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2011年11月4日 第4回職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ議事要旨

労働基準局労働条件政策課賃金時間室

○日時

平成23年11月4日(金)10:00~12:00


○場所

中央合同庁舎5号館 専用第17会議室


○議事

○出席者
(参集者)
岡田委員、尾野委員、津野代理(川上委員代理)、小林委員、佐藤主査、澤木委員、杉山委員、冨高委員、内藤委員、西谷委員、松本委員

(政府側)
熊谷大臣官房審議官(労働条件政策担当)、本多大臣官房参事官(賃金時間担当)、亀井賃金時間室長補佐

○議題
 職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する有識者ヒアリング

○議事要旨

○ 旬報法律事務所弁護士棗一郎氏から提出資料について以下のとおり説明が行われた。
・ 現行法では、法的に許されない職場のいじめの定義や職場のいじめを禁止する規定等がなく、使用者の義務規定もない。こうした法的な整備がなされてない現状の中で、いじめ・パワハラの相談が非常に多く、法律と現状が乖離しているところが問題である。
・ 日頃受けている相談でも、感覚としては6~7割はパワハラの相談であり、紛争が深刻になってから来られる方が多く、例えば職場のいじめ・パワハラがあって、重篤なうつ病に罹患して休職し、その後休職期間満了で解雇や退職という問題が生じてくる。
・ 職場のいじめ・嫌がらせについて、現行法は定義がないが、労働側で問題を扱う弁護士なりの捉え方があり、職場のいじめは職場内における労働者の人格権、保護されるべきさまざまな権利利益の侵害の場面というように捉えて、セクハラやパワハラ、その他のいじめというのはその一つの種類だと考えている。
・ いじめ行為があったときに交渉でうまく解決できない場合の法的な手段としては、労働審判か通常の民事訴訟しかない。ところが、労働審判の場合は審理回数が原則3回と決まっており、その中で審理をしていくのは難しいし、裁判になれば、厳格な立証が求められ、その立証は非常に困難性を伴う。
・ 被害者からの請求権としては、慰謝料、うつ病など身体的な不調を訴えた場合の医療費・休業補償などの損害賠償の請求がある。人事権を行使して嫌がらせをした場合には、その配転・出向、降格などの命令の無効確認という法的な手段がある。いじめ行為があまりにも酷い場合、強要が酷い場合、続きそうな場合は差止めということもできる。不幸にして被害者が自殺された場合には遺族による損害賠償請求訴訟等もかなり起こってきている。
・ いじめ・パワハラの直接的な加害者が責任を負うことは当然であるが、この加害者が管理職や上司の場合には会社自身の行為とみなされ、会社と合わせて個人も被告になり得る。いじめ行為に加担していた同僚なども法的な責任を問われる。加害者ではなくても管理職がこのいじめを知っていて放置したような場合も使用者の職場いじめ防止義務の履行補助者として使用者の責任とみられ、場合によってはこの管理者自身も責任を問われることがある。相談者は、会社が放置していたということについて、納得できないという方が多いので、使用者責任を追及していくことがほとんどである。
・ 請求権の法的な根拠には、労働者の権利侵害の側面と使用者の義務違反という側面の2つの側面がある。法的根拠は憲法13条と労働契約法に明文があって、安全配慮義務(職場環境配慮義務)を規定している。また、労働者には良好な職場環境で働く権利があるので、これが雇用機会均等法11条にセクハラの場面では明文化されていて、この考え方を類推して、いじめの問題に広げて考えていくというようにしている。
また、最高裁の判決で認められている権利として、職場における自由な人間関係を形成する権利があり、地裁レベルでは、知識、経験、能力適性に相応しい処遇を受ける権利があると言われている。
・ 使用者の義務違反の場面では、労働契約法第5条の安全配慮義務違反の一環として、職場いじめ防止義務を最近の判例はようやく正面から認めるようになった。川崎市水道局事件のいじめ自殺の事案では使用者が取るべき具体的な措置として、いじめの制止、謝罪、直ちにいじめの事実の積極的な調査を行うこと、速やかな防止策、加害者関係者に対する適切な措置、労働者の配転等の措置を講じること、と判断している。
 報告義務について、骨髄バンクの一審判決で、職場のいじめとかハラスメントとか、職場の問題に対して責任を負う部署の者がそれを知っていたにもかかわらず報告もしなかったことは報告義務違反として責任を負う場合があるということを判示している。
 上司がいじめに荷担している場合や荷担していなくてもそれを放置しているような場合は、その上司は使用者の安全配慮義務の「履行補助者」と位置づけられて、その使用者自身が責任を問われるという判例がある。
・ いじめ行為の違法性判断で難しいのは、業務命令、指揮命令権の行使の一環としていじめ・嫌がらせ行為が疑われる場合、これをどう判断するのかということである。判断枠組みとしては、配転命令の場面の東亜ペイント事件の最高裁の判決を使って判断をしている。当該業務命令等が業務上の必要性に基づいているかどうか。外形上業務上の必要性があるように見えても、当該命令等が不当労働行為の目的とか退職強要の目的、社会的に見て不当な動機・目的に基づいてないかどうか。そしてその被害の実態が通常、労働者が甘受するべき程度を著しく超えている不利益かどうか等という点で判断していくことになろうかと思う。
・ いじめ・嫌がらせの立証の問題については、まず録音や写真、暴力行為があった場合は診断書の様に客観的な証拠があるかどうか確認し、言葉による侵害の場合は指示命令文書やメールを確認する。また、例えば机の配置等によって一人だけ隔離されているかどうかということや、相談者が取っているメモや日記、家族に相談されている場合もあるので家族の証言などを手がかりに立証の検討を進める。職場の周りの同僚からも聴き取りができればよいが、内部調査を実行しやすい労働組合と違って、弁護士がそれをやるのは難しく、協力したことが会社にばれると今度は自分が対象になるかもしれないと思う人もいるため、なかなか協力が得られない。
・ いじめの問題は企業内で解決されるのが望ましく、使用者には、職場いじめ・嫌がらせが会社の中にあること自体恥ずかしいことであり、労働者の人格権の侵害として許されないという意識を明確にもっていただきたい。職場いじめで法的に訴えられることやいじめによって自殺された方がいるということが表に出ると、会社経営にとっても全然いいことはなく、逆に職場いじめがなくなった部署、職場は環境がよくなって、成績が上がるようなことがあると思うので、それをまず明確に意識していただきたい。
・ 許されない行為類型等をパンフレットにして、全社員に教育や警告を行い、何よりも経営者の方針として、職場いじめは許さないという断固とした決意を表明して実行に移すことが大事だと思っている。できれば労使構成の中立的な「苦情処理委員会」と「苦情受付窓口」を設置して、公平・公正に運営し、苦情処理委員会の委員も適切な判断ができるための訓練を受けるということが重要である。加害者自身への教育、警告、処遇の変更や制裁も考えていただきたい。
・ 相談に来られるのはリストラ(退職)目的で嫌がらせをするケースが多く、会社の意思に基づいて行われているため、上司、人事部が関与していると、苦情処理受付の窓口や苦情処理委員会では適切に処理できないという難しい相談がかなりある。会社のほうは、一般的に、労働者の訴えより多少問題があっても売上げが上がる管理職を守るという傾向が強いと思われ、企業内で解決していくのは難しいと感じている。
・ 顧問をしているヤナセ労働組合に聴き取りを行ったところ、事件対策チームをつくって、各ステージ、レベルに応じて対応をして、解決に当たることで非常に実績が上がっているということであった。できれば個人、職場内でまず解決して、それが駄目なら支店、地区本部、そして最後に本社の執行委員長レベルが対応する。よい点は、職場内の調査証拠収集を労働組合が行うため、やりやすいということである。隠密裏に加害者にわからないように職場の雰囲気とか、加害者そして被害者の評判というのも聞くことができる。その中で本当に許されないいじめかどうか判断していく。ただし、重篤なうつ病など、精神疾患の事案はその組合だけで解決するのは非常に難しい。組織的な問題として、専従役員がいて、ある程度組織・人員がしっかりしていて、かつ労使に信頼されている労働組合であるということが条件だろうと思うが、そういう組合であればやってやれないことはないと思う。何らかの解決を見たあとに仕返しされる危険性があるため、アフターフォローをすることが大事だと思う。

○ 棗一郎氏の説明の後、以下のとおり質疑がなされた。
・ ヤナセ労働組合の事例について、いじめの対策チームは組合だけで構成されているのか、組合と会社で連携をとっているのかという旨の質問がなされた。
これに対し、対策チームは組合でつくっており、会社にも相談窓口があって連携は取っているが、基本的には会社ではなく組合が主体となって対応を行っている旨の回答がなされた。
・ パワハラに関して具体的にはどういう法整備が必要と考えているかという旨の質問がなされた。
これに対し、違法な職場いじめを防止する観点からしっかりと定義をして、できれば使用者には職場環境配慮義務の一環として、職場のいじめ防止義務があるということを明文化していただきたい旨の回答がなされた。
この回答に対し、労働契約法第5条は、それに対応する文章になっていると思うが、あえてさらに明文化が必要と判断した理由について質問がなされた。
これに対し、契約法の解釈で導き出すことも可能だとは思うが、明文化の効果は全然違い、例えば解雇権濫用法理でも、労働基準法第18条の2で明文化したときの影響が大きかったように、法律で書くということは行為規範としての意味と使用者やいじめを行う人に対する警告的な意味もあるため、明文化することによる効果は違うという旨の回答がなされた。
・ 企業ぐるみでいじめが行われている場合は、使用者の対応だけで解決するのは難しいと思うが、どういう対策が効果的だったかとの質問がなされた。
これに対し、組合も一緒になってやっているとどうしようもないが、人事・総務がちゃんと役割を果たしてないという相談を受けることが多いため、やはり労働組合側で解決していくのがベストだと思うという旨の回答がなされた。
・ 中小企業では組合がないところも多く、企業内で対応ができない場合、企業外の対策の整備をどうすべきかとの質問がなされた。
これに対し、組合のない中小企業等は労働局に相談に行っていると思われること、本当に解決するためには、行政的に何らかの紛争調整委員会みたいなものができるのであればよいが、それが労使の一致した共通認識、期待の下にできるための工夫が必要であると思うという旨の回答がなされた。
・ 裁判での立証は困難とのことだが、会社にしても組合にしてもあまり裁判の経験がない人が立証を行うため、より難しいと感じていると思うが、何かよい方法はないかとの質問がなされた。
これに対し、立証はやはり難しいものであり、ヤナセ労組の手法は、法律家の観点と違って、職場の雰囲気、加害者の上司、被害者の評価等を聞いて、いじめかどうか判断し、組合が会社の人事部を通さずに一度警告を与え、改善されない場合はよりレベルの高い措置をとるというものであるが、証拠収集の手順は、我々のように外部の者が行うと、内容証明を出してやるしかなくて、そうすると会社側の顧問弁護士さんが出てこられて、いじめが立証できるのかというやり取りになる。そこに行く前に、組合でいろいろな段階を踏んで対応できるということはメリットが大きいと思うという旨の回答がなされた。

○ 丸尾法律事務所弁護士丸尾拓養氏から提出資料について以下のとおり説明が行われた。
・ 感じていることとしては、パワハラの話といじめの話は違うのではないかということである。厚労省の労災認定では、「上司とのトラブルがあった」というものについて、平成21年だと134件中9件の認定に留まっており、平成22年度も187件中17件の認定と1割にも満たない。しかし、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」では平成22年だと42件中16件が認定され、平成22年度でも58件中39件が認定されている。この2つの類型には明らかな違いがある。単なるパワハラの問題と言われているものにも、「パワハラ」と「(ひどい)いじめ・嫌がらせ」とを区分して考えると、少し現場の感覚に近くなると思う。
・ 多様性については、上司に問題がある場合、上司と部下の双方に問題がある場合、部下だけに問題がある場合がある。使用者側の弁護士だからだと思われるかもしれないが、やはり先ほどお話しした労災の統計、労災申請されている数字をみても、実際はいろいろなものがあると思われ、精神疾患、特にパーソナリティー障害を含む精神疾患が関与している例が多いことは否めないと思う。そして、一時的にすぎない場合もあれば、継続的な場合もある。一時的な場合は、「あのときにああいうことを言った」という一言が、ずっとパワハラだ、いじめだと捉えられていて、普段はそうでもないという事案もある。
・ 多面性については、パワハラとセクハラとではベクトルが違うのではないかと思っている。同じハラスメントであっても、セクハラは会社としても徹底的に禁圧していくものである。しかし、パワハラのパワーというのは、上司としての権限であり、上司が嫌がられることは、ある意味やむを得ないのではないかと思う。セクハラが絶対的に禁圧されるべきものであることに対して、パワハラという言葉自体は、ベクトルは逆の方向を向いている。しかしながら、パワハラと言われているものの中でも、許されないものがあり、その例外的に許されないパワハラは何なのかということを理解する必要がある。
・ 特に申し上げたいのは「パワハラ」と騒ぐことによる萎縮効果であり、管理職が指揮権限を行使することを怖がって機能しなくなってきている。これは組織論からすると好ましい話ではないが、管理職研修などに出ると、管理職が部下からパワハラと騒がれることによって、部下をどう扱っていいかわからなくなり、指導・教育をする意識が欠け、何もできなくなるという状況になっていると感じる。
・ 方向性について、「パワハラ」と、「(ひどい)いじめ・嫌がらせ」とを、区分していただきたいと思う。パワハラ自体の定義論というのはあまり意味がなくて、むしろひどい嫌がらせがどういうものなのかを考えると、許されるパワハラと許されないパワハラがあるということになる。「厳しい指導の範疇を超えたパワハラ」は、中部電力の高裁判決の表現であるが、やはり裁判所も厳しい指導の延長線上に許されないパワハラがあるのではなく、別のものとして考えているものと理解している。中部電力の事件は、仕事ができないのは結婚指輪をしているからで、だから外せという事件であって、これは会社の立場からも非常にあり得ない話である。静岡の日研化学の事件では、給料泥棒と言った言葉自体が問題ではなく、発言がファミリーレストランで上司と部下という2人きりの所でなされ、会社がそれに気づかなかったことに対して、裁判所は厳しい指摘をしており、単に人格を傷つけるか否かという世界で裁判所は動いていないだろうと思っている。
・ 「企業の責任と取組」については、企業の立場からすると、法的責任がないから関係ないという発想は、おそらくどこの会社も持っていいない。むしろ法的責任の有無とは別に、従業員、特に若い部下との間でうまくいかないこと、あるいはせっかく採用した若い従業員がうまく育たないことについて、非常に懸念をしている。どこの会社も従業員を大事にしており、法的責任がなくても対処しなければならないという思いがある。
・ そこに「安全配慮義務」論、「(職場)環境配慮義務」論という発想で考え始めると、企業は思考がストップしてしまう。安全配慮義務、だから何をしなければいけない、というのがわからなくなってくる。おそらく裁判所は、こういうホワイトカラーの仕事についての安全配慮義務というのはあまり考えていないと思う。電通事件の判決では「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う」と言っており、最初の「従事する業務を定めて」というところが結構重要だと私は思っている。その上で「使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は」、これがいわゆるパワハラやいじめを行っている上司の人たちであるが、その人たちの「使用者の右注意義務の内容に従ってその権限を行使」、つまり上司としての権限の適正な行使というのを、実はこの最高裁は求めている。だからこそ、「各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定める」と書いてある。ここも、会社としての人事権、それから上司としての権限、これがまさにパワーであるが、その適正な行使のあり方が問われている。このように企業が考え始めて、現場の上司がそこを理解し始めてくると、かなり「じゃあ、どうすればいいんだな」というところが見えはじめてくる。
・ そういう意味で、「意義ある」管理職研修というのは、パワハラは許されないというだけの話になってくると、現場は受け入れられない。やはり現場では仕事のために部下を育てなければいけないので、上司の権限自体を否定される前提ではなく、逆に、そういう権限を行使する中で、「これだけをやっちゃ駄目だよ」という発想をするべきであり、そこが、おそらく「ひどい嫌がらせやいじめ」につながってくると思う。
・ いろいろ話を聞いていると、学校のいじめ世代が会社に入ってきて、それと同じようなことをやっているのではないのかなという感覚を持っている。そこで共通するのは、孤立とか無視とか、あるいは集団で行うということであり、職場の同僚が集団で一部をいじめるという事件もあって、こういうものは徹底的に、セクハラと同じように禁圧、排除しなければならない事案であると思う。
・ 「ハラスメント窓口の実態」は、実は会社の側はハラスメント窓口を設けて、それでメールなり何なりでいろいろ話を聞いている。大手になればなるほどやっているが、実際に窓口に来ているメールというのは、大体が問題社員の方が指導を受けて、それで耐え切れなくなってという事案が多い。真に救うべきハラスメント、いじめみたいな事案というのは、なかなかこの窓口では救いきれない。そのような事案は会社の中心部ではなく、外縁部のところで起きていて、クローズドな世界の中でいじめが行われていることが多いと思う。窓口を設けることも必要ではあるが、もっと上位上司や周囲の人が気づくためにどうするかと、企業の側は動きはじめているのが実態だと思う。企業は、真に声を上げられない人を真に救わなければいけないと思っている。早期発見と「逃げ場」を作ってやるということは、特にいじめや嫌がらせの事案であれば重要になってくる。見つけにくい現場の問題を上位上司が気づくための体制は、組織がフラットになることによって難しくなってくる。あるいは中間管理職が機能しないことによって気づかないこともある。どのように早期発見し、実際に見つかったときや日常的な指導の中で逃げ場を作っていくことが重要になってくると思う。
・ よく指導の限界とパワハラやいじめの関係の話が出てくるが、実際の職場において指導というのはそれほど行われていない。OJTと言われているとおり、仕事をさせることによって育てている。逆に、指導する場面というのは、部下のほうに問題があるケースが多く、それに反発して「いじめ」と言い出すケースもある。真面目に働いている多数の従業員が仕事をしやすい環境は、会社にとっても多くの従業員にとっても利益である。しかしながら、ある組織の中で適合しない人がいた場合に、そこを救い出すこと自体も会社の責務だと考えているし、会社もそこはしっかりやっているが、労働者の対応に戸惑っているところが結構あると思われる。
・ 最後に、こういうワーキング・グループが作られていて、会社の立場からすると、国がどういうふうに関与してくるのかというところは気になるところである。講ずべき措置等いろいろな考え方はあるが、セクハラとはちがって、パワハラには「許されるパワハラ」があるとも考えられるため、単純に「会社側がこうしなさい」という話をしても、受け入れにくいということを考慮した上で進めてもらいたい。

○ 丸尾拓養氏の説明の後、以下のとおり質疑がなされた。
・ 現場で起こるいじめに関する問題について、被害者の部下にのみ問題ある場合について、具体的な事例を教えてほしいという旨の質問がなされた。
これに対し、現場においては、会社に従順でない人やパフォーマンスが悪い人がいて、研修をまじめに受けずに宿題もやらず、成績も悪いという人もいて、上司が「がんばれ」と指導しても、それがパワハラと駆け込むケースも多い。もっとも、そういったケースについて、労働者に全部責任があるという趣旨ではなく、そういう人に対して会社がもっと上手に対応できればよいという思いがある旨の回答がなされた。
・ 窓口の話で、いじめはクローズドな世界で起こるため、上位者が気づくことが重要であると話されていたが、会社全体が気づきにくい雰囲気になっている場合に上位者が気づくためのよい方法はないかとの質問がなされた。
これに対し、管理職研修を徹底的にやると少し変わってくることもある。現在の会社の組織は、セクションごとの規模がどんどん狭くクローズドな状況になっており、そこを人事部門やハラスメントの部門や外部のところが気づくために介入していくということをやっている企業もある。上位上司は結構冷静に見ているところもあるため、表沙汰になることを未然に防げている事案もかなりあると思うという旨の回答がなされた。
・ 国の関与の仕方については、どのように関与するのが適切とお考えかとの質問がなされた。
これに対し、労災の関係の話では、保険原理としてどういう場合で機能するかという点で、厚労省は整理していると思うが、人事管理の面や私人間である上司と部下の関係の面に国が関与する場合に、啓蒙的なことだけでなく「こうしなさい、ああしなさい」ということになるのであれば、現場を萎縮させずに受け入れられるためには、慎重に検討したほうがよいと思う旨の回答がなされた。
・ いじめ、嫌がらせ問題について、法律上で定義するという考え方に対して、何か意見等あれば教えてほしいとの質問が出された。
これに対し、私人間、企業内、それから労災の保険原理の世界、あるいは労働基準のような事業主を対象とするか、というようにどの場面で規制するかで違いがある。一般的な私人間も対象に含めて、何かメッセージを出すのであれば、「これだけは駄目」とはっきりしたほうが、企業は受け入れやすい思う。学校のいじめのような無視、孤立という例が出てくると、企業的には、これはやってはいけないと思うし、従業員や上司も駄目なことであると受け入れやすいと思うという旨の回答がなされた。
・ パワハラとセクハラではベクトルが違うという考えについて、セクハラは男女のコミュニケーション全部を駄目としているわけではなく、セクハラというものをなくせということであり、パワハラもその管理が全部駄目と言っているわけではなくて、許されないパワハラをなくすということでは、基本的にベクトルは同じではないかとの質問がなされた。
これに対し、パワハラとセクハラの違いについて、性的なハラスメントは業務に関連するものではないから、すべての会社で受け入れられないということで禁圧という言葉まで使ったが、パワハラのパワーというものはそもそも上司の権限であり、上司が権限を行使することによって上下関係が出てくることは許されざるを得ない話であるため、ベクトルが違うのではないかと思う旨の回答がなされた。
・ パワハラと言うことによって萎縮するのは、許されるパワハラと許されないパワハラが区別されてないからであって、区別するためには、ある程度定義することが重要であると思うが、ご意見を伺いたいとの質問がなされた。
これに対し、定義の重要性はそのとおりだと思うが、おそらくそこが広い定義だと会社は受けにくくなり、逆に、ごく狭い定義だと、それ以外はどうなのかと会社は考える。もちろんそれ以外だったら何をしてもいいと開き直る会社はあり得ないが、その辺の現実的な機能の部分は重要であり、難しいところだと思う。少なくともこれまでの曖昧なパワハラの定義論の延長線上になされると、企業としては受け入れにくいと思うという旨の回答がなされた。
・ 厳しい指導の範疇を超えたかどうかという点について、中小企業、特に規模の小さい企業では、厳しい指導の範疇を超えているところもあると思うが、どういう方策をとっていくことによって問題をなくすことができると考えているかとの質問がなされた。
これに対し、解雇権濫用法理の適用のあり方について、そもそも長期雇用を前提としている大企業と中小企業では考え方が違うかもしれないので、小規模の企業の中で厳しい指導がどうあるべきかはいろいろ考え方があると思う。ただ、小さいところほど部下を大事にしているところもあり、そのコミュニティからはみ出してしまった者に対して厳しい指導の範疇を超えるということが起こりやすくなっていると思われるが、小さなコミュニティでお互いに拘束されている部分もあるので、勧善懲悪的に誰かが悪いという発想ではなく、国が啓蒙活動を行うことや企業、労働者が自助努力をしていく必要があると思われる旨の回答がなされた。
・ 上下関係だけではなくて、例えば、職場のフラットな関係の中で起こる問題に対して、企業のガバナンスとして何か講ずべきことはないかという点について考えを聞かせてほしいとの質問がなされた。
これに対し、学校のいじめの感覚で考えるとそういう問題もかなりあると思うし、昔から、特に同性間で口をきかないという職場も結構あるが、その中で何とか緩衝材的に中間管理職が機能して、それで何とか組織をうまく回すということが考えられるという旨の回答がなされた。

○ 東京ガス萩野氏と村田氏から提出資料について以下のとおり説明が行われた。
・ 東京ガスにおける元気の出る職場づくりの取組について説明する。「元気の出る職場づくり」がキーワードである。東京ガスグループの「私たちの行動基準」は、2004年4月1日から適用を開始しており、東京ガスグループで働くすべての従業員が共有する価値感に基づいて、指針である7つの約束を骨子としている。「私たちの行動基準」は個人レベルのもので、「経営理念」や「企業行動理念」実現のために、個人として取るべき行動の明確化を行っている。
具体的には7つの約束の4番目に、「私たちは、ともに働く仲間を大切にします」という項目がある。「人権の尊重」、「元気の出る職場づくり」の2つがキーワードである。「人権の尊重」の中では、「私たちは、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントなど、個人の尊厳を損なう行動を許しません。また、それらを見過ごすことも許しません」と謳っている。また、「元気の出る職場づくり」では「私たちは、一人ひとりが自らの能力を最大限に発揮でき、お互いの個性を尊重しあえる、活力あふれる職場を作ります」、「私たちは、一人ひとりが必要な情報を共有するとともに、自由に発言、議論できる、風通しの良い職場をつくります」の2つが主要な項目になっている。
・ 私どもの取組みで特徴的なのが人権啓発推進リーダーの養成である。これは1995年から開始しており、今年度で11期、164名のリーダーを養成している。毎月1回、1年間(12カ月)延べ12回の研修を受講して、リーダーに任命するという仕組みになっている。推進リーダーは「元気の出る職場づくり」実現のための各職場における推進役である。各自の職場において研修活動等、人権啓発活動を行い、職場で発生した諸問題の一次相談窓口の役割も担っている。
・ 研修プログラムとしては階層別研修を行っている。具体的には、新入社員・入社3年目・担当職1級昇格者・主幹職2級昇格者の、4つのカテゴリーで実施している。
・ 研修の進め方は、大きく2つあり、一つはいわゆる座学中心の講義研修である。日常事例をテーマにして、講師から受講者への質問による対話形式で研修を進める。
・ もう一つはいわゆる参画型の研修で、私どもはこちらを重視している。VTR、ケースワーク、新聞記事の活用、参加者提供の情報、これについては、職場で起きている実際の事柄を事前に出してもらい、それをベースにして、いま職場でどんなことが起こっているのか、どんなことが気になるのかということを話し合ってもらう。
・ コンプライアンス部は、コンプライアンス推進室とコミュニケーション支援室の2つの室で構成しており、それぞれの室に相談窓口がある。コンプライアンス推進室は企業倫理などコンプライアンスを中心にした問題を、コミュニケーション支援室は人権の問題を担当している。また、各職場、関係会社にも窓口がある体制になっている。相談件数はコミュニケーション支援室では昨年実績が51件であった。
・ コンプライアンス・アンケートも実施している。これは、コンプライアンス推進室が主催しており、コンプライアンス意識の定着状況やコンプライアンス活動の効果を見極めることを目標にしており、年に1回、関係会社等を含めて定期的なアンケート調査を実施している。約30問の設問があり、設問の中身に関しては、施策や意識、風土、行動に関する定点観測を行うと同時に、その都度、問題意識に応じたテーマ質問も行っている。昨年は回答率が約85%であった。
・ 新任管理者研修を人事部主催で実施している。「服務問題事例集」というイラスト中心の分かりやすい雑誌を作っており、これの読み合わせをしながら、パワハラ問題について理解を深めている。研修は年に3回ほど行い、1回につき約40人が受講する。
 また、「コンプライアンス事例集」を作成しており、行動基準の内容について、ケースワークとして具体的にどういうことが考えられるのかを示している。職場によっては、朝、1項目ずつ読み合わせをしているところもあり、研修の際にも使用される。
・ 研修プログラムについて、研修コースは、階層別研修と部門研修、外部講習等がある。階層別研修は、関係会社の方々も多く参加していおり、1日研修としている。部門研修は、職制や人権リーダーが講師になって研修を実施し、人権リーダーがいない所では、コミュニケーション支援室が出張研修を行っている。パワハラ、セクハラ、職場のコミュニケーションなど、職場の要望に従って、資料やビデオを用いながら行っているのがこの部門研修である。この他に、セクハラやパワハラについては、メンタルシックにつながる事が多いため、セルフケアができるように、ストレスマネジメント(自分がどういうところを気づいたらいいかという内容)に関する情報も、入社3年目・担当職1級・主幹職2級の研修には盛り込んでいる。それ以外には、こちらからケースワークを提供し、討論形式で、「自分はこう思うけど、他の人はどうか」という、気づきの場面を多く体験できる研修プログラムを取り入れている。
・ 相談窓口について、コンプライアンス部としては、コンプライアンス推進室とコミュニケーション支援室の両方で窓口を持っている。社内窓口は、コミュニケーション支援室では3名で担当している。外部の相談窓口も設けており、「行動基準」の携帯版やイントラネット、ポスター等で連絡先を周知している。匿名でも相談可能だが、職場背景がわからないと、言葉だけでパワハラとは言い切れないため、できるだけ面談することを相談者には推奨している。

○ 萩野氏と村田氏の説明の後、以下のとおり質疑がなされた。
・ 正式な窓口に相談がある場合と人権啓発推進リーダーが相談を受ける場合もあると思うが、役割分担はどうなっているか、全体的に相談件数が少ないと思われるが、相談件数として上がる前に解決しているのかという旨の質問がなされた。
これに対し、一番状況がわかるのは職場にいる人間なので、職場の対応で解決できる件数もかなりある。各部門の人事担当者や人権啓発推進リーダー、更には一部の関係会社の窓口も対応している。匿名の相談は難しいが、そうでない場合には相談者の了解が得られれば、事実確認をリーダー等にお願いする場合もあるし、逆に職場の問題について、リーダーから窓口に相談がある場合もあるという旨の回答がなされた。
・ リーダーの選定について、どういう人を対象に選んでいるか、研修の具体的な内容を教えてほしいとの質問がなされた。
 これに対し、リーダーの選任について、最初は職場の管理職の方を推薦してもらっていたが、現在は募集があると自分から手を挙げる方もいる。
 カリキュラムについては、同和問題をはじめとした人権問題を月1回の1日研修で1年間(12回)学んでもらうが、セクハラとパワハラについては比較的時間を割いており、自分が相談を受けるときに、どのように対応をしたらいいかという事を、事例研究はもちろんのこと、お互いにやってみて、どういう受止めがあるかということを検討する研修も取り入れている旨の回答がなされた。
・ パワハラといじめは区分されているか同じと考えているか、上司として厳しい指導の範疇とパワハラの境界をどう見ているのか、関係会社、支店、規模の小さいところの実態は、本社との差異があるかについて、研修の中身や経験則でもいいから教えてほしいとの質問がなされた。
これに対し、パワハラといじめについて特に区分けはしていないが、指導とパワハラをどう見るかはケースバイケースであり、線引きは明確にしているわけではない。上司と部下の関係性や叱り方、職場ごとのコミュニケーションの取り方も違うし、受ける側の認識も異なる。
・規模の問題は悩ましく、具体的な改善に向けた対応策を実施する時に、組織が大きいと人事異動等の対応も可能だが、小さい組織では、パワハラをしている人が自分の上司の場合、相談窓口等に話をすると自分が会社にいられなくなるのではないかと不安に思う人もいる。また関係会社、協力会社の場合、本社の窓口に直接相談がくることもあるが、別法人のため人事に関する権限がないので、対応が難しいという問題点があるという旨の回答がなされた。
・ いろいろな取組をされている中で、具体的によくなった面や効果としてどういうことが挙げられるかとの質問がなされた。
これに対し、一つの効果として、関係会社、協力会社からも研修を受けてもらっていることで、グループ会社のそれぞれの社員が、お互いを大切にしなければという意識が芽生え、以前よりも関係性がよくなったという効果があった。また、せっかく会社から1日離れて、人権問題やセクハラ、パワハラ問題の研修を受講しているのだから、「何か気づいて帰ろうよ」という意識づけをしており、そのときだけかもしれないが、人権やコミュニケーションに関する意識が高まるという意味で、例えば、挨拶運動などにつながる効果はあると思うとの回答がなされた。


<照会先>

労働基準局労働条件政策課賃金時間室
政策係: 03(5253)1111(内線5373)

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