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2012年10月16日 化学物質のリスク評価検討会の「第2回有害性評価小検討会」

労働基準局安全衛生部

○日時

平成24年10月16日(火)14:00~16:00


○場所

経済産業省別館827号会議室


○議事

○大淵有害性調査機関査察官 本日は、大変お忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。ただ今より、平成24年度の第2回有害性評価小検討会を開催します。はじめに、事務局より出席者をご紹介いたします。前回、先生方のご紹介をいたしましたが、追加の先生あるいは前回ご欠席の先生等がございましたので、そういった先生方をご紹介させていただきます。参考資料1に、特別参集者が記載してあります。本日、医薬品の承認における発がん性試験の関係でご説明いただく方として、医薬品医療機器総合機構の小野寺様にご出席いただいております。
○小野寺委員 小野寺です。よろしくお願いします。
○大淵有害性調査機関査察官 それから、第1回から継続して出席をお願いしており、前回はご都合で欠席だったのですが、今回ご出席いただいている国立医薬品食品衛生研究所の吉田先生です。
○吉田委員 吉田でございます。よろしくお願いいたします。
○大淵有害性調査機関査察官 事務局も9月に人事異動があり、化学物質対策課長が交替しましたのでご紹介いたします。奈良課長です。
○奈良化学物質対策課長 奈良でございます。第1回目の会合が開かれた9月の、まさにその時間帯に辞令交付を受けており、欠席してしまいまして誠に申し訳ございませんでした。この会議は、非常に重要な検討会であると認識しております。我々がいま置かれている状況は非常に厳しいと言いますか、化学物質のリスク評価あるいは発がん性の評価についての迅速化・加速化が非常に強く求められている中で、ここでご検討いただいている内容は、まさにそれを支えていただくものと理解しております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
○大淵有害性調査機関査察官 本日、高田委員は所用によりご欠席です。津田委員は少し遅れていらっしゃるという連絡を受けておりますので、このような形で開会したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。以下の進行については、座長の大前先生にお願いいたします。
○大前座長 それでは最初に、事務局から資料の確認をお願いします。
○大淵有害性調査機関査察官 議事次第があり、その後ろに配付資料一覧があります。資料1として小野寺先生からの「医薬品におけるがん原性試験」の資料、資料2として「国が行う長期発がん性試験の試験方法について(案)」、資料3として「発がん性のスクリーニングの検討において想定される論点(素案)」、資料4として「今後の予定」です。続いて参考資料1が参集者名簿、参考資料2が「国が実施するがん原性試験について」、参考資料3が「医薬品のがん原性試験に関するガイドラインの改正について」です。参考資料4が「発がん性評価の加速化中期発がん性試験:二段階発がんモデル」ということで、第1回でお配りした資料です。参考資料5の「遺伝子組み換え実験動物による発がん性試験代替法」も、第1回目の検討会でお配りした資料です。
○大前座長 資料はお揃いでしょうか。それでは本日の議事に入ります。最初の議事は、「医薬品の承認における発がん性試験の状況に関する関係者からの意見聴取」ということで、小野寺先生、よろしくお願いいたします。
○小野寺委員 本日は、お話の場をいただいて光栄に思います。このような偉い諸先生方の前でお話するというのは、今さらということもありますが、復習の意味で聞いていただきたいと思います。また、私は現在医薬品の審査や評価を行っていますが、化学物質と評価の考え方が違うところを再度ご理解いただければ、今日のお話のまとめになるのではないかと思っております。よろしくお願いします。
 はじめに資料の1枚目で、「医薬品と他の化学物質のがん原性評価」の違いをまとめておきました。食品添加物、農薬・殺虫剤等は、使用する労働者の危険性も含めて、万が一摂取あるいは曝露する可能性はあるという観点から、さらに動物薬などは食肉中への残留などで、ヒトが曝露する可能性があるというハザードで残留値等の基準を決めるため、動物試験の成績をヒトに外挿することになります。
 次のカテゴリーは、化学工業物質、環境汚染物質、天然毒性物質等があります。これはヒトに対してハザードする必要はありますが、事故や故意の摂取でない限り、基本的に通常一般のヒトたちが曝露することや摂取する可能性はまずないだろうという観点から、得られた動物試験の結果を、毒性評価表や危険物リストで表記していると思います。
 医薬品についてですが、これは高濃度の化学物質を意図的に摂取する、病気の患者さんにベネフィットを得るために投与することを前提にハザードをする事になります。ですので偶然に曝露されるわけではなく、計画的に高用量を長期間摂取した結果何が起きるか、腫瘍が発生した場合、どのようにヒトに外挿するかを考えているわけです。そのように化学物質や食品添加物等の評価と違うことを、まず最初にご理解頂きたいと思います。
 次の頁は、製薬協のホームページから拝借したものです。医薬品の開発は、まず薬の基となるシーズ探索、そして合成・注出に2から3年。そして候補物質についての非臨床試験を行います。
 次の頁にもありますように、がん原性試験結果は必ずしもヒトに投与する前に実施しなくとも良い場合があります。その理由は、医薬品開発の時間の長さです。治験の種類は?相から?相で、少数の健康成人から多くの患者を対象とする第?相試験です。この段階ではほとんどの毒性試験は終わっております。そして、すべての臨床試験が終了した時点で承認申請されます。「がん原性試験の実施時期」ですが、いくつか示しました。?がいちばんスタンダードで、申請時までにがん原性試験を終了します。
 ?の場合は大規模な臨床試験で、多くの患者が対象で、疾患に重篤性がなく、特に遺伝毒性やがんの懸念がない場合は、臨床試験第?相を始めるために、安全性を確保し、承認申請の審査中に試験が終了しても良い特別な場合もあります。
 ?は承認後に実施する、特殊な医薬品もあります。患者数が非常に少なく特定され、早期に患者に届ける必要がある場合は、承認後にがん原性の試験を実施する場合もあります。もし、動物試験でがん原性が陽性になった時は、投与されている患者さんのリスクを考慮し投与期間や投与量、添付文書などで「投与による発がんリスクの軽減」を図ります。私が経験した例では、ある免疫抑制剤で、新たに幼児から投与する用法の追加をした例です。成人へは既に承認されていたのですが、幼若から投与された場合にどういうリスクがあるか不明なため、承認後でも、がん原性試験を実施してもらいました。それはすごく特殊な例でした。
 ?は、特にがん原性に懸念がある時は大規模な治験を開始する前に、結果を評価する場合です。例えば類薬で発がん性が疑われ、発がん機序が良くわからなく、ヒトにも外挿性が懸念される場合、がん原性試験結果を評価してから治験を開始することもあります。しかし、これもごく特殊で、通常は?に示してある、申請までに試験が終了しておくことが必要です。
 がん原性試験は試験期間が長期でかつ高価、通常1億円前後と記してありますが、追加検査を実施すると2から3億円かかることもあります。試験を計画し動物への投与期間は2年間ですが、解剖や標本作製、検鏡して最終報告までは、急いでも1年弱かかります。そうしますと、がん原性試験を計画してから結果を得るまで、最低3年から4年はかかります。その間臨床試験や開発を中断することは、容易ではありません。このような事情によりがん原性試験では実施時期が考慮されてます。
 次の頁を見てください。では、がん原性試験の実施方法についてお話しします。時間とお金のかかる試験で、再試験や重複するムダを防ぐために、、1つの試験をいかに丁寧、正確に実施し有効に評価する事が大切で、そのためのいろいろな試験方法に関するガイドラインが出されています。医薬品に関するガイドラインは、「ICHガイダンスと国内通知」があります。下段に「ICH組織」を示しました。ここにご出席の先生方にも、ICH会議に参加している方がたくさんいらっしゃいます。簡単に説明しますとICH組織は、日本、EU、FDAの3局の規制当局、日本はMHLW、厚生労働省と製薬企業で、同様な3地域の6団体で構成されています。
 ここでお知らせしたかったのは、「ICH」という名前は、「International Conference on Harmonisation」の後が「of Technical Requirements for Registration of Phamaceaticals for Human Use」ということで、訳しますと「人に投与する医薬品の申請のためのデータを作る手段」が、ICHガイドラインの目的ということです。ICH以外としてOECDの加盟国は34カ国、WHOの加盟国は193カ国などがあります。
 次に、このICHでのガイドラインのプロセスを簡単にお話しします。まずはガイドラインの案が、どこかの団体から提案されます。その提案に対して全ての団体が、同意を得なければトピックが成立しません。6団体の中の1つでも反対すれば、そのテーマに関して議論は始まらないことになります。
 6団体が同意しますと、EWG(Expert Working Group)という専門委員会が召集され、数年かけて議論し、コミッティーから承認を得ますと、この時点で皆さんに開示されます。それがパブリックコメントとして厚生労働省から提示されます。各局からのパブリックコメントからの意見を集約して、最終的に3局が合意しれたものがStep4になります。
 次のStep5とは、施行は各行政当局に任せることになっています。その理由は、ICHで合意しても自国内の法律とのすり合わせや調整が必要だからです。海外の場合、大体1カ月から3カ月位で調整が終わりますが、日本はStep4文書を日本語に翻訳し、かつ既存の通知や他のガイドラインとの整合性を調査し調整する事務的作業のため、Step4の合意後暫く時間がかかるかもしれません。ご理解いただければ幸いです。
 ICHガイドラインについては、機構のホームページをご参照いただければよろしいかと思います。S1が発がん性、S2が遺伝毒性、S3が生殖発生毒性、S4が一般毒性で、現在、最後がS10で光毒性に関する議論を進めています。
 S1Aガイドラインは、がん原性試験の必要性についてです。6カ月以上継続して投与される医薬品は、通常がん原性試験が必要です。例えば抗生物質や感冒、感染症など短期に投与するものは、がん原性試験の必要はありません。6カ月という期間は、種々の調査で、3カ月以上使われる医薬品のほとんどは6カ月以上使われて、それ以外の医薬品は3カ月未満で投与を終わっている結果から、設定されました。
 しかし慢性偏頭痛やアレルギー性鼻炎など、間欠的ではありますが複数回服用する場合や、症状が現れた時に服用する、うつ病などは、長期にわたって反復投与される可能性が高いことより、一度の投与期間が6カ月以内の短期でも、がん原性試験が必要な場合もあります。
 次は、遺伝毒性試験結果からがん原性が疑われる場合です。遺伝毒性試験は一つの試験で、すべての結果を判定できるわけではなく、メカニズムの異なるいくつかの試験の組合せで評価します、複数の試験で陽性結果が疑われる場合、がん原性試験の実施を考慮します。
 また、臨床で通常の用法・用量での曝露量においてがん原性のリスクが懸念されるような場合も必要です。構造活性相関とは、現在インシリコなどで、既知の医薬品の構造からがん原性の疑いのある構造を有している化合物を検索し、がん原性試験を実施する必要がある場合もあります。
 あと反復投与毒性試験などにおいて、腫瘍性病変、前がん病変など増殖性の所見が見られる場合はがん原性試験が必要です。
 さらに未変化体あるいは代謝物が長期間にわたり、特異的な臓器や器官に貯留・滞留し、それが原因で、組織障害や器質障害を起こすような場合には、がん原性について検討する必要があります。
 次の頁にあるS1Cは、用量選択に関するガイドラインです。問題になるのは、がん原性試験を実施し結果が陰性だった場合、投与量、特に最高用量が本当に十分量であったかが議論になります。どれくらいまで高い用量が必要か。生理的ホメオスターシスを障害するような高用量曝露は意味があるとは思えません。毒性のない薬ほど大量に投与可能なのです。ただ、大量に投与することによって物理的な影響とか、非特異的な影響は真の評価を困難にします。それを防ぐために、最高用量は適切に設定されなければなりません。
 毒性試験ではよく、体重増加抑制が認められますが、対照群と比べて体重が10%以上減らない用量を設定する必要があります。この理由として、体重が抑制された動物は、自然発生性がんの低下や発がん物質への感受性が低くなることが知られています。それと、毒性徴候が強く発現すると衰弱し途中死亡が増加し、統計学検討に必要な動物数を確保出来なくなります。
 2番目のポチは、いわゆる薬物動態濃度で最高濃度を決めようということです。親化合物ないしは代謝物がヒトでの血漿中AUCの25倍。「ヒトでの」という意味は、臨床試験での用法・用量で平均的な血漿中の薬物濃度AUCの25倍以上であれば、がん原性試験の最高用量として十分としました。これを決めることによって、次の2つ目の「薬力学的指標」の中にありますように、無意味な大量曝露で、非特異的な影響を防ぐ意味があります。
 吸収の飽和する量というのは、がん原性試験を実施する場合、用量相関を確認するため低、中、高という用量段階を設けることになっていますが、通常は公比3で増えているのですが、血中濃度は増加せず用量段階を設定した目的が達せられません。そういう場合はプラトーになった投与量を最高用量にしてもよいというのが、吸収の飽和する量です。
 投与可能最大量ですが、医薬品の場合、通常は飼料に混入して投与することはありません。飼料に混じて投与する欠点は、個体毎の正確な投与量が測定困難なことです。医薬品では、臨床投与量との関連を必ず検討しますので、各動物にどれだけの量が正確に曝露されたか把握するため、強制経口投与か静脈内投与を行います。もし、飼料に混じて投与する場合は、最高用量を5%と上限を決めています。栄養的なバランスが崩れる理由です。最高用量はこれらどれかの項目を参考に設定されていれば、最高量として妥当で、実施されたがん原試験は評価可能と言うことです。
 しかしそれでも「まだ高い」場合があります。それは、臨床では低用量でしか使わないのに、動物試験の用量はなぜそんなに高用量を投与する必要があるのかという意見があります。それで非特異的な変化と言うより、非現実的な高用量曝露で発生した結果が、果たしてヒトに外挿することが妥当かということで、S1C(R1)の内容は、その医薬品に遺伝毒性がないこと、ヒトが通常の臨床用量で体重キロ当たり1日500?を超えない少ない量、さらにげっ歯類でのがん原性試験でのAUCがヒトのAUCの10倍以上であること。この条件に該当すれば、最高用量が1,500?/?/日でも良い。ただし、ヒトでの臨床用量が500?/日を超える場合には、S1Cのいずれかの項目に該当する高用量を設定いただくよう、すごく細かい最高用量の設定基準を決めてあります。
 次は、がん原性を検出するための試験は、どういう方法があるか、次の頁に書かれています。そもそもガイドラインでは、2種の動物を用いてがん原性試験を行うことが要求されています。通常、ラットとマウスで行われていますがマウスだけが陽性結果で評価が困難、間違った結論を出す場合もありました。では、どうするかということで、次の頁を見てください。
 マウスの長期のがん原性試験は、肝腫瘍が非常に多く発現します。遺伝毒性がなく、ラットや他の長期毒性試験でも変化がなく、ラットがん原性試験も陰性、マウスがん原性試験だけ肝臓腫瘍が増加した場合、どのように評価するのが適切か議論されてきました。
 結論的には、マウスだけで発現した肝腫瘍に関しては、ヒトに外挿することは困難で、しばしば間違った評価をしてしまいます。S1Bでは、ラットとマウスで実施してきたものを、どちらか1種、通常はラットでがん原性試験を行い、もう1種は短期のがん原性試験すなわち代替法ですね。その中にはトランスジェニック動物、新生児マウス、二段階発がんモデルのどれか選択しても可能な事がS1Bで示されました。
 もう1つは、「科学的根拠の重要度(weight of evidence)」での評価法です。これは重篤な疾患に適応する医薬品とか、そもそも抗がん剤で細胞毒性が薬理作用でがん原性が明らかになっているものなどです。昨今、抗がん剤でも6カ月以上の長期にわたり投与するものもいくつか開発されています。そういうベネフィットやweight of evidenceで、がん原性試験の種類と必要性を考察する事になります。
 今日の話のまとめです。S1Bで、1種のがん原性試験は、通常ラットで行われます。ほかの1種は、短期の代替法発がん性試験の3つ。もちろん従来のマウス長期がん原性試験を実施しても可能です。短期代替発がん性試験の一つは、げっ歯類を用いたイニシエーション・プロモーションモデルです。この方法については前回、福島先生から二段階発がんモデルの詳細なご説明があったと思います。
 Bの遺伝子改変モデルの例でp53KOマウスは、発がん抑制遺伝子p53の片方を欠損したもので、遺伝子に作用する刺激に感受性が高いと言われています。rasH2モデルは、ヒトのがん遺伝子rasH2を強制的に導入したもので、発がん感受性が高くなると言われています。TG.ACモデルは皮膚発がんモデル。XPA欠損モデルは、このガイドライン策定当時は使用されていましたが、現在発売されていないようです。
 もう1つ、新生児げっ歯類を用いた発がんモデルは、生まれて間もない離乳する前後に投与するモデルです。この試験のメリットは、試験薬が非常に微量な事、投与操作も幼若時に2回投与するだけで、あとは通常飼育で観察するだけので、手間が省ける事でした。しかし10gにも満たない動物にマイクログラム単位の医薬品を投与するのは、試薬調整も投与自体も非常に困難で、かつ個体間のばらつきで評価も難しいです。私自身、新生児を用いたがん原性試験は経験したことがありません。
 トランスジェニックマウスで行われる試験プロトコールは、大体標準化されております。長期に飼育すると、p53モデルでもrasH2モデルでも自然発生腫瘍が急激に発生し評価が困難となります。投与に起因したものか、自然発生による腫瘍かの区別が困難になるので、26週間を限度に試験を行います。群構成としては1群15匹で、3投与群と対照群の4群です。
 最後に、これは2007年から2010年の間に承認された医薬品です。承認された医薬品は、総数で126品目あり、その中でがん原性試験が実施されたのは39品目でした。ということは、がん原性試験が不要な品目が7割ぐらいあったということです。承認されたた医薬品は、用法変更・用量変更などいろいろなものがありますから、必ずしも「新薬」と言われる新有効性成分だけではありません。大体これから見ますと、承認される医薬品の3分の1ぐらいはがん原性試験が行われているということです。
 実施されたがん原性試験の内訳を見ますと、39試験のうちの38試験、99%はラットで行われています。ラットを選択する理由は、ガイドラインで推奨されていますが、マウスも依然として90%以上で実施されていました。p53とrasH2の遺伝子改変動物では同じ数の2試験ずつの4試験でした。今後、少しずつ増える可能性はあるとは思うのですが、ラット・マウスと同等に実施される可能性は難しいと思います。以上、準備した資料の説明はこれで終わります。
○大前座長 ありがとうございました。いまのご説明にご質問、ご意見はいかがでしょうか。最後の頁で、意外とp53やrasHが少ないのはなぜですか。相変わらずラット・マウスの両方を使っているのがメジャーで、短期試験がほとんどないというのは、何か理由があるのですか。
○小野寺委員 いくつかの理由が考えられると思うのです。まず1つは、今回示した資料は2007年から2010年までの承認品目数をまとめたものです。スライドの1枚目、2枚目でお示ししたように、がん原性試験を実施して評価する時期は、医薬品開発の中期以降に実施されたものです。その当時はまだ新しい試験の経験が少なかったのが理由の一つの気がします。最後に言いましたように、今後は、増える可能性はあると思います。
○吉田委員 1つお伺いしたいと思います。S1Bのスライドで、発がん性試験においてはどうしてがんが出来たか、かつ、それがどうやってヒトに外挿されるかということが非常に重要だと思うのです。医薬品においては薬効もあるので、メカニズム試験というのがかなり詳細に行われるのでしょうか。
○小野寺委員 これは、がん原性試験が行われた数をまとめた表をお知らせしました。この中でがん原性試験が陽性か陰性かの結果は、今日はお持ちしませんでした。陰性の場合がほとんどですが、万が一陽性の場合そのメカニズムを求める事も必要ですが、ヒトでの臨床用量や用法でどこまでハザード可能か考えます。例えば長期間使わないとか、患者数を選ぶとか、がんのリスクが高いヒトには使わないとか、いろいろな方法でハザードし、医薬品が有効に使えるよう評価しますので、動物で発現したがんのメカニズムを完全に明らかになるとは限りません。
○福島委員 先ほど大前先生がご質問されたことに関連します。データは2010年までですが、もう少し直近まで含めますと、使用数が増えているかどうかというのが1点です。それから先ほど小野寺先生が数の少ない理由を言われましたが、代替法に対する医薬品メーカーの取組方の変更があるかどうか、そこら辺を聞かせてください。
○小野寺委員 まず最初の質問です。最近増えているかということに関しては、この当時よりは徐々には増えていると思います。しかしラット・マウスの標準方法に追い着くほどの勢いではないと思います。それは動物の供給の問題とか、単価の問題とか、実施施設の問題とか、これらの動物を扱える実験者の経験度の高さとか、たぶんいろいろな条件があると思います。それらについては専門ではないので定かなことはわかりません。しかし、徐々に実施している話を聞きますので増えてきていると思いますが、そんなに急激に増えるわけではないと思います。
 2番目のご質問ですが、今回示した数ですが、我々が示せるのは、申請され承認した医薬品に限ってまとめたもので、開発途中の医薬品については、情報を得ても開示できないことになっています。開発途中でがん原性が陽性、トランスジェニックマウスで陽性になった場合、ヒトへの外挿性やweight of evidenceを考え、ベネフィット・バランスを検討すると思います。最悪の場合、開発中止する事になります。そこに至る過程については開発メーカーの考え方によるので、我々ではお答えできません。開発メーカーにお聞きになったほうが、答えが返ってくるのではないかと思います。
○江馬委員 がん原性の試験に2種の動物が必要ということですが、例えばラットでがん原性があっても、マウスのがん原性試験はやらないといけないのですか。ラットでがん原性があるということは、がん原性を否定できないわけですから、マウスで出ようが出まいが、がん原性が疑われることには変わりがないわけですよね。
○小野寺委員 結論から言いますと、どちらかの種が陽性で、がん原性がある場合は通常他は必要ありません。がん原性が陽性と評価をしますが、ラット特異的な可能性も否定出来ません。2種類を用いるのは、ネガティブ(陰性)の確認を確実に評価するために実施しているものです。遺伝毒性試験についてもいくつかの種類の試験がありますが、どれかの試験で確実に陽性の場合、ほかの試験は省略でき遺伝毒性結果は陽性であると評価できます。江馬先生が言われたようにラットでがん原性ありという評価でヒトにも外挿性ができれば、もうそれ以上の動物試験は求めません。
○西川委員 マウスとラットの試験をやっているわけですが、マウスだけで発がん性ありの医薬品というのは、この中でどれぐらいあったのですか。
○小野寺委員 西川先生もご存じのように、いまデータを再解析している最中です。正確なお答えは出来ませんが、非遺伝毒性でマウスだけに腫瘍が出てきたものは、そんなにないと思います。
○西川委員 この表にあるマウス・ラットの試験すべてが、陰性であったわけではないのですよね。
○小野寺委員 はい、そのとおりです。
○池田委員 投与量のことです。最高用量の決め方というのは、ご説明いただいてある程度はわかったのですが、試験は一応3用量必要ですよね。例えば、最高用量で発がん性があって、ほかの用量で出ないということは相当あるのですか。そういった場合、もちろん発がん性はこの投与量ではあるけれども、これ以下の投与量ではヒトに使用してもよろしいという結論になっていることが多いということでしょうか。
○小野寺委員 はい、そのとおりです。医薬品の場合、発がん性の有無を評価することも必要ですが、臨床用量から見てヒト対してリスクがどれくらいあるか判断することです。対象患者が若い人なのか、高齢者に限定して使われる医薬品かによっても、発がん性の評価は異なります。一般の毒性発現と違い、腫瘍は半年や1年の短期投与ではよほど強力な発がん物質以外は発生せず、ヒトにおいては長期に服用することによって、がん原性に対するリスクが高まります。それら総合的に臨床用量や疾病と兼ね合わせてハザードし、評価しています。医薬品はがん原性の有無と、ヒトへの外挿性で総合的に判断します。
○清水委員 確認です。構造活性相関の遺伝毒性とか、がん原性が強く示唆される場合には、そこで開発をストップするのですか。
○小野寺委員 いや、それは私に聞かれてもわかりません。私が関与するのは、開発が終了し、医薬品として製造販売申請を行った時点で評価しています。企業によっては、例えばエームス試験が陽性なものは開発対象にしないとか、開発途中で実施する動物試験において、重篤な所見や予期せぬ所見が認められた時は今後の開発を考えるとか、いろいろ判断基準はあると思いますが、私のいまの立場ではよくわかりません。
○宮川委員 医薬品は発がん性のありなしだけではなくて、用量も検討しなくてはいけないということですが、その場合、通常のラットのデータがなくて、トランスジェニックマウスでポジティブな結果が得られたときに、どういうように安全用量を見込むのか、その辺の標準的な方法は開発されているのですか。
○小野寺委員 今までにそういう事例は経験ありません。例えば、トランスジェニックマウスだけ陽性の場合、申請者側の立場に立てば、ラットのがん原性試験を実施すると思います。ラットの試験で陰性になった場合、トランスジェニックマウスで陽性になったメカニズム試験や他の補足的な試験を計画し、原因を解析をすると思います。
○大前座長 一般環境ですと、受容リスクが一般環境105とか労働環境104という一応の目処があるのですが、医薬品の場合、そういう受容リスクに関してはどういう考え方をしているのですか。
○小野寺委員 それは用法・用量と患者の疾患の重篤度で決まります。遺伝毒性が完全に陽性な医薬品もあります。この場合発がん性試験は免除します。いわゆる遺伝毒性のある医薬品は、動物でがん原性があることは予測できます、そしてヒトに対してもリスクが非常に高いということもわかります。ただ、そういう医薬品に関しては対象となる疾患、患者の重篤度を考慮し、承認にあたいするか、または用法・用量で規定することが可能かで決まります。結論はがん原性が認められても、それを上回るベネフィットがあれば医薬品となります。
○大前座長 そうすると、それは医薬品と病気の諸関係によって、それぞれケース・バイ・ケースで決まってくるのですね。そのほかにいかがでしょうか。
○福島委員 今のに関連することです。小野寺先生のほうで、ある情報を把握していたら教えていただきたいのです。遺伝毒性化学物質で、マウスのp53とかrasHを製薬メーカーが使って、陽性になったとか陰性になったとか、そこら辺の情報を先生のほうで何かつかんでおみえかどうか。こういうものがありますよとか。あくまでも遺伝毒性に限って、ポジティブなケースです。一般にメーカーは遺伝毒性が陽性だったらやら開発しないということですからね、それを。
○小野寺委員 遺伝毒性が陽性な医薬品を開発するためにはそれを上回るベネフィットが必要です。一般に毒性試験を実施する場合、感受性の高い動物よりも、通常のガイドラインに従った試験で、がん原性があるかどうか。得られた結果を解釈するために、通常のガイドラインの試験のバックグラウンドがたくさんあるような動物でまずは行ってみると思います。
 医薬品の開発途中では、機構相談等で対応することになりますが、最終製品の対象疾患や用法用量が決まらない時点では、認められた毒性所見や発がん性に対する評価は難しいです。極端な話、ごく稀ですが開発当初と申請時で、対象疾患が異なる、すなわち効能が変更される場合があります。その場合、抗がん剤のような重篤な疾病に対する場合と、命には影響しない慢性疾患が適応では、同じ発がん性の所見でもメリットのほうが高い場合は許容される場合もあります。また、そのような場合はがん原性の結果だけで、評価するのは非常に難しいと思います。
○大前座長 そのほかにご質問、あるいはご意見はいかがですか。よろしいですか。では小野寺先生の情報に関しては、これで一旦中断して、2つ目の「『長期発がん性の効率化』についての方針」ということで、事務局から説明をよろしくお願いします。
○松井化学物質評価室長 資料2に「国が行う長期発がん性試験の試験方法について(案)」というのがありますので、これを基にご検討いただきたいと思っています。 前回ご説明しましたように、今年の年内までの検討として、事務局で大きく2つの項目をお願いしたいと考えております。1点目が「長期発がん性試験の効率化について」、2点目が「発がん性物質のスクリーニングの迅速化」です。資料2は長期発がん性試験の効率化ということで、方向性について案を出してありますので、検討をお願いしたいと思います。
 1は、労働基準局で委託試験でやっている長期発がん性試験ですが、現在までに労働安全衛生法に基づく技術指針に反映しており、国内外の機関における発がん性の評価に貢献してきているところです。これについては成果が得られていると考えておりますが、職場で使用される化学物質の種類が非常に多く、かつ増加している状況に対応するためには、期間と予算等がかかる試験ですので、効率化を検討する必要があるだろうということが書いてあります。
 2は、現在行っている長期発がん性試験の方法については?~?のとおりです。このうちの?については、先ほど小野寺先生のご説明にあったように、医薬品の製造販売の承認申請については、1種類のげっ歯類を使用した長期の発がん性試験と、それに加えて、もう1種類の短期・中期in vivoの試験系による追加試験が取り入れられておりますので、これが参考になるのではないかということです。
 3は、方針の案です。このようなことを踏まえて、来年度から新規に着手する対象化学物質から、新しい試験方法を試行的に導入して有効性を検証してはどうかということです。内容は、(1)1種類の実験動物を使用した長期発がん性試験と、短期・中期のin vivo試験系による追加試験ということで、先ほどの小野寺先生のご説明にあった医薬品の承認に当たっての発がん性試験と同様のものを、試験的に導入してみてはどうかということです。
 (2)の長期試験は、動物の選択が従来に比べて問題になってきますので、1頁から2頁にあるように、対象となる化学物質の代謝や動物の種類による感受性の相違等に既存の知見がある場合には、これを基に検討して動物を選択する。これらが十分ない場合には、原則としてラットを使用するということでどうかということです。そのほかについては、現行の長期試験の試験方法をとるということでどうか。
 (3)の短期・中期試験ですが、??で、前回、福島所長と津田先生にご説明いただいた二段階発がんモデルによる試験と、違伝子組み換え実験動物を使用する試験のいずれかをとってはどうか。医薬品の製造販売の承認で、もう1つ新生児のげっ歯類を用いた試験系がありましたが、専門家にいろいろお聞きしても、なかなか詳しい情報がないということで、ここでは入れていません。先ほどの小野寺先生のご説明の中でも、これを推奨する材料はあまりないようなことでお聞きしました。
 これらの短期・中期試験の動物の種類は、2頁の中ほどにありますように、試験方法の特性、ものによっては、現在のところはラットしか使わないということがありますし、一方の長期発がん性試験で使用する動物の種類との関係があります。それから対象化学物質の代謝や動物の種類による感受性などを勘案して選定をする。もう1つ、短期・中期試験の投与方法については、対象となる化学物質の性状、試験方法の特性、試験の効率化等を勘案して選定してはどうかという案です。
 参考までに3頁、4頁に別紙が付いています。我々の委託でお願いをしている長期発がん性試験については、労働安全衛生法の健康障害防止措置の指針に加えて、労働者への影響が懸念されるものについては、そのリスク評価を行い、労働安全衛生法の規制の要否についても検討していくことに役立てていくということがあります。
 このような試験が発がん性の評価にどのように反映されるかです。従来リスク評価の対象物質については、IARCの評価で2B以上のものを発がんが疑われる物質として扱って、労働現場でばく露が高い場合には、発がん性物質としての規制を検討してきました。これを考えますと、今回、例えば1種類の長期試験、短期・中期試験が、IARCの分類でどのように扱われているかです。
 2にありますように、2006年にこの基準の改正が行われており、(1)にありますように、まず1種類の動物の1例の試験結果の扱いは、(1)の下に英文があり、そこの5行目から下線部があります。GLPで行われた試験については、1種類の動物の雌雄両性で陽性が認められる、腫瘍の発生の増加が認められる場合については、その試験の内容にもよりますが、十分な証拠とみなすという部分が付け加えられております。(2)にありますように、中期・短期の試験の扱いは、IARCが評価を行う場合の根拠となる試験として、3頁の下の英文の伝統的な試験法に加えて、遺伝子組み換え、発がん二段階性モデルなどの短期・中期の試験方法も材料とすると明記されております。
 また、4頁のまた書にありますように、限られた組織又は臓器でプロモーター活性のみを示す場合は、「限定された証拠」ということで、十分な証拠にというように扱われないとなっていますが、これに加えて、1種類の動物の長期発がん性試験で、雌雄どちらかにおいて因果関係が示されている場合などには「発がん性の十分な証拠」になり得るということが、この基準の改正に当たって、前段で行われたアドバイザリーグループの報告書に示されているということで、今回、1種類の動物の長期試験、それに加えて短期・中期の試験についても、IARCの発がん性の分類基準では、相当大きく扱われるということがありますので、判断の材料として整理をしております。事務局からは以上です。
○大前座長 これからやっていく試験方法の案ですが、ご意見はいかがでしょうか。
○福島委員 いま説明されたことですが、基本的にはこの試験方法、これからの試験方法について、この案に賛成です。先ほど医薬品のほうでも、まだ数は少ないが増える傾向にあるだろうという、医薬品の世界とはもちろん別ですが、労働衛生のこういう試験法についても同様な方向性はとっていくべきだろうと思います。
 質問とコメントになりますが、1頁の長期発がん性試験の方法で、投与方法は吸入ばく露による方法ということになっています。ところが2頁の短期・中期試験については、試験方法の特性、試験の効率化等を勘案して選定するということで、ちょっと違うニュアンスになっています。これはいろいろな理由があると思いますが、長期試験で吸入ばく露をやるのなら、基本的にはこちらのほうも吸入ばく露となるのではないかなということです。そこの辺りを私としてはどのように書き込んでいくのかということを、反対に検討してもらいたいと思います。投与方法として原則として吸入ばく露をすることが望ましいとか、いろいろな書きぶりがあると思います。その中にあくまで吸入ばく露を入れるのか、入れないのか。入れるとしたらどのような書き方をするのか、そこのご検討をお願いしたいと思います。
○松井化学物質評価室長 まず福島所長のご発言で、2頁の最後の2行ですが、事務局で作成したときの意図を説明しておきます。この2行については、短期・中期試験について、前回の説明の中で、短期・中期試験については必ずしも吸入ばく露による方法が、実績としていまのところは十分にやられていないということがあって、この2行全体は書いているということ。最後の「試験の効率化」とわざわざ書いてあるのは、吸入試験を行うに当たって、どうしても空気中に分散させるための設備のための費用がかかりますので、短期・中期試験で試験期間が短くなると、設備整備のインターバルも短くなる。これは役所のほうの事情だけですが、予算的に十分対応できない可能性もあるということで、試験の効率化と書いてあるわけです。以上のようなことですが、そこはこの小検討会でご議論いただければと思います。
○大前座長 福島先生、追加のご質問の件に関してよろしいですか。
○福島委員 吸入ばく露による短期・中期試験は、数がまだ少なくて、たくさん行われていないというのは事実です。しかし、いままで短期・中期試験はどちらかというと、大学レベルでやってきた成績が多いということです。大学レベルで吸入ばく露をやるのは不可能です。そういう意味で少ないということだと思います。
 もう1つはコストの面ということを言われましたが、長期のほうである一定条件が設定できれば、こちらのほうも確かに装置に対して費用はかかるのは事実ですが、設定ということについては可能であると。その辺をどう見るかということだと思います。
○櫻井委員 吸入ばく露を重視するという我々の立場に関連しているのですが、例えば、参考資料3の4頁の?に「1種の動物のみに発がんがみられた医薬品のうち、『ラットのみ』の化合物の数は『マウスのみ』の化合物の数の約2倍であり、単純な意味で、ラットはマウスよりも発がん感受性が高いといえる」と書いてあります。その他のいろいろな情報から考えても、初めはラットで長期の発がん試験をやって、それがネガティブだったときに、マウスによる短期・中期の試験をやるというのは妥当性が高いとは思います。
 1つ気になるのは、吸入ばく露による肺がんに対する感受性というか、それが今までのデータでどうだったのか。ラットとマウスでいろいろ蓄績したデータがあるので、1度チェックしておきたいと思います。たぶんラットで見出されたけれども、マウスではネガティブだったという例のほうが多い可能性が高いとは思うのですが、一応チェックしておきたいと思います。思い出しましたが、インジュームもラットでポジティブで、マウスがネガティブでした。
○津田委員 労働現場での安全性から見ると、ばく露は吸入か皮膚の二通りしかなく、経口はほとんどあり得ない。内閣府食品安全委員会では対象は当然食品ですのでそれが主になるのですが、労働衛生から考えれば、ばく露はほとんど吸入ということですので、それを重点に置くことが大事だと思います。
 それから、ラットの吸入の感受性ですが、私の知識はかなり限られておりますが、金属ヒュームとか、ナノマテリアルでの発がんはほどんど雌ラットなのです。雌ラットのほうが感受性が高いというのは、いままでに得られた知見です。ですから、マウスよりラットのほうが感受性が高いのではないか。吸入試験ではラットが多く使用されるのは、ストレスに対してマウスより強いということもあるのではないかと考えています。
○大前座長 労働現場では、実は経口もないことはないのです。でもメインは吸入ですものね。
○吉田委員 私も福島先生がおっしゃったように、原則は吸入ということに賛成ですが、伺いたいのは、2頁の(3)で、短期・中期試験の方法として、これらのモデルは、先ほど小野寺先生からご説明のあったp53やrasH2のモデルはバリデーション後に使ったという経緯を先生方はご存じですが、データの堅牢性を確保する意味からも、バリデーションが行われたある程度国際的に認められたモデル、ということを付記する必要はないのかどうかということです。
○大前座長 いかがでしょうか。
○松井化学物質評価室長 この資料を作るときに、おっしゃったようなことを排除するようなことは毛頭考えておりませんので、ご議論の中で、ご意見を反映して、この資料は修正をしていくものかと考えております。
○大前座長 そのほかにいかがですか。
○西川委員 基本的にこの試験方法の案には賛成です。1つ確認したいのは、原則ラットで長期試験もやって、プラス短期・中期の試験をやるということですが、短期・中期の試験で使用する動物種の種類について、2頁の下のほうに、長期発がん性試験で使用する実験動物の種類等を勘案してとありますが、ラット、マウスの2つの長期試験をやってきたというのは、ヒトへの外挿性を考える意味が込められていると思います。そうすると、ラットで長期試験をやった場合に、短期・中期試験はマウスでやることになるのでしょうか。
○大前座長 そういうことでよろしいわけですね。
○松井化学物質評価室長 そこもご議論いただければありがたいのです。
○大前座長 長期はラットということになれば、中期・短期はマウス。逆に何らかの理由で長期にマウスを使う場合は、中期・短期はラットということでよろしいですか。同じ種ではなくてということですが、それはそれでよろしいですね。では、基本的には種を変えてやる。そのほかにご意見はいかがですか。
 いままでは、ものによって吸入試験と経口投与と両方並行してやっていたわけですね。これからは試行的な導入ですが、経口試験はやらない。そちらはやめてしまって吸入のラットと短期・中期のマウスという形でしばらくはやってみるということですね。
 もう1つは時間的な問題で、短期・中期というのは当然早く終わるわけですから、1年間を考えた場合に時間が余るわけです。その場合は別の物質をまたそこに組み込むということなのか。もともと長期は全部で4、5年かかりますよね。最低2年間のばく露ですから、少なくとも1年半ぐらいは余ってしまうわけです。短期ですと、2年間で4物質ぐらいできるというイメージでよろしいわけですか。
○松井化学物質評価室長 短期・中期試験は詰めればそのぐらいできるのですが、それらの物質についても長期試験が必要になりますので、どのように組み合わせるかはいろいろ検討が必要かと思います。
○大前座長 と言いますのは、今回、化学物質がたくさん増えてきているので、できるだけたくさんやりたいという意味で、このように変えようということですよね。経口がなくなってしまうということと、時間が余ってしまうということは、必ずしもテークする量は増えないのではないか。いままでは少なくとも1年間に経口と吸入で2物質同時並行でやっていたわけですが、このパターンだと1年間に1物質しかできません。
○松井化学物質評価室長 吸入と経口と2物質やっていたのは、少し前までやっておりまして、経口のほうはいまは新しくは開始していない状況です。
○福島委員 私自身、今回の検討会に参加して勝手に思っていることは、先生がいま言われたように、片一方は長期発がん性試験をやっていますから、数としては変わらないのではないかというのは、確かにそうだったと思います。マウスならマウス、ラットが長期の場合に、マウスが短期・中期になる。したがって全体の年数としては変わらないが、片一方の短期・中期のほうの飼育期間が短いわけですから、そこにむしろスクリーニング法の物質を入れて、ある程度の目処を付けることで数を増やすことは可能だと思います。スクリーニング法でネガティブな場合に、長期をやらなくていいとする。それはそれでネガティブと解釈するとか、その辺の検討は必要だと思います。
○大前座長 そうすると、今日の議事の3番目と組合せの形で。
○福島委員 そうすることによって数は増えると。
○櫻井委員 全く同じ意見です。これはいままでスタンダードにやっていたことを、ちょっと効率的にやるという範囲です。
 一方、非常にたくさんいろいろな未知の化学物質がある中では、確定して発がん物質であると判断できないが、その前の段階で疑惑のある物質を放っておいていいのかなという気がしておりまして、何らかの対策、まだはっきりしない段階では、管理のやり方を強めるという中間的な領域が必要になるのではないかと思っています。
○宮川委員 いまの話の確認ですが、短期・中期の試験というのは、ある種、そのほかの方法と組み合わせて、スクリーニング的な方法で数をいままで以上に実施しておいて、ポジティブに見えたものについては、はっきりとした長期の試験をきちんとやる。それから、その前段階として、中期や短期の試験あるいはそのほかの方法によって、ある程度ポジティブではないかという疑いを持たれたものについても、そのまま放置しておくわけではなく、いまポジティブになったものは指針が出ておりますが、それと同じような方法を考える。全く同じにはできないと思いますが、何らかの対策をするという前提のもとに、こういう方法で試験をしていくという理解でよろしいのでしょうか。これは先生方のご意見と、事務局の考えも伺いたい。
 ただ、1点難しいのは、どの辺で指針の基準になる値を定めるかというのは、先ほど医薬品の場合も標準法はないということなので、中期・短期の試験でポジティブに出た場合、どの辺りを目処に当面の対策を考えるかというのが少し難しくなります。そこは基礎的な研究も必要かなという気もします。
○大前座長 先生方あるいは事務局、その辺はいかがですか。
○松井化学物質評価室長 いまの宮川部長のお話で、今後この小検討会で検討いただくことになりますが、事務局で考えているのは、いまがん原性指針と称して、厚生労働大臣名で、委託試験で労働者にがんの恐れがあると認められた物質について指針を出しておりますが、この対象物質の範囲をもう少し広げて予防的な措置を拡充することを、事務局では案として考えております。ただ、どこまで広げるかは、いろいろご意見を伺ってということになるかと思います。
○福島委員 いまの宮川先生の意見に追加しますと、当然、労働衛生の面から見ると、遺伝毒性の試験の陽性なのか陰性なのかの取り扱いが、まず選択としてあると思います。遺伝毒性の陽性物質に対しては、我々としてはケアする必要が当然出てきます。次は発がん性を見た場合に、発がん性とどのように組合せをするかということになると思います。
 遺伝毒性でも、強い遺伝毒性、中ぐらいの遺伝毒性、弱い遺伝毒性と3つに分かれます。そうすると、発がん性の場合もそのように現実に分けられるかどうかという問題がもちろんあります。そこに経験則というのがどうしても出てきて、それで判断するしかないと思います。そうすると、組み合わせることによって、強い場合には、たとえスクリーニングであったとしても、それはすぐ何らかの対策をとる必要があるでしょうし、弱い場合には長期の発がん性試験をやらなければならないだろうというケースも出てくると思います。その辺は必ずしも1つのチャート式にはいかなくて、あるチャートは作るにしても、あとは有害性委員会の委員の方々のある程度の判断が現実には入ってくると思います。そういう対応をとらざるを得ないだろうと思います。
 それより、それに出す化学物質の種類を増やす。先ほど言ったスクリーニングをやって、テーブルに出す資料を作ることのほうが重要ではないかと私は思っています。
○大前座長 そのほかご意見いかがですか。結果の出方によって、それぞれの専門家の先生方でどうするかというようなお話だと思います。短期試験でポジティブ、長期でネガティブのときにどうするかとか、短期でネガティブになったら長期をやめるかとか、その辺の判断はそれぞれの物質と、そのときの委員の先生方の専門的な見解で決めざるを得ないだろうというお話だったと思います。
○津田委員 代替試験あるいは短期試験において、二段階発がん試験を実施した場合に、閾値というか、作用を示すいちばん低い値を取るのが難しいということがありますが、福島先生が大学におられたときに二段階試験において随分低用量までやっておられましたが、その辺の経験からどうなのでしょうか。
○福島委員 要するに閾値論からいいますと、現実問題として遺伝毒性には閾値がないという形になっています。どこかに実際的な閾値はあるというのが私の研究からの結論ですが、閾値があるかどうかの論の是否は別にしても、実験上の用量を取ることによって、例えば最低用量のところで10の単位でポジティブになるのか、100のところでポジティブになるのか。これは遺伝毒性の場合もそうなのですが、ずっと下へ落として実験上でも相当閾値は現実問題として取れるのです。そういうことをいま津田先生が言われたようなことをすると。
○津田委員 代替法の場合です。
○福島委員 代替法で。
○津田委員 代替法の場合の最低作用用量は、実際に2年間やったときと合致するかどうかという質問です。
○福島委員 ある現象が発現する用量というのは、代替法と長期発がん性とほぼ一緒として見ていいだろうということです。
○櫻井委員 代替法のデータで、それと現実に起こるであろうばく露との関係を考えて、注意すべきものであるか、それほど心配しなくていいものであるか判断できますか。
○福島委員 判断できると思います。ただ、イニシエーション・プロモーションのラットのほうのモデルですと、代替法のほうが低用量で出る場合もあります。
○櫻井委員 安全サイドですね。
○福島委員 そうですね。安全サイドのほうを取るということになります。
○櫻井委員 代替法だから検出できないという見逃がしのほうはやむを得ないとして、出る場合には。
○福島委員 出る場合にはより低いほうに出ます。経験上、同じ用量か低いという形です。
○江馬委員 中期の発がん試験で漏れるケースというのは、どのぐらい現実的にあるのですか。
○福島委員 先生の言われる中期というのはラットのほうですか、マウスのほうですか。
○江馬委員 どちらでもいいです。
○福島委員 マウスのほうは私はしっかりしたデータを持ち合わせていません。むしろ小野寺先生のほうがよくご存じかもわかりません。ラットのほうですが、現在開発されているモデルは主要臓器というように臓器が限定されています。その限定されたところについては、我々のデータですとまず100%出ます。ただし、検索臓器に入っていないところ、例えば下垂体、中皮、卵巣などの女性性器についてはイニシエーションがかかっていませんので、そこは検出できないという弱点があります。ただ、例えば口から直腸までの消化管とか泌尿器系については、我々の経験だと100%出ます。
○江馬委員 効率化と短期化を目的とするのだったら、すべて長期は一応置いておいて、中期の試験で流してしまうというのも選択肢としてはあるのではないでしょうか。
○福島委員 スクリーニング法という考え方をとれば、そうだと思います。我々は大学のときに進めようと思ったのは、とにかくスクリーニング法で化学物質の発がん性を予測しようと。それでネガティブの場合に長期をやりましょうという考えを持っていたのです。
○江馬委員 投与量の数値もほぼ同様で、ポジティブなら出るのだったら、それだけというのは言いすぎなのでしょうか。とりあえずの手段としては、中期試験を流すというのがいちばん数をこなせるケースだと思います。
○清水委員 遺伝毒性でも相関はありますか。
○福島委員 遺伝毒性との相関まではきちんと調べていませんが、先生が言われるのは、強いか中か弱いかという意味ですね。そこまでは調べてないですが、現実に長期発がん性試験でも、クリアカットに、遺伝毒性が高い場合、発がん性も強い。こうパラレルにはいかないのが現実です。それは長期でも代替法でも両方とも一緒だと思います。
○大前座長 むしろ中期試験をバンバンやって、数を稼いで、その中から長期をやる候補を選んだほうがいいのではないかというご意見ですが、こういう考え方もあるとは思いますが、いかがですか。
○津田委員 発がん試験に積み残しがいっぱいあるということから考えますと、いまは中期試験の方へどんどん落としていって、消化しなければならないのですが、まず代替試験で発がん性があるかないかによって仕分けをすれば、積み残しが随分減るのではないかと考えます。
 それから中期試験のもうひとつのいいところは、昨今、動物愛護が非常にうるさくなってきて、いわゆるNTPのゴールデンスタンダードの雌雄1群50、全部で300匹の試験は実施が特に欧州で困難になってきています。そうすると、動物を減らした方法は必要ということになると、代替法は期間が短く動物も減らせるわけですから、これから大事になってきます。IARCのPreambleの修正版は、もちろんそういう流れもあって代替法、短期方法も取り入れてきたという背景があります。
○櫻井委員 中期でスクリーニング的にデータが得られたものは、スクリーニングであるけれども、一応SDSに掲載して情報として提供するというのは、最小限やることではないかなとは思います。
○吉田委員 先ほどの福島先生ので1つ質問があります。今回、基本的に吸入ばく露でということなのですが、肺の二段階についてはいかがでしょうか。大体、相関をしているのかどうかを伺いたいのです。
○福島委員 少なくとも我々の持っているデータですと、相関していると言えると思います。しかし、肺に関しては、もう少しきちんと調べる必要があるかもわかりません。我々が大学にいたときは、DHPNでイニシエーションして、プロモーション作用を見るというケースでした。
 それから先ほどのスクリーニング法、それではスクリーニングという形で全部最初からやってもいいのではないかと。それは1つはそうですが、いままでの発がん性に対する取組方も含めて、1種はどうしても長期の発がん性をやるべきだったと思います。そして、医薬品のような考え方を導入する。それと同時に、スクリーニング法で、空いた時間と言ってはおかしいですが、数多くやっていくというのがまず方法で、一気に全部スクリーニングというのは、私はちょっと時期尚早な気がいたします。
○池田委員 先生方の議論に私がちゃんと付いていっているかどうかの確認を含めてなのですが、いまの考え方ですと、ご提案では、1種類の動物を使って長期発がん性試験をやるのと、中期のものを同時にやるということですが、それはそうではなくて、中期のものを先にやろうと。それでポジティブなものに関しては、そこである程度の警告を出して、次に長期のものもやる。中期で出ないものは一応置いておいて、別のものをどんどんスクリーニングしていき、ポジティブなものを見つけていくということです。
 長期発がん性試験を必ずやって、そのときに同じ発がん性があったとしても、閾値がありますので、大丈夫だという投与量が見出せるであろう。それを最終的な毒性の数値として公表するという形になるのでしょうか。そのように私は解釈をしておりましたが、お聞きしたいと思います。
○櫻井委員 関連しているとは思いますが、国がやることは費用の点もありますし、バイオアッセイ研究センターでやるにしても、リソースに限界があるわけです。ですから、いままでと同じか、できればもう少し数を増やして、バイオアッセイ研究センターで吸入ばく露試験長期をやっていただきたいのですが、それがいくら努力しても、いまの数か同じか、あるいは2倍ぐらいまで。そうだとすると、それ以外の多くの化学物質については、スクリーニングをやったそのデータまでは国がやるとして、そのあとは事業者が必要に応じてやるということになるのではないかなと思います。
○大前座長 よろしいですか。
○福島委員 最後の対応のところは、むしろ大前先生のほうが現在の取り方というのは。
○大前座長 池田先生のご質問は、中短期でやって、あとは長期に持っていき、そこに出てきた数値を規制値というか、そのように持っていくのかというご質問だと思いますが、その辺はそれでよろしいと思います。
○宮川委員 1つは規制値を決めるところも、少し中期・短期だけデータが出た段階で何かを考えなければいけないと思います。
 もう1つは、広くSDSに記載して注意を喚起する基準。バイオアッセイ以外の所でも試験をやっていただくためには、一定の基準のガイドラインがある試験が望ましいと思います。ICHのほうでは、こういうトランスジェニックマウスを使った方法等についても、一定のガイドラインが出ているのだと思います。それが一般化学物質にとって適切か、あるいは吸入試験にとって適切かどうか。そういうものが整備されていないと、民間の会社の方に、試験機関に頼んでどんどん試験をやってくださいと言っても、試験の質がどの程度担保されるかどうか。そこが担保されないと、一定の基準で「ポジティブに出ているので、ではSDSに書きましょう」というときに、少し判断が難しくなるという気もするので、その辺もいろいろ検討していただく必要があるかと思います。
○大前座長 医薬品関係のガイドラインは、一般化学物質でも大体応用できそうなものですか。
○小野寺委員 資料3の別紙のフローチャートがあります。このフローチャートを見ていくと、下のほうで点線で囲んである「中期発がん性試験等」の矢印を見ていくと、中期発がん性試験のほとんどがポジティブになる可能性が高いですね。いわゆる遺伝毒性の強さが判定ができない、あるいは発がん性に関与する構造活性で疑いがあるものを検索していくと、半分以上、もしかしたら8割位が中期発がん性試験でポジティブの結果になる事も予想されます。その結果を、非常にたくさんの化学物質から、種々の情報、インシリコなどや遺伝毒性結果を用いたスクリーニングを行い、残ったものを中期発がん性試験で実施し、どちらの結果を長期試験に持っていくのか。ポジティブなものを実施するのか、ネガティブだった場合に確認のため実施するのかによって、長期発がん性試験の立ち位置が変わってくると思うのです。
○大前座長 いまのは資料3の別紙で、おそらく関連している話だと思いますので、資料3の説明をしていただいて、2と3をまとめてということでよろしいですか。とりあえず事務局から資料3の説明をお願いします。
○松井化学物質評価室長 いま小野寺先生から言及のあった資料3ですが、別紙のほうは前回も同じものをお示しして、簡単にご説明しただけです。櫻井先生や福島所長のお話のように、職場で使われている物質が非常に多い中で、この発がん性について評価していくためには、長期の発がん試験の効率化ももちろんですが、スクリーニングをどうやっていくかというのは非常に問題になってくるわけです。とりあえず、このフローは、いま事務局で把握できることを単に素案として示しただけです。細かなところ、あるいは細かくないところもあるかもしれませんが、ご議論いただければと思います。
 このフローについては、職場で使われている物質は6万もありますので、これ全部をスクリーニング対象とするわけにはなかなかいかないのではないかということで、1事業者は年間1トン以上の製造輸入量のある物質が約7,000、CAS番号ベースでは1万1,000ほどあるようです。これについて、どうやってスクリーニングをするかということです。まず、発がん性に関する情報があるものがありますので、これをまずリスク評価に進むなりしないといけない。残りの部分は、従前の考え方では遺伝毒性を考えてということで、遺伝毒性の有無の判断を既存の試験結果や構造活性相関で判断して、遺伝毒性のあるものについては、遺伝毒性の強さで発がん性の有無がある程度推定できると従来から言われていますので、これを使ってはどうかと。遺伝毒性のない発がん性物質については、非常にスクリーニングが難しいので、ほかに方法がなければ構造活性相関などを使うことが考えられるということです。
 こういった既存の有害性情報と構造活性相関で絞り込んでいき、足りないところを有害性試験でということになるのです。これには既存の遺伝毒性試験と、中期発がん性試験等で。点線で括っているのは、いままでこういう形ではあまりやられていなかったものですから、そもそもどういうことで、どういうふうにすればいいかというところをご議論いただきたいという意味で点線で括っております。
 その下の「長期発がん性試験」については、今日ご議論いただいているところです。中期試験を併用した場合に、中期試験を先にスクリーニングでやってしまうのかどうかについては、スクリーニングのやり方の議論と関連してくるのかと考えられます。この結果を踏まえて、先ほどの厚生労働大臣の「技術的な健康障害防止指針」や、あるいはリスク評価をやって、事業場における労働者のばく露状況を調べて、労働安全衛生法の規制をするか否かの要否を検討いただく、ということで考えております。
 資料3の1頁、ここはフローに沿って事務局で想定した論点を並べておりますが、細か過ぎるかもしれません。1「既存の有害性情報によるスクリーニング」について、(1)は発がん性に関する情報があるものについてですが、IARC等の発がん性評価が行われていないものについて、長期の発がん性試験の結果等がある場合にはどうしたらいいか。あるいはIARC等の発がん性評価がなされていても、それが「区分3」である場合であって、かつ長期発がん性試験の結果があるような場合はどうすればいいか。そういった問題点があります。
 (2)遺伝毒性の有無の判断については、基本的な考え方で、発がん性をスクリーニングするときに、遺伝毒性の有無で整理してよいかどうかという根本的なところがあります。遺伝毒性試験といっても、OECDのテストガイドラインでも10くらいありますので、そういったものをどんなふうに考えるか。既存の試験情報がない場合、構造活性相関による方法でよいのか。とりあえず論点としては挙げております。
 2頁、(3)遺伝毒性物質のスクリーニングについては、発がん性のスクリーニングの指標として、遺伝毒性の強さを指標として使用することでよいか。2つ目の○で、遺伝毒性試験の情報がない場合には、構造活性相関で遺伝毒性の強さというのは推定できるのか。(4)非遺伝毒性物質のスクリーニングについても非常に難しい問題で、構造活性相関で、こういった物質の発がん性のスクリーニングを行うことでいいのか。あるいは既存の有害性情報を活用して、スクリーニングをすることは可能なのかどうか。
 2として、このスクリーニングのために試験を行う場合は、1つ目の○は、遺伝毒性試験を実施する場合には、一方で効率性というのが役所でもありますが、信頼性を勘案するとどんな試験方法がよいのか。最後の○は、点線で囲っていた「中期発がん性試験等によるスクリーニング」については、どんな試験方法が、どんな場合に選択可能か。参考として挙げているのは、前回ご説明をいただいた二段階発がんモデルによる中期発がん性試験。遺伝子組み換え実験動物を使用する中期発がん性試験。次回、西川先生にお話を伺う予定にしている遺伝毒性・発がん性包括的試験。第4回にそれぞれ開発に関連した方にお話を伺う予定ですが、トキシコゲノミクス手法による短期発がん性予測法。in vitroの形質転換試験。
 こういったところが、事務局で探した中でもいろいろあるわけです。それこそ培養系による試験から、中期の動物試験まであるわけです。こういったところをどんなふうに組み合わせればよいかを、ご検討いただければありがたいと考えております。事務局からは以上です。
○大前座長 今後の予定を見ますと、第3回、第4回が遺伝毒性、第5回と第6回で結論を得るイメージですので、今日は結論に至る必要はもちろんないわけです。そういう意味で、先ほどの議論の続きですが、いろいろな問題点等々、あるいは提案等々を出題できればいいと思います。
 資料3、資料2を含めて、何かご意見、あるいは問題点等々ありますか。今日出たのは、ちゃんと2年間やるというのがいちばんコンサバティブです。中期試験で全部やってしまおうというのが、いままでの議論の中ではラディカルな提案です。その中間が長期と中期を組み合わせようという、そのような意見がいくつかありました。それぞれの意見なり、問題点を挙げていただいておりますが、そのほかはいかがですか。
○櫻井委員 教えていただきたいものが1つあります。今回の胆管がんの例を見ても、代謝されて、中間代謝物が非常に強い発がん性があると考え、まだ結論ではないにしても、その可能性が強いということを聞きますと、既存の遺伝毒性試験で、ちゃんと代謝されて、中間代謝物ができるというところは、どの程度完璧にカバーできているのか。要するに、見落としです。その辺りはいかがですか。知見があれば教えていただきたいと思います。肝臓のあれを混ぜて入れているぐらいで、どこまで。
○吉田委員 おそらく動態、あるいはカイネティクスとかダイナミクスをしないと、その辺りはわからないのだろうと。また、これはラットイベントなのか、ヒトにも外挿されるのかという、またそこで大きなハードルがあると思いますので、そこは最後の評価で行わざるを得ないかと思います。先ほど物質によっては、ある意味ではモートオブアクションといいますか、そういうことを付け加えることも必要なのかなと実験者の立場からは思います。
○福島委員 櫻井先生のご質問ですが、例えば、バイオアッセイで扱っている化合物のブラットダイナミックスとか、ラットの代謝過程、マウスの代謝過程、それでは人がどうなのかとか、そこのところが解析されていないのがほとんどだと思います。医薬品の場合は、しっかりと詰めます。ですから、現実問題として、代謝の面から言うと、構造活性相関というのはなかなか厳しい面が現実には出てくるのではないかと思います。
○櫻井委員 いまのin vitroの遺伝毒性試験だけに限定した場合は、エームスか何かで。
○福島委員 エームスでS9を加えて、陽性があるかどうかということで、どういう物質に代謝されているかはわからないです。
○櫻井委員 話を限定して、どの程度でちゃんと。
○清水委員 わからないですね。具体的にどういう物質になっているかはわからない。ただ、肝臓のS9を加えているだけですから。
○小野寺委員 医薬品の場合、ヒトでの投与時期と非臨床試験が並行して行うときがありますので、第?相試験のときには健常人に投与してヒトでの代謝物を可能な限り調べます。動物と比較して、ヒト特異的な代謝物が見つかることもあります、そういう場合にはその種類と量的関係を評価し、可能ならばヒト特異的な代謝物を合成し動物に投与するなど検討ます。化学物質でどまで詳細に検討できるかというと非常に難しいと思います。
○福島委員 代謝のほうは別にして、労働衛生の面から見ると、やはり遺伝毒性物質はまず最優先して、発がん性を調べるべきだと思います。先ほど吉田先生が言われましたが、非遺伝毒性物質の場合には、モードオブアクションが比較的推定しやすいですから、それによっていろいろな対応をすることはできると思います。
○櫻井委員 いま私も気にしていたのは、非遺伝毒性物質といわれているものの中で、見落としがどうなのか。相当大きいのではないかと実は思ったわけです。そうは言っても、何らかの方法で構造活性相関的にアプローチできるのではないかということです。
○福島委員 先生が言われる見落としの意味は、いままで非遺伝毒性物質についての発がん性というのは、現実問題としてあまり調べていないのです。バイオアッセイでも最近調べるようになりましたが、以前は遺伝毒性物質だけに限っていました。その辺のところは、なかなか労働現場での非遺伝毒性発がん物質の扱いの詳しいデータがないという状態だと思います。ただ、これはモードオブアクションが比較的推定されやすいということと、もう1つは閾値がはっきりとしている。しかも、大多数は高用量であるということです。そういうところから、現実での規制の対応はわりとしやすいのではないかと思っています。
○津田委員 非遺伝毒性物質の発がん性というのはたくさんないのですが、例えば、食品安全委員会にかかった農薬等では、私が農薬専門部会の委員を努めておりました経験では結構あるのです。どのぐらいあるかというのは、食品安全委員会のホームページで見れば記載があります。非遺伝毒性物質として開発された農薬の中に、発がん性のあるのは何パーセントぐらいかということは、調べれば大体の見当はついて、わかると思います。
 私の印象では、10年ほど委員を務めましたが、結構あったなという印象です。例えば、10に1つが多いと取るのは、そんな危惧は馬鹿かという、その人の考え方もありますが、私は結構多いと思いました。
○大前座長 事務局のほうで調べていただけますか。
○福島委員 肝臓が多いですね。
○櫻井委員 マウスで肝臓にやたらに多いという話が出ていますが。
○福島委員 大体そうなのです。私は先ほど大多数は高用量だと言いましたが、非遺伝毒性でも非常に低い量で出る。しかも肝臓以外に出るケースもあります。
○吉田委員 いまの福島先生のご意見に賛成で、重要なのはやはり閾値があるということだと思います。津田先生がおっしゃったように、私も農薬の委員を10年ほど食品安全委員会でしておりますが、かなり腫瘍は出ますが、ほとんどが高用量であり、福島先生がおっしゃることを復唱するだけになりますが、ほとんどにおいて、いまはメカニズム試験が新規について行われるようになってきましたので、非常にそれはある程度推測しやすいものがかなり多いことも事実だと思います。
 1つコメントですが、別紙の真ん中のカラムのスクリーニングで、構造活性相関か遺伝毒性があり、なしと2つですが、おそらく、遺伝毒性あり、あるいは判断不可ということがここでは入るのでしょうか。構造活性相関から2つにパチッとは分かれないのではないかと思ったのですが。これから入れていくことはないのですか。
○松井化学物質評価室長 ちょっときれいに書き過ぎておりますが。
○大前座長 いま先生がおっしゃったのは、3つの四角の中の真ん中の四角の話ですね。
○吉田委員 あるのかなと思いました。
○清水委員 構造活性相関というのは、誰が作ったソフトを使っているかということも問題だと思うのですが。私が化審法の委員をやっていたときには、DEREKとかMCaseとか、あるいはAWorksとかいうソフトが使用されていましたが、必ずしも実際のデータとは一致しないのです。そういうのが新しいデータを入れて、どんどんバージョンアップしていればいいのですが、その辺私もあまりはっきりしたことはわかりません。宮川先生、もしご存知でしたら教えてください。
 ただ、何を使うかによってだいぶ違うと思います。少なくともエームスに関しては、労安法では約2万3,000物質のエームスの非常に貴重なデータがあるわけですから、それを使えばかなりの相関は少なくともエームスに関しては言えるのではないか。それ以外、日本では染色体異常試験のデータもかなりあるわけですから、そういうものもうまく利用すべきではないかと思うのです。
○大前座長 既存のデータが折角あるからということですね。
○福島委員 遺伝毒性物質については、私は個人的には三種の神器で、エームス、染色体異常、小核試験とありますが、やはり私自身はエームステスト陽性の物質を重要視すべきで、染色体異常陽性の物質については、むしろ閾値があるという考え方をとっています。ですから、同じ遺伝毒性物質と言ったときには、何が陽性なのかによって、また違いが出てくると思います。清水先生の専門ですから、あれですけれども、私自身はそういうふうに考えています。
○大前座長 そろそろ16時になりますので、今日は結論を得ることはないので、議論を覚えておいていただきまして、また次回、次々回に新しい情報が入ると思いますので、そのときに今日の議論に加えて、最終的にはどのようにするかということを決めていただきたいと思います。最後に事務局から今後の予定についてお願いします。
○大淵有害性調査機関査察官 資料4をご覧ください。第3回につきましてはすでにご案内しておりますが、10月31日に開催を予定しております。その際の「発がん性スクリーニング手法に関する有識者からの意見聴取」の中には、構造活性相関についてのご説明なども予定しております。バイオアッセイでやりました3-アミノフェノールの発がん性試験結果の評価も第3回では予定しております。第4回、第5回、第6回についてもいまのところの予定をお示ししております。以上です。
○大前座長 皆様、手帳にはすでに書いてあると思いますが、よろしくお願いいたします。そのほか先生方から何か、いまの時点でご意見等々はありますか。事務局は特にありませんか。よろしいですか。
 今日は非常に密度の濃い議論をどうもありがとうございました。次回、次々回、同じように密度の濃い議論で結論に持っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。今日はこれで終わります。ありがとうございました。


(了)

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