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2013年9月25日 第5回HTLV-1対策推進協議会議事録

○日時

平成25年9月25日
10:00~11:30


○場所

航空会館7階大ホール


○議題

(1)HTLV-1総合対策の進捗について
(2)HTLV-1の感染実態について
(3)HTLV-1関連疾患の研究について
(4)患者会の活動について
(5)その他

○議事

○結核感染症課課長補佐 ( 石原 )  第 5 HTLV-1 対策推進協議会を開催いたします。開催に当たり、佐藤健康局長より御挨拶申し上げます。

○佐藤健康局長 健康局長の佐藤でございます。前任の矢島を引き継ぐ形で、 7 2 日よりこの職にあります。初めてお目に掛かる先生方もいらっしゃるし、また、これまでにいろいろ御指導賜った先生もいらっしゃいますが、どうか引き続きよろしくお願いをいたします。

 まずもって、本日はお忙しい中、そしてまた雨が降っておりまして、足下がお悪い中お集まりを頂きまして、本当にありがとうございます。また、日頃から、こうした厚生労働行政、取り分け感染症や血液疾患に関わります行政に、御理解と御協力を賜っておりまして、この場を借りて厚く御礼を申し上げる次第でございます。

 この会、私が申し上げるまでもありませんけれども、 HTLV-1 の総合対策に基づきます重点施策を推進するために、平成 23 7 月に立ち上げまして、以来今回で 5 回目ということになりました。今回は、これまでの総合対策の進捗状況に焦点を当てて、御議論を深めていただきたいと思います。今日は、日赤中央研究所の佐竹副所長をはじめ、何人かの参考人の方にお越しいただいておりますが、議論が活発になりますよう、構成員、参考人の皆様方、様々なお立場から積極的に御発言を頂きたいと存じます。

 いずれにいたしましても、私どもも関係の各課、力を合わせて努力をしたいと思いますので、こうした議論を通じて、その成果を施策にいかしてまいりたいと考えます。短い時間ではございますが、議論の程よろしくお願いを申し上げまして、簡単でございますが冒頭の挨拶に代えさせていただきます。

○結核感染症課課長補佐 ( 石原 )  議事に先立ち、構成員の任期満了につき変更がありましたので、御報告いたします。長崎県こども政策局こども家庭課長の宮崎構成員です。古美術商「やすこうち」店主の安河内構成員です。安河内構成員は ATL の患者の立場で御就任いただきました。また、座長については、引き続き渡邉構成員にお願いしたく思います。

 続きまして、事務局にも異動がありましたので、紹介させていただきます。健康局がん対策・健康増進課長の椎葉課長です。健康局がん対策・健康増進課の林推進官です。健康局疾病対策課の田原課長です。健康局疾病対策課の田中補佐です。雇用均等・児童家庭局母子保健課の亀田課長補佐です。私は、健康局結核感染症課課長補佐の石原です。よろしくお願いします。

 構成員の出席状況です。構成員 15 名中、 11 名の方々に御出席いただいております。伊川構成員、岩本構成員、林構成員、安河内構成員から、欠席の御連絡を頂いております。また、本日の参考人として、日本赤十字社中央血液研究所の佐竹副所長に御出席いただいております。

○渡邉座長 引き続き、今年も座長を務めさせていただきます。最初に、事務局より資料等の確認をお願いいたします。

○結核感染症課課長補佐 ( 石原 )  議事次第、その裏に構成員名簿のほか、資料 1 から資料 6 、参考資料 1 を用意しています。「配布資料一覧」と照らして、不足の資料がございましたら、事務局へお申し出ください。

○渡邉座長 議事に入ります。委員の皆様には、円滑な議事進行に御協力をお願いいたします。議題 1 について、事務局から資料 1 及び資料 2 の説明をお願いいたします。

○結核感染症課課長補佐 ( 石原 )  「 HTLV-1 総合対策の進捗」について、事務局より説明いたします。資料 1 、資料 2 について説明いたします。

 資料 1 HTLV-1 対策推進協議会 これまでの協議内容」です。第 1 回を平成 23 年度 7 月に開催しました。 1 回目の検討会のテーマは「総合対策における 5 重点分野の取組についての現状報告」、第 2 回は「 HTLV-1 感染予防と相談支援」、第 3 回は「 HAM 対策」、第 4 回は「 ATL 対策」と進めてきました。

 資料 1 の裏です。総合対策の取りまとめの前と現在の変化について、簡単にまとめた資料です。総合対策の取りまとめの前の状況としては、感染予防対策や相談体制、医療体制や普及・啓発、研究開発についても、それぞれ予算の獲得、相談窓口の確保等が不十分であったということで、治療の状態についても未確立ということが報告されておりました。

 現在については、感染予防対策についても、母子感染予防体制が構築できた、又は妊婦健診の抗体検査が公費負担の対象となったり、相談体制についても保健所や相談支援センターでの窓口が設置されたり、医療体制についても診療ガイドラインの作成や拠点化の推進、普及・啓発、研究開発についても、推進が行われ、治療についても、更なる治療薬の開発や実用化の研究が進行中と御報告していただいています。

 資料 2 HTLV-1 総合対策の進捗」についてです。 1 枚めくっていただきますと、「 HTLV-1 総合対策の骨子」とありまして、下の「重点施策」に、 1 から 5 の重点施策が挙げられています。以降、行政の取組については、この重点施策の項目について、それぞれまとめたものを報告いたします。

1 番目が「感染予防対策」です。妊婦健診における HTLV-1 の抗体検査の実施状況になっています。受診券方式で実施している 1,286 の市町村全てにおいて、抗体検査を実施しております。

5 ページです。「 HTLV-1 母子感染対策事業の各都道府県における取組状況」です。この事業の実施主体は都道府県ですが、まず母子感染対策協議会の設置です。設置済みの都道府県は 34 から 37 県となっています。次が、「母子感染の研修事業の状況」ということで、本年度中に実施予定又は実施済みの所が、 41 県になっています。 3 番目に、母子感染の普及啓発事業については、 36 の都道府県が実施済みとなっています。

6 ページです。各都道府県個別の総合対策の取組状況についてまとめた資料です。 7 ページですが、母子に限らず保健所における抗体検査と相談ということで、検査件数自体も、平成 23 年度が 36 件であったものが 153 件、相談件数は 400 件前後であったものが 500 件、 HAM ATL のそれぞれについても、相談件数は増加していることが報告されています。

8 ページは相談支援です。これは以前にも出した資料と同じですが、母子感染予防対策の医師向け手引き、保健師向けとして保健指導マニュアルということで、 2 つの資料を取りまとめて公開し、御活用いただいております。

 次の資料は、「相談窓口の設置状況」です。真ん中の表ですが、受付相談内容別の登録されている窓口数です。括弧の中の数字は平成 23 年度の数字ですので、それぞれ一般のキャリアを含む相談の窓口も増加しています。 ATL HAM 、母子感染についても、窓口の設置が進んでいるということです。主な相談窓口としては、こちらに書いてあるところで、これらの窓口の件数をカウントしております。

 「医療体制の整備」です。まず、精度の高い検査方法の開発ということで、妊婦健診で判定保留となっていた約半数の方々が、陽性判定可能となりました。既に、技術移転を始めましたり、実用化を推進している状況にあります。

 「診療体制の整備」については、相談・診療対応が可能な医療機関の情報提供ということで、情報を提供させていただいております。また、臨床研究の参加医療機関のデータベースを整備しまして、情報提供を開始しております。

 「診療ガイドラインの策定」については、 HAM については「 HAM 診療マニュアル」を作成し、全国に配布いたしました。次のページに「 HAM 診療マニュアル」ということで、鹿児島大学の出雲先生に作成していただいたものを紹介しています。また、 ATL の診療についても、診療ガイドラインの解説と、その解説の患者向け概要書の作成に取り組んでいただいております。 14 ページです。こちらも厚生科研の中で研究班に御協力いただきました医療機関等の検索サイトということで、「 HTLV-1 情報サービス」というものを運営していただいています。

 次に、「普及啓発・情報提供」です。「厚生労働省のホームページについて」ということで、 HTLV-1 ポータルサイトの写真が出ています。このように、厚生労働省のホームページにおいても HTLV-1 の関連情報の提供ということで、情報提供させていただいております。また、先ほども出ましたが、厚生科学研究班における情報提供としまして、こちらのサイトで医療機関等の検索ができるように情報提供させていただいております。

 次のページは、「研究開発の推進」です。研究開発の推進については、 HTLV-1 の感染の実態把握、病態の解明、診断・治療等の研究を総合的に推進するということで、 HTLV-1 関連疾患領域を設け、研究費を大幅に拡充しました。図は、「平成 25 年度の研究費補助金について」ということで、左は平成 22 年まで、 4 研究事業をそれぞれやっていたものを、 1 つの領域として再掲し、 10 億円ということで、研究費の確保に努めてきました。

 次に付けている研究のリストですが、平成 25 9 25 日現在の研究です。それぞれの研究事業ごとに、関連疾患の研究者、研究課題、交付額、研究期間ということで、リスト化しています。

 参考に最後に付けたのは、このリストに上げた研究の中でのサマリーと、進捗状況について、それぞれまとめた資料を付けています。

○渡邉座長 ただいまの御説明に対し、御質問、御意見等がありましたらお願いいたします。

○齋藤構成員 富山大学の齋藤です。日頃から、母子感染について厚生労働省を挙げて御協力いただきまして、ありがとうございます。

5 ページを見ていただきますと、ほぼ全ての県に母子感染対策協議会が設置されているということで、感謝申し上げます。この中に、母子感染の厚労研究班の板橋班というものがあります。その班員に集まっていただき、「各都道府県に HTLV-1 感染対策協議会が設置されていますが、ご存じですか」というアンケートを取りましたら、半数以上の方が「知らない」ということでした。実際、自治体は感染対策協議会を設置していることは認識しているのですが、それが実務者にまでは周知徹底されていないことが分かりました。

 ですから、是非これが単にできたというだけではなく、実態をお調べいただきまして、本当に現場で頑張っている産婦人科、小児科の先生方に、周知徹底していただくような工夫をお願いしたいと思っています。

 それと、今回板橋班で、母乳の栄養方法を取りましたら、 6 割の方が短期母乳を選択されて、 3 割が粉ミルク、 1 割弱の方が凍結母乳でした。

3 か月までの短期母乳ですと、母乳が一番出ているのが 3 か月ぐらいなのです。 3 か月で母乳をやめるということは、妊婦だけに任せておきますと、ほとんど失敗してしまうのです。今日は伊川さんはいらっしゃいませんが、保健師、看護師が地域でサポートをしてあげないと、うまくいかなくなって、結局は失敗してしまうことになりますので、その辺りも是非お願いしたいと思います。

 それから、 2 ページの重点施策で、「相談支援 ( カウンセリング ) 」とあるのですが、そこに「キャリアのサポート」ともう一言付け加えていただきたいと思うのです。いろいろなキャリアの方は悩みがあって、単にカウンセリングではなく、地域でサポートしてあげなくてはなりません。例えば先ほど言いました母乳のことも支援してあげないと、なかなかうまくいかないと思いますので、できたことはすばらしいと思うのですが、実態が伴っていないことを御認識していただきたいと思います。

○渡邉座長 今の御意見を踏まえまして、何か御発言はございますでしょうか。

 私からですが、長崎県でのこれまでの感染予防対策の取組の経験を伺っていますと、現場の産婦人科の先生及び助産師の方々に対する啓発活動を強めることによって、母乳から確実な方法に切り替える効果が非常に大きく表れると。つまり、啓発活動が少し間が開くと、どうしてもその率が下がってくるということを経験的におっしゃっていましたので、今、全国的によりエビデンスの質の高い、人工栄養で感染を遮断するという方向に誘導するとすれば、更に強い働き掛けが必要なのかなと感じました。

○母子保健課課長補佐 厚労科研板橋班の研究協力者会議でもそういう御指摘はありまして、それに対して、今回の自治体へのアンケートで、医師会との協力関係を調査し、集計中です。対策協議会がうまくいっている都道府県は、医師会との協力関係もよく取れていることが、研究協力者会議で指摘されていましたので、調査結果を整理した上で、対策協議会の中で医師会との協力関係を取りながら、 HTLV-1 対策を推進していっていただけるように、周知徹底等を行っていきたいと考えております。

○齋藤構成員 是非お願いします。母子感染対策の見本になるように、いろいろなウイルスなどに関する母子感染があるのですが、この HTLV-1 母子感染対策協議会というのが見本になって、そういった形でのモデル事業として、よろしくお願いしたいと思います。

○山野構成員 聖マリアンナの山野です。今の対策推進協議会ですが、そこで、妊婦健診で陽性になった方、キャリアのまま医療機関、内科の先生にどのようにつなげるか、そこのネットワークに関する体制をどうきちんと整備していくかという内容まで、きちんと話し合われるようになっているのでしょうか。

 そこがすごく大事で、さらにキャリアの診療の対応プラス、今度は ATL の診療、 HAM の診療の部分というのは、すごく密接につながってくると思いますので、そこら辺はどのように考えているのでしょうか。

○齋藤構成員 そのことは非常に重要でして、まず妊婦にキャリアであることを説明させていただきますと、全ての方が自分の子供には感染させたくないと。それで、母乳栄養法を選択されます。一通りしますと、ほぼ 100 %に近いと思いますが、自分は ATL になるのか HAM になるのか。非常に不安だということをおっしゃられます。

 ですから、そのときに地域で相談に乗っていただけるような体制を取ってあげないと、公費で妊婦を screening するようになってから調査しましたが、ほぼ 100 %の妊婦が HTLV-1 screening を行っています。毎年 2,000 人弱の方がキャリアとして分かるわけです。その方に対して、母乳栄養法だけではなく、その後の健康も含めた説明体制を取ってあげないと、検査することはかえってデメリットが多くなってしまいますので、メリットを多くするためにも、そういった体制が必要です。

 これまで長崎、九州のほうではそういった体制が出来上がっておりましたが、全国になると、まだ十分に周知徹底されていない面があるので、それを全国レベルで長崎と同じような体制で臨めるような形にしていきたいと思っています。

○森内構成員 長崎大学小児科の森内です。この協議会設置状況を確認するのに、設置したということだけで終わると、それでおしまいなのです。実務者が全然知らないまま、一応設置したという形だけを作って、中身は何もないもので終わってしまいますので、今後もしこういう調査をされるのであれば、いろいろなチェック項目を出していただければと思います。その中には、今、いろいろな話の出た、カウンセリング体制、サポート、内科(特に神経内科、血液内科)の先生たちへ必要に応じて紹介する体制をどのように作るか、いろいろなチェック項目を全部上げた上で、これが整いましたかということで回答してもらうようにしないと、設置したという答えだけを出して、実質的な活動が何もないままで終わってしまうおそれがあると思います。

 そして、「設置予定」と 5 都道府県が答えて、そのあと 2 残っているのですが、「予定」と答えて、その後、どのぐらいそれが予定のままでいっているのか、「検討中」というものは、いまだに 7 つ検討中ですが、何を検討しているのか。これも、ただ単に「設置済み」「設置予定」「設置検討中」ということだけを答えさせても、何も進まないのかなという気がします。

 さらには、当初は仕方なかったことですが、岩手県、宮城県、福島県についてのいろいろな案件において調査の対象外になったりしていますが、もうそういうわけにはいかないのかなと。三陸海岸はキャリアの多い地域を含んでいるところでもあるのに、震災の影響は影響として、できない部分は事情を勘案するにしても、こういう所にも進めていくという姿勢はしっかり出さないといけないのかなと思います。

○小森構成員 今ほどの議論と関連すると思いますが、第 3 回の班対策のときに、山野先生から診療の実態のお話があり菅付さんからも患者の立場で、相談に大変困るということをお聴きしたと思います。

 その折に、 HAM は約 3,000 人と言われておりますなか、 HAM の診療ができると公表されているのが 92 機関ということですが、その実態が充実していないというお話もありました。

 確かその折に、せめて診断ができるということになって、特に HAM については患者の会、家族の支援あるいは地域の支援といったことも非常に重要なので、挙手している医療機関の方々に、 HAM 患者の診療や相談の実態をよく知っている施設に、短期でいいと思うのですが、見学、研修というか、「内地留学」というと言いすぎなのかもしれませんが、そういった方策があるのではないか、是非検討していただきたいと提言した記憶があります。

1 年半足らずたっておりますので、その後の検討状況について教えていただければと思います。

○疾病対策課長  HAM について、現場の医療関係者への研修ということです。難病対策全般について、現在大きな見直しをしているところです。その中で、小森構成員から御指摘いただいたことで、何かの工夫ができないか。具体的に詰めていきたいと思いますので、もうしばらくお時間をいただければと思います。

木下構成員 相談窓口があったとしても、産婦人科医としましては、パンフレットも作りHTLV-1 の意味や、ATLがどのような疾患かを会員に伝えていますが、まだ、HTLV-1そのものの抗体を測るということの意味すら分かっていない医師がいます。妊婦は分かっているはずがないわけで、ATLというのはどういう病気で、どういう問題が起こっているのかを知らしめる小さなパンフレットを作り、検査の意味を伝えることから始めています。

 万一キャリアであるとわかったときに、齋藤構成員がお話になりましたように、母乳のこともさることながら、本人がどうなるのか不安になるのは当然で、いかに不安を解消していくかかがポイントだと思います。その意味では、相談窓口でどのような内容の答え方をするか、安心させるか、そこまで訓練されているか知りたいと思います。相談窓口が設置されたはいいものの、担当者は誰がやっているのか、どのような訓練を受けているのか、受け皿のほうの対応の仕方は充分であるのか不安がありました。

そう申しますのは、前回ATLの話のときに渡邉座長が、high risk carrierについては調べないという話がありました。本当にそれでいいのかと思ったのです。キャリアというのは、ハイリスクでなければ基本的には安心して生活してよいわけです。一方、high risk carrierであるとわかったら、そんなに数が多いはずがありませんから、その人たちを徹底的にサポートするような仕組みを、真剣に考えていく。その仕組みを作ることに、このメンバーも含めて全エネルギーをかけて対応する仕組みを作る。例えば東京なら東京で、そういうようなhigh risk carrierに対しては、診療体制も含めてどうやってその方々と守っていくかをモデル的に作っていたことが求められるのではないでしょうか。漠然とした話ではなくて、具体的な方策を11つ作っていくことが、建設的な気がしているのですが、どうでしょうか。

 それと、high risk carrierは本当に調べてはいけないのかについては、遺伝子の検査というのが当たり前になってくる時代において、当然ガン発症のhigh risk carrierはわかるようになるわけでHLTVはなぜわかってはいけないのかよくわかりません。治療法がないからというのは、どのがんも同じですから、患者が求めるのであったら、やってあげる方向性というのが、世の中の流れとしては当然あるのではないかという気がします。その辺も含めて、是非お考えを伺いたいと思います。

○渡邉座長 議論を整理させていただきます。 1 つは、抗体検査が全国一律で行われることになったことを含めて、抗体陽性と判定される方々が圧倒的に増えている。そのことで、キャリアに対するサポート体制、相談体制にどう取り組んでいくかというのが、 1 つの問題点です。

 もう 1 つは、 HAM 及び ATL の疾患について、どのように適切に治療するか、あるいは適切な医療機関で適切な治療を受けられる機会を提供するか、その体制をどう組んでいくかという問題でした。

 前半に含まれるところが、今、木下先生から御指摘のあった、 risk group の同定について、我々がどのような態度で取り組むべきかということかと思います。

risk group の同定に関しては、安全と思われる 75 80 %のキャリアと、 ATL を発症するリスクがあると判定できる 20 %前後のキャリアということは、我々研究者側で区別できる状況にはなっています。これは、以前の協議会をお話をしたとおりだと思います。

 そのことを積極的に、診療あるいは相談のところで採り上げていない最大の理由は、ハイリスクであることを宣言することの医療的な意味、社会的な意味について、今、慎重に検討していると御説明をしたところだと記憶しています。

 こういったような幾つかの問題点がありますが、それぞれ御意見がございましたらお願いいたします。

○山野構成員 キャリアの診療相談体制の充実、構築というのは、ものすごく重要なことだと思います。うちの場合は、産婦人科の先生からキャリアの診断があった場合に、キャリア外来に御紹介いただいて、そこで HTLV-1 とは何か、どういうウイルスで、こういうタイプのものだ。こういうことに気をつけなければいけないなどと説明をすると、ほとんどの方が非常に満足されて、かなり信用されます。当然、少し検査をしますが、最初のその部分の説明というのは非常に重要です。

 キャリアと診断された方が疑問に思うことはかなり共通していますから、その question にどのように答えたらいいかという部分の研修をしっかりとする体制を構築していけば、かなりいいものができていくのではないかと思います。

 キャリアあるいはハイリスクと知ることがデメリットという考え方もあるかもしれないのですが、逆に HAM を診療している立場からすると、発症してから診断されるまでに 10 年以上かかっている方というのは、結構いらっしゃるのです。早く治療介入すると、患者の治療の反応性、予後が大分違ってきます。かなり手遅れの状態で来ている患者が非常に多いのが現状です。

 全国的に HAM 患者登録システムを構築して、そのデータを採ると、発症してから診断までの中央値は、 7 年かかっています。ですから、もう少し早く診断されて、早く治療介入されることが大事だと痛感しています。

 そういった意味でも、キャリアと判明することが必ずデメリットになるのではなく、メリットの部分もあるので、そういう部分を明確にしていくことが大事なのではないかと思います。

○塚崎構成員 先ほどから話の出ていた high risk carrier と関連して、 ATL というその次のステップとしての病気を起こされた人の中でも、低悪性の ATL の場合は、高悪性度の ATL になるまでは経過を診ることが現在の標準治療です。ですから低悪性度の ATL 患者と同様に治療法のない high risk carrier の方にどうアプローチするかというのは、 ATL の診療をしている中で、いつも悩ましく思っているところです。

 今、治療法の開発の中で、がん臨床の厚生労働省科学研究費で、抗がん剤ではないインターフェロンとジドブジンという薬を用いて、低悪性度の ATL の方が高悪性度になることを防止するという臨床試験が始まっています。その結果も踏まえるよう同時進行しながら、 high risk carrier の方を同定していくことが重要だと思います。先ほど木下先生からお話がありましたように、どこかモデル地区のような所で high risk carrier の方を前向きにフォローしていくことも、次のステップとしての発症予防法を考えながら進めていくことが、すぐには難しいかもしれませんが、是非検討していただきたいと思います。

○渡邉座長 私から 1 点です。先ほど HAM の診療拠点、あるいはそれに伴って HAM 診療の研修を行うということが、意味があるではないかという御意見がありましたが、 ATL に関しても、適切な診療拠点が現実に存在しています。全部で同じような治療ができるとは限らないというところはあると思います。

 それも含めて ATL の診療に関しての研修体制は、検討の余地があるのかどうか、その辺をいかがでしょうか。

○塚崎構成員 大変重要な点だと思います。 ATL の病態が多様な中で、悪性度の高い ATL に対しては、どうしても強力な抗がん剤治療、あるいはそれに引き続いての同種骨髄移植、昨年度出た新しい治療薬であるポテリジオが積極的に使われるので医療機関での治療の差はそう大きくないです。一方低悪性度の ATL に対しての治療法は、病状が悪化するときにどこまで経過観察をしていくのか、治療介入をどのタイミングでするのかというのは、医療機関でも差があって、特に ATL の多い九州とそれ以外の地域の違いが、以前の研究班の調査でも明らかになっています。そういうことの均霑化という意味からは、先生がおっしゃったような形の研修は重要になってくると思います。

○齋藤構成員 実際にキャリアの妊婦に、 high risk carrier かどうか調べる方法があるというと、ほとんどの方は受けたいと言われます。もちろん怖いから受けたくないという方もいます。だから、妊婦自身は、自分が本当に ATL なるのか、 HAM なるのかを非常に心配していまして、そういう形で、自分がハイリスクなのかローリスクなのかを見たいという希望があります。

 もう 1 つは、ハイリスクの方が自分がどのような管理をしたらいいのか、それからどういった方法があるのかについては、まだ不十分な点がありますので、ぜひ国からも補助をしていただいて、そういった研究を推進するような形でお願いしたいと思います。

 患者は非常に勉強されていますので、いろいろなホームページを見て、ハイリスクなのかどうかを判断できる、ウイルスの定量でできることは御存じで、若い方は smartphone などで情報を集めるのが非常に上手ですし、現場でそういう要望があることも事実ですので、そういった体制を組んでいただく形でお願いしたいと思います。

○森内構成員 齋藤先生たち、産婦人科の先生同様、小児科でもキャリアのお母さんたちと接するときに、多くの方が、自分がハイリスクかどうかを知りたいということは言われます。

 私たち自身、キャリアであることを知ることのメリットとして、こういう症状があったら、 ATL とか HAM かもしれないから、かかりつけの先生には自分がキャリアであることをお伝えしたらということを言うのですが、ちょっと気になることがあって、かかりつけの先生に聞いたら「それでどうしたの」と言われたと。長崎でも、普通のかかりつけの先生だとそのようになってしまうと、自分がハイリスクであると思えば、何か気になるときには専門の先生に相談するという流れを作っておいていただきたいと、そのようにおっしゃるキャリアの方々は少なくありません。

 また ATL の恐れが 5 %と言われるのと 20 30 %と言われるのでは、随分違ってくると思います。本当に 7 8 割を占める low risk の方に相当するのだとわかってしまえば、そこまでは皆さん神経質にならずにすむ。

 私たちは、キャリアの妊婦の周囲の方について、キャリアかどうかを調べることは勧めていませんが、がんノイローゼのようになる方は、私の母親だけは調べてくれと。つまり、私が母子感染であったら心配は続くけれども、私の母親が陰性であったら、夫か誰かからもらったのだから、一安心で、自分のことは別としても ATL の心配はしなくていいから、是非調べてくれと強く言われることもあります。これもハイリスクかどうかを知りたいという、別の表れ方だと思います。そういうキャリアの声を無視し続けることは無理かと思っています。

○山野構成員 先ほどキャリアでハイリスクかどうか診断してほしいという希望者がいるということですが、希望者がその後、例えば 5 年後、 10 年後、 20 年後、 30 年後はどうなっていくかという、 outcome をきちんと把握できるようなシステムが、今までないというのが大きな問題なのではないかという気がします。

 例えば、今、 registration system で希望者はネットから登録できます。世界中で感染者が多い先進国は日本だけなので、そういうシステムを構築して、 high risk carrier とか low risk carrier を含めて、希望者は登録して、その後の outcome はどうなるかをきちんとフォローアップしていく疫学的な研究は、日本でしかできないのではないかと思います。そういう考えはいかがでしょうか。

○渡邉座長 座長の立場ではなく、研究を担当している立場として発言させていただきますと、全国の共同研究組織の JSPFAD と呼んでいるグループで、 10 年以上、登録されたキャリア 2,000 数百名をフォローしているという実態はありますが、そういった長期的なフォローアップの体制をきちんと研究費で、継続的に保障していくというシステムは、制度的になじまない部分があって、運営には苦労しています。ただ、実態としては、キャリア 2,000 数百名の 10 数年のフォローアップがあるために、先ほど申し上げました risk group がはっきりしてきたことはあります。ただ、御指摘のように、それを前向きに、制度的に、安定した形で取り組む必要はあると、私はそういう分野の研究を担当している立場としての感想は持っております。

○石母田構成員  HAM 患者会の石母田です。先生方のお話をいろいろ聴けて、大変有り難く思っています。私たちが患者会で集まっている中で、必ず今の問題は出てくるのですが、どの患者も、もっと早く知ればよかったと。キャリアの方と話をしていても、キャリアであることを知って困ったという方はほとんどいません。知っていることはすごく重要だと思うので、これからもその線で進めていただけたらと、患者の立場からお願いしたいと思います。

○渡邉座長 今のことに関しては、一旦ここまでとさせていただきます。

 次の課題に入ります。事務局から説明をお願いいたします。

○がん対策・健康増進課がん対策推進官 資料 3 「今後のがん研究の在り方について」を御覧ください。がん対策・健康増進課から説明いたします。

 平成 25 8 月の「今後のがん研究の在り方に関する有識者会議」においてこの文書を取りまとめました。この文書の性格について最初に説明した上で、 HTLV-1 との関わりについて説明いたします。最後から 1 枚前の、 27 ページを御覧ください。政府におけるがん研究の主な歩みとして、これまでがん研究に関しては、昭和 59 年に「対がん 10 カ年総合戦略」、そして、 10 年ごとに「がん克服新 10 か年戦略」「第 3 次対がん 10 か年総合戦略」を定め、これにのっとって研究を進めてまいりました。「第 3 次対がん 10 か年総合戦略」は平成 25 年に終了すること、そして、その間に「がん対策基本法」が施行され、「がん対策推進基本計画」に基づいてがん対策が進められています。こうしたことから、今後の更なるがん研究の戦略について検討するために、「今後のがん研究の在り方に関する有識者会議」を設け、平成 25 4 月から 4 か月にわたり検討してまいりまして、 8 月にこの報告書をまとめました。厚生労働省、文部科学省、経済産業省の 3 省で協働して取り組んでまいりました。 28 ページにその概要をお示ししています。

 平成 26 年度からの新たながん研究戦略は、これまでの基本法を基本計画として、第 3 次の総合戦略の成果を、課題を踏まえ、我が国全体で進めるがん研究の今後のあるべき方向性と具体的な研究事項とを明らかにし、がん対策の推進を一層加速させる。これによって、基本計画で掲げられた全体目標の達成に資するというようにまとめられています。

 基本計画の全体目標は、がんによる死亡者の減少、全てのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持・向上、がんになっても安心して暮らせる社会の構築。こうした目標がありますが、これに資するように研究を進めていくことになります。

 目標とするがん医療と社会の姿として、まず、今後のあるべき方向性を報告書の冒頭に記載しています。キャッチフレーズを「根治・予防・共生」として、患者・社会と協働するがん研究、根治・予防、共生に資するような研究を進めていこうということで、具体的に幾つか挙げています。がんの根治や、がん患者・家族の苦痛の軽減、がんの予防と早期発見。さらには、今後の目指す社会の姿として、このようなことを目標に、がんと共に生きる社会づくりのための課題に取り組むとしています。

 我が国において推進すべき研究として、具体的な研究事項等を掲げています。がんの病態解明や、そのほか様々な治療に関わること、また、ライフステージや、がんの特性に着目した重点研究領域の中では、希少がん等に関する研究なども取り上げています。

 本文に戻って、 HTLV-1 との関係で、 5 ページを御覧ください。これまでの研究成果の 2 つ目のポツの所に、 2012 年には日本初の抗がん抗体薬として、抗 CCR4 抗体 Mogamulizumab が薬事承認により実用化されたことなどが記載されています。

9 ページに、幾つかの求められる研究が列挙されています。 (1) がんの本態解明に関する研究の中では、 10 ページの上から 10 行目ぐらいに、小児のがん、高齢者のがん、希少がん等の特徴的な生物学的性質の基盤を解明する研究など、こうしたことを進めていくことが記載されています。

14 ページは、ライフステージやがんの特性に着目した重点研究領域です。この中に、希少がん等に関する研究の部分があり、これまで患者数の多い 5 大がん等を中心に研究資源が投下されてきたが、今後は、民間主導の研究開発が進みにくい肉腫、悪性膿腫、口腔がん、また、成人 T 細胞白血病などをはじめとする希少がんについても適応外薬や未承認薬の開発などの開始を目指した研究を含む治療開発に積極的に取り組む必要がある、また、がん発生の国民性の違いを考慮し、日本をはじめアジアに多いがんの研究を積極的に取り組む必要があるといった記載をしています。

 今後 10 年間のがん研究の在り方について、以上のようにまとめています。現在、政府全体では、「日本版 NIH 構想」といったものもありますので、今後の検討の進捗の中で、最終的にこれが戦略としてどのように位置付けられるかが決まってくると思います。今後の大きな方針としてこれを踏まえた研究をこれから行っていくということで進めたいと考えています。

 本日、 HTLV-1 自体の研究の方向性については、後ほど御議論いただく時間がありますが、まず、がん対策課から報告させていただきました。

○渡邉座長 今の報告に関して何か御意見等ございましたらお願いいたします。

○菅付構成員 スマイルリボン代表の菅付です。先ほどの研究者の方々の御意見等も踏まえて、これからいろいろと推進することがあると思います。私は、 HTLV-1 対策に対して 10 億円という予算が付いたことに非常に感謝しています。この 2 年間に、日本初の抗体薬が開発され、さらに、ハイリスクが分かる研究の推進が求められると思います。 10 億円という平成 25 年度予算が確保されましたが、引き続き今後とも是非とも予算を確保していただいて、 HTLV-1 対策に関することは大いに推進、効果が期待できると思います。これを是非ともよろしくお願いいたします。感謝と期待を込めてお願いを申し上げました。

 先ほど、齋藤先生、森内先生、木下先生など、いろいろ先生方の御意見がありました。後ほど、患者会の意見として患者の立場から感染予防に対して意見を申し上げたいと思います。

○渡邉座長 そのほか、御意見等はございますでしょうか。

○塚崎構成員 「今後のがん研究の在り方について」の中で ATL という疾患を希少がんの中でも代表的なものの 1 つとして取り上げていただいたことは、大変有り難いと思っています。そういう疾患を対象として、より良い標準治療を作るため臨床試験を行っていくには、患者さんのリクルートは容易ではありません。希少がんという観点から、肉腫などに対する臨床試験と同様に、今後進めさせていただきたいと思っています。関係の皆さんの御協力を頂きながら、全国から拠点となる病院での臨床試験に参加していただければと思っています。

○山野構成員 がんの領域に関して全体的にバランスの取れた計画だと改めて感銘を受けて拝見しました。特に ATL HAM がほかの疾患と違うのは、欧米など先進国でのエビデンスが非常に少ないということです。ほかの希少疾患であっても、先進国でエビデンスがあって、それを公知申請の形で患者さんに届けるなど、そのように治療に応用することができるのですが、なかなかそういうことができないので、いわゆる標準治療を作っていくことも日本がリードしなければいけない。そういう意味で、 12 ページの、全国規模の多施設共同臨床試験は、新薬の治験だけではなくて、標準治療に関するエビデンスを作ることをやっていかないと本当の治療法の確立はできない。特に ATL HAM はそういう部分で特異性を持っていることを改めて強調させていただきたいと思います。

○渡邉座長 時間も押していますので、次の議題に移ります。資料 4 について、佐竹参考人から説明をお願いします。

○佐竹参考人 日本赤十字社の佐竹です。本日は、 HTLV-1 の感染実態について資料 4 に基づいて説明いたします。これは、キャリアの実態を見ようとした厚生労働科学研究の先般の報告で、そこから要点をかいつまんで説明いたします。

 御存じのとおり、多くの HTLV-1 のキャリアの方々の中から毎年約 900 1,000 人の ATL の患者さんが報告されている。また、報告によって違いますが、 1 人のキャリアの方が一生の間に 3 5 %の確率で ATL を発症される。このようなことから、日本に実際にどれぐらいキャリアの方がいて、どの地域にどれぐらい存在するのか、こういったデータは、国が施策を講ずる上で基礎的な大事なデータだと考えられます。

 厚生労働科学研究では、 2 ページのとおり、 20 年ぶりに        全国調査が行われました。その方法は、 2006 年と 2007 年の全国の初回献血者の HTLV-1 の感染率を調査したものです。そこで得られたデータから、全年齢・全国でのキャリア率、キャリア数を推定しました。また、 1988 年に大体同様の調査が行われていましたので、それと比較検討しました。なぜ献血かというと、献血者全員に HTLV-1 抗体に関しての検査がずっと行われているということです。全国あまねく、 1 年間に大体 500 万人の方が献血されていますので、その血液について同一法でずっと検査が行われているため、データソースとして非常に大きいものがあります。ただし、献血できる方の年齢は 16 64 歳なので、この年齢より若い方あるいは高年齢の方は、先ほど申しましたとおり、いろいろな推定でそのキャリア率を算定しました。

3 ページは、初回の献血者のデータです。なぜ初回の献血者かというと、献血されますと、そこでいろいろな感染症の検査が行われ、その感染症について陽性だった方はその後の献血ができません。多くの献血者は実は複数回献血されている方です。大体 7 8 割の方は複数回、何度も来られる方です。そういった方々は陰性であることが証明された方ばかりですので、献血者全員を検査しますと、それは検査で陰性だった人が圧倒的に多いので、それは国民全体の陽性率を反映しないものとなります。したがって、初回の献血者はまだ何も検査を受けていない方々なので、そういった方々の中での陽性率を見ることが大事なのです。

 平成 18 19 年の全国の初回献血者は 119 万人余りでした。幾つかの検査法がありますが、今回は確認検査として蛍光抗体法で陽性だった方々だけを拾い集めました。これは確実に抗体が陽性と判定された方々です。最終的には、 119 万人余りの中で陽性だった方は 3,787 人で、 0.317 %という数字となりました。

4 ページを御覧ください。これを性別・年齢別に見ますと、このとおり、若い方々の中では陽性率は低いのですが、高年齢になるに従って陽性率が非常に大きく跳ね上がります。また、女性においては 50 歳代から男性よりも陽性率が高くなることが見て取れます。

5 ページは、これを地域別に見たものです。九州、沖縄では、全年齢を合わせて 1.14 %ですが、九州、沖縄以外では 0.21 %で約 5 倍の違いがあります。これは今までにもよく知られたことではありますが、改めてこのような数字が出てまいりました。

 これをまた年齢別に見ますと、下のグラフのとおり、やはり九州、沖縄地域が圧倒的に陽性率が高くなっています。その他の地域は大体似ていますが、その中で近畿地方が比較的高い陽性率を示しています。

6 ページを御覧ください。献血は 16 64 歳の実測部分のデータしかありませんが、これまでのいろいろな報告等から、これより高年齢ではこのカーブを直線的に延ばしてほぼ間違いないだろうということで、これを直線で延ばして各地域について当てはめ、その陽性者数を全部積算して全国の推定数としました。そうすると、女性においては、このように、男性とかなりかけ離れて陽性率が高くなっています。この陽性率を全国の人口等に当てはめて計算しますと、 7 ページのようなキャリア数となります。一見してお分かりのとおり、キャリアの数は全国で合計 108 万人と推定されました。これは日本人全人口の 0.85 %に相当します。このグラフのとおり、 50 代、 60 代、 70 代にキャリアが集中しておりまして、その 3 つの世代で大体 70 万人と非常に多く、 7 割近くがこの年代に集中しています。それ以降は、ほかの病気等で亡くなられる方がいらっしゃいますので、数としては少なくなってまいります。また、若いほうではキャリアの数も非常に少ないという状態が見て取れます。

8 ページは、全部は挙げておりませんが、具体的に陽性率の高い県を挙げました。やはり、鹿児島県、沖縄県などが陽性率が高い。鹿児島、沖縄、宮崎、長崎、福岡、佐賀、大分、熊本と、やはり、九州の 7 8 県がここに入ってまいります。その次は大阪です。

 一方、陽性率の低い県は、新潟、山梨、栃木、山形、群馬というように、中部から東日本に見られます。ちなみに、東京は丁度その真ん中ぐらい、 0.15 %の陽性率です。

9 ページを御覧ください。これは、都道府県別の推定のキャリア数を挙げています。全部は挙げておりません。キャリア数を千人単位で出しますと、やはり、九州地方が多く、福岡県が 10 万人、鹿児島県が 10 万人、沖縄が 7 万人というような数になります。また、左のほうにあります、大阪が 9 万人ぐらい。東京、メトロポリタンの辺りは、埼玉、千葉、東京、神奈川など各県とも、 3 4 万人ぐらいのキャリアの方々がいらっしゃいます。これは、人口が多い所ということももちろんあります。ただ、全くキャリアがいない県はありません。どこの県にも必ずいる。一番少ない所でも 1,000 人前後のキャリアの方がいると推定されます。

10 ページは、これを大きく地域別に見たものです。九州に全てのキャリアの 45 46 %が居住していらっしゃいます。関東地方が 17.7 %、近畿地方が 15.9 %といった分布になっています。これを、 11 ページのように、約 20 年前の 1988 年のデータと比較しますと、九州地方は大体 6 分の 1 ぐらい減っていますが、関東地方と中部地方が増えており、全体としては、九州から大都市圏、特に関東地方にキャリアの方が移動されているのではないかと思われます。全体として、キャリアは昔よりも大都市を中心に日本全国に拡散していると捉えることができると思います。

12 ページを御覧ください。この 20 年の間にキャリアの年齢分布がどのように変わったかを示しています。点線の 1988 年に大体 120 万人いると想定されていたものが、今回、 20 年近くたちますと、そのカーブが右のほうの高年齢のほうに寄っています。注意していただきたいのは、このような高年齢に偏ったグラフを見ますと、加齢とともに段々感染していくように見られがちですが、これはそうではなく、このピークにある方々は恐らく出生時に感染したそのものを持って加齢しているという効果ですので、そこは誤解のないように見ていただきたいと思います。少し言葉は難しいですが、このようなものを「出生コホート」又は「出生年コホート効果」と呼んでいます。

13 ページは、同一の世代でこの 20 年間にどのようにキャリア率が変わったかを示しています。例えば、全国の女性のグラフの一番右側を御覧いただきますと、薄い棒グラフは、 1988 年に 40 代だった人たちの陽性率で、これが 1.4 %ぐらいでしたが、約 20 年たって 60 歳代になると、 1.65 %ぐらいになる。すなわち、 20 年間にこの世代の方々の陽性率がこのぐらい高くなるということが全体的に見て取れます。これにはいろいろな意義付けができるかもしれませんが、出生時だけではなく、その後も感染が何らかの形で起こっているのではないかと思われます。

 そういったこととは別に、次のページの図を御覧ください。現在のキャリア率を持ったまま、これから人口構成が変わってきますので、厚生労働省から出ている人口推計に現在の陽性率を当てはめて、将来どのようにキャリアの数、その分布が変わっていくかを見たものです。 2007 年時点では 108 万人であったものが、そのグラフの点線のように、どんどん高齢のほうに移動するとともに全体としてキャリアの数も少なくなって、 2027 年には全部で 56 万人、約半減するのではないかと考えられます。

 以上をまとめますと、 15 ページの最後にあるとおり、全国の全年齢でのキャリア率は 0.85 %、キャリア数は 108 万人と推定され、 20 年間に 10 %減少したと思われます。キャリアは高年齢域に偏り、 50 79 歳の範囲に 70 万人が含まれます。高年齢に偏った分布は、先ほど申しました、出生コホート等の効果によるものであると考えます。

 キャリアの 46 %は九州、沖縄に集中していました。 20 年前と比較して、キャリアは九州で減少、関東地方で増加し、全体としては全国に拡散していると思われます。予防対策が継続された場合、 20 年後にはキャリア数はほぼ半減するのではないかと予想されます。以上が調査研究で分かったことです。

○渡邉座長 今の説明に対しまして御質問、御意見等ございましたらお願いいたします。

○森内構成員  13 ページのグラフが非常に興味深いものでした。大人になってからの感染では、輸血感染若しくは静注薬など日本では問題にならないとなると、性行為感染ということになります。これまでは、男性から女性への感染が起こりやすい反面、女性から男性は起こりはするけれどもかなり少ないという認識でしたが、ここで見る限りは、男性もかなり増えているのですね。 1988 年には、 20 代、 30 代、 40 代だったコホート集団が、 20 年後にはそこそこ増えている。女性の増え方よりは少し少ないとはいっても、それほど極端な差がない。献血者が日本の人口の代表であるかどうかが難しいところで、相変わらず、少し気になる人が検診がてら採血という傾向は最近はもうクリアされたのでしょうか。それが反映されて、性行為感染を起こしやすい男性が比較的献血に来ているという部分がこのような形で反映されている可能性はないのでしょうか。

○佐竹参考人 確かにそのような懸念はあります。 HIV に関してはその可能性がこれまで指摘されてきましたが、 HIV 以外については、このウイルスのことを知っている人自体が非常に少ないことと、また、現在は献血においては本人確認を徹底してやっていますので、偽名や、自分が何らかの感染症を持っていると思われて試しにということで来る人は、以前よりはかなり少なくなっているのではないかと考えられます。これはウイルス学的にはなかなか考え難いことですが、このような男性での増加が本当なのかどうか現在調査中です。これについては、もう少し時間がたてばもう少しクリアな答えが出てくるのではないかと思います。

○齋藤構成員 データの信憑性についてです。今回、木下会長が進められた日本産婦人科医会では、全国で大体お産が 100 万件ある中で、 70 万検体の妊婦さんのデータが出ました。当然、女性だけですが、佐竹先生たちが調べた 20 代、 30 代のキャリア陽性リストとほぼピッタリになりました。妊婦健診ですから、健康な方ほぼ全ての女性の比率を表していると思います。それで、献血とほぼ同じ値が出ましたので、この値の信憑性はかなり高いと思いました。

○山野構成員  12 13 ページでは、例えば、 1988 年に 20 代の陽性率が 40 代には上っていたり、 30 代の方の陽性率が 50 代で上がっていますが、 14 ページの将来の推移では、 30 代の方が 50 代になったときにほとんど上がっていない想定、予想になっています。これは 12 ページでの上昇率というファクターを入れた上での推計と考えてもよろしいのでしょうか。

○佐竹参考人 いいえ、違います。 14 ページの推定は、陽性率が変わらないとして、それをそのまま当てはめたものです。また、 12 ページのものは、過去の実際の累計で、過去の 30 代、 40 代、 50 代と、これから推定する 30 代、 40 代、 50 代とは、増える割合がかなり違うのではないかと思われます。

○山野構成員 この増えているのも恐らく水平感染も反映していると考えてよろしいのでしょうか。

○佐竹参考人  12 ページで増えているのは恐らくそうであろうと思います。

○山野構成員 現時点では水平感染の対策を全国的に行っているわけではない状況で、これが増えないという部分はまだ乏しいのではないかという印象があります。もう 1 つ、この推移などについて、以前、重松先生のレポートにありまして、同じように 50 年後には減っていると書かれていて、 5 分の 1 ぐらいになるという推計がありましたが、残念ながらそのとおりにはならなかったという背景があります。重松先生は、結局、 20 年間の実態調査をやっていなかったことが問題だったのではないかとおっしゃっていました。 2007 年に調査されて、今後どれぐらいのペースで実態調査をやっていくことが重要なのでしょうか。

○佐竹参考人  5 年おきぐらいには見たほうがいいのではないかと思われます。水平感染について出ましたが、水平感染の方からどのような疾患が起きてくるのか、そこをきちんと把握する。何らかのレジストレーションなどがあって、そういった方々がローリスクなのかどうか、これからきちんと見ていくことが大事ではないかと思います。

○渡邉座長 そのほかに御発言はございますでしょうか。

 次の議題に入ります。次は、資料 5 で、研究班の代表として私から報告させていただきます。まず、資料 2 の、 HTLV-1 総合対策の推進体制の所を御確認ください。実は、ここの一番下にある「研究班」の所に「研究班の総括的な班会議」で研究班の連携強化、研究の戦略的推進」という言葉が盛られています。私が担当しているがん臨床の研究事業は、こういった事柄に対応する研究班として設けられていると私自身は認識しています。つまり、全体の配置と研究の戦略的な推進を促進するための 1 つの機能としてこのような班が作られていると考えています。目的は、この場合は ATL に絞って書かれていますが、「感染予防、発症予防、新規治療法開発の観点から研究推進の現状と問題点を把握して評価し、医療行政と関連疾患研究の適正な推進に向けた提言をする」というものです。方法としては、 1 ページの右側に書かれているとおり、先ほど紹介のあったそれぞれの HTLV-1 関連疾患を研究領域とする形で設立されている研究班の活動を評価し、それを合同で発表会を行って進捗状況を把握するというようなことを行う。また、シンポジウムの開催や研究会の開催を支援する、関係する学会、研究会においてどのような研究が発表されているかを調査する。さらに、国際シンポジウムを開催して海外の研究の現状把握とともに交流を行うなどが挙げられています。そういった具体的な作業内容を図示したものがその下です。

 私どもとしては、様々な研究会、学会等でどのような発表が行われているかという情報収集に加え、先ほど申しましたように、関連疾患研究領域の各研究班の班会議に、我々の研究班からオブザーバーを出席させて、現状把握と評価を行うという形で活動しています。それから、先ほど申しましたように、シンポジウム等の開催をするということです。

 下の右にありますとおり、平成 23 24 年度の実績としては、関連研究班の評価を平成 24 年度から行っています。これは、平成 23 年度は 9 月以降にこの班が動き始めたため対応できなかったので、平成 24 年度から行っています。それから、海外の研究者を招待しての国際シンポジウムを、平成 23 24 年度の 2 回行っています。 ATL シンポジウムは、関連疾患研究領域のみでは把握し切れない様々な研究の動きについて、若手の方を中心に最新の動きを発表していただく形で開催しています。 HTLV-1 研究会というこの領域の研究会がありますので、そこと一緒に共催する形で、日本国内全体の研究活動を一堂に会して発表していただく機会を設けています。また、関連疾患の合同発表会というもの、これは各年度の終わりにやっています。そして、年次報告書を出しています。最終年度には、研究推進体制に関する包括的な提言を行うことを目標にしていますが、最終年度は今年度なので、今年度末に行う予定です。

 その後に挙げていますのは、その内容の 1 つです。実際に厚生労働省科学研究費で、 ATL に関連した研究班がどのように配置されているかをマッビングしたものです。例えば平成 23 年度はこのような形になっています。図の中で、 HTLV-1 の領域は、感染からキャリアの状態、それから、疾患を発症する。 HAM/TSP 、ブドウ膜炎、 ATL とありますが、そういう全体の流れの中で、研究班がどの部分を担当した研究を行っているかをマッピングしています。大きな赤い矢印は、カテゴリーとしては大事な所なのですが対応する研究班がないのではないかということで、これが平成 23 年度のマッピングです。

 次のページも同じようなマッピングです。期限が来て研究班がなくなるなどしますので、平成 24 年度の状況を見たものがこれです。左側に赤縁で囲ってあるものが 2 つあります。これは割と小さな班ですが、こういう部分に班が設定されています。また、治療薬の開発の所には私の班が 1 つ動いています。

 次のページは、全体のまとめです。実態把握、病態の解明、感染予防・相談指導法の開発、診断・検査法の開発、治療法の開発ということが、関連疾患領域全体として取り組まれていると思います。その中で、研究の成果としてはっきり言えることは、疫学調査を全国の共同研究組織が行ってきた研究によって、 ATL を発症するハイリスクグループは約 20 %前後のキャリアに絞り込めることが分かったということ、それから、検査法の確立を進めてきたということです。また、妊婦検査の全国一律の感染予防対策を推進したこと。これは全体として行ってきていることです。さらに、新規治療薬の研究開発も推進してきていると評価できると考えています。

 新たな研究課題としては、右に挙げてあるとおり、先ほどから議論のあるハイリスク群への対応が非常に大事であろうということで、その基盤となる登録システム、疫学調査の体制をどうするか。また、発症のメカニズムの基礎研究も当然重要である。バイオマーカーもきちんとやる必要がある。臨床病態を明らかに解明することによって、実際の治療や発症予防薬の開発につなげる必要があるだろうということが書かれています。

 期待される効果としては、発症予防介入と早期治療が可能になるようにしたいということ。また、感染症の正確な情報発信と偏見の払拭を目指すことを挙げています。共催しましたシンポジウム等のチラシを参考までに付けています。以上が私の研究班からの報告です。

 この、いわゆる総括班が行った研究について報告をいたしましたが、御質問等がございましたらお願いいたします。

 御発言がないようでしたら、時間が押していますので、次の議題に移らせていただきます。次に、資料 6 について、菅付構成員から御発言をお願いいたします。

○菅付構成員 スマイルリボンの菅付です。スマイルリボンの活動から見えたものとして、まず念頭に置いていただきたいのは、全体図ですが。全国 HAM 患者友の会と、全国キャリアママ・バアバの会のカランコエ、全国 ATL 患者、家族の会の ATL ネットを含めて活動しておりそれらをまとめている事務局が鹿児島にあります。

2 ページで、そこへかかってきた相談内容について御報告します。過去 1 か月の相談というのは 8 10 日~ 9 10 日までに電話が 16 件、メールが 4 件でした。これは、会員ではなくて、外部からの相談件数です。それから、『 ATL 治療最前線、教えて HTLV-1 のこと』という本を発行していますが、その注文者が 2 年間で 276 件、会員登録数は 7 年間で 803 名でした。現在は 600 名ほどですが、その 200 名というのは、新しい会員が入るのと同様に亡くなられたり、長期入院されたりということで、そういう数字が出ております。

3 ページは相談内容の内訳です。 ATL に関して、最近はポテリジオの件が多いです。それから、 ATL を発症して短期間で死亡した家族の方が「納得がいかない」という声が必ずあるのですが、それがまだ少なくはなってはいません。「兄弟 4 人が 60 代に ATL を発症し、死亡した。今度は自分が発症して情報が欲しい」といった方も後を断ちません。 HAM に関しては「治療薬がない、とにかく情報が欲しい、薬はまだか」といった声が多いです。キャリアとその他に関しては「カランコエ、感染予防対策について話が聞きたい」といった内容でした。

4 ページは、 HTLV-1 を取り巻く状況の変化です。協議会ができて 5 年目に入りました。それを踏まえて 2 年前との比較をしてみました。地方自治体の行政の HTLV-1 に対する意識は変わったと思います。 2008 年にスマイルリボンが行政に対して、 47 都道府県に調査をして、 100 %回答が得られました。その時に「相談体制ができている」と答えたのは 3 県だけでした。外枠はできてきたと思うのですが、相談体制の中身はどうかというと、まだまだ不十分に思えます。 1 年前との比較をして、 ATL の治療研究開発が非常に活発になりました。ポテリジオができたということで、 ATL の患者さんには希望が持てるようになりました。治療した患者さんからも感謝の電話を受けることがあります。しかし、医療格差は変わらず、 ATL 患者の少ない所では、ここで安心して治療が受けられないという相談があります。 HAM の場合は、 HAM ネットができ、アトムの会などで情報はつかめるけれども、治療薬がなく、進行は進む一方で希望は持てないといった治療薬の問合せが多いです。

5 ページです。先日、東大医科研でシンポジウムを開催した時に出た課題が「知る大切さ」で、 HTLV-1 に関して ATL HAM を発症する確率は低いのに、キャリアが知っておく必要があるかという問題提起がありました。研究者の考え方として、これは医者も含めてなのですけれども、発症を予防できない現状でできることはないから悩むだけという考え方があります。怖いから知りたくない人もいるし、知らない方がいいのではないかという考え方があるのではないかに対して、会場から意見がありました。予防できない現状で、できることがないから、知らない権利の方が大切ではないかということに対してです。これに対し、患者やキャリアの当事者からは、自らの感染や健康状態を知ることで、発症時の治療に備えた情報収集や、二次感染を予防できるのではないかという意見が多数でした。知っておくことで、次の段階のことを考えられるという意見がありました。

 会場にいたパネリストは、「早く知った方がよい」という意見で一致しました。 ATL の相談でよくある声は、病気のことを知っていれば早く専門医に連れていくことができた。家族が発症してから、あわてて情報を集めている。なぜもっと ATL について教えてくれなかったのか。病気について訳が分からないまま家族が死亡した場合、医療裁判を起こしているという、生々しいケースも電話で聞いております。

 ここで、福岡在住の HAM の患者さんのことを聞いていただきたいのですが、 8 年前にようやく HAM と診断されたが、既に車椅子利用になっていました。その時期に母親が突然呼吸が苦しくなり、そのまま死亡しました。以前から呼吸困難と、頻繁な膀胱炎、歩行困難という状態が続いたにもかかわらず、 HAM と気付かずに治療もしなかった。後悔してやまない。これは、自分が HAM と診断されたから分かったということでした。ご自身は、長崎の 25 %がキャリアという高発症地域の出身でしたが、病気については知らなかったそうです。 20 年前から症状はあったのに、診断が付いたのは 12 年後。たまたま娘の治療に付いていった整形外科に、神経内科医がいて、福岡大学病院を勧められた。その後、原因が母子感染と分かり、兄弟を検査したところ、兄と妹がキャリア、兄嫁もキャリアと分かった。この方は、男性からの感染予防の必要性を感じていると付け加えています。

 関東に在住の患者さんの例です。兄弟 5 人中 4 人全員が ATL を発症し、死亡した。 60 になるまでは気にしないようにしていたのだけれども、ついに自分も発症してしまい、あわてて情報を集めている。この方は長崎の出身でした。同様の話は鹿児島県でも聞いているので珍しいことではありません。

7 ページは、先ほど齋藤先生や、他の委員の先生方がおっしゃっていたことに関わるのですが、患者キャリアからの相談体制の提言として意見をさせていただきます。多発地域と少発地域での相談体制は、地域差があって仕方がないのではないかと思うのです。相談体制の外枠は一応できたとしても、そこに患者の声がなかなか耳に入らない、キャリアも少ない所、患者も少ない所では、どう対応してよいか行政側は困っていると思います。

 患者の家族にはできるだけ抗体検査を勧めたほうがよいと思います。検査を受けようか相談すると医者からは「犯人探しになるからやめた方がいいです」とよく言われるそうです。犯人探しとは考えていなかったのに、医者からそう言われると先入感が入ってしまいます。「大切な家族の感染を防ぐためですよ」とやさしく説明をして欲しいと思います。それから、家族内発症のある人には、できるだけキャリア外来を勧めて、病気について理解しておくことの必要性やメリットを説明してほしい。研究者には、早い時期での治療ができるような体制を作っていただきたいと思います。

 前回の森先生のお話の中で、相談の体制ができていてもキャリアのニーズがない、キャリアからの相談件数がないからどうしようもないという声がありました。これは啓発が足りないからで、 HTLV-1 を知らないから、自分がキャリアであるかどうかも分からない人が多いのではないかと思います。国民全体が HTLV-1 のことを知り、周囲が理解する必要があるのではないかと思います。

 国の役割として要望したいのは、一般国民を意識したパンフレットやキャンペーンなどです。 AIDS やピンクリボンのように、テレビでもアピールして欲しいのですが、センセーショナルにはしたくないので、まずは一般国民が気軽に手にできるようなパンフレットを作成していただきたいと思います。それから、キャリアに対して日赤では「心配は要らないですよ、考える必要はない」と説明を受けるから、相談の必要性を感じていないと思います。また、保健所へは行きにくい、平日は働いているから無理だという声をよく聞きます。

 母子感染予防対策だけでは、 HTLV-1 の撲滅は不十分と思います。キャリアにとって 5 %の発症に備えて、病気の早期発見ができる知識を付けておいた方が、良いと思います。それから、男性の感染予防に触れる時期ではないかと思います。

 最後に多発地域での相談体制として実践している鹿児島の例を紹介します。ここではスマイルリボンと医師、看護師、保健師、助産師が横につながりを持つ体制を理想とし、アトムの会、 ATL ネット、カランコエかごしま、それぞれが行政と協力していろいろな交流会や講演会を実施しております。今年度中には、鹿児島県と共催でシンポジウム開催の計画をしております。相談体制のキーワードは、行政と相談者とのつながりを作る「媒体」であり、そのつながりを作っているのが、患者・キャリアの当事者からの呼び掛けで、スマイルリボンが「媒体」になっていると思います。また、鹿児島は地元のマスコミが協力的で、県民に新しい情報を報道し、 HTLV-1 の啓発に大きな役割を果たしています。以上です。

○渡邉座長 御意見等がありましたらお願いいたします。

○森内構成員 患者の方々、キャリアの方々からの声は大変貴重なことで、それをもとに一生懸命考えていきたいと思います。私は、会議のときに「犯人探しになる」という言葉をよく使っているのですけれども、もちろん現場では使ったことがありません。現実的にキャリアの方で、「私は誰から感染されたのですか」ということを訴えて、「周りの方を調べてくれませんか」ということを言われたときに、「感染症というのは、必ず誰かからもらって、誰かに行ってということでつながってくるものだから、それを一生懸命誰から誰ということを探すこと自体に余り意味はないですよ」ということはお伝えします。

 長崎で 26 27 年やってきていると、現場の中で、私が感染を受けたのは誰からかということを探して、強くそれを要望されて調べてみて、母親からも夫からもキャリアが見付からなかったときの家庭紛争をかなり経験されています。そのことによるマイナス点と、今、周りでキャリアの方が見付かるということのプラスの部分はどちらが大きいのだろうというのを、少なくとも母子保健に関わる方たちの立場からすると、目の前でとんでもない家庭紛争が起こって離婚したり、下手すると親子心中するのではなかろうかという姿を見ると、今キャリアの方が見付かることのメリットはどのぐらいあるのだろうか。先ほどの母子感染を防ぐという事業を確実に継続する中で、今、周りの方で妊婦さん以外の方にキャリアを積極的に探すことのメリットはどうだろうかというのが 20 数年間の議論です。

 ただ、 ATL HAM に関して、より早期診断、早期治療することのメリットが 4 半世紀前に始めた頃と今とでは事情が変わってきているので、その都度私たちも 10 年間ぐらいの目安の中で、また議論は起こっております。 20 年経ったぐらいの時の議論では、それまではこんな家庭騒動を引き起こして意味があるのかというのが大多数でしたけれども、かなりのディスカッションになってきていますので、そういう時期ではあろうと思っています。

○菅付構成員 医師の方々は犯人探しとか、家庭内紛争になるという前提で考えておられるのではないでしょうか。まず、そういうことを払拭していく必要があると思うのです。国民に対する啓発、周りから、周りから理解していただき、 HTLV-1 というものがそもそも縄文時代から受け継がれてきたものであって、決して誰が持っていたからいけないのだということではなく、もしかしたら自分が持っていたかもしれないという設定の中で、キャリアかどうかを調べておきましょうね、そのほうが皆さんも家族もその人が発症したときのことを考えると安心でしょうからね、という方向に向かわせていくのが、お医者様の力量かなと思います。

 ある島の ATL の患者さんですが、自分が ATL と分かっては困るので、郵便物をスマイルリボンから発送しないでほしいという方も実際にいました。だから、偏見の強い所では、お医者様もそういう悩みが頭から離れないのだと思うのです。そこを取っ払うこと、それから患者やキャリアの意見をもっと聞いていただければと思います。本日もカランコエの代表の畑さんが傍聴で来ているのですが、そういう方々を交えて、できるだけ当事者の考え方がどうなのか、それをどんどん反映していかない限り、 HTLV-1 の相談体制は進んでいかないのではないかと思います。

○木下構成員 ちょっと遡ってなのですが、献血の陽性率のことで是非教えていただきたいのですが、年齢とともに上がっていくということは、どのように説明されているのでしょうか。

○渡邉座長 抗体陽性率の年齢分布の説明ですね。

○佐竹参考人 それは先ほど御説明いたしましたが、新たにどんどん加齢によって感染が増えていくということではなくて、この方々が昔母親から、恐らく母乳によって感染した人たちが、その感染リスクを持って、そのまま加齢していくということだと思います。

○木下構成員 ということは、たまたま高齢になって発見されたというだけという意味ですか。 30 代で検査していれば、その時に分かったという意味ですか。

○佐竹参考人 その方々は、もし 30 年前に検査をすれば、その時には恐らく陽性だっただろうと思います。

○木下構成員 そうすると、各世代でもって、特別に感染源が何か新たにあったということではないという意味ですね。

○佐竹参考人 はい、そのように思います。

○渡邉座長 私から申し上げます。佐竹先生からの御説明のとおりなのですけれども、もともと非常に広く高い確率で感染者が存在していて、それがだんだん時代とともに減ってきているという捉え方をしています。高齢の方は、その感染率の高い時期に生まれて育った方が、そのままだんだん高齢化していくというような捉え方をしております。

○木下構成員 そうすると、これはどこで感染するかというと、今考えられていることは、母乳感染が非常に確率が高いということですけれども、そこのところを押さえればかなりの確率で HTLV-1 の抗体陽性率は減っていく可能性があるのですか。

○渡邉座長 私どもはそう考えております。これまでの長崎の取組で、現実に若い妊婦さんの抗体陽性率はほぼゼロになってきておりますので、それは 1 つのサポーティブ・エビデンスである。つまり、そこを押さえれば感染率が減るということのサポーティブ・エビデンスであると考えています。

○木下構成員 分かりました。この話をずっと伺っていて、結局は発症してからではもう遅いわけというか、しようがないわけです。いかに防ぐかというと、感染させないことに尽きるとなると、私たちはたまたま妊婦を見ている関係から、徹底的に母乳感染は防ぐという本格的な取組しかあり得ないかと思いますけれども、そのように考えてよろしいでしょうか。

○渡邉座長 座長の立場で発言していいのかはあれなのですが、先生のおっしゃるとおりだと。研究者あるいは臨床側の、特に ATL の治療に携わっている側の実感としては、そのように今おっしゃったとおりに考えています。ただ、それをそのまま全部それで押し付けていくわけにもまいりませんので、実際的な対応の仕方をいろいろ考えながらということです。

○木下構成員 分かりました。先ほど話のありました、性感染症的なファクターもあるのかということもちょっとあったのです。それでないと、年齢とともに上がっていくということの意味としては一体どういう意味があるのか。非常に誤解を招くようなデータだけに、本来そういう新たな感染ではないのだということは明確に言っておかないと、ちょっと誤解を招くということにもなると思います。

○渡邉座長 私どもも、実はそのことは非常に慎重な発言をしております。基本的には水平感染は存在すると。確かに存在する。それがどのぐらい寄与しているかということについては、正確な判断は難しいけれども大きくはない。大きな割合ではないと捉えています。

 もう 1 点大事なことは、少なくとも ATL という疾患を診たときに、これまでのデータ、報告から見ると、母親から垂直感染をした方からのみ発症している。つまり、水平感染から ATL を発症していないというふうに、これまでの情報では判断できますので、そういう意味でも ATL の発症予防という意味では垂直感染の防止ということを非常に大事なポイントであると捉えて、これまで研究等をやっているという立場です。

○木下構成員 分かりました、ありがとうございました。もう 1 つは、 HTLV-1 が原因だということが分かっている以上は、研究のレベルでは、そうだとするならばワクチンの開発に徹底的にエネルギーを掛けるということが一番手っ取り早いのではないかという気がいたしますけれども、その辺の方向性はいかがなのでしょうか。

○渡邉座長 それも私から申し上げます。ワクチンは、感染予防として欠くことのできない分野で、強力にその開発を進めるべきであるという立場を取っております。ただ、実際の現場で考えると、母親から子供への感染予防の際に、ワクチンをどのように使うかということを考えると、余り実用的ではない。新生児にワクチンを使うわけにはいきません。そうすると、肝炎等で行われているような免疫グロブリン等による感染予防というのも大きなポイントになるのではないか。それ以外の感染のリスクを減らすという意味で、ワクチンの有効性があるのではないかと考えております。

○木下構成員 ありがとうございました。

○齋構成員 先ほど木下先生が言われた 7 ページの図を見ると、 50 代、 60 代、 70 代の方が主体です。この当時は余り人工乳保育をせずに、ほとんど母乳だったのです。私は 58 歳ですから、昭和 30 年生まれで、戦後 10 年ぐらいはほとんど母乳で、そこから離乳食も含めて、いろいろな形で人工乳、それから離乳食を進めるという形で、ライフスタイルの変化だと思います。

 母乳期間が非常に長かったので、この年代は、もともと日本人が持っていたキャリア率で推移していたと思うのです。それが母乳期間が短くなってまいりましたので、このような変化になったと考えられます。ただし、この 10 年間母乳期間は極めて重要であることは、単に栄養素だけではなくて、母子との愛情の定着、その他のアレルギー、それからいろいろなことで母乳の栄養性が重要視されてまいりましたので、再度母乳の投与期間が 1 年以上の方がかなり増えてまいりました。

 ですから、今現在そういうキャリアの方については、適切な栄養方法をもう一度やらないと、また同じような形でキャリア率が増加してしまう可能性があろうかと思います。

○森内構成員 長崎県で 20 何年間かやってきた中で、本当に苦労していることは、母子保健に関わる方は母乳に対してはものすごく強い思い入れがあります。私は今月、母乳哺育学会という学会で、母子保健を一生懸命やっている人たちの集まりで、小児科医、産科医、保健師、助産師といろいろな人たちに会いました。そこで、たまたま母乳と感染症というシンポジウムの座長を務める機会を得ました。その中で板橋先生がシンポジストとして HTLV-1 の話が出ました。

 いろいろなウイルスの話が出たのですけれども、結局総合討論の 99 %は HTLV-1 の話になりました。母子保健に関わっている、その会場にいる中で私は四面楚歌という形で、なぜ母乳をやってはいけないのだと。少なくとも学会として強く短期母乳をやることに徹底して、人工栄養などという選択肢を出すなどというのはもってのほかだと。母乳が明らかに感染症やアレルギーを減らしたり、乳幼児の突然死を減らしたり、いろいろなことをするということのメリットがあるにもかかわらず、そういうことを推奨するというのは一体どういう神経だ、という感じが実際上母子保健に関わっている方のほとんど全ての方たちから伝わってきます。

 そして、実際に長崎でも先ほどお話しましたように、周りの方にもキャリアがいるとか、いないということを調べる、調べないということで、また家庭紛争についても「私が知っているだけでも◎件ぐらいあるんですよ」という感じで気になって来るような方たちがおられます。実際に母子感染を予防するということのメリットは間違いなくあるわけですが、そのメリットを上回るデメリットを作ってしまうと、この活動は完全に消えてしまうわけです。実際に母子保健に関わっている方たちのそういう意見を無視する形で進めていくと、彼ら、彼女らの反発はものすごく強くなってしまいます。ですので、ここは私たちもかなり安全運転で、この事業が長崎県で決して途切れることがないようにしていくという中で、変な言い方ですけれども、安全弁として必ず取っておかないといけない。私たちは 35 週になって検査するというのは、絶対に中絶させないための安全弁でした。

 他にいろいろな解説をしていく中でも、キャリアというのは決して特別な存在ではないということは強調しておりますけれども、ただ残念ながら周りに偏見を持つ人はどんなに頑張っても出てくる中で、その人たちをまた別の意味で守らないといけない中で、どんどん話を広げていく場所を決めていかないといけない。かなりデリケートな部分が確実に出てまいります。私たちも、関係するキャリアはどちらかというと妊婦さんがほとんど全てです。同じキャリアといっても、その立場が違ってくると、また住んでいる場所が違ってくると、持っている悩みというのはそれぞれ違ってくると思います。私たちは、飽くまでも一番身近に接する妊婦さんとその家族ということでは、現時点ではこれがベストであろうと信じてやってきております。今後を見据えて、特に日本全体の世論が変わっていく中では、それは喜んで変えていきたいと思っています。

○山野構成員 先ほどの議論を聞いていて、あたかも母子感染がほとんどで、性的感染はほとんどないような感じに聞こえたりします。

○渡邉座長 いや、それはないけれども。

○山野構成員 これまで言われているのは、大体母子感染が 60 70 %ぐらいで、水平感染が 20 30 %と言われています。かなり古い、疫学的研究のデータをベースにした数字になっていると思います。そういう特徴から、母子感染の部分を感染予防するというのが極めて重要な、特徴のあるウイルスであるというのは間違いないと思うのです。ただ、水平感染が必ずしもないというわけではなくて、例えば佐竹先生のデータの 12 ページでは、 1988 年に 30 歳の所のキャリア数が、 20 年後には 50 歳になるわけですけれども、そこで明らかに増えていて、そういう部分は水平感染を明らかに反映しているというのが先ほどの発言だったと思います。

 ですから、これからは高齢化が進みますので、 20 歳以降の水平感染した方が、本当に ATL の発病はないのかどうかということは、今後きちっとその水平感染の病理的な意義というのは、もう少し慎重に判断していくということを、同時にやっていく必要があるのではないかと思います。

○渡邉座長 いろいろ議論は尽きないのですが、大幅に時間を超過しておりますので、ここまでということにさせていただきます。本日は以上で終了とさせていただきます。構成員の皆様、特に佐竹先生におかれましては御出席いただきまして誠にありがとうございます。

 次回の協議会で議論するテーマについて御意見がありましたらお願いいたします。特にないようでしたら、次回のテーマについては事務局と相談の上決めさせていただきます。その他事務局から何かありますか。

○結核感染症課課長補佐 ( 石原 )  次回の開催については、座長と調整させていただき、構成員へは改めて事務局より御連絡させていただきます。本日はこれで終了いたします。ありがとうございました。


(了)

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