2010年10月12日 第1回労災保険財政検討会 議事録

労働基準局労災補償部労災管理課労災保険財政数理室

日時

平成22年10月12日(火)13:00~15:00

場所

厚生労働省労働基準局第1会議室(中央合同庁舎5号館16階)
(東京都千代田区霞ヶ関1-2-2)

出席者

参集者(五十音順、敬称略)
 岩村正彦(座長)、岡村国和、鈴木博司、長舟貴洋、山田篤裕

厚生労働省(事務局)
 尾澤労災補償部長、瀧原調査官、野地労災保険財政数理室長

議題

(1)労災保険財政の現状について
(2)労災保険の積立金の意義及び積立金の算定方法について
(3)必要な積立金の算定で用いるパラメータについて  
  a 運用利回り(現価率)の設定について 
      b 賃金上昇率(スライド率)の設定について

議事録

○調査官 それでは、定刻になりましたので、ただいまから「第1回労災保険財政検討会」を開催させていただきます。委員の皆様方におかれましては、お忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。私は、事務局をしております労働基準局労災補償部労災管理課調査官の瀧原と申します。座長の選出までは、私の方で進行させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 なお、冒頭の写真撮影は以上までとさせていただきます。本検討会では、会議中の写真撮影、ビデオ撮影、録音等はご遠慮いただいておりますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
 それでは、まず労働基準局労災補償部長の尾澤よりご挨拶させていただきたいと思います。   
○労災補償部長 労災補償部長の尾澤でございます。本日、皆様方には大変お忙しいところ、労災保険財政検討会にお集まりいただきまして、ありがとうございます。
 労災保険制度は、既にご案内のとおり、労働者の業務上の負傷、疾病等に対しまして、公正に迅速に保護するという制度でございます。昭和22年に創設されまして、適用事業場数は、既に260万、適用労働者数は、5,000万人を越えています。労災保険の実績で見ますと、短期の給付としては、新規に療養補償、休業補償を受けられる方々がいま年間約53万人おられます。また、長期の給付としまして、労災年金を受給している方々が現在約23万人に及んでおります。こうした方々に対する保険給付の財政規模を見ますと、年間で約9,000億円程度です。年金を支給するための積立金は、約8兆円を保有しています。特に、この年金は、労働災害により不幸にして障害が残った方、また、ご遺族に対して、その生活を支えるということですので、将来にわたってその給付を確実にしていく必要があると考えております。
 現在の労災保険制度における年金給付は、既に年金給付を受けられている方、あるいは、年金給付を受けられることが決まっている方々に対して、その年金給付の原資を積立金として、責任準備金を保有しております。この原資は、事故が発生した業種の事業主集団の方々から、事故が発生した時点において、将来分も含めて納めていただいているものです。年金原資の保有の仕方につきましては、いろいろ考え方がございます。かつては賦課方式でやっておりましたが、平成元年度、いまから20年余り前に、現在の積立方式に改めました。その時点で、年金受給者の積立金が既に足りなかったということもありますので、その分を過去債務として、平成元年度から少しずつ償却してきました。現時点で約20年経っておりますが、それがやっと終わったところです。そうした意味で、年金の財政制度として目指していた姿がようやく実現したということで、1つの節目を迎えていると考えています。
また、労災保険財政は、そのような形で将来にわたっての積立金を保有していますが、その財政運営について考える場合、経済成長が鈍化している、産業構造が大きく変化している、デフレ状況にある、あるいは、金利の低下など、労災保険財政を取り巻く状況は大変に変化しているのが現状です。このようなことから、今後の労災保険財政の運営のあり方について、この時期に考えたいと思っているところでございます。
また、いま事業仕分けが幅広く行われておりますが、本年6月に、省内の「労災保険業務」の仕分けにおきまして、保有する積立金について、積立金の額が適正なのか、国民に分かりやすく説明すべきである、あるいは、積立金についてさらに多角的に検証すべきであると指摘されているところでございます。そうしたことから、この本検討会におきましては、労災保険財政の基本的な考え方、労災年金の将来推計等について、専門的な見地から、必要な積立金を推計するための賃金の上昇率、運用利回りなど、また、先ほど言いましたように、労災保険財政に対する国民の方々への説明責任をより良く果たす方策などについて、ご検討いただきたいと考えておるところでございます。
 この財政検討会の検討結果は、今後の労災保険の運営に活用したいと考えているところでございますので、皆様方には大変お忙しい中お集まりいただいておりますが、活発なご議論をお願い申し上げまして、冒頭の挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
○調査官 それでは、続きまして、参集者の皆様方のお名前を50音順にご紹介させていただきます。まずは、東京大学大学院法学政治学研究科教授でおられます岩村委員でございます。
○岩村委員 岩村でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○調査官 獨協大学経済学部教授でおられます岡村委員でございます。
○岡村委員 どうぞよろしくお願いいたします。
○調査官 日本生命保険相互会社法人営業企画部401k年金推進部長、並びに年金数理人でおられます鈴木委員でございます。
○鈴木委員 鈴木でございます。よろしくお願いします。
○調査官 東京海上日動火災保険株式会社個人商品業務部次長、並びにアクチュアリーでおられます長舟委員でございます。
○長舟委員 長舟です。よろしくお願いいたします。
○調査官 慶應義塾大学経済学部准教授でおられます山田委員でございます。
○山田委員 山田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○調査官 本検討会の開催に当たり、以上の5名の方々にご参集いただいております。続きまして、本検討会の事務局を紹介させていただきます。労災保険財政数理室長の野地でございます。なお、事務局といたしまして、労災管理課長の木暮、及び労災保険財政数理室長補佐の白尾が参加させていただきますが、本日は他の用務の関係で欠席させていただいております。時間が間に合うようであれば参りますが、そのときは、改めてご紹介させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、これから座長の選出に移りたいと思いますが、お手元にお配りしております配付資料をご覧いただきたいと思います。配付資料のNo.1-1、目次の次の頁です。「労災保険財政検討会開催要綱」の3に「検討会の運営」というのがあります。その(2)として、「本検討会には座長を置き、座長は議事を整理する」、(3)として、「座長は、参集者の互選により選出する」とさせていただいています。これに基づきまして、座長を選出いただきたいと思います。本検討会を開催するに当たりまして、事務局において、事前に委員の皆様方のご意見を伺いましたところ、平成16年度に開催しました「労災保険料率の設定に関する検討会」において、座長を務められております岩村委員にお願いしたらどうかというご意見をいただいていますが、皆さんのご意見はいかがでしょうか。
○各委員 (異議なし)           
○調査官 皆様、ご異議はないということで、本検討会の座長は岩村委員にお願いしたいと思います。では、以降の進行をよろしくお願いします。
○岩村座長 岩村でございます。皆様のご協力を得ながら、円滑な議事の進行に努めて参りたいと思います。どうぞよろしくお願いをいたします。
 それでは、これより検討会を始めることにしたいと思います。お手元に今日の議事次第があります。これに沿いつつ議事を進めたいと思います。まず、議題の(1)です。「労災保険財政の現状について」ということで、事務局の方で資料を用意していますので、それに基づきつつ、説明をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
○数理室長 座ったままで失礼させていただきます。労災保険制度につきまして、財政に関連する事項を中心としまして概要をご説明いたします。
 まず、4頁の資料No.2-1をご覧ください。「労災保険制度について」というタイトルの資料があります。この資料は、労災保険制度の意義や位置づけについてコンパクトにまとめたものになっています。ここにいろいろ書いてありますが、その内、4点ほど紹介させていただきます。
 第1に、労災保険は、ご案内のとおり、業務で病気をされた方や、負傷をされた方に対する保険給付などを行う制度です。それが初めのパラグラフに書いてあります。第2に、労働者の業務上の負傷や疾病について、使用者に過失がなくても療養費や療養期間中の所得補償をする義務を負うということが、労働基準法に定められています。強制的に適用される労災保険は、この義務を事業主に代わって果たす役割を持っています。それが第2、第3のパラグラフに書いてあります。第3に、保険料は、事業の種類ごとに、過去3年間の保険給付実績等を基にした費用の予想額を基礎に定められています。第4に、業種ごとの給付実績や個別の事業場ごとの給付実績で保険率が増減する制度となっています。つまり、労災を減らしますと保険料が低減します。これが事業主の労働災害防止の自主的努力を促進するインセンティブとして働いています。
 続きまして、5頁、資料No.2-2に移ります。こちらは、「労災保険経済概況」について表にまとめたものです。まず、この表の見方を説明します。いちばん上の行、1ですが、これは各年度の「収入」の合計額です。この収入の中で最も大きいのは、保険料となっています、その次が積立金の利子収入です。それぞれの額が計上されています。その下の2は、「支出」です。中でも最も大きいのは、保険給付費です。保険給付費の中に特別遺族給付金とありますが、これは石綿による健康被害によりお亡くなりになった方に支給する年金です。労災保険の遺族補償給付の場合は死亡から5年で時効になりますが、時効によって保険給付を請求できなくなった方々のために、特別に設けられた年金制度です。その下の社会復帰促進等事業費は、被災者に義肢や車いすなどを支給する事業、後遺障害に対するアフターケア、そして、労災保険を運営する事務費などの費用です。これらの収支を合計したものが、中程にあります「単年度収支過不足」です。
 次に3、4ですが、これは、ある年度に受給権が発生したものであっても、支給する時期が翌年度に回ってしまうものが一部ありまして、こういったもののために翌年度に繰り越す金額になっています。例えば、2月、3月分の年金は、翌年度の4月に支給しています。こういったお金を年度間で繰り越す制度になっています。したがいまして、例えば、平成17年度の「翌年度への繰越」に2,095億円と書いてありますが、これがそのまま平成18年度の「前年度より受入」という所に入ってきます。以上の収支を全部差引きしたものが、下の方にあります「決算上の収支」となります。
 その下に、「船員保険移換分」とありますが、これは船員保険という非常に長い歴史のある公的制度がありまして、その制度は、労災保険に相当する機能も持っていました。しかし、本年1月をもって船員保険の労災保険に相当する部分を労災保険に統合しました。それに伴い、船員保険の資産から983億円が労災保険に移換しました。それがこの表の中の983億円です。
 そして、その一番下に書いてあります「積立金累計額」というものが、いわゆる労災保険の積立金の額です。前年度の積立金累計額にその年度の決算上の収支を積み増した額が、その年度の積立金累計額になります。ですから、平成17年度の積立金累計額の7兆7,753億円に、平成18年度の決算上の収支475億円を足しますと、18年度の積立金累計額7兆8,229億円となります。後ほど説明しますが、この積立金は、労災保険の年金を受給している方々への今後の給付のために積み立てています。
 以上がこの表の見方ですが、この表の数字の中で、説明が必要な大きな動きをご紹介します。平成21年度に、保険料収納額が大きく減少しています。平成20年度に1兆898億円だったのが、21年度は8,419億円と減少しています。これは、主に、平成21年4月に実施しました保険率の改定で、保険率が平均で約2割下がったことによるものです。それから、平成21年度の収支の所に「△」が記されていますが、これはマイナスを意味しています。決算上の収支がマイナスということは、その分、年金受給者のために積み立てている積立金を取り崩すことになります。労災保険では、昭和40年から本格的に年金制度を導入しました。年金制度としては、成熟に近づきつつある一方で、労働災害が減少しています。したがいまして、新たに年金を受給される方が減少しています。これまでは、毎年度積立金が増加してきましたが、これからは、少しずつ取り崩していくことになると我々は考えています。
 続きまして6頁、資料No.2-3です。これは、先ほどの表の中で、保険給付費として挙がっていたものの内訳です。個々の制度の説明につきましては、参考に配付しましたリーフレットに分かりやすく書いてありますので、必要に応じ後ほどご参照ください。
 続きまして7頁、資料No.2-4です。「労災保険率設定の基本的考え方」という資料です。これは、我々が保険率を設定するときの基本的な考え方を解説しています。労災保険の保険率の設定方法につきましては、労働保険徴収法など、法律、政令、省令レベルできちんと書かれています。これらの規定の該当部分につきましては、次の頁にまとめてあります。こうした法令に書かれていることに加えまして、参考として配付しました「労災保険率の設定に関する基本方針」に、詳細なルールが書かれています。これらの規定に基づいて作成された保険率の原案は、労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会で検討され、決定されています。現在の保険率は最も高い業種で103/1000、最も低い業種では3/1000、全部の業種の平均で5.4/1000となっています。
 保険率を構成している要素を順に説明します。初めは、業務災害の短期給付分です。これには、医療費などを給付する療養補償給付、そして、休業時の所得を補償する休業補償給付などが含まれています。短期給付と呼んでいることからもお分かりいただけますように、これらの給付は通常、短期間で終了します。したがいまして、賦課方式で運営しています。この部分の保険率は、平均で2.4/1000となっています。
 次の長期給付分は、年金などです。年金は給付が長期間続きますが、もともとの労災事故の責任は、労災事故の発生時点の事業主集団が負うべきであります。こうした観点から、災害発生時のその業種の保険料から将来の給付に必要な分も含めて、年金給付に要する費用を全額徴収して積み立てる考え方で保険率を設定しています。これは積立方式の一種です。この部分の保険率は1.6/1000です。
 以上、ご説明しました短期給付と長期給付の保険率は、業種によって異なっています。その下の非業務災害分以下の各要素は、業種にかかわらず一律になっています。非業務災害分は、通勤災害と二次健康診断等給付です。この部分の保険率は0.6/1000となっています。社会復帰促進等事業及び事務の執行に要する費用分は、先ほど説明したとおり、被災者への義肢、車いすの支給や、後遺障害に付随する疾病の予防のアフターケア、労災保険を運営する事務費などの分です。この部分の保険率は1.1/1000になっています。最後の過去債務分は、積立金の過不足を調整する分ですが、現在は△0.3/1000となっています。
 続きまして、8頁は、先ほど申し上げました法令をまとめたものですので、説明は省略させていただきます。
 9頁です。こちらが、現在の業種別の保険率をまとめたものです。労災事故等の多い業種は高くなっていまして、逆に、少ない業種は低く設定されています。保険率は原則として3年に1回改定されていまして、現在の保険率は平成21年4月に改定されたものです。
 その次の頁が、保険率の推移を示したものです。この資料は、平均の保険率につきましてまとめています。先ほどご説明しましたように、保険率は原則として3年に一度改定していまして、平成に入ってから改定が行われたのは、元年度、4年度、7年度、10年度、13年度、15年度、18年度、21年度になります。改定時に見込んでいた平均の保険率が右側に書いてあります。そして、左側は平均保険率の実績値です。産業構造が毎年少しずつ変わるので、保険率を改定しない年度でも平均の保険率は少しずつ動いています。労災が減少していることなどによりまして、平均の保険率は減少を続けています。平成21年度には、元年度の約半分ぐらいまで低下しています。
 以上で説明を終わらせていただきます。
○岩村座長 ありがとうございました。ただいまご説明いただきました、労災保険の財政の現状について、ご質問あるいはご意見があればお願いします。いかがでしょうか。
 私から1点、確認です。細かい制度の話に入るのですが、資料No.2-3、6頁です。保険給付費ということで、上の段に療養(補償)給付などがあり、下の段に特別支給金というのがありますね。この特別支給金は、法令上は社会復帰促進事業等の中に入っていると思います。逆に言うと、資料No.2-2に出てくる「支出」の所の保険給付費の中には、特別支給金が入っているのか、入っていないのか、というのが1点です。それから、資料No.2-4の中で、労災保険率を構成する要素ということで、業務災害分という形で給付費の所の料率が出ていますが、この料率には特別支給金が入っているのかどうか、計算に当たって特別支給金を考慮しているのかどうか、ということを伺いたいと思います。
○数理室長 まず1点目ですが、資料No.2-2の保険給付費等の中には、特別支給金は入っています。例えば、平成21年度の決算見込8,614億円は、そのまま資料No.2-3の合計の所にきていまして、特別支給金も含めた合計額を計上しています。2点目のご質問に関しましては、料率の計算上は特別支給金も含めて計算し、この料率としています。
○岩村座長 ありがとうございました。そこは、料率の計算の上では、労災保険法上の位置づけとは一致していない所があるということですね。
 他にいかがでしょうか。よろしいでしょうか。もしまた何かありましたら、後ほどご質問などをいただくことにして、次の議題に移りたいと思います。
 次の議題は「労災保険の積立金の意義及び積立金の算定方法について」です。これについても事務局の方で資料を作っていただいていますので、(2)「積立金の意義及び計算方法」と議題3の(3)「積立金の算定で用いるパラメータについて」と併せて説明していただきたいと思います。
○数理室長 それでは、私からご説明いたします。まず資料No.3-1、11頁をご覧ください。この資料は、積立金の性格について説明しているものです。労災保険の年金受給者は、平成20年度末で22万人余りいます。この年金受給者の方々に支給している年金の原資として、積立金を保有しています。年金の支給は非常に長期にわたりますが、労働災害に伴う補償の責任は、事故が発生した時点における事業主集団が負うべきであるという考え方をとっています。したがって、労災保険では、年金給付に必要な費用は事故が発生した時点において、将来の給付に必要な分も含めてその業種の保険料収入から積み立てる仕組みとなっています。積立金として必要な額は、これからご説明する数理計算に基づいて、毎年度算定しています。この必要額を積立金として保有するように保険料を設定しています。したがって、積立金は使用用途が不明確な余剰金とは違います。積立金は年金として給付することが予定されている、いわば確定債務です。
 このように、年金給付に必要な額を事故発生時に積み立てておくメリットは、大きく2つあります。1つは、事故発生時に積み立てておかないと、衰退産業では年金受給者が減らない一方で、労働者が減少していき、その業種の保険料で給付が賄いきれなくなってきます。その結果、他の産業にしわ寄せがいくことになってしまいます。しかし、事故発生時に必要額を積み立てておけば、他の産業がしわ寄せを受けないで済みます。また、その逆に、積立方式をとらないと、成長産業では、年金受給者が少ない一方で、労働者が非常に多くなってくるので、一時的に年金の負担は軽くなります。産業が盛衰するスピードは早いものになっていますので、こうして積み立てていくことは、産業間の公平性を確保するためにも大切だと考えています。
 積立方式のもう1つのメリットとしては、現在の事業主が昔の労災で被災した年金受給者のための年金給付の責任を負わなくて済むことです。見方を変えますと、今年度の保険料は今年度の労災のために使われることになります。過去の労災への負担がありませんから、労災が減れば保険料負担が減少します。この仕組みには、事業主が労働災害を防止する努力を促す効果があります。したがって、労働者の保護にもつながっています。この資料の下の方には、積立金に関する部分の法律の規定を抜粋して掲載しています。特別会計に関する法律第103条第1項にあるように、積立金は、法律で使用用途を保険給付に限定しています。仮に、年金給付に必要な費用である積立金を他の目的で使ってしまうと、予定していた年金給付のために必要な費用を、再度保険料として徴収しなければならなくなります。いろいろな所で、保険料の二重取りという議論を目にしますが、もし労災でも流用してしまうと、保険料の二重取りになってしまいます。さらに、積立金を流用することは、年金受給者への給付の保証をなくすものですから、被災労働者の保護を弱めることにもなります。
 続きまして、12頁、資料No.3-2です。この図は積立金と給付の関係をイメージ図にしたものです。右上のほうに「=」で結ばれた2つの図形がありまして、「=」の左側にある縦長の棒は、ある年度に年金の受給を開始した方々のために積み立てられた全額を表しています。積み立てる原資はその年度の保険料です。この積立金と積立金の運用収入とで、その年度に年金の受給を開始した全員に年金を支払っていきます。この棒の高さは金額を表しています。「=」の右側にある図形は、左側の縦長の棒で表した積立金から実際に支払われる年金額の推移を表しています。高さは、それぞれの時の年金の合計支給金額を表していて、横は時間の経過を表しています。左端が年金の受給を開始した年で、右にいくほど年数が経過した姿になります。初めは受給者が多いので、全体の給付額は多くなっていますが、受給者が段々減っていくので、給付額は減っていきます。この「=」の両側の合計金額が等しくなるように制度を設計しています。この図は、ある年度に年金の受給を開始した人たちについて見たものですが、実際には毎年度同じように、その年度に年金の受給を開始した方々の積立金が足されていく感じになっています。左下にある大きな図形は、「=」の両側の図形を時期的に重ねてみたものです。
 続きまして、13頁、資料No.3-3の説明です。ここまでは積立金の考え方について説明しましたが、この資料では、「必要な積立金」の額を計算する方法についてご説明しています。我々は、将来の年金給付に必要な積立金の額を毎年度末時点で計算しています。この計算の結果である、必要な積立金の額は、厚生労働省のホームページなどで公開しています。
 これからこの計算の方法について説明します。計算は大きく3段階に分かれています。まず第1段階は、将来の各年度の年金受給者数の推計です。毎年度、新たに年金の受給を開始する方がいますが、ここで推計するのは、既に年金を受給されている方のうち、将来の各年度に引き続き受給されている方です。我々は「残存数」と呼んでいます。例えば、平成20年度末の必要な積立金の計算では、平成21年度以降に年金の受給を開始する人の分は考えません。平成20年度末に年金を受給していた人たちだけを見て、年金受給者数がどのように推移するかを推計します。第2段階は、将来の各年度について、第1段階で推計された方々に対して給付する年金の額の推計です。第3段階は、第2段階で得た給付額をすべて合計します。なお、第1段階、第2段階の推計は、年金を7つの種類に分けて、別々に計算して、最後に合算します。
 これから計算方法について詳しく説明します。まず、第1段階の、将来の各年度の年金受給者数の推計について説明します。36頁をご覧ください。これは、我々が「残存表」と呼んでいる表です。この表は、障害年金の4~7級を受給している方の将来推計に使用しているものです。生命保険などで同様な表を使用していますので、保険数理とか生命表をご存じの方ならば、この表についてすぐわかるかと思います。
 簡単に見方を説明します。まず、左端にある残存数です。あるとき、一斉に10万人が年金の受給を開始したとします。「経過年数0」の残存数の所に「100,000」とあるのが初めの10万人です。ちょうど1年後、引き続き年金を受給されている方は98,973人で、それが「経過年数1」にある「98,973」です。2年後、すなわち、年金受給開始からちょうど2年経ったときは、「経過年数2」に97,945人とあります。以後、徐々に年金受給者が減少していきます。
 この表自体は、これまでの労災年金の受給者の記録などを基にして作成しています。「残存数」は10万人が同時に年金の受給を開始した場合を表わす表です。しかし、実際は一斉に年金を受給するわけではなくて、開始する時期は、例えば年度でいくと、4月から翌年3月までの1年間に満遍なく分かれていきます。そこで、10万人が時期的な片寄りなく、1年間均等に年金の受給を開始する場合を考えることになります。その場合、初年度の年度末には、年度の初めから受給を開始した人は、既にほぼ1年間受給しているわけですが、年度末に受給を開始した人は、ほとんど受給期間がありません。こういった、いろいろな人たちが混じっています。したがって、その年度で受給した方々の全体で見ると、年度末時点で大体半年ぐらい経っていると考えることができます。
 左側の残存数を見ると、10万人が1年間で98,973人にまで減少しますから、98,973人までのちょうど半分、10万人と98,973人の平均を使います。半年間でこれぐらいの人数まで減少するだろうと考えまして、10万人と98,973人の平均をとった99,487人が年度末時点の残存者数と考えます。10万人の方々がその年度に年金の受給を開始したとき、年度末時点で残っている方が99,487人ということです。これが「経過年数1」の「定常残存数」です。この99,487人が1年後にどうなるか。要するに、受給開始後2年度目の年度末に、何人受給しているかといいますと、この表の「経過年数2」の所を見ていただくと、98,459人とあります。定常残存数とは、このように年金の支給開始時期がバラバラな集団の年度末時点の残存者数の状況を表わす表です。
 残存表の見方の説明は以上にして、残存表を使用した年金受給者数の将来推計方法をご説明します。年金受給者の将来推計には、定常残存数の方を使います。例えば、平成20年度に年金の受給を開始した人が平成20年度末に100人いたとします。この人たちが1年後の平成21年度末に引き続き年金を受給している確率は、経過年数1年と2年の定常残存数を使うとわかります。1年目の99,487人が2年度目末に98,459人になる。ですから、この2つを割り算すると、1年度目末から2年度目末まで残存する確率が出てきます。それを割り算すると0.9897になります。例えば、平成20年度末に1年目の人が100人いたとしたら、平成21年度末には98.97人が残存している計算になります。
 同様に、平成20年度末の100人が10年後の平成30年度末にどれだけ残存しているかを計算するために、経過年数1年の定常残存数で経過年数11年の定常残存数を割り算をすると、1年目の年度末にいた人たちが11年目の年度末まで残存している確率が算出できます。その確率を計算すると0.8945になりますので、平成20年度末に1年目の人が100人いたら、平成30年度末には89.45人が受給者として残存しているという推計ができます。
 このようなやり方で、将来の各年度について年金受給者数を推計しています。それが16頁の表になります。この資料では、平成20年度末に4~7級のいずれかの障害補償年金を受給されていた方々について、平成21年度以降の各年度の残存者数がどのくらいかを推計しています。表中で「裁定年度」という言葉を使っていますが、これは年金の受給権を得た年度のことで、裁定年度ごとに分けて計算します。右側の数字が各年度末時点の合計残存者数です。なお、先ほども申し上げましたが、平成21年度以降に新たに年金を受給される方は人数に入れていません。ですから、この推計では人数が減るだけで、決して増えることはありません。下の方に、平成20年度における年金の平均単価を記載しています。このすぐ後の説明で、障害年金4~7級の労災保険の平均単価151万1,405円を使うことになります。
 続きまして、15頁の資料です。この資料では、16頁で計算した各年度の残存者数と平均年金額を使って、平成21年度以降の各年度の給付額を推計する方法を説明しています。表の左端にある「年度末年金受給者」は、16頁の資料のとおりに計算した各年度末時点の年金受給者数です。その隣にある「年央値年金受給者」は年度末受給者数から計算しています。例えば、平成20年度末と平成21年度末の年金受給者数の平均を平成21年度の年央値年金受給者数としています。年度末同士の平均が、ちょうど年度間の中間時点の人数であると考えています。
 その隣にある、Bの「年金単価」では将来の各年度の平均年金単価を計算しています。労災保険では毎年度、前年度の賃金の増減に合わせて年金額をスライドさせています。ここでは平成20年度の平均年金額を基本としています。毎年度1%ずつ、平均の年金単価が増加するものとして、将来の年金単価を計算しています。平成21年度は平成20年度の単価を1%増して、1.01倍しています。平成22年度は、平成20年度から見ると1.0201倍ですが、実際は平成21年度の単価を1.01倍しています。各前年の単価を1%ずつ増していく計算の方法です。
 その右側に「1/運用利回りの累積」とありますが、これは割引率と呼ばれているものです。簡単に説明しますと、現在の資金があって、それを2%で運用する場合を考えて、P年間運用するとします。それが給付額となるとすると、資金額に1.02をP回掛けると給付額となります。この関係から、1/(1.02)^Pが給付のために必要な現在の資金額を計算する割引率になります。それが、この表のCの部分、「1/運用利回りの累積」と書かれています。この関係式を使うと、将来の給付のために必要な金額が計算できます。なお、給付を開始する年度には運用できませんので、平成21年度給付分の計算に当たっては、運用利回りを考慮しない1.00を入れています。同様に、平成22年度給付分につきましては、平成22年度には運用できず、平成21年度内しか運用できないので、1年分の運用となります。こうして、将来の給付のために、現在積み立てておくべき金額は右端の「給付費用」の所に書かれていて、これはA、B、Cを掛け合わせた金額になります。右端の一番下にある、2兆1,294億5,100万円が、障害補償年金4~7級の年金受給者の方々に対して必要な積立金の額です。
 このように計算して、給付のために必要な費用をまとめたものが14頁にあり、上の表が必要な積立金額を計算した結果で、下の表が、該当する各年金を受給する方々の人数です。只今、ご説明した計算方法につきまして、文書の形でまとめたものを17~27頁につけています。
 28頁をご覧ください。この資料は積立金に関係ある指標を1つの表にまとめたものです。表の左側から順に説明しますと、左の2つ、「決算上の収支」と「積立金累計額」は5頁にある資料No.2-2と同じものです。前年度末の積立金累計額に、その年度の決算上の収支を加えると、その年度末の積立金累計額になるという関係があります。
 その右側にある「必要な積立金額」は、只今、計算方法を説明した、将来の年金給付のために必要な積立金額です。その隣の「充足率」は、積立金の累積額と必要な積立金額の関係を表していまして、積立金の累計額が必要な積立金の何%を満たしているかを、「積立金の累計額÷必要な積立金額」で計算しています。平成元年度の頃は21%ぐらいしかなかったものが、最近ではほぼ100%に近づいています。その隣の「運用利回り」は、積立金を運用した実績の運用利回りです。積立金の運用は、財政融資資金に預託して運用することが法律で決まっています。実際の金利は、31頁のとおり、当然、期間が短いほど利率が低く、期間が長いほど高くなっています。積立金は、できるだけ高い利回りで運用する方針ですから、20年の約定金利で運用しているものがほとんどです。ですから、いまでいうと1.8%ぐらいです
 28頁の説明に戻ります。ここに「現価率」というのがあって、先ほどの説明では2%というのを使っていたのですが、必要な積立金を計算する際に使う運用利回りのことです。この表で見ると、平成元年度の頃は5.5%で、最近は2.0%前後です。
 次の「賃金上昇率」として、この表に掲げているのが、毎月勤労統計調査の「きまって支給する給与」の対前年度比です。簡単にいうと、「きまって支給する給与」とはボーナスを除いた給与になります。
 その隣に、「年金スライド平均改定率」とありますが、これは労災年金の改定率です。労災年金は毎年度8月支給分から改定していまして、毎年度の毎月勤労統計調査のきまって支給する給与の上昇率を基準として改定率を定めています。したがって、隣の欄の賃金上昇率が1年遅れて年金スライド平均改定率に反映されています。
 最後に、一番右側は「年金受給者」数で、毎年度末時点の労災年金を受給されている方の人数です。
 続きまして、29頁です。昭和40年に本格的に年金制度を導入して以来、年金受給者は増えていますが、これは平成元年度以降の数字をまとめたものです。徐々に増加幅が縮小していて、平成20年度には、初めて前年度よりも減少しています。ただし、今年1月に船員保険の労災部門を統合しましたので、船員保険の年金受給者約1万人が労災保険の年金に加わっています。その関係で、合計すれば増えますが、従来の労災保険の年金受給者だけを見ると減少しています。なお、この表では、船員保険の年金受給者を平成20年度末に書いていますが、平成20年度末では船員保険はまだ統合されていない状況でした。しかし、統合自体は決まっていたので、船員保険も参考に書いてあります。この表でさらに1点だけご説明しますと、遺族補償年金の受給者が全体の年金受給者の約半分を占めております。その次に多いのが障害補償年金の受給者です。
 次の頁は新規年金受給者です。先ほどの頁は全体の受給者でしたが、こちらの30頁は新規に受給された方々です。この表の中には入っていませんが、実は1980年代の半ばまでは、毎年度、1万人を超える方が新規の年金受給者となっておりました。最近では、年間、大体6,000~7,000人となっています。労災事故が大きく減ってきている現状が反映されているものと思います。以上、少し長くなりましたが、これで説明を終わります。
○岩村座長 どうもありがとうございました。中身が大きく2つありまして、積立金の意義と計算方法、さらに積立金の算定で用いるパラメータというようなことになっております。そこで、議論を少し整理するという意味で、まず最初に、議題(2)から始めたいと思います。議題(2)の中身も、さらに「積立金の意義」と「積立金の計算方法」となりますので、それを分けて議論したいと思います。
 最初が「積立金の意義」についてになります。いまご説明いただいたように、労災保険の積立金は、現在の年金受給者に対する年金給付の原資であるということで、事故が発生した時点における事業主の集団から、将来分も含めてその年度に全額徴収する、そういう考え方に立って設計がされています。先ほど話がありましたように、現在、約8兆円の積立てがあるということです。こうした積立金のあり方というか、財政方式について、ご質問、あるいはご意見を頂戴できればと思います。
○山田委員 これは、むしろ法制度に精通した座長に是非ともお伺いしたいのです。要するに、積立金かどうかというのは、1つの財政方式の選択であって、その前にそういった財政方式を選ぶための目的があると思います。この労災保険の積立金を持っている方式というのは、労災事故を起こした事業主集団が当該年度にその責任を負うべきであるという、つまり、労災事故を起こした事業主集団が廃業などによって縮小していった場合に、ほかの事業主集団へのしわ寄せを避けるために、当該年度に積立金を積み立ててしまうという、その目的のための手段としてこうした積立方式をとっていると理解してよろしいのかどうか。要するに、もっと言えば、世代間の助け合いという考え方から、賦課方式を採用している老齢年金制度とは目的が全く違うから、それに応じて手段も異なって、労災保険では積立金をこのように持っている、そういう理解でよろしいのかどうかということです。
○岩村座長 私もどこまで説明できるかというのはありますが、少なくとも私の理解では、先ほど事務局からもご説明がありましたように、当初からこの方式でやっていたわけではないのですね。長らく、年金と同じように賦課方式でやっていたのですが、とりわけ大規模災害を起こしていて多数の年金受給者を発生させていた鉱工業が日本にはなくなってしまった。そうすると、年金受給者だけが残って、賦課方式でやっていると、今や炭鉱業や鉱工業の恩恵を受けるような産業でないところも、結局、それを後代にわたって負担しなくてはいけない形になった。というのが、たぶん財政方式を賦課方式から積立方式というような形に変えた理由ではないかと思います。そして、特に産業構造の変化とか、そういったものにあまり左右されないような形で、確実に年金が支給できるようにということでしょう。そういう意味では、財政状況を、特に労災という事故の特質にうまく対応させつつ、将来にわたって被災者に対して安定した年金を提供する、そういう目的から今のような手段が選ばれていると私は理解しています。今のでいいのでしょうか。経緯としてはたぶんこうしたことでしょう。ただ残念ながら、私は平成元年のころは、まだ労災保険審議会の委員ではなかったので、この辺の詳しいことはもう少し前の世代の先生のほうがよくご存じなのですが、私が聞いている限りではそういうことだと思います。
 逆に言うと、賦課方式から積立方式に替えたので、そういう意味で、事業主側は結構長い間、二重の負担をしてきた経緯があります。たぶん、それが平成13、14年ぐらいから、だいぶ積み上がってきて、ちょうどバブルの崩壊と重なって、たしか、事業主のほうから二重の負担を少し軽くして、当初の予定よりも積立てが積み上がるまでもう少し長くするとか、そういう経過措置を講じたことは経緯としてはあります。最後の頃になると、「もう積み上がってきたからいいのではないか」とか、事業主サイドがいろいろなことをおっしゃったので「いや、それは駄目です。きちんと納めてください。」というやり取りをした経緯があります。
○鈴木委員 今の山田先生の疑問と言いますか、全く同じことを実は思っております。ただ、事務局の方といろいろお話をする中で、私なりにこうかなと思うのです。つまり、労災事故の責任は発生当時の事業主集団にあるということは、平成元年より前もこのとおりだと思うのです。しからば、先ほど昭和40年とおっしゃいましたか、年金給付が始まったときに既に原資相当額を積み立てる。つまり、100%積み立てるということをやることが、この発生当時の事業主に負担させるということには整合するわけです。ですから、考え方としては、そのときからたぶんそうであったと。しかし、現実の負担の問題も考えると、そういう発生の非常に高い業種においては、例えば相当な高率になるとか、そういった事情で積み立てられなかったのではなかろうかと。ですから、発想としては、最初からそうあるべきだったということだと理解しています。
○岩村座長 その辺、何か経緯はわかりますか。
○数理室長 何分にも昔の話なので私も資料の中でしか見ておりませんが、今の方式を導入したのは平成元年ですが、それよりもずっと昔からこのようなやり方を指向していたようです。ただし、鈴木委員からのご指摘もありましたように、年金給付が始まった時に原資を積み立てるために、保険料を高くするというのがなかなか難しかったというようなことは、資料の中で読んだ記憶はあります。
○岩村座長 あと、もう1点付け足すとすると、今の労災保険は、業種を問わず、全ての業種をカバーしているのです。それになったのは昭和48年でしたか、とにかく、最初に年金給付化というのが図られたときは、正確ではないですが、おそらくまだ全業種適用ではなかったのです。ですから、ある意味で危険業種を主としてカバーしていたという経緯があります。そういう意味でも、保険による危険分散の範囲が今よりはある程度絞られていたということがあります。おそらく、それも当初から積立てで出発するということを難しくした理由かもしれません。とにかく、当時の日本の基幹産業の1つは石炭ですので、労災の発生率は非常に高いです。そうすると、現年度で、すべての責任をそこで負ってもらうということになると、たぶん保険料率が相当高くなって、とても負担できないというようなことは、産業政策上もあった可能性はあるかもしれません。ただ、そこまでの議論があったかどうかというのは、私も過去のいろいろな、例えば労災保険の何年史などというのを見ましたが、その辺の議論はあまり出てこなかったように記憶しています。
 いずれにしても、平成元年以降も、産業構造自体が第2次産業から第3次産業へとシフトしています。要するに、労災の発生する第2次産業のボリュームが小さくなっていること自体は、その以前より劇的ではないにしても、やはり常に起きている話です。そういう意味では、賦課方式でやっていると、常に同じ問題をずっと抱え込んでいくということにはなるのだと思います。
○調査官 過去の詳しい経緯ということではないのですが、先ほど山田先生も少しおっしゃいましたが、労災事故の発生率が、その産業で高いから高い料率をという考え方は、賦課方式でも当然やるわけです。ですから、事故の発生率の高いところに高い料率を課すというのは、賦課方式であっても積立方式であっても料率の設定自体は可能だと思うのです。やはり一番の難点は、賦課方式はある程度、定常的に労働者数がいれば、責任はその時点の人がとるのか、少しスパンを持ってその産業でとるのか、その時点かスパンを持つかというところの選択はあると思うのです。確かに、大規模災害が発生したその年度において、しっかり帳尻を合わせてしまおうということを今の制度ではやっております。それは1つのやり方だと思いますが、1つの産業で、もう少しスパンをとるということも可能だと思うのです。
 ただ、その産業の衰退があまりにも急激に起きたりすると、賦課方式というのは、やはり後年度負担が非常に発生してしまいます。産業に対して料率を変えていくという考え方は、賦課方式でも過去の方式でも当然できたことでもありますが、やはり、その産業のサイズの変化が激しくなると、そこに矛盾や急激な負担が発生してしまうので、どうしても現行の方法が適切でないかということで変えていったということではないかと思うのです。
○長舟委員 おっしゃるとおり、業種間のバランスと世代間のバランスと、2つの面があると思います。業種間という意味では、業種間で料率が違うというところで公平性を保っているのかなと思います。賦課方式か積立てかというのは、要素的には世代間のバランスの方が大きいのかなと思います。
○岩村座長 あと、推測としては、今おっしゃったことと似ていますが、ほかにモデルとなるのが公的年金制度しかなかった。そうすると、年金はみんな賦課方式で最初からやっていましたから、労災を年金化するときにどの程度議論したかよくわかりませんが、ひょっとすると、そういう財政方式でやっているからというのもあったかもしれないという気がします。
○岡村委員 公的年金は、もともとは積立方式で考えられていて、過去債務等があるので徐々に修正積立式になっていって、今ではほぼ賦課方式になっています。数年前から、公的年金においても積立方式に回帰したほうがいいのではないかという意見がときどき出ていました。一度賦課方式になったものを積立方式に戻すことは、現実問題を考えると非常に難しいことです。例えば、二重負担の問題にまた戻るわけですが、それも含めると、シミュレーション結果として大体120年ぐらいのスパン、3世代か4世代ぐらいかけてならして回帰していけば、できなくはないといわれてはいます。
 しかし、結局は、積立方式と賦課方式の決定的な差は、積立方式の場合には、先ほどもご説明いただいたように、資産の運用利回りがどうなるかということです。これはパラメータとして重要なのです。他方、賦課方式の方は、現就労世代の就業人口増加率が重要なパラメータになっています。こういう、金融環境が悪いと言いながらも、むしろ少子高齢化で人口減少社会に入った現在では、賦課方式の問題点のほうが極めて大きいと私は思っております。一旦賦課方式に戻して、また積立方式に戻すということは、そう軽々にできないと考えております。ですから、私の個人的な感想では、よく平成元年度に積立方式に変更したなと、あれは英断だったと思っております。
 ただ、細かいことを言いますと、たぶん産業間の構造の変化等によっていろいろな問題が出てくるでしょうが、財政方式という大きな目で見たときに、せっかくある積立金を取り崩していくことが将来にわたってプラスになるかと言うと、これは本当に慎重に考えていただかないと難しい問題だと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。そのほか、この財政方式について何かございますか。
○山田委員 ちょっと気になりましたのは、老齢年金の場合には、無過失賠償責任があったりするわけではないので、世代間の助け合いという考え方があるとは思うのです。労災の場合には、事故を起こした事業主集団がいるのに、果たしてそういった世代間の助け合いという考え方をとっていいのかというのは、何となく公平性の観点から、成り立たせていいのかなというのは、個人的な感想ですが、ちょっと気になるところではあります。それを法律的にどのように解釈するのかという問題がまたあると思うのですが。要するに、それを先送りにしてしまうと、事業主集団が廃業してしまったら逃げ得になってしまうということですね。
 積立金に関しては、先ほど二重の負担というのがありましたが、もしこれを取り崩すことになったら、今度は三重の負担が発生することになりますから、岡村先生がおっしゃるように、慎重というか、三重の負担でいいのかという議論につながっていくのではないかと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。おっしゃるように、公的年金の場合と少し違うのです。ベースに事業主の労災に関する無過失責任というのがあります。そうすると、ある意味では、将来いなくなってしまったらもう負担しなくていいのかという話にもなってしまうので、そこのところは、やはり普通の公的年金とは少し違うと考えられると思います。この辺で財政方式のほうはよろしいでしょうか。
○鈴木委員 疑義と言いますか、算定方法のところを。
○岩村座長 いま、これから算定方法のところにということで。
○鈴木委員 わかりました。
○岩村座長 算定方法についても、いま数理室長からご説明いただいたように、年金種類別に将来の残存数を既裁定の年金受給者について推計すると、それと、その給付の推計額を賃金上昇率と運用利回りで調整して、各年度、将来の給付額を合計して算定しているということでした。
 賃金上昇率と運用利回りのパラメータというのは、これまた重要なものなものですから、それはもう1つあとにさせていただいて、ここでは、年金受給者に年金単価を掛けて算定するというような方法であるとか、年金受給者の将来における数を残存表を使って推定するといった点について、ご質問やご意見があればお願いしたいと思うのですが、いかがでしょうか。
○鈴木委員 まさしく先ほどご説明いただいた残存表なのですが、これは、新規に裁定された人たちが、そのあと年次を追うごとにどのように残っていくかという表ですよね。この年金というのは基本的に終身年金ですよね。そうしますと、私ども年金をやっている者からすれば、年齢というのはいちばん大きなファクターです。我々が普通計算しているやり方ですと、新規に裁定された人々を年齢ごとに分けて、その年齢ごとに残存率を作ります。残存表が年齢という要素が加わって、マトリックスになるということです。つまり終身年金というときに、いちばん大きなファクターは、やはり開始の年齢なものですから。この表を見る限り、どうも年齢の要素がなく、新規裁定者の数1本で推定されているというところに、少し違和感があるのです。
 しかしながら一方で、先ほどの積立金の充足率を見ていきますと、非常にスムーズなカーブで100%に近づいていっているということを考えると、結果としては今のやり方でもうまく評価されているのかな、という推測はするわけです。しかし、この表だけでは、普通、年金ではこういうふうにはしないのではないかなという気が少ししました。感想のようなものですが。
○岩村座長 ありがとうございます。事務局、そこはいかがですか。
○数理室長 ご指摘のとおり、残存表につきまして、年齢別に考えてはどうかということについて、私もそういう考え方は十分にあると思います。現在は、労災保険の記録を使い、かつて受給者であった人たちに現在の受給者の人たちの記録も含めて集計してこの表を作っています。さらに労災年金が、本格的に導入されたのは昭和40年ぐらいですが、それより前はデータがないわけです。それについては、年金受給者の年齢情報を基に生命表を合成してその残存率を推定しております。これを使って労災保険の記録が足りない部分である、先のほうを延ばしております。ですから、全然年齢を考慮していないわけではなくて、そういう意味で推計に、特に先の部分は生命表の年齢別の情報を入れております。
 確かにご指摘のとおり、もう少し年齢の要素を本格的に考えてやるということもこれからの課題として考えていいのではないかとは思います。ただ、年金受給者はほぼ終身になるわけで、生命保険をやっておられる方だとわかるのですが、死というのは極めて稀なイベントで、情報量が多くないとなかなか正確なデータは出てこないのです。労災年金ですと、受給者の数が少なく、限定的になってくるので、年齢別にまで分けてしまうと、なかなか有意なデータが取りにくいということもあります。この先の課題として、いまご指摘いただいたことは考えてみたいと思いますが、なかなか難しいというのもまた事実です。
○岩村座長 いま、私もお話を伺っていて直感的に思ったのは、労災の場合は、1つは偶発性が非常に高いので、ある特定の、前年より満遍なく事故が発生するということがないことと、あと、数理室長がおっしゃったのと同じで、要するに、そもそもの件数が少ないので、どうなのだろうかということを思ったのです。その点はいかがなのでしょうか。
○鈴木委員 ここの表で給付種別に出ていますよね。そうすると、例えば、じん肺とかせき損という病気の方ですと、通常の生命表とはかなり違ったデータを示すような気がしますので、一般の生命表から受給者を推定するというのは、もしかしたら非常におかしいということかもしれません。しかし、例に挙げられました、例えば障害の4級とか7級で固定されている方、あるいは遺族、こういう方については、一般的には通常の生命表と近い動きをするのではないかと。それであれば、件数の少ない実績データを用いるのではなく、通常の生命表を用いることにあまり支障はないように思います。
○岩村座長 ありがとうございます。そのほか、いかがでしょうか。この辺は専門家の方のお話を伺いたいと思いますので、お願いいたします。
○長舟委員 そもそも論では、鈴木委員のおっしゃられたとおりだと思います。ただ、積立方式にするときに、おそらく当時は細かな年齢別データを取ることは、事務的にも現実的にも相当大変だったのだろうなということで、たぶん年齢データなしでやっておられるのだろうと。あと、先ほどご説明いただきましたが、要は、生命表を使うということは平均年齢みたいなものは取っておられるということなのですか。
○数理室長 平均年齢ということではなくて、まさに年金受給者について、その被災時1件1件の年齢をデータとして持っておりますので、その年齢情報を使っています。その年齢と生命表を合わせて、例えば50歳で被災された方は、普通の生命表に従うと、60歳まで生きる確率が何パーセントとわかります。その数字を全部足し合わせてやって、1つの残存表を作って、それと労災の結果の残存表を比較して分析して、その関係を使って先の方に延ばしていくということをやっております。
○長舟委員 そうするとこの表は、経過年数1本の表ですが、基礎データとしてはきちんと年齢のデータがあるということですね。
○数理室長 そうですね、特に先の方はあります。
○長舟委員 それであれば、年齢別の残存表に基づいているということですね。
○岩村座長 先ほどおっしゃったように、ただ、データの限界があるので、特に昔の部分についてはできないということから、先の部分についてはそういう年齢構造も考慮しているということですね。
○数理室長 はい、考慮しています。
○岩村座長 年齢構造も考慮した上での残存表を考えている、そういうご説明だと思います。
○長舟委員 それであれば、理想の形にだいぶ近いところでやっておられるのではないかという気がします。
○数理室長 ありがとうございます。
○岩村座長 ほかにはいかがでしょうか。もしよろしければ、たぶん本日の議題の中ではいちばん中心的なものである、正直言って、非常に頭の痛い、3番目です。積立金の算定で使うパラメータです。先ほど事務局からも説明がありましたように、現在は、賃金上昇率については年1%、運用利回りについては年2%というパラメータを使っていらっしゃるわけですが、この点についていかがかということで、是非ご議論いただければと思います。
○山田委員 事実確認として、事務局に教えていただきたいのですが、28頁の資料No.3-4です。技術的な質問が2つあります。
 1点目は、運用利回りと現価率、若しくは賃金上昇率と年金スライド平均改定率です。これは、先程の式では一緒のものとして議論されていましたが、この違いがどこからきているのかということです。特に、賃金上昇率と年金スライド平均改定率の2つの関係、1年前からきているということでしたが、微妙にずれていますので、事実確認としてそれがどこからきているのか、ということがまず第1点です。
 2点目に関しましては、運用利回りと現価率のバランスで、積立金の貯まるスピードが、どのくらい変わってきてしまうのかという点について教えていただきたいということです。
○岩村座長 では、お願いいたします。
○数理室長 まず、第1点の賃金上昇率と年金スライド平均改定率ですが、これはちょっと技術的な問題になります。我々は、基本的には毎月勤労統計調査の結果をそのまま使っています。ただし、毎月勤労統計調査という調査は、統計調査は全部そうなのですが、調査対象企業を、正確に言うと事業場なのですが、2年か3年に一度替えてしまいます。そうすると、「ギャップ」と呼んでいるのですが、新しい調査対象を調査した結果と古い調査対象を調査した結果とに、どうしても差が出てしまいます。そこの部分の処理方法について、ときどき労災の考え方と毎月勤労統計調査の考え方が若干ずれることがある、ということが1点です。
 それから、労災保険のスライドは、1回やってしまうと、その年度について遡って変えることはないのですが、毎月勤労統計調査は、調査対象を替えてしまって生じたときのギャップを反映させるため、遡って数字を変えてしまうことがあります。そういったところもありまして、最初は同じだったのがずれてしまうとか、そういったこともあります。ですから、どうしても多少差が出てきてしまうということはありますが、概ね同じぐらいの数字です。
○山田委員 そうですね、概ねですね。非常に技術的な問題だということは大変よく理解できました。
○数理室長 それから、2点目です。運用利回りと先ほど申し上げましたが、積立金の運用利回りで、これは実績です。現価率は、設計上必要な積立金を計算するときに使う運用利回りです。現価率は、将来を考えるときに必要なパーセンテージで、運用利回りは、その時までの実績です。実際に、今は運用利回りと現価率の差が0.5%なのですが、単純計算で言えば、2%で予定していたところが1.5%だったということは、予定したより0.5%相当分、利子収入が足りなくなってくる、ということが出てきてしまいます。
○岩村座長 金額的にはどのくらい反映するかというのは目の子でわかりますか。
○数理室長 8兆円の0.5%となりますと、概算で400億円くらいになります。もっと正確にいうと、たぶんそれより少し少なくなると思います。
○山田委員 わかりました。どうもありがとうございます。
○岩村座長 あと、もう1点質問です。実績値で出てくる運用利回りと現価率ですが、動きを見ると、見直ししていますよね。
○数理室長 はい。
○岩村座長 この見直しについては何かルールがあるのか、何となくその時のいろいろな状況を考えて見直ししたほうがいいなというようにしているのか、それはどうなのでしょうか。
○数理室長 私が承知している限りでは、こうなったら2%を変えるとか、そのようなルールとして定めたものはありません。もちろん、大きくずれてきたら、そのときの情勢や市場の状況などをいろいろ見て考えていくのだと思います。おそらく料率改定のタイミングに合わせてやるのが、いちばんいいのかなとは思っております。
○岩村座長 料率改定のときに財政計算をやってみて、そのときの様相でもって現価率の設定を行っているということですね。逆に言うと、現価率を設定して、それから料率を出しているというか、どちらが先かわかりませんが。
○数理室長 最近、あまり変えていないので、たぶん、あまり大きくずれがなければ、そのままいっているという感じだと思います。
○岩村座長 わかりました。直近だと、平成17年度が1.9%だったのが、平成18年度は2.0%になっていますよね。
○数理室長 はい。
○岩村座長 これは改定のときですか。
○数理室長 平成18年度は改定時です。
○岩村座長 そうですね。改定のときに、やはり計算して修正しているということなのですかね。私は法律なので、この辺はほかのところでも議論していて、みんなで頭をひねって、どうだろうとかいう話もしたことはあるのです。いかがでしょうか。
○長舟委員 先ほど、山田先生からご質問があったこととも関連しますが、ここの運用利回りは実績値で、賃金上昇率も実績値ですと。それから、いま事務局からもご説明があったとおり、現価率とか平均改定率は、将来の予測値ですと。それで、我々がいま知りたいのは将来の予測値なわけですが、それをどうやって知るかということに尽きるわけです。例えば運用利回りは何でもよい運用利回りではなくて、現時点で、将来の利息収入を安全確実に何か予測しなければいけないとすると、我々民間企業で言えば無リスク金利というところで、国債などの金利を想定して考えています。こちらの場合には、財政融資資金の金利が、無リスク金利というか、将来を確実に約束している金利ということでしょうから、それをベースに将来を予測するということは、それ以外にあまりうまい手はないと思います。
 一方、賃金上昇率については、将来を予測するのはおそらく難しいだろうなと思いますので、いま使っているこういったものがいいのか、何か工夫の余地があるのかというのは、これ1つというのはなかなか出てこないと思うのです。ただ、こういうものをベースにやって、毎年毎年再計算して補正していく、というのは1つの手法なのかなという気はします。
○鈴木委員 私は、利回りと賃金上昇率について、こういう推計方法がいいと言える様な専門知識を持ち合せていないものですから、そこについては申し上げません。ただ、足下の状況がどうかということですと、今の割引率が2%で、運用利回りが1.52%ということで、ここでは0.5%予定を下回っているということです。一方で賃金上昇率の方は、予定が1%に対してマイナスやあるいは0.12%という実績であり、予定の賃金上昇率よりも下回っていると。この2つは、13頁の資料No.3-3の式からも明らかなように、ちょうど分母、分子に累乗がかかっているわけですから、この差額にだけ意味があるということになります。割り算の結果にだけ意味があると。そういうことを考えますと、今は運用では下回っているけれども、賃金上昇率ではさらに余裕があるということですから、結果的には、足下の状況では、予定よりも余裕があるという状況だということでよろしいのですよね。
○数理室長 はい、大きくずれているわけではないのですが、確かに余裕の方向でずれているということは言えると思います。
○鈴木委員 割り算の結果にだけ意味があるとすれば、例えば割引率を1.5%に下げて、賃金上昇率も0.5%にすれば、結果的には責任準備金は変わらないので、今の状況下ではそちらのほうが見栄えがいいということであれば、そういうのもあるかなと。
○岩村座長 やるとすると、3年に一度の改定のときに見直ししてみて、乖離が大きければもう一度見直すということでしょう。ですから、そのとき、動かし方によっては、いま鈴木委員がおっしゃったように、余裕のある方向になっているのがもっと余裕のある方にいくのか、その逆にいくのかというのは、出てくるのだと思います。これもまた素人の質問ですが、財政の安定という観点からすると、あまりこうやって動かすというのはどうなのですか。あまり変わらないのですかね。
○鈴木委員 私どものような、例えば民間の生命保険会社等がやる場合には、基本的に掛け金を上げるということは普通はできません。したがって、責任準備金等々も常に保守的に積まざるを得ないということになるのです。こういう社会保険で強制性のあるもので、なおかつ、今日のお話を伺っている中で、総体として労災の保険料は、社会保険の中では珍しく掛金が下がっていく傾向にあると。そういうことであれば、必ずしも保守的に積む必要はあまりないという気は若干します。感想的で申し訳ないのですが。
○岩村座長 ただ、他方で、審議会などに出ていますと、やはり下がってきているところに上げるという話をすると、これはなかなか大変です。
○岡村委員 今のお話を伺っていますと、運用利回りと現価率の差は0.48、0.5%ですね。過去10年ぐらいの推移を見てみますと、平成14年ぐらいからあまり大きな差が出ていないということなのですが、逆に賃金上昇率の変動の方が大きいような気がするのです。ですから、ここを変更するのは慎重になった方がいいかなという気がしないでもないです。
○岩村座長 おっしゃるように、特にこの何年かずっと、賃金上昇率が非常に落ちたりとか、変動が激しいので、そういう意味でも。
○岡村委員 産業間の差が大きいですよね。
○岩村座長 ええ、大きいですよね。その辺は確かにおっしゃるとおりですね。あとは、これは確定給付なものですから、どうしても手堅く見ざるを得ない部分があるのです。やはり、計算を間違えたので保険料上げますというのでは、誰も納得してくれないので。
○岡村委員 私も最初の方で一度申し上げましたが、賃金の変動を見ても、金融状況、金利の変動よりもむしろ人口減少社会というのが相当大きく響いているのではないかと思います。ですからやはり、先の話に戻りますと、どちらのパラメータを重視するかということなのではないでしょうか。
○労災補償部長 今のお話ですが、特に賃金上昇率は、いま1%ということで置いているのですが、確かに将来、変動が非常に大きくなってきて、これからの経済状況をどのように見通していくかという下に、賃金上昇率も置くのですが、いまご覧いただきますように、マイナスになる機会が多いのです。そうすると、やはり1%はプラスの世界で、できるだけ抑えた形で見ているのですが、マイナスの状況のときに、いつまでもプラスで置いておくということについて、堅く見るということからすると、我々は少しでもこういう形でと思うのです。将来予測は難しいのですが、民間の場合は、その辺はどういう形で置いておくことがわりと合理的というか、理解を得やすいところなのかですね。
○長舟委員 私の損保業界では、こういう賃金上昇率を将来に織り込むという商品がないものですから。どうでしょうか。
○鈴木委員 我々もないです。
○長舟委員 これは非常に難しいパラメータだと思っています。すみません、知恵がないという状況です。
○岩村座長 あるとすると、政府のいろいろな政策のシミュレーションとか、そういったことをやるときに、賃金上昇率をいまどのくらいで置いているかという、それが1つの指標ですよね。
○長舟委員 そういう事業予測は短期のせいぜい2、3年先のところなので、このように何十年先のところまで予想するというのは、実務上はなかなかありません。
○岡村委員 企業年金の基礎率の中には、賃金上昇率は入れないのですか。
○鈴木委員 一般的に、企業年金では、いわゆる定期昇給分だけを含むと。ですから、今だとベースアップなどはマイナスなのでしょうけれども、ベースアップ部分を盛り込まないというのが普通のやり方です。
○岡村委員 賃金上昇率のような発想はあるということですよね、定期昇給を入れるということですから。
○鈴木委員 そうですね。
○岡村委員 ニュアンスはちょっと違うと思いますが。
○鈴木委員 はい。
○岡村委員 ただ、それでも保守的にベースアップは入れていないということですね。
○鈴木委員 はい。
○岩村座長 そのほか、いかがでしょうか。やはり賃金の方は、将来予測が非常に難しいので、ある程度手堅いところで抑えておいて、そのときに1%とあまり乖離するようであれば、どこかで見直すということぐらいしかないのではないですかね。しかし、長期的にマイナスがいつまで続くかというのは、これもよくわかりませんし。
○山田委員 年齢の平均、要するに労働者の年齢構成などはあまり考えないで出している賃金指数なのか、ちょっと賃金指数の作り方自体が分かりません。要するに、いま団塊の世代がどんどん抜けていっている部分がこのようにどんどん織り込まれているのか、それとも、そういった影響を除いて給与の賃金指数が作られたのか。
○数理室長 労災保険の年金スライドにつきましては、毎月勤労統計調査の結果をそのまま使うことになっていますので、年齢構成を調整したりということは、いまは特にやっておりません。毎月勤労統計調査は、年齢構成はそもそも調査していなくて、事業場全体の給料しか調査していません。
○岩村座長 あと事務局の方で、この際だから何かございますか。あとは、例えば、将来の損失などを考慮する危険準備金といったような考え方もあるのかとは思うのです。労災の積立金の場合はどうかというのもあるのですが、その点、何かございますか。
○長舟委員 危険準備金は、損保にある制度ですが、通常起こり得る多少の変動は普通の責任準備金の中で賄っていて、損保の危険準備金制度の趣旨としては、そこを超える何か大きな災害みたいなものに備えるという、そのような概念です。そうすると、例えば年金というものにおいて、将来、生命表が大きく変わるとか賃金上昇率が急に変わるとか、何かそういうことがあるとすれば、そういう発想はあるかもしれません。生命表自体が、そんなに大きく変動しないというようなことであれば、通常の、先ほど皆さんがおっしゃっていたような多少の余裕のようなところで考えていくというのが普通なのかな、という気はいたしております。
○岩村座長 その点については事務局の方で何かございますか。
○数理室長 いまの積立金というのは、既裁定の方々のためのものです。長舟委員がいまご指摘になりましたように、そこだけの世界で考えると、おっしゃったとおりです。ただ、海外の制度などを見ますと、アメリカのワシントン州でしたか、例えば制度改正とか、あるいは、判例が重要視されている世界なので、裁判で重要な件で負けてしまって、そこで給付が急激に増えるというようなことのためのリスクに備えたお金を責任準備金プラス10%などという形で持っているということはあります。ただ、いま現在、これ以上積み増すことが必要かと言われると、今のままでいいのかな、とは思います。
○岩村座長 いま挙げられた例というのは、例えば、どこかで地震が起きたと、その結果として多数の業務災害の人や通勤災害の人が出て、一気に給付が出るといったときにどう備えるか、あるいは、最高裁判例が出て、いままでは業務災害でなかったものが業務災害ということになって、その結果として遡って請求がきて、時効になっていない部分の請求が一気にきてというような事態に備えるという意味での、どちらかと言うと危険準備金ということですね。
○数理室長 そのような仕組みを持っている州があるということです。
○岩村座長 それは、積み立ててあるものが、何らかの事象でもって途中で大きな変動があって、急に積み増さなければいけないという話とはちょっと違う話ですね。
○数理室長 はい。
○長舟委員 もう少しそもそも論をしますと、たぶん民間会社の場合には、いわゆる責任準備金という負債のほかに、先ほど言ったような危険準備金と言いますか、もう少し広い言葉で言うと資本というものを持たなければいけないと。それはなぜかと言うと、大きな災害などが起こったときに、会社がつぶれてしまっては保険金をお支払いできないからそのように規制もかかっていなければいけない、ということなのです。一方、国の制度を考えたときに、何かが起こったときのバッファーを、あえてまた特別会計の中に積み立てておく必要があるのかどうかということだと思うのです。わざわざそこを切り分けてやるのかどうかということです。
○岩村座長 そのときは何らかの形で手当しておいて、あとは料率改定で、その跳ね返り部分を吸収すればいいという考え方も、とれることはとれるということではありますね。
 そのほかはいかがでしょうか。あと特になければ、今日の議事はこの辺でというように存じますが、よろしいでしょうか。ありがとうございます。それでは、次回の開催については事務局からご説明いただきたいと思います。
○調査官 次回ですが、ご議論いただきたい点につきましては、1つは労災保険財政の開示のあり方、2点目としましてはメリット労災保険率の算定方法、これらについてご議論いただきたいと考えております。日程ですが、少し先になりますが、11月下旬から12月上旬頃ということを考えております。少し先のことではありますので、具体的な日程につきましては、我々事務局から委員の皆様方のご都合をお伺いしまして、その上で決定したいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○岩村座長 そういうことで、次回の開催日時につきましては、後日、事務局からご連絡いただくということですので、よろしくお願いいたします。それでは、第1回の検討会はここまでとさせていただきます。皆様、長時間にわたり、かつ暑い中をご議論いただきまして、大変ありがとうございました。
 
 

照会先

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