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2012年7月27日 第7回 社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録

年金局

○日時

平成24年7月27日(金)10:00~12:00


○場所

経済産業省別館8階827号室
東京都千代田区霞が関1-3-1


○出席者

吉野 直行 (委員長)
植田 和男 (委員)
小塩 隆士 (委員)
小野 正昭 (委員)
川北 英隆 (委員)
駒村 康平 (委員)
武田 洋子 (委員)
山田 篤裕 (委員)
米澤 康博 (委員)

○議題

(1)諸外国の公的年金の将来見通しに用いる経済前提について
(2)諸外国の積立金の運用組織について

○議事

○吉野委員長 定刻になりましたので、ただいまから、第7回「年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」を開催させていただきます。今日は、お暑い中お集まりいただきまして、どうもありがとうございます。本日は、西沢委員だけが急にご出席できなくなったということで、ほかの方々は全員ご出席です。
 それでは、議事に入らせていただきます。カメラの方は退席をお願いしたいと思います。事務局から資料についてご説明お願いします。 
○大臣官房参事官(原口) 本日の資料の確認をいたします。資料1-1「諸外国の公的年金の財政見通しに用いる経済前提について」、資料1-2「アメリカの公的年金(OASDI)の財政見通し」、資料1-3「カナダの公的年金(CPP)の財政見通し」、資料1-4「スウェーデンの公的年金の財政見通し」、資料1-5「フィンランドの公的年金の財政見通し」、資料1-6「欧州委員会の推計」、資料2-1「海外の運用組織の状況」、資料2-2「米国のソーシャル・セキュリティ信託基金について」、資料2-3「スウェーデンの積立金の運用について」です。お手元にありますでしょうか。欠けている資料がありましたら、事務局にお伝えください。
○吉野委員長 議事次第にありますように、今日の議事は2つあります。1つ目は「諸外国の公的年金の将来見通しに用いる経済前提について」、2つ目が「諸外国の積立金の運用組織について」です。今日はいろいろな国々のこういう制度について、事務局から一括してご説明いただきたいと思います。それでは、よろしくお願いします。
○数理課長(安部) 資料1-1から順次内容についてご説明します。
 資料1-1です。これは全体をまとめたものです。1頁には、全体ということで、公的年金制度は、いずれの国においても長期にわたる持続可能性を確保する観点から財政見通しが行われて、当然のことですがその前提となる「経済前提」というものが設定をされているわけです。ただし、国によって制度の内容等々、状況が違っていますので、それぞれの国の状況に応じてこういった「経済前提」は設定されています。いろいろと調べたところ、各国で設定されている経済前提、基本的には過去の実績の傾向などをベースとして設定されているようでして、日本のように経済モデルを使って設定している例は見つかっていません。ただ、いちばん最後にあります欧州委員会も年金の将来推計を行っていますが、その中で同じようなコブーダグラスの経済モデルを使った設定を行っています。これはいちばん最後のところでご説明をいたします。本日ご紹介する資料の中で、特にアメリカ、カナダなどではある程度詳しい情報もわかりましたので、それも含めてご説明をいたします。 
 資料1-1の2頁です。これは総括表で、各国の状況を横並びで比較できるように作成した表です。上から順次ご説明します。財政見通しを行うときの対象期間がどの程度になっているかで、日本の場合は大体概ね100年間となっているわけです。アメリカ、カナダ、スウェーデン、フィンランドあたりが、70年間前後となっており比較的長いところです。イギリスが60年、フランスが40年、この辺が中間的な値で、ドイツは15年間という比較的短い期間を対象としていて、この辺についてもやはり国によって状況が違っています。
 その下に、「経済前提」をどう設定しているかで、直近の結果を調べてそれぞれ数字を並べたところです。まず、物価上昇率です。日本ではいま、1.0%と設定していますが、各国を見ますと、大体2~3%あたりを中心にして低いところと高いところがあり、フィンランドの場合は1.7%で、2%弱とはなっています。また、賃金上昇率ですが、これは名目で設定しているのか実質で設定しているのかの違いがありまして、ドイツは名目で設定していて、大体4%台を中位としてプラスマイナス1ポイントずつ上下を設定している。ほかの国は大体実質で設定していますが、ご覧いただくとおり、1~2%の辺りを中位として、そこを基準として高いものと低いものを設定しているのが多い結果になっています。運用利回りですが、これは大体実質で設定されているわけですが、これもご覧いただくと、中位として設定されているものが3%前後、この辺りの水準を中位と設定して、高位、低位と設定している。これが主要各国の大まかな結果です。
 その下は積立水準で、財政運営の考え方としてどういう考え方でやっているかがここに出てきています。アメリカ、カナダ、スウェーデン、フィンランド辺りは日本と同様、もしくは日本以上にこの積立比率が高くなっていて3から4ぐらい、そしてフィンランドはかなり高めで8という値になっていまして、ある程度積立金を持ちながら運営していて、日本と似通った財政運営をしているように思われます。その一方で、イギリス、フランス、ドイツをご覧いただくと、この積立水準はかなり低くなっています。特にドイツなどは0.96月分、大体1カ月分で、ほとんど完全賦課方式に近い運用を行っていて、このあたりについても国によって状況、事情が違っているのが出てきていると思われます。以上が全体の概略でして、以下、アメリカ、カナダ、スウェーデン、フィンランド、最後に欧州委員会について、今回調べることができた結果を概要としてまとめていますので、順次ご説明します。
 資料1-2「アメリカの公的年金(OASDI)の財政見通し」についてです。2頁です。まず、アメリカの年金制度の概要を簡単に1枚にまとめたものです。真ん中に太枠で囲っていますが、アメリカの年金制度は、被用者及び自営業者を対象とした1階建ての所得比例年金、これを社会保険方式で運営しているのがアメリカの仕組みです。対象者は被用者、そして年収400ドル以上の自営業者です。ただし、実際に年金を受給するときの最低加入条件を判定するときには、一定の所得、年1,120ドル以上の収入のある期間が対象となります。そういう意味で被用者、自営業者のかなりの部分を1つの制度でカバーしているということです。保険料率ですが、本来は被用者、自営業者ともに12.4%なのですが、2011年と2012年は経済状況などを反映して、一時的な特別措置として2%ほど引き下げられて10.4%に設定しています。あとで注にも出てきますが、その不足分の2%は国庫負担で補うとなっています。年金が支給されるときの最低加入期間ですが、基本的にこの制度では四半期を単位としてカウントしていくやり方をとっていて、その四半期の単位で40、ですから年単位でいうと10年間、これが最低加入期間です。これを超えた人に年金が支給されます。支給開始年齢は現在は66歳で、段階的に67歳まで引き上げることになっています。国庫負担は原則としてなしですが、先ほど言いました、例えば2011、2012年の特別措置の不足分の補填などは国庫で行われています。
 支給される年金額はどういう計算になっているかというのは、上の図で示しています。一定のルールで平均所得を計算するわけですが、平均所得に基づいて比較的低いところは支給率が高くて、それが段階的に支給率が低くなっていく。ですから、低所得者について比較的手厚い給付が行われる、そういう仕組みになっています。
 3頁です。これが過去5年分の状況で、受給者数、被保険者数、また収入・支出の財政状況をまとめたものです。当然、少しずつ人口高齢化してきますので、この年末受給者数は次第に増加してきていることと、あと、先ほど言いました社会保障の保険料率が2011年は2ポイント下がっていることを反映して、この収入の欄の社会保障税が2011年にかなり大きく減っています。ここでは明示的に内訳として出てきていませんが、不足分を補填するために国庫負担が行われて、この収入の欄の合計値は補填するための国庫負担を含めた数字です。直近の2011年の積立比率は3.54です。以上が制度の概要、そして直近の状況ですが、将来見通しはどのように行われているかです。
 アメリカの場合、このOASDIを管理するために信託理事会が設置されています。これは財務長官、労働長官、保健福祉長官、社会保障庁長官の4人を含めた6人の理事で構成される理事会で、毎年、財政の状況と将来見通しが報告されることになっていて、直近の報告は2012年の報告書となっています。この将来見通しは、10年間を対象とした短期見通しと、75年間を対象とした長期の見通しの2通りが作成されていて、人口や経済の低、中、高の3つの前提を設定して、それぞれ短期と長期の見通しが作成されているのがOASDIの財政運営です。
 5頁は、短期(10年間)の見通しで、この積立比率がどうなる見込みであるかを示したものです。真ん中の太線が中位、上にあるのが低コスト、下が高コストの場合です。この10年間を対象とした場合には、中位はもちろんのこと、高コストの場合であっても、この積立比率は一応1.5ぐらいで1を超えていて、当面10年間はこの積立比率は1を超えている結果になっているわけです。ただ、これが長期の見通しになると、また結果が違ってきます。
 6頁です。75年間を対象とした長期の場合の見方としては、1つは積立比率がどうなるか。もう1つは収入率とか費用率、これはそれぞれ収入とか支出の課税対象所得に対する割合を収入率、費用率と言っていますが、そういったものがどういう推移になっていくかといった視点などで財政状況を見ることになっています。
 まず、収入率や費用率の見通しを7頁にお示ししています。このグラフの中の太線で示しているものが費用率、支出の側です。そして比較的薄い線で示されているのが収入率です。費用率は、傾向として受給者数も増えていくこともあって、次第に今後上昇していく見通しになっています。ただ、途中で急に下がっているわけですが、これはどういうことかと言いますと、次の頁に出ていますが、積立金は2030年を越えたところでゼロになる。そうなると、あとはもう収入だけで賄っていかなければいけないということで、この収入と合わせる必要があるので、ここで急に下がっているということです。参考までに点線で示されているのは、予定通りの給付をもし行った場合の費用率がどうなるかのラインです。一方、収入率はほぼ横這いの水準になっていますが、これがこの直近の見通しでの収入率となっています。
 8頁です。これはもう1つの指標の積立比率の見通しです。これもまた中位を中心として低、高の3通りが示されているわけです。低コストの場合ですと、この2075年を見ても積立比率がゼロにはならない結果になっていますが、中位の前提においても、2033年にはこの積立比率がゼロ、要するに積立金が枯渇する見通しになっています。これが直近時点でのOASDIの財政見通しです。
 この将来推計を行うための前提がどうなっているかを9頁以降でお示ししています。それぞれ前提としては3通りあるわけですが、9頁が中位のケース、10頁が低コストと高コストの場合で、主要な項目をまとめたものです。毎年行われているので、直近5年間の数字をまとめています。直近の2012年の数字がいちばん右側の欄です。人口の要因としては、いちばん主要なものは合計特殊出生率になるわけですが、中位の場合はこれが2.0、低コストの場合が2.3、高コストですと1.7と3通り行われています。この表で示されているのは最終形、最終的な値でして、大体25年ぐらいをかけて直近の実績からこの最終的な値に到達するという仮定で計算をされています。また、下には経済前提ということで、生産性上昇率とか賃金上昇率、実質運用利回り、それぞれについて数字を示しています。
 11頁です。中位前提で、年齢構成別の人口をどのように仮定しているかを図で示しています。また、経済前提設定の考え方をまとめているのが12頁です。
 12頁は、「賃金上昇率設定の考え方」です。中位の前提を例に挙げて表をまとめています。賃金上昇率を設定するときの考え方としては、5つの要素に分解をして、それぞれについて仮定を置いて、最終的に賃金上昇率がどれくらいかを設定する考え方で行われているようです。労働生産性の増加、平均労働時間の増加等々、ここに列挙されている5つの要素をそれぞれについて設定しています。具体的な数字がこの表の中にあるわけですが、一応この中位の最終値として設定されている数字が上の欄です。そして、過去41年間の実績がどうなっていたかを下の真ん中の欄に示しています。考え方としては、過去の実績などを踏まえて、これがどのように将来推移していくかを見込む。この推計にあたっては特に何か経済モデルを使ってはいないようでして、大体の過去のトレンドなどを見ながら設定をしているようです。ご覧いただくと、大体過去41年間の平均値などを参考にして設定されているように見受けられます。
 13頁はGDPとか、特に利回りをどのように設定しているかをお示ししています。アメリカのOASDIの場合、積立金はいわゆる市場で運用されているわけではなくて、非市場性の国債・財務省証券で運用されているわけですが、そういうことで、利回りというのは、まさしく国債・財務省証券の平均利回りになるわけです。それについては、過去41年間の実質利回りを見ますと2.8%の実績があり、そういったことも踏まえて、直近の見通しではこの実質利回りを2.9%と設定しています。これは実質ですので、消費者物価上昇率を2.8と見込んでおり、名目で見ますと5.7%と設定しています。これが大体アメリカのOASDIにおける財政見通しの考え方です。
 資料1-3です。次はカナダについて同じようにまとめたものです。2頁は、カナダの年金制度がどうなっているかを図などでまとめたものです。概要を真ん中の太囲いに書いています。カナダの場合には、アメリカと違って2階建てになっていまして、全居住者を対象とした税方式による定額の老齢保障年金(OAS)がまず1階部分としてありまして、その上に被用者及び自営業者を対象とした所得比例年金のカナダ年金制度が乗るという2階建ての仕組みになっています。それぞれの制度がどういう内容になっているかは、その下にお示ししていますのでご覧ください。
 3頁に、カナダ年金制度(CPP)の直近5年間の状況について、受給者数や被保険者数、財政状況などを表でお示ししています。
 4頁からは「将来見通し」です。カナダの場合には、将来見通しは少なくとも3年に1度行うと規定をされていて、首席アクチュアリーが数理報告書を作成することとなっています。この将来見通しを行う場合の推計期間は75年間でして、直近の第25次報告においては、2010年から2085年の75年間を推計期間としています。また、カナダのCPPの「財政方式」ですが、従来はほとんど積立金を持たない、かなり純粋な賦課方式に近いようなやり方でやっていましたが、近年、やはりある程度積立金も持とうということで少し変化がありまして、先ほどご覧いただいたように、ある程度積立水準が高い、大体アメリカや日本と同じような水準にまできています。そういうことで、財政運営が行われています。
 6頁です。直近の「第25次数理報告書における将来見通し」がどうなっているかで、積立比率の推移を図で示しています。直近の見通しによると、2020年において積立比率は大体4.7倍ぐらいになると。また、最終的に2050年段階などを見ますと、この積立比率は5.2で、大体その水準で今後も推移するという見込みになっています。
 この将来見通しを行うに当たってどのような前提を置いているかを7頁の表にまとめています。ご参考までに、直近の第25次と3年前に行われた第23次報告を並べて示しています。ご覧いただければわかるように、若干少しずつ微修正は行われていますが、劇的に何か大きく変化しているわけではありません。直近の状況などを踏まえて少しずつ修正が行われています。例えば、経済前提などをご覧いただくと、真ん中から下のところにありますが、物価上昇率は2.3%、実質賃金上昇1.3%等々、そういった前提で将来見通しは行われています。
 8頁です。人口関連の前提についての設定ですが、いちばん人口に影響を与える出生率、合計特殊出生率ですが、大体カナダの実績としては1.6前後、最近1.6を超えてきていますが、そういった状況を踏まえまして、2015年以降の合計特殊出生率を直近の見通しでは1.65と仮定をし、また、死亡率についても、一定の改善効果なども見込んで2031年に改善率の最終値に到達するといった仮定をしています。
 一方、「経済前提」ですが、先ほどご覧いただいたアメリカとほとんど同じような考え方で、9頁で賃金上昇率の要因分解を行っていまして、労働生産性とか報酬比率といったそれぞれの要素に分解して、それらについて過去の実績などを見ながら将来の見通しを設定するという考え方で行われています。具体的な数字を下の表に掲げています。労働生産性の増加がいちばん上にあって、あとそれに4つの要素を加えて設定されています。それぞれ1961年から2008年の実績、2000年から2008年の実績などを見ながら、将来見通しを設定した結果がいちばん右の長期間の前提という数字です。具体的にどう計算しているのかは必ずしも詳細は不明ですが、ご覧いただくと、やはり過去の実績をベースに大体推計されていると考えられます。
 また、経済前提のうちのそれ以外の、例えば物価上昇率などについては10頁です。この辺りについても、過去の実績などを踏まえて、実際は金融政策などもある程度影響を与えるわけですが、ただし物価上昇率の最終前提は2.3%で、直近の実績に比べるとやや高い水準に設定しているわけです。その辺の理由としてポツで3つほど挙げています。いわゆる金融政策が財政見通しの推計期間と比較した場合に比べて短い、将来のエネルギー価格に不確実性がある等々、そういったいくつかの要因を踏まえて直近に比べるとやや高い2.3%の水準で設定されています。
 運用利回りについてどのように設定されているかが11、12頁にあります。財政見通しで用いられる運用利回りの前提は、実際に運用を行っているところの参照ポートフォリオとは別に、経済前提を設定するチーフアクチュアリー室において推計が行われているわけですが、それぞれについて直近のトレンドなども踏まえて設定されています。実際のウエイトなどについては12頁などにも表があります。以上がカナダにおける財政運営、経済前提の設定です。
 資料1-4です。これはスウェーデンについてまとめたものです。同じように2頁がスウェーデンの年金制度を簡単にまとめたものです。スウェーデンについては、まず所得比例年金があります。これは賦課方式と、一部それにオンする形で積立方式部分、この2つに分かれます。ただ、それでは年金額が非常に少ない人に対しては、税を財源とする保証年金を支給する仕組みです。これがスウェーデンの年金制度です。
 そして、財政運営方法として非常に特徴的なのが、3頁にありますが、「バランスシート」を毎年作って評価をしていく。ただ、このバランスシートはいわゆる積立方式におけるバランスシートとはちょっと違っていまして、年金資産の側に、実際持っている積立金のほかに、保険料資産ということで、今後一定期間に入ってくる保険料収入も保険料資産としてカウントした上で、この債務と資産等の評価をする。これはまさしく財政方式としては基本的には賦課方式で運営している部分が大部分ですので、この賦課方式の財政運営を行うためのバランスシートということで工夫をしたものです。そういったバランスシートを作って債務と資産とがバランスしているかどうかをチェックしていく。この2つのバランスが崩れて均衡数値が1を下回ることがわかった場合には、自動均衡機能が発動されて年金改定率などが調節される。直近ですと、2008年の実績を見たときに均衡数値が1を割り込む結果が出てきました。下の表のいちばん右のほうに均衡数値を掲げていますが、そういうことがあったものですから、それを基にした年金額の調整が2010年に行われたのが直近の実績です。そのような財政運営の方法が行われているのがスウェーデンの特徴です。
 スウェーデンの「将来見通し」ですが、4頁以降です。直近は2011年の年次報告になるわけです。これについては、2012年から2086年の75年間を対象としての将来見通しが行われています。2011年の見通しの前提等がどうなっていたかは、5頁に「各種前提」の表でまとめています。
 これも毎年行われていますが、直近5年間の経済前提等の推移を見るために5年分をまとめています。直近の2011年はいちばん右側の欄です。これをご覧いただければわかりますが、毎年行われてはいますが、こういった経済前提についてはそれほど変化しているわけではありません。大体同じ水準で少なくとも最近は行われています。例えば、経済前提の基本ケースで見ますと、実質賃金上昇率1.8%、実質運用利回り3.25%という設定が行われています。また、この人口前提のところの出生率なども、スウェーデンは基本的にかなり合計特殊出生率が高い実績がありまして、それを大体踏まえて、基本ケースとか楽観ケースですと合計特殊出生率1.83、悲観ケースで1.66という仮定が置かれています。そういった結果で財政見通しが行われていて、その結果、直近の見通しがどうなっているかが最後の頁です。
 この積立比率、またバランスシートを作って、債務と資産が均衡しているかどうかを表わす均衡数値、これらについて将来見通しが行われています。例えば、基本ケースでご覧いただくと、積立比率についても将来大体7ぐらいまで上昇していく。また、均衡数値についても常に1を上回る見込みになっているのがスウェーデンの直近の財政見通しです。
○数理調整管理官(武藤) 続きまして、資料1-5「フィンランドの公的年金の財政見通し」についてご説明いたします。私どもで諸外国調査を行うときには、先ほどご報告しましたアメリカやスウェーデン、あるいはイギリス、フランス、ドイツ辺りを調査することが多いのですが、今回初めてフィンランドの公的年金財政の見通しを調査いたしました。年金局数理課の国際年金財政分析官において、フィンランドの数理担当者とのパイプもできましたので、今回初めて調査を行ったところです。
 2頁が「フィンランドの年金制度概要」です。真ん中辺りに四角囲みで制度の特徴が書かれておりますけれども、図の右下の三角形が所得比例年金で、それに上乗せする形の国民年金及び保証年金で構成されています。国民年金は税財源によるもので、一方、所得比例年金は保険料を財源とするものですが、所得比例年金が不十分な者に対して国民年金が支給されるという構造です。国民年金を受給してもなお受給額が不十分なフィンランド居住者へは保証年金が支給されるという構造です。一見、形だけを見ますと、先ほど確認しましたスウェーデンと似た形になっておりますが、スウェーデンの所得比例年金は一元化された所得比例年金、フィンランドは分立した所得比例年金というところが特徴的かと思います。
 続きまして3頁は、その所得比例年金の適用者の制度別の内訳です。全体で249万人ですが、その構成が下の円グラフのような状況です。一般被用者、TyELという制度がありまして、それが61%ですので、以下の説明については、主にこの「TyEL」の制度に沿ってご説明させていただきます。
 4頁がその一般被用者制度(TyEL)の実績値です。被保険者数が約151万人、年末受給者数118万人です。年始積立金が835億ユーロ余りということで、収入・支出は次のような状況です。保険料収入が103億ユーロで、支出が110億ユーロほどになっておりますので、保険料収入だけでは支出は賄えないけれども、運用収入を足して支出全体を賄っているという状況です。積立水準については、約8年分となっております。
 5頁以降が「将来見通しの特徴」です。フィンランドの年金センターという所がありまして、公的年金全制度の将来見通しを作成しているという状況です。ただし、先ほど申し上げましたように、一般被用者年金制度であるTyELの記述が主です。報告書の頻度は2、3年に1回作成されているという状況です。法律に基づくものではないということです。ある報告書の作成を行った場合には次の作成予定を示す方針になっておりまして、次回は2013年に報告書の作成がなされる予定です。将来見通しの推計期間については60年から70年ぐらいという状況です。
 続いて6頁の「財政方式」です。国民年金及び保証年金は、先ほど上乗せされる税財源の年金がありましたけれども、この部分は賦課方式です。所得比例年金部分は制度ごとに、職域ごとに分立している状況ですが、一般被用者年金制度のTyELは、制度創設時より部分積立方式を採用しているということです。自営業者に支払われるYELという制度は、支出の不足分が国庫負担で賄われるとか、あるいは公務員年金制度については制度発足当初は賦課方式を採用していたけれども、その後、積立水準を引き上げるようになったというような記述もありました。
 7頁は「2011年報告書によるTyELの将来見通し」です。下のほうのグラフ2本は、上の線が所得総額に対する支出の比率で、下の太線が保険料率です。2012年始におけるTyELの平準保険料率は25.9%ということで、下に書いてある保険料率は支出と連動する形で波は打っておりますけれども大体26%前後に線があります。2010年の実際の保険料率は21.4%なので、4.5ポイント程度の保険料の引き上げが必要という状況です。
 8頁は、いま申しました保険料率の推計結果が上半分に載っておりますが、前提が3通り設定されておりますので、基本ケース、高位ケース、低位ケースの3パターンあることに加え、下に積立金の比率が書かれています。積立金の比率というと、普通、単年度の支出に対して積立金がどのくらいかで示す国が多いと思いますが、フィンランドの報告書においては、注に書いていますように、所得総額に対する積立金の比率で数字が書かれていますので、所得総額に対して200%程度ということで見ていただければと思います。
 9頁は「前提を変更した場合のTyEL保険料率の見通し」で、右のように基本推計を真ん中にして、楽観的なケース、悲観的なケースの3通りがこのような結果になっています。
 10頁が「実績値と長期推計前提との比較」です。下の表は左3列に実績値、真ん中は2011年推計の前提、さらにその前の2009年推計の前提です。2009年推計と比較すると、2011年推計では所得水準の実質成長率、所得の上昇率ということですが、その前提が1.75%から1.6%へ、実質運用利回りの前提が4.0%から3.5%へと変更されていることが特徴的なところで、その結果、賃金上昇率を上回る運用利回りの前提が縮小しているということです。
 11頁は「高齢者比率」です。ここでの高齢者比率というのは15歳以上から64歳以下の人口、現役の人口に対する65歳以上の高齢者の人口の比率で見ておりますけれども、2010年辺りから急増していき、徐々になだらかに上がっていくというようになっています。平均余命の伸長が継続されていることなどを踏まえて、2030年には44.4%になるという見通しとなっています。
 次に12頁です。「就業率」は過去において現実の経済状況の中で変動していた時期もありますが、将来見通しの設定については、2020年以降は71%で推移すると見込まれています。
 13頁が「経済関連の実績値と前提」です。上に各年の実績、下に将来見通しの前提ですが、いちばん左に物価上昇率で、次の2列が所得水準の上昇率の名目と実質を並べておりまして、右2列に運用利回りの名目と実質が並べられています。この前提の設定の仕方ですが、一応、過去の実績を参照して長期間の前提の設定を行っていると見受けられます。物価上昇率については、欧州中央銀行が設定しているインフレ目標も踏まえているようです。
 最後の14頁は、運用利回りの前提です。様々な投資種類ごとの運用利回りの前提を設定して、さらに投資ポートフォリオの割合を設定することにより、合計の運用利回りの前提が決まるということで、下のような状況です。いちばん右に個々の資産ごとの運用利回りの前提があって、その隣りに資産構成割合がありますが、これは実績に近いような形で設定されていると見受けられますけれども、それらを加重平均することにより、右下の3.5%の数字になるようです。以上、資料1-5です。
 続きまして、資料1-6「欧州委員会の推計」についてご説明いたします。2011年に公表されています「2012年高齢化レポート」に基づいて、その内容に沿ってご説明させていただきます。欧州委員会、EUという国際機関ですので、いわゆる諸外国政府の公的年金の財政見通しとは違うのですが、5年前に前回の経済前提専門委員会で同じように諸外国の調査が行われたときに、コブ-ダグラス型生産関数を用いている国はないのかということを調べていったときに、欧州委員会が労働生産性上昇率の推計に当たってコブ-ダグラス型生産関数を用いていることがわかりましたので、そのとき初めて取り上げて、5年間経ちましたので状況の変化等を確認させていただいたところです。
 表紙の頁の1点目に書いておりますけれども、欧州委員会において、最近では3年ごとに高齢化関連支出推計が行われています。これは別に行われているユーロスタットの新人口推計なども入力データとして用いられて、直近では2009年に行われおりますので2012年、今年には更新されるという状況です。その内容ですが、足下から2060年ぐらいまでにわたって、EU加盟の27カ国の高齢化等による財政への影響がどうなるかを、マクロ経済の前提に基づいて推計されているということですけれども、この中で労働生産性上昇率とか金利の推計が行われています。下に概要図があり、いちばん左にPopulation、人口の推計の枠があります。左半分が前提のパーツですが、その右隣りにLabour Productivity、労働生産性の上昇値とか、さらにその下に労働力の前提とか、失業の前提、これらのパラメーターを入力してGDPの推計を行うということです。下にReal interest rate、金利の推計の部分がありますけれども、これはその上の経済モデルと連動する形ではなくて、後ほどご説明しますけれども過去の実績を基に仮定値を置くという形になっておりますので、それと独立した形で直接、年金推計に入力されるということになっています。右から2列目に個々の費用推計のパーツがありますが、上から失業給付、医療費、介護費、教育費、最後に年金、それらを合計して右に全体の支出推計を合計するということです。特徴的なところは、年金についてはNational modelsと書いてありまして、EU加盟国の政府の年金推計モデルを使って計算した結果を入力しているところです。これは国によって年金制度がいろいろ異なりますので、統一的なモデルはなかなか難しいのでこうなっているようですが、上の4つの費用推計についてはEUの統一的なモデルで推計しているようです。
 2、3頁目が2009年推計の主な結果です。ちょっと細かくて恐縮ですが、縦にEU27加盟国が羅列されていて、横の軸が先ほど見ました費用推計の大別区分、いちばん左3列が年金、次に医療などと並んでいまして、いちばん右の3列がその各費用推計の合計になっています。それぞれの3列の中身ですが、まず足下の実績の2007年の各国の年金の費用推計の対GDP比が書かれていて、2007年~2035年の上昇分がその隣りに、さらにその隣りには2007年~2060年までの上昇分が書かれています。この表では見にくいので、3頁の加盟国の合計をした棒グラフで見ると、例えば年金では、左の棒グラフが2007年の実績、右が2060年の推計値で、費用の対GDP比が2.4%増加することになっていまして、それぞれ合計していくといちばん右に書かれているような状況になります。
 4頁から推計方法の中身に入っていきますが、労働生産性上昇率とかGDPがどうやって推計されているかというところです。欧州委員会でも、いまはコブ-ダグラス型生産関数を採用しているわけですけれども、最終的にそこに至るまでにいろいろ試行錯誤された形跡がありまして、例えば検討過程が上にポンチ絵で書かれています。最初は経済的基礎とかは特になしに、労働生産性上昇率を1.75%に収束させるということでスタートして、さらには真ん中に書いてある推計方法をいろいろ試して、最終的にコブ-ダグラス型生産関数に至ったということのようです。ポイントが下に書かれていますが、例えば3点目は、予測期間末における労働生産性上昇率はすべての国において同率となることとされており、具体的にはTFP上昇率が1%に収束していくという仮定が置かれているということです。
 5頁がコブ-ダグラス型生産関数のモデルの枠組みの説明で、下が概念図になります。調べていて興味深かったところが、括弧書きで書いてあるところで、労働投入量については、2006年のレポートまでは雇用者数が用いられていたのですが、2009年以降は総労働時間が用いられるようになったという改善がなされていてます。たまたまですが日本の公的年金の経済前提を設定するときも、平成16年の財政再計算から平成21年の財政検証に至るときに、労働投入量について、労働時間のほうに改善するとされましたので、その辺り共通点があって興味深かったところです。
 6頁からはGDP等の具体的な推計手法です。いちばん最初のポツにあるように、コブ-ダグラス型生産関数で表現されているということです。2点目は、先ほど申し上げましたように、長期推計の鍵となる前提はTFPの上昇率ですけれども、推計期間の最後の2060年において、すべての国で1%に収束するという考え方となっています。中期的に見ると、3番目のポツにあるように、TFP上昇率と労働時間当りの資本成長率、いわゆる資本深化のところが鍵になるということです。長期で見たのが最後に書いてありますけれども、結局、定常状態が仮定されているということのようです。ソロウモデルによると、経済が均衡成長状態に達するとK/(L・E)という値が一定となるので、労働生産性上昇率はTFP上昇率を労働分配率で除したものに一致すると。つまりTFP上昇率の長期の前提が最終値では1%ということであり、労働分配率のデータが0.65ということですので、1÷0.65の1.5%に最終的には収束していくということです。
 労働生産性上昇率の推計の結果が次の7頁です。最終的には2060年に向けては全ての加盟国が1.5%の同率に達するという仮定ですけれども、国ごとの置かれている状況がいろいろ違いますので、そこに達するまでの値が違っているということです。つまり、ある程度成熟している国と、発展中でキャッチアップ中の国とでは違うような前提となっております。例えば下の注にドイツ、フランス、スウェーデン、イギリス辺りを書いていますが、DEがドイツということで、上から5行目ぐらいにあります。FR、フランスは上から10行目ぐらいにあります。さらに下から2つのSEがスウェーデンで、UKがイギリスです。こういった国は、足下の労働生産性上昇率はそれぞれの国の状況があるけれども比較的早く定常常態の仮定の1.5%に達するということですが、それ以外の国というのは様々で、例えば上から2番目のBGブルガリアだとかなり高い2.9%からスタートして徐々に1.5%に近づいていき、最終的に2060年に1.5%になるということのようです。
 次の8頁では、GDP成長率の寄与度を評価するために、労働生産性の上昇率と労働投入量の2つの要素に分解してみるということで、表があります。GDPは生産年齢人口の減少などにより労働投入量が減っていくと成長を引き下げる効果になるということですので、それらの国ごとの特徴がよくわかる表ということです。いちばん左に合計のGDP上昇率がありまして、すぐ隣りに労働生産性の上昇率、さらに2つぐらい飛んで労働投入量の欄があります。2列目と5列目を足すといちばん左の1列目の数字になります。人口が減っていて、日本と雰囲気が似ているという意味ではドイツかなと思っています。つまりドイツも出生率が1.3とか1.4ぐらいの水準になっていますので、日本と同じように将来の人口がなかなか伸びない、減っていくという状況になっていますので、上から5行目のDEのドイツでは、合計のGDP上昇率は0.84%ですが、その内訳となる労働生産性上昇率は1.46%労働投入量は-0.62%で、なんとなく日本と似た雰囲気になっているというところです。
 最後に9頁は「金利について」です。先ほども少し申しましたけれども、特にモデルによる計算がここで行われているわけではなさそうで、こういう値に置いたということのようです。従前もそうしていたのですが、すべての国において、実質金利は3%が維持されるべきとされております。2015年以降の長期の前提として用いられているけれども、初期値からは線形で収束させているということのようです。真ん中辺りに表が出ておりますが、各国の過去40年程度の平均の実質長期金利が確認されておりまして、そういう検討が行われた結果、3%に設定されたということです。私からは以上です。
○吉野委員長 ありがとうございました。次に大臣官房参事官、お願いいたします。
○大臣官房参事官 引き続き資料2-1をご説明いたします。「海外の運用組織の状況」です。資料1-1にありました国について、基本的に同じ国の運用組織の状況を簡単にまとめたものです。中で、フィンランドについて適切な資料が用意できず、フィンランドのみ含まれていません。まずアメリカですが、運用組織は連邦政府の財務省が運用している形です。資金については独立したソーシャル・セキュリティ信託基金が設けられ、これが財務省公債局で運用されています。この信託については6名の理事からなる理事会があるということです。運用目標に関しては、財務省が発行し、信託基金のみが購入できる非市場性の特別な債券にすべて投資する、これは執行理事である財務長官の判断でそのようにされているということですが、そういうやり方になっています。実質は一般会計に貸し出しているということに等しい運用のやり方かと思います。資産残高は200兆円余りという金額です。運用実績は先ほど資料1-2のところでご説明したところです。
 カナダは前回の会議で単独でご説明させていただいていますが、独立した法人であるCPPIBがあり、運用に当たっているということです。この法人については報酬比例部分であるCPPの積立金の運用を目的とする法人であると。政府本体とは独立の連邦公社で、専門性の高い理事12人からなる理事会が統治します。運用の目標については、カナダ金融機関監督庁が年金財政の検証時に用いた想定運用利回り実質4.0%というのがありまして、これが目標になっています。資産構成割合は株式が過半で、そのほかの資産に分散投資しているということで、資産残高は12兆円余り、運用実績は2010年、2011年のいずれも10%を上回る高い利回りになっております。
 次に、イギリスについても政府の管理ということで、社会保障管理法に基づいてCRND、国家債務削減委員と訳していますけれども、こちらが投資の責任を負うということになっており、財務省と歳入税関庁との取決めにしたがって、準備金を投資しているということです。準備金の残高ですが、こちらでは5.5兆円という水準で、かなり小さな金額です。運用方法は、準備金については債券管理勘定に預けられ、ここからさらに国民融資基金への預託、それからもう1つは金融市場で有価証券に運用するという運用の仕方がなされています。年金財政上は実質2.0%の運用利回りが設定されていますが、この資金運用の関係では国家債務削減委員会のほうで独自の運用目標は特に設定はされていないようです。
 次にフランスは、FRRという公社がありまして、公設の機関であり、20名の理事が監督理事会を形成しています。立法府、労働組合、雇用主、行政府、有識者などのグループから構成されているということです。運用目標は、外部から運用目標を提示されているということではなく、内部的に目標を設定しており、トータルポートフォリオのリターン目標は名目6.0%だということです。資産構成割合は株式29.3%、これはこの公社が出来たころは過半を株式に投資するという資産構成割合だったようですが、株式の割合はその後引き下げられてこういう数字になっています。債券が39%でかなり高く、その他の資産に分散投資をされております。資産残高はやはり小さな金額で4.0兆円です。運用実績は2010年で4.2%です。
 ドイツにつきましては、ドイツ連邦年金保険機関ということで、ここが全体で拡大理事会を設け、ここで連邦に属する各保険者の資産の運用方針全体を決めています。拡大理事会の構成はドイツ連邦年金保険機関の代表と2名の副代表、地域年金保険機構等の代表とで構成されております。ドイツの場合には資産残高2.6兆円とありますとおり、やはり大変小さな金額を運用しており、基本的には給付に必要な剰余金を一部持っているだけということで、流動性を重視した運用をしていまして、資産の約8割を現預金、定期性預金で運用しており、そのほかに債券などの運用がなされています。
 スウェーデンは、ご承知かと思いますけれども複数の法人に分けて運用しています。AP1~AP4、AP6とありますが、AP基金は所得比例年金の賦課方式部分のバッファーとしての積立金を運用する組織ということで設けられている政府機関です。各APとも、政府が任命する9名の理事からなる理事会が統治主体になっています。この基金に対して、政府を含めた外部からの運用目標の提示は行われていないということでありまして、法律に基づいて運用目標を自ら設定する仕組みです。資料のAP3で申し上げれば、目標リターンは実質4%、名目で5.9%になるという目標を設定しています。AP3の場合で株式が49.1%、そのほか債券等に分散投資をしているという状況です。
 資料の2-2及び2-3は、先ほどの6か国のうち比較的資産のある国、アメリカとカナダ、スウェーデンということになりますが、カナダは前回単独で説明しておりますので、そのほかのアメリカとスウェーデンについてさらに整理をさせていただいております。
 資料2-2は「米国のソーシャル・セキュリティ信託基金について」です。アメリカの公的年金(OASDI)はソーシャル・セキュリティと呼ばれて独立した信託基金で管理しています。この基金は、老齢・遺族年金の信託基金と障害年金保険の信託基金の2つの基金から構成されていて、この運用はどちらも財務省公債局でまとめて行われています。連邦財務省公債局はほかにも公的な信託基金をいくつも運営をしているという組織です。理事会については先ほど申し上げたとおりでして、6名のうち4名が官職指定で、財務長官、労働長官、厚生長官、社会保障庁長官、そのほかは一般から選ばれるという構成になります。また、法律に基づいて、ソーシャル・セキュリティ信託基金のうち、現在の支払いに必要のない部分を自らの判断で投資することが信託基金の執行理事である財務長官の義務とされており、財務長官がこの運用について直接に判断をしているということのようです。運用対象は先ほど申し上げたとおり、財務省が発行する非市場性の特別な債券ということですので、一般会計に全額貸し付けているのと同じような形になっているものと考えられます。運用実績については、理事会のほうで年1回、信託基金の財政状況を連邦議会に報告することになっており、この年次報告書が一般にも公表されております。この実績値については連邦の国債の金利水準によって決まってくるということです。今後の財政予想を書いていますが、先ほど別途ご説明したとおりです。
 資料2-3は「スウェーデンの積立金の運用について」です。1の公的年金制度ですが、1つ目、2つ目は略しまして、3点目で、保険料は個人所得の18.5%が労使折半で拠出され、この中の16%が賦課方式の年金、概念上の確定拠出年金ということで、保険料を資産と見なした形での設計になってこの年金のほうに用いられ、残り2.5%が積立方式の確定拠出型年金に入れられます。このうちの16%が使われている賦課方式部分のほうが、人口動態や経済的ショックによる給付の変動のバッファーとして積立金を持っています。この積立金をAP基金、正確に言いますとAP基金の1~4までと6が運用に当たっているということです。
 AP基金の役割ですが、資産運用を通じて将来の年金債務をカバーする、それから年金制度に組み込まれた自動均衡機能、下の※にありますが、賦課方式制度への保険料を所得の16%に固定した上で、年金制度の長期的な支払い能力を維持できるよう、負債と資産の均衡を考慮して給付額を変動させる仕組みですが、この自動均衡機能へのインパクトを緩和するということです。スウェーデンでは、出生率の低下と高齢化により、保険料と年金給付の額に差が生じ始めたため、2009年からAP基金の取り崩しが始まっているということです。以下略しまして、2「運用組織」のほうでAP基金の概要です。
 AP基金は政府機関であり、根拠法は国家年金保険基金法です。ここでAP基金はAP1~4、及びAP6とありますが、これは賦課方式年金の財源のバッファーファンドを運用しているファンドということで、資産残高は全体で10.6兆円です。次の頁の※にありますように、残った積立方式部分のものについても運用組織があり、これはAP7が運用に当たっているということです。AP1~4までの扱いですが、同一の法制に服して、保険料の余剰を4分の1ずつ受け入れて、同じようにキャッシングを受けて運用をしています。なお、AP6は歴史的経緯もあって運用されているということで資金量も僅かです。
 組織については、2点目のように、9名の理事は従業員の利益を代表する2名、雇用主の利益を代表する2名が含まれています。3点目、AP基金が複数あることに関しては、2009年11月にスウェーデンの財務省傘下の研究所である「公共経済専門家調査グループ」(ESO)から、基金の統合等を提言する報告書が財務省に提示されております。この報告書では、「「」1として、この10年の金融市場の発展により、4つの基金の運用資産の合計額が大きすぎるということはなくなった、2として、各基金が横並び行動をとったとみられ、4つの基金の資産構成割合に大きな違いがなくなり、リスク分散効果が得られなかった、3として、4つの基金の競争の結果、運用成績が改善したというようにはみられない。これらの状況から、1つの基金に統合しない理由はないという報告が出ております。出てはおりますが、これを受けてすぐ統合の動きに繋がったということではなく、このあとも議論が続いているという状況のようです。
 3点目、3「積立金運用の運用目的」です。AP基金法において、資産運用の目的について、「所得比例年金において、可能な限り高いリターンを得ること。ただし、投資における全体的なリスクの水準は低くあるべきである。また、リスクの水準は、長期的に高いリターンが見込まれる形で決定されるべきである」、このように定性的な規定ですが定められており、これを踏まえて運用目標を法人が定めています。これについて、もう少し詳細にどう考えるかということについては、法案段階で述べられた運用の目的というものが、今でも参照されているということで、3頁に書いてあります。1行目に、所得比例年金制度を維持するための利益を最大化するとあり、2行目には、年金システムの負債に関する分析を基に決定されると。続けて、投資リスクに比較して長期的な投資リターンを最大化する、あるいは、適切なリスク分散も行わなけれはならない。全体的なリスクは低水準にある必要がある。こういったことが補足的に解釈として用いられているということです。運用目標そのものに関しては先ほどご説明したとおりです。
 4「AP基金の運用対象」です。AP基金には、法律上、投資制約が設けられており、2のところに主な投資制約を表にしています。ご覧いただくと、必ずしも投資に妨げになるほど厳しい内容にはなっていないと考えられます。例えば2点目には、アセット・アロケーションとして、運用資産の30%以上を信用リスク及び流動性リスクの低い債券に投資すること。あるいはその次に、流動性の低い資産については運用資産の10%以内にとどめるといったことなどが規定されているようです。次の頁にかけてこういう投資制約を一覧にしています。
 4頁は5「運用実績の評価」です。評価の方法として、財務省が毎年AP基金からの年次報告書をベースに資産運用に関する評価を行い、議会に提出しています。この評価は外部コンサルタントによって行われています。2010年度の評価を見ますと、1点目に、ここ10年のAP基金のリターンが平均所得指数を上回っているということでポジティブな評価がなされています。もう少し具体的に6のところで、AP3の場合の運用を書いています。2ポツで、資産残高は2.6兆円程度という規模であり、職員は57名ということです。運用目的については先ほど来ありましたが、基金法にありますとおりのことが運用目的として定められており、目標リターンは実質4%、名目5.9%という数値です。この数値は、長期的に年金制度財政の健全性を保ち、自動均衡システムにより給付額が減額されることを回避することを基準に、年金制度の資産と負債の予測に基づいて設定されたということです。以下、このポートフォリオの策定などについて書いていますが、必ずしもそれほど特別なことではないと思います。6頁の運用実績ですが、過去10年間の運用実績として、名目で3.8%、実質で1.9%であり、目標側の実質年率4.0%とはなっていないわけですが、こうした水準で運用されています。AP3については、設立以来の実績は名目3.4%であり、平均所得指数3.2%を上回っているところです。以上、スウェーデンの積立金運用を簡単にご紹介をさせていただきました。
○吉野委員長 詳細な説明をありがとうございました。委員の皆様から、いまの説明に関して何かありますか。
○山田委員 1国の制度ではなくて、いくつか国際比較することによって、どのように経済前提が設定されているのか俯瞰することができて、大変勉強になりました。私からは2点ほど質問があります。1点目は、比較的資産のある国についてどのように経済前提を置いているのかをお示しいただいたのですが、カナダとアメリカについてはわかったのですが、フィンランドやスウェーデンは報告では過去の実績に基づいているらしいのですが、長期的にどのぐらいのデータを見て、また短期的なデータについてはどういった比重で経済前提を設定しているのかがもしわかれば、次回でも構いませんので教えていただきたいと思います。つまり、資料1-1に諸外国の公的年金の財政見通しに用いる経済前提があり、物価上昇率、賃金上昇率、運用を大変わかりやすい表にまとめていただいていますが、この中に過去のデータをどのぐらい長く見て設定しているのかをわかる範囲で教えていただければと思います。また、短期、直近のデータにどのぐらいウエイトをかけて経済前提の数値として設定しているのかがわかれば、大変ありがたいと思います。
 2点目の質問ですが、多くの国々ではマクロ・モデルを回して経済前提を設定しているのではない、ということがわかって大変示唆的だと思います。一方で、欧州委員会ではマクロ経済モデルを回して、これは実際の年金の制度の運用ではなくて、加盟国の財政状況を長期的予測をするためにコブ-ダグラス型のモデルを用いてということなのですが、そもそもなぜ1.75%という労働生産性上昇率から出発してこのコブ-ダグラス型のモデルを使うに至ったのかと。いくつか議論の中身について少し触れていただきましたが、要は高過ぎるという批判があったのか、それともそれ以外の要素があってマクロ・モデルを回してみましょうとなったのかどうかについて、わかる範囲で教えていただきたいと思います。それから、補足的な質問としては、財政予測のときに、GDPの予測が出たあと各国の年金ブロックにそれを挿入することになっていますが、年金ブロック内ではマクロ経済モデルで出てきた生産性上昇率なども一緒に入れているのかどうかについても、次回でも構いませんのでわかる範囲で教えていただければと思います。
○吉野委員長 いま3点あったのですが、お答えになれるところでお願いします。
○数理課長 まず、スウェーデン、フィンランドの実績ですが、正直なところ本日お示ししたものがこれまでわかったものを全てまとめたようなものなので、なかなかこれ以上どこまでわかるかわかりませんが、さらに調査は続けたいと思います。もし何か新しい事実がわかりましたら、また報告をしたいと思っています。
○吉野委員長 2番目の欧州モデルに関して、それから年金ブロックについてお願いします。
○数理調整管理官 残りの2つですが、EU委員会の経済モデルの検討経緯については先ほど流れ図で説明したとおりですが、私どもとしては値が高いから改善してきたというよりも、そもそもの推計手法として改善するところはないかということで改善されてきたのではないかと考えていますが、改めて確認させていただきたいと思います。3点目については、山田先生がおっしゃったとおりだと認識しています。つまり、共通の経済モデルで出てきた生産性上昇率のデータを、個別の各国の年金推計モデルに投入して、その結果出てきたものを全制度で合計するような形になっていると認識しています。
○吉野委員長 ほかにいかがでしょうか。
○小塩委員 私からは、コメントを2点申し上げます。詳細な説明をありがとうございました。1つ目のコメントは、金利や運用利回りについてなのですが、日本のように積立金を持っている国にとっては、運用利回りは非常に重要なパラメータです。先ほど山田先生がおっしゃったように、各国がそんなに精緻な見通しのアプローチをしていなくて、過去の実績を勘案して数字を置くというような、日本によく似た方法をとっているようです。さらに言うと、日本では資本の限界生産性力とリンクさせる工夫もしているのですが、そこまでやっている国も見当らないということで、これは安心していいのかどうかよくわからないのですが、日本のアプローチが見劣りするということではない点はよくわかりました。ただ、簡便なアプローチをとっていても、いろいろな数字を置いて、数値の置き方によって将来見通しがどれだけ影響を受けるかはきちんとチェックしているということですので、そのような工夫はどのようなアプローチを取るにしても必要になることが改めて認識されたという点が1つです。
 2番目は、いま金利の話を申しましたが、年金の長期的な持続可能性を議論するときに、運用利回りはよく日本で注目されるのですが、ちょっと注目され過ぎているという気がしないでもありません。やはり、長期的な持続可能性をきちんと評価する場合は、どれだけのお金が入ってくるか、どれだけのお金が出ていくかを、保険料、給付それぞれにおいて長期的に眺めることが重要になると思います。日本では、積立金の給付に対する比率のお山を書いて、それが2000何十年に横軸にクロスして、これで年金が崩壊するという議論がよくあるのですが、それはちょっと行き過ぎでして、クロスしたあともちゃんと給付と支出がバランスしていければ、制度は何とか維持できるわけですね。そういう観点から言いますと、非常に面白いことをやっているなという例が2つあります。まず、アメリカで長期的なバランスをみる場合に、収入率と費用率を比べていましたね。それから、フィンランドでも同じように、保険料率と支出比率を見ている。これは、運用収入を除いたものです。これを見ることによって、国民からどれだけお金を引っ張ってきて、どれだけお金を給付しているかというバランスがよくわかります。こういうものは重要だ思います。ただ単に積立金の変化を見るだけではなくて、収入と支出のバランスを見ることが重要だと思います。
 それとよく似たアプローチは、実はスウェーデンもやっているのですね。収入と支出をそれぞれ積分したら、それはバランスシートになるわけです。バランスシートは、日本では非常に嫌がる人が多いのですが、積立てを採るにしても賦課を採るにしても、こういうスウェーデンがやっているような絵は書けると思うのです。バランスシートには、足下にある積立金も入っているのですが、長期的にみて持続可能性をチェックするには非常にいい材料だと思います。そのように、いくつかの国でもいろいろやっているのですが、長期的な持続可能性を国民により明確に示すためには、プレゼンテーションの仕方は工夫していいのではないかという印象を受けました。
○吉野委員長 ありがとうございました。いまのは、ご意見として伺いたいと思います。ほかにいかがでしょうか。
○駒村委員 フィンランドのような非常に探しにくい国の情報も集めていただいて、大変ご苦労が多かったのではないかと思います。2つほど、コメントというか質問にもなるかもしれません。我々がこれからやらなければいけない作業の性格に関わる問題なのですが、最初の総括表を見ながらですが、各国の年金財政の見通しをつくっている組織の性格の確認なのですが、アメリカはたまたま市場運用もしていないので運用主体とも一緒なのですが、信託基金理事会で関係省庁の長等によってつくられていると。カナダは、州の大臣と財務大臣の下で、首席アクチュアリーが計算しているというお話で、2つは特徴があるわけです。スウェーデンとフィンランドについては、年金を所管する省庁の内部、あるいはそのエージェントのようなところが関わっているという理解でよろしいのでしょうか。
 その次に、こういう見通しはどのように使われているのかもお聞きしたい。目標値から外れた場合、スウェーデンの場合は自動調整メカニズムがありますのでそこが効くのだと思いますが、ほかの国は目標値から外れた場合は何年以内に何らかの制度改正が求められているのかどうかを確認したいと思います。
○吉野委員長 まず、制度に関してお願いします。
○数理調整管理官 まず、実施主体に関するご質問ですが、概ね駒村先生がおっしゃったとおりだと思っています。アメリカからいきますと、信託基金理事会が財政見通しを作成することになっています。ただ、信託基金理事会というのは、先ほど申し上げた6人の理事の構成体ですので、では、作業はどこがやるのかという話になってくるのですが、作業自体は黒子作業になるのですが、社会保障庁にチーフアクチュアリー室がありまして、そこが推計の作業自体は行い、信託理事会が主体的に財政見通しを作成、報告する形になっています。カナダもおっしゃったとおりで、作業の実態としては金融機関監督庁にあるチーフアクチュアリー室がやっています。スウェーデン、フィンランドについてはわかりにくいところもあるのですが、スウェーデンは年金庁でやっています。フィンランドについては、細かいところは承知できていません。
 その財政見通しの結果を受けて、どのようなアクションが行われるかという話については、これもちょっと国によって事情がいろいろあると思いますので、改めて確認をしたいと思います。アメリカの場合は、毎年、財政報告が出ていますが、ご案内のとおり2033年に積立金が枯渇するという見通しが出されている一方、具体的な制度改正のアクションはいまのところ動いているという認識はありません。ただ、毎年の報告書の中に、いまの状況はサスティナブルではないので、何らかの対策を打つ必要があって、それは保険料の引き上げや給付の引き下げといったいろいろな組み合わせがあるのでしょうが、対策を早めに打てば打つほど将来の激変は緩和されるというような記述もありますので、一応毎年そのような状況を確認しているのかなと思います。
 カナダについては、3年ごとに財政状況を確認しています。最近の複数回のレポートを見てみますと、わりと健全な財政状況が確認されているようですので、具体的に厳しい状況になったときにどうなってくるかは、もう一つ確認ができないところです。
○米澤委員 調べるのは大変かと思いますが、丁寧に調べていただいて勉強になります。3点ぐらい質問をさせていただきます。1点目は、何人かの方はご存じかと思いますが、あえてお聞きしたいのですが、アメリカが運用対象として株式を行っていなくて、国債で行っていると。国債で行っているといっても、実際に国債で運用しているわけではなくて、財政上そのような形で見せているのですが、いずれにしてもリスキー資産で運用していないことに関して、どのようなスピリットがあるのか、どのような意図でされているのでしょうか。私もいくつか聞いたことはあるのですが、あえてこのようなことでやっていないということがわかれば教えていただきたいと思います。よくこういう会議でも、富田様は、必ずこれを持ち出して日本はけしからんとおっしゃるのですが、改めてどのような形で整理されているのかがわかれば教えていただきたいと思います。
 2点目は、大半の国が特にモデルを持っているわけではないのですが、印象としてはあまり需要のことを取り込んでいなくて、賃金上昇率などはどちらかというとサプライサイドで決まっているのかなと。失業などは取り込んでいるのかもしれませんが、言いたいのはそのような形のアドホックな式ですが、そこで計算しますと、どうしても賃金上昇率が高めに出てきてしまうのではないかと。それは、特に日本で前回計算した我々の印象も含めてですが。なにしろ、人口は時間でみても低下していくわけで、成長率は低下しているのですが、一応プラスで維持していると、どうしても、賃金上昇率が高めに出てきてしまいます。足下で見るととてもそんな上昇率になっていないところは、ほかの国でも同様で、大きくずれており、特に日本のずれが著しいというわけでもなさそうです。これも、わかる範囲で教えていただきたいと思います。
 3点目は、前の質問でほとんど整理されたのですが、いわゆる自動安定化といわれるもので、黙っていても調整されているのはスウェーデンだけという理解で、他の国はいろいろメルクマールが出て警告は出てくるが、その度にアドホックといってはおかしいですが、改定していくような仕組みになっている理解でよろしいのでしょうか。
○吉野委員長 まず、アメリカの非市場性国債からお願いします。
○大臣官房参事官 アメリカの件については、今回特別なことを確認できたわけではありませんが、よく指摘されますとおり、大きな仕組みとしては、政府が政治的判断の下で株式運用を行うと効率が落ちると、投資目的だけで純粋に投資することは難しいというような発言がよく引用されていまして、そうした観点から公的年金については株式投資は行わないという選択がされていると説明されているようです。いまの法律においては、国債だけではなくて、市場性のある債券でも運用できるような規定ぶりにはなっているようですが、ここは信託基金の責任者の財務長官の判断として、非市場性の連邦国債だけで運用しているいまの法律に基づく運用判断として、あえていまのガバナンスの下でそういう判断がされていることになるのだと考えています。
○吉野委員長 2番目の賃金上昇率に関しては、いかがでしょうか。
○数理課長 説明しましたとおり、各国、特にモデルとかではなくて、ほとんど実績を反映しての設定です。サプライサイドというか、実績反映の結果ですので、そういう意味ではどちらかに偏っているというよりは、それが素直に反映されているところは、少し日本とは事情が違うのかなとは思っています。最後の質問は、大体ご指摘のとおりかとは思います。
○吉野委員長 では、3番目の自動安定化装置は、スウェーデンだけという感じなのでしょうか。
○数理調整管理官 本日報告させていただいた国で、財政の安定化装置が入っているのはスウェーデンです。ただ、スウェーデンで1つ留意点があるのは、スウェーデンの安定化装置は長期の均衡を図るというものではなく、賦課方式に基づく過去期間分のバランスシートをつくっています。例えば、本日の報告書で、スウェーデンの資料の最後の頁に、3通りの前提ごとに年金支出に対する積立金比率が左側に書いてあるのですが、低位のケースで均衡装置が働いて改善することもあるのですが、いずれにしても低位の前提ですと積立金が枯渇することになっていますので、長期の均衡を図るというものでは無いことが分かります。この辺りは小野先生が専門家でいらっしゃいますので、もし補足する点があればお願いできればと思います。スウェーデンは確かに均衡装置はあるのですが、これは長期の収支均衡を図るものではありません。
 その他の国で申しますと、ドイツも長期の見通しで均衡を図るのではないのですが、年金を支える現役世代と年金受給者の比率でみてが、受給者が増えると年金水準を抑える仕組みや、あるいは現役世代の手取賃金が減ると年金の伸びも抑えるというような仕組みがある。そのような安定装置が入っている国があります。
○吉野委員長 小野先生の名前が出たので、これに関して何かありますか。
○小野委員 そのとおりだと思います。別にコメントさせていただいてよろしいですか。前回も傍聴させていただいていて、この各国の経済前提の設定が非常に貴重な資料だなと思っていまして、今回も改めて感じました。私の印象としては、若干フィンランドはぶれているのかもしれないのですが、各国とも仮定の安定性が非常に目立つのではないかと思います。仮定がそんなにガラッと変わるというような前提の変更にはなっていないのではないかと思います。結局、パラメータを少し変えれば仮定がガラッと変わってしまうようなモデルですと、頑健性という意味ではどうかなという感じがします。結果として出てきたもので政策決定がなされるところまで考えると、やはり仮定の安定性についても考慮しておいたほうがよろしいのではないかと思います。
 それから、アメリカの信託基金は先ほどのお話のとおりだと思います。アメリカでも、スペント・オア・レントのジレンマだと言われているらしく、結局集めたお金で余った分は一般会計にいってしまうことになるので、それは貸しているのか使ってしまっているのかと。特に非市場性ですので、この信託基金の財産は、私の記憶では資金循環表の中には出てこない、一般会計と信託基金というのは国の機関同士の貸し借りを記帳したものだという理解をしていますので、これを積立金と言っていいのかという問題はあると思います。当然、国債を市場で発行することとどれだけ違うのかといえば、どっちみち返さなければいけないという点では同じかもしれませんが、信託基金を本当に積立金と言うのが妥当かどうかという話は出てくると思います。
 それから、再三申し上げていますが、将来推計の経済前提と、おそらく各国で国の財政そのものの将来推計もある程度はやっているのではないかと思いますので、そこで設定している仮定との比較なり整合性なりが一応わかれば、非常に有益なのではないかと思いました。
○吉野委員長 ありがとうございました。経済前提も、国全体の財政になると、もっと大きな問題になりますね。
○川北委員 まず、質問が1点あります。先ほどから話題になっていますアメリカの運用で、非市場性の国債というか特別債で運用されているということに関してです。気になったのは、細かな点なのですが、資金繰りです。常に長期債などに対して金利が払われているというか、それが積み上がっているように見えます。そのときに、毎年年金の支払いがあるので、その支払いのための資金繰りをどうしているのかが技術的な点で気になりました。
 それから、もし間違っていればご指摘いただきたいのですが、印象として受けたのは、先ほど小野委員が言われたように各国とも前提条件を安定的に設定しているということです。長期のトレンドを重視して運用しているのか、設定しているのか、捉え方はさまざまでしょうが。足下の状況からすると、特に企業年金などが既に直面している問題ですが、設定している運用利回りが高過ぎて財政的に危機的な状況に陥りつつあります。そのような中で、各国の年金の運用目標の設定や賃金の上昇率は、どうも高いのではないかとも考えられます。この現状、足下の現状と設定との乖離に関して何らかの議論がなされていないのかどうか、その辺りをご承知であればお伺いしたいと思います。
 私の印象としては、アメリカ以外はそうはいっても資産残高が極端に高いわけではなく、たぶん対GDPの比率でいくと、日本の積立ての水準はかなり高いはずです。だとすると、金利の設定が与える影響は日本がかなり大きくて、ほかの国は、どう設定するかは重要ではないというと言い過ぎかもしれませんが、極端に大きな影響を与えてはいないのではないかと思います。アメリカはかなり大きいわけですが、先ほどご指摘のように自動的に設定されてしまっているようなものなので、足りなくなれば調整を図ることでやっていくのかなという印象を受けました。そういう意味で、今日のお話を伺っていて、日本の場合、目標の設定は、ほかの国に比べると重要度が高いのではないか。それだけに、モデルなどを回して、かつシナリオなどをいくつか作っていくということが求められているのではないかと思いました。
○吉野委員長 いかがでしょうか。もし何かあればお願いします。
○大臣官房参事官 初めに、米国の運用の場合の資金繰りがどうなっているかですが、あまり詰めて調べ切れていなくて申し訳ございません。非市場性国債の仕組みとしては、給付に必要なものについては換金できるように仕組まれていることは、資料にあります。ただ、もう一面として非市場性ということであり、一般会計から繰入れて償還していかなければいけないはずですので、そちらで毎年度財源を確実に手当てしていくことが必要になっているはずです。アメリカの予算については時として議会で大変な議論になって成立が遅れてしまうようです。そういう場合には、一体どうするのかということは、ちょっと疑問点としてあるかなと思います。一応、債券の仕組みとしてはそのようになっていると聞いています。また何か調べられれば、調べてみたいと思います。
○吉野委員長 あと、何か追加はありますか。よろしいでしょうか。川北先生の関連ですが、各国の運用収入に占める債券の収入の割合と、株による収入の割合を見れば、いまおっしゃったように金利がどのぐらい影響するかがわかるのではないかと思います。この一覧表では、アセットとして何%運用されているかが、バランスシートではあるのですが、収入のところで見ればわかるかなと思います。それから、非市場性国債については私も詳しくはないですが、短期、中期、長期いろいろ運用できれば、短期のTBでやっていればすぐキャッシュが戻ってきますから、それでキャッシュマネジメントをやっている可能性もあるのではないかと思ったのですが。
○数理調整管理官 いまの資金繰りの観点ですが、決算などを見た限りでの置かれている状況を補足しておきたいと思います。アメリカの財政状況、直近の決算がアメリカの資料の3頁にあるのですが、従来保険料収入で年金給付が賄えている状況だったのが、最近では保険料収入だけでは給付を賄えなくなり、運用収入を当て始めているという状況の転換点です。そういう意味では、従来はそれほど資金繰りで困っていなかったのではないかと想像される一面、いまちょうどその転換点なので大変になってきたのではないかと思っています。数字で見てみますと、3頁の下半分に財政状況がありますが、収入の欄の2行目が社会保障税で、これが保険料収入です。一方、支出の欄と見比べてみますと、2007年では社会保障税収が6,561に対して、支出が5,945ですので保険料収入で単年度の給付が賄えている状況です。これを横に見ていきますと、2008年は上回っていまして、2009年ぐらいで近くなって、やや下回って、さらには先程来話が出ていますが、2011年には暫定的に保険料を下げている状況もあります。この辺りで、どのような資金繰りが行われているかという転換点の状況になっていると思っています。
○植田委員 感想です。既に出たことに近いのですが、1つは皆さんがおっしゃいましたように、見通しのところはザックリ言ってしまえばかなりいい加減にやっているなという感じです。アメリカでもヨーロッパでも、学会にはもっと財政や年金などに関する精緻なモデルや分析があると思うのですが、それがあまり使われていない感じです。理由としては、普通に考えれば2つで、そのような学会のモデルが長期の見通しには大して役に立たないと思われているか、あまり勉強されていないかのどちらかですよね。日本の場合どちらになるのかは、これからの検討だと思います。
 もう1つのポイントは、それもあってでしょうが、場合によっては年金財政上で使われる利回りと、資金の運用の目標の利回りのリンクがあまりはっきりしていないケースが非常に多いと思います。資料2-1で、例えばカナダは年金財政で使う実質4.0%が目標となっていますが、前回の説明ですと、そこは現実には非常に緩やかなリンケージしかないということだったと思います。ほかの国を見ると、年金財政上の利回りが運用のほうを縛っているとはなかなかみえないと思うのですね。結局、運用はある程度頑張って、もちろんリスクを考えたうえでやっていただいて、なくなってしまったら積立金があると。最終的には、それはそれでしょうがないなというような哲学にみえます。そうはいっても、目標リターンであったり現実のリターンであったり、かなり高いのですが、おそらくそれを反映して資産構成割合を見ますと、リスクアセットの割合が日本よりも格段に高いということではないかなと思います。株であったり、海外の資産であったり、あるいはインフラ関連の資産であったりということかなと思います。
○駒村委員 先ほども質問した内容に関わるのですが、我々は何のための作業をやるのかということです。日本の場合は5年に一度必ずチェックをしなければいけないわけで、もし、この前提を置いたうえでの年金の見通しが大きな課題を抱えた場合は、必ず制度改革に入らなければいけません。これが、ほかの国とはこれらのレポートの性格と状況が違うのかなと考えています。先ほどもお聞きしていますと、アメリカとスウェーデンは毎年やっているわけですよね。これは、日本でいう数理部会が毎年行っている状況報告も兼ねてやっているような感じがします。そういうこともあり、小野さんがおっしゃるとおり、ある種、予測は連続性があり、そんなにぶれていないのかなという感じがありました。そういう意味では、我々の作業は5年以内にやらなければいけません、そして、タイミングによっては非常に重要な政治マターになってきますので、政治的なものとの独立性を確保しなければいけません。そういう意味では、あまり複雑にパラメータが大きくぶれてしまうような手法というよりは、先ほど植田先生がおっしゃったように変数間の関係など間違いがないような方法をとっていくべきではないのかと思います。
○武田委員 大変詳しいご説明をどうもありがとうございました。細かい質問で恐縮なのですが、先ほど出ましたスウェーデンの自動均衡機能について、もう少し質問させていただきます。長期のバランスを図るものではないというご説明だったのですが、これは機械的に保険料を所得の16%に固定しつつとございますので、それを超えないと収支率のバランスが崩れてしまうときに、自動的に発動するメカニズムということでしょうか。それから、この仕組み自体はまさに政治などのプロセスとは独立して、機械的に発動するという理解でよろしいでしょうか。
○数理調整管理官 まず後者ですが、これは機械的に発動することになっていますので、毎年の決算で数値を確認した結果、自動的に2年後の年金額から年金改定がされる仕組みになっています。ただ、補足しますと、実際に初めてマイナス改定が発動されたのが2008年のリーマンショック後の決算を受けて、2010年から年金額がマイナス改定にされたのですが、従前のルールですと資産を単年度の時価で評価することになっており、単年度の時価ですと変動が大きいので、そこを積立金を3年平均にしようということが決算が出た直後に議論されて、3年平均による年金改定が翌年に間に合ったことがありました。ご質問の自動的にやるかどうかについては、自動的です。
 1点目のバランスシートの仕組みなのですが、これは賦課方式で運営されている年金制度において、過去期間の給付とここで定義される保険料資産がバランスしているかを確認していくものです。年金債務ですが、年金受給者分と年金受給者以外の分があります。年金受給者分は、当然過去の期間に基づく将来の給付なので、給付現価をそのまま計算して、年金受給者以外の年金債務は、これまでに払っていただいた見なしの拠出立ての資産残高が将来の年金になるということなので、過去に払っていただいた保険料に見合うもので、賃金上昇率で膨らませてはあるのですが、基本的には過去期間分の年金債務ということになっています。
 一方、年金資産ですが、2つで構成されています。現実の積立金と保険料資産、後者が大層を占めるのですが、保険料資産は単年度の保険料収入にここで言う平均回収集期間を掛けるものです。平均回収集期間というのは平たく言いますと受給者の平均年齢と加入者の平均年齢との差です。ですから、受給者の平均年齢が70数歳で、加入者の平均年齢が40歳ぐらいだとしますと、概ねその差の30年分ぐらいの数字を掛けて、言ってみれば保険料を払ってから年金支払いまでの1回転期間に当たるものを掛けて評価しています。そのような計算方法でやるということは、将来の出生率の前提などは全然関係なしに、それだけを見ているということですので、実際に将来見通しをつくってみると、低位のケースで出生率が低いケースですと、賦課方式で運営されていますから、積立金が枯渇するという見通しがつくられるケースもありますし、低位のケースで均衡装置は働くのだが、働いたうえででも積立金が枯渇するというような見通しが実際にスウェーデン政府から出されることがあります。いずれにしても、長期の均衡によるものではないということです。
○小野委員 スウェーデンのことなのですが、要するにバランスシートをつくるといっても、そのバランスシートをつくる前提となるような仮定があるわけですよね。それが、基本的にそんなに完全ではないのですね。例えば、死亡率の改善による余命の伸長分、余命が伸びると年金額の総額は増えますよね。そうすると、追加債務が発生します。そういったものは、バランスシートの中には織り込んでいません。それから、保険料拠出者の人口なのですが、増えていけばいいのですが減っていくことや、そういった変動がバランスシートの中に反映していないので、反映していない部分が現実的に現れるようなシナリオを描くとすれば、それは積立金の枯渇になり、長期的にはいろいろ問題が起きるということです。バランスシートで自動均衡をやるからといって、それだけですべてが解決するというような仕組みにはなっていないということです。
○吉野委員長 どうもありがとうございました。時間になってしまいました。本日は、すばらしい資料をご提示いただきました。先ほど植田先生がおっしゃいましたように、前回もう少し精緻化するというような議論もありましたが、またこれを参考にしたいと思います。それから、自動安定化装置のようなことも含めて、いろいろ考えていければと思います。それでは、次回の予定についてお願いします。
○大臣官房参事官 次回の日程については、改めて調整のうえ、後日連絡をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
○吉野委員長 本日も、活発な議論をどうもありがとうございました。これで終了させていただきたいと思います。


(了)

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