2010年12月7日 第2回労災保険財政検討会 議事録

労働基準局労災補償部労災管理課労災保険財政数理室

日時

平成22年12月7日(水)10:00~11:30

場所

厚生労働省5号館19階共用第9会議室
(東京都千代田区霞ヶ関1-2-2)

出席者

参集者(五十音順、敬称略)
 岩村正彦(座長)、岡村国和、鈴木博司、長舟貴洋、山田篤裕

厚生労働省(事務局)
 尾澤労災補償部長、木暮労災管理課長、瀧原調査官、園田労災管理課長補佐、野地労災保険財政数理室長、白尾労災保険財政数理室長補佐
 

議題

  1. 労災保険財政の開示のあり方について(積立金)
  2. メリット労災保険率の算定方法について

議事録

○数理室長補佐 それでは、定刻となりましたので始めさせていただきます。早速ですが、注意事項を申し上げます。報道機関の方々におかれましては、冒頭のみの撮影となっておりますのでご了承ください。傍聴の方々につきましては、録音等も差し控えるようお願いいたします。部長におきましては、所用のため、11時を目処に退席する予定です。また、前回欠席いたしました職員をご紹介申し上げます。労災管理課長の木暮です。主計担当補佐の園田です。
○岩村座長 おはようございます。本日はお忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございます。ただいまから、「第2回労災保険財政検討会」を開催いたします。お手元の議事次第をご覧いただきますと、本日の議題は2つです。1つ目は「労災保険財政の開示のあり方について(積立金)」、2つ目は「メリット労災保険率の算定方法について」です。まず、「労災保険財政の開示のあり方について」から検討を始めます。資料等が用意されておりますので、事務局より説明をお願いいたします。
○数理室長 本年6月の「労災保険業務」の厚生労働省内事業仕分けにおきまして、「積立金の額が適正なのか、国民にわかりやすく説明すべき」との指摘を受けて、必要な積立金について難しい計算式はできる限り用いずに、簡単に計算の方法を理解してもらうための資料として、資料No.1-1から1-3を作成いたしました。資料No.1-1は頁番号1の1枚紙です。この1枚で計算方法などを大まかにご理解いただけるようになっております。冒頭の点線で囲った部分では、積立金は年金給付のための原資であることや、その必要額を毎年度計算していることを説明しております。その下の枠囲いの部分では、必要額の計算方法をごく簡単に説明しております。最初に、1として将来の各年度の年金受給者数を推計し、次に、2として将来の各年度について平均の年金給付額を推計します。3として、将来の各年度の年金受給者数と平均年金額を基にして各年度の給付額を推計します。最後に、4として各年度の給付総額を現在価値に換算します。
 資料No.1-2では、資料No.1-1に書かれていた内容をより詳しく、具体的に数字を入れて解説しております。1では必要な積立金の考え方について説明しており、2では大まかな計算の流れを説明しております。また、2の(1)は、この算定を行う際に前提とする事項をまとめており、(2)では算定の手順を少し詳しく説明しております。4頁にある(3)では、(2)の算定の手順で実際の計算を数値を引用して説明しております。
 9~14頁の資料No.1-3は、必要な積立金の算定の中でも特にわかりにくいと思われる残存表について、その見方や、残存表を使った年金受給者数の将来推計のやり方について補足的な解説をしております。図表を入れて、できるだけ具体的で分かりやすいものになるよう心がけたつもりです。以上3点について、忌憚のないご意見をいただきたいと思っております。
○岩村座長 ただいま資料No.1-1から1-3について説明していただきましたが、ご意見、ご質問があればお願いいたします。
○鈴木委員 このディスクローズの資料は、積立金の計算の合理性についてディスクローズされていて、わかりやすく示されているのだと思いますし、大変大事なことだとは思うのです。一方で、これは私がそう思っているということなのかもしれませんが、労災保険における積立金が、いわゆる必要十分なものなのかというときに、大事なポイントは2つあって、1つはこの積立金の計算方法が正しいということです。もう1つは、まさしく今日の資料にも書いてある通り、労災保険における年金給付の費用については、「労働災害に伴う補償責任は事故が発生した時点における事業主集団が負うべき」となっており、まさしくアンダーラインの引いてある所が、積立が必要だということの最大のポイントであると、前回の話を聞いていて理解をしたわけです。
 そうであるならば、そのことを数字としてディスクローズすることが非常にわかりやすいのではないかと思うのです。今日は前回の資料がファイルで用意されておりますが、前回の資料の5頁、資料No.2-2に「労災保険の経済概況」の数字が出ております。この数字は収支を表しておりますが、キャッシュフローというか、キャッシュベースの数字になっているのです。いま述べた年金給付についても、発生した時点の事業主が負うべきということをディスクローズしようと思うと、この支出の所に年金額ではなくて、発生した時点の原資相当額が出るような表があったほうがいいと思うのです。つまり、ここで言う収入で、保険料で賄うべきものは何か、この収入に対応する給付は何かと言うと、そのときに発生した年金原資だと言っているわけですから、そのことがわかるような数字のディスクローズというのがあった方がいいのではないかと思います。
 さらに敷衍して申し上げますと、この表では、収入として保険料収入額と利子収入が挙がっていますが、この間の話では利子収入は積み立てている年金の運用収入であるということですので、これは原資の方で収入として挙げる。ですから、こちらの方は保険料で賄うものという表が1つ、そして、それは発生した原資相当額であるということです。一方、年金の受給者だけの表がもう1つあって、年金の積立金が表の始めにあって、当年度発生した新たな受給者の原資相当額があって、その資金の運用に伴う利息の収入がある。支出としては年金の支払があって、年度末の年金の積立金がある。そのような形でディスクローズしたほうが、当年度の収入と支出が見合っているということが、よりわかりやすくなると思います。
 例えば、(前回の資料の5頁)資料No.2-2の表で言うと、下から3つ目に決算上の収支がありますが、あたかも当年度でこれだけの剰余が出るように見えてしまうわけです。そうではなくて、実はここの金額で当年度発生の原資を積み立てているわけです。この表はキャッシュベースの表として要るのでしょうが、ディスクローズとしてはそういった表がもう1つあったほうが、積立金が必要であること、いまの積立金で必要十分であることを、よりディスクローズしていると思います。
○岩村座長 その点について、事務局から今の段階で何かあればお願いいたします。
○数理室長 今のご指摘はごもっともではありますが、労災保険の収入・支出にしても、様々な要因の影響を受けております。鈴木委員のご指摘のようにやろうとすると、個々に分析して、年金なら年金の別のアカウントというか、勘定を計算してやることになると思うので検討させていただきたいと思います。ただ、検討には時間を要する内容ですので掲載するのは今回ご提示したものでと考えております。
○岩村座長 今の点について、他の先生方のご意見、ご質問があれば、まずそれを伺いたいと思います。特段、この点はよろしいでしょうか。資料No.1-1~1-3についてはよろしいですか。鈴木委員のご指摘については、近い将来の課題として考えていただければと思います。また、開示の作業は事務局が粛々と行うということでお願いしたいと思います。
 次に、議題2「メリット労災保険率の算定方法について」に入ります。まず、メリット制の概要についてですが、基礎的なことですので委員の皆様方にもご理解いただいた方がよろしいと思います。これも資料が用意されておりますので、事務局から説明をお願いいたします。
○数理室長 お手元の資料はNo.2-1から2-7です。まず、今回ご検討いただくことになった背景を簡単にご説明しますと、メリット制は昭和61年度に適用要件の大幅な見直しを行いましたが、それ以降大幅な見直しは行われておりません。昭和61年度以降、約25年の間に、全体的には、労働災害の発生は減少しておりますが、労働者の少ない中小の事業場において、労働災害が発生する割合が高い傾向にあることにあまり変わりがないという状況にあります。労働災害が労使の努力によって全体的に減少するに伴って、保険率についても低下しているわけですが、その結果、後ほど説明するメリット制の適用要件を満たさなくなる事業場が増えてくることから、メリット制の適用事業場数が昭和61年度当時と比べ、現在は4割ほど減少しているところです。
 こうした現状を踏まえ、仮に小規模事業場での労働災害の減少を図るためにメリット制を適用する事業場を増やした場合、労災保険財政にどの程度影響があるかということについて、数理的に検証を行う必要性が生じております。それについて資料No.2-1から2-7を使って簡単に説明いたします。まず、資料No.2-1のメリット制の制度についてです。労災保険の保険率は基本的に業種ごとに決まっておりますが、同じ業種の事業場であっても、設備や作業内容などによって、労働災害の発生状況にはどうしても差が出てきます。そこで、それぞれの事業場の災害発生状況に応じて保険料を割り引いたり、割り増したりする制度であるメリット制を設けているところです。割引や割増によって事業主の保険料負担の公平性が増すとともに、事業主の労災防止に向けた意欲が高まることが期待できるものと考えております。
 次に、2の「『継続事業』のメリット制」ですが、労災保険では事業場を、大きく、継続事業と有期事業の2種類に分けております。継続事業とは、いわゆる事務所、工場などで、有期事業とは、工事現場、林業の伐採現場など、期間を限ってやっている事業とご理解ください。「継続事業」について、2の(1)に適用要件が書かれております。労働者が100人以上いる事業場については、全部適用されております。労働者が20人以上99人以下の事業場については、2の下にある式を満たす場合のみ適用になります。具体的には、労働者数にその業種に定められた保険率を掛けて、0.4より大きい場合に適用されます。その下に計算例が書いてありますが、保険率が小さいほど、適用されるために必要な労働者数が多くなければならない、逆に保険率が高ければ、最低20人の労働者がいれば適用されることになります。
 15頁の2の(2)では、保険率の割引・割増を決めるための算式を説明しております。保険率の割引・割増は、過去3年間の給付実績と保険料の額の比を見て、給付額が少ないほど割引になるようになっております。この比のことを「収支率」と呼んでおります。この下の例によると、例えば、「めっき業」で収支率が10%以下の場合は最大の割引率になって、保険率は4割減になり、6/1000の保険率が3.84/1000まで割引になります。同じ「めっき業」で収支率が150%を超えた場合は、保険率は4割増になり、8.16/1000まで割増になります。(3)では収支率を計算する時期について簡単に図示しておりまして、平成22年度の保険率の割引・割増を計算する際に使われるデータは、平成18年度から20年度までの3か年となります。(4)は、収支率を計算する際に使われる給付額と保険料の額の計算において、若干の例外的な処理がありますのでこれについて書いておりますが、詳細は省略いたします。
 18頁の3の「有期事業」については、適用要件が継続事業とは違いまして、確定保険料などとなっております。保険料として確定した額が100万円以上という要件が1つ、それから、建設業であれば請負金額が1億2,000万円以上という要件が1つ、立木の伐採については、素材の生産量が1,000㎥以上という要件、以上の3つの要件のうち、どれかを満たすことが適用要件となっております。その他の収支率の計算等については、考え方は継続事業とほぼ同じですが、有期事業については各年度に計算するのではなくて、事業の最初から最後まで、給付については事業が終わってから3か月なり、9か月なりの状況を見て給付額を確定して計算するという点だけが異なっております。
 19頁の4は、メリット制に関してこの検討会で議論していただきたい課題を2点挙げております。1点目として、メリット制の適用対象の拡大です。先ほど説明したように、メリット制の適用対象は減少を続けており、最も多かった時期の半分ぐらいまで減っているところです。労災防止のインセンティブを付与する観点から、また事業場間の費用負担の公平性の観点から、現在、メリット制が適用されていない小規模な事業に適用すべきではないかという意見が一部に出ております。2点目として、メリット制の適用事業場の大半が割引になっているということです。後ほど統計で説明いたしますが、かなりの数の事業場が割引となっておりまして、試算によると、平成20年度の保険料はメリット制によって1,871億円ほど減少していると考えられます。これは全保険料収入の17%に相当する額です。
このように適用範囲を拡大すると、拡大する範囲によっては、保険料収入が大きく減少するおそれがあります。適用拡大に伴う保険料減少への1つの対応策としては、メリット制の適用対象を拡大する際に、適用対象となる事業場の割引なり割増の最大幅を小さくする方法も考えられるところでして、割引・割増幅を小さくすることで労災保険財政への影響を小さくすることもできます。また、適用拡大をする際には小規模の事業場に適用することになるわけですが、小規模事業場ではちょっとした労災事故への給付でも、メリット制によって保険率が-40%から+40%に跳ね上がることもあり得ます。これは経営に悪い影響を与えかねないと考えられますが、仮に割引・割増の幅を抑えるのであれば、その点は若干影響が緩和されるとも思えます。
 さらに、小規模事業場では労働者数が少ないので、労災防止に力を入れている、入れていないにかかわらず、一つひとつの事業場を見ると、労災の発生頻度は低くなります。一定期間に事故が発生しなくても、それがたまたまなのか、労災防止の結果なのかは判断が難しいところで、仮に、ある事業場で給付が少なかったとしても、保険料を40%割り引くことが妥当であるかということは議論があるところだと思います。そこで割引・割増の幅を小さくすることで、制度として受け入れられるということもあるのではないかとは思います。以上、この検討会での議論に関係する部分について重点的に説明いたしました。資料No.2-2はメリット制の全体像について分かりやすく解説しておりますが、説明は省略いたします。資料No.2-3にはメリット制の関係法令をまとめて付けておりますが、こちらも説明は省略いたします。
 資料No.2-4は先ほど説明した継続事業に関して、20人以上99人以下の規模の事業場においては、労働者数によってメリット制が適用される、されないという判断がなされますが、適用される最低の労働者数について業種別にわかりやすく一覧表にまとめたものです。資料No.2-5は、メリット制が制度として設けられて以来、これまでのメリット制の制度の改正の主な内容をまとめた表です。資料No.2-6はメリット適用事業場に適用される収支率と、それに対応する保険料の割引・割増を対照表にしたものです。資料No.2-7は、メリット制によって実際の保険料はどのように変わるかということを、計算例によって示したものです。説明は以上です。
○岩村座長 どうもありがとうございました。メリット制の適用状況についてご説明いただきましたので、これについてご質問等がありましたらお願いしたいと思います。
○山田委員 19頁の「今後の課題」で、事務局からご説明いただきましたが、メリット制拡大に関する論点の一種の叩き台みたいなものをおっしゃっていただいたと思います。1つは小規模事業への拡大、2つ目は小規模事業場に拡大した場合、何らかの形でメリット制によって増減する保険料率の幅を変える方法があるのではないか。そのほかについても何点かおっしゃっていただいたと思いますが、19頁には細かくは書かれていないようなので、もう一度お願いします。
○岩村座長 19頁の(2)で、メリット制拡大によって労災の財政への影響があるということをおっしゃっていて、その影響を小さくしようとすると、どういうことが論点として考えられるかを、先ほどおっしゃったので、それをもう一度ご説明いただきたいという趣旨だと思います。
○数理室長 基本的には同じことを、こういうメリットが何点かあるという形で申し上げたのです。(2)に関しては割引になる事業場がほとんどですから、適用拡大をしてしまうと、どうしても財政へのマイナスの影響が出てしまう。それを仮に拡大した場合に、マイナスの影響をどのように軽減できるかというと、考えられるのは、増減の幅を抑えましょうということです。
 ひとつには、中小事業主の経営への影響を軽減できるのではないか。中小事業場では、ちょっとした怪我で、今まで-40%だった所が+40%にすぐになってしまったりと、1件の事故でもそういう保険料の変動が起こってしまうことが考えられますが、そういったことも割引・割増の率を押さえることによって、影響が緩和できるのではないかということです。
 それから、小規模の事業場では、実際には労働者数が少ないので、災害が起こらないという所は結構多いわけです。ただ、それは一義的には労働者数が少ないことがかなり影響しているのであって、仮にある事業場で労働災害が起こらなかったということでも、それがたまたまなのか、災害防止の努力の結果なのかというのはよく分からない。
 逆に、労働災害が1件起こってしまったにしても、それが、とても努力していたが、たまたま起こってしまったことなのかというのもよく分からない。そういう中にあって、±40%という変動で保険率を変えてしまうことが、果たして妥当なのかということは議論があるところではないかと思います。そういったことでは割引・割増の幅を小さくすることが考えられます。このようなことが労災保険財政にどのような影響があるか検証が必要であるということです。
○岩村座長 今おっしゃったことについては、このあともう1回議論の時間を取りたいと思いますので、今ご質問いただいたことについてはそれでよろしいでしょうか。その他にありますか。
○鈴木委員 同じく19頁ですが、さらにメリット制を拡大すべきかどうかは、例えば対象の事業場がどんどん減ってきたからという数の問題で判断するのではなく、考え方の問題だという気がします。
 純粋に数字のことだけで伺いますと、例えば19頁の(2)で、メリット制が適用になっている企業のほうが多いので、差し引き1,871億円の減少になっていると書いてあります。ただ、そうであっても、1,871億円の減収になっていても、全体としては採算が合っているわけです。ですから、これは単に中心線の決め方だけの話であって、このことをもってメリット制が悪いということではないということですね。減少しているから良くないということではないということが1つです。
 中小企業のところを、メリット制をさらに基準を緩和することによって適用対象を増やすと、先ほどからおっしゃっているように、規模が小さい所では非常に変動が大きいということはそのとおりだと思います。1つ事故が起こると、経営に大きな影響を与えてしまう。変動は大きいのですが、一方で、中小企業というのはものすごく数が多いのです。ですから、個々の企業で見ると、非常に変動が多いのですが、全体で見れば大数の法則が働いて、収支は悪化するが見通せるのだという理解でいいのですか。
○岩村座長 ご質問は大きく2点だったと思います。
○数理室長 2点目につきましては大数の法則で見通せます。正確にはシステムでプログラムを組んで試算してみないと影響がどのぐらい出るかというのはなかなかわからないと思いますが、試算レベルではその影響の予測もできるでしょうし、1度導入してしまえば、それは大数の法則により大きな変化はないと考えられますので、長期的には十分制御というか予測可能な範囲になってくると考えます。
 1点目につきましては、確かにメリット制によって割引が多いのは悪いことだという評価ではないわけで、メリット制を、なぜ導入しているかというと、労災防止のインセンティブという面もあって、メリット制があることによって間接的にですが労災が減っているという効果があると思いますし、また、災害が減少したということは事実であるので、一概に保険料を割り引いているから悪いということはありません。ただ拡大すると、そこのところは財政に影響があるということだと思います。
○鈴木委員 財政に影響があるかどうかというところは、もちろん影響はある訳で、料率は変わるかもしれません。しかし、それは料率が変わるにしても、十分数字的に見通せるということであると。ですから、小規模事業場に拡大することによって、財政が非常に不安定になるということではないのですよね、という質問なのです。
○数理室長 小規模事業場まで拡大することによって、収入がどれだけ減少するか試算した上で、メリット制の制度設計を行うことが必要です。それは不安定になるほどのことはないと私は確信しています。もし、今、適用になっていない事業場全部にメリット制を適用してしまうと、不確定要素がそれだけ多くなってしまうので、そこまで一気に拡大してしまうとちょっと財政が不安定になるかもしれないので、そこまでは拡大したくない。拡大するにしてもある程度の幅で押さえたい。予測可能な範囲で、万が一のことがあっても、影響はそれほど大きくないというところで押さえたいという気持はあります。
○岩村座長 岡村委員と前にこの問題を議論したことがありまして、そのときもメリット制の適用の対象の拡大という議論をしたのです。そのときの1つの論点というか、考えなければいけないことは、メリット制の適用を拡大しても財政的に中立にしたいということを議論しました。
 そうすると、先ほど鈴木委員がおっしゃったように、実は業種別のデフォルトの保険料のところを動かすことによって最終的には財政中立を維持することになるのです。逆にいうと、実はメリット制の適用を拡大すると、メリットの恩恵を受ける事業場はほとんどが-40%の所に行ってしまう。しかし、メリットの適用のない所は財政中立を図るために、デフォルトの保険料分の料率が上がるということがあるので、それがいいのかという議論は以前の検討会でもしていたのです。
○鈴木委員 私がそういう質問をさせていただいたのは、むしろ財政の問題というよりも、思想の問題というか、考え方の問題という気が非常にしたからです。
○岩村座長 おっしゃるように財政の問題としては、財政中立にしないと、全体として財政が沈んでしまい、元の話に戻って積立金が足りなくなってしまうという方向に行ってしまうので、そうならないようにする必要があるとすると、メリットを拡大しても財政中立を維持しなくてはいけないという、そこから出てくる問題をどう考えますか、ということかと思います。
 既にご質問というよりは、議論に入ってしまっているものですから、この話に入ると実質的には議論に入りますので、ご質問も含めて、また少し議論させていただきたいということですので、適宜お願いできればと思います。
○山田委員 これを読み進めたあとで、また議論の時間ということになるのですか。
○岩村座長 資料の2までは説明していただいたのですね。
○数理室長 次は資料の3からです。
○岩村座長 資料の3まで説明していただいて、最後にまとめて全体を議論するほうがよさそうな気がしますので、そのようにお願いいたします。
○数理室長 それでは、資料No.3-1から3-18について、簡単にご説明したいと思います。まず、資料No.3-1は、労災の適用になっている事業場数とそこで働いている労働者数と、その年に新規に加入した事業場とそこで働く労働者数です。ここに工事現場なども入ってくるわけですが、事業場数と労働者数を業種別に一覧表にしたものです。
 資料No.3-2は、先ほどからメリット制の適用事業場数が減っているというお話をしましたが、実際の事業場数がどのように推移しているかを見たグラフで、一番上が継続事業で、平成6年、7年ぐらいをピークに最近はかなり減ってしまっています。この下の有期事業も減ってしまっています。一括有期事業は小さい工事現場などをまとめて労災保険を申告納付してもらっているものですが、これについても、最近は随分減っています。
 資料No.3-3は、先ほどはグラフでお示ししましたが、これは表になっていて、左側からメリット制を適用されている事業場数と労災保険を適用されている事業場数全数、そして両者の割算をした適用割合を継続事業、一括有期事業、有期事業の各項目に分けて、時系列で数字で見たものです。これを見ますと、適用割合でも最近は減ってきていることがお分かりいただけると思います。資料No.3-3は業種に分けていませんが、資料No.3-4は業種ごとに適用割合、適用事業場数等を見たもので、業種によって若干のばらつきがあります。その下の表は保険給付額と掛金の割算をした収支率の結果が、どのように分布しているのかを表しています。適用されている事業場の43.7%が収支率10%以下で、収支率10%以下ですと、最大の割引幅-40%が適用されます。そして収支率150%を超えるのが構成比では7.8%ですが、収支率150%を超えますと、割増の最大幅、4割増ということになります。82.3%の事業場で割引になっています。
 資料No.3-5は、建築事業を例にとって、建築事業における割引率の区分に従って、実際の事業場数がどのぐらいであるかをグラフにしたものです。全体の79%の事業場が4割引となっています。4割引の所でグラフが切れているので比較が難しいかと思いますが、そういう状況です。その後ろがその他の各種事業で、実際には79万事業場があって、労働者数1,750万人と非常に大きい業種区分になっていますが、ここでも4割引になっている事業場が56%になっています。資料No.3-7は、代表的な業種について、メリット制による保険率の割引・割増の状況を比較しやすいように帯グラフにして並べたものです。一番左端が4割引になっている所で、右端が4割増になっている所です。業種によってだいぶ差があることはお分かりいただけると思いますが、いずれにしても割引になっている所が大半だということは言えるかと思います。
 資料No.3-8は、全業種について割引・割増の事業場数を示したものです。資料No.3-9は、資料No.3-8を構成比に直したものです。資料No.3-10は、メリット制の増減率の区分別に構成比を見たものを時系列に並べたもので、平成3年頃から-40%が適用されている事業場が4割を超えるという状況が続いています。
 資料No.3-11は、±40%を適用されている、つまり、最大の割増・割引幅を適用されている事業場について、規模別にどうなっているかを見たグラフです。規模を表す指標として、このグラフでは、その事業場の賃金総額を使っています。賃金総額10億円未満が一番左端になりますが、これは規模にすると、250人とか300人ぐらいの労働者を抱える事業場に相当しますが、その逆の一番右端の100億円以上はその10倍で、大体2,500人とか3,000人という、かなり大手になってくるわけですが、この±40%を適用されている事業場について比べてみますと、+40%を適用されている事業場の約6割が、この中ではいちばん小さい規模区分である10億円未満の賃金総額の事業場で、大きい所では7%となっています。-40%を適用されている所については、10億円未満の中小事業場が21%まで減ってしまって、逆に100億円以上が32%に増えています。割引を適用されている所は大手企業が多くなるということがお分かりいただけるかと思います。
 資料No.3-12は、賃金総額100億円以上の事業場と、賃金総額10億円未満の事業場を取り出して、そのそれぞれがメリット制によってどれだけ割引・割増を受けているかについて円グラフにしたものです。100億円以上で見ますと、メリットで保険率を割り引かれている所が96.8%で、ほとんど割り引かれているわけです。賃金総額10億円未満で見ますと、大半が割り引かれているわけですが、それでもメリット制によって保険率を割り引かれている所は78.6%と、企業の規模によって若干差が出てきていることがわかるかと思います。
 その次は、今回私どもがお示しする試算の途中経過です。次回の検討会には業種ごとの保険率にどれだけ影響があり得るかを具体的に示して、ご議論の材料になればと思っています。この表の見方について簡単にご説明しますと、この表は継続事業について書かれたものです。先ほどメリット制の適用要件で説明した災害度係数と呼ばれる適用要件に使われる0.4という数字を小さくすると適用拡大できるのですが、適用拡大すると、どれだけ影響があるかを試算したものです。左端をご覧になると災害度係数0.35~0.4となっていますが、いま0.4である災害度係数を0.35にまで下げたとするとどういうことが起こるかを、例えば食料品製造業で見ますと、最低労働者数60と書いてありますが、災害度係数0.35ですと、最低労働者数が68人から60人にまで下がります。そうすることによってメリット制を適用される事業場が533増加します。その533の事業場が支払っている保険料額が5.5億円となります。以下、災害度係数を0.3にしたり0.25にしたりと、いくつかケースを分けて試算しているわけです。
 58頁の下に全部の産業の合計が書いてあります。例えば、表の真ん中ぐらいの災害度係数を0.2まで下げた場合について見ると、対象となる事業場が4万4,000余り増え、大体5割増ぐらいになり、その事業場が支払っている保険料が552.7億円です。これは保険料の総額なので、実際にはこれをメリット制により割引・割増をするので、これの10%なり20%なりの率が影響額になってくると考えていただければと思います。具体的にどの程度の影響になるかというのは次回ご説明いたします。
 只今ご説明したのは継続事業、つまり一般の事業場等ですが、資料No.3-14、15、16については有期事業等、ほかの種類の事業場に適用要件の緩和をしたら、どの程度の影響があるかを同様に試算したものになっています。
 資料No.3-17は、労災保険ということではなく、一般的に労働災害ということで、私ども厚生労働省に労働災害の統計がありますので、この統計からデータを参考に持ってきたものです。100万時間当たりどの程度労災が発生するかという度数率で、災害の重篤さではなくて発生件数です。これをご覧になると、大まかには時系列で見ると、労働災害は減ってきています。ただ、最近は少し減り方が緩やかになっているのかなという感じはありますが、長い目で見ると減ってきていると言えるかと思います。100人以上と100人より下の規模で比べますと、小さい事業場で相対的に労災が多いという状況は最近でも変わっていません。その隣は総合工事業となっていますが、あくまでも度数率なので、他の産業と比べて件数は少ないように見えますが、実際には災害の重篤さなどを考慮すると、総合工事業はもう少し違う数字になってきます。
 資料No.3-18は、労働災害の度数率、発生頻度を規模と産業のクロスで見たもので、若干のばらつきはありますが、規模はどの産業を見ても、概ね規模が大きくなるほど、災害が少なくなっていることがお分かりいただけるかと思います。説明は以上です。
○岩村座長 今適用事業数への影響と、メリット増減率の増減幅ということで資料の説明をいただきました。このうち適用事業数、事業場数への影響に関しては、先ほどの説明の中でメリット制度の適用を拡大したときに、その影響への試算の説明もいただきました。次回にこの具体的な財政への影響について、試算の結果を示していただけるということですね。
○数理室長 はい、その予定です。
○岩村座長 できましたら、全体の議論と併せて、試算の方法などについて、もしご意見、ご質問がありましたら、それも併せてお願いしたいと思います。いずれにしろ、論点としては適用事業場数への影響をどう見るかということと、メリット増減率の増減幅についてというのが、ここでの主たる論点だと思います。後者については、小規模事業場に適用拡大することにした場合には、増減幅を縮小して適用してはどうかという話もありましたので、その点も含めてご意見をいただければと思います。
○山田委員 ご説明ありがとうございます。この資料を拝見して感じたのは、やはり小規模事業場だと、非常に事故の発生率も高いということ、それは端的に割増保険料率を払っている小規模事業場の割合が大きいということからも明らかにされると思います。
 そうすると、1つの論点して、財政的な収支のバランスが挙げられましたが、もう1つは労働者とか小規模事業場にとって、果たして適用拡大というのがいいのかどうかということになると思います。特に小規模事業場だと、労災などに非常に気をつけたとしても発生した場合の影響が大きい。そういう場合に、経営にも大きな影響を与える。そうすると、果たしてメリット制を拡大したことが、メリットを受けることによって小規模事業場にも利益を拡大させるという意図でやっても、実質的にはもっと保険率が安定していれば良かったのに、保険率を増減させることによって新たなリスクを小規模事業場に負わせることになります。そうすると、財政的な収支以外にも、事故が発生したときにどのような影響が経営上、小規模事業場に発生するのかというところまで分析のようなものをしていただけると、先ほどの適用拡大においてメリット制の保険料率の増減幅をどう狭めるかという議論にもつながってくるように思います。
 もう1点、小規模事業場の労働者にとって気になるところは、小規模事業場だと労災を減らすことに熱心な経営者も多いと思いますが、一方で労働者数が少ないことから、労使関係いかんによっては労災隠しのインセンティブに気をつけなければいけない。そういったものの監視強化をどのようにやるのかもセットとして考えなければいけないと思います。
○岩村座長 後者の労災隠しの議論はこれもまた常にある話で、仮に小規模事業場に適用拡大という話になって、これを審議会の場で議論すると、必ず労災隠しの問題が出てくるので、そこをどう考えるかというのは、ご指摘のように非常に重要な問題だろうと思っています。そのほかにいかがですか。
○長舟委員 15頁に災害度係数という数字で0.4というのがありますが、0.4の意味がわかりにくいのですが、これは概念的には事故が発生する頻度を示す数字だと思います。0.4ではなくて、この集団当たり何人という事故発生人数に換算すると、何人ぐらい発生するということを表しているのでしょうか。
○数理室長 概ねですが、年1件ぐらいの労働災害が発生することに相当します。
○長舟委員 そうすると、ある集団で年に1件発生するときに、実績に応じて割増・割引を決める制度だということだと思いますが、先ほどご説明いただいたように、それがたまたま発生した1件なのか、あるいは努力が足りなくて発生した1件なのかというところが、年間1件という数字ではなかなか判断できないということだと思います。
 損害保険の中にも、こういうメリット制みたいなものがあって、そこでは保険の種類によっても違いますが、大体1,000名以上の所に適用するという制度があります。そうすると、年間1件ではなくて、もう少し多い。そうなってくると、確率的にというか統計的にというか、多少安定してきますので、その実績がたまたまなのか、努力が反映したのかは計りやすいという制度があります。ですから、純粋に確率的にというか統計的にいうと、本当は加入者数がもう少し多い所に適用することが望ましいというのがまずあります。
 ただその一方で、今度拡大しようという話があるということは、もっと人数の少ない所にやろうということで、先ほど山田委員がおっしゃったように、そのときに全体の財政は平均値を上げ下げすれば収まると思いますが、それぞれの事業者が、メリット制により労災保険率が大きくぶれることに納得しているかどうかにかかってくるのかと思います。
○岩村座長 事務局の方で、いまのご意見についてありますか。
○数理室長 確かに確率的にいうと、ポアソン分布で労災の発生率も含めて事故の発生確率などは近似できるわけです。純粋に理論的に言って、有意性を持つには人数が多いほうがいいですし、年に1件というのは、そういう意味ではやや少ないのかなというのはおっしゃるとおりだと思います。労災保険はメリット制については労災防止のインセンティブという意味合いもありますので、そういう観点から必ずしも「年1件」というメルクマールでは事業主の努力か否かを図るという統計的な安定性は多少弱くてもいいのかもしれないという気もします。
○岩村座長 言われたことに関係すると思いますが、純粋の民間の損害保険とはちょっと違って、労働安全衛生の観点から、労災をできるだけ防止するインセンティブを事業主に与えたいということから、そういう意味では逆にいうと、やや保険数理的なものを少し犠牲にしてメリット制を導入している。それによって事業主に労働災害防止の努力を促すという仕組みになっていると思います。そこのところが、見ていくと、先ほどご指摘があったように、統計的に見たときに本当にこれでいいのかということにつながってしまうのだろうと思います。
 もう1つは、これはあくまでも私の個人的な見方ですが、メリット制の拡大の要求というのは、前のときにもそうだったのですが、先ほど事務局の資料でご説明いただいたように、実態としてはメリット制が保険料の割引制度として受け止められているのです。ですから、そこから適用を拡大してくれという話が来ると私は個人的には理解しています。
 いま山田委員のご指摘にもありましたし、事務局、その他からもご説明がありましたように、小規模の事業場に適用拡大すると、確かに保険料は割引になるかもしれませんが、1件労災が発生すると途端に+40%まで行ってしまうということが起こるので、そういう意味で非常に経営の不安定要因を大きくさせるという点があるので、その辺をどこまでわかって議論しているのかということと、もちろんそれとは別にこちら側としてどこを考えるのかという論点があります。「1件労災が発生すれば+40%が適用されてしまいますよということをよく知った上でやってくださいね」という冷たい言い方もあるのですが、国の制度で、強制適用の保険ですから、もともとそういうリスクを含む仕組みをさっと導入してしまっていいのかというのを考える必要はどうしても出てくるでしょう。民間の場合ですと、そういう保険に入るか入らないかはそれぞれが決めればいいことですが、こちらは強制適用で要件を満たすと自動的に適用になってしまいますし、メリット制も要件に該当すれば自動的に適用になってしまうので、選択の余地がない。ですから、そういうリスクをはらむ仕組みを適用拡大してしまっていいのですかということは考えなければいけないと思います。
○岡村委員 基本的には、岩村座長が言われたとおりだと思います。小規模の企業というのは55頁に見られるように、実態としては労災が多いようです。労災が多い企業を、さらに小規模で拡大すると、最終的には-40%の優良な会社、あるいは大手の会社と、+40%の小規模の会社、あるいは事故が多い会社と二極化してしまう可能性があると思います。この二極化したうち、適用拡大に当たって調整幅を少し狭くするということで対応が考えられるという話でしたが、どこまで対応できるのかという疑問があります。例えば±30%としても、事故が1回起きると一挙に+30%になってしまう可能性の高い事業に対して拡大するわけですから、二極化してしまうのではないでしょうか。それを政策的な観点からどう判断するかということを伺いたいと思います。
労災保険は社会保険ですから、それなりの意味があります。その辺も含めて、将来の方向としてどうお考えなのでしょうか。それでもやはり拡大することの方に政策的効果があるという判断なのか、それとも事業場の数を増やすこと自体に、労災保険として適用対象を増やすことに意義があると捉えればよろしいのでしょうか。
○労災管理課長 これは実際にはメリット制がどのぐらい企業の行動に影響を与えるのかというのが定量的に分からないのでは、本当は言えないのかもしれませんが、我々としても政策的にこうだと、今の時点で決めているわけではありません。ただ、一応はメリット制の拡大という要望も常にあり、議論する必要があるという一般的なものと、昭和61年以来、適用要件を見直していないということ。そのつながりで継続事業を中心に考えたらいいのか、あるいは建設の有期事業のように、実際にかなりカバー率が下がってきているものを中心に考えたらいいのかというのもあります。
 例えば、有期事業であれば、インセンティブが働くという意味での拡大の意味が大きいが、継続事業はそうではないという結論が出ることも十分あり得ると思います。そこをまだ我々で決めているわけではないので、次回にさまざまな細かな業種別の試算をお出ししながら、どういうものがクリアされればメリットがうまく働くのかというところを、むしろ論点を出していただいて、あとは大まかにこういう業種であれば成り立つがここは無理だとか、有期事業なら多少は考える余地はあるが継続だったらかなり苦しいのではないかとか、そのようなことをある程度おっしゃっていただければいいのかとは思っています。
○岡村委員 そうしますと、適用対象を拡大することによって、労災の防止というか、メリット制を導入することによる事故防止のインセンティブが働く方向で拡大を期待すると解釈してよろしいということですか。
○労災管理課長 やはりそれはメリット制があることによって労災防止を頑張ろうということです。その影響を考える。だから、そこは財政への影響とレベルが違う話になるのだと思います。例えば、メリット制を強く意識しているのは継続事業よりも有期事業かもしれませんし、そういう意味では有期事業の方がより考えやすいのかもしれませんし、そういうことも含めて、どういう選択肢があり得るのかということをご議論いただいて、労使の意見も含めた政策的な判断は、様々な論点の中から最終的にはそういう場でご議論いただくということになろうかと思っています。
○岩村座長 そうすると、このように整理しておけばいいですか。少なくともメリット制というものについては、私の理解するところでは、とにかく事業主に対して労災を防止する努力を持たせる、そういうインセンティブを与える仕組みである。したがって、仮にメリット制の適用になる事業場数、事業者数を今よりも増やすということが持っている意味は、要するに、より多くの事業主に対して労災の防止のインセンティブを与えるという方向で検討をしてみたい。大きなところではそういう議論であると。それのいわばベースになるような、ある意味で技術的な点の検証をこの検討会で行っていくという理解でよろしいですね。
○労災管理課長 そのとおりです。
○岩村座長 あとはその検証を我々がやった上で、今度は例えば審議会などで労使などがそれをどのように受け止めて、最終的にどういう方向にもっていくかについては、むしろそういう審議会なりの政策決定の場でやりますということですね。ある意味で政策決定の場で議論の材料になるようないくつかのポイントと視点がこの検討会で提供できる、あるいはするということが期待されているという理解でよろしいですね。
○調査官 先ほどの岡村委員のお話にありました、政策的な面ではなくて数字的な話として、二極化の話をしていただいたのですが、完全に労災の多い事業場と少ない事業場という二極化を起こしているのか、それとも一定の割合でたまたま起きる事業場というのは常にある程度の割合で存在しているのかということがあると思います。1つの事業場が+40%に行くこともあるが、時期がきたら-40%へ戻るという形で、ただその時その時で見ると二極化をしているのか、それとも事故を多く発生させている+40%事業場と、起こさない事業場が固定されてしまっているのかというところは、数字では読み取れない部分があると思います。そういうことが起きたときに、もし本当に固定化しているのであれば、それはもちろん事業場の特質もあるかもしれませんが、企業努力の差が企業を2つに分けている。そうであれば、中小であろうと努力が少ない所は一定の高い保険料を払っていただくというのは理屈があると思いますが、そうではなくて、努力はしていてもたまたま災害が起きてしまう場合は、そのことを考慮する必要はあると思います。
 実は災害率が0.4という話が出たときに、1件という話が説明されましたが、1件を目安にしておけば、平均1件なのに0件になったら、それは努力したのだろうと見ることができるのですが、平均を0.9とか0.8とかにすると、0件起きたのは、平均より低いのか高いのか全く見分けがつかないので、一応1件にさせていただいたので、そこを目安にしていたのです。それを少し下げたときに、全く確率的にたまたまこちらに行ったのかそうではないのか、非常にわかりにくくなった。ただ、たまたま+40%に行ったのが何年か経ったら-40%のほうに戻れるということであれば、たぶん一時的に発生したときにはそれだけの負担を負ってもらう。しかし、長期的に見れば負担は小さくなるということであれば、一時的に負う負担率がどのぐらい高い所まで企業が負えるのかというのが1つの考え方なのかなと思います。そういう意味では、±40%を小さくしようというのはたまたま起きたときにどこまで負担するかというところの考え方なのかなと思います。そういう意味では政策的でもありますが、確率的なことでの考え方も少し議論していただければと思います。
○鈴木委員 感覚的なことを教えていただきたいのですが、今まさしくおっしゃった話で、最低の人数ぐらいのイメージで言いますと、確率的に言えば事故が1件も起こらない状態が普通でその年の給付はゼロになるわけです。そうすると、-40%のメリットが適用される。たまたまある年に、1件起こってしまうと、3年間の合計ということですから、1件起こると向こう3年間は+40%になる。つまり、いまの最低基準というのは、4割引から4割増に一挙に上がるというイメージですか。
○数理室長 まさにおっしゃるとおりですが、非常に大きい給付額だと、お支払いいただく保険料は、本当に40%の割引から40%の割増になります。場合によっては、ある年度に保険料が1.4倍程度に上がって、翌年度にちょっと下がるということも現象としてはあり得るのですが、基本的にはおっしゃるとおりです。
○鈴木委員 中小企業ではなかなか厳しいものがあるかもしれません。労災が1件起こると一挙に4割引から4割増に上がり、保険料負担が倍以上になるということですね。
○数理室長補佐 いま鈴木委員がおっしゃったことと、山田委員が先ほどシミュレーションがあるのかと言われたのですが、その件に関しては36頁に事例が出ております。保険料率が6/1000ということで労働者数20名という例で出ており、-40%ですと38.4万円で、+40%になると81.6万円になり、約40万円の開きがあります。
○岩村座長 イメージとして、一番上に行ってしまうというのは労災多発事業場ということで出ていて、これは大体3年の平均をとるのですが、どのぐらい労災が発生しているというイメージになっているのですか。20人だと、たぶん1人ですね。
○長舟委員 これは拡大の前の現状でも、まさにこういうことが起こっていると思いますが、それでご不満というか苦しいとか、そういう話は実際にあるのですか。それがあまりないのであれば、適用拡大してもあまりないのだろうということでしょうし、今回の適用拡大は現状より少し増やすぐらいだと思いますので、現状の問題というか状況がそのまま対象が増えるだけだという気がするのですが、いかがでしようか。
○数理室長補佐 現在、メリット制適用になっている事業場が、保険料率が下がることによってメリット制の適用がなくなり、ずっと-40%だったのに、割引がなくなってしまうというところから不満が生じています。例えば、84人いて84人が0.4の関係で96人にならなければならない。そうすると、労働者が変わらないのに、何故うちは割引率が適用にならないのか、という個別的な事案の不平・不満はあります。
○長舟委員 4割引が4割増になることについての不満はあまりないわけですね。
○数理室長 メリット制で4割増になってしまうということでは揉めるケースがあります。ケースによって違うのですが、うちの責任ではないのになぜ割増になるのだ、ということは見聞きします。
 先ほど申し上げたのは、平成21年に料率が下がりましたので、料率が下がった関係で適用対象外になる事業場が結構出てきてしまい、いままで4割引だったのが適用されないで、普通の料率で払わなければいけないという不満はあります。
○山田委員 そうしますと、36頁の算定例だと、それほど経営実態には大きな影響を与えるものではないという理解でよろしいわけですか。
○数理室長 たぶん大きいのだと思います。
○岩村座長 自分の責任ではないのにというのは、例えば明らかに労働者の過失によるのにというのも入っているのですか。
○数理室長 私が知っていているのは、例えば、交通事故に巻き込まれてしまう、第三者災害や他の職場で特定の疾病になったのに最終職場の事業主であるからとういう理由で労災保険を自分のところのものを使う例などです。
○岩村座長 じん肺だと最後のところに来るのですね。
○数理室長 そうですね。
○岩村座長 だからというのは確かにありますね。
○山田委員 繰り返しになりますが、適用事業場数が減ったことによる不公平感、若しくは料率の上がり方による不公平感からきているのか、それとも経営上、40%上がるのは困ると言っているのかというのは、メリット制の適用拡大をするときに見極めなくてはいけないところです。不公平感から言っているのであれば、説明の仕方の工夫もありますでしょう。一方で経営実態への影響については、事業規模が小規模になればなるほど大きくなる。今の割増率の幅では影響が大きくなり過ぎるというのであれば考えるべきポイントとなるのではないかと思います。
○岩村座長 もう一点よくわからないのは、+40%になるときに、隠してしまうケースもあり得るのです。だから、出てこないということも起こり得る。そこの実態把握はなかなか難しいかもしれませんね。
○数理室長 そこで割引・割増幅を押さえると、隠すインセンティブは若干減ってくるのかなという気がします。
○山田委員 本来は労災でやっていかなければいけない事例の摘発のような記録は残っているのですか。
○数理室長 労災隠しは昔からずっと問題になっていますので。
○山田委員 行政のいろいろな摘発のケースの記録があるのでしょうか。
○数理室長補佐 はい、ございます。
○岩村座長 そうしたら、皆さんお考えになる上で参考になると思いますので、次回にその資料も出していただけるとありがたいと思います。
 小規模事業場に関しての増減幅の話ですが、いま事務局で抱いているイメージは、ある業種について、全部事業場のサイズそのものを適用範囲を縮小するというのではなくて、例えば、いま100人と、20~100人となっていますが、もう少し別にする。例えば10~5人の所は、-40%から+40%ではなくて、例えば±20%の幅にするとか、そういうイメージを考えておられるのですか。
○数理室長 内部で確実に意思統一しているわけではありません。今考えているのは、先ほど来、財政の影響というのがありましたが、大きく拡大してしまうと、どうしても財政の影響がありますし、確実に見積れるところが曖昧性が高くなってきて、財政の不安定要因にもなりますので、その意味でも拡大幅の範囲はそれほど大きくしたくないという気持はあります。
 拡大するのであれば、普通は料率改定に合わせる感じになると思います。そうすると、次の料率改定が平成24年4月ですので、見直しを行うことのできる範囲は限られてきます。継続事業で言いますと、例えば0.4を0.3なり0.2なりに下げていく。その範囲で考えるのが現実的かと思います。
 もし拡大するのであれば、少し小さく始めてみて、効果が非常に大きいというのであれば、その先の拡大も考えることになるのかもしれませんが、拡大するのであれば、とりあえずはその辺で考えてみたいと思っています。
○岩村座長 そうすると、20~100人という所の適用になるかどうかの計算式のところを変えて、いまよりも多くの事業場が適用対象になるように持っていくと。そういう多くなった部分だけ、メリット増減幅を変えるのは難しいのですか。
○数理室長 法律的にはたぶん対応できると思いますが、そこは関係者の皆さんのお考えとか、いろいろあると思います。
○岩村座長 つまり、メリット幅の±40%のというのは、計算式でやって、ここから上のところはメリット幅±40%だけれども、そこから下になったときには±30%というやり方もあり得る、別にそうせよという話ではなく、議論の土台として、そういうことも想定されるのかどうかです。
○労災管理課長 規模別でメリットの上下の幅を変えるということはあり得ます。
○岩村座長 あとは規模別で変えないで、そもそもいま全部が±40%になっているのは、±30まで元に戻しましょうという考え方もあり得るということですね。
○長舟委員 それに関してですが、±40%を縮減するというときに、もともと±40%というのはそんなに確率的なものとは結びついていないとした場合に、政策的なことを考えたら、マイナスは40%だが、プラスは10%に押さえるとか、そういうことも考えとしてはあり得るのですか。次回いろいろアイディアがあるのかもしれませんが。
○数理室長 理屈の上では当然あり得ると思います。
○岩村座長 要するにいま何を議論しているかというと、ここでの議論の幅が実際にどのぐらいあるのかという話ですので、そういうものもあり得るということですか。
○労災管理課長 検討会ですので、あまり議論に制限を加えるつもりは事務局的にはありません。ただ、もちろん法令上の制約なり、いろいろなものがありますので、実際にできるかどうかは別のレベルの議論になりますが、柔軟に考えていただいて、アイディアを出してご議論いただくのが良いのではないかとは思います。
○岩村座長 先ほど事務局から話がありましたように、適用事業場数の影響については試算をしていただけるということですので、試算に当たってのご要望などがありましたら、個別で結構ですから事務局にお伝えいただいて、こういうものもやっていただけるとありがたいとか、こういう観点を入れてもらえるとありがたいということがあったら、早めにおっしゃっていただけるとありがたいと思いますので、それもお願いしたいと思います。
 そのほか、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは、本日の議事はここまでとさせていただきます。第3回の開催日時について、事務局からお願いします。
○数理室長補佐 第3回の検討会は、平成23年1月19日(水曜日)の午前10時からお願いいたします。場所については、後日ご連絡いたします。
○岩村座長 本日はどうもありがとうございました。これで終了させていただきます。

照会先

労働基準局労災補償部労災管理課労災保険財政数理室

(担当)室長補佐 白尾:03ー5253ー1111(内線5453)