IDESコラムvol.85

多層的な視点で感染症に向き合う
~感染症の臨床現場での経験から IDES を志すまで~

2025年7月18日

IDES養成プログラム11期生:米崎 駿(よねざき しゅん)

多層的な視点で感染症に向き合う ~感染症の臨床現場での経験から IDES を志すまで~
2025年4月より、第11期IDES生として入省しました米崎駿です。千葉県出身で、幼少期は沖縄およびブラジルといった南国で過ごし、いつかは海外と繋がる仕事がしたいという思いを漠然と持っておりました。筑波大学に進学した後は、自分の知らない世界、海外を自分の目で見てみたいという思いからバックパッカーとして約40か国を訪問しました。、各国の文化や人々と接する中で、海外の医療現場に関心を持ち、ベトナムやガーナ共和国でインターンシップをおこないました。中でも、ガーナ共和国でのインターンシップでは、アフリカの持つ広大な大自然、人々の繋がりの強さに感動するとともに、HIVやマラリアなどの感染症で多くの人々が苦しんでいる様子を目の当たりにし、感染症専門家を志す原体験となりました。

 ガーナ共和国「ケープ・コースト」にて、子どもと母親たちに手指衛生の指導をしている様子


大学卒業後は海外・感染症への思いを抱きながらも、まずは総合内科と集中治療に取り組むことを選び、茨城県および沖縄県で5年間勤務しました。その後は、感染症に専念するため長崎県へ拠点を移し、感染症内科医として細菌・ウイルス・真菌・時に寄生虫など、幅広い感染症診療に従事しました。感染症内科医の業務は診療にとどまらず、抗菌薬適正使用支援や院内感染対策、加えて近隣病院・施設への感染対策指導などに携わり臨床現場以外に視点を広げるきっかけになりました。結核高罹患国で熱帯感染症が豊富なフィリピンで現地の診療に携わる機会があり、これらの感染症が今後さらに国内へ流入していく可能性について危惧し、国際的な視点での感染症対策に関わりたいという想いがより強くなりました。また、県庁や保健所での研修も経験し、行政的視点からの制度や政策にも触れ、感染症対策には現場の臨床のみならず、地域・行政・国際レベルでの連携が不可欠であることを実感しました。これらの経験から、今後より広い視点で感染症を捉えて、国内・海外の感染症対策に関わっていきたいと考え、IDES養成プログラムへの参加を決意しました。

フィリピン「サンラザロ病院」現地の先生と結核外来の様子


IDES養成プログラムでの経験
IDES養成プログラム参加後は、国立感染症研究所でのFETP初期導入コース、国立国際医療研究センター 国際感染症センターでの外来研修、厚生労働省 感染症対策課での勤務など、異なるレイヤーでの感染症対応を学んでいます。FETP初期導入コースでは、感染症疫学やサーベイランス、アウトブレイク対応の基礎を、講義とケーススタディを通じて体系的に学びました。現場での経験と結びつけながら、国全体での感染症対策への理解を深めることができました。国際感染症センターでは、輸入感染症・渡航後感染症が疑われる患者の診療にあたり、通常の診療では得難い、非常に集中的で刺激的な1か月となりました。検疫所からの紹介や感染研への検査依頼など、関連機関との連携も現場で経験できました。7月からは本省の感染症対策課での業務に従事し、今後は空港や港での検疫所での業務も予定しています。これらの経験を通じて、それぞれ異なるレイヤーでの感染症対応を包括的に理解できる、非常に意義深い研修となっています。

このように、国内の感染症関連機関をローテートしながら、感染症内科医としてかねてから経験してみたいと考えていた分野を短期間で集中的に学べる貴重なプログラムです。感染症診療の経験がある方や、感染症危機管理に関心のある方には、うってつけの内容だと思います。感染症の魅力は、病原体の多様性や地理的分布の違いにとどまらず、適切な介入によって制御が可能である点にあると感じています。IDES養成プログラムで得た知見と経験を礎に、今後は感染症危機管理に携わっていきたいと考えています。
 
参考文献