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2014年4月18日 第9回「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会議事録

労働基準局労働条件政策課

○日時

平成26年4月18日(金)16:00~18:00


○場所

厚生労働省専用第23会議室(6階)


○出席者

委員

今野座長 神林委員 黒澤委員 佐藤委員
竹内(奥野)委員 水町委員 山川委員

事務局

中野労働基準局長
大西大臣官房審議官
村山労働条件政策課長
岡労働条件確保改善対策室長
鈴木職業安定局派遣・有期労働対策部企画課長
伊藤職業能力開発局能力評価課長
田中雇用均等・児童家庭局短時間・在宅労働課長

○議題

労働条件の明示等について

○議事

○今野座長 それでは、ただいまから第9回「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会を開催いたします。

 本日は、前回議論した労働条件の明示について引き続き議論した後に、労働市場政策における職業能力評価制度のあり方に関する研究会報告をもとに、職業能力評価とこれにかかわる課題についても議論していただきたいと思います。

 それでは、まず出欠状況と資料についてお願いします。

○村山労働条件政策課長 本日は、櫻庭委員、黒田委員、野田委員から御欠席の御連絡をいただいております。また、国会等がございまして事務方の者の集まりが悪くて大変申しわけありません。この場をかりておわび申し上げます。遅れて逐次参ります。

 続きまして、配付資料でございますが、横置きの資料1-1が、先ほど座長からございました労働条件明示についての関連資料でございます。1~32ページ目までは、前回と同じ資料を改めてお配りしております。

33ページ以降に、1つは、前回、櫻庭委員から御指摘のありました職種限定等の場合についての有識者の見解あるいは裁判例の資料をおつけしております。

 また、その後に、以前、黒田委員等から御指摘のございました、高度専門人材の職種限定型の実態についてのヒアリング結果の資料を追加しております。

 それから、38ページからの資料1-2が、労働条件の明示に関する論点ペーパーで、これは前回と同じものでございます。

 また、前回、私ども日程調整が大変申しわけなかったのですけれども、御参席の先生が少なかったので、今回は第8回、前回の懇談会における主な議論をまとめたものにつきまして4344ページにおつけしておりますので、前回御欠席の先生におかれては適宜御参照いただきながら、御発言をちょうだいできればと考えております。

45ページ以降は、本日2つ目の議題でございます労働市場政策における職業能力評価制度のあり方に関する研究会報告書の概要、あるいはその関連資料等でございまして、これは後ほどその議題に入りましたところで、担当課長から御説明さしあげるものでございます。

 なお、50ページ以降に参考資料でございますが、去る9日に開催されました「産業競争力会議」の「雇用・人材分科会」という会合がございまして、多くのテーマがあったのですけれども、そのうちの1つに、多様な正社員の懇談会の状況等を御報告するようにという指示がございましたので、佐藤副大臣からプレゼンさせていただいた資料を抜粋しておつけしております。

 資料につきまして不備等がございましたら、お申しつけいただければと思います。よろしくお願い申し上げます。

○今野座長 それでは、前回の質問事項や追加的な資料について説明願えますか。

○岡労働条件確保改善対策室長 それでは、資料を御説明申し上げます。順番は必ずしもページ番号順ではないのですが、まず、43ページで、前回どのような御議論があったかについて御紹介したいと思います。

 資料1-3、労働条件明示でございます。

 まず1つ目の○でございますけれども、労働条件明示の内容といたしまして、職種限定型ですとか、勤務地限定といった内容だけではなくて、コース転換する際の要件や制限についてどの程度明示するべきか。あるいは、職務や勤務地が限定されている場合に、それを曖昧にしておくと、例えば事業所閉鎖の場合ですとか、あるいはその職務がなくなった場合に、そのときになって急に労働者の人が転勤のあるコースに転換しようと思っていた、そういう主張することができることになりますけれども、雇用終了時の人事上の取り扱いの明示に関して、そういった転換制度に関する項目についてもどこまで明示しておく必要があるかといった御意見がございました。

 2つ目でございますけれども、勤務地や職務の限定を明示するのであれば、そういった勤務地や職務がなくなった場合の取り扱いについても明示しなければならないのではないか。その一方で、そういったことは多様な正社員だけにかかわる問題でもないということで、多様な正社員に限ってルール化するというのは、バランスを欠くのではないかといった御意見がございました。

 3つ目でございますけれども、特に職務でございますが、限定の範囲を広くするか狭くするかについては、個々の労使で合理的に決めるのがよいのではないか。また、その限定の仕方というのは極めて多様でございますので、雇用終了の場面の取り扱いについても、一律にルールを決めるのは難しいのではないかという御意見がございました。

 4つ目でございますけれども、そういった労働条件の明示の必要性というのは、1つにはトラブルの防止ということもございますけれども、それ以外には社員のモチベーションやキャリア形成に影響があるということで明示が行われている、あるいは行われるべきではないかということでございます。多様な正社員を導入する義務というのはもちろんないわけでございますし、職務の範囲というのは千差万別でございますので、その範囲というのは労使で決めればよいわけですけれども、実態としてそういった限定がある場合については、明示することが望ましいのではないかといった御意見がございました。

 5つ目といたしまして、裁判例の関係でございますけれども、職務が限定されているようなタイプの労働者であっても、他の職務に配転を命じられ、それを争った場合に、意外と有効になる場合が多いということです。特に、括弧の中に書いてございますけれども、雇用確保のための配転であれば有効と認められるというのが裁判所の判断の傾向だということでございます。

 下から2番目でございますけれども、成熟した社会で新しい事業や産業がどんどん起きてくるわけですが、そういった中で職務を限定してスキルアップするというのは、事業の荒廃が激しい中で、むしろ逆行するのではないかという御意見がございました。全員が無限定な働き方をする必要はないけれども、他方で、全員が職務限定というのもおかしいのではないかといった御意見がございました。

 一番下でございますけれども、運用で限定正社員を導入している企業が半分ぐらいということですが、そういった中で曖昧にしていてもトラブルになっていないのであれば、労働条件の明示を義務化することは必ずしも必要ないのではないかといった御意見がございました。

 次のページは労使コミュニケーションでございますけれども、今回の労働条件明示の議論とは直接関係ないので御説明は省かせていただきますが、一言で言えば、制度導入や運用に当たっては、労使コミュニケーションをちゃんとしていく。いわゆる正社員だけではなくて、多様な正社員の声も反映できるようにしていくべきではないかといった御意見がございました。

 以上のような御指摘もございまして、本日追加で資料をお付けしたものとして、33ページをごらんいただきたいと思います。3334ページにかけては、菅野和夫先生の本から抜粋したものでございまして、この前の部分では配置転換の一般論の説明があって、その上で職種限定と勤務地限定について述べられてございます。職種の限定については、特殊な技能や資格を有する者については職種の限定があるとされるのが普通であって、例としてはアナウンサーといった専門的なものについては、職種が限定されていたとされる場合が多く、そういう人については、それ以外の職種への配転を拒否できるとする場合が多いということです。

 他方で、特殊技能者であっても長期雇用を前提としている場合には、長期間のうちには他の職種に配転され得るという合意が成立しているとされる場合も多いということです。

 それから、技能工に多いのですけれども、特別な訓練などを受けて長い間特定の職種に従事してきた場合に、職種が限定されていると思われがちですけれども、そのような場合には、職種限定の合意は成立しにくいと判断される場合も多いということでございます。

 このように、裁判例は割と職種限定の合意に消極的な場合も多いわけですけれども、それは日本の場合は、多様な職種に従事させながら長期的に育成していくという長期雇用をとっている場合が多いということで、限定を認める判例が少ないということです。ただ、近年においては限定正社員などといった場合には、職種の限定の合意が認められるのではないかということでございます。職種が限定された人については、もし配転させる場合には本人の同意を得るか、あるいは就業規則上の合理的な配転条項が必要だということが述べられてございます。

34ページは、勤務場所の限定、勤務地限定でございますけれども、こちらについても、もし、配転させるということであれば労働者の同意を要するということで、現地採用でこれまで同じような労働者の人で配転がなかったような工員、あるいは事務補助職の労働者については、勤務地限定ということで、もし動かす場合は本人の同意が必要であろうということでございます。

 他方、大卒でいわゆる総合職のような人については、特に定められていなくても一般的には転勤があるという合意が成立しているのが普通だということです。しかし、採用の際に特に自分は家庭の事情などから転勤に応じられないということを明確に申し出て、会社も特に異議を唱えなかった場合には、勤務地限定の特約も生じ得るということでございます。

35ページに幾つか判例を載せてございます。

 1つ目が、日本テレビ放送事件で、これはアナウンサーの関係でございますけれども、これについては採用の過程あるいは専門性も考慮いたしまして、アナウンスの業務に限定した労働契約が締結されたと認定しています。就業規則では配置転換を行うことができる旨の規定があったわけですけれども、その場合であっても労働者の個別の承諾がない限り配置転換することはできないとしてございます。

 なお、ここには載っておりませんけれども、これとは別に朝日放送事件ですとか、あるいは宮崎放送事件という別のアナウンサーの事案では、ほかの一般的な事務もやっていたとか、あるいは裁判になる前に配置転換を何回かしていまして、編集作業といったものにも従事していたという場合については配置転換が認められたという別の判断がなされた事例もございます。働き方やこれまでの配転があったかどうか、そういったものを含めて判断されているということでございます。

 2つ目の日産自動車村山工場事件については、機械工として長年就労してきたわけですけれども、その場合であっても、特に機械工に限定するという合意があったというのは認められないということで、職種転換命令が認められたという判例でございます。

 3つ目のエフピコ事件は、関東工場に勤務していた労働者が、本社である福山の工場に転勤を命じられた事例でございますけれども、これは関東工場の分社化で人員整理などが行われる場面で、雇用を維持するためということで配置転換が命じられたということで、先ほど御説明したとおり前回の御指摘でもありましたけれども、そういった場合については配置転換が認められるということでございます。

 他方、36ページは東京海上日動火災保険事件で、採用の過程や業務あるいは給与体系から職種と勤務地の限定があったと裁判所が認めておりますけれども、ただ、限定があったから必ずしも配転が絶対にできないというわけではなくて、職種の内容、配転の必要性、変更後の業務内容の相当性、不利益がどの程度あるか、それから代替措置をどうしているかといったことを考慮して、特段の事情が認められる場合には、職種等が限定されている場合であっても配転を有効と認めることが相当であるという判断基準を示しました。ただし、今回のこの事案については配転の必要性がないということで、結果的には配転が認められなかったという事案でございます。

 なお、この4つともそうですけれども、契約書等で職種や勤務地が特に限定されていたということは少なくとも判例の判決文からは読み取れなくて、働き方ですとか慣行などを見て、限定があった、あるいはなかったと判断している事例でございます。そういった意味で、もし契約書等あるいは労働条件明示書などで明示があれば、こういうトラブルは少なくなるということは言えるのかもしれません。

 以上が判例の関係でございます。

37ページは話が変わりまして、高度人材の話でございます。これにつきましては、個別に金融業の関係1社、情報サービス関係の会社2社についてヒアリングを行ったものでございます。

 個別に企業名やどこの企業かわからないようにしてくれというオファーがありましたので、抽象的なまとめ方になっておりますけれども、特徴的な点だけをまとめたものでございます。

 金融業については、投資部門において資金調達業務やM&Aのアドバイザリー業務などに従事する専門職ですとか、あるいは証券アナリストについてでございます。

 情報サービス業については、ビッグデータを分析活用するデータサイエンティストと呼ばれておりますけれども、そういった高度な技術者と専門的な営業職でございます。

 こういう人をどういった場合に採用するかということでございますけれども、内部ではなかなか育成できないので外部から中途採用でとるということで、雇用形態としては専門的な正社員として採用する場合、職種限定の正社員として採用する場合もございますけれども、有期で採用する場合もあるということでございます。

 労働条件の明示については、正社員の場合はジョブ・ディスクリプションやオファーレターにおいて労働条件を明示する場合があるということでございます。

 採用方法は、エージェント、人材紹介の関係の業者を使ってヘッドハンティングをして中途採用する場合が多いということでございます。

 給与については1,000万円以上と書いてございますけれども、中には数千万円というかなり高額な給与を得て採用されているということでございます。

 また、キャリアアップについては、1つの会社にとどまらずに、より条件のいい会社に転職を重ねてキャリアアップをしていくということで、企業側も特に企業内でOJTなどで育てるということはしていない場合が多いということでございます。

 その他、こういった人がいるのは外資系企業やグローバル企業などで、世界の系列会社と人事制度を統一する必要があるといった企業において、高度な専門職の人が採用されている場合が見受けられるということでございます。こういったところでは、職種限定の正社員というのは活用できるのではないかということでございます。

 最後に、50ページでございます。先ほど課長から申し上げましたように、4月9日に行われました「産業競争力会議」の「雇用・人材分科会」の厚労副大臣のプレゼン資料でございます。

 まず、最初のほうはこの懇談会での検討の状況を簡単に説明してございます。

 真ん中あたりでございますけれども、本年の年央には雇用管理上の留意点をとりまとめるということでございます。

 また、下には今年度の予算事業ということで、先ほども高度専門職の話がありましたけれども、専門性の高い高度人材を含む正社員のモデルを収集したり、あるいはいろいろな多様な正社員の就業規則を集めたりして、それを情報発信していく。また、単に情報発信をするだけではなくて、いろいろな手段を通じて徹底した周知を行っていく。さらには今後まとめていただきます雇用管理上の留意点を踏まえて、今後どういう支援措置ができるかを検討して、来年度の予算等につなげていきたいと考えてございます。

 最後のページは、参考資料ということで、参考2と参考3については、この懇談会で行ったヒアリングの中から選んで簡単に載せたものでございます。

 それから、参考1については、報道されていた事例ですし、こちらの事務方でも個別にヒアリングしたものでございます。

 資料については以上でございます。

○今野座長 ありがとうございました。

 それでは、あとは御意見をお願いします。

○佐藤委員 前回の第8回の懇談会のまとめもそうなのですけれども、特に職務限定とか職種限定といったときの使い方なのですが、特に職務限定の「限定」の範囲をどうとるか、職務と言ったとき職種は一般的にはかなり限定してしまっているんですよね。

 もう一つは、社員に今担当している仕事は3年後も5年後もこの仕事ですよという限定の仕方と、もう一つは、例えば、経理で言えば原価管理を今やっていただいていて、3年後も5年後も原価管理ですという限定と、今は原価管理だけれども、経理の仕事をやってもらいますという限定の仕方がありますよね。経理の仕事をやっていますというのは、職務限定というイメージでは普通は余り考えなかったりするので、ただ、一般的に例えば、総合職、一般職もそうですけれども、今の仕事の限定ではないですね。3年後、5年後と考えたときに、この範囲の仕事の限定ですというのが実際には多いと思うので、職種限定、職務限定という言い方は、今やっている仕事をずっとやるみたいな限定の仕方、幅も狭くてという限定もあると思いますけれども、例えば転勤がわかりやすいです。勤務地限定の場合は、今はここだけれども異動がありますと、これは今の話ではないですよね。あるいは限定していて今後もこの事業所ですみたいなことなので、そういう意味で今の限定の話で、ずっとそれが限定されるという限定と、ある程度キャリアを考えたときに、いろいろな仕事をするのだけれども、その範囲が限定されているというのがあるので、例えば、ここでもキャリア形成に影響が出るという議論がありますよね。こういう議論をする場合は多分狭く考えるのだと思うんです。ただ、先ほどの経理人材として、経理要員ですという限定の仕方であれば、その中でかなりキャリア形成ができるわけです。

 何を言いたいかというと、職務限定というと広い部分が頭に入ってこないのではないかというのをやや危惧しています。1つは、今の仕事という話と、もう少し長期的な限定の仕方です。長期的にどういう仕事を経験するのかという限定の仕方を職務限定という言い方で表現し得るのかなというのは、ちょっと感じていたところです。

○今野座長 そのとおりだと思うのですけれども、何と言いますかね。多分、一般的には職種限定と言うと広めという感じ。先ほど佐藤委員が言っていた経理で職務限定と言うと、原価管理とかそういうイメージはあると思いますけれども。

○佐藤委員 例えば、経理と言ったときは今のではないんですよね。今後を含めてどういう仕事を経験をさせるかという限定ですよね。今は経理一般ということはないので、どこかの経理の仕事をやっているわけなので、そういうことがわかるほうがいいかなと思っただけです。いい言葉があるわけではないです。ある面ではキャリアの範囲の限定なんですよ。

○今野座長 今の点については、別に余り異論はないですよね。

○佐藤委員 ただ、いろいろな議論があるのは多分、思い浮かべている限定が相当違うなということだけを想定しておけばいいなというだけの話です。

○今野座長 ただ、きょうの例で言うと、高度専門職みたいなトレーダーとかそういうのは比較的職務限定だと思いますけれども、余り数としてはいないから。

 ほかにいかがですか。竹内委員どうぞ。

○竹内委員 ここ2回ほど欠席を続けておりまして申しわけありませんでした。前回から労働条件の明示ということで、多様な正社員の普及ないし、よい形での導入促進という観点で労働条件の明示の問題をどう取り扱うかということが議論されてきたと認識しておりますけれども、労働条件を明示させる目的というか必要性はどこにあるのかなと考えた場合には、既に先ほど資料の説明等の中でも出てきたかと思いますけれども、1つには、特に問題になるのは労働者の側ということだと思いますが、自分は限定されて、この範囲でだけ勤務していればよいとか、それを超えて勤務することはない、あるいはこの仕事だけしていればいいと思ったのだけれども、ある時期になってやはりそれを超えて変わってくださいと言われて、自分は限定だと思っていたら、自分の限定が使用者から見れば違うんだという形で、したがって、将来的にある程度時点がたってきたところで紛争が発生する。そうすると、明示させておくということは、どのタイミングでどの程度ということも影響しますけれども、基本的には紛争を防止する、あるいは将来の紛争を予防するということが一つあろうかと思います。もちろん、明示するということと労働条件、契約上義務づけがどういう形で設定されるかという問題もあると思いますけれども、この権利義務の設定の点は置いておいて、予測可能性とか紛争防止というのが一つ労働条件を明示させることの重要な目的なのではないかと思っています。

 これまでの会合のヒアリングでも、会社としてはある程度将来的なところで、もっと広い範囲で配転などをして人材活用をしたいと思っているけれども、いわゆる限定正社員という形で雇われている労働者は、それは困るという形で、使用者としてはなるべくこれまでどおりといいますか、柔軟な無限定な形で活用したいと思っているという意見がありました。そうすると、限定だと思っている労働者の側と、なるべく限定をしておきたくない会社側との間で、会社側もある程度は限定するということで一定の人材を引きつけようという誘因にはするのだと思いますけれども、ある程度のフリーハンドは残しておきたいという形になってくると紛争になってくるのかなという気がいたします。そういうことに対して、労働条件明示の手法を通じて問題解決、将来的な紛争の予防につながるのではないかということが考えられ、そのために労働条件の明示について議論をしているのだと思っています。

 その上で、法的な仕組みというかアイデアというか、具体的ではなくて基本的方向性にとどまりますけれども、法的な対応の仕方としては3つないし4つぐらいあるのかなという気がしております。

 1つは、ある意味現行法に近い形になりますけれども、現行法でも労基法等で労働契約締結時に労働条件の明示が義務づけられています。そういうものの一つとして、職務の限定や職種の限定、あるいは勤務地の限定というものについても明示させる。ただ、将来のどの時点かで変わることがあるかとかどこまで明示させるかということ、つまり、明示させる事項の設定というのは非常に難しいとか、あるいは前回の議論でも多様な正社員だけそういう項目を入れるというのはバランス上どうかとかいうご意見もあったと思いますが、技術的には難しい点も他方であろうと思います。あと、一律に、多様な正社員について余り考えていないような会社も含めて、法律ですので基本的には一律に規制をかけていくことになりますけれども、それがどうかというのも他方であろうと思います。

 ただ、明示を義務づけるということであれば、少なくとも法制度設計的には例えば将来について使用者と労働者の側で当該労働者について限定があるのかないのか、あるいはどの程度の限定があるのかということについて、情報のそれぞれの思い違いがなくなるという点では、効果は高いのだろうと思います。

 ただ、先ほど述べたようないろいろな問題点から、実現は容易でないということであれば、ちょっと長くなって済みません、もう少ししゃべらせていただければと思いますが、2つ目の方法としては、多様な正社員に係る限定などの状況について明示させることを義務づけるとは直接にはしないとしても、明示義務は専ら使用者に課される義務になりますけれどもこれと手法を異にする形で、明示したら使用者にいいことがあるよという形で、言いかえると、明示すれば労働者にとっては先ほど述べた形で将来紛争予防という形でメリットがあると考えられるわけですけれども、明示させることが使用者にとってもメリットとなるようなインセンティブを与えることが考えられます。

 1つには、これも非常に抽象的な基本的方向性だけですけれども、また、それが唯一の方法だとは思いませんが、例えば、明示しておいて限定はここまでですという形になった場合に、例えば勤務する工場などを限定しておいて、工場がなくなったときに解雇するという話になってくるわけですけれども、そこで雇用終了をなるべくやりやすく認めるということになれば、使用者としては少なくとも雇用終了の場面が将来的に問題になることを念頭に置いたときには、明示しておいたほうがきちんと問題解決を図れるという意味ではメリットと見ることもできるかと思います。それは、法律で書いたりとか、判例がそういう判断をしたりということになればということですけれども、そういうふうに明示しておいたほうがお得ですよというふうに、使用者に明示するインセンティブを与える。これはもちろん明示しない使用者のもとで働く労働者にとっては不明確なままですけれども、労働者としては一つには明示するような会社であれば、より自分たちのことを考えてくれているんだなということで、そういう会社を選ぶという形で、ある程度の解決が図れる可能性もあろうかと思います。

 一律強制に明示させるという方策と、使用者が明示するようなインセンティブを設定するという方策が2つ基本としてあると思いますけれども、3つ目としては、かなり消極的な考え方で、いずれも難しいということであれば、先ほど述べたとおり将来紛争とかになるということは、労働者は限定だと思っていたけれども、使用者はいやいや限定ではないんだというふうに、明示しないで曖昧に慣行などでやっていた場合にそういうことにつながりやすいというのが問題の背景だと思います。そういう意味では、現状のルールとして曖昧なままにしておいたら、いざ法的紛争となった場合にどう取り扱われるかということの情報を確認、周知、流通させておくという方策もあろうと思います。

 前回の議論のまとめを見ると、恐らく前回の法律系の先生だと櫻庭先生だと思いますけれども、きょうの報告でも説明があったとおり、現状、基本的には明示的な合意などをしていない場合、とりあえずの期間は限定というのはありますけれども、基本的には限定がなくて、どこかの時点で配転に応じなければいけないというルールになっています。つまり、曖昧なままにしておいた場合には、基本的には限定は緩い、あるいは将来のどこかの時点では限定がなくなってしまい、使用者が配転できるような形になってしまいます。もちろん、それは解雇の場面では使用者はいろいろと手を尽くさなければいけないということも意味しますが。ですので、非常に荒い言い方をすると、現行の限定・無限定に関する法的ルールは、明示しないときのデフォルトのルールというのは無限定なのだ、ということだと思います。

 そういう意味で、かなり消極的ですけれども、労働者としてもしばらく大丈夫だからという使用者の発言というのは、法的に見れば必ずしも信用し切っていいものではなくて、法的にはいずれ限定というのはほごにされる可能性があるということです。明示しないときのルールというのはそういうものだと使用者も労働者も理解をする。現状としてそんなものだとしておけば、それを前提に行動すれば、自分は限定だと思い込んで将来紛争に巻き込まれていくということも少なくなるのではないか。かなり消極的な方策ですけれども、そういう意味では現状のルールがどうなっているかの周知をきちんと図ることも一案です。これはもちろん、明示させるという解決策ではないですけれども、現状の明示がもたらす影響についての状況を知らせるという方策という形になろうかと思います。

 明示する、させないとか、明示に関係する、その中で多様な正社員の普及において生じ得るトラブルを予防したり防止したりする方策としては、今申し上げた3つが一応あるかなと思っておりまして、明示そのものと関係なくなってしまうのですけれども、4つ目として、ある程度の時期までは限定、それはある程度使用者としても限定していると思っているし、労働者もまさしく限定だと思っている。しかし、10年ぐらいたったときとか、会社のほうでも非常に大きな経営上の組織の変動があった場合等に、人材活用をしたい、やはり限定は維持したいという形で紛争になってくるのだと思いますが、恐らく紛争になってくるときには、曖昧なままにしておいて、使用者としては法的には、究極的には限定がないのだというふうにどこかで信じている、考えているところが将来の紛争につながっていくのだと思います。仮に、ある程度年数がたっていたときに、使用者が法的に見れば最終的には配転などをできる権限がある、限定がないと考えるとしても、ある程度の時期がたって、初めは限定だと思ったけれども、そうではない扱いを実施に移したいというようなときに、法的に見れば究極的には使用者が広く配転できる権限を持って、無限定になっていないのだから配転に応じなさいよと言うだけではなくて、法的には最終的に配転に応じることを命じる権限があるとしても、当該ある程度たったときに、いざそれまでの扱いとはやや異なって、限定なしで配転に応じてくださいということにするのであれば、法的権限が仮にあるとしても、その際に、これまではこの場所やこの職種にとどまってもらったけれども、こういう事情だから移ってもわらなければいけないんだという説明を尽くした上で移ってもらうこととする。これは明示のルールとは違って、移るときに法的レベルで命令権限があるかないかという点とは別に、きちんと手続を尽くして異動する、しないという方策をとる。そういう手続的規制も明示そのものだけで対応が難しいということであれば、考える方策の一つとしてあり得るのではないかと思います。

 思い切り長くしゃべってしまいましたけれども、明示に関しては1ないし3を講じてもう一つという方策が、法的なアイデアとしてはあり得るのではないかという気がいたします。

 以上です。

○今野座長 神林委員どうぞ。

○神林委員 どうもありがとうございました。私も前回欠席しているので、前回どういう議論があったのか余り明確ではないのですけれども、今の竹内委員のお話で大分整理されたのかなと思います。

 ただ、私がこの問題を考えるときに大きくは2点あると思うのですけれども、1点目と今の竹内委員の議論というのは非常に明確にリンクしています。つまり、労働条件を明示したからといって、それがコミットメントになるのかという問題です。事実として労働条件を明示しても、それがコミットメントになっていないわけです。コミットメントになるか、ならないかというのは、労働条件を明示するかしないかという問題と、ロジカルに別なところにあるというのが日本の労働市場の現状なのではないかと思います。なので、何回もこの席で極端な話を申し上げていると思いますけれども、労働条件を明示する一つのメリットというのは、労使双方この条件は変えられませんという約束をするのが一番極端な例です。なので、最初に勤務地限定をしてしまったら、労働者が何と言おうと、使用者がどう考えようと、それ以外はあり得ないことにするというのが一番基本線ということになるわけです。

 ところが、現状では限定をしておくと、先ほど最後におっしゃったように、何年かしていくとどんどん限定というのがなぜか知らないけれども、なくなってしまうと。デフォルトが無限定だということは、それにリンクしているわけですけれども、デフォルトが無限定なので、限定状態というのはある種の特殊な状態で、それが永続するということはだれも考えていないわけです。なので、何かしらの事情変更が起こった場合とか、時間が長くたってしまった場合というのは、その特約というのが消えてしまって、デフォルトに舞い戻ってしまうというのが日本の労使慣行のメカニズムだと思います。それがある限り、労働条件をどういうふうに明示するかというのは、私にとっては瑣末な問題であると考えることができます。それが第1点です。労働条件を明示したからといって、それをどういうふうにコミットメントとして見なすのかということが一番重要な論点なのだろうと思っています。そういう意味では、労働条件をどう変更するかということと密接に裏表の関係にあるのかなと考えています。これが1点目です。

 もう一点目は、前回の議事録を見る限り全然問題になっていなかったのは、労働条件を明示することの意味というのは、第三者に対してこういう約束をしているんですということを示すという意味があると思います。今までの話は、労使でトラブルにならなければそれでいいという考え方だったわけですけれども、もちろん、そういう考え方もあると思いますが、雇用の流動化ということとリンクさせて考えれば、この会社ではこういう人とこういう約束をしていますということを、潜在的な就業者に対してきちんと見せるということは、後で多分出てくると思いますが、見える化するという話と密接に関係しているのかなと思います。なので、労使で納得すればそれでいいやという世界から離れるかどうかというのは、とても重要な論点としてあるのではないかというのが2点目です。

 以上です。

○今野座長 水町委員どうぞ。

○水町委員 今までのお話と関係しているような、関係していないようなことですが、竹内委員の話から言えば、私は原点は1番であって、1番ができないから2番、3番、4番。2番、3番、4番の選択肢は余り賢い選択肢ではないので、結局1番の中で何かできるかという議論をきちんとすべきだと思います。

 その前提として、まず2点お話しさせていただくと、現行法の問題がいいか悪いかは別にして、今どうなっているかという法的な問題では、労働契約上限定がなされていないと、今現状どうなっているかという就業規則には業務上の必要があれば配転させることができるという一般的な条項があって、契約書ではほとんど書かれていない。契約書でほとんど書かれていないから紛争が出ますよと。契約書でほとんど書かれていなくて、就業規則には何でもできますよと書いてあって、争いになったときに、裁判に行ってどうなるかというと、結局、配転命令権の行使が有効であったとすれば、契約書上どうなっているかという紛争で負けた場合には懲戒解雇になります。その場合の懲戒解雇は有効だと。人事権に逆らって懲戒解雇されて雇用を失うかもしれないということを前提にしながら、配転命令権が有効だったかどうかを争う労働者はほとんどいなくて、実際には紛争になっていないと。だから、紛争を防止するというよりも、その前のルールをどう決めて予測可能性を高めるか。その予測可能性を高めるというのは、単に今動いている人だけではなくて、神林委員がさっきおっしゃったように、これから働く人とか潜在的に仕事を選ぼうという人に対して、どう選択肢を与えるかという多様な選択肢をつくるために、どれくらいの限定をするかというのが一つ大切なのだと。それが広い意味では、選択肢の拡大とワーク・ライフ・バランスとかいろいろなところに影響を及ぼすのではないかというのが1つ。

 もう一つは、職種とか職務の限定と解雇は直結しないし、あと、労働条件変更、契約内容の変更ができないというふうに直結するわけではない。例えば、タイムスパンとの関係もありますけれども、限定があって限定のものがなくなったからといって直ちに解雇できるかというと、今でもそうではなくて、解雇回避努力というのはそれ以外の努力もして、それでもやはり雇用の維持が難しいのだったらということで、解雇ルールと直接関連するというわけではないですし、さらに、限定されていて、それは限定の幅とかタイムスパンもあるかもしれませんが、事情変更が起こったら、その限定の内容を変えようかという再交渉をすることが考えられて、今はこういう状況だから限定していてもなかなか難しいので話し合いましょうと言えば、その話し合いの中で全然変更できるので、将来におけるコミュニケーションとか話し合いも含めた上で、では、どこまで限定できるのかというのをきちんと議論し、その中で可能なものは明確にしましょうねということが大切なのではないか。

 そして、今までの議論の中で、限定される人だけ契約上明示するのはおかしいよねという、そこだけ義務づけるのはおかしいという話なのですが、ここで明示すべきなのは、限定があるかないか。限定なしでも明示しなければいけない。限定なしか、限定ありかで明示して、限定なしだったらその明示ですよ。期間の定めがあるかどうかと同じで、限定ありであれば限定する範囲がどうなのかというので、例えば、タイプライターだったらタイプライターですというのもあるだろうし、日本国内での仕事ですという限定の仕方もあるだろうし、工場で働く働き方だというのもあるだろうし、いろいろな限定の仕方があって、それはいろいろでいいと思います。そういうわかるような限定の仕方と、その限定におよそ定年までとか雇用終了まで限定するという限定の仕方でなくても、差し当たり次の再交渉の期間までは5年なり3年なり限定しますという限定の仕方もあるし、それは今でも許されているし、今後もそれは労働条件明示のときに許されないわけではないので、そういう工夫をしながら、限定なしか、限定ありか、限定ありの場合にはどうするか、それを柔軟に労使で話し合ってもらって、その結果をちゃんと明示して、それが現場の労使だけではなくて、将来職業を選択してこの会社を選ぼうという人にも見えるような形にすれば、ある意味で非常に労働市場の今後の方向性として重要になるし、別に日本の企業の95%が限定なしを選んで、5%だけ限定ありを選びましたよというのでも、それを明らかにしながら実態がどう変わっていくかを見守っていくことは大切なのではないかと思いました。

○神林委員 水町委員、次の再交渉というのはどうやって決めるのですか。

○水町委員 労使で決める。およそ限定ありとする場合に、およそ限定ありで定年まで限定ありですよというやり方もあるかもしれないし、このタイムスパンで限定しますよということは、今の法律でも禁止されていないし、これから新しいルールをつくろうと思うときも、タイムスパンもあわせて限定ありかなしかを決めてくださいということもあるので。

○神林委員 次の再交渉を例えば5年と書いたとすると、5年間は動かせないということですよね。

○水町委員 そうです。再交渉のときに交渉がまとまらなかったらデフォルトをどうするかというのも、そこで考えなければいけない。それは年俸制の賃金額の決め方と同じような考え方です。

○今野座長 それは5年後に再交渉するというのも書けと、そこまでは言わないでしょう。

○水町委員 そこまでは言わないです。それは労使で決めてくれればいいし、そういう決め方をすることは何ら妨げないと。

○今野座長 片方が再交渉したいと言って、片方ではやる気がない、それでもいいわけですか。

○水町委員 それは5年間の間に交渉して、交渉がまとまらなかったときはデフォルトをどうするかというルールをあらかじめ決めておかないと、どちらかが再交渉に乗らない場合の責任をどうするかという問題にはなります。年俸制で賃金の決め方はそういうことを考えながら運用を決めて。

○佐藤委員 私も納得するところが多いのですが、例えば、5年と決めるわけではないけれども、途中で交渉はできると。決めておかないと、そういうものも可能なわけですか。

○水町委員 決めたときには、相手が「はい」と言わないと一方的に変えることはできないけれども、別に合意していても合意内容を変える合意をするということは十分可能なので、そういう意味での縛りです。

○神林委員 それは有期契約と同じですか。

○水町委員 雇用の期間を終了させるかどうかという意味では、それと同じです。

○神林委員 再交渉まで5年とコミットしたとすると、結局5年契約と同じですよね。

○水町委員 そこで切るという話になれば、期間の定めのある労働契約になりますけれども、直ちに切るというわけではなくて、勤務地限定なり職種限定なりの期間を契約上自由に定めることができるし、それを制限しているような強行法規は今のところないと。

○神林委員 5年間の間、労働条件を動かせないという意味では同じですよね。

○水町委員 相手方の同意が得られない限り、一方的には動かせないというルールです。

○今野座長 山川委員どうぞ。

○山川委員 だんだんと議論が整理されているような感じがします。前回急に欠席になってしまいまして、論点ペーパーの趣旨がよくわからなかった点もあったのですが、つまり限定について明示を義務づけるということの意味が一読してよくわからなかったのですが、多分共通の理解は、限定すべきであるということを義務づけるという前提ではない、限定している場合にはそれを明示するという趣旨のペーパーで、それは多分見解が一致しているかと思います。

 残るのは、そういう場合の明示の方法、特に明示しなかった場合の法的効果というのが一つと、もう一つは、そもそも限定した場合の「限定」とは何を意味しているのか、キャリアコースとかそういうことを考えると、多分そこが一番、実務的にはいろいろ議論のあるところかなと思います。そこを考えると非常に難しくなってしまいますので、1つの考え方は、端的にキャリアと切り離す、配転の制約ということだけを考えるということはあるかなと思います。それをキャリアとの関係でどう考えるかは企業が考えればいいというような形にすれば、ある意味では単純化されるかと思います。要するに、どちらかに実態的な義務づけを課さないのであれば、定義をどうするかはある意味で自由に決められるという感じがします。

 難しいのは、むしろ明示義務に反したときの取り扱いでして、実際には限定したとしても、明示しなかった場合にどういう効果があるか。1つ考えられるのは、明示義務に違反すると限定しなかったことになるということですけれども、それは多分、労働者に不利に働くということです。そうすると、明示義務に違反した場合には限定したことになるということになると、それはどういう限定になるのかということで、つまりそもそも明示していないわけですから、何かの限定ということになるわけですけれども、それは明示とは別に裁判等で立証するということなのか。つまり、明示義務違反の効力をどちらにするかということを考えないといけない。

 もう一つは政策レベルですけれども、そういう場合に使用者としてはどういう行動に出るか。竹内委員の言われたインセンティブとも関係しますが、まず、ほかのインセンティブがない限りは、限定しないということを明示する方向にかなりの場合働くであろう。それにどう対応するか、それはそれでいいということであれば、あとは権利濫用の問題で解決するということがあります。

 もう一つは、限定した場合の再交渉の問題で、そういうことまで決めてあればいいと思いますが、決めていない場合には結局解雇の問題になってきて、変更解約告知と言われる解雇の問題で、そこは個人的な意見としてどこかで書いたりもしていますけれども、一種の再交渉義務みたいなものを課して、例えば、変更において合理的な対案が労働者からなされた場合には、それを全く考慮しないというのは解雇権濫用になりやすいとか、そういう形で交渉促進のインセンティブを解雇権濫用法理の中に組み込んでいくというようなことで対応できないかなという感じはしています。

 一番難しいのは、明示をしなかった場合の取り扱いで、まずは明示しないということを明確に書く使用者がほとんどであろう。それをどう考えるかということかなと思います。○今野座長 使用者の行動ですけれども、無限定でいきますというふうにみんな書きますかね。そうすると、採用にどういう影響が及ぶかということですよね。

○水町委員 その前提として、法的な考え方をいいですか。もし、契約ルールの中でおさめるとすると、限定するという義務に反した場合にデフォルトをどうするかというのは、情報量が少ない交渉力の弱いほうが有利に定めるというのが債権法の原則なので、債権法改正の中では情報量に格差がある場合には、明示義務を果たしていない場合には、原則として情報量が有利なほうに有利な原則にはしないというふうにすると、明示義務を使用者が怠っている場合の契約上の解釈の帰結として、労働者に有利な原則にしておきましょうと。そうしないと、使用者側はあえて明示義務を果たしませんよとした場合に、労働者にとって契約上何が有利かというときに、例えば、今働いている仕事とか、今働いている場所以外では働きませんよという帰結をもたらすことが労働者に有利なのか、労働者に好きに選択させるということが有利なのかわからなくて、前者の選択が労働者に有利なようにも見えるけれども、そう決めてしまうとそうではない展望を持っている人にはそうではなくなるし、では、選択制というルールにすることもできないので、そういう意味で竹内委員の2番、3番、4番というのは法制度設計にするときに、やや難しいのかなと言ったのはそういうところです。

 どうするかというと、就業規則の明示義務みたいに、就業規則で明示していなければ労基法上の罰則の適用を受けるけれども、就業規則で例えば非正社員の就業規則がないときに、直ちに正社員就業規則が適用されるかというと契約の解釈はまた別ですよと。ただ、労基法違反としての罰則の適用がありますよというルールの定め方しか恐らくないので、そうなると、労基法第15条の中にこういうものを入れ込むか、それに類するような規定を入れながら、サンクションの重さはいろいろあるし、直ちに明日からサンクションにするか、5年とか時間を見ながらだんだん変えていくかというのはありますけれども、方向性としてはそういうもので、契約の解釈は別にしないと、実態に合った契約解釈から離れると、労使どちらにとってもだめなので、そういう制度設計しか多分ないので、そういう意味では労基法第15条か何かきちんとした公法上の義務として位置づけるというのが、制度的な設計の一番現実的な落としどころになるのではないかと思います。

○今野座長 そうすると、こういうことになるわけですか。限定で契約して入りましたと。今度再交渉になりました。会社としては違う工場に行ってほしいと思っている。だから、無限定化してほしい。そのときに交渉がまとまりませんでした。そうすると、労働者に有利になりました。

○神林委員 それは限定を明示していますよね。

○今野座長 最初はね。

○神林委員 逆ですよね。限定していませんでした、でも、その労働者はずっと同じ工場に20年間働いていました。いきなり配転をしますという命令をしたときに、いや、自分は限定した契約だと思っていたと言って争いになったときにどうなるかという想定ですよね。それは、労働者の言うがままにするというのではだめなのですか。

○水町委員 契約法上のルールにはなかなか難しい。

○竹内委員 今の点で、権利義務の中身としてどういうものがあるかという設定の選択の仕方あるいは決め方が難しいというのは一つあって、そこが解決しないとこのアイデアは何も生きないのですけれども、もう一つは、立証のルールとして使用者にとって有利なことを実行しようする場合には、そういうことができるのだということを立証しなければいけない負担を使用者に課すという形で、そういう意味ではルールの中身がどうなるかというのはありますけれども、労働者が主張するルールというものが原則的には通るという形での手続ルールをつくっておくということもあるかと思います。

○水町委員 その原則を言いなりにするというのでいいかというと、それはなかなか難しいのではないかと思います。

○神林委員 ここは、そういうことを話し合う場なのですか。よくわからないのですけれども。

○今野座長 山川委員どうぞ。

○山川委員 途中で座長の言われた、本当に使用者が全部無限定にしてしまうか、そのあたりの御意見をむしろ伺いたいと思います。

○今野座長 少なくとも、ピカピカの総合職以外は、どこでも飛ばすぞと言ったら採用上不利になるという動き方はする可能性はありますよね。

○山川委員 その意味で、限定にするかしないかといういわば二者択一的なものにすると、一般職でも場合によってちょっとは転勤させたいとか、本当に経営が苦しくなったら転勤させてでも雇用を維持するとか、そういうファジーな部分が失われて全部無限定ということになる可能性はあるかなという感じはするのですけれども、その辺は明示の仕組みの問題かもしれないですね。

○今野座長 私が今、何となく考えていたのは、今、慣行としてというか事実として、ずっと限定だった人に動けという問題がありましたね。私がさっき言ったのは、限定でずっとやってきたけれども、いろいろな業務上の事情があって、ほかの工場に行ってほしいと思っているから使用者が再契約を申し込むと。そのときに、まとまらないときは労働者が言うことで決まるということになると、人事管理は面倒くさいなと思っていたんですよ。そのときに使用者がどう思うかなということなんです。その面倒くささを頭に入れて、かつ、そういうことで決まったときに使用者はどう行動することになるのかなと。

○水町委員 この中の裁判例も純粋に配転が争われたケースと、配転がうまくいかなかった結果、解雇されて解雇の効力が争われる前提として、配転が有効かどうかというケースがあって、そこで温度差がかなりあるんですよ。特に、解雇が絡んだケースというのは、配転命令の効力をかなり限定して、配転できないよと言ったら結局解雇につながってしまうので、そこは柔軟に考えてくださいよということが多くて、今言ったケースで例えば、期間も定めずにずっと限定していて、この工場で働きますという限定があったときに、その工場がまだ残って、そこでの雇用があるとすれば、相手方が納得しなければ雇用がある限りそこで働かせるという必要性はあるだろうけれども、人員調整で今いる限定社員全員雇用できなくなるとか、工場の移転が必要で閉鎖するというような場合には、今こういう状況になりました、限定されていますけれども限定の範囲を超えたこういう打診をします、こういう可能性や勤務地の変更とか、こういう労働条件変更に応じてくれませんかと打診して、でも、契約内容がこれだからこれ以外は嫌ですと言った場合に、でも、工場閉鎖をせざるを得ないとか人員削減をせざるを得ないので、労働組合も含めて話し合った結果、こういう選択をせざるを得ませんけれどもいいですかという手続を尽くしていけば、最終的には解雇の効力に間接的には。

○今野座長 極端に言うと、解雇が絡むときは別にいいんですよ。私が言っているのは、そうではないときなんです。

○神林委員 でも、工場がなくなってしまったら限定もへったくれもないですよね。

○佐藤委員 多分解雇ではなくて、この人がこちらに行ってここで仕事をしてもらう必要性があるみたいなときにどうするかというのは、実際は多分、本人が行きたいと言えばいいわけなので、基本的にはインセンティブをつけて社内公募か何かでやるということだと思うんですよ。本人が手を挙げて動くと言えばいいわけですよね。つまり、移ってもらいたいときは社内公募で、移ったときは1個上に格をつけますとか、そういうルールをつくって運用するしかない。

○今野座長 そうすると、今ちょっと考えていたのは、逆に言うと神林委員のケースなんですよ。今の総合職の中で、動いていない総合職というのはいっぱいいるわけです。それを何かの都合で、解雇の場合ではないですよ、工場閉鎖とかではなく、もう少し日常的なことで動かしたいと突然思ったと、必要性が出たと。そのときに神林委員の話だと、やはり本人同意が必要で。

○佐藤委員 だって、これは限定していないのでしょう。

○今野座長 限定してないけれども、総合職がいっぱいいるわけですから実質上そうなってしまったと。そうすると、私が人事だったら何を考えるかなと思ったのですけれども、やはりバリバリの総合職はすごく限定しますね、そういう採用になっているかなと。

○神林委員 あとは、ちょっと回してアリバイをつくるか。

○今野座長 そのどちらかですか。

○佐藤委員 今のは、無限定ですといって採用して、確かに動かない人がいたときに動かせないのかどうかですけれども、そこはそうなのですか。そんなことはないでしょう。結果的に動かせない人がいたけれども、それは考慮にしていたと言えば動かせるのではないですか。

○神林委員 それが限定を明示する義務をつくってしまったときに、実質的に動いていなかったとしたら、それは限定明示義務違反だという話になるわけです。

○佐藤委員 いや、ならないのではないですか。限定している場合には明示せよという義務だから。

○神林委員 実質上限定している。

○佐藤委員 いや、実質していないんですよ、結果的に動かなかっただけなんですよ。実質も限定していないんです。結果的に動かない人がいただけの話なんです。

○神林委員 それは、事実として判別することは不可能ですね。労働者のほうは絶対限定されていたと言いますし、使用者はそんな限定はしなかったと言うわけですから。

○佐藤委員 そのときに限定していないという明示はしておく必要があるわけですよね。

○神林委員 ちょっと話がわからなくなりましたが、限定していると明示していたとしたら使用者側の紛争は回避できるわけですけれども、明示していないと言っていたらですね。

○佐藤委員 だから、そういうふうにするということです。

○神林委員 ということは、限定しているか、していないかというのは両方明示しなさいということですね。

○佐藤委員 さっきの水町委員のお話は、するかしないか○をつけるだけだから、すると言わなければそうなんです。だから、実際上は両方とも明示なんです。

○神林委員 違います、違います。それは二律背反になっていないんですよ。限定するということを義務づけておいて、それに違反したとしたら労働者の言いなりになりますという話をしているわけですね、今まで。つまり、限定するという義務があって、それに違反していたら限定していないというふうになるわけではないんです。労働者のほうが自分は限定していると思っていたとしたら、それがデフォルトになるわけですよね。

○今野座長 今の話は、労働者が思っていたということはないんですよ。そういう状況は一切ないと言っているんです。

○水町委員 現行法ではそれがあり得て、限定しているも限定していないもブランクな状況なので、しているか、していないかもわからない契約にも何も書いていないというところで、20年間同じ場所に固定して働いていた場合に、限定があると黙示の合意があると解釈するかどうかという話なのですけれども、最初から限定あり、限定なしで○をつけろと言ったら、それで契約の解釈はいくので、限定していないのだったら40年のうち39年動かさなくても、まだ39年目に配転の可能性というのは契約に基づいてあると。

○竹内委員 済みません、私もいろいろ議論についていけなくなりましたけれども、先ほど途中で限定の義務があることを前提にして、それに明示の義務を課すか課さないかみたいな話になっていたと思いますけれども、これは現行法の話になってしまいますが、現行の労基法第15条の明示義務というのは、先ほど水町委員が公法上の義務という言葉を出されたことともやや関連しますけれども、第15条の明示義務を果たしている、果たしていないというのと、私法上契約上どういう義務が設定されるかということは、現行法のもとでは、もちろん明示しなければ私法上の契約解釈の紛争になったときに、明示していないことも一因があって不利に解釈されるというのは、契約の解釈の処方としてはあり得ると思いますけれども、現行法で言うと労基法第15条違反をしていたからといって、直ちに契約内容が違反していた相手方の言いなりで決まるというわけではないと思うんです。そうすると、今議論していることは、明示する、しないを私法上の権利義務にも影響させる形で制度設計をしようという議論だということが前提と理解してよろしいでしょうか。

○山川委員 水町委員は、そうでない方向で設計しようという御意見なのではないですか、違いますか。

○水町委員 明示する、しないことの義務を違反した場合の契約解釈を、契約法上のルールとして定めるのはナンセンスだけれども、明示する、しないというのは公法上の義務であり、公法上明示したり、明示しなかったり、限定ありとするか、限定なしとするか、それは契約の解釈として当然、契約上の権利義務として発生すると考えるのが自然だと思います。

○山川委員 ですので、直接明示義務そのものを法的効果には結びつけないという理解はよろしいですか。

○竹内委員 要するに、契約解釈の考慮の中で明示している、していないという公法上の義務を果たしているかどうかを考慮するということですよね。

○水町委員 私法上の解釈として当然そうなってくると思っています。

○竹内委員 今議論していたのは、最近の労働法でもよくある議論ですけれども、労基法というのは原則的な法の性質としては、罰則もついていますけれども、行政的刑罰的な取締法規であると。要するに、すごく比喩的な言い方をすると、お上がこうしなさい、ああしなさいということで、お上との関係で義務づけをしているという法律だということです。先ほど私法という言葉が出ましたけれども、それは私人である当事者がお互いに話し合いをして、お互いでどういう権利義務を設定するかという具体的な権利義務の発生にかかわるものです。使用者が公法上の義務を果たしているかどうかということと、私法上の権利義務がどう影響するか。この文脈で言うと、例えば、賃金や労働時間の労働条件を明示するという公法上の義務が労基法第15条上はあるわけですけれども、それに違反しているというのと、当事者間の私人間での契約の内容としての賃金や労働時間がどう定まるかあるいは影響を受けるかということとは別である。つまり、公法上の義務と私法上の権利義務のありようというのは、一応別だと考えられているということです。

 しかし、これも一般的に理解されていることだと私は認識していますけれども、公法上の義務違反をしているということで、直ちに私法上の権利義務が左右されるというのは直結して左右されるわけではないですけれども、ほかの契約解釈をしていく中の一事情とか一要素として、公法上の義務を果たしていないという事情もあるよねといわれています。そのほかの事情も考えてみると、契約の解釈としてはこういう判断になる。そういう意味で、ある意味間接的には公法上の義務を果たしている、果たしていないということが影響し得るというのが、現在の公法上の義務と私法上の権利義務関係だと思うんです。

 それを考えると、かなり議論が複雑になってきて、契約上限定をされている。しかし、その上で明示義務を課すとして、明示義務を怠ったときに公法上の義務を怠っているので限定がなかったという話になるのか、それは公法上の義務だから関係ないというのは一律に決まらないということなんですね。要するに、考慮要素の一つなので、ちょっと話がややこしくなって私もわからなくなってきたのですけれども、限定していないというつもりで使用者も考えていたのだけれども、しかし、限定がないということを明示する…。

○水町委員 この場面は、そんなに複雑に考えるような事案ではないので、公法と私法が二分されたり、二分されなかったりするけれども、この事案では明示していれば私法上の解釈と直結しますよということでいいのだと思います。

 例えば、労働基準法第15条で期間の定めのある契約にするか、期間の定めありなしと、あれは労基法第15条に書いてあるだけで、労働契約法には何も書いていないのですが、労働基準法第15条に基づいて期間の定めありと○をつけるか、なしと○をつけるかで、あれは公法上の義務だから私法上の義務が発生しなくて、そうなりませんよというのはだれも思っていなくて、期間の差で第15条に基づいてやれば私法上もありになるだろうし、なしと書けばなしになるだろうし、ありもなしもなくて第15条違反をしている場合には、労基法第15条違反の罰則が適用されて、あとは実態に応じて期間の定めがあるかどうか、私法上の解釈で契約の解釈をしましょうよということになるだけなので、今回もそれと同じことで考えればいいというだけだと思います。

○神林委員 あとは実態に即して考えるということですね。さっき言っていたのは、「あとは」のところが実態に即してではなくて、どちらかにデフォルトを振ってしまいましょうという話をしていたわけですよね。

○水町委員 その話になると、結局デフォルトルールの定め方が今回難しいので、契約期間の有無の明示と同じように、契約上は契約の解釈にしましょうということにしかならないと思うという前提で、そこには深入りしないほうがいいかなという議論をしていました。

○山川委員 よろしいでしょうか。私もそういう感じで、義務違反がなかなかリジッドな法的な効果を与えにくいのかなという感じですが、ただ、決めなかったときに労働者の好きな法的効果を選択できるとまではまだなかなかいえないのではないか。つまり、民法の改正の議論の際、私は交渉力格差を解釈に反映させる規定の盛り込みを主張したのですが、現時点の案では採用されなかったということがあります。例えば、何十年も動かさなかったのに、何の説明もしないで転勤させたというのは、少なくとも権利濫用には影響を与えるという感じがします。

 あとは、労基法第15条ですと刑罰規定ですが、例えば、労働契約法をつくるときに、期間の定めありなしも何も書かない通知を出した場合に、何も書かなければ無期機契約と推定するという研究会報告書の提案も採用されなかったということで、項目によってなかなか一概に言えないということがあると思います。そうすると、とりあえずのところは労契法の第4条で、採用時だけではなくて変更時も説明することとし、それをきちんと説明もしないような場合には権利濫用が成立しやすいとか、そういうことを導入的に考えるというのも、とりあえずはいいかなという感じはしていますけれども。

○今野座長 水町委員が言われているのは、必ずどちらかは言わなければいけないのでしょう。限定するか、限定しないかは明確にしろと。ということは、例えば、限定ありにしますかどうかとしてしまうと、そこに書いていないと無限定か、無視したかがわからない。今度は、両方書いておけば限定か無限定か必ずどちらかがわかる、そういう提案ですね。

○佐藤委員 有期か無期かの選択と同じようにすると。だから、両方決めているということ。

○竹内委員 ちょっとまだついていっていないかもしれませんけれども、今のアイデアの場合だと、限定ありと明示した場合、あるいは限定なしと明示した場合には、それで権利義務の設定としても帰結が明らかにわかると思うのですけれども、明示をしない義務違反を生じさせてしまったときに、どういうことになるか。明示義務を課すということについては、義務違反があったときにどう考えるかというのが重要だと思いますけれども、そうすると明示義務を公法上の義務として課すということの実際的な意義というのは、ある意味で象徴的な意義、もちろんそういう義務を公法上課すということで、限定があるにしろ、ないにしろ、なるべくきちんと明示して、当事者間あるいはひいては社会で雇用がそれぞれの会社でどうなっているかを見える化していこうということに間接的にはつながると思うのですけれども、そういう理解でいいですか。

○今野座長 その点は水町委員の理屈ははっきりしていて、情報が足りない人、要するに労働者の好きなほうにしろか。

○水町委員 期間の定めの有無の場合は、ありのほうが有利なこともあるかもしれませんが、一般的に期間の定めのないほうが労働者にとって有利なことが多いので、契約法上期間の定めがなければなしにしましょうかという話もあったけれども、やはりそこまでのルールは定められないというのが現状で、契約法上も勤務地の限定があるかないかわからなかったときに、限定なしとすべきなのか、ありとすべきなのか、労働者が会社のある事業所を好きに選べるとすべきなのか、これはルールとして定められないので、契約上は労使がどう認識していたかとか、今までの裁判が普通にやっているように、明示義務がなければ黙示の合意を探って、両方の認識を探るという解釈にならざるを得ない。

○神林委員 そうだとしたら、経営者側は何も書かないというふうになりませんか。

○水町委員 なので、まずは今の山川委員の御提案だと、労働契約法上訓辞的な義務で、まだ義務違反だから罰則の適用はないというのが第一ステップで、労働契約法上なるべくこうしてくださいよと、努力義務みたいなものですよ。そういうところからスタートして、だんだん浸透していったら第15条の罰則つきで、これをやっていないと罰則つきなのでサンクションがありますよと、そこまでするとかなり浸透していく。サンクションが強くなるので、そういうふうにしてルールを定めていくと。

 第15条のサンクションになったときも、ない場合の契約上のルールというのは当事者の認識で定めるしかないけれども、逆に、労基法違反というサンクションがかかるので、それで広めていくというのが、少しずつやっていくとすればそうですし、そういう御提案なのかなと思いました。

○今野座長 わからなかったら教えてほしいのですけれども、労基法上で定めたときに、違反したときは必ずサンクションがつきますよね。そうすると、とりあえず望ましいからやっておこうというようなレベルでいこうとしたときには、労基法には書きにくいのではないですか、違いますか。望ましいからとりあえずやって、もう少し見てから考えましょう、望ましいといったときに労基法に書けるのか。そうすると違うところで書かなければいけない。

○神林委員 事実上取り締まらないとか。

○今野座長 山川委員、そういう場合はどうするのですか。望ましいから少しプロモーションしましょうといった場合。

○山川委員 そこはいろいろな実現方法があって、今回は当てはまるかどうかわかりませんけれども、理念規定とか努力義務規定を置いて補助金など経済的インセンティブを与えるとか、あるいは社会的インセンティブ、労働市場で有利になるようなことを何か考える。先ほどお話のあったように、そういうところに人が集まるとか、あとは好事例の紹介で、これをやると得ですよという情報提供を行うとか、ソフトローと言われるものしかないかなと思います。

○今野座長 そうすると、法律にはならない。

○山川委員 労働契約はそういう規定は幾つか結果的に入ったということです。

○今野座長 そうすると、現在の法律、法体系でいくとすれば、契約法の中にちょっと入れますか、頑張れとか。

○山川委員 今の第4条の解釈として、そういうものも読んでいく。今でもきちんと説明したほうが望ましいという規定はありますので。

○神林委員 近い将来、労基法に移しますよみたいな話をするわけですか。

○佐藤委員 そうすると、別に労基法に書くわけではなくて、読み込みとしてそういうことも含めて明示してくださいというようなことを進めるようなインセンティブをつくるということですか。法律上は何もいじらない。

○山川委員 そこは、もちろん選択肢がいろいろあると思います。

○水町委員 労契法の規定にとどめるだけだと訓示規定とか努力義務なので、やったほうがいいですよというので、やらなくても別にディスインセンティブなりやったからインセンティブがあるわけではないので、例えば、次世代法みたいなものにして、知財法に入るのかどうかわかりませんが、多様な正社員推進法みたいなものの中で実際のインセンティブを与えるかどうかの、竹内委員の案はそういう案で、限定したらインセンティブを与えるというのはおかしいと思うんですよ。無限定であっても、限定であっても、明示したらインセンティブを与えるという方法があるかというと、ただ、契約上、限定、無限定をつけただけで税金が安くなるとか、社会保険が安くなるというのもちょっと、くるみんとかプラチナ・くるみんの中でプラスに評価されるとかそういうのがダイレクトにつながるかというのはあれなので、契約法上のステップできくかどうかはわからないけれども、とにかく望ましいですよとPRする段階と、次の段階は、第15条でサンクションでこれぐらい広がっているし、望ましいことだよねと。かつ、潜在的な就業者に対して見える化するためには、それをどう公表させるかというところは少し政策的な工夫があり得るかもしれないなと。これは労働契約法に書いただけではどうしようもないので、何か工夫をそこでできないかと。これは労基法第15条とか労基法上に書いただけでも難しいので、そこになると少し政策的に何らかのほかの政策と絡めながらやるという手はあるし、その辺は実際上重要になってくるかなという気はします。

○竹内委員 これは全く今の関係の話でいうと補足にすぎませんけれども、確かに現行の労働条件明示に関係する労契法の第4条の規定もそうですけれども、労基法第15条の規定にしろ、採用された労働者に対して採用の際に明示しなければいけないということなので、本当に当事者間で明示する、これから企業に入ってくる人に対してだけ明示をすればいいということになっていて、対外的にどうなっているかということはわかっていないわけで、そこを明らかにするということかなと思います。

 限定あるなしにかかわらず、労働条件がそれぞれの会社でどうなっているか、就業規則は普通外に出ませんのでブラックボックスなのだろうと思いますけれども、労働市場での人の活発な移動も含めて労働市場がうまく回るということでいえば、労働条件が対外的に何らかの形で示されるということは、政策の一つの方法では確かにあろうかと思います。明示させよ、それを対外的に公表させよというのは、直接はどこまでできるかというのは確かにあると思いますけれども、それも先ほどの話にも出たように、公表する企業については表彰しますとか、事業で褒めますみたいな形のことをするというのはなくはないかなと思います。

○今野座長 いいですか。実は私忘れていたのですけれども、きょうはもう一つあるんですよ。では、最後に佐藤委員どうぞ。

○佐藤委員 限定のときに、勤務地と職種の限定はあるのだけれども、労働時間のところ、現状で言うと所定労働時間と残業だけの話だから、さっき言った中に労働時間が入るかどうかですけれども、所定労働時間と残業の有無はここで議論する限定のときは、労働時間は別というか、労度時間の限定というのは実は別のところでやっているわけですよね。所定労働時間と残業があるかないかの明示でいいという理解でいいかどうか。

○今野座長 何となく頑張ろうでいこうという、頑張ろうだったら入っていいではないかと思いますけれども、ここでもう一度言ってもほかで言っていたらね。

 黒澤委員どうぞ。

○黒澤委員 とんちんかんなことになるのかもしれないですけれども、結局こういう制度をなぜ社会全体として導入したいかといったときに、現状だと能力を生かせていない、オール・オア・ナッシングではなくて、より中庸な働き方で能力を生かせる働き方が選択肢としてあれば、もっと日本の人材が有効に活用できるではないかという観点から考えると、限定を明示するだけとなってしまうと、それも第一歩だと確かに思いますけれども、それだけではなくて、それによってキャリアが犠牲にされるのかされないのか、その部分もあわせて提示する必要があるのではないか。以前の神林委員のマトリックスでいえば、左のほうの上に労働時間がある、そういうことを私のところはやっていますということを提示するといったら、それは御褒美に値するけれども、明示する、しないだけで御褒美というところにすごく違和感があります。そこまで提示されないと、結局は限定してしまうと、拘束されることが非常にネックになっている女性といったところでセグリゲートが起こってしまって、またセカンドシチズンをつくることになりかねないような気がします。

○今野座長 わかりました。限定とキャリアは無差別にしろということですね。例えば、短時間でもちゃんと部長までいけるとか、そういう話でしょう。

○黒澤委員 もちろん頑張ればです。だから、逆に言えば、今の短時間の正社員で育休中の人たちについて、余りにペナルティーがなさ過ぎるから、企業にとってコストになってしまっているわけではないですか。時間だとかいろいろなことを限定することによって、短期的には、賃金とか昇進可能性とか、それをやっているときは場合によっては今以上にペナルティーがあって全くしかるべきだと思います。

○今野座長 ペナルティーではないと私は思います。違う用語のほうがいいかなと思います。

 いいですか、ここから重要なテーマなのですけれども、もう一つ伊藤さんから話を聞いて議論したいということで、時間が少なくなってしまいましたけれども。

○伊藤能力評価課長 説明に15分ぐらいいただいてよろしゅうございますか。

 能力評価課長の伊藤でございます。きょうは、このような報告の機会をちょうだいして、ありがとうございます。本日、私のほうからは一連の資料の後ろから5枚ほど、A3の紙が5枚ほどございます。それから、別紙で3月28日プレスリリース資料がございますので、こちらも適宜引用しながら、3月28日に今野座長に、昨年9月から7回にわたり開催し、とりまとめをいただきました「労働市場政策における能力評価制度のあり方に関する研究会」報告書に関しまして、本有識者会議のテーマにも密接にかかわる事項ということで報告の機会をちょうだいしたところでございます。

 能力開発・能力評価、お詳しい委員の方多数でございますけれども、入念的に現行制度の中での能力評価制度がどのような構造になっているのかに関しまして、報告書の本体資料の後半のほうに参考資料集がございます。コピーが薄れてページが見にくいかと思いますが、ツーアップの資料集が並んでおりまして、右下のページで言うと1617ページに「現行職業能力開発促進法等上の職業能力評価制度の体系」「職業能力評価制度の概要」といったページがございまして、そこをお開きいただけますでしょうか。

 現行の能力開発促進法の目的の中でも、職業訓練と職業能力検定の充実、施策の二本柱というふうにもともと位置づけがされているところでございます。この職業能力検定に関しましては、能力の評価に係る客観的公正な基準の整備、試験その他の方法の充実が図られる。職業に必要な技能に関する知識についての評価が適切になされるよう行わなければならないと定義づけがなされ、現行法上はこの職業能力検定に属する具体的な仕組みとしては、その下にございます技能検定制度、名称独占による国家資格制度でございます。右上の表にございますように、現行では都道府県の自治事務と位置づけ、それから、指定試験機関方式この2つの方式によりまして、128の職種、この技能検定制度がカバーしている職種を職業小分類の就業者数を積み上げると、全就業者のちょうど3分の1といった制度的なカバレッジということでイメージをいただければと思っております。

 この職業能力検定に関しましては、16ページの右下にございますように、雇用対策法に基づきまして、事業主団体その他関係者の協力のもとに能力評価のための適正な基準を設定し、これに準拠し職業能力の程度を検定する制度を確立することとされておりまして、この事業主団体の協力のもとでの能力評価のための適正な基準ということで、右上の表でいきますと、職業能力評価基準、業界団体の協力を得て、代表的な職種に関する職業能力の構造、ディクショナリーというものをここ12年ほど計画的に整備してきておりまして、現在50の業種を対象に職業能力評価基準を整備しているといった実態でございます。

 現行の能力評価制度の柱は今申し上げました職業能力検定としての技能検定制度と、職業能力評価基準でございますが、それを補完する仕組みとしては17ページの表の間にございます認定技能審査、非営利団体が実施する技能振興上必要なある種の審査検定の仕組みと。それから、認定社内検定、基本的には企業特殊能力を測定する検定の仕組み、こういった仕組みが言わばサブシステムとして存在しているところでございます。

 今申し上げました職業能力開発促進法体系に基づく能力評価制度の仕組みというのが、当局で開催する研究会ということで、このたびの研究会における言わば主要なスコープ、この制度が有効に機能しているのか、この体系の中で足らざる部分をどのように充実していくのかということが主要なスコープでございましたけれども、広い意味では当然、能開法に基づく評価の仕組みだけが議論の対象ということではございませんで、数ページ後、通しページでいいますと37ページ、「職業資格制度の構造・特徴分析」という資料でございます。これは能開法に基づくものということに限定せず、およそ世の中に存在する職業資格の構造について非常にラフでございますけれども、横軸は国家資格か民間資格かという資格付与者による分類、縦軸が資格の機能です。国際的に見ますと、左によりリジットなものとしてライセンスがあり、中間的なものとしてサーティフィケーションがあり、右下比較的緩やかなものとしてクオリフィケーションありといった構造でございます。ただ、本研究会で議論する中では、我が国の実態に当てはめた場合には、このサーティフィケーションとクオリフィケーションの区別というのは絶対的な意味はないのではないかといった議論もございました。

 ちなみに、総務省報告によりますと、現在、国家資格制度としては313の資格がございますが、他省庁がまとめた検定制度などによるかかわる報告書を見ますと、いわゆる民間資格は大体1,000程度、グレード等の区分まで含めると5,000程度の職業資格があるといった説もございます。このように、性格あるいは対象とする業職種名は非常に多岐にわたるさまざまな職業資格制度が存在するということを前提としながら、この研究会での御議論をいただいたということでございます。

 今ほど申し上げましたような現行能力開発促進法に基づく技能検定制度を初めとする能力評価制度について、能開法の中でも労働者の地位の向上、職業の安定を図るということが目的に位置づけられておりまして、当初から内部・外部含めての労働市場における活用ということを意図していたものでございまして、労働市場の実態変化の中で機能強化を図るということは当然普遍的な課題としてあったわけでございますけれども、今回このような形で改めて労働市場政策における評価制度ということで研究会を立ち上げた直接の端緒といたしましては、資料1-3の一番後ろ2枚でございます。「『二極化』した働き方から『多元的』な働き方へのシフト」といった資料がございます。昨年4月に、「産業競争力会議」で大臣がプレゼンテーションした資料でございます。

 ここにございますように、まさにこの有識者会議のテーマでございます企業による多元的で安心できる働き方の導入促進、そのための職務に着目した多様な正社員モデルの普及促進を実現する裏打ちという観点からも、もともと職務における職業能力の見える化ということは能開法に基づく重要な目的であり、そのための検定制度があり、近年は見える化ツールとしてのジョブ・カードの活用といったことも図ってきたわけでございますけれども、ここに業界検定という言葉が出てくるわけでございますが、これまでの検定制度で十全にカバーし切れていなかった外部労働市場型の活用に至っていなかった分野を対象に、業界団体を主体としたある種の検定、ある種の見える化ツールを導入するといったことも含めた労働市場における見える化促進、キャリアラダーの整備。これと多様な正社員モデルの普及促進、さらには下にございますような、まさにこの場で御議論いただいておりますような関連する議論といったものを組み合わせた形で、労働市場政策のあり方を議論すべきではないかという当省の考え方をこの場でプレゼンをし、さらに、次のページに、これは御案内のところでございますけれども、昨年6月に閣議決定した日本再興戦略の中でも、この多元的・安心できる働き方の導入促進という位置づけの中で、業界検定など能力評価の仕組みを整備、職業能力の見える化を促進するという課題が政府全体の中で位置づけられ、これを具体化していくための検証、政策提言をいただくために昨年9月来、この研究会を開催し、報告書をおまとめいただいたということでございます。これがまず今回の研究会の議論の前提でございます。

 続きまして、A3のペーパーのお戻りいただきまして、今回の研究会報告のポイントについて、ごくかいつまんで御説明申し上げたいと思います。

 最初に、左下の「2 検討の基本的視点」から御説明申し上げたいと思います。今回の研究会の中では今ほど申し上げましたような、日本再興戦略上の要請等を踏まえ、能力評価施策上の必要性・緊急性、また、その仕組みがきくのかどうか、実際に機能するのかといった観点から、議論の重点について御議論いただきました。その中で、対象労働者層としては、能力開発に係る外部性が高い正規雇用労働者を初めとするキャリア形成上の課題を抱える各層をターゲットとすべきではないかということで議論をおまとめいただいたところでございます。

 ちなみに、報告書本体のほうも横に置いていただければと思いますが、そちらの5ページで今ほど申し上げました非正規雇用労働者を今回の研究会議論の中でターゲットとする考え方について整理させていただいておりまして、この部分では特に黒澤委員からいろいろ御指導いただいたわけでございますけれども、非正規労働者について個人の立場でも、企業の立場でも能力開発の投資を行ったとしても、自身にその成果が還元しにくい。むしろ転職先企業にその成果が帰属しやすい構造にあるといったことを分析した上で、国・公が財政面・技術面を含めた政策からアプローチを行う。外部性を行うことの必然性といったことについて考え方をおまとめいただいたものでございます。

 また、A3に戻りまして、評価対象とする能力に関しましては、ジョブ型労働市場を形成する業種・職種の右側に台形の図がございます。職業能力の構造について、下には業種・職種共通能力、一番上には企業特殊能力があり、その中間に赤点線で業界内の共通能力といった部分がございます。この赤点線の中の業種・職種固有で、しかも業界内共通の職業能力、より具体的にはナレッジ、スキル、コンピテンスといったものを主たる評価の対象として位置づけるべきではないか、こういった考え方のまとめをいただき、さらに、こうした業界内共通能力がきくかどうかという観点で、レベル的にはエントリーレベルか概ねミドルまでといったあたりを主に視野に入れていただいたということでございます。

 次に、こういった分野をターゲットとした議論をする中での能力評価、現行制度の現状課題分析、諸外国制度についてのヒアリングや、国内の能力検定にかかわる団体・企業のヒアリングなども多数実施したところでございます。その中で、現行の中心的な仕組みである技能検定制度に関しまして、労働者の能力開発の目標として、あるいは職場内の共通言語といった内部労働市場型の観点では多くの場合機能していると。ただ、他方で技能検定制度に関し、外部労働市場型、例えば採用等で十全に活用されているのかというと、それは参考程度の活用にとどまっている。

 また、この後御説明申し上げます対人サービス職種といった非正規雇用労働者のキャリア形成上の課題が特に具体化しているといった分野を考えた場合に、国による強い関与の仕組みを設ける技能検定制度の今の仕組みに関しては、ものづくり技能等の分野には親和性は高いけれども、今ほど申し上げましたような対人サービスといった職業能力の変化多様性の程度が高い分野には親和性が低いのではないか。今の仕組みを単純に広げるだけでは有効に機能しないのではないか、こういった考え方もおまとめいただいたところでございます。

 これをさらに普遍化いたしまして、すぐ上の図でございますが、横軸は業種・職種、縦軸は能力の水準を示しているものでございます。職業能力評価の設計に関しましては、評価対象とする能力の基本的属性に応じた設計・運用を図るべきという考え方に基づきまして、どのような軸で評価対象とする職業能力をグルービングすべきかという御議論をいただく中で、上にございます矢印でございますが、職業能力が技術や制度や企画などに規定される、したがって、普遍性が大きい、これが左側に向いている軸でございます。また、生命・安全確保の観点でより厳格な能力評価が必要、これも左に向いている軸でございます。他方で、労働市場における流動性あるいは能力開発の外部性が高い、これは右側に向いている軸でございます。こういった3ないし4ほどの基軸に基づいて、職業能力あるいはそれにかかわる業種・職種を分類した場合に、一番左側のよりリジットに評価を行うべきグループ、医療職であったり、車両運転職であったりについては、ほとんどの場合既にライセンス制度が確立している。その次にリジットな能力評価が求められる分野、典型的には技術職やものづくり技能職と認識しております。この分野については、抜けはございますが、先ほど申し上げました技能検定制度がかなりの程度カバーしている。他方で、一番右には、そもそも個別性・多様性に職業能力の価値の厳選がある、検定などによる能力評価がなじまない分野というものが存在し、その間に言わば対人サービス職種あるいは専門事務職が位置しているのではないかという考え方の整理でございます。

 今、申し上げました分野についても検定などの職業資格制度が必要かどうかといえば、当然必要ではあるけれども、左側に比べると厳格な能力評価は必ずしも求められないということで、これまでは公的で市場性がある資格制度は必ずしも確立していなかった。ただ、この分野が産業就業構造の変化の中で労働市場におけるウエートが高まり、今後の雇用吸収力が見込め、同時に今回課題設定をいたしました非正規雇用労働者等のキャリア形成上の課題がより顕在化している分野であって、そういった状況を踏まえるならば、この分野の職業能力の特性にマッチした新たな能力評価の仕組みをつくるべきではないかというのが、今回おまとめいただいた考え方の一番大きなポイントでございまして、4の左側、具体的な提言の部分でございますけれども、今ほど申し上げましたような分野を対象に、再興戦略でも位置づけられている新たな業界検定といった仕組みを整備するべきではないかと。その考え方として、現場で求められる職業能力を直接把握・分析できる立場にあるという点、また、採用人事の主体であるという点。主にはこの2つ観点から、企業及びその団体である業界団体が、この業界検定の開発・運用の主体となるべき、これが1点。

 同時に、業界任せということではなく、先ほど申し上げましたような外部性を克服し、利用者・関係者とのかかわりで、信頼性・安心感を確保する等々の観点から、国がこれまでの技能検定の仕組みに比し、より弾力性がある関与の仕方で質保証、さまざまな支援を行う必要があるのではないか。こういった役割の組み合わせによりまして、対人サービス職種等の特性に応じた能力の多様化・変化にも柔軟に対応できる実践的な評価ツールの整備が期待できるのではないかと。ここが今回の研究会報告の一番のポイントです。

 加えまして、技能検定制度に関しましても、ものづくり人材養成等の観点から、継続的・安定的運用を図るとともに、外部労働市場での活用を比した試験実施方法・内容の改定をすべき。

 さらには、能力評価制度が機能する上で、諸外国ヒアリングを通じても極めて多種多様であったわけですけれども、ほぼ唯一の共通点としては、能力評価と教育訓練が連動している場合にワークするという点ではなかったかと認識しております。共通の人材像、求められる職業能力共通像に基づきまして、能力評価と教育訓練プログラムを一体的に開発・運用するとともに、キャリア形成支援、その他労働市場政策上、統合的な運用の仕組みを整備していくということが極めて重要。

 さらには、まさにこの有識者会議のテーマでございますけれども、多様な働き方の実現などにかかわるモデルの普及促進の検討に当たっても、この職業能力の見える化ツールの有効活用が期待されるといった御提言をおまとめいただいたところでございます。

 今後の展開でございますが、このたびおまとめいただきました報告書の政策提言の方向性を踏まえ、2枚後にポンチ絵もお示ししておりますけれども、当面はこの業界検定に関し、本年度当局の予算事業として業界検定スタートアップ支援事業といったものを位置づけております。こういった国の予算面も含めたサポートの中で、今ほど申し上げましたような採用・人事での活用方針の明確化、あるいはキャリアラダーとして活用するわけでございますから、合格・不合格だけではなくて、階層性を持ち、その業種・職種の特性に応じた多様な評価手法などを織り込んだ業界検定のまずはモデル事例を整備し、また、今回いただいた研究会政策提言を踏まえましての制度化の検討も行い、こうした業界検定さらにはブラッシュアップした技能検定制度と、右側にございますさまざまな類型の教育訓練プログラムを有効に組み合わせることによって、上にございますポンチ絵、非常に単純化したものでございますが、一定の能力を習得するための教育訓練機会を提供し、その成果を業界検定なり技能検定、その他の方法で評価し、例えば3級ということで評価された場合には、3級ということである種交渉された能力に従った非正規雇用労働者としての就職、さらには、より上のレベルでの能力開発、それに即応したレベルでの検定合格、こういった成果を持って、正社員あるいは職務型の正社員といったことでの一層のキャリアアップを図っていく。

 現実問題としては、業界検定、技能検定の分野と右側にございます教育訓練の分野というのは現状できちんと重なり合っているわけではございませんので、制度的また分野の重なりを持たせるためには、少し時間が必要と思っておりますけれども、今ほど申し上げましたような、予算事業の中でのモデル事例、さらには何らかの形での制度化といった取り組みを今回の研究会報告書の方向性を踏まえ、段階的に整備し、さらには、本有識者会議における議論の方向性を踏まえた形で、多様な働き方の実現、非正規雇用労働者のキャリアアップのための有用な物差しとして活用し、ひいては労働市場全体としてのインフラとしての職業能力評価の仕組みの整備拡大を図っていくといった考え方で、今後の施策を推進・展開していきたいと考えているところでございます。

 大変雑駁でございますが、今回の研究会報告書のポイントと、それを踏まえての当面の政策展開の考え方は以上でございます。

 よろしくお願いいたします。

○今野座長 ありがとうございました。

 それでは、何か御質問があればどうぞ。

○水町委員 最後のところで、平成26年度より予算事業で業界検定スタートアップ支援4団体というところの具体的な中身を聞きたいのですが、例えば、4団体でどういう検定試験が予定されているのか、教育訓練と車の両輪なので、どういう訓練がなされることが予定されているのか、それは次の課題なのか。そして、それがこの懇談会との関係で言うと職種限定の職種というのが見えるのか、そこを教えてください。

○伊藤能力評価課長 まず、この業界検定スタートアップは今年度の予算事業でございまして、実施業界団体については、一定の要件のもとで企画の募集を行い、企画の競争によって選定するという手続で、既に選定済みでございます。具体的に申し上げますと、先ほど申し上げました対人サービスあるいは専門事務職等の分野にかかわる職種を持っている業界団体という考え方。1つには、まず流通関係で、日本百貨店協会が対象になっております。それから、学習教育業というジャンルでくくれるかと思いますけれども、全国学習塾協会といった団体が対象になっているところでございます。それから、健康産業というふうに私ども一般化して申し上げておりますけれども、日本フィットネス産業協会が対象。それから、派遣請負業では日本生産技能労務協会、こういった4つの業界それぞれ1団体、4つの団体が具体的なスタートアップ支援の対象団体になっているところでございます。

 具体的な職種の考え方でございますけれども、今回の研究会の中でも業種と職種の関係をどう整理するのかというのが一つの大きなポイントでございます。なかなか整理が悩ましい部分でございました。最終的には、職業能力評価制度に位置づけるに当たっては、職種が対象という考え方でございますが、具体的な事業展開ということを考えた場合には、一般的には産業界において影響力を持ち得る団体については、大体業種別に構成されているケースが多数ということで、まずはプラクティカルな観点で言うと、業種別の業界団体を事業としてはとらまえた上で、当該業種、業界団体に係る代表的な職種をその中で具体的な検定開発の対象としていくという二段構えの考え方でございます。

 今申し上げました4つの事例の中で幾つか例示的に申し上げますと、これは非常にわかりやすいのですけれども、学習塾協会であれば、例えば塾講師といったものを最も主要な職種として対象としていくと。百貨店協会であれば、扱う商品によって求められる知識・技能が相当程度異なるということで、これはまだ完全に確立しているわけではないのですけれども、代表的に言うと例えば、紳士服、婦人服あるいはギフト部門の販売員、典型的にはこういった職種を対象にしていく。それぞれの業界の中での対人サービス系の代表的な職種を選定していくという考え方でございます。

 教育訓練プログラムとのかかわりについては、この業界検定スタートアップを予算事業として企画した段階では、まだこの研究会報告書をいただいていなかったということで、今回の調達に当たりましては、教育訓練プログラムとの結びつけをマスト要件とはしておりません。ただ、既にそれぞれの業界独自で教育訓練プログラム、今回の業界検定の目的に通ずるような人材育成、一部能力評価を行うことを目的とした教育訓練プログラムを独自に持っているような業界もございまして、そういった業界の取り組みに関しましては、今回の研究会報告を受け、検定スタンドアローンで運用するというよりは、その検定で図ろうとする能力を養成するための教育訓練プログラムのブラッシュアップと、それから、その成果を測定する検定というのを、できるだけパッケージ型で開発・運用をしていきたいという考え方がございます。

 評価の指標に関しましては、本当に業種・職種によって多種多様でございますけれども、例えば、先ほど申し上げました流通販売系であれば、具体的な売り場場面、扱う商品も含めてでございますけれども、典型的な場面を抽出した上でのロールプレーイングや、ロールプレーイングの結果を含めた面接といった手法が現時点で言うと念頭に置かれる、想定されるところでございます。

 いずれにしても、先ほど申し上げましたように、業種・職種ごとに評価すべき能力が多様であるという観点で、その多様性を内包した仕組みとしての業界検定を開発したいということで、それぞれの業種・職種に即応した最もふさわしい有効な評価の手法についても、この事業を通じ開発を進めていきたいと考えているところでございます。

○今野座長 佐藤委員どうぞ。

○佐藤委員 こちらで多様な正社員の議論とどうつながるかで、例えば、塾講師やインストラクターは有期が多いですよね。それは既にそういう形でやっているのだけれども、余り限定していないものをどう限定するかという議論をしているのだけれども、百貨店の場合は多少関係するけれども、他方で、紳士服というふうに限定するかどうか。販売職と限定する可能性はあると思うのですけれども、婦人服担当ですという限定はまずないと思うんです。もしあるとすれば有期契約の人はあり得ると思いますけれども、だから、本当にそちらの議論とつながるのかどうかなんですよね。それがちょっと気になります。

○伊藤能力開発評価課長 実際の百貨店企業の従業員のキャリアパスということから考えた場合に、あくまでもまだ例示でございますけれども、このロット・幅というのが確かに狭い印象があるというのはそのとおりであると私も思っております。今回の業界検定スタートアップ支援事業のそもそもの考え方として、このスタートアップで選んだ団体のまたその中で当面スタートアップで位置づける、場合によってはいささか狭い職種の検定手法が開発されればそれでいい、それ自体が目的というよりは、それはあくまでもモデル事例であって、それを核としながら当該業界団体においても自発的に評価対象能力の幅を広げてもらう。

 あるいは、今、流通の中での百貨店ということを申し上げたわけでございますけれども、流通全体の中で言うと、当然業態によって求められる能力の質も相当程度違うわけでございますが、対人販売あるいは商品知識という意味でも当然共通する部分もあって、例えば、選定された百貨店協会において特定の2あるいは3の売り場にかかわる必要なスキルを評価する理想的な手法を開発する中で、それは百貨店という業態の中でも横展開してもらうとともに、もちろん業態が異なるとそういう設定のほうがより大きくなってくるわけですけれども、一部使える部分を参照しながら、ほかの小売の業態の中でもより効率的な、ゼロからつくると2年かかるけれども、参照する事例があるからということで半年、1年で開発するといった形で、モデルに依拠した形での横展開を類似の業界の中でも図っていきたいというのが、このモデル事業の位置づけでございます。

○佐藤委員 私は、こういうのがつくるのがどうこうではなくて、多様な正社員の議論につながるかどうかというだけの話で、これがいけないとか間違っているという意味ではないのですが、それとこっちが直接つながるかどうか、結構難しいかなと思っているということだけです。

○今野座長 ほかにいかがですか。よろしいですか。

 それでは、時間ですので、伊藤さんありがとうございました。

 きょうは、労働条件明示について議論をいただきまして、いろいろあってすごくいいアイデアがたくさん出てきて、何となく最後ずっと議論を聞いていたら落としどころが大体決まってきたかなという気もしますので、事務局に頑張っていただいて、もう一度整理をしていただきたいと思います。その意味できょうは、大変有益な議論ができたかなと思います。ありがとうございました。

 それでは、次回の議題は雇用保障について予定をしております。日程等については事務局からお願いします。

○村山労働条件政策課長 日程は、次回は4月30日で調整させていただければと思いますので、よろしくお願いします。

 あと、今、最終的にいい方向でというふうに座長にもおっしゃっていただいて、大変難しいテーマを2回にわたってやっていただきまして、大きな整理、必ず限定すべきか、すべきではないかということではなくて、有無について明示することが紛争の防止や予測可能性の向上につながるとか、あるいは明示について一律の刑罰法規である第15条自体に位置づけるというのはどうかと。その手前のところで山川委員からソフトローという話も出ましたが、さまざまなやり方ということで方向感を示していただきました。

 一方で、事務局としては、できたらソフトロー的な手法でもう一歩というときに、どういう切り口でというお話もいろいろありましたけれども、その辺についてもう一度具体的なお知恵をいただければと思っているところもありまして、これは規制改革の実施計画等でも特にここのところは、この懇談会でより一歩具体的にというお話もいただいて、特に重点的な課題ということにもなっておりますので、きょうのお話ですと、助成措置や税制優遇という話でもないだろうということがあって、市場の情報との関係があるかもしれませんが、個々の使用者行動等を考えた場合に、どういう作用があるかというところもまたいろいろあるだろうと思いますし、一方で、キャリア形成と結びつけて、あるいは説明というようなキーワードも出ていたと思いますし、また最後、黒澤委員から本来の趣旨目的というか、このことをやろうとしている趣旨目的と結びつけた議論が必要だということがありましたので、次回は多分、雇用保障の関係というのは、まさにきょうも出ていましたけれども、裁判例の関係を見ていただくことになると思います。そうすると、必ず今度は逆に、もう一回翻って入り口の限定の議論を深めていただく機会等もあるかと思いますので、もう一度そこのところを具体的な選択肢を含めて、より具体的に報告書に何を盛り込んでいくか、またその後を御議論いただければありがたいと思っているところでございます。

 雑駁ですが、以上です。

○今野座長 きょうは珍しく具体的な宿題をいただいて終わりにするということになりました。

 では、終わりにいたします。どうもありがとうございました。


(了)

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