アフターコロナ期の産業別雇用課題に関するプロジェクトチーム(第4回)議事録

日時

令和4年7月14日(木)10:30~12:00

場所

厚生労働省 省議室(厚生労働省9階)

議題

1.海外の雇用維持制度について
2.取りまとめに向けた議論

議事

議事内容

○赤川課長補佐
定刻になりましたので、ただいまより第4回のプロジェクトチームを開催いたします。
初めに、古賀副大臣より御挨拶をお願いいたします。
 
○古賀副大臣
おはようございます。
本日もこの4回目の会にお集まりいただきましてありがとうございます。当初は先月末に取りまとめ予定となっておりましたが、私がコロナに感染したこともありまして、皆様方には御心配・御迷惑をおかけしました。すみませんでした。
前回、前々回と各業界・団体からお話を伺う機会をいただきました。コロナ禍による取組ですとか人材確保について、貴重なお話を伺うことができたと思っております。そして、この4回目の間にヒアリングをさせていただいた以外の会社様につきましても、それぞれ役所の方にヒアリングをいただきましたということで、今日は4回目ということであります。その間に人事異動も行われておりまして、何人か替わられておりますし、戸田さんも本省に戻られたということでございます。中村前課長をはじめ、これまで本当にこの報告書の取りまとめに向けて御尽力いただきました皆様にも感謝したいと思いますし、今日はいよいよ取りまとめでありますので、今日のテーマとしましては、海外の雇用維持政策ということで、JILPTの天瀬副所長にもお越しいただいております。ありがとうございます。
そうした中で、様々な知見を踏まえ、この後、取りまとめを行わせていただきたいと思いますので、本日もどうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
 
○赤川課長補佐
ありがとうございました。
頭撮りはここまでとさせていただければと思います。傍聴は引き続き可能でございます。
それでは、議事に入らせていただきます。
初めに資料1につきまして、地曵雇用政策課長補佐、御説明をお願いいたします。
 
○地曵雇用政策課長補佐
ありがとうございます。雇用政策課でございます。
私のほうから資料1につきまして御説明をさせていただきます。
資料1のタイトルが「コロナ禍における各国の雇用維持施策の動向について」といったものになってございますけれども、こちらは2022年にOECDが発表しましたレポートに基づいてつくっておりまして、基本的にはOECDレポートの要約といった形になります。このため、お示ししている資料の中での見解につきましてはOECDの見解ということになりますので、この点を御留意いただければと考えてございます。
2ページでございます。「コロナ禍における各国の雇用維持施策の展開について」というところで、各国の動向について概観をしてございます。新型コロナ感染症の世界的な感染拡大が進む中、世界各国では雇用への影響を最低限に抑制するため、手厚い雇用維持施策の実施が行われてきました。日本で言いますと、まさに雇調金が当たるかと思います。こうした雇用維持施策は、コロナ禍での企業の雇用コストの軽減を通じまして労働者の雇用の安定に効果をもたらしてきたと考えられておりまして、また、足下でございますけれども、公衆衛生上の規制が解除される中、雇用維持施策についても、各国では規模縮小に向けた動きが見られていることが書かれてございました。
注目していただきたいのが2ページの右下のところでございますけれども、OECDの試算というものがございます。OECDの試算によりますと、コロナ禍初期では雇用維持施策によりましてOECD加盟国において最大で2100万人の雇用が守られたといった試算が出ております。こうしたことも考えましても、やはり雇用維持施策というものは非常に重要な役割を担っていたのだということが分かるかと思います。
ただ、その下にございますけれども、足下では多くの国において雇用維持施策の終了・縮小に向けたことが行われているといったところでございます。
3ページでは「雇用維持施策の利用率」というものをお示しさせていただいております。グラフの右側を御覧いただきたいと思いますけれども、一番右端のところにOECD加盟国の平均の利用率というものがございます。
まず、利用率でございますけれども、分子に雇用維持のための補助金を利用した雇用者数というのがありまして、分母が雇用者全体となってございます。この利用率の変化を見てみますと、2020年4月・5月には、OECDの平均で20%程度あったものでございますけれども、2021年11月・12月を見てみますと、1.3%まで大きく減少しているということになっております。こうした平均値を見ても、その利用率というのはかなり縮小しているのではないかということが示されております。
また、グラフの中では赤囲いの国と青囲いの国がございます。まず、赤囲いの国でございますが、オーストラリア、カナダ、デンマーク、ニュージーランド、イギリスでは既に施策が終了しているといったことが述べられておりました。また、青囲いのところでございますけれども、こちらはこのレポートが出た時点のところでございますけれども、アイルランド、オランダについても近々終了予定となってございます。
これを見てみますと、日本のところ、JPNでございますが、シャープがついておりますけれども、こちらはかなりOECDが独自の仮定、そして、独自の推計を行ってやったということで、その幅については留意が必要となっております。例えば雇調金につきましては基本的には件数で我が国はカウントしておりますけれども、それを雇用者数での割合に変換しておりますので、OECDのほうでの独自の推定というものがあることになりますので、幅を持って受けとめる必要があることに留意が必要となってございます。
4ページ目に移らせていただきます。3ページ目で御案内させていただいたように、雇用維持施策は多くの国で終了しているといったところでございますけれども、雇用維持施策をまだ継続している国におきましても様々な対応の変化というものがございます。
OECDが独自にカテゴライズをしたものが、お示ししている表のところでございますけれども、例えば①の「売上の減少について支援を行う」、②の「行政の規制に伴い支援を行う」、そして、①、②の両方の対応といった③がございます。対象支援については、Aのところでございます、規制の影響を最も受けた企業のみに絞って限定する形で行っているケースと、Bの支援対象の厳格な絞り込みは行わないものの、例えば公衆衛生上の規制による直接的な影響があった企業には手厚い支援を行う一方、サプライチェーンの混乱など間接的な影響を受けた企業に対しては、そこまで手厚い支援を行わないなど、支援について濃淡をつけている国がございます。
こうしたOECDのカテゴリーによりますと、日本は右下に分類されますことから、比較的広い対象に対して多様な支援を維持していると考えられます。
5ページ目でございます。OECDのレポートには雇用維持施策のリスクということも記載がございました。それを見てみますと、補助金による雇用維持を図ることにより、将来的に事業継続が不可能な企業までもが補助金により事業を継続させてしまう可能性がある。継続不可能な企業に雇用を留まらせることによって、生産性の高い企業への労働力の再分配が遅れてしまう可能性、そして、それによって労働力不足が引き起こされてしまう可能性というものが雇用維持施策のリスクとして述べられておりました。そのため、企業の自己負担を設けることで経済的なインセンティブを与え、企業側が過度に補助金に依存しないような仕組みを設けている国が増えているといったところでございます。
そして、四角囲いのところでございますが、<各国の状況>を見てみますと、2021年11月時点で、雇用維持施策を活用している国のうち、企業が自己負担を必要がない制度を運用している国は3分の1程度になってございます。また、補助金を利用する雇用者の割合は企業の自己負担のない制度の国では3.4%、一方、自己負担のある制度の国では1.3%というところで、やはり自己負担があるということが過度に補助金に依存しないインセンティブになるといったことが示されてございました。
最後のところでございますけれども、OECDの見解でございますが、今後はコロナ禍での雇用維持施策の効果について、しっかりと検証を行っていくことが求められるというようなまとめになってございました。
私からは以上でございます。
 
○赤川課長補佐
ありがとうございました。
続きまして、資料2の海外の雇用維持制度について、天瀬副所長、御説明をお願いいたします。
 
○JILPT天瀬副所長
JILPTの副所長の天瀬と申します。よろしくお願いいたします。
今ほど地曵補佐のほうから雇用維持政策全体のお話がございましたので、私のほうからは各国の雇用維持政策はどのようになっているかということについてお話しさせていただきたいと思います。資料がお手元にあると思いますので、そちらを御覧ください。
まず、スライドの2ページ目を御覧いただきたいのですが、各国の雇用維持スキームの導入状況と記してあります。これは2020年にOECDが各国の雇用維持スキームの導入状況を整理したものです。これを見ますと、危機前からスキームがあった国として、イギリス以外のドイツ、フランス、アメリカ、我が国日本についても危機前からスキームがあった国として分類されております。今回のコロナショックでアクセスと範囲を拡大させ、また、助成額を増加させ、また、アメリカを除きますけれども、非正規労働者にアクセスを拡大させた国として、やはりイギリス以外の国が入っております。
他方、スキームを今回のコロナショックで新たに導入した国としてイギリスが挙げられているという状況になっております。
ただ、ここで少し留意が必要でございますのは、アメリカについてです。OECDは危機前からスキームがあった国として分類しているのですが、アメリカについては操業短縮補償、細かい字で恐縮なのですけれども、下の脚注には書いてあるのですがSTCという雇用維持スキームが従来からございまして、ただ、これが全州に存在するものではなく、一部の州にあったスキームでございまして、まず、全州レベルではなかったということ。
もう一つは、予算規模がそれほど大きくなかったために認知度が低かったということがございまして、私どもJILPTでは、アメリカの今回雇用維持を主に担ったのは別の制度であると整理をしております。この点は少し留意が必要で、OECDと我々の解釈が違うところでございます。
次の3ページを御覧いただきたいのですが、これが実際に各国で取られている雇用維持スキームになります。
ドイツは操業短縮手当、通称、操短手当と呼ばれる制度ですが、従来からこの制度はありました。リーマンショックのときに、ドイツには労働時間貯蓄制度という別の制度があるのですが、この貯蓄制度を併用することにより金融危機から労働市場を救った制度として欧州ではドイツの奇跡として賞賛され、評価されている制度でございます。また、日本の雇調金のモデルとも言われております。基本的には休業を余儀なくされた労働者に対して賃金減少分の一部を助成することにより、経営難に陥った企業を救済するという制度でございまして、今次、コロナ禍においては特例措置が講じられております。
フランスですけれども、フランスの雇用維持スキームは部分的失業と呼ばれるスキームです。こちらもほぼドイツと同じようなスキームの趣旨になっておりますけれども、やはり企業が事業運営の短縮、または停止を余儀なくされた場合に、労働者の賃金の一部を補填することによって事業主を救済するという制度で、やはり今回のコロナ禍では特例措置が講じられました。
他方、先ほど申し上げたように、イギリスにはこうした雇用維持を目的としたスキームがなかったのですが、今回のコロナショックでは雇用ということに着目しまして、新たに従業員の賃金を補填する制度を導入しております。
アメリカですけれども、先ほど少し申し上げたとおり、我々はこのPPP、給与保護プログラムと言いますが、これは融資制度ですが、こちらのほうを主な雇用維持スキームとして挙げております。これはCARES法によって成立したスキームですが、基本的に給与関連の費用に融資を当てるということなど、一定の条件の下に返済が免除されるという制度で、実質的な助成に近く、また、予算規模も非常に大きかったために、雇用維持の目的に合致していて非常に貢献したと言われております。アメリカはこのPPPと、先ほど申し上げた一部の州に存在するSTC、また、失業保険の加算措置の3つを組み合わせることによって、今回のコロナに対応したということになっております。
次のページが各国の雇用維持スキームの中身、助成率になっておりまして、時間の関係で全てを解説するわけにはいきませんけれども、基本的に労働者の休業時の賃金をそれぞれ一定の割合で助成するという仕組みになっています。
まず、ドイツですけれども、ドイツの操短手当の従来措置、破線から上が従来の措置になっていて、その下が特例措置と分けてあります。ドイツは従前の措置が賃金減少分の基本的に60%の助成率であったところ、今回はコロナの特例措置として4か月目からは70%、7か月目からは80%にまで助成率を引き上げて対応したということになっております。
フランスの場合は、まず、企業が従業員を休業させた場合に賃金の70%を保証しなければいけないという法制度になっておりまして、基本的に従前の措置は部分的失業制度ということで一定額を助成する仕組みでございました。これを特例措置については国が全て、100%企業が支払った賃金に対して補償するといったような特例措置を取っております。
イギリスですけれども、イギリスは制度がなかったために、急遽2020年にこの制度を導入したのですか。イギリスのほうは、上限が2,500ポンドですけれども、賃金の80%を補償するという制度です。
アメリカは先ほど言いましたように融資制度ですので、若干前の国の制度とは異なっております。
ここで留意しなくてはならないのは、どの国のスキームも感染状況の改善、時系列的に言うと2020年の後半、あるいは21年にかけて感染状況が改善していくわけですけれども、この改善の状況に伴って負担率を下げてきております。つまり国の負担を下げ、企業に対してはスキームに対して負のインセンティブを与えたといったような措置が取られております。
例えばドイツの特例措置では、助成率自体は変えていないのですが、操短手当に係る社会保険料は国が全額負担としていたところを半額負担に切り換えた。
また、フランスについては非常に細かく助成率を変えてきております。20年の6月から22年の5月から7月に至るまで、その時々に合わせて助成率を変えている。
イギリスについても、制度は21年9月で既に終了しておりますけれども、やはり感染の状況に合わせて助成率を見直しているといったような状況です。
この特例措置がいつまで続けられたかということに関しては、ドイツは22年の6月まで延長しました。これも後で少し申し上げようと思いますけれども、6月末で実は終了の予定だったのですが、その直前に政府から発表がありまして、一部の条件を9月まで延長するといったようなことが発表されました。フランスは7月末まで延長の予定になっております。イギリスについては21年の9月末で既に終了済み。アメリカについてはやはり21年の5月で終了したということになっております。
この特例措置がいつまで続けられたかということに関しては、ドイツは22年の6月まで延長しました。これも後で少し申し上げようと思いますけれども、6月末で実は終了の予定だったのですが、その直前に政府から発表がありまして、一部の条件を9月まで延長するといったようなことが発表されました。フランスは7月末まで延長の予定になっております。イギリスについては21年の9月末で既に終了済み。アメリカについてはやはり21年の5月で終了したということになっております。
続きまして、5ページを御覧ください。これは利用状況の推移を見たものです。単位が違いまして、日本以外の国は利用者のパーヘッドの人数が公表されているために人数の推移で見ておりますけれども、日本は人数を出しておりませんので支給決定額の推移で見ています。完全な比較はできないのですが、利用状況の推移については把握できるのではないかと思います。
やはり利用者は欧州各国ともコロナの初期、20年の4、5、6月といったところで集中して見られておりまして、まず、20年の6月に入ってドイツが減少した。20年終盤にかけてフランス、イギリスも徐々に下降傾向を示し、21年に入って少し上昇しておりますけれども、その後、また徐々に減少した。イギリスについては9月末で終了したということになっております。
他方、日本ですけれども、少し遅れて20年の7月辺りから急激に利用者が増えまして、その後、20年終盤に減少に転じた後も、あまり顕著な減少は示しておりませんでしたけれども、22年に入りまして減少してきたといったところかと思います。
続きまして、6ページを御覧ください。これは各国の雇用維持スキームがどのぐらい拠出したかというのを見た表でございます。20年と21年の支出額の合計となっておりまして、とはいえ、前提となる労働市場の規模が異なりますので、比較参考として就業者数と国内総生産の額を入れてあります。これを見ますと、やはりアメリカが突出して大きく83.2兆円、次いでイギリスが10.6兆円、日本はくしくもドイツと全く同額になっておりますけれども5.5兆円、次いでフランスの4.5兆円という比較になっております。
7ページですけれども、この財源がどのような内訳になっているかというのを見たものがこのグラフです。基本的にイギリスは一般財源だけで運営しておりますけれども、その他の国は、この雇用維持スキームをいわゆる雇用保険財源と一般財源を組み合わせる形で運営しております。
日本は雇用保険財源が3.9兆円、一般財源が1.6兆円ということで、水色の部分が雇用保険財源ですけれども、他の国と比較して雇用保険財源への依存度が高い国ということが言えるかと思います。
次のページを御覧ください。諸外国の失業率の推移を見たものです。このグラフはアメリカを入れているために傾きが分かりづらくなっていることについては申し訳ございません。アメリカについては20年の4月、これは報道等にもありましたけれども、極端な失業率の上昇を見ております。ただ、その後、逆のV字の下降を描いておりまして、日本及び欧州諸国に関しては、アメリカほどの労働市場の動揺はなかった。コロナ禍による労働市場の動揺は極めて最小限に抑えられたと見ることができるのではないかと思っております。
コロナ禍における雇用維持スキームの評価については、各国ともまだ分析が確定しているわけではありませんが、こういった労働市場の安定に対して、各国の雇用維持スキームが一定程度貢献したというのが、各国の多くの評価ではなかろうかと思っております。
9ページは最近の労働市場の動向です。ドイツが21年の9月、フランスが21年の10月、イギリスが21年の12月、アメリカについても21年の12月の段階で失業率を危機前の水準に戻しております。つまり21年中に各国の労働市場はコロナの影響をほぼ脱したと見ることができるのではないかと考えております。むしろ一部の国、一部の業種では運輸、小売りを中心にして、深刻な労働力不足ということも報告されております。
例えばイギリスは9月末、アメリカについても21年の5月末でスキームが終了しておりますし、先ほど申し上げたようにドイツ、フランスについてもスキームを縮小してきておりますけれども、こういった終了及びスキームの縮小による労働市場への負の影響といったものは、今のところ報告されておりません。
次のページを御覧ください。これは特定業種に対する特例措置等を少し抜き出したものです。下の※にありますとおり、ドイツ、イギリスについては雇用維持スキームの特定業種に対する特例措置はありませんでしたけれども、フランスが一部、特定業種に対する特例措置をしております。
フランスについては次の11ページを御覧いただきたいのですが、特定業種リストというものを掲げまして、このリストが2つに分かれるのですけれども、コロナ感染の直接の影響を受けた業種、これは観光、宿泊、外食等になりますけれども、それと、こういった業種から波及的に影響を受けた業種、菓子、生花、クリーニングといった業種がこれに相当するのですが、こういった業種に分けて、それぞれほかの業種よりも優遇した助成率を適用して対応したということになっております。左のイメージは実際のフランスの特定業種リストです。
最後のページになりますけれども、副大臣のほうから航空産業に対する支援について、外国ではどういう措置を講じたかという御関心があるとお聞きしましたので、どうしても我々は雇用という視点からの観察になりますので、全体像が把握できているわけではないのですが、一部こういった支援が見られましたので表にしております。
これを見ますと、やはりかなり手厚くOECDの各国が航空産業に対しては支援しているのではないかと見られると思います。ただし、雇用維持スキームでそれをやったかというと、雇用維持スキームの特例措置という形ではなく、融資を含めて、それ以外の支援でやったところが多いので、そういう支援をしているのではないかと思います。
ただ、フランスのところにありますように、雇用維持スキームについても雇用がかなり守られているという労組幹部の発言もあるようですので、雇用維持スキームについてもかなり今回のコロナ危機の雇用維持には役立ったのではないかと見られております。
ただ、EUの場合は前提がございまして、域内の自由な市場競争をゆがめてはならないという前提で、国が特定の企業に直接の資金支援をすることについてはかなり制限があるようでして、今回、特定の産業、あるいは特定の企業に対して支援したという事例が出てきておりますけれども、これは各国の企業がそれぞれ特別にEUに調整して、こういった措置が行われたのではないかと我々は見ております。
以上、私からの報告になります。直近の状況が、日本も報道等にありますとおり、ここに来てコロナの感染者がまた増えてきておりますけれども、ヨーロッパにおいても欧米においてもコロナの感染者は再び増加傾向にあると報じられております。先ほど報道を見てきましたところ、日本よりもかなり多くの1日当たりの感染者数が見られるようでして、やはりコロナについてはあまり油断することができないという状況かと思うのです。
他方で、最後に少し申し上げると言いましたけれども、ドイツが6月末で一旦コロナの特例措置を終わらせております。ただ、一部について9月末まで延長しましたのは、コロナの感染者数の再拡大・再増加ということではなくて、ウクライナ戦争によるエネルギー問題、あるいはサプライチェーンの問題に起因する企業経営の悪化というものを考慮しての一部条件の緩和であり、延長であるという報じられ方がなされております。スキームの終了に関しては、ドイツは一旦延ばしましたけれども、恐らく9月末で全てを引き上げると見られておりますし、フランスについても今のところ7月で終了するということに対する議論は出ていない状況かと思います。
私のほうの報告は以上になります。
 
○赤川課長補佐
ありがとうございました。
それでは、続きまして、議題の2つ目の取りまとめに向けた議論ということで、私のほうから資料3の報告書案につきまして御説明させていただければと思います。
お手元に資料3-1として報告書の案、資料3-2として概要の一枚紙を配付させていただいております。資料3-1の報告書案を使って御説明させていただければと思います。
3ページ目、4ページ目が、本報告書の目次となってございます。
大きな構成としましては、第2章におきまして、本プロジェクトチームの第1回で議論をさせていただきました足下の雇用情勢等及び雇調金、産雇金の支給動向等の分析について記述をしております。
続いて、第3章はプロジェクトチームの第2回、第3回等で行いました業界等のヒアリングの結果につきまして、その概要をまとめてございます。
第4章につきましては、本日御説明いただきました海外における施策の状況について記載をしております。
そして、第5章の部分で、これまで得られた知見等につきまして分野別に所見をまとめてございます。
5ページ目ですけれども、改めて本プロジェクトチームの開催趣旨について記載しております。
このコロナ禍において雇用調整助成金の特例措置で、これまで事業主の皆様の雇用の維持を強力に支援してきた一方で、足下の雇用情勢に持ち直しの動きが見られ、人手不足感も強まっていることから、今後のアフターコロナ期を見据えた人材確保、あるいは人手不足分野への人材活用の在り方等について課題を洗い出し、議論を行っていくということで、本プロジェクトチームを立ち上げたところでございます。
6ページ目以降、第2章の部分につきましては、既に第1回で議論させていただいた部分ですので割愛いたしますが、特に7ページ目の雇用調整助成金の主な活用業種、図2でございますが、そちらを中心にヒアリングを行っていくという結論が得られたところでございます。
報告書の11ページ目以下で、前回、前々回で行ったヒアリングの結果の概要についてまとめてございます。こちらもかなり多くの業界団体や企業からヒアリングをさせていただきましたので全てをこの場で御紹介することはかないませんけれども、ヒアリングさせていただいた業種としましては、11ページ目で飲食業、14ページ目から宿泊業、16ページ目で道路旅客運送業、21ページ目で輸送用機械器具製造業、そして最後に24ページ目で航空運輸業と、この5つの業種・分野からお話を伺ったところでございます。
ヒアリングの概要も含めて後ほど第5章でまとめを記載しておりますので、そちらで詳しく御説明したいと思います。
続きまして、29ページ目以下、第4章ということで、本日御説明いただきました海外の雇用維持施策の状況につきまして記載をしております。
37ページ目以下が、本プロジェクトチームにおけるまとめということでございまして、こちらを中心に御説明いたします。
37ページ目は、基本的に先ほど申し上げた分野別に所見をまとめております。①は飲食業でございます。飲食業の雇用調整助成金の受給傾向でございますが、1パラグラフ目にありますとおり、支給決定件数は突出して多く、累計の支給決定額も全産業中で最も多い一方で、1件当たりの支給決定額が低いという状況でございます。また、需給動向の動きとしましては、感染拡大の影響に連動したと思われるような動きが見られたところでございます。ここから見てとれる特徴としては、小規模事業所による感染拡大期の一時的な利用が中心であるといったようなことが言えるかと思います。
①-2の課題と今後のアプローチの方向性でございます。大きな特徴として挙げられるのは、飲食店はコロナ禍以前には人手不足感が特に高かった分野でございますので、今回のコロナ禍において一時的な余剰人員が生じても、アフターコロナの回復期に向けた雇用保蔵を行う事業所が多かったという状況でございます。
また、ヒアリングの中では、雇調金を活用して雇用を維持していた従業員の方が、いざ営業再開しようとしたところ、他のアルバイト先に転職をしてしまったといったようなエピソードもあったところでございます。
38ページ目の冒頭ですが、今後の飲食業の構造的な課題ということで、職場定着を図ることが一番の大きな課題、業界全体としても努力を進めているものの依然として定着支援が大きな課題だというようなお話がございました。
38ページの一番下の雇用対策面のアプローチの方向性でございます。まず初めに挙げられますのは、行政の側で、特に労働政策としましては、ハローワークのデジタル化による利便性の向上、求人メディアのマッチング機能の質の向上、ハローワークにおける求人づくりの指導等、そういった人材確保環境の整備というものが、まずもって期待されているところかと思います。
一方で、人材の囲い込み目的、雇用保蔵を目的とした休業というのは、従業員の技能や意欲の低下といった弊害の懸念もあることが指摘されており、今後、一定期間の休業が見込まれるような場合には、一時的な在籍型出向などの手段を講じまして、他社・他産業での就業経験を積ませるような選択肢も考えられるのではないか。さらには今後、飲食業も新しい事業形態、経営戦略といったものを考えていく中で、他分野の知識・経験を取得している者を在籍型出向で受け入れ、新たな需要に対応した経営上の取組への糸口としていくなどといった取組も考えられるのではないか、という形でまとめております。
続きまして、39ページ目の宿泊業でございます。宿泊業も飲食業に次いで支給決定額、件数が多い分野でございます。また、こちらも飲食業と同様、感染拡大の影響と思われる動きが見られた分野でございます。
今後の課題とアプローチの方向性ですけれども、やはりこちらも飲食業と同様、人手不足感がコロナ禍前には高かったが、コロナ禍において一時的な人手過剰が生じた分野でございます。今後の主な課題として、ヒアリングでは、働きやすい職場の整備等が喫緊の課題であるという声がございました。具体的には長時間労働の改善、休日の確保、給与水準の改善といったものが事業主によって取組に差がある部分であり、業界全体としてそういった部分を底上げし、根本的な対応を今後図っていきたいという声がございました。
業界団体としても、経営者間のノウハウの共有や業界団体によるビジネスモデルの好事例共有等も行っているとのお話もございましたし、さらに今後の取組としては、宿泊業が多様な職種、多様な仕事内容から構成されているため、中核人材についてのマルチタスク化を図っていきたいという声がございました。
40ページ目の雇用対策面のアプローチの方向性ですけれども、今後、まさにマルチタスク化の支援といったところも含めて、雇用管理改善に関して労務分野の専門家の視点を介在させていただくことが必要ではないか。さらには今後、インバウンド等の回復等を見込んだ上で、特定技能外国人材の受け入れに関する支援もより積極的に行っていく必要があるのではないか、といった形で考えてございます。
③のバス・タクシー業界の受給傾向でございます。こちらは長期化の度合いが全産業の中で航空運輸業について高かった分野でございます。こちらも感染拡大の影響と思われる動きが見られた分野でした。また、1件当たりの支給額が航空運輸業を除きまして累計受給額トップ5の中では最も高い分野でした。
41ページ目ですけれども、こちらも同様ですが、バス・タクシー業界はコロナ禍以前から人手不足感が強い業種であったことに加え、大型2種免許、普通2種免許等の国家資格の免許が必要であり、さらに、乗務に適した技量を身につけるための人材育成に一定の費用、期間を要することから、より人材を長期的に確保する必要性が高い業種でございます。
ヒアリングの中では、コロナ禍を契機としたテレワークの普及を背景として、コロナ禍以前の需要水準になかなか戻らないのではないかといったような関係者の懸念が強いという声がございました。
今後の雇用対策面のアプローチの方向性ですけれども、まずもって運転手の合同面接会の実施といった従来型のマッチング支援、又は新規入職者の確保のための賃金水準・キャリア形成情報の可視化といったノウハウの支援など、雇用管理改善面での対策が当然に必要である一方で、さらに、一時的に余剰となった運転士の技能水準の維持のためには、在籍型出向を活用して技能の低下を防ぐという観点での支援が必要ではないか。具体的には産業雇用安定助成金による出向元・出向先双方への人件費助成の一層の促進といったものも考えられるのではないか、という形でまとめてございます。
④の自動車部品製造業でございます。こちらは他分野とやや異なる傾向でして、国内の感染動向と受給傾向の間には明示的なリンクは見られなかった分野でございます。受給の背景としては、世界的なロックダウン等による部品供給の停滞といったことが要因として挙げられており、需要減ということではなく、むしろ部品の供給面等の制約を理由とする休業が中心といったところで大きく事情が異なる分野でございます。
今後の課題とアプローチの方向性ですけれども、まず、業界の特徴として、まさに今、CASEやMaaSといった技術面での大きな変革期にあるといった声がヒアリングの中でございました。そのために、IT・ソフトウェア関連の高度人材の確保が今後のアフターコロナ期に向けて業界全体の課題であるといった声がございました。
また、業界の特徴としまして、サプライチェーンの中で部品が一つでも欠けると全体の生産がストップしてしまうといったことから、サプライチェーンマネジメントが今後のアフターコロナ期に向けて課題であるといった声がございました。
雇用対策面のアプローチの方向性ですけれども、まさに業界からも声があったIT・ソフトウェア関連の高度人材ニーズの急速な高まりといったところに対して、我々としては、職業訓練機関でのニーズの把握、必要な公共職業訓練コースの開発や企業に対する人材確保の伴走支援を進めること、そういったことが考えられる方策の一つでございます。
また、「人への投資」が進められる中において、例えば在籍型出向を活用したデジタル技術の習得機会を、実際のIT企業等の実地で得ることができるようにするなど、業界内あるいはデジタル業界と協力した人材育成の取組の工夫といったことも考えられるのではないか、という形でまとめてございます。
最後の航空運輸業の受給傾向でございます。こちらは1件当たりの支給決定額が突出して高い分野でございます。また、受給が長期化する傾向があり、他分野のような感染拡大の波と連動した動きではなく、コロナ禍を通じて高い受給傾向が見られたところでございます。
43ページ目の課題と今後のアプローチの方向性ですが、航空業界については、パイロット、客室乗務員、整備士等の専門業種の比率が高いことから、休業による技量の低下が今後の需要回復時の安全性に対する懸念に直結してしまう業態であるゆえに、休業を交代制にして勤務の平準化を図り、堅調な貨物輸送ニーズのほうに人員を割いて勤務継続を図るという対応が行われたということでした。
また、海外の航空会社では、需要回復時に要員不足で定時運行できない事案が生じているといった報道もあることから、航空インフラの中核人材の確保、路線の確実な維持といったところが特に求められる分野であるとのことでした。
ヒアリングの中では、海外における支援策についても紹介があり、例えば先ほど天瀬副所長からも御紹介がありましたけれども、アメリカでは全業界を対象とした給与保護プログラムとは別に、航空産業労働者向けの給与支援プログラムが講じられていたというような紹介もございました。
御参考までに、我が国における航空インフラへの支援策としては、まず公租公課の減免というものが講じられているほか、今般のエネルギー高騰を踏まえた追加的な対策として、原油価格・物価高騰等総合緊急対策の中で燃料油に対する激変緩和事業といったものも実施されているところでございます。
今後の雇用対策面のアプローチの方向性ですけれども、今般のコロナ禍を通じてかなり休業が長期化していることから、そうしたことへの対応として、在籍型出向による就業機会の確保が有効な選択肢の一つとして考えられるところでございます。特に航空運輸業においては同一企業グループ内で出向先を確保できる事業体も多くございますので、需要回復期に比較的柔軟に本業復帰できる環境が整っている、確保できるといった事情がうかがわれたところでございます。また、産業雇用安定助成金を活用して出向先で得られたスキルを、さらに出向終了後に本業で生かすことができるような仕組みなど、さらなる支援の取組も考えられるのではないか、という形でまとめてございます。
最後に44ページ目ですけれども、こうした課題の洗い出しの中で特に多く見られたキーワードというものを表の形で再掲しております。
課題として多く挙げられた、職場の魅力向上や働きやすさ、低賃金などに対しては、解決策の一つとして、「人への投資」、マルチタスク化による賃金の向上、賃金水準やキャリア形成情報の可視化やIT化等を挙げております。
IT化やデジタル人材の確保といった課題については、企業によるデジタル人材の確保に向けた支援や、DX人材育成の支援といったものを挙げております。
マッチング支援については、ハローワークのデジタル化による利便性の向上、コロナ禍で非労働力化した層に対する伴走型支援といったものを挙げています。
外国人材の確保については、留学生など日本語や生活習慣に一定知識のある人材の国内就職支援や特定技能人材の定着課題の分析定着支援といったものを挙げています。
最後に、一番大きかった課題として、やはり人材確保対策という部分ですけれども、こちらについては、業種によって課題や前提が異なる部分でございます。そのために、特に介護や建設の分野というのは一定の雇用管理改善対策が進められている一方で、今般特に雇調金を活用されていた飲食や宿泊分野につきましては、なかなかそうした業種別の取組が進んでいないのが現状であり、そうした分野ごとの事情を踏まえた体系的な人材確保対策が、デジタル人材など業種横断的に需要のある人材に着目した対策とあわせて、今後一層求められるのではないかと考えております。
また、人材確保の好循環を図るためにも、雇用管理改善や業界のイメージアップといった事業主視点の取組を進めるのみならず、各業界のキャリア形成の在り方や成果の評価方法を従業員の視点に立って再点検し、働きがいの向上に着目した取組を進めることも望ましいのではないか、という形でまとめております。
簡潔でございますが、報告書案の説明としては以上でございます。
それでは、これまでの説明について御質問・御発言等がございましたらよろしくお願いいたします。
それでは、戸田主任研究員、お願いいたします。
 
○前JILPT戸田主任研究員
本日は労働政策研究・研修機構の前主任研究員ということで発言をさせていただければと思います。
まずは事務局の皆様におかれましては、雇用情勢や雇用調整助成金等の支給状況に関する分析、各国の雇用維持施策の動向、産業別のヒアリング結果など、多岐にわたる観点を盛り込んだ報告書案の作成をありがとうございました。
また、JILPTの天瀬副所長におかれましては、各国の雇用維持施策に関する貴重な御示唆をいただきまして感謝を申し上げます。
私からは、これまでの議論を総じてみまして、大きく分けて3点につきまして申し上げさせていただきたいと思います。
1点目は、各国の雇用維持施策の動向から得られるインプリケーションについて、といった点であります。私も自分なりにドイツについて調べてみたのですが、天瀬副所長の御説明にありましたように、ウクライナとロシアとの戦争の関係でコロナのパンデミック中に生じたサプライチェーンの混乱がさらに悪化する可能性があるということで、雇用維持施策については、よりアクセスしやすいようにといった観点からの要件緩和が2022年9月まで延長されると承知しておりまして、コロナ禍での特例措置といったものは予定どおりに、本年6月末において終了されたと認識をしております。
また、フランスにつきましても、少しずつ制度を絞ってきているという状況かと思いますので、結果的には、客観的な事実として、G7でみますと、コロナ禍での手厚い特例措置を継続しているのは日本のみといったことになろうかと思います。この状況をどのように解釈するのかといったことが、今後の雇用調整助成金の特例措置の在り方を考える上でも重要なポイントであると感じております。
私なりの解釈といたしましては、ウクライナとロシアとの戦争の影響といったものは日本にも同様に及んでいるわけでありますが、やはり円安といったような急激な為替変動の影響が日本の置かれた特徴なのかなと思っております。いずれにせよ、これらが業況に大きな影響を与えているといったお声は今般のヒアリングの中でも多くいただきましたし、その影響に注視が必要といった状況ではありますが、より根本的には我が国が少子高齢化の中で人手不足といった構造的課題を抱えており、業況が厳しくとも貴重な人材を社内に雇用保蔵しておきたいといった企業からの支援ニーズが非常に強いといったことが、国際的にみた日本の特徴を説明する背景の1つなのかなと感じている次第です。
そうしますと、後ほど再度申し上げますが、アフターコロナを見据えた際には、各業界の置かれた状況によってスピード感に差は生じると思われますが、全体的な方向性としては雇用保蔵といった局面から、我が国が抱える人手不足といった構造的な課題に対して再度取り組む必要のある局面に移行していく蓋然性が高いのだろうと感じております。そのために早めに対処していくといったようなことも必要なのではないかと思います。
これが私なりの解釈なのですが、天瀬副所長におかれましては各国の雇用維持施策の動向の中で、先ほど申し上げましたような日本の特徴があるということにつきまして、もし何か思うことがございましたら、後ほど少しコメントをいただければ幸いです。
2点目は、企業側の雇用保蔵ニーズへの対応といった一方で、やはり懸念されるのは労働者の方への影響だと思います。ヒアリングの中では特定の個人の休業が長期化することを防ぐためにローテーションを組んで休業を分散化する工夫とともに、モチベーションの低下や仕事を通じたレベルアップの機会の損失への対策として、教育訓練や研修に取り組んでいる業界が幾つもありました。雇用維持に限らず、施策を講じる際にはメリットとデメリットが生じることが多いと思いますので、デメリットを緩和するための工夫といったことが、非常に重要なのだろうと改めて思った次第でございます。
さらに欲を言えば、という点でございますが、雇用調整助成金による雇用保蔵への支援をマクロ経済の視点から捉えた際には、景気後退局面から景気回復過程におきまして、新たな人材の採用・育成のコストを要さない分、雇用保蔵した企業の業績回復が早いことを指摘している学術研究があり、今般の休業期間中に実施された教育訓練や研修の「内容」といったものが、こうしたプロセスの中で企業業績のより一層早い回復に資するものであり、ひいては生み出された利益といったものが労働者に分配されて、賃金の向上につながっていくような形になるとよいのではないかと思った次第です。
ヒアリングの中でもこうしたことを意識してなのだろうと思いますが、社内で教育訓練プログラムを開発している企業もございました。当然、教育訓練や研修は各業界で必要とされる内容が異なると思いますし、景気の回復過程における産業政策や自社の事業戦略によって企業単位でも異なるのだろうと思います。いずれにせよ、私が申し上げたいのは、先ほど申し上げたプロセスを意識しながら、労使が協力して自社の休業期間中に実施する教育訓練や研修の内容といったものを構築していくような企業風土が、もっと浸透していくと良いのではないかと思っており、また、現時点において可能なものではございませんが、今般のコロナ禍において休業期間中に実施された教育訓練や研修の効果検証などが蓄積されていくと、将来、景気後退局面に再度直面した際の議論におきまして、貴重な財産になるのではないかと思いました。
最後に、先ほど申し上げましたように、アフターコロナを見据えた際には、各業界の置かれた状況によってスピード感に差は生じると思いますが、全体的な方向性としては雇用保蔵といった局面から、我が国の抱える人手不足といった構造的な課題に対し、再度取り組む必要がある局面に移行していく蓋然性が高いのだろうと思っております。コロナ禍以前より多くの産業におきまして人材確保、あるいはリテンションの観点から様々な取組が講じられてきたと思いますし、今般のヒアリングの中でも各業界の問題意識を拝聴させていただきました。
ここでは個々の取組について言及するというよりも、より総論的なことを申し上げたいと思いますが、人手不足の中で我が国がどうやって経済成長を実現していくのか、また、各企業が収益を向上させていくために必要な人材をどう確保していくのかといった課題がある中で、労働者が働きやすい環境の中で、働きがいを持って職業生活と向き合える環境を整備していくことが、ますます重要になっていくのだろうと考えております。
働きがいというと、全ての人が持つ必要があるのだろうかといったような職業観に関する疑問もあろうかと思いますが、労働者の働きがいを定量化するワーク・エンゲイジメントといった指標がございますが、こうした働きがいの向上といったものが労働生産性の向上と従業員の方の健康増進を同時に実現することが知られており、少なくとも働きがいを感じられるような仕事に従事したいと望む労働者の方に対しては、キャリア形成支援や、学び・学び直しに関する支援なども含めて、人材マネジメントの課題として企業が取り組んでいく意義があるのだろうと思います。
一例といたしまして、賃金の引上げは、企業からすると、固定費となる人件費の増大ということで、コスト面の意識が強いと思いますが、労働者の方のワーク・エンゲイジメントの向上につながる可能性があるといった観点からは、ベッカーのいわゆる人的資本投資と同様に、心理的資本というものに企業が投資していると解釈することもでき、その投資によって、自社の労働生産性の向上や、従業員の方の健康増進によって、貴重な社内人材の職業人生が延伸されるといったような投資収益を企業側も得られることになります。
今般の企業ヒアリングの中では、人材確保のために雇用管理の改善や業界のイメージアップを図るといったようなお声を多く拝聴させていただきましたが、従業員の働きがいの向上に着目するような言及・取組というものがやや少なかったように感じましたので、広い意味での人への投資といったことになろうかと思いますが、こうした視点の重要性について改めて言及させていただき、報告書の中でも、働きがい・Well-beingの向上といったものに着目したような取組の重要性ということを盛り込んでいただきました。
加えて、今般のコロナ禍におきましては、非接触・非対人サービスということで、セルフレジや電子決済、タブレット注文などの設備投資がかなり進んだのではないかと思います。感染防止対策といった目的自体は異なりますが、従来の人手不足対策の文脈でいわれていたような、いわゆる省力化投資といったものに通ずるものだと思いますので、こういった取組の推進自体も引き続き重要なのだろうと思います。
また、デジタルといった観点で申し上げますと、それを活用した従業員の働き方や人材マネジメントを改善していく視点といったことも、今後重要性が高まっていくのだろうと個人的に感じている次第です。
色々と申し上げましたが、今般のプロジェクトチームで得られた知見は、アフターコロナ期の産業別な雇用課題ということで、雇用調整助成金や産業雇用安定助成金だけでなく、厚生労働省や関係省庁における雇用政策・産業政策の検討に当たって様々な形で生かしていくことができるものだと考えております。JILPTの主任研究員という立場で、こうした検討の場に参加させていただく機会をいただきましたことに、改めてこの場を借りて皆様に感謝を申し上げつつ、私からの発言は以上となります。ありがとうございました。
 
○赤川課長補佐
ありがとうございました。
それでは、天瀬副所長、御発言をお願いいたします。
 
○JILPT天瀬副所長
今、戸田さんから日本の雇用維持政策の特徴という御質問があったかと思うのですけれども、振り返ってみますと、今回のコロナ禍で非常に特徴的だったのが、各国とも非常に早い段階で労働市場を守ろうとした。雇用というものに着目して労働市場の混乱を未然に防ぐことにOECD各国は力を入れたのではないかと思います。特徴的だったのが従来企業活動に政府が非常に禁欲的なスタンスを取っているアングロサクソンのイギリス、アメリカといった国も今回のコロナ禍において、これまで取っていなかったようなスキームを導入することによって、雇用というものを通じて労働市場を支えるといったような姿勢を見せたのは、恐らくこれまでになかったことだったのではないかなと思います。
ただし、やはりアメリカ、イギリスにおいては、イギリスはスキームが21年9月に終わっておりますけれども、実を言いますと、イギリスの場合は20年の4月に導入したのですが、3月に遡及適用しましたので、3月に始めたときは20年の10月に終了する予定だったのです。しかし、感染状況が20年の10月の時点で思わしくなかったので、これをずるずる21年の9月まで延ばしたというのが実情です。しかし、21年で終わらせた。アメリカについても21年の5月に既に終わらせておりますので、基本的には企業活動に政府があまり長く介入すべきではないというスタンスなのだと思います。
他方で、大陸欧州の国、ドイツ、フランスですけれども、こういった国は日本と同様に非常に雇用というものを大事にします。その結果、やはりスキームに対する国民の信頼というのも非常に厚いものがありまして、結果、ドイツは先ほど申し上げたようにコロナ特例については6月末、一部については9月まで続けますし、フランスについても7月まで、それまで何回か節目があったのですけれども、結局そういった形で続けている。日本も同様に、まだ特例措置も終了を見ていないわけでございます。
では、日本とこういう大陸欧州の国とどこが違うかと言いますと、雇用システムといいますか雇用慣行が違うわけです。これは当機構の所長が詳しいところなのですが、一般的に雇用システムはジョブ型の国とメンバーシップ型の国に分類されますけれども、日本の場合はメンバーシップ型、ドイツ、フランスはジョブ型の国に当たります。つまり雇用を一旦切り離してしまっても日本ほどは影響がない。日本の場合は雇用を中心に据えておりますので、例えば職業訓練を見ましても企業の中でインターナルな訓練を行いますので、一旦従業員を放してしまいますと、また新たな従業員を雇い入れるのに非常にコストがかかるという事情がございます。これが比較的少ないのがジョブ型の国になります。
こういうことを考えますと、実は冒頭、地曵補佐のほうからOECDの御紹介もありましたけれども、非常に多くの国に雇用維持スキームというのは備わっているわけですが、実は世界で一番日本の雇用維持スキームが貢献したのではないかなと我々は見ております。各国を比較した正確な評価というのは非常に難しいことで、前提がそれぞれ違いますので完全な比較というのはOECDにしてもなかなか難しいこととは思いますけれども、日本と雇用維持スキームの関係は、単にスキームというよりも企業に対する信頼をこのスキームが支えたと言い換えることも可能ではないかという気がします。その点、ほかの国のスキームとは若干異なるかなという気がします。
重要なのは、今後こういった経験をどう生かすかという戸田さんの指摘にもありましたけれども、従業員を一定期間休業、あるいは時間短縮させた間に、日本は先ほどインターナルな企業の中で訓練を行うと言いましたけれども、その期間、企業が何をやったかというのが重要な視点になるのではないかと考えておりまして、つまり従業員のスキルアップを何らかの形でしたのだとすれば、それが今後のその企業にとっては非常に大きな利点になりますし、あるいは国がそれをどういう形かで支援することも可能になるのではないかと考えております。一旦労働市場の外に出してしまうタイプの国があって、それを訓練するインフラが整っているという、例えば北欧型の国もありますけれども、先ほど申し上げたように、日本の場合はそういうシステムの国とは労働市場の在り方が異なりますので、日本の市場の実情に合わせたような今後の取組が必要かなと考えております。
以上です。
 
○赤川課長補佐
ありがとうございました。
深澤政務官、お願いいたします。
 
○深澤政務官
本日は様々ありがとうございました。
まず、天瀬副所長様には海外の雇用維持制度について様々御説明をいただきまして、また、今の御答弁もいただきまして、非常に分かりやすい日本のメンバーシップ型という表現もありましたけれども、企業の在り方、また、雇用の在り方というものがこういう形で海外とは違うのだということでよく分かりました。その上で、今回の取りまとめを事務局のほうでしていただきまして、本当ありがとうございました。
まとめにもありましたように、飲食とか宿泊といった比較的労働シフトが起こりやすい分野に関しては、コロナ前もコロナ禍もテーマといいますか、状況が違うにしても人材確保というものが、どちらでも同じテーマを持っているというのが非常に特徴的だなと、その中で、コロナ前もコロナ禍もそういった分野においてはモチベーションやスキルアップというものが非常に重要だということがよく分かりました。当然、賃金とか待遇というものは、これも共通しているものであるということで非常に参考になりました。
ということは、つまりは雇調金で今回は雇用を維持いたしましたが、これは緊急的な意味合いも含めて、先ほども御評価の言葉もありましたけれども、やはりある程度これから準備をして目的を持った支援、雇調金に目的を持たせるのか、あるいはそうではない、あらかじめそういった目的を持ったモチベーション、あるいはスキルアップを図るようなものを事前に用意していくことが大切なのかなと思いましたので、それは今後に生かせるテーマであるのかなと思います。
また、そのほかの製造業や航空産業に関しては、これだけのまとめを聞いていても、雇調金がまずは適切だったのではないかと感じております。ただ、やはりそこでもどのようにモチベーション、あるいは能力をさらに高めることが重要なのかということが課題で浮き彫りになったということは本当に参考になりました。
ということで、総じて言うと、やはりコロナ禍であろうが通常の時期であろうが、そういった同じようなニーズがあったということがよく分かりましたので、今後の雇用政策の中で、ぜひその点は、ただただ維持するのではなくて、そういったところをさらにプラスアルファ、常に必要なときに使えるように準備しておくこと、あるいは臨機応変に用意することが大切なのかなと感じましたので、意見として述べさせていただきます。ありがとうございました。
 
○赤川課長補佐
深澤政務官、ありがとうございました。
古賀副大臣、よろしくお願いいたします。
 
○古賀副大臣
PTのまとめも含めて、併せてお話しさせていただきたいと思います。
まず、海外の動向について御報告いただきましてありがとうございました。OECDのレポートにありましたように、今後はコロナ禍での雇用維持施策の効果について検証を行うことが求められるということが指摘されている中で、今回、このPTがそういった意味で対応できた部分もあったのかなと改めて感じたところであります。
それと各国の制度、あるいは今の対応状況について御報告いただきました。コロナ特例をやっているのはOECDでも日本のみだという御指摘もありましたが、諸外国の制度をしっかり参考にしながら、日本としては日本としての判断があるのだろうと思いますし、それは別の場できちんとされるのだと思っております。ですので、重ねてですが、このPTはこれまでの雇調金をはじめ、コロナ禍における雇用政策がどう展開されたのか、雇調金について特に御利用された業界でどのように評価されているのか、その上で今、業界はどういう状況になっているのか、こういったことを把握させていただいたのだと思っております。
2回、3回とヒアリングさせていただきましたが、個別に厚労省の職員の方も企業に当たっていただいて、大変詳細にヒアリング結果が上がってきてありがたく思っております。2回、3回で伺った分と個別に伺った分がこの報告書に落とさせていただいていますが、御協力いただきました企業団体の方にも、この場を借りて感謝を申し上げたいと思います。
そして、特にこの報告書の37ページ目以降にまとめということでVで記しておりますが、この切り口というのは、あくまで雇調金を特に利用された、つまりコロナ禍の中で雇用維持に大変御苦労された業界を中心にまとめさせていただいております。ですので、当然ここに記させていただいて業界以外でも、コロナにおいていろいろな影響を受け、そして、対応を今検討されている業界はあるのだと思います。
一例で申し上げると、例えば外国人材です。外国人材はこれからいろいろな水際の対策があって、それによって変化があり、その上で、上限の規制を置いておりますけれども、そういった中で見直し、あるいはそういった要望が上がっている業界が、ここに記している業界以外にもあると把握しておりますし、ここに書かれている業界が全てであるということではないことは強調させていただきたいと思います。ですので、この報告書はコロナ禍の影響をある意味雇調金という切り口でまとめさせていただいたと理解をしております。
その上で、まだ案が取れておりませんが、報告書がどう意味するのかということなのですけれども、やはり業界ごとのそもそもコロナ前からあった課題、それが雇調金による雇用の保蔵によって先送りされた、あるいはより深刻になった等々の状況というのは把握できたところであります。ですので、オミクロンの感染拡大等もあって、まだまだ先がはっきりしていない状況でありますけれども、いずれコロナが終息に向かっていくそのときに向けて今から準備をしておく、あるいはそのときになってさらに対応するということの課題を把握した部分があったのだろうと思います。
その中に共通の課題、先ほどICTだったり人材への投資の中での教育・研修、こういった指摘もありましたし、それ以外にも業界特有の課題もあって、それにどう対応していくのか、業界によっては大きな影響を受けて業界の状況が変化した。その変化を踏まえて、これから業界がさらに健全化していく、発展していくためにどう取り組んでいくのか、そういった声もあったと認識しております。そういった中で、我々としてどのようにそれを支援できるのかということかと思います。雇調金の特例云々ということだけでなく、産雇金を含めいろいろな評価する声、あるいはいろいろな指摘もあったと理解しております。
ですので、ここで把握させていただいた状況、あるいは課題については、我々としては今後いろいろな制度の見直しだったり来年度の概算要求に、どうそれを反映させるのかということの参考、あるいは材料にもさせていただきたいなと思っているところです。
いずれにしましても、まだまだコロナ禍の中にありますので、そういう意味では、どうこのコロナを乗り切るのかということを、引き続きいろいろな形、業界の声もいただきながら我々としては全力で取り組んでいきたいなと思っております。今回、そういった中での一つの取りまとめをさせていただいたということだと理解しておりますので、どうぞよろしくお願いします。
以上です。
 
○赤川課長補佐
ありがとうございました。
ほかに御発言がないようでしたら、最後に、報告書案の取扱いにつきまして、事務局長の小宅課長より御発言をお願いいたします。
 
○小宅雇用開発企画課長
ただいま様々な御説明をいただきましたが、報告書の内容については、おおむね御了解いただけたものかと思いますので、若干の整理等をさせていただきまして、準備が整い次第、ホームページ等で公表するような運びとさせていただければと思います。
 
○赤川課長補佐
ありがとうございました。
それでは、以上で第4回プロジェクトチームを終了させていただきます。