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2013年11月25日 第55回社会保障審議会年金数理部会 議事録

年金局

○日時

平成25年11月25日(月)13時30分~16時30分


○場所

全国都市会館大ホール


○出席者

山崎部会長、牛丸委員、翁委員、駒村委員、佐々木委員、田中委員、野上委員、林委員

○議題

公的年金財政を考える
 (1)諸外国における財政バランスの考え方と自動安定化メカニズムについて(ヒアリング)
 (2)公的年金の財政状況について
 (3)その他

○議事

○清水首席年金数理官

 定刻になりましたので、ただいまから第55回「社会保障審議会年金数理部会」を開催させていただきます。

 審議に入ります前に、皆様方のお手元の資料の確認をさせていただきます。

座席図と議事次第の他、次のとおりでございます。

 資料1-1、ヒアリング関係資料。

 資料1-2、事務局参考資料。

 資料2、「公的年金財政状況について」でございます。

 配付資料は以上でございます。

 次に、本日の委員の出欠状況について御報告いたします。

 本日は、宮武委員が御都合により御欠席でございますが、他の先生方は全て御出席でございます。御出席いただきました委員の方が3分の1を超えておりますので、会議は成立しておりますことを御報告申し上げます。

 それでは、以後の進行につきましては、山崎部会長にお願いいたします。

 

山崎部会長

 本日は、会場の皆様方には、御多忙の折、お集まりいただきまして大変ありがとうございます。

 本日の議題は「諸外国における財政バランスの考え方と自動安定化メカニズムについて」「公的年金の財政状況について」であります。

 今回の年金数理部会は、公的年金財政をめぐって、数理的な視点を中核としながら幅広く正確な情報を発信することにより、多くの方々、とりわけ公的年金財政に関心のある方々に、公的年金財政に対する理解及び年金数理部会の活動に対する理解を深めていただくため、外部講師として野村総合研究所、坂本純一氏をお招きし、ヒアリング、意見交換を行うこととしました。

 坂本さん、御登壇ください。

 

(坂本氏 登壇)

 

山崎部会長

 それでは、カメラの方はここで退出をお願いいたします。

 

(報道関係者退室)

 

山崎部会長

 それでは「議題1 諸外国における財政バランスの考え方と自動安定化メカニズムについて」、最初にヒアリングとして、基調講演を行いたいと思います。

 事務局より講師の紹介をお願いいたします。

 

○清水首席年金数理官

 それでは、ヒアリング関係資料1-1、表紙をめくっていただきまして、1枚目をごらんください。

 坂本純一さんのプロフィールが書かれてございます。

 昭和50年に厚生省に入省されまして、平成11年に年金局の数理課長になられ、平成16年に株式会社野村総合研究所に移られたということでございまして、現在、株式会社野村総合研究所、金融ITイノベーション研究部の主席研究員でおられます。公益社団法人、日本アクチュアリー会の理事をされております。国際アクチュアリー会の社会保障委員会の委員長でもおられるということでございます。

 それでは、私からは以上でございます。

 

山崎部会長

 ありがとうございました。

 それでは、坂本さん、よろしくお願いいたします。

 我々もスクリーンを見る都合から席を移動いたします。

 

(委員座席移動)

 

坂本純一氏

 ただいま御紹介にあずかりました、野村総合研究所の坂本でございます。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 今日は、数理部会にお招きいただきまして、本当にありがとうございます。


 これまで、幾つかの国につきまして、人口の高齢化に伴う公的年金制度の改正の動きを調べてまいりましが、それをまとめる機会を与えてくださいまして、大変光栄でございます。

 今日は、それを中心として人口の高齢化とともに公的年金制度をどのように改正してきたか。そしてまた、改正をするに際しては必ず政策判断が必要になるわけですけれども、そのときの政策判断に必要なものが財政見通しと言われるものになりますので、この財政見通しについてどう考えていったらいいかというあたりにつきまして、国際アクチュアリー会という会があるのですが、そこでつくっておりますある種の実務基準を御紹介させていただいて、議論の素材にさせていただけたらと思っております。

 それでは、今申し上げましたことを、プレゼンテーションでまとめてございますが、特に、公的年金制度の持続可能性を確保する動きを概観することと、公的年金制度に関する意思決定において財政見通しの果たす重要な役割に鑑み、その質を確保するための基準を考えることを、このプレゼンの目的とさせていただきたいと思います。

 まず、最初でございますけれども、高齢化の進展下における持続可能性維持のための方策でございます。

 この点につきましては、ある意味で大きな動きといいますのは、昭和60年、1985年の年金改正がまず、挙げられるかと思いますが、その前に、1980年にも法律改正は実現しませんでしたけれども、非常に大きなテーマとなりました支給開始年齢の引き上げの問題がございました。

 そのように、我が国は、1980年代から人口構造の変化に伴う公的年金制度の持続可能性を高めるための取り組みをやってきていたということが言えるかと思います。なぜそういうことが必要になったかということにつきましては、我が国の人口構造の変化にある意味で特徴があるということが言えるかと思います。

 1つは、欧米の先進諸国よりも人口の高齢化の動きが早くあらわれたということが言えるのではないかと思います。

 人口の高齢化の動きが早くあらわれたということは、早くから高齢化したのかというとそうではなくて、若い段階から欧米諸国を追い越して高齢化していくという、そのプロセスが非常に短期間のうちに起こったことが特徴ではないかと思います。

 将来を見通しても、それがどんどん増えていくという見通しになるので、問題意識としては早く手当しなければならないという問題意識が出てきたのだということが言えるのではないかと思います。

 そういう意味で、公的年金制度の持続可能性を高める改正の動きは、我が国の方が欧米諸国よりも早かったということが言えるかと思います。

 国連の人口統計から幾つかの統計資料を集めてみました。

 まず、平均余命の推移というところですけれども、やはり1975年あたりから我が国の平均余命の延びが非常に大きくなっております。このあたりから欧米諸国を追い抜いて、ある意味で、世界でトップクラスの水準になってきたということが言えるように思います。

 また、合計特殊出生率、「期間」をつけておりますが、普通に取り沙汰されます期間合計特殊出生率につきましても、我が国は1980年頃からどんどん低下してきた特色があるかと思います。

 そういうことが相まって、65歳以上人口の割合が非常に急激に増えてきた。1975年頃は7.9%という、65歳以上人口が全人口に占める割合がこれくらいだったのが、20年後の1995年には14.4%と、7ポイント弱増えていることが言えると思いますが、その他の国は、延び自体そんなに大きくない。1975年頃は、日本は、まだ7.9%で、アメリカが12.5%、カナダは低かったのですけれども、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアといったところは、みんな2桁に到達しているという、かなりまだ若かった時代から非常に短い期間で高齢化していったことが言えるかと思います。

 こうした特徴から、日本の高齢化に伴う公的年金制度の先駆的改革の時期が他の国に比べて非常に早かった。大体、アメリカ以外は、みんな90年代から改革が起こっているわけですけれども、日本は、先ほど申し上げましたように、65歳への支給開始年齢の引き上げが、1980年改正のテーマになっていた。そして、1985年には支給開始年齢の引き上げはありませんでしたけれども、基礎年金の導入とか給付水準の適正化といった、非常に大きな改正が行われたということで、10年ぐらい日本の方が早い動きをとってきたということが言えるかと思います。

 それに対して、アメリカが1983年にレーガンのときのグリーンスパンが中心になってつくりました年金改正が行われたわけですけれども、これはどちらかというと、保険料の引き上げが足りなかったために支払いができなくなった。それを補うために慌てて大改正をやったということがありますので、人口の高齢化ということの意識よりも当面のやりくりをどうするかということの問題意識の方が強い改正だったように思います。

 そういう意味では、アメリカの1983年の改正というのは、人口の高齢化に伴う公的年金制度の改正という色彩は若干弱いということが言えるかと思います。

 ドイツは1991年に幾つかの改正をやっておりますが、代表的なのは可処分所得スライドの導入。

 フランスは1990年代の後半に本格的な改正をやりまして、法律で年金審議会を規定して、3年に1度、財政状況を見直していくという改正をここでは行っておるわけでございます。

 イタリアも1990年代に入りましてからスライドのやり方を、1人当たりの賃金上昇率から経済成長率、GDPの伸び率によってスライドする。そうすると、人口の減少が間接的にそこに反映されてくるということで改正をやったということがございました。イタリアはさらにその後改正を続けて、最終的にはスウェーデンと同じタイプの年金制度にしているというのが今の状況だと思います。

 スウェーデンは、1990年頃から改正の議論を始めたのですが、10年かけて、後で詳しく見ていきますが、概念上の拠出建制度と、それに付随する財政の自動均衡措置を導入したという改正を90年代に行ったということがあるかと思います。

 カナダも1997年の改正で、98年から実施されましたけれども、97年の改正である種の財政の自動均衡措置というのを入れまして、積立金のレベルが減少しない財政運営をしていく改正を行ったということがございます。

 韓国は1998年に、まだ比較的新しい制度で、88年の法律で導入された制度でございますけれども、90年から実施されている制度でございますが、98年には、急速な人口の高齢化を意識して財政再計算規定の導入、これは我が国の規定をかなり研究したようでございます。それと、支給開始年齢の引き上げをここで行っております。

 このように、我が国の持続可能性維持のための先駆的改革の時期というのは、他の国に比べて早かったということが特徴として言えるのではないかと思います。

 ある意味で、我が国の制度運営には、非常に大きな長所といいますか、規律がございまして、それは、昭和29年の厚生年金保険法の改正で財政再計算規定が導入されたことがございます。これが以降の制度運営の規律となったということが言えるのではないか。そして、制度を財政再計算に合わせて定期的に見直す慣行が形成され、それによって我が国の急激な人口の高齢化に伴う財政の影響を、ある意味で、徐々に回避していくことができた。大型タンカーのかじを徐々に切っていくことができたということが言えるのではないかと思います。

 先ほど、フランスが1990年代の後半にいろいろ年金制度改革に着手したということを申し上げましたが、それまでは、フランスは財政再計算規定がなくて、フランスの年金制度の財政というのは、パンドラの箱だと言われていたようでございます。誰も開けたがらないということがあったのですけれども、日本の財政再計算の規定があるというのを、Le Mondeの論説が、98年の論説だったわけですが、そこで、Le Mondeがそういう紹介をしまして、日本は幕末から明治維新にかけて西洋の文化をいろいろ輸入したと。今度は日本が輸出する番だという言い方で、Le Mondeの論説は書いておりましたけれども、我が国の財政再計算規定というのは、フランスからも注目されたことがございました。

 これから、公的年金制度の財政を見るに、どういう視点で見ていったらいいかということを考えていくわけですけれども、Nicholas Barrという、イギリスの非常に著明な財政社会学といったらいいのでしょうか、その先生がおられますが、このNicholas Barrが命題としてこういうことを挙げております。

 公的年金財政の持続可能性を維持するための方策は次の4つしかなく、それ以外の方法はないと。

 1つは、保険料の引き上げである。その他給付の削減、支給開始年齢の引き上げ、あるいは経済成長政策。経済成長するときには、例えば負担を増加させる余裕ができるとか、そういうことがあります。そういう意味で、この4つしかないと。この4つ以外のことを言う改正論はまがいものであるということを言っているのです。これが社会保障制度改革国民会議の報告書の中でも、この箇所が取り上げられておりますが、Nicholas Barrが最初に言いましたのがいつかというのはわかりませんけれども、2009年のカナダで開かれましたISSAの会議でも同じような命題を言っていたのを記憶しております。Nicholas Barrにとっては、いろいろな議論の中からきちんとした議論をするためには、こういう議論しかないのだと。公的年金制度の持続可能性を確保するための議論は、こういうものしかないということを彼は強調したということが言えるかと思います。今年の1月に東京で開かれましたIMFの会議で彼はこういうことを言ったということでございます。これからのお話もこれを出発点にしたいと思います。

 今、見ていただきましたように、保険料の引き上げと給付の削減、支給開始年齢の引き上げ、経済成長政策とありますけれども、保険料の引き上げと経済成長政策がなかなかできないのが現実だろうと思います。そういう意味では、給付の削減と支給開始年齢の引き上げというところに、どうしても焦点が当たってくる。

 少し話は脱線しますけれども、ちょっとおもしろいのは、カナダが今、議論しております改正は給付の削減ではなくて、給付の引き上げを少しやろうと、そんな大幅な引き上げではないのですが、少しやるという議論をして、案はできておりまして、2つの州が同意したと、あと、残りの州が同意すれば恐らくそれが成立するだろうと言われているのですけれども、そういう珍しい動きはあるのですが。

 一般の動きとしては、この中で保険料の引き上げが難しい。経済成長政策もどうなるかわからないということで、給付の削減と支給開始年齢の引き上げに集中しているということが言えるかと思います。

 そういう意味では、給付の削減を自動的に実現していく自動均衡措置の導入と支給開始年齢の引き上げをセットで議論する傾向が高齢化諸国の年金改正の議論においてはあるように観察できるように思います。当然、Work-longer policyといいますか、できるだけ長く、高齢になって、60歳で引退するのではなくて、60代の後半まで働く、あるいは70歳まで働くことを1つの政策として目指していくと、それもセットで考える方向がとられているというのが言えるのではないかと思います。

 実際、例えばECにおきましては、これがセットで議論されています。Work-longer policyというのと、支給開始年齢の引き上げがセットになっている。自動均衡措置は必ずしも挙げられておりませんが、ECの去年出ましたレポートでは、そういうWork-longer policyと支給開始年齢の引き上げを公的年金制度の改革の方向ということで挙げていたように思います。

 今申し上げましたことをまとめてみますと、中には例外もあるのですけれども、財政の自動均衡措置を非常に多くの国が導入、もしくは検討しているということが言えるかと思います。

 支給開始年齢の引き上げも、多くの国で既に行っています。日本の65歳というのは、今や低いぐらいであるということが言えるかと思います。

すみません。このスライドはちゃんとなっているのですが、お手元の資料でノルウェーのところが違っております。62歳から75歳に選択できる。そして、旧法化では67歳だったと修正いただけたらと思います。大変失礼いたしました。

 ノルウェーは、昔は70歳が支給開始年齢で、それを67歳に引き下げて、そのまま今日まで来ていた。2010年の改正でスウェーデン方式を導入して、年齢は62歳から75歳の間で選択できる制度に変わったということがあるようでございます。

 いずれにしましても、支給開始年齢は、日本よりは非常に高い年齢に引き上げられているということが言えるかと思います。

 これからは、特に財政の自動均衡措置としていろいろな形があるというお話をさせていただきたいと思います。

 ここでは、カナダ、ドイツ、ポルトガル、スウェーデン、アメリカを取り上げさせていただきたいと思います。

 まず、カナダの自動均衡措置がどうなっているかでございますが、カナダでは、3年に1度、財政再計算をやることになっております。

 財政再計算は、Office of Superintendent of Financial Institutionsという、恐らく日本で言えば、金融監督庁に相当する部署だと思うのですが、ここの首席アクチュアリーが財政再計算を行うことになっております。

 この首席アクチュアリーは、連邦政府及び州政府、カナダは連邦制ですので、州政府の権限がかなり強いということがございますので、必ず連邦政府と州政府の財務大臣に次の事項を報告することになっております。1つは財政状況の分析結果であり、もう一つは最低保険料率と呼ばれているものを報告することになっております。

 最低保険料率が何かということなのですけれども、これは、この2つの保険料率の合計率になっております。

 1つは、財政均衡期間(75年)の間に積立比率が現在より下がらない最小の保険料率。もう少し厳密に言いますと、13年後の積立比率と65年後の積立比率が同じになる最小保険料率と規定されているのですが、考え方は、積立比率が下がらないようにすると、そういう考え方でつくられている規定でございます。

 それから、給付改善があった場合には給付改善分を、これは、企業年金と同じ事前積立方式で積み立てたとした場合の保険料率をここでは計算する。そして、この2つの保険料率の合計率を最低保険料率と呼んでいるということであります。

 先ほど、今、カナダが珍しく給付改善を考えているというお話を申し上げましたが、その部分については、この規定が適用されまして、給付改善があった場合には、給付改善分を事前積立方式で積み立てるとした場合の保険料率を計算して、最低保険料率に組み入れるということで、今、議論しているということのようでございます。

 カナダペンションプランの自動均衡措置がどういうものであるかを次に述べております。

 首席アクチュアリーから報告された最低保険料率が現行の保険料率よりも高くなると、つまり、保険料率を引き上げないといけない場合でございますが、この場合には、連邦政府及び州政府の財務大臣は、保険料率の改定または給付と保険料率両方を見直す法案を準備しなければならないということになるわけでございますが、これは、ある意味で苦痛を伴う改正になりますので、果たして合意が得られるかという問題になってくるわけでございます。その場合に、もし、財務大臣間で合意が得られずに法案が準備されない場合には、自動的に次の措置をとることと法律で規定されております。

 それは、最低保険料率と現行保険料率と差の半分の率だけ3年かけて、つまり、次の財政再計算までに法定保険料率を引き上げるという措置と、次期財政再計算までの給付のスライドを停止する。この2つの措置が自動的に発動されることになっております。これがカナダペンションプランの自動均衡措置ということであります。

 このカナダペンションプラン、CPPの自動均衡措置の特色というのは、1つは受給者と現役被保険者が痛みを分かち合っている。支給者もスライドが行われないし、現役被保険者は自動的に保険料率が引き上げられる。そういう意味で、痛みを分かち合っているということが言えるかと思います。

 また、この考え方は、ある意味で幅広い給付設計に適用できるということで、後で申し上げますけれども、スウェーデンの自動均衡措置は非常に限定的な給付設計に対して適用できるものであるのに対して、これは割と幅広い給付設計に適用できるということが言えるのではないかと思います。

 ただ、この措置で問題と考えられますのは、保険料率がどこまでも上がるという不安感は残るということでございます。また、この措置で財政均衡が図られることは必ずしも言えないことも問題点と言えるでしょう。部分的には図っていくことはできるわけですけれども、100%図られるということは言えないということでございます。

 さらに制度の初期段階といいますか、カナダのような成熟して制度を持っている国は別として、公的年金制度をこれから始める国では、こういう考え方は適用できない。まだまだ積み立てレベルが非常に高くなっていく時期でありますので、そういうところでは、これは適用できないということが言えるかと思います。

 それから、カナダの自動均衡措置においては、非常にユニークな外部評価(peer review)制度を持っております。その内容というのは、財政再計算報告書が保険料率の自動引き上げや、給付のスライド凍結につながる。つまり、自動的に保険料の引き上げとか、給付水準の引き下げにつながっていますために、首席アクチュアリーの財政再計算報告書というものの社会的な意味が非常に重いということから、これを外部評価して、しっかりつくられていることを確認した上で運営していくという規定が置かれております。それを外部評価と呼んでおりまして、カナダ人のアクチュアリー4人からなる評価のためのパネルが設置されるということでございます。

 ところが、この4人のアクチュアリーの人選なのですけれども、イギリスの政府アクチュアリー院(Government Actuary's Department)というところが行うことになっております。

 つまり、イギリスとカナダが相携えてこういうことをやるという規定になっておりまして、これはある意味で大英連邦と言いますか、commonwealthだからできるということなのだとは思うのですけれども、ある意味で客観性を担保する非常に強い枠組みをつくっております。英語という同じ言葉だからできるということもあるのだと思いますけれども、非常にユニークな外部評価制度だと思います。

 パネルは評価レポートを公表いたします。首席アクチュアリーの報告書が、どういうところがよくできているのか、どういうところがまだ問題であるとか、そういう評価レポートを公表しますけれども、それに対して、GAD、イギリスの政府アクチュアリー院はまた意見を付すことになっております。これらの手続きを踏む節目節目で新聞発表が行われるという規定になっております。自動的に社会生活に対して影響を及ぼしますので、これぐらいの厳格な評価制度を設けていることがあるのではないかと想像できるところであります。

 以上がカナダでございまして、次に、ドイツに移りたいと思います。

 ドイツの持続可能係数というのが、財政の自動均衡措置になっております。

 ドイツの老齢年金額というのは、年金単価といいますか、年金現在価値と呼ばれているようでございますけれども、年金単価にポイントを掛ける。このポイントというのは、被保険者の1年間の年収が平均年収の何倍になっているかという倍率をあらわすポイントでございますが、このポイントを累積したものを年金単価に掛けて年金額が計算されるということになっておるわけでございます。

 この年金単価を改定していくことによって、ドイツの年金はスライドが行われることになるのですが、現在は、変形版可処分所得スライド。1991年に可処分所得スライドが導入されましたけれども、そのうちに環境税の導入などで所得減税などが行われまして、若干変則的なことが起こったことから、今は、変形版可処分所得スライドに変わっておりまして、当年の年金単価は前年の年金単価に賃金上昇率を掛けて、さらにリースター係数を掛ける。このリースター係数というのは、リースター年金は任意の制度ですけれども、リースター年金はいわゆるDC制度で、そこに個人個人が掛け金を掛けていくわけですが、掛け金上限が定められておりまして、その上限が段階的に引き上げられることになっておりまして、その引き上げに応じて若干減らす内容になっておりますが、今は、引き上げがありませんので、1ということが言えるかと思います。

2004年の年金改正で、さらにここに持続可能係数( sustainability factor) というものをこれに乗ずることとなったわけでございます。つまり、当年の年金単価というのは、前年の年金単価に賃金上昇率を掛けてリースター係数を掛けて、さらに sustainability factor を掛けるという形で計算される。この sustainability factor でスライドを調整しているという形で持続可能性を維持していくという趣旨でございます。

 持続可能係数がどういうものかといいますと、前年度の成熟度、年金数理部会で定義されています成熟度ですけれども、その成熟度がその前の年からどれくらい伸びたかを計算いたしまして、その一定割合を引く形で定められている。もともとの定義はここに書かれておりますこの式でございますけれども、ここでアルファはゼロと1の間の定数ということになっております。

 この成熟度の上昇分をm t と置きますと、持続可能係数は1-αm t と書けるわけで、この成熟度にアルファを掛けた一定割合分を反映してスライドを少しずつ削るという趣旨になるわけでございます。法律上は0.25と定められているということでございます。

 この持続可能係数がなぜこういう形で定義されたかは、こう解釈することができます

 総合保険料率という概念が、やはり年金数理部会で定義されておりますけれども、これは、その年の賦課保険料率です。その賦課保険料率、つまり給付総額を報酬総額で割ったものという、この総合保険料率なのですが、これは、分解しますと給付総額というのは平均年金額に受給者数を掛けたもの。報酬総額というのは、平均賃金額に被保険者数を掛けたもの。そうしますと、これは平均年金額を平均賃金額で割って成熟度を掛けたもの。ここで受給者数割る被保険者数が出てきておりますので、これが成熟度になるわけですから、ここで成熟度を掛けたものということになるわけでございます。

 そうしますと、この成熟度の上昇分だけ年金額を削減すれば総合保険料率は一定になるということが言えるわけでございます。賦課方式を旨とするドイツならではの考え方だと思うのですけれども、この総合保険料率を一定にするためには成熟度の上昇分だけ年金額を減らせば総合保険料率は一定になる。そうすると、制度は何とか維持できるだろう。ただし、そこはギリギリと考えるのではなくて、ある一定の余裕を持たせた上で反映のさせ方を考えればいいということで、実際には、さっき見ていただきましたアルファという係数が、ここにかかっているということが言えるかと思います。

 ここで、実際には法律上は25%だけ反映させるという規定になっているということでございます。

 これがドイツの持続可能係数ということでございますけれども、この持続可能係数を乗じまして年金額が下がる場合には、それは下げない。名目額保障規定が置かれている。これは、我が国のマクロ経済スライドと同じであるということになります。

 また、保険料率には上限が設けられておりまして、2020年までは20%。だから、今は20%の時代でございますけれども、2021年以降、2030年までは22%を上限にしよという上限が設けられております。その範囲に保険料率がおさまれば、一応制度の持続可能性は保たれているとみなそうということのようでございます。

 したがって、先ほど総合保険料率を変化させないようにというためにはアルファが1ではないといけないわけですけれども、急激な変化にならないようにアルファを0.25倍する。アルファを0.25と置いた理由は、この上限の範囲以内におさまっていることを見ながら運営していこうという意味のようでございます。

 ドイツの場合おもしろいのは、持続可能係数の導入と支給開始年齢の引き上げが一体となっていたことです。2004年改正法というのはRürup委員会が準備したわけでございますけれども、そのときの年金部会長をしておりましたAxel Borsch Supanという先生が、この2004年の法律改正が成立したときに、支給開始年齢の引き上げがまだ実現していないので、この改正は完了していないという発言をしております。ここは、ドイツが本当に財政の自動均衡措置と支給開始年齢の引き上げを一体で考えていたことをあらわしている1つのエピソードと思われます。

 ドイツの持続可能係数ですけれども、我が国のマクロ経済スライドと非常に結果的に似た構造になっております。それは、ドイツも日本もスライド調整率を定めて、スライドを調整することによって、持続可能性を高めている点で共通しているわけですが、持続可能係数そのものが、マクロ経済スライドと共通項を持っているということが言えます。それは、成熟度の上昇率というのを分解していきますと、(スライドを指しながら説明)こう変形できていくわけです。最終的に、新規裁定者数の増加率と支給開始年齢時における平均余命の延び率と被保険者数の減少率を掛けたものと分解できますので、このうちマクロ経済スライドで使っておりますのは、2つ目と3つ目の支給開始年齢における平均余命の延び率と被保険者数の減少率を使っているわけです。ドイツの持続可能係数は、さらにそこに新規裁定者数の増加率というのを考えていると言えるわけで、非常に類似した構造になっております。

 しかも、日本はある意味でアルファが1のまま2つの項を使ったということが言えるわけですが、ドイツは3つの項を使うかわりにアルファを1じゃなくて、0.25という小さい値にしたということも言えるようなところでありまして、ここは非常に似た構造になっているということが言えるかと思います。

 おもしろい点をもうひとつ加えますと、ドイツの場合は、総合保険料率を一定に保つためにはどうしたらいいかということを考えて出してきた結果ですので、ある意味で、非常に演繹的な考え方をしている。我が国は、年金財政を弱める要素としてどんなものがあるかということで、被保険者数の減少と平均余命の延びというのを考えて、それを要素に取り入れていったという意味で非常に帰納的な発想だった。そういう意味で、和算と西洋数学の違いがここではあらわれているように思います。非常におもしろい改正だったように思います。

 ドイツの持続可能係数の特色としましては、やはりカナダと同じようにどのような制度設計に対しても適用できるということと、適用拡大等で成熟度が減少する局面では、適用できないという、この2つが言えるのかなと考えられるところでございます。これもどのような制度設計にも適用できるというのが特色で、それはある意味では我が国のマクロ経済スライドと通じるところがあるかと言えるかと思います。

 ポルトガルでも持続可能係数というのが導入されておりまして、2007年の改正で導入されました。それは、2006年以降の支給開始年齢65歳における平均余命の延び率でスライド調整を行うということで、そういう意味では、ドイツの持続可能係数は3つの要素、すなわち新規裁定者数の増加率と支給開始年齢時の平均余命の延び率と、被保険者数の減少率という、この3つを考えておったわけですが、その1つの要素だけを使用しているということになるわけで、日本は2つ、ポルトガルは1つということになるわけで、これも共通しているやり方だなという感じがいたします。

 ただ、ポルトガルも今、この要素をふやすことを検討しておりまして、平均余命だけではなくて、その他の要素も考えた上での持続可能係数が導入できないか検討しているようでございます。

 次に、スウェーデンでございますが、これは年金局でも非常に精力的に調べられたところだと思います。

 ある意味で、スウェーデンの自動均衡措置というのは、世界的に注目を集めた枠組みで、スウェーデン方式自体、枠組みで非常に有名であるわけでございますけれども、このスウェーデン方式自体、イタリアのスライド方式の変更、先ほど申し上げましたように、1人当たり賃金上昇率から経済成長率に変えたところから学んだと言われております。

 我が国のマクロ経済スライドというのは、このスウェーデン方式からヒントをもらったということが言えるのではないかと思います。そのヒントというのは、保険料拠出計画の法定といいますか、固定するということと、スライド調整による財政の自動均衡措置を導入するという2つのやり方を、このスウェーデン方式から学びました。

 ただ、スウェーデン方式には1つの大きなある意味で制約的なことがありまして、給付設計の変更を求められる。給付設計を、まず、公的年金制度を老齢年金のみを支給する制度に変更するということと、老齢年金の給付設計は概念上の拠出建て制度と、形は拠出建て制度と同じにするというものでございます。

 概念上の拠出建て制度でございますけれども、これは御案内のように、保険料を16%に固定して、各被保険者に個人帳簿を設けて納付保険料額を記録していく。そして、毎年利息をつけていく。利率は名目賃金上昇率である。そして、61歳以降、何歳からでも受給開始できる。例えば85歳から受給開始するのも可能なようでございます。非常に高い年金額になるわけですが、そこまでつなげることができれば非常にいい生活になろうかと思います。

 年金額は個人帳簿に記録された納付保険料額の元利合計額を年金現価率で割る。そして、年金現価率は予定利率が1.6%、受給開始時直近の生命表で算定された年金現価率ということになります。年金額はその後、名目賃金上昇率マイナス1.6%でスライドされる。

 ここもお手元の資料が違っております。すみません、大変失礼いたしました。マイナス1.6%というのが抜けておりました。修正いただけたらと思います。

 こういう形で年金額が算定されて支給されるというのが、概念上の拠出建て制度、NDCの構造でございますけれども、これは結局のところ、厚生年金の報酬比例部分と同じ構造になっていることになります。

 したがって、厚生年金からNDC制度に移行することは、報酬比例部分だけにするという意味になりますので、厚生年金は基礎年金と相まって所得再分配機能がありますけれども、それがNDCにないということで、所得再分配機能が厚生年金から失われることになるわけでございます。

 財政の自動均衡措置でございますが、均衡比をまず計算いたします。均衡比というのは、ここにありますように、保険料資産と積立金を合わせたものを過去期間対応の給付現価で割った比率です。ここで言う保険料資産というのは何かというと、当年度保険料収入の額に回転期間というものを乗じたもので、それでは回転期間というのが何かというと、これは年金額加重の受給者の平均年齢から、報酬額加重の被保険者平均年齢を除いたものという年数でございます。大体、実績としては、31年から33年ぐらいの間を変化しているということになるわけでございます。

 均衡比が1よりも小さい場合に財政の自動均衡措置が発動される。それは、被保険者の納付保険料の元利合計は均衡比を乗じまして、均衡比が1より小さいわけでございますけれども、これを乗じて元利合計が減らされる。受給者のスライドもこの均衡比を乗じて減ぜられる形で給付額を少し減らすということになるわけでございます。

 なぜこのような自動均衡措置というのを考えたかというお話をしたいと思います。前提としましては、給付設計が概念上の拠出建て制度であるということです。そしてその人口構成が定常的な状態にあるという前提も置きます。この定常的な状態というのは、人口の年齢別の分布が年に伴って変化しないと、常に一定であるということを意味しますが、人口全体が増加したり減少したりということはあるのでございますけれども、とにかく年齢間の割合が変わらない状態のことを定常的状態と呼びます。そういう状態にあるときには、過去期間対応給付現価というのが当年度保険料収入額に回転期間を乗じて得られる額、すなわち保険料資産になるということが数学的に証明できます。実際には積立金もありますので、保険料資産に積立金を加えた金額が過去期間対応給付現価を上回っておれば給付は当面継続できる、逆に下回っておれば給付を削減しないと財政的に不均衡になると考えて均衡比という概念を案出したということができます。

 これは、SettergrenMikulaという2人が、このスウェーデンの財政の自動均衡措置の考案者といわれておりますけれども、特に、Mikulaという人が、この人は数学をやっていた人で、その人が式の変形をいろいろやりまして、結局、過去期間対応給付現価を当年度収入保険料で割ればこういう式に分解できると、これが回転期間だという等式の変形を見つけまして、これを使って財政の自動均衡措置を行っているということでございます。

 スウェーデンの自動均衡措置の特色としましては、非常に技巧的な手法である。しかしながら、財政均衡が回復しているかどうかは不明である。それは、人口構成が定常的な状態というのは、ほぼあり得ない状態でありますので、財政均衡はわからない。かつ給付設計を概念上の拠出建て制度という非常に特殊な設計にしないといけないということがございます。さらに、急速に高齢化している我が国のような国では、非常に緩い枠組みになる。それはなぜかというと、ここにありますように保険料資産が楽観的過ぎるという欠点が出てまいります。現在の保険料収入の規模が、回転期間の間続くとスウェーデン方式では見るわけでございますが、実際には、我が国のような現役の人口が減少していくときには、それは非常に楽観的な前提であって、次の年に財政検証をやったら、当年度保険料収入が減っているという結果が出る可能性があります。それが均衡比を計算するときには減らない前提になっておりますので、そこで常に財政上のギャップが出てきて、財政の自動均衡措置を常に発動していかないといけない事態が発生するということが言えるかと思います。

 我が国がスウェーデンの自動均衡措置を採用しなかった理由は、制度設計が異なる。基礎年金がありますので、概念上の拠出建て制度にはできない。そして、高齢化のスピードがスウェーデンに比べて非常に速いということがあったということが理由だと考えられます。

 一方でスウェーデンがNDCを採用した背景は、1990年頃に財政危機がございまして、そのときに年金改革への要請が出てきた。それと同時に、年金制度の内容そのものにもブルーカラーに不利の給付設計があったということで、1990年頃の財政危機のときに、主にシカゴ学派的な考え方が主流になりまして、世銀方式への移行を検討したようでございます。

 ところが、その検討の過程で二重の負担の問題に直面して、この二重の負担の問題を解決するためにはNCDと自動均衡措置を導入しないといけないという結論に至ったようでございます。

 そういう意味では、もともとの発想が個人年金勘定に変える、拠出建て年金に変えるという発想だったようでございますので、トータルとしては世銀方式が念頭にあるということが言えるかと思います。

 実際、18.5%の保険料率のうち2.5%が個人勘定に拠出されるということで、実際のDC制度になっているわけでございます。

 そういう意味で、世銀方式が残っておりまして、全体としては、やはり公的年金制度に関する限りは、スウェーデンは福祉国家の思想とは異なる制度となっていることが、ある意味で言えるのではないかと考えられるところでございます。

 以上がスウェーデンでございまして、アメリカでも自動均衡措置が検討されております。

 それは、今年のオバマ大統領の予算教書の中であらわれてきたということが言えるかと思います。水面下では随分前からいろいろな検討をしているようでございまして、いろいろな国の自動均衡措置を調査していたということがございます。

 物価スライドの指数をCPIからchained CPIと呼んでいる指数に変更することがここでは提案されております。

chained CPIというものでございますが、これは、1つの品目の値段が上昇した場合に、代替品があれば人々の消費は代替品に向かうことを考慮したもので、例えばマグロの値段が上がったら、ブリの方に、マグロは買わないでブリを買う。そうすると、消費する物価としては影響が出てこないことになりますので、chained CPIの方がCPIよりも低めに出てくることを考慮した指数のようでございます。その差というのは、経験的には0.3%くらいということがあるようでございますが、つまりは、これまでのCPIから常に0.3%ずつを引きながら、スライドするということと同じになりますので、これは、結局、スライド調整の発想と同じことになるわけでございます。アメリカでもこういう議論があるということでございます。

 その他、まだ財政の自動均衡措置を導入していないけれども、今、検討しているのは、フランス、スペイン、ポルトガル、アメリカは今、見ていただきましたが、韓国といったところが挙げられるかと思います。

 大分、時間が迫ってまいりましたが、最後に、人口の高齢化の過程でいかに持続可能性を保っていくか。その持続可能性を保つときに、財政検証が政策判断のキーになっていくことから、質が確保されないといけないということで、そのための実務基準を国際アクチュアリー会が検討しております。それを少し御紹介して、財政見通しの作成について、その基準を考えてみるという議論の素材にしたいと思います。

 まず、財政検証規定のあるのはここに挙げました国々で、イギリスと韓国と日本が5年に1度ということで、他はそれよりも短いサイクルで行われています。

 この財政検証の頻度について、いろいろな議論があると思いますけれども、できるだけ頻度を多くした方が検証ごとの変化が少ないので、ショックが少なくて済むメリットがあると思います。一方で、頻度を多くするとどうしても人手と予算が要るということで、難しい面もあろうかと思います。その辺はどういうバランスをとっていくかという問題になろうかと思います。

 国際アクチュアリー会というところが、社会保障アクチュアリーの実務基準をつくっております。国際アクチュアリー会(IAA)とはどういうものかというと、58カ国で65団体から構成されているアクチュアリー会の連合体と言ったらいいかと思います。日本にも、日本アクチュアリー会と日本年金数理人会がございますが、両方が国際アクチュアリー会のメンバーになっております。そのように1つの国から複数の団体が出ていることがありますので、58カ国65団体となっているわけです。

 各国のアクチュアリー会の連合体ということで、IAAは国際的にいろいろな活動をしております。社会保障分野に限らず、私的年金あるいは会計の分野でもいろいろ活動しておるわけでございますが、社会保障の分野では、ISSAMoUといいますか、 Memorandum of Understanding という、要するに業務提携のような文書を交換しております。それで一緒にいろいろな活動をしていることがございます。ILOとも近々締結する予定でございます。

 国際アクチュアリー会が各分野におけるISAPという実務基準をつくっておりまして、その1つに社会保障アクチュアリーの実務基準があり、最近完成いたしました。この10月に完成したのでございますけれども、それが国際アクチュアリー会のウェブページに掲載されております。ISAP1というのが、全てのアクチュアリー実務に共通する事項で、ISAP1ISAP2が今、完成している状況でございます。

ISAP2の内容でございますが、前書き、緒論、総則、適切な実務、結果の伝達という章に分かれております。

 まず、前書きでございますが、この前書きで、ISAP2は各国の基準設定主体が社会保障数理基準を議論する場合のモデルとなるものということで、我が国の「基準設定主体」はどこになるのだろうと考えます場合に、やはり年金数理部会になるのかなという感じがいたします。

 その他、ISAP2の採用の仕方についていろいろ書いていたり、あるいはmustshouldmayの使い分けの意味が書かれていたりいたしますが、この辺は省略いたします。

 緒論では、ISAP2が目標とするのは、世界中で一貫性のある社会保障数理基準の立案であるということで、特に開発途上国について社会保障制度が導入されるときに、どのような基準で制度の検討を行ったらいいかも含んでいるということでございます。

 実は、既に2003年にGuidelines of Actuarial Practice for Social Security Programsという文書がつくられておりまして、これがある意味で、これまでの実務基準になってきたのでございますが、これはアーカイブズの中に入りまして、ある意味で解説書の役割を果たすことになっております。

ISAP2の制定というのが、先ほど申し上げました業務提携を結んでいる、あるいは結ぼうとしている関係から、ISSAILOから支持されておりまして、実際にこの実務基準をつくるときにはISSAILOからも意見を出していただきました。

 総則でございますが、ISAP2は公的年金制度の数理レポートが信頼されるためのガイドラインであるということがまず述べられておりまして、その上で、各国の法令や基準が優先されるべきということと、理由を明確にした上で、ISAP2の内容とは別の方法をとることもできるということを言っております。

 第2章で適切な実務ということを挙げております。

 ここで法令を含む制度の特性を全て考慮することと、あるいは適切なデータを用いることは当然として、基礎率は中立的な基礎率を用いること、ここはある意味非常に重要なところで、そこに何らかの意図が入ってはいけないということを言っております。その上で楽観的、悲観的なケースについても見通しをつくることが重要だとか、あるいは財政の自動均衡措置が導入されている場合には、平均余命の変化などに対しどの程度財政が中立化されるかを調べないといけないとか、あるいは適切なデータが存在しない場合には、それを明らかにした上で、実績データが入手できた場合には、改めて財政検証をやり直すことということを言っております。

 財政方式との一貫性ということも言っておりまして、賦課方式もしくは部分積立方式、我が国でしたら、部分積立方式でございますが、これについては、将来加入者も含む開放型方式を用いることと。事前積立方式の場合には、将来加入者を見込まない閉鎖型方式を用いることということが書かれております。

 また、カナダで事例がありました、独立した専門家の外部評価を受ける場合には、担当したアクチュアリーはその専門家のデータ要請等に協力し、議論に参加しなければならないということも書かれております。

 結果の伝達も非常に重要なところでございまして、一般に非常にテクニカルな部分もありますので、内容の伝達が難しい場合があるのですが、財政検証結果は、次のような内容を含むことということで、社会保障制度が直面しているリスクの性質と大きさ、不確実性の性質や程度、感応度分析といったことを含めてくださいということが要請されております。

 実際に、付録に報告書に入れるべき項目の例が紹介されております。我が国の数理レポートはそれを全部含んでいると言っていいと思います。

 アクチュアリーの意見の陳述もここで述べよと、つまり、データ、基礎率、手法に関して意見を述べておくことと、社会保障制度の持続可能性に関する意見を述べることもやってくださいという基準になっております。

 以上が国際アクチュアリー会の実務基準でございましたが、以上、見てきましたように、高齢化諸国におきましては、財政見通しが政策判断で、つまり、意思決定過程で非常に重要な役割を果たすことが言えるかと思います。それと同時に、自動均衡措置が導入されている場合には、公的年金制度の財政見通しの作成が技術的にも複雑になることがありますが、そういった場合に、こういう基準を考えていく重要性があるのではないか。そして、その基準の策定は、やはり年金数理部会の役割ではないのか。これはあくまで私の私見でございますけれども、そんな感想を持ったところでございます。

 少し時間が延びてしまいまして、大変失礼いたしました。

 以上で御報告を終わらせていただきます。

 御清聴どうもありがとうございました。

 

(拍手)

 

山崎部会長

 坂本さん、ありがとうございました。

 それでは、ここで一旦休憩といたします。

 

○清水首席年金数理官

 それでは、これより10分程度休憩といたします。

 再開は、1453分くらいでお願いいたします。

 

(休 憩)

 

○山崎部会長

 それでは、休憩前に引き続き、部会を再開いたします。

 ここからは、委員の方々との意見交換を行うとともに、会場の皆様からの御質問等も承りたいと存じますが、その際に皆様に御留意いただきたい点につきまして、事務局よりお伝えいたします。

 

○清水首席年金数理官

 御質問をいただく方にあらかじめお願い申し上げます。

 1点目ですが、御質問いただく方のマイクが前方に3つ、通路に用意してございます。そこまで移動していただきまして、申しわけないのですが、お名前を言っていただいた上で御発言をお願いいたします。

 2点目ですが、御質問は、本日の議題について、部会の委員、外部講師への御質問、御意見ということでお願いいたします。事務局、年金局への御質問につきましては、先生方はお答えできる立場にございませんので、御遠慮願えればと存じます。

 3点目ですが、より多くの方に御質問いただくために、質問事項につきましては、1つないし2つにしていただきまして、また、御質問時間につきましては、他の皆様への御配慮をお願い申し上げます。

 4点目ですが、御発言は後日、議事録として厚生労働省のホームページにも掲載することになりますので、その旨、御了承ください。

 以上でございます。

 

○山崎部会長

 それではまず、各委員の皆様方から一言ずつコメントないし御質問をいただけたらと思います。

 まず、林委員いかがでしょうか。

 

○林委員

 やや散文的なコメントです。年金数理部会では、後ほど御説明のある公的年金財政状況報告を毎年度作成しています。これは結構意味のある分析などが書いてあるのですが、なかなか一般の方が理解できない、つまり広報的な意味が難しいですね。我が国の公的年金制度で世代間の公平、不公平という大きな問題があって、主としてコーホートとの関係だと思うのですが、これだけ払ってもこれしか戻ってこないから損だとか得だとか、一般の人がどう思っているかわからないですけど、マスコミなどでそういう話がある。

30年ぐらい前、ドイツ人のアクチュアリーと話していたら、「日本人はアクチュアリーでも、定年退職後に、公的年金をどの位もらえるか、みんな知らない」と言っていました。

年金関係のアクチュアリーの方は別でしょうけれども、私自身も幾らもらえるかを知らなかったのです。その人はドイツ人でしたが、「自分は知っている」というわけです。

 私がお聞きしたいことは、日本の場合、自分の年金の受取額がどの位になるかは、「ねんきん定期便」とか、「ねんきんネット」とかで、ある程度わかるようになっているのですが、それも近々10年ぐらいでないかと思います。ですから、ドイツ人は年金制度について、一般の人でもかなり熟知しているのではないかと当時思いました。ご紹介のありましたような困難な議論でも、選挙の公約か何かで「年金制度改正の5つの提案」とか、「5つの選択肢」みたいなものが出たことがあります。学者なども入ってオープンに議論していた印象があります。日本では、なかなかそういうことがなくて、国会でも何かわけがわからないままに通ってしまいます。ドイツとの比較で年金とか社会保険に対する一般的な世論の成熟度が違うのかなという気がするので、ご印象だけでもお聞かせください。

 

○山崎部会長

 いかがでしょうか。

 

○坂本純一氏

 例えば国際アクチュアリー会の場で、他の国の社会福祉担当のアクチュアリーと議論しておりましたら、やはり同じようなことを言われる感じがしております。したがいまして、我が国の一般の世論が成熟していなくて、欧米の方が成熟しているというのは、余り言えないのではないのか。やはり同じように、どの国も苦労しているということが言えるように思います。そういう意味で、情報の伝達というのが、先ほどの実務基準の中にありましたけれども、そういうものを取り上げるのは共通した悩みだからなのではないかと思います。

 ドイツの場合、たまたまその方はポイント制というのをよく御存じだったのかもしれませんが、一般には、やはりまだよく知られていない。ただ、政府に対する信頼度みたいなものは、国によって温度差があるようには思います。

 

○林委員

 私だけ長くなって申しわけないのですが、ドイツ語には、ペンジョニァトという言葉があって、「年金生活に入る」という意味です。あの方は年取ったけどどうなったと聞いたら、「ペンジョニァトしました」、つまり年金生活に入ったという意味です。羨ましそうに言うのですね。日本人だと、定年退職しても、もっと働きたいのだけどということで、割と暗いイメージがあるようです。ドイツでは年金生活に憧れるということは、それなりに年金の受取額の水準などを熟知しているのかなと思っていました。

 以上でございます。ありがとうございました。

 

○山崎部会長

 ありがとうございました。

 続きまして、野上委員お願いします。

 

○野上委員

 ありがとうございます。

 それでは、ちょっと長めのコメントを恐縮ですが、言わせていただいて、最後に1つ質問を申し上げたいと思います。

 坂本さんのスライド10の「Nicholas Barrの命題」というのは非常にわかりやすいフレームワークだと思いましたので、それに従ってお話をしたいと思います。お手元の資料を見ながら聞いていただければと思います。

 ここに4つの方策がございまして、1番目は保険料ですが、我が国の状況を見ますと、保険料率は御案内のとおり法定されております。しかも、国民に納付義務があるということで明示されておるのですけれども、あたかも年金保険料の納付は任意に任されているように思っておられる方が多いのではないか。例えば国民年金で保険料を払っておられない方、自分は義務を果たしていないと思っておられる、あるいは厚生年金とかで保険料を払っておられる方も、払っていない人はけしからんなと思っておられる方は、なかなかいないのではないか。そういう点で、アメリカのように、アメリカではペイロールタックスというのがございまして、保険料納付に関しては強制制度をとっております。そういう強制徴収も1つ必要ではないかなと感じました。

 また、日本の場合は、基礎年金の半分の給付は国庫で負担されております。そういう意味で、保険料の一部分を国庫に頼っているということでございまして、未納のようなこと、あるいは埋蔵金みたいに思われて、流用あるいは国庫への貢献という事態も考えられないことではないと思います。

 次に、2つ目の給付でございます。これは坂本さんが説明されたように、マクロ経済スライドということで、日本の場合、先進的な制度で、他の国の制度に比べましても、大変よくできていると思います。ただ、国民に対して、一方で、所得代替率50%というのを実質的に約束してございまして、その点との調整が、多分難しい点だろうと思います。将来の政府、あるいは内閣、立法府に、この難しい判断を委ねておるわけでございますが、その点、非常に難しい政治判断になるだろうと思っております。そういう重大な責任の一端をこの年金数理部会も負っていると理解しております。

 3つ目は、支給開始年齢ですが、これは厚生年金法で法定されておりまして、今は引き上げの途上にあるということでございます。当面、変更するのは難しいのではないか。

 結果といたしまして、現行法では、将来の法改正がないという前提の中では、言ってしまえば、上の3つに関しては、未納の問題とかはございますが、ほぼ法定されている。唯一、そういう調整率というマクロ経済スライドの終わりの時期以外に関しては決まっておる。そうなると「Nicholas Barrの命題」ですが、ここに書かれているように、4つの方法以外にはない。いわゆる財政制度とか、いろいろな資産運用の仕方とか、そういう魔法のような制度はなくて、こういう4つの方策しかないということですので、代替率50%を維持できるかどうかは、経済成長政策と、マクロ経済スライドの終期の判断という、2つに委ねられているという理解をしております。

 結果といたしまして、この50%というのを果たせなかったときは、非常に重いことになってくるのですが、こういう場合、民間ですと、いったん、法的ではなくても、事実上約束したものが果たせないという場合は、社会的ないろいろな責任を問われます。そのぐらいの重い責任を持っておるのではないかと思います。

 そこで年金数理部会に何ができるかと、自分自身も入ってございますので思うのですけども、要は財政検証の質、あるいはクオリティー、信頼度を高めていくことでしかないのかなと思います。

 例えば坂本さんのスライドの36ページにございますように、アメリカでは、財政検証、長期のシミュレーションというのは毎年行っているということでございます。アメリカの実行機関がございまして、そこにメールで聞いたところ、毎年やっていると。いつからやっているのですかと聞いたところ、ルーズベルト大統領、戦前ですね。当然、コンピュータも何もない時代ですが、その頃からずっとやっているということでございます。

 翻って考えてみると、我が国とアメリカを比べて、むしろ、アメリカよりも我が国の方が、こういうシミュレーションが必要だという理由は多くあるのではないか。ちょっと考えてみました。

 1番目、マクロ経済スライドの存在です。アメリカにはございませんが、長期の財政シミュレーションでしか将来の代替率の動向はつかめないはずです。これが1点目でございます。

 2番目、米国に比べて、保険料の納付強制力、アメリカではペイロールタックスでございますが、日本の場合は社会保険料ということで、罰則規定とかも非常に弱うございます。そういう違いがある。要は収入の安定性という意味では、アメリカの方がすぐれている。

 3番目、年金財源の一部を一般財源に頼っていることはございません。アメリカの場合はペイロールタックスですので、特別会計ということかと思います。

 4番目、日本で年金の何階建て制度というのがございますが、アメリカでは、公的年金の運用、一階建て部分をやっているところでございますが、その資産運用に関しては、全額公債、アメリカの政府に対しての債券で運用されております。よく話が出てきますカリフォルニアの基金。あれの大半は、一階部分は含んでいないと理解しております。日本の場合、一階建て部分を含め、株式とかで運用されていて、さらに拡大の方向にございますが、当然リスク資産が入ってきますと、財政は不安定化する。不安定化するということは、リスク管理の観点からも、財政検証の必要性が生じてくるということでございます。

 5番目、アメリカは、坂本さんの資料にもございましたように、出生率に関しては、ほぼ2を維持しているということでございます。こういう人口が増えている社会ですと、一旦経済的な不安定化が起こったとしても、その回復力は非常に強うございます。その点、日本の場合は、一旦困難な状況になるとなかなか回復してこないということですので、より財政検証の必要性が多い。

 6番目、これは余り私が言うことではないのですが、アメリカの大統領の任期は4年ございます。5年に1回報告して、そのときに政権が必要な改正をしてくれるといいのですが、なかなかその点も不安がある。

 最後に、これは同じアクチュアリーとしてですが、アメリカはそういう独立組織で数理部門が独立しておりまして、そこで非常に、自由ということではないですが、責任を持ってやっておる。日本の場合は、行政府の一セクションでしかないということで、この点も財政検証を毎年やっていますと、仮に今年は不本意なことをやったとしても、来年すぐに見直せる体制になっているということでございます。

 以上、7つ申し上げました。

 ということで質問ですが、私がかねてから財政検証をもっと頻度高くということを主張しているのですが、坂本さんは、この点をいかがお考えでしょうか。

 以上でございます。

 

○坂本純一氏

 理想を言えば、やはり頻度が高いのがいいと思うのですが、現実が、本当にそれを実行できるのかは非常に、いろいろな難しさが伴うのではないか。特に予算面でも、組織、定員といったところでも、かなりいろいろな問題が出てきますので、そこは難しい面があるのではないか。

 ただ、先ほどの話の中でも触れさせていただきましたが、頻度を高くすると、変化が緩やかになるという意味では、いい面はあるように思います。しかも、議論の頻度が多くなるので、議論にも深みが出てくるという面も期待できるのではないかと思います。

 

○山崎部会長

 ありがとうございました。

 田中委員、いかがでしょうか。

 

○田中委員

 私からは、自動均衡措置について、幾つか質問したいと思います。

 まず、よく引用されるのがスウェーデンの公的年金制度が引用されて、NDC、いわゆる名目的な給付建て制度ということで、しかもそこに自動均衡措置が入っている。ただ、坂本さんのお話でもわかりますように、仕組みは均衡比というものをベースにして、それにスライドする形になっているということで若干違いますと。ドイツについては、式を変形すると、比較的、日本に近い姿になっているということでした。いろいろ国によって、同じ自動均衡措置でも、仕組みも違うし、それぞれの社会の背景も違うというお話をされました。そのとおりだと思います。

 それと支給開始年齢について、一部の国では、支給開始年齢の引き上げとセットで、あるいは組み込んで、自動均衡措置が行われている国もあれば、ポルトガルでは、どうも、支給開始年齢の引き上げはまだ行われないけれども、均衡措置の一部だけ実施しているとか、その国によって、方法論についても、強弱もあれば、やり方も少し違っているというお話だったと思います。

 日本の場合、いろいろな国を参考にするのであれば、1つ大きな差は、所得代替率が、例えばヨーロッパの国は非常に所得代替率が高くて、それが問題で、ギリシャ危機のようなことも起きたと言われています。一方では、アメリカとかイギリスは、かなり低いということが言われていまして、その低いイギリスでは、実は自動均衡措置すらなく、報酬比例年金を廃止して、最低保障年金を入れるようなこともやっているということです。

 日本が参考とすべきはどこなのかというときに、日本の場合は二階建て制度で、国民年金とプラスの厚生年金があって、そこに同じ形のマクロ経済スライドを導入している。これをずっと続けるとどうなるかというと、所得代替率が国民年金も厚生年金も両方とも下がって、国民年金の方は、ただでさえ低い最低水準を割り込むことにもなりかねないと思うので、この辺の制度設計ですが、将来的にでもいいですけれども、マクロ経済スライドの仕組みを国民年金と厚生年金で変えていくとか、何らかの措置を講じないと、つまり、所得再配分の面でもアンバランスが生ずるのではないかという懸念も感じるのですが、その点、坂本さんはどういうお考えでしょうか。

 また、特にイギリスについて、どうしてこの報酬比例年金を廃止というところまで、非常にドラスチックなことをやってしまって、いわゆる自動均衡措置のようなものが導入されなかったかということについても、コメントをいただきたいということです。

 

○山崎部会長

 どうぞ、お願いします。

 

○坂本純一氏

 まず、国民年金にマクロ経済スライドをどうすべきかという課題ですが、これは非常に大きなテーマだと思います。国民年金のみで生活している世帯もたくさんあるわけですから、そこで、その世帯についてもマクロ経済スライドがかかっていくことについては、やはり一つ考えないといけない部分があるのではないか。

 そして、21年の財政検証の結果を見てみますと、報酬比例部分と基礎年金の比が少しずつ違ってきて、基礎年金の比の方が小さくなっているという結果が出ております。こういうことを考えますと、やはり国民年金に対するマクロ経済スライドの適用をもう一回考えてみる必要があるのではないか。

 ただ、その場合に、例えば国民年金のマクロ経済スライドを完全にやめてしまうとなりますと、財源がどうしても要りますね。まず、その財源の手当をどうするのかという問題が出てきます。国民年金では、所得の高い人から低い人まで、随分おられるわけですから、その中で、定額の保険料を取っていることについて、制度運営の難しさはどうしても出てくるので、それをどう判断したらいいかは、問題意識は高いのですが、結論は十分出ていないところです。ただ、それは何らかの、もう一度見直さないといけないテーマであることは間違いないと私は思います。

 2番目のイギリスがなぜ報酬比例部分を廃止したかですが、これはなかなか難しいテーマだと思います。イギリスこそ長い間、いわゆるポリティカル・フットボールをやってきた国で、現行の社会保険制度はべバレッジから始まって、定額給付の定額負担という形で始まったわけですけれども、途中で経済成長があったり、インフレがあって、どうしても給付を上げないといけない、しかし、保険料はなかなか上げられないという問題にぶつかりながら、報酬比例年金をイギリスは導入してきた。だから、イギリスが報酬比例年金を導入したのは非常に遅いのです。本格的な報酬比例年金の導入は1973年だったと思います。その頃やっと導入したのだけれども、それは労働党が導入したわけですが、それをまた、サッチャーが弱めようということで、かなり政治的な考え方の相違、これは本当に根本的に思想が違うのだと思うのですが、その思想の違いがせめぎ合う中で変形されてきたのが、イギリスの年金の歴史ではないかと思っております。

 そういう意味で、今回、報酬比例というのは結局、DCに頼っていく。職域年金、もしくはDCに頼るという考え方に統一しようとしたわけですが、それが本当にうまくいくのかもわからないと思っております。また、何らかの揺り戻しが出てくるのではないかと思いますが、イギリスの年金制度の政治的な考え方の違いのせめぎ合いの大きなテーマが、報酬比例部分を設けるかどうかということだったのではないのか、そんな気がいたしております。

 

○山崎部会長

 ありがとうございました。

 かなり重要なポイントを突かれたのですが、補足させていただきますと、国民会議でも同様な議論がありまして、基礎年金の水準が将来相当低下することを懸念する意見もありました。その一方で、当面はやはりマクロ経済スライドの発動がおくれていることに、むしろ問題があるという認識がありまして、さらに拠出期間を延ばすだとか、受給年齢を、先ほどのBarrさんの命題にもありますが、上げるという、複数の選択肢があって、いきなり坂本さんがおっしゃるところには行かないのではないかなと思います。いろいろ多面的に考えなければいけないのではないかと思います。これは私のコメントです。

 佐々木委員、次にお願いいたします。

 

○佐々木委員

 御講演ありがとうございました。

 関連する質問を2つさせていただきます。

 1つは、42ページ目の基礎率の中立化ということで、実務の国際アクチュアリー会の設定基準がありましたけれども、ちょうど来年、平成26年が5年ごとの財政検証・再計算になるわけです。その中で基礎率の設定という将来の計算の前提が非常に重要なポイントになると思います。今、経済の前提は、専門委員会でやられていると思うのですが、この中で書かれているように、中立的な基礎率を使えということで、過大な評価でもないとか、過小な評価でもないというのは、概念的には非常によくわかるのですが、なかなか実務的に、あるいは具体的には非常に難しい部分があると思います。この辺、少し補足のコメントをいただければと思います。これが1点です。

 もう一つは、今後、先ほどから御説明いただいたように、人口の減少とか、高齢化とか、寿命の伸長、あるいは経済の鈍化とか、どの方式を採用しても、やはり年金の給付額を圧縮する方向は避けられないのではないかと思います。その点では、多くの国民の理解を得ることが非常に重要なポイントになってくると思うのですが、財政の見通しとか検証はなかなか難しい。報告書はああいう立派なものができても、難しい側面があると思うのですが、この点、より多くの国民に理解を得るためのディスクロージャーとか各国の取り組みで、何か御存じの点がありましたら、少しアドバイスをいただければと思います。

 以上、2点、コメントとさせていただきます。ありがとうございました。

 

○坂本純一氏

 非常に難しいテーマを言われまして、中立的な基礎率であるということを誰が認めるのかという問題になってくるかと思うのですが、ここでは、その書き方についても、かなり議論が作成過程でありまして、しかし、表現としてはこれしかできないなと。ベストエスティメートという言い方も議論されたのですが、結局、中立的な前提というのが、ここで求められていることではないかと。ただ、それを実務の上でどう表現するかは難しいけれども、そこでありました議論としましては、それが結局、結果的に判定されるのは、やはりディスクロージャーだろうと。今、2番目の問題でもディスクロージャーを言われましたけれども、ディスクロージャーが非常に重要な意味を持っていて、そこで、ディスクロージャーがしっかりしていれば、それが中立的な命題、つまり、そこに何らかの政治的意図とか、恣意性が加味された前提にはなっていないということが分かってもらえる、それがわかるようにするのが、ディスクロージャーの1つの目的ではないか。ディスクロージャーとこれはセットであろうという議論がそのときに出てまいりました。

 そういう意味では、理念的に、基礎率の中立性というのを担保したいと考えるわけですけれども、なかなかそれが具体的にはどういうことなのかというのは、考え方の整理や表現が難しい。ただ、そこでいわゆる虚心坦懐に考えてとか、そういう言葉で同じようなところをぐるぐる回りするのですが、それが実際にそうだったという何らかのバイアスがかかっていない前提だったというのを示すのは、ディスクロージャーの中身だろうという議論をしていたところです。ちょっと中途半端な答えになってしまうのですが、ディスクロージャーとこれは密接に結びついているということが言えるのではないかと考えております。

 財政見通しの解説というのは、非常に難しいところがあるけれども、それをどう表現していくかというのは、これはやはり本当にどの国も苦労しているところだと思います。一つ言えますのは、どういう質問に対しても、丁寧に答えていく。これは事務局に負荷のかかることではあるのですけれども、どういう質問に対しても丁寧に答えるのが一つの姿勢だろうと。その経験は必ず次の財政報告書に、数理レポートに反映させていくことを積み重ねていくのが、一つの方向ではないかというのは、大体これをつくったときのメンバーで、一致する方向であったように思っております。

 

○佐々木委員

 ありがとうございました。

 

○山崎部会長

 駒村委員、お願いします。

 

○駒村委員

 では、3つほど御質問とコメントを含めてさせていただきたいと思います。

 非常に基礎的なというか、議論の背景の確認です。33ページのアメリカで導入されたchained CPI、日本語に訳すと連鎖CPIの動きです。これは年金や所得保障給付のインデックスとしては、理論的に連鎖型がいいということで、この議論が始まったのか、財政的に抑え込むスライド調整だという意図でこの議論が始まったのか、そこのところを一度教えていただきたいなと思います。そこは簡単な質問、細かい点で恐縮です。

 2つ目、3つ目の質問は、今日の御報告にややかかわることです。坂本さん自身は、自動調整メカニズムについて、どう評価しているのかということです。私は、自動調整メカニズムが各国に入ってきたのは、やはり有権者の高齢化もあり、年金を巡るが世代間対立として、非常に厳しくなる中で、政治の調整力が落ちてきたのではないか。そこで、財政的な安定性を確保するために、自動調整メカニズムを各国で入れてきているのではないかと思っています。そういう意味では、日本にとっても非常に重要なメカニズムだと思うのですけども、一方では、先ほども少し山崎部会長からも議論があったところですが、これをやり続けると当然、副作用も出てくるわけでして、高齢の低所得者に対して、先ほどの基礎年金の話もありましたけれども、これをずっとやり続けるとどこかのタイミングで他政策で補わなければいけないということにつながってしまうこともあると思うのです。坂本さんには、自動調整メカニズムの功罪を少し教えていただければと思います。

 3つ目ですけれども、これも自動調整メカニズムにかかわる点です。今日、スウェーデンの非常にがっちりした自動調整メカニズムの話をされました。もう一個、スウェーデンが学んだのか、両方が学び合ったのかわかりませんけれども、NDC型自動調整を入れているのは、イタリアがあるわけです。数年前に調べたので、古い情報かもしれませんが、イタリアの自動調整メカニズムは決してうまくいっていない。それは新制度と旧制度の移行の間に、非常に政治的な判断が入った。さらにパラメータの選択において、政治的な判断が入る余地がある。パラメータの見直しの間隔によっては、年金受給者間で不利が発生するということで、実は、イタリアのNDCというのは緩い部分があって、スウェーデンとは違う部分がかなり大きい、余りよくない自動調整メカニズムの例だと思います。

 このイタリアの例を参考に考えると、質問のポイントはここからですが、坂本さんが今日の報告で、一方では自動調整をやられて、一方ではISAPの報告をまとめてされたという意図ですが、最後の45ページにも書いてありますが、自動調整メカニズムは非常に複雑で、しかし、キーになるパラメータや基礎データがある。しかし、そこが複雑になればなるほど、その選択においては非常に慎重にならなければいけなくなり、そこに政治的な介入も、イタリアのように入ってくる危険性があるのではないかという心配はあるわけです。ISAPのこの報告書に触れられたのは、坂本さんが、こういうデータの選択や、いろいろなパラメータの選択については、どういうものを選択すべきか、あるいはそれをチェックするのが、年金数理部会の今後の役割だとおっしゃったのか、そこのところを2つ、セットでお話しされた意図を教えていただきたいなと思っていました。

 以上です。

 

○坂本純一氏

 まず、アメリカのchained CPIですが、chained CPIそのものは、アメリカの所得税のブラケットの限度額をスライドするのに使われているそうです。だから、税法上使われていたということで、それを公的年金にも使ってみようということですけれども、それは、先生が後でおっしゃったことですが、要するにこれが低いからこれを使ってみようということで出てきたのではないかというのは私の想像ですけれども、そのように思います。社会保障庁のアクチュアリーの人と議論していましたときに、その人がchained CPIというのはだましっぽいと。だから、こんなことをやるのだったら、自分としては、今のCPIマイナス0.3%をスライド率とすると、はっきりと言うべきだと思うと言っておりましたので、それから考えますと、これが低く出るから使えるという判断だったのではないかと考えられるところでございます。

 次の自動均衡措置の功罪ということです。これは先生御指摘のように、自動均衡措置というのは、あくまで次善の選択であると、私自身も考えております。だから、本来的には、そういう政治的な問題がなければ、従来どおり真正面から、今、少子高齢化が進んでいるので、これに対応するためには、この給付を変えて、保険料をこの水準にすべきということを法案として提出していくのが正道ではないかと考えておりますが、それが政治的にどうしてもできないと、数回、政治バトルが繰り返されましたね。それによって、全く実りのない議論をしてしまう、無駄なエネルギーを使うことが起こりましたので、それを避けて、人口の高齢化そのものは日本が直面している構造的な事実なのだから、それをしっかりと受けとめて、それを制度に反映させていくということ。不毛な政治バトルを避けながらやるという意味で、この自動均衡措置が必要になったのではないかと理解しております。

 そういう意味では、確かに先生がおっしゃいますように、副作用があるということで、そこは給付水準がどうしても低下してしまうところがありますので、きめ細かく、現在は、給付水準の下限という規定が置かれていますけれども、それをもう少し、詳しくそういうものを設定していくことも必要ではないか。先ほど田中先生、山崎先生がおっしゃいました基礎年金へのマクロ経済スライドの適用が本当にいいのかどうかというあたりもその範疇に入ってくるテーマではないかと思うところでございます。そういう意味では、やはり何らかのきめ細かい措置が求められているのだと思います。

 スウェーデン方式が、イタリアではうまくいっていないというお話ですが、確かに政治的な混乱の結果としてそういうことが出てきていることもあると思うのですが、もう一つは、イタリアそのものがスウェーデンと違って、どちらかというと日本に近いスピードで高齢化しているということがあって、NDCがうまくいっていない根拠になっているのではないか、そういうふうにも考えるところでございます。両方、原因があるのではないのか。

 スウェーデンのように、政治的な思惑を排除するために、実績値のみでABMを構成することは願望であっても、実際それによって財政均衡が達成されているかは不明ですので、別の問題があると思います。政治的な要素を排除しようとした気持ちは分かりますが、現実はそんなに甘くはない。

そういう意味では、そこで、ISAPというのと、ABMといいますか、自動均衡メカニズムというのが、どう結びついてくるのか。そして、年金数理部会でそれをどう考えるかについては、非常に広範なテーマがそこに含まれております。年金数理部会を超えたテーマも一緒にそこにはあるように思います。しかし自動均衡措置がうまく機能していない場合には、なぜそれがうまく機能していないのかというところの原因をしっかりと指摘する役割も年金数理部会には求められているのではないか、そのような気がいたします。それは、給付という面にあらわれた財政の状況と解釈できますので、それはやはり年金数理部会がチェックしていくべき項目ではないか、そのような気がいたします。

 

○山崎部会長

 翁委員、お願いします。

 

○翁委員

 お話をどうもありがとうございました。

 私からは2つだけ質問させていただきたいのですけれども、今日、お話を伺いまして、各国で自動安定メカニズム、いろいろ工夫しながら入れているということがよくわかりました。特に、これは政治的な対立を招きやすいからこそ、こういうものを入れているわけですが、だからそれだけに、そういった保険料の引き上げとか、給付の引き下げとか、非常に複雑でもあるし、それだけに財政のチェックというのは、非常に重要なのだということを改めて認識しました。

 今は、日本では現実にそういう安定メカニズムが実際には発動していないので、そこのところは余り議論になっていないのだろうと思いますが、もし、そういうのが自動的に進んでいくことになりますと、そういったチェックの機能は、ますます重要視されていくと思います。

 このことに関連して第一の質問ですが、年金数理部会でこれをもっときちんとやっていくことが非常に重要なのだろうと思うのですけれども、片や、例えばカナダなどは、もっと外部の人がポジションを、第三者としてピアレビューをする少し独立した形、中立した形で、そういったチェックをする機能を設けていますが、そういったことについて、どうお考えになるかをお伺いします。

 もう一つは、自動安定化装置というのは、かなり頑健性があると。つまり、いろいろ経済にはショックがあるはずで、恐らくリーマンショックなども、一つのショックだったと思うのですが、そういうのは乗り越えてきているわけだろうと思います。少子化とか、人口動態というのは見えているところなのですが、特に運用などをやっているところについては、そういったことについて、頑健性を保ったり、信頼性を保つために、どういう工夫をしているか、そういったところで、もし参考になるところがありましたら教えていただきたいと思います。

 

○坂本純一氏

 まず、カナダのピアレビューの形が日本に応用できるかどうかということですけれども、カナダの場合は、法律の枠組みそのものが、自動的に保険料が引き上がる非常にシビアな規定があります。それに対して、この引き上げの根拠はかたいものですよという示す枠組みという意味で、こういうものがあるのだと思います。

 日本の場合には、これからの世の中の動きと密接に絡んでいくとは思いますけれども、今のところ、まだ、そこまでは求められていないのではないか。ディスクローズをしっかりしていく、そして、年金数理部会でのチェックがきっちりと行われしっかりと示されているならば、ある意味で、カナダのピアレビューに匹敵する状態がつくられるのではないか、そんな気はいたします。ただ、何が起こるかわかりませんので、将来的にもっと厳しい状態が出てきました場合には、十分視野に入れておく枠組みではないかと思います。

 リーマンショックとかがありまして、信頼性を保っていく枠組みとして、どういうものがあるかということですけれども、年金財政の見通しをつくって、それを政策判断の材料にするプロセスにおきましては、信頼性を保つという意味では、基本的には非常に長期的な視点が重要ではないかと思います。長期的な視点であるために、そのときどきの大事件というものも、それを考慮していくべきなのか、それとも、それは現在の短期的な出来事として捉えると位置づけるのかということの選択があるかと思うのですが、年金数理あるいは年金財政の見通しがテーマの場合には、どちらかというと、短期的な影響も考慮しておかないといけないのですけれども、全体としては、もっと長い視野での見通しが求められている感じがいたします。そういう意味では、それはどの国もそういうスタンスではないのかなと感じております。短期的な影響と考えられますものは、足下の前提に入れて将来見通しを作るというのが一般的な傾向ではないかと思います。

 

○山崎部会長

 牛丸さん、いかがですか。

 

○牛丸委員

 坂本さん、ありがとうございました。大変勉強になりました。

 既に他の委員の方々からコメントと御質問がありまして、その中に私の言いたいことも入っておりましたので、改めて私の方から御質問というのは結構です。

 

○山崎部会長

 それでは、牛丸さんの1回分を私がいただきまして、2点お尋ねします。

 1つは、Nicholas Barrさんの命題は、国民会議の報告書でも取り上げさせていただきました。私自身は、年金改革をめぐる不毛な議論がこれで収束に向かい、建設的な方向に向かってくれればいいなと思って、Barrさんの命題を眺めているのですが、国際的に見て、どのような背景、文脈の中で、Barrさんがこのようなことをあえて発言されておられるのか、その背景のようなものをお尋ねしたいというのが1点です。

 もう一点は、坂本さんは、日本でも、社会保障アクチュアリーの実務基準があった方がよいとお考えだと思うのですが、そのようにお考えになる理由は何か。また、そうした基準は複数の制度が現実に日本にあるわけですが、複数の制度がある場合に必要なのであって、被用者年金が一元化されれば不要ではないかということにはならないように思うのですが、どのようにお考えか、お聞かせいただきたいと思います。

 

○坂本純一氏

 まず、Nicholas Barrの命題がなぜ起こってきたのかというあたりは、本当にNicholas Barrさんのいろいろなペーパーをしっかり読まないといけないと思いますけれども、私が聞きかじって、あるいは部分的に読みかじったところの印象では、Nicholas Barrさんは、社会保障制度の社会的な側面を重んじる方だと思います。それがヨーロッパでも、アメリカでも、高齢化の議論が活発になった1990年代に、彼の言葉で言えば、フィスカルな、あるいはファイナンシャルな面での議論というのが多くて、ソーシャルな面の議論が非常に少ないという問題意識を持っておられたように思います。それで、高齢化問題を解決するパナセアというのですか、万能薬というのはこういうものだというのを、1994年の世銀の報告などが言ったわけです。それで、そういう議論に対して、Nicholas Barrさんは、かなり異論、違和感を持っておられたと。それを表現する努力をしてこられて、こういう過程に至ったのかなと。そのような印象を持っております。

 要は、財政面をいろいろな人が議論して、解決方法はこうだと、確定拠出年金制度に変えてしまえばいい、民営化すればいいのだという議論とか、あるいはスライドを全部、物価スライドに変えてしまえばいいのだということを言うエコノミストがおられたわけですけれども、そういう人に対して、ある意味で、警告されているところから生まれてきたのかなと、そのような感じがいたしております。

 2番目の実務基準があった方がよいと考えます理由は、実務基準があることによって、先ほど林先生がおっしゃいました、国民的理解の深まりについて、実務基準があることで、それによって深まっていく部分がかなりあるのではないかと思うからでございます。そして、実際に実務を担当する者にとっても、実務基準があったら、ある意味で1つの航海図になりますので、実務の質がよくなる。岩礁とか、浅瀬を避けることができるということも言えるのではないかと。

 実務基準ですけれども、これは、一元化されたから不要になるというものではなくて、1つの制度を運営していく上での、1つの航海図、指針でありますので、一元化された後も必要になろうと思うところでございます。

 

○山崎部会長

 ありがとうございました。

 それでは、ここで会場からの御質問をいただきたいと思います。

 いかがでしょうか。よろしいですか。遠慮なく、いかがでしょうか。

 どうぞ、久保さんですね。

 

○質問者(久保氏)

 久保と申します。

Nicholas Barrさんの命題を御紹介いただいたのですけれども、一般的にはこの4つだと思うのですが、日本の少子高齢化の進みぐあいからすると、やはり支給開始年齢の引き上げなのではないかと思うのです。結局、今の政府の財政検証とかは、今の制度を前提に、いわゆる100年安心というベースになっておるわけですが、年金数理部会としては、将来の持続可能性とか、リスクを考えて、本来、日本が最も少子高齢化のスピードが速いのにもかかわらず、支給開始年齢が、ある意味、先進国比若いという現状を踏まえれば、もっとちゃんと支給開始年齢の問題を、政治等も乗り越えて、例えばもう少し年金数理部会を第三者機関的にして訴えるべきだと思うのですが、この点については、坂本さんなのか、座長なのかわかりませんが、御質問したいと思います。

 

○坂本純一氏

 今、久保さんがおっしゃいました、高齢化社会、長寿社会においては、支給開始年齢の引き上げは当然であるという、この命題はそのとおりだと思います。ややどぎつい表現をすれば、平均余命が伸びるときに、伸びた分を全部年金生活に充てるのは怠惰な社会であるということが言えるのではないかと。ある意味で、ワークエシックという意味でも言えるのではないかと思います。この点につきましては、久保さんがおっしゃるとおりだと思います。年金数理部会でどうそれを見ていくべきかという議論につきまして、これは、年金政策全体になりますので、あるいは、1つは、年金局の仕事そのものでもあろうかと思いますが、財政という面からしますと、もちろん年金数理部会で1つの立場をまとめていくという議論は必要なのではないかと思いますが、そこは、むしろ部会長にお願いしたいと思います。

 

○山崎部会長

 重要な選択肢の1つであることは確かだろうと思います。

 他にございますか。お1人だけでは寂しいので。よろしいでしょうか。

 それでは、特にないようでございますので、本日は、野村総合研究所の坂本純一さんから、高齢化諸国における公的年金制度の持続可能性を維持する試みと題しまして、諸外国の取組み、そして、そのための基礎的な材料となる、財政見通しの質の確保という、2つのテーマについて貴重な御報告をいただきました。ありがとうございました。いずれも公的年金の財政健全性の確保の観点から、毎年、各制度の財政状況の分析評価、そして、財政検証・財政再計算のレビューを行っている年金数理部会におきまして、非常に重要なテーマであることは言うまでもありません。加えて、本年8月の社会保障制度改革国民会議の報告で、年金制度について、マクロ経済スライドの見直しが検討課題の1つとして挙げられたことは、皆様御存じのとおりでございます。本日の坂本さんの御報告及び意見交換にありましたように、自動安定化のメカニズムにつきましては、諸外国においても非常にうまくいっているという状況には必ずしもなく、それぞれ苦心されているようでございます。したがいまして、諸外国の事情については、その仕組みだけでなく、その背景となっている年金制度の特徴、財政運営の考え方、導入時の経緯、さらには導入後の経緯なども含めて、諸外国の経験を総合的に理解した上で、学んでいく必要があるのではないかと思います。

 また、公的年金の財政見通しの質の確保につきましては、国際アクチュアリー会が、ILOIPSAとの協力関係のもとで策定しました、社会保障制度の財政分析に係る数理業務の国際基準について、その位置づけや、基本的な考え方も含め紹介していただきました。年金数理部会といたしましては、公的年金の財政検証、財政再計算のレビューを行っております立場から、公的年金の財政検証等の在り方、数理業務の在り方について、本日の議論も踏まえ、引き続き検討を行ってまいりたいと思います。

 それでは「諸外国における財政バランスの考え方と自動安定化メカニズムについて」は以上といたします。坂本さんには、席の移動をお願いいたします。今日は、どうもありがとうございました。もう一度拍手をお願いいたします。

 

(拍手)

 

(坂本氏、席を移動)

 

○山崎部会長

 続きまして「議題2 公的年金の財政状況について」に移ります。事務局より、資料の説明をお願いします。また、今日は、会場の皆さんに向けて、演台からお願いいたします。

 

○清水首席年金数理官

 清水でございます。資料2に基づき、皆様方に御説明を申し上げます。それでは「資料2 公的年金の財政状況について」をごらんください。

 1ページ目は「年金数理部会の役割」でございます。図の右ですが、年金数理部会では、財政再計算時に、各制度からヒアリングをし、専門的な観点から検証を行っております。検証結果は『財政検証・財政再計算に基づく公的年金制度の財政検証』と題する報告書にまとめて、公表をしてきているということでございます。直近のものは、平成21年財政検証・再計算について行ったもので、2年前の平成23年3月に公表しております。

 また、図の左側ですけれども、毎年、各制度の財政状況について報告を求め、その財政状況を分析・評価し、その結果『公的年金財政状況報告』と題する報告書にまとめて、公表してまいりました。直近のものは、平成23年度決算をベースに分析・評価したもので、本年3月に公表しております。

 なお、これらはいずれも、平成13年3月16日の閣議決定による、公的年金制度の安定性、公平性の確保に関する年金数理部会に対する要請を受けて行っているものでございます。

 それではまず、毎年度行っております各制度の財政状況の分析・評価について説明申し上げます。2ページ目をごらんください。これは各制度の横断的な分析ということでございます。公的年金制度の財政収支は、この図の右上にあります「マルイチ基礎年金拠出金」、それから右下にあります「マル二基礎年金交付金」、それから中ほどに、国共済と地共済の、両制度下の財政調整拠出金、それから左下の旧三公社共済年金の厚生年金統合に伴う年金保険者拠出金など、制度間でお金のやりとりがありまして、全体像を把握しようとするときに、やや複雑な構造になっているわけでございます。

 公的年金全体の財政収支状況を見ますときには、制度全体から見たときに、キャッシュのインフロー、あるいは、アウトフローでない、こういう制度間のやりとりを、収入・支出の両面から除く必要があります。また、厚生年金、国民年金の収入項目には、予算計上された年金積立金からの繰り入れが、積立金からの繰り入れとして計上されるわけでございますけれども、これもキャッシュのインフローではありませんので、年金財政の観点からは除外する必要があるということでございます。

 そういうことで、年金数理部会では、こうした項目を収入・支出から除外することにより、制度全体の財政収支状況をわかりやすく表示するとともに、それをベースに、横断的な比較・分析を行っているということでございます。それが3ページにあります「公的年金各制度の単年度収支状況」という表でございます。これはやや字が小そうございますけれども、一番右の列を見ていただきますと、平成23年度は、最初の収入項目ですが、制度全体で保険料収入が294,000億円、国庫・公経済負担が115,000億円など、積立金からの取り崩し、あるいは運用損益を除いて、全体で431,573億円の収入がある一方、支出の方は、給付費が488,675億円など、全体で491,168億円あり、したがって、単年度収支は、5兆9,594億円の赤字になっていたということでございます。積立金運用では、時価ベースで3兆6,315億円の収益があり、その結果、積立金は、時価ベースで、前年度から2兆8,509億円減少して、24年3月末現在で1678,694億円となったことがわかります。なお、これらの数字は、決算ベースですので、例えば積立金額には、いわゆる厚生年金基金の代行部分に係る最低責任準備金は含まれておりません。

 このあたりの状況につきまして『平成23年度財政状況報告』では、第2章の前半で詳しく説明されておりますので、御関心のある方はそちらをごらんください。

 それから、この第2章の後半では、財政指標の現状及び推移について述べられております。これについては資料の4ページをごらんください。「財政状況の指標化」ということですけれども、年金数理部会は、その前身であります、総理府の社会保障制度審議会に置かれていた年金数理部会の時代から、制度の財政状況の的確な把握に資するために、財政状況を示す指標を工夫してきたということでございます。

 例えば、給付費の増減というのは、保険料収入の増減、あるいは、保険料の拠出ベースである標準報酬総額の動きと合わせて把握する必要がございます。そうしたことで、従来からの指標としては、例えばスライドの左に出ています「年金扶養比率」、「総合費用率」、「独自給付費用率」、「収支比率」、「積立比率」といったものを用いてきたわけでございます。

 5ページをごらんいただきますと、ここに2つ指標が出てございます。年金扶養比率というのは、年度末現在の老齢・退職年金受給権者数に対する被保険者数の比率でございます。いわゆる成熟度の逆数ということでございます。受給者数につきましては、その加入期間が、老齢基礎年金の受給資格期間を満たす方のみをカウントしているということでございますが、おおむね、受給者1人を何人の被保険者で支えているのかということを示している指標と理解していただいてよいかと思います。この比率は今、2.3ということですが、先ほどの坂本さんのお話にありましたように、成熟度が急速に高まってきているということでございます。

 それから、国共済・地共済の年金扶養比率につきましては、厚生年金とかなり差はありますが、この2つの制度につきましては、制度発足前の恩給期間を引き継いだことの影響も、この数字に含まれているということでございまして、これは前の4ページに数字が出てございますけれども、それを除くと、国共済の場合は1.88、地共済は1.82になります。このあたりも、詳しくは「公的年金財政状況報告」をご覧ください。

 次に、5ページの「総合費用率」です。総合費用率というのは、給付費と基礎年金拠出金などの支出のうち、自前の保険料財源で賄わなければならない額、これを標準報酬で割ったものでございます。言わばその年度の純賦課保険料率と理解することができます。総合費用率が保険料率よりも高ければ、その年は、その超過分は積立金の運用収益、あるいは積立金の取り崩しなどにより賄わなければならないということになります。

 4ページの数字を見ていただきますと、例えば厚生年金では、平成23年度で20.1%、同時期の保険料率が16.412%でした。なお、4ページの厚生年金の数字ですけれども、実績推計ベースということで、厚生年金の代行部分を含めた数字になっております。そういった、いろいろな細かな修正を加えた数字になっているということにご留意ください。

 次に6ページでは「収支比率」と「積立比率」について示しております。収支比率とは、自前の保険料財源で賄わなければならない、いわゆる実質的な支出の、保険料収入と運用収入の合計に対する比率を見たものであると。ですので、この比率が100を超えると、支出を保険料と運用収入ではカバーできずに、積立金を取り崩す等の財源調達が必要になるということを示しています。

 4ページに戻って、収支比率を見ていただきますと、平成23年度は、私学共済を除いて、各制度で積立金の取り崩しが必要であったということがわかるわけです。ちなみに、ここの数字は時価ベースということで、毎年度、ある程度変動する要素はあるということにご留意ください。

 最後に積立比率ですが、これは前年度末の積立金が当年度中の実質的な支出の何年分あるかということを示す指標でございます。

 4ページを見ていただきますと、厚生年金の場合、23年度末の実績推計ベースで積立比率4.7となっています。御存じのとおり、被用者年金一元化では、共済各制度の積立金のうち、共通財源として仕分ける部分の基準として、この積立比率を用いることとされています。

 7ページをごらんください。「財政状況の評価」という部分でございます。『公的年金財政状況報告』では、報告書の第3章の最後の部分に記載されています。しかし、この報告の中では、最も重要で、最もよく目を通していただきたい部分となっているということでございます。この評価では、直近の財政見通しで得られております積立金に、賃金上昇率につき当年度までの実績を反映させ、さらに一部必要な補正を加えて、評価の基準となる積立金額というものを算出し、それと実績の積立金額を比較する。そして、その両者の乖離状況やトレンドを見ることによって、直近の財政検証による財政見通しとの比較において、その制度の財政状況を評価しようとするものでございます。

 この方法論では、次の関係に基礎を置いてございます。すなわち、公的年金の将来における給付費支出というものは、年度末までの名目賃金上昇率に応じて増減するので、積立金の実績が財政見通しから乖離しても、それが名目賃金上昇率の実績の予測からの乖離の範囲内にとどまっている限りは、積立金の将来の給付支出に対する相対的な大きさが変わらないので、有限均衡期間における財政の均衡には影響しないと考えられる。このことに基礎を置いているということでございます。ただ、将来給付には、名目賃金に連動しない部分もございますので、その部分の将来にわたる影響を推計し、補正しているわけです。そうして得られたものが、「評価の基準となる積立金額」というものです。

 それから、この方法論による場合には、暗黙裡に次の2つのことを前提としています。このことには特に留意が必要です。すなわち、第1に、将来期間における経済前提や、死亡率等の基礎率には一切変更がないこと。第2に、評価の対象期間は、直近の財政検証における有限均衡期間のままとし、これを前方にシフトさせないこと。この2つでございます。この前提を変更した場合には、評価の結果も異なったものになり得るということがあるからでございます。

 8ページで上の表をごらんいただきますと、平成23年度末の積立金の将来見通しの額を100とした場合、評価の基準となる積立金額は、それぞれの制度において名目賃金上昇率の実績からの乖離を反映して、100より小さくなっています。例えば厚生年金では、将来見通しによる見込み額に比べて、1.1ポイントほど小さくなっております。これに対しまして、積立金の実績は、将来見通しによる見込み額よりも2.0ポイントほど小さくなっております。同じことを、平成23年度末において行っておりますのが、このスライドの中ほどの小さな表です。厚生年金の22年度末で見ますと、評価の基準となる積立金と実績の乖離は1.1ポイント程度となっています。そういうわけで、23年度末において、0.9%と若干縮小しており、拡大傾向にはないものと考えられます。そういったことから、「『評価の基準となる積立金額』と積立金の実績とは、おおむね同水準で推移してきている」という評価になっているわけでございます。

 それから、共済年金の場合は、国共済プラス地共済において、評価の基準となる積立金額との乖離が平成23年度末で1.8ポイント、22年度末では3.0ポイントと、やや大きくなっております。この場合、両制度とも、財政再計算では、積立金の簿価評価額をスタートの金額として、財政計算が行われております。そういう部分の乖離を差し引けば、評価の基準となる積立金と実績は、共済年金においても、おおむね同水準で推移してきていると評価できるものと思われます。

 ただ、いずれの場合につきましても、先ほど述べましたとおり、経済前提や死亡率等の基礎率の現時点における妥当性ということについては、評価を加えているものではございませんので、今後の実績の推移を注意深く注視していく必要があるのは言うまでもないというところでございます。

 最後に9ページ、10ページでは、年金数理部会が、直近の財政検証・財政再計算であります、21年の財政検証・再計算のレビューを行った際の指摘事項をまとめている部分でございます。ここで取り上げておりますのは、同報告書の最後の第8章第2節にあります、「今後の公的年金各制度の財政検証・財政再計算の際の要留意・検討項目」の部分の要約ということでございます。

 ここではまず、マクロ経済スライドによる調整期間が、報酬比例部分より、基礎年金部分の方が長くなっており、重要な論点となる可能性があることが指摘されております。この点は、本年8月にまとめられました、社会保障制度改革国民会議の報告でも指摘されているのは御存じのとおりでございます。

 それから、ここの部分では、併せて国民年金の保険料納付率の見込みと実績の乖離の問題が指摘されております。国民年金の保険料納付率の前提をどう置くかというのは難しい問題ですが、これは先ほどのISAP2で述べられておりました「中立的な前提」と関係する問題と言えるかもしれません。

 それから、共済年金における被保険者数の見通しにつきましては、「今回の財政見通しは、被保険者数が大きく減少しても、収支が均衡することが示されているという意味では、保守的な仮定のもとで行われている」などと指摘されているということでございます。

 最後に10ページでございます。ここでまず「経済変動の影響の計測」という部分がございます。先ほどの坂本さんの御講演にもありましたように、財政の自動均衡措置が導入されている公的年金制度の財政見通しに関する作業は、技術的にも大変複雑になっております。年金数理部会の報告では、今後、景気変動により、マクロ経済スライドが働かない時期の存在も考慮した財政検証・財政再計算を行っていく必要があると指摘されております。

 最後に「確率的将来見通し」が取り上げられております。確率的将来見通しとは、1つ、またはそれ以上の経済変数、あるいは人口学的変数が、確率的な、あるいは確率過程的な動きをするという前提を置いたモデル、いわゆるStochastic Modelと呼ばれるものですが、それによる将来見通しであり、方法論としては、従来型の決定論的将来見通しと対比されるものでございます。この部分につきまして、年金数理部会の報告では、「ある程度の割り切りをした上でも、この確率的将来見通しを作成していくことは、年金制度の安定性を、より詳細に検討するために必要になっていくと考えられる」、あるいは、「マクロ経済スライドが働かない状況を考慮に入れた財政見通しを作成する上でも有効な手段となり得る」などと指摘されています。

 これらの報告につきましては、全て厚生労働省のホームページからダウンロードできますので、御関心のある方は、ぜひダウンロードしてごらんいただければと存じます。

 私からは以上でございます。

 

○山崎部会長

 ありがとうございました。

 ただいまの報告につきまして、委員の皆様から、何かございますか。野上委員。

 

○野上委員 

一言だけ。まさに、最後御説明されたように、前回の財政検証を受けて、次回の日程がかなり近づいてまいりまして、要は、今回、経済情勢がかなり変動しておりまして、その辺の影響を、前回以上に注意していく必要があるのではないかということで、1つの提案としては、何回もやるというのはくどいようですが、一番大事なのは、やはり前提の置き方を、前回の点も踏まえて、ある程度、信頼を置けるような前提を、前回のそれに信頼がないとは言わないですが、いろいろ議論があるのは御案内のとおりで、そういう議論を踏まえて、今回はどうしようとしているのかという点について、御説明いただければということでございます。

 

○山崎部会長

 牛丸委員。

 

○牛丸委員

 ただいま、清水首席年金数理官より『公的年金の財政状況について』という資料に基づいて御説明がありました。1つは、年金数理部会が何をやっているか。もう1つは、毎年発行されている「公的年金財政状況報告」の内容についてお話がありました。我々委員は、当然それは知っているわけですけれども、御説明は、今日会場に来てくださっている方々に向けられたものだと思います。というのは、せっかく年金数理部会でいろいろやりながら、そして、毎年「財政状況報告」を出しながら、必ずしも一般の方々にはそれが伝わっていないということで、事務局に、何とかこれを、一般の方々に知っていただきたいということをお願いして、本日のような企画を立てていただきました。

 そういう意味で、第1歩として非常に評価するわけですが、まだまだ足りないなと。もっともっと一般の方に知っていただきたい。今日来ていただいた方に、ぜひ、この年金数理部会の存在と、やっていることと、それから、こういう「財政状況報告」が出ているということを知っていただきたい。もちろん、やれる範囲というのがありますし、その難しさということはありますが、これから御質問を受けるわけですが、改めて、年金数理部会に求めるものとかいうことがあれば、ぜひ御意見をちょうだいしたいと思います。委員の1人としてお願いいたします。

 

○山崎部会長

 他にございますか。

 

○田中委員

 先ほど、坂本さんが第3部でISAP2の話をされたのですが、その中で、44ページに「財政検証結果の報告」という項目がありまして、そこに、「次のような内容も含むこと」ということで、社会保障制度が直面しているリスクの性質と大きさ、不確実性の性質や程度、感応度分析について言及されました。これは平成21年度の「公的年金制度の財政検証」のところにも、いわゆる、確率論的シミュレーションの話もあったのですが、それだけではなくて、ぜひ、このリスクの観点を、今後、財政検証結果の中に、もうちょっとウェートを置いて入れていただきたいと思うのですけれどもいかがお考えでしょうか。

 

○山崎部会長

 我々自身の仕事かもわかりませんが、事務局から何かありますか。清水首席年金数理官から。

 

○清水首席年金数理官

 今後「財政検証・財政再計算」については、いずれ年金数理部会でレビューの議論をしていただくことになりますので、そのときにも、さまざま御意見をいただいて、まとめていただければと考えております。

 

○山崎部会長

 どうもありがとうございました。

 会場の方から、何か御質問、御意見、いただけますでしょうか。どうぞ、近藤さん。

 

○質問者(近藤氏)

 昔、年金数理部会でやっていた頃から、大分変っているのですけれども、10ページ目の今後の問題、これが非常に大きなテーマになってくると思います。これは、今の事務局では大変な作業になると思うのですけれども、ぜひ、この2つについては今後やっていただきたいなと思います。

 もう一つ、簡単な問題なのですが、新しく導入した指標の中で、保険料比率というのが入っておるのですけれども、これを導入した考え方、年金種別とかは、前から議論されたこともあるのですが、これがどういうものなのか、少し御説明いただきたいと思います。

 

○清水首席年金数理官

 後ろを向いた状態でお答えして申しわけないのですが、保険料比率と申しますものは、実質的な支出のうち、自前で財源を賄わなければならない部分、要するに、実質的な支出から、国庫・公経済負担を除いたものでございますけれども、それに対する保険料収入の比率でございまして、保険料の収入が必要となる額の何パーセントであるかを示すものであるということでございます。

 これも「財政状況報告」に、きちんと定義とともに述べてございますので、ぜひ、御参照いただき、いろいろ御批判等も賜れればと思います。

 

○山崎部会長

 他にございますでしょうか。

 今後の年金数理部会の仕事の課題をいただいたような気がしますが、今後ともよろしくお願いします。

 年金数理部会では、今後も公的年金制度の財政状況につきまして、注視してまいりたいと思います。本日お集まりいただきました皆様方におかれましても、引き続き、公的年金財政について御関心をお持ちいただければと思います。

 本日はこれで終了したいと思います。どうもありがとうございました。


(了)

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