃金の配分が適正に行われているかど うかという疑問に答えるためには、賃金はGDPデフレーターで実質化することが適正なのですけれども、その2つはかなり並行して動いているということでございまして、今後、景気が回復して労働力が不足する局面が参りますと、実質的な賃金も上昇していくということが考えられます。
 今、人手不足だということが何かネガティブに捉えられているのですけれども、今まで我々は、20年にわたるデフレの中でこういう状態が来ることを切望していたとも考えられると思うのです。人手が足りないので賃金が上がっていくという望ましい形での循環に日本経済も入ってきたのかなという印象を持っておりまして、その意味では、今後、賃上げということも十分に期待できるのではないかと思っております。
 以上です。

○須田委員 ありがとうございます。

○仁田会長 ほかにはいかがでございましょうか。

○鹿住委員 よろしいですか。

○仁田会長 どうぞ。

○鹿住委員 専修大学の鹿住と申します。
 経営が専門なので経済のほうではないのですが、今日は非常に興味深いお話で、最低賃金が上がると16~19歳の若年層への影響が大きいということだったのですが、先ほど最低賃金に張りついている労働者の方、若年層もそうなのですが、例えば主婦のパートの方とか、 あるいは65歳以上の方とか、そういった年齢層の方もいらっしゃったかと思うのですが、そうすると、最低賃金の引上げによって若年層、高校生とかがアルバイトの市場から退出した。その分、主婦のパートとか65歳以上の方に入れ替わったという解釈はできないでしょうか。

○川口一橋大学教授 それも非常に鋭い御指摘で、実を言うと、今回の研究ではほかのグループの雇用というのはちゃんと見ていないのですけれども、以前の研究で2009年に同じ森さんと発表した論文では中年層の女性の就業というのも見てみました。
 何を念頭に置いているかというと、まさにパートの方の雇用なのですけれども、そこでもマイナスの効果は発見できました。今回、高齢者に関して研究の対象にしなかった理由は幾つかありまして、高齢者の雇用確保に関しての法律の変更などの影響もございますので、全国  統一で法が変わった効果が出てきますので、その他の要因も若干大きいだろうということで今回は研究の対象にしなかったのですけれども、そういったところで雇用がむしろ増えるような効果があったことは否定できないと思います。
ありがとうございます。

○仁田会長 どうぞ。

○中窪委員 今の鹿住先生の疑問は、私もそのように思ったところがございまして、最低賃金が上がったときに、同じお金を払うのだったら、高校生のアルバイトよりもより信頼できる人たちを雇おうというのが経営者としてちょっとあるのかなと、素人的な考えですけれども、そこをもし今後さらに分析できればと思っております。
 ちょっと別の質問なのですが、先ほどのどういう人が最低賃金の対象者かというところで、大変興味深いといいますか、昔は主婦のパートとかアルバイトみたいなものが中心だったのに、むしろ最近はまさに世帯主が最低賃金で働いてワーキングプアが増えているということを言われていたと思うのですけれども、9ページのところで、1982年と2002年を比べたときに、従来的な主婦のパートみたいなもの、つまり世帯主にたくさん収入がある人たちが増えているという印象を受けているのですが、ただ、2002年というのは若干微妙なところがございまして、2006年とかワーキングプアが問題になったころ、この後に何かそういう変化が起こったのか、あるいはそうではなくて実はこうなのだよとか、そのあたりの知見がもしありましたら教えていただきたいのです。

○川口一橋大学教授 ちょっと時点が古いものですから、1982年から2002年のトレンドが続いたかどうかというのは全くわからなくて、中窪先生の御指摘のとおり、2002年以降、若年の男性で非正社員としてしか就業の機会を見つけることができなかった人が増えているのは事 実ですので、仮にその人たちが自分で世帯をつくっているとすると、世帯主になっている可能性はあって、その人たちが世帯収入が低いグループに分類されている可能性というのもございますので、それは非常に重要な研究テーマだと思います。
 私の知る限りなのですけれども、今回の最低賃金法の改正によって、実際に貧困世帯が減ったのかどうかという研究というのはまだないのではないかと思うのです。ですので、最低賃金法の目的が必ずしも貧困の解消にはないというお話が先ほどございましたけれども、仮にそれが政策目標であるとするならば、その評価というのはこれからしていかなければいけないことなのではないかなと思います。
 ですので、一番単純な実証分析の仕方は、最低賃金が上がった東京や神奈川、北海道で、ほかの上がらなかった道府県に比べて貧困世帯の割合、あるいは貧困世帯に所属する人数の割合が減ったのかどうかということを調べることだと思うのですが、申し訳ないのですけれども、私の知る限りではまだ知見を得られていないと思います。

○仁田会長 ほかにはいかがですか。
 どうぞ。

○高橋委員 本日は、大変興味深い研究結果をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。
 お示しいただいたデータは多少古く、2007年、2010年の比較となっておりますが、2010年以降にさらに大幅に最低賃金が引き上がっています。私の関心は、足元まで見通したときに、果たして16~19歳だけにフォーカスしていいのかどうかも含めて、先生の継続的な研究がどうなっていらっしゃるのか、あるいは今後どのような研究に取り組まれようとしているのか、そのあたりについてお聞かせいただければと思います。

○川口一橋大学教授 御質問いただきまして本当にありがとうございます。
 まず、データのアップデートなのですけれども、残念ながら2010年のところまでしかアップデートできていなくて、今後も続けたいというのは全く御指摘のとおりで、2010年から後も逆転現象の解消が終わるまでは上がり続けておりますので、そこが重要な研究テーマだというのは、本当に十分に認識しております。継続的に取り組んでまいりたいと思います。
 次に御質問いただいた研究課題のところなのですけれども、飛ばさせていただいた最後のスライドでございまして、まず1つは、本当に買い手独占になるものがあるのかどうか。賃金支払い水準と事業所が雇っている最後の労働者の生産性が一致しないというのが買い手独 占の世界ですので、そういったものがあるのかどうかというのを推定していきたい。
 企業の雇った最後の労働者が生産にどれだけ限界的に、追加的に貢献しているのかというのを推定するのはなかなか難しいのですけれども、データ的にも理論的にもできることがわかっておりますので、それをぜひやりたい。賃金はデータがありますから、乖離が発生しているかどうかというのを見てみたいというのが、今やりたいと思っていることです。
 もう一つは、買い手独占のケースと完全競争のケースで雇用に対しての影響が大きく違う予想が出たわけですけれども、今度は雇用のところだけを見ていると、その2つの理論のどちらが正しいかというのがなかなか見分けられないわけです。ですので、ちょっと視点を変えてほかの指標で見られないかという研究がございます。
 どういう予想の違いが出てくるかと申しますと、買い手独占のケースですと最低賃金を上げると雇用が増えるので、雇用が増えると一般的には生産量が増えます。生産量が増えるので製品価格は下がります。最低賃金を上げると、例えばハンバーガーの価格が下がるということが予想されるわけです。
 一方で、完全競争の世界だと最低賃金を上げると雇用が減りますから、生産量は減ります。生産量が減るのでハンバーガーの価格が上がることが予想されるわけで、思わぬところに予測ができるわけです。
 最低賃金という労働のところをいじっているにもかかわらず、材の価格に関しての予測を得ることができますので、そこについては小売物価統計という総務省のデータがありますので、都道府県ごとにハンバーガーの価格とか、牛丼の価格とかを調査しているのです。
 ですので、その部分を見て、最低賃金が大幅に引き上がったところで、ハンバーガーや牛丼の価格がどのように変化したのかというのを見ていきたいというのが、2番目にやりたいと思っていることです。

○仁田会長 どうぞ。

○土田委員 ありがとうございました。
 この統計の見方で素人質問をしたいのですが、6ページの「最低賃金と賃金分布(女性)」と7ページの「最低賃金と賃金分布(男性)」というのがありまして、これを拝見するとまず性別が違っていて、時期が違っていて、6ページは女性で1994年と2003年、7ページは男性で2007年と2010年で、かつ地域も違っていて、6ページが青森と東京で、7ページが沖縄と東京だと。
 まず、女性の関係で言うと、先ほど先生がおっしゃいました8ページにある「最低賃金の女性賃金下支え機能」というところで、低い層についていえば政策効果が見られるということの実証分析と、6ページの女性の最低賃金と賃金分布の関係については、言ってみれば相関関係にあるという理解でいいのかどうかというのが1つ。
 東京を比較しますと、6ページと7ページを見ますと6ページは女性なのですが、若干賃金分布に最低賃金が食い込んできていますけれども、7ページの男性のほうは2007年と2010年を比較して変わりがないというのは、何か印象的には2007年から2010年にかけてのほうが むしろ食い込みがあってもよさそうな気がしたのですが、そうではないということについては、何か先生に御見解があるかどうかということです。
 最後に、7ページの沖縄は、6ページの青森と比べると逆に2007年から2010年に比較して最低賃金は上がっているけれども、賃金分布への食い込みは下がっているのですが、これはどういう理由が考えられるのか。そういった点について教えていただければと思います。

○川口一橋大学教授 御質問ありがとうございます。
 まず、1点目の御質問は、6ページのグラフと8ページの「最低賃金の女性賃金下支え機能」についての関係なのですけれども、まさにこれは対応しているということでございます。
 2番目の御質問でございますが、東京に関して男性で食い込みはどちらにせよ見られないのではないかと。2007年、2010年ともに必ずしも賃金水準を決定してはいないようにも見えるという御指摘だったと思うのですが、若干難しいのは、よく目を凝らしていただくと、確かにこ の赤い線のところに張りついている人は実際には増えているわけですけれども、この階層が少し上の賃金のところにまた崖ができるような形になっておりまして、これが本当に因果関係があるのかどうかというのは、定かなことは言えないのですが、こういったことが起こる可能性も理論的にはあり得るのです。
 というのは、最低賃金が上がることによって一番スキルが低い人の雇用が失われると、少し高いスキルを持った人に代替していこうということが順番に起こっていくと、結構この賃金分布の上のほうまで波及効果があるのではないかという議論というのもあります。それが本当にここで起こっているのかどうかというのは、まさに今後の研究課題なのですけれども、ちょっとそこはよくわからないということでございます。
 最後のところで、沖縄、男性について、もともと2007年で張りついていたのだけれども、2010年になったらちょっと余裕ができたようにも見受けられるということでございました。
 そうですよね。余りここを注目していなかったのですが、何でこういう形になっているのかというのはここですぐにお答えできないのですけれども、回帰分析の中ではいろいろ景気の動向などもコントロールしているのですが、このグラフではそういった要因がコントロールできていませんので、ひょっとすると2007~2010年にかけて沖縄での景気がよくなるようなことがあったのかもしれません。それはちょっとよくわかりません。
 時期と地域がずれているという御指摘はもっともで、基本的には青森と沖縄は低賃金の地域の代表として選んでいて、東京は高い賃金の代表として選んでいるということで、違う論文から図を持ってきたものですから、ずれてしまっていて混乱を招いて申し訳ございませんが、 そのような事情でございます。

○仁田会長 では、田村委員、どうぞ。

○田村委員 今日はありがとうございました。
 表の見方とか、いろいろ教えていただいたのですが、別の視点でいきますと、この間、企業体質を見たときに、労働分配率は減っていますし、企業の内部留保は増えているという要因もあったりするのではないでしょうか。労働者の価格と人数というところも影響があるのではな いかという感じを私は持っています。
 もう一つ、ちょうどこの間、高齢者雇用の関係が進んできまして、高齢者の方たちが割と楽な仕事にシフトしていく。そうすると、当然それをしていたアルバイトの人たちが減っていくという要因もあるのではないかと考えるのですが、いかがでしょうか。

○川口一橋大学教授 まず、1点目の労働分配率の話なのですけれども、どのように定義するかにも依存すると思うのです。先ほど申し上げた労働生産性と実質賃金の関係なのですけれども、ほぼ一対一で労働分配率の議論とも対応しますので、測定の仕方によっては労働 分配率はそれほど下がっていないようにも見えるということでございます。
 内部留保に関しましては幾つか要因があると思うのですけれども、そもそも非常に金利が低い経済環境において、キャッシュを持っていることの機会費用が非常に低い状況で、かつ将来の見通しが立たない、かつリーマンショックのような流動性ショックがいつ来るかわからないという状況において、企業が適正な水準の内部留保をするというのは当然のことだと思うので、ファイナンスに関して適正な内部留保でないということであれば、それはむしろコーポレートガバナンスの問題であって、労働の話と直接結びつくのかどうかは、私自身は余り結びつかないのではないかと思っております。
 高齢者の話なのですけれども、全く御指摘のとおりで、済みません、ちょっと考えていなくて虚を突かれたようなところがございまして、仮に最低賃金が大幅に上がったところで、高齢者の方がそもそも多くて、高齢者の雇用延長の対象になる人が多いという状態であるとするならば、こういう結果が出てくるわけですよね。
 ちょっと調べてみないとわからないのですけれども、2007年から後でいうと、大幅に最低賃金が上がった地域というのは東京とか神奈川なのです。その地域が他の地域に比べて高齢者が多かったかどうかということに関しては、統計を見てみないとわからないのですが、印象  では東京、神奈川というのは比較的若い人が多い都道府県で、むしろ効果は逆方向に働いていたのかなという気もするのですけれども、それは非常に重要な御指摘ですので、今後の研究で課題とさせていただきたいと思います。
 御指摘ありがとうございました。

○仁田会長 では、私からもちょっと質問させていただきます。
 この本の論文を読んだときに非常に疑問に思ったのは、就学率をコントロールしないデータで分析したほうが正しくて、就学率をコントロールした分析は理論的には不適当だという判断をしておられるのだけれども、私はそれは間違っているのではないかと思います。
 つまり就学率が確実に就業率に影響を及ぼすことは間違いないわけですよね。それをコントロールしないでいいという理屈がどこにあるのだというのが1つで、では、つまり最低賃金が上がると就学率に影響があるという議論は実証的根拠はあるのか。私は余りないのではな いかと思うのです。つまりかなり外生的に就学率というのは決まる。
 例えば18歳人口が変わると就学率が上がる。2007~2010年にかけて進学率は相当上がって、限界に近くまで上がっているわけなのだけれども、そういう別の理屈で就学率が動いているのだとすると、それをコントロールしないで若年人口の就業率を計算するというのはおかしくないかというのが私の疑問点です。
 それはただの感想なのだけれども、もう一つ言うと、最低賃金を相当上げてきたということは事実だと思うのです。こういう分布図を見ると何かすごいなと思えるのだけれども、大丈夫かなと思いますが、その割にはパートやアルバイトは増加し続けているよねと。
 労働者の賃金は上がらず、最低賃金は上がる。そうすると、パート、アルバイトの格差がその分だけ縮まっているわけです。そうすると、企業は人件費の高くなったパート、アルバイトの雇用を減らし、正規労働者を雇うように多少はなってもいいのではないかと思えるのだけれ ども、どうしてそうならないのか。これは非常に目の子算的な感想みたいなものなのですが。

○川口一橋大学教授 2点御指摘いただきました。
 まず、1点目からお答えしたいのですが、就学率をコントロールすることが不適切と判断したのかということなのですけれども、まさに就学率が最低賃金の上がり方によって影響を受ける可能性があるからだと考えたということなのです。
 それはまさにこの実証研究でもやっていることでございまして、就学するか、就学しないかという意思決定にも、「最低賃金と16~19歳の就業・就学」という表を御覧いただきますと、後ろから3枚目の25ページ目に当たるところなのですけれども、これを御覧いただきますと、やはり就学、就業の組み合わせごとに影響が出ております。
 最低賃金が上がったところで、就学+非就業のところが増えているという関係がございます。統計的な有意性は薄いですけれども、非就学に対しての影響もマイナスの形で出ておりますので、少なくとも2007~2010年の時期に関して就学率を外生と取り扱うのは適切ではな いと考えたということでございます。
 もう一つの雇用の非正規化に関しての影響の話なのですが、最低賃金が上がって雇用は非正規化しているということなので、むしろ逆ではないかということだとは思うのですけれども、雇用が非正規化している要因はほかにあると思うのです。
 長期にわたって日本の正社員の構造が変化しています。それは経済成長の環境が大幅に変わったことが大きいと思うのですけれども、その結果として非正社員は増えているということであると思いますので、なかなか時系列的に議論することは難しいことで、この期間を通じて観察される日本全国に共通の要因というのは制御した上での結論でございますので、それを制御した上で、最低賃金が上がっているところで雇用が減っているような部分が一部のグループに関しては見られるという結論でございますので、2007~2010年の期間に非正社員が日本全国で増えた部分というのは、コントロールされているということであります。
 賃金に関しての話なのですが、先ほど申し上げたことの繰り返しになって恐縮なのですけれども、日本の実質賃金が下落した理由は日本の交易条件が悪化したからだと私は思います。輸入するものの価格が上がり、輸出するものの価格が下がってしまったということに本質的な原因があると思っておりますので、必ずしも労使での賃金構造の決定の仕方が変わったことに原因を求めていないので、その点に関しては仁田先生とちょっと見解が違うのかなと思います。
 ありがとうございます。

○仁田会長 一言言うと、就学しているけれども非就業の人も結構増えているのです。東京や神奈川で増えるのは、これは経験的な観察だけれども、遠距離から通学する人がすごくふえているのです。だから、この人たちはアルバイトをする時間がないのです。だから、就学率の要因をやはりもう少しきめ細かくコントロールすべきではないかなと私は思っているということです。
 ほかにございますでしょうか。よろしゅうございますか。
 それでは、今日はどうも大変ありがとうございました。お忙しい中、来ていただいて、我々を啓蒙していただいてありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

○川口一橋大学教授 貴重なコメントをいただきまして、ありがとうございました。

○仁田会長 それでは、川口先生には御退室いただきまして、我々の議論に入りたいと思います。

(川口一橋大学教授 退室)

○仁田会長 それでは、若干時間が食い込んでしまいましたが、残りの時間でテーマとしては目安審議の在り方、地方最低賃金審議会との関係の在り方、目安審議の資料についての御議論をいただきたいと思います。
 まず、事務局から資料の説明をお願いいたしたいと思います。

○新垣室長補佐 それでは、資料について御説明いたします。
 資料2から7は、本日の参考資料についての御議論に資するよう、平成21年の目安制度の在り方に関する全員協議会において用意されていたものをそのままリバイスしたものでございます。
 資料No.2でございますが、毎年の目安を審議するために事務局から提出している主要統計資料の目次を御用意させていただいております。
 今年度の目安に関する小委員会の資料をつけております。全体版はお手元のファイルの中にございますので、必要に応じて御覧ください。
 「1 全国統計資料編」「2 都道府県統計資料編」「3 業務統計資料編」の3部構成とさせていただいております。
 「1 全国統計資料編」では、GDPなどの主要経済指標、有効求人倍率など労働市場の増減を表す指標、賃金・労働時間の推移、春季賃上げの妥結状況、物価の動向として消費者物価指数の推移などの資料を幅広く提示しております。
 また、最低賃金との関係では「7 地域別最低賃金額(時間額)、未満率及び影響率の推移」「9 地域別最低賃金と賃金水準との関係」の一般労働者の賃金水準との関係を示す資料についても提示しております。
 「2 都道府県統計資料編」では、都道府県別に1人当たり県民所得・標準生計費・高卒初任給、有効求人倍率の推移、賃金・労働時間関係の資料、消費者物価指数の推移などの基礎資料を提示しております。
 「3 業務統計資料編」では、地域別最低賃金の改定状況についての資料、最低賃金の履行確保を主目的とする監督指導結果などの資料を提示しております。
 資料No.3に移ります。「平成26年賃金改定状況調査結果」の表紙でございます。
 これは、目安を審議するため、基礎資料として厚生労働省が賃金の改定状況について調査を行い、目安に関する小委員会に結果を提出しております。
 この表紙のより詳しい概要が資料No.4になります。こちらは賃金改定状況調査結果の概要を整理してございます。
 調査対象の地域でございますが、都道府県の県庁所在地と、都道府県ごとに原則として人口5万人未満の市から選定した1または複数の市、これを「地方小都市」と称しておりますが、これらの区域としております。
 調査対象の事業所は常用労働者数が30人未満の企業に属する民営事業所で、県庁所在都市から約3,000、地方小都市から約1,000の計約4,000事業所を調査しております。
 調査対象労働者数は約3万2,000人となっております。
 調査項目は、当該年の6月の事業所の名称、労働者の性別などに加えて、前年の6月及び当該年の6月の労働者の月間所定労働日数、1日の所定労働時間数、労働者の所定内賃金額などを調査しております。
 この調査の基本的な性格といたしましては、賃金額の実態把握ではなく、賃金改定率、上昇率などの賃金の改定状況を把握することを目的としております。
 また、各年の6月分の賃金の実態調査を行って、その調査結果を7月に目安審議の資料として提出することから、極めて短期間に調査票を回収し集計する必要があるという迅速性が求められている調査となっております。
 次のページでございます。「3 調査事業所数割合」は、調査事業所のサンプルの状況を示しております。
 各産業間の割合は、(1)にございますが「製造業」「卸売業:小売業」「宿泊業:飲食サービス業」「医療:福祉」「その他のサービス業」の事業所数の比率が6対3対1対1対2となっております。
 このうち県庁所在都市については、同じく3対3対1対1対2となっております。
 一方、地方小都市は製造業のみとなっておりまして、県庁所在都市の製造業との比率は1対1となっております。
 規模別では(2)に記載しているような構成比となっております。
 次のページに移ります。「4 地方小都市の選定」でございます。
 原則として人口5万人未満の都市であって、都道府県内の賃金実態から見て比較的賃金水準が低い都市を選定しております。
 また、調査を迅速に行う必要がございますので、労働基準監督署が設置されている等により、調査の便宜が得やすい都市を対象としております。
 なお、参考までに、次のページに賃金改定状況調査の調査票を添付しております。御覧ください。
 資料No.5でございます。こちらは「賃金改定状況調査のこれまでの検討状況」について、概要をまとめたものでございます。
 賃金改定状況調査の沿革は「1 賃金改定状況調査について」の(1)の項目でございますが、昭和53年の目安制度の始まりとともに調査を開始しております。昭和54年から調査対象事業所に地方小都市の事業所を加え、昭和58年からランク別、産業別に事業所センサス、 すなわち総務省の「事業所・企業統計調査」のデータをもとに復元を行っております。
 「2 昭和57年から昭和58年にかけての目安制度の在り方に関する全員協議会における議論」について、労働者側からは、調査対象の事業所規模を製造業は100人未満まで拡大すべきであるとの主張がなされております。
 一方、使用者側からは、調査対象地域を郡部の町村にまで拡大すべきであるとの主張がなされております。
 この点については、毎月勤労統計調査の結果を用いて過去の規模別の賃金上昇率との比較を行ったところ、その時点で調査対象を製造業について100人未満まで拡大しても、現行の調査と調査結果の差異がほとんど認められなかったとされておりまして、また、調査対象地域は既に地方小都市の事業所も調査対象としていて、十分な標本数を確保しているということから、当面は現行どおり実施することが適当であるということで合意が得られております。
 「3 平成元年全員協議会における議論」でございますが、平成元年の目安制度の在り方に関する全員協議会における議論についてです。
 その際の議論では、労働者側からは、調査対象事業所規模の在り方を検討することが主張されており、一方、使用者側からは、調査対象地域が都市部に偏重している状況を改めて、できるだけ地方小都市、郡部を対象とし、各県において賃金水準の異なる地域の実態を十 分に反映するような調査を行うべきだという主張がなされております。
 次のページにありますように、これらについては最終的には合意に至らずに終わったということでございます。
 「4 平成7年全員協議会における議論」は、平成7年の目安制度の在り方に関する全員協議会における議論についてです。
 その際の議論では、労働者側からは、地域別最低賃金の改正に際して労働時間短縮の効果が勘案されておらず、一般賃金に対する地域別最低賃金の比率や影響率に低下が見られるということについて問題提起がなされたということでございます。
 一方、使用者側からは、影響率の高低のよしあしを一概には言えないということで、参考資料は従来どおりでよいという主張がなされておりました。
 (3)にございますとおり、平成6年5月に中間的な取りまとめを行っておりまして、ここではパートタイム労働者の賃金水準とそのウェイトの変化、男女構成比の変化及び就労日数の増減を反映した方式とすることが望ましいとされております。
 その後さらに検討が重ねられておりまして、(4)ですが、第4表の賃金上昇率の算出方法について、1.一般労働者及びパートタイム労働者の全労働者について賃金上昇率を求めること、2.従来男女構成の変化が反映された賃金上昇率と当該影響を除去した賃金上昇率を算出していたところ、その後は男女構成比の変化を反映したもののみ算出するということと、3.就労日数の増減が反映されるように賃金上昇率を算出することとされております。
 その際、各年の調査月の所定労働日数が日曜日の数等によって変動することもありますので、このようなイレギュラー要因を除去するため、年間所定労働日数もあわせて調査して、これにより月間の所定労働日数を調整することが全員協議会報告に盛り込まれたところでございます。
 「5 平成12年全員協議会における議論」は、平成12年の目安制度の在り方に関する全員協議会における議論についてです。
 平成11年4月に目安制度の在り方に関する全員協議会が設置され、その際の議論では、労働者側からは、賃金改定状況調査の対象を全労働者とすべきとの主張がなされております。
 一方、使用者側からは、調査対象労働者数や調査対象企業数を拡大する必要はないという主張がなされております。
 審議の結果、賃金改定状況調査の位置づけとしては、その調査の結果を重要な参考資料としつつも、これまで以上にその時々の状況を的確に把握の上、総合的に勘案して目安を審議し、決定していくことと合意されております。
 「6 平成15年1月の中央最低賃金審議会での了承事項」でございます。
 こちらは、平成14年に日本標準産業分類が改定され、従来のサービス業が幾つかに分類されたことなどから、平成16年の調査から賃金改定状況調査の対象産業を以前の3産業から5産業へと変更することとされております。
 「7 平成16年全員協議会における議論」についてですが、この際の議論では、調査対象事業所について、労働者側からは少なくとも100人未満まで企業規模を拡大すべきという主張がされております。
 一方、使用者側からは、地方小都市の事業所の比率を増加すべきという主張がなされております。
 また、第4表の賃金上昇率の計算方法について、労働者側から、一般労働者とパートタイム労働者の構成比の変化を除去するべきという主張がなされました。
 一方、使用者側からは、計算方法の変更は慎重であるべきという主張がなされたのですけれども、その後の審議を経て、パートタイム労働者の構成比の変化を除去した計算方法とすること、また、今後、パートタイム労働者の構成比に限らず、何らかの労働者の構成比の大きな変化によって賃金上昇率が影響を受ける場合は、その影響を除去することが全員協議会報告に盛り込まれたところでございます。
 なお、調査対象事業所の変更については、意見の一致を見ることができず、短期間に調査結果の集計が求められるという性格を考慮すると、当面、調査対象事業所は変更しないということが適当ではないかということになりました。
 「8 平成21年2月の中央最低賃金審議会での了承事項」でございますが、こちらも日本標準産業分類の改定に伴って調査対象産業が7産業に変更されております。
 「9 平成23年2月の中央最低賃金審議会での了承事項」でございます。
 この際の議論では、労働者側からは、調査対象の事業所規模は、製造業は100人未満まで拡大すべきであるとの主張がなされておりまして、使用者側からは、業種の見直し、地方小都市の事業所の比率を増やすことについて主張されております。
 この点についても意見の一致を見ず、引き続き検討することが必要とされております。
 資料No.6は、平成6年~平成17年にかけての「賃金上昇率の計算方法の変更点」をまとめたものでございます。ちょっと長くなってまいりましたので、資料No.6の説明は割愛させていただきますので、必要に応じて御覧ください。
 資料No.7は、目安に関する小委員会で使用されている資料のうち、代表的なものを例示しているものです。都道府県の標準生計費、消費者物価指数等の推移、所定内給与と最低賃金の関係、日銀短観等による企業の業況判断や収益の状況について整理しております。
 次のページは「1.イ) 都道府県の標準生計費」になります。実額が毎年の目安に関する小委員会に資料として提出しておりますが、原則、県庁所在地の4人世帯・月額の標準生計費の2012~2014年の3カ年の平均をグラフ化したものでございます。これを見ると、おおむね19~24万円までの範囲となっております。
 ここで棒グラフが各都道府県の標準生計費でございまして、折れ線グラフが標準生計費の各ランク平均額になります。
 次のページでございますが、同じく原則、県庁所在地の1人世帯・月額の標準生計費になっております。
 次のページが「1.ロ) 消費者物価指数等の推移」について整理しております。
 年単位で見たものですが、日本経済は持続的に物価が下落しておりましたが、近年は上昇しておりまして、2014年にはGDPデフレーターも17年ぶりにプラスとなっております。
 消費者物価指数の動きにつきましては、2009年に大幅に下落したものの一昨年からプラスに転じ、2014年からは大幅に上昇ということになっております。
 次のページの「2.イ) 地域別最低賃金と所定内給与との関係」は、地域別最低賃金と時間当たりの所定内給与を比較したものとなっております。
 2つ表をつけておりますが、一般労働者は産業計・企業規模10人以上で、近年、地域別最低賃金、所定内給与の39~42%程度で推移しております。丸で囲っております。
 産業計・企業規模10人~99人に限りますと、丸で囲った部分ですけれども、45~50%程度で推移しております。
 一方、短時間労働者は、産業計・企業規模10人以上で見た場合、下の表の丸で囲った部分ですが、70~75%程度で推移しております。
 次のページの「3.イ) 日銀短観による企業の業況判断及び収益」は、日銀短観から企業の業況判断の推移を見たものです。これを見ると、直近の状況としては製造業、非製造業ともに改善をしているということになっております。
 次のページ、これも同じく日銀短観から売上高経常利益率の推移を見たものです。こちらも製造業を中心に平成25年度から大きく改善しております。
 次のページの「2.ロ) 中小企業景況調査による業況判断」は、中小企業景況調査から産業別の業況判断の推移を見たものです。前年同期と比べて好転または悪化という業況判断を見たものですが、過去3年間の業況判断の動きは、全ての産業において大きく改善しております。
 次のページは「3.ハ) 法人企業統計でみた労働生産性の推移」ですが、製造業は2009年度に一旦大幅に落ち込んでおりますが、その後は改善しております。非製造業は近年横ばいで推移しております。
 資料No.8は前回までの御発言の要旨をまとめたものでございまして、下線部が前回から追加になっている部分でございますが、必要に応じて御覧ください。
 最後になりますけれども、前回お出ししました諸外国の最低賃金決定プロセス等についての資料に訂正がございます。
 赤字部分の「(3)適用除外」の部分につきまして、適用除外なしとしておりましたが、最低賃金の支給が困難な企業は、労働者との合意に基づき最低賃金の猶予措置を申請して、政府の承認を受けた後、最大1年間適用が猶予されるという措置がございましたので、大変恐縮ですが、訂正させていただきます。
 あわせて脚注57と58の出典を訂正しております。
 あわせまして、資料につけておりませんが、御紹介させていただきたいと思っておりますのが、先日の資料で、ドイツの制度について、本年1月に新たに法定の最低賃金制度ができたというところで、当初の額が法定されていて、それから審議会ができたということを御紹介さ せていただいたのですけれども、具体的にどのような決定を行うかについてわからなかったところが多かったので、多少資料が薄くなっておりました。
 中窪先生の御紹介で、千葉大学の皆川宏之准教授にドイツから御帰国されたばかりということでお話を伺うことができまして、皆川先生によれば、現在法定されている最低賃金額の根拠としては、平均的な週労働時間で就労するフルタイム労働者で単身で生活する者が、民 事訴訟法所定の差し押さえ不能額を上回る所得月額を得ることが可能になることが公式の根拠として挙げられているということでございます。
 すなわち、民事訴訟法上、給与所得について一定額は裁判所による強制執行でも差し押さえをすることができないとなっているところ、その額と、現在法定されている8.5ユーロで法定労働時間働いて税や保険料を控除した額がほぼ同じになるということです。
 今後、審議会の中でドイツでどのように最低賃金が改定されていくのかについては、まだ詳しく知ることができないのですけれども、皆川先生の御見解によりますと、最低賃金を含めて労働条件規制は、ドイツでは基本的には協約当事者である労使の団体の自治的な決定に委ねられていて、法律による最低賃金規制は、その協約自治の機能低下を踏まえてそれを下支えするものと位置づけられていると考えられているということで、やはり労使団体の交渉をベースに最低賃金額を決定するのではないかという御見解でございました。
 また、JILPTのドイツに関する研究員であります山本陽大さんがドイツ労働総同盟(DGP)で法務部門担当をされている方に聞いたところ、金額の根拠については皆川先生と同じ御見解でございまして、また、今後の審議会での決定過程の見通しについては、2年おきに最低賃金審議会において、ほかの労働協約で決着した各分野の賃金の伸長に関するデータに基づいて行われるのではないかということと、データの評価を行う研究チームが設置されて、結果を審議会に提出して、審議会が賃金額の調整を行うことになるのではないかという御意見を伺うことができました。
 あわせまして御報告申し上げます。
 資料につきましては、以上です。

○仁田会長 どうもありがとうございました。
 それでは、まず、ただ今の資料説明につきまして、御質問をいただいた上で議論を進めていければと思います。
 質問等はよろしゅうございますか。
 それでは、御意見を含めてお出しいただければと思いますが、一応、目安審議の在り方、中央最低賃金審議会との関係の在り方、目安審議の資料について御意見をいただくということになっておりますけれども、関連がある事柄であれば、必ずしもテーマ限定にそれほどこだわっていく必要はございません。
 私が質問をしてはいけないかもしれないですが、我々は賃金改定状況調査の集計結果を見て議論に使用しているわけなのですけれども、賃金改定状況調査の結果そのものについてはどういう形で公表されているのでしょうか。

○新垣室長補佐 毎年の目安に関する小委員会の審議資料として、ホームページで公表しております。

○仁田会長 冊子体の統計表みたいなものは出ていないわけですね。

○新垣室長補佐 さようでございます。目安に関する小委員会に出ているような表の形でお出ししております。

○仁田会長 そうすると、それはどこまでさかのぼれるようになっているのですか。つまり普通の人が調査を経年結果がどうだったかというのを見たいと思ったときに、昔は情報公開法などがなかったから、議事録、資料や何かも公開されていなかったのではないかと思うのだけれども、ちょっとそれが気になった。

○新垣室長補佐 今、ホームページ上でさかのぼれるのが、ちょっと手元にはないのですけれども、ここ数年の公表されているものはさかのぼれますが、例えば昭和50何年とかになってまいりますと、先生御指摘のように資料自体も公表されていなかったり、議事録も公表されていなかったりしておりますので、その辺は一般の方が外から入手するという感じにはなっておりません。恐らく資料自体も残っているかどうか、確認しなければわからないような状況です。

○仁田会長 つまり事務局も持っていないかもしれないと。集計結果もわからないかもしれない。何年ぐらいまで残っているか。

○新垣室長補佐 何年ぐらいまでさかのぼれるかというのは、お調べしないとわからないです。

○仁田会長 では、済みません、ちょっと調べておいていただけますか。
 どうぞ。

○藤村委員 私も単純な質問なのですが、今日、賃金改定状況調査の調査票を見ていると、例えば労働者に関する事項で、これは賃金台帳を見ながら写してもらうわけですよね。例えば従業員が20人いる場合は、ここには10人分書けるのですけれども、20人全員について書いてもらうということですか。

○新垣室長補佐 調査票がこれで足りない場合は、また別の調査票を使ってそれを書いていただくという形になります。

○藤村委員 ということは、その企業で雇われている人全員について調べているということなのですね。

○新垣室長補佐 全員ということで大丈夫です。

○藤村委員 わかりました。

○仁田会長 田村委員。

○田村委員 ちょうど言われたので、この調査票はずっと疑問に思っておりまして、「政府統計」という字のすぐ下の(7)のところ、いつも3点疑問に思っているのですが、1つは、「1実施した(する)」から「1引き上げた」と「2引き下げた」に進みますが、「2引き下げた」というのは、ある意味では、通常の支払い能力がないところと私どもが判断し、ここは統計から外してもいいのではないかとずっと前々から思っていたというのが1つ。
 一番右端の「賃金改定の実施時期は昨年と比較して、」「1変わらない」「2早かった」「3遅かった」「4その他」とありますが、その他というのはあるのかなと、この4がよくわからない。
 (7)の一番左に1、2がありまして、「2実施していない」から矢印で「賃金改定は、」ということで1~5までありますが、これだけ見ると、去年は上げたけれども今年はマイナスにするところ、去年はマイナスで今年はプラスにするところ、あるいは2年連続マイナス、マイナスと、ここは読み取れない結果になるのかなというのがちょっと疑問に思っておりまして、もう少し聞き方を変えたほうがいいのかなと思っております。

○新垣室長補佐 この賃金改定状況の「実施した」「実施していない」「引き上げた」「引き下げた」の調査については、かなり古く昭和50何年のあたりからずっと実施しているものでございまして、その当時、賃金改定をしていないところもあるのではないかというような御議論もあって、こういった調査票にだんだんなってきていると承知しているのですが、御指摘の1~5のところで、もし調査票を直して新しくとったほうがいいということでこの場で御議論いただいて合意された場合には、そのように修正することも可能でございます。

○武石委員 よろしいでしょうか。

○仁田会長 どうぞ。

○武石委員 やはり賃金改定状況調査なのですけれども、例えば景気がよくなって新規に雇う人が増えると、勤続年数の短い労働者が全体に占める割合が多くなって、賃金が下がるというか、平均が上がらない可能性があると思うのですが、今はそのあたりは何かコントロールはしていないのですよね。

○新垣室長補佐 今はその辺はコントロールしていないと承知しています。

○仁田会長 ほかにはいかがでございましょう。
 どうぞ。

○高橋委員 毎回同じ話をするのですけれども、資料4の2ページのところに賃金改定状況調査の調査事業所数割合というのがあって、産業別の割合が6対3対1対1対2というのがずっと固定化されています。
 毎年変えるのは適当ではないと思うのですけれども、例えば5年に一度とか、経済センサス等の基礎的な調査に基づいて、日本の経済の実態に合ったような形の割合に見直しをしていくことが適当なのではないかと考えています。
 もう一点はちょっとまた別の観点なのですが、必要な政府統計としてつくっていただいたらと思うものがあります。先ほど中窪先生も指摘されていた川口先生の資料の9ページで「だれが最低賃金労働者か?」というのがありました。
 我々は最低賃金の目安を議論しているわけですが、どういった層が最低賃金近傍で働いているのかという実態を、毎年調査するというのはなかなか難しいかもしれませんけれども、サンプリング調査でも結構だと思いますので、数年に一度調査をして御提供いただないかと思います。議論の前提となるような調査の整備という必要性があるのではないかということを感じましたので、申し上げたいと思います。
 以上です。

○新垣室長補佐 1点目の選定する調査対象事業所の割合というところでございますが、平成21年にも同様の御指摘があって、その際の御議論では、この割合でとっているのだけれども、結局は実態に沿うような形でサンプルを復元しているので大丈夫ではないかという御議論もあったように聞いております。
 ただ、それに加えまして、業種を追加するとか、そういったことでこの場で御議論がございまして合意があれば、業種を追加することもあるかなとは思っております。
 もう一点、最低賃金の近傍の労働者がどういった労働者かということでございますが、先ほどの川口先生の行っておられた研究は、世帯主か世帯主でないか、年収というところまでかなり踏み込んで研究をされていて、恐らく2つ違う調査をクロス集計するなどして、どういう集 計をしたのかわからないのですが、同じことができるかどうかというのはなかなかやってみないとわからないのですけれども、以前にも最低賃金近傍の労働者ということで御指摘がございましたので、例えばどういった産業にいるのかですとか、年齢階層がどのようなものか、性 別がどのような方かというものが、御要望に十全お応えできるかどうかわからないのですが、御用意をさせていただこうと思っております。

○仁田会長 実際にはやはり非常に難しいのです。つまり労働者についての情報を得ようとすると、労働者個人に聞かないといけないのです。個人調査をしなくてはいけない。そうすると、大体の賃金調査というのは事業所調査ですので、会社からデータをもらってそれを写しているから正確なのですけれども、労働者が申告する賃金というのは、正確かどうかという保証が余りないという一つの問題があります。
 川口先生がなさっていたのは就業構造基本調査です。就業構造基本調査は時間賃金を調べていません。調べているのは年収なのです。年収を全体の労働時間で割るという、これはつまり全部込みでの年収ですから、要するに残業代込みで全部それを割るというやり方ですので、時間給の推定としてはかなり限界があると思います。そのことは川口先生も指摘されておられたと思います。
 だから、そういうことはやってみてもいいかなと、やらないよりはやったほうがいいのではないかなという気はしますけれども、実際にその中で賃金の低い人というのを求めることはできないことはないかもしれない。
 それとは別に独自に住民調査をするとなると、これは相当膨大なお金がかかります。政府の統計でうまく使えるものがあるのかどうかはわかりませんが、でも、政府の統計でないとサンプル数がやはり相当限界ができるのですよね。
 とりあえずできることとしては、いつもJILPTにお願いして申し訳ないのだけれども、何かそれに役に立つようないろいろなデータを検索して、再分析していただいて、高橋委員の御疑問に答えられるような結果を出せないかというようなことをいろいろ手探りでやってみるしかないのではないかなと思います。

○須田委員 関連してよろしいですか。

○仁田会長 どうぞ。

○須田委員 資料No.4にも書いていますけれども、賃金改定状況調査の目的は改定状況の実態ということですよね。あくまで地域の賃金の実態を見るという一つの手法、一つの例です。
 例えば賃金構造基本統計調査の特性値を時系列で見るだとかいうことも含めて、改定状況に合わせて賃金の実態がどうなっているのかということも見たらどうか。
 ただ、ずっと前から言っていますが、何のために何を参考資料にするのかというのは一つの論点だと思っていますので、今日、別にそれで決めるとか、決めないとか言うつもりはありませんけれども、何を見ていくかという一つの見方として、時系列できちんとあって、それなりのサンプル数があって、特性値の推移という意味では、どこの特性値をとるかというのはまたいろいろな議論があろうかと思いますが、そういうのも含めて、改定状況と実態の両方見られるようなことも必要ではないのかなと思っていますので、これからの議論の俎上に上げていただければと思っております。

○仁田会長 ほかにはいかがでございましょう。
 よろしゅうございますか。
 それでは、予定の時間が迫ってまいりましたので、本日は以上とさせていただきます。
 前回お諮りしたスケジュールにございますように、次回につきましては、立教大学の労働法の准教授の神吉知郁子先生からのヒアリングを行って、またその後、論点全体についての御検討をいただければと考えております。
 最後に、事務局から事務連絡をお願いします。

○新垣室長補佐 次回の第7回目安制度の在り方に関する全員協議会は、4月24日、金曜日の10時から開催いたします。
 場所につきましては、追って御連絡いたします。

○仁田会長 それでは、以上をもちまして、本日の全員協議会を終了とさせていただきます。
 本日の議事録の署名でございますけれども、冨田委員と中西委員にお願いしたいと思います。
 それでは、これにて終了ということにいたします。お疲れ様でございました。


(了)
<照会先>

労働基準局労働条件政策課賃金時間室
最低賃金係(内線:5532)

代表: 03-5253-1111

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