第78回WHO総会結果(概要)

1.概要

  • 期間:2025(令和7)年5月19日(月)~5月27日(火)
  • 対面会議
  • 日本政府代表団:仁木博文厚生労働副大臣、江副聡国際保健福祉交渉官他
  • 本会議では、8日間にわたり、全64議題について協議。28の決議と27の決定が採択。

※WHO総会(世界保健総会)は、全加盟国代表で構成される最高意思決定機関。毎年5月に開催され、国際保健医療に関する取組の指針等につき加盟国間で議論や決議の採択等を行う。

2.政府代表演説

WHO総会では、仁木博文厚生労働副大臣から政府代表演説を行い、概要以下のとおり述べた。

  • 我が国は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)(※1)の実現に向けて、WHOがそのコア・マンデート(中核的な使命)、特に、規範設定、関係者の招集、そして感染症危機への対策といった使命を果たすことを支持する。
  • 我が国は、このたびWHOパンデミック協定(仮称)に関する交渉が合意に至ったことを歓迎する。これは、WHOが規範設定と危機対応の機能を果たすことが示された好例である。
  • 健康危機に関して、我が国は、「国立健康危機管理研究機構」(JIHS)を本年4月に発足させた。JIHSとWHOや他の加盟国・地域との間での協力を期待する。
  • 健康危機対応の上では、台湾のように公衆衛生において顕著な成果を上げている地域の経験を活かすべき。疾病拡大を防ぐ世界的な取組を損なう地理的空白を生じさせないために、いかなる地域も取り残されるべきではない。
  • WHOはUHCの達成を主導する役割を担っている。 我が国は、低・中所得国における保健財政の強化のため、世界銀行と連携して「UHCナレッジハブ」(※2)を設立するWHOの取組を全面的に支持する。
  • 我が国は、今もなお続くロシアによるウクライナ侵略を明白な国際法違反として強く非難する。我が国は、公衆衛生の脅威から国民を守るためのウクライナ政府の努力を今後も支援していく。
  • 我が国はガザにおける壊滅的な人道危機に深い懸念を表明し、停戦合意の継続に向けた真摯な努力を強く求める。
  • 「すべての人の健康」の実現に向け、WHOがグローバルヘルスの体制の中核的存在として、より効果的に機能できるよう、テドロス事務局長も努力されていると認識しており、日本政府としても支援していく。

※1 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage、UHC)
全ての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる状態を指す。

※2 UHCナレッジハブ
低・中所得国におけるUHC達成のための知見収集や人材育成を行う世界的な拠点。WHOや世界銀行と連携し、2025年中に日本に設立予定。

※発言内容(日本語リンク[116KB]英語リンク[68KB])はこちらでご確認頂けます。

3.主な議題

(1) WHOパンデミック協定(仮称)

2021年12月のWHO特別総会において設置が決定された、パンデミックの予防、備え及び対応(PPR)に関するWHOの新たな法的文書の作成のための政府間交渉会議(Intergovernmental Negotiating Body: INB)において、IHR(※3)改正と相互に補完し合う形で、協定案の作成交渉が行われた。INBは、2022年2月から2025年4月まで全13回の会期で交渉を行い、2025年4月に協定案本体について交渉妥結に至ったところ、今回の第78回WHO総会において協定案本体が採択された。今後、加盟国間の作業部会が設置され、病原体へのアクセス及び利益配分(PABS)に関する附属書の交渉が開始される。同附属書の交渉がまとまり、附属書が採択された後、協定全体(本体+附属書)が署名のため開放される予定。(詳細は外務省HP参照)

※3 IHR (International Health Regulations)
人や物の国際的な移動や貿易を不必要に妨げることを避けつつ、感染症等疾病の国際的なまん延を最大限防止することを目的として、WHO憲章に基づいて採択された規則。

(2) ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)

UHCに関する4つの決議、すなわち、1.規範や基準の採用と影響に関するエビデンスに基づく意思決定における国家能力の強化、2.衡平性及び包摂性の観点からの世界的な公衆衛生上の優先課題としての希少疾患、3.国際的な保健財政強化、4.医療画像診断能力の強化についての決議が採択された。日本政府代表団からは、UHCの達成に向けて3.の決議をはじめとする関連決議を支持するとともに、日本政府がWHO及び世界銀行と連携し、準備を進めている「UHCナレッジハブ」の取組を通じて、より強靱で、衡平かつ持続可能なUHCの達成に引き続き強くコミットするとともに、開催が予定されるUHCハイレベルフォーラムといったイニシアティブを通じて、UHCの達成と持続に向けた更なる機運醸成を目指し、継続的にコミットする旨発言した。

(3) 感染症

感染性疾患の議題では、アウトブレイクの検出と対応、前線で働く医療従事者の能力強化の重要性が強調され、ギニア虫症撲滅及び皮膚疾患に関する決議が採択された。また、薬剤耐性(AMR; Antimicrobial Resistance)の議題では、2024年国連ハイレベル総会におけるAMR政治宣言に基づいたグローバルアクションプラン改定版を策定する決定案を第79回WHO総会に提出することが議論された。日本政府代表団からは、エムポックス対策に取り組む加盟国支援のための拠出、ギニア虫症撲滅に関する決議の共同提案国となること、AMRグローバルアクションプラン改定への支持を表明した。

(4) 保健医療人材

保健医療人材の国際採用に関するWHO世界行動規範に関する報告書及び同規範に関する専門家諮問グループの中間報告である「保健人材に関する世界戦略:Work Force 2030」が議題として取り上げられ、保健医療人材の不足と遍在、移住、国家戦略策定の重要性について議論された。また、2030年までの世界の保健人材の労働力に関する行動の加速に関する決議が採択された。日本政府代表団からは、保健医療人材の確保とその質の担保がUHC達成に必要不可欠な要素であることを認識し、保健医療サービスの公平なアクセスと提供に向けてWHOや関連機関、各加盟国と協働していく旨を発言した。

(5) 持続可能な開発目標(SDGs)

WHO事務局から健康関連のSDGsの達成状況が不十分であることが報告され、財政的制約の中で、目標を達成するためにどのような支援が可能かについて議論された。日本政府代表団からは、特に、健康関連のSDGsの達成に向け、2030年までに低・中所得国を含む世界全体でUHC達成を実現できるよう、「UHCナレッジハブ」への支援を通じて、国際社会の取組を更にリードしていく決意を表明した。  
 

(6) 気候変動と健康

昨年の第77回WHO総会において採択された「気候変動と健康に関する決議」を受け、加盟国等による具体的なアクションプランを定めるための「2025年~2028年のグローバル行動計画」が採択された。日本政府代表団からは、「気候変動と健康」に関する課題は、国際社会の一致した取組が一層求められる地球規模の重要な課題の一つであることを強調し、その緊急性を踏まえて当該行動計画が採択され、実施に移されるべきである旨を発言した。
 

(7) 2026-2027年基本予算

WHOの基本プログラム予算額は約42億ドルとなった。日本政府代表団からは、WHOがその中核的機能に焦点を当て、改革への不断の努力を継続するようWHO事務局に求める旨の発言を行った。
 

(8) 執行理事の選出

西太平洋地域からはソロモン諸島と共に日本が選出され、2025年から3年の任期で執行理事会理事を務めることとなった。(執行理事国数は34か国、今次改選対象は12か国。)
 

(9) インドネシアの南東アジア地域から西太平洋地域への再配置

2024年6月、インドネシア政府は、同国の南東アジア地域から西太平洋地域への再配置を希望する旨を事務局長に通知した。第49回WHO総会決議(WHA49/6)に基づき、南東アジア地域委員会(第77回会合)及び西太平洋地域委員会(第75会会合)に報告された後、今回の第78回WHO総会にてインドネシアが西太平洋地域に再配置されることが承認された。